(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-02-10
(45)【発行日】2025-02-19
(54)【発明の名称】チタン含有率の高い鋼半製品を鋳造する方法
(51)【国際特許分類】
C21C 7/00 20060101AFI20250212BHJP
C21C 7/04 20060101ALI20250212BHJP
C21C 7/06 20060101ALI20250212BHJP
C22C 38/00 20060101ALI20250212BHJP
C22C 38/58 20060101ALI20250212BHJP
B22D 11/00 20060101ALN20250212BHJP
【FI】
C21C7/00 H
C21C7/04 B
C21C7/06
C22C38/00 301Z
C22C38/00 302Z
C22C38/58
B22D11/00 A
(21)【出願番号】P 2022578996
(86)(22)【出願日】2021-07-07
(86)【国際出願番号】 IB2021056078
(87)【国際公開番号】W WO2022009108
(87)【国際公開日】2022-01-13
【審査請求日】2023-02-09
(31)【優先権主張番号】PCT/IB2020/056418
(32)【優先日】2020-07-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】IB
(73)【特許権者】
【識別番号】515214729
【氏名又は名称】アルセロールミタル
(74)【代理人】
【識別番号】110001173
【氏名又は名称】弁理士法人川口國際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ボネ,フレデリク
(72)【発明者】
【氏名】デシュラー,バレリー
(72)【発明者】
【氏名】マストロリロ,ティエリー
【審査官】中西 哲也
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-051341(JP,A)
【文献】特開昭61-291932(JP,A)
【文献】特表2020-517822(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第105803216(CN,A)
【文献】特開昭59-076855(JP,A)
【文献】特開2013-049908(JP,A)
【文献】特表2010-502838(JP,A)
【文献】特開2017-171969(JP,A)
【文献】米国特許第06174347(US,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C21C 7/00 -7/10
C22C 33/00-38/60
B22D 1/00-11/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも3.5重量%のチタンの目標組成を有する
鋼半製品を液状鋼から鋳造する方法であって、以下の工程、すなわち、
A/ 液状鋼が少なくとも
0.2重量%のアルミニウムを含むように、アルミニウムを前記液状鋼に添加する工程、
B/ 前記液状鋼に、CaF
2及びアルミニウム及びカルシウ
ムを含む鉱物化合物を添加して、CaO対Al
2O
3(CaO/Al
2O
3)の比が0.7~2に含まれるスラグ組成を達成及び維持し、且つ前記スラグが最大25重量%のCaF
2を含む、工程、
C/ チタンを前記液状鋼に添加し、前記目標組成を達成する工程、
D/ 半製品の形態で前記鋼を鋳造する工程。
【請求項2】
前記液状鋼に加えられる鉱物化合物がさらにマグネシウムを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
添加されるアルミニウムの量が、前記液状鋼が0.4重量%を超えるアルミニウムを含むようなものである、請求項
1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記鉱物化合物が、石灰、スパーCaF
2及びマグネシアの中から選択される、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記鋼半製品が以下の式、すなわち、%B≧0.45×%Ti-1.35%
を満たす最少重量パーセンテージのホウ素を含む、請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
工程Aと工程Bとの間で前記液状鋼の加熱工程が行われる、請求項1~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
ホウ素の添加工程が工程Cの後に行われる、請求項1~6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
工程Bの間にホウ素の添加が行われる、請求項1~6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
工程Bの間に、6~15重量%に含まれるCaF
2の組成を達成するようにスパーCaF
2が添加される、請求項1~8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
工程Bの間に、5~15重量%に含まれるMgOの組成を達成するようにマグネシアが添加される、請求項1~9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
工程Bの間に、CaO対Al
2O
3(CaO/Al
2O
3)の比が0.9~1.3の間に含まれるスラグ組成を達成するために、鉱物化合物が添加される、請求項1~10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
工程Bの間に、CaO対Al
2O
3(CaO/Al
2O
3)の比が1.4~2の間に含まれ、前記スラグが6~12重量%の間のCaF
2をさらに含むスラグ組成を達成するために、鉱物化合物が添加される、請求項1~8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
前記鋼半製品が、少なくとも5.8重量%のチタンの目標組成を有する、請求項1~12のいずれか一項に記載の方法
。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高いチタン含有率を有する鋼半製品の鋳造に関する。
【背景技術】
【0002】
FeTiB2鋼は、車両の軽量化、及び安全性が常に最大の関心事である自動車産業にとって非常に有望であるその優れた高弾性率E、低密度及び高い引張強さにより多くの注目を集め続けてきた。しかし、それらの鋼は、形成される析出物に関係する制約により製造が困難である。このためこのような鋼を製造するために、特に鋳造性の問題を解決するために、異なる解決法が開発されてきた。
【0003】
US20130174942号は、2.5~7.2%の間のTiを含むFeTiB2鋼を開示し、これは、該鋼の液相温度より40℃を超えない鋳造温度で鋳造される。これにより微細な微細組織を得ることができる。
【0004】
EP3612657号は、鋼の遊離Ti中の含有率が少なくとも0.95%である鋼の特定の組成を開示しており、この遊離Tiの含有率のために、鋼の組織は、液相線温度より下のいずれの温度においても、主にフェライト質のままである。その結果、鋼の高温での硬さは、先行技術の鋼に比べて著しく低下し、その結果、鋳造性が増加する。鋳造は薄スラブの形態で行うのが好ましい。
【0005】
しかし、鋳造法の種類にかかわらず、液状鋼が適切な組成、温度及び粘度でタッピングステーションに到着することが必要である。これらの特定の等級については、この工程は最も扱いにくいものの1つである。製鋼中に、スラグ組成及び温度に応じて、スラグのいくつかの成分が析出することがある。チタン含有率が高い等級の場合、チタンは分配され、スラグに向かって移動する傾向があり、チタン酸化物が鋳造温度で析出する傾向があるので、スラグの結晶化率は劇的に増加する。鉄鋼メーカーにとって良好な結晶化率は、溶融金属のサンプルを採取し得ると同時に、そのようなスラグが空気との接触を避けるためにまだ溶融金属を覆っている場合である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】米国特許出願公開第2013/0174942号明細書
【文献】欧州特許出願公開第3612657号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
チタン含有率が高く、すなわち、3.5重量%よりも高い鋼半製品を鋳造することを可能にする鋳造方法が必要である。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この問題は、以下の工程が実施される本発明による方法によって解決される。
A/ 液状鋼が少なくとも0.1重量%のアルミニウムを含むように、アルミニウムを液状鋼に添加する工程、
B/ 液状鋼にアルミニウム及び/又はカルシウム並びに任意にマグネシウム及びCaF2を含む鉱物化合物を添加して、CaO対Al2O3(CaO/Al2O3)の比が0.7~2に含まれるスラグ組成を達成及び維持し、且つスラグが最大重量25%のCaF2を含む、工程、
C/ チタンを液状鋼に添加し、目標の組成を達成する工程、
D/ 半製品の形態でこの鋼を鋳造する工程。
【0009】
本発明の方法はまた、別個に、又は全ての可能な技術的組み合わせに従って考えられる以下の任意の特徴を備えることができる。
- 添加されるアルミニウムの量が、液状鋼が0.2重量%を超える、好ましくは0.4重量%を超えるアルミニウムを含むようなものであり、
- 鋼半製品には、%B≧0.45×%Ti-1.35%の式を満たす最少重量パーセンテージのホウ素が含まれ、
- 工程A及びBの間に液状鋼を加熱する工程が実施され、
- 工程Cの後にホウ素を添加する工程が実施され、
- 工程Bの間にホウ素が添加され、
- 工程Bの間にスパー(spar)CaF2を添加して、CaF2が6~15重量%に含まれる組成を達成する工程、
- 工程Bの間にマグネシアを添加して、スラグのMgOが5~15重量%に含まれる組成を達成する工程、
- 工程Bの間に鉱物化合物を添加して、CaO対Al2O3(CaO/Al2O3)の比が0.9~1.3の間に含まれるスラグ組成を達成する工程、
- 鉱物化合物を添加して、CaO対Al2O3(CaO/Al2O3)の比が1.4~2の間に含まれ、スラグが6~12重量%の間のCaF2をさらに含むスラグ組成を達成する工程、
- 金属半製品は、チタンが少なくとも5.8重量%の目標の組成を有し、
- 鉱物化合物は石灰、スパー及びマグネシアから選択され、
- 鋼半製品は、重量による含有率で表される以下の成分を有し、
0.01%≦C≦0.2%
3.5%≦Ti≦10%
(0.45×Ti)-1.35%≦B≦(0.45×Ti)+0.70%
S≦0.03%
P≦0.04%
N≦0.05%
O≦0.05%
及び以下を任意に含有し、
Si≦1.5%
Mn≦3%
Al≦1.5%
Ni≦1%
Mo≦1%
Cr≦3%
Cu≦1%
Nb≦0.1%
V≦0.5%
及びTiB2及び任意にFe2Bの析出物を含み、残余はFe及び精錬に起因する不可避の不純物である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
また、本発明は、重量による含有率で表される、以下の組成を有する製鋼スラグにも関連する。
35%≦CaO≦55%、
15%≦Al2O3%≦55%、
一方で、0.7≦CaO2/Al2O3≦2を満たし、
0%≦MgO≦15%、
TiOx<20%、
以下の化合物B2O3、SiO2、CrOx、MnO、NiO、FeOx、Sの各々は1%未満であり、
0%≦CaF2≦25%であり、
残余は、溶融金属中に存在する不純物から生じる酸化物である。
【0011】
本発明による方法の一実施形態では、液状鋼(溶融金属とも呼ばれる)は、電気アーク炉から、又は塩基性精錬炉若しくはコンバーターのような任意の製鋼装置から得られることができ、脱酸化工程に付される。その段階では、通常、液状鋼は約1650℃の温度を有する。脱酸化を行うためには、通常、レードルタッピング(ladle tapping)の間に、脱酸化の均一な反応を促進するために、アルミニウムを溶融金属に添加する。本発明によれば、溶融金属中のその量が0.1重量%以上となるようにアルミニウムを添加し、これは液状鋼の脱酸化に必要な通常の量よりも多い。好ましい実施形態においては、溶融金属中のその量が0.2重量%以上になるようにアルミニウムを添加する。好適な実施形態では、溶融金属中のその重量は0.4%以上である。このように形成された酸化物は溶融金属の上部に向かって移動し、スラグの量を増加させる。添加されるアルミニウムの量は、スラグの結晶化を制限するためのスラグ中のチタン酸化物の許容される量、及び溶融金属組成、スラグ組成及び温度のようなチタン分配を制御するパラメータに依存する。これらのパラメータの中で、主要なパラメータは、溶融金属中のチタン含有量、スラグ/金属の平衡を変化させ得るホウ素、マンガン、クロムのような溶融金属中の合金元素、溶融金属及びスラグのそれぞれの温度、スラグ重量/溶融金属重量比、スラグ組成である。SiO2、B2O3のようなチタンにより還元可能な他のスラグ酸化物はチタン分配を制限するために避ける必要がある。スラグ/金属熱力学的平衡の計算は、熱力学モデル及び熱力学データベースが利用可能な場合に行うことができる。
【0012】
スラグ中の最終TiOx目標、溶融金属組成及び精錬処理中の温度に基づいて、添加するアルミニウム量及びスラグ組成の両方を最適化するために熱力学的計算を行う。等級の精錬処理の各工程について、溶融金属及びスラグ組成中のアルミニウム含有量を最適化して、チタン分配を制限し、TiOx目標を保証し、スラグの結晶化を制限する。
【0013】
最適条件を定義するために、スラグ中のTiOxの発生及び結晶化分率を温度及び溶融金属組成及びスラグ組成のばらつきに応じて計算する。これらの計算は全て、製鋼分野の当業者によく知られている。モデル及びデータベースが利用可能でない場合、工業的条件をシミュレーションするために実験室規模又はパイロット規模でのスラグ/金属平衡を行うことができる。
【0014】
アルミニウムの添加は溶融金属の脱酸化だけでなく、スラグ中のTiOxの含有量を減少させることを可能にする。スラグの結晶化の一部はチタン酸塩の析出を介して起こり、チタン酸塩は酸化アルミニウムのような他の酸化物と結合した酸化チタンの化合物である。スラグ中のTiOx含有量を低下させることにより、チタン酸塩の析出が制限され、より低い割合の結晶をもたらす。チタン酸塩の性質及び結晶化率はスラグ組成に応じて多少複雑になり得る。
【0015】
本発明の方法によれば、アルミニウム及び/又はカルシウム及び/又はマグネシウムを含む鉱物化合物、例えば、石灰Ca(OH)2又はマグネシアMgO、及び最大25重量%のスパーCaF2を溶融金属に添加する。本発明によれば、これらの添加は、CaO対Al2O3の比率(C/A)が0.7~2の間に含まれるスラグの組成を達成し、維持するように行われる。この組成は、スラグの硫黄容量を最大にすることによって、スラグ中に存在する酸化チタンの結晶化率を制限することを可能にする。
【0016】
アルミニウムの添加によるTiOxの制限は、チタン酸塩の性質及び量を最適化し、鋳造温度での低いスラグ結晶化を促進するようにスラグ中でのそれらの析出を制限するために、実際にスラグ組成の最適化に関連しなければならない。
【0017】
比が1.4~2の間に含まれる好ましい実施形態では、スラグはさらに、6~25重量%の間のスパーCaF2を含み、より優先的には6~12重量%の間のスパーCaF2を含む。この比率を計算し、制御する方法は、製鋼分野の当業者によく知られている。別の実施形態では、比率C/Aは0.9~1.3の間に含まれ、スラグは5~15重量%のマグネシアを含む。第3の実施形態では、この比率は、1.4~2の間に含まれ、スラグは、6~12重量%の間のスパーCaF2及び5~15重量%の間のマグネシアMgOを含む。マグネシアはスラグの液相温度を低下させることを可能にする。この最後の組成は、酸化チタンの結晶化率をさらに制限することを可能にする。マグネシアは溶融物に加えることができ、及び/又は製鋼船内の溶融金属を取り囲む耐火物から直接生じることができる。当業者は、どの量のマグネシアを耐火物から溶解させ、必要な含有量に到達するためにどの量を添加する必要があるかを経験から知っている。
【0018】
このスラグ組成の制御及びアルミニウム添加のおかげで、スラグは厳密に20重量%未満の酸化チタンを含む。全ての実施形態において、残りのスラグ組成は、1%w未満のB2O3、1%w未満のSiO2、1%w未満のCrOx、1%w未満のMnO、1%w未満のNiO、1%w未満のFeOxを含む。本発明による方法では、次の工程に進む前にスラグ除去は不要であり、このことは鋼の精錬時間を短縮する。
【0019】
鉱物添加工程の後、少なくとも3.5重量%以上である最終半製品の目標組成を達成する量で、チタンを溶融物に添加する。これは公称組成である。このチタンは、スポンジチタン又はFe-70%Ti若しくはFe-35%Tiのようなフェロチタン片、又は純Ti若しくはフェロチタンワイヤの形態で添加することができる。
【0020】
チタン添加後、スラグは以下の組成を有する。
35%≦CaO≦55%、
15%≦Al2O3≦55%、
一方で、0、7≦CaO2/Al2O3≦2を満たし、
0%≦MgO≦15%、
TiOx<20%、
以下の化合物B2O3、SiO2、CrOx、MnO、NiO、FeOx、Sの各々は1%未満であり、
0%≦CaF2≦25%であり、
残余は溶融金属中に存在する不純物から生じる酸化物である。
【0021】
次いで、このようにして形成された液状鋼は、半製品の形態で鋳造されるために鋳造ステーションに送られる。鋳造温度はTliquidus+40℃以下であり、Tliquidusは鋼の液相温度を表す。この場合、液相温度は、例えば、約1330℃である。半製品とは、連続鋳造、垂直鋳造、水平鋳造、ロール鋳造、薄スラブ鋳造、ベット鋳造、ストリップ鋳造により製造される、鋼スラブ、厚いストリップ又は薄スラブ又は任意の他の製品を意味する。
【0022】
本発明による方法の別の実施形態では、鋳造される半製品は、Fe-18%B又はフェロ-ホウ素ワイヤのようなフェロ-ホウ素片の注入によって鉱物添加工程の後に添加される少なくとも2%のホウ素を含む。最も好ましい実施形態では、この添加は鉱物添加工程の間に行われる。
【0023】
好ましい実施形態においては、鋼半製品は、重量による含有率で表される以下の組成を有する。
0.01%≦C≦0.2%
3.5%≦Ti≦10%
(0.45×Ti)-1.35%≦B≦(0.45×Ti)+0.70%
S≦0.03%
P≦0.04%
N≦0.05%
O≦0.05%
及び任意に以下を含み、
Si≦1.5%
Mn≦3%
Al≦1.5%
Ni≦1%
Mo≦1%
Cr≦3%
Cu≦1%
Nb≦0.1%
V≦0.5%
及びTiB2及び任意にFe2Bの析出物を含み、残余はFe及び精錬に起因する不可避の不純物である。この好ましい組成は、液相温度未満のどの温度でも鋼が主にフェライト質のままであり、このため鋳造性の問題を減少させることを可能にする。
【0024】
本発明による方法を実施するための製鋼業者の1つの方法は、第1に、最終半製品中のチタンの目標及びこの最終半製品の鋳造温度を規定することである。次に、当業者が本発明の所定の枠内にどのスラグ組成を有することを欲するか、すなわち、C/A比の所定の範囲内に残し、潜在的にスパーを添加し、耐火物によりもたらされるMgOの量を添加するかを、鋳造時に許容し得る結晶化体積に応じて規定する。最後に、既知のモデルを用いて、この規定されたスラグ組成を達成するのに必要なアルミニウム及び他の鉱物添加物の量を計算する。
【0025】
先に言及した全ての実施形態について、液状鋼に実施される異なる工程は、工場の構成に応じて、同じ容器内で又は異なる容器で無差別に実施することができる。鉄鋼所で古典的に使用されているもの以外の特別な設備は必要ない。
【実施例】
【0026】
本明細書において提示される以下の試行は、本質的に制限的でなく、例示の目的のためにのみ考慮されなければならない。それらは、本発明の有利な特徴を説明する。
【0027】
<計算>
前述の、当業者に知られている熱力学モデルを用いて、計算を行った。考慮したスラグの温度は1350℃であった。
【0028】
考慮したパラメータは、鋳造される半製品中のチタン量(%Ti)、スラグ中の%CaO及び%Al2O3を用いた比C/A、スラグ中のCaF2(又はスパー)の量及びスラグ中のTiOxの目標最大量である。溶銑1トンあたり15kgのスラグを考慮して計算を行った。
【0029】
スラグ中のマグネシアMgO中の含有率は常に10%wで考慮した。
【0030】
計算は溶銑1トン当たり15kgのスラグを考慮して行った。
【0031】
全てのこの条件を考慮して、固相体積パーセンテージ/総スラグ体積のパーセンテージを表すスラグの結晶化パーセンテージを計算した。熱力学的計算は液体スラグへの析出酸化物の性質及び量を与え、液体スラグの体積を知ると、結晶化スラグの体積パーセンテージを決定することが可能である。
【0032】
<アルミニウム添加>
この一連の実施例では、最終生成物中のチタンの目標を2.5~10%の間で変化させた。C/A比は1.1とし、CaF2は添加しなかった。
【0033】
全てのパラメータ及び結果を以下の表1にまとめ、星印*を有する試行番号は本発明によるものではない。
【0034】
【0035】
この一連の試行から、最終製品中のチタンの目標が3.5%以上である場合、スラグ中へのTiOxの量を低減し、ひいてはスラグの結晶化を避けるためにアルミニウムの添加が必要である。
【0036】
<C/A比>
この一連の実施例では、最終生成物中のチタンの目標は8又は10に等しかった。C/A比を0.5~2.3まで変化させ、CaF2は添加しなかった。
【0037】
アルミニウムの添加量を0.4%とする。
【0038】
全てのパラメータ及び結果を以下の表2にまとめる。星印*を有する試行番号は本発明によるものではない。前に説明したように、結晶化率の許容される量は方法に依存するが、製鋼業者にとっての許容される結晶化率は、溶融金属中でのサンプリングを未だ可能にしながらスラグが溶融金属表面を覆っている時である。
【0039】
【0040】
この一連の試行から、本発明のC/A範囲内のスラグ組成を得るための鉱物化合物の添加は、スラグの結晶化率を低下させることを可能にする。
【0041】
<アルミニウム添加に対するCaF2の影響>
この一連の実施例では、最終製品中のチタンの目標を8%に設定した。
【0042】
C/A比は1.1とし、スパー(CaF2)含有率を0から20%wまで変化させた。
【0043】
5%に等しい、スラグ中の酸化チタン含有率を達成するようにアルミニウム含有率を計算した。
【0044】
全てのパラメータ及び結果を以下の表3にまとめた。
【0045】
【0046】
CaF2の添加は、スラグ中のTiOx量を低減し、ひいては結晶化を制限するために必要なアルミニウムの量を低減することを可能にする。
【0047】
<結晶化率に対するCaF2の影響>
この一連の実施例では、最終製品中のチタンの目標を8%に固定した。C/A比を1.1から2まで変化させ、スパー(CaF2)含有率は0又は12%wのいずれかであった。アルミニウム含有率を0.4%に固定した。
【0048】
全てのパラメータ及び結果を以下の表4にまとめた。
【0049】
【0050】
スパーCaF2の添加はスラグの結晶化率をさらに制限することを可能にする。
【0051】
<パイロット試行>
試行をパイロットで行い、小規模での鋼の挙動を再現した。表5に初期組成を記載した溶融金属を、所定の温度及び大気条件下の炉の中に置いたマグネシアるつぼに注いだ。アルゴンの存在、ひいては非酸化性雰囲気の存在は、パイロットの構成に関係しており、工業的条件においては必要ない。次に、組成物が表5に示されているスラグのボールを溶融金属の上部に添加した。結晶化に関する結果も表5に示す。
【0052】
試行A608を本発明に該当しない方法で実施したが、他の5件の試行は本発明によるものである。この試行のために、脱酸化のための標準的アルミニウム値を、本発明の方法のようにそれを超えることなく、鋼に加えた。
【0053】
試行A608は鋳造温度でのスラグの結晶化を提示する唯一のものであり、したがってこれは鋼のさらなる鋳造を妨げる。よって、本発明による方法により、必要な鋳造温度でのスラグの結晶化を回避することが可能になる。
【0054】
さらに、ある方法では、チタンの分配が妨げられ、したがって、標的組成物を達成するために必要とされるチタンの添加量が少なくなる。
【0055】