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  • 特許-位相差層付偏光板の製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-02-12
(45)【発行日】2025-02-20
(54)【発明の名称】位相差層付偏光板の製造方法
(51)【国際特許分類】
   G02B 5/30 20060101AFI20250213BHJP
   B32B 7/023 20190101ALI20250213BHJP
【FI】
G02B5/30
B32B7/023
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2020148150
(22)【出願日】2020-09-03
(65)【公開番号】P2022042662
(43)【公開日】2022-03-15
【審査請求日】2023-06-22
(73)【特許権者】
【識別番号】000003964
【氏名又は名称】日東電工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100122471
【弁理士】
【氏名又は名称】籾井 孝文
(72)【発明者】
【氏名】小島 理
(72)【発明者】
【氏名】角村 浩
(72)【発明者】
【氏名】南原 拓弥
(72)【発明者】
【氏名】後藤 周作
【審査官】吉川 陽吾
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/022156(WO,A1)
【文献】国際公開第2015/111474(WO,A1)
【文献】特開2019-159200(JP,A)
【文献】特開2008-015145(JP,A)
【文献】特開2012-137723(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 5/30
B32B 7/023
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
偏光子と該偏光子の少なくとも一方に保護層とを含む偏光板と、位相差層と、を有する位相差層付偏光板の製造方法であって、
蒸気量が10.2g/m以下の環境下で、偏光板と位相差層とをロール搬送しながら活性エネルギー線硬化型接着剤を介して積層し、位相差層付偏光板を得ること;
該位相差層付偏光板をロール搬送しながら、該偏光板と該位相差層との積層時の水蒸気量よりも大きい水蒸気量の環境下、かつ、18℃~34℃および60%RH~90%RHの環境下で単位体積当たりの重量が0.2%~2.5%増加するよう加湿処理すること;および、
該加湿処理後の位相差層付偏光板をロール状に巻き取り、ロール状態で6時間以上保管すること;
を含み、
該位相差層付偏光板の総厚みが80μm以下であり、該偏光板の厚みと該位相差層の厚みとの比(偏光板/位相差層)が5以上である、
製造方法。
【請求項2】
前記加湿処理における加湿時間が5分以上である、請求項1に記載の位相差層付偏光板の製造方法。
【請求項3】
前記偏光板と前記位相差層との積層時の水蒸気量と前記加湿処理時の水蒸気量との差が、1g/m~28g/mである、請求項1または2に記載の位相差層付偏光板の製造方法。
【請求項4】
前記位相差層または前記偏光板の該位相差層と反対側に配置された保護層の40℃および92%RHにおける透湿度が300g/m・24h以上である、請求項1からのいずれかに記載の位相差層付偏光板の製造方法。
【請求項5】
前記活性エネルギー線硬化型接着剤の硬化後の厚みが0.4μm以上である、請求項1からのいずれかに記載の位相差層付偏光板の製造方法。
【請求項6】
前記加湿処理において、前記位相差層を下側にして前記位相差層付偏光板を搬送する、請求項1からのいずれかに記載の位相差層付偏光板の製造方法。
【請求項7】
前記偏光板が前記偏光子の前記位相差層と反対側のみに保護層を含む、請求項1からのいずれかに記載の位相差層付偏光板の製造方法。
【請求項8】
前記位相差層が液晶化合物の配向固化層である、請求項1からのいずれかに記載の位相差層付偏光板の製造方法。
【請求項9】
前記位相差層付偏光板において、前記偏光子の厚み方向の中間点が、該位相差層付偏光板の厚み方向の中間点よりも位相差層側に位置している、請求項1からのいずれかに記載の位相差層付偏光板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、位相差層付偏光板の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
液晶表示装置およびエレクトロルミネセンス(EL)表示装置(例えば、有機EL表示装置、無機EL表示装置)に代表される画像表示装置が急速に普及している。画像表示装置には、代表的には偏光板および位相差板が用いられている。実用的には、偏光板と位相差板とを一体化した位相差層付偏光板が広く用いられている(例えば、特許文献1)。近年、画像表示装置の湾曲、屈曲、折り畳み、巻き取りの可能性が検討されている。このような画像表示装置に用いられる位相差層付偏光板として、薄型の位相差層付偏光板が要望されている。しかし、薄型の位相差層付偏光板には反りが発生しやすいという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特許第3325560号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は上記従来の課題を解決するためになされたものであり、その主たる目的は、反りが抑制された位相差層付偏光板の簡便かつ効率的な製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の実施形態によれば、偏光子と該偏光子の少なくとも一方に保護層とを含む偏光板と、位相差層と、を有する位相差層付偏光板の製造方法が提供される。当該製造方法は、水蒸気量が10.2g/m以下の環境下で、偏光板と位相差層とをロール搬送しながら活性エネルギー線硬化型接着剤を介して積層し、位相差層付偏光板を得ること;該位相差層付偏光板をロール搬送しながら、18℃~34℃および60%RH~90%RHの環境下で単位体積当たりの重量が0.2%以上増加するよう加湿処理すること;および、該加湿処理後の位相差層付偏光板をロール状に巻き取り、ロール状態で6時間以上保管すること;を含む。該位相差層付偏光板の総厚みは80μm以下であり、該偏光板の厚みと該位相差層の厚みとの比(偏光板/位相差層)は5以上である。
1つの実施形態においては、上記加湿処理における加湿時間は5分以上である。
1つの実施形態においては、上記偏光板と上記位相差層との積層時の水蒸気量と上記加湿処理時の水蒸気量との差は、1g/m~28g/mである。
1つの実施形態においては、上記加湿処理における上記位相差層付偏光板の単位体積当たりの重量増加は2.5%以下である。
1つの実施形態においては、上記位相差層または上記偏光板の該位相差層と反対側に配置された保護層の40℃および92%RHにおける透湿度は300g/m・24h以上である。
1つの実施形態においては、上記活性エネルギー線硬化型接着剤の硬化後の厚みは0.4μm以上である。
1つの実施形態においては、上記製造方法は、上記加湿処理において、上記位相差層を下側にして上記位相差層付偏光板を搬送する。
1つの実施形態においては、上記偏光板は上記偏光子の上記位相差層と反対側のみに保護層を含む。
1つの実施形態においては、上記位相差層は液晶化合物の配向固化層である。
1つの実施形態においては、上記位相差層付偏光板において、上記偏光子の厚み方向の中間点は、該位相差層付偏光板の厚み方向の中間点よりも位相差層側に位置している。
【発明の効果】
【0006】
本発明の実施形態によれば、位相差層付偏光板の製造方法において、所定の水蒸気量の環境下で偏光板と位相差層とを積層して位相差層付偏光板を作製し、該位相差層付偏光板を所定の加湿処理に供し、かつ、加湿処理した位相差層付偏光板を所定時間保管することにより、反りが抑制された位相差層付偏光板を簡便かつ効率的に製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】本発明の実施形態による製造方法で得られる位相差層付偏光板の一例を示す概略断面図である。
図2】本発明の実施形態による製造方法で得られる位相差層付偏光板の別の例を示す概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明の実施形態について説明するが、本発明はこれらの実施形態には限定されない。
【0009】
(用語および記号の定義)
本明細書における用語および記号の定義は下記の通りである。
(1)屈折率(nx、ny、nz)
「nx」は面内の屈折率が最大になる方向(すなわち、遅相軸方向)の屈折率であり、「ny」は面内で遅相軸と直交する方向(すなわち、進相軸方向)の屈折率であり、「nz」は厚み方向の屈折率である。
(2)面内位相差(Re)
「Re(λ)」は、23℃における波長λnmの光で測定した面内位相差である。例えば、「Re(550)」は、23℃における波長550nmの光で測定した面内位相差である。Re(λ)は、層(フィルム)の厚みをd(nm)としたとき、式:Re(λ)=(nx-ny)×dによって求められる。
(3)厚み方向の位相差(Rth)
「Rth(λ)」は、23℃における波長λnmの光で測定した厚み方向の位相差である。例えば、「Rth(550)」は、23℃における波長550nmの光で測定した厚み方向の位相差である。Rth(λ)は、層(フィルム)の厚みをd(nm)としたとき、式:Rth(λ)=(nx-nz)×dによって求められる。
(4)Nz係数
Nz係数は、Nz=Rth/Reによって求められる。
(5)角度
本明細書において角度に言及するときは、当該角度は基準方向に対して時計回りおよび反時計回りの両方を包含する。したがって、例えば「45°」は±45°を意味する。
【0010】
A.本発明の実施形態の製造方法により得られる位相差層付偏光板の構成の概略
図1は、本発明の実施形態による製造方法で得られる位相差層付偏光板の一例を示す概略断面図である。図示例の位相差層付偏光板100は、偏光板10と位相差層20とを代表的には視認側からこの順に有する。図示例においては、偏光板10は、偏光子11と偏光子11の両側に保護層12および13とを含む。目的に応じて、保護層12および13の一方は省略されてもよい。1つの実施形態においては、偏光板10は、偏光子11の視認側(位相差層20と反対側)のみに保護層12を有する。実用的には、位相差層20の偏光板10と反対側に(すなわち、視認側と反対側の最外層として)粘着剤層(図示せず)が設けられ、位相差層付偏光板は画像表示セルに貼り付け可能とされている。さらに、粘着剤層の表面には、位相差層付偏光板が使用に供されるまで、剥離フィルム(図示せず)が仮着されていることが好ましい。剥離フィルムを仮着することにより、粘着剤層を保護するとともに、位相差層付偏光板のロール形成が可能となる。
【0011】
位相差層付偏光板は、総厚み(偏光板および位相差層の合計厚み)が80μm以下であり、好ましくは70μm以下であり、より好ましくは60μm以下である。位相差層付偏光板の総厚みは、例えば25μm以上であり得る。さらに、位相差層付偏光板において、偏光板の厚みと位相差層の厚みとの比(偏光板/位相差層:以下、単に「厚み比」と称する場合がある)は5以上であり、好ましくは5~16であり、より好ましくは5~14である。すなわち、本発明の実施形態による製造方法に適用される位相差層付偏光板は、総厚みが薄く、かつ、総厚みに対する偏光板の厚みの割合が大きい(位相差層の厚みの割合が小さい)。本発明者らは、位相差層付偏光板において偏光板の厚みおよび厚み比が所定範囲である場合においてのみ、反りの問題が発生することを見出した。より詳細には、厚み比が5未満である(偏光板の厚みと位相差層の厚みとの差がそれほど大きくない)場合、および、偏光板の厚みが過度に大きい場合には、位相差層付偏光板に反りの問題は生じない場合が多い。本発明者らは、このような新たな知見に基づいて反りの抑制について鋭意検討した結果、本発明の実施形態の製造方法(後述)により反りが抑制できることを見出した。このように、本発明の実施形態による製造方法は、総厚みが80μm以下であり、かつ、偏光板の厚みと位相差層の厚みとの比が5以上である位相差層付偏光板において新たに認識された課題を解決するものである。なお、このような位相差層付偏光板においては、偏光子の厚み方向の中間点は、代表的には、位相差層付偏光板の厚み方向の中間点よりも位相差層側に位置している。また、偏光板の厚みと位相差層の厚みとの比における位相差層の厚みは、位相差層が2層以上の積層構造を有する場合にはその合計厚みを意味する。
【0012】
1つの実施形態においては、保護層12または位相差層20のいずれかの40℃および92%RHにおける透湿度は、好ましくは300g/m・24h以上であり、より好ましくは400g/m・24h~1000g/m・24hであり、さらに好ましくは400g/m・24h~800g/m・24hである。保護層12または位相差層20のいずれかがこのような透湿度であれば、後述の加湿処理の効果が顕著になる。位相差層20の透湿度が上記範囲である場合、保護層12の透湿度は、好ましくは300g/m・24h以下であり、より好ましくは10g/m・24h~150g/m・24hであり、さらに好ましくは10g/m・24h~30g/m・24hである。なお、本実施形態においては、多くの場合、保護層13は省略され得る。
【0013】
位相差層20は、代表的には、液晶化合物の配向固化層(液晶配向固化層)である。液晶化合物を用いることにより、得られる位相差層のnxとnyとの差を非液晶材料に比べて格段に大きくすることができるので、所望の面内位相差を得るための位相差層の厚みを格段に小さくすることができる。したがって、位相差層付偏光板の顕著な薄型化を実現することができる。その結果、上記のような総厚みおよび厚み比を実現することができる。本明細書において「配向固化層」とは、液晶化合物が層内で所定の方向に配向し、その配向状態が固定されている層をいう。なお、「配向固化層」は、後述のように液晶モノマーを硬化させて得られる配向硬化層を包含する概念である。位相差層20においては、代表的には、棒状の液晶化合物が位相差層の遅相軸方向に並んだ状態で配向している(ホモジニアス配向)。位相差層20は、図1に示すように単一層であってもよく、図2に示すように2層以上の積層構造を有していてもよい。
【0014】
位相差層は、活性エネルギー線硬化型接着剤を介して偏光板に貼り合わせられている。位相差層が2層以上の積層構造を有する場合、それぞれの位相差層は、活性エネルギー線硬化型接着剤を介して貼り合わせられている。上記のような総厚みおよび厚み比を有する位相差層付偏光板の反りは、主として、活性エネルギー線硬化型接着剤の硬化時の収縮に起因する。本発明の実施形態の製造方法(後述)によれば、上記のような総厚みおよび厚み比を有し、かつ、活性エネルギー線硬化型接着剤を用いる位相差層付偏光板であっても、反りを良好に抑制することができる。
【0015】
位相差層付偏光板は、その他の光学機能層をさらに含んでいてもよい。位相差層付偏光板に設けられ得る光学機能層の種類、特性、数、組み合わせ、配置位置等は、目的に応じて適切に設定され得る。例えば、位相差層付偏光板は、導電層または導電層付等方性基材をさらに有していてもよい(いずれも図示せず)。導電層または導電層付等方性基材は、代表的には、位相差層20の外側(偏光板10と反対側)に設けられる。導電層または導電層付等方性基材は、代表的には、必要に応じて設けられる任意の層であり、省略されてもよい。なお、導電層または導電層付等方性基材が設けられる場合、位相差層付偏光板は、画像表示セル(例えば、有機ELセル)と偏光板との間にタッチセンサが組み込まれた、いわゆるインナータッチパネル型入力表示装置に適用され得る。また例えば、位相差層付偏光板は、その他の位相差層をさらに含んでいてもよい。その他の位相差層の光学的特性(例えば、屈折率特性、面内位相差、Nz係数、光弾性係数)、厚み、配置位置等は、目的に応じて適切に設定され得る。
【0016】
以下、本発明の実施形態による上記のような位相差層付偏光板の製造方法を説明し、次いで、位相差層付偏光板の構成要素を説明する。
【0017】
B.位相差層付偏光板の製造方法
本発明の実施形態による位相差層付偏光板の製造方法は、水蒸気量が10.2g/m以下の環境下で、偏光板と位相差層とをロール搬送しながら活性エネルギー線硬化型接着剤を介して積層し、位相差層付偏光板を得ること;該位相差層付偏光板をロール搬送しながら、18℃~34℃および60%RH~90%RHの環境下で単位体積当たりの重量が0.2%以上増加するよう加湿処理すること;および、該加湿処理後の位相差層付偏光板をロール状に巻き取り、ロール状態で6時間以上保管すること;を含む。以下、位相差層付偏光板の製造方法における各工程を順に説明する。
【0018】
B-1.偏光板の作製
偏光板は、任意の適切な方法で作製され得る。具体的には、偏光板は、単層の樹脂フィルムから作製した偏光子を含んでいてもよく、二層以上の積層体を用いて作製した偏光子を含んでいてもよい。
【0019】
B-1-1.単層の樹脂フィルムから得られた偏光子を用いた偏光板の作製
単層の樹脂フィルムからの偏光子の製造方法は、代表的には、樹脂フィルムに、ヨウ素や二色性染料等の二色性物質による染色処理と延伸処理とを施すことを含む。樹脂フィルムとしては、ポリビニルアルコール(PVA)系フィルム、部分ホルマール化PVA系フィルム、エチレン・酢酸ビニル共重合体系部分ケン化フィルム等の親水性高分子フィルムが挙げられる。当該方法は、不溶化処理、膨潤処理、架橋処理等をさらに含んでいてもよい。得られた偏光子の少なくとも一方に保護層(保護フィルム)を積層することにより、偏光板が得られ得る。このような製造方法は、当業界で周知慣用であるので、詳細な説明は省略する。
【0020】
B-1-2.積層体から得られた偏光子を用いた偏光板の作製
偏光子の製造に積層体を用いる場合、当該積層体は、樹脂基材と当該樹脂基材に積層されたPVA系樹脂層(PVA系樹脂フィルム)との積層体であってもよく、樹脂基材と当該樹脂基材に塗布形成されたPVA系樹脂層との積層体であってもよい。一例として、樹脂基材と当該樹脂基材に塗布形成されたPVA系樹脂層との積層体を用いる偏光子の製造方法を説明する。当該製造方法は、代表的には、PVA系樹脂溶液を樹脂基材に塗布し、乾燥させて樹脂基材上にPVA系樹脂層を形成して、樹脂基材とPVA系樹脂層との積層体を得ること;当該積層体を延伸および染色してPVA系樹脂層を偏光子とすること;を含む。このような製造方法においては、延伸は、代表的には積層体をホウ酸水溶液中に浸漬させて延伸することを含む。さらに、延伸は、必要に応じて、ホウ酸水溶液中での延伸の前に積層体を高温(例えば、95℃以上)で空中延伸することをさらに含み得る。得られた樹脂基材/偏光子の積層体をそのまま偏光板としてもよく(すなわち、樹脂基材を偏光子の保護層としてもよく)、樹脂基材/偏光子の積層体の偏光子表面に保護層をさらに積層して偏光板としてもよい。あるいは、樹脂基材/偏光子の積層体から樹脂基材を剥離し、当該剥離面に目的に応じた任意の適切な保護層を積層して偏光板としてもよく、保護層/偏光子の積層体の偏光子表面に保護層をさらに積層して偏光板としてもよい。このような偏光板の製造方法の詳細は、例えば特開2012-73580号公報、特許第6470455号に記載されている。これらの公報は、その全体の記載が本明細書に参考として援用される。
【0021】
B-2.位相差層の形成
位相差層が液晶配向固化層である場合の形成方法について簡単に説明する。液晶配向固化層は、所定の基材の表面に配向処理を施し、当該表面に液晶化合物を含む塗工液を塗工して当該液晶化合物を上記配向処理に対応する方向に配向させ、当該配向状態を固定することにより形成され得る。配向処理としては、任意の適切な配向処理が採用され得る。具体的には、機械的な配向処理、物理的な配向処理、化学的な配向処理が挙げられる。機械的な配向処理の具体例としては、ラビング処理、延伸処理が挙げられる。物理的な配向処理の具体例としては、磁場配向処理、電場配向処理が挙げられる。化学的な配向処理の具体例としては、斜方蒸着法、光配向処理が挙げられる。各種配向処理の処理条件は、目的に応じて任意の適切な条件が採用され得る。
【0022】
液晶化合物の配向は、液晶化合物の種類に応じて液晶相を示す温度で処理することにより行われる。このような温度処理を行うことにより、液晶化合物が液晶状態をとり、基材表面の配向処理方向に応じて当該液晶化合物が配向する。
【0023】
配向状態の固定は、1つの実施形態においては、上記のように配向した液晶化合物を冷却することにより行われる。液晶化合物が重合性モノマーまたは架橋性モノマーである場合には、配向状態の固定は、上記のように配向した液晶化合物に重合処理または架橋処理を施すことにより行われる。
【0024】
液晶化合物の具体例および配向固化層の形成方法の詳細は、特開2006-163343号公報に記載されている。当該公報の記載は本明細書に参考として援用される。
【0025】
以上のようにして、基材に液晶配向固化層が形成される。
【0026】
B-3.位相差層付偏光板の作製
上記で得られた偏光板と位相差層とを積層することにより、位相差層付偏光板が得られ得る。偏光板と位相差層との積層は、上記のとおり、これらをロール搬送しながら(すなわち、いわゆるロールトゥロールにより)行われる。積層は、代表的には、基材に形成された液晶配向固化層を転写することにより行われ得る。位相差層が積層構造を有する場合には、それぞれの位相差層を偏光板に順次積層(転写)してもよく、位相差層の積層体を偏光板に積層(転写)してもよい。転写は、活性エネルギー線硬化型接着剤を介して行われる。活性エネルギー線硬化型接着剤の硬化後の厚みは、好ましくは0.4μm以上であり、より好ましくは0.4μm~3.0μmであり、さらに好ましくは0.6μm~1.5μmである。上記のとおり、所定の総厚みおよび厚み比を有する位相差層付偏光板の反りは、主として、活性エネルギー線硬化型接着剤の硬化時の収縮に起因するところ、本発明の実施形態によれば、所定の総厚みおよび厚み比を有し、かつ、活性エネルギー線硬化型接着剤を用いる位相差層付偏光板であっても、反りを良好に抑制することができる。
【0027】
位相差層付偏光板がその他の光学機能層(例えば、導電層、他の位相差層)をさらに含む場合、これらの光学機能層は所定の配置位置に任意の適切な方法で積層または形成され得る。
【0028】
位相差層付偏光板の作製(積層)は、水蒸気量が10.2g/m以下の環境下で行われる。積層における水蒸気量は、好ましくは6.0g/m~10.0g/mであり、より好ましくは8.0g/m~9.5g/mである。水蒸気量がこのような範囲である環境下で積層を行うことにより、後述の加湿処理による効果が顕著なものとなる。積層におけるこのような水蒸気量は、例えば、温度18℃~25℃の範囲で相対湿度を温度に応じて変化させることにより実現され得る。水蒸気量は、例えば、温度が18℃である場合には、相対湿度を65%RH以下とすることにより実現され得;また例えば、温度が20℃である場合には、相対湿度を55%RH以下とすることにより実現され得;また例えば、温度が23℃である場合には、相対湿度を45%RH以下とすることにより実現され得る。なお、相対湿度の下限は、例えば30%RHであり得る。
【0029】
B-4.加湿処理
上記で得られた位相差層付偏光板は、ロール搬送されながら加湿処理に供される。加湿処理は、18℃~34℃および60%RH~90%RHの環境下で行われる。加湿処理は、代表的には、上記積層時の水蒸気量よりも大きい水蒸気量の環境下で行われる。より詳細には、上記積層時の水蒸気量と加湿処理時の水蒸気量との差は、好ましくは1.0g/m~28g/mであり、より好ましくは1.0g/m~12g/mであり、さらに好ましくは1.5g/m~10g/mであり、特に好ましくは1.5g/m~8g/mである。加湿処理における水蒸気量は、好ましくは10.5g/m~30g/mであり、より好ましくは11g/m~20g/mである。加湿処理におけるこのような水蒸気量は、例えば、温度が18℃である場合には、相対湿度を80%RH以上とすることにより実現され得;また例えば、温度が20℃である場合には、相対湿度を60%RH以上とすることにより実現され得;また例えば、温度が23℃である場合には、相対湿度を50%RH以上とすることにより実現され得る。なお、相対湿度の上限は、例えば100%RHであり得る。このような条件で加湿処理を行うことにより、位相差層付偏光板に適切な量の水分が付与され、上記のような所定の厚みおよび厚み比を有する位相差層付偏光板の反りを抑制することができる。より詳細には以下のとおりである。加湿処理における温度・湿度条件は、位相差層付偏光板作製時の温度・湿度条件に近く、かつ、当該条件とは異なっている。このような条件で加湿することにより、位相差層付偏光板を収縮させることなく位相差層付偏光板に水分を付与することができる。作製時と同一の温度・湿度条件で位相差層付偏光板をロール搬送しても、位相差層付偏光板に水分は付与されず、効果は得られない。理論的には明らかではないが、このような小さな条件差により、上記のような予期せぬ優れた効果が得られ得る。一方、位相差層付偏光板に付与される水分量が多すぎると、逆方向の反りおよび/または面内において初期の方向とは直交する方向の反りが大きくなる場合がある。
【0030】
加湿処理は、位相差層付偏光板の単位体積当たりの重量が0.2%以上増加するようにして行われる。加湿処理における位相差層付偏光板の単位体積当たりの重量増加は、0.2%~2.5%であり、より好ましくは0.3%~2.0%であり、さらに好ましくは0.3%~1.0%である。加湿処理における重量増加は、位相差層付偏光板が水分を吸収したことを意味するので、重量増加量をこのような範囲とすることにより、偏光子に所望量の水分を吸収させることができる。その結果、位相差層付偏光板の反りを抑制することができる。
【0031】
加湿処理における加湿時間は、好ましくは5分以上であり、より好ましくは5分~30分であり、さらに好ましくは5分~20分であり、特に好ましくは5分~15分である。加湿時間が5分以上であれば、上記所望の重量増加量(水分吸収量)を実現することができる。加湿時間が過度に長くなっても効果は変わらないので、加湿時間の上限は所望される重量増加量と製造効率とのバランスで決定され得る。
【0032】
加湿処理における1つの実施形態においては、位相差層付偏光板は、位相差層を下側にして搬送される。このような構成であれば、異物に起因する外観不良を抑制することができる。
【0033】
B-5.ロール保管
加湿処理された位相差層付偏光板はロール状に巻き取られ、ロール状態で保管される。保管時間は、上記のとおり6時間以上であり、好ましくは8時間以上であり、より好ましくは10時間以上であり、さらに好ましくは12時間以上である。保管時間の上限は、例えば24時間であり得る。このような保管により、加湿処理により位相差層付偏光板に付与された水分を、偏光子に良好に移行させることができる。これにより、偏光子の水分率を増大させ、結果として、位相差層付偏光板の反りを抑制することができる。
【0034】
保管は、代表的には室温近傍で行われ得る。保管における温度は、好ましくは30℃以下であり、より好ましくは20℃~30℃であり、さらに好ましくは23℃~27℃である。保管温度が高すぎると、加湿処理により位相差層付偏光板に付与(吸収)された水分が外部に蒸発してしまい、偏光子に良好に移行しない場合がある。
【0035】
C.偏光板
C-1.偏光子
上記の製造方法から明らかなとおり、偏光子11は、代表的には、二色性物質(例えば、ヨウ素)を含む樹脂フィルムである。樹脂フィルムとしては、上記のとおり、ポリビニルアルコール(PVA)系フィルム、部分ホルマール化PVA系フィルム、エチレン・酢酸ビニル共重合体系部分ケン化フィルム等の親水性高分子フィルムが挙げられる。
【0036】
偏光子の厚みは、好ましくは15μm以下であり、より好ましくは1μm~12μmであり、さらに好ましくは3μm~12μmである。偏光子の厚みがこのような範囲であれば、上記のような加湿処理により所望の量の水分を良好に吸収することができる。
【0037】
偏光子は、好ましくは、波長380nm~780nmのいずれかの波長で吸収二色性を示す。偏光子の単体透過率は、例えば41.5%~46.0%であり、好ましくは42.0%~46.0%であり、好ましくは44.5%~46.0%である。偏光子の偏光度は、好ましくは97.0%以上であり、より好ましくは99.0%以上であり、さらに好ましくは99.9%以上である。
【0038】
C-2.保護層
保護層12および保護層13は、それぞれ、偏光子の保護層として使用できる任意の適切なフィルムで形成される。当該フィルムの主成分となる材料の具体例としては、トリアセチルセルロース(TAC)等のセルロース系樹脂や、ポリエステル系、ポリビニルアルコール系、ポリカーボネート系、ポリアミド系、ポリイミド系、ポリエーテルスルホン系、ポリスルホン系、ポリスチレン系、ポリノルボルネン系、ポリオレフィン系、(メタ)アクリル系、アセテート系等の透明樹脂等が挙げられる。好ましくは、保護層12および保護層13は、それぞれTACで構成され得る。このような構成であれば、本発明の実施形態による効果が顕著であり得る。
【0039】
本発明の実施形態の製造方法により得られる位相差層付偏光板は、代表的には画像表示装置の視認側に配置され、保護層12は、その視認側に配置される。したがって、保護層12には、必要に応じて、ハードコート処理、反射防止処理、スティッキング防止処理、アンチグレア処理等の表面処理が施されていてもよい。さらに/あるいは、保護層12には、必要に応じて、偏光サングラスを介して視認する場合の視認性を改善する処理(代表的には、(楕)円偏光機能を付与すること、超高位相差を付与すること)が施されていてもよい。このような処理を施すことにより、偏光サングラス等の偏光レンズを介して表示画面を視認した場合でも、優れた視認性を実現することができる。したがって、位相差層付偏光板は、屋外で用いられ得る画像表示装置にも好適に適用され得る。
【0040】
保護層12の厚みは、好ましくは5μm~80μm、より好ましくは10μm~40μm、さらに好ましくは15μm~35μmである。なお、表面処理が施されている場合、保護層12の厚みは、表面処理層の厚みを含めた厚みである。
【0041】
保護層13は、1つの実施形態においては、光学的に等方性であることが好ましい。本明細書において「光学的に等方性である」とは、面内位相差Re(550)が0nm~10nmであり、厚み方向の位相差Rth(550)が-10nm~+10nmであることをいう。保護層13の厚みは、好ましくは5μm~80μm、より好ましくは10μm~40μm、さらに好ましくは10μm~30μmである。
【0042】
D.位相差層
位相差層20は、上記のとおり、単一層であってもよく2層以上の積層構造を有していてもよい。
【0043】
位相差層20が単一層である場合、位相差層は、1つの実施形態においてはλ/4板として機能し得る。具体的には、位相差層のRe(550)は、好ましくは100nm~180nmであり、より好ましくは110nm~170nmであり、さらに好ましくは110nm~160nmである。位相差層の厚みは、λ/4板の所望の面内位相差が得られるよう調整され得る。位相差層が液晶配向固化層である場合には、その厚みは例えば1.0μm~2.5μmであり得る。本実施形態においては、位相差層の遅相軸と偏光子の吸収軸とのなす角度は、好ましくは40°~50°であり、より好ましくは42°~48°であり、さらに好ましくは44°~46°である。この実施形態においては、位相差層付偏光板は、位相差層20と粘着剤層30との間にnz>nx=nyの屈折率特性を示す位相差層(図示せず)をさらに有していてもよい。位相差層が単一層である場合、位相差層は、好ましくは、位相差値が測定光の波長に応じて大きくなる逆分散波長特性を示す。
【0044】
位相差層は、別の実施形態においてはλ/2板として機能し得る。具体的には、位相差層のRe(550)は、好ましくは200nm~300nmであり、より好ましくは230nm~290nmであり、さらに好ましくは230nm~280nmである。位相差層の厚みは、λ/2板の所望の面内位相差が得られるよう調整され得る。位相差層が液晶配向固化層である場合には、その厚みは例えば2.0μm~4.0μmであり得る。本実施形態においては、位相差層の遅相軸と偏光子の吸収軸とのなす角度は、好ましくは10°~20°であり、より好ましくは12°~18°であり、さらに好ましくは12°~16°である。
【0045】
位相差層20が積層構造を有する場合、位相差層は、代表的には図2に示すように偏光板側から順にH層21とQ層22との2層構造を有する。H層は、代表的にはλ/2板として機能し得、Q層は、代表的にはλ/4板として機能し得る。具体的には、H層のRe(550)は好ましくは200nm~300nmであり、より好ましくは220nm~290nmであり、さらに好ましくは230nm~280nmであり;Q層のRe(550)は、好ましくは100nm~180nmであり、より好ましくは110nm~170nmであり、さらに好ましくは110nm~150nmである。H層の厚みは、λ/2板の所望の面内位相差が得られるよう調整され得る。H層が液晶配向固化層である場合には、その厚みは例えば2.0μm~4.0μmであり得る。Q層の厚みは、λ/4板の所望の面内位相差が得られるよう調整され得る。Q層が液晶配向固化層である場合には、その厚みは例えば1.0μm~2.5μmであり得る。本実施形態においては、H層の遅相軸と偏光子の吸収軸とのなす角度は、好ましくは10°~20°であり、より好ましくは12°~18°であり、さらに好ましくは12°~16°であり;Q層の遅相軸と偏光子の吸収軸とのなす角度は、好ましくは70°~80°であり、より好ましくは72°~78°であり、さらに好ましくは72°~76°である。なお、H層およびQ層の配置順序は逆であってもよく、H層の遅相軸と偏光子の吸収軸とのなす角度およびQ層の遅相軸と偏光子の吸収軸とのなす角度は逆であってもよい。位相差層が積層構造を有する場合、それぞれの層(例えば、H層およびQ層)は、位相差値が測定光の波長に応じて大きくなる逆分散波長特性を示してもよく、位相差値が測定光の波長に応じて小さくなる正の波長分散特性を示してもよく、位相差値が測定光の波長によってもほとんど変化しないフラットな波長分散特性を示してもよい。
【0046】
位相差層(積層構造を有する場合にはそれぞれの層)は、代表的には、屈折率特性がnx>ny=nzの関係を示す。なお、「ny=nz」はnyとnzが完全に等しい場合だけではなく、実質的に等しい場合を包含する。したがって、本発明の効果を損なわない範囲で、ny>nzまたはny<nzとなる場合があり得る。位相差層のNz係数は、好ましくは0.9~1.5であり、より好ましくは0.9~1.3である。
【0047】
位相差層は、代表的には上記のとおり液晶配向固化層である。液晶化合物としては、例えば、液晶相がネマチック相である液晶化合物(ネマチック液晶)が挙げられる。このような液晶化合物として、例えば、液晶ポリマーや液晶モノマーが使用可能である。液晶化合物の液晶性の発現機構は、リオトロピックでもサーモトロピックでもどちらでもよい。液晶ポリマーおよび液晶モノマーは、それぞれ単独で用いてもよく、組み合わせてもよい。
【0048】
液晶化合物が液晶モノマーである場合、当該液晶モノマーは、重合性モノマーおよび架橋性モノマーであることが好ましい。液晶モノマーを重合または架橋(すなわち、硬化)させることにより、液晶モノマーの配向状態を固定できるからである。液晶モノマーを配向させた後に、例えば、液晶モノマー同士を重合または架橋させれば、それによって上記配向状態を固定することができる。ここで、重合によりポリマーが形成され、架橋により3次元網目構造が形成されることとなるが、これらは非液晶性である。したがって、形成された位相差層は、例えば、液晶性化合物に特有の温度変化による液晶相、ガラス相、結晶相への転移が起きることはない。その結果、位相差層は、温度変化に影響されない、極めて安定性に優れた位相差層となる。
【0049】
液晶モノマーが液晶性を示す温度範囲は、その種類に応じて異なる。具体的には、当該温度範囲は、好ましくは40℃~120℃であり、さらに好ましくは50℃~100℃であり、最も好ましくは60℃~90℃である。
【0050】
上記液晶モノマーとしては、任意の適切な液晶モノマーが採用され得る。例えば、特表2002-533742(WO00/37585)、EP358208(US5211877)、EP66137(US4388453)、WO93/22397、EP0261712、DE19504224、DE4408171、およびGB2280445等に記載の重合性メソゲン化合物等が使用できる。このような重合性メソゲン化合物の具体例としては、例えば、BASF社の商品名LC242、Merck社の商品名E7、Wacker-Chem社の商品名LC-Sillicon-CC3767が挙げられる。液晶モノマーとしては、例えばネマチック性液晶モノマーが好ましい。
【実施例
【0051】
以下、実施例によって本発明を具体的に説明するが、本発明はこれら実施例によって限定されるものではない。各特性の測定方法は以下の通りである。なお、特に明記しない限り、実施例および比較例における「部」および「%」は重量基準である。
(1)厚み
10μm以下の厚みは、走査型電子顕微鏡(日本電子社製、製品名「JSM-7100F」)を用いて測定した。10μmを超える厚みは、デジタルマイクロメーター(アンリツ社製、製品名「KC-351C」)を用いて測定した。
(2)反り
実施例および比較例で得られた位相差層付偏光板を、加湿処理前および加湿・保管後のそれぞれについて、140mm×70mmサイズに切り出した。このとき、偏光子の吸収軸方向が長辺方向となるように切り出した。切り出した位相差層付偏光板を平面上に静置した時に、当該平面から最も高い部分の高さを反り量とした。
次に、切り出した位相差層付偏光板を23℃および55%RHの環境下で24時間放置した後の反り量を上記と同様にして測定し、放置前後の反り量の変化から下記の基準で評価した。
○:反り量の変化が±5mm以下
×:反り量の変化が±5mmより大きい
なお、反りが静置面側に凸である場合を「正(+)」、静置面と反対側に凸である場合を「負(-)」で表す。
【0052】
[実施例1]
1.偏光板の作製
厚み30μmのPVA系樹脂フィルムの長尺ロールを、ロール延伸機により総延伸倍率が6.0倍になるようにして長尺方向に一軸延伸しながら、同時に膨潤、染色、架橋および洗浄処理を施し、最後に乾燥処理を施すことにより厚み12μmの偏光子を作製した。得られた偏光子の一方の面に、PVA系接着剤を介してHC-TACフィルムを視認側保護層として貼り合わせた。なお、HC-TACフィルムは、TACフィルム(厚み25μm)にハードコート(HC)層(厚み7μm)が形成されたフィルムであり、TACフィルムが偏光子側となるようにして貼り合わせた。さらに、偏光子のもう一方の面に、PVA系接着剤を介してTACフィルム(厚み25μm)を貼り合わせ、保護層(HC-TACフィルム)/偏光子/保護層(TACフィルム)の構成を有する偏光板を得た。
【0053】
2.位相差層付偏光板の作製
2-1.位相差層の作製
ネマチック液晶相を示す重合性液晶(BASF社製:商品名「Paliocolor LC242」、下記式で表される)10gと、当該重合性液晶化合物に対する光重合開始剤(BASF社製:商品名「イルガキュア907」)3gとを、トルエン40gに溶解して、液晶組成物(塗工液)を調製した。
【化1】
ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム(厚み38μm)表面を、ラビング布を用いてラビングし、配向処理を施した。配向処理の方向は、偏光板に貼り合わせる際に偏光子の吸収軸の方向に対して視認側から見て15°方向となるようにした。この配向処理表面に、上記液晶塗工液をバーコーターにより塗工し、90℃で2分間加熱乾燥することによって液晶化合物を配向させた。このようにして形成された液晶層に、メタルハライドランプを用いて1mJ/cmの光を照射し、当該液晶層を硬化させることによって、PETフィルム上に液晶配向固化層Aを形成した。液晶配向固化層Aの厚みは2.0μm、面内位相差Re(550)は270nmであった。さらに、液晶配向固化層Aは、nx>ny=nzの屈折率特性を示した。液晶配向固化層AをH層として用いた。
塗工厚みを変更したこと、および、配向処理方向を偏光子の吸収軸の方向に対して視認側から見て75°方向となるようにしたこと以外は上記と同様にして、PETフィルム上に液晶配向固化層Bを形成した。液晶配向固化層Bの厚みは1.0μm、面内位相差Re(550)は140nmであった。さらに、液晶配向固化層Bは、nx>ny=nzの屈折率特性を示した。液晶配向固化層BをQ層として用いた。
【0054】
2-2.位相差層付偏光板の作製
上記1.で得られた偏光板のTACフィルム表面に、上記2-1.で得られた液晶配向固化層A(H層)および液晶配向固化層B(Q層)をこの順に転写した。このとき、偏光子の吸収軸と配向固化層Aの遅相軸とのなす角度が15°、偏光子の吸収軸と配向固化層Bの遅相軸とのなす角度が75°になるようにして転写(貼り合わせ)を行った。なお、それぞれの転写(貼り合わせ)は、紫外線硬化型接着剤(厚み1.0μm)を介して行った。このようにして、保護層/接着剤/偏光子/接着剤/保護層/接着剤層/位相差層(H層)/接着剤層/位相差層(Q層)の構成を有する位相差層付偏光板を得た。位相差層付偏光板の総厚みは76μmであり、厚み比は14であった。なお、転写(貼り合わせ)は、ロール搬送しながら行った。さらに、転写(貼り合わせ)は、水蒸気量が9.3g/mの環境下(23℃および45%RH)で行った。
【0055】
3.加湿処理およびロール保管
上記2.で得られた位相差層付偏光板をロール搬送しながら加湿処理に供した。加湿処理は、23℃および80%RH(水蒸気量が16.5g/m)で10分間行った。加湿処理された位相差層付偏光板をロール状に巻き取り、当該ロールを23℃および55%RHで12時間保管した。加湿処理前およびロール保管後の位相差層付偏光板をそれぞれ上記(2)の評価に供した。結果を表1に示す。
【0056】
[実施例2]
1.偏光板の作製
熱可塑性樹脂基材として、長尺状で、Tg約75℃である、非晶質のイソフタル共重合ポリエチレンテレフタレートフィルム(厚み:100μm)を用い、樹脂基材の片面に、コロナ処理を施した。
ポリビニルアルコール(重合度4200、ケン化度99.2モル%)およびアセトアセチル変性PVA(日本合成化学工業社製、商品名「ゴーセファイマー」)を9:1で混合したPVA系樹脂100重量部に、ヨウ化カリウム13重量部を添加したものを水に溶かし、PVA水溶液(塗布液)を調製した。
樹脂基材のコロナ処理面に、上記PVA水溶液を塗布して60℃で乾燥することにより、厚み13μmのPVA系樹脂層を形成し、積層体を作製した。
得られた積層体を、130℃のオーブン内で縦方向(長手方向)に2.4倍に一軸延伸した(空中補助延伸処理)。
次いで、積層体を、液温40℃の不溶化浴(水100重量部に対して、ホウ酸を4重量部配合して得られたホウ酸水溶液)に30秒間浸漬させた(不溶化処理)。
次いで、液温30℃の染色浴(水100重量部に対して、ヨウ素とヨウ化カリウムを1:7の重量比で配合して得られたヨウ素水溶液)に、最終的に得られる偏光子の単体透過率(Ts)が所望の値となるように濃度を調整しながら60秒間浸漬させた(染色処理)。
次いで、液温40℃の架橋浴(水100重量部に対して、ヨウ化カリウムを3重量部配合し、ホウ酸を5重量部配合して得られたホウ酸水溶液)に30秒間浸漬させた(架橋処理)。
その後、積層体を、液温70℃のホウ酸水溶液(ホウ酸濃度4重量%、ヨウ化カリウム濃度5重量%)に浸漬させながら、周速の異なるロール間で縦方向(長手方向)に総延伸倍率が5.5倍となるように一軸延伸を行った(水中延伸処理)。
その後、積層体を液温20℃の洗浄浴(水100重量部に対して、ヨウ化カリウムを4重量部配合して得られた水溶液)に浸漬させた(洗浄処理)。
その後、約90℃に保たれたオーブン中で乾燥しながら、表面温度が約75℃に保たれたSUS製の加熱ロールに接触させた(乾燥収縮処理)。
このようにして、樹脂基材上に厚み約5μmの偏光子を形成し、樹脂基材/偏光子の構成を有する偏光板を得た。
【0057】
さらに、得られた偏光子の表面(樹脂基材とは反対側の面)に、紫外線硬化型接着剤を介して、HC-COPフィルムを視認側保護層として貼り合わせた。なお、HC-COPフィルムは、シクロオレフィン系樹脂(COP)フィルム(厚み25μm)にHC層(厚み2μm)が形成されたフィルムであり、COPフィルムが偏光子側となるようにして貼り合わせた。次いで、樹脂基材を剥離してHC-COPフィルム(視認側保護層)/偏光子の構成を有する偏光板を得た。
【0058】
2.位相差層付偏光板の作製
上記1.で得られた偏光板を用いたこと以外は実施例1と同様にして、保護層/接着剤/偏光子/接着剤層/位相差層(H層)/接着剤層/位相差層(Q層)の構成を有する位相差層付偏光板を得た。位相差層付偏光板の総厚みは38μmであり、厚み比は7であった。
【0059】
3.加湿処理およびロール保管
上記2.で得られた位相差層付偏光板をロール搬送しながら加湿処理に供した。加湿処理は、23℃および60%RH(水蒸気量が12.4g/m)で10分間行った。加湿処理された位相差層付偏光板をロール状に巻き取り、当該ロールを実施例1と同様にして保管した。加湿処理前およびロール保管後の位相差層付偏光板をそれぞれ上記(2)の評価に供した。結果を表1に示す。
【0060】
[実施例3]
位相差層(Q層)を設けなかったこと以外は実施例2と同様にして、保護層/接着剤/偏光子/接着剤層/位相差層(H層)の構成を有する位相差層付偏光板を得た。位相差層付偏光板の総厚みは36μmであり、厚み比は13であった。得られた位相差層付偏光板を実施例2と同様の加湿処理に供し、加湿処理後ロール状に巻き取り実施例1と同様にして保管した。加湿処理前およびロール保管後の位相差層付偏光板をそれぞれ上記(2)の評価に供した。結果を表1に示す。
【0061】
[比較例1]
実施例2と同様の位相差層付偏光板をロール搬送しながら加湿処理に供した。加湿処理は、23℃および45%RH(水蒸気量が9.3g/m)で10分間行った。加湿処理された位相差層付偏光板をロール状に巻き取り、当該ロールを実施例1と同様にして保管した。加湿処理前およびロール保管後の位相差層付偏光板をそれぞれ上記(2)の評価に供した。結果を表1に示す。
【0062】
[比較例2]
実施例2と同様の位相差層付偏光板をロール搬送しながら加湿処理に供した。加湿処理は、60℃および60%RH(水蒸気量が77.9g/m)で10分間行った。加湿処理された位相差層付偏光板をロール状に巻き取り、当該ロールを実施例1と同様にして保管した。加湿処理前およびロール保管後の位相差層付偏光板をそれぞれ上記(2)の評価に供した。結果を表1に示す。
【0063】
[比較例3]
実施例2と同様の位相差層付偏光板をロール搬送しながら加湿処理に供した。加湿処理は、40℃および60%RH(水蒸気量が30.7g/m)で10分間行った。加湿処理された位相差層付偏光板をロール状に巻き取り、当該ロールを実施例1と同様にして保管した。加湿処理前およびロール保管後の位相差層付偏光板をそれぞれ上記(2)の評価に供した。結果を表1に示す。
【0064】
[比較例4]
実施例2と同様にして位相差層付偏光板を作製し、そのままロール状に巻き取った。当該ロールを実施例2と同様にして23℃および60%RHで10分間の加湿処理に供した後、実施例1と同様にして保管した。加湿処理前およびロール保管後の位相差層付偏光板をそれぞれ上記(2)の評価に供した。結果を表1に示す。なお、表1における「巻内」とは、ロールから外周3周を除いた部分をいう(外周3周は廃棄され得る)。加湿処理による水分は外周3周部分で実質的にすべて吸収されるので、ロール内部の重量は変化しない。
【0065】
[参考例1]
厚み60μmのPVA系樹脂フィルムを用いたこと以外は実施例1と同様にして、厚み22μmの偏光子を作製した。得られた偏光子の一方の面にHC層付TACフィルム(厚み71μm)を貼り合わせた。さらに、偏光子のもう一方の面に、逆分散波長依存性を示し、Re(550)が140nmであるポリカーボネート樹脂位相差フィルム(厚み58μm)を貼り合わせた。ここで、位相差フィルムの遅相軸と偏光子の吸収軸とのなす角度が45°となるよう貼り合わせた。このようにして、位相差層付偏光板を得た。位相差層付偏光板の総厚みは151μmであり、厚み比は1.6であった。この位相差層付偏光板を140mm×70mmサイズに切り出し、平面上に静置したところ、反りは認められなかった。
【0066】
[参考例2]
参考例1と同様にして厚み22μmの偏光子を作製した。得られた偏光子の一方の面にHC層付TACフィルム(厚み91μm)を貼り合わせ、もう一方の面にTACフィルム(厚み80μm)を貼り合わせ、偏光板を得た。この偏光板を用いたこと以外は実施例1と同様にして、HC層付TACフィルム/偏光子/TACフィルム/接着剤層/位相差層(H層)/接着剤層/位相差層(Q層)の構成を有する位相差層付偏光板を得た。位相差層付偏光板の総厚みは198μmであり、厚み比は39であった。この位相差層付偏光板を140mm×70mmサイズに切り出し、平面上に静置したところ、反りは認められなかった。
【0067】
【表1】
【0068】
[評価]
表1から明らかなように、本発明の実施例により得られた位相差層付偏光板は、所定の加湿処理およびロール保管を行うことにより、切り出し時の反りおよび反りの経時変化のいずれもが顕著に抑制されていることがわかる。さらに、参考例から明らかなように、このような反りは、総厚みが薄く、かつ、総厚みに対する偏光板の厚みの割合が大きい位相差層付偏光板に特有の課題であることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0069】
本発明の実施形態の製造方法により得られる位相差層付偏光板は、画像表示装置用の位相差層付偏光板として用いられ、特に、湾曲した、あるいは、屈曲、折り畳み、または巻き取り可能な画像表示装置(このような画像表示装置は、代表的には基板として樹脂基板が用いられる)に好適に用いられ得る。画像表示装置としては、代表的には、液晶表示装置、有機EL表示装置、無機EL表示装置が挙げられる。
【符号の説明】
【0070】
10 偏光板
11 偏光子
12 保護層
13 保護層
20 位相差層
21 位相差層(H層)
22 位相差層(Q層)
100 位相差層付偏光板
102 位相差層付偏光板
図1
図2