(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-02-10
(45)【発行日】2025-02-19
(54)【発明の名称】適応システムにおける発散を検出するためのシステム及び方法
(51)【国際特許分類】
G10K 11/178 20060101AFI20250212BHJP
B60R 11/02 20060101ALI20250212BHJP
【FI】
G10K11/178 120
B60R11/02 B
(21)【出願番号】P 2023504392
(86)(22)【出願日】2021-07-20
(86)【国際出願番号】 US2021070914
(87)【国際公開番号】W WO2022020847
(87)【国際公開日】2022-01-27
【審査請求日】2023-01-20
(32)【優先日】2020-07-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】591009509
【氏名又は名称】ボーズ・コーポレーション
【氏名又は名称原語表記】BOSE CORPORATION
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【氏名又は名称】実広 信哉
(72)【発明者】
【氏名】シアマク・ファラバクシュ
【審査官】齊田 寛史
(56)【参考文献】
【文献】米国特許第10586524(US,B1)
【文献】特表2019-511878(JP,A)
【文献】特開2002-311960(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G10K 11/178
B60R 11/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ノイズ消去システムにおける発散又は不安定性を検出するためのプログラムコードを記憶する非一時的記憶媒体であって、前記プログラムコードが、プロセッサによって実行され、
第1の周波数におけるエラー信号の成分の電力を判定するステップであって、前記成分が、ノイズ消去信号と相関され、前記ノイズ消去信号が、適応フィルタによって生成され、音響信号に変換されるときに、所定の容積部内のノイズを消去するように構成されており、前記エラー信号が、前記所定の容積部内の残留ノイズの大きさを表す、判定するステップと、
前記エラー信号の前記成分の前記電力の時間勾配を判定するステップと、
メトリックを閾値と比較するステップであって、前記メトリックが、ある期間にわたる前記エラー信号の前記成分の前記電力の前記時間勾配が正であるか、変化なしであるか、または負であるかを表す値を有する、比較するステップと、
前記メトリックが前記閾値を超えると判定したときに、前記適応フィルタの第1の係数のセットを前記適応フィルタの第2の係数のセットに遷移させるステップ
と、を含む、非一時的記憶媒体。
【請求項2】
前記プログラムコードが、前記第1の係数のセットを前記第2の係数のセットに遷移させた結果として相関成分の前記電力が減少し始めた場合に、前記適応フィルタの適応速度を減速させるステップを更に含む、請求項
1に記載の非一時的記憶媒体。
【請求項3】
前記プログラムコードが、第2の係数のセットを記憶する第2の期間内に前記メトリックが前記閾値を超えると判定したときに、前記適応フィルタの第3の係数のセットに遷移するステップを更に含む、請求項
1に記載の非一時的記憶媒体。
【請求項4】
ノイズ消去システムにおける発散又は不安定性を検出するためのプログラムコードを記憶する非一時的記憶媒体であって、前記プログラムコードが、プロセッサによって実行され、
第1の周波数におけるエラー信号の成分の電力を判定するステップであって、前記成分が、ノイズ消去信号と相関され、前記ノイズ消去信号が、適応フィルタによって生成され、音響信号に変換されるときに、所定の容積部内のノイズを消去するように構成されており、前記エラー信号が、前記所定の容積部内の残留ノイズの大きさを表す、判定するステップと、
前記エラー信号の前記成分の前記電力の時間勾配を判定するステップと、
メトリックを閾値と比較するステップであって、前記メトリックが、ある期間にわたる前記エラー信号の前記成分の前記電力の前記時間勾配が正であるか、変化なしであるか、または負であるかを表す値を有する、比較するステップと、を含み、
前記メトリックが、前記ある期間にわたる前記時間勾配のフィルタリングされた表現であり、前記時間勾配の前記表現が、ローパスフィルタを用いてフィルタリングされる
、非一時的記憶媒体。
【請求項5】
前記ローパスフィルタのカットオフ周波数が、前記第1の周波数に応じて選択される、請求項
4に記載の非一時的記憶媒体。
【請求項6】
ノイズ消去システムにおける発散又は不安定性を検出するためのプログラムコードを記憶する非一時的記憶媒体であって、前記プログラムコードが、プロセッサによって実行され、
第1の周波数におけるエラー信号の成分の電力を判定するステップであって、前記成分が、ノイズ消去信号と相関され、前記ノイズ消去信号が、適応フィルタによって生成され、音響信号に変換されるときに、所定の容積部内のノイズを消去するように構成されており、前記エラー信号が、前記所定の容積部内の残留ノイズの大きさを表す、判定するステップと、
前記エラー信号の前記成分の前記電力の時間勾配を判定するステップと、
メトリックを閾値と比較するステップであって、前記メトリックが、ある期間にわたる前記エラー信号の前記成分の前記電力の前記時間勾配が正であるか、変化なしであるか、または負であるかを表す値を有する、比較するステップと、
第2のメトリックを第2の閾値と比較するステップであって、前記第2のメトリックが、前記第1の周波数における前記エラー信号の前記成分の前記電力と、少なくとも第2の周波数における前記エラー信号の前記成分の前記電力との比較に基づく、比較するステップ
と、を含む
、非一時的記憶媒体。
【請求項7】
前記プログラムコードが、前記メトリックが前記閾値を超えるか、又は前記第2のメトリックが前記第2の閾値を超えると判定したときに、前記適応フィルタの第1の係数のセットを前記適応フィルタの第2の係数のセットに遷移させるステップを更に含む、請求項
6に記載の非一時的記憶媒体。
【請求項8】
前記プログラムコードが、前記第1の係数のセットを前記第2の係数のセットに遷移させた結果として相関成分の前記電力が減少し始めた場合に、前記適応フィルタの適応速度を減速させるステップを更に含む、請求項
7に記載の非一時的記憶媒体。
【請求項9】
前記第2のメトリックが、前記第1の周波数における前記エラー信号の前記成分及び前記第2の周波数における前記エラー信号の前記成分の相対電力のフィルタリングされた表現であり、前記相対電力の前記表現が、ローパスフィルタを用いてフィルタリングされる、請求項
6に記載の非一時的記憶媒体。
【請求項10】
ノイズ消去システムにおける発散を検出するための方法であって、
第1の周波数におけるエラー信号の成分の電力を判定するステップであって、前記成分が、ノイズ消去信号と相関され、前記ノイズ消去信号が、適応フィルタによって生成され、音響信号に変換されるときに所定の容積部内のノイズを消去するように構成されており、前記エラー信号が、前記所定の容積部内の残留ノイズの大きさを表す、判定するステップと、
前記エラー信号の前記成分の前記電力の時間勾配を判定するステップと、
メトリックを閾値と比較するステップであって、前記メトリックが、ある期間にわたる前記エラー信号の前記成分の前記電力の前記時間勾配が正であるか、変化なしであるか、または負であるかを表す値を有する、比較するステップと、
前記メトリックが前記閾値を超えると判定したときに、前記適応フィルタの第1の係数のセットを前記適応フィルタの第2の係数のセットに遷移させるステップ
と、を含む
、方法。
【請求項11】
前記第1の係数のセットを前記第2の係数のセットに遷移させた結果として、相関成分の電力が減少し始めた場合に、前記適応フィルタの適応速度を減速させるステップを更に含む、請求項
10に記載の方法。
【請求項12】
第2の係数のセットを記憶する第2の期間内に前記メトリックが前記閾値を超えると判定したときに、前記適応フィルタの第3の係数のセットに遷移するステップを更に含む、請求項
10に記載の方法。
【請求項13】
ノイズ消去システムにおける発散を検出するための方法であって、
第1の周波数におけるエラー信号の成分の電力を判定するステップであって、前記成分が、ノイズ消去信号と相関され、前記ノイズ消去信号が、適応フィルタによって生成され、音響信号に変換されるときに所定の容積部内のノイズを消去するように構成されており、前記エラー信号が、前記所定の容積部内の残留ノイズの大きさを表す、判定するステップと、
前記エラー信号の前記成分の前記電力の時間勾配を判定するステップと、
メトリックを閾値と比較するステップであって、前記メトリックが、ある期間にわたる前記エラー信号の前記成分の前記電力の前記時間勾配が正であるか、変化なしであるか、または負であるかを表す値を有する、比較するステップと、を含み、
前記メトリックが、前記ある期間にわたる前記時間勾配のフィルタリングされた表現であり、前記時間勾配の前記表現が、ローパスフィルタを用いてフィルタリングされる
、方法。
【請求項14】
前記ローパスフィルタのカットオフ周波数が、前記第1の周波数に応じて選択される、請求項
13に記載の方法。
【請求項15】
ノイズ消去システムにおける発散を検出するための方法であって、
第1の周波数におけるエラー信号の成分の電力を判定するステップであって、前記成分が、ノイズ消去信号と相関され、前記ノイズ消去信号が、適応フィルタによって生成され、音響信号に変換されるときに所定の容積部内のノイズを消去するように構成されており、前記エラー信号が、前記所定の容積部内の残留ノイズの大きさを表す、判定するステップと、
前記エラー信号の前記成分の前記電力の時間勾配を判定するステップと、
メトリックを閾値と比較するステップであって、前記メトリックが、ある期間にわたる前記エラー信号の前記成分の前記電力の前記時間勾配が正であるか、変化なしであるか、または負であるかを表す値を有する、比較するステップと、
第2のメトリックを第2の閾値と比較するステップ
であって、前記第2のメトリックが、前記第1の周波数における前記エラー信号の前記成分の電力と、少なくとも第2の周波数における前記エラー信号の前記成分の前記電力との比較に基づく、
比較するステップと、を含む、方法。
【請求項16】
前記メトリックが前記閾値を超えるか、又は前記第2のメトリックが前記第2の閾値を超えると判定したときに、前記適応フィルタの第1の係数のセットを前記適応フィルタの第2の係数のセットに遷移させるステップを更に含む、請求項
15に記載の方法。
【請求項17】
前記第1の係数のセットを前記第2の係数のセットに遷移させた結果として、相関成分の前記電力が減少し始めた場合に、前記適応フィルタの適応速度を減速させるステップを更に含む、請求項
16に記載の方法。
【請求項18】
前記第2のメトリックが、前記第1の周波数における前記エラー信号の前記成分及び前記第2の周波数における前記エラー信号の前記成分の相対電力のフィルタリングされた表現であり、前記相対電力の前記表現が、ローパスフィルタを用いてフィルタリングされる、請求項
15に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連出願の相互参照)
本出願は、2020年7月22日に出願され、「Systems and Methods for Detecting Divergence in an Adaptive System」と題された米国特許出願第16/935,979号の優先権を主張し、その開示全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【背景技術】
【0002】
本開示は、概して、適応システムにおける発散を検出するためのシステム及び方法に関する。
【発明の概要】
【0003】
下記で言及される全ての実施例及び特徴は、任意の技術的に可能な方式で組み合わせることができる。
【0004】
一態様によれば、ノイズ消去システムにおける発散又は不安定性を検出するためのプログラムコードを記憶する非一時的記憶媒体であって、プログラムコードが、プロセッサによって実行され、第1の周波数におけるエラー信号の成分の電力を判定するステップであって、成分が、ノイズ消去信号に相関し、ノイズ消去信号が、適応フィルタによって生成され、音響信号に変換されたときに所定の容積部内のノイズを消去するように構成されており、エラー信号が、所定の容積部内の残留ノイズの大きさを表す、判定するステップと、エラー信号の成分の電力の時間勾配を判定するステップと、メトリックを閾値と比較するステップであって、メトリックが、ある期間にわたるエラー信号の成分の電力の時間勾配の値に少なくとも部分的に基づく、比較するステップと、を含む、非一時的記憶媒体。
【0005】
一例では、プログラムコードは、メトリックが閾値を超えると判定したときに、適応フィルタの第1の係数のセットを適応フィルタの第2の係数のセットに遷移させるステップを更に含む。
【0006】
一例では、プログラムコードは、第1の係数のセットを第2の係数のセットに遷移させた結果として相関成分の電力が減少し始めた場合に、適応フィルタの適応速度を減速させるステップを更に含む。
【0007】
一例では、プログラムコードは、第2の係数のセットを記憶する第2の期間内にメトリックが閾値を超えると判定したときに、適応フィルタの第3の係数のセットに遷移するステップを更に含む。
【0008】
一例では、メトリックは、ある期間にわたる時間勾配のフィルタリングされた表現であり、時間勾配の表現は、ローパスフィルタを用いてフィルタリングされる。
【0009】
一例では、ローパスフィルタのカットオフ周波数は、第1の周波数に従って選択される。
【0010】
一例では、プログラムコードは、第2のメトリックを第2の閾値と比較するステップを更に含み、第2のメトリックは、第1の周波数におけるエラー信号の成分の電力と、少なくとも第2の周波数におけるエラー信号の成分の電力との比較に基づく。
【0011】
一例では、プログラムコードは、メトリックが閾値を超えると判定するか、又は第2のメトリックが第2の閾値を超えると判定したときに、適応フィルタの第1の係数のセットを適応フィルタの第2の係数のセットに遷移させるステップを更に含む。
【0012】
一例では、プログラムコードは、第1の係数のセットを第2の係数のセットに遷移させた結果として相関成分の電力が減少し始めた場合に、適応フィルタの適応速度を減速させるステップを更に含む。
【0013】
一例では、第2のメトリックは、第1の周波数におけるエラー信号の成分及び第2の周波数におけるエラー信号の成分の相対電力のフィルタリングされた表現であり、相対電力の表現は、ローパスフィルタを用いてフィルタリングされる。
【0014】
別の態様によれば、ノイズ消去システムにおける発散を検出するための方法は、第1の周波数におけるエラー信号の成分の電力を判定することであって、成分が、ノイズ消去信号に相関し、ノイズ消去信号が、適応フィルタによって生成され、音響信号に変換されたときに所定の容積部内のノイズを消去するように構成され、エラー信号が、所定の容積部内の残留ノイズの大きさを表す、判定することと、エラー信号の成分の電力の時間勾配を判定することと、メトリックを閾値と比較することであって、メトリックが、ある期間にわたるエラー信号の成分の電力の時間勾配の値に少なくとも部分的に基づく、比較することと、を含む。
【0015】
一例では、本方法は、メトリックが閾値を超えると判定したときに、適応フィルタの第1の係数のセットを適応フィルタの第2の係数のセットに遷移させるステップを更に含む。
【0016】
一例では、本方法は、第1の係数のセットを第2の係数のセットに遷移させた結果として相関成分の電力が減少し始めた場合に、適応フィルタの適応速度を減速させるステップを更に含む。
【0017】
一例では、本方法は、第2の係数のセットを記憶する第2の期間内にメトリックが閾値を超えると判定したときに、適応フィルタの第3の係数のセットに遷移するステップを更に含む。
【0018】
一例では、メトリックは、ある期間にわたる時間勾配のフィルタリングされた表現であり、時間勾配の表現は、ローパスフィルタを用いてフィルタリングされる。
【0019】
一例では、ローパスフィルタのカットオフ周波数は、第1の周波数に従って選択される。
【0020】
一例では、本方法は、第2のメトリックを第2の閾値と比較するステップを更に含み、第2のメトリックは、第1の周波数におけるエラー信号の成分の電力と、少なくとも第2の周波数におけるエラー信号の成分の電力との比較に基づく。
【0021】
一例では、本方法は、メトリックが閾値を超えると判定するか、又は第2のメトリックが第2の閾値を超えると判定したときに、適応フィルタの第1の係数のセットを適応フィルタの第2の係数のセットに遷移させるステップを更に含む。
【0022】
一例では、本方法は、第1の係数のセットを第2の係数のセットに遷移させた結果として相関成分の電力が減少し始めた場合に、適応フィルタの適応速度を減速させるステップを更に含む。
【0023】
一例では、第2のメトリックは、第1の周波数におけるエラー信号の成分及び第2の周波数におけるエラー信号の成分の相対電力のフィルタリングされた表現であり、相対電力の表現は、ローパスフィルタを用いてフィルタリングされる。
【0024】
1つ以上の実装形態の詳細が、添付図面及び以下の説明において記載される。他の特徴、目的、及び利点は、本明細書及び図面から、並びに特許請求の範囲から明らかになるであろう。
【0025】
図面では、同じ参照符号は、一般に、異なる図を通して同じ部分を指す。また、図面は、必ずしも縮尺通りではなく、むしろ、一般に、様々な態様の原理を例解することに重点が置かれている。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【
図1】一実施例による、ノイズ消去システムの概略図を描写する。
【
図2】一実施例による、発散検出を有するノイズ消去システムのブロック図を描写する。
【
図3A】一実施例による、適応システムにおける発散を検出するための方法のフローチャートを描写する。
【
図3B】一実施例による、適応システムにおける発散を検出するための方法のフローチャートを描写する。
【
図3C】一実施例による、適応システムにおける発散を検出するための方法のフローチャートを描写する。
【
図3D】一実施例による、適応システムにおける発散を検出するための方法のフローチャートを描写する。
【
図3E】一実施例による、適応システムにおける発散を検出するための方法のフローチャートを描写する。
【
図3F】一実施例による、適応システムにおける発散を検出するための方法のフローチャートを描写する。
【
図3G】一実施例による、適応システムにおける発散を検出するための方法のフローチャートを描写する。
【発明を実施するための形態】
【0027】
ノイズ消去システムなどの適応システムは、通常、フィードバック又はフィードフォワードトポロジを採用して、環境の要件に従って適応システムパラメータを調節する。一般に、これらのシステムは、特定の値を最小にする状態に収束する。例えば、ノイズ消去システムは、特定のエリア内のノイズを最小限に抑えるようにエラーセンサからのフィードバックに従ってパラメータを適応させ得る。この場合、ノイズ消去システムは、エリア内のゼロノイズに向かって収束する。
【0028】
しかしながら、適応システムが故障した場合、システムは、特定の値から発散する場合がある。最悪の場合、これは、意図された値を最小化するのではなく悪化させる。したがって、ノイズ消去例では、発散するノイズ消去システムは、ノイズを消去するのではなく、ノイズをエリアに付加することができる。
【0029】
本明細書で開示される様々な例は、ノイズ消去システムなどの適応システムにおける発散を検出するためのシステムを対象とする。いくつかの例では、発散が検出されると、適応システムに対する発散の影響を緩和するために、是正措置が取られ得る。
【0030】
図1は、例示的ノイズ消去システム100の概略図である。ノイズ消去システム100は、車両車室内などの事前定義された容積部104内の少なくとも1つの消去ゾーン102における所望されない音と弱め合い干渉するように、構成され得る。概して、ノイズ消去システム100の一実施例は、基準センサ106と、エラーセンサ108と、アクチュエータ110と、コントローラ112と、を含み得る。
【0031】
一実施例では、基準センサ106は、事前定義された容積部104内の所望されない音を表すノイズ信号114、又は所望されない音の源を生成するように、構成されている。例えば、
図1に示すように、基準センサ106は、車両構造116を通して伝達される振動を検出するように搭載及び構成された、1つ又は複数の加速度計であり得る。車両構造116を通して伝達される振動は、構造によって車両車室内の所望されない音(走行ノイズとして知覚される)に変換され、したがって、構造に搭載された加速度計は、所望されない音を表す信号を提供する。
【0032】
アクチュエータ110は、例えば、事前定義された容積部の周辺部周囲の別個の場所に分配されたスピーカであり得る。一実施例では、4つ以上のスピーカを車両車室内に配置することができ、4つのスピーカの各々が、車両のそれぞれのドア内に設置され、音を車両車室内に伝えるように構成されている。代替的な実施例では、スピーカは、ヘッドレスト内に、又は車両車室内の他の場所に位置することができる。
【0033】
ノイズ消去信号118は、コントローラ112によって生成されて、事前定義された容積部内の1つ以上のスピーカに提供され得るが、これは、ノイズ消去信号118を音響エネルギー(すなわち、音波)に変換する。ノイズ消去信号118の結果として生成される音響エネルギーは、消去ゾーン102内の所望されない音と約180°位相が異なり、したがって、所望されない音と弱め合い干渉する。ノイズ消去信号118から生成された音波と事前定義された容積部内の所望されない音との組み合わせは、消去ゾーン内の聴取者によって知覚されるような所望されないノイズの消去をもたらす。
【0034】
ノイズ消去は、事前定義された容積部の全体にわたって等しくなり得ないので、ノイズ消去システム100は、事前定義された容積部を有する1つ以上の事前定義された消去ゾーン102内で最大のノイズ消去を生じさせるように構成されている。消去ゾーン内のノイズ消去は、約3dB以上の所望されない音の低減を達成することができる(ただし、様々な実施例では、異なる量のノイズ消去が生じ得る)。更に、ノイズ消去は、約350Hz未満の周波数などの周波数範囲の音を消去し得る(ただし、他の範囲が可能である)。
【0035】
事前定義された容積部内に配置されたエラーセンサ108は、ノイズ消去信号118から生成された音波と消去ゾーン内の所望されない音との組み合わせから生じる残留ノイズの検出に基づいて、エラーセンサ信号120を生成する。エラーセンサ信号120は、フィードバックとしてコントローラ112に提供され、エラーセンサ信号120は、ノイズ消去信号によって消去されなかった残留ノイズを表す。エラーセンサ108は、例えば、車両車室内(例えば、天井、ヘッドレスト、ピラー又は車室内の他の場所)に搭載された少なくとも1つのマイクロフォンであり得る。
【0036】
消去ゾーン(複数可)は、エラーセンサ108から遠隔に位置付けられ得ることに留意されたい。この場合、エラーセンサ信号120は、消去ゾーン(複数可)内の残留ノイズの推定値を表すようにフィルタリングされ得る。いずれの場合も、エラー信号は、消去ゾーン内の所望されない残留ノイズを表すと理解される。
【0037】
一実施例では、コントローラ112は、非一時的記憶媒体122と、プロセッサ124と、を備え得る。一実施例では、非一時的記憶媒体122は、プログラムコードを記憶し得るが、当該プログラムコードは、プロセッサ124によって実行された場合に、下で説明する種々のフィルタ及びアルゴリズムを実施する。コントローラ112は、ハードウェア及び/又はソフトウェアに実装され得る。例えば、コントローラは、SHARC浮動小数点DSPプロセッサによって実装され得るが、コントローラは、任意の他のプロセッサ、FPGA、ASIC、又は他の好適なハードウェアによって実装され得ることを理解されたい。
【0038】
図2を参照すると、コントローラ112によって実装された複数のフィルタを含む、ノイズ消去システム100の一実施例であるブロック図が示されている。図示のように、コントローラは、W
adaptフィルタ126及び適応処理モジュール128を含む制御システムを定義し得る。
【0039】
Wadaptフィルタ126は、基準センサ106のノイズ信号114を受信し、ノイズ消去信号118を生成するように構成されている。ノイズ消去信号118は、上記のように、アクチュエータ110に入力され、事前定義された消去ゾーン102内の所望されない音と弱め合い干渉するノイズ消去音声信号に変換される。Wadaptフィルタ126は、多入力多出力(multi-input multi-output、MIMO)有限インパルス応答(finite impulse response、FIR)フィルタなどの、任意の好適な線形フィルタとして実装され得る。Wadaptフィルタ126は、ノイズ消去信号118を定義し、かつ走行入力(又は非車両のノイズ消去の状況では、他の入力)に対する車両応答性の挙動の変化に適応するように調節され得る、一組の係数を用いる。
【0040】
係数の調節は、適応処理モジュール128によって実行され得る。これは、入力としてエラーセンサ信号120及びノイズ信号114を受信して、それらの入力を使用してフィルタ更新信号130を生成する。フィルタ更新信号130は、Wadaptフィルタ126に実装されたフィルタ係数に対する更新である。更新されたWadaptフィルタ126によって生成されたノイズ消去信号118は、エラーセンサ信号120を最小にし、その結果、消去ゾーン内の所望されない音を最小にする。
【0041】
時間ステップnでのWadaptフィルタ126の係数は、以下の方程式に従って更新することができる。
【0042】
【0043】
ここで
【数2】
は、アクチュエータ110とノイズ消去ゾーン102との間の物理的伝達関数の推定値であり、
【数3】
は、
【数4】
の随伴行列であり、eはエラー信号であり、xは、基準センサ106の出力信号である。更新方程式では、基準センサの出力信号xは、xのノルムで除算され、
【数5】
として表される。
【0044】
本出願では、フィルタの総数は、基準センサ(M)の数にスピーカ(N)の数を乗算したものにほぼ等しい。各基準センサ信号は、N回フィルタリングされ、次に、各スピーカ信号が、合計M個の信号として取得される(各センサ信号は、対応するフィルタによってフィルタリングされる)。
【0045】
発散検出器300は、以下で詳細に説明するように、エラーセンサ信号120及びノイズ消去信号118を受信し、それらの入力を使用して、ロードノイズ消去システム100が発散している可能性が高いかどうか、又は不安定である可能性が高いかどうかを判定する。ロードノイズ消去システム100は、その対策に応答して、発散又は不安定性を緩和するための是正措置を取ることができる。発散検出器300は、適応システムによって最小化すべきエラーセンサ信号120の成分の電力を監視することによって、発散及び/又は不安定性を検出することができる。例えば、ロードノイズ消去システム100の文脈では、ロードノイズと相関するエラー信号120の成分の電力は小さいままであるべきである。ロードノイズに相関するエラー信号120の成分の電力が増大し始めた場合、適応フィルタWadaptフィルタ126が発散していると判定することができる。
【0046】
上で説明されるように、ロードノイズ消去システム100の例では、基準センサ106は、乗客によってロードノイズとして知覚される車両構造内の振動を検出するように位置付けることができ、エラーセンサ108は、車室内の全てのノイズ又は車室内のノイズのサブセット(例えば、特定の消去ゾーン内及び特定の周波数範囲内に入るノイズ)を検出するように位置付けることができる。この例では、エラーセンサ108は、ロードノイズの結果ではない、例えば、車室内で再生される音楽、車室内の乗客の会話、車両を通過する風などの車両構造の振動の結果ではない、車室内の付加的なノイズを検出する。したがって、y(n)は、その成分の和として次のように表すことができる。
【0047】
【0048】
ここで、本開示の目的のために、ya(n)は、ロードノイズに相関するエラーセンサ信号の成分であり、yresi(n)は、ロードノイズと相関しない残留成分である。
【0049】
ロードノイズと相関するエラーセンサ信号120の成分ya(n)を任意の数の方法で推定することができる。しかしながら、エラーセンサ信号120をノイズ消去信号118と相関させることによってこの値を推定することは特に効率的である。ノイズ消去信号118は、車室内のノイズを消去するように既に構成されており、したがって、位相シフトされたロードノイズ成分の推定値であるので、ロードノイズと相関するエラーセンサ信号120のうちの成分ya(n)は、ノイズ消去信号118と大きく相関する。したがって、発散検出器は、エラーセンサ信号120をノイズ消去信号118と相関させることによって、ロードノイズと相関したエラーセンサ信号120の成分ya(n)を推定することができる。代替例では、エラーセンサ信号120をノイズ消去信号118と相関させるのではなく、基準センサ信号114と相関させて、ロードノイズと相関したエラーセンサ信号120の成分ya(n)を推定することができる。本開示の目的のために、ロードノイズと相関するエラーセンサ信号120の推定成分は、「エラー信号成分」と称される。エラー信号成分を任意の数の可能な方法で判定することができることが理解されよう。
【0050】
エラー信号成分が推定されると、いくつかの方法のうちの少なくとも1つを使用して、発散又は不安定性の発生を検出することができる。1つのそのような方法は、エラー信号成分の電力を経時的に監視して、電力が増加するか又は減少するかどうかを判定することである。この場合も、上で説明されるように、ノイズ消去システムの対象とするノイズの電力は、概して、経時的に減少するか、又は比較的一定のままであるべきである。エラー信号成分の電力が増大し始めた場合、適応フィルタが発散した証拠である。したがって、エラー信号成分の時間勾配、又はこの時間勾配に関連する何らかのメトリックを経時的に監視して、適応フィルタが発散したかどうかを判定することができる。
【0051】
しかしながら、このように時間勾配を監視すると、急速に増大する発散を見落とす可能性がある。そのような発散は、適応フィルタを急速に飽和させる可能性があり、したがって、エラーセンサ構成要素の時間勾配電力は、ゼロになる前に短時間の間、正である。一旦適応フィルタが飽和すると、時間勾配は一定のままであるので、発散を検出するための第1の方法は、発散を記録することができない可能性がある。したがって、発散を検出する第2の方法をフェイルセーフとして使用することができる。
【0052】
一例では、第2の方法は、複数の周波数にわたるエラー信号成分の相対電力を判定することができる。別の言い方をすれば、発散の事例では、少なくとも1つの周波数ビンにおけるエラー信号成分の電力は、少なくとも1つの他の周波数ビンにおける電力よりもはるかに大きくなる。この場合、発散は、1つ以上の他の周波数ビンに対する各周波数ビンにおける電力の相対的な大きさを監視することによって検出することができる。例えば、エラー信号成分の各周波数ビンを1つ以上の他の周波数ビンと個別に比較して、各周波数ビンが他の周波数ビンの電力をある所定の値を超えるかどうかを調べることができる。この相対電力は、発散が発生したことを通知する前に、ある期間にわたって監視することができる。
【0053】
上記の方法のうちの少なくとも1つに従って発散が検出された場合、発散の影響を軽減し、適応フィルタを収束して安定した状態に戻すことを試みるために、少なくとも1つの処置を講じることができる。そのような方法の1つは、適応フィルタの係数を以前に記憶された係数のセットに遷移させることである。以前に記憶された係数のセットは、最近記憶された係数のセットであり得るか、又はデフォルト係数のセットであり得る。以前に記憶された係数は発散していない可能性が高いので、この係数のセットを復元すると、発散を解決する可能性が最も高い。しかしながら、係数のセットを記憶する短い時間内に発散が発生するいくつかの事例では、直近に記憶された係数が破損している可能性が高いので、記憶された係数の最も最近のセットではなく、異なる係数のセット(例えば、デフォルトの係数のセット)を取り出し、実装することができる。ほとんどの場合、異なる係数のセットは、工場設定などのデフォルトの係数のセットであるが、車両の停止中若しくは始動時に記憶された係数、又は場合によっては、以前に記憶された係数の前のある時点で記憶された係数などの他の係数のセットを使用することができる。
【0054】
係数を復元することに加えて、第1の発散を引き起こした条件が依然として有効である場合に生じ得る第2の発散のリスクを低減するために、適応の速度を減速させることができる。実際、一例では、適応速度は、適応フィルタが固定フィルタになる点まで減速させることができる。しかしながら、発散が誤判定である場合(例えば、クラシック音楽においてしばしば見られる種類のトーナル音によって、第2の方法が偽発散を検出した場合)に適応を減速させることを回避するために、発散が検出された周波数ビンを遷移の後に監視することができる。周波数ビンの電力が減少した場合、検出された発散は実際の発散であったと仮定することができ、それに応じて適応速度を減速させることができる。しかしながら、周波数ビンの電力が減少しない場合、検出された発散は偽発散であったと仮定することができ、同じ適応速度を維持することができる。
【0055】
発散を検出し、かつ発散を軽減するこれらの方法及び他の方法については、
図3A~
図3Gに関連して以下でより詳細に考察する。
【0056】
この場合も、
図1及び
図2のノイズ消去システム100は、単にそのようなシステムの一実施例として提供されている。本システム、本システムの変形例、及び他の好適なノイズ消去システムを、本開示の範囲内で使用することができる。例えば、
図1~
図2のシステムは、最小二乗平均(least mean squares、LMS/NLMS)フィルタに関連して説明してきたが、他の実施例では、再帰最小二乗(recursive lease square、RLS)フィルタを実装したものなど、異なるタイプのフィルタを実装することができる。同様に、フィードバックを伴うノイズ消去システムについて説明したが、代替例では、そのようなシステムは、フィードフォワードトポロジを採用することができる。更に、ロードノイズを消去するための、車両に実装したノイズ消去システムを説明してきたが、任意の好適なノイズ消去システムを使用することができる。
【0057】
図3A~
図3Gは、ノイズ消去システム100などの適応システムにおける発散を検出するための方法300のフローチャートを描写する。上で説明されるように、この方法は、コントローラ112などのコンピューティングデバイスによって実装することができる。概して、コンピュータ実装方法のステップは、非一時的記憶媒体に記憶され、コンピューティングデバイスのプロセッサによって実行される。しかしながら、ステップのうちの少なくともいくつかは、ソフトウェアによってではなく、ハードウェアにおいて実行することができる。
【0058】
まず
図3Aを参照すると、ステップ302において、所定の容積部内のノイズを消去するように構成されたノイズ消去信号が受信される。例えば、このノイズ消去信号は、(
図1に関連して上記の例で説明されるように)車両車室内の少なくとも1つの消去ゾーン内のノイズを消去するように構成することができる。別の例では、ノイズ消去システムがノイズ消去ヘッドフォンの対において採用される場合、このノイズ消去信号は、ユーザの耳の周りに配置されたヘッドフォンのイヤーカップによって生成される事前定義されている音量のノイズを消去するように構成することができる。
【0059】
ステップ304において、事前定義された容積部内の残留ノイズを表すエラー信号が受信される。このエラー信号は、エラーセンサ信号120を生成するエラーセンサ108などのエラーセンサから受信されるエラー信号とすることができる。代替的に、このエラー信号は、ノイズ消去ヘッドフォンの対内に配置されたエラーマイクロフォンからのエラー信号などの、容積部内の残留(すなわち、消去されていない)ノイズを検出するように構成されている任意のエラーセンサから受信され得る。更に、2つ以上のエラー信号を受信することができる。例えば、複数のエラーセンサを車両車室内に配置することができる。これらのエラー信号は、個別に使用することができ(例えば、以下で説明する方法ステップは、受信されたエラー信号ごとに繰り返すことができる)、又はエラー信号を何らかの方法で組み合わせて、複合エラー信号(本開示の目的のために、この場合も「エラー信号」とみなされる)を生成することができる。一例では、エラー信号は、平均化することによって組み合わせることができる。しかしながら、複数のエラー信号を組み合わせる他の方法を使用することができると考えられる。別の例では、方法300の所与の反復についての複数のエラー信号から1つのエラー信号を選択することができる。例えば、以下に説明するように、方法300の所与の実行に関する複数のエラー信号から所与の周波数についての最大電力値を選択することができる。
【0060】
ステップ306において、ノイズ消去信号と相関する第1の周波数におけるエラー信号の電力が判定される。上で説明されるように、これは、エラー信号成分を判定する効率的な方法であり、エラー信号成分は、ノイズ消去システムによって低減されるノイズと相関するエラー信号の成分の推定値である。相関は、ノイズ消去信号を基準信号として使用する最小二乗平均アルゴリズムにエラー信号を入力することなど、任意の好適な方法によって達成することができる。第1の周波数におけるエラー信号成分の電力を判定するには、周波数の関数としてエラー信号成分の絶対値をもたらす周波数変換アルゴリズムに相関信号を入力することができる。離散フーリエ変換、高速フーリエ変換、離散コサイン変換などの任意の好適な周波数変換アルゴリズムを使用することができる。もちろん、上記で特定したような周波数変換アルゴリズムを使用すると、2つ以上の周波数でエラー信号成分の電力が得られる可能性が高いが、このうちの1つの周波数を、方法300の残りのステップについての「第1の周波数」(すなわち、試験中の周波数)として選択することができる。残りの周波数(すなわち、「第1の周波数」として選択されなかった周波数)は、方法300の同時又は反復ループにおいて「第1の周波数」として選択できることを理解されたい。別の言い方をすれば、方法300は、周波数ごとに、又は周波数変換アルゴリズムから特定された周波数のサブセットに対して繰り返すことができる。上で言及されるように、複数のエラー信号が複数のエラーセンサから受信される場合、各エラー信号についてエラーセンサ構成要素の電力を特定することができ、第1の周波数の最大電力値を、方法300の残りのステップの目的のために第1の周波数における電力として選択することができる。
【0061】
ステップ308において、第1の周波数におけるエラー信号成分の電力を、ローパスフィルタを用いて電力をフィルタリングすることによって平滑化することができる。数学的には、信号の電力スペクトルは、信号の周波数変換の期待値に従って特定される。期待値を特定する実際的な方法は、ローパスフィルタを使用することである。このステップは、典型的には、フィルタが数学関数に従って履歴値に関してエラー信号成分の電力を平滑化するので、第1の周波数(すなわち、前のサンプルからの周波数)におけるエラー信号成分の電力の少なくとも1つの履歴値をローパスフィルタに入力できると仮定する。代替例では、バッファされた履歴値のセットにわたる指数移動平均を使用するなど、他の平滑化技法を使用して、期待値を特定することができる。様々な代替例では、平滑化を省略することができ、平滑化されていない値を以下のステップで使用することができることを理解されたい。ステップ308の平滑化された出力は、発散を検出する少なくとも2つの別個の方法に入力することができ、これらは
図3において分岐A及びBとして表されている。
【0062】
まず分岐Aを参照すると、ステップ310において、エラー信号成分の電力の時間勾配が判定される。別の言い方をすれば、時間勾配は、以前に計算されたエラー信号成分の電力からのエラー信号成分(平滑化されたエラー信号成分とすることができる)の電力の変化である。
【0063】
ステップ312において、ある期間にわたるエラー信号成分の電力の時間勾配に基づくメトリックを閾値と比較することができる。一例では、メトリックは、サブステップ314及び/又は316に従って判定することができる。ステップ314において、各時間勾配は、時間勾配が正であるか、変化なしであるか、又は負であるかに従って、それぞれ-1、0、又は1の値によって特徴付けられる。したがって、ステップ314は、連続するサンプル間の変化の大きさを無視し、時間勾配の方向のみを残す。したがって、大きい変化は小さい変化と同様に扱われる。これは、エラー信号の急速な遷移に起因する電力の急上昇を平滑化するように更に動作する。ステップ316において、特徴付けられた時間勾配は、ローパスフィルタを使用して少なくとも1つの履歴値に関して平滑化され、ローパスフィルタのカットオフ周波数は、「第1の周波数」の周波数に従って選択される。例えば、各々が別個のカットオフ周波数を有する複数のローパスフィルタを、周波数値の別個の帯域に使用することができる。ステップ316に使用される複数のフィルタのうちのローパスフィルタは、第1の周波数の値に従って判定することができる。履歴値に関して特徴付けられた時間勾配を平滑化すると、発散の証拠ではなく異常な遷移であり得る、第1の周波数における電力の急上昇を緩和するのに役立つ一方で、依然として、2つ以上のサンプルにわたって持続する急上昇が検出される。
【0064】
ステップ314及び316の結果はメトリックであり、メトリックの値は、ある期間にわたる時間勾配の傾向を表す。メトリックの値が0より大きい場合、第1の周波数におけるエラー信号成分の電力は、上昇傾向にある(すなわち、概して増加する)。一方、メトリックの値が0未満である場合、第1の周波数におけるエラー信号成分の電力は、下降傾向にある(すなわち、概して減少する)。このメトリックの値を閾値と比較することができる。したがって、エラー信号成分の電力がある期間にわたって上昇する傾向があるとき、メトリックの値は閾値を超え、このことは、検出された発散を表す。
【0065】
代替例では、ある期間にわたるエラーセンサ構成要素の時間勾配の値に基づく異なるメトリックを使用することができることを理解されたい。例えば、ローパスフィルタを使用して特徴付けられた時間勾配を平滑化するのではなく、特徴付けられた時間勾配のバッファされた履歴値の指数移動平均などの他の平滑化方法を使用することができる。しかしながら、より低い周波数における傾向を監視するには、値のより大きいバッファをより高い周波数に一致させる必要があり、メモリ負荷が高いので、ローパスフィルタを値に適用する方がより効率的である。別の例では、時間勾配を-1、0、又は1などの値によって特徴付ける必要はない。代わりに、時間勾配の大きさを直接平滑化することができる。しかしながら、値を特徴付けることができないと、発散検出器は、エラー信号成分の電力が急激に遷移することによる誤判定の影響をより受けやすくなる可能性が高くなる。
【0066】
次に分岐Bを参照すると、発散を検出するための第2の方法が示されている。上で説明されるように、分岐Aに関連して説明した方法で時間勾配を監視すると、急速に増大する発散を見落とす可能性がある。その理由は、そのような発散が適応フィルタを急速に飽和させ、したがって一定電力のように見える可能性があるからである。しかしながら、そのような急速な発散は、ある周波数では適応フィルタを飽和させるが、他の周波数では飽和させない可能性が高い。したがって、分岐Bは、少なくとも第2の周波数ビンの電力に対する第1の周波数ビンの相対電力を監視して、適応フィルタが急速に発散したときを判定する。
【0067】
ステップ318において、少なくとも第2の周波数におけるエラー信号成分の電力が判定される。このステップは、エラー信号成分が周波数変換アルゴリズムに入力されるときにステップ306と同時に行われる可能性が高いが、完全性及び明瞭性のために別個のステップとして
図3Dに含まれている。(しかしながら、第1の周波数及び第2の周波数におけるエラー信号成分の電力の値は、別々の時間に判定され得ることが考えられる。)
【0068】
ステップ320において、第1の周波数におけるエラー信号成分の電力と第2の周波数におけるエラー信号成分の電力との比較に基づく第2のメトリックを第2の閾値と比較することができる。第2のメトリックは、一例では、サブステップ322及び/又は324によって与えられ得る。ステップ322において、少なくとも第2の周波数におけるエラー信号成分に対する第1の周波数におけるエラー信号成分の相対電力は、第1の周波数のエラー信号成分の電力が少なくとも第2の周波数のエラー信号成分の電力をある閾値(例えば、0.15)だけ超えるかどうかに応じて、0又は1の値で特徴付けられる。したがって、相対電力は、第1の周波数のエラー信号成分の電力が少なくとも第2の周波数のエラー信号成分の電力を閾値より大きい値だけ超える場合には1で特徴付けられ、第1の周波数のエラー信号成分の電力が少なくとも第2の周波数のエラー信号成分の電力を超えない場合には0で特徴付けられる。
【0069】
一般的に言えば、「相対電力」は、それぞれの周波数ビンの電力の任意の好適な比較によって与えられ得る。例えば、相対電力は、以下のように、第1の周波数ビンの電力と第1の周波数ビン及び第2の周波数ビンの電力の合計との比によって与えられ得る。
【0070】
【0071】
ここで、prelativeは、第1の周波数ビンと第2の周波数ビンとの間の相対電力であり、p1は、第1の周波数ビンの電力であり、p2は、第2の周波数ビンの電力である。代替的に、相対電力は、第1の周波数ビンの電力と第2の周波数ビンの電力との間の単純な差によって与えられ得る。
【0072】
第1の周波数におけるエラー信号成分の電力は、2つ以上の他の周波数値におけるエラー信号成分の電力と様々な方法で比較することができる。例えば、第1の周波数におけるエラー信号成分の電力を複数の他の周波数(例えば、隣接する周波数値又は代表的な周波数のセット)におけるエラー信号成分と個々に比較することができる。第1の周波数におけるエラー信号成分の電力が、任意の他の比較される周波数におけるエラー信号成分の電力を事前定義されている閾値だけ超える場合、相対電力は、1として特徴付けられる。代替的に、複数の周波数値における電力の平均化するか、又は複数の周波数値における電力を他の方法で組み合わせて第1の周波数値における電力と比較することができる。第1の周波数における電力が複数の他の周波数値の複合電力を事前定義されている閾値だけ超える場合、第1の周波数における電力が少なくとも第2の周波数における電力を必然的に超えるので、相対電力は1で特徴付けられる。
【0073】
ステップ316と同様に、ステップ324において、ステップ322の特徴付けられた相対電力は、ローパスフィルタによって、特徴付けられた相対電力の少なくとも1つの履歴値を用いて平滑化され、ローパスフィルタのカットオフ周波数は、第1の周波数の値によって判定される。ステップ322及び324の正味の結果は、第2のメトリックであり、第2のメトリックの値は、第1の周波数におけるエラー信号成分と少なくとも第2の周波数におけるエラー信号成分との間の相対電力のある期間にわたる傾向を表す。第1の周波数のエラー信号成分の電力が複数のサンプルにわたって繰り返し閾値を超えると、第2のメトリックの値が0を上回って上昇する。第2のメトリックの値は、閾値(例えば、0.25)と比較することができ、閾値を超えたときに検出された発散を表す。
【0074】
代替例では、ある期間にわたる相対電力に基づく異なるメトリックを使用することができることを理解されたい。例えば、ローパスフィルタを使用して特徴付けられた相対電力を平滑化するのではなく、エラー信号成分の電力のバッファされた履歴値の指数移動平均などの他の平滑化方法を使用することができる。別の例では、相対電力を0又は1などの値で特徴付ける必要はない。代わりに、相対電力値を直接平滑化し、閾値と比較することができる。しかしながら、値を特徴付けることができないと、この場合も、発散検出器は、エラー信号成分の電力における急速な遷移による誤判定の影響をより受けやすくなる可能性が高くなる。
【0075】
更に、ステップ314及び322が、-1、0、若しくは1の値、又は0若しくは1の値を用いて値を特徴付けることを表す限りにおいて、これらは、使用され得る例示的な値として提供されるにすぎない。当業者には、本開示の検討と併せて、時間勾配又は相対電力を特徴付ける同じ概念を維持しながら、他の値を使用することができることが理解されよう。
【0076】
分岐A及び分岐Bは両方ともステップ326に進み、前の分岐によって検出された発散を補正するための処置を開始する。分岐A及び分岐Bは、発散を検出するための方法の例にすぎず、本明細書で説明する緩和処置を、発散を検出する他の方法に併せて使用することができることを理解されたい。実際、いくつかの例では、分岐A又は分岐Bの一方のみを実装することができる。代替的に、分岐A又は分岐Bの一方を、発散を検出する別の方法に関連して使用することができる。更に別の例では、分岐A又は分岐Bにおいて説明した方法の一方を使用せずに、発散を検出する異なる方法を使用することができる。
【0077】
ステップ326において、分岐A又は分岐Bのいずれかによって(又は発散を検出する別の方法から)発散が検出されたときに、検出された発散を引き起こした可能性が高い適応フィルタの係数が、以前に記憶された第2の係数のセットに遷移される。一例では、遷移は、ユーザが遷移に気付かないように、複数のサンプルにわたって生じ得る。しかしながら、このことは必須ではなく、一例では、遷移は、次のサンプルが受信される前に生じ得る。以前に記憶された係数は、デフォルトの係数のセットとすることができ、発散の前の適応フィルタの動作中に記憶することができる。例えば、発散の前の適応フィルタの動作中に、係数を所定の又は可変の時間間隔で記憶することができる。発散が検出されると、直近に記憶された係数のセットを取り出し、そのセットに遷移させることができる。発散のほとんどの事例では、これは、発散が継続するのを阻止し、安定した、収束した係数のセットに係数をリセットする。
【0078】
以前に記憶された係数のセットへの遷移に加えて、ステップ328において、第1の発散を引き起こした条件が依然として有効である場合に発生し得る第2の発散のリスクを低減させるために、適応フィルタの適応速度を減速させることができる。実際、一例では、適応速度を適応フィルタが固定フィルタになる点まで減速させることができる。しかしながら、いくつかの事例では、検出された発散は、誤判定である可能性がある(すなわち、真の発散を示さない)。これは、特に、車両内のスピーカを通してトーナル音が再生される場合に起こり得る。このことは、例えば、トーナル音をしばしば特徴とするクラシック音楽が車室内で再生されるときに生じることが多い。そのようなトーナル音は、エラー信号内のいくつかの周波数を励起する傾向があり、したがって、分岐Bに関連して説明した方法に対して発散が生じたように見える。適応測度を不必要に減速させることを回避するために、(発散が検出された)第1の周波数を第2の係数への遷移後又は遷移中のある期間にわたって監視し、第1の周波数における電力が減少するかどうかを確認することができる。第1の周波数における電力が、第2の係数のセットへの遷移後又は遷移中に減少する場合、発生した発散が真の発散であった(すなわち、誤判定ではなかった)と仮定することができ、適応速度を減速させることができる。しかしながら、第1の周波数における電力が第2の係数のセットへの遷移後又は遷移中に減少しない場合、発散が誤判定であったと仮定することができ、同じ適応速度を維持することができる。
【0079】
第1の周波数(すなわち、このステップで発散をトリガした被試験周波数)の電力が遷移後又は遷移中に減少するかどうかを判定するために、第1の周波数の時間勾配を遷移中又は遷移が完了した後に監視することができる。このことはサブステップ332及び334として示されており、上で説明されるステップ310及び312を反映している。一般的に言えば、第1の周波数におけるエラー信号成分の時間勾配の値に基づくメトリックを閾値と比較して、この周波数における電力が時間とともに減少しているかどうかを判定することができる。閾値は、この事例では、第1の周波数の電力が減少しており、したがって閾値が負(例えば、-0.8)であることを検出し、平滑化された特徴付けられた時間勾配が下降傾向にあるときを検出する。(しかしながら、負の時間勾配値は、例えば、-1を乗算することによって正の値に単純に変換することができ、したがって、正の閾値と比較することができることを理解されたい。)閾値を超えた場合、遷移後又は遷移中に電力が減少し、したがって真の発散が生じた可能性が高いと判断することができ、適応速度を減速させることができる。しかしながら、設定された期間の後に閾値を超えない場合、誤判定である可能性が高く、同じ適応速度が維持される。
【0080】
図3Fのステップ330は、以前に記憶された係数の最後のセットを記憶してから所定の時間内に発散が検出された場合に実施される、ステップ326の代替を表す。例えば、係数が適応システムの動作中に間隔を置いて記憶される場合、タイマを設定して、係数のセットが記憶された時点から経過した時間の長さを判定することができる。発散が発生すると、タイマを所定の時間の長さと比較することができる。係数の最後のセットが記憶された時点から所定の時間内に発散が発生した場合、記憶された係数の最後のセットが破損している可能性が高い。したがって、ステップ330において、適応フィルタを第3の係数のセットに遷移させることができる。第3の係数のセットは、デフォルト係数、又は第2の係数のセットを記憶する前に記憶されており、安定して収束している可能性が高い係数とすることができる。
【0081】
ステップ330は、ステップ326が直近に記憶された係数のセットを復元する例において実装できることが理解されよう。代わりに、ステップ326がデフォルトの係数のセットを復元する場合、記憶された係数が十分に安定である可能性が高いかどうかをチェックする必要はない。
【0082】
上で説明される発散を補正する方法は、本開示で説明する発散を検出する方法と併せて使用することができるような方法の一例にすぎない。様々な例では、説明する是正措置と併せて、又はその代わりに取ることができる是正措置は、適応システムをオフにするか、又は発散している適応フィルタの特定の周波数を、それらの周波数の利得を軽減するためにフィルタリングするか、それらの周波数に対して適応フィルタ係数を低減させるか、若しくはそれらの周波数に対応する適応を制限することによって、それらの周波数を対象とすることを含む。
【0083】
上で説明されるように、方法300のステップは、複数の周波数値について繰り返すことができる(「第1の周波数」の値は、各反復において変更される)。更に、方法300のステップを経時的に、新しいサンプルがエラーセンサから受信されるときに繰り返して、発散を継続的に監視することができる。したがって、方法300は、適応フィルタの動作中に発散を検出することができるループとして働く。
【0084】
本明細書に説明される機能又はその部分、及びその様々な修正(以下「機能」)は、少なくとも部分的に、コンピュータプログラム製品(例えば、1つ以上のデータ処理装置、例えば、プログラム可能プロセッサ、コンピュータ、複数のコンピュータ、及び/若しくはプログラム可能論理構成要素による実行のための、又はその動作を制御するための、1つ以上の非一時的機械可読媒体又は記憶デバイスなどの情報キャリアにおいて有形に具現化されたコンピュータプログラム)を介して実装され得る。
【0085】
コンピュータプログラムは、コンパイル型言語又はインタプリタ型言語を含む任意の形態のプログラム言語で書き得るが、それは、独立型プログラムとして、又はコンピューティング環境での使用に好適なモジュール、構成要素、サブルーチン若しくは他のユニットとして含む任意の形態で配設され得る。コンピュータプログラムは、1つのコンピュータ上で、若しくは1つの設置先における複数のコンピュータ上で実行されるように配設され得るか、又は複数の設置先にわたって配信されて、ネットワークによって相互接続され得る。
【0086】
機能の全部又は一部を実装することと関連した動作は、較正プロセスの機能を実施するために1つ以上のコンピュータプログラムを実行する1つ以上のプログラム可能なプロセッサによって、実施され得る。機能の全部又は一部は、特殊目的論理回路、例えば、FPGA及び/又はASIC(特定用途向け集積回路)として実装され得る。
【0087】
コンピュータプログラムの実行に好適なプロセッサとしては、例として、汎用マイクロプロセッサ及び特殊目的マイクロプロセッサの両方並びに任意の種類のデジタルコンピュータの任意の1つ以上のプロセッサが挙げられる。一般的に、プロセッサは、読取り専用メモリ、ランダムアクセスメモリ、又はその両方から命令及びデータを受信することになる。コンピュータの構成要素は、命令を実行するためのプロセッサ並びに命令及びデータを記憶するための1つ以上のメモリデバイスを含む。
【0088】
本明細書において、いくつかの本発明の実施形態について説明及び例解してきたが、当業者であれば、様々な他の手段及び/若しくは機能の実行及び/若しくは結果を得るための構造、並びに/又は本明細書に説明される1つ以上の利点を容易に想起し、こうした変更形態及び/又は修正の各々は、本明細書に説明される本発明の実施形態の範囲内にあるとみなされる。より一般的には、当業者であれば、本明細書に説明されるパラメータ、寸法、材料及び構成の全てが例示的であること、実際のパラメータ、寸法、材料、及び/又は構成が、具体的な用途又は本発明の教示が使用される用途に依存するであろうことを、容易に理解するであろう。当業者であれば、本明細書に説明される具体的な本発明の実施形態に対する多くの同等物を、通常の実験のみを使用して認識するか、又は確認することができるであろう。したがって、前述の実施形態は、単なる例として提示されたものであり、添付の特許請求の範囲及びその等価物の範囲内で、具体的に記載及び特許請求されるものとは別様に本発明の実施形態を実践することができるということを理解されたい。本開示の本発明の実施形態は、本明細書に説明される各個々の特徴、システム、物品、材料、及び/又は方法に関する。更に、2つ以上のこうした特徴、システム、物品、材料及び/又は方法のいかなる組む合わせも、こうした特徴、システム、物品、材料及び/又は方法が相互に矛盾しない場合、本開示の発明の範囲内に含まれる。
【符号の説明】
【0089】
108 エラーセンサ
110 アクチュエータ
112 コントローラ
114 ノイズ信号
120 エラーセンサ信号
126 Wadaptフィルタ
128 適応処理モジュール