(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-02-12
(45)【発行日】2025-02-20
(54)【発明の名称】情報処理装置、情報処理プログラムおよび情報処理方法
(51)【国際特許分類】
G01V 1/18 20060101AFI20250213BHJP
G01H 1/00 20060101ALI20250213BHJP
G01M 99/00 20110101ALI20250213BHJP
G01V 1/28 20060101ALI20250213BHJP
【FI】
G01V1/18
G01H1/00 E
G01M99/00 Z
G01V1/28
(21)【出願番号】P 2023044463
(22)【出願日】2023-03-20
【審査請求日】2023-11-17
(73)【特許権者】
【識別番号】591102095
【氏名又は名称】三菱電機ソフトウエア株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002491
【氏名又は名称】弁理士法人クロスボーダー特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】下野 五月
(72)【発明者】
【氏名】杉本 賢司
【審査官】佐野 浩樹
(56)【参考文献】
【文献】韓国登録特許第10-2025869(KR,B1)
【文献】特開平04-109189(JP,A)
【文献】特開平10-253766(JP,A)
【文献】特開2003-057357(JP,A)
【文献】特開平11-118939(JP,A)
【文献】特開2014-178226(JP,A)
【文献】特開2010-085100(JP,A)
【文献】国際公開第02/031537(WO,A1)
【文献】特開2020-101415(JP,A)
【文献】生駒哲一,ピーク周波数による非定常スペクトル解析,統計数理,1996年06月,第44巻第2号,235-249,https://www.ism.ac.jp/editsec/toukei/pdf/44-2-235.pdf,[2024年6月5日検索]
【文献】鎌谷 紀子 他,自己回帰モデルによるスペクトル解析 ー地盤増幅率の周波数特性評価への適用ー,日本地球惑星科学連合2022年大会 ポスター発表,2022年05月31日,https://confit.atlas.jp/guide/event-img/jpgu2022/SCG55-P02/public/pdf?type=in,[2023年12月25日検索]
【文献】横田 崇 他,地震波データの自動検測方式とオンライン処理システムにおける稼働実験,地震研究所彙報,1981年07月31日,55巻,449-484頁,https://repository.dl.itc.u-tokyo.ac.jp/record/33017/files/ji0563003.pdf,[2023年12月25日検索]
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01H 1/00-17/00
G01M13/00-13/045
99/00
G01V 1/00-99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
センサが観測した事象の観測データから、時間の経過に伴って変化する振幅を計算する振幅計算部と、
前記振幅から、第1の時間ウィンドウを用いて前記第1の時間ウィンドウに対応する第1の周波数特性をリアルタイムに解析すると共に、前記振幅から、前記第1の時間ウィンドウよりも時間の長い第2の時間ウィンドウを用いて前記第2の時間ウィンドウに対応する第2の周波数特性をリアルタイムに解析する周波数解析部と、
を備え、
前記周波数解析部は、
自己回帰モデルを用いて、前記第1の周波数特性と前記第2の周波数特性とを、リアルタイムに解析する情報処理装置であって、
前記情報処理装置は、さらに、
前記第1の周波数特性と前記第2の周波数特性とを用いて、前記観測データから異常を検出する異常検出部を備える情報処理装置。
【請求項2】
前記異常検出部は、
前記第1の周波数特性と前記第2の周波数特性とを比較することにより、前記観測データから異常を検出する請求項1に記載の情報処理装置。
【請求項3】
前記情報処理装置は、さらに、
前記異常が検出された場合に、異常の終息を判定する異常終息判定部を備える請求項1または請求項2に記載の情報処理装置。
【請求項4】
前記異常終息判定部は、
前記異常の発生直前の前記第2の周波数特性と、現在の前記第1の周波数特性とを比較することによって、異常終息を判定する請求項3に記載の情報処理装置。
【請求項5】
コンピュータに、
センサが観測した事象の観測データから、時間の経過に伴って変化する振幅を計算する振幅計算処理と、
前記振幅から、第1の時間ウィンドウを用いて前記第1の時間ウィンドウに対応する第1の周波数特性をリアルタイムに解析すると共に、前記振幅から、前記第1の時間ウィンドウよりも時間の長い第2の時間ウィンドウを用いて前記第2の時間ウィンドウに対応する第2の周波数特性をリアルタイムに解析する周波数解析処理と、
を実行させる情報処理プログラムであって、
前記周波数解析処理では、
自己回帰モデルを用いて、前記第1の周波数特性と前記第2の周波数特性とを、リアルタイムに解析し、
前記情報処理プログラムは、さらに、
前記第1の周波数特性と前記第2の周波数特性とを用いて、前記観測データから異常を検出する異常検出処理を備える情報処理プログラム。
【請求項6】
前記異常検出処理は、
前記第1の周波数特性と前記第2の周波数特性とを比較することにより、前記観測データから異常を検出する請求項5に記載の情報処理プログラム。
【請求項7】
前記情報処理プログラムは、さらに、
前記異常が検出された場合に、異常の終息を判定する異常終息判定処理を備える請求項5または請求項6に記載の情報処理プログラム。
【請求項8】
前記異常終息判定処理は、
前記異常の発生直前の前記第2の周波数特性と、現在の前記第1の周波数特性とを比較することによって、異常終息を判定する請求項7に記載の情報処理プログラム。
【請求項9】
コンピュータが、
センサが観測した事象の観測データから、時間の経過に伴って変化する振幅を計算し、
前記振幅から、第1の時間ウィンドウを用いて前記第1の時間ウィンドウに対応する第1の周波数特性をリアルタイムに解析すると共に、前記振幅から、前記第1の時間ウィンドウよりも時間の長い第2の時間ウィンドウを用いて前記第2の時間ウィンドウに対応する第2の周波数特性をリアルタイムに解析する情報処理方法であって、
前記コンピュータは、
自己回帰モデルを用いて、前記第1の周波数特性と前記第2の周波数特性とを、リアルタイムに解析し、
前記コンピュータは、
前記第1の周波数特性と前記第2の周波数特性とを用いて、前記観測データから異常を検出する情報処理方法。
【請求項10】
前記コンピュータは、
前記第1の周波数特性と前記第2の周波数特性とを比較することにより、前記観測データから異常を検出する請求項9に記載の情報処理方法。
【請求項11】
前記コンピュータは、
前記異常が検出された場合に、異常の終息を判定する請求項9または請求項10に記載の情報処理方法。
【請求項12】
前記コンピュータは、
前記異常の発生直前の前記第2の周波数特性と、現在の前記第1の周波数特性とを比較することによって、異常終息を判定する請求項11に記載の情報処理方法。
【請求項13】
センサが観測した事象の観測データから、時間の経過に伴って変化する振幅を計算する振幅計算部と、
前記振幅から、第1の時間ウィンドウを用いて前記第1の時間ウィンドウに対応する第1の周波数特性をリアルタイムに解析すると共に、前記振幅から、前記第1の時間ウィンドウよりも時間の長い第2の時間ウィンドウを用いて前記第2の時間ウィンドウに対応する第2の周波数特性をリアルタイムに解析する周波数解析部と、
を備え、
前記周波数解析部は、
自己回帰モデルを用いて、前記第1の周波数特性と前記第2の周波数特性とを、リアルタイムに解析する情報処理装置であって、
前記情報処理装置は、さらに、
前記第1の周波数特性と前記第2の周波数特性とを比較する異常検出部を備える情報処理装置。
【請求項14】
コンピュータに、
センサが観測した事象の観測データから、時間の経過に伴って変化する振幅を計算する振幅計算処理と、
前記振幅から、第1の時間ウィンドウを用いて前記第1の時間ウィンドウに対応する第1の周波数特性をリアルタイムに解析すると共に、前記振幅から、前記第1の時間ウィンドウよりも時間の長い第2の時間ウィンドウを用いて前記第2の時間ウィンドウに対応する第2の周波数特性をリアルタイムに解析する周波数解析処理と、
を実行させる情報処理プログラムであって、
前記周波数解析処理では、
自己回帰モデルを用いて、前記第1の周波数特性と前記第2の周波数特性とを、リアルタイムに解析し、
前記情報処理プログラムは、さらに、
前記第1の周波数特性と前記第2の周波数特性とを比較する異常検出処理を備える情報処理プログラム。
【請求項15】
コンピュータが、
センサが観測した事象の観測データから、時間の経過に伴って変化する振幅を計算し、
前記振幅から、第1の時間ウィンドウを用いて前記第1の時間ウィンドウに対応する第1の周波数特性をリアルタイムに解析すると共に、前記振幅から、前記第1の時間ウィンドウよりも時間の長い第2の時間ウィンドウを用いて前記第2の時間ウィンドウに対応する第2の周波数特性をリアルタイムに解析する情報処理方法であって、
前記コンピュータは、
自己回帰モデルを用いて、前記第1の周波数特性と前記第2の周波数特性とを、リアルタイムに解析し、
前記コンピュータは、
前記第1の周波数特性と前記第2の周波数特性とを比較する情報処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、センサが観測した観測データの時系列に通常時と異なる異常発生を検出する異常検出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
震発生直後に即時的な被害推定を行い、被害を未然に防ぐ地震計では、地震に起因する地震動を、リアルタイムに検出する必要がある。特に、被害推定を行うために震源の位置を推定する場合には、地震動のうちP波の正確な到達タイミングを検出する必要がある。
【0003】
これに対して、地震動のうち最も早く地震計に到達するP波の到達タイミングを検出する方法として、非特許文献1に開示された技術では、振幅の急激な立ち上がりを検出するSTA/LTA法と呼ばれる方法が開示されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【文献】岩田直泰,山本俊六,野田俊太,是永将宏.早期地震警報に向けた地震諸元推定とノイズ識別のアルゴリズム.土木学会論文集A1(構造・地震工学).2016,Vol.72,No.1,p.133-147.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、2011年東北地方太平洋沖地震のような海溝型地震では、地震動の振幅の立ち上がりが緩慢である。このため、P波の検出タイミングが実際よりも遅れたり、P波を検出できないという課題があった。
また、地震動の直前に車両等の雑振動が観測されると、バックグラウンドの暗振動レベル(LTA)が上昇して、その後のP波を検出できないという課題があった。
また、前震等の直前の地震によるコーダ波が観測されると、バックグラウンドの暗振動レベル(LTA)が上昇して、その後のP波を検出できないという課題があった。
【0006】
本開示は、地震動の振幅の立ち上がりが緩慢な地震の場合や、地震動の直前に車両等の雑振動が観測された場合や、前震等の直前の地震によるコーダ波が観測された場合でも、P波の到達タイミングを正確に検出できる情報処理装置の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示に係る情報処理装置は、
センサが観測した事象の観測データから、時間の経過に伴って変化する振幅を計算する振幅計算部と、
自己回帰モデルを用いて、前記振幅からリアルタイムに周波数特性を計算する周波数解析部と、
を備える。
【発明の効果】
【0008】
本開示に係る情報処理装置は周波数解析部を備えている。よって本開示に係る情報処理装置は、全ての周波数成分を含む状態では地震動の振幅の立ち上がりが緩慢な地震の場合や、地震動の直前に車両等の雑振動が観測された場合でも、地震動に特有の周波数成分を検知することでP波の到達タイミングを正確に検出できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】実施の形態1の図で、異常検出装置30のシステム構成図。
【
図2】実施の形態1の図で、情報処理装置20の機能ブロック図。
【
図3】実施の形態1の図で、情報処理装置20の異常検出処理を示すフローチャート。
【
図4】実施の形態1の図で、情報処理装置20の異常終息判定処理を示すフローチャート。
【
図5】実施の形態1の図で、2011年東北地方太平洋沖地震の地震動を示す図。
【
図6】実施の形態1の図で、2009年駿河湾沖地震の地震動を示す図。
【
図7】実施の形態1の図で、情報処理装置20のハードウェア構成図。
【発明を実施するための形態】
【0010】
実施の形態の説明および図面において、同じ要素および対応する要素には同じ符号を付している。同じ符号が付された要素の説明は、適宜に省略または簡略化する。以下の実施の形態では、「部」を、「回路」、「プロセス」、「ステップ」、「処理」または「サーキットリー」に適宜読み替えてもよい。
【0011】
以下に実施の形態1で使用する記号をまとめておく。なお、式1から式37以外の記載において、以下ではLの小文字lを数字の1と区別するためl*と表記する。
【0012】
<インデックスおよび送受信されるデータ>
(1)l*:l*はサンプリングごとにカウントアップするカウンタである。
(2)m:mはARモデルのインデックスである。
(3)f:fは周波数(Hz)である。
(4)Dg(l*):Dg(l*)は観測デジタルデータである。
(5)x(l*):x(l*)は物理的単位の振幅データである。
(6)PS(l*,f):PS(l*,f)はARモデル(短時間平均)によるランニングスペクトルである。
(7)PL(l*,f):PL(l*,f)はARモデル(長時間平均)によるランニングスペクトルである。
(8)SLa(l*):SLa(l*)は異常検出の指標値である。
(9)l*t:l*tは異常検出タイミングである。
(10)SLb(l*):SLb(l*)は異常終息判定の指標値である。
(11)l*e:l*eは異常終息タイミングである。
【0013】
<内部変数>
(1)μS(l*):μS(l*)はARモデル(短時間平均)による平均である。
(2)CSm(l*):CSm(l*)はARモデル(短時間平均)による共分散関数である(m=0,・・・,M)。
(3)φSm(l*):φSm(l*)はARモデル(短時間平均)のAR係数である(m=1,・・・,M)。
(4)xS(l*):xS(l*)はARモデル(短時間平均)による振幅データの推定値である。
(5)σS2(l*):σS2(l*)はARモデル(短時間平均)による振幅データの推定誤差の分散である。
(6)μL(l*):μL(l*)はARモデル(長時間平均)による平均である。
(7)CLm(l*):CLm(l*)はARモデル(長時間平均)による共分散関数である(m=0,・・・,M)。
(8)φLm(l*):φLm(l*)はARモデル(長時間平均)のAR係数である(m=1,・・・,M)。
(9)xL(l*):xL(l*)はARモデル(長時間平均)による振幅データの推定値である。
(10)σL2(l*):σL2(l*)はARモデル(長時間平均)による振幅データの推定誤差の分散である。
【0014】
<パラメータ>
(1)fs:fsは観測デジタルデータのサンプリング周波数(Hz)である。
(2)Cf:Cfは物理値換算係数である。
(3)M:MはARモデルの次数である。
(4)rS:rSはARモデル(短時間平均)の忘却係数である。ランニングスペクトルの平滑化のウィンドウサイズを決める係数であり、rSが大きいほどウィンドウサイズが小さく短時間平均となる。
(5)rL:rLはARモデル(長時間平均)の忘却係数である。ランニングスペクトルの平滑化のウィンドウサイズを決める係数であり、rLが小さいほどウィンドウサイズが大きく長時間平均となる。
(6)fsl*1:fsl*1は異常検出の指標値と異常終息判定の指標値を計算するための周波数の下限(Hz)である。
(7)fsl*2:fsl*2は異常検出の指標値と異常終息判定の指標値を計算するための周波数の上限(Hz)である。
(8)ETL:ETLは異常検出するための閾値である。
(9)EEL:EELは異常終息判定するための閾値である。
【0015】
実施の形態1.
図1から
図7を参照して実施の形態1の異常検出装置30を説明する。以下の実施の形態1では、異常検出装置30として地震計を想定する。後述するセンサは、地震動を検出するセンサを想定し、異常検出部23は異常としてP波(Primary wave)を検出するP波検出部を想定する。しかし、異常検出装置30は地震計に限らない。異常検出装置30は、雨量計または風速計のような自然現象を観測する観測装置でも良い。雨量計では雨量が観測データであり、風速計では風速が観測データである。
【0016】
以下の実施の形態1では、異常の検出はP波の検出として説明する。
【0017】
***構成の説明***
図1は、異常検出装置30のシステム構成図である。異常検出装置30は、センサ10と情報処理装置20を備える。異常検出装置30は、ネットワーク50を介して外部装置40と通信可能である。
【0018】
図2は、情報処理装置20のブロック構成である。情報処理装置20は、機能要素として、振幅計算部21、周波数解析部22、異常検出部23、異常終息判定部24を備えている。
(1)振幅計算部21は、センサ10が観測した事象の観測データから、カウンタl
*の経過に伴って変化する振幅x(l
*)を計算する。観測データは観測デジタルデータDg(l
*)である。カウンタl
*は時間に相当し、その間隔はサンプリング周波数fsの逆数(fs)
-1の時間間隔である。また実施の形態1における事象は地震である。
(2)周波数解析部22は、自己回帰モデルを用いて、振幅x(l
*)からリアルタイムに周波数特性を計算する。
また周波数解析部22は、式18以降に述べるように、振幅x(l
*)から、第1の時間ウィンドウを用いて第1の周波数特性(PS(l
*,f))をリアルタイムに解析すると共に第1の時間ウィンドウよりも時間の長い第2の時間ウィンドウを用いて第2の周波数特性(PL(l
*,f))をリアルタイムに解析する。
周波数解析部22は、自己回帰モデルを用いて、振幅x(l
*)からリアルタイムにランニングスペクトルを計算するが、ランニングスペクトルは周波数特性の例である。
(3)異常検出部23は、ランニングスペクトルに基づいて、観測データから異常を検出する。
(4)異常終息判定部24は、異常が検出された場合に、異常の終息を判定する。異常終息判定部は、異常の発生直前のランニングスペクトルと、現在のランニングスペクトルとを比較することによって、異常終息を判定する。
【0019】
***動作の説明***
図3および
図4を参照して、情報処理装置20の動作を説明する。情報処理装置20の動作は、情報処理方法に相当する。また情報処理方法の動作は、後述の情報処理プログラム231よる処理に相当する。
情報処理装置20は、通常状態と異常状態とを取りうる。情報処理装置20の状態は電源投入時に「通常状態」となる。情報処理装置20が後述の式15が成立と判断した場合に、情報処理装置20の状態は「異常状態」となる。情報処理装置20が後述の式17が成立と判断した場合に、情報処理装置20状態は「通常状態」となる。
図3は、情報処理装置20による異常検出処理の動作を説明するフローチャートである。異常検出はP波検出に相当する。
図3は、情報処理装置20状態が「通常状態」の場合に実行される。
図4は、情報処理装置20による異常終息判定処理の動作を説明するフローチャートである。異常終息はP波を含む地震動の終息に相当する。
図4は、情報処理装置20状態が「異常状態」の場合に実行される。
【0020】
以下の説明では、異常検出はP波検出として説明する。
図3では、情報処理装置20の動作をプロセスP201からプロセスP204として示している。情報処理装置20は、サンプリング周波数fsの逆数(fs)
-1の時間間隔で、センサ10から観測デジタルデータとして地動を取得する。地動とは大地の震動であり、地動のうち地震に由来する大地の震動を「地震動」という。地震動以外の地動には、車両による雑振動、暗振動(常時微動)、ノイズなどが、含まれる。以下、逆数(fs)
-1をサンプリング間隔という。通常状態の場合は、サンプリングごとに、情報処理装置20は異常検出処理を行う。
【0021】
<プロセスP201:観測データの振幅を計算>
(1)振幅計算部21は、センサ10から、センサ10の観測した観測デジタルデータDg(l
*)を取得する。観測デジタルデータDg(l
*)は地動である。
(2)振幅計算部21は、式1で、取得した観測デジタルデータDg(l
*)に基づき、振幅データx(l
*)を計算する。
【数1】
x(l
*):振幅データ
Dg(l
*):観測デジタルデータ
Cf:物理値換算係数。
【0022】
<プロセスP202:ランニングスペクトルを計算>
周波数解析部22は、第1の時間ウィンドウを用いて第1の時間に対応する第1のランニングスペクトルを計算する。第1の時間ウィンドウは、短時間平均のランニングスペクトルを計算するためのウィンドウである。第1のランニングスペクトルは、短時間平均のランニングスペクトルである。また周波数解析部22は、第1の時間ウィンドウよりも時間の長い第2の時間ウィンドウを用いて第2の時間ウィンドウに対応する第2のランニングスペクトルを計算する。第2の時間ウィンドウは、長時間平均のランニングスペクトルを計算するためのウィンドウである。第2のランニングスペクトルは、長時間平均のランニングスペクトルである。第1のランニングスペクトルと第2のランニングスペクトルとは、異常検出部23による異常検出に使用される。以下に具体的に説明する。
【0023】
周波数解析部22は、初めに、振幅データx(l
*)の時系列に対して、時間平均による平滑化を行う。次に、それを自己回帰モデルで表現することにより、振幅データの時間平均されたランニングスペクトルを計算する。その際、平滑化のウィンドウサイズが互いに異なる、短時間平均と長時間平均との2種類の方式を用いて2種類のランニングスペクトルを計算する。以下、自己回帰モデルは、ARモデルという。
(1)周波数解析部22は、式2で、ARモデル(短時間平均)による平均μS(l
*)を計算する。
【数2】
μS(l
*):ARモデル(短時間平均)による平均
rS:ARモデル(短時間平均)の忘却係数
x(l
*):振幅データ
(2)周波数解析部22は、式3で、ARモデル(短時間平均)による共分散関数CS
m(l
*)を計算する。
【数3】
CS
m(l
*)ARモデル(短時間平均)による共分散関数
rS:ARモデル(短時間平均)の忘却係数
x(l
*):振幅データ
μS(l
*):ARモデル(短時間平均)による平均
(3)周波数解析部22は、式4のM次連立方程式(ユールウォーカー方程式)を解いて、ARモデル(短時間平均)のAR係数φS
m(l
*)を計算する。
【数4】
CS
m(l
*):ARモデル(短時間平均)による共分散関数
φS
m(l
*):ARモデル(短時間平均)のAR係数
M:ARモデルの次数
(4)周波数解析部22は、式5および式6で、ARモデル(短時間平均)による振幅データの推定値xS(l
*)およびARモデル(短時間平均)による振幅データの推定誤差の分散σS
2(l
*)を計算する。
【数5】
【数6】
x(l
*):振幅データ
μS(l
*):ARモデル(短時間平均)による平均
φS
m(l
*):ARモデル(短時間平均)のAR係数
xS(l
*):ARモデル(短時間平均)による振幅データの推定値
σS
2(l
*):ARモデル(短時間平均)による振幅データの推定誤差の分散
M:ARモデルの次数
rS:ARモデル(短時間平均)の忘却係数
(5)周波数解析部22は、式7で、ARモデル(短時間平均)によるランニングスペクトルPS(l
*,f)を計算する。
【数7】
PS(l
*,f):ARモデル(短時間平均)によるランニングスペクトル
σS
2(l
*):ARモデル(短時間平均)による振幅データの推定誤差の分散
φS
m(l
*):ARモデル(短時間平均)のAR係数
f:周波数
fs:サンプリング周波数
M:ARモデルの次数
(6)周波数解析部22は、長時間平均の場合も、短時間平均の式2から式7のそれぞれに対応する以下の式8から式13を計算する。
【数8】
【数9】
【数10】
【数11】
【数12】
【数13】
【0024】
<プロセスP203:異常検出の指標値を計算>
異常検出部23は、第1のランニングスペクトルと第2のランニングスペクトルとを比較することにより、観測デジタルデータから異常を検出する。P波検出部である異常検出部23は、式14で、異常検出の指標値SLa(l
*)を計算する。ここで異常検出がP波検出である。異常検出の指標値SLa(l
*)は、ARモデル(短時間平均)によるランニングスペクトルPS(l
*,f)と、ARモデル(長時間平均)によるランニングスペクトルPL(l
*,f)との比の周波数平均を意味する。PS(l
*,f)/PL(l
*,f)は、周波数成分ごとにSTA/LTA法を行うことに相当する。
【数14】
SLa(l
*):異常検出の指標値
f:周波数
fsl
*1:周波数の下限(Hz)
fsl
*2:周波数の上限(Hz)
PS(l
*,f):ARモデル(短時間平均)によるランニングスペクトル
PL(l
*,f):ARモデル(長時間平均)によるランニングスペクトル
【0025】
<プロセスP204:異常を検出>
異常検出部23は、異常検出の指標値SLa(l
*)が式15を満たすかを判定する。
【数15】
SLa(l
*):異常検出の指標値
ETL:閾値
(1)異常検出の指標値SLa(l
*)が式15を満たす場合、異常検出部23(P波検出部)は、異常が検出されたと判断する。すなわち異常検出部23はP波を検出したと判断する(プロセスP204でYES)。この場合、情報処理装置20の状態は「異常状態」に遷移する。異常検出部23(P波検出部)による異常検出の事象を「異常検出」といい、このときのl
*を異常検出タイミングl
*tとする。異常検出部23は、異常検出タイミングl
*tを、外部装置40へ出力する。
(2)異常検出の指標値SLa(l
*)が式15を満たさない場合、処理はプロセスP201に戻る。プロセスP201では、次のカウンタl
*について処理が行われる。
【0026】
図3のフローチャートにしたがって精度の高い異常検出が可能になる。特に異常検出部23の式14の処理によって、精度の高い異常検出が可能となる。
【0027】
図4を参照して、異常検出装置30における異常終息判定処理の動作を説明する。
図4の処理は、情報処理装置20状態が「異常状態」の場合に実行される。
【0028】
<プロセスP201-1、P202-1>
情報処理装置20は、サンプリング周波数fsの逆数の時間間隔のサンプリング間隔で、センサ10から観測デジタルデータである地動を取得する。情報処理装置20の状態が異常状態の場合は、情報処理装置20は、カウンタl*ごとに異常終息判定処理を行う。プロセスP201-1およびプロセスP202-1の内容は、それぞれ、プロセスP201、プロセスP202と同じである。
【0029】
<プロセスP205:異常終息判定の指標値を計算>
異常終息判定部24は、式16で、異常終息判定の指標値SLb(l
*)を計算する。異常終息判定の指標値SLb(l
*)は、現時点(l
*)の、ARモデルにおける短時間平均のランニングスペクトルと、異常検出タイミング(l
*t)直前の、ARモデルにおける長時間平均のランニングスペクトルとの比の周波数平均である。異常終息判定の指標値SLb(l
*)は、周波数成分ごとに、ランニングスペクトルが異常検出前に戻ったかどうかの指標値である。
【数16】
SLb(l
*):異常終息判定の指標値
f:周波数
fsl
*1:周波数の下限(Hz)
fsl
*2:周波数の上限(Hz)
PS(l
*,f):ARモデル(短時間平均)によるランニングスペクトル
PL(l
*t-1,f):ARモデル(長時間平均)によるランニングスペクトル
【0030】
<プロセスP206:異常終息を判定>
異常終息判定部24は、異常終息判定の指標値SLb(l
*)が式17を満たすかを判定する。
【数17】
SLb(l
*):異常終息判定の指標値
EEL:閾値
(1)異常終息判定の指標値SLb(l
*)が式17を満たす場合、異常終息判定部24は、異常検出の前に戻ったと判断する。すなわち、異常終息判定部24は、現在の状態がP波検出前の状態に戻ったと判断する(プロセスP206でYES)。この場合、情報処理装置20の状態は「通常状態」に遷移する。異常終息判定部24による異常終息判定の事象を「異常終息」といい、このときのl
*を異常終息タイミングl
*eとする。異常終息判定部24は、異常終息タイミングl
*eを、外部装置40へ出力する。
(2)異常終息判定の指標値SLb(l
*)が式17を満たさない場合、処理はプロセスP201-1に戻る。プロセスP201-1では、次のカウンタl
*について処理が行われる。
【0031】
周波数解析部22についてまとめれば以下のとおりである。実施の形態1の情報処理装置20は、周波数解析部22を備えている。周波数解析部22は、自己回帰モデルを用いてランニングスペクトルを計算する。FFTと比べて自己回帰モデルを用いてランニングスペクトルを計算する方法は、以下の(1)から(7)のような効果を有する。
(1)テーパーが不要なので時間分解能が高い。
(2)ARモデルによりスペクトルの自然な平滑化が可能である。
(3)AR係数は逐次計算を行うため計算時間がウィンドウサイズに依らず、高速計算が可能である。
(4)AR係数は離散値であるため、機械学習への適用にも適した次元削減が可能である。
(5)観測デジタルデータを多チャンネル化することで、チャンネル間の相互相関も測定可能である。
(6)忘却係数を変更するだけで容易にウィンドウ幅の調整が可能である。
(7)後述する赤池情報量規準を計算することでARモデルの振幅データへの適合具合を評価できるので、最適なAR次数の設定が可能である。
【0032】
図5は、2011年東北地方太平洋沖地震の地震動に対する、情報処理装置20によるP波検出(異常検出)を示す。
図6は、2009年駿河湾沖地震の地震動に対する、情報処理装置20によるP波検出(異常検出)を示す。
図5および
図6の横軸は時間、縦軸は振幅データの振幅値および異常検出の指標値(P波検出の指標値)である。
【0033】
***実施の形態1の効果***
非特許文献1に開示された振幅の急激な立ち上がりを検出するSTA/LTA法と比べて、実施の形態1の情報処理装置20は、周波成分ごとの振幅の急激な立ち上がりを検出する。このため、地震動の振幅の立ち上がりが緩慢な地震の場合や、地震動の直前に車両等の雑振動が観測された場合や、前震等の直前の地震によるコーダ波が重なった場合でも、P波到達タイミングを、正確に検出できる。
また、式14のパラメータfsl*1およびfsl*2を調整することで、目的とする周波数帯域にのみ着目することができる。よって、列車振動に因るもの等のあらかじめ分かっている周波数帯域を避けて地震動を検知することも可能である。
また、異常検出(P波の検出)時にランニングスペクトル等の周波数特性が得られる。よって、検出した異常が地震に起因するものかノイズに起因するものかを識別するのにそれを利用することが可能である。
【0034】
上記では、周波数解析部22は、リアルタイムにランニングスペクトルを計算し、式14に示す異常検出の指標値SLa(l
*)を用いて異常検出することを想定した。
しかし、これに限らず、異常検出の指標値SLa(l
*)は、ARモデル(短時間平均)によるランニングスペクトルPS(l
*,f)と、ARモデル(長時間平均)によるランニングスペクトルPL(l
*,f)との距離の指標として、他の様々な方法で定義することも可能である。例えば、以下に示す実施の形態が可能である。
(1)周波数解析部22は、短時間平均の場合について、式18に示す複素数zについてのM次多項式(特性方程式)を解き、解のうち虚部が0または正のものをARモデル(短時間平均)の特性根zS
q(l
*)とする(qは連番でq=1,・・・,Q)。
【数18】
φS
m(l
*):ARモデル(短時間平均)のAR係数
zS
q(l
*):ARモデル(短時間平均)の特性根
M:ARモデルの次数
(2)次に、周波数解析部22は、式19から式22でARモデル(短時間平均)によるランニングスペクトルのピーク周波数fS
q(l
*)とその場合のスペクトルのピーク値PS
q(l
*)を計算する。
【数19】
zS
q(l
*):ARモデル(短時間平均)の特性根
fS
q(l
*):ARモデル(短時間平均)によるランニングスペクトルのピーク周波数fs:サンプリング周波数
【数20】
PS
q(l
*):ARモデル(短時間平均)によるランニングスペクトルのピーク値
σS
2(l
*):ARモデル(短時間平均)による振幅データの推定誤差の分散
φS
m(l
*):ARモデル(短時間平均)のAR係数
fS
q(l
*):ARモデル(短時間平均)によるランニングスペクトルのピーク周波数M:ARモデルの次数
fs:サンプリング周波数
【数21】
LossS(l
*):ARモデル(短時間平均)による損失関数
x(l
*):振幅データ
xS(l
*):ARモデル(短時間平均)による振幅データの推定値
σS
2(l
*):ARモデル(短時間平均)による振幅データの推定誤差の分散
【数22】
AicS(l
*):ARモデル(短時間平均)による赤池情報量規準
LossS(l
*):ARモデル(短時間平均)による損失関数
M:ARモデルの次数
(3)周波数解析部22は、長時間平均の場合も、短時間平均の式18から式22のそれぞれに対応する以下の式23から式27を計算する。
【数23】
【数24】
【数25】
【数26】
【数27】
(4)異常検出部23は、式28から式33のうちの何れかから、異常検出の指標値SLa(l
*)を計算する。
【数28】
SLa(l
*):異常検出の指標値
zS
q(l
*):ARモデル(短時間平均)の特性根
zL
q(l
*):ARモデル(長時間平均)の特性根
【数29】
SLa(l
*):異常検出の指標値
fS
q(l
*):ARモデル(短時間平均)によるランニングスペクトルのピーク周波数fL
q(l
*):ARモデル(長時間平均)によるランニングスペクトルのピーク周波数
【数30】
SLa(l
*):異常検出の指標値
PS
q(l
*):ARモデル(短時間平均)によるランニングスペクトルのピーク値
PL
q(l
*):ARモデル(長時間平均)によるランニングスペクトルのピーク値
【数31】
SLa(l
*):異常検出の指標値
fSq’(l
*):ARモデル(短時間平均)によるランニングスペクトルの卓越周波数であり、q’は式20で計算されるARモデル(短時間平均)によるランニングスペクトルのピーク値PSq(l
*)が最大となるq
fLq’’(l
*):ARモデル(長時間平均)によるランニングスペクトルの卓越周波数であり、q’’は式25で計算されるARモデル(長時間平均)によるランニングスペクトルのピーク値PLq(l
*)が最大となるq
【数32】
SLa(l
*):異常検出の指標値
LossS(l
*):ARモデル(短時間平均)による損失関数
LossL(l
*):ARモデル(長時間平均)による損失関数
【数33】
SLa(l
*):異常検出の指標値
AicS(l
*):ARモデル(短時間平均)による赤池情報量規準
AicL(l
*):ARモデル(長時間平均)による赤池情報量規準
以上のように異常検出の指標値SLa(l
*)を計算することで、式14のように多くの周波数fについてスペクトルの値を計算することなく、ランニングスペクトルの急激な変化を検出することができるので、計算時間を短縮することが可能である。
【0035】
ARモデル(短時間平均)によるランニングスペクトルPS(l*,f)とARモデル(長時間平均)によるランニングスペクトルPL(l*,f)の距離の指標として、その外には、カイ2乗カーネル、正定値カイ2乗カーネル、ヒストグラムインターセクションカーネル、へリンジャ―カーネル、相関関数等を利用した実施の形態が可能である。
【0036】
また、式7および式13で計算したPS(l*,f)およびPL(l*,f)の全部または一部をディープラーニング等の機械学習に用いて異常の特徴を学習させることで、精度の高い異常検出を行う実施の形態が可能である。
【0037】
また、式18から式20及び式23から式25で計算したzSq(l*)、fSq(l*)、PSq(l*)、zLq(l*)、fLq(l*)およびPLq(l*)はすべての周波数fにわたるランニングスペクトルを次元削減したことに相当するので、これらの全部または一部をディープラーニング等の機械学習に用いて異常の特徴の効果的な学習を行うことで、精度の高い異常検出を行う実施の形態が可能である。
【0038】
また、実施の形態1では、振幅データx(l*)を空間3成分のうちの1成分を想定したが、複数の空間成分を同時に用いる場合や、複数の空間成分から計算される関数値を用いる場合の実施の形態も可能である。例えば空間3成分の変位データから計算されるパーティクルモーション(粒子軌跡)を利用することが考えられる。
【0039】
また、実施の形態1では、異常検出部23において、式14に示すように異常検出の指標値SLa(l
*)を、ARモデル(短時間平均)によるランニングスペクトルPS(l
*,f)と、ARモデル(長時間平均)によるランニングスペクトルPL(l
*,f)との比を用いて定義したが、式34のように単純に卓越周波数自体を利用する実施の形態、式35のように単純にARモデル(短時間平均)による損失関数自体を利用する実施の形態、式36のように単純にARモデル(短時間平均)による赤池情報量規準自体を利用する実施の形態も可能である。
【数34】
SLa(l
*):異常検出の指標値
fS
q’(l
*):ARモデル(短時間平均)によるランニングスペクトルの卓越周波数であり、q’は式20で計算されるARモデル(短時間平均)によるランニングスペクトルのピーク値PS
q(l
*)が最大となるqである。
【数35】
SLa(l
*):異常検出の指標値
LossS(l
*):ARモデル(短時間平均)による損失関数
【数36】
SLa(l
*):異常検出の指標値
AicS(l
*):ARモデル(短時間平均)による赤池情報量規準
【0040】
また、実施の形態1の式15の説明における(1)を、下記の(1)のように変更した変形例も可能である。
(1)異常検出の指標値SLa(l
*)が式15を満たす場合、異常検出部23(P波検出部)は、異常が検出されたと判断する。すなわち異常検出部23はP波を検出したと判断する(プロセスP204でYES)。この場合、情報処理装置20の状態は「異常状態」に遷移する。異常検出部23(P波検出部)による異常検出の事象を「異常検出」という。次に、カウンタl
*を過去に遡って式37を満たす最大のl
*に1を加えたタイミングを異常検出タイミングl
*tとする。異常検出部23は、異常検出タイミングl
*tを、外部装置40へ出力する。
【数37】
SLa(l
*):異常検出の指標値
EPL:閾値
【0041】
また、実施の形態1では、ARモデル(短時間平均)とARモデル(長時間平均)の次数を共通のMとしたが、双方で互いに異なる次数とする実施の形態も可能である。
【0042】
また、実施の形態1では、周波数解析部22において、ランニングスペクトルを計算するために自己回帰モデルを用いたが、FFT(Fast Fourier Transform)等の他の方法でランニングスペクトルを計算する実施の形態も可能である。
【0043】
また、実施の形態1では、異常検出装置として地震計のような自然現象の観測装置を想定した。しかし、異常検出装置として、機械における自己診断装置、橋梁等の構造物の地震による損傷等を監視する構造ヘルスモニタリング装置を想定しても良い。自己診断装置の場合は機械に取り付けたセンサによる自己診断データ、構造ヘルスモニタリング装置の場合は構造物に取り付けた微動測定データを観測データとすることができる。
【0044】
(ハードウェアの補足)
図7は、情報処理装置20のハードウェア構成を示す。情報処理装置20のハードウェア構成を示す。情報処理装置20は、コンピュータである。情報処理装置20は、プロセッサ210を備える。情報処理装置20は、ハードウェアとして、プロセッサ210、主記憶装置220、補助記憶装置230、通信インタフェース240を備えている。プロセッサ210は、信号線250を介して、他のハードウェアと接続され、他のハードウェアを制御する。
【0045】
情報処理装置20は、振幅計算部21、周波数解析部22,異常検出部23,異常終息判定部24を備えている。これらの機能は、情報処理プログラム231により実現される。
【0046】
プロセッサ210は、情報処理プログラム231を実行する装置である。プロセッサ210が情報処理プログラム231を実行することで、振幅計算部21、周波数解析部22、異常検出部23および異常終息判定部24の機能が実現される。プロセッサ210は、演算処理を行うIC(Integrated Circuit)である。
【0047】
主記憶装置220の具体例は、SRAM(Static Random Access
Memory)、DRAM(Dynamic Random Access Memory)である。主記憶装置220は、プロセッサ210の演算結果を保持する。
【0048】
補助記憶装置230は、データを不揮発的に保管する記憶装置である。補助記憶装置230の具体例は、HDD(Hard Disk Drive)である。補助記憶装置230は、可搬記録媒体であってもよい。補助記憶装置230は、情報処理プログラム231を記憶している。
【0049】
通信インタフェース240は、プロセッサ210が他の装置と通信するための通信ポートである。通信インタフェース240は、ネットワーク50に接続している。
【0050】
プロセッサ210は補助記憶装置230から情報処理プログラム231を主記憶装置220にロードする。プロセッサ210は、ロードされた情報処理プログラム231を主記憶装置220から読み込んで実行する。
【0051】
情報処理プログラム231は、振幅計算部21、周波数解析部22、異常検出部23および異常終息判定部24の「部」を「処理」、「手順」あるいは「工程」に読み替えた各処理、各手順あるいは各工程を、コンピュータに実行させるプログラムである。
【0052】
また、コンピュータである情報処理装置20が情報処理プログラム231を実行することにより行われる方法は、情報処理方法である。情報処理プログラム231は、コンピュータが読み取り可能な記録媒体に格納されて提供されてもよいし、プログラムプロダクトとして提供されてもよい。
【0053】
以下、本開示の諸態様を付記としてまとめて記載する。
(付記1)
センサが観測した事象の観測データから、時間の経過に伴って変化する振幅を計算する振幅計算部と、
自己回帰モデルを用いて、前記振幅からリアルタイムに周波数特性を計算する周波数解析部と、
を備える情報処理装置。
(付記2)
センサが観測した事象の観測データから、時間の経過に伴って変化する振幅を計算する振幅計算部と、
前記振幅から、第1の時間ウィンドウを用いて前記第1の時間ウィンドウに対応する第1の周波数特性をリアルタイムに解析すると共に、
前記振幅から、前記第1の時間ウィンドウよりも時間の長い第2の時間ウィンドウを用いて前記第2の時間ウィンドウに対応する第2の周波数特性をリアルタイムに解析する周波数解析部と、
を備える情報処理装置。
(付記3)
前記周波数解析部は、
自己回帰モデルを用いて、前記第1の周波数特性と前記第2の周波数特性とを、リアルタイムに解析する付記2に記載の情報処理装置。
(付記4)
前記情報処理装置は、さらに、
前記第1の周波数特性と前記第2の周波数特性とを用いて、前記観測データから異常を検出する異常検出部を備える付記2または付記3に記載の情報処理装置。
(付記5)
前記異常検出部は、
前記第1の周波数特性と前記第2の周波数特性とを比較することにより、前記観測データから異常を検出する付記4に記載の情報処理装置。
(付記6)
前記情報処理装置は、さらに、
前記異常が検出された場合に、異常の終息を判定する異常終息判定部を備える付記4または付記5に記載の情報処理装置。
(付記7)
前記異常終息判定部は、
前記異常の発生直前の前記第2の周波数特性と、現在の前記第1の周波数特性とを比較することによって、異常終息を判定する付記6に記載の情報処理装置。
(付記8)
コンピュータに、
センサが観測した事象の観測データから、時間の経過に伴って変化する振幅を計算する振幅計算処理と、
自己回帰モデルを用いて、前記振幅からリアルタイムに周波数特性を計算する周波数解析処理と、
実行させる情報処理プログラム。
(付記9)
コンピュータに、
センサが観測した事象の観測データから、時間の経過に伴って変化する振幅を計算する振幅計算処理と、
前記振幅から、第1の時間ウィンドウを用いて前記第1の時間ウィンドウに対応する第1の周波数特性をリアルタイムに解析すると共に、前記振幅から、前記第1の時間ウィンドウよりも時間の長い第2の時間ウィンドウを用いて前記第2の時間ウィンドウに対応する第2の周波数特性をリアルタイムに解析する周波数解析処理と、
を実行させる情報処理プログラム。
(付記10)
前記周波数解析処理は、
自己回帰モデルを用いて、前記第1の周波数特性と前記第2の周波数特性とを、リアルタイムに解析する付記9に記載の情報処理プログラム。
(付記11)
前記情報処理プログラムは、さらに、
前記第1の周波数特性と前記第2の周波数特性とを用いて、前記観測データから異常を検出する異常検出処理を備える付記9または付記10に記載の情報処理プログラム。
(付記12)
前記異常検出処理は、
前記第1の周波数特性と前記第2の周波数特性とを比較することにより、前記観測データから異常を検出する付記11に記載の情報処理プログラム。
(付記13)
前記情報処理プログラムは、さらに、
前記異常が検出された場合に、異常の終息を判定する異常終息判定処理を備える付記11または付記12に記載の情報処理プログラム。
(付記14)
前記異常終息判定処理は、
前記異常の発生直前の前記第2の周波数特性と、現在の前記第1の周波数特性とを比較することによって、異常終息を判定する付記13に記載の情報処理プログラム。
(付記15)
コンピュータが、
センサが観測した事象の観測データから、時間の経過に伴って変化する振幅を計算し、
自己回帰モデルを用いて、前記振幅からリアルタイムに周波数特性を計算する
情報処理方法。
(付記16)
コンピュータが、
センサが観測した事象の観測データから、時間の経過に伴って変化する振幅を計算し、
前記振幅から、第1の時間ウィンドウを用いて前記第1の時間ウィンドウに対応する第1の周波数特性をリアルタイムに解析すると共に、前記振幅から、前記第1の時間ウィンドウよりも時間の長い第2の時間ウィンドウを用いて前記第2の時間ウィンドウに対応する第2の周波数特性をリアルタイムに解析する情報処理方法。
【符号の説明】
【0054】
10 センサ、20 情報処理装置、21 振幅計算部、22 周波数解析部、23 異常検出部、24 異常終息判定部、30 異常検出装置、40 外部装置、50 ネットワーク、210 プロセッサ、220 主記憶装置、230 補助記憶装置、231 情報処理プログラム、240 通信インタフェース、250 信号線。