(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-02-12
(45)【発行日】2025-02-20
(54)【発明の名称】セルロースエステルの製造方法
(51)【国際特許分類】
C08B 15/02 20060101AFI20250213BHJP
【FI】
C08B15/02
(21)【出願番号】P 2021005640
(22)【出願日】2021-01-18
【審査請求日】2023-12-19
(73)【特許権者】
【識別番号】000183484
【氏名又は名称】日本製紙株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【氏名又は名称】山本 修
(74)【代理人】
【識別番号】100126985
【氏名又は名称】中村 充利
(74)【代理人】
【識別番号】100141265
【氏名又は名称】小笠原 有紀
(74)【代理人】
【識別番号】100129311
【氏名又は名称】新井 規之
(72)【発明者】
【氏名】角田 惟緒
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼野 俊幸
【審査官】堀 洋樹
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-059571(JP,A)
【文献】特開2017-014116(JP,A)
【文献】特開2020-019192(JP,A)
【文献】特開2018-104502(JP,A)
【文献】特開2019-183022(JP,A)
【文献】特開2020-111673(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08B 1/00-37/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の工程:
セルロースに対して酸化剤を作用させ、ウロン酸塩残基を有する酸化セルロースを得る工程(A)、
工程(A)で得られたウロン酸塩残基を有する酸化セルロースを非プロトン性極性溶媒中に分散させる工程(B)、及び
工程(B)の後に、ウロン酸塩残基を有する酸化セルロースを、非プロトン性極性溶媒中で
ハロゲン化アルキルと反応させる工程(C)
を含む、分子中にエステル化されたウロン酸残基を有するセルロースエステルの製造方法
であって、
有機オニウム化合物を用いない、上記製造方法。
【請求項2】
工程(C)において縮合剤を用いないことを特徴とする、請求項
1に記載の
製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セルロースエステルの製造方法に関する。より詳細には、分子中にエステル化されたウロン酸残基を有するセルロースエステルの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、セルロースを原料として各種誘導体や樹脂との複合体を製造することが検討されている。セルロースは水酸基を有し高い親水性を有するため、樹脂との相溶性は低い。そこで、樹脂との相溶性を向上させるため、種々の変性により疎水化することが検討されている。
【0003】
例えば、セルロースを疎水化する方法として、天然セルロースのグルコース残基のC6位のヒドロキシ基を酸化して得られた反応物繊維を溶媒中に分散させて微細セルロース繊維を得て、続いて微細セルロース繊維を有機オニウム化合物で処理し、さらにアルキル化剤を反応させてエステル化を行い、微細セルロースエステル繊維を製造する方法が開示されている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1の方法は、酸化されたセルロース繊維を有機オニウム化合物で処理する必要があり、また、エステル化を行う前に洗浄して有機オニウム化合物を除去する工程も必要となり、工程が複雑でコストアップとなる。本発明の課題は、セルロースエステルを簡便に製造することができる方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、かかる目的を達成するため鋭意検討した結果、酸化セルロースを非プロトン性極性溶媒中でアルキル化剤と反応させることにより、有機オニウム化合物を用いずに簡便にセルロースエステルを製造することができることを見出し、本発明を完成した。
【0007】
本発明は、これらに限定されないが、以下を含む
[1]以下の工程:
セルロースに対して酸化剤を作用させ、ウロン酸塩残基を有する酸化セルロースを得る工程(A)、
工程(A)で得られたウロン酸塩残基を有する酸化セルロースを非プロトン性極性溶媒中に分散させる工程(B)、及び
工程(B)の後に、ウロン酸塩残基を有する酸化セルロースを、非プロトン性極性溶媒中でアルキル化剤と反応させる工程(C)
を含む、分子中にエステル化されたウロン酸残基を有するセルロースエステルの製造方法。
[2]前記アルキル化剤としてアルキルハライドを用いることを含む、[1]に記載の方法。
[3]工程(C)において縮合剤を用いないことを特徴とする、[1]または[2]に記載の方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明の方法では、縮合剤や有機オニウム化合物を必ずしも用いることなく、酸化セルロース中のウロン酸ナトリウム塩残基に対してエステル結合を介して種々の基を簡便に導入することができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明は、分子中にエステル化されたウロン酸残基を有するセルロースエステルの製造方法に関する。
本発明の製造方法により得られるセルロースエステルは、その分子中にエステル化されたウロン酸残基を有する。ウロン酸(塩)残基とは、下記式(1)に例示するような、ピラノース環中、6位炭素のみが酸化されカルボキシ基に変換した構造を有する繰り返し単位のことを指す。式(1)においてXがHの場合ウロン酸残基、Naのような金属イオンの場合ウロン酸塩残基である。
【0010】
【0011】
そして、エステル化されたウロン酸残基とは、下記式(2)に示す繰り返し単位のことを指す。
【0012】
【0013】
上記式(2)において、Rは炭素数1~50、好ましくは炭素数1~30、より好ましくは炭素数1~10のアルキル基、ベンジル基、フェネチル基、コレステリル基、またはコレスタリル基である。Rがベンジル基である場合、反応性の面で、ベンジル位の炭素原子がエステル結合の酸素原子と共有結合していることが望ましい。
【0014】
次に、本発明におけるセルロースエステルの製造方法を示す。本発明のセルロースエステルの製造方法は、以下に示す工程(A)(B)(C)を含む。
工程(A):セルロースに対して酸化剤を作用させ、ウロン酸塩残基を有する酸化セルロースを得る、
工程(B):工程(A)で得られたウロン酸塩残基を有する酸化セルロースを非プロトン性極性溶媒中に分散させる、及び
工程(C):工程(B)の後に、ウロン酸塩残基を有する酸化セルロースを、非プロトン性極性溶媒中でアルキル化剤と反応させる。
【0015】
(工程(A))
工程(A)は、セルロースに対して酸化剤を作用させ、ウロン酸塩残基を有する酸化セルロースを得る工程である。この工程は、例えば、これに限定されないが、特開2008-1728号公報に開示されるような、水中においてN-オキシル化合物を酸化触媒とし、共酸化剤を作用させることによってセルロースを酸化することにより行うことができる(酸化処理)。得られた反応生成物(ウロン酸残基を有する酸化セルロース)は、不純物を除去するために精製処理に供してもよい。以下、各処理について説明する。
【0016】
(酸化処理)
酸化処理に供するセルロースの種類は、特に限定されず、例えば、植物(例えば、木材、竹、麻、ジュート、ケナフ、農地残廃物、布、パルプ(針葉樹未漂白クラフトパルプ(NUKP)、針葉樹漂白クラフトパルプ(NBKP)、広葉樹未漂白クラフトパルプ(LUKP)、広葉樹漂白クラフトパルプ(LBKP)、針葉樹未漂白サルファイトパルプ(NUSP)、針葉樹漂白サルファイトパルプ(NBSP)、サーモメカニカルパルプ(TMP)、再生パルプ、古紙等)、動物(例えばホヤ類)、藻類、微生物(例えば酢酸菌(アセトバクター))、微生物産生物等を起源とするセルロース、または再生セルロース等を使用することができる。植物又は微生物を起源とするセルロースを用いることは好ましい。より好ましくは植物由来のセルロースである。また、再生セルロースも、工程(A)において反応液に完全溶解し均一系で反応させることができるため、好ましい。
【0017】
酸化処理時のセルロース分散液の分散媒は水であり、分散液中のセルロース濃度は、試薬の十分な拡散が可能な濃度であれば任意であるが、通常、分散液の質量に対して約5質量%以下である。
【0018】
酸化処理により、ウロン酸塩残基を有する酸化セルロース、すなわち、カルボキシ化されたセルロースが得られる。カルボキシ化とは、ピラノース環の水酸基を酸化してカルボキシ基(-COOH(酸型)または-COOX(金属塩型)(式中、Xは金属イオンである。))に変換する反応をいう。本明細書において、ウロン酸塩残基を有する酸化セルロースを、カルボキシ化セルロース又は単に酸化セルロースと呼ぶことがある。
【0019】
上記のセルロースを例えば特開2008-1728号公報に開示されるような公知の方法でカルボキシ化(酸化処理)することにより、カルボキシ化セルロースを得ることができる。カルボキシ化セルロースにおけるカルボキシ基の量は、特に限定されるものではないが、カルボキシ化セルロースの絶乾質量に対して、0.6~3.0mmol/gとなるように調整することが好ましく、1.0~2.0mmol/gになるように調整することがさらに好ましい。カルボキシ基の量は、酸化剤の種類や量、酸化反応の際の温度や時間などを制御することで、調整することができる。
【0020】
カルボキシ化セルロースのカルボキシ基の量は、以下の方法で測定することができる:
カルボキシ化セルロースの0.5質量%スラリー(媒体:水)60mlを調製し、0.1M塩酸水溶液を加えてpH2.5とした後、0.05Nの水酸化ナトリウム水溶液を滴下してpHが11になるまで電気伝導度を測定し、電気伝導度の変化が緩やかな弱酸の中和段階において消費された水酸化ナトリウム量(a)から、下式を用いて算出する:
カルボキシ基量〔mmol/gカルボキシ化セルロース〕=a〔ml〕×0.05/カルボキシ化セルロース質量〔g〕。
【0021】
カルボキシ化(酸化処理)方法の一例として、セルロースを、N-オキシル化合物と、臭化物、ヨウ化物若しくはこれらの混合物からなる群から選択される化合物との存在下で酸化剤を用いて水中で酸化する方法を挙げることができる。この酸化処理により、セルロース表面のグルコピラノース環のC6位の一級水酸基が選択的に酸化され、表面にアルデヒド基と、カルボキシ基とを有するセルロース(カルボキシ化セルロース)を得ることができる。反応時のセルロースの水中での濃度は特に限定されないが、5質量%以下が好ましい。
【0022】
N-オキシル化合物はセルロースの酸化触媒であり、上述の酸化処理に使用可能なN-オキシル化合物は数多く報告されている(例えば、「Cellulose」Vol.10、2003年、第335~341ページ、「TEMPO誘導体を用いたセルロースの触媒酸化:酸化生成物のHPSEC及びNMR分析」、I. Shibataら参照)。特に2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-N-オキシル(TEMPO)、4-アセトアミド-TEMPO、4-カルボキシ-TEMPO、及び4-ホスホノオキシ-TEMPOは水中常温での反応速度において好ましい。これらN-オキシル化合物の添加は触媒量で十分であり、好ましくは0.1~4mmol/L、さらに好ましくは0.2~2mmol/Lの範囲で反応液に添加する。
【0023】
共酸化剤として、次亜ハロゲン酸またはその塩、亜ハロゲン酸またはその塩、過ハロゲン酸またはその塩、過酸化水素、および過有機酸などを使用することができる。好ましくはアルカリ金属次亜ハロゲン酸塩、たとえば、次亜塩素酸ナトリウムや次亜臭素酸ナトリウムである。次亜塩素酸ナトリウムを使用する場合、臭化アルカリ金属、たとえば臭化ナトリウムの存在下で反応を進めることが反応速度において好ましい。この臭化アルカリ金属の添加量は、N-オキシル化合物に対して約1~40倍モル量、好ましくは約10~20倍モル量である。
【0024】
酸化処理時の反応液のpHは約8~11の範囲で維持されることが好ましい。温度は約4~40℃の範囲であってよく、室温で行うことも可能であり、特に温度の制御は必要としない。
【0025】
反応終点は天然セルロースの場合は任意であるが、再生セルロースの場合は透明水溶液となるまでが目安となる。
反応液における媒体は、取扱い性の容易さや、副反応が生じにくいこと等から、水が好ましい。
【0026】
酸化処理における反応時間は、酸化の進行の程度に従って適宜設定することができ、通常は0.5~6時間、例えば、0.5~4時間程度である。
酸化処理は、2段階に分けて実施してもよい。例えば、1段目の反応終了後に濾別して得られた酸化セルロースを、再度、同一または異なる反応条件で酸化させることにより、1段目の反応で副生する食塩による反応阻害を受けることなく、効率よく酸化を進行させることができる。
【0027】
カルボキシ化(酸化)の方法の別の例として、オゾンを含む気体とセルロースとを接触させることにより酸化する方法を挙げることができる。この酸化処理により、グルコピラノース環の少なくとも2位及び6位の水酸基がカルボキシ基へと酸化されると共に、セルロース鎖の分解が起こる。オゾンを含む気体中のオゾン濃度は、50~250g/m3であることが好ましく、50~220g/m3であることがより好ましい。セルロースに対するオゾン添加量は、セルロースの固形分を100質量部とした際に、0.1~30質量部であることが好ましく、5~30質量部であることがより好ましい。オゾン処理時の温度は、0~50℃であることが好ましく、20~50℃であることがより好ましい。オゾン処理時間は、特に限定されないが、1~360分程度であり、30~360分程度が好ましい。オゾン処理の条件がこれらの範囲内であると、セルロースが過度に酸化及び分解されることを防ぐことができ、酸化セルロースの収率が良好となる。オゾン処理を施した後に、酸化剤を用いて、追酸化処理を行ってもよい。追酸化処理に用いる酸化剤は、特に限定されないが、二酸化塩素、亜塩素酸ナトリウム等の塩素系化合物や、酸素、過酸化水素、過硫酸、過酢酸などが挙げられる。例えば、これらの酸化剤を水またはアルコール等の極性有機溶媒中に溶解して酸化剤溶液を作成し、溶液中にセルロースを浸漬させることにより追酸化処理を行うことができる。
【0028】
(精製処理)
精製処理においては、未反応の次亜塩素酸や各種副生成物等の反応スラリー中に含まれる反応生成物と水以外の化合物を系外へ除去する。精製処理には、通常の精製法を用いることができ、例えば水洗とろ過を繰り返すことで高純度の酸化セルロース水分散体を得ることができる。例えば、遠心脱水を利用する方法(例えば、連続式デカンター)を使用してもよい。精製処理後の酸化セルロースの水分散体中の濃度は、特に限定されないが、固形分(セルロース)濃度としておよそ10質量%~50質量%の範囲であってよい。この後の処理で、ナノファイバーへ分散させる場合には50質量%よりも高い固形分濃度とすると、分散に極めて高いエネルギーが必要となることから好ましくない。原料に再生セルロースを用いた場合、酸化処理後の反応生成物(酸化セルロース)は完全に溶解しているが、過剰な貧溶媒中に反応溶液を滴下することで、反応生成物を不溶化して出現させることができる(再沈殿)。不溶化した反応生成物は濾別して得ることができる。
【0029】
(工程(B))
工程(B)は、工程(A)で得られたウロン酸塩残基を有する酸化セルロースを非プロトン性極性溶媒中に分散させる工程である。非プロトン性極性溶媒としては、アセトニトリル、ジメチルアセトアミド、N-メチルピロリドン、ジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミドなどを挙げることができる。続く工程(C)において反応温度を高くすることにより反応速度を向上させるならば、非プロトン性極性溶媒として、高沸点の溶媒、例えばジメチルスルホキシドやジメチルホルムアミドを用いることが好ましい。非プロトン性極性溶媒は、単一の種類のものを用いてもよいし、2種類以上を混合して用いてもよい。非プロトン性極性溶媒の使用量は、添加する酸化セルロースの量、続く工程(C)でのアルキル化剤の添加量などの諸条件に応じて適宜変更可能であり、通常は酸化セルロースの濃度が0.01~50質量%、好ましくは0.5~20質量%、より好ましくは1.0~10質量%となるような量である。
【0030】
工程(B)における分散に用いる装置は特に限定されず、通常の分散機または撹拌機などを用いることができる。
(工程(C))
工程(C)は、工程(B)で非プロトン性極性溶媒中に分散させたウロン酸塩残基を有する酸化セルロースに、同溶媒中でアルキル化剤を反応させる工程である。この工程により、ウロン酸塩残基がエステル化されて、セルロースエステルが得られる。工程(C)に用いることができる代表的なアルキル化剤としては、ハロゲン化アルキル、アルキル硫酸エステル(ジメチル硫酸、ジエチル硫酸など)、アルキルトシラート(p-トルエンスルホン酸メチルなど)、アルキルメシラート(メタンスルホン酸メチルなど)、アルキルトリフラート(トリフルオロメタンスルホン酸メチルなど)等が挙げることができる。価格等の点では、ハロゲン化アルキルが好ましい。ハロゲン化アルキルの具体例としては、塩化メチル、臭化メチル、ヨウ化メチル、塩化エチル、臭化エチル、ヨウ化エチル、塩化プロピル、臭化プロピル、ヨウ化プロピル、塩化ブチル、臭化ブチル、ヨウ化ブチル、塩化ヘキシル、臭化ヘキシル、ヨウ化ヘキシル、塩化デシル、臭化デシル、ヨウ化デシル、塩化ヘキサデシル、臭化ヘキサデシル、ヨウ化ヘキサデシル、塩化オクタデシル、臭化オクタデシル、ヨウ化オクタデシル、塩化コレステリル、臭化コレステリル、ヨウ化コレステリル、塩化コレスタリル、臭化コレスタリル、ヨウ化コレスタリル、塩化ベンジル、臭化ベンジル、ヨウ化ベンジル、塩化フェネチル、臭化フェネチル、ヨウ化フェネチル、C1~C50のポリフルオロアルキルクロリド、C1~C50のポリフルオロアルキルブロミド、C1~C50のポリフルオロアルキルヨード等などを挙げることができ、上記のなかでも反応性および取り扱い性の面から臭化物は特に好ましい。アルキル化剤として塩化物や臭化物を用いる場合、触媒としてヨウ化ナトリウムを添加してもよい。
【0031】
工程(C)(エステル化反応)の際の反応温度は、溶媒の沸点や酸化セルロースの安定性に応じて適宜変更してよく、通常は概ね室温から200℃の範囲で実施可能である。好ましくは50℃~150℃、最も好ましくは70℃~120℃の範囲である。また反応時間としては、0.1~48時間が好ましく、1~24時間がさらに好ましく、8~18時間がさらに好ましく、10~14時間程度がさらに好ましい。アルキル化剤の当量としては、ウロン酸(塩)残基1ユニットに対して1以上が好ましく、多いほど反応効率は向上する。
【0032】
本発明において、一般的にエステル化時に用いられる1-[3-(ジメチルアミノ)プロピル]-3-エチルカルボジイミド(EDC)やN,N’-ジシクロヘキシルカルボジイミド(DCC)等のカルボジイミド系縮合剤、N,N’-カルボニルジイミダゾール(CDI)等のイミダゾール系縮合剤、4-(4,6-ジメトキシ-1,3,5-トリアジン-2-イル)-4-メチルモルホリニウムクロリド(DMT-MM)等のトリアジン系縮合剤、または1H-ベンゾトリアゾール-1-イルオキシトリス(ジメチルアミノ)ホスホニウムヘキサフルオロりん酸塩等のホスホニウム系縮合剤のような縮合剤は必ずしも必要ではない。また、特許文献1(特開2010-59571号公報)に列挙されるような有機オニウム化合物も必ずしも必要ではない。工程(A)により得られたウロン酸塩残基を有する酸化セルロース(例えば-COONaのような金属塩型のカルボキシ基を有する酸化セルロース)を用いることにより、工程(C)において酸化セルロースとアルキル化剤とを反応させることが可能となる。
【0033】
また、一般には、酸化セルロースの親水性を低下させるために、工程(A)のような酸化処理によって得た金属塩型のカルボキシ基を有する酸化セルロースを、酸と接触させて、金属塩型を酸型(-COOH)に変換する処理が行われることがあるが、本発明はこのようなカルボキシ基の金属塩型を酸型に変換する処理を必要としない。
【0034】
(解繊)
本発明により得られるセルロースエステルは、必要に応じて、セルロースナノファイバーやミクロフィブリル化セルロースのような解繊された形態としてもよい。解繊を行う場合には、工程(C)の後に行ってもよいし、工程(C)よりも前(例えば、工程(A)の前、工程(A)と(B)の間、または工程(B)と工程(C)の間)に行ってもよい。
【0035】
解繊の際に用いる装置は、特に限定されないが、高速回転式、コロイドミル式、高圧式、ロールミル式、超音波式などの強力なせん断力を印加することができる装置を用いることが好ましい。特に、効率よく解繊するには、50MPa以上の圧力を印加し、かつ強力なせん断力を印加できる湿式の高圧または超高圧ホモジナイザーを用いることが好ましい。前記圧力は、より好ましくは100MPa以上であり、さらに好ましくは140MPa以上である。また、高圧ホモジナイザーでの解繊に先立って、必要に応じて、高速せん断ミキサーなどの公知の混合、撹拌、乳化、又は分散装置を用いて、予備処理を施してもよい。解繊装置での処理(パス)回数は、1回でもよいし2回以上でもよく、2回以上が好ましい。
【0036】
(用途)
本発明により得られるセルロースエステルは、様々な分野に用いることができると考えられる。例えば、これに限定されないが、化粧品、医薬、各種化学用品、塗料、インキ、スプレー、農薬、釉薬、土木、建築、電子材料、難燃剤、家庭雑貨、接着剤、洗浄剤、芳香剤、潤滑用組成物などで、増粘剤、ゲル化剤、糊剤、賦形剤、塗料用添加剤、接着剤用添加剤、研磨剤、ゴム・プラスチック用配合材料、保水性付与剤、保形性付与剤、粘度調整剤、乳化安定剤、気泡安定剤、分散安定剤、泥水調整剤、ろ過助剤、溢泥防止剤などとして使用することができると考えられる。
【実施例】
【0037】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。なお、以下の説明において、特に断りがない限り、「部」及び「%」はそれぞれ「質量部」及び「質量%」を意味する。
【0038】
[実施例1]
セルロース(結晶セルロース、商品名:Avicel(登録商標))9.57gを21.5%NaOH水溶液(43gNaOH/157mL水)中で24時間撹拌した後、4%酢酸で中和した。中和開始から20分後に不溶部を濾取し、蒸留水で洗浄した(100mLで3回)。その後、濾取物を凍結乾燥させ再生セルロース(9.29g)を得た。得られた再生セルロース1.97gと臭化ナトリウム189mg(0.15eq)とTEMPO21.6mg(0.01eq)を蒸留水100mL中に添加し、TEMPOが完全に溶解するまで撹拌した。その後、次亜塩素酸ナトリウム溶液20.8mL(2.2eq)を加えた。反応中は、1規定のNaOH水溶液を用いてpHを10に維持した。なお反応懸濁液の黄色が消失した場合、その都度次亜塩素酸ナトリウムを追加した。ほとんど透明溶液になったところでエタノール(5mL)を加えた。1規定塩酸でpH7に調整した。その後、エタノールを用いて再沈殿を繰り返し行った。最後に、得られた沈殿を凍結乾燥し、ナトリウム塩型のウロン酸塩残基を有する酸化セルロース2.2776gを得た。
【0039】
得られた酸化セルロース148.3mgをジメチルホルムアミド中に添加し、90℃で撹拌した。15分後に臭化ベンジル1.5mLを滴下し、さらにヨウ化ナトリウム20mgを加えた。26時間後にエタノールを用いた再沈殿によりクエンチした。その後、さらにエタノールで三回洗浄した。得られた沈殿を真空乾燥し、生成物を得た。得られた生成物をNMR測定した結果、酸化セルロースのベンジルエステル(44.6mg)であることが確かめられた。
【0040】
なお、NMR測定はサンプル(上記生成物)をDMSO-d6に溶解させて行った。使用した機器はVarian500MHzNMR(Agilent Technologies製)である。スペクトルの帰属はCOSY、HSQC、HMBC、TOCSYを用いて行った。
【0041】
[実施例2]
実施例1において、臭化ベンジルが臭化フェネチルであることを除けば同様の工程で酸化セルロースのフェネチルエステルを得た。
【0042】
[実施例3]
実施例2において、反応時間を変更したことを除けば同様の工程で酸化セルロースのフェネチルエステルを得た。なおその際の条件を表1に示す。
【0043】
得られた酸化セルロースのフェネチルエステルにおけるフェネチル置換度を、以下の方法により測定した:
生成物の水溶液を作成し、フェネチル基の有する芳香核によるUV吸収(258nm)を測定することにより導出した。用いた装置はJASCO紫外可視光分光光度計(V-560)である。検量線はベンジルアルコール水溶液を用いて作成した。
【0044】
表1にフェネチル置換度の測定結果を示す。表1より、反応時間を長くするほど、フェネチル置換度が増加することがわかる。
【0045】
【0046】
[実施例4]
実施例2において、アルキル化剤(臭化フェネチル)当量を変更したことを除けば同様の工程で酸化セルロースのフェネチルエステルを得た。なお、その際の条件を表2に示す。
【0047】
得られた酸化セルロースのフェネチルエステルにおけるフェネチル置換度を、実施例3に記載の方法により測定した。結果を表2に示す。表2の結果より、アルキル化剤当量を増やすほどフェネチル置換度が増加することがわかる。なお、12当量あたりからエステル化がより進行して水に不溶になり、同様の置換度測定ができなくなった。
【0048】