(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-02-10
(45)【発行日】2025-02-19
(54)【発明の名称】回転電機用ステータ
(51)【国際特許分類】
H02K 1/20 20060101AFI20250212BHJP
【FI】
H02K1/20 Z
H02K1/20 C
(21)【出願番号】P 2023103378
(22)【出願日】2023-06-23
【審査請求日】2024-01-30
(73)【特許権者】
【識別番号】000005326
【氏名又は名称】本田技研工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100154380
【氏名又は名称】西村 隆一
(74)【代理人】
【識別番号】100081972
【氏名又は名称】吉田 豊
(72)【発明者】
【氏名】山口 直志
(72)【発明者】
【氏名】大図 達也
(72)【発明者】
【氏名】山中 翔生
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 和貴
【審査官】永田 勝也
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-090405(JP,A)
【文献】特開2006-014438(JP,A)
【文献】特開2012-186880(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02K 1/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
略水平方向に延在する軸線を中心にして周方向に複数のスロットが設けられたステータコアと、
前記スロットに配置されたコイルと、を備える回転電機用ステータであって、
前記ステータコアは、
前記軸線を中心として周方向に延在するとともに、前記ステータコアの頂部の近傍で途切れて互いに対向し、冷却媒体が流入する周方向一端の第1入口部および周方向他端の第2入口部を有する略C字状の第1流路と、
前記第1流路から径方向に位置をずらして前記ステータコアの前記頂部の近傍に設けられるとともに、冷却媒体が流出する第1出口部および第2出口部を有する第2流路と、
前記第1出口部と前記第1入口部とを接続する第1接続流路と、
前記第1接続流路と交差せずに、前記第2出口部と前記第2入口部とを接続する第2接続流路と、を有し、
前記第1出口部および前記第2入口部は、前記頂部よりも周方向一方側に位置し、前記第2出口部および前記第1入口部は、前記頂部よりも周方向他方側に位置
し、
前記第2流路は、前記軸線から上方に延びる基準線上に前記頂部が位置する状態で、前記第1流路の上方に、水平に設けられることを特徴とする回転電機用ステータ。
【請求項2】
請求項1に記載の回転電機用ステータにおいて、
前記第2流路は前記第1流路の径方向外側に配置され、
前記第1接続流路は、前記第1出口部から前記第1入口部にかけて略直線状に延在し、
前記第2接続流路は、前記第2出口部から前記第2入口部にかけて略直線状に延在することを特徴とする回転電機用ステータ。
【請求項3】
請求項1に記載の回転電機用ステータにおいて、
前記回転電機用ステータは、走行駆動力を発生するように車両に搭載され、
前記頂部の前記周方向一方側は車両の前方であり、前記頂部の前記周方向他方側は前記車両の後方であることを特徴とする回転電機用ステータ。
【請求項4】
請求項3に記載の回転電機用ステータにおいて、
前記第2接続流路の断面積は、前記第1接続流路の断面積よりも大きいことを特徴とする回転電機用ステータ。
【請求項5】
請求項3または4に記載の回転電機用ステータにおいて、
前記第2流路は略直線状に延在し、
前記第1出口部における前記第2流路に対する垂線と前記第1接続流路とのなす角は、前記第2出口部における前記第2流路に対する垂線と前記第2接続流路とのなす角よりも大きいことを特徴とする回転電機用ステータ。
【請求項6】
請求項1に記載の回転電機用ステータにおいて、
前記複数のスロットは、第1スロットと前記第1スロットよりも下方に設けられた第2スロットとを含み、
前記ステータコアは、
前記第1流路に設けられた前記冷却媒体の第1排出口と前記第1スロットとを接続する第1スロット接続流路と、
前記第1排出口よりも上方の前記第1流路に設けられた前記冷却媒体の第2排出口と前記第2スロットとを接続する第2スロット接続流路と、をさらに有することを特徴とする回転電機用ステータ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回転電機用ステータに関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、ステータの周囲に配置されたハウジングの上部からハウジング内に冷却油を流入し、さらにシール部材とコイルエンドカバーとコイルエンドとにより形成された環状のコイルエンド油路に上方から冷却油を流すように構成された回転電機用ステータが知られている(例えば特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記特許文献1記載のように、環状の油路の上方から冷却媒体を流す構成では、回転電機用ステータが傾斜した場合等に、冷却媒体の流れが周方向の一部に偏り、ステータを周方向均一に冷却することが困難である。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の一態様である回転電機用ステータは、略水平方向に延在する軸線を中心にして周方向に複数のスロットが設けられたステータコアと、スロットに配置されたコイルと、を備える。ステータコアは、軸線を中心として周方向に延在するとともに、ステータコアの頂部の近傍で途切れて互いに対向し、冷却媒体が流入する周方向一端の第1入口部および周方向他端の第2入口部を有する略C字状の第1流路と、第1流路から径方向に位置をずらしてステータコアの頂部の近傍に設けられるとともに、冷却媒体が流出する第1出口部および第2出口部を有する第2流路と、第1出口部と第1入口部とを接続する第1接続流路と、第1接続流路と交差せずに、第2出口部と第2入口部とを接続する第2接続流路と、を有する。第1出口部および第2入口部は、頂部よりも周方向一方側に位置し、第2出口部および第1入口部は、頂部よりも周方向他方側に位置し、第2流路は、軸線から上方に延びる基準線上に頂部が位置する状態で、第1流路の上方に、水平に設けられる。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、ステータを周方向均一に冷却することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】本発明の実施形態に係る回転電機用ステータを含む回転電機の要部構成を示す断面図。
【
図2】本発明の実施形態の参考例に係る回転電機用ステータの頂部の構成を示す斜視図。
【
図3】本発明の実施形態に係る回転電機用ステータに含まれるステータコアの頂部の周辺における冷却流路の構成を示す正面図。
【
図5A】車両が平坦面を走行しているときの冷却油の流れを示す図。
【
図5B】車両が上り坂を走行しているときの冷却油の流れを示す図。
【
図8】ステータに設けられる冷却流路の他の構成を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、
図1~
図9を参照して本発明の実施形態について説明する。
図1は、本発明の実施形態に係る回転電機用ステータを含む回転電機100の要部構成を示す断面図である。回転電機100は、ハイブリッド車両や電気自動車に搭載され、車両駆動用の電動機として用いることができ、発電機として用いることもできる。なお、回転電機100は、車両以外に搭載し、種々の用途に用いることもできる。
図1には、回転電機100が車両に搭載された状態における車両の前後方向、左右方向および上下方向を併せて示す。下方は、重力が作用する方向である。
【0009】
図1は、回転電機100の要部構成を示す正面図であり、回転電機100を左方から見た図である。
図1に示すように、回転電機100は、左右方向に延在する軸線CL0を中心に回転するロータ1と、ロータ1の外周面1aを包囲するようにロータ1の外側に設けられたステータ2とを備える。以下では、軸線CL0の延在する方向を軸方向、軸線CL0から放射状に延びる方向を径方向、軸線CL0を中心とした円の円周に沿った方向を周方向と定義する。
図1には、軸線CL0から上方に延びる基準線L1が示される。基準線L1上にステータ2の頂部(最上部)が存在する。
【0010】
回転電機100は、例えば埋込磁石型同期モータとして構成される。したがって、ロータ1は、軸線CL0を中心とした略円環形状のロータコア10と、ロータコア10に形成された周方向複数の磁極部(不図示)と、を有する。磁極部には永久磁石が埋設される。ロータコア10の内周面10aには、例えば回転電機100の出力軸を構成する不図示のロータシャフトが嵌合され、ロータ1はロータシャフトと一体に回転する。ロータ1の外周面1aはロータコア10の外周面に相当する。ロータコア10は、磁性体である金属製の複数枚(例えば数十枚)の電磁鋼板を軸方向に積層して形成される。
【0011】
ステータ2は、ロータ1の外周面1aから径方向に所定の間隔を隔てて配置された内周面2aを有する軸線CL0を中心とした略円環状のステータコア20と、ステータコア20に取り付けられたコイル21と、を有する。ステータコア20は、磁性体である金属製の複数枚の電磁鋼板を軸方向に積層して構成される。
【0012】
ステータコア20は、略円筒形状のヨーク24から径方向内側に向けて周方向等間隔に突設された周方向複数のティース23を有する。周方向に隣り合うティース23の間には、内周面2aから径方向外側に向けて周方向複数のスロット22が設けられ、各スロット22にコイル21が装着される。スロット22は、内周面2aの全周にわたって設けられるが、
図1では、便宜上、頂部の近傍のスロット22のみを示す。スロット22の総数は例えば48である。スロット22の総数は48より多くてもよく、少なくてもよい。
【0013】
コイル21は、略矩形断面を有する導体である。なお、コイル21は円形断面を有する導体であってもよい。コイル21は、U相コイル、V相コイルおよびW相コイルを含み、3相コイルとして構成される。回転電機100を電動機として用いる場合には、不図示の電力変換装置から各コイル21に3相の交流電力が供給される。これにより、ステータ2に磁界が発生し、この磁界とロータ1の磁極部の永久磁石によって発生する磁界とが相互作用することにより、ロータ1が回転する。その結果、走行駆動力が発生し、車両が走行する。回転電機100を発電機として用いる場合には、回転電機100の駆動によって生じた3相の交流電力を、電力変換装置等に供給する。
【0014】
ステータコア20の内部には、冷却媒体が流れる流路(冷却流路)が形成される。冷却媒体は例えば冷却油である。冷却流路は、ステータコア20のヨーク24に、軸線CL0を中心とした基準円C1に沿って周方向に延在する円周流路31と、基準円C1に直交して軸方向に延在する周方向複数の軸流路32とを有する。軸流路32は、基準円C1に沿ってステータコア20の全周にわたって設けられるが、
図1では、一部の軸流路32のみを示す。円周流路31は、ステータコア20の軸方向中央部に設けられる。
【0015】
軸流路32は、スロット22の径方向外側であり、かつ、周方向に隣り合うスロット22の間に配置される。軸流路32は、ステータコア20を軸方向に貫通するとともに、軸方向中央部で円周流路31に連通する。円周流路31の断面形状は例えば円形ないし略円形であり、軸流路32の断面形状も円形ないし略円形である。なお、流路31,32の断面矩形状は円形以外であってもよい。流路31,32は、流路形状に対応した切り欠きを有する電磁鋼板を積層することにより形成することができる。
【0016】
ステータコア20は、ステータコア20の外周面から径方向外側に突設された周方向複数のフランジ部25を有する。具体的には、頂部(基準線L1)を起点として90°毎にフランジ部25が設けられる。図示は省略するが、フランジ部25には、ボルトが挿通する貫通孔が設けられ、貫通孔に挿通されたボルトにより、ステータ2がケースやフレーム等に固定される。
【0017】
本実施形態に係る回転電機用ステータ2は、冷却流路の構成、特にステータコア20の頂部の周辺における冷却流路の構成に特徴がある。この点に関し、まず本実施形態の参考例について説明する。
図2は、本実施形態の参考例に係る回転電機用ステータ2Aの頂部の周辺の構成を示す斜視図(左斜め上方から見た図)である。
図2に示すように、ステータ2Aの円周流路31Aは、軸線CL0(
図1)を中心に全周にわたって設けられる。
【0018】
ステータコア20には、その軸方向一端面(左端面20a)から他端面(右端面20b)にかけて円周流路31Aに連通するように貫通孔(軸流路32)が開口される。ステータコア20の頂部のフランジ部25には、ステータコア20の左端面20aから軸方向中央部にかけて入口流路33が設けられる。入口流路33は、ステータコア20の軸方向中央部において径方向内側に向けて屈曲し、円周流路31Aに連通する。
【0019】
入口流路33には、左端の開口33aを介してステータ2Aの外部から冷却油が供給される。供給された冷却油は、入口流路33および円周流路31Aを介して周方向複数の軸流路32に導かれる。軸流路32に導かれた冷却油は、軸流路32に沿って左右方向に流れ、ステータコア20の左端面20aおよび右端面20bの開口から流出する。これによりステータコア20を冷却することができる。
【0020】
しかしながら、このような冷却流路の構成では、車両が坂道を走行してステータ2Aが前後方向に傾斜した場合に、円周流路31Aの冷却油の流れが重力により前側または後側に偏るおそれがある。すなわち、下り坂走行時には、円周流路31Aに供給された冷却油が前側に偏り、上り坂走行時には後側に偏る。その結果、周方向均一に冷却油が流れず、ステータ2の周方向における温度のばらつきが大きくなるおそれがある。そこで、ステータ2が前後方向に傾斜した場合であっても、ステータ2の周方向の温度分布のばらつきを抑えるよう、本実施形態は以下のように回転電機用ステータ2を構成する。
【0021】
図3は、ステータコア20の頂部の周辺における冷却流路の構成を示す正面図(左方から見た図)であり、
図4は、
図3の矢視IV図(上方から見た図)である。
図3,
図4では、ステータコア20の内部の冷却流路を、便宜上、実線で示す。
図3,
図4に示すように、円周流路31は、ステータコア20に全周にわたって設けられるのではなく、頂部のフランジ部25の近傍で途切れて設けられる。
【0022】
より詳しくは、円周流路31は、基準線L1まで至らずに、基準線L1の前後両側に一端部(前入口部311)および他端部(後入口部312)が存在する。このため、円周流路31は、前入口部311から後入口部312にかけて、軸線CL0(
図1)を中心に略C字状に構成される。前入口部311および後入口部312には、左右方向に延在する複数の軸流路32のうち、最上部の軸流路32がそれぞれ交差する。なお、最上部の軸流路32は、前入口部311および後入口部312からずれた位置(例えば前入口部311の前方および後入口部312の後方)で、円周流路31と交差してもよい。
【0023】
入口流路33は、基準円C1の径方向外側かつ基準線L1上において、ステータコア20の左端面の開口33aから右方に延在した後、ステータコア20の軸方向中央部で下方に延在する。入口流路33の下端部には、入口流路33を二手に分岐する分岐流路34が接続される。分岐流路34は、基準円C1の上方かつ入口流路33の下方において前後左右方向に延在する水平面SF1上に設けられる。より詳しくは、前方かつ左方の一端部(前出口部341)から後方かつ右方の他端部(後出口部342)にかけて水平面SF1に沿って略直線状に延在し、分岐流路34の中央部で、入口流路33の下端部と交差する。
【0024】
分岐流路34の前出口部341および円周流路31の後入口部312には、分岐流路34の前出口部341から後方、右方かつ下方に、略直線状に斜めに延在する接続流路35の一端部および他端部がそれぞれ接続される。分岐流路34の後出口部342および円周流路31の前入口部311には、分岐流路34の後出口部342から前方、左方かつ下方に、略直線状に斜めに延在する接続流路36の一端部および他端部がそれぞれ接続される。接続流路35と接続流路36とは交差せず、ねじれの位置の関係にある。これにより入口流路33が、分岐流路34および接続流路35を介して円周流路31の後入口部312に連通するとともに、分岐流路34および接続流路36を介して円周流路31の前入口部311に連通する。
【0025】
スロット22には、断面略矩形枠形状の絶縁部材40が配置される。絶縁部材40の内側には略直方体形状の収容空間が形成され、収容空間に、コイル21を形成する4本の導体セグメント210が径方向に一列に並べて配置される。なお、スロット内の導体セグメント210の本数は4本より多くてもよく、少なくてもよい。導体セグメント210の周囲は、絶縁被膜により被覆される。
【0026】
以上のように構成された回転電機用ステータ2の主要な動作について説明する。
図5Aは、車両が平坦面を走行している場合には、
図5Aに示すように、分岐流路34が水平である。この場合、ステータコア20の外部から入口流路33に供給された冷却油が、
図5Aの矢印A1,A2,A3に示すように、分岐流路34、接続流路35を介して、基準線L1の前方から後方に斜め下方に流れ、後入口部312を介して円周流路31に流入する。また、矢印A1,A4,A5に示すように、冷却油が分岐流路34、接続流路35を介して、基準線L1の後方から前方に斜め下方に流れ、前入口部311を介して円周流路31に流入する。
【0027】
このとき、分岐流路34は水平であるため、分岐流路34の前出口部341および後出口部342から接続流路35,36に均等に冷却油が流入する。このため、後入口部312を介して円周流路31を流れる冷却油の量と、前入口部311を介して円周流路31を流れる冷却油の量とは、互いに等しく、冷却油は円周流路31に沿って周方向均一に流れる。これにより円周流路31から周方向複数の軸流路32に均一に冷却油が流れ込み、ステータ2を周方向に均一に冷却することができる。
【0028】
車両が上り坂を走行している場合には、ステータ2が前後方向で傾斜する。このため、
図5Bに示すように、分岐流路34が傾斜し、分岐流路34の前出口部341が後出口部342よりも上方に位置する。これにより、重力の作用によって、分岐流路34の下端部の後出口部342には、上端部の前出口部341よりも多くの流量が流れる。その結果、接続流路36を流れる冷却油(矢印A4)の圧力は接続流路35を流れる冷却油(矢印A2)の圧力よりも高くなり、円周流路31に上り勾配で流入する冷却油の量が下り勾配で流入する冷却油の量よりも増加する。
【0029】
一方、前入口部311を介して円周流路31に流入した冷却油は、円周流路内を上り勾配で流れるため、この冷却油(矢印A5)の圧力は、後入口部312を介して流入した冷却油(矢印A3)の圧力よりも低くなる。その結果、接続流路36を介して上り勾配で円周流路31を流れる冷却油の量と、接続流路35を介して下り勾配で円周流路31を流れる冷却油の量とがほぼ等しくなる。これにより、車両が傾斜した場合であっても、周方向複数の軸流路32に均一に冷却油を流すことができ、ステータ2を周方向に均一に冷却することができる。
【0030】
図6Aは、
図5Aの変形例を示す図である。
図6Aが
図5Aと異なるのは、接続流路35,36の構成である。すなわち、
図5Aでは、接続流路35,36の断面積が互いに等しいが、
図6Aでは、接続流路36の断面積S1が接続流路35の断面積S2よりも大きい。これにより接続流路36の圧力損失が接続流路35の圧力損失よりも小さくなる。その結果、
図6Bに示すように、車両の上り坂走行時に、接続流路36に
図5Bの場合よりも多くの冷却油が流れ(矢印A4)、基準線L1の前方の円周流路31を流れる冷却油(矢印A5)の量を十分に確保できる。
【0031】
特に、上り坂走行時には車両の走行駆動トルクが大きく、コイル21の発熱量が増大する。このため、基準線L1よりも前方における上り勾配の円周流路31に、より多くの冷却油を供給する必要がある。この点、接続流路36の断面積を大きくすることで、上り勾配の円周流路31に供給する冷却油の量を容易に増大できる。なお、接続流路36の断面積を大きくすると、
図6Aに示すように車両が平坦面を走行するとき、基準線L1の前方を流れる冷却油(矢印A5)の量が基準線L1の後方を流れる冷却油(矢印A3)の量よりも多くなる。但し、この場合には走行駆動トルクが小さく、コイル21の発熱量が小さいため、基準線L1の前後で冷却油の量に差が生じても問題ない。
【0032】
図7Aは、
図5Aのさらなる変形例を示す図である。
図7Aが
図5Aと異なるのも、接続流路35,36の構成である。すなわち、
図5Aでは、接続流路35の鉛直線に対するなす角(
図7Aのθ1)と接続流路36の鉛直線に対するなす角(
図7Aのθ2)とが互い等しいが、
図7Aでは、θ1がθ2よりも大きい。換言すると、分岐流路34と接続流路35とのなす角は、分岐流路34と接続流路36とのなす角よりも小さい。これにより、分岐流路34から接続流路35に流入する冷却油の圧力損失が、分岐流路34から接続流路36に流入する冷却油の圧力損失よりも大きくなり、接続流路36を接続流路35よりも多くの冷却油が流れる。
【0033】
その結果、
図7Bに示すように、車両の上り坂走行時に、接続流路36に
図5Bの場合よりも多くの冷却油が流れ(矢印A4)、基準線L1の前方の円周流路31を流れる冷却油(矢印A5)の量を十分に確保できる。また、
図6Aの例のように接続流路35の断面積S2を増加する必要がないため、ステータコア20に良好に磁束を形成することができ、ロータの回転トルクの低下を抑制できる。
【0034】
円周流路31を流れる冷却油をスロット22(
図3)に導くようにしてもよい。
図8はその一例を示す図である。
図8は、基準線L1よりも後方の冷却流路の構成であり、例えば上り坂走行時のステータ2の姿勢を示す。
図8に示すように、ステータコア20の円周流路31とスロット22との間には、スロット22の径方向外側端部と円周流路31とを接続するスロット流路37,38が周方向交互に設けられる。
【0035】
より詳しくは、スロット流路37は、スロット22の径方向外側端部(スロット開口22a)から円周流路31に設けられた連通口313にかけて略直線状に延在する。また、スロット流路38は、同一のスロット22の径方向外側端部(スロット開口22b)から円周流路31に設けられた、連通口313よりも下方の連通口314にかけて略直線状に延在する。スロット流路37,38は、ステータコア20の頂部を起点(0°)として、軸線CL1を中心として後方にかけて所定範囲(例えば90°または180°)にわたって設けられる。
【0036】
周方向に隣り合う一対のスロット22を、第1スロット22Aおよび第1スロット22Aよりも下方の第2スロット22Bと定義すると、第1スロット22Aに接続されたスロット流路38の連通口314は、第2スロット22Bに接続されたスロット流路37の連通口313よりも下方に位置する。スロット開口22a、22bの軸方向の位置は互いにずれている。あるいは連通口313,314の軸方向の位置が互いにずれている。このため、第1スロット22Aに接続されたスロット流路38と第2スロット22Bに接続されたスロット流路37とは、互いに交差することなくねじれの位置の関係にある。
【0037】
車両が上り坂を走行するとき、各スロット22には、スロット流路37を介して冷却油が流入するとともに(矢印A6)、スロット流路38を介して冷却油が流入する(矢印A7)。このとき、スロット流路37内の冷却油の流れ方向(矢印A6)は、スロット流路38内の冷却油の流れ方向(矢印A7)よりも重力方向に近づくため、スロット流路37を冷却油が流れやすい。一方、所定のスロット22(例えば第1スロット22A)に着目すると、第1スロット22Aには、連通口313を介してスロット流路37から冷却油が供給されるだけでなく、連通口313の下方に位置する連通口314を介してスロット流路38からも、冷却油が供給される。すなわち、2つの異なる傾斜角のスロット流路37,38から冷却油が供給される。これにより、ステータ2が傾斜して一方のスロット流路からの冷却油が減少した場合に、他方のスロット流路からの冷却油によりその分を補うことができ、複数のスロット22に均一に冷却油を導くことができる。
【0038】
本実施形態によれば以下のような作用効果を奏することができる。
(1)回転電機用ステータ2は、略水平方向に延在する軸線CLを中心にして周方向に複数のスロット22が設けられたステータコア20と、スロット22に配置されたコイル21と、を備える(
図1)。ステータコア20は、軸線CL0を中心として周方向に延在するとともに、ステータコア20の頂部の近傍で途切れて互いに対向する周方向一端の前入口部311および周方向他端の後入口部312を有する略C字状の円周流路31と、円周流路31から径方向に位置をずらしてステータコア20の頂部の近傍に設けられるとともに、冷却油が流出する前出口部341および後出口部342を有する分岐流路34と、前出口部341と後入口部312とを接続する接続流路35と、接続流路35と交差せずに、後出口部342と前入口部311とを接続する接続流路36と、を有する(
図3,
図4)。前出口部341および前入口部311は、頂部(基準線L1)よりも前方に位置し、後出口部342および後入口部312は、頂部よりも後方に位置する(
図3)。
【0039】
この構成により、基準線L1を超えて前後方向に延びる一対の接続流路35,36が、ねじれの位置の関係になる。このため、ステータ2の前後方向一方(例えば前方)が前後方向他方(後方)に対し上り勾配となるようにステータ2が傾斜した際に、前出口部341を介して接続流路35に流れる冷却油の量よりも、後出口部342を介して接続流路36に流れる冷却油の量の方が多くなる。これにより、前入口部311を介して上り勾配の円周流路31に多くの冷却油が流れるようになり、ステータ2が傾斜時した場合であっても、ステータ2を周方向均一に冷却することができる。
【0040】
(2)分岐流路34は円周流路31の径方向外側に配置される(
図3)。接続流路35,36は、それぞれ略直線状に延在する(
図3,
図4)。これにより、車両が平坦面を走行するとき、円周流路31の前入口部311および後入口部312から円周流路31に均等に冷却油を供給することができる。また、分岐流路34は円周流路31の径方向外側に配置されるため、分岐流路34にステータ2の外部から容易に冷却油を供給することができる。
【0041】
(3)回転電機用ステータ2は、走行駆動力を発生するように車両に搭載される。頂部の周方向一方側は車両の前方であり、頂部の周方向他方側は車両の後方である。この構成では、コイル21の発熱量が増加する車両の上り坂走行時に、基準線L1の前側の円周流路31に、より多くの冷却油を供給する必要がある。この点、接続流路35,36がねじれの位置関係にあるので、上り坂走行時に前入口部311を介して前側の円周流路31に十分な量の冷却油を供給することができる。
【0042】
(4)接続流路36の断面積S1を、接続流路35の断面積S2より大きくすることもできる(
図6A,
図6B)。これにより、接続流路36における圧力損失が低下し、接続流路36を介して前側の円周流路31に多くの冷却油を供給することができる。
【0043】
(5)分岐流路34は、前出口部341から後出口部342にかけて略直線状に延在する(
図3)。この場合、前出口部341における分岐流路34に対する垂線と接続流路35とのなす角θ1を、後出口部342における分岐流路34に対する垂線と接続流路36とのなす角よりも大きくすることもできる(
図7A,
図7B)。この場合も接続流路36における圧力損失が低下し、接続流路36を介して前側の円周流路31に多くの冷却油を供給することができる。
【0044】
(6)複数のスロット22には、第1スロット22Aと第1スロット22Aよりも下方に設けられた第2スロット22Bとが含まれる(
図8)。ステータコア20は、円周流路31に設けられた連通口314(第1排出口)と第1スロット22Aとを接続するスロット流路38(第1スロット接続流路)と、連通口314よりも上方の円周流路31に設けられた連通口313(第2排出口)と第2スロット22Bとを接続するスロット流路37(第2スロット接続流路)と、をさらに有するように構成することもできる(
図8)。これにより、ステータ2が傾斜した場合であっても、周方向複数のスロット22に均一に冷却油を供給することができる。
【0045】
本実施形態は種々の形態に変形することができる。以下、いくつか変形例について説明する。上記実施形態では、前入口部311(第2入口部)および後入口部312(第1入口部)を有する略C字状の円周流路31(第1流路)の径方向外側に、第2流路として略管状の分岐流路34を配置したが、第2流路の構成はこれに限らない。例えば
図9に示すように、水平方向に延在する略矩形のチャンバ―空間として分岐流路34(第2流路)を構成してもよい。
図9では、分岐流路34の中央部に入口流路33が接続されるとともに、分岐流路34の右側後端部に接続流路36の後出口部342が接続され、分岐流路34の左側前端部に接続流路36の前出口部341が接続される。なお、分岐流路34の左端面に入口流路33が接続されてもよく、これにより入口流路33を短尺化できる。
【0046】
上記実施形態(
図3)では、分岐流路34の前出口部341(第1出口部)と円周流路31の後入口部312とを略直線状の接続流路35(第1接続流路)を介して接続し、分岐流路34の後出口部342(第2出口部)と円周流路31の前入口部311とを略直線状の接続流路36(第2接続流路)を介して接続するようにしたが、ステータコア20の頂部を超えて延在するとともに、互いにねじれの位置の関係にあれば、第1接続流路および第2接続流路の構成は上述したものに限らない。
【0047】
上記実施形態では、前後方向および上下方向に延在する鉛直面に沿って円周流路31が設けられるようにしたが、第1流路が設けられる鉛直面は前後方向以外に延在してもよい。上記実施形態では、冷却流路に冷却油を供給するようにしたが、冷却媒体は冷却油に限らない。上記実施形態では、ステータ2の径方向内側にロータ1を配置したが、ステータの径方向外側にロータを配置することもできる。上記実施形態では、車両に回転電機用ステータを適用したが、本発明の回転電機用ステータは車両以外に適用することもできる。
【0048】
以上の説明はあくまで一例であり、本発明の特徴を損なわない限り、上述した実施形態および変形例により本発明が限定されるものではない。上記実施形態と変形例の1つまたは複数を任意に組み合わせることも可能であり、変形例同士を組み合わせることも可能である。
【符号の説明】
【0049】
2 ステータ、20 ステータコア、21 コイル、22 スロット、22A 第1スロット、22B 第2スロット、31 円周流路、34 分岐流路、35,36 接続流路、37,38 スロット流路、311 前入口部、312 後入口部、313,314 連通口、341 前出口部、342 後出口部、L1 基準線