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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-02-12
(45)【発行日】2025-02-20
(54)【発明の名称】アンテナ装置
(51)【国際特許分類】
   H01Q 1/32 20060101AFI20250213BHJP
   H01Q 13/08 20060101ALI20250213BHJP
   H01Q 19/10 20060101ALN20250213BHJP
【FI】
H01Q1/32 Z
H01Q13/08
H01Q19/10
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2023022193
(22)【出願日】2023-02-16
(62)【分割の表示】P 2020501656の分割
【原出願日】2019-02-07
(65)【公開番号】P2023053368
(43)【公開日】2023-04-12
【審査請求日】2023-03-17
(31)【優先権主張番号】P 2018030681
(32)【優先日】2018-02-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006758
【氏名又は名称】株式会社ヨコオ
(74)【代理人】
【識別番号】100127306
【弁理士】
【氏名又は名称】野中 剛
(72)【発明者】
【氏名】山保 威
【審査官】齊藤 晶
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-168875(JP,A)
【文献】特開2009-296256(JP,A)
【文献】特開2008-141765(JP,A)
【文献】国際公開第2009/109418(WO,A1)
【文献】特開2017-188779(JP,A)
【文献】特開2016-025592(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2017/0317418(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01Q 1/32
H01Q 13/08
H01Q 19/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
面状の放射素子と、
前記放射素子の面に垂直な方向から前記放射素子を見た平面視において、前記放射素子から間隔をあけた位置に設けられた無給電素子と、
地板と、
を備え、
前記無給電素子は、前記地板に対して前記放射素子側の視点で見ると、前記地板と重複せず、
前記無給電素子は、前記放射素子を挟んだ両側に一対設けられている、
アンテナ装置。
【請求項2】
前記無給電素子は、前記平面視において、長手方向が前記放射素子の中心と給電点とを結ぶ線分の方向に沿った方向に設けられた、
請求項1に記載のアンテナ装置。
【請求項3】
前記一対の無給電素子は、第1の無給電素子と、長手方向の長さが前記第1の無給電素子よりも長い第2の無給電素子とを有する、
請求項に記載のアンテナ装置。
【請求項4】
前記無給電素子から間隔をあけた位置に設けられた前記地板を備える、
請求項1~の何れか一項に記載のアンテナ装置。
【請求項5】
前記放射素子と前記無給電素子の少なくとも一方と対向する位置に設けられた前記地板を備える、
請求項1~の何れか一項に記載のアンテナ装置。
【請求項6】
面状の前記地板を備え、
前記無給電素子の前記地板側の面を含む無限の平面と、前記地板の前記放射素子側の面を含む無限の平面と、は交差する、
請求項1~の何れか一項に記載のアンテナ装置。
【請求項7】
面状の前記地板を備え、
前記無給電素子の前記放射素子側の面を含む無限の平面と、前記地板の前記放射素子側の面を含む無限の平面と、は交差する、
請求項1~の何れか一項に記載のアンテナ装置。
【請求項8】
前記放射素子と前記地板との間の誘電率と、前記無給電素子と前記地板との間の誘電率とは異なる、
請求項1~の何れか一項に記載のアンテナ装置。
【請求項9】
前記平面視において、前記地板と、前記放射素子の少なくとも一部と、が重なっている、
請求項1~の何れか一項に記載のアンテナ装置。
【請求項10】
前記無給電素子は、前記平面視において、前記放射素子の重心から離れた位置に設けられる、
請求項1~の何れか一項に記載のアンテナ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アンテナ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
四角形や円形の小面積の放射素子を有する平面アンテナとしてパッチアンテナが知られている。パッチアンテナの用途は広く、特許文献1には、衛星波の円偏波信号と地上波の直線偏波信号とを受信可能で、しかも配設した高さを低く抑えることができるパッチアンテナが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2003-347838号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来のパッチアンテナは、板状の放射素子と平行に板状の地板を配置した構成が一般的であり、放射素子の板面に対する法線方向(放射素子の中心から見た仰角90度方向)の指向性が強い。そのため、放射素子の中心から見て高仰角の方向の利得は比較的高いが、低仰角の方向では利得が低くなる場合があった。
【0005】
本発明が解決しようとする課題は、放射素子の中心から見て低仰角の方向の利得を向上させることができるパッチアンテナを構成・具備するアンテナ装置の技術を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の第1の態様は、板状の放射素子と、前記放射素子の板面に垂直な方向から前記放射素子を見た平面視において、前記放射素子から間隔をあけた位置に設けられた無給電素子と、を備えたパッチアンテナである。
【0007】
第1の態様によれば、放射素子の板面に垂直な方向から放射素子を見た平面視において、放射素子から間隔をあけて無給電素子が設けられる。この無給電素子によって電波の放射特性を変化させることができるため、放射素子の中心から見て低仰角の方向の利得を向上させ得る技術が実現可能となる。
【0008】
本発明の第2の態様は、前記無給電素子は、前記平面視において、長手方向が前記放射素子の中心と給電点とを結ぶ線分の方向に沿った方向に設けられた、第1の態様に係るパッチアンテナである。
【0009】
また、本発明の第3の態様は、前記無給電素子は、長手方向の長さが、前記平面視における前記放射素子の最大長さの0.52倍以上である、第1又は第2の態様に係るパッチアンテナである。
【0010】
また、本発明の第4の態様は、前記無給電素子は、長手方向の長さが、前記平面視における前記放射素子の最大長さの0.89倍以下である、第1~第3の何れかの態様に係るパッチアンテナである。
【0011】
第2~第4の形態によれば、放射素子の中心から見て低仰角の方向の利得を向上させるのに好適な形態とすることができる。
【0012】
本発明の第5の態様は、前記無給電素子は、前記放射素子が設けられた誘電体の面と同じ面に設けられた、第1~第4の何れかの態様に係るパッチアンテナである。
【0013】
第5の態様によれば、放射素子が設けられた誘電体の面と同じ面に無給電素子を設けることで、第1~第4の何れかの態様に係る作用効果を発揮するパッチアンテナを容易に製造可能になる。
【0014】
また、本発明の第6の態様は、前記間隔は、前記平面視における前記放射素子の最大長さの0.51倍以下である、第1~第5の何れかの態様に係るパッチアンテナである。
【0015】
また、本発明の第7の態様は、前記無給電素子の上面の高さHpと、前記放射素子の上面の高さHrとの差は、前記平面視における前記放射素子の最大長さαに対して、0≦Hp-Hr<α×0.05である、第1~第6の何れかの態様に係るパッチアンテナである。
【0016】
第6又は第7の態様によれば、放射素子の中心から見て低仰角の方向の利得を向上させるのに好適な形態とすることができる。
【0017】
本発明の第8の態様は、前記無給電素子は、前記放射素子を挟んだ両側に一対設けられている、第1~第7の何れかの態様に係るパッチアンテナである。
【0018】
また、本発明の第9の態様は、前記一対の無給電素子は、第1の無給電素子と、長手方向の長さが前記第1の無給電素子よりも長い第2の無給電素子とを有する、第8の態様に係るパッチアンテナである。
【0019】
第8の態様によれば、放射素子を挟んだ両側に、一対の無給電素子が設けられる。一対の無給電素子が設けられていることで、放射素子の最大放射方向が放射素子の板面に垂直な方向に沿った方向となる。そして、第9の態様によれば、一対の無給電素子は、第1の無給電素子と、長手方向の長さが第1の無給電素子よりも長い第2の無給電素子とを有する。この一対の無給電素子によって、電波の放射特性を変化させて、放射素子の最大放射方向を所望の方向に改変することが可能となる。
【0020】
また、本発明の第10の態様は、第1~第9の何れかの態様に係るパッチアンテナを具備する車載用アンテナ装置であって、車両の所定位置に所定向きに設置される筐体と、前記筐体が前記所定位置に前記所定向きに設置されたときに、前記パッチアンテナが垂直偏波用となるように前記パッチアンテナを支持する支持部と、を具備する車載用アンテナ装置である。
【0021】
第10の態様によれば、放射素子の中心から見て低仰角の方向の利得を向上させた垂直偏波用の車載用アンテナ装置を実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】車載用アンテナ装置の構成例を示す斜視外観図と、使用例を示す概念図。
図2】車載用アンテナ装置の内部の構成例を説明するための図。
図3】車載用アンテナ装置を図2のIII-III断面に沿って縦断した縦断面図。
図4】車載用アンテナ装置のH面(YZ方向平面)における利得特性グラフ。
図5】一対の無給電素子の導体長さを変更した場合のH面における利得特性グラフ。
図6】一対の無給電素子の導体長さを変更した場合のH面における半値角相対値をテーブル化した図。
図7A】第2の無給電素子の導体長さを第1の無給電素子の導体長さより長くした場合のH面における最大放射方向をテーブル化した図。
図7B】導体長さを示すための車載用アンテナ装置の内部構成図。
図8】変形例における同軸ケーブルの配線方向を説明する図。
図9】一対の無給電素子の上面の高さと放射素子の上面の高さとを変更した変形例を示す図。
図10】上面高低差hを変更した場合のH面における利得特性グラフ。
図11】放射素子の周縁の外側に一対の無給電素子を設けた変形例を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明を適用した実施形態の一例を説明するが、本発明を適用可能な形態が以下の実施形態に限られない。
【0024】
また、本実施形態では方向を次のように定義する。まず、誘電体基板32を挟んで放射素子31と地板33(地導体板ともいう)とが積層された構造のパッチアンテナ20において(図3参照)、誘電体基板32から放射素子31に向かう方向を「放射方向」と呼称する。放射方向は、誘電体基板32から放射素子31に向かう方向と放射素子31から誘電体基板32に向かう方向との両方向ではなく、向きが決まった方向となる。また、左手系の直交3軸を定義する。直交3軸の座標原点は、放射素子31の板面中心とする。この直交3軸の方向が分かり易いように、直交3軸の各軸方向に平行な方向を示す参照方向を各図に付記した。参照方向としているのは、直交3軸の原点は、正しくは放射素子31の板面中心であるためである。あくまで方向の参照用として示している。
【0025】
そして、左手系の直交3軸であるが、放射素子31の板面に垂直な方向(放射素子31の板面に対する法線方向)をZ軸方向とし、放射方向の向きをZ軸正方向とする。また、放射素子31の中心と給電点(芯線取付孔とも述べる)31hとを結ぶ線分の方向に沿った方向をX軸方向とし(図2参照)、放射素子31の中心から給電点31hに向かう方向をX軸正方向とする。Y軸方向並びにY軸正方向は、左手系の直交3軸であること、X軸正方向およびZ軸正方向が定義されることで自明となる。
【0026】
別の表現で方向を定義すると、放射素子31の中心(直交3軸原点)から見て、放射素子31の板面に沿った方向(板面方向)を方位とした場合の仰角90度方向がZ軸正方向であり、放射素子31の中心から給電点31hに向かう方向がX軸正方向、このX軸正方向を12時方向とした場合の3時方向の方位がY軸正方向となる。放射素子31の板面方向は、Azimuth方向や方位角方向等とも呼ばれる場合がある。
【0027】
本明細書において、X軸方向と述べる場合は、X軸に平行な方向を意味し、X軸正方向およびX軸負方向の±両方向を含む意味とする。Y軸方向およびZ軸方向についても同様である。よって各軸方向は、各図に示した参照方向となる。
【0028】
また、パッチアンテナ20において、放射素子31の電界面であるE面と、磁界面であるH面は、放射素子31の中心(直交3軸原点)から見て、X軸方向およびZ軸方向を含むXZ方向平面がE面、Y軸方向およびZ軸方向を含むYZ方向平面がH面となる。別の表現で面を定義すると、放射素子31の板面に垂直な方向と、放射素子31の中心と給電点31hとを結ぶ線の方向とを含む平面がE面であり、このE面に垂直な平面であって且つ、放射素子31の板面に垂直な方向を含む平面がH面である。
【0029】
図1は、本実施形態の車載用アンテナ装置10の構成例を示す斜視外観図と、使用例を示す概念図である。
【0030】
車載用アンテナ装置10は、パッチアンテナを具備する5.9GHzのV2X(Vehicle-to-everything;車車間、路車間等)通信用の車載アンテナであって、車両3の所定位置に所定向きに設置され、同軸ケーブル4を介して、V2Xコントローラ5に接続される。
【0031】
車載用アンテナ装置10は、車内のフロントガラス上部(例えばルームミラー付近)に、放射方向(Z軸正方向)が車両3の前進方向である前方を向き、Y軸正方向が車両3の前進方向に向かって右方に、Y軸負方向が車両3の前進方向に向かって左方に向くように設置される。
【0032】
車載用アンテナ装置10の設置位置と設置数は、想定する通信対象等の環境条件に応じて適宜変更できる。例えば、複数箇所設置するとしてもよい。設置場所も、例えば、ダッシュボードの上部でもよいし、バンパーやナンバープレートの取り付け部、Aピラー等のピラー部等でもよい。また、車内のリアガラスに、放射方向を車両3の後方を向くように設定してもよい。ここで、後方とは、車両3の後進方向の意味である。また、放射方向を車両3の右方又は左方を向くように設定してもよい。ここで、右方とは、車両3の前進方向に向かって右方の意味であり、左方とは、車両3の前進方向に向かって左方の意味である。また、防水や防塵の性能条件が確保される構造を有する場合には、車両3の屋根上に設置することもできる。
【0033】
本実施形態の車載用アンテナ装置10は、直方体状の外観を有し、放射方向に分割される第1筐体11と第2筐体12との分割構造のケースの中にパッチアンテナ20を内蔵する。そして、筐体側部に設けられた車体取付用の支持部13が車両3に装着されることで、パッチアンテナ20が垂直偏波用のアンテナとして好適に機能する。本実施形態では、支持部13を、車載用アンテナ装置10を設置するために用いるボルトやビスを挿通するためのボスとし、車両3から見て筐体の左右両側面(Y軸方向の両側面)のそれぞれに設ける構成としているが、支持部13の設定位置や設定数は適宜選択可能である。また、車載用アンテナ装置10を設置・固定する方法はボルトやビスを用いる方法に限らず他の方法でもよく、それに応じて支持部13も、適宜クリップ構造等その方法に適した構造を採用することができる。
【0034】
支持部13は、第1筐体11および第2筐体12が車両3の所定位置に所定向きに設置されるように、第1筐体11および第2筐体12を支持する。第1筐体11および第2筐体12が車両3の所定位置に所定向きに設置されることで、パッチアンテナ20が垂直偏波用のアンテナとして機能するように、支持部13がパッチアンテナ20を支持する格好となる。
【0035】
図2は、車載用アンテナ装置10の内部の構成例を説明するための図であって、第1筐体11を取り外して、第2筐体12の内部をZ軸正方向から見た図である。また、図3は、同じく車載用アンテナ装置10の内部の構成例を説明するための図であり、第1筐体11を含めた車載用アンテナ装置10を図2のIII-III断面に沿って縦断した縦断面図である。
【0036】
第1筐体11は、凹部である上部収容空間11aを画成し、第2筐体12は、凹部である下部収容空間12aを画成する。上部収容空間11aおよび下部収容空間12aは、第1筐体11および第2筐体12が組み付けられることで連続する1つの収容空間となる。パッチアンテナ20は、その収容空間の中、主に下部収容空間12aに収まるようにして設置される。
【0037】
パッチアンテナ20は、アンテナ本体部30と、一対の無給電素子40(40-1,40-2)と、を備える。
【0038】
アンテナ本体部30は、例えば外形がZ軸正方向から見て四角形形状を有し、図3に向かって上から順に、放射素子31と、誘電体基板32と、地板33と、を備える。アンテナ本体部30は、従来のパッチアンテナと同様に、プリント基板の製造方法を応用して作成することができる。
【0039】
放射素子31は、Z軸正方向から見て四角形形状の板状を有し、板面中心よりX軸正方向(パッチアンテナ20の直線偏波の偏波面に沿った方向)にオフセットした位置(ずれた位置)に、同軸ケーブル4の芯線41を挿通・固定するZ軸方向の貫通孔である芯線取付孔31hを備える。この芯線取付孔31hが給電点となる。したがって、同じ符号を用いて、適宜、給電点31hと述べる。本実施形態では、放射素子31は、Z軸正方向から見て正方形状で、一辺の長さが13.5mmに設計される。なお、図3では、構造の理解が容易となるように、意図的に放射素子31や地板33のZ軸方向の厚さを大きく描いているが、実際は、薄い板状の薄膜として形成され得る。
【0040】
誘電体基板32は、Z軸正方向から見ると、放射素子31よりも広い面積を有する。そして、組立時において放射素子31の芯線取付孔31hと連通する位置に、Z軸方向に貫通する不図示の芯線挿通孔を有する。
【0041】
地板33は、誘電体基板32の下面と同じ形状又は僅かに小さい形状を有し、組立時に放射素子31の芯線取付孔31hおよび誘電体基板32の芯線挿通孔と連通する不図示の芯線挿通孔を有する。そして、地板33の下面には、この地板33の芯線挿通孔と同軸となるように、第2筐体12の底部に設けられた不図示の挿通孔を通じて基板用同軸コネクタ22が装着される。
【0042】
一対の無給電素子40(40-1,40-2)は、Z軸正方向から見て棒状の板状導体(金属板)で構成され、Z軸方向である放射素子31の板面に垂直な方向から放射素子31を見た平面視(放射素子31をZ軸正方向から見た平面視)において放射素子31を挟んだ両側に、放射素子31の端辺から所定の間隔bをあけた位置に設けられる。無給電素子40と放射素子31との間に間隔をあけない構成では、無給電素子40が放射素子31の一部であるかのように働き、パッチアンテナ20で得られる周波数が変化するおそれがある。
【0043】
より詳細には、一対の無給電素子40-1,40-2は、例えば誘電体基板32の上面周縁部において、各々の長手方向がZ軸正方向から見て放射素子31の中心と給電点31hとを結ぶ線分の方向(X軸方向)に沿う向きで、各無給電素子40-1,40-2によって当該線分を挟む位置に配置される。以下では、一対の無給電素子40-1,40-2のうちの一方(例えば図2の下側、Y軸負方向側)の無給電素子40-1を適宜、第1の無給電素子40-1とも述べ、他方(図2の上側、Y軸正方向側)の無給電素子40-2を適宜、第2の無給電素子40-2とも述べる。
【0044】
組立時、アンテナ本体部30は、第2筐体12の底部に固定される。より詳細には、第2筐体12の底部には、Z軸正方向に突出した突起部12tが設けられている。突起部12tの先端に地板33の下面(Z軸負方向側端面)が当接されて、アンテナ本体部30と突起部12tとが固定される。固定方法は、適宜選択可能であるが、例えば地板33と突起部12tとを接着するとしてもよい。また、第2筐体12とアンテナ本体部30(地板33)との間の間隔は空気層(空間)としてもよいし、電気絶縁性材料である樹脂層としてもよい。樹脂層とするならば、空間補充剤と接合剤とを兼ねて樹脂を利用することもできる。
【0045】
次に、本実施形態のパッチアンテナ20の効果について説明する。効果の説明にあたり、Z軸正方向から見た放射素子31の対角線の最大長さを「放射素子最大長さ」と称し、図2に示すように、放射素子最大長さを「α」と表記する。本実施形態では、放射素子31は一辺が13.5mmの正方形状であるため、放射素子最大長さαは19.1mmである。そして、各無給電素子40-1,40-2の導体長さ(無給電素子40-1,40-2の長手方向の長さをいう)や、放射素子31と無給電素子40-1,40-2との間の間隔bを、放射素子最大長さαに対する倍率として表記し、併せて実際の長さを直後の括弧内に付記する。例えば、導体長さを0.86α(約16.5mm)と表記したときであれば、当該長さが放射素子最大長さαである19.1mmの0.86倍の長さであることを示し、括弧内の約16.5mmが実際の長さとなる。
【0046】
まず、図4は、H面(YZ方向平面)における利得特性グラフであり、H面におけるY軸正方向を0度とし、Y軸負方向を180度としたアンテナ利得を示している。90度がZ軸正方向となり、放射素子31の中心から見た仰角90度方向に相当する。そして、実線が、各無給電素子40-1,40-2の導体長さを0.86α(約16.5mm)とし、間隔bを0.25α(約4.75mm)として構成した本実施形態のパッチアンテナ20のアンテナ利得の特性を示している。一方、破線が、一対の無給電素子40-1,40-2を省略した、従来技術に相当する比較用構成のアンテナ利得の特性を示している。
【0047】
図4に示すように、放射素子31の中心から見て低仰角の方向である0度~45度および135度~180度の各範囲に着目すると、一対の無給電素子40-1,40-2を省略した構成に比べて利得が向上しており、一対の無給電素子40-1,40-2を設けることによる作用効果が表れている。
【0048】
つぎに、図5は、一対の無給電素子40-1,40-2の導体長さを変更した場合のH面の低仰角(H面におけるY軸正方向を0度とし、Y軸負方向を180度とした場合の0度~45度および135度~180度の範囲)における利得の最小値をグラフ化した利得特性グラフであって、異なる間隔bで導体長さを変えた場合の利得特性グラフを、線種を変更して示している。具体的には、実線は、間隔bを0.51α(約9.75mm)とした場合、一点鎖線は、間隔bを0.38α(約7.25mm)とした場合、二点鎖線は、間隔bを0.25α(約4.75mm)とした場合の利得特性グラフである。また、図6は、一対の無給電素子40-1,40-2の間隔bを4.75mmとし、導体長さを変更した場合のH面における半値角の相対値をテーブル化した図である。図6において、最上段の導体長さ「なし」としているのが一対の無給電素子40-1,40-2を省略した比較用構成に相当し、この比較用構成の半値角を「1.000」としたときの相対値(半値角相対値)を示している。
【0049】
図5に示すように、各無給電素子40-1,40-2の導体長さを長くしていくと、低仰角の方向における利得の最小値も上昇していく。そして、導体長さが0.89α(約17.0mm)の付近でピークに達し、これを超えると、利得の最小値は減少傾向を示す。ただし、導体長さが長くなれば、その分パッチアンテナ20のサイズも大きくなる。よって、パッチアンテナ20の小型化(車載用アンテナ装置10の小型化でもある)への影響を考慮して、導体長さは、放射素子最大長さαの0.89倍以下である0.89α(約17.0mm)以下が望ましい。
【0050】
一方、導体長さの下限については、図6に示すように、導体長さを10mmとすると、比較用構成に対して半値角を1.2%上昇させることができ、これ以上の長さであれば、更に半値角を向上させることができる。また、導体長さを8mmとした場合には、比較用構成に対して半値角が0.7%の上昇となる。したがって、比較用構成に対して半値角を1%上昇させる導体長さは、単純比例計算によると(10+8)×(1/(1.2+0.7))=約9.47mmとなる。よって、比較用構成に対して半値角を1%以上上昇させ得る導体長さは、余裕を見て、放射素子最大長さαの0.52倍以上である0.52α(約9.99mm)以上あることが望ましい。
【0051】
また、図5において間隔bに着目すると、間隔bを0.25α(約4.75mm)、0.38α(約7.25mm)、0.51α(約9.75mm)の順に長くしていくと、低仰角の方向における利得の最小値も全体的に上昇していく。ただし、導体長さが0.89α付近の低仰角利得最小値をみると、間隔bが0.25α(約4.75mm)のときの利得に対する間隔bが0.38α(約7.25mm)のときの利得の上昇幅と、間隔bが0.38α(約7.25mm)のときの利得に対する間隔bが0.51α(約9.75mm)のときの利得の上昇幅とでは、後者の方が小さい。そのため、ある程度まで間隔bを広げると利得は大幅には上昇しないことが予想される。そして、間隔bを広げればその分パッチアンテナ20のサイズも大きくなる。よって、パッチアンテナ20の小型化(車載用アンテナ装置10の小型化)とのバランスから、間隔bは、放射素子最大長さαの0.51倍以下である0.51α(約9.75mm)以下が望ましい。
【0052】
以上説明したように、本実施形態によれば、パッチアンテナ20において、放射素子31の中心から見て低仰角の方向の利得を向上させることが可能となる。
【0053】
以上、本発明を適用した実施形態の一例について説明したが、本発明を適用可能な形態は上記形態に限定されるものではなく適宜構成要素の追加・省略・変更を施すことができる。
【0054】
[変形例1]
例えば、上記実施形態では、各無給電素子40-1,40-2の導体長さを同じとする構成を示した。これに対し、第1の無給電素子40-1の導体長さと第2の無給電素子40-2の導体長さとを異なる長さにしてもよい。図7Aは、第2の無給電素子40-2の導体長さdを固定とし、第1の無給電素子40-1の導体長さcを変化させた場合のH面における最大放射方向をテーブル化した図である。図7Bは、第1の無給電素子40-1の導体長さcおよび第2の無給電素子40-2の導体長さdを示すために、図2相当の車載用アンテナ装置10の内部構成例を示した図である。図7Aにおいて、導体長さcが「なし」である最上段の構成は、第2の無給電素子40-2のみを配置し、第1の無給電素子40-1は配置しない構成に相当する。そして、最大放射方向は、放射素子31の中心から見た仰角90度方向に相当するZ軸正方向を0度とし、Y軸正方向を90度としたYZ方向平面であるH面内の方位角を示す。
【0055】
図7Aに示すように、例えば第2の無給電素子40-2の導体長さを固定にして第1の無給電素子40-1の導体長さを変更すると、最大放射方向が変化する。具体的には、導体長さdを固定にして導体長さcを6mmから徐々に長くしていくと、最大放射方向の方位角は次第に0度に近づいていく。そして、図示しないが、導体長さcを導体長さdと同じ長さまで長くすると最大放射方向の方位角は0度になる。よって、各々の導体長さc,dを変えてパッチアンテナ20を構成することで、最大放射方向を改変することができる。改変が必要になる原因の1つに、車載用アンテナ装置10の設置環境が挙げられる。具体的には、例えば、車載用アンテナ装置10の車両3への設置に際して、車内のレイアウト等の都合上同軸ケーブルの配線方向が制約される場合がある。例えば、図3に示したように放射素子31の板面に対して垂直に同軸ケーブル4が挿通されて配線される構成に限らず、図8に示すように、配線方向を放射素子31の板面に沿わせる構造のコネクタを採用して、当該板面と平行に同軸ケーブル4aが配線される場合もある。そして、この配線方向が電波の放射特性に影響して、設置時に最大放射方向が想定した方向(例えば車両3の前方)からずれてしまう場合が起こり得た。そこで、パッチアンテナ20の配線構成が電波の放射特性に与える影響を考慮して、各無給電素子40-1,40-2の各々の導体長さを適宜設定することで、車載用アンテナ装置10の車両3への設置時に最大放射方向が所望の放射方向を向くよう改変することが可能となる。また、例えばETC(Electronic Toll Collection System)用のアンテナのように、所望の放射方向が車両の前方からずれている場合にも、当該放射方向に応じて各無給電素子40-1,40-2の各々の導体長さを変えることで、同様に適用が可能となる。各無給電素子40-1,40-2の少なくとも一方の導体長さが、放射素子最大長さαの0.89倍以下である0.89α(約17.0mm)以下であればよい。両方がこの条件を満たすとより好適である。さらに、各無給電素子40-1,40-2の少なくとも一方の間隔bが、放射素子最大長さαの0.51倍以下である0.51α(約9.75mm)以下であればよい。両方がこの条件を満たすとより好適である。
【0056】
[変形例2]
また、上記実施形態では、一対の無給電素子40-1,40-2の上面が放射素子31の上面と同じ高さになるように各無給電素子40-1,40-2を誘電体基板32の上面周縁部に設ける例を示した。これに対し、例えば図9に示すように、一対の無給電素子40-1,40-2を、その上面の高さが放射素子31の上面の高さとは異なる高さとなるように設けるとしてもよい。より詳細には、図9では、各無給電素子40a-1,40a-2の上面の高さを、放射素子31の上面の高さよりも高くした例を示している。ここで、図9に示す両者の高さの差(上面高低差)hを変えた場合のH面(YZ方向平面)における利得特性について、図10を参照して説明する。上面高低差hは、各無給電素子40a-1,40a-2の上面の高さをHp、放射素子31の上面の高さをHrとすると、Hp-Hrで表される。Hp,Hrは誘電体基板32の上面を基準とした高さである。
【0057】
図10は、Y軸正方向を0度とし、Y軸負方向を180度としたH面(YZ方向平面)内の方位角における利得特性グラフであって、上面高低差hを変えた場合の利得特性グラフを、線種を変更して示している。具体的には、実線は、上面高低差h=0とした構成(Hp=Hrの場合)、破線は、上面高低差h=0.05αとした構成(Hp>Hrで、両者の差が0.05α(約1mm)の場合)、一点鎖線は、上面高低差h=0.1αとした構成(Hp>Hrで、両者の差が0.1α(約2mm)の場合)、二点鎖線は、上面高低差h=-0.05αとした構成(Hp<Hrで、両者の差が0.05α(約1mm)の場合)の利得特性グラフである。どの構成も、各無給電素子40a-1,40a-2の導体長さc,dは0.86α(約16.5mm)とし、間隔bは0.25α(約4.75mm)とした。
【0058】
先ず、図10において二点鎖線で示すh=-0.05αの構成の0度~180度の方位角範囲における利得の平均値(平均利得)と、実線で示すh=0の構成の0度~180度の方位角範囲における平均利得とを求めて両者を比較した。すると、h=-0.05αの平均利得は1.655831dBiであり、h=0の平均利得は3.784148dBiであって、h=-0.05αの構成で得られる平均利得はh=0の構成で得られる平均利得と比べて格段に低い。よって、各無給電素子40a―1,40a―2の上面の高さHpと、放射素子31の上面の高さHrとの差は、0mm≦Hp-Hrが望ましい。次に、放射素子31の中心から見て低仰角の方向である0度~45度および135度~180度の各範囲に着目すると、図10において破線で示すh=0.05αの構成及び一点鎖線で示すh=0.1αの構成では、h=0の構成と比べて低仰角での利得が低い。h=0.05αの構成とh=0.1αの構成では、低仰角での利得がほぼ同じである。よって、各無給電素子40a-1,40a-2の上面の高さHpと、放射素子31の上面の高さHrとの差は、Hp-Hr<0.05αが望ましい。以上のことから、0mm≦Hp-Hr<0.05αが望ましい。一対の無給電素子40-1,40-2の少なくとも一方の上面の高さHpが、0mm≦Hp-Hr<0.05αであればよい。両方がこの条件を満たすとより好適である。
【0059】
また、アンテナ本体部30のZ軸正方向から見た外形は、図2に例示した四角形形状に限らず、円形状等であってもよい。また、放射素子31のZ軸正方向から見た外形は、図2に例示した四角形形状に限らず、円形状等であってもよい。放射素子最大長さαはZ軸正方向から見た放射素子31の対角線の最大長さであるため、放射素子31のZ軸正方向から見た外径が円形状であるときには、放射素子最大長さαは放射素子31の直径の最大長さとなる。また、一対の無給電素子40-1,40-2のいずれか一方の長手方向がZ軸正方向から見て放射素子31の中心と給電点31hとを結ぶ線分の方向(X軸方向)に沿うように配置されていてもよい。両方がこの条件を満たすとより好適である。
【0060】
[変形例3]
また、上記実施形態では、一対の無給電素子40-1,40-2を細長い薄板状とし、誘電体基板32の上面周縁部に設ける例を示した。これに対し、例えば図11に示すように、一対の無給電素子40b-1,40b-2は、放射素子31の周縁の外側において、相互に平行又は略平行な平板部又は薄膜部として設ける構成としてもよい。例えば、第2筐体12の内側面に貼付するようにして配置することとしてもよい。本変形例における一対の無給電素子40b-1,40b-2は、四角形形状の板状又は薄膜状を有し、放射素子31の中心と給電点31hとを結ぶ線分を挟み、且つ、アンテナ本体部30を挟んだ両側において、長手方向がX軸方向(放射素子31の中心と給電点31hとを結ぶ線分の方向)に沿うように配置される。
【0061】
[その他の変形例]
また、上記実施形態では、一対の無給電素子40(40-1,40-2)を備えたパッチアンテナ20を例示したが、無給電素子を1つ備えた構成でもよい。例えば、無給電素子40-1,40-2のうちの何れか一方を備えた構成としてもよい。また、無給電素子のZ軸正方向から見た形状は、上記実施形態で例示した棒状(厳密に言えば長方形状である)に限らず、Z軸正方向から見た短手方向の長さをより大きくした長方形等の四角形状や、多角形状であってもよいし、円形状や楕円形状等であってもよい。
【0062】
以上詳細に説明したように、本実施形態および各変形例によれば、放射素子の中心から見て低仰角の方向の利得を向上させることができる。誘電体基板32の材料は、通常用いられるセラミックの他、ガラスなどの安価な材料を使用することができる。
【0063】
誘電体基板32は、アメリカ電機工業会(National Electrical Manufacturers Association:NEMA)により記号FR-4として規定されているガラスエポキシ樹脂基板、記号XPCとして規定されている紙フェノール基板、記号FR-3として規定されている紙エポキシ基板や、記号CEM-3として規定されているガラス・コンポジット基板、ガラスポリイミド基板、フッ素(セラミック)基板、ガラスPPO基板、等を使用することができる。そして、要求されるコストと性能に合わせてこれらの材料を適宜選択することで、好適なパッチアンテナを得ることができる。
【0064】
また、放射素子の板面に垂直な方向から放射素子を見た平面視において、放射素子の形状は、四角形等の多角形の他、多角形の角が切り欠かれた形状、円形、楕円形などの形状を採用することができる。
【符号の説明】
【0065】
10…車載用アンテナ装置
11…第1筐体
12…第2筐体
13…支持部
20…パッチアンテナ
22…基板用同軸コネクタ
30…アンテナ本体部
31…放射素子
31h…給電点(芯線取付孔)
32…誘電体基板
33…地板
40(40-1,40-2)、40a(40a-1,40a-2)、40b(40b-1,40b-2)…無給電素子
4、4a…同軸ケーブル
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7A
図7B
図8
図9
図10
図11