(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-02-10
(45)【発行日】2025-02-19
(54)【発明の名称】軸受装置の製造方法および軸受装置
(51)【国際特許分類】
F16C 33/64 20060101AFI20250212BHJP
F16C 41/00 20060101ALI20250212BHJP
F16C 19/06 20060101ALI20250212BHJP
【FI】
F16C33/64
F16C41/00
F16C19/06
(21)【出願番号】P 2023158266
(22)【出願日】2023-09-22
【審査請求日】2024-12-09
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000102692
【氏名又は名称】NTN株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100130513
【氏名又は名称】鎌田 直也
(74)【代理人】
【識別番号】100074206
【氏名又は名称】鎌田 文二
(74)【代理人】
【識別番号】100130177
【氏名又は名称】中谷 弥一郎
(72)【発明者】
【氏名】小池 孝誌
(72)【発明者】
【氏名】福島 靖之
【審査官】松江川 宗
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-349073(JP,A)
【文献】特開2008-256601(JP,A)
【文献】特開平08-141848(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16C 19/00-19/56,33/30-33/66
F16C 41/00-41/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
外輪(11)と、前記外輪の径方向内側に配される内輪(12)と、前記外輪(11)と前記内輪(12)の間に転動自在に配される複数の転動体(13)とを有する転がり軸受(10)と、
前記外輪(11)と前記内輪(12)のうちの固定側の軌道輪に固定されるセンサユニット(20)とを備え、
前記固定側の軌道輪は、前記外輪(11)と前記内輪(12)のうちの回転側の軌道輪との対向面の軸方向一端に環状の切欠き部(16)が形成されており、
前記センサユニット(20)は、センサ(23)が取り付けられるホルダ(21)が、環状の円板部(21a)と、前記円板部(21a)の外周部または内周部から軸方向に環状に突出する嵌合部(21b)とを有し、
前記センサユニット(20)のホルダ(21)の嵌合部(21b)が前記固定側の軌道輪の切欠き部(16)に圧入されている軸受装置の製造方法において、
前記センサユニット(20)のホルダ(21)をプレス加工によって成形する際に、
前記プレス加工における1つのロットを構成する複数のホルダ(21)の中から1つ以上のサンプルを抽出し、
前記サンプルとされたホルダ(21)の嵌合部(21b)の外周面と内周面のうち、前記固定側の軌道輪の切欠き部(16)への圧入面(25)の径方向寸法を測定した後、
前記圧入面(25)の径方向寸法の測定結果に基づいてロット毎の代表寸法を設定し、
前記圧入面(25)のロット毎の代表寸法に基づいて、前記固定側の軌道輪の切欠き部(16)の径方向寸法の基準寸法と寸法公差を設定して、
その後に前記固定側の軌道輪の切欠き部(16)の加工を行うことを特徴とする軸受装置の製造方法。
【請求項2】
前記ホルダ(21)の圧入面(25)のロット毎の代表寸法は、前記サンプルを複数抽出して、そのサンプルの寸法測定結果のうちの最大値に所定の推定誤差を加算した推定最大寸法と、前記サンプルの寸法測定結果のうちの最小値から前記推定誤差を減算した推定最小寸法を用い、
前記固定側の軌道輪の切欠き部(16)と前記ホルダ(21)の圧入面(25)の間の締め代が、前記圧入面(25)の推定最大寸法と推定最小寸法のいずれに対しても予め設定した範囲に入るように、前記切欠き部(16)の径方向寸法の基準寸法と寸法公差を設定する請求項1に記載の軸受装置の製造方法。
【請求項3】
前記ホルダ(21)の圧入面(25)のロット毎の代表寸法は、前記サンプルを複数抽出して、そのサンプルの寸法測定結果の平均値と標準偏差を計算し、前記平均値に前記標準偏差の整数倍を推定誤差として加減算した推定最大寸法と推定最小寸法を用い、
前記固定側の軌道輪の切欠き部(16)と前記ホルダ(21)の圧入面(25)の間の締め代が、前記圧入面(25)の推定最大寸法と推定最小寸法のいずれに対しても予め設定した範囲に入るように、前記切欠き部(16)の径方向寸法の基準寸法と寸法公差を設定する請求項1に記載の軸受装置の製造方法。
【請求項4】
前記ホルダ(21)の圧入面(25)の径方向寸法の測定を軸方向の複数個所で行った結果、前記圧入面(25)が前記円板部(21a)から離れるにしたがって大径となるテーパ面である場合には、前記固定側の軌道輪の切欠き部(16)は、軸方向外側で径方向に拡がるように軸方向の途中に段差を有し、その切欠き部(16)の段差よりも軸方向内側に前記ホルダ(21)の嵌合部(21b)が圧入されるものとし、
前記ホルダ(21)の圧入面(25)のロット毎の代表寸法は、前記嵌合部(21b)のうち、前記切欠き部(16)の段差よりも軸方向内側に圧入される部位の寸法測定結果に基づいて設定し、
前記圧入面(25)のロット毎の代表寸法に基づいて、前記切欠き部(16)の段差よりも軸方向内側の径方向寸法の基準寸法と寸法公差を設定した後、前記切欠き部(16)の加工を行う請求項1乃至3のいずれかに記載の軸受装置の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、転がり軸受にセンサユニットを取り付けた軸受装置の製造方法と、その製造方法で製造された軸受装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、転がり軸受にその状態を検出するためのセンサユニットを取り付けた軸受装置が知られている。
【0003】
このような軸受装置は、一般に、センサを組み込んだセンサユニットを、転がり軸受の外輪と内輪のうちの固定側の軌道輪(以下、「固定輪」とも称する。)に固定し、外輪と内輪のうちの回転側の軌道輪(以下、「回転輪」とも称する。)と固定輪の間に設けた発電機からセンサユニットに電力を供給するようにしている。
【0004】
例えば、特許文献1には、固定輪となる外輪と回転輪となる内輪の間に転動体としての玉を配した深溝玉軸受の軸方向一端側に、外輪の外周部から軸方向外側へ環状に突出する延長部を設け、その延長部の内周側にセンサユニットを設け、外輪と内輪の間に設けた発電機からセンサユニットに供給される電力で回転速度等を検出できるようにした軸受装置が開示されている。
【0005】
この軸受装置では、外輪の延長部の内周側(軸方向一端の環状の切欠き部)に、センサユニットのセンサが取り付けられる断面L字状の環状のホルダ(発電機を構成するヨーク部材も兼ねるもの)を嵌合固定している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記特許文献1のように転がり軸受にセンサユニットを取り付けた軸受装置では、センサユニットの金属製のホルダが、プレス加工によって断面L字状、すなわち環状の円板部の外周部または内周部から軸方向へ嵌合部を環状に突出させた形状に成形されており、そのホルダの嵌合部を固定輪の回転輪との対向面に形成された環状の切欠き部に圧入しているものが多い。
【0008】
ところで、センサユニットのホルダをプレス加工によって成形する場合、製作図面に記載される公差は、プレス金型の摩耗を考慮して比較的大きく設定される(例えば、0.2mm)。一方、ホルダが嵌合固定される固定輪の切欠き部は切削加工や研削加工によって形成されるため、その公差は比較的小さくできる(例えば、0.03mm以下)。
【0009】
そして、固定輪の切欠き部の径方向寸法の公差は、ホルダの嵌合部の切欠き部への圧入面(外周面または内周面)の径方向寸法の公差に基づいて設定されるが、ホルダの寸法公差が大きいため、実際にホルダの嵌合部を固定輪の切欠き部へ圧入する際には、その切欠き部と嵌合部の圧入面の間の締め代が大きくなり、圧入作業が難しくなる場合がある。また、その場合には、ホルダや固定輪の切欠き部の周辺部分の変形が懸念される。
【0010】
そこで、この発明は、転がり軸受にセンサユニットを取り付けた軸受装置において、転がり軸受の固定輪へのセンサユニットのホルダの圧入作業が容易にでき、ホルダや固定輪の変形を抑えられるようにすることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記の課題を解決するために、この発明の発明者らは、センサユニットのホルダの圧入面と固定輪の切欠き部の間の締め代のばらつきについて検討し、プレス加工によって成形されるホルダの圧入面の径方向寸法は、使用するプレス金型の寿命全体を通して見れば金型の摩耗の進展によるばらつきが大きいが、プレス加工における1つのロット(1つの金型で連続して加工される例えば500個のホルダ)を見ればばらつきがかなり小さい(最大値と最小値の差が0.01mm程度)ことに着目した。そして、プレス加工の1ロット内の小さいばらつきで圧入面を成形されたホルダに対し、その圧入面の寸法測定結果に基づいて固定輪の切欠き部の径方向寸法の基準寸法と寸法公差を設定したうえで、1ロット分の固定輪の切欠き部の加工を行うようにすれば、固定輪の切欠き部とホルダの圧入面の間の締め代を適切な範囲に収めることができるという着想を得るに至ったのである。
【0012】
この発明は、具体的には、外輪と、前記外輪の径方向内側に配される内輪と、前記外輪と前記内輪の間に転動自在に配される複数の転動体とを有する転がり軸受と、前記外輪と前記内輪のうちの固定側の軌道輪に固定されるセンサユニットとを備え、前記固定側の軌道輪は、前記外輪と前記内輪のうちの回転側の軌道輪との対向面の軸方向一端に環状の切欠き部が形成されており、前記センサユニットは、センサが取り付けられるホルダが、環状の円板部と、前記円板部の外周部または内周部から軸方向に環状に突出する嵌合部とを有し、前記センサユニットのホルダの嵌合部が前記固定側の軌道輪の切欠き部に圧入されている軸受装置の製造方法において、
前記センサユニットのホルダをプレス加工によって成形する際に、前記プレス加工における1つのロットを構成する複数のホルダの中から1つ以上のサンプルを抽出し、前記サンプルとされたホルダの嵌合部の外周面と内周面のうち、前記固定側の軌道輪の切欠き部への圧入面の径方向寸法を測定した後、前記圧入面の径方向寸法の測定結果に基づいてロット毎の代表寸法を設定し、前記圧入面のロット毎の代表寸法に基づいて前記固定側の軌道輪の切欠き部の径方向寸法の基準寸法と寸法公差を設定して、その後に前記固定側の軌道輪の切欠き部の加工を行うようにしたものである(構成1)。
【0013】
この構成1の軸受装置の製造方法によれば、固定輪の切欠き部とホルダの圧入面の間の締め代が適切な範囲に収まり、ホルダの圧入作業が容易に行えるようになって、ホルダや固定輪の変形も抑えることができる。
【0014】
上記構成1において、前記ホルダの圧入面のロット毎の代表寸法は、前記サンプルを複数抽出して、そのサンプルの寸法測定結果のうちの最大値に所定の推定誤差を加算した推定最大寸法と、前記サンプルの寸法測定結果のうちの最小値から前記推定誤差を減算した推定最小寸法を用い、前記固定側の軌道輪の切欠き部と前記ホルダの圧入面の間の締め代が、前記圧入面の推定最大寸法と推定最小寸法のいずれに対しても予め設定した範囲に入るように、前記切欠き部の径方向寸法の基準寸法と寸法公差を設定することができる(構成2)。
【0015】
あるいは、前記ホルダの圧入面のロット毎の代表寸法は、前記サンプルを複数抽出して、そのサンプルの寸法測定結果の平均値と標準偏差を計算し、前記平均値に前記標準偏差の整数倍を推定誤差として加減算した推定最大寸法と推定最小寸法を用い、前記固定側の軌道輪の切欠き部と前記ホルダの圧入面の間の締め代が、前記圧入面の推定最大寸法と推定最小寸法のいずれに対しても予め設定した範囲に入るように、前記切欠き部の径方向寸法の基準寸法と寸法公差を設定することもできる(構成3)。
【0016】
また、上記構成1乃至3のいずれにおいても、前記ホルダの圧入面の径方向寸法の測定を軸方向の複数個所で行い、前記圧入面が前記円板部から離れるにしたがって大径となるテーパ面である場合、前記固定側の軌道輪の切欠き部は、軸方向外側で径方向に拡がるように軸方向の途中に段差を有し、その切欠き部の段差よりも軸方向内側に前記ホルダの嵌合部が圧入されるものとし、前記ホルダの圧入面のロット毎の代表寸法は、前記嵌合部のうち、前記切欠き部の段差よりも軸方向内側に圧入される部位の寸法測定結果に基づいて設定し、前記圧入面のロット毎の代表寸法に基づいて、前記切欠き部の段差よりも軸方向内側の径方向寸法の基準寸法と寸法公差を設定した後、前記切欠き部の加工を行うようにすることもできる(構成4)。
【0017】
そして、この発明は、上述の製造方法で製造される軸受装置として、以下の構成のものを併せて提供する。すなわち、外輪と、前記外輪の径方向内側に配される内輪と、前記外輪と前記内輪の間に転動自在に配される複数の転動体とを有する転がり軸受と、前記外輪と前記内輪のうちの固定側の軌道輪に固定されるセンサユニットとを備え、前記固定側の軌道輪は、前記外輪と前記内輪のうちの回転側の軌道輪との対向面の軸方向一端に環状の切欠き部が形成されており、前記センサユニットは、センサが取り付けられるホルダが、環状の円板部と、前記円板部の外周部または内周部から軸方向に環状に突出する嵌合部とを有し、前記センサユニットのホルダの嵌合部が前記固定側の軌道輪の切欠き部に圧入されている軸受装置において、
前記センサユニットのホルダをプレス加工によって成形する際に、前記プレス加工における1つのロットを構成する複数のホルダの中から1つ以上のサンプルを抽出し、前記サンプルとされたホルダの嵌合部の外周面と内周面のうち、前記固定側の軌道輪の切欠き部への圧入面の径方向寸法を測定した後、前記圧入面の径方向寸法の測定結果に基づいてロット毎の代表寸法を設定し、前記圧入面のロット毎の代表寸法に基づいて、前記固定側の軌道輪の切欠き部の径方向寸法の基準寸法と寸法公差を設定して、その後に前記固定側の軌道輪の切欠き部の加工を行い、その切欠き部へホルダの嵌合部を圧入嵌合させることによって、前記切欠きとホルダの圧入面の間の締め代が管理されている軸受装置を提供するものである。
【発明の効果】
【0018】
この発明の軸受装置の製造方法は、上述したように、軸受装置のセンサユニットのホルダをプレス加工によって成形する際に、1ロットのホルダの中から抽出したサンプルの圧入面の径方向寸法の測定結果に基づいてロット毎の代表寸法を設定し、その圧入面のロット毎の代表寸法に基づいて、ホルダが圧入される固定輪の切欠き部の径方向寸法の基準寸法と寸法公差を設定したうえで、固定輪の切欠き部の加工を行うようにしたので、固定輪の切欠き部とホルダの圧入面の間の締め代を適切な範囲に収めて、固定輪へのホルダの圧入作業を容易にし、ホルダや固定輪の変形を抑えることができる。
【0019】
また、この発明の軸受装置は、上記の製造方法で製造されているので、ホルダや固定輪の変形が少なく、安定して使用できるものとなっている。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】この発明の実施形態に係る軸受装置の外観斜視図
【
図3】
図1の外輪とホルダの圧入部分の径方向寸法を説明する断面図
【
図4】
図1の外輪の切欠き部の径方向寸法を設定する手順の説明図
【
図5】
図4の設定手順で用いるホルダの代表寸法の設定方法の説明図
【
図6】
図4の設定手順で用いるホルダの代表寸法の別の設定方法の説明図
【
図7】
図1のホルダの嵌合部形状の変形例を示す要部の縦断正面図
【
図8】
図1の外輪の切欠き部形状の変形例を示す要部の縦断正面図
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、この発明の実施形態を図面に基づいて説明する。この実施形態に係る軸受装置は、
図1および
図2に示すように、転がり軸受10の軸方向一端側にセンサユニット20と発電機30を取り付けたものである。
【0022】
以下では、転がり軸受10の中心軸(軸受中心軸)を中心とした円周方向のことを周方向といい、その軸受中心軸に沿った方向のことを軸方向といい、その軸受中心軸と直交する方向のことを径方向という。そして、軸方向一方側は
図2における右側、軸方向他方側は
図2における左側である。
【0023】
転がり軸受10は、内周に軌道溝11aを有する外輪11と、外周に軌道溝12aを有する内輪12と、外輪11の軌道溝11aと内輪12の軌道溝12aの間に転動自在に配された転動体としての複数の玉13と、その複数の玉13をそれぞれ等間隔で転動自在に保持する保持器14と、外輪11と内輪12の間の軸受空間の軸方向他方側を塞ぐシール部材15とを備えた深溝玉軸受であり、その外輪11が図示省略したハウジング等に固定される固定輪、内輪12が図示省略した回転軸に一体回転するように取り付けられる回転輪となるものである。
【0024】
そして、外輪11の内周面および内輪12の外周面(外輪11と内輪12の互いの対向面)の軸方向一端には、それぞれ環状の切欠き部16、17が形成されており、その切欠き部16、17どうしの間にセンサユニット20と発電機30が配置されるようになっている。
【0025】
センサユニット20は、後述するように発電機30の一部を構成するホルダ21と、ホルダ21に取り付けられる基板22と、基板22に実装されるセンサ23と、基板22およびセンサ23を覆うカバー24とを有している。
【0026】
ホルダ21は、1枚の金属板をプレス加工して形成したものであり、径方向および周方向に拡がる環状の円板部21aと、円板部21aの外周部から軸方向一方側へ環状に突出する嵌合部21bとを有している。そして、その嵌合部21bが外輪11の切欠き部16に圧入されることにより、外輪11に固定されている。すなわち、このホルダ21では、嵌合部21bの外周面が外輪11の切欠き部16への圧入面25となっている(
図3参照)。
【0027】
基板22は、円弧板状に形成されており、ホルダ21の円板部21aの軸方向一方側の面にねじ止めあるいは接着によって取り付けられている。そして、この基板22に、前記センサ23のほか、図示省略した無線通信モジュール、電源回路等が実装されている。
【0028】
発電機30は、転がり軸受10の内輪12と一体回転可能に配置される磁気リング31と、磁気リング31と径方向でエアギャップをおいて対向する状態で外輪11に固定される環状のステータ32とからなるクローポール型のものである。
【0029】
磁気リング31は、ステータ32に対する回転磁界を生成する回転子であり、周方向に交互にN極とS極とに着磁された磁性ゴム製の磁石31aを全周にわたって芯金31bに接着したものである。この磁気リング31は、筒部の一端にフランジを有する形状に形成され、その筒部の他端側が内輪12の外周に圧入または接着されて、内輪12に固定されている。
【0030】
ステータ32は、磁気リング31から出た磁束をヨーク構造で導き、ヨーク構造内のボビン33に巻き付けられたコイル34に交流電圧を誘起させる固定子である。そのヨーク構造は、センサユニット20のホルダ21の内周部からなるメインステータ35と、メインステータ35に取り付けられるサブステータ36とで構成されている。メインステータ35とサブステータ36とは、それぞれの内周部から周方向に一定間隔で軸方向に延びる爪状のクローポールが周方向で交互に並ぶように組み合わされている。なお、このサブステータ36の外周面とホルダ21の嵌合部21bの内周面との間に、センサユニット20のカバー24が嵌め込まれている。
【0031】
そして、転がり軸受10の内輪12が回転軸と一体に回転すると、その回転に伴ってコイル34の両端部に交流電圧が発生し、生成した交流電力をセンサユニット20に供給するようになっている。
【0032】
この実施形態の軸受装置は、上記の構成であり、その製造方法における特徴について以下に説明する。
【0033】
この軸受装置の製造方法が通常のものと異なっているのは、センサユニット20のホルダ21を1ロット分プレス加工した後、加工されたホルダ21の圧入面25の径方向寸法(
図3における嵌合部21bの外径D)の測定結果を考慮して、外輪11の切欠き部16の径方向寸法(
図3における切欠き部16の内径d)を設定し、設定した径方向寸法にしたがって外輪11の切欠き部16の加工を行うようにしている点である。
【0034】
具体的には、
図4に示すように、まず、ホルダ21をプレス加工によって成形する際に、加工された1つのロットを構成するホルダ21の中から数個のサンプルを抽出し、そのサンプルとされたホルダ21の嵌合部21bの圧入面(外周面)25の径方向寸法(外径D)を測定する。
【0035】
ここで、ホルダ21のプレス加工の1ロットの数は、例えば、500個程度とすることができる。また、ホルダ21のサンプルは、例えば、1ロットの中で最初に成形した数個と、中間に成形した数個と、最後に成形した数個とを選ぶことができ、各タイミングでのサンプル数は3個程度とすることができる。なお、サンプルの個数、抽出タイミングは、これに限定されず、例えば、1ロットの中間での抽出は省略してもよいし、最初と中間と最後のうちの1つのタイミングのみで抽出するようにしてもよい。
【0036】
次に、サンプルとされたホルダ21の測定結果に基づいてロット毎の代表寸法を設定する。ここでは、1ロットの最初と中間と最後のそれぞれのタイミングで3個ずつサンプルを抽出し、その測定結果に基づいて代表寸法を設定する場合の例について説明する。
【0037】
ロット毎の代表寸法の設定方法を
図5に示す。この
図5において、ホルダ21の製作図面に記載される嵌合部21bの圧入面25の公差は、2本の2点鎖線の間の範囲である。なお、嵌合部21bの圧入面25の径方向寸法は、基準寸法に対してプラス側にのみ公差が設定されるので、最小許容寸法は基準寸法に等しい。
【0038】
そして、製作図面にしたがってプレス加工されたホルダ21の9個のサンプルの測定寸法のうちの最大値(測定最大値)と最小値(測定最小値)を抽出し、その測定最大値に所定の推定誤差を加算した推定最大寸法と、測定最小値から同じ推定誤差を減算した推定最小寸法をロット毎の代表寸法として用いる。
【0039】
ここで、推定誤差は、予め1ロットの全数について寸法測定する実験を行い、その全数の測定値が推定最大寸法と推定最小寸法との間に収まるように設定しておく。
【0040】
上記のようにしてロット毎の代表寸法を設定した後、外輪11の切欠き部16とホルダ21の圧入面25の間の締め代が、ロット毎の代表寸法すなわち圧入面25の推定最大寸法と推定最小寸法のいずれに対しても予め設定した範囲に入るように(例えば、最小締め代が0.02mm、最大締め代が0.06mmとなるように)、切欠き部16の径方向寸法の基準寸法と寸法公差を設定する。その後、設定された切欠き部16の径方向寸法にしたがって、1ロット分の外輪11の加工を行う。
【0041】
したがって、ホルダ21のプレス加工のロットが変われば、その都度、サンプルの圧入面25の測定を行ってロット毎の代表寸法を設定し、それに基づいて外輪11の切欠き部16の径方向寸法を設定したうえで、外輪11の切欠き部16の加工を行うことになる。
【0042】
上述した実施形態の軸受装置の製造方法では、センサユニット20のホルダ21をプレス加工する際、1ロット内では圧入面25の径方向寸法が小さいばらつきで成形されることに着目して、1ロット内のサンプルの圧入面25の寸法測定結果に基づいてロット毎の代表寸法を設定し、その圧入面25の代表寸法に基づいて外輪11の切欠き部16の径方向寸法を設定したうえで外輪11の加工を行うようにしたので、外輪の切欠き部を製作図面に記載される径方向寸法(基準寸法および寸法公差)にしたがって加工する場合よりも確実に、外輪11の切欠き部16とホルダ21の圧入面25の間の締め代を適切な範囲に収めることができる。その結果、外輪11へのホルダ21の圧入作業が容易になり、ホルダ21や外輪11の変形が抑えられる。
【0043】
したがって、この製造方法で製造した軸受装置の集合体である軸受装置集合は、1ロットのホルダ21を用いて製造した軸受装置を1つの製品ロットとすると、少なくとも2つの製品ロットにおいて、ホルダ21の圧入面25の径方向寸法の範囲が製品ロットどうしで互いに異なっており、かつ、すべての軸受装置について、外輪11の切欠き部16とホルダ21の圧入面25の間の締め代が各製品ロットに共通の所定範囲に収まるようにすることが可能である。すなわち、この軸受装置集合を構成する軸受装置は、それぞれの外輪11の切欠き部16およびホルダ21の圧入面25の径方向寸法が異なっていても、ホルダ21や外輪11の変形が少なく、安定して使用できるものとなっている。
【0044】
図6は、ホルダ21をプレス加工する際のロット毎の代表寸法の設定方法の別の例を説明するものである。この
図6の例では、
図5の例と同様に1ロットから抽出した9個のサンプルの測定結果に対して平均値(測定平均値)と標準偏差(測定標準偏差)を求め、その測定平均値に測定標準偏差の整数倍を推定誤差として加算した推定最大寸法と、測定平均値から同じ推定誤差を減算した推定最小寸法をロット毎の代表寸法としている。この場合、1ロットのホルダ21の径方向寸法が正規分布するとすれば、推定誤差を測定標準偏差の3倍とすることにより、1ロットの各ホルダ21の径方向寸法は99.73%の確率で推定最大寸法と推定最小寸法の間に収まることになる。また、この方法でロット毎の代表寸法を設定した後の外輪11の切欠き部16の径方向寸法の設定および加工は、
図5の例を採用した場合と同様に行うことができる。
【0045】
なお、上述した実施形態ではホルダ21の嵌合部21bが軸方向に平行に延びているが、ホルダ21の形状は、プレス加工する金型に抜き勾配をつけることにより、
図7に示すように嵌合部21bが軸方向一方側で開き、圧入面25がテーパ面となっている場合がある。この場合、嵌合部21bの軸方向位置によって径方向寸法が異なってくるため、サンプルの測定方法を予め決めておく必要がある。
【0046】
例えば、
図7のホルダ21において、嵌合部21bの軸方向の3点(P1、P2,P3)を測定対象と考えた場合、円板部21aに最も近いP1の位置の測定値を測定結果とするか、あるいは3点の測定値の平均値を測定結果として用いるとよい。
【0047】
また、ホルダ21の嵌合部21bが
図7に示すように軸方向一方側で開いている場合、外輪11の切欠き部16とホルダ21との嵌合長さを短くするために、切欠き部16を
図8に示すような段付き形状としてもよい。
図8に示す外輪11の切欠き部16は、軸方向外側で径方向に拡がるように軸方向の途中に段差が形成され、その段差よりも軸方向内側にホルダ21の嵌合部21bが圧入されるようになっている。したがって、この場合のホルダ21の圧入面25のロット毎の代表寸法は、嵌合部21bのうち、切欠き部16の段差よりも軸方向内側に圧入される部位(例えば
図7のP1の位置)の寸法測定結果に基づいて設定すればよい。このようにすれば、ホルダ21を外輪11へ適切な締め代で圧入嵌合することができる。
【0048】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。この発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【0049】
例えば、実施形態のセンサユニットのホルダは、固定輪である外輪に対して嵌合部が軸方向外側を向く姿勢で嵌合固定されているが、これと逆に、ホルダを外輪に対して嵌合部が軸方向内側を向く姿勢で嵌合固定するようにしてもよい。
【0050】
また、実施形態では転がり軸受の外輪を固定輪、内輪を回転輪としたが、これと逆に内輪を固定輪とし、外輪を回転輪とすることもできる。その場合、センサユニットのホルダは内輪の軸端部に形成した切欠き部に嵌合固定され、ホルダの圧入面は嵌合部の内周面となる。
【0051】
そして、この発明は、実施形態のような深溝玉軸受以外の転がり軸受にセンサユニットを取り付けた軸受装置にも、もちろん適用することができる。
【符号の説明】
【0052】
10 深溝玉軸受(転がり軸受)
11 外輪(固定輪)
12 内輪(回転輪)
13 玉(転動体)
16 切欠き部
20 センサユニット
21 ホルダ
21a 円板部
21b 嵌合部
23 センサ
25 圧入面
30 発電機
【要約】
【課題】転がり軸受にセンサユニットを取り付けた軸受装置において、転がり軸受の固定輪へのセンサユニットのホルダの圧入作業が容易にでき、ホルダや固定輪の変形を抑えられるようにする。
【解決手段】センサユニットのホルダをプレス加工によって成形する際に、加工された1つのロットを構成するホルダの中から数個のサンプルを抽出して、そのサンプルの圧入面の径方向寸法を測定し、その測定結果に基づいてホルダのロット毎の代表寸法(例えば、推定最大寸法と推定最小寸法)を設定した後、固定輪である外輪の切欠き部とホルダの圧入面の間の締め代がホルダのロット毎の代表寸法に対して予め設定した範囲に入るように、切欠き部の径方向寸法の基準寸法と寸法公差を設定したうえで、1ロット分の外輪の切欠き部の加工を行うようにした。
【選択図】
図4