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特許7633920シミュレータシステム及びシミュレータ方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-02-12
(45)【発行日】2025-02-20
(54)【発明の名称】シミュレータシステム及びシミュレータ方法
(51)【国際特許分類】
   G05B 23/02 20060101AFI20250213BHJP
   G06Q 50/06 20240101ALI20250213BHJP
   G06Q 10/04 20230101ALI20250213BHJP
   G09B 9/00 20060101ALI20250213BHJP
【FI】
G05B23/02 Z
G06Q50/06
G06Q10/04
G09B9/00 A
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2021181247
(22)【出願日】2021-11-05
(65)【公開番号】P2023069415
(43)【公開日】2023-05-18
【審査請求日】2024-01-25
(73)【特許権者】
【識別番号】000005108
【氏名又は名称】株式会社日立製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110001807
【氏名又は名称】弁理士法人磯野国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】平塚 政幸
(72)【発明者】
【氏名】武内 洋人
【審査官】田中 友章
(56)【参考文献】
【文献】特開平4-84308(JP,A)
【文献】特開2017-146770(JP,A)
【文献】特開平9-6407(JP,A)
【文献】特開2019-20885(JP,A)
【文献】特開2006-344004(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G05B 23/02
G09B 9/00
G06Q 50/06
G06Q 10/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
プラントを構成する機器の性能を計算するための性能計算式に基づいて、前記機器のモデルである機器モデルを生成し、当該機器モデルを接続することにより、前記プラントのモデルであるプラントモデルを生成するプラントモデル生成部と、
前記プラントモデルに基づいた強化学習により、前記性能計算式に用いられている定数である制御定数を推定する制御定数推定部と、
推定された前記制御定数を設定した前記プラントモデルを使用して前記プラントのシミュレーションを行うシミュレータ部と、
前記性能計算式に基づいて、前記性能計算式に用いられている計算記号の階層構造を抽出し、表示部に表示する階層構造処理部と、
を有することを特徴とするシミュレータシステム。
【請求項2】
前記プラントの動作状態を判別するための指標である動作レベルを算出し、算出した前記動作レベルを前記階層構造と併せて前記表示部に表示する動作レベル処理部
を有することを特徴とする請求項に記載のシミュレータシステム。
【請求項3】
前記動作レベル処理部は、
前記性能計算式に基づいて算出され、前記機器の動作効率が最もよい場合の出力である前記機器のベスト値と、前記機器から取得される運転値とを基に前記動作レベルを算出し、
前記運転値は、
前記機器から取得される運転データの現在値、又は、所定の時刻における前記運転データ及び前記現在値との差分を含む比較値である
ことを特徴とする請求項に記載のシミュレータシステム。
【請求項4】
プラントを構成する機器の性能を計算するための性能計算式に基づいて、前記性能計算式に用いられている計算記号の階層構造を抽出し、表示部に表示する階層構造処理ステップと、
前記性能計算式に基づいて、前記機器のモデルである機器モデルを生成し、当該機器モデルを接続することにより、前記プラントのモデルであるプラントモデルを生成するプラントモデル生成ステップと、
前記プラントモデルに基づいた強化学習により、前記性能計算式に用いられている定数である制御定数を推定する制御定数推定ステップと、
推定された前記制御定数を設定した前記プラントモデルを使用して前記プラントのシミュレーションを行うシミュレーションステップと、
が実行されることを特徴とするシミュレータ方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シミュレータシステム及びシミュレータ方法の技術に関する。
【背景技術】
【0002】
2021年6月現在、経済産業省における石炭火力検討ワーキンググループでは、「非効率石炭 2030年フェードアウト」の実現に向けた政策対応についての検討がされている。
【0003】
第5次エネルギー基本計画において、我が国における石炭火力の位置づけとして、石炭は、温室効果ガスの排出量が大きいという問題があるが、地政学的リスクが化石燃料の中で最も低い。また、石炭は、熱量当たりの単価も化石燃料の中で最も安いことから、現状において安定供給性や経済性に優れた重要なベースロード電源の燃料として評価されている。
【0004】
石炭火力に対する効率目標値の設定では、非効率な石炭火力の定義はSC(Super Critical)以下(高効率はUSC(Ultra Super Critical)以上)と明記され、発電方式による線引きがされていた。一方で、「エネルギーの使用の合理化等に関する法律」(省エネ法)における現行の火力発電効率のベンチマーク制度では、発電方式区分ではなく実績の発電効率が指標となっている。
【0005】
火力発電効率のベンチマーク目標は火力発電設備全体(石炭、LNG(Liquefied Natural Gas:液化天然ガス)、石油)の目標である。そのため、石炭、LNG、石油すべての火力発電を所有する事業者は、石炭以外の燃料による火力発電が高効率であれば、ベンチマークを達成することができる。したがって、石炭火力のみによる目標達成の実効性が担保されているものではなく、石炭火力のみを対象に新たな指標・目標値を設定することが必要である。
【0006】
特許文献1には「異常検出装置は、プラントの実機から計測される実機計測値を取得し、制御装置から制御指令を取得する取得部と、前記プラントの実機の状態を示すシミュレータ計算値を前記制御指令に基づいて算出するシミュレーション部と、算出した前記シミュレータ計算値に対する前記実機計測値の乖離の度合いが所定の判定閾値を上回った場合に、前記実機に異常が発生したと判定する異常判定部と、前記異常が発生したと判定された場合に、異常が発生したことを通知する通知処理部と、を備える」異常検出装置、シミュレータ、プラント監視システム、異常検出方法及びプログラムが開示されている(要約参照)。
【0007】
特許文献2には「発電プラントのプロセスデータを走査入力するプラント入力手段と、入力した前記プロセスデータに基づいてプラントの特定の整定状態を判定するプラント整定判定手段と、このプラント整定判定手段の判定結果が整定状態であるとき前記プロセスデータを収集するプラントデータ収集手段と、前記収集データを大容量記憶装置へ保存するデータ保存手段と、前記大容量記憶装置からデータを抽出する検索手段と、この検索データを集計し、プラント性能を計算する計算手段と、今回の計算結果及び過去の計算結果からの推移を出力する出力手段とを備えたことを特徴とする」発電プラント性能管理装置が開示されている(請求項1参照)。
【0008】
特許文献3には「データ収集サーバー200は、電力系統に含まれる複数の部分系統のそれぞれにおける電気的諸量のデータを所定間隔で収集し保持する。デジタルツイン生成部102は、データ収集サーバー200が保持する電気的諸量のデータを基に、各部分系統を再現したモデルを含む電力系統のシミュレーションモデルを生成し、且つ、電気的諸量の変化を基にモデルを更新する。シミュレーション実行部102は、データ収集サーバー200に収集されたデータ及びシミュレーションモデルを基にシミュレーションを実行する。結果通知部103は、シミュレーション実行部102により実行されたシミュレーションの結果を通知する」電力系統制御装置、電力系統制御システム、電力系統制御方法及び電力系統制御プログラムが開示されている(要約参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特開2020-129158号公報
【文献】特公平08-016618号公報
【文献】特開2019-154201号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
特許文献1に記載されている技術では、プラント性能診断の観点を有していない。また、特許文献2に記載されている技術では要因の分析に関する記載がない。
【0011】
そして、特許文献3に記載されている技術には、火力・水力発電所および再エネ発電におけるプラント性能診断およびデジタルツインの観点を有していない。また、特許文献3に記載されている系統解析シミュレーションについても、系統事故時の系統状況を再現するものであり、ボイラ効率、タービン効率、ヒートバランス等、プラント性能計算におけるシミュレーションではない。
【0012】
このような背景に鑑みて本発明がなされたのであり、本発明は、プラントのシミュレーションを簡易に行うことを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
前記した課題を解決するため、本発明は、プラントを構成する機器の性能を計算するための性能計算式に基づいて、前記機器のモデルである機器モデルを生成し、当該機器モデルを接続することにより、前記プラントのモデルであるプラントモデルを生成するプラントモデル生成部と、前記プラントモデルに基づいた強化学習により、前記性能計算式に用いられている定数である制御定数を推定する制御定数推定部と、推定された前記制御定数を設定した前記プラントモデルを使用して前記プラントのシミュレーションを行うシミュレータ部と、前記性能計算式に基づいて、前記性能計算式に用いられている計算記号の階層構造を抽出し、表示部に表示する階層構造処理部と、を有することを特徴とする。
その他の解決手段は実施形態中において適宜記載する。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、プラントのシミュレーションを簡易に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本実施形態に係るプラントシミュレータシステムの構成例を示す図である。
図2】本実施形態で行われるプラントシミュレータシステムで行われる全体処理を示す図である。
図3】統計処理の詳細な手順を示す図である。
図4】分析支援処理の手順を示すフローチャートである。
図5】計算式仕様、関数仕様、入力点仕様の分解を示す図である。
図6】本実施形態で行われる階層構造検索処理の手順を示すフローチャートである。
図7】計算記号の一例を示す図である。
図8】本実施形態で行われる分析支援表示処理の手順を示す図である。
図9】分析支援表示処理で表示される計算式解析画面の例を示す図である。
図10】プラントモデルの生成手順を示すフローチャートである。
図11】簡易機器モデル生成処理の手順を示す図である。
図12】簡易機器モデルの一例としての弁モデルを示す図である。
図13】入出力リストの一例を示す図である。
図14】プラントモデル生成処理によって生成されるプラントモデルの例である。
図15】プラントモデルの確認処理に関する図である。
図16A】本実施形態で行われる制御定数推定処理の手順を示す図である。
図16B】運転パラメータ決定処理の具体例を示す図である。
図17】制御パラメータの例を示す図である。
図18】本実施形態の結果、生成されるプラントモデルを用いた運転シミュレータシステムの例を示す図である。
図19】比較例による運転シミュレータシステムの例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
次に、本発明を実施するための形態(「実施形態」という)について、適宜図面を参照しながら詳細に説明する。
【0017】
本実施形態におけるプラントシミュレータシステムZ(図1参照:シミュレータシステム)は、性能計算式に基づいて生成される機器のモデルである簡易機器モデル350(図11参照)を接続することで、プラントのモデルであるプラントモデル520(図14図16A参照)を生成する。機器とは、プラントを構成する機器である。そして、プラントシミュレータシステムZは、このプラントモデル520を用いて、性能計算式における定数である制御定数を強化学習によって推定する。その後、推定された制御定数がプラントモデル520に適用されることで、プラントを模擬した運転シミュレータシステム2(図1参照)が提供される。
【0018】
詳しくは、本実施形態では既存の火力・水力発電所及び再エネ発電におけるプラントの運転シミュレーションが実施され、所定の条件におけるプラント性能判断が可能となるものである(図18参照)。また、本実施形態では性能計算式における計算記号の階層構造の検索や、現在値と目標値(ベスト値)の差分等である動作レベルが算出され、プラントにおける効率低下等の要因分析支援が可能である(図9参照)。加えて、本実施形態ではプラントの実データ(運転データ301(図2参照))から強化学習に基づいて制御定数が推定される(図16A参照)。計算記号とは性能計算式に用いられる変数等である。制御定数は簡易機器モデル350を表現する計算式における定数である。階層構造、ベスト値については後記する。
【0019】
なお、本実施形態の適用対象として火力発電プラントが想定されているが、本実施形態の適用対象は火力発電プラントに限らず、その他のプラントでもよい。なお、本実施形態では、火力発電プラントを単にプラントと称する。また、本実施形態において実プラントを、適宜プラントと称する。
【0020】
[システム及び全体処理]
まず、図1及び図2を参照して、本実施形態に係るプラントシミュレータシステムZの構成及び全体処理について説明する。
【0021】
(システム)
まず、図1を参照して本実施形態に係るプラントシミュレータシステムZの構成を示す。
図1は、本実施形態に係るプラントシミュレータシステムZの構成例を示す図である。
図1に示すように、プラントシミュレータシステムZは、シミュレータ生成装置1と運転シミュレータシステム(シミュレータ部)2とを備える。
シミュレータ生成装置1は、プラントから取得する実績データ(以降、運転データ301(図2参照)と称する)と、予め設定されている機器の性能計算式とを基に、プラントモデル520(図16A参照)を生成する。機器とはプラントを構成する機器である。そして、運転シミュレータシステム2では生成されたプラントモデル520を基に運転シミュレーションが行われる。
【0022】
(シミュレータ生成装置1)
シミュレータ生成装置1はPC(Personal Computer)等で構成され、メモリ100、CPU(Central Processing Unit)11、HDD(Hard Disk Drive)や、SDD(Slid State Drive)等から構成される記憶装置12を備える。さらに、シミュレータ生成装置1は入力装置13、表示装置(表示部)14、及び、通信装置15を備える。
【0023】
記憶装置12に格納されているプログラムがメモリ100にロードされ、ロードされたプログラムがCPU11によって実行されることにより、統計処理部110、分析支援処理部120、制御定数推定部130、運転パラメータ決定部140、運転シーケンス決定部150が具現化する。
【0024】
統計処理部110は、プラントから取得した運転データ301(図2参照)の補間処理等を行う。ちなみに、運転データ301は実プラントから取得される流量や、圧力等の実データ(過去データ)である。
分析支援処理部120は、階層構造検索部(階層構造処理部)121及び分析支援表示処理部(階層構造処理部、動作レベル処理部)122を備える。
階層構造検索部121は補間された運転データ301を用いて性能計算式で用いられている計算記号の階層構造を検索し、出力する。階層構造については後記するが、性能計算式に用いられている計算記号の階層構造である。
【0025】
分析支援表示処理部122は、階層構造検索部121によって検索された計算記号の階層構造を表示装置14に表示する。また、分析支援表示処理部122は、プラントを構成する機器の動作効率等を分析するための動作レベルを算出し、表示装置14に表示する。階層構造、動作レベルについては後記する。なお、以降ではプラントを構成する機器を単に機器と称することがある。
【0026】
制御定数推定部130はプラントモデル処理部(プラントモデル生成部)131及び強化学習部(制御定数推定部)132を備える。
プラントモデル処理部131は、階層構造検索部121による検索結果等を用いて疑似的なプラントのモデル(プラントモデル520(図16A参照))を生成する。
強化学習部132は、強化学習によってプラントモデル520の制御定数を推定する。
【0027】
運転パラメータ決定部140は、制御定数を基にプラントモデル520の運転パラメータ(図2参照)を算出する。運転パラメータは、例えば火力発電プラントにおけるダンパの制御値等である。
運転シーケンス決定部150は、制御定数や、運転パラメータを基にプラントモデル520の運転シーケンス(図2参照)を求める。運転シーケンスは、例えばプラントを構成する機器の動作順番等である。
【0028】
プラントモデル520に対して制御定数、運転パラメータ、運転シーケンス等がプラントモデル520に対して適用されることによりプラントに対する運転シミュレータシステム2(デジタルツイン)が構築される。
【0029】
[全体処理]
図2は、本実施形態で行われるプラントシミュレータシステムZで行われる全体処理を示す図である。適宜、図1を参照する。図2では、プラントシミュレータシステムZで行われる全体処理の概要を示し、それぞれの処理の詳細については後記する。
プラントシミュレータシステムZは、以下に示す処理から構成される。
(A1)統計処理部110が運転データ301から統計モデル311を活用する統計処理(S1)を行う。「運転データ301から統計モデル311を活用する」とは運転データ301の統計モデル311を生成し、この統計モデル311を用いて運転データ301の欠損を補間することである。具体的には、統計処理部110は最適な統計モデル311を使用して運転データ301の補間を行う。
【0030】
(A2)分析支援処理部120が性能計算式情報320に格納されている性能計算式で用いられている計算記号の階層構造や、プラントを構成する機器の動作状態を判別するための動作レベルを表示装置14に表示する(計算式解析画面400)ことでユーザによるプラントの分析を支援する分析支援処理(S2)を行う。
【0031】
(A3)制御定数推定部130が、予め設定されている性能計算式から逆引きされる制御定数(制御定数情報304)を推定する制御定数推定処理(S3)を行う。「性能計算式320から逆引きされる制御定数を推定」とは性能計算式を基に制御定数を推定するという意味である。なお、性能計算式とは、プラントを構成する機器の性能値を算出するための式であり、例えば、発電効率を示す計算式である。
【0032】
具体的には、プラントモデル処理部131によって、性能計算式を基に疑似的なプラントのモデルであるプラントモデル520(図16A参照)が生成される。そして制御定数推定部130は、プラントモデル520を基に高効率な制御を可能とする制御定数を推定する。このようにして、性能計算式を基に制御定数が推定される。
【0033】
(A4)運転パラメータ決定部140や、運転シーケンス決定部150が推定した制御定数に対する運転パラメータ(運転パラメータ情報305)や運転シーケンス(運転シーケンス情報306)を決定する運転パラメータ・運転シーケンス決定処理(S4)を行う。
【0034】
(A5)運転シミュレータシステム2は、決定された制御定数、運転パラメータ、運転シーケンスを基に運転シミュレータシステム2(デジタルツイン)を構築する。ユーザは、構築された運転シミュレータシステム2に、運転シナリオに異常や予期しない事象に対する進展予測や支援を鑑みた要素を付加する。そして、ユーザは、運転シミュレータシステム2に指示を出すことによって、運転シミュレータシステム2が、プラントモデル520の運転シミュレーションであるシミュレーション処理を行う(S5:シミュレーションステップ)。これにより、運転シミュレータシステム2は推定された制御定数を設定したプラントモデル520を使用してプラントのシミュレーションを行う。
(A6)ユーザは、運転シミュレータシステム2による結果を基に現在の運転シミュレーションの結果が良好であるか否かを評価する(S6)。
【0035】
ステップS6の結果、最適であれば、そのプラントモデル520を基に実際の機器の運転が行われる。最適でなければ、ステップS1~S6の処理が繰り返される。これにより、高効率なプラントの設定が実現される。
【0036】
以下、図2のステップS1~S6のそれぞれの概要について説明する。ステップS1~S6のさらに詳細な説明は後記する。
【0037】
(A1)の運転データ301から統計モデル311を活用する統計処理(S1)では、統計処理部110が一般的に用いられる基底半径計算手法等を用いて疑似運転データ302(図3参照)を生成する。疑似運転データ302は運転データ301の欠損を補完するためのデータである。基底半径計算手法では、CV法、半径式、提案手法、改良提案手法等の計算手法を用いることで、運転データ301のばらつきに対応する統計モデル311を生成することが可能である。統計処理部110は生成した統計モデル311のうち、最適な統計モデル311を使用して疑似運転データ302を生成する。
【0038】
(A2)の分析支援処理(S2)では、分析支援処理部120を構成する階層構造検索部121が、性能計算を行うための性能計算式(性能計算式情報320)における階層構造を検索する。すなわち、分析支援処理部120が性能計算式に基づいて、性能計算式に用いられている計算記号の階層構造を抽出し、表示装置14に表示する。
【0039】
加えて、分析支援処理(S2)では、分析支援処理部120を構成する分析支援表示処理部122が、プラントを構成する機器の動作状態を判別するための動作レベルを算出する。そして、分析支援表示処理部122は算出した動作レベルを表示装置14に表示するとともに、階層構造検索部121が検索した階層構造を計算記号の階層構造を示す階層図等で可視化し(計算式解析画面400)、ユーザに提示する。これによって、いわゆる性能計算式の構造における見える化が可能となり、ユーザによるプラントを構成する機器の動作効率等の要因分析が可能となる。また、機器のベスト値と、運転値(現在値又は比較値)との差分である動作レベルが表示装置14に表示される。ベスト値は性能計算式に基づいて算出されるものであり、機器の動作効率が最もよい場合の出力である。現在値、比較値については後記する。そして、ユーザが表示されている内容を分析することにより、階層図における各階層、及び、性能計算式における機器の動作効率低下等の要因を分析することが可能となる。そして、動作レベルはプラントの動作状態を判別するための指標である。つまり、分析支援処理部120は、プラントの動作状態を判別するための指標である動作レベルを算出し、算出した動作レベルを階層構造と併せて前記表示装置14に表示する。
【0040】
(A3)性能計算式から逆引きが行われることで制御定数を推定する制御定数推定処理(S3)では、制御定数推定部130を構成するプラントモデル処理部131が性能計算式を用いることで疑似的なプラントのモデル(プラントモデル520(図16A参照))を生成する。そして、制御定数推定部130を構成する強化学習部132は、強化学習を用いて、プラントモデル520の制御定数(制御定数情報304)を推定する。
【0041】
具体的には、プラントモデル処理部131が、まず、プラントを構成する機器の性能を計算するための性能計算式に基づいて、前記機器のモデルである簡易機器モデル350(図11参照)を生成する。続いて、プラントモデル処理部131は、簡易機器モデル350を接続することにより、プラントのモデルであるプラントモデル520を生成する。続いて、強化学習部132がプラントモデル520に基づいた強化学習により、性能計算式に用いられている定数である制御定数を推定する。
【0042】
なお、制御定数は強化学習によって高効率な運転を実現するよう推定されているが、複数の制御定数の候補が推定された場合、強化学習部132が最も効率の高い運転を実現する制御定数を決定する処理が行われてもよい。
【0043】
(A4)の運転パラメータ・運転シーケンス決定処理(S4)では、まず、運転パラメータ決定部140が模擬されたプラントモデル520について高効率な運転を実現する運転パラメータ(運転パラメータ情報305)を決定する。さらに、運転シーケンス決定部150は、推定された制御定数や、運転パラメータに対する運転シーケンス(運転シーケンス情報306)を決定する。
【0044】
(A5)シミュレーション処理(S5)において、推定された制御定数、運転パラメータ、運転シーケンスがプラントモデル520に対して適用されることによってプラントに対する運転シミュレータシステム2が構築される。さらに、運転シミュレータシステム2に対して、運転データ301及び統計モデル311で生成した疑似運転データ302が設定されることで運転シミュレータシステム2による実プラントの運転シミュレーションが開始される。つまり、運転シミュレータシステム2は推定された制御定数を設定したプラントモデル520を使用してプラントのシミュレーションを行う。
【0045】
シミュレーション処理では、ユーザがプラントの燃料を減らしたり、排気ガスを減らしたりするには、どのようにすればよいか等をシミュレートする。
また、ユーザは、運転シミュレータシステム2において制御定数等を変更することにより、プラントの効率がどのように変化するかを試すことができる。
さらに、シミュレーション処理では、ユーザが訓練シナリオに異常予兆や予期しない事象に対する進展予測や対策支援を鑑みた要素を付加することで、従来にない高効率なプラントを実現する訓練ソリューションが提供可能である。つまり、実際のプラントでは設定しにくい制御値等を試すことができる。
【0046】
前記したようにユーザは、運転シミュレータシステム2による結果を基に現在の運転シミュレーションの結果が良好であるか否かを評価する(S6)。評価の結果、運転シミュレーションの結果が良好ではない場合、ステップS1へ処理が戻される。シミュレーション処理(S5)の結果、運転シミュレーションの結果が良好であれば実プラントにプラントモデル520の設定が反映される。
【0047】
以下、図2に示すステップS1~S6の各処理について詳細な説明を行う。以降の説明では適宜図1が参照される。
【0048】
[統計処理(図2のステップS1)の詳細]
図3は、図2のステップS1に示す統計処理の詳細な手順を示す図である。
図3に示すように、統計処理部110は、プラントから取得した運転データ301を基に運転データ301の統計モデル311を生成する。そして、統計処理部110は統計モデル311を基に運転データ301の欠損を補完するための推定データである疑似運転データ302を生成する。そして、統計処理部110は、運転データ301と疑似運転データ302とを合わせることにより、図3のグラフG1で示すように運転データ301(黒丸)を疑似運転データ302(×印)で補間することができる。なお、グラフG1では横軸が運転時間を示し、縦軸がプロセス値を示している。プロセス値とはプラントにおける機器の出力値である。また、グラフG1において一点鎖線の縦線は補間を行うデータの境界線(区切り)を示している。
【0049】
疑似運転データ302を生成するための統計モデル311は、a.CV法、b.半径式法、c.提案手法、d.改良提案手法等が用いられる。
以下、CV法、半径式法、提案手法、改良提案手法の手順を示す。
【0050】
a.CV法の計算手法は以下の通りである。
(a-1)統計処理部110は基底半径をすべての基底に対して一律に設定する。基底とは運転データ301の項目である。例えば、温度や、燃料の量、空気量等である。また、基底半径とは、用いられる運転データ301の範囲である。例えば、用いられる燃料の量の範囲である。基底半径が決まれば、基底直径、即ち、用いられる運転データ301の範囲が決定される。
【0051】
(a-2)(a―1)が行われた後、統計処理部110は以下のアルゴリズムで基底を決定する。
(a-2-1)統計処理部110は統計モデル311の構築に用いる運転データ301のデータサンプルを2つのグループに分割する。
(a-2-2)統計処理部110は、それぞれの基底に対して基底半径の候補を生成する。
(a-2-3)統計処理部110は、分割したデータサンプルのうち、一方のグループのサンプルデータを用いて統計モデル311を構築し、残りのグループのサンプルデータ用いて精度を評価する。
(a―3)統計処理部110は(a―2)の処理を繰り返し、精度が所望の値となる基底半径を選定する。所望の値とは予め設定してある値である。
【0052】
b.半径式の計算手法は以下の通りである。
(b-1)統計処理部110は、基底半径をすべての基底に対して一律に設定する。
(b-2)統計処理部110は、以下のアルゴリズムで基底を決定する。
(b-2-1)統計処理部110は、統計モデル311の構築に用いる運転データ301の入力データ(操作パラメータデータ)間の距離を計算する。入力データ間の距離とは、入力変数が張る座標空間における入力データ間の距離である。
(b-2-2)統計処理部110は、(b-2-1)の処理で計算した距離の最大に基づいて、基底平均値を決定する。
【0053】
c.提案手法の計算手法は以下の通りである。
(c-1)統計処理部110は、基底半径を基底毎に設定する。
(c-2)統計処理部110は、運転データ301に対して個別に疎密度情報を定義する。疎密度情報とは、データによって形成される座標空間における単位空間当たりのデータ数である。
(c-3)統計処理部110は、計算した疎密度に対して近傍データを変化させて基底半径を調整する。近傍データとは、データによって形成される座標空間において、任意のデータに対して所定の距離にあるデータである。
【0054】
d.改良提案手法の計算手法は以下の通りである。
(d-1)統計処理部110は、各基底関数に対して出力変数(統計モデル311の出力データ)毎に規定半径を設定し、基底半径を基底半径毎に調整する。基底関数とは、構築する統計モデル311を構成する関数である。
(d-2)統計処理部110は、入力空間の被覆度とモデル構築データの出力変数値を基に規定半径を調整する。被覆度とは、基底関数が入力空間を被覆する度合いである。
【0055】
統計処理部110は、a~dの手法によって生成される基底半径値、基底平均値、半径パラメータの最適値を基に疑似運転データ302を生成する。統計処理部110は、疑似運転データ302を用いることで、運転データ301を補間することが可能である。つまり、統計処理部110は、a~dの手法によって求めた基底半径等を基に、最適な統計モデル311を検索し、最適な統計モデル311を基に疑似運転データ302を生成する。そして、統計処理部110は、疑似運転データ302によって運転データ301の補間の補間を行う。
なお、疑似運転データ302の生成は、a~dの手法に限らず、線形補間等の手法が用いられてもよい。
【0056】
[分析支援処理(図2のステップS2)の詳細]
図4は、図2のステップS2に示す分析支援処理の手順を示すフローチャートである。
図4に示すように、分析支援処理では、階層構造検索処理(S21)と、分析支援表示処理(S22)とから構成される。分析支援処理によって、性能計算式(図2参照)で使用される計算記号の階層が可視化される。
ステップS21の階層構造検索処理の詳細については後記するが、図4に示すように、分析支援処理部120を構成する階層構造検索部121が、複数の性能計算式(性能計算式情報320)を基に計算記号の階層構造を検索する。階層構造については後記する。
ステップS22の分析支援情報表示処理の詳細については後記するが、図4に示すように、分析支援処理部120は階層構造検索処理の結果、動作レベル、運転データ301等に基づく情報を表示装置14に表示する。
【0057】
[階層構造検索処理(図4のステップS21)の詳細]
図5図7は、図4のステップS21に示す階層構造検索処理を説明するための図である。
階層構造検索処理に先立って、階層構造検索部121は以下の手順で性能計算式の分解を行う。
まず、図5に示すように、性能計算式は複数の計算式仕様321や、関数仕様322、入力点仕様323を参照している。計算式仕様321には性能計算式そのものの情報や、使用されている入力点(入力変数)に関する情報等が格納されている。また、関数仕様322には関数に関する情報が格納されている。関数とは、性能計算式に含まれるものであり、予め入力・出力の関係がわかっているものである(シグモイド関数等)。また、入力点仕様323には性能計算式で使用されている入力点に関する情報が格納されている。一般的に、性能計算式を参照しただけでは、性能計算式間の関係をユーザが一目で判断することは困難である。ちなみに、統計モデル311を導出する際に用いられる基底関数等は関数仕様322に含まれる関数とは異なるものである。
【0058】
例えば、性能計算式の一例として発電効率を示す以下の式(1)、式(2)が存在するものとする。
P = (BINOUT/100)×T ・・・ (1)
PLOSS = (BLOSS/100)×T ・・・ (2)
【0059】
式(1)、式(2)において、「P」は入出力法による発電端効率、「BINOUT」は入出力法によるボイラ効率である。また、「T」はタービン室効率、「PLOSS」は損失法による発電端効率、「BLOSS」は損失法によるボイラ効率である。式(1)、式(2)ではTが共通の入力点(入力変数)となっているが、コンピュータは単に式(1)と式(2)とを比較しても、式(1)と式(2)との関係を推測することは困難である。
【0060】
そこで、本実施形態では、分析支援処理部120が性能計算式を分解することで、それぞれの性能計算式間の関係性を参照する。そして、分解した結果である計算式情報331や定義情報332等をキーとして、入力点情報333との関係が把握されることで性能計算式間の関係が明示される。以下に、性能計算式の分解処理を記載する。
【0061】
(B1)分析支援処理部120は計算式仕様321を分解することで、以下の情報を含む計算式情報331を取得する。
・計算記号、名称、計算順序、計算周期、計算時間
計算式情報331のうち、計算記号、計算順序は後記する入力点IDと紐づけるための検索キーである。つまり、計算式情報331は計算記号や、計算順序をキーとしたリレーショナルデータベースの一部を構築する。計算式情報331における検索キーは図5において括弧内に記載されている。後記する定義情報332、入力点情報333、関数情報334における検索キーも同様である。
【0062】
なお、計算記号は、式(1)、式(2)における「P」、「BINOUT」、・・・等の変数である。このような階層構造を検索する際において変数を計算記号と称する。名称は計算記号が示す機能の名称である。例えば、式(1)、式(2)における計算記号「P」の名称は「入出力法による発電端効率」である。計算順序は、それぞれの性能計算式を計算する順序である。例えば、式(1)を計算した後に式(2)を計算する等である。計算周期は性能計算式の計算が行われる周期である。計算が行われる周期とは、例えば、所定時間毎に計算が行われる等である。計算時間は性能計算式の計算が行われた際に、計算に要する時間である。計算周期及び計算時間は実際に性能計算式の計算が行われた際の情報が格納されるとよい。
【0063】
(B2)分析支援処理部120は計算式仕様321を分解することで、以下の定義情報332を取得する。
・計算記号(定義式)、名称、計算式、計算記号(参照式)
定義情報332のうち、計算記号(定義式)、計算記号(参照式)は後記する入力点IDと紐づけるための検索キーである。
計算記号(定義式)は計算記号の定義を示すものである。名称は計算記号(定義式)の機能名称である。計算式は、計算記号(定義式)が用いられている性能計算式である。計算記号(参照式)は計算記号(定義式)中に含まれる計算記号である。なお、(B1)に示す計算記号は、(B2)の計算記号(定義式)、計算記号(参照式)の双方に対応する。
【0064】
(B3)分析支援処理部120は入力点仕様323を分解することで、以下の入力点情報333を取得する。なお、以下に示す入力点情報333に含まれる情報は入力点情報333に格納されている情報である。
・入力点ID、名称、単位
入力点IDは入力点に対して一意に付与される番号である。ちなみに、計算記号は入力変数、出力変数を含むが入力点は入力変数である。式(1)、(2)における「BINOUT」、「T」、「BLOSS」等が入力点に相当する。このような階層構造を検索する際において入力変数を入力点と称する。名称は入力点の機能名称である。単位は入力点Noが示す変数に代入される値の単位である。
【0065】
(B4)分析支援処理部120は関数仕様322を分解することで、以下の関数情報334を取得する。なお、以下に示す関数情報334は関数仕様322に含まれている情報である。
・関数ID、名称、関数式
関数情報334のうち、関数IDは入力点IDと紐づけるための検索キーである。
関数は、前記したように所定の機器の入出力関係を示すものである。関数IDは関数に対して一意に付与される番号である。関数式は、関数が示す計算式である。
【0066】
(階層構造検索処理)
図6は本実施形態で行われる階層構造検索処理の手順を示すフローチャートである。なお、図6に示されるフローチャートは図4のステップS21の詳細な処理である。
【0067】
階層構造検索部121は計算式情報331における検索キーをリスト化(計算順序での並び替え含む)する(S211)。具体的には、階層構造検索部121は計算式情報331を計算順序で並び替えた後、検索キーの1つである計算記号をリストとして抽出する。ステップS211で出力されるリストを計算記号リストと称する。
【0068】
階層構造検索部121は定義情報332における計算記号(定義式)をリスト化する(S212)。具体的には階層構造検索部121は定義情報332の計算記号(定義式)を定義情報332から取得してリスト化する。ステップS212で出力されるリストを定義式リストと称する。
【0069】
階層構造検索部121は定義情報332の計算記号(参照式)を定義式リスト(リスト)に追加する(S213)。この際、階層構造検索部121は計算記号(参照式)を、定義情報332から1つ取得して、ステップS212で格納した計算記号(定義式)と対応付けて定義式リストに格納する。この際、定義情報332における計算記号(定義式)との対応の通りに計算記号(定義式)と計算記号(参照式)とが対応付けられる。
【0070】
続いて、階層構造検索部121は関数情報334における関数IDを定義式リスト(リスト)に追加する(S214)。具体的には階層構造検索部121は関数情報334から関数IDを1つ取得して定義式リスト(リスト)に追加する。
【0071】
そして、階層構造検索部121は、定義情報332における計算記号(参照式)及び関数情334報における関数IDのすべてが定義式リストに追加されたか否かを判定する(S215)。
計算記号(参照式)及び関数IDのすべてがリストに追加されていない場合(S215→No)、階層構造検索部121はステップS213へ処理を戻す。
【0072】
計算記号(参照式)及び関数IDのすべてがリストに追加されている場合(S215→Yes)、階層構造検索部121は、ステップS211~S215で生成されたそれぞれのリストと入力点情報333の入力点IDを照合し、最終的なリストとして計算式リスト情報330を出力する(S216)。計算式リスト情報330は計算式リスト、定義式リスト、関数リストが互いに入力点IDによって紐づけられているものである。つまり、ステップS216において階層構造検索部121は入力点情報333を参照し、計算式リスト、定義式リスト、関数リストのそれぞれの情報(計算記号、関数)に対応する入力点IDを計算式リスト、定義式リスト、関数リストに対応付けて追加する。これにより、計算リスト、定義式リスト、関数リストが入力点IDによって互いに紐づけられる。さらに、計算式リスト情報330では、計算リスト、定義式リスト、関数リストを介して、計算式情報331、定義情報332、入力点情報333、関数情報334にも紐づけられている。
【0073】
このように生成された計算式リスト情報330には計算記号、名称、単位、計算式ID、計算順序等の情報が含まれている。
【0074】
図5及び図6に示す処理によって、階層構造検索部121は性能計算式に基づいて、性能計算式に用いられている計算記号の階層構造を抽出する。
【0075】
図7は、計算記号の一例を示す図である。なお、図7に示す例は、計算記号の一例であり、図5に示す計算式仕様321、関数仕様322、入力点仕様323、計算式情報331、定義情報332、入力点情報333、関数情報334、図6に示す各リストとは別のものである。
図7に示す例では、No、計算記号、名称、単位、入出力関数情報(I/O/F)、入力点/関数IDが示されている。
入出力関数情報は、対象となる計算記号が出力に使用されるものか、入力に使用されるものか、関数として使用されるものかについての情報が格納される。例えば、計算記号「P」は前記した式(1)に示すように発電端効率として出力(OUT)されるものである。また、計算記号「BINOUT」は式(1)に示すように発電端効率の入力(IN)となるものである。なお、図7には関数として使用される計算記号の例が記載されていないが、対象となる計算記号が関数の場合、入出力関数情報(I/O/F)には「F」が格納される。ちなみに、図7に記載されている計算記号、名称は式(1)、式(2)で使用されているものと同様である。
【0076】
入力点/関数IDには、入力点ID及び関数IDが格納されている。図7に示す例では、入力点/関数IDは計算記号そのものが使用されている。なお、「P」は出力であるが、他の性能計算式で入力点として使用される場合は「P」として使用されることを示している。
【0077】
(分析支援表示処理)
図8は、本実施形態で行われる分析支援表示処理(図4のステップS22)の手順を示す図である。
本処理では、図6で生成された計算式リスト情報330が用いられる。図6に示す階層構造計算処理で生成された計算式リスト情報330では計算記号と計算順序がリスト化されている。
【0078】
まず、分析支援表示処理部122は動作レベル算出処理を行う(S221)。ステップS221において分析支援表示処理部122は運転データ301を取得し、機器のベスト値と、現在値又は比較値を設定することで、動作レベルを機器毎に算出する。前記したように、ベスト値は性能計算式に基づいて算出され、機器の動作効率が最もよい場合の出力である。現在値や、比較値は運転データ301のデータが使用される。現在値は機器から取得される運転データ301の現在値である。比較値とは、所定の時刻における運転データ301及び現在値との差分を含むものである。このように分析支援表示処理部122は、機器のベスト値と、機器から取得される運転値(現在値又は比較値)との差分や偏差等の動作レベルを算出する。つまり、分析支援表示処理部122は、機器のベスト値と、機器から取得される運転値(現在値又は比較値)とを基に動作レベルを算出する。このようにして、分析支援表示処理部122は、プラントの動作状態を判別するための指標である動作レベルを算出する。
【0079】
続いて、分析支援表示処理部122は可視化表示処理を行う(S222)。分析支援表示処理部122は、計算式リスト情報330に含まれる計算順序に従い計算記号を図9に示す可視化表示領域402に階層表示する。さらに、ステップS222において、分析支援表示処理部122はステップS221で算出した動作レベル等を図9に示す動作レベル判定領域401に表示する。
そして、ユーザによる分析作業が行われる(S223)。分析作業については後記する。
【0080】
(計算式解析画面400)
図9は、図8に示す分析支援表示処理で表示される計算式解析画面400の例を示す図である。
図9に示すように、計算式解析画面400は動作レベル判定領域401と、可視化表示領域402とを有する。動作レベル判定領域401には動作レベルが表示されている。動作レベル判定領域401には、動作レベルに加えて、運転データ301の現在値又は比較値や、ベスト値等が表示されてもよい。また、可視化表示領域402には計算記号の階層構造等が表示されている。ここで計算記号の階層構造について説明する。計算記号の階層構造とは計算記号の関係を示している。例えば、ある計算記号「XA」は式Aによって算出され、その式Aには計算記号「XB」が使用されているものとする。さらに、計算記号「XB」は式(A)とは異なる式Bによって算出され、式Bには計算記号「XC」が使用されているものとする。すなわち、以下の関係が成り立っているものとする。
【0081】
XA=f(XB)
XB=f(XC)
【0082】
このような場合、計算記号「XA」の下位構成として計算記号「XB」が存在し、計算記号「XB」の下位構成として計算記号「XC」が存在する。このような場合、計算記号「XA」、「XB」、「XC」の階層関係は図9の可視化表示領域402に示す形式で表示される。なお、図9の可視化表示領域402における表示形式は一例であり、その他の表示形式で計算記号の階層構造が表示されてもよい。
【0083】
このように、分析支援表示処理部122は、計算記号の階層構造を表示装置14に表示する。加えて、分析支援表示処理部122は、算出した動作レベルを階層構造と併せて表示装置14に表示する。動作レベルと階層構造とが併せて表示されることで、ユーザは性能計算式が参照している入力点IDと、その値を比較し、分析を行うことが可能である(図8のS223)。図8における分析作業(S223)において、ユーザは動作レベルによる機器の動作効率等の動作状態の確認や、階層表示による機器・系統の相互関係の判別等を行う。具体的には、ユーザは動作レベル判定領域401に表示されている動作レベルを参照することによって、機器の効率等といった動作状態を確認する。そして、効率が低下している機器があれば、ユーザは可視化表示領域402に表示されている計算記号の階層構造を参照して、効率低下の要因を分析する。
【0084】
更に、ユーザによる分析作業を行うため、任意の性能計算式や入力点の除外が可能である。例えば、発電端効率の場合、発電機出力や積算値が使用されている。このような場合、運転条件や季節変動、単純増加値等の外的要因が排除されることで、プラントを構成する機器や系統を絞り込む(縮小する)ことが可能となる。なお、性能計算式や、入力点の除外は、ユーザが計算式解析画面400に表示されている性能計算式や、入力点の情報を選択した後、ユーザが除外を指示することによって行われる。
【0085】
[制御定数推定処理(図2のステップS3)及び運転パラメータ・運転シーケンス決定処理(図2のステップS4)]
図10図17を参照し、図2のステップS3に示される制御定数推定処理の手順を示す。
【0086】
まず、制御定数推定処理(図2のステップS3)について説明する。制御定数推定処理では、制御定数の推定に先立ってプラントモデル520(図16A参照)の生成が行われる。
(プラントモデル生成処理)
図10は、簡易機器モデル350を組み合わせて生成されるプラントモデル520(図16A参照)の生成手順を示すフローチャートである。
プラントモデル処理部131は性能計算式を基に簡易機器モデル350(図11参照)を生成する(S311:プラントモデル生成ステップ)。なお、簡易機器モデル350はプラントを構成する機器のモデルであるが、機器の系統に関する情報を含んでいてもよい。
プラントモデル処理部131は生成したい簡易機器モデル350に対する入出力接続の設定を行う。これにより、プラントモデル520が生成される。入出力接続の設定は図6の処理で生成された計算式リスト情報330を基に行われる。
【0087】
プラントモデル処理部131は簡易機器モデル350の入出力関係をリスト化することで入出力リストを生成する(S312:プラントモデル生成ステップ)。入出力リストについては後記する。
【0088】
プラントモデル処理部131はステップS312で生成したプラントモデル520での計算処理を実行する(S313)。具体的には、運転データ301や、図3の処理で生成された疑似運転データ302を、プラントモデル520の機器へ入力する。
そして、プラントモデル処理部131はステップS313で行った計算処理の計算結果をファイル出力し(S314)、ユーザは結果を確認する(S315)。ステップS315では、生成されたプラントモデル520による計算が正常に処理されているか否かが判定されればよい。正常に処理されているか否かとは、エラーが出力されていないか否かや、異常な値が出力されていいないか否か等である。要するに、ステップS315では生成されたプラントモデル520が正常であるか否かをユーザが確認する。
【0089】
(簡易機器モデル生成処理)
図11は、図10のステップS311で行われる簡易機器モデル生成処理の手順を示す図である。
性能計算式は複数の計算式や関数が、組み合わされることで構成されている。本実施形態では、この考えを用いて、例えば、圧力部や熱交換部、流量発生部等といったプラントの構成部品を模擬する計算を行うことで簡易機器モデル350を構築することが可能である。
【0090】
例えば、式(1)に示す発電端効率を発電機の簡易機器モデル350を示す式(関数)とすることで、発電機の簡易機器モデル350が生成される。
【0091】
簡易機器モデル350を構築するために必要な模擬部分(機器)は以下のようなものがある。以下に示す模擬部分は、すべての模擬部分の一部を示している。ちなみに、以下の関数は図5の計算式仕様321等に格納されている関数である。また、以下に示す計算式は性能計算式としても用いられるものである。
【0092】
(C1)機械模擬
・圧力容器計算式
・ポンプ計算式
・弁計算式数
・温度計算式
・エンタルピ計算式
・熱量計算式
・流量計算式
(C2)制御模擬
・PI制御計算式
・操作端計算式
(C3)分析模擬
・最小二乗法計算式
・線形計算式
・非線形計算式
(C4)定数模擬
・対応表
・定数値
【0093】
図11の符号340には簡易機器モデル350を構成する計算モデルの例として代表圧力部、熱交換部、流量発生部の圧力-流量特性の計算モデルが示されている。代表圧力部とは、圧力部のうちの任意の代表的な圧力部である。例えば、代表圧力部では入力流量「Fi」(kg/s)と、入力エンタルピ「Hi」(kJ/kg)が入力となる。そして、入力に対し代表圧力部の容積「V」(m)を関係させることで出力流量「Fo」(kg/s)と、出力エンタルピ「Ho」(kJ/kg)が出力される。また、熱交換部では、入力流量「Fi」(kg/s)、入力エンタルピ「Hi」(kJ/kg)、入熱量「Qi」(kJ/s)が入力となる。そして、入力に対し熱交換部での圧力「P」(kPa)を関係させることで出力流量「Fo」(kg/s)、出力エンタルピ「Ho」(kJ/kg)、放熱量「Qo」(kJ/s)が出力される。また、流量発生部では、入力圧力「Pi」(kPa)、モータ等の回転数(rpm)、弁開度(-)を入力が入力となる。なお、弁開度の「-」は弁が閉じていることを示している。そして、入力に対して圧力-流量特性:f(x)を関係させることで、出力圧力Po(kPa)が出力される。ちなみに、流量は回転数及び弁開度から算出される。
【0094】
図11に示すように、構築された簡易機器モデル350はモデル情報351として記憶される。そして、モデル情報351には計算式仕様352、関数仕様353が紐づけられている。モデル情報351に紐づけられている計算式仕様352、関数仕様353は図5に示す計算式仕様321や、関数仕様322と同様の内容を有する。また、計算式仕様352、関数仕様353は簡易機器モデル350の構築時に生成される。
【0095】
なお、(C2)制御模擬、(C3)分析模擬も性能計算式によって表現されているものとする。
【0096】
(簡易機器モデル350の一例)
図12は簡易機器モデル350の一例としての弁モデル360を示す図である。
図12に示す弁モデル360は、弁入口圧力「P1」、弁出口圧力「P2」、弁開度「A」、弁定数「C」を用いた以下の式(11)によって弁流量「F」を出力する。
【0097】
F = C×(P1-P2)×A ・・・ (11)
【0098】
なお、弁モデル360(簡易機器モデル350)を表現する計算式である式(11)における「C」が制御定数である。また、式(11)は弁流量の大小を判定するための性能計算式でもある。従って、制御定数(式(11)の「C」)は性能計算式に用いられている定数である。このようにプラントモデル処理部131はプラントを構成する機器の性能を計算するための性能計算式に基づいて、機器のモデルである簡易機器モデル(機器モデル)350を生成する。
【0099】
ちなみに、前記した(C4)に示す対応表、定数値はプラントモデル520(図16A参照)の定数であり、制御定数とは異なるものである。また、式(11)の「C」は値を変更することができる(ただし、一度決めると変更できないため定数である)が、式(1)、式(2)における「100」は変更することができないため、制御定数ではない。
【0100】
図13図10のステップS312で生成される入出力リストの一例を示す図である。
入出力リストでは、No、機器名、IN/OUT、PID、接続元PID、初期値の各フィールドを有している。
Noは接続関係に割り振られる番号である。
機器名は、対称となる機器の名称である。
IN/OUTは対象となる情報が入力であるか出力であるかを示すものである。なお、図13のNo1,No2に記載されている「OUT1」、「OUT2」のように末尾に数字が付与されているものについて、末尾の数字は機器の出力端の番号を示している。No3,No4における「IN1」、「IN3」も同様である。
【0101】
PIDは入力点IDである。
接続元PIDは、対象となる機器の接続元となるPID(入力点ID)である。例えば、No3の機器「Z2」はNo1の「Y1-1」に接続していることを示している。つまり、「Y1-1」の出力が「X1」の入力となっている。
【0102】
初期値は対象となる情報の初期値である。初期値はユーザによって設定される。なお、初期値が設定されない情報は初期値の欄が空欄となっている。
【0103】
前記したように、このような簡易機器モデル350の接続関係は、図6で生成される計算式リスト情報330を基に設定される。
【0104】
図14はプラントモデル生成処理によって生成されるプラントモデル520の例である。
図14に示すように、プラントモデル520は簡易機器モデル350が複数接続されて構成されている。図14では理解しやすくするため簡易機器モデル350が示す機器の接続関係が図示されているが、実際には図13に示す入出力リストで、それぞれの簡易機器モデル350の接続関係が示されている。
【0105】
このようにプラントモデル処理部131は簡易機器モデル350を接続することにより、プラントのモデルであるプラントモデル520を生成する。
【0106】
図15は、プラントモデル520の確認処理に関する図である。
図15に示すように、プラントモデル520の確認処理では、プラントモデル処理部131が運転データ301から生成される統計モデル311を用いて疑似運転データ302を生成する。なお、図15に示す処理で使用される統計モデル311は図3の統計処理(図2のステップS1)で用いられる統計モデル311でよい。
【0107】
そして、プラントモデル処理部131は、運転データ301と疑似運転データ302とをプラントモデル520に適用してプラントモデル520の動作を計算する(計算処理:S313)。この計算処理は図10のステップS313に相当する処理である。そして、ユーザは計算処理の結果を確認する(図10のS315)。計算処理の結果をユーザが確認する際、前記したように生成されたプラントモデル520が正常に動作するか否かを確認すればよい。
【0108】
(制御定数推定処理)
図16Aは、本実施形態で行われる制御定数推定処理の手順を示す図である。
図16Aに示す制御定数推定処理では、生成されたプラントモデル520を利用して制御定数推定部130が高効率な運転となる制御定数の推定を行う。推定された制御定数が高効率な運転となるか否かは、一般的には以下の手法のうち、いずれかを用いた分析を行うことによって判定される。
(D1)統計モデル311の疑似運転データ302による性能計算の試算が行われる。
(D2)簡易機器モデル350による試算が行われる。
(D3)プラントモデル520による試算が行われる。
どの手法においても、制御定数となる固定値が存在する。
【0109】
例えば、(D1)の性能計算の試算を行う上で必要な制御定数が性能計算式に含まれている。この制御定数を変更することで、高効率な運転となる場合がある。(D2)(D3)も同様に、生成したプラントモデル520における制御定数を変更することで高効率な運転となる場合がある。本実施形態では、強化学習を用いて、このような高効率な運転を実現する制御定数が推定される。
【0110】
以下、図16Aを参照して、本実施形態で行われる制御定数推定処理を説明する。
図16Aにおける計算処理(S313)は、図10図15の計算処理(S313)である。つまり、運転データ301及び疑似運転データ302による計算処理(S313)によって、プラントモデル520が正常に生成されていることが確認されている。
【0111】
本実施形態では制御定数を求めるため、強化学習が用いられる。強化学習は、与えられた条件下で得られる価値を最大化する方法を、試行錯誤を通じて探索し続ける学習手法である。強化学習は、プラントモデル520の定数、制御定数を動的に変更していくことで、最も高効率な運転となる制御定数を検索する。なお、前記したように、プラントモデル520の定数とは、前記した(C4)で示される対応表、定数値である。
【0112】
更に、運転パラメータ決定部140が強化学習で求められた、最も高効率な運転となる制御定数を基に、対象となる機器や操作端の操作条件を決定することで運転パラメータを決定する。さらに、運転シーケンス決定部150が強化学習で求めた制御定数や、運転パラメータを基に運転シーケンスを決定する。
このサイクルが回されることで、強化学習の入出力データを最適化することが可能であり、高効率な運転となる状態を確定することが可能である。
【0113】
具体的には、制御定数推定部130の強化学習部132が操作パラメータ設定データ541及びガイダンス条件データ542を取得する。操作パラメータ設定データ541には、どの機器を用いるのか等に関する情報が格納されている。ガイダンス条件データ542には機器に入力する入力値や、各機器の動作割合等が格納されている。
【0114】
次に、強化学習部132が強化学習を実行する強化学習処理を行う(S321:制御定数推定ステップ)。具体的には、強化学習部132はプラントモデル520に取得した操作パラメータ設定データ541及びガイダンス条件データ542を入力する。その上で、強化学習部132は、制御定数、プラントモデル520の定数を求める。このように強化学習部132は、プラントモデル520に基づいた強化学習により、性能計算式に用いられている定数である制御定数を推定する。
【0115】
強化学習部132は強化学習処理を行うたびに学習結果データ562、制御結果データ563を出力する。学習結果データ562には強化学習の結果、出力されるパラメータが格納される。強化学習の結果出力される、制御結果データ563にはプラントモデル520における、それぞれの簡易機器モデル350の制御値が格納される。この制御値とは、例えば、強化学習が行われるたびに出力される簡易機器モデル350の出力値であり、制御定数とは異なるものである。
【0116】
[運転パラメータ・運転シーケンス決定処理(図2のステップS4)]
以下の記載は運転パラメータ・運転シーケンス決定処理(図2のステップS4)についての説明である。
続いて、運転パラメータ決定部140は運転パラメータ決定処理を行う(S401)。運転パラメータ決定処理では強化学習処理で求められた各定数(プラントモデル520の定数、制御定数)を基に簡易機器統計モデル550(図16B参照)を生成する。
【0117】
具体的には、運転パラメータ決定部140は、プラントモデル520を生成する際に出力された簡易機器モデル350毎の条件別モデル入力データ521や、条件別モデル出力データ522や、制御定数設定データ523で構築されるプラントモデル520に強化学習処理で求められたプラントモデル520の定数、制御定数304等を適用する。条件別モデル入力データ521は、簡易機器モデル350における所定の条件に基づいた入力データである。条件別モデル入力データ521として、運転データ301等が用いられてもよい。条件別モデル出力データ522は、条件別モデル入力データ521が入力された際における簡易機器モデル350の出力である。制御定数設定データ523は制御定数が複数存在する場合において、制御定数を1つに絞るための設定データである。
【0118】
そして、運転パラメータ決定部140は、強化学習処理で求められた制御定数304等を適用されたプラントモデル520における簡易機器モデル350毎の統計モデルである簡易機器統計モデル550を生成する。このように簡易機器統計モデル550は図3に示す統計モデル311とは異なるものである。運転パラメータ決定部140は、簡易機器統計モデル550を評価することで運転パラメータ(図2参照)を決定する。運転パラメータの決定手法については後記する。
【0119】
そして、運転パラメータ決定処理(S401)の結果、モデル特性データ561が出力される。モデル特性データ561には図16Bに示す簡易機器統計モデル550に関する情報や、符号551に関する情報等が格納されている。
【0120】
また、強化学習処理(S321)及び運転パラメータ決定処理(S401)の結果、制御パラメータ(制御パラメータ情報571)が出力される。制御パラメータについては後記するが、制御定数や、運転パラメータに関する情報を含んでいる。
【0121】
運転シーケンス決定部150は制御パラメータを基に運転シーケンス(図2参照)を決定する運転シーケンス決定処理を行う(S402)。
【0122】
そして、運転シーケンス決定部150は決定した制御定数、運転パラメータ、運転シーケンス等を用いてプラントモデル520の評価を行い、評価が低ければ、プラントモデル520を利用した強化学習部132による強化学習が再び行われる(符号581で示される矢印)。
【0123】
図16Bは運転パラメータ決定処理(図16AのS401)の具体例を示す図である。
簡易機器統計モデル550は、任意の簡易機器モデル350(図11参照)に対して強化学習の結果(プラントモデル520の定数、制御定数)を適用した統計モデルである。
例えば、運転パラメータ決定部140は簡易機器統計モデル550で示すようなモデル入力とモデル出力との関係において符号551で示す最も出力が高くなる(最も高効率となる)モデル入力を決定する。なお、図16Bにおいて、モデル入力、モデル出力の「モデル」とは簡易機器モデル350を示している。
【0124】
そして、運転パラメータ決定部140はモデル入力に対する機器の操作制御を示す操作制御マップ590を参照する。そして、運転パラメータ決定部140は簡易機器統計モデル550において最も高効率となるモデル入力の値591に対応する操作制御値を算出する。なお、図16Bにおいて、簡易機器統計モデル550と、操作制御マップ590の横軸は揃えられているわけではない。
【0125】
図17は制御パラメータの例を示す図である。
図17に示す制御パラメータの例では、No、モデル入力、モデル出力、簡易機器統計モデル550における簡易機器モデル出力、強化学習処理による結果としての制御定数(図2参照)、運転パラメータ決定処理の結果としての運転パラメータ(図2参照)が格納されている。
Noはプラントモデル520における簡易機器モデル350に対して一意に付与される番号である。
モデル入力は簡易機器モデル350に入力される数値であり、モデル出力は簡易機器モデル350から出力される数値である(図11参照)。モデル入力は図16Aにおける条件別モデル入力データ521に一致し、モデル出力は図16Aにおける条件別モデル出力データ522に一致してもよい。
簡易機器統計モデル550に対する簡易機器モデル出力の欄には簡易機器統計モデル550に簡易機器モデル350を適用した際の出力が格納される。
【0126】
強化学習処理における制御定数の欄には、強化学習によって推定される最適な制御定数が簡易機器モデル350毎に格納される。
運転パラメータ決定処理における運転パラメータには運転パラメータ決定処理(図16AのS401)で出力される運転パラメータが格納される。
【0127】
[シミュレーション処理(図2のステップS5)]
(運転シミュレータシステム2)
図18は本実施形態の結果、生成されるプラントモデル520を用いた運転シミュレータシステム2の例を示す図である。図18に示される運転シミュレータシステム2は図2のステップS5(シミュレーション処理)で使用されるものである。
図18に示すように、運転シミュレータシステム2は訓練用操作端末21、訓練用ユニット計算機22、訓練用コントローラ23、保守ツール24、モデル計算機25を有している。
訓練用操作端末21は、ユーザによる運転シミュレーションが行われる際にプラントモデル520を操作するための端末である。
訓練用ユニット計算機22は訓練用操作端末21によるプラントモデル520の操作をプラントモデル520に反映する。
訓練用コントローラ23は運転シミュレーションにおける制御ロジックを実行する。
保守ツール24は、プラントモデル520に対する保守シミュレーションを制御する。
モデル計算機25はプラントモデル520の動作(運転シミュレーション)を実行する。具体的には、インストラクタPが制御定数や、運転パラメータ、運転シーケンス等を初期値としてモデル計算機25に格納されているプラントモデル520に設定することで運転シミュレータシステム2(デジタルツイン)が構築される。さらに、インストラクタPが運転データ301(図2参照)や、疑似運転データ302を初期値として運転シミュレータシステム2に設定することで運転シミュレーションが開始される。
【0128】
このように、運転シミュレータシステム2では、推定された制御定数を設定したプラントモデル520を使用してプラントのシミュレーションが行われる。
【0129】
ユーザは、運転シミュレータシステム2による運転シミュレーションの結果が良好であれば、実プラントに制御定数や、運転パラメータや、運転シーケンスを反映させる。
運転シミュレータシステム2による運転シミュレーションの結果が良好でなければ、再度、図2のステップS1へ処理を戻す。なお、この処理は図2のステップS6に相当する。
【0130】
(比較例)
図19は、比較例による運転シミュレータシステム2Aの例を示す図である。
図19に示すように運転シミュレータシステム2Aの構成は図17に示す運転シミュレータシステム2と同様である。
これまでの運転シミュレータシステム2Aではマルファンクション(事故時対応操作)機能として予め設定された事故時の状態を模擬することで運転員の訓練が行われる。これまでの運転シミュレータシステム2Aではプラントにおける各系統(主蒸気系統、主蒸気タービン、復水系統・・・等)の機器モデルをユーザが1つ1つプログラムで詳細/簡略的に設定する必要がある。これに対し、本実施形態における運転シミュレータシステム2では、これまで示してきたように、簡易機器モデル350(図11参照)が性能計算式を基に生成される。これにより、本実施形態におけるプラントシミュレータシステムZは簡易な操作でプラントを模擬する運転シミュレータシステム2を構築することができる。
【0131】
以下、図18図19とを参照して、本実施形態の運転シミュレータシステム2と、これまでの運転シミュレータシステム2Aとを比較する。
運転シミュレータシステム2は、図16Aで求めた運転データ301や、制御定数を含む各定数を初期値とし、高効率な運転を行うための訓練を行うものである。前記したように、これまでの運転シミュレータシステム2Aは事故時対応操作(マルファンクション)と主目的としている。これに対し、本実施形態で生成されるプラントモデル520を使用する運転シミュレータシステム2では性能計算式に基づいた簡易機器モデル350が使用され、さらに強化学習によって高効率な運転を実現するための制御定数が設定される。このような設定が行われた運転シミュレータシステム2を使用することで、高効率な運転を行うためには、プラントを構成する機器に対して、どのような設定等を行えばよいかがわかる。すなわち、運転シミュレータシステム2によれば高効率な運転を行うための訓練が可能となる。もちろん、これまでの運転シミュレータシステム2Aと同様、実プラントで運転していない状態を訓練することが可能となる。つまり、本実施形態で生成されるプラントモデル520によれば、実プラントでは設定しにくいパラメータを試すことができる。
【0132】
本実施形態におけるプラントシミュレータシステムZは、火力プラントや、水力発電プラントなどのプラントにおけるデジタルツインを機器の性能を計算するための(プラント性能診断で用いる)性能計算式に基づいて生成するものである。
【0133】
また、本実施形態におけるプラントシミュレータシステムZは、性能計算式における計算K号の階層構造を検索・表示するとともに、動作レベルによってプラントの動作状態について要因を分析可能である。
そして、本実施形態におけるプラントシミュレータシステムZは、所定の条件におけるプラントの機器について動作を試すことで、プラントの性能について試行することができる。
【0134】
また、今後のエネルギミックスにおける負荷調整力、ならびに需給バランスを行う必要がある中において高効率な運転を目指すために必要な運転能力を教育的観点からも行うことが可能である。また、前記したように、運転シミュレータシステム2Aと同様、実プラントで実行していない設定状態を用いて、起こり得る異常予兆や進展予測等の対応訓練も可能である。このように、本実施形態の運転シミュレータシステム2によれば、実プラントでは実施することが難しい状態を模擬することが可能である。
【0135】
実プラントでは実施することが難しい状態を模擬するため、前記したように、これまでの運転シミュレータシステム2Aは、機器毎に機器モデルを1つ1つ生成することで対応してきた。しかし、この機器モデルは主機、補機、プラント構成、機械特性等、多種多様な条件の1つ1つをプログラム化する必要がある。本実施形態で生成されるプラントモデル520では、性能計算式を基に主機、補機、プラント構成、機械特性等、多種多様な条件を強化学習によって求められる。そのため、主機、補機、プラント構成、機械特性等、多種多様な条件の1つ1つをプログラム化する必要がない。
【0136】
本実施形態によるプラントシミュレータシステムZは、具体的には、これまで説明したように、
(E1)運転データ301から統計モデル311による疑似運転データ302を生成し、この疑似運転データ302によるデータ補間が行われる。
(E2)性能計算式を基に機器のモデルである簡易機器モデル350が生成される。
(E3)簡易機器モデル350を組み合わせたプラントモデル520によって模擬データが生成される。
の手法を用いることで、主機、補機、プラント構成、機械特性等、多種多様な条件を1つ1つ1つプログラム化する必要がない。つまり、運転データ301から主機、補機、プラント構成、機械特性等、多種多様な条件の1つ1つをプログラム化することなくプラントモデル520を生成することが可能である。
【0137】
これらの手法は、図9に示す可視化表示領域402が表示されることにより、プラントモデル520の生成過程がブラックボックスとならない。つまり、可視化表示領域402では性能計算式に使用されている計算記号の階層構造が示されている。従って、性能計算式から生成される簡易機器モデル350の入出力関係も可視化表示領域402によって視認できる。従って可視化表示領域402が表示されることにより、プラントモデル520の生成過程がブラックボックスとならない。また、動作レベル判定領域401に動作レベルが表示されることにより、実プラントの動作状態を容易に確認することができる。
【0138】
また、性能計算式や、生成したプラントモデル520が可視化(表示装置14に表示)されてもよい。これにより、実プラントの構成変更時にも容易に簡易機器モデル350を変更することが可能となる。
【0139】
要するに、本実施形態による運転シミュレータシステム2によれば事故時対応操作(マルファンクション)機能を有するとともに、事故時の状態だけではなく、高効率な運転となる制御定数による運転訓練が可能となる。
また、本実施形態による運転シミュレータシステム2では、これまで実プラントで運転していない状態を訓練することができる。これにより異常予兆や、進展予測の対策支援の訓練が容易に可能となる。
【0140】
例えば、ユーザは運転シミュレータシステム2による運転シミュレーションで、様々な設定値を探ることで、燃料の削減や、CO2排出量の削減を試すことができる。また、強化学習においてCO2排出量を削減しつつ、高効率な制御定数を求めることもできる。
【0141】
このように、本実施形態では、プラント(火力発電プラント)を運転シミュレータシステム2によるバーチャル空間で再現・検証するデジタルツインサイクルを回している。このようにすることで、非効率石炭 2030年フェードアウトへの施策や、バイオマス混焼・副生物混焼、アンモニア混焼や水素混焼等の燃焼方法検証、調整力運転に伴う発電効率低下時の要因を分析することが可能となる。
【0142】
つまり、本実施形態におけるプラントシミュレータシステムZを活用することによって、事業者はバイオマス混焼・副生物混焼、アンモニア混焼や水素混焼におけるプラントの運転シミュレーションだけではなく、調整力運転に伴う発電効率低下時の要因を分析することが可能となる。その上で、事業者にとっては、2030年度のエネルギミックスと整合的になるよう、発電効率の目標値(石炭火力発電は41.0%以上)を設定し、利益最大化及び環境規制守りながら事業活動を継続していくことが可能となる。
【0143】
また、本実施形態のプラントシミュレータシステムZによれば、これまで述べてきた理由により、火力・水力発電及び再エネ発電事業者については、売電収入のみならずプラントの高効率運転における燃料費の削減や設備稼働率向上、発電所運用の教育・訓練にかかるコスト削減が期待できる。また、プラントの状態把握及びプラントモデル520の精度向上、信頼性の高い発電所の監視・運用・制御・復旧の実現、予期しない事業に対する進展予測や対策検討等が可能である。これにより、これまで熟練者のノウハウをOJTによる現場訓練から、デジタル発電所上で行うことが可能となり、柔軟な運用方式の構築・評価・確認が可能となる。
【0144】
発送電分離、再生可能エネルギー電源の増加、需要家側機器の能動化等により、系統状態の把握が困難になってくることが予想されている。これに伴い、電力需要量のリアルタイムデータの収集が困難になってくるおそれがある。経済的で信頼性の高い発電運用を実現するために、電力需要の振る舞いを正確に予測、評価できるシミュレーション技術や性能評価の重要性が増し、そのモデル定数の精度がより重要になってくる。本実施形態では、火力発電所の実機データから統計モデル311を活用しながら性能計算式の階層構造や、動作レベルが導出・表示される。さらに、本実施形態では、性能計算式を基に制御定数が推定される。その上で、その制御定数を実現する運転シーケンス等が出力される。その運転手法シーケンスに基づいた訓練シナリオに異常予兆や予期しない事象に対する進展予測や対策支援を鑑みた要素を付加することで、これまで運転シミュレータシステム2Aにはない高効率なプラントを実現するデジタルツイン技術を包含したプラント性能診断が実現される。
【0145】
また、本実施形態のプラントシミュレータシステムZは以下の効果を奏する。
(F1)プラントの状態把握及びプラントにおける高効率な制御定数の実現。
(F2)信頼性の高い発電所の監視・運用・制御・復旧の実現。
(F3)予期しない事業に対する進展予測や対策検討。
(F4)これまでの給電方式にとらわれない必要性に応じた柔軟な運用方式の構築・評価・確認。
(F5)新しい発電所運用方式の計算機上での評価・確認。
(F6)発電所運用の教育・訓練。
【0146】
また、本実施形態のプラントシミュレータシステムZによれば、以下のような経済面での効果を奏する。
(F7)プラント設備の情報の有用性、安定化制御等の必要性を定性的・定量的に確認できる。
(F8)プラント設備の最大限活用(利用率向上)。
(F9)電力取引の拡大における発電制約の最大限の抑制。
【0147】
本発明は前記した実施形態に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。例えば、前記した実施形態は本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明したすべての構成を有するものに限定されるものではない。また、記載された実施形態の構成の一部について、他の構成の追加・削除・置換をすることが可能である。
【0148】
また、前記した各構成、機能、各部110,120,121,122,130,131,132,140,150、記憶装置12等は、それらの一部又はすべてを、例えば集積回路で設計すること等によりハードウェアで実現してもよい。また、図1に示すように、前記した各構成、機能等は、CPU11等のプロセッサがそれぞれの機能を実現するプログラムを解釈し、実行することによりソフトウェアで実現してもよい。各機能を実現するプログラム、テーブル、ファイル等の情報は、HD(Hard Disk)に格納すること以外に、メモリ100や、SSD(Solid State Drive)等の記録装置、又は、IC(Integrated Circuit)カードや、SD(Secure Digital)カード、DVD(Digital Versatile Disc)等の記録媒体に格納することができる。
また、各実施形態において、制御線や情報線は説明上必要と考えられるものを示しており、製品上必ずしもすべての制御線や情報線を示しているとは限らない。実際には、ほとんどすべての構成が相互に接続されていると考えてよい。
【符号の説明】
【0149】
1 シミュレータ生成装置
2 運転シミュレータシステム(シミュレータ部)
2A 運転シミュレータシステム
14 表示装置(表示部)
110 統計処理部
120 分析支援処理部
121 階層構造検索部(階層構造処理部)
122 分析支援表示処理部(階層構造処理部、動作レベル処理部)
130 制御定数推定部
131 プラントモデル処理部(プラントモデル生成部)
132 強化学習部(制御定数推定部)
140 運転パラメータ決定部
150 運転シーケンス決定部
301 運転データ
302 疑似運転データ
304 制御定数情報(制御定数)
305 運転パラメータ情報
306 運転シーケンス情報
311 統計モデル
320 性能計算式情報(性能計算式)
350 簡易機器モデル(機器モデル)
400 計算式解析画面
401 動作レベル判定領域
402 可視化表示領域
520 プラントモデル
Z プラントシミュレータシステム(シミュレータシステム)
S5 シミュレーション処理(シミュレーションステップ)
S321 強化学習処理(制御定数推定ステップ)
S311 簡易機器モデルの生成(プラントモデル生成ステップ)
S312 入出力リストの生成(プラントモデル生成ステップ)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16A
図16B
図17
図18
図19