(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-02-12
(45)【発行日】2025-02-20
(54)【発明の名称】めっき鋼材および太陽光発電用架台
(51)【国際特許分類】
C23C 2/06 20060101AFI20250213BHJP
C23C 2/34 20060101ALI20250213BHJP
C22C 18/04 20060101ALI20250213BHJP
【FI】
C23C2/06
C23C2/34
C22C18/04
(21)【出願番号】P 2024559864
(86)(22)【出願日】2024-06-13
(86)【国際出願番号】 JP2024021477
【審査請求日】2024-10-09
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【氏名又は名称】大浪 一徳
(74)【代理人】
【識別番号】100134359
【氏名又は名称】勝俣 智夫
(74)【代理人】
【識別番号】100188592
【氏名又は名称】山口 洋
(74)【代理人】
【識別番号】100217249
【氏名又は名称】堀田 耕一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100221279
【氏名又は名称】山口 健吾
(74)【代理人】
【識別番号】100207686
【氏名又は名称】飯田 恭宏
(74)【代理人】
【識別番号】100224812
【氏名又は名称】井口 翔太
(72)【発明者】
【氏名】光延 卓哉
(72)【発明者】
【氏名】齊藤 完
(72)【発明者】
【氏名】竹林 浩史
【審査官】池ノ谷 秀行
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2022/153840(WO,A1)
【文献】国際公開第2007/108496(WO,A1)
【文献】特表2020-502368(JP,A)
【文献】特開2009-033066(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 2/00-2/40
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋼板と、
前記鋼板上に形成されためっき層と、
前記めっき層上に形成された酸化物層と、
を有し、
前記めっき層が、質量%で、
Al:1.0~60.0%、
Mg:1.0~15.0%、
Si:0~2.0%、
Ca:0~2.0%、および
Fe:0~2.0%、
を含有し、さらに、
Ni:0~1.000%、
La:0~0.500%、
Ce:0~0.500%、
Sb:0~0.500%、
Pb:0~0.500%、
Sr:0~0.500%、
Bi:0~0.500%、
Sn:0~1.000%、
Cu:0~1.000%、
Ti:0~1.000%、
Mn:0~1.000%、
Cr:0~1.000%、
Nb:0~1.000%、
Zr:0~1.000%、
Mo:0~1.000%、
V :0~1.000%、
In:0~1.000%、
Co:0~1.000%、
Ag:0~1.000%、
Li:0~1.000%、
B :0~0.500%、
Y :0~0.500%、および
P :0~0.500%、
からなる群から選ばれる1種以上を合計で5.000%以下を含有し、残部がZnおよび不純物である化学組成を有し、
前記酸化物層の厚みが5nm以上であり、
前記酸化物層のエネルギー分散型X線分析におけるZnの最大強度に対する、Alの最大強度とMgの最大強度の合計の比である(Al+Mg)/Zn強度比が1.0以上であり、
前記酸化物層が非晶質組織を含む、めっき鋼材。
【請求項2】
前記めっき層の前記化学組成が、質量%で、
Si:0.1~2.0%、
Ca:0.1~2.0%、
Fe:0.1~2.0%、
Ni:0.001~1.000%、
La:0.010~0.500%、
Ce:0.010~0.500%、
Sb:0.001~0.500%、
Pb:0.001~0.500%、
Sr:0.001~0.500%、
Bi:0.001~0.500%、
Sn:0.050~1.000%、
Cu:0.001~1.000%、
Ti:0.001~1.000%、
Mn:0.001~1.000%、
Cr:0.001~1.000%、
Nb:0.001~1.000%、
Zr:0.001~1.000%、
Mo:0.001~1.000%、
V :0.001~1.000%、
In:0.001~1.000%、
Co:0.001~1.000%、
Ag:0.001~1.000%、
Li:0.001~1.000%、
B :0.001~0.500%、
Y :0.010~0.500%、および
P :0.001~0.500%、
の1種または2種以上を含有することを特徴とする請求項1に記載のめっき鋼材。
【請求項3】
前記めっき層の前記化学組成において、
Al:10.0~30.0%、
Mg:4.0~15.0%
であり、
前記酸化物層の前記(Al+Mg)/Zn強度比が2.0以上である、請求項
1に記載のめっき鋼材。
【請求項4】
前記めっき層の前記化学組成において、
Al:15.0~30.0%、
Mg:4.0~15.0%
であり、
前記酸化物層の前記(Al+Mg)/Zn強度比が3.0以上である、請求項
1に記載のめっき鋼材。
【請求項5】
電子線回折を用いて前記酸化物層の断面を分析して得られた電子線回折像において、結晶質組織を示す回折スポットが検出されない、請求項1~4のいずれか一項に記載のめっき鋼材。
【請求項6】
請求項1~
4のいずれか一項に記載のめっき鋼材を備える太陽光発電用架台。
【請求項7】
請求項5に記載のめっき鋼材を備える太陽光発電用架台。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、めっき鋼材および太陽光発電用架台に関する。
【背景技術】
【0002】
AlおよびMgを含有する溶融Znめっき層が表面に形成された鋼材(溶融Zn-Al-Mg系めっき鋼材)は優れた耐食性を有する。そのため、例えば建材などの耐食性を求められる構造部材の材料として、溶融Zn-Al-Mg系めっき鋼材は幅広く用いられている。
【0003】
例えば、特許文献1には、鋼板と、鋼板の表面の少なくとも一部に形成されためっき層と、めっき層の表面の少なくとも一部に形成された酸化物層と、を有し、酸化物層の表面から厚み方向に5.0nmの位置においてXPSで測定を行ったとき、Mgの酸化物または水酸化物の最大検出強度に対するMgの最大検出強度の比であるIMg/IMgOxが、0.00以上、1.20以下であるめっき鋼板材が開示されている。特許文献1には、上記構成により、めっき層に含まれるMgが、酸化物[MgO]または水酸化物[Mg(OH)2]として存在する割合を高め、かつ、めっき層に含まれるAlが、酸化物[Al2O3]または水酸化物[Al(OH)3]として存在する割合を低くすることでき、結果、めっき層の潤滑性および化成処理性を高めることができることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
近年、溶融Zn-Al-Mg系めっき鋼材には、流水耐食性も求められている。流水耐食性とは、流水に晒された状態での耐食性である。流水環境中では、溶融めっき層の表面に付着した腐食生成物が流されてしまい、この腐食生成物が奏する防錆効果が損なわれる。そのため、鋼材の流水耐食性は、通常の耐食性とは異なる手段によって評価される。例えば、道路に設置される防護柵や、太陽光発電用の架台、または常に雨水および工業用水などが流れる用水路の壁面などの、屋外で使用される各種建材として用いられる材料には、高い流水耐食性が求められる。
【0006】
先行技術において、流水耐食性についてはほとんど検討されていない。例えば、従来の評価方法としてよく知られる平面部耐食性については、JASO M609-91に準拠して評価されることが多く、この評価において、腐食溶液は流れが無い状態とされている。
【0007】
さらに本発明者らが検討したところ、通常の耐食性が高い溶融Zn-Al-Mg系めっき鋼材であっても、その流水耐食性は十分とは言えないことがわかった。例えば特許文献1においては、めっき層表面の酸化物層中の各酸化物の比率が規定されているが、それだけでは、流水環境下で腐食しやすい、つまり流水耐食性が不十分となる場合があることを、本発明者らは知見した。
【0008】
本開示は上記実情に鑑みてなされたものである。本開示は、流水耐食性に優れためっき鋼材および太陽光発電用架台を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本開示の要旨は以下の通りである。
[1]本発明の一態様に係るめっき鋼材は、鋼板と、前記鋼板上に形成されためっき層と、前記めっき層上に形成された酸化物層と、
を有し、
前記めっき層が、質量%で、
Al:1.0~60.0%、
Mg:1.0~15.0%、
Si:0~2.0%、
Ca:0~2.0%、および
Fe:0~2.0%、
を含有し、さらに、
Ni:0~1.000%、
La:0~0.500%、
Ce:0~0.500%、
Sb:0~0.500%、
Pb:0~0.500%、
Sr:0~0.500%、
Bi:0~0.500%、
Sn:0~1.000%、
Cu:0~1.000%、
Ti:0~1.000%、
Mn:0~1.000%、
Cr:0~1.000%、
Nb:0~1.000%、
Zr:0~1.000%、
Mo:0~1.000%、
V :0~1.000%、
In:0~1.000%、
Co:0~1.000%、
Ag:0~1.000%、
Li:0~1.000%、
B :0~0.500%、
Y :0~0.500%、および
P :0~0.500%、
からなる群から選ばれる1種以上を合計で5.0%以下を含有し、残部がZnおよび不純物からなる化学組成を有し、
前記酸化物層の厚みが5nm以上であり、
前記酸化物層のエネルギー分散型X線分析におけるZnの最大強度に対する、Alの最大強度とMgの最大強度の合計の比である(Al+Mg)/Zn強度比が1.0以上であり、
前記酸化物層が非晶質組織を含む。
[2]上記[1]に記載のめっき鋼材は、前記めっき層の前記化学組成が、質量%で、
Si:0.1~2.0%、
Ca:0.1~2.0%、
Fe:0.1~2.0%、
Ni:0.001~1.000%、
La:0.010~0.500%、
Ce:0.010~0.500%、
Sb:0.001~0.500%、
Pb:0.001~0.500%、
Sr:0.001~0.500%、
Bi:0.001~0.500%、
Sn:0.050~1.000%、
Cu:0.001~1.000%、
Ti:0.001~1.000%、
Mn:0.001~1.000%、
Cr:0.001~1.000%、
Nb:0.001~1.000%、
Zr:0.001~1.000%、
Mo:0.001~1.000%、
V :0.001~1.000%、
In:0.001~1.000%、
Co:0.001~1.000%、
Ag:0.001~1.000%、
Li:0.001~1.000%、
B :0.001~0.500%、
Y :0.010~0.500%、および
P :0.001~0.500%、
の1種または2種以上を含有してもよい。
[3]上記[1]または[2]に記載のめっき鋼材は、前記めっき層の前記化学組成において、
Al:10.0~30.0質量%、
Mg:4.0~15.0質量%
であり、
前記酸化物層の前記(Al+Mg)/Zn強度比が2.0以上であってもよい。
[4]上記[1]~[3]のいずれか一項に記載のめっき鋼材は、前記めっき層の前記化学組成において、
Al:15.0~30.0質量%、
Mg:4.0~15.0質量%
であり、
前記酸化物層の前記(Al+Mg)/Zn強度比が3.0以上であってもよい。
[5]上記[1]~[4]のいずれか一項に記載のめっき鋼材は、電子線回折を用いて前記酸化物層の断面を分析して得られた電子線回折像において、結晶質組織を示す回折スポットが検出されなくてもよい。
[6]本発明の一態様に係る太陽光発電用架台は、上記[1]~[5]のいずれか一項に記載のめっき鋼材を備える。
【発明の効果】
【0010】
本開示に係る上記態様によれば、流水耐食性に優れためっき鋼材および太陽光発電用架台を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本実施形態に係るめっき鋼材における、TEM(透過電子顕微鏡)による酸化物層の断面の電子線回折像である。
【
図2】本実施形態に係るめっき鋼材における、TEM(透過電子顕微鏡)による酸化物層の断面の電子線回折像である。
【
図3】本実施形態に係る太陽光発電用架台の一例を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本開示の一実施形態に係るめっき鋼材(以下、本実施形態に係るめっき鋼材と言う場合がある。)について、説明する。ただし、本開示は本実施形態に開示の構成のみに制限されることなく、本開示の趣旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。
【0013】
以下に本開示の個々の構成要件について詳細に説明する。
以下に「~」を挟んで記載する数値限定範囲には、下限値および上限値がその範囲に含まれる。「未満」または「超」と示す数値には、その値が数値範囲に含まれない。以下の説明において、化学組成に関する%は特に指定しない限り質量%である。
【0014】
[溶融めっき鋼材]
本実施形態に係るめっき鋼材は、鋼板と、鋼板上に形成されためっき層と、めっき層上に形成された酸化物層と、を有する。また、本実施形態に係るめっき鋼材においては、酸化物層の厚みが5nm以上であり、酸化物層のエネルギー分散型X線分析におけるZnの最大強度に対する、Alの最大強度とMgの最大強度の合計の比である(Al+Mg)/Zn強度比が1.0以上であり、酸化物層が非晶質組織を含む。
【0015】
<鋼材>
めっきの対象となる鋼材について説明する。
鋼材は、例えば主に鋼板であるが、そのサイズに特に制限はない。
鋼板は、通常の溶融亜鉛めっき工程に適用可能な鋼板であればよい。具体的には、連続溶融亜鉛めっきライン(CGL)など、溶融金属に浸漬して凝固させる工程で適用可能な鋼板がこれに当てはまる。鋼板のサイズとしては、例えば、板厚10mm以下、板幅2000mm以下のものを適用できるが、鋼板のサイズはこれに限定されるものではない。
【0016】
鋼材の材質には、特に制限はない。鋼材は、例えば、一般鋼、Alキルド鋼、極低炭素鋼、高炭素鋼、各種高張力鋼、一部の高合金鋼(Ni、Cr等の耐食性強化元素含有鋼等)、ボルト用鋼、橋梁ケーブル用鋼線材などの各種の鋼板が適用可能である。より具体的には、例えば、JIS G 3131、3141:2017に定められる冷延鋼板、いわゆるSS材に対応する一般構造用圧延鋼材に含まれるもの、JIS G3193:2008に示される熱延鋼板に含まれるいわゆる一般鋼、各種金属が薄くめっきされたJIS H8641、JIS G 3302、3303、3313、3314、3315、3317、3321などのプレめっき鋼、JIS G 3136Alキルド鋼、極低炭素鋼、高炭素鋼、JIS G 3113、3134、3135、に記載される各種高張力鋼が適用可能である。
【0017】
<酸化物層>
本実施形態に係るめっき鋼材は、めっき層上に、酸化物層を備える。なお、めっき層が鋼材の両面にある場合、酸化物層は、めっき層の一方の面に設けられていてもよく、両面に設けられてもよい。
【0018】
本発明者らは、めっき鋼材(特に、Zn-Al-Mg系めっき鋼材)において、流水耐食性を向上させる方法を検討した。その結果、酸化物層が非晶質組織を含むことで、流水耐食性が高まることを見出した。具体的には、酸化物層のエネルギー分散型X線分析におけるZnの最大強度に対する、Alの最大強度とMgの最大強度の合計の比である(Al+Mg)/Zn強度比が1.0以上である場合に、流水耐食性が向上することを見出した。
【0019】
酸化物層中に非晶質組織を含むことでめっき層の流水耐食性が向上する理由は明確ではないが、本発明者らは、その理由を以下のように考える。
まず、酸化物層中の組織の非晶質化が進行すると、結晶粒界が減少する。結晶粒界は一般的に腐食しやすい性質を有することから、組織の非晶質化によって結晶粒界の存在が減少することで、流水耐食性が向上すると考えられる。
【0020】
また、酸化物層中には、結晶質組織が含まれないことが好ましい。すなわち、酸化物層を構成する酸化物が全て非晶質であることが好ましい。ただし、流水耐食性に大きな影響を及ぼすのは酸化物層の中でも特に表層部である。そのため、酸化物層の表層部が非晶質であればよい。なお、ここでいう「表層部」とは、酸化物層の最表面から100nm深さまでの領域である。
【0021】
酸化物層中に含まれる組織が非晶質か結晶質かは、TEM(透過電子顕微鏡)による酸化物層の断面の電子線回折像にて確認することができる。非晶質組織であれば、ハローパターンが確認され、結晶質組織(金属相)が含まれる場合には、ハローパターンの周囲に結晶質組織を示す回折スポット(結晶回折スポット)が確認される。
【0022】
図1、
図2は、本実施形態に係るめっき鋼材における、TEM(透過電子顕微鏡)による酸化物層の断面の電子線回折像である。
図1に示す電子線回折像の場合は、ハローパターンのみが確認されることから、酸化物層中に含まれる組織が非晶質組織であることが分かる。また、
図2に示す電子線回折像の場合は、ハローパターンの周囲に結晶回折スポットが確認されることから、酸化物層中に非晶質組織と金属相がともに含まれていることが分かる。本実施形態では、
図1、
図2のいずれのパターンであってもよい。つまり、電子線回折像において、ハローパターンが確認されればよい。
【0023】
以下に、酸化物層中に含まれる組織の判別方法について説明する。
本実施形態では、まずめっき鋼材から、板厚方向に沿った酸化物層の断面を含むように10μm角の分析用の試料を採取し、試料を50~100nmの厚みまで薄片化する。
次に、電子線のプローブ径を3nmとしたTEM(「JEM-2100F」、日本電子株式会社製)で、酸化物層の断面に相当する試料表面を、板面に沿った方向において2μmごとに5点測定し、電子線回折像を5つ得る。得られた電子線回折像のうち、ハローパターンの像が1つでもあれば、酸化物層が非晶質組織を含むものとする。なお、TEMによる観察時の加速電圧は200kVとする。また、分析用の試料としてめっき層も含んで採取された場合は、めっき層を測定対象からは除外し、酸化物層のみを測定する。
【0024】
また、酸化物層のエネルギー分散型X線分析におけるZnの最大強度に対する、Alの最大強度とMgの最大強度の合計の比である(Al+Mg)/Zn強度比は、1.0以上とする。
AlおよびMgは、Znと比べて不働態被膜を形成しやすい元素である。つまり、酸化物層中に含まれるAlおよびMgの含有率が高い方が耐食性の向上効果は大きくなる。また、Al酸化物は非晶質(アモルファス)となりやすい。一方で、Zn酸化物は結晶質となりやすいため、酸化物層中のAlとMgの含有率をZnよりも高めることで、非晶質の酸化物層を容易に得ることができる。このような観点から、(Al+Mg)/Zn強度比は、1.0以上である。好ましくは、2.0以上、より好ましくは3.0以上である。なお、(Al+Mg)/Zn強度比の上限は、特に限定されないが、6.0以下であってよい。
【0025】
(Al+Mg)/Zn強度比は、以下の方法で求めることができる。
まず、めっき鋼材から板厚方向に沿った酸化物層の断面を含むように10μm角の分析用の試料を採取し、試料を50~100nmの厚みまで薄片化する。そして、エネルギー分散形X線分析装置(EDS;「JED-2300Tx2」、日本電子株式会社製)を搭載した透過型電子顕微鏡(TEM-EDS)により、電子線のプローブ径を3nm、照射電流(設定値)を1.0nAとして、酸化物層の断面を観察し、板面に沿った方向において2μmごとに5点においてEDS分析を行う。なお、TEMによる観察位置は、酸化物層の断面のうち、1/2厚み位置とし、観察時の加速電圧は200kV、電子線の照射時間は、EDS測定で得られるスペクトルにおける最大ピーク強度が2000カウント以上となるまでとする。
次に、得られたX線分析結果から、Znの最大強度(cps)、Alの最大強度(cps)およびMgの最大強度(cps)を求め、Znの最大強度に対する、Alの最大強度とMgの最大強度の合計の比を算出する。得られた5点それぞれにおいて強度比を求め、それらの平均を本実施形態における「(Al+Mg)/Zn強度比」とする。なお、得られたX線分析結果において、「Zn」は1.01±0.1eVの範囲でピークを示し、「Al」は1.49±0.1eVの範囲でピークを示し、「Mg」は1.25±0.1eVの範囲でピークを示す。これらの範囲のピークを分析することで、Znの最大強度(cps)、Alの最大強度(cps)およびMgの最大強度(cps)を求めることができる。
【0026】
酸化物層の厚みは、5nm以上である。酸化物層の厚みが小さすぎると、十分な流水耐食性が得られない場合がある。そのため、酸化物層の厚みは5nm以上である。好ましくは10nm以上、より好ましくは15nm以上、さらに好ましくは20nm以上である。なお、酸化物層の厚みの上限は特に限定されないが、例えば50nm以下である。
【0027】
酸化物層の厚みは、以下の方法で測定する。
上記(Al+Mg)/Zn強度比の測定と同様に取得した透過型電子顕微鏡(TEM-EDS)の画像を用いて、酸化物層の断面にて、酸化物層の厚みを1nmピッチで5点測定し、その平均値を「酸化物層の厚み」と定義する。
【0028】
<めっき層>
本実施形態に係るめっき鋼材は、鋼材上にめっき層を備える。めっき層は鋼材の一方の面に形成されていてもよく、両面に形成されていてもよい。
めっき層の付着量は、片面あたり15~250g/m2が好ましい。
【0029】
(めっき層の組織)
本実施形態に係るめっき鋼板では、めっき組織は、特に限定されない。本実施形態に係るめっき鋼板のめっき層の化学組成によれば、めっき組織は、例えば、(Al-Zn)デンドライト、(Al-Zn)相/MgZn2相のラメラ組織、Zn相/MgZn2相のラメラ組織、Zn/Al/MgZn2の三元共晶組織、MgZn2相、デンドライトまたは不定形のZn相、Mg2Si相、および/またはその他の金属間化合物相を含む。
【0030】
(めっき層の化学組成)
本実施形態に係るめっき鋼材のめっき層の化学組成について説明する。以下、化学組成に関する%は、いずれも質量%である。
【0031】
Al:1.0~60.0%
Alは、アルミニウム(Al)、亜鉛(Zn)、マグネシウム(Mg)を含むめっき層において、耐食性を確保するために有効な元素である。上記効果を十分に得るため、Al含有量を1.0%以上とする。Al含有量は、好ましくは5.0%以上、より好ましくは10.0%以上である。
一方、Al含有量が60.0%超であると、耐食性やめっき層の切断端面の耐食性が低下する。また、Al酸化物の生成が多くなり、酸化物層の結晶性が高まるおそれがある。そのため、Al含有量は60.0%以下とする。Al含有量は、好ましくは50.0%以下、より好ましくは40.0%以下である。
【0032】
Mg:1.0~15.0%
Mgは、めっき層の耐食性を高める効果を有する元素である。上記効果を十分に得るため、Mg含有量を1.0%以上とする。Mg含有量は、好ましくは4.0%以上、より好ましくは5.0%以上である。
一方、Mg含有量が15.0%超であると、耐食性が低下する。また、めっき浴のドロス発生量が増大する等、製造上の問題が生じる。そのため、Mg含有量を15.0%以下とする。Mg含有量は、好ましくは11.0%以下である。
【0033】
Si:0~2.0%
Siは、Mgとともに化合物を形成して、めっき層の耐食性の向上に寄与する元素である。また、Siは、鋼板上にめっき層を形成するにあたり、鋼板とめっき層との間に形成される合金層が過剰に厚く形成されることを抑制して、鋼板とめっき層との密着性を高める効果を有する元素でもある。そのため含有させてもよい。Siは必ずしも含有させる必要はなく、下限は0%であるが、上記効果を得る場合、Si含有量を0.1%以上とすることが好ましい。
一方、Si含有量を2.0%超にすると、めっき層中に過剰なSiが晶出したり、ラメラ組織が十分に形成されない、等によって、塗装後耐食性が低下する。また、めっき層の加工性が低下する。従って、Si含有量を2.0%以下とする。Si含有量は、より好ましくは1.5%以下である。
【0034】
Ca:0~2.0%
Caがめっき層中に含有されると、Mg含有量の増加に伴ってめっき操業時に形成されやすいドロスの形成量が減少し、めっき製造性が向上する。そのため、Caを含有させてもよい。Caは必ずしも含有させる必要はなく、下限は0%であるが、上記効果を得る場合、Ca含有量を0.1%以上とすることが好ましい。
一方、Ca含有量が過剰になると耐食性が低下する傾向にある。そのため、Ca含有量は2.0%以下とする。Ca含有量は、好ましくは1.0%以下である。
【0035】
Fe:0~2.0%
Feはめっき層を製造する際に、めっき基材である鋼板等から不純物としてめっき層に混入する場合がある。2.0%程度まで含有されることがあるが、この範囲であれば本実施形態に係るめっき鋼板の特性への悪影響は小さい。そのため、Fe含有量を2.0%以下とすることが好ましい。Fe含有量は、より好ましくは1.5%以下、さらに好ましくは1.0%以下である。
一方、Feの混入を完全に防ぐには著しくコストがかかるので、Fe含有量を0.1%以上としてもよい。
【0036】
本実施形態に係るめっき鋼材のめっき層の化学組成は、上記の化学組成を有し、残部がZnおよび不純物である。本実施形態に係るめっき鋼材のめっき層は、更にZnの一部に代えて、例えば、Ni、La、Ce、Sb、Pb、Sr、Bi、Sn、Cu、Ti、Mn、Cr、Nb、Zr、Mo、V、In、Co、Ag、Li、B、Y、Pからなる群から選ばれる1種以上を以下の範囲で、かつ合計で5.000%以下含んでもよい。これらの元素は必ずしも含まなくてもよいので各含有量の下限は0%である。これらの元素の含有量は、合計で3.000%以下であることがより好ましい。
【0037】
La:0~0.500%
Ce:0~0.500%
Y :0~0.500%
La、CeおよびYは、めっき層の耐食性向上に寄与する元素である。そのため、La、Ce、Yのいずれか一種以上を含有させてもよい。La、Ce、Yのいずれかを含有させる必要はなく、下限は0%であるが、上記効果を得る場合、La、Ce、Yの各含有量は0.010%以上であることが好ましい。
一方、La、Ce、Yの含有量が0.500%を超えると、めっき浴の粘性が上昇し、めっき浴の建浴そのものが困難となることが多く、めっき性状が良好なめっき鋼板を製造できない。そのため、La、Ce、Yの各含有量を0.500%以下とする。
【0038】
Sb:0~0.500%
Pb:0~0.500%
Sr:0~0.500%
Bi:0~0.500%
Sb、Pb、SrおよびBiは、耐食性の向上に寄与する。この効果を十分に得る場合、Sb、Pb、SrおよびBiのいずれか1種でもその含有量を0.001%以上とすることが好ましい。Sb、Pb、SrおよびBiの含有量はそれぞれ、より好ましくは0.005%以上、さらに好ましくは0.050%以上である。
一方、Sb、Pb、SrおよびBiのいずれか1種でもその含有量が0.500%超であると、耐食性が劣化する場合がある。そのため、Sb、Pb、SrおよびBiの含有量はそれぞれ0.500%以下とする。Sb、Pb、SrおよびBiの含有量はそれぞれ、好ましくは0.300%以下、より好ましくは0.200%以下である。
【0039】
Sn:0~1.000%
Snは、Zn、Al、Mgを含むめっき層において、Mg溶出速度を上昇させる元素である。Mgの溶出速度が上昇すると、平面部耐食性が悪化する場合がある。そのため、Sn含有量の上限値は1.000%以下である。Sn含有量は、好ましくは0.500%以下である。一方、Snは犠牲防食性の向上に寄与する元素である。この効果を十分に得る場合、Sn含有量を0.050%以上とすることが好ましい。Sn含有量は、より好ましくは0.100%以上である。
【0040】
Cu:0~1.000%
Ti:0~1.000%
Cr:0~1.000%
Nb:0~1.000%
Ni:0~1.000%
Mn:0~1.000%
Mo:0~1.000%
V :0~1.000%
In:0~1.000%
Co:0~1.000%
Cu、Ti、Cr、Nb、Ni、Mn、Mo、V、InおよびCoは、耐食性の向上に寄与する。この効果を十分に得る場合、上記元素のいずれか1種でもその含有量を0.001%以上とすることが好ましい。上記元素の含有量はそれぞれ、より好ましくは0.005%以上、さらに好ましくは0.050%以上である。
一方、上記元素のいずれか1種でもその含有量が1.000%超であると、耐赤錆性が劣化する場合がある。そのため、上記元素の含有量はそれぞれ1.000%以下である。上記元素の含有量はそれぞれ、好ましくは0.300%以下、より好ましくは0.200%以下である。
【0041】
Zr:0~1.000%
Ag:0~1.000%
Li:0~1.000%
Zr、AgおよびLiは、めっき層の耐食性向上元素である。この効果を十分に得る場合、Zr、AgおよびLiのいずれか1種でもその含有量が0.001%以上であることが好ましい。Zr、AgおよびLiの含有量はそれぞれ、より好ましくは0.005%以上、さらに好ましくは0.020%以上である。
一方、Zr、AgおよびLiは、含有量が過剰に多いと耐食性が劣化する場合がある。Zr、AgおよびLiのいずれか1種でのその含有量が1.000%超であると、耐赤錆性が顕著に劣化する。そのため、Zr、AgおよびLiの含有量はそれぞれ1.000%以下である。Zr、AgおよびLiの含有量はそれぞれ、好ましくは0.500%以下、より好ましくは0.100%以下である。
【0042】
B :0~0.500%、
P :0~0.500%
BおよびPは、外観の改善元素である。この効果を十分に得る場合、BおよびPのいずれか1種でもその含有量が0.001%以上であることが好ましい。BおよびPの含有量はそれぞれ、より好ましくは0.005%以上、さらに好ましくは0.020%以上である。
一方、BおよびPの含有量が過剰に多いと耐食性が劣化する場合がある。BおよびPのいずれか1種でのその含有量が0.500%超であると耐食性が顕著に劣化する。そのため、BおよびPの含有量はそれぞれ1.000%以下である。BおよびPの含有量はそれぞれ、好ましくは0.500%以下、より好ましくは0.100%以下である。
【0043】
本実施形態において、不純物として、製造環境等から混入されるもの、および/または本実施形態に係るめっき鋼材の特性に悪影響を与えない範囲の元素を含んでもよい。
【0044】
めっき層の化学組成は、次の方法により測定する。
まず、めっき層から、めっき層の全厚を含む50mm×50mmの矩形状のサンプルを採取し、地鉄(鋼板)の腐食を抑制するインヒビターであるイビット710(朝日化学製)を0.04体積%含有した10体積%のHClで当該サンプルのめっき層を溶解させた酸液を得る。なお、サンプルは、めっき層の組織等が加工や熱処理等の影響を受けていない部位(例えば、加工部や溶接部などを避けた部位)から採取する。次に、得られた酸液をICP分析で測定することで、めっき層の化学組成を得ることができる。酸種は、めっき層を溶解できる酸であれば、特に制限はない。なお、本実施形態のめっき層の化学組成は、3つのサンプルについて測定を行った平均とする。
【0045】
[めっき鋼材の製造方法]
次に、本実施形態に係るめっき鋼材の好ましい製造方法について説明する。本実施形態に係るめっき鋼板の効果は、製造方法によらず上記の特徴を有していれば得られる。しかしながら、以下の方法によれば本実施形態に係るめっき鋼材を安定して製造できるので好ましい。
具体的には、本実施形態に係るめっき鋼材は、以下の工程(I)~(III)を含む製造方法によって製造可能である。
【0046】
(I)鋼板を還元焼鈍する焼鈍工程
(II)鋼板をAl、Mg、Znを含むめっき浴に浸漬してめっき原板とするめっき工程(III)前記めっき原板を、浴温~制御冷却温度の温度域にて、露点が0℃以上のN2ガス雰囲気中で、7℃/秒以下の平均冷却速度で冷却する制御冷却工程
以下、各工程の好ましい条件について説明する。
【0047】
まず、めっき層を形成するための鋼材(素地鋼)を準備する。好適な鋼材は上述した通りであり、例えば、一般鋼、高張力鋼、低炭素鋼などが挙げられる。
【0048】
鋼材としてプレめっき鋼材を用いる場合には、焼鈍工程前に、鋼材表面にプレめっき層を形成する。プレめっき層は、例えば、Niプレめっき層が挙げられる。鋼材表面にプレめっき層を設けることで、後工程で形成するめっき層の非晶質化を促進させることができる。めっき手段は溶融めっき、電気めっき、置換めっきでもよく、蒸着(PVD等)であってもよい。さらに、プレめっき層が加熱されて合金化されていてもよい。鋼材表面にプレめっき層を設ける場合には、プレめっき層が付与された鋼材を溶融めっきに供する原板とする。
【0049】
プレめっき層の製法においては、めっき層を薄く形成できることから電気めっきが適切である。また、蒸着(PVD)も適用可能である。
【0050】
電気めっきによるプレめっき層の付着量は、累積通電時間を制御することで調整可能である。プレめっき層としてNiプレめっき層を形成する場合には、付着量は、例えば、0.1~2.5g/m2が好ましい。
【0051】
<焼鈍工程>
めっき工程に先立って、公知の方法で得られた鋼材に対し、還元焼鈍を行ってもよい。鋼材として、例えば、熱延鋼板または冷延鋼板がある。焼鈍条件については公知の条件でよく、例えば露点が-10℃以上の5%H2-N2ガス雰囲気下で750~900℃に加熱して、30~240秒保持する。
【0052】
<めっき工程>
焼鈍後、めっき原板である鋼材をめっき浴に浸漬する。めっき浴の組成は、めっき層が、上述しためっき層の化学組成となるように調整する。めっき浴の浴温は、420~700℃とすることが好ましい。浴温が低すぎるとめっき工程中にめっき層が凝固し始める場合がある。そのため浴温は高い方が好ましいが、過度に高すぎると製造コストが上昇する。そのため、めっき浴の浴温は420~700℃の範囲とすることが好ましい。
【0053】
<制御冷却工程>
制御冷却工程では、めっき工程後のめっき原板を、N2ガスなどのワイピングガスでめっき付着量を調整した後、所定条件下で冷却する。
具体的には、めっき浴から引き上げためっき原板を、制御冷却温度以下まで冷却する。この時、めっき原板はめっき浴温と同等の温度になっている。制御冷却温度は、緩冷かつ高露点雰囲気から急冷かつ低露点雰囲気に変化させる温度であり、300℃~330℃である。制御冷却工程では、浴温~制御冷却温度までの平均冷却速度を7℃/秒以下とし、かつ、浴温から制御冷却温度までの冷却における雰囲気の露点を0℃以上とする。冷却中の雰囲気ガスとしては、N2ガス、Arガスなどが挙げられる。
【0054】
浴温から制御冷却温度までの平均冷却速度を小さくすると、鋼材上のめっき層が溶融状態のままで、ゆっくりと冷却されるため、めっき層の表層部が非晶質となりやすい。めっき層の表層部が非晶質となると、その上に形成される酸化物層も非晶質組織を含むものとできる。ここで、めっき層の表層部とは酸化物層とめっき層の界面の周辺領域をいう。また、浴温から制御冷却温度までゆっくり冷却することで、めっき層上に形成される酸化物層の厚みを大きくすることができ、結果、流水耐食性を向上させることができる。さらに、浴温から制御冷却温度までゆっくり冷却することで、酸化物層中のAlとMgの含有率をZnよりも高め、(Al+Mg)/Zn強度比を高めることができる。一方、浴温から制御冷却温度までの平均冷却速度が7℃/秒超の場合、めっき層が表面から凝固してしまい、めっき層表面に結晶質の金属層が形成される場合がある。その場合、めっき層上に形成される酸化物層にも結晶質の酸化物が多く形成されてしまうおそれがある。そのため、浴温から制御冷却温度までの平均冷却速度を7℃/秒以下とする。十分な厚みを持つ酸化物層を形成させる観点から、浴温から制御冷却温度までの平均冷却速度は、好ましくは、4℃/秒以下、より好ましくは2℃/秒以下である。浴温~制御冷却温度までの平均冷却速度の下限は、特に限定されないが、製造コストの観点から、1.5℃/秒以上としてよい。
【0055】
また、浴温から制御冷却温度までの雰囲気の露点が0℃未満であると、酸化物層の厚みを十分に確保できない場合がある。また、大気雰囲気中で冷却工程を実施すると、大気中の水蒸気が結晶の核生成を促し、めっき層が表面から凝固してしまい結晶質の金属層が形成される場合がある。そのため、浴温から制御冷却温度までの雰囲気露点は0℃以上とする。浴温から制御冷却温度までの雰囲気露点の上限は特に限定されないが、製造コストの観点から、40℃以下としてよい。雰囲気ガスは、N2ガス、Arガスなどを用いてよい。
【0056】
制御冷却温度未満の温度域では、平均冷却速度を15℃/秒以上とし、かつ、雰囲気の露点を-30℃以下でめっき原板を冷却する。浴温から制御冷却温度までの温度域で形成した非晶質の酸化物層を維持するため、制御冷却温度未満の温度域においては、めっき原板を低露点で急冷する。そのため、制御冷却温度未満の温度域では、平均冷却速度を15℃/秒以上とする。制御冷却温度未満の温度域における平均冷却速度の上限は特に限定されないが、製造コストの観点から、80℃/秒以下としてよい。また、制御冷却温度未満の温度域の雰囲気の露点を-30℃以下の低露点とすることで酸化物の成長を抑制し、急冷することで非晶質組織から結晶質の組織へと変態することを抑制できる。制御冷却温度未満の温度域の雰囲気の露点は、好ましくは-40℃以下である。制御冷却温度未満の温度域における雰囲気露点の下限は特に限定されないが、製造コストの観点から、-70℃以上としてよい。低露点かつ急冷は、70℃まで実施されればよい。
【0057】
以上説明した方法により、本実施形態に係るめっき鋼材を安定的に製造することができる。
【0058】
[太陽光発電用架台]
本実施形態のめっき鋼材は、流水耐食性に優れるので、例えば、太陽光発電用架台に用いられる。
図3は、太陽光発電用架台10の一例を示す斜視図である。
【0059】
太陽光発電用架台10は、例えば、複数の支柱11と、複数の支持部材12とを有する。本実施形態のめっき鋼材は、支柱11および支持部材12に好適に用いられる。太陽光発電用架台10は、本実施形態のめっき鋼材におけるめっき層および酸化物層の特徴を満たすため、耐久年数に優れる。
【0060】
また、本実施形態のめっき鋼材は、太陽光発電用架台10を載置するための基礎構造体20に適用してもよい。基礎構造体20は、例えば、コンクリート等を基礎として構成されるが、その場合、コンクリート等の基礎に本実施形態のめっき鋼材が埋設されてよい。
【実施例】
【0061】
実施例により本発明の一態様の効果を更に具体的に説明する。ただし、実施例での条件は、本発明の実施可能性および効果を確認するために採用した一条件例に過ぎない。本発明は、この一条件例に限定されない。本発明は、本発明の要旨を逸脱せず、本発明の目的を達成する限り、種々の条件を採用し得る。
【0062】
焼鈍、めっきに供するめっき原板として、板厚2.3mmの冷延鋼板(0.05%C-0.1%Si-0.2%Mn)を素地鋼材として準備した。
この素地鋼材を100mm×200mm(×板厚)の大きさに切断した後、バッチ式の溶融めっき試験装置を用いて、焼鈍および溶融めっきを続けて行った。
【0063】
めっき浴浸漬前、酸素濃度20ppm以下の炉内においてN2-5%H2ガス雰囲気にて600℃で素地鋼材を加熱還元処理した。その後、素地鋼材をN2ガスで空冷して、浸漬時の板温度が浴温+20℃に到達した後、表1に示す浴温のめっき浴に約3秒浸漬した。
次いで、素地鋼材を引き上げることにより、めっき層を素地鋼材の表面に付着させた。引き上げ時、N2ワイピングガスでめっき付着量を制御した。
次いで種々の条件の下でめっき層を冷却することにより、種々のめっき鋼材を製造した。めっき層の化学組成は、表2の通りであった。製造条件は、表1の通りとした。なお、製造中の板温は、めっき原板中心部にスポット溶接した熱電対を用いて測定した。
【0064】
酸化物層のEDS分析結果および結晶性の評価結果を表3に示した。さらに、めっき鋼材の流水耐食性を評価し、その結果を表3に示した。
【0065】
めっき層の化学組成、ならびに酸化物層の分析および評価は、上述した手段により行った。なお、一部の素地鋼材には、めっき工程の前にNiプレめっき層を形成した。Niプレめっき層のNi付着量は、表1の通りであった。Niプレめっきの成分は、表2に開示のめっき層の化学成分に含まれている。
【0066】
流水耐食性の評価は、以下の手段により行った。
得られためっき鋼材を切断し、寸法200mm×100mm(×鋼材厚)の形状の試験片を作成した。作成した試験片は、水平面に対して45°の傾斜角がついた台に乗せた。
次いで、試験片の表面(評価面)に、液滴(Cl-濃度:10ppm、SO4
2-濃度:20ppm)を、2mL/minの流速で滴下し、白錆と赤錆の発生日数を評価した。液滴は、評価面から10mm上方から滴下した。試験環境は大気とし、その温度は25℃に保った。
白錆および赤錆の発生した日数に応じて、下記の評価基準により流水耐食性を評価した。
【0067】
評価基準
AAA:白錆7日超、かつ赤錆120日以上
AA :<1>白錆7日超、かつ赤錆30日以上、120日未満、もしくは<2>白錆5~7日、かつ赤錆60日超
A :白錆5~7日、かつ赤錆30~60日
B :<1>赤錆30日未満、もしくは<2>白錆5日未満
【0068】
評価結果がA~AAAであるめっき鋼材を、流水耐食性に優れた鋼材と判断した。また、評価Bは、白錆の発生した日数問わず、赤錆の発生した日数が30日未満であった場合、または、赤錆の発生した日数問わず、白錆の発生した日数が5日未満であった場合であるが、このようなめっき鋼材については、流水耐食性に劣る鋼材と判断した。なお、上記評価方法によれば、流水耐食性が高いめっき鋼材は、その平面部耐食性も高いと判断することができる。
結果を表3に示す。
【0069】
【0070】
【0071】
【0072】
表1~3から分かるように、発明例であるNo.1~31では、優れた流水耐食性が得られた。これに対し、比較例である、No.32~41では、めっき層の化学組成または、制御冷却工程の冷却条件が好ましい範囲を外れたことで、流水耐食性が低下した。
【産業上の利用可能性】
【0073】
本開示のZn-Al-Mg系溶融めっき鋼部材は、耐食性および化成処理層の密着性に優れ、化成処理層を形成した場合であっても溶接電極との導電性にも優れ、更に、疵の目立ちにくい優れた外観を備えるので、産業上の利用可能性が高い。
【符号の説明】
【0074】
10…太陽光発電用架台
11…支柱
12…支持部材
20…基礎構造体
【要約】
このめっき鋼材は、鋼板と、鋼板上に形成されためっき層と、めっき層上に形成された酸化物層と、を有し、めっき層が、質量%で、Al:1.0~60.0%、Mg:1.0~15.0%、Si:0~2.0%、Ca:0~2.0%、およびFe:0~2.0%、を含有し、残部がZnおよび不純物である化学組成を有し、酸化物層の厚みが5nm以上であり、酸化物層のエネルギー分散型X線分析におけるZnの最大強度に対する、Alの最大強度とMgの最大強度の合計の比である(Al+Mg)/Zn強度比が1.0以上であり、酸化物層が非晶質組織を含む。