(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-02-12
(45)【発行日】2025-02-20
(54)【発明の名称】自動車用パネル構造および自動車用パネル構造の製造方法
(51)【国際特許分類】
B62D 25/02 20060101AFI20250213BHJP
【FI】
B62D25/02 B
(21)【出願番号】P 2023545555
(86)(22)【出願日】2022-08-29
(86)【国際出願番号】 JP2022032381
(87)【国際公開番号】W WO2023032906
(87)【国際公開日】2023-03-09
【審査請求日】2024-02-14
(31)【優先権主張番号】P 2021143779
(32)【優先日】2021-09-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【氏名又は名称】大浪 一徳
(74)【代理人】
【識別番号】100134359
【氏名又は名称】勝俣 智夫
(74)【代理人】
【識別番号】100188592
【氏名又は名称】山口 洋
(74)【代理人】
【識別番号】100217249
【氏名又は名称】堀田 耕一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100221279
【氏名又は名称】山口 健吾
(74)【代理人】
【識別番号】100207686
【氏名又は名称】飯田 恭宏
(74)【代理人】
【識別番号】100224812
【氏名又は名称】井口 翔太
(72)【発明者】
【氏名】藥師神 豊
(72)【発明者】
【氏名】西村 隆一
(72)【発明者】
【氏名】澤 靖典
【審査官】林 政道
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2020/145198(WO,A1)
【文献】国際公開第2021/064870(WO,A1)
【文献】特開2009-073406(JP,A)
【文献】特開2001-271446(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B62D 17/00-25/08
B62D 25/14-29/04
B32B 1/00-43/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
板状のアウタパネル部材と、
前記アウタパネル部材の内面に配置される樹脂部材と、
前記アウタパネル部材と、前記樹脂部材とを接着する接着部と、
を備え、
前記アウタパネル部材は、母材と、前記母材上に設けられる塗装膜と、を備え、
前記母材の板厚が0.3mm~0.5mmであり、
前記樹脂部材の曲げ剛性が0.3×10
6N・mm
2以上であり、
前記接着部が、常温硬化接着剤の硬化物を含有
し、
前記樹脂部材が発泡樹脂である自動車用パネル構造。
【請求項2】
前記アウタパネル部材の内面に配置される前記樹脂部材の配置面積が、前記アウタパネル部材の内面の全面積に対して50面積%以上である、請求項1に記載の自動車用パネル構造。
【請求項3】
前記樹脂部材の前記配置面積に対する前記接着部の面積が5面積%以上である、請求項2に記載の自動車用パネル構造。
【請求項4】
前記アウタパネル部材の内面に対向して配置されるインナ部材をさらに備え、
前記インナ部材の少なくとも一部が前記樹脂部材に埋められている、請求項1または2に記載の自動車用パネル構造。
【請求項5】
前記インナ部材が、前記アウタパネル部材の面内方向における一方向に沿って延在する、請求項4に記載の自動車用パネル構造。
【請求項6】
前記樹脂部材が熱硬化性樹脂である、請求項1または2に記載の自動車用パネル構造。
【請求項7】
前記樹脂部材が熱可塑性樹脂である、請求項1または2に記載の自動車用パネル構造。
【請求項8】
前記常温硬化接着剤がアクリル系接着剤である、請求項1または2に記載の自動車用パネル構造。
【請求項9】
前記アウタパネル部材は、引張強さが440MPa以上である、請求項1または2に記載の自動車用パネル構造。
【請求項10】
前記樹脂部材のうち、前記アウタパネル部材の面内方向に垂直な方向の寸法が最大となる部位の厚さが3mm以上60mm以下である、請求項1または2に記載の自動車用パネル構造。
【請求項11】
前記樹脂部材が塗装されていない、請求項1または2に記載の自動車用パネル構造。
【請求項12】
板状のアウタパネル部材の母材に塗装を行う塗装工程と、
前記塗装工程後に、前記アウタパネル部材の内面および樹脂部材の少なくとも一方に、常温硬化接着剤を塗布する、接着剤塗布工程と、
前記接着剤塗布工程後に、前記アウタパネル部材の内面と、前記樹脂部材と、を接着する、接着工程と、
を備え
、前記樹脂部材が発泡樹脂である、自動車用パネル構造の製造方法。
【請求項13】
前記アウタパネル部材の内面に配置される前記樹脂部材の配置面積が、前記アウタパネル部材の内面の全面積に対して50面積%以上である、請求項12に記載の自動車用パネル構造の製造方法。
【請求項14】
前記樹脂部材の前記配置面積に対する前記常温硬化接着剤の塗布面積が5面積%以上である、請求項13に記載の自動車用パネル構造の製造方法。
【請求項15】
前記接着剤塗布工程において、
前記アウタパネル部材の内面および前記樹脂部材の少なくとも一方の配置領域の全面に対し、前記常温硬化接着剤を塗布する、請求項12または13に記載の自動車用パネル構造の製造方法。
【請求項16】
前記接着剤塗布工程において、
前記アウタパネル部材の内面および前記樹脂部材の少なくとも一方の配置領域に対し、前記常温硬化接着剤を線状に塗布する、請求項12または13に記載の自動車用パネル構造の製造方法。
【請求項17】
前記接着剤塗布工程において、
前記アウタパネル部材の内面および前記樹脂部材の少なくとも一方の配置領域に対し、前記常温硬化接着剤を点状に塗布する、請求項12または13に記載の自動車用パネル構造の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、自動車用パネル構造および自動車用パネル構造の製造方法に関する。
本願は、2021年9月3日に、日本に出願された特願2021-143779号に基づき優先権を主張し、その内容をここに援用する。
【背景技術】
【0002】
現在、自動車を軽量化する技術が求められている。自動車を構成するルーフ、フード、又はドアなどのアウタパネルを高強度化することができれば、アウタパネルを薄くしても十分な強度を維持することができると考えられている。そこで、自動車の軽量化のために、アウタパネルを高強度化する技術の開発が進められている。
【0003】
しかし、アウタパネルを薄くすると張り剛性不足の問題が顕在化する。張り剛性とは、アウタパネルのたわみにくさを表す特性である。例えば、自動車のアウタパネルに手をついたとき、アウタパネルの張り剛性が高いと、アウタパネルはたわみにくい。
【0004】
張り剛性不足への対策として、例えば特許文献1には、外板上に発泡層を介して内板を設けて成る補強構造であって、発泡層が発泡倍率1.03~1.30倍の熱硬化性樹脂製発泡体である自動車車体の補強構造に関する技術が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1の方法では、発泡層と外板とを高温で加熱して接着している。外板の板厚が0.6mm以上の場合は、外板が厚いため、接着時に部材間の線膨張係数の差による面ひずみが生じにくい。しかし、軽量化のために、外板(アウタパネル部材)を薄くする(例えば板厚0.3mm~0.5mm)と、接着時に部材間の線膨張係数の差によって、外板に面ひずみが生じ、外観が劣化する場合がある。
【0007】
本発明は、上記の事情を鑑みなされた発明であり、軽量で、張り剛性に優れ、かつ、外観に優れた自動車用パネル構造および自動車用パネル構造の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記課題を解決するために、本発明は以下の手段を提案している。
(1) 本発明の一態様に係る自動車用パネル構造は、板状のアウタパネル部材と、
前記アウタパネル部材の内面に配置される樹脂部材と、
前記アウタパネル部材と、前記樹脂部材とを接着する接着部と、
を備え、
前記アウタパネル部材は、母材と、前記母材上に設けられる塗装膜と、を備え、
前記母材の板厚が0.3mm~0.5mmであり、
前記樹脂部材の曲げ剛性が0.3×106N・mm2以上であり、
前記接着部が、常温硬化接着剤の硬化物を含有し、
前記樹脂部材が発泡樹脂である。
(2)上記(1)に記載の自動車用パネル構造は、前記アウタパネル部材の内面に配置される前記樹脂部材の配置面積が、前記アウタパネル部材の内面の全面積に対して50面積%以上であってもよい。
(3)上記(2)に記載の自動車用パネル構造は、前記樹脂部材の前記配置面積に対する前記接着部の面積が5面積%以上であってもよい。
(4)上記(1)~(3)のいずれか1つに記載の自動車用パネル構造は、前記アウタパネル部材の内面に対向して配置されるインナ部材をさらに備え、前記インナ部材の少なくとも一部が前記樹脂部材に埋められていてもよい。
(5)上記(4)に記載の自動車用パネル構造は、前記インナ部材が、前記アウタパネル部材の面内方向における一方向に沿って延在してもよい。
(6)上記(1)~(5)のいずれか1つに記載の自動車用パネル構造は、前記樹脂部材が熱硬化性樹脂であってもよい。
(7)上記(1)~(5)のいずれか1つに記載の自動車用パネル構造は、前記樹脂部材が熱可塑性樹脂であってもよい。
(8)上記(1)~(7)のいずれか1つに記載の自動車用パネル構造は、前記常温硬化接着剤がアクリル系接着剤であってもよい。
(9)上記(1)~(8)のいずれか一つに記載の自動車用パネル構造は、前記アウタパネル部材は、引張強さが440MPa以上であってもよい。
(10)上記(1)~(9)のいずれか一つに記載の自動車用パネル構造は、前記樹脂部材のうち、前記アウタパネル部材の面内方向に垂直な方向の寸法が最大となる部位の厚さが3mm以上60mm以下であってもよい。
(11)上記(1)~(10)のいずれか1つに記載の自動車用パネル構造は、前記樹脂部材が塗装されていなくてもよい。
【0009】
(12)本発明の一態様に係る自動車用パネル構造の製造方法は、
板状のアウタパネル部材の母材に塗装を行う塗装工程と、
前記塗装工程後に、前記アウタパネル部材の内面および樹脂部材の少なくとも一方に、常温硬化接着剤を塗布する、接着剤塗布工程と、
前記接着剤塗布工程後に、前記アウタパネル部材の内面と、前記樹脂部材と、を接着する、接着工程と、を備え、前記樹脂部材が発泡樹脂である。
(13)上記(12)に記載の自動車用パネル構造の製造方法は、前記アウタパネル部材の内面に配置される前記樹脂部材の配置面積が、前記アウタパネル部材の内面の全面積に対して50面積%以上であってもよい。
(14)上記(13)に記載の自動車用パネル構造の製造方法は、前記樹脂部材の前記配置面積に対する前記常温硬化接着剤の塗布面積が5面積%以上であってもよい。
(15)上記(12)~(14)のいずれか1つに記載の自動車用パネル構造の製造方法は、前記接着剤塗布工程において、前記アウタパネル部材の内面および前記樹脂部材の少なくとも一方の配置領域の全面に対し、前記常温硬化接着剤を塗布してもよい。
(16)上記(12)~(14)のいずれか1項に記載の自動車用パネル構造の製造方法は、前記接着剤塗布工程において、前記アウタパネル部材の内面および前記樹脂部材の少なくとも一方の配置領域に対し、前記常温硬化接着剤を線状に塗布してもよい。
(17)上記(12)~(14)のいずれか1項に記載の自動車用パネル構造の製造方法は、前記接着剤塗布工程において、前記アウタパネル部材の内面および前記樹脂部材の少なくとも一方の配置領域に対し、前記常温硬化接着剤を点状に塗布してもよい。
【発明の効果】
【0010】
本発明の上記態様によれば、軽量で、張り剛性に優れ、かつ、外観に優れた自動車用パネル構造および自動車用パネル構造の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明の第1実施形態に係る自動車用パネル構造の平面図である。
【
図2】
図1の自動車用パネル構造のA-A線に沿った端面図である。
【
図3】本発明の第1実施形態に係る自動車用パネル構造の製造方法のフローチャートである。
【
図4】常温硬化接着剤の塗布位置を説明するための図である。
【
図5】本発明の第2実施形態に係る自動車用パネル構造の平面図である。
【
図6】
図5の自動車用パネル構造のB-B線に沿った端面図である。
【
図7】
図5の自動車用パネル構造のB1-B1線に沿った端面図である。
【
図8】本発明の第3実施形態に係る自動車用パネル構造の平面図である。
【
図9】
図8の自動車用パネル構造のC-C線に沿った端面図である。
【
図10】本発明の第3実施形態に係る自動車用パネル構造の製造方法のフローチャートである。
【
図11】常温硬化接着剤の塗布位置を説明するための図である。
【
図12】本発明の第4実施形態に係る自動車用パネル構造の平面図である。
【
図13】
図12の自動車用パネル構造のD-D線に沿った端面図である。
【
図14】本発明の第4実施形態に係る自動車用パネル構造の製造方法のフローチャートである。
【
図15】常温硬化接着剤の塗布位置を説明するための図である。
【
図16】本発明の第5実施形態に係る自動車用パネル構造の平面図である。
【
図17】
図16の自動車用パネル構造のE-E線に沿った端面図である。
【
図18】本発明の第5実施形態に係る自動車用パネル構造の製造方法のフローチャートである。
【
図19】常温硬化接着剤の塗布位置を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
<第1実施形態>
以下、本発明の第1実施形態に係る自動車用パネル構造について、図面を用いて詳細に説明する。なお、以下の説明で用いる図面は、特徴をわかりやすくするために、便宜上特徴となる部分を拡大して示している場合があり、各構成要素の寸法比率などが実際と同じであるとは限らない。また、以下の説明において例示される材料、寸法等は一例であって、本発明はそれらに限定されるものではなく、その要旨を変更しない範囲で適宜変更して実施することが可能である。本明細書中において、「~」を用いて表される数値範囲は、「~」の前後に記載される数値を下限値および上限値として含む範囲を意味する。
【0013】
図1は、本発明の第1実施形態に係る自動車用パネル構造の平面図である。また、
図2は、
図1の自動車用パネル構造のA-A線に沿った端面図である。
図1、2に示すように、本実施形態に係る自動車用パネル構造10は、板状のアウタパネル部材1と、アウタパネル部材1の内面に配置される樹脂部材2と、アウタパネル部材1と、樹脂部材2とを接着する接着部3と、を備える。以下、自動車用パネル構造10の各要素について説明する。本実施形態に係る自動車用パネル構造10は、サイドドアに適用される自動車用パネル構造である。
【0014】
(アウタパネル部材)
アウタパネル部材1は、車外側に向けて凸の曲面を有する板状の部材である。本開示においては、車外側の面を外面、車内側の面を内面と呼称する場合がある。アウタパネル部材1は、鋼板などの金属板をプレス成形することにより形成される。
【0015】
本開示のアウタパネル部材1は、塗装を行った後の部材である。即ち、アウタパネル部材1は、母材12と、母材12上に設けられる塗装膜14と、を備える。本開示において、塗装膜14は、母材12の外面および内面に設けられる。
【0016】
アウタパネル部材1の母材12の引張強さは、耐デント性の観点から、440MPa以上であることが好ましく、590MPa以上であることがより好ましい。母材12の引張強さは母材12からJIS Z 2241:2011に記載の5号試験片を作製し、JIS Z 2241:2011に記載の試験方法で求めることができる。
【0017】
塗装膜14は、自動車用塗料を用いて形成されるのであれば、特に限定されない。例えば、塗装膜14としては、カチオン性のエポキシ樹脂、カチオン性のアクリル樹脂、アニオン性のアクリル樹脂などを用いることができる。塗装膜14の厚さは、特に限定されない。塗装膜14の厚さは例えば、鋼板の片側で、20μm~100μmである。
【0018】
本開示のアウタパネル部材1の母材12の板厚は0.3mm~0.5mmである。アウタパネル部材1の母材12の板厚が0.3mm~0.5mmであれば、自動車用パネル構造10を大きく軽量化することができる。母材12の板厚が0.3mm未満の場合、十分な張り剛性を得ることができない。母材12の板厚が0.5mm超の場合、軽量化の効果が小さくなる。
【0019】
(樹脂部材)
本開示の樹脂部材2の曲げ剛性は0.3×106N・mm2以上である。本開示の樹脂部材2の曲げ剛性が0.3×106N・mm2未満の場合、十分な張り剛性が得られない。樹脂部材2の曲げ剛性が2×106N・mm2超となっても、効果が飽和するので、樹脂部材2の曲げ剛性は2×106N・mm2以下が好ましい。樹脂部材2の全体の平均の曲げ剛性が0.3×106N・mm2以上であることが好ましいが、樹脂部材2の一つ又は複数の部分において曲げ剛性が0.3×106N・mm2未満であってもよい。
【0020】
樹脂部材2の曲げ剛性は、例えば、以下の方法で測定することができる。例えば、SHIMAZU社製オートグラフAG-100KNDを使って、自動車用パネル構造10から切り出した樹脂部材2の試験片の測定が可能なように、JIS A1408:2017をベースに、試験片サイズ、曲げ圧子の半径、支持間距離を修正して、三点曲げ試験を実施し、曲げ圧子の最大荷重とストロークを測定する。具体的には、試験片は100mm幅、200mmの長さとし、支持間距離Lは180mmとし、圧子の曲げ半径は50mmとする。また、曲げ圧子のストローク速度は、5mm/minとする。それぞれ2回測定した平均値を求める。各測定における曲げ剛性は、式(1)により求めることができる。
曲げ剛性=E(ヤング率)×I(断面2次モーメント)…(1)
ヤング率:E=L3/4bh3×ΔF/Δs…(2)
[E:ヤング率(MPa)、I:断面二次モーメント(mm4)、L:支持間距離(mm)、b:試験片の幅(mm)、h:試験片厚み(mm)、ΔF:荷重の増加(N)、Δs:変形の増分(mm)]
【0021】
樹脂部材2のうち、アウタパネル部材1の面内方向に垂直な方向の寸法が最大となる部位(厚さ最大部位)の厚さは3mm以上60mm以下であることが好ましい。
樹脂部材2の厚さ最大部位の厚さが3mm以上であれば、アウタパネル部材1の薄肉化に伴う剛性不足を補うことができるため好ましい。
一方、樹脂部材2の厚さ最大部位の厚さが60mm超であっても効果が飽和するため、60mm以下であることが好ましい。
【0022】
樹脂部材2の材料は樹脂であればよく、熱硬化性樹脂および熱可塑性樹脂のいずれも使用することができる。
熱硬化性樹脂としては、例えば、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、並びにビニルエステル樹脂等があげられる。
熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリオレフィン(ポリエチレン、ポリプロピレン等)およびその酸変性物、ナイロン6およびナイロン66等のポリアミド樹脂、ポリエチレンテレフタラートおよびポリブチレンテレフタラート等の熱可塑性芳香族ポリエステル、ポリカーボネート、ポリエーテルスルホン、ポリフェニレンエーテルおよびその変性物、ポリアリレート、ポリエーテルケトン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルケトンケトン、塩化ビニル、ポリスチレン等のスチレン系樹脂、並びにフェノキシ樹脂等があげられる。なお、樹脂は、複数種類の樹脂材料により形成されていてもよい。樹脂部材2における熱可塑性樹脂の含有量は樹脂部材2の全質量に対し、90質量%以上であることが好ましい。樹脂部材2の熱可塑性樹脂の含有量は100質量%であってもよい。
【0023】
樹脂部材2は、上記の樹脂を発泡させた発泡樹脂であってもよい。発泡樹脂を用いることで、自動車用パネル構造10を軽量化することができる。樹脂部材2が発泡樹脂である場合、発泡倍率が5倍以上50倍以下であることが好ましい。発泡倍率が5倍以上50倍以下であれば、樹脂部材2の曲げ剛性を0.3×106N・mm2以上としつつ、軽量化を図ることができる。
【0024】
樹脂部材2の比重は、軽量化のために0.1以下であることが好ましい。樹脂部材2の比重が0.1以下であり、かつ、樹脂部材2の曲げ剛性を0.3×106N・mm2以上とすることで自動車用パネル構造10の張り剛性を維持しつつ、自動車用パネル構造10をより軽量にすることができる。樹脂部材2の比重は、0.03以上であってもよい。
【0025】
樹脂部材2には、塗装されていなくてもよい。通常、接着後の塗装時に加わる熱によって、外板に面ひずみが生じ、外観が劣化する。樹脂部材2は、塗装されたアウタパネル部材1に接着されているため、接着後の電着塗装時の焼付による面ひずみが生じない。そのため、自動車用パネル構造10は外観に優れる。樹脂部材2には、常温(5~35℃)でできる塗装を行ってもよい。
【0026】
アウタパネル部材1の内面に配置される樹脂部材2の配置面積が、アウタパネル部材1の内面の全面積に対して50面積%以上であることが好ましい。アウタパネル部材1の内面に配置される樹脂部材2の配置面積が、アウタパネル部材1の内面の全面積に対して50面積%以上であることで、自動車用パネル構造10の剛性が向上する。ここで、樹脂部材2の配置面積とは、アウタパネル部材1の面積のうち、樹脂部材2が配置される部分の面積をいう。より好ましくは、樹脂部材2の配置面積は、アウタパネル部材1の内面の全面積に対して70面積%以上である。樹脂部材2の配置面積の上限は特に限定されないが、100面積%である。樹脂部材2の配置面積は、好ましくは90面積%以下である。
【0027】
第1実施形態では、1つの樹脂部材2が、アウタパネル部材1の内面の50面積%以上を覆っている。従来のように電着塗装を行うと面ひずみが発生するが、本実施形態の場合、電着塗装後のアウタパネル部材1に常温で樹脂部材2を接着しているため、全面を覆っても面ひずみが発生しない。そのため、樹脂部材2でアウタパネル部材1の内面の半分以上を覆うことができる。これによって、自動車用パネル構造10の張り剛性を大きく向上させることができる。
【0028】
(接着部3)
本開示の接着部3は、常温硬化接着剤の硬化物を含有する。常温硬化接着剤は、10℃~30℃で硬化する接着剤である。硬化しているかどうかは、10℃~30℃で接着剤を24時間置き、曲げ弾性率が放置前(硬化前)に比べて2倍以上上昇しているかどうかで判断することができる。曲げ弾性率は、例えば、JIS K 7171-1:2016に準拠して測定(測定温度:23℃)することができる。常温硬化型の接着剤としては、アクリル系接着剤が好ましい。アクリル系接着剤としては、SGA(第二世代アクリル系接着剤。Second Generation Acrylic Adhesive)などがある。本発明の効果を損なわない範囲で、常温硬化接着剤として、嫌気性接着剤、瞬間接着剤、エラストマー含有アクリル系接着剤を使用することが可能である。常温硬化接着剤は硬化前の状態を言う。本開示の接着部3は、常温硬化接着剤が硬化した硬化物を含有する。塗装後のアウタパネル部材1と樹脂部材2とを常温で接着するため、アウタパネル部材1に面内ひずみが生じない。そのため、外観に優れる自動車用パネル構造10を得ることができる。
【0029】
樹脂部材2の配置面積に対する接着部3の面積が5面積%以上であることが好ましい。樹脂部材2の配置面積に対する接着部3の面積が5面積%以上であることで、自動車用パネル構造10の張り剛性を向上することができる。より好ましくは、樹脂部材2の配置面積に対する接着部の面積が25面積%以上である。本実施形態では、樹脂部材2の配置面積と接着部3の接着面積とは等しいため、樹脂部材2の配置面積に対する接着部3の面積は、100面積%である。
【0030】
(自動車用パネル構造10の曲げ剛性)
自動車用パネル構造10においては、アウタパネル部材1を薄肉化することにより軽量化を図り、アウタパネル部材1の薄肉化に伴う剛性不足を補う樹脂部材2を常温で接着することで、アウタパネル部材1における面内ひずみの発生を防止している。このように、自動車用パネル構造10は、軽量化と剛性確保とを両立できているため、単位重量当たりの曲げ剛性が優れている。例えば、樹脂部材2の厚さが3mmの場合、1kg当たりの自動車用パネル構造10の曲げ剛性は0.57×106N・mm2以上とすることが好ましい。樹脂部材2の厚さが20mmの場合、1kg当たりの自動車用パネル構造10の曲げ剛性は1.47×106N・mm2以上とすることが好ましい。樹脂部材2の厚さが40mmの場合、1kg当たりの自動車用パネル構造10の曲げ剛性は1.46×106N・mm2以上とすることが好ましい。樹脂部材2の厚さが60mmの場合、1kg当たりの自動車用パネル構造10の曲げ剛性は1.49×106N・mm2以上とすることが好ましい。自動車用パネル構造10の曲げ剛性は、樹脂部材2の曲げ剛性と同じ方法で測定することができる。
【0031】
<自動車用パネル構造の製造方法>
次に、第1実施形態に係る自動車用パネル構造10の製造方法の一例について、説明する。
図3は、第1実施形態に係る自動車用パネル構造の製造方法S10のフローチャートである。
図3に示すように、第1実施形態に係る自動車用パネル構造の製造方法S10は、板状のアウタパネル部材の母材に塗装を行う塗装工程S1と、塗装工程S1後に、アウタパネル部材1の内面および樹脂部材2の少なくとも一方に、常温硬化接着剤を塗布する、接着剤塗布工程S2と、接着剤塗布工程S2後に、アウタパネル部材1の内面と、樹脂部材2と、を接着する、接着工程S3と、を備える。以下、各工程について説明する。
【0032】
(塗装工程)
塗装工程S1では、アウタパネル部材1の形状にプレス成形した母材12に塗装を行う。これによって、母材12上に塗層膜14が形成される。塗装の方法は、自動車用途で使われる塗装方法であれば、特に限定されない。塗装方法としては、例えば、電着塗装が挙げられる。電着塗装を行う場合は、例えば、母材12に対し、脱脂、表面調整、化成処理、電着塗装、焼付を行うことで、塗装膜14を形成する。なお、脱脂、表面調整、化成処理、電着塗装、焼付については、自動車用途で用いられている一般的な方法であることが好ましい。
【0033】
(接着剤塗布工程)
接着剤塗布工程S2では、塗装工程S1後に、アウタパネル部材1の内面および樹脂部材2の少なくとも一方に、常温硬化接着剤を塗布する。
図4は、常温硬化接着剤の塗布位置を説明するための図である。アウタパネル部材1の内面および樹脂部材2の少なくとも一方の配置領域の全面に対し、常温硬化接着剤を塗布することが好ましい。アウタパネル部材1の内面および樹脂部材2の少なくとも一方の配置領域20の全面に対し、常温硬化接着剤を塗布することで、自動車用パネル構造10の張り剛性を向上することができる。本実施形態では、常温硬化接着剤を塗布する塗布領域30は、配置領域20と同じ範囲である。本実施形態では、アウタパネル部材1の内面の配置領域20の全面に対し、常温硬化接着剤を塗布しているが、樹脂部材2の配置領域に塗布してもよい。また、アウタパネル部材1の内面の配置領域20および樹脂部材2の配置領域の全面に対し、常温硬化接着剤を塗布してもよい。ここで、アウタパネル部材1の配置領域20とは、アウタパネル部材1の内面の領域のうち、樹脂部材2が配置される予定の領域をいう。樹脂部材2の配置領域とは、アウタパネル部材1に接合する面の領域をいう。本実施形態では、樹脂部材2の配置面積と接着部3の接着面積とが等しいため、樹脂部材2の配置面積に対する接着部3の面積は、100面積%である。
【0034】
接着剤塗布工程S2において、アウタパネル部材1の内面に配置される樹脂部材2の配置面積が、アウタパネル部材1の内面の全面積に対して50面積%以上であることが好ましい。アウタパネル部材1の内面に配置される樹脂部材2の配置面積が、アウタパネル部材1の内面の全面積に対して50面積%以上であることで、自動車用パネル構造10の剛性が向上する。ここで、樹脂部材2の配置面積とは、アウタパネル部材1の面積のうち、樹脂部材2が配置される部分の面積をいう。より好ましくは、樹脂部材2の配置面積は、アウタパネル部材1の内面の全面積に対して70面積%以上である。樹脂部材2の配置面積の上限は特に限定されないが、100面積%である。樹脂部材2の配置面積は、好ましくは90面積%以下である。
【0035】
(接着工程)
接着工程S3では、接着剤塗布工程S2後に、アウタパネル部材1の内面と、樹脂部材2と、を接着する。具体的には、常温硬化接着剤を塗布したアウタパネル部材1の配置領域と樹脂部材2の配置領域とを貼り合わせ、常温において、所定の時間で常温硬化接着剤を硬化させることで、自動車用パネル構造10を得る。
【0036】
以上、第1実施形態に係る自動車用パネル構造10について詳説した。第1実施形態のアウタパネル部材1は、外面および内面に塗装膜14を備えていたが、アウタパネル部材1の外面のみに塗装膜を形成していてもよい。
【0037】
(第2実施形態)
次に、本発明に係る第2実施形態の自動車用パネル構造10Aを、
図5および6を参照して説明する。
図5は、本発明の第2実施形態に係る自動車用パネル構造10Aの平面図である。また、
図6は、
図5の自動車用パネル構造のB-B線に沿った端面図である。
図7は、
図5の自動車用パネル構造のB1-B1線に沿った端面図である。
図5、6、7に示すように、本実施形態に係る自動車用パネル構造10Aは、板状のアウタパネル部材1と、アウタパネル部材1の内面に配置される樹脂部材2Aと、アウタパネル部材1と、樹脂部材2Aとを接着する接着部3Aと、を備える。なお、この第2実施形態においては、第1実施形態における構成要素と同一の部分については同一の符号を付し、その説明を省略し、異なる点についてのみ説明する。
【0038】
(樹脂部材2A)
本開示の樹脂部材2Aの曲げ剛性は0.3×106N・mm2以上である。本開示の樹脂部材2Aの曲げ剛性が0.3×106N・mm2未満の場合、十分な張り剛性が得られない。樹脂部材2Aの曲げ剛性が2×106N・mm2超となっても、効果が飽和するので、樹脂部材2Aの曲げ剛性は2×106N・mm2以下が好ましい。
【0039】
樹脂部材2Aのうち、アウタパネル部材1の面内方向に垂直な方向の寸法が最大となる厚さ最大部位の厚さは3mm以上60mm以下であることが好ましい。
樹脂部材2Aの厚さ最大部位の厚さが3mm以上であれば、アウタパネル部材1の薄肉化に伴う剛性不足を補うことができるため好ましい。
一方、樹脂部材2Aの厚さ最大部位の厚さが60mm超であっても効果が飽和するため、60mm以下であることが好ましい。
【0040】
樹脂部材2Aの材料は、樹脂部材2と同様の樹脂を用いることができる。
【0041】
樹脂部材2Aは、塗装されていなくてもよい。樹脂部材2Aは、塗装されたアウタパネル部材1に接着されているため、接着後の電着塗装時の焼付による面ひずみが生じないので好ましい。また、樹脂部材2Aには、常温でできる塗装を行ってもよい。
【0042】
アウタパネル部材1の内面に配置される樹脂部材2Aの配置面積が、アウタパネル部材1の内面の全面積に対して50面積%以上であることが好ましい。アウタパネル部材1の内面に配置される樹脂部材2Aの配置面積が、アウタパネル部材1の内面の全面積に対して50面積%以上であることで、自動車用パネル構造10の剛性が向上する。ここで、樹脂部材2Aの配置面積とは、アウタパネル部材1の面積のうち、樹脂部材2Aが配置される部分の面積をいう。より好ましくは、樹脂部材2Aの配置面積は、アウタパネル部材1の内面の全面積に対して70面積%以上である。樹脂部材2Aの配置面積は、好ましくは90面積%以下である。
【0043】
図7に示すように、樹脂部材2Aは、アウタパネル部材1の曲率が大きくなる方向に沿って、配置されることが好ましい。即ち、このように曲率が大きくなる方向に沿って配置されることでより張り剛性を高くすることができる。
【0044】
第2実施形態では、複数(
図5では、7つ)の樹脂部材2Aがアウタパネル部材1の内面に配置されている。複数の樹脂部材2Aを配置することで、必要な個所の張り剛性を上げつつ、自動車用パネル構造10の軽量化を図ることができる。
【0045】
(接着部)
本開示の接着部3Aは、常温硬化接着剤の硬化物を含有する。常温硬化接着剤は、接着部3と同様の接着剤を用いることができる。
【0046】
樹脂部材2Aの配置面積に対する接着部3Aの面積が5面積%以上であることが好ましい。樹脂部材2Aの配置面積に対する接着部3Aの面積が5面積%以上であることで、自動車用パネル構造10の張り剛性を向上することができる。より好ましくは、樹脂部材2Aの配置面積に対する接着部3Aの面積が25面積%以上である。本実施形態では、樹脂部材2Aの配置面積と接着部3Aの接着面積とは等しいため、樹脂部材2Aの配置面積に対する接着部3Aの面積は、100面積%である。
【0047】
(第3実施形態)
次に、本発明に係る第3実施形態の自動車用パネル構造10Bを、
図8および9を参照して説明する。
図8は、本発明の第3実施形態に係る自動車用パネル構造10Bの平面図である。また、
図9は、
図8の自動車用パネル構造のC-C線に沿った端面図である。
図8,9に示すように、本実施形態に係る自動車用パネル構造10Bは、板状のアウタパネル部材1と、アウタパネル部材1の内面に配置される樹脂部材2と、アウタパネル部材1と、樹脂部材2とを接着する接着部3Bと、を備える。なお、この第3実施形態においては、第1実施形態における構成要素と同一の部分については同一の符号を付し、その説明を省略し、異なる点についてのみ説明する。
【0048】
(接着部3B)
本開示の接着部3Bは、常温硬化接着剤の硬化物を含有する。接着部3Bに用いられる常温硬化接着剤の硬化物は、接着部3と同様である。
【0049】
接着部3Bは、線状に設けられる。接着部3Bを線状に設けることで、作業効率を改善することができる。
【0050】
樹脂部材2の配置面積に対する接着部3Bの面積が5面積%以上であることが好ましい。樹脂部材2の配置面積に対する接着部3Bの面積が5面積%以上であることで、自動車用パネル構造10の張り剛性を向上することができる。より好ましくは、樹脂部材2の配置面積に対する接着部3Bの面積が25面積%以上である。
【0051】
<自動車用パネル構造の製造方法>
次に、第3実施形態に係る自動車用パネル構造10Bの製造方法の一例について、説明する。
図10は、第3実施形態に係る自動車用パネル構造の製造方法S10Bのフローチャートである。
図10に示すように、第3実施形態に係る自動車用パネル構造の製造方法S10Bは、板状のアウタパネル部材の母材に塗装を行う塗装工程S1と、塗装工程S1後に、アウタパネル部材1の内面および樹脂部材2の少なくとも一方に、常温硬化接着剤を塗布する、接着剤塗布工程S2Bと、接着剤塗布工程S2B後に、アウタパネル部材1の内面と、樹脂部材2と、を接着する、接着工程S3と、を備える。以下、各工程について説明する。
【0052】
(接着剤塗布工程)
接着剤塗布工程S2Bでは、塗装工程S1後に、アウタパネル部材1の内面および樹脂部材2の少なくとも一方に、常温硬化接着剤を塗布する。
図11は、常温硬化接着剤の塗布位置を説明するための図である。アウタパネル部材1の内面および樹脂部材2の少なくとも一方の配置領域に対し、常温硬化接着剤を線状に塗布することが好ましい。樹脂部材2の配置面積に対する常温硬化接着剤の塗布面積が5面積%以上であってもよい。アウタパネル部材1の内面および樹脂部材2の少なくとも一方の配置領域20に対し、常温硬化接着剤を線状に塗布することで、作業性を改善しつつ、自動車用パネル構造10の張り剛性を向上することができる。第3実施形態では、常温硬化接着剤を塗布する塗布領域30Bは、配置領域20内に均等に離れて設けられる。本実施形態では、アウタパネル部材1の内面の配置領域20に対し、常温硬化接着剤を線状に塗布しているが、樹脂部材2の配置領域に線状に塗布してもよい。また、アウタパネル部材1の内面の配置領域20および樹脂部材2の配置領域に対し、常温硬化接着剤を線状に塗布してもよい。なお、線状に塗布とは、例えば、線の幅が1cm~5cm程度で塗布することを言う。
【0053】
(第4実施形態)
次に、本発明に係る第4実施形態の自動車用パネル構造10Cを、
図12および13を参照して説明する。
図12は、本発明の第4実施形態に係る自動車用パネル構造10Cの平面図である。また、
図13は、
図12の自動車用パネル構造のD-D線に沿った端面図である。
図12,13に示すように、本実施形態に係る自動車用パネル構造10Cは、板状のアウタパネル部材1と、アウタパネル部材1の内面に配置される樹脂部材2と、アウタパネル部材1と、樹脂部材2とを接着する接着部3Cと、を備える。なお、この第4実施形態においては、第1実施形態における構成要素と同一の部分については同一の符号を付し、その説明を省略し、異なる点についてのみ説明する。
【0054】
(接着部3C)
本開示の接着部3Cは、常温硬化接着剤の硬化物を含有する。接着部3Cに用いられる常温硬化接着剤の硬化物は、接着部3と同様である。
【0055】
接着部3Cは、点状に設けられる。接着部3Cを点状に設けることで、作業効率を改善することができる。
【0056】
樹脂部材2の配置面積に対する接着部3Cの面積が5面積%以上であることが好ましい。樹脂部材2の配置面積に対する接着部3Cの面積が5面積%以上であることで、自動車用パネル構造10の張り剛性を向上することができる。より好ましくは、樹脂部材2の配置面積に対する接着部3Cの面積が25面積%以上である。
【0057】
<自動車用パネル構造の製造方法>
次に、第4実施形態に係る自動車用パネル構造10Cの製造方法の一例について、説明する。
図14は、第4実施形態に係る自動車用パネル構造の製造方法S10Cのフローチャートである。
図14に示すように、第4実施形態に係る自動車用パネル構造の製造方法S10Cは、板状のアウタパネル部材の母材に塗装を行う塗装工程S1と、塗装工程S1後に、アウタパネル部材1の内面および樹脂部材2の少なくとも一方に、常温硬化接着剤を塗布する、接着剤塗布工程S2Cと、接着剤塗布工程S2C後に、アウタパネル部材1の内面と、樹脂部材2と、を接着する、接着工程S3と、を備える。
【0058】
(接着剤塗布工程)
接着剤塗布工程S2Cでは、塗装工程S1後に、アウタパネル部材1の内面および樹脂部材2Cの少なくとも一方に、常温硬化接着剤を塗布する。
図15は、常温硬化接着剤の塗布位置を説明するための図である。アウタパネル部材1の内面および樹脂部材2の少なくとも一方の配置領域に対し、常温硬化接着剤を点状に塗布することが好ましい。アウタパネル部材1の内面および樹脂部材2の少なくとも一方の配置領域20に対し、常温硬化接着剤を点状に塗布することで、作業性を改善しつつ、自動車用パネル構造10の張り剛性を向上することができる。第4実施形態では、常温硬化接着剤を塗布する複数の塗布領域30Cは、配置領域20内に均等に離れて設けられる。本実施形態では、アウタパネル部材1の内面の配置領域20に対し、常温硬化接着剤を点状に塗布しているが、樹脂部材2の配置領域に点状に塗布してもよい。また、アウタパネル部材1の内面の配置領域20および樹脂部材2の配置領域に対し、常温硬化接着剤を点状に塗布してもよい。なお、点状に塗布とは、例えば、点の直径が0.1~5mm程度、接着剤の量は0.001~3mg程度で塗布することを言う。
【0059】
(第5実施形態)
次に、本発明に係る第5実施形態の自動車用パネル構造10Dを、
図16および17を参照して説明する。
図16は、本発明の第5実施形態に係る自動車用パネル構造10Dの平面図である。また、
図17は、
図16の自動車用パネル構造のE-E線に沿った端面図である。
図16,17に示すように、本実施形態に係る自動車用パネル構造10Dは、板状のアウタパネル部材1と、アウタパネル部材1の内面に配置される樹脂部材2Dと、アウタパネル部材1と、樹脂部材2Dとを接着する接着部3Dと、インナ部材4と、を備える。なお、この第5実施形態においては、第1実施形態における構成要素と同一の部分については同一の符号を付し、その説明を省略し、異なる点についてのみ説明する。
【0060】
(樹脂部材2D)
本開示の樹脂部材2Dの曲げ剛性は0.3×106N・mm2以上である。本開示の樹脂部材2Dの曲げ剛性が0.3×106N・mm2未満の場合、十分な張り剛性が得られない。樹脂部材2Dの曲げ剛性が2×106N・mm2超となっても、効果が飽和するので、樹脂部材2Dの曲げ剛性は2×106N・mm2以下が好ましい。
【0061】
樹脂部材2Dのうち、アウタパネル部材1の面内方向に垂直な方向の寸法が最大となる厚さ最大部位の厚さは3mm以上60mm以下であることが好ましい。
樹脂部材2Dの厚さ最大部位の厚さが3mm以上であれば、アウタパネル部材1の薄肉化に伴う剛性不足を補うことができるため好ましい。
一方、樹脂部材2Dの厚さ最大部位の厚さが60mm超であっても効果が飽和するため、60mm以下であることが好ましい。
【0062】
樹脂部材2Dの材料は、樹脂部材2と同様の樹脂を用いることができる。
【0063】
樹脂部材2Dは、塗装されていなくてもよい。樹脂部材2Dは、塗装されたアウタパネル部材1に接着されているため、接着後の電着塗装時の焼付による面ひずみが生じないので好ましい。また、樹脂部材2Dには、常温でできる塗装を行ってもよい。
【0064】
アウタパネル部材1の内面に配置される樹脂部材2Dの配置面積が、アウタパネル部材1の内面の全面積に対して50面積%以上であることが好ましい。アウタパネル部材1の内面に配置される樹脂部材2Dの配置面積が、アウタパネル部材1の内面の全面積に対して50面積%以上であることで、自動車用パネル構造10の剛性が向上する。ここで、樹脂部材2Dの配置面積とは、アウタパネル部材1の面積のうち、樹脂部材2Dが配置される部分の面積をいう。より好ましくは、樹脂部材2Dの配置面積は、アウタパネル部材1の内面の全面積に対して70面積%以上である。樹脂部材2Dの配置面積は、好ましくは90面積%以下である。
【0065】
第5実施形態では、2つの樹脂部材2Dがインナ部材4を挟む形で設けられている。インナ部材4を挟むように配置することで、より張り剛性を向上させることができる。
【0066】
(接着部)
本開示の接着部3Dは、常温硬化接着剤の硬化物を含有する。常温硬化接着剤は、接着部3と同様の接着剤を用いることができる。
【0067】
樹脂部材2Dの配置面積に対する接着部3Dの面積が5面積%以上であることが好ましい。樹脂部材2Dの配置面積に対する接着部3Dの面積が5面積%以上であることで、自動車用パネル構造10Dの張り剛性を向上することができる。より好ましくは、樹脂部材2Dの配置面積に対する接着部3Dの面積が25面積%以上である。本実施形態では、樹脂部材2Dの配置面積と接着部3Dの接着面積とは等しいため、樹脂部材2Dの配置面積に対する接着部3Dの面積は、100面積%である。
【0068】
(インナ部材)
インナ部材4は、アウタパネル部材1の内面に対向して配置される長尺部材である。インナ部材4は、アウタパネル部材1の面内方向における一方向に沿って延在する態様で配置される。インナ部材4は、その長手方向が車幅方向に一致する態様でアウタパネル部材1に取り付けられることにより、自動車用パネル構造10を補強する役割を有する。
【0069】
図17に示すように、インナ部材4は、天板部121と、天板部121の両端部から屈曲して延びる一対の側壁部123,123と、一対の側壁部123,123における天板部121とは反対側の端部から外方に屈曲して延びる一対のフランジ部125,125とからなる略ハット型形状の断面部を有する。
尚、本開示において、インナ部材4の幅方向は、インナ部材4の長手方向に垂直な方向のうち、天板部121に平行な方向を意味する。
【0070】
インナ部材4は、例えば、鋼板などの金属板をプレス成形することにより得ることができる。
【0071】
インナ部材4の長手方向中央においては、インナ部材4の一対のフランジ部125,125の幅方向端部は、一対の樹脂部材2D,2Dの側面から一対の樹脂部材2D,2Dの内部に入り込んでいる。すなわち、インナ部材4の少なくとも一部が樹脂部材2Dに埋められている。本開示において「インナ部材4の少なくとも一部が樹脂部材に埋められる」とは、インナ部材4の少なくとも一部が樹脂部材に入り込み、面接触した状態で保持されていることを意味する。更に、一対の樹脂部材2D,2Dの上面は、接着部3Dを介してアウタパネル部材1の内面に接合されている。
【0072】
<自動車用パネル構造の製造方法>
次に、第5実施形態に係る自動車用パネル構造10Dの製造方法の一例について、説明する。
図18は、第5実施形態に係る自動車用パネル構造の製造方法S10Dのフローチャートである。
図18に示すように、第5実施形態に係る自動車用パネル構造の製造方法S10Dは、板状のアウタパネル部材1の母材12に塗装を行う塗装工程S1と、インナ部材4と樹脂部材2Dとを一体的に成型する樹脂部材成型工程S4と、塗装工程S1および樹脂部材成型工程S4後に、アウタパネル部材1の内面および樹脂部材2Dの少なくとも一方に、常温硬化接着剤を塗布する、接着剤塗布工程S2Dと、接着剤塗布工程S2D後に、アウタパネル部材1の内面と、樹脂部材2Dと、を接着する、接着工程S3と、を備える。以下、各工程について説明する。
【0073】
(樹脂部材成型工程)
樹脂部材成型工程S4では、インナ部材4の所定の部位を取り囲むように成型金型を設置し、成型金型の内部に樹脂材料を注入して固めることにより、インナ部材4と一対の樹脂部材2D,2Dを一体化させる。樹脂材料としては、熱可塑性樹脂及び熱硬化性樹脂のいずれも採用できる。また、樹脂材料は発泡剤を含有してもよい。発泡剤としては、N,N´-ジニトロソペンタメチレンテトラミン、アゾジカルボンアミド、4,4´-オキシビス(ベンゼンスルホニルヒドラジド)、炭酸水素塩、炭酸水素ナトリウム等が挙げられる。
樹脂部材成型工程S4においては、先に成型金型の内部に樹脂材料を注入して固めることにより、一対の樹脂部材2D,2Dの中間品を成型し、それぞれの中間品にスリット加工を行い、スリットにインナ部材4のフランジ部125を挿し込むことで一体化させてもよい。
【0074】
(接着剤塗布工程)
接着剤塗布工程S2Dでは、塗装工程S1および樹脂部材成型工程S4後に、アウタパネル部材1の内面および樹脂部材2Dの少なくとも一方に、常温硬化接着剤を塗布する。
図19は、常温硬化接着剤の塗布位置を説明するための図である。アウタパネル部材1の内面および樹脂部材2Dの少なくとも一方の配置領域の全面に対し、常温硬化接着剤を塗布することが好ましい。アウタパネル部材1の内面および樹脂部材2Dの少なくとも一方の配置領域20の全面に対し、常温硬化接着剤を塗布することで、自動車用パネル構造10の張り剛性を向上することができる。常温硬化接着剤を塗布する塗布領域30Dは、配置領域20と同じ範囲である。本実施形態では、アウタパネル部材1の内面の配置領域20の全面に対し、常温硬化接着剤を塗布しているが、樹脂部材2Dの配置領域に塗布してもよい。また、アウタパネル部材1の内面の配置領域20および樹脂部材2Dの配置領域の全面に対し、常温硬化接着剤を塗布してもよい。
【0075】
接着剤塗布工程S2Dにおいて、アウタパネル部材1の内面に配置される樹脂部材2Dの配置面積が、アウタパネル部材1の内面の全面積に対して50面積%以上であることが好ましい。アウタパネル部材1の内面に配置される樹脂部材2Dの配置面積が、アウタパネル部材1の内面の全面積に対して50面積%以上であることで、自動車用パネル構造10の剛性が向上する。
【0076】
以上、第5実施形態の自動車用パネル構造10Dについて詳説した。なお、第5実施形態において、インナ部材4としてハット型断面の部材を用いているが、U字型断面の部材やT字型断面の部材であってもよい。また、樹脂部材2Dはインナ部材4の長手方向の全長に亘って設けられているが、樹脂部材2Dはインナ部材4の長手方向の一部にのみ設ける構成としてもよい。
【0077】
以上、第1実施形態、第2実施形態、第3実施形態、第4実施形態、第5実施形態に基づき本開示の自動車用パネル構造10を説明したが、本開示の自動車用パネル構造10はこれに限定されない。
例えば、サイドドアの自動車用パネル構造10は、フード、ルーフ、及びバックドア等のパネル構造にも適用できる。
【符号の説明】
【0078】
1 アウタパネル部材
2 樹脂部材
3 接着部
4 インナ部材
10 自動車用パネル構造