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特許7633643サツマイモ病原ウイルス検出用プライマーセット及びサツマイモ病原ウイルスの検出方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-02-12
(45)【発行日】2025-02-20
(54)【発明の名称】サツマイモ病原ウイルス検出用プライマーセット及びサツマイモ病原ウイルスの検出方法
(51)【国際特許分類】
   C12Q 1/6888 20180101AFI20250213BHJP
   C12N 15/09 20060101ALI20250213BHJP
【FI】
C12Q1/6888 Z
C12N15/09 Z ZNA
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2020167637
(22)【出願日】2020-10-02
(65)【公開番号】P2021094016
(43)【公開日】2021-06-24
【審査請求日】2023-09-04
(31)【優先権主張番号】P 2019227418
(32)【優先日】2019-12-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】504224153
【氏名又は名称】国立大学法人 宮崎大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000729
【氏名又は名称】弁理士法人ユニアス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】竹下 稔
(72)【発明者】
【氏名】小倉 李来
【審査官】福澤 洋光
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第103849691(CN,A)
【文献】Journal of Virological Methods,2012年,Vol.186,pp.161-166
【文献】Plant Pathology Journal,2014年,Vol.30, No.4,pp.416-424
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 1/00-15/90
C12Q 1/00- 3/00
CAplus/BIOSIS/MEDLINE/EMBASE(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
GenBank/EMBL/DDBJ/GeneSeq
PubMed
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の(2)~(10)からなる群より選択される少なくとも1種以上のサツマイモ病原ウイルス検出用プライマーセット:
2)配列表の配列番号1に示す塩基配列からなるオリゴヌクレオチド及び配列番号3に示す塩基配列からなるオリゴヌクレオチドで構成されるサツマイモ病原ウイルス検出用プライマーセット;
(3)配列表の配列番号1に示す塩基配列からなるオリゴヌクレオチド及び配列番号4に示す塩基配列からなるオリゴヌクレオチドで構成されるサツマイモ病原ウイルス検出用プライマーセット;
(4)配列表の配列番号5に示す塩基配列からなるオリゴヌクレオチド及び配列番号6に示す塩基配列からなるオリゴヌクレオチドで構成されるサツマイモ病原ウイルス検出用プライマーセット;
(5)配列表の配列番号7に示す塩基配列からなるオリゴヌクレオチド及び配列番号8に示す塩基配列からなるオリゴヌクレオチドで構成されるサツマイモ病原ウイルス検出用プライマーセット;
(6)配列表の配列番号1に示す塩基配列からなるオリゴヌクレオチド及び配列番号9に示す塩基配列からなるオリゴヌクレオチドで構成されるサツマイモ病原ウイルス検出用プライマーセット;
(7)配列表の配列番号10に示す塩基配列からなるオリゴヌクレオチド及び配列番号11に示す塩基配列からなるオリゴヌクレオチドで構成されるサツマイモ病原ウイルス検出用プライマーセット;
(8)配列表の配列番号12に示す塩基配列からなるオリゴヌクレオチド及び配列番号13に示す塩基配列からなるオリゴヌクレオチドで構成されるサツマイモ病原ウイルス検出用プライマーセット;
(9)配列表の配列番号14に示す塩基配列からなるオリゴヌクレオチド及び配列番号15に示す塩基配列からなるオリゴヌクレオチドで構成されるサツマイモ病原ウイルス検出用プライマーセット;
(10)配列表の配列番号16に示す塩基配列からなるオリゴヌクレオチド及び配列番号17に示す塩基配列からなるオリゴヌクレオチドで構成されるサツマイモ病原ウイルス検出用プライマーセット。
【請求項2】
請求項1に記載のプライマーセットの1種または複数種を用いてPCRを行い、該PCRにより得られた増幅断片を解析して、試料中のサツマイモ病原ウイルスを検出する方法。
【請求項3】
配列表の配列番号1に示す塩基配列からなるオリゴヌクレオチド及び配列番号3に示す塩基配列からなるオリゴヌクレオチドで構成されるサツマイモ病原ウイルス検出用プライマーセットを用いてPCRを行い、該PCRにより得られた増幅断片を解析して、試料中のサツマイモ病原ウイルスSPFMVの存在を検出する方法。
【請求項4】
配列表の配列番号1に示す塩基配列からなるオリゴヌクレオチド及び配列番号4に示す塩基配列からなるオリゴヌクレオチドで構成されるサツマイモ病原ウイルス検出用プライマーセットを用いてPCRを行い、該PCRにより得られた増幅断片を解析して、試料中のサツマイモ病原ウイルスSPVG及びSPV2の存在を検出する方法。
【請求項5】
配列表の配列番号1に示す塩基配列からなるオリゴヌクレオチド及び配列番号9に示す塩基配列からなるオリゴヌクレオチドで構成されるサツマイモ病原ウイルス検出用プライマーセットを用いてPCRを行い、該PCRにより得られた増幅断片を解析して、試料中のサツマイモ病原ウイルスSPVGの存在を検出する方法。
【請求項6】
配列表の配列番号5に示す塩基配列からなるオリゴヌクレオチド及び配列番号6に示す塩基配列からなるオリゴヌクレオチドで構成されるサツマイモ病原ウイルス検出用プライマーセット;又は配列番号7に示す塩基配列からなるオリゴヌクレオチド及び配列番号8に示す塩基配列からなるオリゴヌクレオチドで構成されるサツマイモ病原ウイルス検出用プライマーセットを用いてPCRを行い、該PCRにより得られた増幅断片を解析して、試料中のサツマイモ病原ウイルスSPLCVの存在を検出する方法。
【請求項7】
配列表の配列番号10に示す塩基配列からなるオリゴヌクレオチド及び配列番号11に示す塩基配列からなるオリゴヌクレオチドで構成されるサツマイモ病原ウイルス検出用プライマーセットを用いてPCRを行い、該PCRにより得られた増幅断片を解析して、試料中のサツマイモ病原ウイルスSPSMV-1の存在を検出する方法。
【請求項8】
配列表の配列番号12に示す塩基配列からなるオリゴヌクレオチド及び配列番号13に示す塩基配列からなるオリゴヌクレオチドで構成されるサツマイモ病原ウイルス検出用プライマーセット;配列番号14に示す塩基配列からなるオリゴヌクレオチド及び配列番号15に示す塩基配列からなるオリゴヌクレオチドで構成されるサツマイモ病原ウイルス検出用プライマーセット;及び/又は配列番号16に示す塩基配列からなるオリゴヌクレオチド及び配列番号17を用いてPCRを行い、該PCRにより得られた増幅断片を解析して、試料中のサツマイモ病原ウイルスSPFMV-RC、SPFMV-O、及びSPFMV-Cの存在を検出する方法。
【請求項9】
請求項1に記載のプライマーセットを含むサツマイモ病原ウイルスの検出用キット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、サツマイモ病原ウイルス検出用プライマーセット、及び該プライマーセットを用いたサツマイモ病原ウイルスの検出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
自然界には、多種多様な植物ウイルスが存在しており、我が国における主要農作物の1つであるサツマイモ(Ipomoea batatas(L.Lam)にも甚大な被害を引き起こしている。これまでにサツマイモ斑紋モザイクウイルス(Sweet potato feathery mottle virus、(SPFMV))、サツマイモ潜在ウイルス(Sweet potato latent virus、(SPLV))、サツマイモシンプトムレスウイルス(Sweetpotato symptomless
virus、(SPSMV-1))、サツマイモ葉巻ウイルス(Sweet potato leaf curl virus、(SPLCV))、Sweet potato virus G(SPVG)などが報告されている。さらに、諸外国では、これらの他に、Sweet potato chlorotic stunt virus (SPCSV)など多数の種類が報告されている(非特許文献1)。
【0003】
上記の他にもサツマイモに感染するウイルス種は、判明しているだけで20数種にも及ぶ。これらの多数の種類のうち、例えば、帯状粗皮病などの重大な病害を引き起こすサツマイモ斑紋モザイクウイルス(SPFMV)など、いくつかの種類は強毒ウイルスとして知られている。
【0004】
これまでは、サツマイモに感染する個々のウイルスをそれぞれ検出する方法が提案されているのみである。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【文献】YAMASAKI,Sら、Jpn.J.Phytopathol.75:102‐108(2009)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、甚大な被害をもたらす強毒ウイルス種は、数種に限られると考えられる。さらに、強毒とされるウイルス種に感染しているサツマイモは、ほぼ他のウイルス種と重複感染している可能性も高い。従って、主要なウイルス数種を検出することができれば、なんらかのウイルス感染株に感染しているサツマイモをほぼ網羅的に検知できる可能性がある。
本発明は、高精度でかつ迅速に、複数のサツマイモ病原ウイルスを同時に検出できる手段を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決するために、サツマイモウイルスの強毒ウイルス種の外被タンパク質遺伝子、複製関連タンパク質遺伝子、及び細胞間移行タンパク質遺伝子領域に着目し、プライマーを複数検討し、その中から、網羅的な検出率と特異性を比較して好適なプライマーセットを選抜し、さらに網羅的検出と特異性を向上させるための改良を行った。さらには、系統によって塊根への影響が異なるSPFMVウイルスについて、詳細な系統把握を可能とするプライマーセットの設計を試みた。この結果、強毒ウイルスとして知られる複数種ウイルスを効率的に正しく検出することのできるプライマーセットを確立すること、及び同種系統のウイルスの把握が可能なプライマーセットを確立することに成功し、本発明を完成させるに至った。
【0008】
すなわち、本発明は、下記に掲げるサツマイモ病原ウイルス検出用プライマーセットを提供する。
項1.以下の(1)~(11)からなる群より選択される少なくとも1種以上のサツマイモ病原ウイルス検出用プライマーセット:
(1)配列表の配列番号1に示す塩基配列からなるオリゴヌクレオチド及び配列番号2に示す塩基配列からなるオリゴヌクレオチドで構成されるサツマイモ病原ウイルス検出用プライマーセット;
(2)配列表の配列番号1に示す塩基配列からなるオリゴヌクレオチド及び配列番号3に示す塩基配列からなるオリゴヌクレオチドで構成されるサツマイモ病原ウイルス検出用プライマーセット;
(3)配列表の配列番号1に示す塩基配列からなるオリゴヌクレオチド及び配列番号4に示す塩基配列からなるオリゴヌクレオチドで構成されるサツマイモ病原ウイルス検出用プライマーセット;
(4)配列番号5に示す塩基配列からなるオリゴヌクレオチド及び配列番号6に示す塩基配列からなるオリゴヌクレオチドで構成されるサツマイモ病原ウイルス検出用プライマーセット;及び
(5)配列番号7に示す塩基配列からなるオリゴヌクレオチド及び配列番号8に示す塩基配列からなるオリゴヌクレオチドで構成されるサツマイモ病原ウイルス検出用プライマーセット;
(6)配列表の配列番号1に示す塩基配列からなるオリゴヌクレオチド及び配列番号9に示す塩基配列からなるオリゴヌクレオチドで構成されるサツマイモ病原ウイルス検出用プライマーセット;
(7)配列表の配列番号10に示す塩基配列からなるオリゴヌクレオチド及び配列番号11に示す塩基配列からなるオリゴヌクレオチドで構成されるサツマイモ病原ウイルス検出用プライマーセット;
(8)配列表の配列番号12に示す塩基配列からなるオリゴヌクレオチド及び配列番号13に示す塩基配列からなるオリゴヌクレオチドで構成されるサツマイモ病原ウイルス検出用プライマーセット;
(9)配列表の配列番号14に示す塩基配列からなるオリゴヌクレオチド及び配列番号15に示す塩基配列からなるオリゴヌクレオチドで構成されるサツマイモ病原ウイルス検出用プライマーセット;
(10)配列表の配列番号16に示す塩基配列からなるオリゴヌクレオチド及び配列番号17に示す塩基配列からなるオリゴヌクレオチドで構成されるサツマイモ病原ウイルス検出用プライマーセット;
(11)配列表の配列番号16に示す塩基配列からなるオリゴヌクレオチド及び配列番号18に示す塩基配列からなるオリゴヌクレオチドで構成されるサツマイモ病原ウイルス検出用プライマーセット。
【0009】
本発明はまた、
項2.
サツマイモ由来試料の核酸を鋳型とし、項1に記載のプライマーセットを用いてPCRを行い、該PCRにより得られた増幅断片を解析して、試料中のサツマイモ病原ウイルスを検出する方法;
項3.
配列表の配列番号1に示す塩基配列からなるオリゴヌクレオチド及び配列番号2に示す塩基配列からなるオリゴヌクレオチドで構成されるサツマイモ病原ウイルス検出用プライマーセットを用いてPCRを行い、該PCRにより得られた増幅断片を解析して、試料中のサツマイモ病原ウイルスSPFMV及びSPVGの存在を検出する方法;
項4.
配列表の配列番号1に示す塩基配列からなるオリゴヌクレオチド及び配列番号3に示す塩基配列からなるオリゴヌクレオチドで構成されるサツマイモ病原ウイルス検出用プライマーセットを用いてPCRを行い、該PCRにより得られた増幅断片を解析して、試料中のサツマイモ病原ウイルスSPFMVの存在を検出する方法;
項5.
配列表の配列番号1に示す塩基配列からなるオリゴヌクレオチド及び配列番号4に示す塩基配列からなるオリゴヌクレオチドで構成されるサツマイモ病原ウイルス検出用プライマーセットを用いてPCRを行い、該PCRにより得られた増幅断片を解析して、試料中のサツマイモ病原ウイルスSPVG及びSPV2の存在を検出する方法;
項6.
配列番号1に示す塩基配列からなるオリゴヌクレオチド及び配列番号9に示す塩基配列からなるオリゴヌクレオチドで構成されるサツマイモ病原ウイルス検出用プライマーセットを用いてPCRを行い、該PCRにより得られた増幅断片を解析して、試料中のサツマイモ病原ウイルスSPVGの存在を検出する方法;
項7.
配列番号5に示す塩基配列からなるオリゴヌクレオチド及び配列番号6に示す塩基配列からなるオリゴヌクレオチドで構成されるサツマイモ病原ウイルス検出用プライマーセット;又は配列番号7に示す塩基配列からなるオリゴヌクレオチド及び配列番号8に示す塩基配列からなるオリゴヌクレオチドで構成されるサツマイモ病原ウイルス検出用プライマーセットを用いてPCRを行い、該PCRにより得られた増幅断片を解析して、試料中のサツマイモ病原ウイルスSPLCVの存在を検出する方法;
項8.
配列番号10に示す塩基配列からなるオリゴヌクレオチド及び配列番号11に示す塩基配列からなるオリゴヌクレオチドで構成されるサツマイモ病原ウイルス検出用プライマーセットを用いてPCRを行い、該PCRにより得られた増幅断片を解析して、試料中のサツマイモ病原ウイルスSPSMV-1の存在を検出する方法;
項9.
配列表の配列番号12に示す塩基配列からなるオリゴヌクレオチド及び配列番号13に示す塩基配列からなるオリゴヌクレオチドで構成されるサツマイモ病原ウイルス検出用プライマーセットを用いてPCRを行い、該PCRにより得られた増幅断片を解析して、試料中のサツマイモ病原ウイルスSPFMV‐RC系統の存在を検出する方法;
項10.
配列表の配列番号14に示す塩基配列からなるオリゴヌクレオチド及び配列番号15に示す塩基配列からなるオリゴヌクレオチドで構成されるサツマイモ病原ウイルス検出用プライマーセットを用いてPCRを行い、該PCRにより得られた増幅断片を解析して、試料中のサツマイモ病原ウイルスSPFMV‐O系統の存在を検出する方法;
項11.
配列表の配列番号16に示す塩基配列からなるオリゴヌクレオチド及び配列番号17に示す塩基配列からなるオリゴヌクレオチドで構成されるサツマイモ病原ウイルス検出用プライマーセット、又は
配列表の配列番号16に示す塩基配列からなるオリゴヌクレオチド及び配列番号18に示す塩基配列からなるオリゴヌクレオチドで構成されるサツマイモ病原ウイルス検出用プライマーセットを用いてPCRを行い、該PCRにより得られた増幅断片を解析して、試料中のサツマイモ病原ウイルスSPFMV‐C系統の存在を検出する方法;
に関する。
【0010】
本発明はまた、項1に記載のプライマーセットを含むサツマイモ病原ウイルス検出用キットに関する。
【発明の効果】
【0011】
本発明のプライマーセットによれば、サツマイモ病原ウイルスの複数種を同時に検知することも可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】実施例のプライマーセットによるサツマイモ病原ウイルスの遺伝子のPCR増幅産物の電気泳動図を示す。
図2】実施例のプライマーセットによるサツマイモ病原ウイルスの遺伝子のPCR増幅産物の電気泳動図を示す。
図3】実施例のプライマーセットによるサツマイモ病原ウイルスの遺伝子のPCR増幅産物の電気泳動図を示す。
図4】実施例のプライマーセットによる4種のサツマイモ病原ウイルスの遺伝子のPCR増幅産物の電気泳動図を示す。
図5】実施例のプライマーセットによる4種のサツマイモ病原ウイルスの遺伝子のPCR増幅産物の電気泳動図を示す。
図6】実施例のプライマーセットによるサツマイモ病原ウイルス株SPFMV-RC、SPFMV-O、及びSPFMV-Cの遺伝子のPCR増幅産物の電気泳動図を示す。
図7】実施例のプライマーセットによるサツマイモ病原ウイルス株SPFMV-RC、SPFMV-O、及びSPFMV-Cの遺伝子のPCR増幅産物の電気泳動図を示す。
図8】実施例のプライマーセットによるサツマイモ病原ウイルス株SPFMV-RC、SPFMV-O、及びSPFMV-Cの遺伝子のPCR増幅産物の電気泳動図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0013】
[サツマイモ病原ウイルス検出用プライマーセット]
本発明のプライマーセットは、サツマイモ病原ウイルス遺伝子を効率よく増幅することのできるオリゴヌクレオチドの対から構成されるプライマーセットであって、サツマイモ病原ウイルスの検出を行うことができる。
【0014】
本発明のサツマイモ病原ウイルスの検出用プライマーセットを構成するそれぞれのプライマーは、オリゴヌクレオチドであり、ウイルスの外被タンパク質遺伝子、複製関連タンパク質遺伝子、及び細胞間移行タンパク質遺伝子領域に、フォワードプライマーとリバースプライマーとして設計された20~25塩基の連続したヌクレオチオドである。
【0015】
プライマーの設計にあたり、サツマイモに感染するウイルス遺伝子配列情報をNCBIサイト(https://www.ncbi.nlm.nih.gov/nuccore/)にて、ウイルス種別に入手した。塩基配列情報は、刊行物から得ることもできる。本発明者らは、最も登録データ数が多い外被タンパク質(CP)遺伝子、複製関連タンパク質遺伝子、及び細胞間移行タンパク質遺伝子領域を利用した。その後、ウイルス種別に両遺伝子領域の核酸配列の比較表を作成した。この時、農産物輸出入の現状を踏まえ、日本を中心とした中国、韓国などの近隣アジア諸国でのウイルス分離株に加えて、北南米、アフリカ諸国由来のウイルス分離株も比較対象とした。塩基配列のアラインメントには、アラインメントソフト(例えば、GENETYX ver.14)を利用することができる。
【0016】
特定した塩基配列に基づき、プライマーを設計する。プライマーの設計にあたっては、従来の縮重プライマーで、同種内の複数系統間の塩基置換に十分な対応ができなかった点を踏まえ、従来の欠点を除くように、オリゴヌクレオチド間の相補性を考慮した。
【0017】
具体的には、特に、SPFMV、SPLCV、SPVG、SPV2及びSPSMV-1に着目して、塩基置換対応型の縮重プライマーを作成する点に留意した。
【0018】
このような着目点に基づき、本発明のサツマイモ病原ウイルスの検出用プライマーセットとして次のプライマーセットを作成することができた。
(プライマーセット:SPFMVとSPVGの一括検出用)
フォワード:5’-DTGGTGYATHGARAATGGMACATC-3’(配列表の配列番号1)
リバース:5’-TGCACACCCCTCATWCCYAAGAG-3’(配列表の配列番号2)
【0019】
(プライマーセット:SPFMVの識別用)
フォワード:5’-DTGGTGYATHGARAATGGMACATC-3’(配列表の配列番号1)
リバース:5’-TACAGTGCARAGKWTSWCCTAYTGC-3’(配列表の配列番号3)
【0020】
(プライマーセット:SPVGとSPV2の一括検出用)
フォワード:5’-DTGGTGYATHGARAATGGMACATC -3’(配列表の配列番号1)
リバース:5’-CATATGYGCYTCYCTRGCBCGAAC-3’ (配列表の配列番号4)
【0021】
(プライマーセット:SPLCV検出用)
フォワード:5’-CTACACTKGGAATGCYGTCCCAATTG-3’(配列表の配列番号5)
リバース:5’-AGTCCTGKAYCTTACAGGGACCVACRC-3’(配列表の配列番号6)
【0022】
(プライマーセット:SPLCV検出用)
フォワード:5’-CTCTCCTGGATTGCAGARGAAGAYWGTG-3’(配列表の配列番号7)
リバース:5’-AYAGYAAYAGTGCYTGGTAYAACGTC-3’(配列表の配列番号8)
【0023】
(プライマーセット:SPVGの識別用)
フォワード:5’-DTGGTGYATHGARAATGGMACATC -3’(配列表の配列番号1)
リバース:5’-TCYCTRGCSCGAACWGGAGTGTTC-3’ (配列表の配列番号9)
【0024】
(プライマーセット:SPSMV-1の識別用)
フォワード:5’-ACGGAGATAGGGTTCGGWCAGAC-3’(配列表の配列番号10)
リバース:5’-GAGCGCAGATCTGACCMGGTTTAC-3’(配列表の配列番号11)
【0025】
(プライマーセット:SPFMV-RC検出用)
フォワード:5’-AAGATGCAYYAAYTGGTARCATCC-3’(配列表の配列番号12)
リバース:5’-CTGTAKAGYCCCCAYCTCCATTTYAC-3’(配列表の配列番号13)
【0026】
(プライマーセット:SPFMV-O検出用)
フォワード:5’-CAATCTGARAGGGARTAYTTCARRCCTC-3’(配列表の配列番号14)
リバース:5’-GRTGRYYTTCTAYATCRTGDTCACTC-3’(配列表の配列番号15)
【0027】
(プライマーセット:SPFMV-C検出用)
フォワード:5’-GCACCAAARCYRAAAGGGSCATWTRC-3’(配列表の配列番号16)
リバース:5’-CACYCTTTGTGKTGAAAYAGARCGCA-3’(配列表の配列番号17)
【0028】
(プライマーセット:SPFMV-C検出用)
フォワード:5’-GCACCAAARCYRAAAGGGSCATWTRC-3’(配列表の配列番号16)
リバース:5’-YAGARCGCATAGRTTTCTCACYTG-3’(配列表の配列番号18)
【0029】
ここで、配列表の配列番号1~18に示される塩基配列中、BはC、G、又はTのいずれかを示し;Dは、A、G又はTのいずれかを示し;Kは、G又はTのいずれかを示し;Mは、A又はCのいずれかを示し;Rは、A又はGのいずれかを示し;Vは、A、C、又はGのいずれかを示し;Wは、A又はTのいずれかを示し;Yは、C又はTのいずれかを示し;Sは、C又はGのいずれかを示す。(配列表ではすべて小文字で示される。)
【0030】
配列表の配列番号1~18に示す配列のGC含量、Tm値はそれぞれ、以下の通りである。
配列番号1:GC含量 42%、 Tm値 57
配列番号2:GC含量 57%、 Tm値 62
配列番号3:GC含量 44%、 Tm値 59
配列番号4:GC含量 58%、 Tm値 63
配列番号5:GC含量 46%、 Tm値 60
配列番号6:GC含量 56%、 Tm値 65
配列番号7:GC含量 50%、 Tm値 62
配列番号8:GC含量 46%、 Tm値 61
配列番号9:GC含量 50%、 Tm値 60
配列番号10:GC含量 57%、 Tm値 61
配列番号11:GC含量 54%、 Tm値 61
配列番号12:GC含量 46%、 Tm値 59
配列番号13:GC含量 50%、 Tm値 60
配列番号14:GC含量 43%、 Tm値 59
配列番号15:GC含量 50%、 Tm値 60
配列番号16:GC含量 50%、 Tm値 62
配列番号17:GC含量 54%、 Tm値 65
配列番号18:GC含量 50%、 Tm値 59。
【0031】
上記プライマーセット11種は、それぞれで使用することで、所望のサツマイモ病原ウイルスを検出することができる。さらには、2種以上を混合して、マルチプレックスPCR法に利用することで、SPFMV、SPVG、SPV2、SPLCV、及びSPSMV-1という5種の病原ウイルスを、複数の組み合わせで同時かつ特異的に検出することも可能となる。さらには、SPFMV-RC、SPFMV-O、SPFMV-CのSPFMVの中の系統を区別して検出し、異なる塊根への影響を詳細に調べることが可能となる。特に、深刻な影響を与える可能性のあるSPFMV-RC系統を区別できる意義は大きい。
【0032】
具体的には、上記プライマーセットを構成する各フォワードプライマー及びリバースプライマーは、その塩基配列のB、D、K、M、R、V、W、Y、Sの位置にそれぞれ指定された2種または3種の塩基を同時に含んでいる縮重プライマーであり、縮重プライマー中の各プライマーの割合はいかなる割合でもよいが、等当量ずつであることが好ましい。
【0033】
上記プライマーセットの各プライマーは、当業者に公知のオリゴヌクレオチドの合成法で作成することができる。例えば、DNA自動合成装置(Applied Biosystems社製Model 394など)を利用して合成することも可能である。
【0034】
本発明のプライマーセットを用いて試料中のサツマイモ病原ウイルスを検出する方法は、サツマイモ試料からRNAを抽出し、逆転写反応により合成したcDNAを鋳型とし、上記プライマーセットのいずれか又は2種以上又はそれらのすべてを用いて、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)を行い、遺伝子を増幅させる工程と、該PCRにより得られた増幅断片を解析する工程を含む。
【0035】
サツマイモ試料としては、葉、茎、塊根、などのサツマイモの植物体のいずれの部位から調製しても良い。サツマイモ試料が、葉の場合、例えば、コルクポーラーでくり抜き、1個体から数10mg(例えば50mg程度)をサンプリングすることができる。この時、サンプリング部位は、葉脈間の葉肉部分で、斑点や葉巻などの症状を呈する部分がある場合には、そのような部位を選ぶことが好ましい。サツマイモ試料が、塊根の場合、カッターの刃などを使用し、表皮のみを数10mg(例えば50mg程度)切取って調製することができる。
【0036】
本発明のプライマーセットを用いたサツマイモ病原性ウイルスの検出は、DNAウイルス及びRNAウイルスの両方をターゲットとすることもできる。そのため核酸抽出は、DNA及びRNAを同時に抽出しても良く、このような場合には、標準プロトコールを改変することで、DNA及びRNAの同時抽出を行う。
【0037】
サツマイモ試料の調製後、核酸を抽出する。核酸の抽出は、当業者に公知の方法で行うことができる他、植物組織からRNAを抽出・精製するための市販のキットを使用することもできる。試料からRNAを抽出し、RNAを鋳型としてcDNAを合成する方法を採用することもできる。核酸の抽出には、限定はされないが、例えばISOSPIN Plant RNA(NIPPON GENE社製)のようなキットを使用することもできる。あるいは、まず、イソチオシアネート、フェノール及びクロロホルムを用いたRNA抽出法又は、市販のRNA抽出試薬(例えば、TRIZOL Reagentキット(Thermo Fisher SCIENTIFIC社製、15596-018))を用いて、抽出し、その後、RNAを鋳型としてcDNAを合成する。ここで、プライマーとしては市販のランダムプライマーを用い、dNTPsの存在下で、逆転写酵素を用いてcDNAを合成する。逆転写酵素としては、例えば、SuperScriptII(Invitrogen社製)、Thermoscript RT、AMV逆転写酵素、MMLV逆転写酵素、等を用いることができる。
【0038】
次に、合成したcDNAを鋳型として、本発明のプライマーセットの1種又は2種以上を用いて、PCR増幅反応を行う。PCR増幅は本発明のプライマーセット又はそれらの組み合わせのいずれか又はすべてを用いることができる。それ以外の点については、常法に従って行うことができる。PCRは、PCR法またはリアルタイムPCR法(qPCR)である。PCRでは、具体的には、鋳型DNAの変性、プライマーのアニーリング、及び耐熱性酵素を用いたプライマーの伸長反応を含むサイクルを繰り返すことにより、各外被タンパク質遺伝子領域の塩基配列を含む断片を増幅させる。PCR反応液の組成、PCR反応条件は、当業者に公知の物を適切に選択及び設定することができる。プライマーのTmに基づいて最適なPCR反応条件を選択する方法は、知られている。
【0039】
PCR法の核酸増幅工程で使用されるDNAポリメラーゼは特に限定されるものではないが、例えば、KOD DNA ポリメラーゼ、Pfu DNA ポリメラーゼ等のα型DNAポリメラーゼ;Taq DNA ポリメラーゼ、Tth DNA ポリメラーゼ等のPol I型DNAポリメラーゼ等を用いることができる。特に限定はされないが、市販の、KOD DNA ポリメラーゼ(東洋紡製)、Pfu DNA ポリメラーゼ(タカラバイオ社製)を用いることもできる。
【0040】
PCRの一連の操作は、市販のPCRキットやPCR装置を利用して、その操作説明書に従って行うこともできる。例えば、PCRの反応液はSYBR Green Real-Time PCR Master Mixes(Thermo Fisher SCIENTIFIC社製、#A25742)を用い、PCR装置は7500 Fast Real-Time PCR System(Applied Biosystems社製)を用いることもできる。
【0041】
PCR反応は、鋳型の熱変性、プライマーのアニーリング、及び伸長反応を1サイクルとして、複数サイクル行うことで実施できる。通常の当業者に公知の条件のいずれを使用することもでき、限定はされないが、例えば、最初に90℃~96℃で20秒~1分の熱変性、次いで、50℃~58℃程度の温度範囲で20秒~1分程度のアニーリング、70℃~73℃で20秒~1分程度の伸長反応を1サイクルとして、30~40サイクル程度を行うことが好ましい。特に、アニーリングの温度は、54℃~58℃程度がより好ましく、55℃~56℃程度がさらに好ましい。アニーリング温度を相対的に高く設定することで、非特異的増幅のリスクをより低くすることができる。
【0042】
また、PCRによって得られた増幅産物の検出は、特に限定されず、アガロースゲル電気泳動法、キャピラリー電気泳動法、RFLP法、インターカレーターを用いて増幅産物を検出する方法、増幅された産物の塩基配列に特異的に結合する核酸プローブを用いて増幅産物を検出する方法が挙げられる。より好ましくは核酸プローブを用いて増幅産物を検出する方法であり、当該核酸プローブとして、例えばTaqMqnプローブや消光プローブ(Quenching Probe;QProbe)、MolecularBeaconが挙げられる。増幅及び検出におけるその他の条件は公知の核酸増幅及び核酸検出技術を考慮して適宜選択することができる。
【0043】
[サツマイモ病原ウイルスを検出する方法]
本発明はまた、本発明のプライマーセットの1種または複数種を用いてPCRを行い、該PCRにより得られた増幅断片を解析して、試料中のサツマイモ病原ウイルスを検出する方法に関する。
【0044】
本発明においては、配列表の配列番号1に示す塩基配列からなるオリゴヌクレオチドと配列番号2に示す塩基配列からなるオリゴヌクレオチドとから構成されるサツマイモ病原ウイルス検出用プライマーセットを用いてPCRを行い、該PCRにより得られた増幅断片を解析することで、試料中のサツマイモ病原ウイルスSPFMV及びSPVGを特異的に検出することができる。
【0045】
本発明においては、配列表の配列番号1に示す塩基配列からなるオリゴヌクレオチドと配列番号3に示す塩基配列からなるオリゴヌクレオチドとから構成されるサツマイモ病原ウイルス検出用プライマーセットを用いてPCRを行い、該PCRにより得られた増幅断片を解析することで、試料中のサツマイモ病原ウイルスSPFMVを特異的に識別することができる。
【0046】
本発明においては、配列表の配列番号1に示す塩基配列からなるオリゴヌクレオチドと配列番号4に示す塩基配列からなるオリゴヌクレオチドとから構成されるサツマイモ病原ウイルス検出用プライマーセットを用いてPCRを行い、該PCRにより得られた増幅断片を解析することで、試料中のサツマイモ病原ウイルスSPVG及びSPV2を特異的に識別することができる。
【0047】
本発明においては、配列表の配列番号1に示す塩基配列からなるオリゴヌクレオチドと配列番号9に示す塩基配列からなるオリゴヌクレオチドとから構成されるサツマイモ病原ウイルス検出用プライマーセットを用いてPCRを行い、該PCRにより得られた増幅断片を解析することで、試料中のサツマイモ病原ウイルスSPVGを特異的に識別することができる。
【0048】
本発明においては、配列番号5に示す塩基配列からなるオリゴヌクレオチドと配列番号6に示す塩基配列からなるオリゴヌクレオチドとから構成されるサツマイモ病原ウイルス検出用プライマーセットを用いてPCRを行い、該PCRにより得られた増幅断片を解析することで、試料中のサツマイモ病原ウイルスSPLCVの存在を検出することができる。同様に、本発明においては、配列番号7に示す塩基配列からなるオリゴヌクレオチドと配列番号8に示す塩基配列からなるオリゴヌクレオチドとから構成されるサツマイモ病原ウイルス検出用プライマーセットを用いてPCRを行い、該PCRにより得られた増幅断片を解析することで、試料中のサツマイモ病原ウイルスSPLCVの存在を検出することができる。
【0049】
本発明においては、配列番号1、3、4、7、及び8に示す塩基配列からなるオリゴヌクレオチドをサツマイモ病原ウイルス検出用プライマーとして用いてPCRを行い、該PCRにより得られた増幅断片を解析することで、試料中のサツマイモ病原ウイルスSPFMV、SPVG、SPV2及びSPLCVの存在を一括かつ同時あるいは区別して検出することができる。
【0050】
本発明のこれらのプライマーセットは、マルチプレックスRT-PCRに使用することも可能である。既報のプライマーではSPFMV-S、O、Bungo、SPVGの共通配列を採用しているため、同時に増幅・検出されるSPFMV-S、O、Bungo、SPVGの遺伝子断片を特異的な制限酵素認識部位で切断してウイルスの識別を行う必要があった。しかしながら、本発明のプライマーセットを用いて、マルチプレックスRT-PCR(リバーストランスクリプターゼPCR)を行うことで、ウイルスを直接識別することもでき、省力かつ迅速に検定することも可能となる。
【0051】
本発明においては、配列番号10に示す塩基配列からなるオリゴヌクレオチドと配列番号11に示す塩基配列からなるオリゴヌクレオチドとから構成されるサツマイモ病原ウイルス検出用プライマーセットを用いてPCRを行い、該PCRにより得られた増幅断片を解析することで、試料中のサツマイモ病原ウイルスSPSMV-1の存在を検出することができる。
【0052】
本発明においては、配列番号1、3、7、8、9、10及び11に示す塩基配列からなるオリゴヌクレオチドをサツマイモ病原ウイルス検出用プライマーとして用いてPCRを行い、該PCRにより得られた増幅断片を解析することで、試料中のサツマイモ病原ウイルスSPFMV、SPVG、SPLCV、及びSPSMV-1の4種類のウイルスの存在を一括かつ区別して検出することができる。
【0053】
一方、本発明においては、配列番号12~18に示す塩基配列からなるオリゴヌクレオチドをサツマイモ病原ウイルス検出用プライマーとして用いてPCRを行い、該PCRにより得られた増幅断片を解析することで、試料中のサツマイモ病原ウイルスSPFMVの系統をSPFMV-RC株、SPFMV-O株、SPFMV-C株として、区別して検出することもできる。
【0054】
SPFMVとSPVGとを同時に検出する場合には、配列番号1及び2に示すオリゴヌクレオチドのセットのプライマーがモル濃度の比率で1:1又はそれに近い値で存在することが好ましい。SPFMVを検出する為には、配列番号1及び3のセットのオリゴヌクレオチドのプライマーがモル濃度の比率で1:1又はそれに近い値で存在することが好ましい。SPVGとSPV2を同時に識別する為には、配列番号1及び4のセットのオリゴヌクレオチドのプライマーがモル濃度の比率で1:1又はそれに近い値で存在することが好ましい。SPLCVの検出の為には、配列番号5及び6に示すオリゴヌクレオチドの全種類のプライマーがモル濃度の比率で1:1又はそれに近い値で存在することが好ましい。あるいはSPLCVの検出の為には配列番号7及び8に示すオリゴヌクレオチドのプライマーがモル濃度の比率で1:1又はそれに近い値で存在することが好ましい。
【0055】
一方、マルチプレックスPCR法に利用する場合には、上記セットの2種以上、好ましくは、配列番号1、3、4、7、及び8のオリゴヌクレオチドの全種類のプライマーを含む。この時、例えば、配列番号3、4、7、及び8のオリゴヌクレオチドをモル濃度の比率で、等量ずつ、及び配列番号1のオリゴヌクレオチドをその1~3倍量、好ましくは2倍量程度存在させることも好ましい。あるいは適宜すべてのオリゴヌクレオチドについて、そのモル濃度の比率をお互いに1:1~3の範囲に収めて使用することができる。
【0056】
さらに、マルチプレックスPCR法に利用する場合には、好ましくは、配列番号1、3、7、8、9、10、及び11のオリゴヌクレオチドの全種類のプライマーを含む。この時、例えば、配列番号3、7、8、9、10及び11のオリゴヌクレオチドをモル濃度の比率で、等量ずつ、及び配列番号1のオリゴヌクレオチドをその2倍量又は3倍量存在させることも好ましい。あるいは、限定はされないが、PCRの効率化の為に、モル濃度の比率で、例えば、配列番号1のオリゴヌクレオチドを1として、配列番号3のオリゴヌクレオチドを好ましくは、0.1~1、より好ましくは0.3~0.8、さらに好ましくは、0.5~0.7程度;配列番号9のオリゴヌクレオチドを好ましくは0.1~1、より好ましくは、0.1~0.3、さらに好ましくは、0.2程度;配列番号7及び8のオリゴヌクレオチドを、好ましくは0.1~1、より好ましくは、0.2~0.6、さらに好ましくは0.5程度;配列番号10及び11のオリゴヌクレオチドを、好ましくは0.1~1、より好ましくは0.2~0.4、さらに好ましくは、0.3程度とすることができる。このようにして、SPFMV、SPVG、SPLCV、及びSPSMV-1を同時かつ区別して検出することも可能である。
【0057】
あるいは、配列番号12及び配列番号13、配列番号14及び配列番号15、配列番号16及び配列番号17、並びに配列番号16及び配列番号18の各プライマーを対で、あるいは全種類のプライマーを含み、マルチプレックスPCR法に供することもできる。マルチプレックスPCRでは、限定はされないが、PCRの効率化の為に、モル濃度の比率で、例えば、配列番号12のオリゴヌクレオチドを1として、配列番号12のオリゴヌクレオチドを1として、配列番号13のオリゴヌクレオチドを好ましくは、0.5~1.5、より好ましくは1程度;配列番号14及び15のオリゴヌクレオチドをそれぞれ、0.5~1.5、より好ましくは、1程度;配列番号16及び18のオリゴヌクレオチドを、好ましくは0.1~1、より好ましくは、0.2~0.6、さらに好ましくは0.3程度程度とすることができる。このようにして、SPFMV-RC株、SPFMV-O株、SPFMV-C株として、SPFMVの中の系統を区別して検出することも可能である。
【0058】
限定はされないが、本発明において、これらのオリゴヌクレオチドは、それぞれ、好ましくは、0.1μM~50μM、より好ましくは、1μM~15μMの範囲で用いられ得る。
【0059】
[キット]
本発明のプライマーセットは、キット化することができる。本発明のキットは、[サツマイモ病原ウイルス検出用プライマーセット]の項で述べたプライマーセットのうち、少なくとも1つ又は2つ以上を含み、検出すべき対象ウイルスによって、適宜変更することができる。さらに、任意に、核酸増幅の検出を行う際に必要な各種の試薬類を一緒に含ませることもできる。具体的には、本発明のプライマー、核酸合成の基質となる4種類のdNTP、鋳型依存性核酸合成酵素、緩衝液や塩類、又は指示書をキット化して提供することもできる。このようなキットは、例えば、サツマイモの苗がウイルスに感染しているか否かを検定するのに好都合に使用することができる。
【実施例
【0060】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明する。但し、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。また、実施例において、各配列番号でしめされるすべての縮重プライマーにおいて、同一配列番号内での各プライマーの割合は、等当量ずつであった。
【0061】
(実施例1)プライマーセットの設計
NCBIサイトにて、ウイルス遺伝子のヌクレオチド配列の情報を収集した(https://www.ncbi.nlm.nih.gov/nuccore/)。それらのヌクレオチド配列について、GENETYX ver.14を使用して、マルチプルアライメントを作成した。この比較によれば、外被タンパク質遺伝子及び複製関連タンパク質遺伝子領域の配列が保存されていた。従って、この保存性は異なる株を同時に検出することに利用できると考えた。特に、SPFMV、SPVG、及びSPLCVのウイルスに着目し、外被タンパク質遺伝子領域の一部及び複製関連タンパク質遺伝子に相補的であるフォワードプライマー、及びリバースプライマーを、候補プライマーとして複数設計した。
【0062】
これまでに既知のサツマイモ病原ウイルスSPFMV-S株、SPFMV-O株、SPFMV-Bungo株について、上記で設計した複数の候補プライマーを用いてウイルスの存在を検出し、プライマーを一次選抜した。さらに、標的とする3種ウイルスへの混合感染株を用いてさらにプライマーを改良した。
【0063】
上記サツマイモ病原ウイルス株は、日本SPFMV-S株、日本SPFMV-O株、日本SPFMV-Bungo株で構成されていた。
【0064】
サツマイモ試料としては、葉と塊根を用いた。サツマイモ試料が、葉の場合、コルクポーラーでくり抜き、1個体から50mgをサンプリングした。サンプリング部位は、葉脈間の葉肉部分で、斑点や葉巻などの症状を呈する部分とした。サツマイモ試料が、塊根の場合、カッターの刃を使用し、表皮のみを50mg切取って調製した。
【0065】
ウイルス株からの核酸抽出、RT-PCR増幅の手法及び条件は、以下の手順で行った。
【0066】
ウイルス株からの核酸抽出は、ISOSPIN Plant RNA(NIPPON GENE)を用いた。ここで、プライマーセットはDNAウイルス及びRNAウイルスの両方をターゲットとして、両核酸を抽出することとした。そこで、標準プロトコールのPT Wash 1 BufferとDNase I 溶液による処理を省くことで、両核酸の同時抽出を行った。サンプルの破砕には、Micro SmashTM MS-100R(トミー精工)を用い、4200rpmで160秒、ステンレスビーズφ4.8を1サンプルにつき1個用いた条件下で実施した。
【0067】
逆転写反応及びPCR増幅は、PrimeScriptTM One Step RT-PCR Kit Ver.2(Dye Plus)(Takara, Japan)を用いて行った。PCR反応液組成及び条件は下記のとおりである。反応後、PCR増幅産物3μlを2.0%アガロースゲル電気泳動にて解析した。
【0068】
(PCR反応液組成:1反応つき10μl)
核酸 1μl
各プライマー 1.0μl (各5pmol)
PrimeScript 1 step Enzyme Mix 2μl
2×1 step Buffer(Dye Plus) 25μl
RNase Free dH2O up to 50μl
【0069】
(RT-PCR条件)
cDNA合成は、50℃で30分、94℃で2分間インキュベートし、続くPCR反応は、94℃で30秒の熱変性、56℃で30秒のアニーリング、72℃で30秒の伸長を1サイクルとして計35サイクルを行った。
【0070】
PCR解析結果から、下記表1に示す配列(各欄の上の配列はフォワードプライマー、下の配列はリバースプライマー)を有するプライマーセットを最終的に決定し、それらのプライマーセットから構成されるプライマーセットを設定した。
【0071】
【表1】
【0072】
(実施例2)プライマーセットによるサツマイモ病原ウイルスの検出
実施例1で確立したプライマーセットによるサツマイモ病原ウイルスの検出を、前記のサツマイモ病原ウイルスSPFMV、SPVG、及びSPLCV罹病株を用いて調べた。ウイルス核酸の抽出は、実施例1と同様である。PCR反応液組成及び条件は以下のとおりである。
【0073】
プライマーは、以下の表2に示す量(pmol/μL)を反応液10μLあたり0.2μL使用した。
【0074】
【表2】
【0075】
使用したウイルス罹病株は以下の通りである。
【0076】
【表3】
【0077】
MC2:SPFMV、SPVG、SPLCV罹病株
MC4:SPLCV罹病株
1-36:SPFMV、SPVG、SPLCV罹病株
【0078】
鋳型核酸濃度
MC2:366.8(ng/μl)
MC4:177.9(ng/μl)
1-36:403.5(ng/μl)
【0079】
PCR反応は、94℃で30秒の熱変性、56℃で30秒のアニーリング、72℃で30秒の伸長を1サイクルとして計35サイクルを行った。
【0080】
アガロースゲルで電気泳動を行い、PCR増幅産物を検証した。その結果を図1に示す。いずれも検証できるレベルではあるが、特に、配列番号1、配列番号3、配列番号4、配列番号7、及び配列番号8のプライマーを同時に使用する条件下で、3種のウイルスとも明確に判定することができ、良好な結果を示した。
【0081】
(実施例3)プライマーセットによる、サツマイモ病原性ウイルスの再検出
実施例2の結果をもとに、再度プライマー濃度の調整を行い、前記のサツマイモ病原ウイルスSPFMV、SPVG、及びSPLCV罹病株を用いて調べた。ウイルス核酸の抽出は、実施例1と同様である。PCR反応液組成及び条件は以下のとおりである。
【0082】
プライマーは、以下の表4に示す量(pmol/μL)を反応液10μLあたり0.2μL使用した。
【0083】
【表4】
【0084】
使用したウイルス罹病株は以下の通りである。
【0085】
【表5】
イモ1-3、4-3、11、12、15、16、17、18、19については、ウイルス感染が疑われる塊根サンプルである。
【0086】
MC2:SPFMV、SPVG、SPLCV罹病株
1-36:SPFMV、SPVG、SPLCV罹病株
鋳型核酸濃度(未希釈時)
MC2:366.8(ng/μl)
1-36:403.5(ng/μl)
イモ1-3:155.0(ng/μl)
イモ4-3:126.2(ng/μl)
イモ11:121.2(ng/μl)
イモ12:86.0(ng/μl)
イモ15:50.3(ng/μl)
イモ16:26.1(ng/μl)
イモ17:59.3(ng/μl)
イモ18:69.9(ng/μl)
イモ19:96.1(ng/μl)
【0087】
PCR反応は、94℃で30秒の熱変性、56℃で30秒のアニーリング、72℃で30秒の伸長を1サイクルとして計40サイクルを行った。
【0088】
アガロースゲルで電気泳動を行い、PCR増幅産物を検証した。その結果を図2に示す。いずれも検証できるレベルではあるが、特に、配列番号1、配列番号3、配列番号4、配列番号7、及び配列番号8のプライマーを同時に使用する条件下で、3種のウイルスとも明確に判定することができ、良好な結果を示した。ウイルス感染が疑われる塊根サンプルについては、イモ1-3、4-3、11、12、15、17、18、19は、SPFMV及びSPVGに重複感染し、イモ16はSPFMVに感染していることが示された。
【0089】
(実施例4)プライマーセットによるサツマイモ病原ウイルスの検出感度
実施例3で確立したプライマーセットによるサツマイモ病原ウイルスの検出感度を、前記のサツマイモ病原ウイルスSPFMV、SPVG、SPLCV罹病株を用い、鋳型核酸濃度の段階希釈を行って調べた。ウイルス核酸の抽出は実施例1と同様である。PCR反応液組成及び条件は以下のとおりである。
【0090】
プライマーは、以下の表6に示す量(pmol/μL)を反応液10μLあたり0.2μL使用した。
【0091】
【表6】
【0092】
使用したウイルス罹病株は以下の通りである。
【0093】
1-36:SPFMV、SPVG、SPLCV罹病株
鋳型核酸濃度
10:403.5(ng/μl)
10-1:40.35(ng/μl)
10-2:4.35(ng/μl)
10-3:403.5(pg/μl)
10-4:40.35(pg/μl)
【0094】
PCR反応は、94℃で30秒の熱変性、56℃で30秒のアニーリング、72℃で30秒の伸長を1サイクルとして計40サイクルを行った。
【0095】
アガロースゲルで電気泳動を行い、PCR増幅産物を検証した。その結果を図3に示す。配列番号1、配列番号3、配列番号4、配列番号7、及び配列番号8のプライマーを同時に使用する条件下で、3種のウイルスとも明確に判定することができ、配列番号1と配列番号3のプライマーセット、配列番号1と配列番号4のプライマーセット、配列番号7と配列番号8のプライマーセットを別々に使用して行ったPCRと同様の良好な結果を示した。
【0096】
(参考例1)プライマーセットと国内外既報プライマーとの性質比較
NCBIサイトにて、3種ウイルス遺伝子のヌクレオチド配列の情報を世界各地の分離株を対象として収集した。それらのヌクレオチド配列について、GENETYX ver.14を使用して、プライマー配列を含めたマルチプルアライメントを作成した。この比較によると、本発明のプライマーセットで100%の相同性を有するウイルス分離株のうち、国内既報プライマー及び中国、韓国既報プライマーでプライマーとウイルスゲノム上の塩基の異なる部分が散見された。
【0097】
本発明のプライマーセットとの比較に用いた既報プライマーは表7に示す。
【0098】
【表7】
【0099】
SPFMV検出を目的としたプライマーの比較結果を表8に示す。表内の+は100%相同性を有することを示し、表内の数字はプライマー配列とウイルスゲノム上の異なる塩基数を示す。また、表内のNDについては、プライマー認識部位のウイルスゲノム情報がデータベース上に登録されていないことを示す。
【0100】
【表8】
【0101】
SPFMV検出を目的としたプライマーの性質比較結果を表9に示す。
【0102】
【表9】
【0103】
SPVG検出を目的としたプライマーの比較結果を表10に示す。表内の+は100%相同性を有することを示し、表内の数字はプライマー配列とウイルスゲノム上の異なる塩基数を示す。また、表内のNDについては、プライマー認識部位のウイルスゲノム情報がデータベース上に登録されていないことを示す。
【0104】
【表10】
【0105】
SPVG検出を目的としたプライマーの性質比較結果を表11に示す。
【0106】
【表11】
【0107】
SPLCV検出を目的としたプライマーの比較結果を表12及び表13に示す。表内の+は100%相同性を有することを示し、表内の数字はプライマー配列とウイルスゲノム上の異なる塩基数を示す。また、表内のNDについては、プライマー認識部位のウイルスゲノム情報がデータベース上に登録されていないことを示す。
【0108】
【表12】
【表13】
【0109】
SPLCV検出を目的としたプライマーの性質比較結果を表14に示す。
【0110】
【表14】
【0111】
表8~表14に示す通り、配列表の配列番号1~8に示すプライマーセットを用いることで、非特異的増幅が見られず、目的のウイルスを特異的に検出できることがわかった。
【0112】
(実施例5)プライマーセットの設計
NCBIサイトにて、ウイルス遺伝子のヌクレオチド配列の情報を収集した(https://www.ncbi.nlm.nih.gov/nuccore/)。それらのヌクレオチド配列について、GENETYX ver.14を使用して、マルチプルアライメントを作成した。この比較によれば、外被タンパク質遺伝子及び細胞間移行タンパク質遺伝子領域の配列が保存されていた。従って、この保存性は異なる株を同時に検出することに利用できると考えた。特に、SPVG、及びSPSMV-1のウイルスに着目し、外被タンパク質遺伝子領域の一部及び細胞間移行タンパク質遺伝子に相補的であるフォワードプライマー、及びリバースプライマーを、候補プライマーとして複数設計した。
【0113】
実施例1と同様のPCR解析結果から、下記表15に示す配列(各欄の上の配列はフォワードプライマー、下の配列はリバースプライマー)を有するプライマーセットを最終的に決定し、それらのプライマーセットから構成されるプライマーセットを設定した。
【0114】
【表15】
【0115】
(実施例6)プライマーセットによるサツマイモ病原ウイルスの検出及び感度比較
実施例1及び実施例5で確立したプライマーセットによるサツマイモ病原ウイルスの検出を、サツマイモ病原ウイルスSPFMV、SPVG、SPLCV、及びSPSMV-1罹病株を用いて調べた。ウイルス核酸の抽出は、実施例1と同様である。PCR反応液組成及び条件は以下のとおりである。
【0116】
プライマーは、配列番号1、3、7、8、9、10、及び11に示すオリゴヌクレオチドのプライマーを、以下に示す量(μM)、別々に、あるいは一緒に反応液10μLあたり使用した。
配列番号1、3、7、8、9、10、及び11に示すオリゴヌクレオチドのプライマーをそれぞれ、配列番号1:10μM、配列番号3:5μM、配列番号9:2μM、配列番号7、8:5μM、配列番号10、11:3μMとした。
図4におけるウイルス罹病株は、以下の鋳型濃度であり、使用プライマーの種類に対応するものであった。
鋳型核酸濃度
10:403.5(ng/μl)
10-1:40.35(ng/μl)
10-2:4.35(ng/μl)
10-3:403.5(pg/μl)
10-4:40.35(pg/μl)
【0117】
PCR反応は、94℃で30秒の熱変性、52~56℃で30秒のアニーリング、72℃で30秒の伸長を1サイクルとして計40サイクルを行った。
【0118】
アガロースゲルで電気泳動を行い、PCR増幅産物を検証した。その結果を図4に示す。図4(a)はプライマーセットを別々に用いた場合の検出限界を示し、左は、図4(b)は、マルチプレックスRT-PCR条件下での検出感度を示す。いずれも検証できるレベルではあり、マルチプレックスPCRの条件下でも、高感度で検出が可能であることが実証された。
【0119】
(実施例7)
プライマーセットによるサツマイモ病原ウイルスの検出
実施例1及び実施例5で確立したプライマーセットによるサツマイモ病原ウイルスの検出を、サツマイモ病原ウイルスSPFMV、SPVG、SPLCV、及びSPSMV-1罹病株を用いて調べた。ウイルス核酸の抽出は、実施例1と同様である。PCR反応液組成及び条件は以下のとおりである。
【0120】
プライマーは、配列番号1、3、7、8、9、10、及び11に示すオリゴヌクレオチドのプライマーを、以下に示す量(μM)を反応液10μLあたり使用した。
配列番号1、3、7、8、9、10、及び11に示すオリゴヌクレオチドのプライマーをそれぞれ、配列番号1:10μM、配列番号3:5μM、配列番号9:2μM、配列番号7、8:5μM、配列番号10、11:3μMとした。
図5におけるウイルス罹病株は、1反応当たり、300~500ngの鋳型核酸濃度で調整した。
【0121】
PCR反応は、94℃で30秒の熱変性、52~56℃で30秒のアニーリング、72℃で30秒の伸長を1サイクルとして計35サイクルを行った。
【0122】
アガロースゲルで電気泳動を行い、PCR増幅産物を検証した。その結果を図5に示す。図5において、左端レーンは、DNAマーカーを示し、続く左側4列は、各ウイルス単独感染株の増幅産物を示す。右7列のレーンは、自然界でウイルス感染したサツマイモの検証結果を示す。マルチプレックスRT-PCRによって様々な感染パターンが確認され、4種のウイルスの同時識別に有用な技術であることが実証された。
【0123】
(実施例8)
プライマーセットの設計
別途、NCBIサイトにて、ウイルス遺伝子のヌクレオチド配列の情報を収集した(https://www.ncbi.nlm.nih.gov/nuccore/)。それらのヌクレオチド配列について、GENETYX ver.14を使用して、マルチプルライメントを作成した。この比較により、同じSPFMVウイルスであっても系統が異なる場合に異なる配列領域が存在していることに着目し、フォワードプライマー、及びリバースプライマーを、候補プライマーとして複数設計した。
【0124】
実施例1と同様のPCRの結果から、下記表16に示す配列(各欄の上の配列はフォワードプライマー、下の配列はリバースプライマー)を有するプライマーセットを最終的に決定し、それらのプライマーセットから構成されるプライマーセットを設定した。
【0125】
【表16】
【0126】
(実施例9)
プライマーセットによるサツマイモ病原ウイルスの検出
実施例8で確立したプライマーセットによるサツマイモ病原ウイルスの検出を、サツマイモ病原ウイルスSPFMV-RC、SPFMV-O、及びSPFMV-C罹病株を用いて調べた。ウイルス核酸の抽出は、実施例1と同様である。PCR反応液組成及び条件は以下のとおりである。
【0127】
プライマーは、以下に示す量(μM)を反応液10μLあたり使用した。
図6におけるウイルス罹病株は、以下の使用プライマーの種類に対応するものであった。
レーン1、13:DNAマーカー
レーン2-4:RC、O、C系統プライマー(5μM、5μM、3μM)
レーン6-8:RC、O、C系統プライマー(5μM、5μM、2.5μM)、
レーン10-12:RC、O、C系統プライマー(5μM、5μM、2μM)
【0128】
鋳型核酸濃度は、RC、O、C系統で、それぞれ300ng/μlで調整した。
【0129】
PCR反応は、94℃で30秒の熱変性、52~56℃で30秒のアニーリング、72℃で30秒の伸長を1サイクルとして計35サイクルを行った。
【0130】
アガロースゲルで電気泳動を行い、PCR増幅産物を検証した。その結果を図6に示す。いずれも検証できるレベルではあるが、配列番号12、配列番号13、配列番号14、配列番号15、配列番号16及び17のプライマーを同時に使用する条件下で、RC、O、C系統ウイルスを明確に判定することができ、良好な結果を示した。
【0131】
(実施例10)
プライマーセットによるユニプレックスとマルチプレックスPCRの効率検証
実施例8で確立したプライマーセットによるサツマイモ病原ウイルスの検出を、サツマイモ病原ウイルスSPFMV-RC、SPFMV-O、及びSPFMV-C罹病株を用いて調べた。ウイルス核酸の抽出は、実施例1と同様である。PCR反応液組成及び条件は以下のとおりである。
【0132】
プライマーは、SPFMV-RC用として配列番号12に示す塩基配列からなるオリゴヌクレオチド及び配列番号13に示す塩基配列からなるオリゴヌクレオチドをそれぞれ5μM
SPFMV-O用として、配列番号14に示す塩基配列からなるオリゴヌクレオチド及び配列番号15に示す塩基配列からなるオリゴヌクレオチドをそれぞれ:5μM
SPFMV-C用として、配列番号16に示す塩基配列からなるオリゴヌクレオチド及び配列番号17に示す塩基配列からなるオリゴヌクレオチドをそれぞれ3μMを反応液10μLあたり使用した。
【0133】
結果を図7に示す。
図7におけるウイルス罹病株は、以下の使用プライマーに対応するものであった。
レーン1、7、13、20:DNAマーカー、
レーン2-6:ユニプレックスRT-PCR(RC系統)の検出限界、
レーン8-12:ユニプレックスRT-PCR(O系統)の検出限界、
レーン14-18:ユニプレックスRT-PCR(C系統)の検出限界、
レーン21-25:マルチプレックスRT-PCRでの検出限界。
【0134】
鋳型核酸濃度は、鋳型を10倍ずつ段階的に希釈して、10-0:300ng/μl、10-1:30ng/μl、10-2:3ng/μl、10-3:300pg/μl、10-4:30pg/μlで調整した。
【0135】
PCR反応は、94℃で30秒の熱変性、54℃で30秒のアニーリング、72℃で30秒の伸長を1サイクルとして計35サイクルを行った。
【0136】
アガロースゲルで電気泳動を行い、PCR増幅産物を検証した。その結果を図7に示す。配列番号12、配列番号13、配列番号14、配列番号15、配列番号16及び17のプライマーを同時に使用する条件下で、別々に使用するのと同様の感度で、RC、O、C系統を明確に判定することができ、良好な結果を示した。
【0137】
(実施例11)
プライマーセットによるサツマイモ病原ウイルスの検出
実施例8で確立したプライマーセットによるサツマイモ病原ウイルスの検出を、様々なサツマイモを用いて、その感染状況を調べた。ウイルス核酸の抽出は、実施例1と同様である。PCR反応液組成及び条件は以下のとおりである。
【0138】
プライマーは、以下に示す量(μM)を反応液10μLあたり使用した。
図8における使用プライマーは、SPFMV-O用として、配列番号14に示す塩基配列からなるオリゴヌクレオチド及び配列番号15に示す塩基配列からなるオリゴヌクレオチドをそれぞれ:5μM
SPFMV-C用として、配列番号16に示す塩基配列からなるオリゴヌクレオチド及び配列番号17に示す塩基配列からなるオリゴヌクレオチドをそれぞれ3μMを反応液10μLあたり使用した。
【0139】
鋳型核酸濃度は、100~500ng/μlで調整した。
【0140】
PCR反応は、94℃で30秒の熱変性、54℃で30秒のアニーリング、72℃で30秒の伸長を1サイクルとして計35サイクルを行った。
【0141】
アガロースゲルで電気泳動を行い、PCR増幅産物を検証した。その結果を図8に示す。様々な感染パターンを示しており、本方法が、実際の栽培株において、SPFMV系統識別に有用であることがわかった。
【0142】
図6図8に示す通り、配列表の配列番号12~18に示すプライマーセットを用いることで、非特異的増幅が見られず、目的のウイルスを特異的にかつ効率的に検出できることがわかった。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
【配列表】
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