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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-02-12
(45)【発行日】2025-02-20
(54)【発明の名称】木質床
(51)【国際特許分類】
   E04B 5/02 20060101AFI20250213BHJP
   E04B 5/38 20060101ALI20250213BHJP
【FI】
E04B5/02 E
E04B5/38 Z
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2022072449
(22)【出願日】2022-04-26
(65)【公開番号】P2023161845
(43)【公開日】2023-11-08
【審査請求日】2024-04-11
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000001373
【氏名又は名称】鹿島建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100096091
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 誠一
(74)【復代理人】
【識別番号】100193390
【弁理士】
【氏名又は名称】藤田 祐作
(72)【発明者】
【氏名】日向 大樹
(72)【発明者】
【氏名】久保田 淳
(72)【発明者】
【氏名】島 啓志
(72)【発明者】
【氏名】田中 裕樹
【審査官】須永 聡
(56)【参考文献】
【文献】特開2022-021793(JP,A)
【文献】特開2017-078307(JP,A)
【文献】特開2020-084729(JP,A)
【文献】特開2020-084730(JP,A)
【文献】特開2021-173020(JP,A)
【文献】特開2019-031777(JP,A)
【文献】特開2023-057883(JP,A)
【文献】特開2023-146809(JP,A)
【文献】特開2021-172993(JP,A)
【文献】特開2022-167555(JP,A)
【文献】特開2023-136917(JP,A)
【文献】特開2023-154912(JP,A)
【文献】特開2020-105697(JP,A)
【文献】特開2020-105694(JP,A)
【文献】特開2001-140455(JP,A)
【文献】特開2022-063798(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04B 5/00-5/48
E04B 1/61
E04B 1/26
E04C 2/00-2/54
B27M 1/00-3/38
B27D 5/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
木質板を上下層に重ねて形成された木質床であって、
各層において、複数の木質板が隣り合わせて配置され、
隣り合う木質板同士の対向する端部の位置が、上下層の間で異なり、
上下層の木質板が、接合材により接合され、
側方に位置する鉄筋コンクリート部材から突出する棒材が、上下層の木質板の溝によって形成された前記木質床の孔に挿入され、前記孔に充填材が充填されたことを特徴とする木質床。
【請求項2】
平面視で直交する2方向において、隣り合う木質板同士の対向する端部の位置が、上下層の間で異なることを特徴とする請求項1記載の木質床。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、木質床に関する。
【背景技術】
【0002】
木材は、強度の異方性を有する異方性材料であり、繊維方向に強いという特徴から主に柱や梁などの線材として使用されてきた。しかしながら、近年ではCLT(Cross Laminated Timber)のような異方性の影響を極力小さくした大断面の材料が開発され、床や壁などの面材にも多く使用されている。
【0003】
非特許文献1には、隣り合うCLTパネル同士を接合して木質床を形成する際に、CLTパネルの対向する端部同士をスプラインや帯金物を用いて接合することが記載されている。また特許文献1には、水平方向に隣り合うCLTパネルの対向する端部を、スタッドやボルト等を用いて梁組の上に固定し、木質床を形成することが記載されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【文献】鈴木賢人、野田康信、井道裕史、宇京斉一郎、杉本健一、神谷文夫、中越隆道:CLTパネル相互を帯金物とスプラインで接合した床構面の面内性能に関する研究 接合部性能が床構面の耐力および剛性に及ぼす影響、日本建築学会構造系論文集、第86巻、第781号、457-467、2021年3月
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2019-31787号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
建築物において、床は各階に作用する地震力を壁などの耐震要素に伝達する役割を担う。そのためには、床の面内剛性を確保して構造設計上の剛床仮定(床全体が一体挙動する剛なものであるという仮定)を成立させることが重要である。
【0007】
この際に木質床で問題となるのが、剛性や耐力が低くなりやすいCLTパネル同士の接合部である。例えばスプラインや帯金物、梁組等を介したCLTパネルの端部同士の接合を行うと、CLTパネル間の応力伝達がこれらの部材を介した間接的なものとなり、床全体の面内剛性の低下につながる。
【0008】
本発明は上記の問題に鑑みてなされたものであり、床全体の面内剛性を向上できる木質床等を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前述した目的を達成するための発明は、木質板を上下層に重ねて形成された木質床であって、各層において、複数の木質板が隣り合わせて配置され、隣り合う木質板同士の対向する端部の位置が、上下層の間で異なり、上下層の木質板が、接合材により接合され、側方に位置する鉄筋コンクリート部材から突出する棒材が、上下層の木質板の溝によって形成された前記木質床の孔に挿入され、前記孔に充填材が充填されたことを特徴とする木質床である。
【0010】
本発明では、上下層の木質板を、各層の木質板同士の対向端部の位置をずらして配置し、且つ上下層の木質板を接合材により接合することで、木質板の上下面を介した応力伝達が可能になる。これにより応力伝達効率が高められて木質床の面内剛性が向上し、床全体が一体挙動する剛な木質床を簡易に実現することができる。
また、木質床と鉄筋コンクリート部材との間で確実に応力を伝達できる。
【0012】
平面視で直交する2方向において、隣り合う木質板同士の対向する端部の位置が、上下層の間で異なることも望ましい。
これにより、木質床のより広い範囲で剛床仮定を成立させることができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、床全体の面内剛性を向上できる木質床等を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】木質床1を示す図。
図2】木質床1を示す図。
図3】締結具4を用いて木質板2a、2bの接合を行う例。
図4】接着材5とモルタル6について説明する図。
図5】木質床1aを示す図。
図6】木質床1bを示す図。
図7】木質床1cを示す図。
図8】木質床1dを示す図。
図9】木質床1とRC床10のGIR接合について説明する図。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図面に基づいて本発明の実施形態について詳細に説明する。
【0017】
図1、2は本発明の実施形態に係る木質床1を示す図である。図1(a)、(b)は木質床1の断面図、図2は木質床1の平面図である。図1(a)は図2の線A1-A1に沿った断面を示したものであり、図1(b)は図2の線A2-A2に沿った断面を示したものである。
【0018】
図1(a)、(b)に示すように、木質床1は、上層の木質板2aと下層の木質板2bの板面同士を重ねて形成される。木質床1では、上下層のそれぞれにおいて、複数の木質板2a、2bが水平方向に隣り合わせて設けられる。
【0019】
木質板2a、2bは、木質材による板状部材であり、例えば矩形板状のCLTパネルが用いられるが、これに限ることはない。例えばLVL(Laminated Veneer Lumber)などを用いることも可能である。
【0020】
上下層の木質板2a、2bは、図2に示す木質床1の平面の縦方向において千鳥状に配置される。すなわち、図1(a)に示すように、当該縦方向に隣り合う上層の木質板2a同士の対向する端部21の位置と、当該縦方向に隣り合う下層の木質板2b同士の対向する端部21(以下、対向端部という)の位置とが異なる。なお、図2の符号8は鉄骨梁、符号9は柱であり、木質床1は鉄骨梁8や柱9で囲まれた面内に設けられる。柱9の位置では、木質板2a、2bに柱9の形状に合わせた切欠き等が設けられる。
【0021】
図1(a)に示すように、上下層の木質板2a、2bは、接合材であるビス3によって接合される。本実施形態のビス3は、軸部にネジを設けたネジ付きのものであり、上層側、下層側のそれぞれから木質板2a、2bにねじ込まれる。下層側のビス3の軸部は下層の木質板2bを貫通して上層の木質板2aに達し、上層側のビス3の軸部は上層の木質板2aを貫通して下層の木質板2bに達する。各ビス3の頭部は、木質板2a、2bから突出しないように設けられる。
【0022】
一方、図2に示す木質床1の平面の横方向に関しては、図1(b)に示すように、当該横方向に隣り合う上層の木質板2a同士の対向端部21の位置と、当該横方向に隣り合う下層の木質板2b同士の対向端部21の位置が揃っており、これらの対向端部21が鉄骨梁8上に位置する。
【0023】
上下層の木質板2a、2bは、ビス3により鉄骨梁8上で接合される。鉄骨梁8のフランジには、ビス3の軸部を通すための孔が予め形成されており、ビス3は、当該孔を利用して鉄骨梁8のフランジ側からねじ込まれ、その軸部が下層の木質板2bを貫通し、上層の木質板2aに達する。
【0024】
なお、本実施形態のビス3はネジ付きのものであるが、ネジの無いものであってもよく、この場合は、打撃によってビス3の打ち込みを行う。ただし、ネジ付きのビス3であれば、上下層の木質板2a、2bの間にずれが生じてビス3が斜め方向に引っ張られ、引き抜き力が生じても、ネジが無い場合と比べ、当該引き抜き力に対してより高い抵抗力を発揮する。
【0025】
また、木質床1の上方または下方もしくはその双方に、図示しないパネルやシート等の耐火被覆を設けてもよい。ただし、木質板2a、2bを、燃え代分を見込んだ設計とする場合には、耐火被覆を省略することも可能である。
【0026】
このように、本実施形態の木質床1では、上下層の木質板2a、2bを、各層の木質板2a、2b同士の対向端部21の位置をずらして配置し、且つ上下層の木質板2a、2bをビス3により接合することで、図1(a)の矢印aで示すように、木質板2a、2bの上下面を介した応力伝達が可能になる。これにより、応力伝達効率が高められて木質床1の面内剛性が向上し、床全体が一体挙動する剛な木質床1を簡易に実現できる。そのため、床厚を小さくすることも可能になる。
【0027】
また本実施形態では、ビス3を用いることで、上下層の木質板2a、2bを簡易且つ強固に接合できる。さらに、非特許文献1のように木質板の端部同士の接合を行う場合よりもビス3の数を多くすることが可能であり、ビス1本あたりの負担応力が低減されることから、ビス3を簡易な構成とできる。
【0028】
しかしながら、本発明は上記の実施形態に限定されない。例えば本実施形態では、上下層の木質板2a、2bの接合をビス3により行ったが、木質板2a、2bを接合するための接合材はこれに限らない。例えば図3(a)に示すように、ボルト41およびナット42による締結具4を用いて上下層の木質板2a、2bを接合してもよい。これによってもビス3を用いる場合と同様の効果が得られる。
【0029】
図3(a)は鉄骨梁8の無い位置で上下層の木質板2a、2bを接合する例であるが、鉄骨梁8の位置でも、ボルト41の軸部を通すための孔を鉄骨梁8のフランジに設けることで、図3(b)に示すように締結具4を用いて上下層の木質板2a、2bを接合できる。
【0030】
図3(a)、(b)の例では、木質板2a、2bにボルト41の頭部またはナット42を収容するための凹部22を座彫りにより形成することで、木質板2a、2bからボルト41やナット42が突出するのが防止される。凹部22は木栓等の穴埋材で埋めてもよい。なお、後述するコンクリート層7を設ける場合や、木質床1の下面が仕上げ等で隠される場合では、木質板2a、2bからボルト41やナット42が突出してもよい。
【0031】
また接合材は、ビス3や締結具4のような金物にも限定されず、例えば図4(a)に示すように、接着材5を用いて上下層の木質板2a、2bを接合することも可能である。図4(a)の例ではビス3と接着材5を併用しているが、場合によっては、上下層の木質板2a、2bを接着材5のみで接合することも可能である。この場合、鉄骨梁8の位置においては、図1(b)のようにビス3の軸部が上層の木質板2aに達するのではなく、ビス3の軸部を下層の木質板2b内に収めることも可能である。
【0032】
また図4(b)に示すように、上下層において、隣り合う木質板2a、2b同士の隙間に充填材であるモルタル6を充填してもよく、これにより隣り合う木質板2a、2b同士の間での圧縮力の伝達性能を向上させることができる。下層のモルタル6に関しては、その充填時に木質板2bの下面に型枠を設置する必要があるが、上述した耐火被覆用のパネル等を型枠として併用することもできる。なお、モルタル6は、上層の木質板2a同士の隙間のみに充填することも可能である。
【0033】
また、図5の木質床1aに示すように、上層の木質板2aの上にトップコンクリートなどのコンクリート層7を設けることも可能であり、木質床1aとコンクリート層7を一体化することで、構造性能が向上する。上下層の木質板2a、2bを接合するビス3に関しては、上層側のビス3の頭部をコンクリート層7内に突出させ、下層側のビス3の軸部の先端をコンクリート層7内に突出させる。このように、ビス3の端部をコンクリート層7に埋設することで、コンクリート層7のずれが防止され、別途のずれ止め材を設ける必要が無くなる。コンクリート層7のコンクリートは上層の木質板2a同士の隙間にも充填され、圧縮力の伝達性能の向上に寄与する。
【0034】
また本実施形態では、平面の縦方向において上下層の木質板2a、2bを千鳥状に配置しているが、図6(a)の木質床1bに示すように、平面の縦方向だけでなく、平面の横方向においても上下層の木質板2a、2bを千鳥状に配置してよい。
【0035】
図6(b)は図6(a)の線B-Bによる断面を示したものであり、この例では、平面の横方向においても、当該横方向に隣り合う上層の木質板2a同士の対向端部21の位置と、当該横方向に隣り合う下層の木質板2b同士の対向端部21の位置が異なる。このように、平面視で直交する2方向において木質板2a、2bを千鳥状に配置することにより、より広い範囲で木質床1bの剛床仮定を成立させることができる。一方、平面の1方向のみで木質板2a、2bを千鳥状に配置する場合は、木質板2a、2bの組み合わせが複雑にならないという利点がある。
【0036】
また本実施形態では、上下層の木質板2a、2bの長辺方向を平面の横方向に合わせて配置しているが、図7(a)の木質床1cに示すように、上下層の木質板2a、2bの長辺方向を変えても良い。図7(a)の例では、下層の木質板2bの長辺方向を平面の横方向とし、上層の木質板2aの長辺方向を平面の縦方向としている。木質板2a、2bは、平面において強度の異方性を有する(例えば長辺方向が強軸方向となる)場合があるが、上下層の木質板2a、2bの向きを変えることで、木質床1c全体の強度を等方化することができる。
【0037】
図7(b)は、木質床1cについて、図7(a)の線C-Cに沿った断面を示したものである。前記した図1(a)では上層の木質板2a同士の対向端部21が下層の木質板2bの中央部に位置し、下層の木質板2b同士の対向端部21が上層の木質板2aの中央部に位置するが、図7(b)の例では、上層の木質板2a同士の対向端部21の位置が、下層の木質板2bの中央部からずれている。
【0038】
このように、上下層の木質板2a、2bは、上層の木質板2a同士の対向端部21と、下層の木質板2b同士の対向端部21が平面において異なる位置にあればよく、その限りにおいて、上下層の木質板2a、2bの配置、大きさ等は特に限定されない。
【0039】
また本実施形態では木質板2a、2bを上下2層に重ねているが、床を厚くしたい場合などでは、木質板を上下に3層以上重ねて配置してもよい。図8の木質床1dは、木質板を上から順に第1層、第2層、第3層と3層に重ねた例であり、第1層の木質板2c同士の対向端部21、第2層の木質板2d同士の対向端部21、第3層の木質板2e同士の対向端部21が、それぞれ異なる位置にある。ただし、第1層の木質板2c同士の対向端部21と、第3層の木質板2e同士の対向端部21の位置は、揃っていてもよい。
【0040】
また図9に示すように、木質床1とその側方の鉄筋コンクリート部材であるRC床10との間で、GIR(グルードインロッド)接合を適用してもよい。木質床1は例えば建築物の外周部の床であり、RC床10はその内側に位置する床である。
【0041】
この場合、RC床10から木質床1側に突出する鉄筋等の棒材11を、木質床1のRC床10側の端面から設けた孔23に挿入し、孔23内にエポキシ樹脂等の充填材12を充填する。孔23は、上層の木質板2aの下面と下層の木質板2bの上面のそれぞれに設けた溝231を組み合わせることで形成できる。これにより、木質床1とRC床10との間で確実に応力を伝達できる。
【0042】
以上、添付図面を参照しながら、本発明に係る好適な実施形態について説明したが、本発明はかかる例に限定されない。当業者であれば、本願で開示した技術的思想の範疇内において、各種の変更例又は修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【符号の説明】
【0043】
1、1a、1b、1c、1d:木質床
2a、2b、2c、2d、2e:木質板
3:ビス
4:締結具
5:接着材
6:モルタル
7:コンクリート層
8:鉄骨梁
9:柱
10:RC床
11:棒材
12:充填材
21:(木質板の)端部
22:凹部
23:孔
41:ボルト
42:ナット
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9