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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-02-12
(45)【発行日】2025-02-20
(54)【発明の名称】モータ試験装置およびモータ試験方法
(51)【国際特許分類】
   G01M 13/025 20190101AFI20250213BHJP
   H02P 29/00 20160101ALI20250213BHJP
   G01M 17/007 20060101ALN20250213BHJP
【FI】
G01M13/025
H02P29/00
G01M17/007 K
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2021202796
(22)【出願日】2021-12-14
(65)【公開番号】P2023088126
(43)【公開日】2023-06-26
【審査請求日】2024-06-05
(73)【特許権者】
【識別番号】000005108
【氏名又は名称】株式会社日立製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110000062
【氏名又は名称】弁理士法人第一国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】隅田 悟士
(72)【発明者】
【氏名】伊君 高志
【審査官】鴨志田 健太
(56)【参考文献】
【文献】特開平4-054888(JP,A)
【文献】国際公開第2017/213182(WO,A1)
【文献】特開2014-142317(JP,A)
【文献】特開平08-075831(JP,A)
【文献】特開平02-132343(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01M 13/025
H02P 29/00
G01M 17/007
H02P 5/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
供試モータの側または当該供試モータに負荷を与える負荷モータの側に設けられ、前記供試モータまたは前記負荷モータの電流を検出して電流検出値を出力する電流検出部と、
前記供試モータの側または前記負荷モータの側に設けられ、前記供試モータまたは前記負荷モータのトルクを検出してトルク検出値を出力するトルク検出部と、
前記トルク検出値をフィルタ処理してトルクフィルタ値を出力するフィルタ部と、
前記トルク検出部を設けた側の前記供試モータまたは前記負荷モータの電流検出値に基づくか、または、前記トルク検出部を設けない側の前記供試モータまたは前記負荷モータの電流検出値および角加速度並びに前記供試モータと前記負荷モータとを含む回転軸の慣性値に基づいて、前記供試モータまたは前記負荷モータのトルク推定値を出力するトルク推定部と、
前記トルク推定値を前記トルクフィルタ値に漸近させてトルク補正値を出力するトルク推定補正部と、
前記トルク補正値に基づいて前記負荷モータを制御する制御部と
を備えるモータ試験装置。
【請求項2】
請求項1に記載のモータ試験装置であって、
前記トルク推定補正部は、前記トルク推定値をフィードフォワード側、前記トルクフィルタ値をフィードバック側とする二自由度制御系を構成する
ことを特徴とするモータ試験装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載のモータ試験装置であって、
前記制御部は、前記負荷モータの速度指令演算回路を有し、
前記速度指令演算回路は、前記トルク補正値と所定の慣性値とに基づいて、前記負荷モータの速度指令値を演算する
ことを特徴とするモータ試験装置。
【請求項4】
請求項1または2に記載のモータ試験装置であって、
前記制御部は、車両模擬回路を有し、
前記車両模擬回路は、前記トルク補正値から、ギア比を持って前記供試モータと車両の車輪とを連結するギア、当該車輪および当該車輪を接続した車体それぞれに関する物理量並びに前記車輪の回転速度に基づいて、前記負荷モータの速度指令を演算する
ことを特徴するモータ試験装置。
【請求項5】
請求項1から4のいずれか1項に記載のモータ試験装置であって、
前記供試モータまたは前記負荷モータの角加速度と前記供試モータまたは前記負荷モータの慣性値とに基づいてトルク検出補正値を演算して前記トルク検出値に加算するトルク検出補正部をさらに備える
ことを特徴とするモータ試験装置。
【請求項6】
供試モータまたは当該供試モータに負荷を与える負荷モータの電流を検出し、
前記供試モータまたは前記負荷モータのトルク検出値をフィルタ処理してトルクフィルタ値を求め、
トルク検出を行う側の前記供試モータまたは前記負荷モータの電流検出値に基づくか、または、当該トルク検出を行わない側の前記供試モータまたは前記負荷モータの電流検出値および角加速度並びに前記供試モータと前記負荷モータとを含む回転軸の慣性値に基づいて、前記供試モータまたは前記負荷モータのトルク推定値を算出し、
前記トルク推定値を前記トルクフィルタ値に漸近させてトルク補正値を求め、
前記トルク補正値に基づいて前記負荷モータを制御する
ことを特徴とするモータ試験方法。
【請求項7】
請求項6に記載のモータ試験方法であって、
前記トルク補正値を、前記トルク推定値をフィードフォワード側、前記トルクフィルタ値をフィードバック側とする二自由度制御系を用いて、前記トルク推定値を前記トルクフィルタ値に漸近させることにより求める
ことを特徴とするモータ試験方法。
【請求項8】
請求項6または7に記載のモータ試験方法であって、
前記供試モータまたは前記負荷モータの角加速度と前記供試モータまたは前記負荷モータの慣性値とに基づいてトルク検出補正値を演算して前記トルク検出値に加算する
ことを特徴とするモータ試験方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、モータ試験装置およびモータ試験方法におけるトルク推定技術に関する。
【背景技術】
【0002】
モータ制御システムの評価に当たっては、供試モータと負荷モータとを対向させ、負荷モータで所定の負荷を与えて評価する。このとき、負荷モータの慣性値は、最終製品である鉄道車両や自動車などの慣性値とは一致しない。そのため、負荷モータの制御によって見掛け上の慣性を模擬する必要があり、これを慣性模擬制御と呼ぶ。また、慣性の他、走行抵抗や回転軸の減衰率などを模擬することも可能であり、例えば、特許文献1および2には、それに関する技術の開示がある。
【0003】
慣性模擬制御では、供試モータトルクが模擬対象とする慣性に入力された場合の挙動(角加速度・回転速度など)を演算し、それと負荷モータの実際の挙動が一致するように制御を行う。
【0004】
このため、慣性模擬制御では、供試モータトルクを検出する必要があり、特許文献1および2では、そのためにトルク検出器を備えている。また、実用上はトルク検出器にはノイズが含まれるため、特許文献2に開示のように、ローパスフィルタ(LPF)をトルク検出器の後段に備えることが望ましい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特許第6737363号公報
【文献】特開2014-142317号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
慣性模擬制御において、ローパスフィルタ(LPF)を備えると、トルク検出遅延が発生するため、慣性模擬精度が低下するという課題が生じる。そのために、ローパスフィルタ(LPF)の時定数を下げると、トルク検出遅延は減少するが、検出ノイズの影響を受ける問題が残ることになる。
そこで、本発明では、トルク検出時のノイズによる影響を抑制しつつ、トルク検出遅延を低減する技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決するために、代表的な本発明のモータ試験装置の一つは、供試モータの側または当該供試モータに負荷を与える負荷モータの側に設けられ供試モータまたは負荷モータの電流を検出して電流検出値を出力する電流検出部と、供試モータの側または負荷モータの側に設けられ供試モータまたは負荷モータのトルクを検出してトルク検出値を出力するトルク検出部と、トルク検出値をフィルタ処理してトルクフィルタ値を出力するフィルタ部と、トルク検出部を設けた側の供試モータまたは負荷モータの電流検出値に基づくか、または、トルク検出部を設けない側の供試モータまたは負荷モータの電流検出値および角加速度並びに供試モータと負荷モータとを含む回転軸の慣性値に基づいて、供試モータまたは負荷モータのトルク推定値を出力するトルク推定部と、トルク推定値をトルクフィルタ値に漸近させてトルク補正値を出力するトルク推定補正部と、トルク補正値に基づいて負荷モータを制御する制御部とを備えるものである。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、モータ試験装置において、高精度かつ高応答なトルク検出を実現できる。この結果、モータ試験装置によるモータ制御システムの評価時と運用時の差をなくすことができ、モータあるいはインバータ効率、トルク応答などの評価精度を高めることが可能となる。
また、上記した以外の課題、構成および効果は、以下の発明を実施するための形態における説明により明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明の実施例1に係るモータ試験装置の構成を示す図
図2】トルク推定補正部を用いない場合のトルクおよび回転速度の波形を示す図
図3】トルク推定部を用いた場合のトルクおよび回転速度の波形を示す図
図4】トルク推定補正部を用いた場合のトルクおよび回転速度の波形を示す図
図5】本発明の実施例2に係るモータ試験装置の構成の一部を示す図
図6】本発明の実施例3に係るモータ試験装置の構成の一部を示す図
図7】本発明の実施例4に係るモータ試験装置の構成の一部を示す図
図8】実施例4で模擬対象とする車両の車両機構を示す図
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面を用いて、本発明を実施するための形態として、実施例1から4について説明する。なお、これら各実施例により本発明が限定されるものではない。また、図面の記載において、同一部分には同一の符号を付して示している。
【実施例1】
【0011】
図1は、本発明の実施例1に係るモータ試験装置の構成を示す図である。
供試モータ(Mt)1と負荷モータ(Mg)2とは、対向して配置され、それぞれ、供試側インバータ(INV)3と負荷側インバータ(INV)4とにより駆動される。
【0012】
供試モータ(Mt)1と負荷モータ(Mg)2との間には、実慣性5が備えられ、その慣性値をJrとする。この実慣性5としては、フライホイールが挙げられる。
ここで、供試モータ(Mt)1、負荷モータ(Mg)2、実慣性5およびそれらを接続する回転軸は、完全な剛性体であるとし、回転速度は、いずれもωとする。
【0013】
電流検出部6は、供試モータ(Mt)1のU相電流i、V相電流iおよびW相電流iを検出する。
【0014】
トルク検出部7は、供試モータ(Mt)1のトルクτ(以下、「供試側トルクτ」という)を検出し、トルク検出値τt-dtcとして出力する。
【0015】
トルク推定部8は、三相二相変換回路8aおよび電流・トルク換算回路8bから構成される。その内、三相二相変換回路8aは、U相電流i、V相電流iおよびW相電流iをd軸電流iとq軸電流iに換算する。また、電流・トルク換算回路8bは、供試モータ(Mt)1のパラメータ(誘起電圧係数、インダクタンスなど)に基づいて、d軸電流iとq軸電流iをトルク推定値τt-obsに換算する。
【0016】
フィルタ部9は、トルク検出値τt-dtcに含まれるノイズを除去するための手段である。例えば、ローパスフィルタ(LPF)を用いて、ノイズを除去したトルクフィルタ値τt-LPFを出力する。フィルタ部9は、ローパスフィルタ(LPF)の他、バンドパスフィルタ(BPF)などでもよい。
【0017】
トルク推定補正部10は、トルク推定値τt-obsおよびトルクフィルタ値τt-LPFに基づいて、トルク補正値τt-revを出力する。トルク補正値τt-revは、供試モータ(Mt)1の最終的なトルク推定値となる。
【0018】
慣性模擬部11は、トルク補正値τt-revに基づいて、実慣性5の慣性値Jrを見掛け上、Jに模擬するための手段であり、速度指令演算回路11a、速度制御回路11b、トルク・電流換算回路11c、電流制御回路11dおよび二相三相変換回路11eから構成される。
【0019】
速度指令演算回路11aは、次の(数1)に従って、トルク補正値τt-revから速度指令ω を演算する。
【数1】
【0020】
速度制御回路11bは、速度指令ω と回転速度ωが等しくなるように、負荷モータ(Mg)2のトルク指令τ を演算する。
【0021】
トルク・電流換算回路11cは、トルク推定部8の電流・トルク換算回路8bとは逆に、トルク指令τ からd軸電流指令i とq軸電流指令i を演算する。
【0022】
電流制御回路11dは、d軸電流指令i とq軸電流指令i およびモータ電圧方程式に従って、d軸電圧指令v とq軸電圧指令v を演算する。
【0023】
二相三相変換回路11eは、d軸電圧指令v とq軸電圧指令v を、U相電圧指令v 、V相電圧指令v およびW相電圧指令v に変換する。
【0024】
次に、慣性模擬制御の動作原理について説明する。
供試モータ(Mt)1に対して慣性値Jの慣性が接続された場合、次の(数2)が成り立つ。
【数2】
ここで、速度制御回路11bにより、「ω = ω 」となる。
【0025】
また、供試モータ(Mt)1のトルクτを理想的に検出でき、これをトルク補正値τt-revとするならば、「τt-rev = τ」となる。
【0026】
「ω = ω 」および「τt-rev = τ」であるときに、(数1)と(数2)は等価となり、供試モータ(Mt)1から見ると、その先には慣性値Jの慣性が接続されたように見える。
【0027】
以上が、慣性模擬制御の原理であり、これを実現するための条件が、以下に記す実現条件(1)および(2)である。
(1)速度制御回路11bによって、「ω = ω 」が成り立つ。
(2)理想的なトルク検出手段によって、「τt-rev = τ」が成り立つ。
【0028】
ところが、慣性模擬制御には課題があるので、それについて説明する。
実機では、トルク検出部7の検出精度や信号出力精度に依存して、トルク検出値τt-dtcにはノイズが含まれる。このノイズを除去するために、フィルタ部9を用いるが、その出力であるトルクフィルタ値τt-LPFは、トルク検出値τt-dtcおよび供試側トルクτに対して遅延を含むことになる。
【0029】
図2は、トルク推定補正部10を用いない場合のトルクおよび回転速度の波形を示す図である。図2に示すように、時刻tにおいて供試側トルクτがステップ変化する場合、過渡的には「τ ≠ τt-LPF」となる。
【0030】
このため、「τt-rev = τ」および「τt-rev = τt-LPF」として、(数1)をそれぞれ演算した場合、前者の速度指令ω **および後者の速度指令ω には差が生じる。この差を、速度誤差Δω(= ω - ω **)とする。
ここで、速度指令ω **は、慣性模擬制御における理想的な速度指令である。
【0031】
一方、速度指令ω は、供試側トルクτをトルクフィルタ値τt-LPFで代替した場合の速度指令である。すなわち、図1に示すトルク推定補正部10を備えることなく、トルクフィルタ値τt-LPFを、速度指令演算回路11aに直接入力した場合の速度指令である。
速度誤差Δωが負の場合、供試モータ(Mt)1から見て、出力したトルクの割には加速していないことを表し、見掛け上の慣性がJよりも大きくなっていることを意味する。これに対して、速度誤差Δωが正の場合は、逆である。
【0032】
いずれにしても、速度誤差Δωは、見掛け上の慣性の誤差を表し、その原因は、「τt-rev = τt-LPF」としたことにより、「τt-rev = τt-LPF ≠ τ」となり、慣性模擬制御の実現条件の(2)「τt-rev = τ」が成り立たないためである。
【0033】
フィルタ部9の時定数を小さくすれば、遅延の影響は小さくなるが、ノイズの影響を受けやすくなるため、結局、慣性模擬制御の実現条件(2)は成り立たない。
【0034】
これが、慣性模擬制御の課題であり、フィルタ部9の時定数は維持したままで、トルク補正値τt-revとその真値である供試側トルクτとを一致させることが求められる。
【0035】
本発明では、トルク補正値τt-revとその真値である供試側トルクτを一致させるために、トルク推定部8およびトルク推定補正部10を備えることを特徴とする。以下に、その効果について説明する。
【0036】
図3は、トルク推定部8を用いた場合のトルクおよび回転速度の波形を示す図である。
トルク推定部8では、供試モータ(Mt)1の電流検出値に基づいてトルクを推定する。ここで、電流検出部6の周波数帯域は、1MHz~100MHzであるため、トルク検出部7の帯域である1kHz~10kHzよりも高い。
【0037】
このため、トルク推定値τt-obsは、図3の時刻tの箇所に示すように、供試側トルクτを高応答に追従できる。すなわち、時刻tにおいて、図3に示すトルク推定誤差Δτt-obsは、同時刻t図2に示すトルク検出誤差Δτt-LPFよりも小さい。
【0038】
一方、電流・トルク換算回路8bは、供試モータ(Mt)1のパラメータを参照する必要があり、それには設定誤差が伴う。故に、図3に示すトルク推定誤差Δτt-obsは、時間が経過してもゼロに収束するとは限らず、速度誤差Δωが増加し続ける可能性がある。
【0039】
そこで、トルク推定誤差Δτt-obsの影響を抑制するために、トルク推定補正部10は、トルク推定値τt-obsを基本値としながらも、トルクフィルタ値τt-LPFに漸近する値をトルク補正値τt-revとする。これには、図1に示すように、トルク補正値τt-revとトルクフィルタ値τt-LPFとの差分を、ゲインKの積分回路10aへ入力し、積分(K/s)した結果を、トルク推定値τt-obsにフィードバックすればよい。ここで、積分回路10aは、一巡伝達関数が安定となるような特性を有する関数であれば、置き換え可能である。
【0040】
図4は、トルク推定補正部10を用いた場合のトルクおよび回転速度の波形を示す図である。
トルク推定誤差Δτt-revは、時刻tでは、図3に示すトルク推定誤差Δτt-obsと同じであるが、時刻t以降では、トルク補正値τt-revが、トルクフィルタ値τt-LPFに漸近することに起因して、ゼロに収束する。つまり、図4に示すトルク推定誤差Δτt-revは、図3に示すトルク推定誤差Δτt-obsと比較すれば、時刻t以降における定常的な誤差が低減されることになる。また、図2に示す(図4と同じ)トルク検出誤差Δτt-LPFと比較すれば、時刻tにおける過渡的な誤差が低減される。
【0041】
すなわち、定常時と過渡時のどちらの面においても誤差が低減されていることから、図4に示す速度誤差Δωは、図2から図4に示す特性の中で最小となる。
これが、トルク推定値τt-obsを基本値としながらも、トルクフィルタ値τt-LPFに漸近する値をトルク補正値τt-revとした効果である。
【0042】
トルク推定補正部10は、一般化して言えば、電流検出部6およびトルク推定部8によるトルク推定値τt-obsをフィードフォワード側、トルク検出部7およびフィルタ部9によるトルクフィルタ値τt-LPFをフィードバック側とする二自由度制御系である。この二自由度制御系を用いることで、電流検出部6の応答性とトルク検出部7の精度とを両方活用していることになる。これによって、トルク補正値τt-revを供試側トルクτに高応答かつ高精度に追従させ、慣性模擬精度を高めている。
【0043】
また、電流・トルク換算回路8bへの入力は、供試側の電流制御部(図示省略)におけるd軸電流指令i およびq軸電流指令i に置き換えてもよい。この場合には、電流検出部6を省くことが可能となる。
【実施例2】
【0044】
図5は、本発明の実施例2に係るモータ試験装置の構成の一部を示す図である。図5では、図1に示す実施例1の構成と制御部分で同じ構成要素については省略している。
実施例2では、負荷モータ(Mg)2側のU相電流i、V相電流iおよびW相電流iを電流検出部6によって検出する。
【0045】
また、トルク推定部8は、U相電流i、V相電流iおよびW相電流iを入力にして、三相二相変換回路8aおよび電流・トルク変換回路8bによって、負荷モータ(Mg)2のトルク推定値τg-obsを演算し、また、負荷モータ(Mg)2の回転速度ωを入力にして、微分回路8cおよび慣性値乗算回路8dによって負荷モータ(Mg)2のトルク値を演算する。その上で、トルク推定部8は、両者の差分を取ることにより、次の(数3)で表されるトルク推定値τt-obsを演算する。
【数3】
【0046】
次に、(数3)によって、供試側トルクτを推定できる理由を説明する。
負荷モータ(Mg)2のトルク(以下、負荷側トルク)をτとすると、次の(数4)が成り立つ。
【数4】
【0047】
電流・トルク変換回路8bによって、理想的にトルク推定値τg-obsを演算できるならば、「τg-obs = τ」となり、これを(数4)に代入すれば、(数3)が得られることになる。
【0048】
図5に示す実施例2の構成では、図1に示す実施例1の構成と比較して、電流検出部6を負荷側に設けたことから、電流・トルク変換回路8bは、負荷モータ(Mg)2のパラメータを参照することになる。負荷モータ(Mg)2は、供試モータ(Mt)1のように最終製品に合わせて変更する必要がないため、メリットとして、パラメータ測定は一度で済むことになる。また、負荷モータ(Mg)2は、据え置き型でよいことから、負荷モータ(Mg)2を専用設計して、そのパラメータについては精度よく把握することが可能となる。この結果、電流・トルク変換回路8bにおけるトルク推定誤差を低減することができる。
【0049】
図1に示す実施例1の構成および図5に示す実施例2の構成では、電流検出部6に基づくトルク推定値τt-obsと、トルク検出部7に基づくトルクフィルタ値τt-LPFとを利用することが共通点となっている。
【0050】
一般化して考えると、実施形態としては、以下(a)~(d)の4つが考えられる。
(a)電流検出部6:供試側、トルク検出部7:供試側(図1に示す実施例1)
(b)電流検出部6:負荷側、トルク検出部7:供試側(図5に示す実施例2)
(c)電流検出部6:供試側、トルク検出部7:負荷側(図示省略)
(d)電流検出部6:負荷側、トルク検出部7:負荷側(図示省略)
【0051】
ここで、上記(a)および(d)のように、電流検出部6とトルク検出部7とを同じ側に設けた場合には、図1に示すトルク推定部8の構成によって、電流検出値に基づいてトルクの推定を行えばよい。
【0052】
また、上記(b)および(c)のように、電流検出部6とトルク検出部7とを反対側に設けた場合には、図5に示すトルク推定部8の構成によって、電流検出側とは反対側にあるモータのトルクを推定すればよいことになる。この場合、反対側にあるモータのトルクを推定することは、(数3)および図5に示すトルク推定部8の構成から、回転速度ωの微分値である角加速度(dω/dt)および実慣性5の慣性値Jを用いることで可能となる。
【0053】
本発明は、上記(a)~(d)のいずれの形態でも実施可能であるが、上記(b)および(d)の電流検出部6を負荷側に設ける場合は、負荷モータ(Mg)2が据え置き型でよいことに起因して、そのパラメータ測定を1回で済ませられる点、また、専用設計によりパラメータを精度よく把握できる点のメリットがある。
【実施例3】
【0054】
図6は、本発明の実施例3に係るモータ試験装置の構成の一部を示す図である。図6では、図1に示す実施例1の構成と制御部分で同じ構成要素については省略している。
実施例3では、トルク検出補正部12を設け、供試モータ(Mt)1の慣性(慣性値J)に起因するトルク検出誤差を補正する。
【0055】
トルク検出補正部12は、微分回路12aおよび慣性値乗算回路12bを備え、入力する回転速度ωに対して、次の(数5)で表されるトルク検出誤差Δτt-dtcを演算する。
【数5】
【0056】
また、トルク検出補正部12は、トルク検出誤差Δτt-dtcをトルク検出値τt-dtcに加算し、トルク検出補正値τt-dtc’として出力する。
【0057】
次に、トルク検出補正部12による効果について説明する。実慣性5の慣性値Jに比較して、供試モータ(Mt)1の慣性値Jが無視できない大きさの場合、供試側トルクτによって実慣性5および供試モータ1自身の慣性を回転させることから、次の(数6)が成り立つ。
【数6】
【0058】
また、トルク検出部7は、実慣性5のみを回転させるトルクを検出することから、次の(数7)が成り立つ。
【数7】
【0059】
上記(数6)と(数7)とを比較すると、(数5)で表されるトルク検出誤差が存在することが分かる。すなわち、このトルク検出誤差を補正できることが、トルク検出補正部12による効果である。
【0060】
これにより、供試モータ(Mt)1の慣性値Jに比べて、実慣性5の慣性値Jを十分に大きく設計する必要がない。つまり、慣性値Jを小さく設計し、モータ試験装置の設置スペースを小さくすることが可能となる。
【0061】
また、上記(c)および(d)のトルク検出部7を負荷側に設ける場合には、トルク検出補正部12は、負荷モータ(Mg)1の慣性値Jgを用いて、(数5)と同様に、トルク検出誤差を演算すればよい。
【実施例4】
【0062】
図7は、本発明の実施例4に係るモータ試験装置の構成の一部を示す図である。図7では、図1に示す実施例1の構成と制御部分で同じ構成要素については省略している。また、図8は、実施例4で模擬対象とする車両の車両機構を示す図である。
【0063】
実施例4は、車両模擬回路11fを備えたもので、図1に示す実施例1の慣性模擬部11の構成要素である速度指令演算回路11aに替わる回路である。実施例1の速度指令演算回路11aでは、供試モータ(Mt)1に慣性値Jrの実慣性が接続された場合の挙動を模擬することを目的としたが、車両模擬回路11fでは、図8に示す車両機構が接続された場合の挙動を模擬することを目的とする。
【0064】
図8に示す車両機構では、供試モータ(Mt)1の先にギア比Gのギア13を介して半径rで慣性Jの車輪14を接続する。この車輪14には、質量Mの車体15が接続され、車輪14が回転速度ωで回転すると共に車体15が速度vで移動する。
ここで、μは車輪14と接地面との間の摩擦係数、Wは車輪14と車体15の合計質量、Wgは車輪14が接地面に与える力、μWgは車輪14が接地面から受ける接線力を表す。
【0065】
次に、図8に示す車両機構が、図7に示す車両模擬回路11fによって模擬されることを説明する。
図7に示す車両模擬回路11fの中のギア比乗算回路11f1は、図8に示すギア13のギア比Gに応じて供試側トルクτがG倍されることを模擬し、ギア比乗算回路11f2は、図8に示す車輪14の回転速度ωがG倍されて、供試モータ1の速度指令ω となることを模擬している。
【0066】
車輪速度演算回路11f3は、図8に示す車輪14の慣性Jに応じて、車輪14の回転速度ωが定まることを模擬している。
【0067】
車輪半径乗算回路11f4は、車輪14の接地面に対する速度がrωであることを模擬し、車輪半径乗算回路11f5は、車輪14に加わる接線力μWgのr倍がトルクとして車輪14にフィードバックされることを模擬している。
【0068】
接地面に対する車輪14のすべり速度vは、図7に示すように、車輪14の接地面に対する速度rωと車体15の速度vとの差分として演算される。
【0069】
また、摩擦係数演算回路11f6は、すべり速度vに基づいて摩擦係数μを演算し、接線力演算回路11f7は、摩擦係数μに車輪14が接地面に与える力Wgを乗算することで車輪14に加わる接線力μWgを演算する。
【0070】
車両速度演算回路11f8は、接線力μWgと車体15の走行抵抗Fとの差分に基づいて、車両速度vを演算し、車両抵抗演算回路11f9は、車両速度vに基づいて走行抵抗Fを演算する。
【0071】
以上のように、車両模擬回路11fは、図8に示す車両機構を模擬し、車両模擬回路11fより出力される速度指令ω に応じて負荷モータ2を制御する。これにより、供試モータ(Mt)1から見ると、あたかも図8に示す車両機構が接続された模擬を行うことができる。
【0072】
また、供試モータ(Mt)1、負荷モータ(Mg)2および車両模擬回路11fを複数用意して、複数の供試モータ(Mt)1によって、それぞれに接続された車輪14を駆動し、その車輪14を複数備えた車体15を模擬してもよい。
【0073】
図8に示す車両機構では、摩擦係数μの変化によって車輪14が空転する場合がある。これは、図7に示す速度指令ω が急増する場合であり、負荷モータ(Mg)2の速度制御によって回転速度ωも急増する。このとき、供試モータ(Mt)1の空転再粘着制御と呼ばれる制御技術の評価においては、空転を抑えるために供試側トルクτが急峻に絞られる。このような場合であっても、本発明のトルク推定補正部10によれば、供試側トルクτを高応答かつ高精度に推定することができ、意図したとおりに車両機構を模擬することができる。
【0074】
以上、本発明の実施例1から4について説明したが、本発明は、上述した実施例1から4に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々の変更が可能である。
【符号の説明】
【0075】
1…供試モータ、2…負荷モータ、3…供試側インバータ、4…負荷側インバータ、
5…実慣性、6…電流検出部、7…トルク検出部、8…トルク推定部、
8a…三相二相変換回路、8b…電流・トルク換算回路、8c…微分回路、
8d…慣性値乗算回路、9…フィルタ部、
10…トルク推定補正部、10a…積分回路、11…慣性模擬部、
11a…速度指令演算回路、11b…速度制御回路、11c…トルク・電流換算回路、
11d…電流制御回路、11e…二相三相変換回路、12…トルク検出補正部、
12a…微分回路、12b…慣性値乗算回路、13…ギア、14…車輪、15…車体
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8