(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-02-12
(45)【発行日】2025-02-20
(54)【発明の名称】電気的接続装置
(51)【国際特許分類】
G01R 1/073 20060101AFI20250213BHJP
H01L 21/66 20060101ALI20250213BHJP
【FI】
G01R1/073 E
G01R1/073 D
H01L21/66 B
(21)【出願番号】P 2019203749
(22)【出願日】2019-11-11
【審査請求日】2022-10-25
【審判番号】
【審判請求日】2024-01-22
(73)【特許権者】
【識別番号】000153018
【氏名又は名称】株式会社日本マイクロニクス
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【氏名又は名称】三好 秀和
(72)【発明者】
【氏名】鶴田 賢一
(72)【発明者】
【氏名】林崎 孝幸
(72)【発明者】
【氏名】得丸 孝一郎
(72)【発明者】
【氏名】友岡 幸
【合議体】
【審判長】橿本 英吾
【審判官】井口 猶二
【審判官】清水 康司
(56)【参考文献】
【文献】特表2018-508753(JP,A)
【文献】特開2011-117882(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01R 1/06-1/073
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
測定対象物の電気的特性の測定に使用される電気的接続装置であって、
導電性材料のランドが主面に配置された配線基板と、
測定時に前記測定対象物と接触する先端部および前記ランドと接触する基端部を有し、前記基端部の前記ランドと接触する表面膜の材料が、前記表面膜と接触する前記ランドの材料と組成が異なる金属材料であることにより前記表面膜と前記ランドとの癒着を抑制するプローブと
を備え、
前記プローブの前記基端部が、芯材を覆う下地膜および前記下地膜を覆う前記表面膜を備える構造であり、
前記下地膜は、前記芯材に含まれる金属原子が前記芯材から前記表面膜に拡散することを防止するバリア膜として機能し、
前記プローブの前記基端部と前記ランドとの接触および離隔が自在であるように構成され、
前記下地膜および前記表面膜が、前記基端部においてのみ前記芯材の側面および端面を覆うように形成され、
前記基端部の前記ランドとの接触箇所の接触面が平坦面であり、前記接触面の面積が前記基端部
における前記プローブの軸方向に垂直な
前記芯材の断面積よりも広い
ことを特徴とする電気的接続装置。
【請求項2】
前記表面膜と前記ランドの少なくともいずれかの材料が導電性を有する貴金属であり、
前記貴金属が、パラジウム、イリジウム、白金、ルテニウム、ロジウムからなる金属群から選択される一種の金属若しく前記一種の金属を含む合金である
ことを特徴とする請求項1に記載の電気的接続装置。
【請求項3】
前記表面膜の材料が前記貴金属であり、前記ランドの材料が金であることを特徴とする請求項2に記載の電気的接続装置。
【請求項4】
前記表面膜の材料が金であり、前記ランドの材料が前記貴金属であることを特徴とする請求項2に記載の電気的接続装置。
【請求項5】
前記表面膜と前記ランドの材料のそれぞれが、相互に組成が異なる前記貴金属であることを特徴とする請求項2に記載の電気的接続装置。
【請求項6】
前記下地膜と前記表面膜との間にストライクめっき膜が形成されていることを特徴とする請求項1に記載の電気的接続装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、測定対象物の電気的特性の測定に使用される電気的接続装置に関する。
【背景技術】
【0002】
集積回路などの測定対象物の特性を測定するために、測定対象物に接触させるプローブを有する電気的接続装置が用いられている。電気的接続装置を用いる測定では、プローブの一方の端部を測定対象物に接触させる。そして、プローブの他方の端部を配線基板に配置された電極端子(以下において「ランド」という。)に接触させる。ランドはICテスタなどの測定装置と接続され、プローブおよび配線基板を介して、測定対象物と測定装置との間で電気信号が伝搬する。
【0003】
プローブには、芯材の表面に下地膜と表面膜を積層した構造などが採用される(特許文献1参照。)。プローブの表面膜には、例えば金(Au)膜が使用される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
プローブとランドの接触箇所の電気抵抗は、低いほど好ましい。このため、配線基板のランドとプローブの表面膜にAu膜が使用される。しかし、ランドのAu膜と表面膜であるAu膜とが癒着することにより問題が生じる。すなわち、ランドからプローブを離すときにプローブの表面膜が剥離したり、プローブを保持するプローブヘッドを配線基板から取り外す際にプローブがプローブヘッドから抜けたりする。
【0006】
上記問題点に鑑み、本発明は、プローブと配線基板のランドの癒着を抑制できる電気的接続装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様によれば、ランドが主面に配置された配線基板と、測定対象物と接触する先端部およびランドと接触する基端部を有し、ランドと接触する基端部の表面膜の材料がランドの材料と組成が異なるプローブとを備え、プローブの基端部が、芯材を覆う下地膜および下地膜を覆う表面膜を備える構造であり、下地膜は、芯材に含まれる金属原子が芯材から表面膜に拡散することを防止するバリア膜として機能し、プローブの基端部とランドとの接触および離隔が自在であるように構成され、下地膜および表面膜が、基端部においてのみ芯材の側面および端面を覆うように形成され、基端部のランドとの接触箇所の接触面が平坦面であり、接触面の面積が基端部におけるプローブの軸方向に垂直な芯材の断面積よりも広い電気的接続装置が提供される。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、プローブと配線基板のランドの癒着を抑制できる電気的接続装置を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】実施形態に係る電気的接続装置の構成を示す模式図である。
【
図2】実施形態に係る電気的接続装置のプローブの基端部の構造を示す模式的な断面図である。
【
図4】プローブヘッドからプローブが抜けた状態を示す模式図である。
【
図5】実施形態に係る電気的接続装置のプローブの基端部の他の構造を示す模式的な断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
次に、図面を参照して、本発明の実施形態を説明する。以下の図面の記載において、同一又は類似の部分には同一又は類似の符号を付している。ただし、図面は模式的なものであり、各部の厚みの比率などは現実のものとは異なることに留意すべきである。また、図面相互間においても互いの寸法の関係や比率が異なる部分が含まれていることはもちろんである。以下に示す実施形態は、この発明の技術的思想を具体化するための装置や方法を例示するものであって、この発明の実施形態は、構成部品の材質、形状、構造、配置などを下記のものに特定するものでない。
【0011】
図1に示す実施形態に係る電気的接続装置1は、測定対象物2の電気的特性の測定に使用される。電気的接続装置1は、プローブ10と、プローブ10を保持するプローブヘッド30と、プローブヘッド30が取り付けられた配線基板20とを備える。図示を省略するボルトなどによって、プローブヘッド30が配線基板20に固定される。
【0012】
電気的接続装置1は垂直動作式プローブカードであり、測定対象物2の測定時にプローブ10の先端部12が測定対象物2の電極パッド(図示略)と接触する。
図1では、プローブ10が測定対象物2に接触していない状態を示している。測定時には、例えば測定対象物2を搭載したチャック3が上昇して、プローブ10の先端部12が測定対象物2に接触する。
【0013】
配線基板20のプローブ10に面する主面には、導電性材料のランド21が配置されている。ランド21に、プローブ10の基端部11が接続する。一方、配線基板20の他方の主面に接続端子22が配置され、ランド21と接続端子22とは、配線基板20に形成された配線パターン(図示略)により電気的に接続されている。接続端子22は、図示を省略した測定装置に接続される。配線基板20には、プリント基板などが使用される。
【0014】
プローブヘッド30には、複数のガイドプレートを有する構造などが採用される。
図1に示したプローブヘッド30では、トップガイドプレート31とボトムガイドプレート32が、プローブ10の延伸方向に沿ってスペーサ33によって相互に離間して配置されている。プローブ10は、トップガイドプレート31とボトムガイドプレート32にそれぞれ形成されたガイド穴を貫通した状態で、プローブヘッド30に保持される。プローブヘッド30の材料は、例えばセラミックである。
【0015】
測定対象物2の測定時に、配線基板20およびプローブ10を経由して、測定装置と測定対象物2の間で電気信号が伝搬する。例えば、配線基板20およびプローブ10を経由して、測定装置から電気信号が測定対象物2に送信され、測定対象物2から出力された電気信号が測定装置に送信される。このため、ランド21およびプローブ10には、導電性の材料が使用される。
【0016】
プローブ10の基端部11には、基端部11とランド21の接触箇所の電気抵抗を低減する構造を採用する。例えば、
図2に示すように、芯材111を覆う下地膜112および下地膜112を覆う表面膜113を備える構造を基端部11に採用する。
【0017】
芯材111に、銅(Cu)合金、銀パラジウム銅(AgPdCu)合金、ロジウム(Rh)、ニッケル(Ni)などの導電性の金属が使用される。下地膜112は、表面膜113や表面膜113と下地膜112の間に形成するストライクめっき膜と芯材111との間での金属原子の拡散を防止するバリア膜などとして機能する。例えば、表面膜113やストライクめっき膜にAuめっき膜を使用したときに、下地膜112としてNi膜を形成することにより、Cu合金などの芯材111からCuがAuめっき膜に拡散することを防止できる。Cu/Au界面でのバリア膜として、チタン(Ti)膜、クロム(Cr)膜、パラジウム(Pd)膜なども下地膜112に採用可能である。なお、芯材111の材料によっては、下地膜112が不要の場合もある。表面膜113にも導電性の金属膜が使用され、詳細は後述するが、ランド21の材料と組成が異なる金属材料が表面膜113に使用される。また、芯材111に下地膜112および表面膜113をめっき加工することにより、Cu合金の芯材111の酸化を抑制できる。
【0018】
プローブ10とランド21の接触箇所の電気抵抗を低減するために、表面膜113やランド21の材料にAu膜が使用されている。しかし、ランド21とプローブ10の表面膜113にそれぞれAu膜を使用した場合には、表面膜113であるAu膜とランド21のAu膜が癒着する問題が生じる。ランド21のAu膜と表面膜のAu膜が癒着すると、
図3に示すように、ランド21からプローブ10を離すときにプローブ10の表面膜113の剥離が生じる。プローブ10から剥離したAu膜110は、ランド21の表面に付着する。
【0019】
測定対象物2の測定を繰り返し行うと、プローブ10から剥離したAu膜がランド21の表面に付着する現象が繰り返される。このため、ランド21の表面に付着したAu膜の膜厚が次第に増大する。これにより、プローブ10とランド21との接触状態が変動し、測定精度が低下するなどの問題が生じる。また、ランド21の表面にAu膜が付着する現象により、配線基板20に配置された複数のランド21の高さにばらつきが生じる。その結果、プローブ10の先端部12の位置にばらつきが生じ、測定対象物2に接触するプローブ10の針圧が不均一になる。
【0020】
また、ランド21のAu膜と表面膜113のAu膜が癒着すると、
図4に示すように、プローブヘッド30を矢印の方向に配線基板20から取り外す際に、プローブ10がプローブヘッド30から抜けてしまう場合がある。
図4に示した例では、紙面の左側から2番目と5番目のプローブ10がプローブヘッド30から抜けている。
【0021】
これに対し、
図1に示すプローブ10では、表面膜113のランド21と接触する部分の材料は、基端部11と接触する部分のランド21の材料と組成が異なる金属材料である。このため、プローブ10の表面膜113とランド21の癒着を抑制することができる。
【0022】
例えば、ランド21の材料がAu膜である場合に、プローブ10の表面膜113の材料に導電性を有する貴金属を使用する。ここで、「貴金属」とは、卑金属以外の金属であり、イオン化しにくく、例えば空気中で加熱しても酸化されにくい金属である。このため、表面膜113の材料に導電性の貴金属を好適に使用できる。例えば、表面膜113の材料に使用する貴金属に、Pd、イリジウム(Ir)、白金(Pt)、ルテニウム(Ru)、Rhなどからなる金属群から選択される一種の金属若しく上記の一種の金属を含む合金などを採用可能である。
【0023】
例えば、芯材111に直径が30μm程度のCu合金を使用した場合に、下地膜112に膜厚が4.5μm程度のNi膜を使用し、表面膜113に膜厚が1.0μm程度の貴金属膜を使用する。或いは、芯材111に直径が35μm程度のCu合金を使用した場合に、下地膜112に膜厚が6.5μm程度のNi膜を使用し、表面膜113に膜厚が1.0μm程度の貴金属膜を使用する。下地膜112や表面膜113は、例えばめっき加工などにより形成される。
【0024】
なお、下地膜112と表面膜113の材料の組み合わせによっては、下地膜112と表面膜113の接触性が低下する場合がある。そのような場合には、
図5に示すように、下地膜112と表面膜113の間にストライクめっき膜114を形成してもよい。つまり、表面膜113を下地膜112の表面に直接形成するのではなく、下地膜112の表面を覆うストライクめっき膜114を形成する。そして、ストライクめっき膜114を覆って表面膜113を形成する。
【0025】
ストライクめっき膜114を形成することにより、下地膜112の不働態皮膜を除去、活性化して、下地膜112と表面膜113の密着性を向上させることができる。ストライクめっき膜114には、例えばAu膜が使用される。
【0026】
また、ランド21の材料に導電性を有する貴金属を使用してもよい。このとき、プローブ10の表面膜113の材料には、ランド21に使用した貴金属とは組成の異なる貴金属を使用する。或いは、表面膜113の材料にAu膜を使用し、ランド21の材料に導電性を有する貴金属を使用してもよい。ランド21の材料に使用する貴金属は、表面膜113の材料に使用する貴金属と同様に、Pd、Ir、Pt、Ru、Rhなどからなる金属群から選択される一種の金属若しく上記の一種の金属を含む合金などである。
【0027】
以上に説明したように、本発明の実施形態に係る電気的接続装置1では、プローブ10の基端部11の表面膜113の材料は、基端部11と接触するランド21の材料と組成が異なる金属材料である。このため、電気的接続装置1によれば、プローブ10と配線基板20のランド21の癒着を抑制することができる。
【0028】
(その他の実施形態)
上記のように本発明は実施形態によって記載したが、この開示の一部をなす論述及び図面はこの発明を限定するものであると理解すべきではない。この開示から当業者には様々な代替実施形態、実施例及び運用技術が明らかとなろう。
【0029】
例えば、上記では表面膜113やランド21の材料に貴金属を使用する場合を示したが、表面膜113の材料とランド21の材料の組成が異なれば、貴金属以外の金属材料を表面膜113やランド21の材料に使用してもよい。
【0030】
このように、本発明はここでは記載していない様々な実施形態などを含むことはもちろんである。したがって、本発明の技術的範囲は上記の説明から妥当な特許請求の範囲に係る発明特定事項によってのみ定められるものである。
【符号の説明】
【0031】
1…電気的接続装置
2…測定対象物
10…プローブ
11…基端部
12…先端部
20…配線基板
21…ランド
30…プローブヘッド
111…芯材
112…下地膜
113…表面膜
114…ストライクめっき膜