(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-02-12
(45)【発行日】2025-02-20
(54)【発明の名称】タイヤ
(51)【国際特許分類】
B60C 11/03 20060101AFI20250213BHJP
B60C 11/12 20060101ALI20250213BHJP
【FI】
B60C11/03 100C
B60C11/12 D
B60C11/12 B
(21)【出願番号】P 2020128437
(22)【出願日】2020-07-29
【審査請求日】2023-06-08
(73)【特許権者】
【識別番号】000006714
【氏名又は名称】横浜ゴム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小石川 佳史
【審査官】増田 亮子
(56)【参考文献】
【文献】特開昭49-096403(JP,A)
【文献】特開昭49-013805(JP,A)
【文献】特開2005-022530(JP,A)
【文献】特開2017-030565(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60C 11/03
B60C 11/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
タイヤ周方向に延びる複数の周方向溝と、
前記周方向溝により区画される複数の陸部と、
前記陸部のうちタイヤ幅方向における両側が前記周方向溝により区画される前記陸部に配置され、一端が前記周方向溝に開口し、他端が前記陸部内で終端し、延在方向が変化する屈曲部を2箇所以上有するラグ溝と、
を備え、
前記ラグ溝は、前記陸部内で終端する端部側から前記周方向溝に開口する端部側に向かうに従って溝深さが深くな
り、
前記ラグ溝が配置される前記陸部には、前記ラグ溝が開口する側の前記周方向溝とは異なる前記周方向溝と前記ラグ溝とに開口する連通サイプが配置されることを特徴とするタイヤ。
【請求項2】
1つの前記ラグ溝が有する複数の前記屈曲部のうち、少なくとも1つの前記屈曲部は、屈曲の角度が90°以上である請求項1に記載のタイヤ。
【請求項3】
前記屈曲部は、前記陸部のタイヤ幅方向における中央を中心とする、前記陸部のタイヤ幅方向における最大幅の40%の範囲内に配置される請求項1または2に記載のタイヤ。
【請求項4】
前記ラグ溝は、前記陸部内で終端する端部側から前記周方向溝に開口する端部側に向かうに従って溝幅が広くなる請求項1~
3のいずれか1項に記載のタイヤ。
【請求項5】
前記陸部には、タイヤ幅方向に延びる複数のサイプが配置される請求項1~
4のいずれか1項に記載のタイヤ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
車両に装着されるタイヤには、タイヤの使用態様に応じた様々な性能の確保等を目的として、トレッド部に溝が形成されており、溝の形状を工夫することにより、性能の向上を図っている。例えば、特許文献1に記載された空気入りタイヤでは、所定の周方向ピッチで屈曲して周方向に延びる屈曲細溝の屈曲位置から、周溝に開口する補助溝を配設することにより、湿潤路面及び氷雪路面での性能の向上を図っている。また、特許文献2に記載された空気入りタイヤでは、1個の屈曲点を持ってタイヤ幅方向の延びる横溝の両端を、タイヤ周方向に延びる主溝に開口させることにより、氷雪上性能の向上を図っている。
【0003】
また、特許文献3に記載された空気入りタイヤでは、鋭角に屈曲すると共に、一端が周方向主溝に開口して他端が陸部内で終端する副溝を設けることにより、優れた操縦安定性を犠牲にすることなく、周方向主溝によって発生する気柱共鳴音を低減させ、且つ、石噛み性の改善を図っている。また、特許文献4に記載された空気入りタイヤでは、一端が周溝に開口して他端がリブ内で終了し、L字状の折曲溝をリブに複数設けることにより、耐偏摩耗性、排水性、低騒音性、操縦安定性のそれぞれを高い次元で調和させている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2006-315433号公報
【文献】特開2013-49335号公報
【文献】特開2009-137412号公報
【文献】特開2007-302112号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ここで、トレッド部に形成される溝に求められる性能として、濡れた路面の走行時におけるトレッド部と路面との水の排水性を確保することによるウェット性能が挙げられる。また、雪上路面や氷雪路面での走行が求められるスタッドレスタイヤでは、雪上性能と氷上性能も重要になっている。雪上性能を向上させるためには、タイヤ幅方向に隣り合う周方向溝同士の間に、タイヤ幅方向に延びるラグ溝を配置し、周方向溝同士をラグ溝で接続することにより、トレッド部に形成される溝の面積を増加させて雪柱せん断力を増加させるのが有効である。また、このように溝の面積を増加させた場合、排水性も向上するため、ウェット性能の向上にも効果的である。
【0006】
しかし、溝面積を増加させた場合、陸部の剛性が低下するため、制動時に陸部が倒れ込むことにより接地面積が減り、氷上での制動性能が低下する虞がある。即ち、溝面積を増加させた場合、氷上性能が低下する虞がある。このため、雪上性能とウェット性能と氷上性能とのいずれの性能も満たすのは、大変困難なものとなっていた。
【0007】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、氷上性能の低下を抑えつつ、雪上性能及びウェット性能を確保することのできるタイヤを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明に係るタイヤは、タイヤ周方向に延びる複数の周方向溝と、前記周方向溝により区画される複数の陸部と、前記陸部のうちタイヤ幅方向における両側が前記周方向溝により区画される前記陸部に配置され、一端が前記周方向溝に開口し、他端が前記陸部内で終端し、延在方向が変化する屈曲部を2箇所以上有するラグ溝と、を備えることを特徴とする。
【0009】
また、上記タイヤにおいて、1つの前記ラグ溝が有する複数の前記屈曲部のうち、少なくとも1つの前記屈曲部は、屈曲の角度が90°以上であることが好ましい。
【0010】
また、上記タイヤにおいて、前記屈曲部は、前記陸部のタイヤ幅方向における中央を中心とする、前記陸部のタイヤ幅方向における最大幅の40%の範囲内に配置されることが好ましい。
【0011】
また、上記タイヤにおいて、前記ラグ溝が配置される前記陸部には、前記ラグ溝が開口する側の前記周方向溝とは異なる前記周方向溝と前記ラグ溝とに開口する連通サイプが配置されることが好ましい。
【0012】
また、上記タイヤにおいて、前記ラグ溝は、前記陸部内で終端する端部側から前記周方向溝に開口する端部側に向かうに従って溝深さが深くなることが好ましい。
【0013】
また、上記タイヤにおいて、前記ラグ溝は、前記陸部内で終端する端部側から前記周方向溝に開口する端部側に向かうに従って溝幅が広くなることが好ましい。
【0014】
また、上記タイヤにおいて、前記陸部には、タイヤ幅方向に延びる複数のサイプが配置されることが好ましい。
【発明の効果】
【0015】
本発明に係るタイヤは、氷上性能の低下を抑えつつ、雪上性能及びウェット性能を確保することができる、という効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】
図1は、実施形態に係る空気入りタイヤの要部を示すタイヤ子午断面図である。
【
図4】
図4は、
図3に示す屈曲ラグ溝の延在方向に沿った断面の模式図である。
【
図6】
図6は、空気入りタイヤの性能評価試験の結果を示す図表である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下に、本発明に係るタイヤの実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、この実施形態によりこの発明が限定されるものではない。また、下記実施形態における構成要素には、当業者が置換可能、且つ、容易に想到できるもの、或いは実質的に同一のものが含まれる。
【0018】
[実施形態]
以下の説明では、本発明に係るタイヤの一例として、空気入りタイヤ1を用いて説明する。タイヤの一例である空気入りタイヤ1は、空気、窒素等の不活性ガス及びその他の気体を充填することができる。
【0019】
また、以下の説明において、タイヤ径方向とは、空気入りタイヤ1の回転軸であるタイヤ回転軸(図示省略)と直交する方向をいい、タイヤ径方向内側とはタイヤ径方向においてタイヤ回転軸に向かう側、タイヤ径方向外側とはタイヤ径方向においてタイヤ回転軸から離れる側をいう。また、タイヤ周方向とは、タイヤ回転軸を中心軸とする周り方向をいう。また、タイヤ幅方向とは、タイヤ回転軸と平行な方向をいい、タイヤ幅方向内側とはタイヤ幅方向においてタイヤ赤道面(タイヤ赤道線)CLに向かう側、タイヤ幅方向外側とはタイヤ幅方向においてタイヤ赤道面CLから離れる側をいう。タイヤ赤道面CLとは、タイヤ回転軸に直交すると共に、空気入りタイヤ1のタイヤ幅の中心を通る平面であり、タイヤ赤道面CLは、空気入りタイヤ1のタイヤ幅方向における中心位置であるタイヤ幅方向中心線と、タイヤ幅方向における位置が一致する。タイヤ幅は、タイヤ幅方向において最も外側に位置する部分同士のタイヤ幅方向における幅、つまり、タイヤ幅方向においてタイヤ赤道面CLから最も離れている部分間の距離である。タイヤ赤道線とは、タイヤ赤道面CL上にあって空気入りタイヤ1のタイヤ周方向に沿う線をいう。また、以下の説明では、タイヤ子午断面とは、タイヤ回転軸を含む平面でタイヤを切断したときの断面をいう。
【0020】
図1は、実施形態に係る空気入りタイヤ1の要部を示すタイヤ子午断面図である。本実施形態に係る空気入りタイヤ1は、タイヤ子午断面で見た場合、タイヤ径方向の最も外側となる部分にトレッド部2が配設されており、トレッド部2は、ゴム組成物から成るトレッドゴム4を有している。また、トレッド部2の表面、即ち、当該空気入りタイヤ1を装着する車両(図示省略)の走行時に路面と接触する部分は、トレッド接地面3として形成され、トレッド接地面3は、空気入りタイヤ1の輪郭の一部を構成している。
【0021】
タイヤ幅方向におけるトレッド部2の両外側端にはショルダー部5が位置しており、ショルダー部5のタイヤ径方向内側には、サイドウォール部8が配設されている。即ち、サイドウォール部8は、トレッド部2のタイヤ幅方向両側に配設されている。換言すると、サイドウォール部8は、タイヤ幅方向における空気入りタイヤ1の両側2箇所に配設されており、空気入りタイヤ1におけるタイヤ幅方向の最も外側に露出した部分を形成している。
【0022】
タイヤ幅方向における両側に位置するそれぞれのサイドウォール部8のタイヤ径方向内側には、ビード部10が位置している。ビード部10は、サイドウォール部8と同様に、タイヤ赤道面CLの両側2箇所に配設されており、即ち、ビード部10は、一対がタイヤ赤道面CLのタイヤ幅方向における両側に配設されている。各ビード部10にはビードコア11が設けられており、ビードコア11のタイヤ径方向外側にはビードフィラー12が設けられている。ビードコア11は、スチールワイヤであるビードワイヤを束ねて円環状に形成される環状部材になっており、ビードフィラー12は、ビードコア11のタイヤ径方向外側に配置されるゴム部材になっている。
【0023】
また、トレッド部2にはベルト層14が配設されている。ベルト層14は、複数のベルト141、142と、ベルトカバー143とが積層される多層構造によって構成されており、本実施形態では、2層のベルト141、142が積層されている。ベルト層14を構成するベルト141、142は、スチール、またはポリエステルやレーヨンやナイロン等の有機繊維材から成る複数のベルトコードをコートゴムで被覆して圧延加工して構成され、タイヤ周方向に対するベルトコードの傾斜角として定義されるベルト角度が、所定の範囲内(例えば、20°以上55°以下)になっている。また、2層のベルト141、142は、ベルト角度が互いに異なっている。このため、ベルト層14は、2層のベルト141、142が、ベルトコードの傾斜方向を相互に交差させて積層される、いわゆるクロスプライ構造として構成されている。つまり、2層のベルト141、142は、それぞれのベルト141、142が有するベルトコードが互いに交差する向きで配設される、いわゆる交差ベルトとして設けられている。
【0024】
また、ベルトカバー143は、スチール、またはポリエステルやレーヨンやナイロン等の有機繊維材から成る複数のベルトカバーコードをコートゴムで被覆して圧延加工して構成され、タイヤ周方向に対するベルトカバーコードの傾斜角として定義されるベルト角度が、所定の範囲内(例えば、0°以上10°以下)になっている。また、ベルトカバー143は、例えば、1本あるいは複数本のベルトカバーコードをコートゴムで被覆して成るストリップ材であり、このストリップ材を2層のベルト141、142のタイヤ径方向外側から、タイヤ回転軸を中心とする螺旋状に巻き付けることにより構成される。
【0025】
ベルト層14のタイヤ径方向内側、及びサイドウォール部8のタイヤ赤道面CL側には、ラジアルプライのコードを内包するカーカス層13が連続して設けられている。このため、本実施形態に係る空気入りタイヤ1は、いわゆるラジアルタイヤとして構成されている。カーカス層13は、1枚のカーカスプライから成る単層構造、或いは複数のカーカスプライを積層して成る多層構造を有し、タイヤ幅方向の両側に配設される一対のビード部10間にトロイダル状に架け渡されてタイヤの骨格を構成する。
【0026】
詳しくは、カーカス層13は、タイヤ幅方向における両側に位置する一対のビード部10のうち、一方のビード部10から他方のビード部10にかけて配設されており、ビードコア11及びビードフィラー12を包み込むようにビード部10でビードコア11に沿ってタイヤ幅方向外側に巻き返されている。ビードフィラー12は、このようにカーカス層13がビード部10で折り返されることにより、ビードコア11のタイヤ径方向外側に形成される空間に配置されるゴム材になっている。また、ベルト層14は、このように一対のビード部10間に架け渡されるカーカス層13における、トレッド部2に位置する部分のタイヤ径方向外側に配置されている。また、カーカス層13のカーカスプライは、スチール、或いはアラミド、ナイロン、ポリエステル、レーヨン等の有機繊維材から成る複数のカーカスコードを、コートゴムで被覆して圧延加工することによって構成されている。カーカスプライを構成するカーカスコードは、タイヤ周方向に対する角度がタイヤ子午線方向に沿いつつ、タイヤ周方向にある角度を持って複数並設されている。
【0027】
ビード部10における、ビードコア11及びカーカス層13の巻き返し部のタイヤ径方向内側やタイヤ幅方向外側には、リムフランジに対するビード部10の接触面を構成するリムクッションゴム17が配設されている。また、カーカス層13の内側、或いは、当該カーカス層13の、空気入りタイヤ1における内部側には、インナーライナ16がカーカス層13に沿って形成されている。インナーライナ16は、空気入りタイヤ1の内側の表面であるタイヤ内面18を形成している。
【0028】
図2は、
図1のA-A矢視図である。トレッド部2には、トレッド接地面3にタイヤ周方向に延びる複数の周方向溝30と、タイヤ幅方向に延びる複数のラグ溝40とが形成されており、これらの周方向溝30とラグ溝40とにより、トレッド部2の表面には複数の陸部20が区画されている。本実施形態では、周方向溝30は、4本がタイヤ幅方向に並んで形成されている。詳しくは、周方向溝30は、タイヤ赤道面CLを挟んでタイヤ幅方向におけるタイヤ赤道面CLの両側に配置される2本の内側周方向溝31と、2本の内側周方向溝31のそれぞれのタイヤ幅方向外側に1本ずつ配置される2本の外側周方向溝35との4本を有している。これらの周方向溝30は、溝幅が3.5mm以上12mm以下の範囲内になっており、溝深さが6.0mm以上10.0mm以下の範囲内になっている。
【0029】
周方向溝30により区画される陸部20は、センター陸部21と、セカンド陸部22と、ショルダー陸部23とを有している。このうち、センター陸部21は、内側周方向溝31同士に間に位置する陸部20になっており、タイヤ幅方向における両側が内側周方向溝31によって区画されている。また、セカンド陸部22は、タイヤ幅方向に隣り合う内側周方向溝31と外側周方向溝35との間に位置する陸部20になっており、タイヤ幅方向内側の部分が内側周方向溝31により区画され、タイヤ幅方向外側の部分が外側周方向溝35により区画されている。また、ショルダー陸部23は、外側周方向溝35のタイヤ幅方向外側に位置する陸部20になっており、タイヤ幅方向における内側が外側周方向溝35によって区画されている。また、セカンド陸部22とショルダー陸部23とは、タイヤ赤道面CLのタイヤ幅方向における両側にそれぞれ配置されている。
【0030】
4本の周方向溝30のうち、2本の外側周方向溝35は、いずれもタイヤ周方向に沿って直線状に延びて形成されている。一方、4本の周方向溝30のうち、2本の内側周方向溝31は、いずれも溝幅方向における両側の溝壁のうち、少なくとも一方がタイヤ周方向に延びつつ、タイヤ幅方向に振幅することによりジグザグ状に形成されている。
【0031】
詳しくは、2本の内側周方向溝31を、第1内側周方向溝31aと第2内側周方向溝31bとした際に、第1内側周方向溝31aは、溝幅方向における両側の溝壁のうち、タイヤ幅方向外側の溝壁はジグザグ状に形成されており、タイヤ幅方向内側の溝壁は、タイヤ周方向に沿って直線状に延びて形成されている。また、第2内側周方向溝31bは、第2内側周方向溝31b全体が、タイヤ周方向に延びつつ、タイヤ幅方向に振幅することによりジグザグ状に形成されている。このため、第2内側周方向溝31bは、溝幅を一定に維持しつつ、溝幅方向における両側の溝壁がいずれもジグザグ状に形成されている。
【0032】
また、ラグ溝40は、センターラグ溝41と、屈曲ラグ溝42と、連通ラグ溝44と、ショルダーラグ溝45とを有している。このうち、センターラグ溝41は、2本の内側周方向溝31の間に配置されている。センターラグ溝41は、タイヤ幅方向に延びつつ、タイヤ幅方向に対してタイヤ周方向に傾斜しており、両端がそれぞれ内側周方向溝31に開口している。このため、内側周方向溝31とセンターラグ溝41とにより区画されるセンター陸部21は、タイヤ幅方向における両側が内側周方向溝31により区画され、タイヤ周方向における両側がセンターラグ溝41により区画された、ブロック状の陸部20になっている。
【0033】
また、屈曲ラグ溝42は、第1内側周方向溝31aと、当該第1内側周方向溝31aに隣り合う外側周方向溝35との間に配置されている。換言すると、屈曲ラグ溝42は、タイヤ赤道面CLのタイヤ幅方向における両側に配置されるセカンド陸部22のうち、第1内側周方向溝31aと外側周方向溝35との間に位置するセカンド陸部22である第1セカンド陸部22aに配置されている。このように、タイヤ幅方向における両側が周方向溝30により区画される陸部20に配置されるラグ溝40である屈曲ラグ溝42は、一端が周方向溝30に開口し、他端が陸部20内で終端しており、複数の箇所で屈曲して形成されている。即ち、屈曲ラグ溝42は、一端が周方向溝30に開口し、他端は非開口となる、片側開口のラグ溝40になっている。
【0034】
具体的には、屈曲ラグ溝42は、一端が外側周方向溝35に開口し、他端が第1セカンド陸部22a内で終端しており、外側周方向溝35に開口する側の端部と第1セカンド陸部22a内で終端する側の端部との間の2箇所で、屈曲している。即ち、屈曲ラグ溝42は、第1セカンド陸部22aのタイヤ幅方向における両側を区画する2本の周方向溝30のうち、タイヤ幅方向外側を区画する外側周方向溝35に開口している。屈曲ラグ溝42は、複数が同様の形態で、タイヤ周方向に並んで配置されている。また、屈曲ラグ溝42は、屈曲ラグ溝42の延在方向における両端のうちの一方の端部が、第1セカンド陸部22a内で終端しているため、第1セカンド陸部22aは、屈曲ラグ溝42によってタイヤ周方向に分断されていない。このため、第1セカンド陸部22aは、タイヤ周方向に連続して形成されるリブ状の陸部20になっている。
【0035】
また、連通ラグ溝44は、第2内側周方向溝31bと、当該第2内側周方向溝31bに隣り合う外側周方向溝35との間に配置されている。連通ラグ溝44は、タイヤ幅方向に延びつつ、タイヤ幅方向に対してタイヤ周方向に傾斜しており、一端が第2内側周方向溝31bに開口し、他端が外側周方向溝35に開口している。このように、第2内側周方向溝31bと外側周方向溝35との間に配置される連通ラグ溝44は、第2内側周方向溝31bと外側周方向溝35との間に位置するセカンド陸部22である第2セカンド陸部22bを区画するラグ溝40になっている。このため、第2セカンド陸部22bは、タイヤ幅方向における両側が第2内側周方向溝31bと外側周方向溝35により区画され、タイヤ周方向における両側が連通ラグ溝44により区画された、ブロック状の陸部20になっている。
【0036】
また、ショルダーラグ溝45は、タイヤ赤道面CLのタイヤ幅方向両側に位置する外側周方向溝35のタイヤ幅方向外側にそれぞれ配置されている。各ショルダーラグ溝45は、タイヤ幅方向に延びて形成され、タイヤ幅方向内側の端部は外側周方向溝35に開口し、タイヤ幅方向外側の端部は、トレッド部2のトレッドパターンのタイヤ幅方向における端部である、いわゆるデザインエンドで終端している。このように、外側周方向溝35とデザインエンドとの間に亘って形成されるショルダーラグ溝45は、外側周方向溝35と共にショルダー陸部23を区画するラグ溝40になっている。このため、ショルダー陸部23は、タイヤ周方向における両側がショルダーラグ溝45により区画された、ブロック状の陸部20になっている。
【0037】
これらのように形成されるラグ溝40は、溝幅が3.0mm以上8.0mm以下の範囲内になっており、溝深さが6.0mm以上9.0mm以下の範囲内になっている。
【0038】
さらに、第2内側周方向溝31bと外側周方向溝35との間に位置する第2セカンド陸部22bには、周方向細溝50が配置されている。周方向細溝50は、溝幅が周方向溝30の溝幅よりも狭い溝になっており、周方向細溝50は、溝幅が、1.5mm以上4mm以下の範囲内で形成されている。また、周方向細溝50の溝深さは、3.5mm以上7.0mm以下の範囲内になっている。
【0039】
周方向細溝50は、タイヤ周方向に延びて第2セカンド陸部22bに配置されており、タイヤ周方向における両端が、第2セカンド陸部22bを区画する連通ラグ溝44にそれぞれ開口している。周方向細溝50は、タイヤ周方向に延びつつ、タイヤ幅方向に屈曲する部分を有して形成されており、本実施形態では、周方向細溝50は、2箇所で屈曲することにより、クランク状の形状で第2セカンド陸部22bに配置されている。
【0040】
また、外側周方向溝35のタイヤ幅方向外側に位置するショルダー陸部23には、タイヤ周方向に延びるショルダー細溝55が配置されている。タイヤ周方向に延びるショルダー細溝55は、一端がショルダーラグ溝45に開口し、他端がショルダー陸部23内で終端している。ショルダー陸部23に配置されるショルダー細溝55は、タイヤ赤道面CLに対してタイヤ幅方向において同じ側に位置するショルダー細溝55は、ショルダーラグ溝45に開口する側の端部が、タイヤ周方向において全て同じ側の端部になっている。即ち、同じ外側周方向溝35によって区画されるショルダー陸部23に配置されるショルダー細溝55は、タイヤ周方向における向きが全て同じ向きになっている。
【0041】
また、タイヤ赤道面CLのタイヤ幅方向における一方側に配置されるショルダー細溝55と他方側に配置されるショルダー細溝55とは、ショルダーラグ溝45に開口する側の端部とショルダー陸部23内で終端する側の端部が、互いに異なる側の端部になっている。即ち、タイヤ赤道面CLのタイヤ幅方向における一方側に配置されるショルダー細溝55と他方側に配置されるショルダー細溝55とは、タイヤ周方向における向きが互いに反対向きになっている。
【0042】
さらに、各陸部20には、タイヤ幅方向に延びる複数のサイプ60が配置されている。陸部20に配置されるサイプ60は、例えば、タイヤ幅方向に延びつつ、タイヤ周方向に繰り返し屈曲して振幅することにより、ジグザグ状に形成されて配置されている。各サイプ60は、端部が陸部20内で終端していてもよく、他の溝に開口していてもよい。本実施形態に係る空気入りタイヤ1は、このように各陸部20にサイプ60配置されることにより、氷雪路面での走行性能を確保したスタッドレスタイヤ、または、冬季の走行性能を確保したオールシーズンタイヤに適用される。
【0043】
ここでいうサイプ60は、トレッド接地面3に細溝状に形成されるものであり、空気入りタイヤ1を規定リムにリム組みし、規定内圧の内圧条件で、無負荷時には細溝を構成する壁面同士が接触しないが、平板上で垂直方向に負荷させたときの平板上に形成される接地面の部分に細溝が位置する際、または細溝が形成される陸部20の倒れ込み時には、当該細溝を構成する壁面同士、或いは壁面に設けられる部位の少なくとも一部が、陸部20の変形によって互いに接触するものをいう。本実施形態では、サイプ60は、溝幅が1.4mm以下になっており、トレッド接地面3からの最大深さが3.5mm以上9.0mm以下の範囲内になっている。
【0044】
ここでいう規定リムとは、JATMAで規定する「標準リム」、TRAで規定する「Design Rim」、或いは、ETRTOで規定する「Measuring Rim」である。また、規定内圧とは、JATMAで規定する「最高空気圧」、TRAで規定する「TIRE LOAD LIMITS AT VARIOUS COLD INFLATION PRESSURES」に記載の最大値、或いはETRTOで規定する「INFLATION PRESSURES」である。
【0045】
また、サイプ60は、いわゆる三次元サイプであってもよく、二次元サイプであってもよい。ここでいう三次元サイプは、サイプ60の長さ方向を法線方向とする断面視(サイプ60の幅方向、且つ、深さ方向を含む断面視)、及びサイプ60の深さ方向を法線方向とする断面視(サイプ60の幅方向、且つ、長さ方向を含む断面視)の双方にて、サイプ60の幅方向に振幅をもつ屈曲形状の壁面を有するサイプ60である。また、二次元サイプは、サイプ60の長さ方向を法線方向とする任意の断面視(サイプ60の幅方向、且つ、深さ方向を含む断面視)にて、ストレート形状の壁面を有するサイプ60をいう。
【0046】
図3は、
図2のB部詳細図である。第1セカンド陸部22aに配置され、複数の箇所で屈曲して形成される屈曲ラグ溝42は、延在方向が変化する屈曲部43を2箇所以上有するラグ溝40になっている。本実施形態では、屈曲ラグ溝42は、2箇所の屈曲部43を有しており、屈曲ラグ溝42における外側周方向溝35側に位置する屈曲部43である第1屈曲部43aと、屈曲ラグ溝42における第1セカンド陸部22a内で終端する端部側に位置する屈曲部43である第2屈曲部43bとを有している。これにより、屈曲ラグ溝42は、2つの屈曲部43を境として、第1延在部42aと、第2延在部42bと、第3延在部42cとを有している。
【0047】
詳しくは、第1延在部42aは、屈曲ラグ溝42における外側周方向溝35に開口する側の端部と、第1屈曲部43aとの間に位置する部分になっている。また、第2延在部42bは、屈曲ラグ溝42における第1屈曲部43aと第2屈曲部43bとの間の部分になっている。また、第3延在部42cは、屈曲ラグ溝42における第1セカンド陸部22a内で終端する側の端部である終端部42dと、第2屈曲部43bとの間の部分になっている。
【0048】
また、屈曲ラグ溝42の2つの屈曲部43は、第1屈曲部43aと第2屈曲部43bとで、屈曲ラグ溝42の溝幅方向における屈曲の方向が同じ方向になっている。つまり、屈曲ラグ溝42の2つの屈曲部43は、屈曲の劣角側に位置する屈曲ラグ溝42の溝壁が、2つの屈曲部43で、溝幅方向において同じ側の溝壁になっている。
【0049】
また、屈曲ラグ溝42が有する屈曲部43は、屈曲の角度が90°以上になっている。つまり、屈曲ラグ溝42は、第1屈曲部43aの角度θ1が90°以上になっており、第2屈曲部43bの角度θ2も90°以上になっている。この場合における屈曲部43の屈曲の角度は、屈曲の劣角側の角度になっている。即ち、屈曲ラグ溝42の屈曲部43は、屈曲の角度が鈍角で形成されている。また、屈曲部43の屈曲の角度は、屈曲ラグ溝42の溝幅の中心線における角度になっている。なお、第1屈曲部43aの角度θ1は、90°≦θ1≦130°の範囲内であるのが好ましく、第2屈曲部43bの角度θ2も、90°≦θ2≦130°の範囲内であるのが好ましい。
【0050】
屈曲ラグ溝42は、これらのように2箇所の屈曲部43で屈曲することにより、第1延在部42aと、第2延在部42bと、第3延在部42cとを有するが、第1延在部42aは、タイヤ幅方向に近い角度で延在して形成されており、第2延在部42bは、タイヤ周方向に近い角度で延在して形成されている。例えば、第1延在部42aは、タイヤ周方向に対するタイヤ幅方向への傾斜角度が、55°以上75°以下の範囲内であるのが好ましい。また、第2延在部42bは、タイヤ周方向に対するタイヤ幅方向への傾斜角度が、0°以上20°以下の範囲内であるのが好ましい。また、第3延在部42cは、タイヤ周方向に対するタイヤ幅方向への傾斜角度が、65°以上85°以下の範囲内であるのが好ましい。
【0051】
本実施形態では、屈曲ラグ溝42の2つの屈曲部43が同じ方向に屈曲することにより、外側周方向溝35に開口してタイヤ幅方向に延びる屈曲ラグ溝42は、屈曲ラグ溝42全体で見た場合に、外側周方向溝35に向かって折り返す形状で形成されている。即ち、屈曲ラグ溝42は、第3延在部42cが、第2延在部42b側から終端部42d側に向かうに従って、第1延在部42aが開口する外側周方向溝35に近付く向きで形成されている。
【0052】
また、屈曲ラグ溝42が有する第1延在部42aと、第2延在部42bと、第3延在部42cとは、互いに長さが異なって形成されている。具体的には、屈曲ラグ溝42は、第1延在部42aの長さが最も長くなっており、次に第2延在部42bの長さが長くなっており、第3延在部42cの長さが最も短くなっている。即ち、屈曲ラグ溝42が有する第1延在部42aと、第2延在部42bと、第3延在部42cとの長さは、第1延在部42aの長さ>第2延在部42bの長さ>第3延在部42cの長さの関係を満たしている。
【0053】
屈曲ラグ溝42は、屈曲部43を複数有しているが、屈曲ラグ溝42が有する複数の屈曲部43は、屈曲ラグ溝42が配置される陸部20のタイヤ幅方向における中央を中心とする、陸部20のタイヤ幅方向における最大幅の40%の範囲内に配置されている。つまり、屈曲ラグ溝42が有する2箇所の屈曲部43は、いずれも屈曲ラグ溝42が配置される第1セカンド陸部22aのタイヤ幅方向における中央CB1を中心とする、第1セカンド陸部22aのタイヤ幅方向における最大幅WB1の40%の範囲である配置領域AP1内に配置されている。
【0054】
ここでいう配置領域AP1は、換言すると、第1セカンド陸部22aのタイヤ幅方向における中央CB1のタイヤ幅方向両側に、第1セカンド陸部22aの最大幅WB1の20%ずつの範囲となる領域になっている。つまり、配置領域AP1は、第1セカンド陸部22aのタイヤ幅方向における最大幅WB1となる部分のタイヤ幅方向における両端のうち、一端側の位置を0%とし、他端側の位置を100%とする場合における、30%の位置と70%の位置との間の範囲の領域になっている。
【0055】
また、屈曲ラグ溝42は、第1セカンド陸部22a内での終端部42dも、配置領域AP1に位置している。このため、屈曲ラグ溝42は、第2延在部42bと第3延在部42cも、配置領域AP1に位置している。
【0056】
屈曲ラグ溝42は、第1セカンド陸部22aに複数が配置されているが、複数の屈曲ラグ溝42は、同等の形状でタイヤ周方向に並んで配置されている。このように、第1セカンド陸部22aに複数が配置される屈曲ラグ溝42は、タイヤ周方向における全長Lが、タイヤ周方向に隣り合う屈曲ラグ溝42同士のピッチPに対して、0.6≦(L/P)≦0.8の関係を満たして形成されるのが好ましい。
【0057】
さらに、屈曲ラグ溝42は、陸部20内で終端する端部側から周方向溝30に開口する端部側に向かうに従って溝幅が広くなっており、また、陸部20内で終端する端部側から周方向溝30に開口する端部側に向かうに従って溝深さが深くなっている。詳しくは、屈曲ラグ溝42は、第1セカンド陸部22a内での屈曲ラグ溝42の終端部42d側から、屈曲ラグ溝42における外側周方向溝35に開口する端部側に向かうに従って、屈曲部43の位置を境として溝幅が広くなっており、溝深さも深くなっている。
【0058】
屈曲ラグ溝42は、屈曲部43の位置を境として溝幅が異なっているため、屈曲ラグ溝42の溝幅は、第1延在部42aと第2延在部42bと第3延在部42cとで互いに異なっている。具体的には、屈曲ラグ溝42の溝幅は、第1延在部42aの溝幅Wg1と、第2延在部42bの溝幅Wg2と、第3延在部42cの溝幅Wg3との関係が、Wg1>Wg2>Wg3を満たしている。
【0059】
図4は、
図3に示す屈曲ラグ溝42の延在方向に沿った断面の模式図である。屈曲ラグ溝42は、屈曲部43の位置を境として溝深さも異なっているため、屈曲ラグ溝42の溝深さは、第1延在部42aと第2延在部42bと第3延在部42cとで互いに異なっている。具体的には、屈曲ラグ溝42の溝深さは、第1延在部42aの溝深さDg1と、第2延在部42bの溝深さDg2と、第3延在部42cの溝深さDg3との関係が、Dg1>Dg2>Dg3を満たしている。
【0060】
また、屈曲ラグ溝42が配置される陸部20である第1セカンド陸部22aには、屈曲ラグ溝42が開口する側の周方向溝30とは異なる周方向溝30と屈曲ラグ溝42とに開口する連通サイプ61が配置されている。つまり、連通サイプ61は、第1セカンド陸部22aを区画する2本の周方向溝30のうち、屈曲ラグ溝42が開口する側の周方向溝30とは異なる周方向溝30である第1内側周方向溝31aに一端が開口し、他端が屈曲ラグ溝42に開口している。詳しくは、連通サイプ61は、屈曲ラグ溝42の第1屈曲部43aの位置で屈曲ラグ溝42に開口しており、第1屈曲部43aの位置から第1内側周方向溝31a側に向かう第1延在部42aの延長線に沿って形成され、端部が第1内側周方向溝31aに開口している。屈曲ラグ溝42と第1内側周方向溝31aとの間に亘って形成される連通サイプ61は、ストレート形状のサイプ60として形成されている。
【0061】
また、第1セカンド陸部22aに配置されるサイプ60は、タイヤ幅方向に対してタイヤ周方向に傾斜して配置されており、換言すると、第1セカンド陸部22aに配置されるサイプ60は、タイヤ周方向に対してタイヤ幅方向に傾斜して配置されている。具体的には、第1セカンド陸部22aに配置されるサイプ60は、屈曲ラグ溝42において長さが最も長く形成される第1延在部42aのタイヤ周方向に対するタイヤ幅方向への傾斜方向と同じ方向に、タイヤ周方向に対して傾斜している。
【0062】
図5は、
図2のC部詳細図である。ブロック状の陸部20である第2セカンド陸部22bに配置される周方向細溝50は、第2セカンド陸部22b内で延在方向が変化する屈曲部51を1箇所以上有することにより、相対的に長さが異なる長尺部50aと短尺部50bとを有している。この場合における長尺部50aと短尺部50bとは、短尺部50bと比較して長尺部50aの方が、長さが相対的に長くなっている。本実施形態では、周方向細溝50は、屈曲部51を2箇所に有しており、即ち、周方向細溝50は、2箇所で屈曲している。2箇所の屈曲部51は、周方向細溝50の溝幅方向における屈曲の方向が互いに反対方向になっており、このため、周方向細溝50は、タイヤ周方向に延びつつ2箇所で屈曲することにより、クランク状の形状で形成されている。
【0063】
周方向細溝50が有する屈曲部51は、少なくとも1つの屈曲部51の屈曲の角度θbが90°以上になっており、本実施形態では、周方向細溝50が有する2箇所の屈曲部51の屈曲の角度θbが、いずれも90°以上になっている。この場合における屈曲部51の屈曲の角度θbは、屈曲の劣角側の角度になっている。即ち、周方向細溝50の屈曲部51は、屈曲の角度が鈍角で形成されている。また、屈曲部51の屈曲の角度は、周方向細溝50の溝幅の中心線における角度になっている。なお、周方向細溝50の屈曲部51の角度θは、90°≦θb≦140°の範囲内であるのが好ましい。
【0064】
クランク状の形状で形成される周方向細溝50は、2箇所の屈曲部51同士の間の部分が短尺部50bになっており、それぞれの屈曲部51と、周方向細溝50における連通ラグ溝44に開口する端部との間の部分が長尺部50aになっている。つまり、周方向細溝50は、タイヤ周方向に隣り合う連通ラグ溝44に対してそれぞれ開口する2箇所の長尺部50aと、2箇所の長尺部50aにおける連通ラグ溝44に開口する側の端部の反対側の端部同士の間に亘って配置される短尺部50bとを有している。2箇所の長尺部50aは、いずれも長さが短尺部50bの長さよりも長くなっており、長尺部50a同士では、長さがほぼ同じ長さになっている。
【0065】
また、周方向細溝50は、1本の周方向細溝50が有する長尺部50aの総長さが、1本の周方向細溝50の全長の60%以上90%以下の範囲内になっている。つまり、周方向細溝50は、2箇所の長尺部50aのうち、一方の長尺部50aの長さをL1とし、他方の長尺部50aの長さをL2とし、また、短尺部50bの長さをL3とした場合に、長尺部50aの総長さ(L1+L2)が、1本の周方向細溝50の全長(L1+L2+L3)の60%以上90%以下の範囲内になっている。即ち、周方向細溝50の各長さは、0.6≦(L1+L2)/(L1+L2+L3)≦0.9の関係を満たしている。
【0066】
周方向細溝50が有する2箇所の長尺部50aは、いずれもタイヤ周方向に対してタイヤ幅方向に傾斜しており、タイヤ周方向に対する傾斜角は、2箇所の長尺部50a同士でほぼ同じ大きさになっている。周方向細溝50の長尺部50aの、タイヤ周方向に対するタイヤ幅方向への傾きθnは、5°以上45°以下の範囲内になっている。
【0067】
なお、これらの周方向細溝50の長尺部50aの長さL1、L2や短尺部50bの長さL3、及び長尺部50aの傾きθnは、周方向細溝50の溝幅の中心線における長さや傾きになっている。
【0068】
周方向細溝50が有する短尺部50bは、タイヤ周方向に対するタイヤ幅方向への傾斜方向が逆方向になっている。周方向細溝50は、このように長尺部50aと短尺部50bとでタイヤ周方向に対するタイヤ幅方向への傾斜方向が互いに逆方向になることにより、タイヤ周方向に延びつつタイヤ幅方向に振幅する、ジグザグ状に形成されている。
【0069】
第2セカンド陸部22bに配置されるサイプ60は、タイヤ幅方向に対してタイヤ周方向に傾斜して配置されており、換言すると、第2セカンド陸部22bに配置されるサイプ60は、タイヤ周方向に対してタイヤ幅方向に傾斜して配置されている。具体的には、第2セカンド陸部22bに配置されるサイプ60は、周方向細溝50の長尺部50aのタイヤ周方向に対するタイヤ幅方向への傾斜方向に対して逆方向に、タイヤ周方向に対して傾斜している。
【0070】
周方向細溝50は、端部が連通ラグ溝44に開口しているが、同じ連通ラグ溝44に対して連通ラグ溝44の溝幅方向における互いに反対側から開口する周方向細溝50同士は、連通ラグ溝44に対して、タイヤ幅方向において近い位置に開口している、或いは、タイヤ幅方向において同じ位置となる部分を有して開口している。
【0071】
周方向細溝50が配置される第2セカンド陸部22bのタイヤ幅方向における両側を区画する2本の周方向溝30のうち、タイヤ幅方向内側を区画する第2内側周方向溝31bは、タイヤ周方向に延びつつタイヤ幅方向に振幅することにより、ジグザグ状に形成されている。また、第2内側周方向溝31bは、相対的に長さが異なる長尺部32と短尺部33を有するジグザグ状に形成されており、長尺部32と短尺部33とは、ジグザグの屈曲の位置を境として交互に配置されている。この場合における長尺部32と短尺部33とは、短尺部33と比較して長尺部32の方が、長さが相対的に長くなっている。
【0072】
このように、長尺部32と短尺部33とを有してジグザグ状に形成される第2内側周方向溝31bは、タイヤ周方向におけるジグザグの周期が、隣り合う連通ラグ溝44同士のタイヤ周方向におけるピッチと同じ大きさになっている。このため、第2内側周方向溝31bが有する長尺部32と短尺部33とは、第2内側周方向溝31bにおける、タイヤ周方向に隣り合う連通ラグ溝44同士の間に位置する部分に、1つずつが位置している。これにより、第2内側周方向溝31bにおける、1つの第2セカンド陸部22bを区画する部分には、長尺部32と短尺部33とがそれぞれ1つずつ位置している。換言すると、1つの第2セカンド陸部22bにおける第2内側周方向溝31bによって形成される部分は、第2内側周方向溝31bが有する一組の長尺部32と短尺部33とにより区画されている。
【0073】
第2内側周方向溝31bは、タイヤ周方向に延びつつタイヤ幅方向に振幅して形成されているため、長尺部32と短尺部33とは、タイヤ周方向に対してタイヤ幅方向にそれぞれ傾斜しており、且つ、タイヤ幅方向への傾斜方向が互いに反対方向になっている。第2セカンド陸部22bに配置される周方向細溝50は、このようにタイヤ周方向に対して傾斜する第2内側周方向溝31bの長尺部32に対して、長尺部50aのタイヤ周方向に対するタイヤ幅方向への傾斜方向が、逆方向になっている。即ち、周方向細溝50は、周方向細溝50が有する2箇所の長尺部50aのいずれもが、第2内側周方向溝31bの長尺部32に対して、タイヤ周方向に対するタイヤ幅方向への傾斜方向が逆方向になっている。
【0074】
なお、第2内側周方向溝31bの長尺部32は、タイヤ周方向に対するタイヤ幅方向への傾きθcが、5°以上30°以下の範囲内になっている。この場合における第2内側周方向溝31bの長尺部32の傾きθcは、第2内側周方向溝31bの溝幅の中心線における傾きになっている。周方向細溝50の長尺部50aは、タイヤ周方向に対するタイヤ幅方向への傾きθnが、第2内側周方向溝31bの長尺部32の傾きθcよりも大きくなって形成されるのが好ましい。
【0075】
また、周方向細溝50が有する屈曲部51は、周方向細溝50が配置される陸部20のタイヤ幅方向における中央を中心とする、陸部20のタイヤ幅方向における最大幅の40%の範囲内に配置されている。つまり、周方向細溝50が有する2箇所の屈曲部51は、いずれも周方向細溝50が配置される第2セカンド陸部22bのタイヤ幅方向における中央CB2を中心とする、第2セカンド陸部22bのタイヤ幅方向における最大幅WB2の40%の範囲である配置領域AP2内に配置されている。
【0076】
ここでいう配置領域AP2は、換言すると、第2セカンド陸部22bのタイヤ幅方向における中央CB2のタイヤ幅方向両側に、第2セカンド陸部22bの最大幅WB2の20%ずつの範囲となる領域になっている。つまり、配置領域AP2は、第2セカンド陸部22bのタイヤ幅方向における最大幅WB2となる部分のタイヤ幅方向における両端のうち、一端側の位置を0%とし、他端側の位置を100%とする場合における、30%の位置と70%の位置との間の範囲の領域になっている。
【0077】
本実施形態に係る空気入りタイヤ1を車両に装着する際には、空気入りタイヤ1をリムホイールにリム組みし、内部に空気を充填してインフレートした状態で車両に装着する。空気入りタイヤ1を装着した車両が走行すると、トレッド部2のトレッド接地面3のうち下方に位置するトレッド接地面3が路面に接触しながら空気入りタイヤ1は回転する。空気入りタイヤ1を装着した車両で乾燥した路面を走行する場合には、主にトレッド接地面3と路面との間の摩擦力により、駆動力や制動力を路面に伝達したり、旋回力を発生させたりすることにより走行する。
【0078】
また、濡れた路面を走行する際には、トレッド接地面3と路面との間の水が周方向溝30やラグ溝40等の溝やサイプ60に入り込み、これらの溝でトレッド接地面3と路面との間の水を排水しながら走行する。これにより、トレッド接地面3は路面に接地し易くなり、トレッド接地面3と路面との間の摩擦力により、車両は走行することが可能になる。
【0079】
また、雪上路面を走行する際には、空気入りタイヤ1は路面上の雪をトレッド接地面3で押し固めると共に、路面上の雪が周方向溝30やラグ溝40に入り込むことにより、これらの雪も溝内で押し固める状態になる。この状態で、空気入りタイヤ1に駆動力や制動力が作用したり、車両の旋回によってタイヤ幅方向への力が作用したりすると、溝内の雪に対して作用するせん断力である、いわゆる雪柱せん断力が、空気入りタイヤ1と雪との間で発生する。雪上路面を走行する際には、この雪柱せん断力によって空気入りタイヤ1と路面との間で抵抗が発生することにより、駆動力や制動力を路面に伝達することができ、スノートラクション性を確保することができる。これにより、車両は雪上路面での走行が可能になる。
【0080】
また、雪上路面や氷上路面を走行する際には、周方向溝30やラグ溝40、サイプ60のエッジ効果も用いて走行する。つまり、雪上路面や氷上路面を走行する際には、周方向溝30のエッジやラグ溝40のエッジ、サイプ60のエッジが雪面や氷面に引っ掛かることによる抵抗も用いて走行する。また、氷上路面を走行する際には、氷上路面の表面の水をサイプ60で吸水し、氷上路面とトレッド接地面3との間の水膜を除去することにより、氷上路面とトレッド接地面3は接触し易くなる。これにより、トレッド接地面3は、摩擦力やエッジ効果によって氷上路面との間の抵抗が大きくなり、空気入りタイヤ1を装着した車両の走行性能を確保することができる。
【0081】
トレッド部2に形成される周方向溝30やラグ溝40、サイプ60は、これらのように濡れた路面や雪上路面、氷上路面の走行時における走行性能の確保に寄与するため、例えば、濡れた路面での走行性能であるウェット性能を向上させるためには、トレッド部2の溝面積を増加させることが有効である。つまり、周方向溝30やラグ溝40等の溝の面積である溝面積を増加させた場合は、濡れた路面を走行した際に、路面上の水が溝に入り込み易くなるため、トレッド接地面3と路面との間の水の排水性を高めることができ、ウェット性能を向上させることができる。
【0082】
また、溝面積を増加させることは、雪上路面での走行性能である雪上性能の向上にも有効になっている。つまり、溝面積を増加させた場合は、雪上路面の走行時に、周方向溝30やラグ溝40に入り込ませることのできる雪の量を増加させることができるため、溝内に入り込んだ雪に対して作用する雪柱せん断力を増加させることができる。これにより、雪上路面の走行時におけるスノートラクション性を向上させることができ、雪上性能を向上させることができる。
【0083】
ここで、トレッド部2の溝面積を増加させた場合、周方向溝30やラグ溝40によって区画される陸部20は、溝面積の増加に伴って体積が減少する。陸部20の体積が減少した場合、陸部20は、剛性が低下するが、陸部20の剛性が低下すると、荷重が作用した際に陸部20は変形し易くなり、倒れ込み易くなる。陸部20が倒れ込むと、倒れ込んだ陸部20の接地面積が低減するため、走行性能を確保し難くなる虞がある。
【0084】
例えば、氷上路面の走行時は、溝のエッジ成分によるエッジ効果の他に、氷上路面にトレッド接地面3が接地することによる摩擦力も重要になる。しかし、トレッド部2の溝面積を増加させることにより陸部20の剛性が低下した場合、陸部20は荷重が作用した際に倒れ込み易くなるため、接地面積が低減し易くなり、摩擦力による走行性能を確保し難くなる虞がある。このため、トレッド部2の溝面積を増加させることにより陸部20の剛性が低下した場合、氷上路面の走行時における制動時に陸部20が倒れ込み易くなることにより、接地面積が低減し易くなり、氷上路面での制動性能が低下し易くなる虞がある。
【0085】
これに対し、本実施形態に係る空気入りタイヤ1では、タイヤ幅方向における両側が周方向溝30により区画される陸部20である第1セカンド陸部22aに、一端が周方向溝30に開口し、他端が陸部20内で終端し、延在方向が変化する屈曲部43を2箇所以上有する屈曲ラグ溝42が配置されている。これにより、陸部20の剛性が低下することを抑制しつつ、トレッド部2の溝面積を増加させることができる。つまり、屈曲ラグ溝42は、長さ方向における両端部のうち、周方向溝30に開口する側の端部の反対側の端部が陸部20内で終端するため、屈曲ラグ溝42によって陸部20がタイヤ周方向に分断されることを抑制することができる。換言すると、屈曲ラグ溝42が配置される陸部20をタイヤ周方向に連続した形状することができ、これにより、陸部20の剛性を確保することができ、陸部20に荷重が作用した際における陸部20の倒れ込みを抑制することができる。従って、陸部20の倒れ込みによって接地面積が低減することを抑制できるため、氷上路面の走行時における制動性能を含む、氷上路面での走行性能である氷上性能を確保することができる。
【0086】
また、屈曲ラグ溝42は、2箇所以上の屈曲部43を有しており、即ち、2箇所以上で屈曲して形成されているため、長さを確保することができ、溝面積を確保することができる。これにより、雪上路面の走行時に、屈曲ラグ溝42内に多くの雪を入り込ませることができ、雪柱せん断力を確保することができるため、スノートラクション性を高めることができ、雪上性能を向上させることができる。
【0087】
また、屈曲ラグ溝42は、2箇所以上で屈曲して形成されることによって溝面積が確保されるため、濡れた路面の走行時に屈曲ラグ溝42内に多くの水を入り込ませることができる。また、屈曲ラグ溝42は、一方の端部が周方向溝30に開口するため、屈曲ラグ溝42に入り込んだ多くの水を周方向溝30に流すことができる。これにより、トレッド接地面3と路面との間の水を屈曲ラグ溝42によって排水する際における排水性が高くなるため、ウェット性能を向上させることができる。これらの結果、氷上性能の低下を抑えつつ、雪上性能及びウェット性能を確保することができる。
【0088】
また、屈曲ラグ溝42の屈曲部43は、屈曲の角度θ1、θ2が90°以上であるため、より確実に陸部20の剛性を確保すると共に、屈曲ラグ溝42内での水の流れ易さを確保することができる。つまり、屈曲部43の屈曲の角度θ1、θ2が90°未満である場合、即ち、屈曲部43が鋭角となって形成されている場合は、陸部20における屈曲部43の劣角側に位置する部分の剛性を確保し難くなる虞がある。この場合、陸部20に荷重が作用した際における陸部20の倒れ込みを効果的に抑制し難なる虞がある。また、屈曲部43の屈曲の角度θ1、θ2が90°未満である場合は、屈曲ラグ溝42内に水が入り込んだ際における、屈曲ラグ溝42内での水の流れが悪くなる虞がある。この場合、屈曲ラグ溝42での排水性を効果的に確保し難くなる虞がある。
【0089】
これに対し、屈曲部43の屈曲の角度θ1、θ2が90°以上である場合は、陸部20における屈曲部43の劣角側に位置する部分の剛性を確保し、陸部20の倒れ込みを効果的に抑制すると共に、屈曲ラグ溝42内での水の流れ易さを確保することができる。従って、陸部20の倒れ込みによって接地面積が低減することをより確実に抑制すると共に、屈曲ラグ溝42での排水性をより確実に確保することができる。この結果、より確実に氷上性能とウェット性能との両立を図ることができる。
【0090】
また、屈曲ラグ溝42が有する屈曲部43は、屈曲ラグ溝42が配置される陸部20である第1セカンド陸部22aのタイヤ幅方向における中央CB1を中心とする、第1セカンド陸部22aの最大幅WB1の40%の範囲内に配置されるため、より確実に第1セカンド陸部22aの剛性を確保すると共に、雪上路面の走行時における雪柱せん断力を確保することができる。つまり、屈曲部43の配置位置が、第1セカンド陸部22aの最大幅WB1の40%の範囲外である場合は、雪上性能や氷上性能を確保し難くなる虞がある。例えば、屈曲部43の配置位置が、屈曲ラグ溝42が開口する側の周方向溝30である外側周方向溝35寄りの位置で、第1セカンド陸部22aの最大幅WB1の40%の範囲外である場合は、屈曲ラグ溝42の長さが短くなり過ぎる虞がある。この場合、屈曲ラグ溝42の溝面積を確保し難くなるため、雪柱せん断力を効果的に確保し難くなる虞がある。また、屈曲部43の配置位置が、屈曲ラグ溝42が開口しない側の周方向溝30である第1内側周方向溝31a寄りの位置で、第1セカンド陸部22aの最大幅WB1の40%の範囲外である場合は、第1セカンド陸部22aにおける屈曲部43と第1内側周方向溝31aとの間の部分の剛性を確保し難くなる虞がある。この場合、第1セカンド陸部22aに荷重が作用した際における第1セカンド陸部22aの倒れ込みを抑制し難なり、荷重が作用した際における接地面積の低減を効果的に抑制し難くなる虞がある。
【0091】
これに対し、屈曲ラグ溝42の屈曲部43の配置位置が、第1セカンド陸部22aの最大幅WB1の40%の範囲内である場合は、第1セカンド陸部22aの剛性を確保しつつ、屈曲ラグ溝42の長さが短くなり過ぎるのを抑制することができる。これにより、第1セカンド陸部22aの倒れ込みによって接地面積が低減することをより確実に抑制すると共に、屈曲ラグ溝42に入り込ませることのできる雪の量を確保して、雪上路面の走行時における雪柱せん断力を確保することができる。この結果、より確実に氷上性能と雪上性能との両立を図ることができる。
【0092】
また、屈曲ラグ溝42が配置される第1セカンド陸部22aには、第1内側周方向溝31aと屈曲ラグ溝42とに開口する連通サイプ61が配置されるため、屈曲ラグ溝42の近傍で第1セカンド陸部22aの剛性が局所的に高くなることを抑制することができる。つまり、第1セカンド陸部22aにおける屈曲ラグ溝42が配置される部分の近傍は、屈曲ラグ溝42によって剛性が低めになっているため、第1セカンド陸部22aにおける第1内側周方向溝31aと屈曲ラグ溝42との間の部分は、剛性が低くなっている部分と比較して、相対的に局所的に剛性が高くなっている。このため、第1セカンド陸部22aにおける屈曲ラグ溝42が配置される部分の近傍では、剛性差に起因する偏摩耗が発生し易くなる虞がある。
【0093】
これに対し、第1セカンド陸部22aに、第1内側周方向溝31aと屈曲ラグ溝42とに開口する連通サイプ61を配置した場合には、第1内側周方向溝31aと屈曲ラグ溝42との間の部分が、他の部分と比較して相対的に剛性が高くなり過ぎることを抑制できる。これにより、剛性差に起因する偏摩耗を抑制することができる。この結果、耐偏摩耗性を確保することができる。
【0094】
また、屈曲ラグ溝42は、陸部20内で終端する終端部42d側から周方向溝30に開口する端部側に向かうに従って溝深さが深くなっているため、濡れた路面の走行に、屈曲ラグ溝42に入り込んだ水を、屈曲ラグ溝42が開口する周方向溝30に向けて流し易くすることができる。また、屈曲ラグ溝42は、陸部20内で終端する終端部42d側から周方向溝30に開口する端部側に向かうに従って溝幅が広くなっているため、これによっても、屈曲ラグ溝42に入り込んだ水を周方向溝30に向けて流し易くすることができる。これにより、屈曲ラグ溝42での排水性を、より確実に確保することができる。この結果、より確実にウェット性能を向上させることができる。
【0095】
また、陸部20には、タイヤ幅方向に延びる複数のサイプ60が配置されているため、エッジ成分を増加させることができ、氷上路面の走行時に、エッジ効果により氷上性能を向上させることができる。また、陸部20に複数のサイプ60を配置することにより、濡れた路面の走行時に、路面上の水をサイプ60によって吸水することができ、排水性を向上させることができる。この結果、より確実に氷上性能とウェット性能とを向上させることができる。
【0096】
[変形例]
なお、上述した実施形態では、屈曲ラグ溝42が有する屈曲部43は、2箇所になっているが、1つの屈曲ラグ溝42が有する屈曲部43は、3箇所以上であってもよい。また、上述した実施形態では、屈曲ラグ溝42が有する2箇所の屈曲部43の屈曲の方向は、屈曲ラグ溝42の溝幅方向における屈曲の方向が同じ方向になっているが、1つの屈曲ラグ溝42が有する複数の屈曲部43の屈曲の方向は、互いに異なる方向であってもよい。屈曲ラグ溝42は、屈曲部43の数や屈曲の方向に関わらず、複数の屈曲部43を有することにより、屈曲ラグ溝42が配置される陸部20の剛性の低下を抑制しつつ、溝面積を確保することができる。
【0097】
また、上述した実施形態では、屈曲ラグ溝42が有する2箇所の屈曲部43は、屈曲の角度がいずれも90°以上になっているが、屈曲部43の屈曲の角度は、全ての屈曲部43の屈曲の角度が90°以上でなくてもよい。屈曲部43は、1つの屈曲ラグ溝42が有する複数の屈曲部43のうち、少なくとも1つの屈曲部43の屈曲の角度が90°以上であればよい。屈曲ラグ溝42は、少なくとも1つの屈曲部43の屈曲の角度が90°以上で形成されることにより、屈曲ラグ溝42が配置される陸部20の剛性の低下を抑制しつつ、屈曲ラグ溝42内での水の流れ易さを確保することができる。
【0098】
また、上述した実施形態では、屈曲ラグ溝42は、屈曲ラグ溝42のタイヤ幅方向における両側を区画する周方向溝30のうち、陸部20のタイヤ幅方向外側を区画する周方向溝30に開口しているが、屈曲ラグ溝42が開口する周方向溝30は、陸部20のタイヤ幅方向内側を区画する周方向溝30であってもよい。
【0099】
また、上述した実施形態では、屈曲ラグ溝42は、タイヤ幅方向に並んで配置される複数の陸部20のうち、第1セカンド陸部22aに配置されているが、屈曲ラグ溝42が配置される陸部20は、第1セカンド陸部22a以外の陸部20であってもよい。また、屈曲ラグ溝42は、タイヤ幅方向における位置が互いに異なる複数の陸部20に配置されていてもよい。
【0100】
また、上述した実施形態では、トレッド部2に配置される周方向溝30は4本になっているが、周方向溝30は4本以外であってもよい。また、上述した実施形態や変形例は、適宜組み合わせてもよい。また、上述した実施形態では、本発明に係るタイヤの一例として空気入りタイヤ1を用いて説明したが、本発明に係るタイヤは、空気入りタイヤ1以外であってもよい。本発明に係るタイヤは、例えば、気体を充填することなく使用することができる、いわゆるエアレスタイヤであってもよい。
【0101】
[実施例]
図6は、空気入りタイヤの性能評価試験の結果を示す図表である。以下、上記の空気入りタイヤ1について、従来例の空気入りタイヤと、本発明に係る空気入りタイヤ1と、本発明に係る空気入りタイヤ1と比較する比較例の空気入りタイヤとについて行なった性能の評価試験について説明する。性能評価試験は、雪上路面での制動性能と、氷上路面での制動性能と、濡れた路面での制動性能とについての試験を行った。
【0102】
性能評価試験は、JATMAで規定されるタイヤの呼びが195/65R15 91Qサイズの空気入りタイヤ1を、リムサイズ15×6.5JのJATMA標準のリムホイールにリム組みし、排気量が1800ccの前輪駆動の評価車両に試験タイヤを装着して、空気圧を前輪250kPa、後輪240kPaに調整して評価車両で走行をすることにより行った。
【0103】
各試験項目の評価方法は、雪上制動は、試験タイヤを装着した評価車両で、雪上路面のテストコースで制動試験を行い、制動距離の逆数を、後述する従来例を100とする指数で表すことにより評価した。雪上制動は、指数が大きいほど雪上路面での制動距離が短く、雪上制動についての性能が優れていることを示している。
【0104】
また、氷上制動は、試験タイヤを装着した評価車両で、氷上路面のテストコースで制動試験を行い、制動距離の逆数を、後述する従来例を100とする指数で表すことにより評価した。氷上制動は、指数が大きいほど氷上路面での制動距離が短く、氷上制動についての性能が優れていることを示している。
【0105】
また、ウェット制動は、試験タイヤを装着した評価車両で、濡れた路面のテストコースで制動試験を行い、制動距離の逆数を、後述する従来例を100とする指数で表すことにより評価した。ウェット制動は、指数が大きいほど濡れた路面での制動距離が短く、ウェット制動についての性能が優れていることを示している。
【0106】
性能評価試験は、従来の空気入りタイヤの一例である従来例の空気入りタイヤと、本発明に係る空気入りタイヤ1である実施例1~4、7と、本発明に係る空気入りタイヤ1と比較する空気入りタイヤである比較例と、参考例5、6との9種類の空気入りタイヤについて行った。このうち、従来例は、屈曲部を有する屈曲ラグ溝の両端が周方向溝に開口している。また、比較例は、屈曲ラグ溝の屈曲部が1箇所になっている。
【0107】
これに対し、本発明に係る空気入りタイヤ1の一例である実施例1~4、7は、全て屈曲ラグ溝42は、一端が周方向溝30に開口し、他端は陸部20内で終端することにより非開口になっており、屈曲部43を2箇所以上有している。さらに、実施例1~4、7と、参考例5、6に係る空気入りタイヤ1は、屈曲部43の屈曲の角度や、屈曲部43の位置が陸部20の最大幅の40%の範囲内であるか否か、連通サイプ61の有無、屈曲ラグ溝42の開口側の端部側と非開口側の端部側との溝深さの相対関係、屈曲ラグ溝42の開口側の端部側と非開口側の端部側との溝幅の相対関係が、それぞれ異なっている。
【0108】
これらの空気入りタイヤ1を用いて性能評価試験を行った結果、
図6に示すように、実施例1~
4、7に係る空気入りタイヤ1は、従来例に対して、雪上制動と氷上制動とウェット制動とのいずれの性能も向上させることができることが分かった。つまり、実施例1~
4、7に係る空気入りタイヤ1は、氷上性能の低下を抑えつつ、雪上性能及びウェット性能を確保することができる。
【符号の説明】
【0109】
1 空気入りタイヤ
2 トレッド部
3 トレッド接地面
5 ショルダー部
8 サイドウォール部
10 ビード部
13 カーカス層
14 ベルト層
20 陸部
21 センター陸部
22 セカンド陸部
22a 第1セカンド陸部
22b 第2セカンド陸部
23 ショルダー陸部
30 周方向溝
31 内側周方向溝
31a 第1内側周方向溝
31b 第2内側周方向溝
32 長尺部
33 短尺部
35 外側周方向溝
40 ラグ溝
41 センターラグ溝
42 屈曲ラグ溝
43 屈曲部
44 連通ラグ溝
45 ショルダーラグ溝
50 周方向細溝
50a 長尺部
50b 短尺部
51 屈曲部
55 ショルダー細溝
60 サイプ
61 連通サイプ