(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-02-12
(45)【発行日】2025-02-20
(54)【発明の名称】窒化物半導体装置及び窒化物半導体装置の製造方法
(51)【国際特許分類】
H10D 30/66 20250101AFI20250213BHJP
H10D 30/01 20250101ALI20250213BHJP
H10D 62/10 20250101ALI20250213BHJP
H10D 62/852 20250101ALI20250213BHJP
H01L 21/265 20060101ALI20250213BHJP
【FI】
H01L29/78 652D
H01L29/78 652T
H01L29/78 658A
H01L29/78 652Q
H01L29/78 652S
H01L29/78 652P
H01L29/06 301G
H01L29/06 301F
H01L29/06 301V
H01L29/203
H01L29/78 652J
H01L29/78 653A
H01L21/265 601Z
H01L21/265 601A
(21)【出願番号】P 2020205763
(22)【出願日】2020-12-11
【審査請求日】2023-11-30
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和2年度、文部科学省、科学技術試験研究委託事業、「省エネルギー社会の実現に資する次世代半導体研究開発(評価基盤領域)」、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】000005234
【氏名又は名称】富士電機株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】301023238
【氏名又は名称】国立研究開発法人物質・材料研究機構
(74)【代理人】
【識別番号】100105854
【氏名又は名称】廣瀬 一
(74)【代理人】
【識別番号】100103850
【氏名又は名称】田中 秀▲てつ▼
(72)【発明者】
【氏名】田中 亮
(72)【発明者】
【氏名】高島 信也
(72)【発明者】
【氏名】クマール アシュトッシュ
(72)【発明者】
【氏名】埋橋 淳
(72)【発明者】
【氏名】大久保 忠勝
(72)【発明者】
【氏名】宝野 和博
(72)【発明者】
【氏名】三石 和貴
(72)【発明者】
【氏名】狩野 絵美
(72)【発明者】
【氏名】木本 浩司
【審査官】杉山 芳弘
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-025056(JP,A)
【文献】特開2019-186242(JP,A)
【文献】特開2022-077406(JP,A)
【文献】特開2021-028932(JP,A)
【文献】特開2021-068722(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 29/78
H01L 29/12
H01L 21/336
H01L 29/06
H01L 29/201
H01L 21/265
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
窒化物半導体と、
前記窒化物半導体に設けられ、アクセプタ元素の濃度が5×10
18cm
-3以上2×10
20cm
-3以下であるP型領域と、を備え、
一方向への長さが30nm以上で、前記アクセプタ元素の濃度が5×10
20cm
-3以上であるロッド状アクセプタ偏析の、前記P型領域における密度は1×10
14cm
-3以下であ
り、
前記一方向はm軸に平行な方向である、窒化物半導体装置。
【請求項2】
窒化物半導体と、
前記窒化物半導体に設けられ、アクセプタ元素の濃度が5×10
18
cm
-3
以上2×10
20
cm
-3
以下であるP型領域と、を備え、
一方向への長さが30nm以上で、前記アクセプタ元素の濃度が5×10
20
cm
-3
以上であるロッド状アクセプタ偏析の、前記P型領域における密度は1×10
14
cm
-3
以下であり、
前記P型領域は、一方向への長さが30nm未満で、前記アクセプタ元素の濃度が5×10
20cm
-3以上である非ロッド状アクセプタ偏析を有し、
前記P型領域における前記非ロッド状アクセプタ偏析の密度は、1×10
15cm
-3以上である
、窒化物半導体装置。
【請求項3】
前記窒化物半導体は、貫通転位密度の密度が1×10
7cm
-2未満である低転位自立窒化ガリウム(GaN)基板を含む、請求項1又は2に記載の窒化物半導体装置。
【請求項4】
前記アクセプタ元素は、マグネシウム(Mg)及びベリリウム(Be)の少なくとも一方を含む、請求項1から3のいずれか1項に記載の窒化物半導体装置。
【請求項5】
前記窒化物半導体に設けられ、前記P型領域よりも前記アクセプタ元素の濃度が低いP型ウェル領域、をさらに備え、
前記P型領域は、前記P型ウェル領域の表面側に設けられている、請求項1から4のいずれか1項に記載の窒化物半導体装置。
【請求項6】
前記P型ウェル領域における前記アクセプタ元素の濃度は、1×10
16cm
-3以上3×10
18cm
-3以下である、請求項5に記載の窒化物半導体装置。
【請求項7】
前記P型領域と前記P型ウェル領域とで、前記アクセプタ元素以外の不純物濃度は互いに同じである、請求項5又は6に記載の窒化物半導体装置。
【請求項8】
前記P型ウェル領域の表面側に設けられたN型ソース領域と、
前記P型ウェル領域上に設けられたゲート絶縁膜と、
前記ゲート絶縁膜上に設けられたゲート電極と、
前記窒化物半導体上に設けられ、N型ソース領域と接しているソース電極と、
前記窒化物半導体において前記ソース電極が設けられる面の反対側に設けられたドレイン電極と、をさらに備える請求項5から7のいずれか1項に記載の窒化物半導体装置。
【請求項9】
前記P型領域は前記ソース電極と接している、請求項8に記載の窒化物半導体装置。
【請求項10】
窒化物半導体の一部領域にアクセプタ元素をイオン注入する工程と、
前記アクセプタ元素をイオン注入する工程の前又は後で、前記一部領域に窒素をイオン注入する工程と、
前記アクセプタ元素及び前記窒素がイオン注入された前記窒化物半導体に熱処理を施して、前記一部領域にP型領域を形成する工程と、を備え、
前記アクセプタ元素をイオン注入する工程では、
イオン注入される前記アクセプタ元素の濃度が5×10
18cm
-3以上2×10
20cm
-3以下となるように注入条件を設定
し、
前記P型領域を形成する工程では、
一方向への長さが30nm以上で、前記アクセプタ元素の濃度が5×10
20
cm
-3
以上であるロッド状アクセプタ偏析を1×10
14
cm
-3
以下の密度で含む前記P型領域を形成し、
前記一方向はm軸に平行な方向である、窒化物半導体装置の製造方法。
【請求項11】
前記窒素をイオン注入する工程では、
前記一部領域における前記窒素の元素濃度が前記アクセプタ元素の濃度の0.1倍以上10倍以下となるようにイオン注入の条件を設定する、請求項10に記載の窒化物半導体装置の製造方法。
【請求項12】
前記一部領域上に絶縁性の保護膜を形成する工程、をさらに備え、
前記熱処理を施す工程では、前記一部領域が前記保護膜で覆われた状態で前記窒化物半導体に熱処理を施す、請求項10又は11に記載の窒化物半導体装置の製造方法。
【請求項13】
前記熱処理は最大温度が1300℃以上である、請求項10から12のいずれか1項に記載の窒化物半導体装置の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、窒化物半導体装置及び窒化物半導体装置の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
縦型のMOS(Metal Oxide Semiconductor)構造を有する窒化物半導体装置が知られている(例えば、特許文献1参照)。また、窒化物半導体装置では、マグネシウム(Mg)をドーパントとして用いることによりP型の伝導度制御が可能である(例えば、特許文献2参照)。
【0003】
窒化物半導体装置において、良好なオーミック接触を実現するためには、高濃度のP型領域を窒化物半導体に選択的に形成する必要がある。P型領域を選択形成する手法としては、コスト、生産性、信頼性の観点でイオン注入が望ましい。しかし、窒化物半導体に対してMgを高濃度にイオン注入し、Mgを活性化させるために高温度で熱処理を施すと、Mgがロッド状に高密度に偏析する。Mgがロッド状に高密度に偏析すると、偏析が生じている領域以外の領域でMg濃度は低下する。このため、高濃度で、濃度のばらつきが小さいP型領域をイオン注入で形成することは難しかった(例えば、非特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2019-096744号公報
【文献】特開2014-086698号公報
【非特許文献】
【0005】
【文献】Kumar et.al.,J.Appl.Phys.126(2019)235704.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
窒化物半導体装置において、高濃度で、濃度のばらつきが小さいP型領域を実現することが望まれている。
【0007】
本発明は上記課題に着目してなされたものであって、高濃度で、濃度のばらつきが小さいP型領域を実現可能な窒化物半導体装置及び窒化物半導体装置の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明の一態様に係る窒化物半導体装置は、窒化物半導体と、前記窒化物半導体に設けられ、アクセプタ元素の濃度が5×1018cm-3以上2×1020cm-3以下であるP型領域と、を備える。一方向への長さが30nm以上で、前記アクセプタ元素の濃度が5×1020cm-3以上であるロッド状アクセプタ偏析の、前記P型領域における密度は1×1014cm-3以下である。
【0009】
本発明の一態様に係る窒化物半導体装置の製造方法は、窒化物半導体の一部領域にアクセプタ元素をイオン注入する工程と、前記アクセプタ元素をイオン注入する工程の前又は後で、前記一部領域に窒素をイオン注入する工程と、前記アクセプタ元素及び前記窒素がイオン注入された前記窒化物半導体に熱処理を施して、前記一部領域にP型領域を形成する工程と、を備える。前記アクセプタ元素をイオン注入する工程では、イオン注入される前記アクセプタ元素の濃度が5×1018cm-3以上2×1020cm-3以下となるように注入条件を設定する。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、高濃度で、濃度のばらつきが小さいP型領域を実現可能な窒化物半導体装置及び窒化物半導体装置の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】
図1は、本発明の実施形態1に係る窒化ガリウム半導体装置(GaN半導体装置)の構成例を示す平面図である。
【
図2】
図2は、本発明の実施形態1に係る縦型MOSFETの構成例を示す断面図である。
【
図3A】
図3Aは、本発明の実施形態1に係る縦型MOSFETの製造方法を工程順に示す断面図である。
【
図3B】
図3Bは、本発明の実施形態1に係る縦型MOSFETの製造方法を工程順に示す断面図である。
【
図3C】
図3Cは、本発明の実施形態1に係る縦型MOSFETの製造方法を工程順に示す断面図である。
【
図3D】
図3Dは、本発明の実施形態1に係る縦型MOSFETの製造方法を工程順に示す断面図である。
【
図3E】
図3Eは、本発明の実施形態1に係る縦型MOSFETの製造方法を工程順に示す断面図である。
【
図3F】
図3Fは、本発明の実施形態1に係る縦型MOSFETの製造方法を工程順に示す断面図である。
【
図4A】
図4Aは、本発明の実施例に係るGaN基板の結晶欠陥の分析結果を示す断面TEM図である。
【
図4B】
図4Bは、本発明の実施例に係るGaN基板のMg偏析の分析結果を示す3D-AP図である。
【
図5】
図5は、本発明の実施例に係るGaN基板において、Mg偏析が生じていない領域(母相)のMg濃度を示すグラフである。
【
図6A】
図6Aは、本発明の比較例1に係るGaN基板の結晶欠陥の分析結果を示す断面TEM図である。
【
図6B】
図6Bは、本発明の比較例1に係るGaN基板のMg偏析の分析結果を示す3D-AP図である。
【
図7】
図7は、本発明の比較例1に係るGaN基板に生じたロッド状Mg偏析とその周辺領域における元素の組成比を3D-APで測定した結果を示すグラフである。
【
図8】
図8は、
図7に示したデータを得た際の測定範囲を示す断面TEM図である。
【
図9】
図9は、本発明の比較例1に係るGaN基板において、Mg偏析が生じていない領域(母相)のMg濃度を示すグラフである。
【
図10A】
図10Aは、本発明の比較例2に係るGaN基板の結晶欠陥の分析結果を示す断面TEM図である。
【
図10B】
図10Bは、本発明の比較例2に係るGaN基板のMg偏析の分析結果を示す3D-AP図である
【
図11】
図11は、本発明の実施形態2に係る縦型MOSFETの構成を示す断面図である。
【
図12】
図12は、本発明の実施形態3に係る縦型MOSFETの構成例を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に本発明の実施形態を説明する。以下の図面の記載において、同一又は類似の部分には同一又は類似の符号を付している。但し、図面は模式的なものであり、厚みと平面寸法との関係、各装置や各部材の厚みの比率等は現実のものとは異なることに留意すべきである。したがって、具体的な厚みや寸法は以下の説明を参酌して判定すべきものである。また、図面相互間においても互いの寸法の関係や比率が異なる部分が含まれていることは勿論である。
【0013】
また、以下の説明では、X軸方向、Y軸方向及びZ軸方向の文言を用いて、方向を説明する場合がある。例えば、X軸方向及びY軸方向は、後述のGaN基板10の表面10aに平行な方向である。X軸方向及びY軸方向を水平方向ともいう。また、Z軸方向は、GaN基板10の表面10aと垂直に交わる方向である。X軸方向、Y軸方向及びZ軸方向は、互いに直交する。
【0014】
また、以下の説明では、Z軸の正方向を「上」と称し、Z軸の負方向を「下」と称する場合がある。「上」及び「下」は、必ずしも地面に対する鉛直方向を意味しない。つまり、「上」及び「下」の方向は、重力方向に限定されない。「上」及び「下」は、領域、層、膜及び基板等における相対的な位置関係を特定する便宜的な表現に過ぎず、本発明の技術的思想を限定するものではない。例えば、紙面を180度回転すれば「上」が「下」に、「下」が「上」になることは勿論である。
【0015】
また以下の説明において、導電型を示すPやNに付す+や-は、+及び-が付記されていない半導体領域に比して、それぞれ相対的に不純物濃度が高い又は低い半導体領域であることを意味する。ただし同じPとP(または、NとN)とが付された半導体領域であっても、それぞれの半導体領域の不純物濃度が厳密に同じであることを意味するものではない。
【0016】
<実施形態1>
(窒化ガリウム半導体装置の構成例)
図1は、本発明の実施形態1に係る窒化ガリウム半導体装置(本発明の「窒化物半導体装置」の一例;以下、GaN半導体装置)100の構成例を示す平面図である。
図1は、X-Y平面図である。
図1に示すように、GaN半導体装置100は、活性領域110とエッジ終端領域130とを有する。活性領域110は、ゲートパッド112及びソースパッド114を有する。ゲートパッド112及びソースパッド114は、後述のゲート電極44及びソース電極54にそれぞれ電気的に接続された電極パッドである。
【0017】
Z軸方向からの平面視で、エッジ終端領域130は、活性領域110の周囲を囲んでいる。エッジ終端領域130は、ガードリング構造、フィールドプレート構造及びJTE(Junction Termination Extension)構造の一以上を有してよい。エッジ終端領域130は、活性領域110で発生した空乏層をエッジ終端領域130まで広げることにより、活性領域110での電界集中を防ぐ機能を有してよい。
【0018】
(縦型MOSFETの構成例)
図2は、本発明の実施形態1に係る縦型MOSFET1の構成例を示す断面図である。
図2は、
図1に示す活性領域110をII-II´線で切断した断面を示しており、縦型MOSFET1の繰り返しの単位構造を示している。GaN半導体装置100は、
図2に示す縦型MOSFET(Metal Oxide Semiconductor Field Effect Transistor)1を複数備える。GaN半導体装置100では、縦型MOSFET1がY軸方向に繰り返し設けられている。
【0019】
図2に示すように、縦型MOSFET1は、窒化ガリウム基板(本発明の「窒化物半導体」の一例;以下、GaN基板)10と、ゲート絶縁膜42と、ゲート絶縁膜42上に設けられたゲート電極44と、ソース電極54及びドレイン電極56を有する。
【0020】
GaN基板10(本発明の「窒化物半導体」の一例)は、GaN単結晶基板である。GaN基板10は、例えばN-型の基板である。GaN基板10は、表面10aと、表面10aの反対側に位置する裏面10bとを有する。例えば、GaN基板10は、貫通転位密度が1×107cm-2未満である低転位自立GaN基板である。
【0021】
GaN基板10に含まれるドナー(N型不純物)は、Si(シリコン)、Ge(ゲルマニウム)、及びO(酸素)の一種類以上の元素であってよい。また、GaN基板10に含まれるアクセプタ元素(P型不純物)は、Mg(マグネシウム)、Ca(カルシウム)、Be(ベリリウム)及びZn(亜鉛)の一種類以上の元素であってよい。
【0022】
GaN基板10が低転位自立GaN基板であることにより、GaN基板10に大面積のパワーデバイスが形成される場合でも、パワーデバイスにおけるリーク電流を少なくすることができる。これにより、パワーデバイスを高い良品率で製造することが可能となる。また、縦型MOSFET1の製造工程に含まれる熱処理において、イオン注入された不純物が転位に沿って深く拡散することを防止することができる。
【0023】
なお、GaN基板10は、GaN単結晶基板と、GaN単結晶基板上にエピタキシャル成長された単結晶のGaN層とを含んでもよい。この場合、GaN単結晶基板はN+型又はN型であってもよく、GaN層はN型又はN-型であってもよい。
【0024】
縦型MOSFET1において、半導体材料はGaNであるが、半導体材料はアルミニウム(Al)及びインジウム(In)の一以上の元素を含んでもよい。半導体材料は、Al及びInを微量に含んだ混晶半導体、即ちAlxInyGa1-x-yN(0≦x<1、0≦y<1)であってもよい。なお、GaNは、AlxInyGa1-x-yNにおいてx=y=0とした場合である。
【0025】
GaN基板10には、ドリフト領域22、ウェル領域23(本発明の「P型ウェル領域」の一例)、コンタクト領域25(本発明の「P型領域」の一例)及びソース領域26(本発明の「N型ソース領域」の一例)が設けられている。ウェル領域23、コンタクト領域25及びソース領域26は、それぞれ、GaN基板10の表面10aから所定の深さに不純物がイオン注入され、熱処理により不純物が活性化された領域である。
【0026】
例えば、ウェル領域23の表面側にコンタクト領域25が設けられている。ウェル領域23はP型の領域であり、コンタクト領域25はP+型の領域である。ウェル領域23よりもコンタクト領域25の方が、P型の不純物濃度が高い。ウェル領域23及びコンタクト領域25は、アクセプタ元素(P型不純物)として、Mg及びBeの少なくとも一方を含む。
【0027】
例えば、ウェル領域23及びコンタクト領域25は、アクセプタ元素として、Mgを含む。ウェル領域23におけるMgの濃度は、1×1016cm-3以上3×1018cm-3以下である。コンタクト領域25におけるMgの濃度は、5×1018cm-3以上2×1020cm-3以下である。
【0028】
ドリフト領域22はN-型の領域であり、ソース領域26はN+型の領域である。ドリフト領域22よりもソース領域26の方が、N型の不純物濃度が低い。ドリフト領域22及びソース領域26は、N型の不純物として、例えばSiを含む。例えば、ドリフト領域22のN型の不純物濃度は、GaN基板10のN型の不純物濃度と同じである。この場合、ドリフト領域22には、N型の不純物がイオン注入されていなくてもよい。ソース領域26はウェル領域23の表面側に設けられている。ソース領域26は、ウェル領域23の表面側にSiがイオン注入され、熱処理によりSiが活性化されることにより形成される。
【0029】
図2に示すように、ソース領域26の上部は、GaN基板10の表面10aに露出している。ソース領域26は、底部と第1側部とがウェル領域23に接し、第2側部がコンタクト領域25に接している。ソース領域26の第1側部は、縦型MOSFET1のチャネルが形成される領域(以下、チャネル領域)231側に位置する。ソース領域26の第2側部は、Y軸方向において、第1側部の反対側に位置する。
【0030】
コンタクト領域25の上部は、GaN基板10の表面10aに露出している。コンタクト領域25は、側部がソース領域26に接し、底部がウェル領域23に接している。ウェル領域23、コンタクト領域25及びソース領域26は、X軸方向に延伸するストライプ形状を有する。
【0031】
ドリフト領域22の上部(以下、上部領域)は、GaN基板10の表面10aに露出している。上部領域221は、表面10aにおいてゲート絶縁膜42と接している。上部領域221は、Y軸方向で向かい合う一対のウェル領域23間に位置する。上部領域221はJFET領域と呼んでもよい。
【0032】
ドリフト領域22の下部(以下、下部領域)222は、ウェル領域23の底部と接している。下部領域222は、上部領域221とドレイン電極56との間、及び、ウェル領域23とドレイン電極56との間にそれぞれ位置する。下部領域222は、Y軸方向で繰り返される複数の縦型MOSFET1(すなわち、複数の単位構造)間で、Y軸方向に連続して設けられていてもよい。
【0033】
ドリフト領域22は、ドレイン電極56とチャネル領域231との間の電流経路として機能する。コンタクト領域25は、ソース電極54との接触抵抗を低減する機能を有する。また、コンタクト領域25は、ゲートオフ時の正孔引き抜き経路としても機能する。
【0034】
ゲート絶縁膜42は、例えばシリコン酸化膜(SiO2膜)である。ゲート絶縁膜42は、例えば平坦な表面10a上に設けられる。
【0035】
ゲート電極44は、ゲート絶縁膜42を介してチャネル領域231の上方に設けられている。例えば、ゲート電極44は、平坦なゲート絶縁膜42上に設けられたプレーナ型である。ゲート電極44は、ゲートパッド112と異なる材料で形成されている。ゲート電極44は不純物をドープしたポリシリコンで形成され、ゲートパッド112はAlまたはAl‐Siの合金で形成されている。
【0036】
ソース電極54は、GaN基板10の表面10a上に設けられている。ソース電極54は、ソース領域26の一部とコンタクト領域25とに接している。ソース電極54は、図示しない層間絶縁膜を介してゲート電極44上にも設けられてもよい。層間絶縁膜は、ゲート電極44とソース電極54とが電気的に接続しないように、ゲート電極44の上部及び側部を覆ってもよい。
【0037】
ソース電極54は、ソースパッド114と同一の材料で形成されている。例えば、AlまたはAl-Siの合金からなるソース電極54が、ソースパッド114を兼ねている。ソース電極54は、GaN基板10の表面10aとAl(または、Al-Si)との間にバリアメタル層を有してもよい。バリアメタル層の材料としてチタン(Ti)を使用してもよい。ドレイン電極56は、GaN基板10の裏面10b側に設けられており、裏面10bに接している。ドレイン電極56もソース電極54と同様の材料で構成されている。
【0038】
図2において、ゲート端子、ソース端子及びドレイン端子を、それぞれG、D及びSで示す。例えば、ゲート端子Gを介してゲート電極44に閾値電圧以上の電位が与えられると、チャネル領域231に反転層が形成される。チャネル領域231に反転層が形成されている状態で、ドレイン電極56に所定の高電位が与えられ、かつ、ソース電極54に低電位(例えば、接地電位)が与えられると、ドレイン端子Dからソース端子Sへ電流が流れる。また、ゲート電極44に閾値電圧よりも低い電位が与えられるとチャネル領域231に反転層は形成されず、電流は遮断される。これにより、縦型MOSFET1は、ソース端子S及びドレイン端子D間における電流をスイッチングすることができる。
【0039】
(縦型MOSFETの製造方法)
次に、本発明の実施形態1に係る縦型MOSFET1の製造方法について説明する。
図3Aから
図3Fは、本発明の実施形態1に係る縦型MOSFET1の製造方法を工程順に示す断面図である。縦型MOSFET1は、成膜装置、露光装置、エッチング装置など、各種の製造装置によって製造される。
【0040】
図3Aに示すように、製造装置は、GaN基板10において、ウェル領域23(
図2参照)が形成される領域(以下、ウェル形成領域)23´に、アクセプタ元素としてMgをイオン注入する。例えば、製造装置は、GaN基板10の表面10a上にマスクM1を形成する。マスクM1は、GaN基板10に対して選択的に除去可能なSiO
2膜又はフォトレジストである。活性領域110(
図1参照)において、マスクM1は、ウェル形成領域23´の上方を開口し、他の領域の上方を覆う形状を有する。製造装置は、マスクM1が形成されたGaN基板10にMgをイオン注入する。イオン注入後、製造装置は、GaN基板10上からマスクM1を除去する。
【0041】
図3Aに示すMgのイオン注入工程では、イオン注入されるMgについて、GaN基板10の表面10a付近におけるMg濃度が1×10
16cm
-3以上3×10
18cm
-3以下となるように、Mgの注入エネルギー(加速電圧)とドーズ量とが設定される。表面付近とは、例えば、表面10aから深さ50nmまでの範囲をいう。
【0042】
または、
図3Aに示すMgのイオン注入工程では、GaN基板10の表面10a付近だけでなく、ウェル形成領域23´全体におけるMg濃度が1×10
16cm
-3以上3×10
18cm
-3以下となるように、Mgの注入エネルギーとドーズ量とが設定されてもよい。
図3Aに示すMgのイオン注入工程は、加速エネルギーが1条件である一段イオン注入で行ってもよいし、加速エネルギーが複数条件ある多段イオン注入で行ってもよい。
【0043】
次に、
図3Bに示すように、製造装置は、GaN基板10において、ソース領域が形成される領域(以下、ソース形成領域)26´にN型の不純物としてSiをイオン注入する。例えば、製造装置は、GaN基板10上にマスクM2を形成する。マスクM2は、SiO
2膜又はフォトレジストである。活性領域110において、マスクM2は、ソース形成領域26´の上方を開口し、他の領域の上方を覆う形状を有する。製造装置は、マスクM2が形成されたGaN基板10にSiをイオン注入する。イオン注入後、製造装置は、GaN基板10上からマスクM2を除去する。
【0044】
次に、
図3Cに示すように、製造装置は、GaN基板10において、コンタクト領域が形成される領域(本発明の「一部領域」の一例;以下、コンタクト形成領域)25´にP型不純物としてMgをイオン注入する。例えば、製造装置は、GaN基板10上にマスクM3を形成する。マスクM3は、SiO
2膜又はフォトレジストである。活性領域110において、マスクM3は、コンタクト形成領域25´の上方を開口し、他の領域の上方を覆う形状を有する。製造装置は、マスクM3が形成されたGaN基板10にMgをイオン注入する。
【0045】
図3Cに示すMgのイオン注入工程では、GaN基板10の表面10aから注入ピーク位置までの深さが200nm以上1500nm以下であり、一例として500nmとなるように、注入エネルギー(加速電圧)が設定される。また、この工程では、イオン注入されるMgについて、注入ピーク位置におけるMg濃度が5×10
18cm
-3以上2×10
20cm
-3以下であり、一例として1×10
19cm
-3となるように、Mg(アクセプタ元素)のドーズ量が設定される。
【0046】
または、
図3Cに示すMgのイオン注入工程では、注入ピーク位置だけでなく、コンタクト形成領域25´全体におけるMg濃度が5×10
18cm
-3以上2×10
20cm
-3以下であり、一例として1×10
19cm
-3となるようにMgの注入エネルギーとドーズ量とが設定されてもよい。
図3Cに示すMgのイオン注入工程は、単一の加速エネルギーを用いた一段イオン注入で行ってもよいし、異なる加速エネルギーを用いた多段イオン注入で行ってもよい。
【0047】
次に、
図3Dに示すように、製造装置は、GaN基板10のコンタクト形成領域25´に窒素(N)をイオン注入する。例えば、製造装置は、マスクM3が形成されたGaN基板10にNをイオン注入する。イオン注入後、製造装置は、GaN基板10上からマスクM3を除去する。
【0048】
図3Dに示すNのイオン注入工程では、GaN基板10の表面10aから注入ピーク位置までの深さが200nm以上1500nm以下であり、一例として500nmとなるように、注入エネルギー(加速電圧)が設定される。この工程では、
図3Cに示したMgのイオン注入工程と同じ注入エネルギーで、Nをイオン注入してよい。また、この工程では、イオン注入されるNについて、注入ピーク位置におけるN濃度が、Mg濃度の0.1倍以上10倍以下であり、一例として1×10
19cm
-3となるようにNのドーズ量が設定される。
【0049】
または、
図3Dに示すNのイオン注入工程では、注入ピーク位置だけでなく、コンタクト形成領域25´全体におけるN濃度がMg濃度の0.1倍以上10倍以下であり、一例として1×10
19cm
-3となるようにNの注入エネルギーとドーズ量とが設定されてもよい。
図3Dに示すNのイオン注入工程は、単一の加速エネルギーを用いた一段イオン注入で行ってもよいし、異なる加速エネルギーを用いた多段イオン注入で行ってもよい。
【0050】
また、
図3Dに示すNのイオン注入工程では、コンタクト形成領域25´だけでなく、ウェル形成領域23´にもNを注入してよい。
【0051】
なお、本発明の実施形態1では、
図3Cに示したMgのイオン注入工程と、
図3Dに示したNのイオン注入工程とを入れ替えた工程順としてもよい。すなわち、
図3Dに示したNイオン注入工程の後で、
図3Cに示したMgのイオン注入工程を行ってもよい。
【0052】
次に、
図3Eに示すように、製造装置は、GaN基板10の表面10a上に絶縁性の保護膜31を形成する。保護膜31は、熱処理中においてGaN基板10から窒素原子が放出されることを防ぐ機能を有する。窒素原子がGaN基板10から放出された位置には窒素空孔が形成される。窒素空孔は、ドナー型欠陥として機能し得るので、P型特性の発現が阻害される可能性がある。これを防ぐことを目的に、製造装置は、GaN基板10上に保護膜31を設ける。
【0053】
保護膜31は、耐熱性が高く、GaN基板10と良好な密着性を有し、保護膜31からGaN基板10側へ不純物が拡散せず、かつ、GaN基板10に対して選択的に除去可能であることが好ましい。保護膜31は、窒化アルミニウム(AlN)膜、SiO2膜または窒化シリコン(SiN)膜である。保護膜31は、AlN膜、SiO2膜及びSiN膜の少なくとも1つ以上を含む積層膜であってもよい。また、GaN基板10と保護膜31との間に、保護膜31の下地となる絶縁膜が設けられていてもよい。下地となる絶縁膜として、例えばSiO2膜が挙げられる。
【0054】
次に、製造装置は、保護膜31で覆われたGaN基板10に、最大温度が1300℃以上の熱処理を施す。この熱処理は、例えば急速加熱処理である。この熱処理により、GaN基板10に導入されたMgとSiとが活性化される。これにより、
図3Fに示すように、GaN基板10に、P型のウェル領域23と、P+型のコンタクト領域25と、N+型のソース領域26とが形成されるとともに、ドリフト領域22が画定される。また、この熱処理により、GaN基板10において、イオン注入により生じた欠陥をある程度回復することができる。熱処理後、製造装置は、GaN基板10上から保護膜31を除去する。
【0055】
次に、製造装置は、GaN基板10上にゲート絶縁膜42(
図1参照)を形成する。次に、製造装置は、ゲート電極44(
図1参照)、ソース電極54(
図1参照)、ドレイン電極56(
図1参照)を形成する。次に、製造装置は、ゲート電極44上に層間絶縁膜(図示せず)を形成する。次に、製造装置は、ゲート電極44に電気的に接続するゲートパッド112(
図1参照)と、ソース電極54に電気的に接続するソースパッド114(
図1参照)とを形成する。これにより、
図1に示した縦型MOSFET1が完成する。
【0056】
(エピタキシャル成長法で形成される構造との相違点)
本発明の実施形態において、P型のコンタクト領域25は、Mgのイオン注入と、この後に続くNのイオン注入(または、Nのイオン注入と、この後に続くMgのイオン注入)とで形成する。コンタクト領域25をイオン注入で形成するため、同様の構造をエピタキシャル成長法で形成する場合に対して、以下(1)から(3)が相違点となりうる。
【0057】
(1)コンタクト領域25は、周辺領域(P型のウェル領域23、N+型のソース領域26など)とMg以外の不純物濃度が同じである点。例えば、コンタクト領域25とウェル領域23とで、Mg以外の不純物濃度が互いに同じである点。また、コンタクト領域25とソース領域26とで、Mg及びSi以外の不純物濃度が互いに同じである点。コンタクト領域25と同様の構造をエピタキシャル成長法で形成すると、コンタクト領域と周辺領域との間で、Mg以外(または、Mg及びSi以外)の不純物濃度に差が生じてしまう。本発明の実施形態では、このような差は生じない。
【0058】
(2)コンタクト領域25は、周辺領域(P型のウェル領域23、N+型のソース領域26など)との界面にSiのピークがない点。コンタクト領域25と同様の構造をエピタキシャル成長法で形成すると、コンタクト領域と周辺領域との界面に、Siのピークが生じる。このSiのピークは、チャンバ内の雰囲気に存在するSiが、再成長の際に上記界面に取り込まれることで生じる。本発明の実施形態では、このようなSiのピークは生じない。
【0059】
(3)コンタクト領域25の表面と、周辺領域(例えば、P型のウェル領域23、N+型のソース領域26など)の表面との間に段差が無い(または、ほぼ無い)点。コンタクト領域25と同様の構造をエピタキシャル成長法で形成すると、コンタクト領域の表面と周辺領域の表面との間に、エッチング又は選択エピタキシャル成長による段差が生じてしまう。本発明の実施形態では、このような段差は生じない。
【0060】
(実験結果)
次に、GaN層における結晶欠陥とMgの偏析について、実験結果(実施例、比較例1、2)を示す。
【0061】
(a)実施例
図4Aは、本発明の実施例に係るGaN基板の結晶欠陥の分析結果を示す断面TEM(Transmission Electron Microscope)図である。
図4Bは、本発明の実施例に係るGaN基板のMg偏析の分析結果を示す3D-AP(3-Dimension Atom Probe Microscope)図である。
【0062】
本発明の実施例に係るGaN基板は、GaN基板にMgをイオン注入し、続いてNをイオン注入し、MgとNとが注入されたGaN基板に1300℃で5分の熱処理を施すことによって得られたものである。Mgのイオン注入では、GaN基板の表面から注入ピーク位置までの深さが500nmであり、注入ピーク位置におけるMg濃度が1×1019cm-3となるように、注入条件(注入エネルギー及びドーズ量)を設定した。また、Nの注入条件は、Mgの注入条件と同様に設定した。すなわち、Nのイオン注入では、GaN基板の表面から注入ピーク位置までの深さが500nmであり、注入ピーク位置におけるN濃度が1×1019cm-3となるように、注入条件を設定した。なお、本明細書では、Mgのイオン注入に続いてNをイオン注入することを、Nの連続注入ともいう。
【0063】
図4Aに示すように、実施例に係るGaN基板では、大きな結晶欠陥は見られなかった。例えば、試料の厚さ100nmとすると、
図4Aに示す断面TEMの観察視野に転位等の結晶欠陥が1つあるときの結晶欠陥の密度は、約6.3×10
13cm
-3となる。
図4Aに示す観察視野では転位等の結晶欠陥が見られないため、実施例に係るGaN基板における結晶欠陥の密度(欠陥密度)は、1×10
14cm
-3以下であった。また、
図4Bに示すように、実施例に係るGaN基板では、非ロッド状Mg偏析(本発明の「非ロッド状アクセプタ偏析」の一例)は見られるものの、ロッド状Mg偏析(本発明の「ロッド状アクセプタ偏析」の一例)は見られなかった。
【0064】
なお、本明細書において、ロッド状Mg偏析とは、「一方向への長さが30nm以上で、Mgの濃度が5×1020cm-3以上であるMg偏析」と定義される。一方向とは、例えばm軸に平行な方向である。m軸とは、結晶方位<1-100>方向である。また、非ロッド状Mg偏析とは、「一方向への長さが30nm未満で、Mgの濃度が5×1020cm-3以上であるMg偏析」と定義される。Mg偏析は、Mg偏析欠陥と呼んでもよい。
【0065】
図5は、本発明の実施例に係るGaN基板において、Mg偏析が生じていない領域(母相)のMg濃度を示すグラフである。
図5の横軸はGaN基板の表面からの深さ(nm)を示し、縦軸はMg濃度(cm
-3)を示す。
図5に示すように、実施例に係るGaN基板において、Mg偏析が生じていない領域(母相)におけるMg濃度は、熱処理によって1×10
19cm
-3から低下しているものの、その値は5×10
18cm
-3付近で維持されており、深さ方向におけるMg濃度のばらつきも小さく抑えられていることが確認された。
【0066】
(b)比較例1
図6Aは、本発明の比較例1に係るGaN基板の結晶欠陥の分析結果を示す断面TEM図である。
図6Bは、本発明の比較例1に係るGaN基板のMg偏析の分析結果を示す3D-AP図である。本発明の比施例1に係るGaN基板は、Mgのみイオン注入し、Mgのみが注入されたGaN基板に1300℃で5分の熱処理を施すことによって得られたものである。Mgのイオン注入条件は、実施例と同じである。
図6Aに示すように、比較例1に係るGaN基板では、ループ状転位が見られた。また、
図6Bに示すように、比較例1に係るGaN基板では、ロッド状Mg偏析が見られた。
【0067】
図7は、本発明の比較例1に係るGaN基板に生じたロッド状Mg偏析とその周辺領域における元素の組成比を3D-APで測定した結果を示すグラフである。
図7の横軸は測定範囲の起点からの距離(nm)を示し、縦軸は元素の組成比(at%)を示す。
図8は、
図7に示したデータを得た際の測定範囲を示す断面TEM図である。
図8に示す測定範囲の左端が、
図7の距離0nmの位置(起点)に相当する。
図8に示した測定範囲の右端が、
図7の距離20nmの位置(終点)に相当する。
【0068】
図7に示すように、比較例1に係るGaN基板において、Mg偏析が生じていない領域(母相)では、Mgの組成比が1at%程度であることが確認された。また、ロッド状Mg偏析が生じている領域では、Mgの組成比が最大で10at%程度であることが確認された。
図8に示すロッド状Mg偏析の幅は、
図7の測定結果から5nm以下であることが確認された。
【0069】
図9は、本発明の比較例1に係るGaN基板において、Mg偏析が生じていない領域(母相)のMg濃度を示すグラフである。
図9の横軸はGaN基板の表面からの深さ(nm)を示し、縦軸はMg濃度(cm
-3)を示す。
図9に示すように、比較例1に係るGaN基板において、Mg偏析が生じていない領域(母相)におけるMg濃度は、3×10
18cm
-3付近まで低下している。また、比較例1に係るGaN基板の母相におけるMg濃度は、実施例と比べて、ばらつきが大きいことが確認された。比較例1に係るGaN基板では、ロット状のMg偏析が生じているため、その分だけ母相におけるMg濃度が低く、深さ方向におけるMg濃度のばらつきも大きくなっているものと考えられる。
【0070】
(c)比較例2
図10Aは、本発明の比較例2に係るGaN基板の結晶欠陥の分析結果を示す断面TEM図である。
図10Bは、本発明の比較例2に係るGaN基板のMg偏析の分析結果を示す3D-AP図である。
【0071】
本発明の比施例2に係るGaN基板は、Mgのみイオン注入し、Mgのみが注入されたGaN基板に1200℃で5分の熱処理を施すことによって得られたものである。Mgのイオン注入条件は、実施例と同じである。
図10Aに示すように、比較例2に係るGaN基板では、転位等の結晶欠陥は見られなかった。また、
図10Bに示すように、比較例2に係るGaN基板では、Mgの偏析も見られなかった。Mg偏析の密度は、1×10
15cm
-3未満である。
【0072】
Mg濃度の均一化の観点から見れば、Mgの偏析は無い方が好ましい。しかし、比較例2のように、熱処理の温度が1200℃の場合は、Mgのイオン注入等により生じた結晶欠陥の回復と、Mgの活性化とが不十分であり、Mgがアクセプタとして十分に機能しない。このため、Mgの偏析は生じるものの、熱処理の温度は、実施例のように1300℃以上であることが好ましい。
【0073】
(実施形態1の効果)
以上説明したように、本発明の実施形態1に係るGaN半導体装置100は、GaN基板10と、GaN基板10に設けられた縦型MOSFET1と、を備える。縦型MOSFET1は、GaN基板10に設けられ、アクセプタ元素の濃度が5×10
18cm
-3以上2×10
20cm
-3以下であるP型のコンタクト領域25と、を備える。一方向(例えば、m軸に平行な方向)への長さが30nm以上で、マグネシウム(Mg)の元素濃度が5×10
20cm
-3以上であるロッド状Mg偏析(
図6B参照)の、コンタクト領域25における密度は1×10
14cm
-3以下である。これによれば、コンタクト領域25において、ロッド状Mg偏析の発生が抑制されているため、偏析によるMg濃度のばらつきを抑制することができる。これにより、高濃度で、濃度のばらつきが小さいコンタクト領域25を実現することができる。
【0074】
また、コンタクト領域25は、一方向(例えば、m軸に平行な方向)への長さが30nm未満で、Mg濃度が5×10
20cm
-3以上である非ロッド状Mg偏析(
図4B参照)を有してもよい。コンタクト領域25における非ロッド状Mg偏析の密度は、1×10
15cm
-3以上であってもよい。このような場合であっても、コンタクト領域25において、ロッド状Mg偏析の発生が抑制されているため、偏析によるMg濃度のばらつきを抑制することができる。これにより、高濃度で、濃度のばらつきが小さいコンタクト領域25を実現することができる。
【0075】
本発明の実施形態1に係るGaN半導体装置100の製造方法は、GaN基板10のコンタクト形成領域25´にMgをイオン注入する工程と、Mgをイオン注入する工程の前又は後で、コンタクト形成領域25´に窒素(N)をイオン注入する工程と、Mg及びNがイオン注入されたGaN基板10に熱処理を施して、コンタクト形成領域25´にP型のコンタクト領域25を形成する工程と、を備える。Mgをイオン注入する工程では、イオン注入されるMgの濃度が5×1018cm-3以上2×1020cm-3以下となるように注入条件(例えば、加速エネルギー及びドーズ量)を設定する。これによれば、高濃度で、濃度のばらつきが小さいコンタクト領域25を有するMOSFET1を製造することができる。
【0076】
<実施形態2>
本発明の実施形態では、ドリフト領域22にN型の不純物濃度を高めるドープ(カウンタドープ)が施されていてもよい。
【0077】
図11は、本発明の実施形態2に係る縦型MOSFET1Aの構成を示す断面図である。
図11に示すように、実施形態2に係る縦型MOSFET1Aは、N-型のドリフト領域22に設けられたN型のドープ領域cdを備える。ドープ領域cdは、N型の不純物(例えば、Si)がドープされた領域である。ドリフト領域22において、ドープ領域cd以外の領域は、非ドープ領域ucdである。ドープ領域cdは、非ドープ領域ucdよりもN型不純物(例えば、Si)の濃度が高い。
【0078】
ドープ領域cdは、非ドープ領域ucdよりもGaN基板10の表面10aに近い側に位置する。例えば、ドープ領域cdは、上部領域(JFET領域)221の全体と、下部領域222において上部領域221と接する側の端部とに連続して設けられている。
【0079】
このような構成であっても、高濃度で、濃度のばらつきが小さいコンタクト領域25を実現することができる。また、縦型MOSFET1Aは、ドリフト領域22においてチャネル領域231に隣接する領域のN型不純物濃度を高くすることができるため、耐圧の低下を抑制しつつ、オン抵抗を低減することができる。
【0080】
<実施形態3>
上記の実施形態1、2では、GaN半導体装置100がプレーナ構造の縦型MOSFETを備える場合を説明した。しかしながら、縦型MOSFETはプレーナ構造に限定されない。縦型MOSFETはトレンチゲート構造であってもよい。例えば、GaN半導体装置100は、以下に説明するトレンチゲート構造の縦型MOSFET1Bを備えてもよい。
【0081】
図12は、本発明の実施形態3に係る縦型MOSFET1Bの構成例を示す断面図である。
図12に示すように、縦型MOSFET1Bは、GaN基板10に設けられたトレンチHを有する。トレンチHは、GaN基板10の表面10a側に開口している。トレンチHはP型のウェル領域23よりも深く形成されており、トレンチHの底部はN-型の領域まで達している。
【0082】
トレンチHの内側には、ゲート絶縁膜42とゲート電極44とが配置されている。トレンチHの内側の側面と底面とをゲート絶縁膜42が覆っている。また、ゲート電極44は、ゲート絶縁膜42を介してトレンチHに埋め込まれている。縦型MOSFET1Bでは、トレンチHの内側の側面に設けられたゲート絶縁膜42を介してゲート電極44と向かい合う領域がチャネル領域231となる。
【0083】
このような構成であっても、高濃度で、濃度のばらつきが小さいコンタクト領域25を実現することができる。また、縦型MOSFET1Bは、トレンチゲート構造を採用することにより、チャネル領域231をより密に配置することが可能となる。縦型MOSFET1Bは、素子サイズの微細化とチャネル密度の向上とが可能となる。
【0084】
(その他の実施形態)
上記のように、本発明は実施形態1から3によって記載したが、この開示の一部をなす論述及び図面は本発明を限定するものであると理解すべきではない。この開示から当業者には様々な代替実施形態、変形例が明らかとなろう。
【0085】
例えば、ゲート絶縁膜42は、SiO2膜に限定されるものではなく、他の絶縁膜であってもよい。ゲート絶縁膜42には、シリコン酸窒化(SiON)膜、ストロンチウム酸化物(SrO)膜、シリコン窒化物(Si3N4)膜、アルミニウム酸化物(Al2O3)膜も使用可能である。また、ゲート絶縁膜42には、単層の絶縁膜をいくつか積層した複合膜等も使用可能である。ゲート絶縁膜42としてSiO2膜以外の絶縁膜を用いた縦型MOSFETは、縦型MISFETと呼んでもよい。MISFETは、MOSFETを含む、より包括的な絶縁ゲート型トランジスタを意味する。
【0086】
また、上記の実施形態では、コンタクト領域25が縦型MISFETに含まれることを説明した。しかしながら、本発明の実施形態はこれに限定されない。コンタクト領域25は、GaN基板の垂直方向に電流が流れる縦型MISFETではなく、GaN基板の水平方向に電流が流れる横型MISFETに含まれていてもよい。
【0087】
また、上記の実施形態では、コンタクト領域25と接触する電極がソース電極54であることを説明した。しかしながら、本発明の実施形態はこれに限定されない。コンタクト領域25は、ソース電極以外の電極と接触してもよい。また、コンタクト領域25に例示されるP型領域は、MOSFET以外の他の素子に含まれていてもよく、例えば、バイポーラトランジスタ、ダイオード、容量素子又は抵抗素子等に含まれていてもよい。
【0088】
また、上記の実施形態では、製造方法の例として、
図3A、3B、3C、3Dの各工程では、GaN基板10の表面10aを絶縁膜(スルー膜)で保護した状態で、イオン注入してもよい。イオン注入時のダメージ(すなわち、イオンからGaN基板10に与えるエネルギー)の一部をスルー膜に請け負わせることで、イオン注入時にGaN基板10に生じる欠陥を低減する。これにより、熱処理後の偏析をさらに抑制することが可能である。スルー膜として、例えばSiO
2膜、SiN膜又はAlN膜を用いてもよい。
【0089】
また、
図3A、3B、3C、3Dの各工程では、GaN基板10を高温に保持した状態でイオン注入(高温イオン注入)してもよい。Mg又はN、若しくは、Mg及びNの両方を、高温イオン注入してもよい。これにより、イオン注入時にGaN基板10に生じる欠陥を、イオン注入時の高温で回復することができる。イオン注入と欠陥の回復とを同時に実施することができ、イオン注入で生じる欠陥を熱処理前にある程度回復させておくことができる。これにより、熱処理後の偏析をさらに抑制することが可能である。上記の高温(高温イオン注入の温度)は、例えば500℃以上1500℃以下であり、より好ましくは800℃以上1300℃以下であり、一例を挙げると1000℃程度である。
【0090】
また、
図3A、3B、3C、3Dの各工程では、イオン注入レートを5×10
10atoms/(cm
2s)以上としてもよい。一定以上(例えば、5×10
10atoms/(cm
2s)以上)のレートでイオン注入することで、自己発熱による欠陥回復を見込むことができる。
【0091】
また、本発明の実施形態では、GaN基板におけるカーボン(C)元素の濃度が1×1016cm-3以下であってもよい。カーボンは、ドナー、アクセプタのどちらも補償するが、カーボン元素の濃度が上記のように規定されることで、カーボンによる意図しない補償を低減することができる。
【0092】
このように、本技術はここでは記載していない様々な実施形態等を含むことは勿論である。上述した実施形態及び変形例の要旨を逸脱しない範囲で、構成要素の種々の省略、置換及び変更のうち少なくとも1つを行うことができる。また、本明細書に記載された効果はあくまでも例示であって限定されるものでは無く、また他の効果があってもよい。
【符号の説明】
【0093】
1、1A、1B 縦型MOSFET
10 GaN基板
10a 表面
10b 裏面
22 ドリフト領域
23 ウェル領域
23´ ウェル形成領域
25 コンタクト領域
25´ コンタクト形成領域
26 ソース領域
26´ ソース形成領域
31 保護膜
42 ゲート絶縁膜
44 ゲート電極
54 ソース電極
56 ドレイン電極
100 GaN半導体装置
110 活性領域
112 ゲートパッド
114 ソースパッド
130 エッジ終端領域
221 上部領域(JFET領域)
222 下部領域
231 チャネル領域
cd ドープ領域
D ドレイン端子
G ゲート端子
H トレンチ
M1、M2、M3 マスク
S ソース端子
ucd 非ドープ領域