(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-02-12
(45)【発行日】2025-02-20
(54)【発明の名称】パイロット教育システム
(51)【国際特許分類】
G09B 9/30 20060101AFI20250213BHJP
G09B 9/08 20060101ALI20250213BHJP
G09B 19/00 20060101ALI20250213BHJP
G09B 9/24 20060101ALI20250213BHJP
B64F 1/36 20240101ALI20250213BHJP
【FI】
G09B9/30
G09B9/08
G09B19/00 H
G09B9/24
B64F1/36
(21)【出願番号】P 2021027854
(22)【出願日】2021-02-24
【審査請求日】2024-01-29
(73)【特許権者】
【識別番号】000005348
【氏名又は名称】株式会社SUBARU
(74)【代理人】
【識別番号】110000936
【氏名又は名称】弁理士法人青海国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】池田 光司
(72)【発明者】
【氏名】袋瀬 健
(72)【発明者】
【氏名】板橋 由布
(72)【発明者】
【氏名】大崎 洋介
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 正弘
(72)【発明者】
【氏名】原 駿一郎
【審査官】進藤 利哉
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-029602(JP,A)
【文献】特開2002-229433(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G09B1/00-9/56
G09B17/00-19/26
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
航空機のシミュレータまたは実機を操作する対象者の視線または操縦操作を少なくとも含む操縦技能を測定および分析することにより、前記対象者の学習段階を特定する学習段階特定部と、
前記学習段階特定部において特定された前記学習段階に応じて、前記航空機のシミュレータまたは実機において前記対象者に対して提示する教示情報の量を設定する教示情報設定部と、
前記学習段階特定部において特定された前記学習段階に応じて、前記対象者の練習方法を設定する練習方法設定部と、
を備えるパイロット教育システム。
【請求項2】
前記教示情報設定部は、
前記学習段階特定部において特定された前記学習段階
が上がるにつれて、前記航空機のシミュレータまたは実機において前記対象者に対して提示する前記教示情報の量を徐々に制限するように設定する請求項1に記載のパイロット教育システム。
【請求項3】
前記教示情報は、
前記航空機のシミュレータまたは実機の表示部上における予め設定された飛行計画に対する経路情報の教示、前記航空機のシミュレータまたは実機の前記表示部上における地形情報の教示、前記航空機のシミュレータまたは実機の前記表示部上における操作手順の教示、および、前記航空機のシミュレータまたは実機の音声出力部による音声指示のうち少なくともいずれかを含む請求項2に記載のパイロット教育システム。
【請求項4】
前記練習方法設定部は、
前記練習方法を設定する際に、前記学習段階特定部において特定された前記学習段階に応じて、練習内容、練習時間、練習環境のうち少なくともいずれかを変更可能である請求項1から3のいずれか一項に記載のパイロット教育システム。
【請求項5】
前記学習段階特定部は、
予め記憶部に記憶された前記航空機のシミュレータまたは実機の操作中の視線に基づいて生成された基準画像データと、前記対象者の前記航空機のシミュレータまたは実機の操作中の視線に係る測定データに基づいて生成された画像データとの合致度に基づいて、前記対象者の前記学習段階を特定する請求項1から4のいずれか一項に記載のパイロット教育システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、パイロットの訓練を支援するパイロット教育システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、車の運転などを仮想的に体験できるドライブシミュレータが、ドライバーの運転技術向上を目的に利用されている(例えば、特許文献1)。
【0003】
ところで、近年、航空業界ではパイロットの人員不足から、パイロットの養成が急務になっているという現状がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、現状では、航空機のパイロットの訓練効率の向上が不十分であるという問題があった。
【0006】
そこで、本発明は、航空機のパイロットの訓練効率向上を図ることが可能なパイロット教育システムを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明のパイロット教育システムは、航空機のシミュレータまたは実機を操作する対象者の視線または操縦操作を少なくとも含む操縦技能を測定および分析することにより、前記対象者の学習段階を特定する学習段階特定部と、前記学習段階特定部において特定された前記学習段階に応じて、前記航空機のシミュレータまたは実機において前記対象者に対して提示する教示情報の量を設定する教示情報設定部と、前記学習段階特定部において特定された前記学習段階に応じて、前記対象者の練習方法を設定する練習方法設定部と、
を備える。
【0008】
また、前記教示情報設定部は、前記学習段階特定部において特定された前記学習段階が上がるにつれて、前記航空機のシミュレータまたは実機において前記対象者に対して提示する前記教示情報の量を徐々に制限するように設定してもよい。
【0009】
また、前記教示情報は、前記航空機のシミュレータまたは実機の表示部上における予め設定された飛行計画に対する経路情報の教示、前記航空機のシミュレータまたは実機の前記表示部上における地形情報の教示、前記航空機のシミュレータまたは実機の前記表示部上における操作手順の教示、および、前記航空機のシミュレータまたは実機の音声出力部による音声指示のうち少なくともいずれかを含んでもよい。
【0010】
また、前記練習方法設定部は、前記練習方法を設定する際に、前記学習段階特定部において特定された前記学習段階に応じて、練習内容、練習時間、練習環境のうち少なくともいずれかを変更可能でもよい。
【0011】
また、前記学習段階特定部は、予め記憶部に記憶された前記航空機のシミュレータまたは実機の操作中の視線に基づいて生成された基準画像データと、前記対象者の前記航空機のシミュレータまたは実機の操作中の視線に係る測定データに基づいて生成された画像データとの合致度に基づいて、前記対象者の前記学習段階を特定してもよい。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、航空機のパイロットの訓練効率向上を図ることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】パイロット教育システムの構成を説明するためのブロック図である。
【
図2】パイロット教育システムにおける処理の流れを示したフローチャートである。
【
図3】航空機のシミュレータを操作する対象者の視線の測定データにおける特徴量を可視化・画像化する一次処理を行った場合に得られる画像データの一例を説明するための図である。
【
図4】対象者の総合的な学習段階を説明するための説明図である。
【
図5】記憶部の訓練カリキュラムデータベースに記憶された学習段階に応じたカリキュラムを説明するための図である。
【
図6】航空機のシミュレータの表示部の表示内容を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。かかる実施形態に示す寸法、材料、その他具体的な数値等は、発明の理解を容易とするための例示にすぎず、特に断る場合を除き、本発明を限定するものではない。なお、本明細書および図面において、実質的に同一の機能、構成を有する要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略し、また本発明に直接関係のない要素は図示を省略する。
【0015】
図1は、パイロット教育システム100の構成を説明するためのブロック図である。パイロット教育システム100は、VR(Virtual Reality)訓練装置や、フライトシミュレータなどのコンピュータで構成される。
図1に示すように、パイロット教育システム100は、制御部102と、記憶部120と、航空機のシミュレータ121とを含む。
【0016】
記憶部120は、RAM、フラッシュメモリ、HDD等で構成される。また、記憶部120は、詳しくは後述する学習段階評価基準データベース120aおよび詳しくは後述する訓練カリキュラムデータベース120bとしても機能する。
【0017】
シミュレータ121は、表示部122と、音声出力部124と、操作部126とを含む。表示部122は、液晶ディスプレイ、有機EL(Electro Luminescence)ディスプレイ、プロジェクタ等で構成される。音声出力部124は、スピーカ等で構成される。操作部126は、エンジン、燃料系統、電源系統、脚系統、フラップ、操縦系統、換気・冷暖房系統、通信航法系統、照明系統を制御する各種操作スイッチやレバー等で構成される。
【0018】
制御部102は、中央処理装置(CPU)、プログラム等が格納されたROM、ワークエリアとしてのRAM等を含む半導体集積回路により、パイロット教育システム100全体を管理および制御する。また、制御部102は、航空機のシミュレータ121を操作する対象者の視線または操縦操作を少なくとも含む操縦技能を測定および分析することにより、対象者の学習段階を特定する学習段階特定部104と、学習段階特定部104において特定された学習段階に応じて、航空機のシミュレータ121において対象者に対して提示する教示情報の量を設定する教示情報設定部106と、学習段階特定部104において特定された学習段階に応じて、対象者の練習方法を設定する練習方法設定部108としても機能する。
【0019】
ここで、航空機の操縦技能は、周囲の環境への対応が求められる操作(ノンテクニカルスキル)と、航空機の基礎的な操作(テクニカルスキル)に大別される。ノンテクニカルスキルは、周囲の状況を認識し、状況に応じた適切な操作(意思)を決定するスキルを指す。また、テクニカルスキルは、航空機に関する専門的な知識や技術であり、手順等で定められた適切な操作を適切に実行するスキルを指す。
【0020】
また、航空機の操縦技能は、大まかに3つの学習段階を経て向上していく。1つ目の段階は、操縦技能が最も低い認知段階である。2つ目の段階は、認知段階よりも操縦技能が向上した連合段階である。3つ目の段階は、連合段階よりも操縦技能が向上し、より迅速で、より正確で、より少ない思考プロセスで適切な操縦を導き出すことが可能となる自動化段階である。学習段階が認知段階である初心者パイロットは、テクニカルスキルの習得に意識の大部分が集中する。学習段階が自動化段階へと到達すると、最終的には個別の事象に対して考えずとも対処できるようになるため、ノンテクニカルスキルを効率よく習得するためには、テクニカルスキルの学習段階が自動化段階へと到達し、テクニカルスキルに係る脳負荷が低減されてから、ノンテクニカルスキルの習得を行うことが好ましい。そこで、本実施例では、学習段階に応じた適切な訓練内容を設定することで、航空機のパイロットの訓練効率向上を図っている。
【0021】
図2は、パイロット教育システム100における処理の流れを示したフローチャートである。
図2に示すように、まず、制御部102は、航空機のシミュレータ121において、対象者の学習段階を特定するための所定の内容のシミュレーションを実施して、対象者の視線、操縦操作等の操縦技能を測定した測定データを記憶部120に記憶する(ステップS100)。
【0022】
具体的には、制御部102は、測定データとして、例えば、航空機のシミュレータ121の操作部126に対して、航空機のシミュレータ121の操作中の対象者が行った操作量や操作速度の時間経過に伴うデータを記憶部120に記憶する。
【0023】
また、制御部102は、測定データとして、例えば、航空機のシミュレータ121における各種計器の表示に関するデータとして、対象者の操縦する航空機のシミュレータ121において、高度、位置(緯度、経度)、速度、昇降率、旋回率、姿勢、方位角、加速度、エンジン計器、燃料計器、電源電圧計器、通信航法計器、警報・注意灯に係る各種計器の時間経過に伴うデータを記憶部120に記憶する。
【0024】
また、制御部102は、測定データとして、例えば、航空機のシミュレータ121の操作中の対象者の視線(眼球)、頭の方向、握力、声の音量に係る時間経過に伴うデータを記憶部120に記憶する。
【0025】
また、制御部102は、測定データとして、例えば、航空機のシミュレータ121の操縦中における姿勢速度、姿勢加速度の時間経過に伴う変化を記憶部120に記憶する。
【0026】
記憶部120の学習段階評価基準データベース120aには、予め、1人以上のベテランパイロットによる上記したような各種の操縦技能の測定データが記憶されている。なお、シミュレータ121に複数の機種の航空機を搭載している場合には、機種ごとの機体特性(癖・違い・個体差)が生じることから、航空機の機種ごとに1人以上のベテランパイロットによる上記したような各種の操縦技能の測定データを、記憶部120の学習段階評価基準データベース120aに記憶しておくこととしてもよい。
【0027】
そして、学習段階特定部104は、記憶部120の学習段階評価基準データベース120aに記憶されたベテランパイロットの操縦技能の測定データ(評価基準)と、記憶部120に記憶された対象者の操縦技能の測定データとの合致度に基づいて対象者の学習段階を特定(判定)する(ステップS102)。
【0028】
具体的には、学習段階特定部104は、記憶部120に記憶された対象者に係る各種の操縦技能の測定データの中から、所望の操縦技能の測定データを抽出する。また、学習段階特定部104は、記憶部120の学習段階評価基準データベース120aに記憶されたベテランパイロットに係る各種操縦技能の測定データの中から、上記抽出を行ったものと同種の操縦技能の測定データを抽出する。
【0029】
そして、学習段階特定部104は、抽出した対象者に係る操縦技能の測定データの定量化と、抽出したベテランパイロットに係る操縦技能の測定データの定量化とを行う。そして、学習段階特定部104は、定量化して抽出した対象者に係る操縦技能の測定データと、定量化して抽出したベテランパイロットに係る操縦技能の測定データとを比較し、両者の合致度に基づいて抽出した操縦技能の測定データに係る学習段階を特定する。なお、ベテランパイロットの視線に係る操縦技能の測定データの定量化については、予め行って記憶部120の学習段階評価基準データベース120aに記憶しておくこととしてもよい。
【0030】
操縦技能の測定データの定量化については、具体的には、例えば、学習段階特定部104は、航空機のシミュレータ121の操作中の視線に関する学習段階を特定するために、特徴量を可視化・画像化する一次処理等によって、航空機のシミュレータ121の操作中の操縦者の一定時間内における視点の滞留時間の長短を示す画像データを生成することによって、視線に関する操縦技能の測定データの定量化を行う。
【0031】
図3は、航空機のシミュレータ121の操作中の視線の測定データにおける特徴量を可視化・画像化する一次処理を行った場合に得られる画像データの一例を説明するための図である。
図3(a)は、学習段階が自動化段階であるベテランパイロットの場合を示し、
図3(b)は、学習段階が認知段階である初心者パイロットの場合を示している。ここでは、色が濃い領域130ほど操縦者の視点の滞留時間が長いことを示している。
【0032】
図3(a)に示すように、ベテランパイロットは、操縦中の視線が広い領域130に向けられている。一方、
図3(b)に示すように、初心者パイロットは、操縦中の視線がベテランパイロットに比べて狭い領域130にだけしか向けられていない。そのため、
図3(a)に示す画像データと、
図3(b)に示す画像データとでは、領域130の合致度が比較的低くなる。そして、初心者パイロットの操縦技能が向上し、学習段階が進むにつれて、領域130の合致度が徐々に高くなっていく。
【0033】
学習段階特定部104は、記憶部120の学習段階評価基準データベース120aに記憶されたベテランパイロットの航空機のシミュレータ121の操作中の視線に係る操縦技能の測定データに基づいて生成された画像データ(基準画像データ)を評価基準として、この評価基準に対する対象者の航空機のシミュレータ121の操作中の視線に係る操縦技能の測定データに基づいて生成された画像データの合致度に基づいて、対象者の航空機のシミュレータ121の操作中の視線に関する学習段階を特定する。さらに、本実施例では、学習段階に応じて複数設けられたスコアのいずれかに換算を行う。このとき、上記の合致度が高いほど、スコアが高くなるように換算を行う。
【0034】
上記では、航空機のシミュレータ121の操作中の視線に係る操縦技能の測定データに基づいて画像を生成することによって、対象者の視線に係る学習段階を特定する場合を一例として示したが、本発明はこれに限定されるものではない。すなわち、航空機のシミュレータ121を操作する対象者に係る操縦技能の測定データを分析することにより、対象者の学習段階を特定することができれば、具体的な方法については、特に限定されるものではない。
【0035】
また、学習段階特定部104は、対象者の操縦等の操縦技能の測定データのスペクトラム解析(またはウェーブレット解析等)、および、記憶部120に記憶されたベテランパイロットの操縦等の操縦技能の測定データのスペクトラム解析(またはウェーブレット解析等)を行って、操作部126の操作周期や量、レート等の分析を行い、対象者の操縦に係る学習段階を特定し、スコアへの換算を行う。具体的には、例えば、高度、速度、昇降率、旋回率、姿勢等の操縦に係る対象者の学習段階をそれぞれ特定し、スコアへの換算を行う。なお、学習段階の特定を行う対象の数については、これに限定されるものではない。また、ベテランパイロットの操縦等に係る操縦技能の測定データの定量化については、予め行って記憶部120の学習段階評価基準データベース120aに記憶しておくこととしてもよい。
【0036】
図4は、対象者の総合的な学習段階を説明するための説明図である。
図4に示すように、学習段階特定部104は、上記のようにして特定した対象者の視線および操縦に係る学習段階に基づいて換算されたスコアに基づいて、対象者の総合的な学習段階を特定する。本実施例では、総合的な学習段階を特定するために、特定した対象者の視線および操縦に係る学習段階に基づいて換算されたそれぞれのスコアを掛け合わせて、総合的な学習段階のスコア(最大100点)を特定する。なお、特定した対象者の視線および操縦に係る学習段階に基づいて換算されたそれぞれのスコアを単純に掛け合わせるのではなく、各項目に重みづけをしたうえで掛け算を行い、総合的な学習段階のスコアを特定することとしてもよい。あるいは、単純に各項目のスコアを足し合わせて、総合的な学習段階のスコアを特定することとしてもよい。
【0037】
図5は、記憶部120の訓練カリキュラムデータベース120bに記憶された学習段階に応じたカリキュラムを説明するための図である。
図5に示すように、本実施例では、総合的な学習段階のスコアの合計が0~30点である場合には、総合的な学習段階が認知段階であると特定し、総合的な学習段階のスコアの合計が31点~70点である場合には、総合的な学習段階が連合段階であると特定し、総合的な学習段階のスコアの合計が71点~100点である場合には、総合的な学習段階が自動化段階であると特定する。ただし、
図5に示した総合的な学習段階のスコアの合計と、総合的な学習段階の「認知段階」、「連合段階」、および、「自動化段階」との対応付けの具体的な点数配分は一例であり、これに限定されるものではない。例えば、総合的な学習段階のスコアの合計が0~40点である場合には、総合的な学習段階が認知段階であると特定し、総合的な学習段階のスコアの合計が41点~70点である場合には、総合的な学習段階が連合段階であると特定し、総合的な学習段階のスコアの合計が81点~100点である場合には、総合的な学習段階が自動化段階であると特定してもよい。あるいは、総合的な学習段階のスコアを特定すること自体を学習段階の特定として扱い、総合的な学習段階のスコアの合計の、総合的な学習段階の「認知段階」、「連合段階」、および、「自動化段階」のいずれかへの対応付けは行わずともよい。
【0038】
次に、学習段階特定部104および教示情報設定部106は、学習段階特定部104によって特定された学習段階(総合的な学習段階のスコアの合計)に応じたカリキュラムを選択する(
図2のステップS104)。上記のように、総合的な学習段階は大まかに3段階設けられているが、本実施例では、3段階の学習段階を総合的な学習段階のスコアに応じてさらに細分化して、これに応じたカリキュラムが設定されている。本実施例では、ID:AAA~ID:AAJに対応した10種類のカリキュラムが設けられている。
【0039】
教示情報設定部106は、学習段階特定部104によって特定された総合的な学習段階のスコアに基づいて、記憶部120の訓練カリキュラムデータベース120bに記憶された
図5に示すカリキュラムを参照して、航空機のシミュレータ121において対象者に対して提示する教示情報および教示方法を決定する。本実施例では、教示情報がA~Dの4段階設けられている。
【0040】
図6は、航空機のシミュレータ121の表示部122の表示内容を説明するための図である。
図6(a)に示すように、表示部122上に表示される教示情報としては、飛行計画に対する経路情報200、地形情報202(地形画像、地形の名称、位置のマーク)、操作手順情報204(高度、速度、タイミング、飛行計画に対する逸脱量や修正方法の表示)、音声指示情報206(飛行計画に対する良否、注意事項、警告)等が設けられている。
【0041】
本実施例では、教示情報の段階がD~Aへと上がるにつれて、航空機のシミュレータ121の表示部122において対象者に対して提示する教示情報の量が減少するように、設定されている。具体的には、例えば、経路情報200については、
図6(a)に示すように経路を線で表示していたものが、
図6(b)に示すように、経路をポイントで表示するようになり、
図6(c)に示すように、経路情報200を表示しなくなるように、教示情報の段階がD~Aへと上がるにつれて、航空機のシミュレータ121の表示部122において段階的に経路情報200が制限される。
【0042】
また、地形情報202については、
図6(a)に示すように、地形画像(山や滑走路の画像)に合わせて山の名前等の情報や地上目標のマークを表示していたものが、
図6(b)に示すように、地形画像および地上目標のマークのみとなり、
図6(c)に示すように、地形画像のみとなるように、教示情報の段階がD~Aへと上がるにつれて、航空機のシミュレータ121の表示部122において段階的に地形情報202が制限される。
【0043】
また、操作手順情報204については、
図6(a)に示すように、すべての操作手順情報204が表示されていたものが、
図6(b)に示すように、操作手順情報204が一部のみとなり、
図6(c)に示すように、操作手順情報204が表示されなくなるように、教示情報の段階がD~Aへと上がるにつれて、段階的に操作手順情報204が制限される。すなわち、教示情報の段階がD~Aへと上がるにつれて、航空機のシミュレータ121の表示部122において表示される操作手順情報204の個数が減少する。
【0044】
また、音声指示情報206については、
図6(a)では、すべての音声指示情報206(飛行計画に対する良否、注意事項、警告)が音声出力部124から出力されていたものが、
図6(b)、
図6(c)では、音声指示情報206(警告)のみ出力されるように、教示情報の段階がD~Aへと上がるにつれて、段階的に音声出力部124から出力される音声指示情報206が制限される。すなわち、教示情報の段階がD~Aへと上がるにつれて、音声出力部124から音声指示情報206が出力される頻度が減少する。
【0045】
また、練習方法設定部108は、学習段階特定部104によって特定された総合的な学習段階のスコアに基づいて、記憶部120の訓練カリキュラムデータベース120bに記憶された
図5に示すカリキュラムを参照して、航空機のシミュレータ121における対象者の練習方法を設定する。本実施例では、練習方法がA~Jの10段階設けられている。練習方法としては、練習内容、練習時間、練習環境がそれぞれ複数設けられており、これらの組み合わせによって設定されている。例えば、練習内容としては、離陸用、航行用、着陸用、および、離陸から着陸までの4種類が設けられている。また、練習時間としては、短時間の練習を一定の休憩間隔を挟んで実行する場合や、休憩を挟まずに長時間の練習を実行する場合等が設けられている。また、練習環境としては、晴天時、曇天時、雨天時、他機の接近時等が設けられている。そして、練習方法の段階がJ~Aへと上がるにつれて、練習内容、練習時間、練習環境の組み合わせによる難易度が上昇するように練習内容、練習時間、練習環境のうち少なくともいずれかの内容が変更されるように設定されている。
【0046】
そして、教示情報設定部106が設定した教示情報の段階と、練習方法設定部108が設定した練習方法の段階とに基づいたカリキュラムで、制御部102は、航空機のシミュレータ121における対象者の訓練を実施する(
図2のステップS106)。対象者の訓練を実施する際には、学習段階特定部104は、上記したような各種の操縦技能の測定データを記憶部120へ記憶する。
【0047】
そして、設定されたカリキュラムに基づく対象者の訓練が終了すると、学習段階特定部104は、訓練終了の際の対象者の学習段階を特定する(
図2のステップS108)。このとき、対象者の訓練の実施中に記憶部120へ記憶した操縦技能の測定データに基づいて、訓練終了の際の対象者の学習段階(総合的な学習段階のスコアの合計)を特定する。または、訓練終了後に、対象者の学習段階を特定するための所定の内容のシミュレーションを実施して、対象者の視線、操縦操作を測定した測定データを記憶部120に記憶し、この操縦技能の測定データに基づいて、訓練終了の際の対象者の学習段階(総合的な学習段階のスコアの合計)を特定してもよい。
【0048】
制御部102は、予め設定された終了条件が成立しているか判定し(ステップS110)、終了条件が成立している場合(ステップS110のYES)には、当該処理を終了する。なお、終了条件としては、訓練終了の際の対象者の学習段階(総合的な学習段階のスコアの合計)が所定の段階または所定のスコアとなった場合や、対象者の訓練時間の合計が予め設定された所定時間に到達した場合等を設定することができる。ただし、終了条件の具体的な内容についてはこれに限定されるものではない。
【0049】
一方、終了条件が成立していない場合(ステップS110のNO)には、ステップS104に処理が移り、訓練終了の際の対象者の学習段階(総合的な学習段階のスコアの合計)に基づいて、学習段階特定部104および教示情報設定部106がカリキュラムの選択を行い(
図2のステップS104)、その後、上記と同様にして
図2のステップS104~ステップS110の処理を終了条件が成立するまでを繰り返し行う。
【0050】
このようにして、対象者の学習段階の特定と、学習段階に応じたカリキュラムの実施のサイクルを繰り返すことで、対象者の学習段階にふさわしいカリキュラムを効率的に実施することができる。これにより、テクニカルスキルの学習段階を早期に自動化段階へと到達させることが可能となるため、ノンテクニカルスキルの習得のために学習時間を有効に使え、効率的な操縦訓練や飛行訓練を実現できる。そして、パイロットの訓練効率が向上すると、各種スキルの上達速度が上昇することから、航空機のパイロットの技能的な要因による罷免率の低減を図ることが可能となる。
【0051】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明はかかる実施形態に限定されないことは言うまでもない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された範疇において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【0052】
なお、上記実施例で示した操縦技能の測定データの種類はあくまでも例示であって、本発明はこれに限定されるものではない。
【0053】
また、上記実施例で航空機のシミュレータ121のカリキュラムを設定することに合わせて、航空機の実機での練習のカリキュラムを設定することとしてもよい。この場合、学習段階特定部104によって特定された学習段階(総合的な学習段階のスコアの合計)が高くなるにつれて、航空機の実機での練習時間が長くなるように、または、練習難易度が高くなるようにしてもよい。
【0054】
また、上記実施例で航空機のシミュレータ121のカリキュラムを設定することに合わせて、航空機の操縦に関する講習のカリキュラムを設定することとしてもよい。この場合、学習段階特定部104によって特定された学習段階(総合的な学習段階のスコアの合計)が高くなるにつれて、講習の時間が短くなるように、または、講習の内容の難易度が高くなるようにしてもよい。
【0055】
また、上記実施例では、航空機のシミュレータ121を操作する対象者の視線または操縦操作を少なくとも含む操縦技能を測定および分析する場合について示したが、本発明はこれに限定されるものではない。すなわち、制御部102が測定データの測定を行う視線計測装置等の各種の測定装置を航空機の実機へ搭載することとしてもよい。そして、航空機の実機を操作する対象者の視線または操縦操作を少なくとも含む操縦技能を測定および分析することにより、対象者の学習段階を特定することとしてもよい。さらに、上記実施例における表示部122および音声出力部124を航空機の実機へ搭載してもよい。これにより、航空機の実機において、上記実施例における教示情報を対象者に対して提示することが可能となる。この場合、練習方法設定部108は、練習方法を設定する際に、特定された学習段階に応じて、航空機の実機における練習内容、練習時間、練習環境のうち少なくともいずれかを変更可能とすることができる。
【0056】
また、上記実施例では、航空機のシミュレータ121を制御する制御部102が、学習段階特定部104、教示情報設定部106、練習方法設定部108としても機能する場合を示したが、航空機のシミュレータ121を制御する制御部102に、学習段階特定部104、教示情報設定部106、練習方法設定部108として機能するパーソナルコンピュータ等を接続して構成することとしてもよい。
【符号の説明】
【0057】
100 パイロット教育システム
104 学習段階特定部
106 教示情報設定部
108 練習方法設定部
121 シミュレータ
122 表示部
120 記憶部