(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-02-12
(45)【発行日】2025-02-20
(54)【発明の名称】システムおよびプログラム記憶媒体
(51)【国際特許分類】
G01N 9/26 20060101AFI20250213BHJP
G05B 19/418 20060101ALI20250213BHJP
G06Q 50/04 20120101ALI20250213BHJP
【FI】
G01N9/26 A
G05B19/418 Z
G06Q50/04
(21)【出願番号】P 2021158627
(22)【出願日】2021-09-29
【審査請求日】2024-01-26
(73)【特許権者】
【識別番号】000005108
【氏名又は名称】株式会社日立製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110000198
【氏名又は名称】弁理士法人湘洋特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】島田 遼太郎
(72)【発明者】
【氏名】八木 大介
【審査官】鴨志田 健太
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-111091(JP,A)
【文献】特開2020-88703(JP,A)
【文献】特開2003-296472(JP,A)
【文献】中国特許第110546574(CN,B)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 9/26
G06Q 50/04
G05B 19/418
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一つ以上のプロセッサと、一つ以上の記憶媒体と、を有するシステムであって、
前記プロセッサは、
原材料を用いた製品の製造設備に設置した複数のセンサから得られる測定値を学習して原材料の真偽の判定に用いる情報を出力する学習済み分類モデルを生成し、当該学習済み分類モデルを前記記憶媒体に記憶し、
未認証の原材料における前記測定値を前記学習済み分類モデルに入力し、
前記未認証の原材料が真と判定された場合、当該原材料を認証する
ことを特徴とするシステム。
【請求項2】
請求項1に記載のシステムであって、
前記プロセッサは、
真であることが判明している複数の原材料を用いた学習用製造における前記測定値から抽出された複数の特徴量を含むインプロセス指紋情報を生成し、
前記インプロセス指紋情報における前記特徴量の次元数を削減することで次元削減特徴量を生成し、
前記次元削減特徴量を所定種類の分類モデルに学習させることで、前記原材料の特性に対応する前記学習済み分類モデルを生成する
ことを特徴とするシステム。
【請求項3】
請求項2に記載のシステムであって、
前記特徴量には、
ピーク圧力、圧力の最大微分値、圧力の積分値および温度の最大微分値のうち、少なくともいずれか一つが含まれる
ことを特徴とするシステム。
【請求項4】
請求項1に記載のシステムであって、
前記プロセッサは、
前記未認証の原材料が偽と判定された場合、真偽に関する追加の検証分析を行い、
前記検証分析の結果が真と判定された場合に前記未認証の原材料を認証する
ことを特徴とするシステム。
【請求項5】
請求項2に記載のシステムであって、
前記プロセッサは、
前記真偽の判定結果と、前記次元削減特徴量と、原材料に対応する前記学習済み分類モデルと、を用いて当該学習済み分類モデルの再学習を行うことで、当該学習済み分類モデルを更新する
ことを特徴とするシステム。
【請求項6】
請求項1に記載のシステムであって、
前記プロセッサは、
製造に用いる原材料の前記認証の取得要求を行い、
前記原材料が未認証であった場合、認証のための試し製造を要求し、当該試し製造により取得される前記測定値に基づく当該原材料の真偽の判定結果に応じた情報を取得し、
前記原材料が認証済みの場合、認証済みの当該原材料を用いた製品の製造を実行する
ことを特徴とするシステム。
【請求項7】
請求項6に記載のシステムであって、
前記プロセッサは、
前記試し製造により取得された前記測定値に基づく前記真偽の判定結果が偽の場合、前記認証の取得要求を行った前記原材料が偽であることを示す情報を表示する
ことを特徴とするシステム。
【請求項8】
請求項6に記載のシステムであって、
前記プロセッサは、
前記認証済みの原材料を用いた前記製品の製造において取得された前記測定値と、材料が真であることを示す情報と、当該認証済みの原材料の型番に対応する前記学習済み分類モデルと、を用いて当該学習済み分類モデルの再学習を行うことで、当該学習済み分類モデルを更新する
ことを特徴とするシステム。
【請求項9】
請求項1に記載のシステムであって、
前記原材料は、リサイクル材である
ことを特徴とするシステム。
【請求項10】
請求項1に記載のシステムであって、
前記原材料は、プラスチック材であり、
前記製品を製造する製造プロセスは、射出成形プロセスであり、
前記測定値は、少なくとも前記プラスチック材を流入させる金型内に搭載された複数のセンサから取得した測定値を含む
ことを特徴とするシステム。
【請求項11】
一つ以上のプロセッサと、一つ以上の記憶媒体と、を有するシステムで実行されるプログラムを記憶したプログラム記憶媒体であって、
前記プロセッサが、
原材料を用いた製品の製造設備に設置した複数のセンサから得られる測定値を学習して原材料の真偽の判定に用いる情報を出力する学習済み分類モデルを生成し、当該学習済み分類モデルを前記記憶媒体に記憶し、
未認証の原材料における前記測定値を前記学習済み分類モデルに入力し、
前記未認証の原材料が真と判定された場合、当該原材料を認証する、という処理を実行するためのプログラムを記憶したプログラム記憶媒体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、システムおよびプログラム記憶媒体に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1は、標識ポリマーの認証方法に関し、「標識ポリマーが基板ポリマー、法的認証マーカーを含む化合物、及び動的応答認証マーカーを含み、前記法的認証マーカーは法的分析技術で検出するのに十分な量で標識ポリマー中に存在し、前記動的応答認証マーカーは動的応答分析技術で検出するのに十分な量で標識ポリマー中に存在する場合において、試験ポリマーが標識ポリマーであることを認証する方法であって、法的分析技術を用いて試験ポリマーを法的認証マーカーについて試験し、動的応答分析技術を用いて試験ポリマーを動的応答認証マーカーについて試験し、法的認証マーカー及び動的応答認証マーカーが検出されれば試験ポリマーが標識ポリマーであると認証することを含んでなる方法が開示される。」と記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
近年、従来の大量消費、大量廃棄のリニアエコノミーから循環型のサーキュラーエコノミーに転換する社会潮流の中、廃棄物から材料を回収して再生したリサイクル材を活用する社会的要求が高まっている。それに伴い、バージン材の価格が下落した際に、材料メーカーがバージン材をリサイクル材と偽って販売する問題が生じている。このような材料の偽装があった場合、リサイクル材を使用したとして上市した製品に対し、製造メーカーが材料偽装の責任を問われるという問題が生じ得る。
【0005】
なお、特許文献1に記載の認証方法は、材料メーカーが標識ポリマーに認証マーカーを添加し、試験ポリマーを認証マーカーについて分析するものであり、製造メーカーが材料の真偽を判定することができない。加えて、同文献の技術では、材料中に予め認証マーカーを添加する必要がある上、製品の製造プロセスとは別に追加の分析が必要となるため、それに伴うコストが発生してしまう。
【0006】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、追加の検査工程や材料への認証マーカーの添加無しに、製造プロセス中に得られるセンサ情報を用いて材料の真偽を判定し、材料を認証することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本願は、上記課題の少なくとも一部を解決する手段を複数含んでいるが、その例を挙げるならば、以下のとおりである。上記の課題を解決する本発明の一態様に係るシステムは、一つ以上のプロセッサと、一つ以上の記憶媒体と、を有するシステムであって、前記プロセッサは、原材料を用いた製品の製造設備に設置した複数のセンサから得られる測定値を学習して原材料の真偽の判定に用いる情報を出力する学習済み分類モデルを生成し、当該学習済み分類モデルを前記記憶媒体に記憶し、未認証の原材料における前記測定値を前記学習済み分類モデルに入力し、前記未認証の原材料が真と判定された場合、当該原材料を認証する。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、追加の検査工程や材料への認証マーカーの添加無しに、製造プロセス中に得られるセンサ情報を用いて材料の真偽を判定し、材料を認証することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】第一実施形態に係るシステムの機能構成の一例を示した概略構成図である。
【
図2】第一実施形態に係るシステムで実行される製造処理の一例を示したフロー図である。
【
図3】学習済み分類モデルの生成処理の一例を示したフロー図である。
【
図4】材料ロット認証処理の一例を示したフロー図である。
【
図5】第一実施形態による効果を検証するための実験例の概要を示した図である。
【
図8】システムのハードウェア構成の一例を示した図である。
【
図9】第二実施形態に係るシステムのハードウェア構成の一例を示した図である。
【
図10】第三実施形態に係るシステムのハードウェア構成の一例を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面に基づいて、本発明の各実施形態について説明する。
【0011】
<第一実施形態>
図1は、本実施形態に係るシステム1000の機能構成の一例を示した概略構成図である。図示するように、本システム1000は、複数のサブシステムを有し、システム1000全体として材料(原材料)の認証および製品の製造を実行する。
【0012】
具体的には、本システム1000は、生産管理システム100、製造統括システム200、材料認証システム300および製造実行システム400というサブシステムを有している。また、各サブシステムは、相互に連携して各種の処理を実行する。
【0013】
また、本システム1000は、サブシステム以外にも、図示しない機能部を有している。具体的には、本システム1000は、当該システム1000が備える入力装置を介してユーザからの指示や情報の入力を受け付ける入力受付部を有している。また、本システム1000は、当該システム1000が備える出力装置(ディスプレイ)に表示される表示情報(画面情報)を生成する出力表示部を有している。
【0014】
また、本システム1000は、様々な情報を記憶する記憶部を有している。具体的には、記憶部は、材料認証システム300に用いられる認証情報DB320と、材料指紋情報DB340と、分類モデルDB370と、を有している。また、記憶部は、製造実行システム400に用いられる学習用製造プロセス421、試し製造プロセス422および量産製造プロセス423を格納した製造プロセスDB420を有している。
【0015】
また、本システム1000は、外部装置(例えば、製造設備500)との間で情報通信を行う通信部を有している。具体的には、通信部は、例えばインターネット等の公衆網やLAN(Local Area Network)あるいはWAN(Wide Area Network)などの通信経路CN2を介して外部装置と相互通信可能に接続されている。
【0016】
なお、これらの入力受付部、出力表示部、記憶部および通信部は、各サブシステムの機能部と協働して様々な処理を実行する。
【0017】
次に、生産管理システム100の機能構成について説明する。
【0018】
生産管理システム100は、生産計画の管理に関する様々な処理を実行する処理部として機能する。具体的には、生産管理システム100は、生産計画管理部110を有している。生産計画管理部110は、受注状況および在庫状況に合わせて、生産仕様、数量、および時期などを含む生産計画を生成する機能部である。
【0019】
次に、製造統括システム200の機能構成について説明する。
【0020】
製造統括システム200は、製造実行システム400に対して所定種類の製造指示を行うなど、製造に関する統括的な処理を行う処理部として機能する。具体的には、製造統括システム200は、製造条件決定部210と、材料認証取得部220と、製造指示部230と、を有している。
【0021】
製造条件決定部210は、生産計画管理部110により生成された生産計画を用いて製造条件を決定する機能部である。なお、製造条件には、例えば製品の製造設備500(工場内の設備)を特定する情報、製造に使用する材料の型番およびロットを特定する情報、および、生産する製品の数量や生産時期などが含まれる。
【0022】
ここで、材料の型番とは、材料の特性を識別するために材料メーカーが定めている識別情報(例えば、番号)である。また、材料のロットとは、同一の型番の材料に対して材料メーカーが定めている生産あるいは納品の最小単位である。
【0023】
材料認証取得部220は、材料の認証情報を材料認証システム300から取得する機能部である。具体的には、材料認証取得部220は、製造条件決定部210により決定された材料の認証に用いる基礎的情報を材料認証システム300に送ることにより、材料認証システム300から材料の認証情報を取得する。材料の認証に必要な基礎的情報には、例えば材料の型番と、材料のロットと、が含まれる。
【0024】
また、材料認証取得部220は、製造に使用する材料のロットが認証済みであることを示す情報(認証情報)を材料認証システム300から取得した場合、製品の量産製造を製造指示部230に要求する。また、材料認証取得部220は、使用する材料のロットが未認証であることを示す情報を材料認証システム300から取得した場合、材料認証のための試し製造を製造指示部230に要求する。また、材料認証取得部220は、使用する材料の型番に対応する学習済み分類モデルが存在しないことを示す情報を材料認証システム300から取得した場合、かかる分類モデルを生成するための学習用製造を製造指示部230に要求する。
【0025】
なお、試し製造とは、未認証の材料ロットを用いた製造を指す。また、学習用製造とは、学習済み分類モデルを生成するための教師有り学習に用いる情報を取得するための製造であり、予め判明している材料すなわち真であることが分かっている複数の材料の型番およびロットを用いた製造を指す。
【0026】
製造指示部230は、製造実行システム400に対して製造の実行を指示する機能部である。具体的には、製造指示部230は、材料認証取得部220からの要求に基づいて、量産製造、試し製造または学習用製造のいずれかの製造指示を製造実行部410に出力する。なお、製造指示部230は、かかる製造指示と共に、製造に用いる材料の型番やロットなど、製造条件決定部210により決定された製造条件も合わせて製造実行部410に出力する。
【0027】
次に、材料認証システム300の機能構成について説明する。
【0028】
材料認証システム300は、材料の認証に関する様々な処理を行う処理部として機能する。具体的には、材料認証システム300は、材料認証発行部310と、材料指紋情報生成部330と、次元削減部350と、分類モデル生成部360と、材料真偽判定部380と、材料検証部390と、を有している。
【0029】
材料認証発行部310は、認証情報の取得を要求された材料が認証済みの場合に認証情報を発行する機能部である。具体的には、材料認証発行部310は、材料認証取得部220から材料の型番およびロットを含む認証情報の取得要求を受け付けると、認証情報DB320を参照し、かかる材料のロットが認証済みの場合は認証情報を材料認証取得部220に出力する。
【0030】
また、材料認証発行部310は、材料のロットが未認証の場合に分類モデルDB370を参照し、取得要求に係る材料の型番に対応する学習済み分類モデルが存在しない場合、その事を示す情報を材料認証取得部220に出力する。また、材料認証発行部310は、認証情報DB320および分類モデルDB370を参照し、取得要求に係る材料の型番に対応する学習済み分類モデルは存在するが材料ロットが未認証の場合、その事を示す情報を材料認証取得部220に出力する。
【0031】
また、材料認証発行部310は、材料真偽判定部380または材料検証部390から材料のロットが真であることを示す情報を取得すると、かかる材料のロットを新たに認証し、認証情報を認証情報DB320に格納する。また、その場合、材料認証発行部310は、新たに認証した材料の型番およびロットについて、認証情報を発行し、材料認証取得部220に出力する。
【0032】
材料指紋情報生成部330は、試し製造あるいは学習用製造において、製造設備500に含まれる複数の各種センサ520から出力された値と製品品質とを測定値として取得し、インプロセスの材料指紋情報を生成する機能部である。また、材料指紋情報生成部330は、生成した材料指紋情報を材料指紋情報DB340に格納する。なお、材料指紋情報生成部330は、学習用製造の場合に取得した測定値については、材料が真であることを示す情報を対応付けて材料指紋情報DB340に格納する。
【0033】
ここで、材料指紋情報とは、複数のセンサ520の測定値から得られる材料の物性に相関した複数の特徴量を指す。材料真偽判定部380および材料検証部390は、製品品質や単一の特徴量だけではなく、複数のセンサ520から得られた複数の特徴量を活用することで、高精度に材料の真偽判定あるいは真偽の検証を行うことができる。なお、その効果を示す実験例の詳細については後述する。
【0034】
また、材料指紋情報生成部330は、材料真偽判定部380あるいは材料検証部390から材料の真偽に関する判定結果あるいは検証結果を取得すると、これを材料指紋情報DB340の対応する材料に対応付けて登録する。
【0035】
次元削減部350は、材料指紋情報を学習済み分類モデルに入力できるように次元数を減らした(圧縮した)次元削減特徴量を生成する機能部である。なお、インプロセスの材料指紋情報は、多次元の特徴量を扱う場合、次元削減を行うことで真偽判定を簡便に行うことができるようになる。次元削減の手法には、例えばUMAP(Uniform Manifold Approximation and Projection)、あるいは、t-SNE(t-distributed Stochastic Neighbor Embedding)などの手法があり、次元削減部350は、これらの手法の中からいずれかの手法を用いる。
【0036】
なお、次元削減部350は、学習用製造の場合、分類モデル生成部360に対し、次元削減特徴量と、材料が真であることを示す情報と、を対応付けて出力する。また、次元削減部350は、試し製造の場合、材料真偽判定部380に対し、次元削減特徴量を出力する。
【0037】
分類モデル生成部360は、材料に関する学習済み分類モデルを生成する機能部である。具体的には、分類モデル生成部360は、予め判明している材料すなわち真であることが分かっている複数の材料の次元削減特徴量を学習し、材料の型番に対応する学習済み分類モデルを生成する。また、分類モデル生成部360は、生成した学習済み分類モデルを材料の型番に対応付けて分類モデルDB370に格納する。なお、学習済み分類モデルとしては、ロジスティクス回帰あるいはサポートベクターマシン(SVM)などの教師有り分類モデルが用いられれば良い。
【0038】
また、分類モデル生成部360は、試し製造で得られた未認証の材料ロットに対して、次元削減部350から入力された次元削減特徴量と、材料真偽判定部380あるいは材料検証部390から入力された材料の真偽の判定結果あるいは検証結果と、を関連付けて、学習済み分類モデルに再学習させるアクティブラーニングを行う。
【0039】
材料真偽判定部380は、材料の真偽を判定する機能部である。具体的には、材料真偽判定部380は、試し製造で得られた未認証の材料ロットの材料指紋情報に基づく次元削減特徴量を次元削減部350から取得する。また、材料真偽判定部380は、取得した次元削減特徴量をかかる材料の型番に対応する学習済み分類モデルに入力することで、材料の真偽判定に用いる出力情報を得る。
【0040】
また、材料真偽判定部380は、学習済み分類モデルからの出力情報に基づく判定結果が真であった場合、材料の型番およびロットに判定結果である真を対応付けて認証情報発行部に出力する。一方で、材料真偽判定部380は、判定結果が偽であった場合、試し製造で用いた未認証の材料ロットに対する追加検証を材料検証部390に要求する。また、材料真偽判定部380は、判定結果が真である場合、分類モデル生成部360および材料指紋情報生成部330にかかる判定結果を出力する。
【0041】
材料検証部390は、材料の追加検証を行う機能部である。具体的には、材料検証部390は、材料真偽判定部380からの追加検証の要求に対し、任意の分析技術による材料の真偽について検証を行う。
【0042】
なお、分析技術としては、FT-IR、NIR、ラマン分光のような分光分析、TG-DTAやDSCのような熱分析あるいはGC-MSのような質量分析など任意の分析技術があり、材料検証部390は、これらの中から適宜適切な分析技術を採用する。
【0043】
また、材料検証部390は、検証結果が真であった場合、材料の型番およびロットに検証結果である真を対応付けて材料認証発行部310に出力する。一方で、材料検証部390は、検証結果が偽であった場合、材料ロットを変更することを推奨する内容の情報を材料認証発行部310に出力する。また、材料検証部390は、検証結果を分類モデル生成部360および材料指紋情報生成部330に出力する。
【0044】
次に、製造実行システム400の機能構成について説明する。
【0045】
製造実行システム400は、製造統括システム200からの指示に基づき所定の製造プロセスの実行することで製品の製造を行う処理部として機能する。具体的には、製造実行システム400は、製造実行部410と、品質検査部430と、を有している。
【0046】
製造実行部410は、製造統括システム200からの指示に基づく所定の製造プロセスを実行して製品の製造を行う機能部である。具体的には、製造実行部410は、学習用製造を製造指示部230から要求された場合、製造プロセスDB420から学習用製造プロセス421を取得する。また、製造実行部410は、予め判明している材料すなわち真であることが分かっている複数の材料の型番およびロットを用いて、かかる学習用製造プロセス421による製造の実行指示を製造機器510に出力する。
【0047】
また、製造実行部410は、試し製造を製造指示部230から要求された場合、製造プロセスDB420から試し製造プロセス422を取得する。また、製造実行部410は、未認証の材料ロットを用いて、かかる試し製造プロセス422による製造の実行指示を製造機器510に出力する。
【0048】
また、製造実行部410は、量産製造を製造指示部230から要求された場合、製造プロセスDB420から量産製造プロセス423を取得する。また、製造実行部410は、認証済みの材料の型番およびロットを用いて、かかる量産製造プロセス423による製造の実行指示を製造機器510に出力する。
【0049】
品質検査部430は、製品の品質を検査する機能部である。具体的には、品質検査部430は、例えば形状特性、機械的・光学特性などに基づき製品の品質を検査する。
【0050】
また、品質検査部430は、品質検査を行った材料の型番およびロットと、品質検査結果とを対応付けて材料認証システム300の材料指紋情報生成部330に出力する。
【0051】
以上、各サブシステムの機能構成について説明した。
【0052】
次に、本システム1000の記憶部に記憶されている各種の情報について説明する。
【0053】
材料認証システム300で用いられる認証情報DB320には、例えば材料の型番を識別する情報と、ロットを識別する情報と、対応するロットが認証済みか否かを示す情報と、が対応付けられて記憶されている。
【0054】
また、材料指紋情報DB340には、例えば測定値から抽出された特徴量を示す情報と、材料の型番およびロットを識別する情報と、材料の真偽を示す情報と、が対応付けられて記憶されている。
【0055】
また、分類モデルDB370には、例えば材料の型番と、対応する学習済み分類モデルと、が対応付けられて登録されている。
【0056】
また、製造実行システム400で用いられる製造プロセスDB420には、学習用、試し用および量産用の製造を実行するための各種の製造プロセスが記憶されている。
【0057】
また、記憶部には、製品の受注状況や在庫状況、および、製造工場における製造設備500の稼働状況といった所定情報が記憶されている。
【0058】
また、本システム1000が有する通信部は、材料認証システム300と製造設備500との間の情報通信を行う。また、通信部は、製造実行システム400と製造設備500との間の情報通信を行う。
【0059】
なお、製造設備500は、製造実行部410から出力された製造プロセスに基づいて製品を製造する製造機器510と、製造プロセス中の物理量を測定することで測定値を取得する複数の各種センサ520と、を有している。また、センサ520は、測定値を材料認証システム300の材料指紋情報生成部330に出力する。
【0060】
以上、本実施形態に係るシステム1000の概略構成について説明した。
【0061】
[動作の説明]
図2は、本システム1000で実行される製造処理の一例を示したフロー図である。かかる処理は、例えば入力装置を介して入力受付部が製造処理の実行指示をユーザから受け付けると開始される。
【0062】
処理が開始されると、生産管理システム100は、生産計画を決定する(ステップS10)。具体的には、生産管理システム100の生産計画管理部110は、受注状況や在庫状況などの所定情報を記憶部から取得する。また、生産計画管理部110は、出力表示部を介して、記憶部から取得したこれらの情報を表示するための画面情報を生成し、これを出力装置(ディスプレイ)に表示する。
【0063】
なお、ユーザは、表示された受注状況や在庫状況を参照し、入力装置を介して適切な生産使用、数量および時期を入力する。生産計画管理部110は、入力受付部を介して入力情報を取得すると、所定のアルゴリズムに基づき生産計画を決定する。
【0064】
なお、生産計画管理部110は、ロジスティクス全体を最適化するための数理計画モデルおよびそのアルゴリズムを用いることにより、ユーザからの入力に依らず、自動で生産計画を決定しても良い。なお、かかる数理計画モデルやアルゴリズムは予め記憶部に記憶されていれば良い。
【0065】
次に、製造統括システム200の製造条件決定部210は、製造条件を決定する(ステップS20)。具体的には、製造条件決定部210は、生産計画および製造設備500の稼働状況を記憶部から取得する。また、製造条件決定部210は、出力表示部を介して、記憶部から取得したこれらの情報を表示するための画面情報を生成し、これを出力装置(ディスプレイ)に表示する。
【0066】
なお、ユーザは、表示された生産計画や製造設備500の稼働状況を参照し、入力装置を介して適切な製造設備500と材料との組合わせに係る製造条件を入力する。製造条件決定部210は、入力受付部を介して入力情報を取得すると、所定のアルゴリズムに基づき製造条件を決定する。また、製造条件決定部210は、製品の製造に使用される材料の型番およびロットを含む製造条件を材料認証取得部220に出力する。
【0067】
なお、製造条件決定部210は、生産効率を最適化するための数理計画モデルおよびそのアルゴリズムを用いることにより、ユーザからの入力に依らず、自動で製造条件を決定しても良い。また、かかる数理計画モデルやアルゴリズムは予め記憶部に記憶されていれば良い。
【0068】
次に、材料認証取得部220は、製造条件に含まれる材料の認証情報について取得要求を行う(ステップS30)。具体的には、材料認証取得部220は、材料の型番およびロットを含む材料の認証情報の取得要求を材料認証発行部310に出力する。
【0069】
次に、材料認証発行部310は、取得要求に係る材料の学習済み分類モデルが存在するか否かを判定する(ステップS40)。具体的には、材料認証発行部310は、認証情報DB320を参照し、認証情報の取得要求に係る材料ロットが未認証の場合に分類モデルDB370を参照する。また、材料認証発行部310は、取得要求に係る材料の型番に対応する学習済み分類モデルが分類モデルDB370に登録されている場合、取得要求に係る材料の型番に対応する学習済み分類モデルが存在すると判定する。
【0070】
そして、学習済み分類モデルが存在すると判定した場合(ステップS40でYes)、材料認証発行部310は、処理をステップS50に移行する。一方で、学習済み分類モデルが存在しないと判定した場合(ステップS40でNo)、材料認証発行部310は、かかる分類モデルが存在しない事を示す情報を材料認証取得部220に出力し、処理をステップS90に移行する。なお、ステップS90では、学習済み分類モデルの生成処理が実行される。学習済み分類モデルの生成処理の詳細については後述する。
【0071】
学習済み分類モデルが存在すると判定した場合(ステップS40でYes)に移行するステップS50では、材料認証発行部310は、使用する材料ロットの認証情報が存在するか否かを判定する。具体的には、材料認証発行部310は、認証情報DB320を参照し、取得要求に係る材料ロットの認証情報が登録されているかを確認する。また、材料認証発行部310は、かかる材料ロットの認証情報が登録されている場合、取得要求に係る材料ロットの認証情報が存在すると判定する。
【0072】
そして、材料ロットの認証情報が存在すると判定した場合(ステップS50でYes)、材料認証発行部310は、取得要求に係る材料の型番およびロットについて認証情報を発行する。また、材料認証発行部310は、認証情報を材料認証取得部220に出力し、処理をステップS60に移行する。一方で、材料ロットの認証情報が存在しないと判定した場合(ステップS50でNo)、材料認証発行部310は、取得要求に係る材料のロットが未認証である事を示す情報を材料認証取得部220に出力し、処理をステップS80に移行する。なお、ステップS80では、材料ロットの認証処理が実行される。材料ロットの認証処理の詳細については後述する。
【0073】
材料ロットの認証情報が存在すると判定された場合(ステップS50でYes)に移行するステップS60では、材料認証取得部220は、製造条件に含まれる材料の型番およびロットの認証情報を認証情報発行部から取得する。また、材料認証取得部220は、認証情報を取得すると、量産製造の実行要求を製造指示部230に出力し、処理をステップS70に移行する。なお、かかる要求には、生産計画や製造条件などの情報が含まれるものとする。
【0074】
ステップS70では、製造指示部230は、生産計画および製造条件を用いて量産製造の指示情報を生成し、これを製造実行システム400に出力する。また、製造実行システム400の製造実行部410は、量産製造の指示を取得すると、製造プロセスDB420から量産製造プロセス423を取得し、通信部を介して、製造設備500に量産製造プロセス423を出力することで、生産計画および製造条件に応じた製品の量産製造を実行する。また、製造実行部410は、製造設備500に量産製造プロセス423を出力すると、本フローの処理を終了する。
【0075】
次に、学習済み分類モデルの生成処理(ステップS90)の詳細について説明する。
【0076】
図3は、学習済み分類モデルの生成処理の一例を示したフロー図である。
【0077】
ステップS91では、製造統括システム200、製造実行システム400および材料認証システム300は、協働で学習用製造を実行し、学習済み分類モデルを生成する。具体的には、製造統括システム200の材料認証取得部220は、認証情報の取得要求に係る材料の型番に対応する学習済み分類モデルが存在しない事を示す情報を取得すると、かかる分類モデルを生成するための学習用製造を製造指示部230に要求する。
【0078】
また、製造統括システム200の製造指示部230は、材料認証取得部220からの要求に基づいて、製造に用いる材料の型番やロットを含む学習用製造に関する製造指示を製造実行部410に出力する。
【0079】
また、製造実行部410は、学習用製造の製造指示を製造指示部230から取得すると、製造プロセスDB420から学習用製造プロセス421を取得する。また、製造実行部410は、予め判明している材料すなわち真であることが分かっている複数の材料の型番およびロットを用いて、かかる学習用製造プロセス421による製造の実行指示を製造機器510に出力することで、学習用製造を実行する。
【0080】
次に、材料認証システム300の材料指紋情報生成部330は、学習用製造における測定値を用いて材料指紋情報を生成する(ステップS92)。具体的には、材料指紋情報生成部330は、学習用製造において製造設備500における複数の各種センサ520および品質検査部430から出力された測定値(センサ値および製品品質)を取得する。また、材料指紋情報生成部330は、取得した測定値から材料特性に相関する複数の特徴量を抽出し、インプロセスの材料指紋情報を生成する。また、材料指紋情報生成部330は、生成した材料指紋情報と、材料の真偽(この場合、真)と、を対応付けて材料指紋情報DB340に格納する。
【0081】
次に、次元削減部350は、次元削減特徴量を生成する(ステップS93)。具体的には、次元削減部350は、UMAPなど所定の手法を用いて、材料指紋情報および材料の真偽の情報(この場合、真)を材料指紋情報DB340から取得し、これらの情報を用いて、学習済み分類モデルに入力できるように次元数を減らした次元削減特徴量を生成する。
【0082】
次に、分類モデル生成部360は、学習済み分類モデルを生成する(ステップS94)。具体的には、分類モデル生成部360は、所定の教師有り分類モデルを用いて、次元削減特徴量を学習することにより、学習用製造における材料の型番に対応した学習済み分類モデルを生成する。
【0083】
次に、分類モデル生成部360は、生成した学習済み分類モデルを分類モデルDB370に登録し(ステップS95)、本フローの処理を終了する。なお、分類モデル生成部360は、本フローの終了後、処理を
図2のステップS30に戻す。
【0084】
以上、学習済み分類モデルの生成処理について説明した。
【0085】
次に、材料ロット認証処理(ステップS80)の詳細について説明する。
【0086】
図4は、材料ロット認証処理の一例を示したフロー図である。
【0087】
ステップS81では、製造統括システム200、製造実行システム400および材料認証システム300は、協働で試し製造を実行し、材料ロットの認証を行う。具体的には、製造統括システム200の材料認証取得部220は、認証情報の取得要求に係る材料のロットが未認証である事を示す情報を取得すると、かかる材料ロットの認証を行うための試し製造を製造指示部230に要求する。
【0088】
また、製造統括システム200の製造指示部230は、材料認証取得部220からの要求に基づいて、製造に用いる材料の型番やロットを含む試し製造に関する製造指示を製造実行部410に出力する。
【0089】
また、製造実行部410は、試し製造の製造指示を製造指示部230から取得すると、製造プロセスDB420から試し製造プロセス422を取得する。また、製造実行部410は、認証を行う材料の型番およびロットを用いて、かかる試し製造プロセス422による製造の実行指示を製造機器510に出力することで、試し製造を実行する。
【0090】
次に、材料認証システム300の材料指紋情報生成部330は、試し製造における測定値を用いて材料指紋情報を生成する(ステップS82)。具体的には、材料指紋情報生成部330は、試し製造において製造設備500における複数の各種センサ520および品質検査部430から出力された測定値(センサ値および製品品質)を取得する。また、材料指紋情報生成部330は、取得した測定値から材料特性に相関する複数の特徴量を抽出し、インプロセスの材料指紋情報を生成する。また、材料指紋情報生成部330は、生成した材料指紋情報を材料指紋情報DB340に格納する。
【0091】
次に、次元削減部350は、次元削減特徴量を生成する(ステップS83)。具体的には、次元削減部350は、材料指紋情報を材料指紋情報DB340から取得し、UMAPなど所定の手法を用いて、学習済み分類モデルに入力できるように次元数を減らした次元削減特徴量を生成する。
【0092】
次に、材料真偽判定部380は、学習済み分類モデルによる真偽判定の結果が真であるか否かを判定する(ステップS84)。具体的には、材料真偽判定部380は、認証を行う材料ロットの型番に対応する学習済み分類モデルを分類モデルDB370から取得する。また、材料真偽判定部380は、生成された次元削減特徴量をかかる学習済み分類モデルに入力することで材料の真偽判定に用いる出力情報を取得し、これを用いて材料の真偽判定を行う。
【0093】
そして、真偽判定の結果が真であると判定した場合(ステップS84でYes)、材料真偽判定部380は、材料ロットの真偽判定結果が真であることを材料認証発行部310に出力する。また、材料真偽判定部380は、分類モデル生成部360および材料指紋情報生成部330に判定結果を出力し、処理をステップS85に移行する。なお、材料指紋情報生成部330は、判定結果を材料指紋情報DB340の対応する材料ロットの材料指紋情報に対応付けて登録する。
【0094】
一方で、真偽判定の結果が真ではないと判定した場合(ステップS084でNo)、材料真偽判定部380は、材料検証部390に追加検証を要求し、処理をステップS87に移行する。
【0095】
次に、真偽判定の結果が真であると判定した場合(ステップS84でYes)に移行するステップS85では、材料認証発行部310は、試し製造に係る材料ロットの認証を行う。具体的には、材料認証発行部310は、真偽判定の結果が真であることを示す情報を材料真偽判定部380から取得すると、試し製造に係る材料ロットの認証を行い、これを認証情報DB320に登録する。材料認証発行部310は、認証情報を発行し、これを材料認証取得部220に出力し、処理をステップS86に移行する。
【0096】
また、分類モデル生成部360は、材料真偽判定部380による材料の真偽判定結果と、真偽判定に用いた次元削減特徴量と、対応する材料型番の学習済み分類モデルと、を用いて、学習済み分類モデルの再学習(アクティブラーニング)を行う(ステップS86)。また、分類モデル生成部360は、再学習した学習済み分類モデルを用いて、分類モデルDB370に登録されている対応する学習済み分類モデルを更新する。また、分類モデル生成部360は、かかる処理を行うと、本フローの処理を終了する。なお、分類モデル生成部360は、本フローの終了後、処理を
図2のステップS30に戻す。
【0097】
また、前述の真偽判定の結果が真ではないと判定した場合(ステップS84でNo)に移行するステップS87では、材料検証部390は、追加検証による真偽判定の結果が真であるか否かを判定する。具体的には、材料検証部390は、例えばFT-IRなど任意の分析技術を用いて材料ロットの追加検証を行い、その真偽を判定する。
【0098】
そして、真偽判定の結果が真であると判定した場合(ステップS87でYes)、材料検証部390は、処理をステップS85に移行する。なお、ステップS85の処理は前述と同様のため詳細な説明は省略する。
【0099】
一方で、真偽判定の結果が真ではないと判定した場合(ステップS87でNo)、材料検証部390は、出力表示部を介して、検証結果が偽であること、および、材料ロットを変更することを推奨する内容の情報を出力装置(ディスプレイ)に表示し(ステップS88)、処理をステップS86に移行する。なお、ステップS86では、判定結果が偽であったことと、真偽判定に用いた次元削減特徴量と、対応する材料型番の学習済み分類モデルと、を用いて、学習済み分類モデルの再学習(アクティブラーニング)を行う。
【0100】
また、この場合、材料検証部390は、判定結果が偽であったことを示す情報を分類モデル生成部360および材料指紋情報生成部330にも出力する。材料指紋情報生成部330は、かかる判定結果を取得すると、これを材料指紋情報DB340の対応する材料ロットの材料指紋情報に対応付けて登録する。
【0101】
以上、材料ロット認証処理について説明した。
【0102】
次に、本実施形態に係るシステムが、複数のセンサ520から得られた複数の特徴量を材料の認証に活用することで、高精度に材料の真偽判定を行うことができることについて、実験例を用いてその効果を説明する。
【0103】
図5は、本実施形態による効果を検証するための実験例の概要を示した図である。実験例としては、樹脂製品(例えば、プラスチック樹脂を用いた製品)を製造する射出成形プロセスにおける実験例を示す。図示する金型600には、金型600内に搭載されたランナー650から5点のピンゲート方式で金型600内の製品形成部に対して樹脂を流入する構造をしている。実験例では、ランナー650に設けたセンサ配置部660と、製品形成部に設けたセンサ配置部610と、の各々に複数の圧力センサおよび樹脂温度センサが配置されている。そして、これらのセンサから圧力および温度の時間変化の測定値を取得した。
【0104】
また、本実験例では、ピーク圧力、圧力の最大微分値、圧力の積分値および温度の最大微分値と、製品品質として製品重量と、を測定値として取得し、これら複数の測定値における特徴量をインプロセス材料指紋情報として生成した。
【0105】
また、製造に使用する材料には、ポリプロピレンを用いた。また、学習用の真の材料として、廃家電由来のリサイクルポリプロピレンの1つの型番を用い、その型番における15種類の材料ロットでの製造を行った。また、学習用の偽の材料として、8つの型番のバージン材を各1ロットと、2つの型番のリサイクル材について各3ロットを用いて製造を行った。
【0106】
また、次元削減モデルとしてUMAPを用い、分類モデルとしてSVMを用いた。
【0107】
図6は、ランナー650に設けたセンサから取得された圧力積分値と製品重量の2パラメータのみを用いて、SVMによる分類モデルを構築した実験結果を示す散布図である。図示するように、横軸に示す圧力積分値と、縦軸に示す製品重量と、の間に負の相関が見られ、材料の特性の違いにより異なる位置にプロットされる傾向が得られた。しかしながら、真の分類領域に偽の実測結果の一部が含まれていることが分かる。このような実験結果から、少ないパラメータに基づいて構築した学習済み分類モデルを用いた場合、特性が似ている材料については、高精度な分類が困難であると判断できる。
【0108】
図7は、20次元の特徴量をインプロセスの材料指紋情報として生成し、2次元の次元削減を行ったのち、学習済み分類モデルを構築した実験結果を示す散布図である。図示するように、横軸には次元削減特徴量1が対応付けられ、縦軸は次元削減特徴量2が対応付けられている。また、20次元の特徴量は、前述の測定値における特徴量の種類(本例では4種)と、各特徴量を測定したセンサ数(本例では、例えば5つのセンサ)とに基づき生成される。なお、異なる種類のセンサを用いて測定された特徴量や、異なる位置で測定された特徴量については各々、相互に異なる特徴量として扱うことができる。
【0109】
本実験例において、真の材料として用いたリサイクルポリプロピレンは、様々な材料と使用履歴を持つ材料が混在するため、材料のロット間でのばらつきが大きい。そのため、得られた散布図においても材料ロットによって広い分布が見られた。また、
図6と比較すると、SVMにより得られた分類のうち、真の分類領域に偽の実測結果は含まれておらず、材料の真偽をより高精度に分類できることが示された。これは、複数のセンサから得られた複数の特徴量をインプロセスの材料指紋情報として用いることで、材料の特性の僅かな違いも反映された次元削減の特徴量が得られたためと考えられる。
【0110】
以上の通り、本システムによれば、追加の検査工程や材料への認証マーカーの添加無しに、製造プロセス中に得られるセンサ情報を用いて材料の真偽を判定し、材料を認証することができる。また、本システムによれば、認証された材料のみを用いて製品の製造を行うことができる。
【0111】
特に、本システムでは、製造プロセス中の複数のセンサから得られた測定値に基づき、追加の検査工程や認証マーカーの添加なしに真偽を判定し、材料を認証することができる。また、複数のセンサから得られる測定値を材料のインプロセス材料指紋情報として用いることで、材料品質や成形品品質など限定されたパラメータのみで判定するよりも高精度な真偽判定が可能になる。
【0112】
さらに、本システムによれば、リサイクル材のようにばらつきの大きい材料についても真偽判定が可能となる。これにより、材料メーカーが材料を偽造した場合においても、製造メーカーは、独自に材料の認証を行うことができる。そのため、製造メーカーは、認証された材料を使用して製造を実行することで、材料偽装の発覚に伴うリスクを未然に防ぐことができる。
【0113】
また、本システムによれば、未認証の材料が偽と判定された場合に、追加の検証分析を行い、真偽の判定結果と関連付けられた次元削減特徴量を用いて学習済み分類モデルに再学習を実施することで、学習済み分類モデルの精度を向上させることができる。
【0114】
また、本システムによれば、学習済み分類モデルにより未認証の材料が真と判定された場合にも、真の判定結果と関連付けられた次元削減特徴量を用いた再学習により、学習済み分類モデルの精度を向上させることができる。
【0115】
次に、本実施形態に係るシステム1000のハードウェア構成について説明する。
【0116】
図8は、本システム1000のハードウェア構成の一例を示した図である。本システム1000は、例えば一つの計算機700(情報処理装置)を用いて実現することができる。
【0117】
具体的には、計算機700は、演算装置710と、メモリ720と、記憶装置730と、入力装置740と、出力装置750と、通信装置760と、媒体インターフェース770と、を備えており、これらの各装置は通信経路CN1により電気的に相互接続されている。なお、通信経路CN1は、例えば内部バスあるいはLAN(Local Area Network)などである。
【0118】
演算装置710は、例えばプロセッサ(マイクロプロセッサ、CPU:Central Processing Unit、GPU:Graphics Processing Unitあるいはその他の半導体デバイスを含む)から構成されている。
【0119】
メモリ720は、RAM(Random Access Memory)やROM(Read Only Memory)などの不揮発性あるいは揮発性の記憶媒体である。
【0120】
記憶装置730は、各サブシステムの機能部を実現するコンピュータプログラム731や本システム1000全体あるいは各サブシステムの処理に用いられる種々の情報などを記憶する装置である。記憶装置730は、例えばフラッシュメモリ、ハードディスクあるいはSSD(Solid State Drive)などの書き換え可能な記憶媒体である。
【0121】
入力装置740は、ユーザ(例えば、システムを使用するオペレーターなど)が計算機700に情報や指示を入力する装置である。入力装置740には、例えばキーボード、タッチパネル、マウスなどのポインティングデバイスやマイクロフォンのような音声入力装置などがある。出力装置750(表示装置)は、計算機700により生成された情報や外部装置から取得した情報を出力(表示)する装置である。出力装置750には、例えばディスプレイ、プリンタ、音声合成装置などがある。
【0122】
通信装置760は、外部の情報処理装置と計算機700とを通信経路CN2を介して通信させる装置である。外部の情報処理装置としては、図示しない他の計算機700や外部記憶装置800がある。なお、外部記憶装置800としては、例えば、USB(Universal Serial Bus)メモリ、メモリカードおよびハードディスクなどがある。
【0123】
計算機700は、外部記憶装置800に格納された情報(例えば、本システム1000の計算機700に用いられる固有情報や生産実績情報など)やコンピュータプログラムを読み込むことができる。また、計算機700は、記憶装置730に記憶されたコンピュータプログラム731および情報の全部または一部を、外部記憶装置800に送信して記憶させることもできる。
【0124】
媒体インターフェース770は、外部記録媒体810(例えば、USBメモリ、メモリカードあるいはDVDなど)に読み書きする装置である。計算機700は、外部記録媒体810から記憶装置730に対してコンピュータプログラム731および情報を転送させることもできるし、記憶装置730に記憶されたコンピュータプログラム731および情報の全部または一部を外部記録媒体810に転送して記憶させることもできる。
【0125】
以上、本実施形態に係るシステム1000のハードウェア構成について説明した。
【0126】
なお、本システム1000の処理部すなわち各サブシステムの各機能部は、演算装置710に処理を行わせるプログラム731によって実現される。このプログラムは、例えば記憶装置730や外部記憶装置800に記憶され、プログラム731の実行にあたって例えばメモリ720上にロードされ、演算装置710により実行される。
【0127】
また、入力受付部は、入力装置740により実現される。また、出力表示部は、出力装置750により実現される。また、記憶部は、メモリ720、記憶装置730または外部記憶装置800あるいはこれらの組合せにより実現される。また、通信部は、通信装置760により実現される。
【0128】
また、本システム1000の各構成、機能、処理部および処理手段等は、それらの一部または全部を、例えば集積回路で設計する等によりハードウェアで実現しても良い。また、本システム1000は、各機能の一部または全部を、ソフトウェアにより実現することもできるし、ソフトウェアとハードウェアとの協働により実現することもできる。また、本システム1000は、固定的な回路を有するハードウェアを用いても良いし、少なくとも一部の回路を変更可能なハードウェアを用いてもよい。
【0129】
また、上述の通り、各サブシステムは、専用のソフトウェアやハードウェアを用いず、各機能の一部または全部をユーザ(オペレータ)が実施することで、システムを実現することもできる。
【0130】
なお、本実施形態では、一つの計算機700から本システム1000を実現する場合を例に説明したが、本発明はこれに限らず、複数の計算機700を連携させることにより一つまたは複数のシステムを構築することもできる。このようなシステムの構成については、以下の第二実施形態および第三実施形態で詳細に説明する。
【0131】
<第二実施形態>
前述の第一実施形態では、本システム1000が一つの計算機700により実現される場合について説明したが、本発明はこのような構成に限られるものではない。
【0132】
図9は、第二実施形態に係るシステム1000のハードウェア構成の一例を示した図である。図示するように、第二実施形態に係るシステム1000は、材料認証システム300を実現する計算機700a(以下、材料認証側計算機700aという場合がある)と、それ以外のサブシステムである生産管理システム100、製造統括システム200および製造実行システム400を実現する複数の計算機700b(以下、ユーザ側計算機700bという場合がある)と、が各々、通信経路CN2により相互通信可能に接続されている。なお、ユーザ側計算機700bは単数であっても良い。なお、同一の構成については同一の符号を付して詳細な説明を省略する。
【0133】
このようなシステム構成によっても、追加の検査工程や材料への認証マーカーの添加無しに、製造プロセス中に得られるセンサ情報を用いて材料の真偽を判定し、材料を認証することができる。特に、本システムでは、材料認証側計算機をクラウド上に配置し、ユーザ側計算機の各々は、通信経路CN2を介して材料認証側計算機に材料の認証を要求することで、第一実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0134】
また、このような構成によれば、材料認証側計算機(材料認証システム)は、複数あるユーザ側計算機から材料認証の要求を取得することになるため、それに伴って学習済み分類モデルにより多くの再学習を実行させることができ、材料の真偽判定精度をより向上させることができる。また、ユーザ側計算機は、真偽判定の精度がより向上した学習済み分類モデルを用いた認証情報を得た場合に製品の製造を実行するため、製造メーカーは、使用される材料について信頼度の高い製造を行うことができる。
【0135】
<第三実施形態>
前述の第二実施形態では、材料認証システム300を実現する計算機700aと、それ以外のサブシステムを実現する複数の計算機700bと、が各々、通信経路CN2により相互通信可能に接続されている構成としたが、本発明はこのような構成に限られるものではない。
【0136】
図10は、第三実施形態に係るシステム1000のハードウェア構成の一例を示した図である。図示するように、第三実施形態に係るシステム1000は、各サブシステムが各々、別個の計算機700o~700rにより実現され、通信経路CN2を介して通信可能に相互接続されている。なお、図示するように、本実施形態では、製造実行システム400を実現する計算機700rが複数あっても良い。なお、同一の構成については同一の符号を付して詳細な説明を省略する。
【0137】
このような構成によっても、第一実施形態と同様の効果を得ることができる。特に、製造実行システム400を実現する計算機700rが複数ある場合、各々が分散された各製造工場に配置されている場合でも、共通の生産管理システム100、製造統括システム200および材料認証システム300により製造実行システム400の各計算機700で実行される処理を集約して管理することができる。
【0138】
なお、本発明のシステムに係る計算機700は、生産管理システム100、製造統括システム200、材料認証システム300および製造実行システム400といったサブシステムの中で、任意のサブシステムを実現するためのプログラム731を他の計算機700に配信するコンピュータ(配信サーバ)として提供することもできる。例えば、本システム1000は、任意のサブシステムを実現するためのプログラム731の取得要求を外部の計算機700(図示せず)から受け付けると、通信部を介して、記憶部に記憶した各サブシステムを実現するためのコンピュータプログラム731を外部の計算機700に送信することもできる。
【0139】
また、前述の実施形態では、試し製造の際に取得した測定値を用いて、材料真偽判定部380による材料の真偽判定結果と、真偽判定に用いた次元削減特徴量と、対応する材料型番の学習済み分類モデルと、を用いた学習済み分類モデルの再学習について説明したが、本発明はこれに限られるものではない。例えば、本システム1000は、量産製造の際に取得された測定値に基づき生成される次元削減特徴量と、材料が真であることを示す情報と、を対応する材料型番の学習済み分類モデルに入力することで、量産製造中に学習済み分類モデルの再学習が繰り返し行われるようにしても良い。
【0140】
なお、本発明は上記した実施形態および変形例に限定されるものではなく、同一の技術的思想の範囲内において様々な変形例が含まれる。例えば、上記した実施例は本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。また、ある実施例の構成の一部を他の実施例の構成に置き換えることが可能であり、また、ある実施例の構成に他の実施例の構成を加えることも可能である。また、各実施例の構成の一部について、他の構成の追加、削除、置換をすることが可能である。
【0141】
また、上記説明では、制御線や情報線は、説明上必要と考えられるものを示しており、製品上必ずしも全ての制御線や情報線を示しているとは限らない。実際には殆ど全ての構成が相互に接続されていると考えて良い。
【符号の説明】
【0142】
1000・・・システム、100・・・生産管理システム、110・・・生産計画管理部、200・・・製造統括システム、210・・・製造条件決定部、220・・・材料認証取得部、230・・・製造指示部、300・・・材料認証システム、310・・・材料認証発行部、320・・・認証情報DB、330・・・材料指紋情報生成部、340・・・材料指紋情報DB、350・・・次元削減部、360・・・分類モデル生成部、370・・・分類モデルDB、380・・・材料真偽判定部、390・・・材料検証部、400・・・製造実行システム、410・・・製造実行部、420・・・製造プロセスDB、430・・・品質検査部、500・・・製造設備、510・・・製造機器、520・・・センサ、700・・・計算機、710・・・演算装置、720・・・メモリ、730・・・記憶装置、731・・・サブシステムの各機能部を実現するコンピュータプログラム、740・・・入力装置、750・・・出力装置、760・・・通信装置、770・・・媒体インターフェース、800・・・外部記憶装置、810・・・外部記録媒体、CN1、CN2・・・通信経路