(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-02-12
(45)【発行日】2025-02-20
(54)【発明の名称】炭酸刺激飲食品用の炭酸感増強剤、香料組成物及び炭酸感が増強された炭酸刺激飲食品
(51)【国際特許分類】
A23L 27/00 20160101AFI20250213BHJP
A23L 27/20 20160101ALI20250213BHJP
A23L 2/00 20060101ALN20250213BHJP
A23L 2/38 20210101ALN20250213BHJP
C12G 3/06 20060101ALN20250213BHJP
【FI】
A23L27/00 Z
A23L27/20 E
A23L2/00 T
A23L2/38 A
A23L2/00 B
C12G3/06
(21)【出願番号】P 2020208012
(22)【出願日】2020-12-16
【審査請求日】2023-11-27
(31)【優先権主張番号】P 2019227815
(32)【優先日】2019-12-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】591011410
【氏名又は名称】小川香料株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100127926
【氏名又は名称】結田 純次
(74)【代理人】
【識別番号】100140132
【氏名又は名称】竹林 則幸
(74)【代理人】
【氏名又は名称】新井 信輔
(72)【発明者】
【氏名】藤田 孝
(72)【発明者】
【氏名】金子 秀
(72)【発明者】
【氏名】畑野 公輔
(72)【発明者】
【氏名】眞田 慎吾
(72)【発明者】
【氏名】足立 謙次
【審査官】斉藤 貴子
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-198025(JP,A)
【文献】特開2016-198026(JP,A)
【文献】特開2018-184507(JP,A)
【文献】特開2021-093962(JP,A)
【文献】特開2010-068749(JP,A)
【文献】国際公開第2016/043021(WO,A1)
【文献】特開2006-166870(JP,A)
【文献】特開2019-041686(JP,A)
【文献】特開2016-158502(JP,A)
【文献】特開2015-047148(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L 27/00-27/20
A23L 2/00-2/84
C12G 3/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ロタンドンを有効成分とすることを特徴とする、炭酸刺激飲食品用の炭酸感増強剤
であって、ロタンドンを炭酸感刺激飲食品に対し1pptから10ppmになるように添加する前記炭酸刺激飲食品用の炭酸感増強剤。
【請求項2】
ロタンドンに加え、スピラントール及び/又はポリゴジアールを有効成分とすることを特徴とする、請求項1に記載の炭酸刺激飲食品用の炭酸感増強剤。
【請求項3】
ロタンドン0.1~1質量部に対して、スピラントールを0.01~20質量部及び/又はポリゴジアールを0.001~20質量部で含有することを特徴とする請求項2に記載の炭酸感増強剤。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか1項に記載の炭酸感増強剤を含有することを特徴とする炭酸感増強用の香料組成物。
【請求項5】
請求項1~3のいずれか1項に記載の炭酸感増強剤を含有する炭酸感増強用の香料組成物であって、当該香料組成物中のロタンドン含有量が0.1ppb~1質量%であることを特徴とする炭酸感増強用の香料組成物。
【請求項6】
請求項1~3のいずれか1項に記載の炭酸感増強剤を含有する炭酸感増強用の香料組成物を製造する工程において、香料組成物中のロタンドン含有量が0.1ppb~1質量%になるようにロタンドンを添加することを特徴とする炭酸感増強用の香料組成物の製造方法。
【請求項7】
請求項1~3のいずれか1項に記載の炭酸感増強剤を含有することを特徴とする炭酸感が増強された炭酸刺激飲食品。
【請求項8】
請求項4又は5に記載の炭酸感増強用の香料組成物を含有することを特徴とする炭酸感が増強された炭酸刺激飲食品。
【請求項9】
ロタンドンの含有量が
1ppt~10ppmであることを特徴とする請求項7又は8に記載の炭酸感が増強された炭酸刺激飲食品。
【請求項10】
炭酸感増強剤としてのロタンドンの含有量が
1ppt~10ppmであり、ロタンドン0.1~1質量部に対して、炭酸感増強剤としてのスピラントールを0.01~20質量部及び/又は炭酸感増強剤としてのポリゴジアールを0.001~20質量部の割合で含有することを特徴とする請求項7又は8に記載の炭酸感が増強された炭酸刺激飲食品。
【請求項11】
炭酸感が増強された炭酸刺激飲食品を製造する工程において、飲食品中のロタンドンが
1ppt~10ppmになるように炭酸感増強剤としてのロタンドンを添加することを特徴とする炭酸感が増強された炭酸刺激飲食品の製造方法。
【請求項12】
炭酸感が増強された炭酸刺激飲食品を製造する工程において、炭酸感増強剤としてのロタンドンの含有量が
飲食品中1ppt~10ppmであり、ロタンドン0.1~1質量部に対して、炭酸感増強剤としてのスピラントールを0.01~20質量部及び/又は炭酸感増強剤としてのポリゴジアールを0.001~20質量部の割合で添加することを特徴とする請求項11に記載の炭酸感が増強された炭酸刺激飲食品の製造方法。
【請求項13】
ロタンドンを有効成分とすることを特徴とする、炭酸刺激飲食品用の炭酸感増強方法
であって、ロタンドンを炭酸感刺激飲食品に対し1pptから10ppmになるように添加する前記炭酸刺激飲食品用の炭酸感増強方法。
【請求項14】
ロタンドンに加え、スピラントール及び/又はポリゴジアールを有効成分とすることを特徴とする、請求項13に記載の炭酸刺激飲食品用の炭酸感増強方法。
【請求項15】
ロタンドン0.1~1質量部に対して、スピラントールを0.01~20質量部及び/又はポリゴジアールを0.001~20質量部の割合で含有することを特徴とする請求項14に記載の炭酸刺激飲食品用の炭酸感増強方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ロタンドンあるいはロンタンドンに加えスピラントール及び/又はポリゴジアールを有効成分として含有する炭酸刺激飲食品の炭酸感増強剤、飲食品の炭酸感増強方法、炭酸感が増強された飲食品の製造方法、炭酸感増強用の香料組成物に関する。
本発明によれば、炭酸飲料などの炭酸刺激飲食品にロタンドンあるいはロンタンドンに加えスピラントール及び/又はポリゴジアールを添加するだけで、これらの炭酸刺激飲食品の炭酸感発現が増強され、結果的に、炭酸刺激飲食品本来のおいしさを増強することができる。
ここで、本発明において、「及び/又は」は、「及び」の場合と「又は」の場合の双方を意味し、例えば、「スピラントール及び/又はポリゴジアール」は「スピラントール又はポリゴジアールから選択される1種以上」と同じ意味である。
【背景技術】
【0002】
炭酸刺激飲食品、例えば、コーラ、サイダー、エナジードリンクなど、炭酸飲料市場を牽引する炭酸飲料は、いずれも強く特徴的な味があり、辛味や苦味などを有する炭酸感増強剤を使用しても、香味に大きな影響がでることはなかった。
しかし、近年、炭酸水のみ、あるいは炭酸水に香料で風味づけをしたフレーバード炭酸飲料のようなミネラルウォーターの代わりに飲める止渇性飲料としての炭酸飲料市場が拡大した。
【0003】
このような炭酸飲料は、500ミリリットルの通常容器以外に、ファミリー向けの大容量、例えば1~2リットル入りペットボトル容器で流通されることも多い。そのため、何度も開栓を繰り返すことで、たとえ冷蔵庫に保管しておいても、開栓当初の炭酸ガス圧を維持できず、いわゆる気の抜けた状態になってしまうことがあった。
また、ペットボトル容器に使用されるペット樹脂の改良により機密性が向上したとはいえ、金属容器のようにガスバリアー性が完全ではなく、製造後消費者に届くまでの流通過程で徐々に炭酸ガス圧が減少し商品価値が損なわれることもある。
そこで、炭酸感の維持のために、容器改良以外の簡便且つ経済的な方法が求められている。
【0004】
流通過程における炭酸ガスの漏れを予め想定して、容器充填時に高いガス圧で製造し出荷することが提案されている。
しかし、果汁含量や固形分の多い飲料に関しては、この方法では、容器充填時に中身の吹き零れが生じる可能性が高まることから、炭酸のガス圧を上げることは困難であり、さらに、容器に充填する速度を下げざるを得ないなど、製造上の課題も指摘されている。
また、従来の容器をそのまま使用してガス圧を高めると、容器の破裂や破損などの安全性の問題が新たに生じ、高圧化に耐える容器の開発が求められる。
【0005】
さらに、炭酸刺激感を求める菓子等の固形食品についても、より強力な刺激を求める消費者の要望があり、炭酸ガスの高圧化では全ての炭酸刺激飲食品に対応できない。
そこで、容器の改良とは別に、微量の添加で炭酸刺激飲食品の炭酸感だけを増強できるような炭酸感増強剤の開発が期待され、これまでにも多くの炭酸感増強剤が提案されている。
【0006】
例えば、カプシカム抽出物、ペッパー抽出物、ジンジャー抽出物及びそれに含有される辛味成分を有効成分とする炭酸感増強剤(特許文献1);苦み成分であるカフェイン、ク
ワシン、ナリンジンを有効成分とする炭酸感を増強する方法(特許文献2);香辛料抽出物であるスターアニス抽出物を有効成分とする炭酸感強化剤(特許文献3);濁度のある炭酸飲料に難消化性デキストリンを添加して炭酸感を増強する方法(特許文献4)が提案されている。
【0007】
さらに、メジアン径で300μm以下の増粘安定剤の微細なゲルを有効成分とする炭酸感付与剤(特許文献5);特徴的な香気を有する3-ヘプテン-2-オン(グリーン)、3-オクテン-2-オン(アーシィ)、3-ノネン-2-オン(フルーティ)、3-デセン-2-オン(ファッティ)を有効成分とする炭酸感増強剤(特許文献6);スピラントール又はスピラントールを含有する植物抽出物を有効成分とする炭酸飲料用添加剤(特許文献7);ポリゴジアールを含有する炭酸感増強剤(特許文献8)などが提案されている。
【0008】
しかし、上記の提案は、炭酸感増強作用を発揮するものの、炭酸感増強成分それ自体の性質(例えば刺激性のある味、苦みがあること、飲食品の物性を変える成分であること、特徴的な香りを持つことなど)が飲食品に影響をもたらすという問題点が未解決のまま残されている。
そこで、飲食品自体の香味に悪影響を与えず、炭酸感だけを増強できる添加剤を求めて、さらなる改良技術が要求されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特開2010-68749号公報
【文献】特開2017-104046号公報
【文献】特開2015-173631号公報
【文献】特開2016-220682号公報
【文献】特開2013-121323号公報
【文献】特開2019-62867号公報
【文献】特開2006-166870号公報
【文献】特開2020-120623号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明が解決しようとする課題は、炭酸刺激飲食品が本来有している香味、もしくは商品設計時の好ましい香味を維持したまま、炭酸感だけを増強する、もしくは炭酸感を維持するための炭酸感増強剤、炭酸刺激飲食品に当該炭酸感増強剤を添加することにより炭酸感の発現を改善する方法及び当該炭酸感増強剤により炭酸感の発現が向上した炭酸刺激飲食品、並びに、炭酸感増強用の香料組成物を提供することである。
【0011】
本技術によれば、炭酸刺激飲食品、例えば、炭酸水、炭酸入り清涼飲料水、様々な香味バリエーションの炭酸入り清涼飲料水、炭酸入りアルコール飲料チューハイ、ハイボール等)などの炭酸感増強、炭酸感維持に広く適用することができる。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、炭酸刺激飲食品にロタンドンあるいはロタンドンに加え、スピラントール又はポリゴジアールから選択される1種以上を添加するだけで、炭酸刺激飲食品の香味を大きく変更することなく、簡便に炭酸感の発現を向上させることを見出し、本発明の完成に至った。
【0013】
すなわち本発明は、以下に示すとおりである。
〔1〕ロタンドンを有効成分とすることを特徴とする、炭酸刺激飲食品用の炭酸感増強剤。
〔2〕ロタンドンに加え、スピラントール及び/又はポリゴジアールを有効成分とすることを特徴とする、上記1に記載の炭酸刺激飲食品用の炭酸感増強剤。
〔3〕ロタンドン0.1~1質量部に対して、スピラントールを0.01~20質量部及び/又はポリゴジアールを0.001~20質量部で含有することを特徴とする上記2に記載の炭酸感増強剤。
【0014】
〔4〕上記1~3のいずれかに記載の炭酸感増強剤を含有することを特徴とする炭酸感増強用の香料組成物。
〔5〕上記1~3のいずれかに記載の炭酸感増強剤を含有する炭酸感増強用の香料組成物であって、当該香料組成物中のロタンドン含有量が0.1ppb~1質量%であることを特徴とする炭酸感増強用の香料組成物。
〔6〕上記1~3のいずれかに記載の炭酸感増強剤を含有する炭酸感増強用の香料組成物を製造する工程において、香料組成物中のロタンドン含有量が0.1ppb~1質量%になるようにロタンドンを添加することを特徴とする炭酸感増強用の香料組成物の製造方法。
【0015】
〔7〕上記1~3のいずれかに記載の炭酸感増強剤を含有することを特徴とする炭酸感が増強された炭酸刺激飲食品。
〔8〕上記4又は5に記載の炭酸感増強用の香料組成物を含有することを特徴とする炭酸感が増強された炭酸刺激飲食品。
〔9〕ロタンドンの含有量が0.1ppt~10ppmであることを特徴とする上記7又は8に記載の炭酸感が増強された炭酸刺激飲食品。
【0016】
〔10〕炭酸感増強剤としてのロタンドンの含有量が0.1ppt~10ppmであり、ロタンドン0.1~1質量部に対して、炭酸感増強剤としてのスピラントールを0.01~20質量部及び/又は炭酸感増強剤としてのポリゴジアールを0.001~20質量部の割合で含有することを特徴とする上記7又は8に記載の炭酸感が増強された炭酸刺激飲食品。
〔11〕炭酸感が増強された炭酸刺激飲食品を製造する工程において、飲食品中のロタンドンが0.1ppt~10ppmになるように炭酸感増強剤としてのロタンドンを添加することを特徴とする炭酸感が増強された炭酸刺激飲食品の製造方法。
〔12〕炭酸感が増強された炭酸刺激飲食品を製造する工程において、炭酸感増強剤としてのロタンドンの含有量が0.1ppt~10ppmであり、ロタンドン0.1~1質量部に対して、炭酸感増強剤としてのスピラントールを0.01~20質量部及び/又は炭酸感増強剤としてのポリゴジアールを0.001~20質量部の割合で添加することを特徴とする上記11に記載の炭酸感が増強された炭酸刺激飲食品の製造方法。
【0017】
〔13〕ロタンドンを有効成分とすることを特徴とする、炭酸刺激飲食品用の炭酸感増強方法。
〔14〕ロタンドンに加え、スピラントール及び/又はポリゴジアールを有効成分とすることを特徴とする、上記13に記載の炭酸刺激飲食品用の炭酸感増強方法。
〔15〕ロタンドン0.1~1質量部に対して、スピラントールを0.01~20質量部及び/又はポリゴジアールを0.001~20質量部の割合で含有することを特徴とする上記14に記載の炭酸刺激飲食品用の炭酸感増強方法。
【発明の効果】
【0018】
本発明のロタンドンを有効成分とする炭酸感増強剤は、炭酸飲料をはじめとする炭酸刺激飲食品の香味に影響を与えず、炭酸感だけを増強若しくは付与できる炭酸感増強剤を提
供する。
また、ロタンドンに加えて、スピラントール及び/又はポリゴジアールを併用することによって、ポリゴジアールの特徴(飲用時の早い段階から強い炭酸感を発現し、即時的な炭酸感増強効果)及び/又はスピラントールの特徴(ポリゴジアールよりも炭酸感増強効果の発現が遅く、炭酸飲料を口に含んだ後の持続的な炭酸感やのど越しを増強する効果)を兼ね備え、炭酸感増強がさらに向上した増強剤を提供できる。
【0019】
本発明の炭酸感増強剤は、炭酸飲料に含まれる炭酸によってもたらされる、あるいは炭酸刺激食品を口腔内に入れてから発生する炭酸ガスによる炭酸感あるいは炭酸刺激感(炭酸刺激飲食品を飲用又は食する際に感じられる特有の爽快で刺激的な感覚)を増強することによって、強烈な炭酸刺激感を付与し、あるいは炭酸ガスの容器からの透過や開栓後の脱気による「気の抜けた」状態を補完して商品設計又は製造時の本来の炭酸感を取り戻すことができる。
【0020】
しかも、炭酸感増強方法において、炭酸感増強有効成分それ自体に刺激性のある味や苦みがあること、飲食品の物性を変える成分であること、特徴的な香りを持つことなどの従来技術における問題点を解決し、飲食品自体の香味に悪影響を及ばさず、炭酸感だけを増強できる。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下に本発明を詳細に記載する。
〔1〕炭酸感増強剤
(1)ロタンドン
本発明の炭酸感増強剤の必須有効成分であるロタンドン(Rotundone;CAS 18374-76-0)は、下記の構造で表され、一般名は(3S,5R,8S)-5-イソプロペニル-3,8-ジメチル-3,4,5,6,7,8-ヘキサヒドロ-1(2H)-アズレノンである。
【化1】
【0022】
ロタンドンは、植物のローズマリー、マジョラム、コショウ、ブドウに含まれる微量成分の一つであることが知られており、スパイシー、コショウ様の特異な香気を有する成分である。
また、天然物以外にJ. Agric. Food Chem., 65, 4464-4471 (2017)に記載されるように、グアイオール(guaiol;CAS 489-86-1)を原料とするロタンドンの合成方法が知られている。
【0023】
本発明の炭酸感増強剤において、上記ロタンドンに加え、さらにポリゴジアール及び/又はスピラントールを用いることができる。
(2)ポリゴジアール
ポリゴジアールは、飲用時の早い段階から強い炭酸感を発現し、即時的な炭酸感増強効果がある。そのため、ロタンドンに加えてポリゴジアールを併用することにより、炭酸感
増強効果をいっそう向上させることができる。
本発明で用いるポリゴジアール(Polygodial、IUPAC名(1R,4aS,8aS)-5,5,8a-Trimethyl-1,4,4a,6,7,8-hexahydronaphthalene-1,2-dicarboxaldehyde)は、分子式C
15H
22O
2、分子量234.33、融点57℃の化合物であり、以下の構造を有するジテルペンアルデヒドである。
【化2】
【0024】
ポリゴジアールは、植物のヤナギタデやマウンテンペッパーの刺激成分として知られている。
本発明で使用するポリゴジアールは、化学的な手法で合成された合成品の他、動植物から抽出されたものであってもよい。本発明ではいずれの方法により得られたポリゴジアールであっても使用でき、また、本発明の効果が得られる限り、純度が高いものである必要はない。
飲食品の香味に影響を与えない限り、ポリゴジアールを含有する植物の抽出物や精油等を精製することなく使用してもよい。
【0025】
ポリゴジアールを含む植物としては、ヤナギタデ(Persicaria hydropiper、別名:ウォーターペッパー)、マウンテンペッパー(Polygonum punctatum var.punctatum)、シダ植物であるBlechnum fluviatile、同Thelypteris hispidula、コケ植物であるPorella vernicosaの仲間が知られている。
【0026】
また、動物としては、ウミウシ類に属するDendrodoris limbata、Doriopsilla pharpaもポリゴジアールを含有することが報告されている。
飲食品に使用する場合、安全性の観点からは食経験のある植物から得られる抽出物又は精油を使用することが好ましく、ヤナギタデ、マウンテンペッパーの抽出物又は精油を使用するのが特に好ましい。
【0027】
ヤナギタデの抽出によるポリゴジアールの採取法を例示すると、抽出溶剤によってヤナギタデの葉(子葉も含む)、茎、及び種子から抽出した液を蒸留してポリゴジアールを含む留分を得る方法が挙げられる。
ヤナギタデの抽出処理に使用する抽出溶剤は、水、アルコール類(例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノールなどの炭素数1~3の低級アルコール)、アセトン、酢酸エチルなどをそれぞれ単独あるいは任意の2種類以上の混液として使用することができる。
抽出溶剤の中でも、抽出率、価格、作業の安全性などから、水、エタノール、アセトン、酢酸エチルを単独あるいは任意の2種類以上の混液として使用することが好適であり、酢酸エチルやエタノールが特に好ましい。
【0028】
抽出溶剤の量は特に制限はなく目的に応じ適宜調整できるが、ヤナギタデ100質量部
に対し、300~3000質量部、より好ましくは500~2000質量部が用いられる。
抽出温度は、通常は0~100℃、好ましくは20~50℃、より好ましくは30~40℃で行われる。
抽出時間は、抽出する温度にも依存するが、通常は30分~5時間、好ましくは1~2時間で行われる。
得られた抽出液を、ろ紙などを用いて固液分離して、ポリゴジアールを含む粗抽出液を得る。
【0029】
粗抽出液は、そのまま蒸留工程を行うことができるが、抽出溶剤を留去して濃縮液とすることが好ましい。また、粗抽出液は、抽出溶剤を留去する前に液-液分配抽出により、有効成分であるポリゴジアールを低極性側の溶剤に抽出する、又は高極性の夾雑成分を高極性側の溶剤に抽出することで、高極性の夾雑成分を除去することもできる。
【0030】
液-液分配抽出を行う場合は、粗抽出液と混ざり合わない溶剤を粗抽出液100質量部に対し50~200質量部添加して行う。例えば、抽出溶剤が酢酸エチルであった場合には、水、又は水とアルコール類の混液などを用いることができ、抽出溶剤が水、又は水とアルコール類の混液であった場合には、酢酸エチル、ヘキサン、ヘプタンなどを用いることができる。
【0031】
ヤナギタデ濃縮液を蒸留することにより、ポリゴジアールを含有する留分を得る。
蒸留工程は公知の蒸留設備を用いることができる。具体的には、単蒸留、精留、フラッシュ蒸留、短工程蒸留などが挙げられる。
蒸発温度は、150℃を超えるとポリゴジアールが分解してしまい、著しい収率の低下をきたすことから、150℃以下で留出することが必要であり、好ましくは140℃以下、より好ましくは130℃以下であり、さらに好ましくは120℃以下で留出させることが望ましい。そのため油回転ポンプ、メカニカルブースターポンプ、拡散ポンプなどの公知の真空ポンプを用いて減圧下で行う必要がある。
【0032】
装置が大型化すると留出に必要な熱量が増大し、有効成分の分解やエネルギー効率悪化などの問題があるため、短工程蒸留が最も好ましく、遠心薄膜式や流下薄膜式の装置を用いることができる。
蒸留時の減圧度は、150℃以下でポリゴジアールが留出する圧力であれば限定されないが、より低圧で蒸留することが望ましく、一般的には300Pa以下、好ましくは200Pa以下、より好ましくは100Pa以下、特に好ましくは50Pa以下である。
【0033】
ヤナギタデ抽出物中のポリゴジアールは含有量が非常に低いため、留分を凝縮させる冷却部に付着して回収率が低下する場合があり、必要に応じて溶剤を用いて冷却部に付着した留分を回収することもできる。
使用できる溶剤に制限はなく、価格、安全性、取扱いのしやすさや用途などから適宜選択することができる。
【0034】
例えば、水、エタノール、1,3-ブチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、グリセリン、ジグリセリン、1,2-ペンタンジオール、1,3-プロパンジオール、中鎖脂肪酸エステル、トリアセチン、トリエチルシトレートなどが好適であり、ヤナギタデ抽出物を水溶性製剤として得る場合は、エタノールやその含水物、脂溶性製剤として得る場合には中鎖脂肪酸エステル(構成脂肪酸の炭素数5~炭素数12の中鎖脂肪酸トリグリセライド)などが特に好適である。
【0035】
使用する蒸留装置によっては、冷却部に付着した留分を溶剤で回収できない、又は煩雑
な操作が必要で回収が困難な場合があるため、蒸留工程において、蒸留前のヤナギタデ抽出液にあらかじめ補助溶剤を添加しておくことが好ましい。
補助溶剤を含有するヤナギタデ抽出液を蒸留することで留分の量が増加し、溶剤を使った回収操作を行うことなく、効率的にポリゴジアールを含有する留分を回収することができる。
【0036】
使用する補助溶剤の種類や量は、価格、安全性、取扱いのしやすさや用途などから目的に応じて適宜選択することができるが、ポリゴジアールと同等の沸点であることが好ましく、大気圧下(1気圧)における沸点が180℃以上であり、より好ましくは200℃以上であり、また、700℃以下の溶剤が好ましく、600℃以下がより好ましい。
使用する補助溶剤の沸点が180℃以下であると、冷却管での補助溶剤の回収効率が悪く、700℃以上であると補助溶剤がほとんど蒸留されないため不適である。
【0037】
補助溶剤の例としては、グリセリン(大気圧下(1気圧)での沸点。以下同じ:290℃)、プロピレングリコール(188℃)、ジプロピレングリコール(232℃)、中鎖脂肪酸エステル(構成脂肪酸の炭素数5~炭素数12の中鎖脂肪酸トリグリセライド)(370~670℃)、トリアセチン(260℃)、トリエチルシトレート(294℃)などが好適である。
ヤナギタデ抽出物を水溶性製剤として得る場合はグリセリン、プロピレングリコール、トリエチルシトレート又はその混合物が特に好ましく、脂溶性製剤として得る場合には中鎖脂肪酸エステル(構成脂肪酸の炭素数5~炭素数10の中鎖脂肪酸トリグリセライド)が特に好ましい。
【0038】
補助溶剤は、蒸留前であればどの工程で添加してもよいが、抽出前に添加するか、粗抽出液から抽出溶剤を留去させる前に添加することが望ましい。
補助溶剤の量に特に制限はなく目的に応じ適宜調整できるが、抽出原料として用いるヤナギタデ100質量部に対し、10~500質量部、より好ましくは50~200質量部が用いられる。
補助溶剤を抽出前又は粗抽出液から抽出溶剤を留去させる前に添加する場合には、補助溶剤が留去しない条件で抽出溶剤を留去する。
【0039】
(3)スピラントール
スピラントールは、ポリゴジアールよりも炭酸感増強効果の発現が遅く、炭酸飲料を口に含んだ後の持続的な炭酸感やのど越しを増強する効果がある。
そこで、ロタンドンに加えてスピラントールを併用することにより、炭酸感増強効果をいっそう向上させることができる。
【0040】
本発明で用いるスピラントール(Spilanthol、IUPAC名(2E,6Z,8E)-N-Isobutyl-2,6,8-decatrienamide)は、分子式C
14H
23NO、分子量221.34、融点23℃の化合物であり、以下の構造を有する脂肪酸アミドである。
【化3】
【0041】
本発明で使用するスピラントールは、化学的な手法で合成された合成品の他、動植物から抽出されたものでもよい。
本発明ではいずれの方法により得られたスピラントールであっても使用でき、また、本発明の効果が得られる限り、純度が高いものである必要はない。
飲食品の香味に影響を与えない限り、スピラントールを含有する植物の抽出物や精油等を精製することなく使用してもよい。
【0042】
飲食品に使用する場合,安全性の観点からは食経験のある植物から得られる抽出物又は精油を使用することが好ましく、また、供給、価格等の実用性の観点から、スピラントール含量の多いオランダセンニチ(Spilanthes acmella)又はキバナオランダセンニチ(Spilanthes acmella var. oleracea)の抽出物又は精油を使用するのが特に好ましい。
【0043】
スピラントールの抽出法を例示すると、オランダセンニチ又はキバナオランダセンニチの花頭を乾燥・粉砕した後、有機溶媒で抽出してスピラントールを含有する抽出液を得る方法が挙げられる。
抽出に使用する有機溶媒は特に制限はなく、メタノール、エタノール、プロパノール、プロピレングリコール等のアルコール類、アセトン等のケトン類、酢酸エチル等のエステル類、ジエチルエーテル等のエーテル類、ヘキサン、ヘプタン等の炭化水素類を適宜単独で、又は混合して使用することができる。
中でも、アルコール類のような極性有機溶媒が好ましく、安全性の観点から特にエタノールが好ましい。得られた抽出液から溶媒を留去し、スピラントール含有抽出物が得られる。
【0044】
(4)炭酸感増強剤における有効成分の配合割合
ロタンドンを単独で使用する場合は、炭酸刺激飲食品中に好ましくは0.1ppt~10ppm、さらに好ましくは1ppt~5ppm、特に好ましくは1ppt~1ppm、殊更好ましくは5ppt~100ppbである。
【0045】
炭酸感増強剤において、ロタンドンと、ポリゴジアール又はスピラントールのいずれかとを配合する二成分併用時の配合割合は以下のとおりである。
ロタンドン0.1~1質量部に対して、ポリゴジアールを0.001~20質量部、好ましくはポリゴジアールを0.01~20質量部、より好ましくはポリゴジアールを0.1~20質量部の割合である。ここで、ロタンドン1質量部を基準として言い換えると、ポリゴジアールを0.001~20質量部、好ましくはポリゴジアールを0.01~20質量部、より好ましくはポリゴジアールを0.1~20質量部の割合である。
【0046】
また、ロタンドン0.1~1質量部に対して、スピラントールを0.01~20質量部、好ましくはスピラントールを0.1~20質量部、より好ましくはスピラントールを0.5~20質量部の割合である。ここで、ロタンドン1質量部を基準として言い換えると、スピラントールを0.01~50質量部、好ましくはスピラントールを0.1~50質量部、より好ましくはスピラントールを0.1~20質量部の割合である。
【0047】
さらに、炭酸感増強剤において、ロタンドン、ポリゴジアール及びスピラントール三成分を併用する場合の割合は、ロタンドン0.1~1.0質量部に対して、ポリゴジアールを0.001~20質量部、スピラントールを0.01~20質量部、好ましくはポリゴジアールを0.01~20質量部、スピラントールを0.1~20質量部、より好ましくはポリゴジアールを0.1~20質量部、スピラントールを0.5~20質量部である。ここで、ロタンドン1質量部を基準として言い換えると、ロタンドン1質量部に対して、ポリゴジアールを0.001~20質量部、スピラントールを0.01~50質量部、好ましくはポリゴジアールを0.01~20質量部、スピラントールを0.1~50質量部、より好ましくはスピラントールを0.1~20質量部、好ましくはポリゴジアールを0.1~20質量部である。
【0048】
本発明の炭酸感増強剤は、上記有効成分を溶媒に溶解させて調製する。
炭酸感増強剤の調製に使用する溶媒は、特に限定されるものではないが、水、エタノール、プロパノール、ブタノールなどの脂肪族アルコール、グリセリン、プロピレングリコールなどの多価アルコールの他、トリアセチン、トリエチルシトレート、食用油脂、中鎖脂肪酸トリグリセリドなどを、単独又は混合して使用することができる。
【0049】
本発明の炭酸感増強剤は、添加する対象の飲食品の形態に応じて適宜、剤形を変えて使用することができる。例えば、乳化剤を利用して乳化組成物として、又、賦形剤を利用して粉末として飲食品に添加することができる。
また、本発明の炭酸感増強剤は、飲食品製造における各工程で常法に従い、適宜添加することができる。
【0050】
〔2〕炭酸感増強用の香料組成物
本発明の炭酸感増強剤と各種の飲食品用香料と組み合わせ、炭酸感増強剤を含有する炭酸感増強用香料組成物として、炭酸刺激飲食品に適用することができる。
組み合わせる香料として、例えば、「特許庁公報 周知慣用技術集(香料) 第II部 食品用香料」(平成12(2000)年1月14日発行、日本国特許庁)等に記載された香料原料(精油、エッセンス、コンクリート、アブソリュート、エキストラクト、オレオレジン、レジノイド、回収フレーバー、炭酸ガス抽出精油、合成香料)、各種植物エキス、酸化防止剤等が例示される。
本発明の炭酸感増強用香料組成物は、添加する対象の飲食品の形態に応じて適宜、剤形を変えて使用することができる。例えば、乳化剤を利用して乳化組成物として、又、賦形剤を利用して粉末として飲食品に添加することができる。
【0051】
炭酸感増強用の香料組成物におけるロタンドンの含有量は、0.1ppb~1質量%、好ましくは1ppb~0.5質量%、より好ましくは1ppb~0.1質量%、さらに好ましくは5ppb~100ppmである。
含有量が0.1ppb未満では炭酸感増強効果が発揮できず、一方、1質量%を超えると異味がわずかに感じられ飲食品本来の香味特徴が損なわれる恐れがあるからである。
【0052】
また、ロタンドンに加えスピラントール又はポリゴジアールを併用する二成分系の場合は、香料組成物中のロタンドン0.1~1質量部に対して、スピラントールを0.01~20質量部、ポリゴジアールを0.001~20質量部の割合である。ここでロタンドン1質量部を基準として言い換えると、スピラントールを0.01~50質量部、ポリゴジアールを0.001~20質量部で使用する。
【0053】
また、ロタンドン、スピラントール及びポリゴジアールを併用する三成分系の場合は、香料組成物中のロタンドン0.1~1質量部に対して、スピラントールを0.01~20質量部、ポリゴジアールを0.001~20質量部の割合である。ここでロタンドン1質量部を基準として言い換えると、ロタンドン1質量部に対して、スピラントールを0.01~50質量部、ポリゴジアールを0.001~20質量部で使用する。
【0054】
本発明の香料組成物は、レモンやグレープフルーツなどの果汁風味、コーラ風味、ビール風味などのベース香料に、ロタンドン、スピラントール、ポリゴジアールを添加することで調製される。さらに、これらの香料組成物は、飲食品組成物に対して、0.01~1%になるように添加されることが好ましい。
【0055】
〔3〕炭酸刺激飲食品
炭酸刺激飲食品とは、炭酸特有の刺激を呈する飲食物であれば特に限定は無く、炭酸飲
料、炭酸入りアルコール飲料のほか、炭酸刺激性(感)が付与された冷菓、キャンディ、ゼリー、グミ、錠菓、チュイーンガムなどを例示することができる。
非飲料の固型食品の態様では重曹(炭酸水素ナトリウム)と酸味料(クエン酸など)を共存させておき、口腔内で両成分が溶ける際に炭酸ガスが発生することで特有の発泡感を呈する食品(サイダー、ラムネ風の錠菓子など)、内部の空洞に炭酸ガスを封入したキャンディなどを例示することができる。
【0056】
炭酸飲料とは「炭酸飲料品質表示基準」(平成12年12月19日農林水産省告示第1682号)では、飲用に適した水に二酸化炭素を圧入したもの、及び、これに甘味料、酸味料、フレーバリング等を加えたものをいうが、本発明においてはさらに炭酸入りアルコール飲料も炭酸飲料に含まれる。
【0057】
炭酸飲料の具体例は、以下のとおりであるが、これらに限定されるものではない。
(1)非アルコール系炭酸飲料
炭酸入りナチュラルミネラルウォーター、炭酸水(ソーダ水)、トニックウォーター;レモン、レモンライム、ライム、オレンジ、グレープフルーツ、グレープ、アップル等の香味を付与した炭酸飲料(サイダー、ラムネ、クリームソーダ等);ジンジャエール、コーラ、ガラナ飲料等の炭酸飲料、果汁入り炭酸飲料、乳類入り炭酸飲料、ビール風味のノンアルコール炭酸飲料、シャンパン風味のノンアルコール炭酸飲料、缶チューハイ風味のノンアルコール炭酸飲料、ハイボール風味のノンアルコール炭酸飲料;エナジードリンク等の炭酸入り栄養ドリンク、炭酸入りコーヒー、炭酸入り紅茶、ルートビア、メッコールなどが挙げられる。
【0058】
(2)アルコール系の炭酸飲料
焼酎、ウイスキー、ジン、ウォッカ、テキーラ等の蒸留酒を炭酸水で割った酒類(例えば、缶チューハイ、サワー、ハイボール、カンパリソーダ等);スパークリングワイン(発泡性ワイン)、発泡日本酒、クワス;ビール、発泡酒、ビール風味の発泡アルコール飲料、などが挙げられる。
【0059】
本発明の炭酸感増強剤は、上記の炭酸飲料に含まれる炭酸によってもたらされる炭酸感あるいは炭酸刺激食品を口腔内に入れて発生する炭酸ガスによる炭酸刺激感を増強することによって、強烈な炭酸刺激感を付与し、あるいは炭酸ガスの容器からの透過や開栓後の脱気による「気の抜けた」状態を補完して本来の炭酸感を取り戻すことができる。
ここで、炭酸感とは、炭酸飲料を飲用する際に感じられる特有の爽快で刺激的な感覚を意味する。
【0060】
炭酸飲料においては、容器中において炭酸ガスが加圧により飲料に溶解しているが、開栓して常圧に戻るときに溶け込んでいた二酸化炭素が飲料からガス状の炭酸ガスの気泡となって発生する。
ヒトが感じる炭酸感は口腔内でその気泡がはじける際に舌の感覚細胞の圧覚又は痛覚を刺激して、独特のシュワシュワした感覚を生じさせるという説があり、飲料の味にも影響を与える感覚であるとも考えられている。
【0061】
また、溶存する二酸化炭素が味覚や体性感覚を刺激することで、我々が炭酸感と感じる感覚が誘起されるとする説もある。
炭酸感は、甘味、苦味のように感覚受容器やその作用機構の研究が進んでいる感覚に比べて、正確な科学的根拠はいまだ明らかにされておらず、一義的な定義も困難である。従って、炭酸感増強効果の評価についても、専門パネリストによる官能評価に頼らざるを得ないのが現状である。
【0062】
炭酸感が増強された炭酸刺激飲食品を提供するためには、炭酸感が増強された炭酸刺激飲食品を製造する工程において、飲食品の種類にもよるが、総じて飲食品中のロタンドンが0.1ppt~10ppm、好ましくは1ppt~5ppm、より好ましくは1ppt~1ppm、さらに好ましくは5ppt~100ppbになるように炭酸感増強剤又は炭酸感増強用の香料組成物を添加する。
【0063】
添加量が0.1ppt未満では炭酸感増強効果が発揮できず、一方、10ppmを超えると異味の発生により飲食品本来の香味特徴が損なわれる恐れがあるからである。
ロタンドンに加えスピラントール又はポリゴジアールから選択される1種以上が併用された炭酸感増強剤又は炭酸感増強用香料組成物の場合、炭酸刺激飲食品に対する添加量は0.01~1%が好ましい。
【実施例】
【0064】
〔製造例1〕(ロタンドンの調製)
ロタンドン(下記化合物1)は、グアイオール(下記化合物2)を原料として、J. Agric. Food Chem., 65, 4464-4471 (2017)に記載された以下の方法で合成した。なお、原料のグアイオールは市販の試薬を使用した。
【化4】
【0065】
得られたロタンドンをトリアセチンで希釈することにより、10質量%のロタンドン溶液を作成した。
得られた10質量%のロタンドン溶液を95(v/v)%エタノール水溶液で希釈することで、ロタンドンの濃度が0.1ppb~1質量%である炭酸感増強剤を作成した。
【0066】
〔製造例2〕(ポリゴジアールの調製)
マウンテンペッパーオイル(ESSENTIAL OILS OF TASMANIA PTY LTD製、ポリゴジアール含量20%)を蒸留して精製した。
【0067】
〔製造例3〕(スピラントールの調製)
オランダセンニチの花頭乾燥品300gを95容量%エタノール3200gで1時間還流抽出した。抽出液を冷却し固液分離した後、珪藻土を加えろ過した。濾液を減圧濃縮によりエタノールを留去後、水300gを加え、ヘキサン300mlで3回抽出した。抽出したヘキサン層を合わせ減圧濃縮によりヘキサンを留去し粗抽出物8.4gを得た。収率2.8%(スピラントール含量9.5%)。
【0068】
粗抽出物8.4gをシリカゲルカラムクロマトグラフィー(シリカゲル200g、Φ5c
m)により分画(n-ヘキサン:酢酸エチル=8:2で溶出)し、スピラントール画分(Rf値=0.2~0.3:n-ヘキサン:酢酸エチル=7:3)を分取し、溶剤を減圧下留去することにより、2.76gの粗スピラントール画分1を得た。続いてその粗スピラントール画分1を減圧下(0.1mmHg)でクーゲルロー蒸留装置を用いて単蒸留精製(180℃)し、0.98gの粗スピラントール画分2を得た。収率0.33%(スピラントール含量41.9%)。
【0069】
さらにその粗スピラントール画分20.98gをシリカゲルカラムクロマトグラフィー(シリカゲル200g、Φ5cm)により分画(n-ヘキサン:酢酸エチル=95:5~90:10で溶出)し、スピラントール画分(Rf値=0.2:n-ヘキサン:酢酸エチル=7:3)を分取し、溶剤を減圧下留去することにより、精製スピラントール0.52gを得た。収率0.17%。スピラントール含量98質量%。スピラントールの構造はプロトン及びカーボン13NMRを測定し既知の文献データと比較することにより確認した。
この精製スピラントール0.104gを50質量%のエタノール溶液2000gで希釈し、スピラントール濃度50ppm(w/w)の精製スピラントール溶液を調製した。
【0070】
〔比較試験例〕(ピペリンとロタンドンの比較評価)
従来技術の特許文献1は、トウガラシやコショウ(ペッパー)など香辛料に含まれるカプサイシン、ピペリン等の辛味物質が炭酸感増強作用を示すことに着目した発明であり、ペッパーにおける辛味物質として、ピペリン、シャビシン、イソピペリン、イソシャビシン、ピペリリン、ピペレッティン、ピペラニン、ピペロレインA 、ピペロレインBが挙げられている(ただし、ロタンドンの記載はない)。
【0071】
そこで、従来技術の有効成分のピペリンと本発明の有効成分のロタンドンにおける炭酸感増強効果の発現態様を比較した。
なお、炭酸感増強効果のあるペッパーの辛味成分の主成分であるピペリンはペッパー中に32000~62000ppm含有され、ロタンドンは、ペッパー中に、1.2~2.0ppmで含有される。つまり、ロタンドンは、ピペリンのおよそ1/30000程度のごく微量しか含まれていない。
【0072】
〔試験例1〕(炭酸水)
市販の炭酸水(原料:水、炭酸)に、ピペリン(東京化成工業株式会社製)と、上記製造例1で製造したロタンドンを所定の濃度になるようにそれぞれ混合し、表1(1)の評価基準で、熟練したパネリスト4名にて官能評価を行った。なお、表1(3)の香味の改善効果は、4名のパネリストの平均点で示した。
【0073】
炭酸感増強効果が知られているペッパーの辛味成分の主成分であるピペリンは炭酸感増強効果はあるが辛味が伴うため、辛味を感じないで炭酸感だけを増強することができなかった、また、辛味のない添加濃度では満足のいく炭酸感増強効果を得ることができなかった。
一方、ロタンドンは、添加濃度が高くなるとウッディー香やスパイシー香が感じられたが、辛味を伴わずに炭酸感増強効果を付与できることを見出した。
また、ロタンドンの香味の影響を感じさせないで炭酸感増強効果だけを付与できる濃度範囲があることも見出した。
ペッパー中にごく微量含有されているロタンドンにこのような炭酸感増強効果があることは、当業者といえども予測できるものではない。
【0074】
【0075】
〔試験例2〕(ビール風味アルコール飲料)
市販のビールテイスト飲料(原材料:麦芽、ホップ、大麦、コーン、スターチ、スピリッツ、アルコール含有量:6%)に、ロタンドンを添加しない飲料を対照サンプル(以下「無添加品」という)とし、上記製造例1で製造したロタンドンを表2に記載の濃度になるように添加することで、評価サンプルであるビール風味アルコール飲料を作成し、表2(1)の評価基準で、熟練したパネリスト4名にて官能評価を行った。なお、表2(3)の香味の改善効果は、4名のパネリストの平均点で示した。
【0076】
〔実施例1〕
ロタンドンを添加することにより、ビール風味アルコール飲料の飲みごたえ、刺激、発泡感が増加して、ビール風味アルコール飲料の炭酸感が増強できた。また、炭酸感増強効果が発揮されるビール風味アルコール飲料中のロタンドンの濃度は0.0001ppb~1000ppb、好ましくは0.001ppb~1000ppb、より好ましくは0.001ppbから500ppb、さらに好ましくは0.01ppb~100ppbである。
【0077】
【0078】
〔試験例3〕(ビール風味ノンアルコール飲料)
市販のノンアルコールビールテイスト飲料(原材料:麦芽、ホップ、酸味料、香料、カラメル色素、酸化防止剤(ビタミンC)、甘味料(アセスルファムK))に、ロタンドンを添加しない飲料を対照サンプル(以下「無添加品」という)とし、上記製造例1で製造したロタンドンを表3に記載の濃度になるように添加することで、評価サンプルであるビール風味ノンアルコール飲料を作成し、表3(1)の評価基準で、熟練したパネリスト4名にて官能評価を行った。なお、表3(3)の香味の改善効果は、4名のパネリストの平均点で示した。
【0079】
〔実施例2〕
ロタンドンを添加することにより、ビール風味ノンアルコール飲料の飲みごたえ、刺激、発泡感が増加して、ビール風味ノンアルコール飲料の炭酸感が増強できた。
また、炭酸感増強効果が発揮されるビール風味ノンアルコール飲料中のロタンドンの濃度は0.0001ppb~1000ppb、好ましくは0.001ppbから1000ppb、より好ましくは0.001ppbから500ppb、さらに好ましくは0.001ppb~100ppbである。
【0080】
【0081】
〔試験例4〕(アルコール入りハイボール飲料)
市販のアルコール入りハイボール飲料(原材料:ウイスキー、レモンスピリッツ、食物繊維、酸味料)に、ロタンドンを添加しない飲料を対照サンプル(以下「無添加品」という)とし、上記製造例1で製造したロタンドンを表4に記載の濃度になるように添加することで、評価サンプルであるアルコール入りハイボール飲料を作成し、表4(1)の評価基準で、熟練したパネリスト4名にて官能評価を行った。なお、表4(3)の香味の改善効果は、4名のパネリストの平均点で示した。
【0082】
〔実施例3〕
ロタンドンを添加することにより、アルコール入りハイボール飲料の飲みごたえ、刺激、発泡感が増加して、アルコール入りハイボール飲料の炭酸感が増強できた。
また、炭酸感増強効果が発揮されるアルコール入りハイボール飲料中のロタンドンの濃度は0.001ppb~1000ppb、好ましくは0.001ppb~500ppb、さらに好ましくは0.001ppb~100ppbである。
【0083】
【0084】
〔試験例5〕(レモン風味炭酸飲料)
市販のレモン風味炭酸飲料に、ロタンドンを添加しない飲料を対照サンプル(以下「無添加品」という)とし、上記製造例1で製造したロタンドンを表5に記載の濃度になるように添加することで、評価サンプルであるレモン風味炭酸飲料を作成し、表5(1)の評価基準で、熟練したパネリスト4名にて官能評価を行った。なお、表5(3)の香味の改善効果は、4名のパネリストの平均点で示した。
【0085】
〔実施例4〕
ロタンドンを添加することにより、レモン風味炭酸飲料の飲みごたえ、刺激、発泡感が増加して、レモン風味炭酸飲料の炭酸感が増強できた。
また、炭酸感増強効果が発揮されるレモン風味炭酸飲料中のロタンドンの濃度は0.0001ppb~1000ppb、好ましくは0.001ppb~1000ppb、より好ましくは0.001ppb~500ppb、さらに好ましくは0.001ppb~100ppbである。
【0086】
【0087】
〔試験例6〕(オレンジ風味炭酸飲料)
市販のオレンジ風味炭酸飲料に、ロタンドンを添加しない飲料を対照サンプル(以下「無添加品」という)とし、上記製造例1で製造したロタンドンを表6に記載の濃度になるように添加することで、評価サンプルであるオレンジ風味ノンアルコール飲料を作成し、表6(1)の評価基準で、熟練したパネリスト4名にて官能評価を行った。なお、表6(3)の香味の改善効果は、4名のパネリストの平均点で示した。
【0088】
〔実施例5〕
ロタンドンを添加することにより、オレンジ風味炭酸飲料の飲みごたえ、刺激、発泡感が増加して、オレンジ風味炭酸飲料の炭酸感が増強できた。
また、炭酸感増強効果が発揮されるオレンジ風味炭酸飲料中のロタンドンの濃度は0.001ppb~1000ppb、好ましくは0.001ppbから100ppb、さらに好ましくは0.001ppb~10ppbである。
【0089】
【0090】
〔試験例7〕(ジンジャエール)
市販のジンジャエールに、ロタンドンを添加しない飲料を対照サンプル(以下「無添加品」という)とし、上記製造例1で製造したロタンドンを表7に記載の濃度になるように添加することで、評価サンプルであるビール風味ノンアルコール飲料を作成し、表7(1)の評価基準で、熟練したパネリスト4名にて官能評価を行った。なお、表7(3)の香味の改善効果は、4名のパネリストの平均点で示した。
【0091】
〔実施例6〕
ロタンドンを添加することにより、ジンジャエールの飲みごたえ、刺激、発泡感が増加して、ジンジャエールの炭酸感が増強できた。ジンジャエール中のロタンドンの濃度は0.001ppb~1000ppb、好ましくは0.001ppb~100ppb、さらに好ましくは0.001ppb~10ppbである。
【0092】
【0093】
〔試験例8〕(炭酸入りエナジードリンク)
市販の炭酸入りエナジードリンクに、ロタンドンを添加しない飲料を対照サンプル(以下「無添加品」という)とし、上記製造例1で製造したロタンドンを表8に記載の濃度になるように添加することで、評価サンプルであるエナジードリンクを作成し、表8(1)の評価基準で、熟練したパネリスト4名にて官能評価を行った。なお、表8(3)の香味の改善効果は、4名のパネリストの平均点で示した。
【0094】
〔実施例7〕
ロタンドンを添加することにより、エナジードリンクの飲みごたえ、刺激、発泡感が増加して、エナジードリンクの炭酸感が増強できた。
また、炭酸感増強効果が発揮されるエナジードリンク中のロタンドンの濃度は0.001ppb~1000ppb、好ましくは0.001ppbから500ppb、さらに好ましくは0.01ppb~100ppbである。
【0095】
【0096】
〔試験例9〕(ロタンドンとスピラントールの併用)
市販の炭酸水(原料:水、炭酸)に、製造例1で製造したロタンドンと製造例3で製造したスピラントールを所定の濃度になるようにそれぞれ混合し、表9に記載の評価基準で、熟練したパネリスト4名にて官能評価を行った。なお、表10の炭酸感は、4名のパネリストの平均点で示した。
【0097】
ロタンドンとスピラントールの併用効果を表10に記載された濃度で確認した。ロタンドンとスピラントールを併用することで炭酸感が著しく増強した。
特に、ロタンドンだけよりも、炭酸感の質(炭酸感の発現タイミング、炭酸感の持続性)が向上した。
ロタンドン0.1~1質量部に対して、スピラントールを0.01~20質量部、好ましくはスピラントールを0.1~20質量部、より好ましくはスピラントールを0.5~20質量部の割合で併用することが効果的であった。ロタンドン1質量部を基準として言い換えると、スピラントールを0.01~50質量部、好ましくはスピラントールを0.1~50質量部、より好ましくはスピラントールを0.1~20質量部の割合で併用することが効果的であった。
【0098】
【0099】
【0100】
〔試験例10〕(ロタンドンとポリゴジアールの併用)
市販の炭酸水(原料:水、炭酸)に、製造例1で製造したロタンドンと製造例2で製造したポリゴジアール(マウンテンペッパーオイルを蒸留して精製したもの)を所定の濃度になるようにそれぞれ混合し、表9に記載の評価基準で、熟練したパネリスト4名にて官能評価を行った。なお、表11の炭酸感は、4名のパネリストの平均点で示した。
【0101】
ロタンドンとポリゴジアールを併用することで炭酸感が増強した。特に、炭酸感の質(口に含んだ瞬間に炭酸感の刺激を強く感じる)が向上した。
ロタンドン0.1~1質量部に対して、ポリゴジアールを0.001~20質量部、好ましくはポリゴジアールを0.01~20質量部、より好ましくはポリゴジアールを0.1~20質量部の割合で併用することが効果的であった。ロタンドン1質量部を基準として言い換えると、ポリゴジアールを0.001~20質量部、好ましくはポリゴジアールを0.01~20質量部、より好ましくはポリゴジアールを0.1~20質量部の割合で併用することが効果的であった。
【0102】
【0103】
〔試験例11〕(ロンドンとスピラントールとポリゴジアールの併用)
市販の炭酸水(原料:水、炭酸)に、製造例1で製造したロタンドンと製造例2で製造したポリゴジアールと製造例3で調製したスピラントールを所定の濃度になるようにそれぞれ混合し、表9に記載の評価基準で、熟練したパネリスト4名にて官能評価を行った。なお、表12の炭酸感は、4名のパネリストの平均点で示した。
ロタンドンとスピラントールとポリゴジアールの3種を併用することで、各炭酸感増強剤の添加濃度が低く押さえつつも、炭酸感、特に、炭酸感の質(炭酸感の持続性、飲用直後からのど越しまで炭酸感が持続する)が著しく向上した。
【0104】
ロタンドン0.1~1質量部に対して、スピラントールを0.01~20質量部及びポリゴジアールを0.001~20質量部、好ましくはスピラントールを0.1~20質量部及びポリゴジアールを0.01~20質量部、より好ましくはスピラントールを0.5~20質量部及びポリゴジアールを0.1~20質量部の割合で併用することができる。
ロタンドン1質量部を基準として言い換えると、ポリゴジアールを0.001~20質量部、スピラントールを0.01~50質量部、好ましくはポリゴジアールを0.01~20質量部、スピラントールを0.1~50質量部、より好ましくはポリゴジアールを0.1~20質量部、スピラントールを0.1~20質量部で併用することができる。
特に、スピラントール、ポリゴジアールだけでは、炭酸感の増強効果がないあるいは弱いと感じられる濃度の添加でも、ロタンドンと併用することによって、顕著な相乗効果を得ることができた。
【0105】
【0106】
上記の試験例9~11に記載のとおり、ロタンドンとスピラントール又はポリゴジアールから選択される1種以上とを併用する場合の炭酸感増強効果は、炭酸水で確認したが、炭酸感は口中で二酸化炭素と水が反応して発生した炭酸が口腔内感覚を刺激するものと考えられており、炭酸水以外の炭酸刺激飲食品、例えば、砂糖、酸味料、香料やアルコールなどが入っている炭酸飲料において同様のメカニズムで同様の効果が発揮されることを当業者は合理的に理解できる。