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  • 特許-立方晶窒化硼素焼結体および工具 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-02-10
(45)【発行日】2025-02-19
(54)【発明の名称】立方晶窒化硼素焼結体および工具
(51)【国際特許分類】
   C04B 35/5831 20060101AFI20250212BHJP
   C04B 35/5835 20060101ALI20250212BHJP
【FI】
C04B35/5831
C04B35/5835
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2024573997
(86)(22)【出願日】2024-09-02
(86)【国際出願番号】 JP2024031457
【審査請求日】2024-12-17
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】503212652
【氏名又は名称】住友電工ハードメタル株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000002130
【氏名又は名称】住友電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】佐近 亮輔
(72)【発明者】
【氏名】岸田 侑也
(72)【発明者】
【氏名】川村 侑生
(72)【発明者】
【氏名】松田 裕介
(72)【発明者】
【氏名】阿部 真知子
(72)【発明者】
【氏名】諸口 浩也
(72)【発明者】
【氏名】石井 顕人
【審査官】田中 永一
(56)【参考文献】
【文献】特開2000-044347(JP,A)
【文献】特開2018-052781(JP,A)
【文献】国際公開第2020/175598(WO,A1)
【文献】国際公開第2021/024737(WO,A1)
【文献】国際公開第2022/004530(WO,A1)
【文献】国際公開第2022/168655(WO,A1)
【文献】特表2008-517868(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 35/583 - 35/5835
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
40体積%以上80体積%以下の立方晶窒化硼素粒子と、20体積%以上60体積%以下の結合相と、を備える立方晶窒化硼素焼結体であって、
前記立方晶窒化硼素粒子の平均粒径dは、0.1μm以上3μm以下であり、
前記結合相は、
周期表の4族元素、5族元素、6族元素、およびアルミニウムからなる第1群より選択される1種の元素の単体、前記第1群より選択される2種以上の元素からなる合金、ならびに前記第1群より選択される2種以上の元素からなる金属間化合物、からなる第2群より選択される少なくとも1種、または、
前記第1群より選択される少なくとも1種の元素と、窒素、炭素、硼素、および酸素からなる第3群より選択される少なくとも1種の元素と、からなる第1化合物および前記第1化合物由来の固溶体からなる第4群より選択される少なくとも1種、を含み、
前記立方晶窒化硼素焼結体の断面において、前記立方晶窒化硼素粒子の面積率の変動係数Zは、0.25以下であり、
前記変動係数Zは、前記立方晶窒化硼素焼結体の断面を走査型電子顕微鏡で5000倍で撮像して得られる反射電子像の二値化処理後の画像中に、一辺が前記立方晶窒化硼素粒子の平均粒径dの2倍の長さである正方形の単位領域を合計260個設け、前記合計260個の前記単位領域に基づき、前記単位領域のそれぞれにおける前記立方晶窒化硼素粒子の面積率の標準偏差および前記面積率の平均を算出し、前記標準偏差を前記平均で除することにより得られる、立方晶窒化硼素焼結体。
【請求項2】
前記立方晶窒化硼素粒子の平均粒径dは、0.1μm以上2μm以下である、請求項1に記載の立方晶窒化硼素焼結体。
【請求項3】
前記立方晶窒化硼素焼結体における前記立方晶窒化硼素粒子の含有率は、60体積%以上70体積%以下であり、
前記立方晶窒化硼素焼結体における前記結合相の含有率は、30体積%以上40体積%以下である、請求項1または請求項2に記載の立方晶窒化硼素焼結体。
【請求項4】
前記結合相は、窒化チタン、硼化チタン、窒化アルミニウム、および酸化アルミニウムからなる群より選択される少なくとも1種を含む、請求項1または請求項に記載の立方晶窒化硼素焼結体。
【請求項5】
前記立方晶窒化硼素焼結体の前記立方晶窒化硼素粒子および前記結合相の合計含有率は、99体積%以上である、請求項1または請求項に記載の立方晶窒化硼素焼結体。
【請求項6】
請求項1または請求項に記載の立方晶窒化硼素焼結体を含む、工具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、立方晶窒化硼素焼結体および工具に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、立方晶窒化硼素焼結体が、切削工具などの工具の素材に利用されている(特許文献1~特許文献3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2000-44347号公報
【文献】特開2002-302732号公報
【文献】特開2013-234335号公報
【発明の概要】
【0004】
本開示の立方晶窒化硼素焼結体は、40体積%以上80体積%以下の立方晶窒化硼素粒子と、20体積%以上60体積%以下の結合相と、を備える立方晶窒化硼素焼結体であって、該立方晶窒化硼素粒子の平均粒径dは、0.1μm以上3μm以下であり、該結合相は、周期表の4族元素、5族元素、6族元素、およびアルミニウムからなる第1群より選択される1種の元素の単体、該第1群より選択される2種以上の元素からなる合金、ならびに該第1群より選択される2種以上の元素からなる金属間化合物、からなる第2群より選択される少なくとも1種、または、該第1群より選択される少なくとも1種の元素と、窒素、炭素、硼素、および酸素からなる第3群より選択される少なくとも1種の元素と、からなる第1化合物および該第1化合物由来の固溶体からなる第4群より選択される少なくとも1種、を含み、該立方晶窒化硼素焼結体の断面において、該立方晶窒化硼素粒子の面積率の変動係数Zは、0.25以下であり、該変動係数Zは、該立方晶窒化硼素焼結体の断面を走査型電子顕微鏡で5000倍で撮像して得られる反射電子像の二値化処理後の画像中に、一辺が該立方晶窒化硼素粒子の平均粒径dの2倍の長さである正方形の単位領域を合計260個設け、該合計260個の該単位領域に基づき、該単位領域のそれぞれにおける該立方晶窒化硼素粒子の面積率の標準偏差および該面積率の平均を算出し、該標準偏差を該平均で除することにより得られる。
【図面の簡単な説明】
【0005】
図1図1は、立方晶窒化硼素焼結体の一断面の反射電子像(第1画像)を二値化処理することにより得られる画像(第2画像)における、合計260個の単位領域を示すイメージ図である。
【発明を実施するための形態】
【0006】
[本開示が解決しようとする課題]
近年、強断続切削加工の要求がますます高まっている。その為、特に強断続切削加工用の切削工具の材料として用いられる場合においても、工具の長寿命化を可能とする立方晶窒化硼素焼結体が求められている。
【0007】
そこで、本開示は、特に強断続切削加工用の切削工具の材料として用いられる場合においても、工具の長寿命化を可能とする立方晶窒化硼素焼結体と、該立方晶窒化硼素焼結体を含む工具と、を提供することを目的とする。
【0008】
[本開示の効果]
本開示によれば、特に強断続切削加工用の切削工具の材料として用いられる場合においても、工具の長寿命化を可能とする立方晶窒化硼素焼結体と、該立方晶窒化硼素焼結体を含む工具と、を提供することが可能である。
【0009】
[本開示の実施形態の説明]
最初に本開示の実施態様を列記して説明する。
(1)本開示の立方晶窒化硼素焼結体は、40体積%以上80体積%以下の立方晶窒化硼素粒子と、20体積%以上60体積%以下の結合相と、を備える立方晶窒化硼素焼結体であって、前記立方晶窒化硼素粒子の平均粒径dは、0.1μm以上3μm以下であり、前記結合相は、周期表の4族元素、5族元素、6族元素、およびアルミニウムからなる第1群より選択される1種の元素の単体、前記第1群より選択される2種以上の元素からなる合金、ならびに前記第1群より選択される2種以上の元素からなる金属間化合物、からなる第2群より選択される少なくとも1種、または、前記第1群より選択される少なくとも1種の元素と、窒素、炭素、硼素、および酸素からなる第3群より選択される少なくとも1種の元素と、からなる第1化合物および前記第1化合物由来の固溶体からなる第4群より選択される少なくとも1種、を含み、前記立方晶窒化硼素焼結体の断面において、前記立方晶窒化硼素粒子の面積率の変動係数Zは、0.25以下であり、前記変動係数Zは、前記立方晶窒化硼素焼結体の断面を走査型電子顕微鏡で5000倍で撮像して得られる反射電子像の二値化処理後の画像中に、一辺が前記立方晶窒化硼素粒子の平均粒径dの2倍の長さである正方形の単位領域を合計260個設け、前記合計260個の前記単位領域に基づき、前記単位領域のそれぞれにおける前記立方晶窒化硼素粒子の面積率の標準偏差および前記面積率の平均を算出し、前記標準偏差を前記平均で除することにより得られる。
【0010】
本開示によれば、特に強断続切削加工用の切削工具の材料として用いられる場合においても、工具の長寿命化を可能とする立方晶窒化硼素焼結体と、該立方晶窒化硼素焼結体を含む工具と、を提供することができる。
【0011】
(2)上記(1)において、前記立方晶窒化硼素粒子の平均粒径dは、0.1μm以上2μm以下であってもよい。これによって、特に強断続切削加工用の切削工具の材料として用いられる場合においても、切削工具の工具寿命をより延長することを可能とする立方晶窒化硼素焼結体と、該立方晶窒化硼素焼結体を含む工具と、を提供することができる。
【0012】
(3)上記(1)または(2)において、前記立方晶窒化硼素焼結体における前記立方晶窒化硼素粒子の含有率は、60体積%以上70体積%以下であり、前記立方晶窒化硼素焼結体における前記結合相の含有率は、30体積%以上40体積%以下であってもよい。これによって、特に強断続切削加工用の切削工具の材料として用いられる場合においても、切削工具の工具寿命をより延長することを可能とする立方晶窒化硼素焼結体と、該立方晶窒化硼素焼結体を含む工具と、を提供することができる。
【0013】
(4)上記(1)から(3)のいずれかにおいて、前記結合相は、窒化チタン、硼化チタン、窒化アルミニウム、および酸化アルミニウムからなる群より選択される少なくとも1種を含んでもよい。これによって、特に強断続切削加工用の切削工具の材料として用いられる場合においても、切削工具の工具寿命をより延長することを可能とする立方晶窒化硼素焼結体と、該立方晶窒化硼素焼結体を含む工具と、を提供することができる。
【0014】
(5)上記(1)から(4)のいずれかにおいて、前記立方晶窒化硼素焼結体の前記立方晶窒化硼素粒子および前記結合相の合計含有率は、99体積%以上であってもよい。これによって、特に強断続切削加工用の切削工具の材料として用いられる場合においても、切削工具の工具寿命をより延長することを可能とする立方晶窒化硼素焼結体と、該立方晶窒化硼素焼結体を含む工具と、を提供することができる。
【0015】
(6)本開示の工具は、上述の(1)から(5)に記載の立方晶窒化硼素焼結体を含む。
【0016】
本開示によれば、特に強断続切削加工用の切削工具の材料として用いられる場合においても、工具の長寿命化を可能とする立方晶窒化硼素焼結体を含む工具を提供することができる。
【0017】
[本開示の実施形態の詳細]
本開示の一実施形態(以下、「本実施形態」とも記す。)の立方晶窒化硼素焼結体および工具の具体例を、以下に図面を参照しつつ説明する。本開示の図面において、同一の参照符号は、同一部分または相当部分を表すものである。また、長さ、幅、厚さ、深さなどの寸法関係は図面の明瞭化と簡略化のために適宜変更されており、必ずしも実際の寸法関係を表すものではない。
【0018】
本開示において「A~B」という形式の表記は、範囲の上限下限(すなわちA以上B以下)を意味し、Aにおいて単位の記載がなく、Bにおいてのみ単位が記載されている場合、Aの単位とBの単位とは同じである。
【0019】
本開示において化合物などを化学式で表す場合、原子比を特に限定しないときは従来公知のあらゆる原子比を含むものとし、必ずしも化学量論的範囲のもののみに限定されるべきではない。
【0020】
[実施形態1:立方晶窒化硼素焼結体]
本開示の一実施形態に係る立方晶窒化硼素焼結体について、図1を用いて説明する。図1は、立方晶窒化硼素焼結体の一断面の反射電子像(第1画像)を二値化処理することにより得られる画像(第2画像)における、合計260個の単位領域を示すイメージ図である。
【0021】
本開示の一実施形態(以下、「本実施形態」とも記す。)は、40体積%以上80体積%以下の立方晶窒化硼素粒子と、20体積%以上60体積%以下の結合相と、を備える立方晶窒化硼素焼結体であって、該立方晶窒化硼素粒子の平均粒径dは、0.1μm以上3μm以下であり、該結合相は、周期表の4族元素、5族元素、6族元素、およびアルミニウムからなる第1群より選択される1種の元素の単体、該第1群より選択される2種以上の元素からなる合金、ならびに該第1群より選択される2種以上の元素からなる金属間化合物、からなる第2群より選択される少なくとも1種、または、該第1群より選択される少なくとも1種の元素と、窒素、炭素、硼素、および酸素からなる第3群より選択される少なくとも1種の元素と、からなる第1化合物および該第1化合物由来の固溶体からなる第4群より選択される少なくとも1種、を含み、該立方晶窒化硼素焼結体の断面において、該立方晶窒化硼素粒子の面積率の変動係数Zは、0.25以下であり、該変動係数Zは、該立方晶窒化硼素焼結体の断面を走査型電子顕微鏡で5000倍で撮像して得られる反射電子像の二値化処理後の画像中に、一辺が該立方晶窒化硼素粒子の平均粒径dの2倍の長さである正方形の単位領域R1を合計260個設け、該合計260個の該単位領域R1に基づき、該単位領域R1のそれぞれにおける該立方晶窒化硼素粒子の面積率の標準偏差および該面積率の平均を算出し、該標準偏差を該平均で除することにより得られる。
【0022】
本開示によれば、特に強断続切削加工用の切削工具の材料として用いられる場合においても、工具の長寿命化を可能とする立方晶窒化硼素焼結体と、該立方晶窒化硼素焼結体を含む工具と、を提供することができる。その理由は、以下の通りと推察される。
【0023】
本実施形態の立方晶窒化硼素焼結体は、40体積%以上80体積%以下の立方晶窒化硼素粒子と、20体積%以上60体積%以下の結合相と、を備える立方晶窒化硼素焼結体であって、該立方晶窒化硼素粒子の平均粒径dは、0.1μm以上3μm以下であり、該立方晶窒化硼素焼結体の断面において、該立方晶窒化硼素粒子の面積率の変動係数Zは、0.25以下である。これによって、立方晶窒化硼素焼結体中において、立方晶窒化硼素粒子が十分に均一に分散して存在し易くなる。その結果として、「相対的に結合相が多く存在することにより欠損の起点となり易い領域」が生じ難くなる為、立方晶窒化硼素焼結体は優れた強度を有することができる。その為、本実施形態の立方晶窒化硼素焼結体は、特に強断続切削加工用の切削工具の材料として用いられる場合においても、工具の耐欠損性を向上し、工具の長寿命化を可能とする。
【0024】
≪立方晶窒化硼素焼結体の組成≫
立方晶窒化硼素焼結体は、40体積%以上80体積%以下の立方晶窒化硼素粒子を備える。立方晶窒化硼素粒子の含有率の下限は、耐欠損性向上の観点から、40体積%以上であり、50体積%以上であってもよく、60体積%以上であってもよい。立方晶窒化硼素粒子の含有率の上限は、焼結性向上の観点から、80体積%以下であり、75体積%以下であってもよく、70体積%以下であってもよい。立方晶窒化硼素粒子の含有率は、50体積%以上75体積%以下であってもよく、60体積%以上70体積%以下であってもよい。
【0025】
立方晶窒化硼素焼結体は、20体積%以上60体積%以下の結合相を備える。結合相の含有率の下限は、焼結性向上の観点から、20体積%以上であり、25体積%以上であってもよく、30体積%以上であってもよい。立方晶窒化硼素焼結体の結合相の含有率の上限は、耐欠損性向上の観点から、60体積%以下であり、50体積%以下であってもよく、40体積%以下であってもよい。立方晶窒化硼素焼結体の結合相の含有率は、25体積%以上50体積%以下であってもよく、30体積%以上40体積%以下であってもよい。
【0026】
立方晶窒化硼素焼結体において、立方晶窒化硼素粒子の含有率[体積%]と、結合相の含有率[体積%]とは、電解放出型走査型電子顕微鏡(FE-SEM)を用いて、立方晶窒化硼素焼結体に対し、組織観察を実施することによって確認することができる。具体的な測定方法は、下記の通りである。
【0027】
立方晶窒化硼素焼結体の任意の位置をイオンミリングにより切断し、該立方晶窒化硼素焼結体の断面を露出させ、該断面を研磨する。イオンミリングには、JEOL製の「CrossSectionPolisher」(CP)を用い、加速電圧は5.5kVとし、突き出し量は20μmとし、加工時間は5時間以上とする。立方晶窒化硼素焼結体の固定には、Cペーストなどの接着剤を用いてもよい。立方晶窒化硼素焼結体が工具の一部として用いられている場合は、立方晶窒化硼素焼結体の部分を、ダイヤモンド砥石電着ワイヤー等で切り出して、立方晶窒化硼素焼結体の断面を含む試料を露出させる。
【0028】
次に、断面をFE-SEMにて2,000倍~50,000倍で撮影することによりSEM画像を得る。次に、SEM画像に対し、画素数が1024×768であり、且つ、加速電圧が1.5kVである条件で半導体型反射電子検出器を用いることにより、反射電子像を得る。なお、反射電子像において、立方晶窒化硼素粒子が存在する領域は最も濃い黒色領域(0~255の範囲でいえば、60以下)となり、結合相が存在する領域は灰色領域または白色領域(0~255の範囲でいえば、100以上255以下)となる様に、ブライトネスコントラストを調整する。帯電が大きい場合は、断面に対し2~10nmの厚みの導電性コーティングを施してもよい。
【0029】
次に、反射電子像に対して画像解析ソフト(三谷商事(株)の「WinROOF 2018」)を用いて、立方晶窒化硼素粒子のみが抽出されるように二値化処理を行う。二値化の閾値はコントラストにより変化するため、画像ごとに設定する。二値化処理後の画像から、測定視野の面積に占める暗視野に由来する画素(立方晶窒化硼素粒子に由来する画素)の面積比率を算出する。算出された面積比率を体積%とみなすことにより、立方晶窒化硼素焼結体における立方晶窒化硼素粒子の含有率[体積%]を求めることができる。暗視野に由来する画素が立方晶窒化硼素粒子に由来することは、立方晶窒化硼素焼結体に対して、SEMに付帯するエネルギー分散型X線分光分析装置(EDX装置)による元素分析を行うことにより確認することができる。
【0030】
二値化処理後の画像から、測定視野の面積に占める明視野に由来する画素(結合相に由来する画素)の面積比率を算出することにより、立方晶窒化硼素焼結体における結合相の含有率[体積%]を求めることができる。明視野に由来する画素が結合相に由来することは、立方晶窒化硼素焼結体に対して、SEMに付帯するEDX装置による元素分析を行うことにより確認することができる。
【0031】
上記の立方晶窒化硼素粒子および結合相の面積百分率の測定を、互いに重複しない5つの測定視野で行い、5つの測定視野の立方晶窒化硼素粒子および結合相の面積百分率の平均を算出する。本開示において、5つの測定視野の立方晶窒化硼素粒子の面積百分率の平均が、立方晶窒化硼素焼結体の立方晶窒化硼素粒子の含有率[体積%]に該当する。本開示において、5つの測定視野の結合相の面積百分率の平均が、立方晶窒化硼素焼結体の結合相の含有率[体積%]に該当する。
【0032】
出願人が測定した限りでは、同一の試料において5つの測定視野を任意に設定して、上記の手順に従い、立方晶窒化硼素焼結体の立方晶窒化硼素粒子および結合相の含有率の測定を複数回行っても、測定結果のばらつきはほとんどないことが確認された。
【0033】
立方晶窒化硼素焼結体の立方晶窒化硼素粒子および結合相の合計含有率は、99体積%以上であってもよい。これによって、立方晶窒化硼素焼結体は、立方晶窒化硼素粒子が十分に均一に分散した組織を十分に含むことができる為、立方晶窒化硼素焼結体の強度をより向上することができる。該合計含有率の上限は、100体積%以下であってもよい。
【0034】
立方晶窒化硼素焼結体の立方晶窒化硼素粒子および結合相の合計含有率は、立方晶窒化硼素粒子の含有率[体積%]と結合相の含有率[体積%]との和を算出することにより特定することができる。
【0035】
立方晶窒化硼素焼結体は、本開示の効果を損なわない限り、立方晶窒化硼素粒子および結合相に加えて、その他の相を含んでもよい。その他の相としては、例えば、WC、WCoBが挙げられる。
【0036】
≪立方晶窒化硼素粒子≫
<立方晶窒化硼素粒子の平均粒径d>
立方晶窒化硼素粒子の平均粒径dは、0.1μm以上3μm以下である。これによって、立方晶窒化硼素焼結体中において、立方晶窒化硼素粒子を十分に均一に分散し易くなる関係で、立方晶窒化硼素焼結体の強度を向上することができる。立方晶窒化硼素粒子の平均粒径dは、0.1μm以上2μm以下であってもよく、0.1μm以上1μm以下であってもよい。
【0037】
本開示において、立方晶窒化硼素粒子の平均粒径dは、以下の手順で測定される。先ず、後述する「立方晶窒化硼素粒子の面積率の変動係数Z」の測定方法と同様の方法で、第2画像を得る。次に、該第2画像に対し、画像解析ソフト「ImageJ」(商品名)を用いてWatershed処理を実行することにより、該第2画像における立方晶窒化硼素粒子の粒界の位置を特定し、各立方晶窒化硼素粒子の円相当径(Heywood径:等面積円相当径)の算術平均を算出する。なお、ここで、該画像における立方晶窒化硼素粒子には、該画像の端に接する立方晶窒化硼素粒子を含む。
【0038】
上記の測定を、互いに重複しない5つの測定視野で行う。5つの測定視野の立方晶窒化硼素粒子の平均粒径の算術平均を算出する。本開示において、5つの測定視野の平均粒径の算術平均が、立方晶窒化硼素粒子の平均粒径dに該当する。
【0039】
出願人が測定した限りでは、同一の試料において5つの測定視野を任意に設定して、上記の手順に従い、立方晶窒化硼素粒子の平均粒径dの測定を複数回行っても、測定結果のばらつきはほとんどないことが確認された。
【0040】
<立方晶窒化硼素粒子の面積率の変動係数Z>
立方晶窒化硼素焼結体の断面において、立方晶窒化硼素粒子の面積率の変動係数Zは、0.25以下である。これによって、立方晶窒化硼素焼結体の強度を向上することができる。立方晶窒化硼素焼結体の断面において、立方晶窒化硼素粒子の面積率の変動係数Zの上限は、0.24以下であってもよく、0.23以下であってもよく、0.22以下であってもよい。立方晶窒化硼素焼結体の断面において、立方晶窒化硼素粒子の面積率の変動係数Zの下限は、特に制限されないが、0以上であってもよく、0.1以上であってもよく、0.20以上であってもよく、0.21以上であってもよい。立方晶窒化硼素焼結体の断面において、立方晶窒化硼素粒子の面積率の変動係数Zは、0以上0.25以下であってもよく、0.1以上0.24以下であってもよく、0.20以上0.23以下であってもよい。
【0041】
立方晶窒化硼素焼結体の断面において、立方晶窒化硼素粒子の面積率の変動係数Zの求め方を説明する。まず、立方晶窒化硼素焼結体の断面を走査型電子顕微鏡で5000倍で撮像して得られる反射電子像(第1画像)の二値化処理後の画像(第2画像)中に、一辺が該立方晶窒化硼素粒子の平均粒径dの2倍の長さである正方形の単位領域R1を合計260個設ける(図1)。次に、該合計260個の該単位領域R1に基づき、該単位領域R1のそれぞれにおける該立方晶窒化硼素粒子の面積率の標準偏差および該面積率の平均(算術平均)を算出し、該標準偏差を該平均(算術平均)で除することにより変動係数Zが得られる。より具体的には、反射電子像の大きさは、300μmとし、反射電子像は、立方晶窒化硼素粒子と結合相とが明瞭に区別できるコントラストで撮像する。二値化処理は、Pythonにより記述されるプログラムを用いて、立方晶窒化硼素粒子の領域とそれ以外の領域とで二値化することにより実行される。なお、1つの第2画像中に、単位領域R1は、第一方向と、該第一方向に直交する方向とのそれぞれに沿って連続して並べる。1つの第2画像中における単位領域R1の数は、該第2画像中に設けることが可能な最大数とする。1つの第2画像のみでは、単位領域R1の数が260個に満たない場合は、更に他の第2画像において単位領域R1を設けることにより、単位領域R1の数の合計が260個になる様にする。単位領域R1の数に余りが生じる第2画像が存在する場合は、該第2画像における任意の単位領域R1を選択することにより、単位領域R1の数の合計が260個になる様に調整する。
【0042】
出願人が測定した限りでは、同一の試料において測定視野を任意に設定して、上記の手順に従い、立方晶窒化硼素粒子の面積率の変動係数Zの測定を複数回行っても、測定結果のばらつきはほとんどないことが確認された。
【0043】
≪結合相≫
<結合相の組成>
結合相は、周期表の4族元素、5族元素、6族元素、およびアルミニウムからなる第1群より選択される1種の元素の単体、該第1群より選択される2種以上の元素からなる合金、ならびに該第1群より選択される2種以上の元素からなる金属間化合物、からなる第2群より選択される少なくとも1種、または、該第1群より選択される少なくとも1種の元素と、窒素、炭素、硼素、および酸素からなる第3群より選択される少なくとも1種の元素と、からなる第1化合物および該第1化合物由来の固溶体からなる第4群より選択される少なくとも1種、を含む。これによって、結合相は立方晶窒化硼素粒子に対する優れた結合力を有することができる為、本実施形態の立方晶窒化硼素焼結体は、特に強断続切削加工用の切削工具の材料として用いられる場合においても、工具の耐欠損性を向上することができる。結合相は、窒化チタン、硼化チタン、窒化アルミニウム、および酸化アルミニウムからなる群より選択される少なくとも1種を含んでもよい。これによって、特に強断続切削加工用の切削工具の材料として用いられる場合においても、工具の耐欠損性をより向上することができる。結合相は、周期表の4族元素、5族元素、6族元素、およびアルミニウムからなる第1群より選択される1種の元素の単体、該第1群より選択される2種以上の元素からなる合金、ならびに該第1群より選択される2種以上の元素からなる金属間化合物、からなる第2群より選択される少なくとも1種、または、該第1群より選択される少なくとも1種の元素と、窒素、炭素、硼素、および酸素からなる第3群より選択される少なくとも1種の元素と、からなる第1化合物および該第1化合物由来の固溶体からなる第4群より選択される少なくとも1種、を主成分として含んでもよい。ここで「主成分として含む」とは、結合相中のこれらの成分の合計含有率が、90体積%以上であることを意味する。
【0044】
立方晶窒化硼素焼結体において、結合相の組成は、X線回折測定(XRD)により特定することができる。
【0045】
[実施形態2:立方晶窒化硼素焼結体の製造方法]
本実施形態に係る立方晶窒化硼素焼結体の製造方法は、準備工程と、前処理工程と、混合工程と、焼結工程と、をこの順で備える。
【0046】
≪準備工程≫
準備工程において、原料粉末を準備する。原料粉末としては、立方晶窒化硼素粉末(以下「cBN粉末」とも記す。)および結合相原料粉末を準備する。
【0047】
cBN粉末は、立方晶窒化硼素焼結体に含まれる立方晶窒化硼素粒子の原料粉末である。cBN粉末は、六方晶窒化硼素粉末に触媒(Li、Ca、Mg、及びこれらの窒化物、硼化物、硼窒化物)を添加した後、加熱加圧を行い作製してもよく、市販のcBN粉末を準備してもよい。なお、立方晶窒化硼素焼結体に含まれる立方晶窒化硼素粒子の平均粒径dは、cBN粉末の平均粒径に依存する。その為、cBN粉末の平均粒径を所望の範囲内とすることによって、立方晶窒化硼素焼結体に含まれる立方晶窒化硼素粒子の平均粒径dを所望の範囲内とすることができる。
【0048】
結合相原料粉末は、周期表の4族元素、5族元素、6族元素、およびアルミニウムからなる第1群より選択される1種の元素の単体、該第1群より選択される2種以上の元素からなる合金、ならびに該第1群より選択される2種以上の元素からなる金属間化合物、からなる第2群より選択される少なくとも1種、または、該第1群より選択される少なくとも1種の元素と、窒素、炭素、硼素、および酸素からなる第3群より選択される少なくとも1種の元素と、からなる第1化合物および該第1化合物由来の固溶体からなる第4群より選択される少なくとも1種、を含む。結合相原料粉末は、従来公知の方法で作製してもよく、市販の結合相原料粉末を準備してもよい。
【0049】
≪前処理工程≫
前処理工程において、上記cBN粉末および上記結合相原料粉末のそれぞれに対し、プラズマ処理を実行する。より具体的には、上記cBN粉末を、Arを含むガス雰囲気に20分以上40分以下曝露させ、上記結合相原料粉末を、Nを含むガス雰囲気に20分以上40分以下曝露させる。これによって、後述する混合工程において、粒子同士の凝集を生じ難くすることで、二次粒子の生成を抑制することができる。
【0050】
≪混合工程≫
混合工程において、プラズマ処理されたcBN粉末と、プラズマ処理された結合相原料粉末と、を湿式ボールミル混合で混合することにより、混合粉末を得る。湿式ボールミル混合は、直径が3mm以上8mm以下であるボール(以下、「径大ボール」とも記す。)と、直径が1mm以上2mm以下であるボール(以下、「径小ボール」とも記す。)と、を同時に用いることにより実行する。これによって、径大ボールで、前処理工程を経てもなお生成する二次粒子を解砕して一次粒子を生成しながら、径小ボールで、一次粒子を均一に混合することができる。その為、cBN粉末の粒子を十分に均一に分散させることができる。従来では、製造の手間が増大する関係で、径大ボールおよび径小ボールを同時に用いて原料粉末を混合する手法を敢えて採用することはなかった。なお、上記溶媒としては、例えば、エタノール、アセトン等が挙げられる。
【0051】
径大ボールの合計質量M1に対する、径小ボールの合計質量M2の比M2/M1は、0.26以上0.40以下であってもよい。
【0052】
≪焼結工程≫
焼結工程において、上記混合粉末を焼結することにより、立方晶窒化硼素焼結体を得る。より具体的には、先ず、第1工程として、混合粉末を容器に充填して真空シールする。次に、第2工程として、超高温高圧装置を用いて、真空シールされた混合粉末を焼結処理する。
【0053】
焼結工程において、1200℃以上1300℃以下に昇温する第1昇温と、1400℃以上1550℃以下に昇温する第2昇温と、をこの順で実行する。第1昇温において、昇温速度は、8℃/分以上12℃/分以下である。第2昇温において、昇温速度は、2℃/分以上5℃/分以下である。これらによって、焼結工程における温度を緩やかに上昇させることができる為、昇温により生じるヒーターの変形と、該変形に起因する該ヒーターの抵抗値の上昇と、を抑制することができる。その為、焼結時の温度を、狙い通りの温度範囲(すなわち、1400℃以上1550℃以下)に制御することができる。
【0054】
≪本実施形態の立方晶窒化硼素焼結体の製造方法の特徴≫
上記の製造方法は、前処理工程において、cBN粉末を、Arを含むガス雰囲気に20分以上40分以下曝露させ、且つ、結合相原料粉末を、Nを含むガス雰囲気に20分以上40分以下曝露させることと、混合工程において、上記径大ボールおよび上記径小ボールを同時に用いることと、焼結工程において、上記第1昇温(昇温速度:8℃/分以上12℃/分以下)および上記第2昇温(昇温速度:2℃/分以上5℃/分以下)をこの順で実行することとにより実行される。これによって、cBN粉末の粒子を微細に保ち、且つ、十分に均一に分散させ、且つ、焼結時の温度を所望の範囲内に制御することができる。よって、立方晶窒化硼素焼結体中において、立方晶窒化硼素粒子を十分に均一に分散させることができる為、立方晶窒化硼素焼結体の断面において、該立方晶窒化硼素粒子の面積率の変動係数Zを所望の範囲に制御することができる。このような製造方法を採用することによって、本開示の立方晶窒化硼素焼結体を実現できることは、本発明者らが鋭意検討の結果、見いだしたものである。
【0055】
[実施形態3:工具]
本実施形態に係る工具は、実施形態1に記載の立方晶窒化硼素焼結体を含む。
【0056】
本開示によれば、特に強断続切削加工用の切削工具の材料として用いられる場合においても、工具の長寿命化を可能とする立方晶窒化硼素焼結体を含む工具を提供することができる。その理由は、実施形態1に記載の通りである。
【0057】
工具はそれぞれ、その全体が立方晶窒化硼素焼結体で構成されていてもよいし、その一部(たとえば切削工具の場合、刃先部分)のみが立方晶窒化硼素焼結体で構成されていてもよい。さらに、各工具の表面にコーティング膜が形成されていてもよい。工具としては、切削工具および耐摩工具などを挙げることができる。
【0058】
切削工具としては、ドリル、エンドミル、ドリル用刃先交換型切削チップ、エンドミル用刃先交換型切削チップ、フライス加工用刃先交換型切削チップ、旋削加工用刃先交換型切削チップ、メタルソー、歯切工具、リーマ、タップ、切削バイトなどを挙げることができる。
【0059】
耐摩工具としては、ダイス、スクライバー、スクライビングホイール、ドレッサーなどを挙げることができる。
【0060】
≪工具の製造方法≫
本開示の工具の製造方法は、実施形態1に記載の立方晶窒化硼素焼結体を用いる点を除いては、従来公知の方法と同様の方法により実行することができる。
【実施例
【0061】
本実施の形態を実施例によりさらに具体的に説明する。ただし、これらの実施例により本実施の形態が限定されるものではない。
【0062】
≪立方晶窒化硼素焼結体の作製≫
以下の工程を以下の順で実行することにより、試料1~17、101~107に係る立方晶窒化硼素焼結体を作製した。
【0063】
<準備工程>
先ず、原料粉末としては、cBN粉末(粒径:表2-1および表2-2に記載のd[μm]と同じ)および結合相原料粉末(組成:表2-1および表2-2に記載の結合相の組成と同じ)を準備した。
【0064】
<前処理工程>
cBN粉末を、Arを含むガス雰囲気に表1-1および表1-2に記載の条件で曝露させ、且つ、結合相原料粉末を、Nを含むガス雰囲気に表1-1および表1-2に記載の条件で曝露させることにより、プラズマ処理を実行した。なお、表1-1および表1-2の「Arガス曝露時間[分]」欄に「0」と記載されている場合は、Arを含むガス雰囲気への曝露が実行されなかったことを意味する。また、表1-1および表1-2の「Nガス曝露時間[分]」欄に「0」と記載されている場合は、Nを含むガス雰囲気への曝露が実行されなかったことを意味する。
【0065】
≪混合工程≫
プラズマ処理されたcBN粉末と、プラズマ処理された結合相原料粉末とを、表1-1および表1-2に記載の条件で湿式ボールミル混合で混合することにより、混合粉末を得た。その際、混合粉末におけるcBN粉末の含有率と、結合相原料粉末の含有率との体積基準の比が、表2-1および表2-2に記載の立方晶窒化硼素粒子の含有率[体積%]と、表2-1および表2-2に記載の結合相の含有率[体積%]との比と同じになる様に調整した。なお、「径大ボール」欄と「径小ボール」欄との両方に数値が記載されている場合は、径大ボールと径小ボールとを同時に用いたことを意味する。「径小ボール」欄において「-」と記載されている場合は、径小ボールが用いられなかったことを意味する。
【0066】
≪焼結工程≫
先ず、第1工程として、混合粉末を容器に充填して真空シールした。次に、第2工程として、超高温高圧装置を用いて、真空シールされた混合粉末を表1-1および表1-2に記載の条件で焼結することにより、立方晶窒化硼素焼結体を得た。なお、第1昇温に関し、昇温速度は3℃/分とし、第1昇温直後の温度は1200℃~1300℃とした。また、第2昇温に関し、昇温速度は10℃/分とし、第2昇温直後の温度は1400℃~1550℃とした。
【0067】
以上の手順によって、試料1~17、101~107に係る立方晶窒化硼素焼結体を作製した。
【0068】
また、従来例として、試料108に係る立方晶窒化硼素焼結体を特許文献1の実施例1のNo.1と同じ製造方法で準備し、試料109に係る立方晶窒化硼素焼結体を特許文献2の発明品1と同じ製造方法で準備し、試料110に係る立方晶窒化硼素焼結体を特許文献3の実施例1に係る多結晶質cBN材料と同じ製造方法で準備した。
【0069】
【表1-1】
【0070】
【表1-2】
【0071】
【表2-1】
【0072】
【表2-2】
【0073】
≪立方晶窒化硼素焼結体の特性評価≫
<立方晶窒化硼素焼結体の組成>
各試料に係る立方晶窒化硼素焼結体について、立方晶窒化硼素粒子の含有率[体積%]を実施形態1に記載の方法により求めた。得られた結果を、表2-1および表2-2の「cBN粒子」欄の「含有率[体積%]」欄に記す。また、各試料に係る立方晶窒化硼素焼結体について、結合相の含有率[体積%]を実施形態1に記載の方法により求めた。得られた結果を、表2-1および表2-2の「結合相」欄の「含有率[体積%]」欄に記す。また、各試料に係る立方晶窒化硼素焼結体について、立方晶窒化硼素粒子および結合相の合計含有率[体積%]を実施形態1に記載の方法により求めた。得られた結果を、表2-1および表2-2の「cBN粒子含有率+結合相含有率[体積%]」欄に記す。なお、各試料に係る立方晶窒化硼素焼結体について、表2-1および表2-2の「結合相」欄の「組成」欄に記載された化合物の体積と、それ以外の不純物の体積とを合計すると、結合相の体積に対し100%であった。
【0074】
<立方晶窒化硼素粒子の面積率の変動係数Z>
各試料に係る立方晶窒化硼素焼結体について、立方晶窒化硼素焼結体の断面における立方晶窒化硼素粒子の面積率の変動係数Zを実施形態1に記載の方法により求めた。得られた結果を、表2-1および表2-2の「cBN粒子」欄の「Z」欄に記す。
【0075】
<立方晶窒化硼素粒子の平均粒径d>
各試料に係る立方晶窒化硼素焼結体について、立方晶窒化硼素粒子の平均粒径dを実施形態1に記載の方法により求めた。得られた結果を、表2-1および表2-2の「cBN粒子」欄の「d[μm]」欄に記す。
【0076】
<結合相の組成>
各試料に係る立方晶窒化硼素焼結体について、結合相の組成を実施形態1に記載の方法により求めた。得られた結果を、表2-1および表2-2の「結合相」欄の「組成」欄の「化合物」欄に記す。
【0077】
≪切削試験≫
各試料に係る立方晶窒化硼素焼結体を用いて切削工具(形状:CNGA120408)を作製した。該切削工具を用いて、以下の切削条件下で切削試験を実施した。なお、以下の切削条件は、強断続切削加工に該当する。切削距離345m毎に刃先を観察し、刃先の欠損の有無を確認した。0.2mm以上の欠損が生じる時点の切削距離を測定し、この切削距離を切削工具の寿命とした。得られた結果を、表2-1および表2-2の「寿命[km]」欄に記す。切削工具の寿命が2000m以上であることは、工具寿命が優れていることを意味する。
(切削条件)
切削速度:100m/min.
送り速度:0.2mm/rev.
切込み:0.2mm
クーラント:DRY
切削方法:強断続切削
旋盤:LB400(オークマ株式会社製)
被削材:焼入鋼(SCM415 U溝、硬度HRC60)
【0078】
試料1~17に係る立方晶窒化硼素焼結体は実施例に該当する。試料101~110に係る立方晶窒化硼素焼結体は比較例に該当する。表2-1および表2-2の結果から、試料1~17に係る立方晶窒化硼素焼結体は、試料101~110に係る立方晶窒化硼素焼結体に比して、特に強断続切削加工用の切削工具の材料として用いられる場合においても、工具の長寿命化を可能とすることが分かった。また、表2-2の結果から、特許文献1~3の立方晶窒化硼素焼結体の製造方法によって、本願の立方晶窒化硼素焼結体が得られないことが確認された。
【0079】
以上により、試料1~17に係る立方晶窒化硼素焼結体は、特に強断続切削加工用の切削工具の材料として用いられる場合においても、工具の長寿命化を可能とすることが分かった。
【0080】
以上のように本開示の実施の形態および実施例について説明を行なったが、上述の各実施の形態および実施例の構成を適宜組み合わせたり、様々に変形することも当初から予定している。
【0081】
今回開示された実施の形態および実施例はすべての点で例示であって、制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した実施の形態および実施例ではなく請求の範囲によって示され、請求の範囲と均等の意味、および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0082】
R1 単位領域。
【要約】
立方晶窒化硼素焼結体は、40体積%以上80体積%以下の立方晶窒化硼素粒子と、20体積%以上60体積%以下の結合相と、を備える立方晶窒化硼素焼結体であって、前記立方晶窒化硼素粒子の平均粒径dは、0.1μm以上3μm以下であり、前記結合相は、周期表の4族元素、5族元素、6族元素、およびアルミニウムからなる第1群より選択される1種の元素の単体、前記第1群より選択される2種以上の元素からなる合金、ならびに前記第1群より選択される2種以上の元素からなる金属間化合物、からなる第2群より選択される少なくとも1種、または、前記第1群より選択される少なくとも1種の元素と、窒素、炭素、硼素、および酸素からなる第3群より選択される少なくとも1種の元素と、からなる第1化合物および前記第1化合物由来の固溶体からなる第4群より選択される少なくとも1種、を含み、前記立方晶窒化硼素焼結体の断面において、前記立方晶窒化硼素粒子の面積率の変動係数Zは、0.25以下であり、前記変動係数Zは、前記立方晶窒化硼素焼結体の断面を走査型電子顕微鏡で5000倍で撮像して得られる反射電子像の二値化処理後の画像中に、一辺が前記立方晶窒化硼素粒子の平均粒径dの2倍の長さである正方形の単位領域を合計260個設け、前記合計260個の前記単位領域に基づき、前記単位領域のそれぞれにおける前記立方晶窒化硼素粒子の面積率の標準偏差および前記面積率の平均を算出し、前記標準偏差を前記平均で除することにより得られる、立方晶窒化硼素焼結体。
図1