(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-02-12
(45)【発行日】2025-02-20
(54)【発明の名称】マスクブランク、反射型マスク、および半導体デバイスの製造方法
(51)【国際特許分類】
G03F 1/24 20120101AFI20250213BHJP
G03F 1/26 20120101ALI20250213BHJP
C23C 14/06 20060101ALI20250213BHJP
【FI】
G03F1/24
G03F1/26
C23C14/06 A
(21)【出願番号】P 2021028240
(22)【出願日】2021-02-25
【審査請求日】2023-12-25
(73)【特許権者】
【識別番号】000113263
【氏名又は名称】HOYA株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000925
【氏名又は名称】弁理士法人信友国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】谷口 和丈
【審査官】坂上 大貴
(56)【参考文献】
【文献】特開2021-174003(JP,A)
【文献】国際公開第2015/030159(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/204051(WO,A1)
【文献】国際公開第2021/161792(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G03F 1/24
G03F 1/26
C23C 14/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板の主表面上に、多層反射膜およびパターン形成用の薄膜をこの順に備えるマスクブランクであって、
前記薄膜は、
タンタル、ニオブ、および窒素を含み、
前記薄膜に対してX線回折法のOut-of-Plane測定による分析を行って得られたX線回折パターンは、回折角度2θが34度から36度の範囲での回折強度の最大値をImax1、回折角度2θが32度から34度の範囲での回折強度の平均値をIavg1、回折角度2θが40度から42度の範囲での回折強度の最大値をImax2、回折角度2θが38度から40度の範囲での回折強度の平均値をIavg2としたとき、Imax1/Iavg1≦7.0、およびImax2/Iavg2≦1.0のうち、少なくとも何れかの関係を満たす
マスクブランク。
【請求項2】
前記薄膜は、前記X線回折パターンにおける30度以上50度以下の回折角度2θの範囲において、38度以下の回折角度2θで回折強度が最大値となる
請求項1に記載のマスクブランク。
【請求項3】
前記薄膜のタンタルおよびニオブの合計含有量[原子%]に対するニオブの含有量[原子%]の比率は、0.6未満である
請求項1または2に記載のマスクブランク。
【請求項4】
前記薄膜の窒素の含有量は、30原子%以下である
請求項1から3のうちの何れか1項に記載のマスクブランク。
【請求項5】
前記薄膜のタンタルおよびニオブの合計含有量[原子%]に対する窒素の含有量[原子%]の比率は、0.289以下である
請求項1から4のうちの何れか1項に記載のマスクブランク。
【請求項6】
前記薄膜におけるタンタル、ニオブ、および窒素の合計含有量は、95原子%以上である
請求項1から
5のうちの何れか1項に記載のマスクブランク。
【請求項7】
前記薄膜は、ホウ素を含有する
請求項1から
5のうちの何れか1項に記載のマスクブランク。
【請求項8】
前記薄膜におけるタンタル、ニオブ、ホウ素、および窒素の合計含有量は、95原子%以上である
請求項
7に記載のマスクブランク。
【請求項9】
前記薄膜の極端紫外線の波長における屈折率は、0.95以下である
請求項1から
8のうちの何れか1項に記載のマスクブランク。
【請求項10】
前記薄膜の極端紫外線の波長における消衰係数は、0.03以下である
請求項1から
9のうちの何れか1項に記載のマスクブランク。
【請求項11】
請求項1から10のうちの何れか1項に記載のマスクブランクにおける前記薄膜に転写パターンが形成された
反射型マスク。
【請求項12】
請求項
11に記載の反射型マスクを用い、半導体基板上のレジスト膜に転写パターンを露光転写する工程を備える
半導体デバイスの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体デバイスなどの製造に用いられる露光マスク用のマスクブランク、このマスクブランクを用いた反射型の露光マスクである反射型マスク、およびこの反射型マスクを用いた半導体デバイスの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体デバイスの製造における露光装置は、光源の波長を徐々に短くしながら進化してきている。より微細なパターン転写を実現するため、波長が13.5nm近傍の極端紫外線(EUV:Extreme Ultra Violet。以下、EUV光と称する)を用いたEUVリソグラフィーが開発されている。EUVリソグラフィーでは、EUV光に対して透明な材料が少ないことから、反射型マスクが用いられる。代表的な反射型マスクとして、反射型バイナリーマスクおよび反射型位相シフトマスク(反射型のハーフトーン位相シフトマスク)がある。
【0003】
反射型バイナリーマスクは、基板上に形成された高反射層の上部に、EUV光を十分吸収する比較的厚い吸収体パターンを有する。一方、反射型位相シフトマスクは、基板上に形成された高反射層の上部に、EUV光を光吸収により減光させ、且つ高反射層からの反射光に対して所望の位相が反転した反射光を発生させる比較的薄い吸収体パターン(位相シフトパターン)を有する。
【0004】
以上のようなEUVリソグラフィー用の反射型マスク、およびこれを作製するためのマスクブランクに関連する技術が下記特許文献1および2に記載されている。
【0005】
特許文献1には、上述した吸収体パターンに相当する低反射部が、Ta(タンタル)及びNb(ニオブ)を有し、さらに、Si(シリコン)、O(酸素)又はN(窒素)の何れかを有すると記載されている。この低反射部については、低反射性を有し多層構造を有する下層吸収膜及び上層吸収膜を備えており、露光光であるEUV光を吸収する機能を有するのは主として下層吸収膜である、と記載されている。そして、特許文献1には、TaとNbからなる下層吸収膜と、SiNからなる上層吸収膜を製膜した実施例が記載されている。
【0006】
特許文献2には、上述した吸収体パターンを構成する吸収膜に関し、Taと窒素(N)を含有する吸収膜について、X線回折のパターンにおいてタンタル系材料に由来するピークのピーク回折角2θが36.8deg以上であり、該タンタル系材料に由来するピークの半値幅が1.5deg以上であることで、ドライエッチング処理時において、十分なエッチング速度を達成できると記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2010-67757号公報
【文献】特開2019-35929号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、EUVリソグラフィーでは、反射型マスクに対して露光光であるEUV光が斜めから入射される。このため、シャドーイング効果と呼ばれる固有の問題が発生する。シャドーイング効果とは、立体構造を持つ吸収体パターンに対して露光光(EUV光)が斜めから入射されることにより影ができ、転写されるパターンの寸法や位置が変わる現象のことである。このシャドーイング効果を抑制するためには、反射型マスクの原版となるマスクブランクにおける吸収体膜を薄膜化し、これによって吸収体パターンを薄型化する必要がある。
【0009】
しかしながら、吸収体膜は、露光光に対して所望の光学特性を有することが求められる。特に、反射型位相シフトマスクの場合においては、従来の吸収体膜を単に薄膜化するだけでなく、吸収体膜の露光光(EUV光)に対する屈折率[n]および消衰係数[k]をともに小さくする必要がある。このような光学特性にするために、吸収体膜を金属元素だけで形成することが考えられる。しかし、一般にそのような薄膜は結晶性が高く、表面粗さが大きくなる傾向がある。結晶性が高く表面粗さが大きい薄膜(吸収体膜)をエッチングすることで吸収体パターンを形成した場合には、吸収体パターンのエッジラフネスが大きくなる。この結果、吸収体パターンを有する反射型マスクを用いたEUVリソグラフィーにおいては、吸収体パターンの転写精度が大きく低下する。さらに、このような薄膜は、膜応力が大きい傾向がある。基板上に膜応力の大きな吸収体膜が形成されると、その基板に歪みが生じる。膜応力が大きな吸収体膜に対し、エッチングを行って吸収体パターンを形成した場合、基板上で吸収体パターンの移動が生じ、吸収体パターンの位置精度が大きく低下する。
【0010】
そこで本発明は、表面粗さと膜応力とが低く抑えられたパターン形成用の薄膜を有するマスクブランク、このマスクブランクを用いて形成される反射型マスク、およびこの反射型マスクを用いた半導体デバイスの製造方法を提供すること目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するため、本発明は以下の構成を有する。
【0012】
(構成1)
基板の主表面上に、多層反射膜およびパターン形成用の薄膜をこの順に備えるマスクブランクであって、
前記薄膜は、
タンタル、ニオブ、および窒素を含み、
前記薄膜に対してX線回折法のOut-of-Plane測定による分析を行って得られたX線回折パターンは、回折角度2θが34度から36度の範囲での回折強度の最大値をImax1、回折角度2θが32度から34度の範囲での回折強度の平均値をIavg1、回折角度2θが40度から42度の範囲での回折強度の最大値をImax2、回折角度2θが38度から40度の範囲での回折強度の平均値をIavg2としたとき、Imax1/Iavg1≦7.0、およびImax2/Iavg2≦1.0のうち、少なくとも何れかの関係を満たす
マスクブランク。
【0013】
(構成2)
前記薄膜は、前記X線回折パターンにおける30度以上50度以下の回折角度2θの範囲において、38度以下の回折角度2θで回折強度が最大値となる
構成1に記載のマスクブランク。
【0014】
(構成3)
前記薄膜のタンタルおよびニオブの合計含有量[原子%]に対するニオブの含有量[原子%]の比率は、0.6未満である
構成1または2に記載のマスクブランク。
【0015】
(構成4)
前記薄膜の窒素の含有量は、30原子%以下である
構成1から3のうちの何れか1項に記載のマスクブランク。
【0016】
(構成5)
前記薄膜におけるタンタル、ニオブ、および窒素の合計含有量は、95原子%以上である
構成1から4のうちの何れか1項に記載のマスクブランク。
【0017】
(構成6)
前記薄膜は、ホウ素を含有する
構成1から4のうちの何れか1項に記載のマスクブランク。
【0018】
(構成7)
前記薄膜におけるタンタル、ニオブ、ホウ素、および窒素の合計含有量は、95原子%以上である
構成6に記載のマスクブランク。
【0019】
(構成8)
前記薄膜の極端紫外線の波長における屈折率は、0.95以下である
構成1から7のうちの何れか1項に記載のマスクブランク。
【0020】
(構成9)
前記薄膜の極端紫外線の波長における消衰係数は、0.03以下である
構成1から8のうちの何れか1項に記載のマスクブランク。
【0021】
(構成10)
基板の主表面上に、多層反射膜および転写パターンが形成された薄膜をこの順に備える反射型マスクであって、
前記薄膜は、タンタル、ニオブ、および窒素を含み、
前記薄膜に対してX線回折法のOut-of-Plane測定による分析を行って得られたX線回折パターンは、回折角度2θが34度から36度の範囲での回折強度の最大値をImax1、回折角度2θが32度から34度の範囲での回折強度の平均値をIavg1、回折角度2θが40度から42度の範囲での回折強度の最大値をImax2、回折角度2θが38度から40度の範囲での回折強度の平均値をIavg2としたとき、Imax1/Iavg1≦7.0、およびImax2/Iavg2≦1.0のうち、少なくとも何れかの関係を満たす
反射型マスク。
【0022】
(構成11)
前記薄膜は、前記X線回折パターンにおける30度以上50度以下の回折角度2θの範囲において、38度以下の回折角度2θで回折強度が最大値となる
構成10に記載の反射型マスク。
【0023】
(構成12)
前記薄膜のタンタルおよびニオブの合計含有量[原子%]に対するニオブの含有量[原子%]の比率は、0.6未満である
構成10または11に記載の反射型マスク。
【0024】
(構成13)
前記薄膜の窒素の含有量は、30原子%以下である
構成10から12のうちの何れか1項に記載の反射型マスク。
【0025】
(構成14)
前記薄膜におけるタンタル、ニオブ、および窒素の合計含有量は、95原子%以上である
構成10から13のうちの何れか1項に記載の反射型マスク。
【0026】
(構成15)
前記薄膜は、ホウ素を含有する
構成10から13のうちの何れか1項に記載の反射型マスク。
【0027】
(構成16)
前記薄膜におけるタンタル、ニオブ、ホウ素、および窒素の合計含有量は、95原子%以上である
構成15に記載の反射型マスク。
【0028】
(構成17)
前記薄膜の極端紫外線の波長における屈折率は、0.95以下である
構成10から16のうちの何れか1項に記載の反射型マスク。
【0029】
(構成18)
前記薄膜の極端紫外線の波長における消衰係数は、0.03以下である
構成10から17のうちの何れか1項に記載の反射型マスク。
【0030】
(構成19)
構成10から18のうちの何れか1項に記載の反射型マスクを用い、半導体基板上のレジスト膜に転写パターンを露光転写する工程を備える
半導体デバイスの製造方法。
【発明の効果】
【0031】
本発明によれば、表面粗さと膜応力とが低く抑えられたパターン形成用の薄膜を有するマスクブランク、このマスクブランクを用いて形成される反射型マスク、およびこの反射型マスクを用いた半導体装置の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【
図1】本発明の実施形態に係るマスクブランクの構成を示す断面図である。
【
図2】本発明の実施形態に係る反射型マスクの構成を示す断面図である。
【
図3】本発明の実施形態に係るマスクブランクの薄膜の物性を説明するためのX線回折パターンを示す図である。
【
図4】タンタル(Ta)-ニオブ(Nb)系材料の組成と、表面粗さおよび膜応力との関係を示すグラフ(その1)である。
【
図5】タンタル(Ta)-ニオブ(Nb)系材料の組成と、表面粗さおよび膜応力との関係を示すグラフ(その2)である。
【
図6】タンタル(Ta)-ニオブ(Nb)系材料の組成と、表面粗さおよび膜応力との関係を示すグラフ(その3)である。
【
図7】本発明の反射型マスクの製造方法を示す製造工程図である。
【
図8】実施例および比較例の薄膜の形成条件および形成された薄膜の物性および組成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0033】
以下、本発明の実施形態について説明するが、まず本発明に至った経緯について説明する。本発明者らは、反射型マスク用のマスクブランクにおけるEUV光吸収用の薄膜として、まずタンタル(Ta)にニオブ(Nb)を含有させた材料を用いることを考えた。しかしながら、このような材料で形成された薄膜は結晶性が高く、マスクブランクのEUV光吸収用の薄膜に求められるような、微結晶より好ましくは非晶質の膜質にすることは困難であった。
【0034】
そこで本発明者らは、タンタル(Ta)とニオブ(Nb)を含むEUV光吸収用の薄膜に対して、さらに窒素(N)を含有させることにより、膜の結晶性(表面粗さ)と膜応力をともに低下させることを試みた。しかし、薄膜におけるタンタル(Ta)とニオブ(Nb)と窒素(N)の組成(各含有量)に対する表面粗さと膜応力の傾向を調べたところ、相関性が高いとは言い難く、この組成を指標にして膜の表面粗さと膜応力を低減することは難しいことが分かった。その理由は、マスクブランクにおけるパターン形成用の薄膜はスパッタリング法によって形成されるが、スパッタリング法による成膜では、成膜室内の環境(スパッタガスの流量、スパッタガス圧力等)が、形成される薄膜の結晶性や膜応力に大きな影響を与えることに起因するものと推測される。
【0035】
しかし、薄膜の表面粗さと膜応力が好適な範囲になるように成膜室内の環境を特定しても、それはその成膜に使用した成膜装置に固有のパラメータであり、他の成膜装置に適用しても同じ特性が得られるとは限らない。さらに、成膜した各薄膜の表面粗さと膜応力を測定することは大きな労力が必要になるという問題がある。
【0036】
このため本発明者らは、これらの問題についてさらに鋭意研究を行った。その結果、薄膜に対して、X線回折法による測定を行って得られるX線回折パターンが、薄膜の表面粗さと膜応力の指標となることを、以下のようにして見出した。なお、X線パターンとは、各回折角度2θ[deg]に対するX線強度[CPS]を示すグラフであって、ここではOut-of-Plane測定による分析を行った場合のX線回折パターンであることとする。
【0037】
先ず、EUV光吸収用の薄膜について得られたX線回折パターンにおいて、三窒化四ニオブ(Nb4N3)に対応する回折角度2θの位置の近傍(34~36[deg]と40~42[deg])にそれぞれ発生する最大ピーク強度に着目した。しかしX線回折の強度は測定条件によって変動しやすく、そのままでは指標として用いにくい。そこでさらに検討した結果、三窒化四ニオブ(Nb4N3)に対応する回折角度2θの位置の近傍に発生する最大ピーク強度[Imax]を、三窒化四ニオブ(Nb4N3)に対応するピークの影響が比較的小さい回折角度2θ[deg]の領域における各X線強度[CPS]の平均値[Iavg]によって除した比率を指標に用いればよいという考えに至った。
【0038】
上記指標として用いられる比率は、2つある。そのうちの一つ目の比率は、三窒化四ニオブ(Nb4N3)に対応する回折角度2θの位置の近傍(34~36[deg])の範囲での最大ピーク強度[Imax1]を、32~34[deg]の範囲の強度の平均値[Iavg1]で除した比率[Imax1/Iavg1]である。また二つ目の比率は、三窒化四ニオブ(Nb4N3)に対応する回折角度2θの位置の近傍(40~42[deg])の範囲での最大ピーク強度[Imax2]を、38~40[deg]の範囲の強度の平均値[Iavg2]で除した比率[Imax2/Iavg2]である。これらの2つの比率は、独立して用いられ、少なくとも一方を指標として用いればよく、両方を指標として用いてもよい。
【0039】
薄膜のX線回折パターンから得られる上記2つの比率と、その薄膜の表面粗さと膜応力との関係を調べたところ、一つ目の比率[Imax1/Iavg1]は7.0以下、二つ目の比率[Imax2/Iavg2]は1.0以下が好ましい範囲であることがわかった。さらに薄膜は、X線回折パターンにおける2つの比率[Imax1/Iavg1]および比率[Imax2/Iavg2]の条件の両方を満たす必要はなく、何れか一方を満たせば、その薄膜の表面粗さと膜応力はともに十分に低減できることがわかった。
【0040】
ここで、上述した十分に低減できるとは、表面粗さであれば、例えば二乗平均平方根粗さ[Sq]=0.3[nm]未満である。この二乗平均平方根粗さ(以下、これを表面粗さ[Sq]と称する)は、原子間力顕微鏡(atomic force microscope:AFM)で一辺が1[μm]の四角形の領域を測定領域として測定した値である。また膜応力は、この薄膜を形成することによって生じる基板の変形量(基板そり量)が200[nm]以下である。基板の変形量は、薄膜の表面形状と薄膜を形成する前の基板の表面形状との差分形状を算出し、その差分形状の基板の中心を基準とする一辺が142[mm]の四角形の内側領域での最大高さと最小高さの差で表現されたものである。なお、二乗平均平方根粗さ[Sq]は、ISO25178で規定されている面粗さを評価するパラメータであり、これまでISO4287、JIS B0601で規定されていた二次元的な表面性状を表す線粗さのパラメータ[Rq](線の二乗平均平方根粗さ)を三次元(面)に拡張したパラメータである。計算式は、下記式(1)のように表される。
【0041】
【0042】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しながら具体的に説明する。なお、以下の実施形態は、本発明を具体化する際の一形態であって、本発明をその範囲内に限定するものではない。また図中において、同一または相当する部分には同一の符号を付してその説明を簡略化ないし省略することがある。
【0043】
≪マスクブランクおよび反射型マスク≫
図1は、本発明の実施形態に係るマスクブランク100の構成を示す断面図である。この図に示すマスクブランク100は、EUV光を露光光とするEUVリソグラフィー用の反射型マスクの原版である。また
図2は、本発明の実施形態に係る反射型マスク200の構成を示す断面図であって、
図1に示したマスクブランク100を加工して製造されたものである。以下、これらの
図1および
図2を用いて、実施形態に係るマスクブランク100および反射型マスク200の構成を説明する。
【0044】
図1に示すマスクブランク100は、基板1と、基板1の一方側の主表面1a上に基板1側から順に積層された、多層反射膜2、保護膜3、および薄膜4とを有している。薄膜4は、加工によって転写パターンが形成される膜である。またマスクブランク100は、薄膜4上に、必要に応じてエッチングマスク膜5を設けた構成であってもよい。このマスクブランク100は、基板1の他方側の主表面(以下、裏面1bと記す)上に、導電膜10を有している。
【0045】
また
図2に示す反射型マスク200は、
図1に示すマスクブランク100における薄膜4を転写パターン4aとしてパターニングしたものである。以下、マスクブランク100および反射型マスク200を構成する各部の詳細を、
図1および
図2に基づいて説明する。
【0046】
<基板1>
基板1は、反射型マスク200を用いたEUV光による露光(EUV露光)時の発熱による転写パターン4aの歪みを防止するため、0±5ppb/℃の範囲内の低熱膨張係数を有するものが好ましく用いられる。この範囲の低熱膨張係数を有する素材としては、例えば、SiO2-TiO2系ガラス、多成分系ガラスセラミックス等を用いることができる。なお、転写パターン4aとは、上述したように薄膜4の加工によって形成されたパターンである。
【0047】
基板1の主表面1aは、反射型マスク200を用いたEUV露光においてのパターン転写精度、位置精度を得る観点から高平坦度となるように表面加工されている。EUV露光の場合、基板1の主表面1aにおける132mm×132mmの領域において、平坦度が0.1μm以下であることが好ましく、更に好ましくは0.05μm以下、特に好ましくは0.03μm以下である。
【0048】
また基板1の裏面1bは、露光装置に反射型マスク200をセットするときに静電チャックされる面であって、132mm×132mmの領域において、平坦度が0.1μm以下であることが好ましく、更に好ましくは0.05μm以下、特に好ましくは0.03μm以下である。なお、マスクブランク100における裏面1bは、142mm×142mmの領域において、平坦度が1μm以下であることが好ましく、さらに好ましくは0.5μm以下、特に好ましくは0.3μm以下である。
【0049】
また、基板1の表面平滑度の高さも極めて重要な項目である。基板1の主表面1aの表面粗さは、二乗平均平方根粗さ[Sq]で0.1nm以下であることが好ましい。なお、表面平滑度は、原子間力顕微鏡で測定することができる。
【0050】
さらに基板1は、主表面1aおよび裏面1bに形成される膜の膜応力による変形を抑制するために、高い剛性を有していることが好ましい。特に、基板1は、65GPa以上の高いヤング率を有していることが好ましい。
【0051】
<多層反射膜2>
多層反射膜2は、主表面1aに形成され、露光光であるEUV光を高い反射率で反射する。この多層反射膜2は、このマスクブランク100を用いて形成される反射型マスク200において、EUV光を反射する機能を付与するものであり、屈折率の異なる元素を主成分とする各層が周期的に積層された多層膜である。
【0052】
一般的には、高屈折率材料である軽元素またはその化合物の薄膜(高屈折率層)と、低屈折率材料である重元素またはその化合物の薄膜(低屈折率層)とが交互に40から60周期程度積層された多層膜が、多層反射膜2として用いられる。多層膜は、基板1側から高屈折率層と低屈折率層をこの順に積層した高屈折率層/低屈折率層の積層構造を1周期として複数周期積層してもよい。また、多層膜は、基板1側から低屈折率層と高屈折率層をこの順に積層した低屈折率層/高屈折率層の積層構造を1周期として複数周期積層してもよい。なお、多層反射膜2の最表面の層、すなわち多層反射膜2の基板1と反対側の表面層は、高屈折率層とすることが好ましい。上述の多層膜において、基板1から高屈折率層と低屈折率層をこの順に積層した高屈折率層/低屈折率層の積層構造を1周期として複数周期積層する場合は、最上層が低屈折率層となる。この場合、低屈折率層が多層反射膜2の最表面を構成すると容易に酸化されてしまい、反射型マスク200の反射率が減少する。そのため、最上層の低屈折率層上に、高屈折率層を更に形成して多層反射膜2とすることが好ましい。一方、上述の多層膜において、基板1側から低屈折率層と高屈折率層をこの順に積層した低屈折率層/高屈折率層の積層構造を1周期として複数周期積層する場合は、最上層が高屈折率層となるので、そのままでよい。
【0053】
本実施形態において、高屈折率層としては、ケイ素(Si)を含む層が採用される。Siを含む材料としては、Si単体の他に、Siに、ホウ素(B)、炭素(C)、窒素(N)、および酸素(O)を含むSi化合物を用いることができる。Siを含む層を高屈折率層として使用することによって、EUV光の反射率に優れたEUVリソグラフィー用の反射型マスク200が得られる。また、本実施形態において基板1としてはガラス基板が好ましく用いられる。Siはガラス基板との密着性においても優れている。また、低屈折率層としては、モリブデン(Mo)、ルテニウム(Ru)、ロジウム(Rh)、および白金(Pt)から選ばれる金属単体、またはこれらの合金が用いられる。例えば波長13nmから14nmのEUV光に対する多層反射膜2としては、好ましくはMo膜とSi膜を交互に40から60周期程度積層したMo/Si周期積層膜が用いられる。なお、多層反射膜2の最上層である高屈折率層をケイ素(Si)で形成してもよい。
【0054】
多層反射膜2の単独での反射率は、通常65%以上であり、上限は通常73%である。なお、多層反射膜2の各構成層の膜厚および周期は、露光波長により適宜選択すればよく、ブラッグ反射の法則を満たすように選択される。多層反射膜2において高屈折率層および低屈折率層はそれぞれ複数存在するが、高屈折率層同士、そして低屈折率層同士の膜厚が同じでなくてもよい。また、多層反射膜2の最表面のSi層の膜厚は、反射率を低下させない範囲で調整することができる。最表面のSi層(高屈折率層)の膜厚は、3nmから10nmの範囲にすることができる。
【0055】
多層反射膜2の形成方法は当該技術分野において公知である。例えばイオンビームスパッタリング法により、多層反射膜2の各層を成膜することで形成できる。上述したMo/Si周期多層膜の場合、例えばイオンビームスパッタリング法により、先ずSiターゲットを用いて厚さ4.2nm程度のSi膜を基板1上に成膜する。その後Moターゲットを用いて厚さ2.8nm程度のMo膜を成膜する。このSi膜/Mo膜を1周期として、40から60周期積層して、多層反射膜2を形成する(最表面の層はSi層とする)。なお、例えば、多層反射膜2を60周期とした場合、40周期より工程数は増えるが、EUV光に対する反射率を高めることができる。また、多層反射膜2の成膜の際に、イオン源からクリプトン(Kr)イオン粒子を供給して、イオンビームスパッタリングを行うことにより多層反射膜2を形成することが好ましい。
【0056】
<保護膜3>
保護膜3は、このマスクブランク100を加工してEUVリソグラフィー用の反射型マスク200を製造する際に、エッチングおよび洗浄から多層反射膜2を保護するために設けられた膜である。この保護膜3は、多層反射膜2の上に、多層反射膜2に接してまたは他の膜を介して設けられる。また、保護膜3は、反射型マスク200において、電子線(EB)を用いて転写パターン4aの黒欠陥を修正する際に多層反射膜2を保護する役割も兼ね備える。
【0057】
ここで、
図1および
図2では、保護膜3が1層の場合を示しているが、保護膜3を2層以上の積層構造とすることもできる。保護膜3は、薄膜4をパターニングする際に使用するエッチャント、および洗浄液に対して耐性を有する材料で形成される。多層反射膜2の上に保護膜3が形成されていることにより、多層反射膜2および保護膜3を有する基板1を用いて反射型マスク200を製造する際の、多層反射膜2の表面へのダメージを抑制することができる。そのため、多層反射膜2のEUV光に対する反射率特性が良好となる。
【0058】
以下では、保護膜3が、1層の場合を例に説明する。なお、保護膜3が複数層含む場合には、薄膜4との関係において、保護膜3の最上層(薄膜4に接する層)の材料の性質が重要になる。
【0059】
本実施形態のマスクブランク100では、保護膜3の材料として、保護膜3の上に形成される薄膜4をパターニングするためのドライエッチングに用いられるエッチングガスに対して、耐性のある材料を選択することができる。
【0060】
保護膜3は、ルテニウム(Ru)を含有することが好ましい。保護膜3の材料は、Ru金属単体でもよいし、ルテニウム(Ru)にチタン(Ti)、ニオブ(Nb)、モリブデン(Mo)、ジルコニウム(Zr)、イットリウム(Y)、ロジウム(Rh)、ホウ素(B)、ランタン(La)、コバルト(Co)、及びレニウム(Re)などから選択される少なくとも1種の金属を含有したRu合金であってよく、窒素を含んでいても構わない。一方、保護膜3は、ケイ素(Si)、ケイ素(Si)および酸素(O)を含む材料、ケイ素(Si)および窒素(N)を含む材料、ケイ素(Si)、酸素(O)および窒素(N)を含む材料などのケイ素系材料から選択した材料を使用することもできる。
【0061】
EUVリソグラフィーでは、露光光であるEUV光に対して透明な物質が少ない。このため、反射型マスク200における転写パターン4aの形成面側に、異物付着を防止する防塵マスク(EUVペリクル)を配置することが技術的に困難である。このことから、防塵マスクを用いないペリクルレス運用が主流となっている。また、EUVリソグラフィーでは、EUV露光によって反射型マスク200にカーボン膜が堆積する、あるいは酸化膜が成長するといった露光コンタミネーションが起こる。そのため、反射型マスク200を半導体デバイスの製造に使用している段階で、度々洗浄を行ってマスク上の異物やコンタミネーションを除去する必要がある。このため、反射型マスク200では、通常の光リソグラフィー用の透過型マスクに比べて桁違いのマスク洗浄耐性が要求されており、反射型マスク200が保護膜3を有することにより、洗浄液に対する洗浄耐性を高くすることができるのである。
【0062】
保護膜3の膜厚は、多層反射膜2を保護するという機能を果たすことができる限り特に制限されない。EUV光の反射率の観点から、保護膜3の膜厚は、好ましくは1.0nm以上8.0nm以下、より好ましくは1.5nm以上6.0nm以下である。
【0063】
保護膜3の形成方法としては、公知の膜形成方法と同様のものを特に制限なく採用することができる。具体例としては、各種スパッタリング法、例えば、DCスパッタリング法、RFスパッタリング法、およびイオンビームスパッタリング法のほか、原子層堆積法(atomic layer deposition:ALD)法などが挙げられる。
【0064】
<薄膜4および転写パターン4a>
薄膜4は、EUV光を吸収する吸収体膜として用いられる膜であって、このマスクブランク100を用いて構成される反射型マスク200の転写パターン4aの形成用の膜となる。転写パターン4aは、この薄膜4をパターニングしてなる。本実施形態において、このようなマスクブランク100の薄膜4は、少なくともタンタル(Ta)、ニオブ(Nb)、および窒素(N)を含む。またこの薄膜4は、少なくとも窒素(N)を含むタンタル(Ta)-ニオブ(Nb)系材料であって、その他の材料としては、例えばホウ素(B)を含有してもよい。
【0065】
このような薄膜4は、その結晶構造が微結晶質または非晶質であることが好ましく、後の実施例でも示すように、タンタル(Ta)-ニオブ(Nb)系材料に窒素(N)を含有させることにより、薄膜4の結晶性が低下することがわかった。しかしながら、結晶性の低下の度合いは、薄膜のタンタル(Ta)とニオブ(Nb)と窒素(N)の組成との相関が低いため、X線回折パターンよって薄膜4を定義する。
【0066】
すなわち、薄膜4は、X線回折法のOut-of-Plane測定によって得られるX線回折パターンが、下記物性(a)、(b)のうちの少なくとも何れか一方を満たす。
図3は、本発明の実施形態に係るマスクブランクの薄膜の物性を説明するためのX線回折パターンを示す図である。以下、
図3を参照して、薄膜4が有するX線回折に関する物性(a)、(b)を説明する。
【0067】
(a)X線回折パターンにおける回折角度2θが34度以上36度以下の範囲[A1]での回折強度の最大値を[Imax1]、回折角度2θが32度以上34度以下の範囲[A2]での回折強度の平均値を[Iavg1]としたとき、([Imax1]/[Iavg1])≦7.0である。範囲[A1]は、三窒化四ニオブ(Nb4N3)に対応する回折角度2θの位置の近傍の範囲である。範囲[A2]は、三窒化四ニオブ(Nb4N3)に対応するピークの影響が比較的小さい回折角度2θ[deg]の範囲である。
【0068】
(b)X線回折パターンにおける回折角度2θが40度以上42度以下の範囲[A3]での回折強度の最大値を[Imax2]、回折角度2θが38度以上40度以下の範囲[A4]での回折強度の平均値を[Iavg2]としたとき、([Imax2]/[Iavg2])≦1.0である。範囲[A3]は、三窒化四ニオブ(Nb4N3)に対応する回折角度2θの位置の近傍の範囲である。範囲[A4]は、三窒化四ニオブ(Nb4N3)に対応するピークの影響が比較的小さい回折角度2θ[deg]の範囲である。
【0069】
また薄膜4は、X線回折パターンにおける回折角度2θが30度以上50度以下の範囲においては、回折角度2θが38度以下の範囲で回折強度が最大値となることが好ましい。
【0070】
以上のような薄膜4は、スパッタリング法によって成膜され、成膜室内の環境(スパッタガスの流量、スパッタガス圧力等)の調整により、上述したX線回折に関する物性(a)、(b)のうちの少なくとも何れか一方を満たすものとなる。
【0071】
また以上のようなX線回折に関する物性を有する薄膜4は、以降の実施例で説明するように、表面粗さおよび膜応力が小さく抑えられたものとなる。具体的には、薄膜4は、膜厚50nm程度のものにおいて、表面粗さ[Sq](二乗平均平方根粗さ)=0.3[nm]未満のものとなる。この二乗平均平方根粗さ[Sq]は、テスト基板上に形成した薄膜に関し、原子間力顕微鏡(atomic force microscope:AFM)で一辺が1[μm]の四角形の領域を測定領域として測定した値である。また薄膜4の膜応力は、この薄膜4を形成することによって生じるテスト基板の変形量が200[nm]以下となる。テスト基板の変形量は、薄膜4の表面形状と薄膜4を形成する前のテスト基板の表面形状との差分形状を算出し、その差分形状のテスト基板の中心を基準とする一辺が142[mm]の四角形の内側領域での最大高さと最小高さの差で表現されたものである。なお、テスト基板は、マスクブランク100の基板1と同様のSiO2-TiO2系ガラスからなるもので、両側の主表面が研磨された6025サイズ(約152mm×152mm×6.35mm)のものである。
【0072】
また以上のようなX線回折に関する物性を有する薄膜4は、結晶性が低い、すなわち微結晶または非晶質の膜であるため、この薄膜4をパターニングして得られる反射型マスク200の転写パターン4aは、エッジラフネスが小さく抑えられたパターンとなる。さらに、上述したように膜応力が低い薄膜4をパターニングして得られる反射型マスク200の転写パターン4aは、形成位置精度が良好なパターンとなる。この結果、この反射型マスク200を用いたEUVリソグラフィーにおいて、パターンの転写精度の向上を図ることが可能となる。
【0073】
ここで
図4~
図6は、タンタル(Ta)-ニオブ(Nb)系材料の組成と、表面粗さおよび膜応力との関係を示すグラフ(その1)~(その3)である。
図4は、タンタル(Ta)-ニオブ(Nb)からなる薄膜に関するグラフであり、
図5および
図6は、窒素(N)を含有するタンタル(Ta)-ニオブ(Nb)からなる薄膜に関するグラフである。各グラフは、横軸が薄膜の組成を示し、左縦軸が表面粗さ[Sq](二乗平均平方根粗さ)を示し、右縦軸が上述した膜応力を示している。なお、各薄膜は、各グラフ中に示すタンタル(Ta):ニオブ(Nb)の組成比を有するターゲットを用いたスパッタリング成膜において、成膜に用いるガスの組成および流量を変更することで組成比を調整した。各薄膜は、膜厚50nmのものである。また各薄膜の組成比は、成膜後にX線光電子分光法(X-ray Photoelectron Spectroscopy:XPS)によって深さ方向に分析した組成比の平均値である。
【0074】
これらの
図4~
図6にみられるように、タンタル(Ta)-ニオブ(Nb)系材料からなる薄膜は、組成と、表面粗さおよび膜応力との間の相関が低く、組成を指標にして膜の表面粗さと膜応力を低減することは難しいことが分かる。
【0075】
なお、上述したX線回折に関する物性(a)、(b)の何れかを有する薄膜4は、以降の実施例で説明するように、タンタル(Ta)とニオブ(Nb)との合計含有量[原子%]に対するニオブ(Nb)の含有量[原子%]の比率が、0.6未満のものとなる。さらに、薄膜4の窒素(N)の含有量は、30原子%以下である。そして、薄膜4におけるタンタル(Ta)、ニオブ(Nb)、および窒素(N)の合計含有量は、95原子%以上のものとなる。さらに、薄膜4が、ホウ素(B)を含有する場合、薄膜4におけるタンタル(Ta)、ニオブ(Nb)、窒素(N)、およびホウ素(B)の合計含有量は、95原子%以上のものとなる。
【0076】
以上のような組成の薄膜4は、屈折率[n]および消衰係数[k]が低く抑えられたものとなる。また、窒素(N)を含有するタンタル(Ta)-ニオブ(Nb)系材料(TaNbN,TaNbBN)は、ニオブ(Nb)の含有量が増加するほど、消衰係数[k]が低くなる傾向にあることがわかる。
【0077】
そして、例えば上述したX線回折に関する物性および組成範囲の薄膜4は、EUV光の波長における屈折率[n]が、0.95以下のものとなる。さらに、薄膜4は、EUV光の波長における消衰係数[k]が、0.03以下のものとなる。このような薄膜4は、位相シフト膜として用いられ、反射型マスク200の転写パターン4aが位相シフトパターンである場合に、より薄い範囲に膜厚を設定することができる。したがって、反射型マスク200が位相シフトマスクである場合に、位相シフトパターンである転写パターン4aが薄型化され、反射型マスク200のシャドウイング効果の発生を抑えることができる。
【0078】
ここで、位相シフト膜として用いられる薄膜4は、以下のような反射率となるように膜厚が調整される。すなわち、反射型マスク200の転写パターン4aが位相シフトパターンである場合、この薄膜4は、位相シフト膜として構成される。このような薄膜4は、EUV光を吸収しつつ、パターン転写に悪影響がないレベルで一部のEUV光を反射させる。また、反射型マスク200における転写パターン4aの形成部においては、薄膜4が除去された開口部において保護膜3が露出した状態になっている。このため、反射型マスク200に照射されたEUV光は、薄膜4の表面と、薄膜4から露出している保護膜3を介して多層反射膜2とで反射される。
【0079】
そして、転写パターン4aが位相シフトパターンである場合、薄膜4は、薄膜4の表面におけるEUV光の反射光と、薄膜4が除去された開口部におけるEUV光の反射光とが、所望の位相差となるように、材質および膜厚が設定されている。この位相差は、130度から230度程度であり、180度近傍または220度近傍の反転した位相差の反射光同士がパターンエッジ部で干渉し合うことにより、投影光学像の像コントラストが向上する。その像コントラストの向上にともなって解像度が上がり、露光量裕度、および焦点裕度等の露光に関する各種の裕度が拡がる。
【0080】
このような位相シフト効果を得るためには、パターンや露光条件にもよるが、薄膜4の表面におけるEUV光に対する相対反射率は、2%~40%であることが好ましく、6%~35%であることがより好ましく、15%~35%であることがさらに好ましく、15%~25%であることが特に好ましい。ここで転写パターン4aの相対反射率とは、薄膜4のない部分で反射されるEUV光を反射率100%としたときの、薄膜4から反射されるEUV光の反射率である。
【0081】
パターンや露光条件にもよるが、位相シフト効果を得るために、薄膜4(または位相シフトパターンとなる転写パターン4a)のEUV光に対する絶対反射率は、4%~27%であることが好ましく、10%~17%であることがより好ましく、このような絶対反射率が得られるように、膜厚が設定されていることとする。
【0082】
また以上のような薄膜4は、膜厚を調整することにより、バイナリーマスク用の吸収体膜としても用いることができる。
【0083】
<エッチングマスク膜5>
エッチングマスク膜5は、マスクブランク100における薄膜4の上に、または薄膜4の表面に接して設けられた層であって、薄膜4をパターニングする際にマスクパターンとなる膜である。このエッチングマスク膜5は、反射型マスク200においては除去されて存在しない層である。
【0084】
このようなエッチングマスク膜5の材料としては、エッチングマスク膜5に対する薄膜4のエッチング選択比が高くなるような材料を用いる。ここで、「Aに対するBのエッチング選択比」とは、エッチングを行う必要がない層(マスクとなる層)であるAとエッチングを行う必要がある層であるBとのエッチングレートの比をいう。具体的には「Aに対するBのエッチング選択比=Bのエッチング速度/Aのエッチング速度」の式によって特定される。また、「選択比が高い」とは、比較対象に対して、上記定義の選択比の値が大きいことをいう。エッチングマスク膜5に対する薄膜4のエッチング選択比は、1.5以上が好ましく、3以上が更に好ましい。
【0085】
本実施形態における少なくともタンタル(Ta)、ニオブ(Nb)、および窒素(N)を含む材料で形成された薄膜4は、塩素系ガスによるドライエッチングによりエッチングが可能である。塩素系ガスをエッチャントとして用いたドライエッチングにおいて、Nを含有するTa-Nb系材料で形成された薄膜4に対して、エッチング選択比が高い材料としては、クロム(Cr)を含有する材料を例示することができる。クロム(Cr)を含有する材料の具体例としては、エッチングマスク膜を形成するクロムを含有する材料としては、例えば、クロムに、窒素、酸素、炭素およびホウ素から選ばれる一以上の元素を含有する材料等が挙げられる。例えば、CrN、CrON、CrCN、CrCON、CrBN、CrBON、CrBCNおよびCrBOCN等が挙げられる。これらの材料については、本発明の効果が得られる範囲で、クロム以外の金属を含有させてもよい。このようなエッチングマスク膜5の成膜方法は、例えばマグネトロンスパッタリング法またはイオンビームスパッタリング法により、クロム(Cr)のターゲットを使用して形成することができる。
【0086】
エッチングマスク膜5の膜厚は、転写パターンを精度よく薄膜4に形成するエッチングマスクとしての機能を得る観点から、2nm以上であることが望ましい。また、エッチングマスク膜5の膜厚は、マスクブランク100を加工して反射型マスク200を製造する際に、エッチングマスク膜5の上部に形成されるレジスト膜の膜厚を薄くする観点から、15nm以下であることが望ましい。
【0087】
<導電膜10>
導電膜10は、露光装置に対して反射型マスク200を静電チャック方式によって取り付けるための膜である。このような静電チャック用の導電膜10に求められる電気的特性(シート抵抗)は通常100Ω/□(Ω/Square)以下である。導電膜10の形成方法は、例えばマグネトロンスパッタリング法またはイオンビームスパッタリング法により、クロム(Cr)およびタンタル(Ta)等の金属および合金のターゲットを使用して形成することができる。
【0088】
導電膜10のクロム(Cr)を含む材料は、Crを含有し、更にホウ素(B)、窒素(N)、酸素(O)、および炭素(C)から選択した少なくとも一つを含有したCr化合物であることが好ましい。
【0089】
導電膜10のタンタル(Ta)を含む材料としては、Ta(タンタル)、Taを含有する合金、またはこれらの何れかにホウ素、窒素、酸素および炭素の少なくとも一つを含有したTa化合物を用いることが好ましい。
【0090】
導電膜10の厚さは、静電チャック用としての機能を満足する限り特に限定されない。導電膜10の厚さは、通常10nmから200nmである。また、この導電膜10はマスクブランク100の裏面1b側の応力調整も兼ね備えている。すなわち、導電膜10は、主表面1a側に形成された各種膜からの応力とバランスをとって、平坦なマスクブランク100および反射型マスク200が得られるように調整されている。
【0091】
<反射型マスクの製造方法>
図7は、本発明の反射型マスクの製造方法を示す製造工程図であって、
図1に示したマスクブランク100を用いて
図2に示した反射型マスク200を製造する手順を示す図である。以下、
図7に基づいて反射型マスクの製造方法を説明する。
【0092】
先ず、
図7(1)に示すように、マスクブランク100を用意する。このマスクブランク100は、
図1を用いて説明したマスクブランク100であり、例えば薄膜4上に、エッチングマスク膜5が形成されたものである。ただし、マスクブランク100がエッチングマスク膜5を有していないものであれば、薄膜4上にエッチングマスク膜5を成膜する。その後、エッチングマスク膜5上に、例えばスピン塗布によってレジスト膜20を成膜する。なお、マスクブランク100は、レジスト膜20を備えている場合もあり、この場合にはレジスト膜20の成膜手順は不要である。
【0093】
次に、
図7(2)に示すように、レジスト膜20に対してリソグラフィー処理を施すことにより、レジスト膜20をパターニングしてなるレジストパターン20aを形成する。このリソグラフィー処理においては、例えば電子線描画による露光と、現像処理、およびリンス処理を実施する。
【0094】
次に、
図7(3)に示すように、レジストパターン20aをマスクとしてエッチングマスク膜5をエッチングし、エッチングマスクパターン5aを形成する。その後、レジストパターン20aをアッシングやレジスト剥離液などで除去する。
【0095】
次に、
図7(4)に示すように、このエッチングマスクパターン5aをマスクとして、薄膜4をエッチングして転写パターン4aを形成する。この際、薄膜4の構成材料が、少なくとも窒素(N)を含むタンタル(Ta)-ニオブ(Nb)系材料であるため、エッチングガスとして酸素を含む塩素系ガス、または塩素系ガスを用いたエッチングを行う。このエッチングにおいては、ルテニウム(Ru)を含む材料または酸化シリコン(SiO
2)からなる保護膜3がエッチングストッパーとなり、多層反射膜2にエッチングダメージが加わることが防止され、また保護膜3自体もエッチング耐性を有するため、表面荒れが生じることもない。
【0096】
以上の後には、エッチングマスクパターン5aを除去することにより、
図2に示した反射型マスク200が得られる。なお、エッチングマスクパターン5aの除去には、酸性やアルカリ性の水溶液を用いたウェット洗浄を行う。このウェット洗浄においても、保護膜3によって多層反射膜2にダメージが加わることが防止される。
【0097】
以上のようにして得られる反射型マスク200の転写パターン4aは、表面粗さおよび膜応力が小さい薄膜4のエッチングによって形成されたものであるため、側壁ラフネスが小さく抑えられ、かつ形状精度および位置精度の良好なものとなる。またこの転写パターン4aを構成する薄膜4は、屈折率[n]および消衰係数[k]が小さい膜である。このため、転写パターン4aを位相シフトパターンとして用いた場合、転写パターン4aの膜厚を小さくすることができるため、シャドーイング効果の発生が抑えることが可能な反射型位相シフトマスクとなる。
【0098】
≪半導体デバイスの製造方法≫
本発明の半導体デバイスの製造方法は、先に説明した反射型マスク200を用い、基板上のレジスト膜に対して反射型マスク200の転写パターン4aを露光転写することを特徴としている。このような半導体デバイスの製造方法は、次のように行う。
【0099】
先ず、半導体デバイスを形成する基板を用意する。この基板は、例えば半導体基板であっても良いし、半導体薄膜を有する基板であっても良いし、さらにこれらの上部に微細加工膜が成膜されたものであっても良い。用意した基板上にレジスト膜を成膜し、このレジスト膜に対して、本発明の反射型マスク200を用いたパターン露光を行ない、反射型マスク200に形成された転写パターン4aをレジスト膜に露光転写する。この際、露光光としては、EUV光を用いることとする。
【0100】
以上の後、転写パターン4aが露光転写されたレジスト膜を現像処理してレジストパターンを形成し、このレジストパターンをマスクにして基板の表層に対してエッチング加工を施したり不純物を導入する処理を行う。処理が終了した後には、レジストパターンを除去する。
【0101】
以上のような処理を実施し、さらに必要な加工処理を行うことにより、半導体デバイスを完成させる。
【0102】
以上のような半導体デバイスの製造においては、形状精度が良好な転写パターン4aを有する反射型マスク200を用いてEUV光を露光光としたパターン露光を行うことにより、基板上に初期の設計仕様を十分に満たす精度のレジストパターンを形成することができる。また、この反射型マスク200が、反射型位相シフトマスクである場合には、シャドウイング効果の発生が抑えられることにより、形状精度および位置精度の良好なレジストパターンを形成することができる。以上より、このレジスト膜のパターンをマスクとして、下層膜をドライエッチングして回路パターンを形成した場合、精度不足に起因する配線短絡や断線のない高精度の回路パターンを形成することができる。
【実施例】
【0103】
次に、本発明を適用した実施例1-4と、これらの比較例1-3とを説明する。
図8は、実施例および比較例のマスクブランクにおける薄膜の形成条件および形成された薄膜の物性および組成を示す図である。以下、先の
図1および
図8を参照しつつ実施例1-4および比較例1-3を説明する。
【0104】
≪マスクブランクの形成≫
<実施例1-3>
実施例1-3のマスクブランク100を以下のように作成した。先ず両側の主表面が研磨された6025サイズ(約152mm×152mm×6.35mm)の低熱膨張ガラス基板であるSiO2-TiO2系ガラス基板を準備し基板1とした。基板1の両側主表面が平坦で平滑となるように、粗研磨加工工程、精密研磨加工工程、局所加工工程、およびタッチ研磨加工工程よりなる研磨を行った。
【0105】
次に、基板1における一方側の主表面を裏面1bとし、この裏面1b側にCrN膜からなる導電膜10をマグネトロンスパッタリング(反応性スパッタリング)法により形成した。導電膜10は、Crターゲットを用いて、アルゴン(Ar)ガスと窒素(N2)ガスの混合ガス雰囲気で、20nmの膜厚となるように成膜した。
【0106】
次に、導電膜10が形成された裏面1b側と反対側を基板1の主表面1aとし、この主表面1a上に、多層反射膜2を形成した。基板1上に形成される多層反射膜2は、波長13.5nmのEUV光に適した多層反射膜2とするために、モリブデン(Mo)とケイ素(Si)からなる周期多層反射膜とした。多層反射膜2は、MoターゲットとSiターゲットを使用し、クリプトン(Kr)ガス雰囲気中でイオンビームスパッタリング法により基板1上にMo層およびSi層を交互に積層して形成した。先ず、Si膜を4.2nmの膜厚で成膜し、続いて、Mo膜を2.8nmの膜厚で成膜した。これを1周期とし、同様にして40周期積層し、最後にSi膜を4.0nmの膜厚で成膜し、多層反射膜2を形成した。
【0107】
引き続き、Arガス雰囲気中で、SiO2ターゲットを使用したRFスパッタリング法により、多層反射膜2の表面にSiO2膜からなる保護膜3を、2.6nmの膜厚となるように成膜した。
【0108】
次に、DCマグネトロンスパッタリング法により、薄膜4として、タンタル(Ta)、ニオブ(Nb)、および窒素(N)を含む膜(TaNbN膜)を形成した。この際、
図8に示すタンタル(Ta):ニオブ(Nb)のターゲット比率(原子%比)のスパッタリングターゲットを用い、キセノンガス(Xe)と窒素ガス(N
2)の成膜ガス雰囲気中において50nmの膜厚となるように薄膜4を成膜した。成膜時のガス流量およびガス圧力は、
図8に示した通りである。
【0109】
<実施例4>
実施例1-3のマスクブランク100の作成手順における薄膜4の形成で、さらにホウ素(B)を含む膜(TaNbBN膜)を形成しこと以外は、実施例1-3のマスクブランク100の作成手順と同様手順でマスクブランク100を作成した。この場合、薄膜4の形成においては、タンタル(Ta):ホウ素(B)の混合ターゲット(Ta:B=4:1 原子%比)と、ニオブ(Nb)ターゲットの2つのターゲットを用いたコ・スパッタ法により、キセノンガス(Xe)と窒素ガス(N
2)の成膜ガス雰囲気中において50nmの膜厚となるように薄膜4を成膜した。成膜時のガス流量およびガス圧力は、
図8に示した通りである。
【0110】
<比較例1>
実施例1-3のマスクブランク100の作成手順における薄膜4の形成で、窒素(N)を含有しないタンタル(Ta)およびニオブ(Nb)を含む膜(TaNb膜)を形成したこと以外は、実施例1-3のマスクブランク100の作成手順と同様手順でマスクブランクを作成した。この際、
図8に示すタンタル(Ta):ニオブ(Nb)のターゲット比率のスパッタリングターゲットを用い、キセノンガス(Xe)の成膜ガス雰囲気中において50nmの膜厚となるように薄膜を成膜した。成膜時のガス流量およびガス圧力は、
図8に示した通りである。
【0111】
<比較例2-3>
実施例1-3のマスクブランク100の作成手順における薄膜4の形成で、
図8に示すようにキセノンガス(Xe)と窒素ガス(N
2)のガス流量を変更してタンタル(Ta)、ニオブ(Nb)、および窒素(N)を含む膜(TaNbN膜)を形成したこと以外は、実施例1-3のマスクブランク100の作成手順と同様手順でマスクブランクを作成した。成膜時のガス流量およびガス圧力は、
図8に示した通りである。
【0112】
≪各マスクブランクにおける薄膜の評価≫
実施例1-4および比較例1-3で作成したマスクブランクの薄膜を基板上に直接成膜し、成膜した実施例1-4および比較例1-3の各薄膜の物性および組成を評価した。基板は、マスクブランクの作成に用いた基板と同様の基板を用いた。
【0113】
<X線回折に関する物性>
実施例1-4および比較例1-3の各薄膜について、X線回折法のOut-of-Plane測定による分析を行うことによりX線回折パターンを測定した。この結果を
図3に示す。また
図3に示す実施例1-4および比較例1-3のX線回折パターンに基づいて、各薄膜のX線回折に関する物性(a)および(b)を算出した。この結果を、
図8に合わせて示した。なお、
図3に示されている実施例1-4および比較例1-3のX線回折パターンは、1つのグラフに記載しても各X線回折パターンの相違を比較しやすいように、回折強度(Intensity)の基準値(原点)を変えている。実際の測定結果のImax等は、
図8に記載した各数値である。
【0114】
図3および
図8に示すように、実施例1,2の薄膜は、成膜材料から窒素(N)、タンタル(Ta)、ニオブ(Nb)を含む膜(TaNbN膜)であり、かつX線回折に関する物性(a)(b)の両方の条件を満たし、本発明のマスクブランクを構成する薄膜4であることが確認された。また、実施例3の薄膜は、同様にTaNbN膜であり、かつX線回折に関する物性(b)の条件を満たし、本発明のマスクブランクを構成する薄膜4であることが確認された。さらに、実施例4の薄膜は、成膜材料からホウ素(B)、窒素(N)、タンタル(Ta)、ニオブ(Nb)を含む膜(TaNbBN膜)であり、かつX線回折に関する物性(a)(b)の両方の条件を満たし、本発明のマスクブランクを構成する薄膜4であることが確認された。
【0115】
一方、比較例1の薄膜は、X線回折に関する物性(a)および(b)の両方の条件を満たした膜であるが、成膜材料から窒素(N)を含まないタンタル(Ta)-ニオブ(Nb)系の膜(TaNb膜)であって、本発明のマスクブランクを構成する薄膜4には該当しない。
【0116】
さらに、比較例2,3の薄膜は、成膜材料から窒素(N)、タンタル(Ta)、ニオブ(Nb)を含む膜(TaNbN膜)であるが、X線回折に関する物性(a)および(b)の何れの条件も満たさないことから、本発明のマスクブランクを構成する薄膜4には該当しないことが確認された。
【0117】
<表面粗さおよび膜応力>
実施例1-4および比較例1-3の各薄膜の表面粗さおよび膜応力を測定した。その結果を
図8に合わせて示した。表面粗[Sq](二乗平均平方根粗さ)は、先にも説明したようにAFMにより一辺が1[μm]の四角形の領域を測定領域として測定した値である。また膜応力は、薄膜の表面形状と薄膜を形成する前の基板の表面形状との差分形状を算出し、その差分形状の基板の中心を基準とする一辺が142[mm]の四角形の内側領域での最大高さと最小高さの差(基板そり量)として表現した。なお、各表面形状の測定は、表面形状測定装置 UltraFLAT200M(Corning TROPEL社製)を用いた。
【0118】
図8に示すように、実施例1-4の各薄膜は、表面粗さ[Sq](二乗平均平方根粗さ)が0.3[nm]未満に抑えられており、膜応力(基板反り量)は200[nm]以下に抑えられていることがわかった。これに対し、比較例1-3の各薄膜は、何れも表面粗さ[sq]が0.3[nm]を超え、また膜応力(基板反り量)も200[nm]を超えていた。
【0119】
以上の結果、本発明の適用により、表面粗さと膜応力とが低く抑えられたパターン形成用の薄膜を有するマスクブランクが得られることが確認された。
【0120】
<屈折率および消衰係数>
実施例1-4および比較例1-3を代表して、実施例1、実施例2と、比較例2の各薄膜について、EUV光(波長13.5nm)に対する屈折率[n]および消衰係数[k]を測定した。その結果を
図8に合わせて示した。
【0121】
図8に示すように、実施例1の薄膜4および比較例2の薄膜ともに、屈折率[n]が0.95以下であり、消衰係数[k]が0.03以下であった。この結果、実施例1の薄膜4を位相シフトパターンとして反射型マスクを形成した場合に、反射型マスクの位相シフトパターンをより薄い範囲に膜厚を設定することができる。これにより、反射型マスク200が位相シフトマスクである場合に、位相シフトパターンである転写パターン4aが薄型化され、反射型マスク200のシャドウイング効果の発生を抑える効果が得られることが確認された。
【0122】
<洗浄耐性およびエッチングレート>
実施例1-4の各薄膜の洗浄耐性およびエッチングレートを測定した。洗浄耐性は、マスクブランクおよび反射型マスクの洗浄液として用いられる硫酸―過酸化水素水溶液(SPM洗浄液)に、薄膜4を晒した状態においての薄膜4の減膜量(SPM減膜量)として測定した。またエッチングレートは、マスクブランクを加工して反射型マスクを作成する場合に、薄膜4のエッチャントとして用いられる塩素ガス(Cl
2)雰囲気に薄膜4を晒した状態においての薄膜のエッチング速度を測定した。その結果を
図8に合わせて示す。
【0123】
図8に示すように、SPM減膜量は、実施例1-4の各薄膜ともに、0.015(nm/min)以内の小さい値であり、十分なSPM耐性を有することが確認された。さらに、エッチングレートは、実施例1-4の各薄膜ともに、1.30(nm/sec)以上の十分な速さを有することが確認された。
【0124】
<薄膜の組成>
実施例1-4の各薄膜と、比較例1-3を代表する比較例2の各薄膜について、XPSによる深さ方向の分析によって組成比の解析を行った。この結果を
図8に合わせて示す。
【0125】
図8に示すように、実施例1-4の薄膜は、タンタル(Ta)とニオブ(Nb)との合計含有量[原子%]に対するニオブ(Nb)の含有量[原子%]の比率が、0.6未満であることが確認された。さらに、窒素(N)の含有量は、30原子%以下であることが確認された。また、実施例1-3の薄膜は、タンタル(Ta)、ニオブ(Nb)、および窒素(N)を含有する膜であるが、これらの合計含有量は、95原子%以上であることが確認された。これに対して、比較例2の薄膜は、タンタル(Ta)とニオブ(Nb)との合計含有量[原子%]に対するニオブ(Nb)の含有量[原子%]の比率が、0.6未満であるが、窒素(N)の含有量は30原子%以上であった。
【0126】
一方、実施例4の薄膜は、上記の成膜条件から、タンタル(Ta)、ニオブ(Nb)、窒素(N)、およびホウ素(B)で実質的に形成されている膜であるといえ、これらの合計含有量は、95原子%以上であるといえる。
【符号の説明】
【0127】
1…基板
1a…主表面
2…多層反射膜
3…保護膜(他の膜)
4…薄膜
4a…転写パターン
100 マスクブランク
200 反射型マスク