(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-02-12
(45)【発行日】2025-02-20
(54)【発明の名称】ナノ構造リン酸ジルコニウムリチウムの合成
(51)【国際特許分類】
C01B 25/45 20060101AFI20250213BHJP
H01B 1/06 20060101ALI20250213BHJP
H01B 1/08 20060101ALI20250213BHJP
H01M 4/13 20100101ALI20250213BHJP
H01M 4/36 20060101ALI20250213BHJP
H01M 4/62 20060101ALI20250213BHJP
H01M 10/052 20100101ALI20250213BHJP
H01M 10/0562 20100101ALI20250213BHJP
H01M 10/0563 20100101ALI20250213BHJP
【FI】
C01B25/45 H
H01B1/06 A
H01B1/08
H01M4/13
H01M4/36 C
H01M4/62 Z
H01M10/052
H01M10/0562
H01M10/0563
(21)【出願番号】P 2023513623
(86)(22)【出願日】2021-03-19
(86)【国際出願番号】 EP2021057136
(87)【国際公開番号】W WO2021089886
(87)【国際公開日】2021-05-14
【審査請求日】2023-12-08
(32)【優先日】2020-09-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】519414848
【氏名又は名称】エボニック オペレーションズ ゲーエムベーハー
【氏名又は名称原語表記】Evonik Operations GmbH
【住所又は居所原語表記】Rellinghauser Strasse 1-11, 45128 Essen, Germany
(74)【代理人】
【識別番号】110002538
【氏名又は名称】弁理士法人あしたば国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】高田 令
(72)【発明者】
【氏名】アルミン ウエガンド
(72)【発明者】
【氏名】ハラルド アルフ
(72)【発明者】
【氏名】フランツ シュミッド
(72)【発明者】
【氏名】ダニエル エスケン
(72)【発明者】
【氏名】マルセル ヘルゾグ
【審査官】佐藤 慶明
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2012/105637(WO,A1)
【文献】特開2020-102371(JP,A)
【文献】特表2011-517361(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2014/0084503(US,A1)
【文献】特表2006-525930(JP,A)
【文献】Andrey B. ILIN et al.,“Catalytic activity of LiZr2(PO4)3 nasicon-type phosphates in ethanol conversion process in conventional and membrane reactors”,Catalysis Today,2016年06月,Vol. 268,p.29-36,DOI: 10.1016/j.cattod.2015.12.017
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 25/00 - 25/46
C01D 1/00 - 17/00
C01G 25/00 - 47/00
C01G 49/10 - 99/00
H01B 1/00 - 1/24
H01M 4/00 - 4/62
H01M 6/24 - 6/52
H01M 10/05 - 10/0587
H01M 10/36 - 10/39
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式Li
aZr
bM
c(PO
4)
d(式中、Mは、LiおよびZrとは異なる少なくとも1つの金属である)のリン酸ジルコニウムリチウムであり、
0.5≦a≦5.0、0.5≦b≦5.0、0≦c≦5、1≦d≦5であり、
前記リン酸
ジルコニウムリチウムは、
凝集した一次粒子の形態であり、
5m
2/g~100m
2/gのBET表面積、
静的光散乱(SLS)によって決定して、d
50=0.03μm~2μmの数値平均粒径、および
20g/L~200g/Lのタンピング密度を有することを特徴とする、
リン酸
ジルコニウムリチウム。
【請求項2】
請求項1に記載のリン酸ジルコニウムリチウムの製造方法であって、
火炎噴霧熱分解によるものであり、
金属前駆体の少なくとも1つの溶液であって、
カルボン酸リチウムおよびカルボン酸ジルコニウムであって、これらの金属カルボン酸塩の各々が5から20個の炭素原子を含む、カルボン酸リチウムおよびカルボン酸ジルコニウムと、
有機リン酸塩と、
10重量%未満の水を含有する溶媒と、
を含む溶液が、火炎噴霧熱分解に供されることを特徴とする、
方法。
【請求項3】
噴霧火炎熱分解が、
a)前記金属前駆体の溶液を噴霧して、アトマイザガスによってエアロゾルを得るステップ
b)前記エアロゾルを、反応器の反応空間において、燃料ガスと酸素含有ガスとの混合物を着火して得られる火炎と反応させて反応流を得るステップ
c)前記反応流を冷却するステップ
d)次いで、固体リン酸ジルコニウムリチウムを前記反応流から除去するステップ
を含むことを特徴とする、
請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記
カルボン酸リチウムおよび前記
カルボン酸ジルコニウムが、互いに独立して、直鎖、分岐または環状ペンタノエート(C5)、ヘキサノエート(C6)、ヘプタノエート(C7)、オクタノエート(C8)、ノナノエート(C9)、デカノエート(D 10)、ウンデカノエート(C11)、ドデカノエート(C12)、トリデカノエート(C 13)、テトラデカノエート(C14)、ペンタデカノエート(C15)、ヘキサデカノエート(C16)、ヘプタデカノエート(C17)、オクタデカノエート(C18)、ノナデカノエート(C19)、イコサノエート(C20)からなる群から選択されるカルボキシレート、ならびにそれらの混合物である、
ことを特徴とする、
請求項2または3に記載の方法。
【請求項5】
前記有機リン酸塩が、ホスホン酸(H
3PO
3)、オルトリン酸(H
3PO
4)、メタリン酸(HPO
3)、ピロリン酸(H
4P
2O
7)、ポリリン酸、およびそれらの混合物のエステルから選択される、
ことを特徴とする、
請求項2から4に記載の方法。
【請求項6】
前記有機リン酸塩が、アルキルエステル、アリールエステル、混合アルキル/アリールエステル、およびそれらの混合物から選択される、
ことを特徴とする、
請求項2から5に記載の方法。
【請求項7】
前記有機リン酸塩が、炭素数1以上10以下のアルキル基を有するアルキルエステルである、
ことを特徴とする、
請求項2から6に記載の方法。
【請求項8】
前記溶媒が、直鎖または環状の飽和または不飽和の脂肪族または芳香族炭化水素、カルボン酸のエステル、エーテル、アルコール、カルボン酸、およびそれらの混合物からなる群から選択される、
ことを特徴とする、
請求項2から7に記載の方法。
【請求項9】
前記金属前駆体の溶液が、ジアミンおよび1,3-ジカルボニル化合物からなる群から選択されるキレート剤を含む、
ことを特徴とする、
請求項2から8に記載の方法。
【請求項10】
火炎噴霧熱分解によって製造されたリン酸ジルコニウムリチウムを600°C~1300°Cの温度で熱処理する工程をさらに含む、
請求項2から9に記載の方法。
【請求項11】
前記熱処理されたリン酸ジルコニウムリチウムを粉砕することをさらに含む、
請求項10に記載の方法。
【請求項12】
固体電解質の成分として、液体中の添加剤として、またはゲル電解質として、またはリチウムイオン電池の電極の構成要素としての、請求項1に記載のリン酸ジルコニウムリチウムの使用。
【請求項13】
請求項1に記載のリン酸ジルコニウムリチウムを含むリチウムイオン電池用の電極。
【請求項14】
請求項1に記載のリン酸ジルコニウムリチウムを含むリチウムイオン電池用の電解質。
【請求項15】
請求項1に記載のリン酸ジルコニウムリチウムを含むリチウムイオン電池。
【請求項16】
液体またはゲル電解質を含む、請求項15に記載のリチウムイオン電池。
【請求項17】
固体電池である、請求項15に記載のリチウムイオン電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、火炎噴霧熱分解によるリン酸ジルコニウムリチウムの製造方法、この方法によって得られるリン酸ジルコニウムリチウム、およびリチウムイオン電池におけるその使用に関する。
【背景技術】
【0002】
二次リチウムイオン電池は、現在使用されている最も重要な電池タイプの1つである。二次リチウムイオン電池は、通常、炭素材料またはリチウム金属合金からなる負極と、リチウム金属酸化物からなる正極と、有機溶媒にリチウム塩を溶解させた電解質と、充放電過程において正極と負極との間にリチウムイオンを通過させるセパレータとから構成される。
【0003】
本質的な安全性およびエネルギー密度が改善された二次電池を開発しようとする試みにおいて、液体電解質の代わりに固体電解質を使用することは、近年かなり進歩している。このようなシステムの中でも、リチウム金属またはリチウム金属合金で作られた電極を有する二次リチウム電池は、高いエネルギー密度を提供し、特に適していると考えられている。このような全固体二次リチウムイオン電池は、要求される負荷特性を得るために、電極活物質と電解質との界面におけるイオン伝導性が良好である必要がある。この高いイオン伝導率は、特許第4982866号公報に記載されているように、LiTi2(PO4)3などのいくつかのリチウム含有化合物で活性電極材料の表面をコーティングすることによって達成することができる。
【0004】
H.Xieaらは、Journal of Power Sources 2011,vol.196、7760-7762ページに、ZrO2とLi2CO3、NH4H2PO4およびCaCO3との固体反応によるLi1.2Zr1.9Ca0.1(PO4)3の調製を記載している。このリン酸ジルコニウムリチウムのLiイオン伝導度は、Liイオン電池の試験セルにおいて固体Liイオンセパレータとして用いたLi1.3Ti1.7Al0.3(PO4)3と同程度であることが分かった。
【0005】
したがって、リン酸ジルコニウムリチウムは、リチウムイオン電池、特に全固体電池に使用されるLiイオン伝導性材料の有望な候補である。
【0006】
Y.Liらは、PNAS,2016,vol.113(47)、13313-13317ページに、(NH4)2HPO4とLi2CO3および酢酸ジルコニウムとの固体反応による菱面体晶LiZr2(PO4)3の調製、および全固体Li/LiFePO4リチウムイオン電池の固体電解質としてのその使用を記載している。
【0007】
I.Hanghoferらは、Dalton Trans,2019、vol.48、9376-9387ページに、Li2CO3、(NH4)2HPO4およびCaCO3と、全固体リチウムイオン電池で使用するための固体電解質として適したZrO2または酢酸ジルコニウムのいずれかとの固体反応による菱面体晶Ca安定化Li1.4Ca0.2Zr1.8(PO4)3の調製を記載している。
【0008】
固体合成によって調製されたリン酸ジルコニウムリチウムは、通常、比較的高い材料密度および低いBET表面積を有し、これは、例えばリチウムイオン電池の固体電解質のコア材料としてそのような材料を使用するのによく適している。
【0009】
しかしながら、そのような化合物が、コア材料内またはその表面上に十分に分布することができる添加剤として使用されると想定される場合、そのより小さい粒径、より低い材料密度およびより高いBET表面積が極めて重要である。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0010】
【文献】Journal of Power Sources 2011,vol.196,7760-7762ページ(H.Xieaら)
【文献】PNAS,2016,vol.113(47)、13313-13317ページ(Y.Liら)
【文献】Dalton Trans,2019、vol.48、9376-9387ページ(I.Hanghoferら)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明によって対処される問題は、特にリチウムイオン電池の電極、特に負極のためのコーティングまたはドープ材料として、およびリチウムイオン電池の電解質への添加剤として、リチウムイオン電池に使用可能な結晶性リン酸ジルコニウムリチウムの工業的製造のための改善された方法を提供することである。
【0012】
具体的には、この方法は、比較的小さい粒径、高いBET表面積および低いタンピング密度を有するリン酸ジルコニウムリチウム粒子を提供すべきである。
噴霧熱分解は、様々な金属酸化物および特定の金属塩を製造するための既知の方法である。
【0013】
噴霧熱分解では、微細な液滴の形態の金属化合物が高温ゾーンに導入され、そこで酸化および/または加水分解されて、対応する金属酸化物または塩が得られる。この方法の特殊な形態は、燃料ガスおよび酸素含有ガスの点火によって形成される火炎に液滴が供給される火炎噴霧熱分解のものである。
【0014】
米国特許出願公開第2013/0316233号明細書は、一般に、リチウムイオン電池用の正極活物質として使用するのに適した粒子混合物を製造する方法であって、リチウム源、遷移金属源およびリン源を含む溶液から形成されたエアロゾルを、支燃性ガスおよび可燃性ガスと共に火炎中に供給することを含む方法を開示している。遷移金属は、Fe、Mn、Ti、Cr、V、Ni、Co、Cu、Zn、Al、Ge、Zr、Mo、Wから選択することができ、リン源は、リン酸、リン酸アンモニウム、リン酸ナトリウムおよびリン酸第一鉄から選択することができる。本特許出願の特定の例は、リン酸鉄リチウムの調製のみを示す。リン酸ジルコニウムリチウムの合成は、米国特許出願公開第2013/0316233号明細書には開示されていない。米国特許出願公開第2013/0316233号明細書の一般的な開示に基づくこの化合物の成功した合成は、適切なリチウム源、金属源、リン源、溶媒およびプロセス条件の面倒な選択を必要とする。このようにしても、この方法によって、BET表面積が大きく、材料密度が低いリン酸ジルコニウムリチウムが得られるかどうかは全く明らかではない。
【0015】
徹底的な実験の過程で、驚くべきことに、所望の粒子特性を有するリチウムジルコニウム混合リン酸塩が、火炎噴霧熱分解法によって実際に直接調製できることが見出された。しかしながら、本発明の方法における金属前駆体とリン前駆体と溶媒との特殊な組み合わせの使用は、本発明による所望の特性を有する粒子を得るために極めて重要であることが判明した。
【課題を解決するための手段】
【0016】
リン酸ジルコニウムリチウム
本発明は、一般式LiaZrbMc(PO4)d(式中、Mは、LiおよびZrとは異なる少なくとも1つの金属である)のリン酸ジルコニウムリチウムを提供し、
0.5≦a≦5.0、0.5≦b≦5.0、0≦c≦5、1≦d≦5であり、
リン酸ジルコニウムリチウムは、
凝集した一次粒子の形態であり、
5m2/g~100m2/gのBET表面積、
静的光散乱(SLS)によって決定して、d50=0.03μm~2μmの数値平均粒径、および
20g/L~200g/Lのタンピング密度を有することを特徴とする。
【0017】
本発明のリン酸ジルコニウムリチウムは、以下に記載する本発明の方法によって得ることができる。
【0018】
本発明のリン酸ジルコニウムリチウムの一般式LiaZrbMc(PO4)dにおいて、Mは、Na、K、Be、Mg、Ca、Sr、Ba、Zn、Co、Ni、Cu、Mn、B、Al、Ga、In、Fe、Sc、Y、La、Ti、Zr、Hf、Ce、Si、Ge、Sn、Pb、V、Nb、Ta、Mo、Wからなる群から選択される1つまたはいくつかの元素であることができ、好ましくは、M=Caである。
【0019】
本発明のリン酸ジルコニウムリチウムの組成は、好ましくは式Li0.8-1.5Zr1.5-2.5M0-0.5(PO4)2.5-3.5、より好ましくはLi1.0-1.3Zr1.8-2.2M0-0.3(PO4)2.8-3.2に相当する。
【0020】
本発明のリン酸ジルコニウムリチウムは、5m2/g~100m2/g、好ましくは7m2/g~80m2/g、より好ましくは15~60m2/gのBET表面積を有する。
【0021】
BET表面積は、Brunauer-Emmett-Teller手順に従って窒素吸着によってDIN 9277:2014に従って決定することができる。
本発明のリン酸ジルコニウムリチウムは、遷移電子顕微鏡法(TEM)によって決定して、典型的には1~100nm、好ましくは3~70nm、より好ましくは5~50nmの一次粒子の数値平均直径を有する凝集一次粒子の形態である。この数値平均直径は、TEMによって分析された少なくとも500個の粒子の平均サイズを計算することによって決定することができる。
【0022】
凝集した形態および場合により塊成物の形態のd50におけるリン酸ジルコニウムリチウムの数値平均直径は、粒子の5重量%およびピロリン酸ナトリウムの0.5g/L水溶液の95重量%からなる混合物の25°Cでの300秒間の超音波処理後に静的光散乱(SLS)によって決定して、約0.03μm~2μm、より好ましくは0.04μm~1μm、さらにより好ましくは0.05μm~0.5μmである。
【0023】
凝集体および塊成物は、例えば粒子の粉砕または超音波処理によって破壊され、より小さい粒径およびより狭い粒径分布を有する粒子をもたらすことができる。
【0024】
本発明によるリン酸ジルコニウムリチウムは、20g/L~200g/L、好ましくは25g/L~150g/L、さらにより好ましくは30g/L~100g/L、さらにより好ましくは40g/L~80g/Lのタンピング密度を有する。
【0025】
粉末状または粗粒粒状材料のタンピング密度は、DIN ISO 787-11:1995「顔料および増量剤の一般的な試験方法-パート11:タンピング後のタンピング体積および見かけ密度の決定」に従って決定することができる。これは、撹拌およびタンピング後のベッドの見かけ密度を測定することを含む。
【0026】
リン酸ジルコニウムリチウムの製造方法
【0027】
本発明はさらに、火炎噴霧熱分解によって本発明のリン酸ジルコニウムリチウムを製造する方法を提供し、ここで、
金属前駆体の少なくとも1つの溶液であって、
-カルボン酸リチウムおよびカルボン酸ジルコニウムであって、これらの金属カルボン酸塩の各々が5から20個の炭素原子を含む、カルボン酸リチウムおよびカルボン酸ジルコニウムと、
-有機リン酸塩と、
-10重量%未満の水を含有する溶媒と、を含む溶液が
火炎噴霧熱分解に供される。
【0028】
本発明の火炎噴霧熱分解プロセス中、金属化合物(金属前駆体)および微細液滴の形態のリン源の溶液は、典型的には、燃料ガスおよび酸素含有ガスの点火によって形成される火炎に導入され、使用される金属前駆体はリン源と共に酸化および/または加水分解されて、対応するリン酸ジルコニウムリチウムを与える。
【0029】
この反応は最初に高度に分散した粗球形の一次粒子を形成し、これは反応のさらなる過程で合体して凝集体を形成する。次いで、凝集体は塊成物に蓄積することができる。原則としてエネルギーの導入によって比較的容易に凝集体に分離することができる塊成物とは対照的に、凝集体は、たとえあったとしても、エネルギーの集中的な導入によってのみさらに分解される。
【0030】
生成された凝集化合物は、「ヒュームド」または「発熱性生成」リン酸ジルコニウムリチウムと呼ぶことができる。
【0031】
火炎噴霧熱分解プロセスは、一般に、国際公開第2015173114号パンフレットおよび他の箇所に記載されている。
【0032】
本発明の火炎噴霧熱分解プロセスは、好ましくは以下のステップを含む。
a)金属前駆体の溶液を噴霧して、アトマイザガスによってエアロゾルを得るステップ
b)エアロゾルを、反応器の反応空間において、燃料ガスと酸素含有ガスとの混合物を着火して得られる火炎と反応させて反応流を得るステップ
c)反応流を冷却するステップ
d)次いで、固体リン酸ジルコニウムリチウムを反応流から除去するステップ。
燃料ガスの例は、水素、メタン、エタン、天然ガスおよび/または一酸化炭素である。水素を使用することが特に好ましい。燃料ガスは、生成されるリン酸ジルコニウムリチウムの高い結晶性が望まれる実施形態に特に使用される。
【0033】
酸素含有ガスは、一般に、空気または酸素富化空気である。酸素含有ガスは、例えば、生成されるリン酸ジルコニウムリチウムの高いBET表面積が望まれる実施形態に特に使用される。酸素の総量は、一般に、少なくとも燃料ガスおよび金属前駆体の完全な変換に十分であるように選択される。
【0034】
エアロゾルを得るために、金属前駆体を含有する気化溶液を、窒素、空気、および/または他のガスなどのアトマイザガスと混合することができる。得られたエアロゾルの微細な液滴は、好ましくは1~120μm、特に好ましくは30~100μmの平均液滴サイズを有する。液滴は、典型的には、単一または複数の材料のノズルを使用して生成される。金属前駆体の溶解度を高め、溶液の霧化に適した粘度を得るために、溶液を加熱してもよい。
【0035】
本発明の方法で使用される金属前駆体は、少なくとも1つのカルボン酸リチウムおよび少なくとも1つのカルボン酸ジルコニウムを含み、それぞれ5から20個の炭素原子を含む。
本発明による方法で使用されるカルボン酸リチウムおよびカルボン酸ジルコニウムは、互いに独立して、リチウムおよび/またはジルコニウムの直鎖、分岐または環状ペンタノエート(C5)、ヘキサノエート(C6)、ヘプタノエート(C7)、オクタノエート(C8)、ノナノエート(C9)、デカノエート(D10)、ウンデカノエート(C11)、ドデカノエート(C12)、トリデカノエート(C13)、テトラデカノエート(C14)、ペンタデカノエート(C15)、ヘキサデカノエート(C16)、ヘプタデカノエート(C17)、オクタデカノエート(C18)、ノナデカノエート(C19)、イコサノエート(C20)、ならびにそれらの混合物であり得る。
【0036】
最も好ましくは、2-エチルヘキサン酸ジルコニウム(C8)およびネオデカン酸リチウム(C10)が使用される。
【0037】
使用される金属前駆体は、リチウムおよびジルコニウム金属以外のカルボン酸塩または他の塩を含有してもよい。
【0038】
リチウムおよびジルコニウム金属前駆体のもの以外に、無機金属化合物、例えば硝酸塩、炭酸塩、塩化物、臭化物、または他の有機金属化合物、例えばアルコキシド、例えばエトキシド、n-プロポキシド、イソプロポキシド、n-ブトキシドおよび/またはtert-ブトキシドであってもよい。
【0039】
本発明の文脈における「有機リン酸塩」という用語は、酸素原子を介して単位P(=O)のリン原子に結合した少なくとも1つの炭素原子を含む少なくとも1つの基(R)を有する任意の化合物、例えば一般式(RO)3P(=O)または(RO)(P(=O))2(式中、Rは少なくとも1つの炭素原子を含む基、例えばメチルまたはエチルである)の化合物に関する。
【0040】
本発明の方法で使用される有機リン酸塩は、好ましくはホスホン酸(H3PO3)、オルトリン酸(H3PO4)、メタリン酸(HPO3)、ピロリン酸(H4P2O7)、ポリリン酸、およびそれらの混合物のエステルから選択される。
【0041】
有機リン酸塩は、メチル、エチル、プロピル、ブチル、ヘキシルなどのアルキルエステル、フェニルなどのアリールエステル、混合アルキル/アリールエステル、およびそれらの混合物から選択することができる。
【0042】
有機リン酸塩は、好ましくは、1から10個の炭素原子を含む基、最も好ましくは1から10個の炭素原子を含むアルキル基を有するエステルである。
【0043】
リン源としての有機リン酸塩の使用は、驚くべきことに、高いBET表面積および低いタンピング密度を有するリン酸ジルコニウムリチウムの小粒子を得るために重要であることが判明した。
【0044】
本発明の方法で使用される溶媒混合物は、直鎖または環状の飽和または不飽和の脂肪族または芳香族炭化水素、カルボン酸のエステル、エーテル、アルコール、カルボン酸、およびそれらの混合物からなる群から選択することができる。
【0045】
本発明で使用される溶媒混合物は、10%重量未満の水、好ましくは5%重量未満の水、より好ましくは3%重量未満未満の水、さらにより好ましくは2%重量未満の水、さらにより好ましくは1%重量未満の水を含有する。
【0046】
低い含水量は、金属前駆体溶液中のカルボン酸ジルコニウムの望ましくない加水分解を妨げる。
【0047】
金属前駆体の溶液中の総金属含有量は、好ましくは1重量%~30重量%、より好ましくは2重量%~20重量%、さらにより好ましくは3重量%~15重量%である。「総金属含有量」の下では、金属前駆体の使用済み溶液中の金属前駆体に含まれるすべての金属の総重量割合が理解される。
【0048】
本発明の方法に使用される溶媒混合物は、キレート剤、すなわち金属イオンと2つ以上の配位結合を形成することができる化合物をさらに含んでもよい。そのようなキレート剤の例は、例えば、エチレンジアミン、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)のようなジアミン、ならびにアセチルアセトンおよびアルキルアセチルアセテートのような1,3-ジカルボニル化合物である。このようなキレート剤としては、アセチルアセトンを用いることが最も好ましい。
【0049】
そのようなキレート剤の存在下で、いくつかの金属前駆体、例えばジルコニウム化合物は、比較的長い貯蔵時間後により良好な溶解度を示し、沈殿を示さないことが観察された。
【0050】
本発明の方法における金属前駆体、リン源および溶媒の特殊な組み合わせの使用は、すべての前駆体の良好な溶解性を確保し、得られたリン酸ジルコニウムリチウムの所望の粒子特性、例えば、小さい粒径、高いBET表面積および低いタンピング密度を達成することを可能にする。
【0051】
本発明の方法は、火炎噴霧熱分解によって生成されたリン酸ジルコニウムリチウムの熱処理工程をさらに含むことができる。
このさらなる熱処理は、好ましくは600°C~1300°C、より好ましくは650°C~1250°C、さらにより好ましくは700°C~1200°C、さらにより好ましくは750°C~1150°Cの温度で行われる。
【0052】
本発明の方法による熱処理は、所望の特性、特に所望の結晶構造を有する熱処理リン酸ジルコニウムリチウムを得ることを可能にする。
【0053】
本発明の方法は、熱処理リン酸ジルコニウムリチウムの粉砕、好ましくはボールミル粉砕のさらなる工程を含むことができる。
【0054】
ボールミル粉砕は、好ましくは、エタノールまたはイソプロパノールなどの適切な溶媒中、例えば直径約0.5mmのZrO2ボールによって行われる。
【0055】
リチウムイオン電池におけるリン酸ジルコニウムリチウムの使用
【0056】
本発明はさらに、本発明によるリン酸ジルコニウムリチウムの、特にリチウムイオン電池の固体電解質の成分としての、液体中の添加剤もしくはゲル電解質としての、またはリチウムイオン電池の電極の構成要素としての、リチウムイオン電池における使用を提供する。
【0057】
本発明はさらに、本発明によるリン酸ジルコニウムリチウムまたは本発明の方法によって得ることができるリン酸ジルコニウムリチウムを含むリチウムイオン電池を提供する。
【0058】
本発明のリチウムイオン電池は、活性正極(正極)と、負極と、セパレータと、リチウムを含む化合物を含む電解質とを含むことができる。
【0059】
リチウムイオン電池の正極(正極)は、通常、集電体と、集電体上に形成された正極活物質層とを含む。
【0060】
集電体は、アルミニウム箔、銅箔、ニッケル箔、ステンレス鋼箔、チタン箔、導電性金属でコーティングされたポリマー基板、またはそれらの組み合わせであってもよい。
【0061】
活性正極材料は、リチウムイオンを可逆的にインターカレート/デインターカレートすることができる材料を含むことができ、当技術分野で周知である。このような活性正極材料は、遷移金属酸化物、例えばNi、Co、Mn、Vまたは他の遷移金属と任意選択的にリチウムとを含む混合酸化物を含んでもよい。活性正極材料として好ましく使用される混合リチウム遷移金属酸化物は、リチウムコバルト酸化物、リチウムマンガン酸化物、リチウムニッケルコバルト酸化物、リチウムニッケルマンガンコバルト酸化物、リチウムニッケルコバルトアルミニウム酸化物、リチウムニッケルマンガン酸化物、リン酸鉄リチウム、リチウムマンガン酸化物、またはそれらの混合物からなる群から選択される。
【0062】
リチウムイオン電池の負極は、リチウムイオンを可逆的にインターカレート/デインターカレートすることができる、二次リチウムイオン電池で一般的に使用される任意の適切な材料を含むことができる。代表的なものとしては、板状、フレーク状、球状または繊維状の天然または人造黒鉛等の結晶性炭素を含む炭素質材料、無定形炭素、例えばソフトカーボン、ハードカーボン、メソフェーズピッチカーバイド、焼成コークスなど、またはそれらの混合物が挙げられる。さらに、リチウム金属、リチウム層、または変換材料(例えば、SiまたはSn)を負極活物質として使用することができる。
【0063】
本発明はさらに、本発明のリン酸ジルコニウムリチウムを含むリチウムイオン電池用の正極または負極などの電極を提供する。具体的には、本発明のリン酸ジルコニウムリチウムは、電極のドーパントまたはコーティング材料であり得る。
【0064】
本発明はさらに、本発明のリン酸ジルコニウムリチウムを含むリチウムイオン電池用の電解質を提供する。
【0065】
リチウムイオン電池の電解質は、液体、ゲルまたは固体の形態であり得る。
【0066】
リチウムイオン電池の液体電解質は、リチウムイオン電池で一般的に使用される任意の適切な有機溶媒、例えば無水エチレンカーボネート(EC)、ジメチルカーボネート(DMC)、プロピレンカーボネート、メチルエチルカーボネート、ジエチルカーボネート、ガンマブチロラクトン、ジメトキシエタン、フルオロエチレンカーボネート、ビニルエチレンカーボネート、またはそれらの混合物を含み得る。
【0067】
ゲル状電解質は、ゲル状ポリマーを含む。
【0068】
リチウムイオン電池の固体電解質は、酸化物、例えばリチウム金属酸化物、硫化物、リン酸塩、または固体ポリマーを含み得る。
【0069】
リチウムイオン電池の液体またはポリマーゲル電解質は、通常、リチウム塩を含む。このようなリチウム塩としては、例えば、六フッ化リン酸リチウム(LiPF6)、リチウムビス2-(トリフルオロメチルスルホニル)イミド(LiTFSI)、リチウムビス(フルオロスルホニル)イミド(LiFSI)、過塩素酸リチウム(LiClO4)、四フッ化ホウ酸リチウム(LiBF4)、Li2SiF6、トリフラート酸リチウム、LiN(SO2CF2CF3)2、硝酸リチウム、リチウムビスオキサレート、リチウムシクロジフルオロメタン-1,1-ビス(スルホニル)イミド、リチウムシクロヘキサフルオロプロパン-1,1-ビス(スルホニル)イミドおよびこれらの混合物が挙げられる。
【0070】
リチウムイオン電池、特に液体またはゲル電解質を有するものは、内部短絡につながる2つの電極間の直接接触を防止するセパレータを備えることもできる。
【0071】
セパレータの材料は、ポリオレフィン樹脂、フッ素化ポリオレフィン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリアクリロニトリル樹脂、セルロース樹脂、不織布またはこれらの混合物を含んでいてもよい。好ましくは、この材料は、ポリエチレンまたはポリプロピレン系ポリマーなどのポリオレフィン樹脂、ポリフッ化ビニリデンポリマーまたはポリテトラフルオロエチレンなどのフッ素化樹脂、ポリエチレンテレフタレートおよびポリブチレンテレフタレートなどのポリエステル樹脂、ポリアクリロニトリル樹脂、セルロース樹脂、不織布またはそれらの混合物を含む。
【0072】
本発明によるリチウムイオン電池は、液体電解質、ゲル電解質または固体電解質を含んでもよい。硬化、重合または架橋されていないリチウム塩と有機溶媒との液体混合物は、本発明の文脈において「液体電解質」と呼ばれる。硬化した、重合した、もしくは架橋された化合物またはそれらの混合物、場合により溶媒、およびリチウム塩を含むゲルまたは固体混合物は、「ゲル電解質」と呼ばれる。そのようなゲル電解質は、少なくとも1つの反応性、すなわち重合性または架橋性の化合物およびリチウム塩を含む混合物の重合または架橋によって調製することができる。
【0073】
特殊なタイプのリチウムイオン電池はリチウムポリマー電池であり、液体電解質の代わりにポリマー電解質が使用される。同様の固体電池の電解質はまた、硫化物、酸化物固体電解質、またはそれらの混合物などの他の種類の固体電解質を含むことができる。
【0074】
本発明の電池は、リチウム空気、リチウム硫黄(Li-S)、および他の種類のリチウム金属電池などのリチウム金属電池であり得る。
【0075】
Li空気電池は、典型的には、多孔質炭素正極と、有機、ガラスセラミックまたはポリマーセラミック型の電解質とを含む。
Li-硫黄(Li-S)電池は、通常、二硫化鉄(FeS2)、硫化鉄(FeS)、硫化銅(CuS)、硫化鉛および硫化銅(PbS+CuS)負極を含む。
【0076】
例えば、リチウム-セレン(Li-Se)、リチウム-二酸化マンガン(Li-MnO2またはLi/Al-MnO2)、リチウム-一フッ化物(Li-(CF)x)、リチウムチオニルクロリド(Li-SOCl2)、リチウム-塩化スルフリル(Li-SO2Cl2)、リチウム-二酸化硫黄(Li-SO2)、リチウム-ヨウ素(Li-I2)、リチウム-クロム酸銀(Li-Ag2CrO4)、リチウム-五酸化バナジウム(Li-V2O5またはLi/Al-V2O5)、リチウム-塩化銅(Li-CuCl2)、リチウム銅(II)酸化物(Li-CuO)、リチウム-銅オキシリン酸塩(Li-Cu4O(PO4)2)および他のタイプなどの多くの他の既知のタイプのリチウム金属電池もある。
【図面の簡単な説明】
【0077】
【
図1】比較例1に記載のように調製したリン酸ジルコニウムリチウム粒子のTEM画像である。
【
図2】比較例2に記載のように調製したリン酸ジルコニウムリチウム粒子のTEM画像である。
【
図3】実施例1に記載のように調製したリン酸ジルコニウムリチウム粒子のTEM画像である。
【
図4】実施例1~2および比較例1~2に記載のように調製したリン酸ジルコニウムリチウムのXRDパターンを示す。
【
図5】ヒュームドリン酸ジルコニウムリチウム粒子で乾燥コーティングしたNMCのSEM画像を示す(a-後方散乱電子(BSE)画像、b-ZrのEDXマッピング、c-高分解能SEM画像)。
【
図6】液体電解質を有するリチウムイオン電池における、被覆されていないNMCおよびヒュームドリン酸ジルコニウムリチウム粒子で乾燥コーティングしたNMCのレート特性およびサイクル性能を示す。
【
図7】Li
6PS
5Clの固体電解質を有する硫化物ベースの全固体電池における0.066mA(0.035C)の放電電流での初期サイクルにおける充電曲線および放電曲線を示す。
【
図8】Li
6PS
5Clの固体電解質を有する硫化物ベースの全固体電池における1.4mA(0.75C)の放電電流での4サイクル目における充電曲線および放電曲線を示す。
【発明を実施するための形態】
【0078】
(実施例)
【0079】
比較例1
157.8gのLiNO3(金属含有量:4重量%)、1733gのZr(NO3)4(金属含有量:6重量%)を含有する6,34キログラムの水溶液を調製した。1190グラムのH3PO4(水中85重量%)を激しく撹拌しながら金属塩の溶液に滴下し、白色沈殿物を含む分散液を形成した。このようにして得られた化合物の組成は、式LiZr2(PO4)3に相当した。
【0080】
この分散液1.5kg/hおよび空気15Nm3/hのエアロゾルを二成分ノズルを介して形成し、燃焼炎を用いて管状反応物に噴霧した。火炎の燃焼ガスは、14.3Nm3/hの水素および30Nm3/hの空気からなっていた。さらに、25Nm3/hの二次空気を使用した。反応器の後、反応ガスを冷却し、濾過した。
【0081】
粒子特性を表1に示し、粒子のTEM画像を
図1に示し、XRD分析(
図4)は、生成物の主相が立方晶リン酸ジルコニウムであることを示した。
【0082】
比較例2
157.8gのLiNO
3(金属含有量:4重量%)、1733gのZr(NO
3)
4(金属含有量:6重量%)を含有する6,34キログラムのエタノール溶液を調製した。1190グラムのH
3PO
4(水中85重量%)を激しく撹拌しながら金属塩の溶液に滴下し、白色沈殿物を含む分散液を形成した。このようにして得られた化合物の組成は、式LiZr
2(PO4)
3に相当した。
この分散液1.5kg/hおよび空気15Nm
3/hのエアロゾルを二成分ノズルを介して形成し、燃焼炎を用いて管状反応物に噴霧した。火炎の燃焼ガスは、8.4Nm
3/hの水素および30Nm
3/hの空気からなっていた。さらに、25Nm
3/hの二次空気を使用した。反応器の後、反応ガスを冷却し、濾過した。
粒子特性を表1に示し、粒子のTEM画像を
図2に示し、XRD分析(
図4)は、生成物の主相が立方晶リン酸ジルコニウムであることを示した。
【0083】
比較例3
ナフサに溶解したネオデカン酸リチウムの形態のリチウムを2重量%含有する市販の溶液(Borchers(登録商標) Deca Lithium 2)2.9gと、ホワイトスピリットに溶解したジルコニウムエチルヘキサノエートの形態のZrを11.86重量%含有する市販の溶液(Octa Solingen(登録商標) Zirconium 12)50gとを混合して61.4グラムの溶液を調製した。8.6グラムのH3PO4(水中85重量%)を、激しく撹拌しながら金属塩の溶液に滴下した。相分離が観察され、溶液を均一に噴霧することが不可能であった。噴霧実験は行わなかった
【0084】
(実施例1)
ナフサに溶解したネオデカン酸リチウムの形態のリチウムを2重量%含有する市販の溶液(Borchers(登録商標) Deca Lithium 2)3370gと、ホワイトスピリットに溶解したジルコニウムエチルヘキサノエートの形態のZrを11.86重量%含有する市販の溶液(Octa Solingen(登録商標) Zirconium 12)15 kgと、リン酸トリエチルの形態のリンを16.83重量%含有する市販の溶液(Alfa Aesar)5384gとを混合し、透明な溶液23.75キログラムを得た。この溶液は、LiZr2(PO4)3の組成に対応する。
【0085】
この分散液1.5kg/hおよび空気15Nm3/hのエアロゾルを二成分ノズルを介して形成し、燃焼炎を用いて管状反応物に噴霧した。火炎の燃焼ガスは、8.5Nm3/hの水素および30Nm3/hの空気からなっていた。さらに、25Nm3/hの二次空気を使用した。反応器の後、反応ガスを冷却し、濾過した。
【0086】
粒子特性を表1に示し、粒子のTEM画像を
図3に示し、XRD分析(
図4)は、生成物の主相が菱面体晶リン酸ジルコニウムリチウムであることを示した。
【0087】
(実施例2)
ナフサに溶解したネオデカン酸リチウムの形態のリチウムを2重量%含有する市販の溶液(Borchers(登録商標) Deca Lithium 2)1056gと、ホワイトスピリットに溶解したジルコニウムエチルヘキサノエートの形態のZrを18.01重量%含有する市販の溶液(Octa Solingen(登録商標) Zirconium 12)2453gと、リン酸トリエチルの形態のリンを16.83重量%含有する市販の溶液(Alfa Aesar)1408gとを混合し、透明な溶液6 18キログラムを得た。60.8gのCa(NO3)2×4H2O、1200gのエタノールおよび1200gのエチルヘキサン酸を含有するさらなる溶液を、透明な溶液が得られるまで絶えず撹拌しながら添加した。この溶液は、Li1.2Ca0.1Zr1.9(PO4)3の組成に対応した。
【0088】
この分散液1.5kg/hおよび空気15Nm3/hのエアロゾルを二成分ノズルを介して形成し、燃焼炎を用いて管状反応物に噴霧した。火炎の燃焼ガスは、8.7Nm3/hの水素および30Nm3/hの空気からなっていた。さらに、25Nm3/hの二次空気を使用した。反応器の後、反応ガスを冷却し、濾過した。
【0089】
粒子特性を表1に示し、XRD分析(
図4)は、生成物の主相が菱面体晶リン酸ジルコニウムリチウムであることを示した。
【0090】
表1に要約された得られた生成物の粒子特性は、水を含有しない溶液中で金属カルボキシレートとリン酸エチルとの本発明の組み合わせを使用するだけで、比較的高いBET表面積(比較例では17~44m2/g対4.3~4.7m2/g)、小さな粒径(比較例では76~130nm対約4μm)および低いタンピング密度(比較例では約50g/L対約300g/L)を有するリン酸ジルコニウムリチウムをもたらすことを示している。
【0091】
【0092】
SEM-EDXによるリン酸ジルコニウムリチウム(LZP)被覆混合リチウム遷移金属酸化物の分析
【0093】
NMC粉末を、それぞれの量(1.0重量%)の実施例1からのヒュームドLZP粉末と、高強度実験用ミキサー(0.5L混合ユニットを備えたSOMAKONミキサーMP-GL)内で、最初に500rpmで1分間混合して、2つの粉末を均一に混合した。その後、混合強度を5分間2000rpmに上げて、LZP粉末によるNMC粒子の乾燥コーティングを達成した。
NMC粒子上のLZPコーティング層の厚さは約15~200nmであった。
【0094】
図5は、LZP((
図5a、b、c)実施例1のヒュームドLZP)で乾燥コーティング
したNMCのSEM画像を示す。後方散乱電子像(a)とヒュームドLZPで乾燥コーティングしたNMCのZrのEDXマッピング(b)とを比較すると、ヒュームドLZPによるすべての正極粒子の完全かつ均一な被覆率が明らかになる。より大きなLZP塊成物は検出されず、ナノ構造ヒュームドLZP粒子の良好な分散が達成されたことを示している。さらに、正極粒子の隣に遊離の未結合LZP粒子は見られず、コーティングと基材との間の強い接着を示した。高分解能SEM画像(c)は、CAMの表面被覆率が高いフュームドLZPの均一な分布を示す。
【0095】
液体電解質を用いたリチウムイオン電池の電気化学試験
【0096】
不活性ガス雰囲気下で、90重量%のNMCを、結合剤としての5重量%のPVDF(Solef PVDF 5130)および導電性添加剤としての5重量%のSUPER PLi(TIMCAL)とブレンドすることによって、電気化学測定用の電極を調製した。溶媒としては、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)を用いた。スラリーをアルミニウム箔上にキャストし、空気中の加熱プレート上で120°Cで20分間乾燥させた。その後、電極シートを真空炉内で120°Cで2時間乾燥させた。直径12mmの円形電極を打ち抜き、90 psiの圧力でカレンダー加工し、真空炉内で120°Cで12時間再び乾燥させて残留水およびNMPを除去した。サイクル試験のために、セルをアルゴン充填グローブボックス(GLOVEBOX SYSTEMTECHNIK GmbH)内でCR 2032型コインセル(MTI Corporation)として組み立てた。負極材料としては、リチウム金属(ROCKWOOD LITHIUM GmbH)が用いられる。セパレータとしてはセルガード2500を用いた。エチレンカーボネートおよびエチルメチルカーボネート(50:50重量/重量;シグマ-アルドリッチ)中のLiPF6の1M溶液25μLを電解質として使用した。セルをクリンパー(MTI)で係止した。
電気化学的評価のために、定電流サイクルを3.0Vと4.3Vとの間で行った。容量および比電流の計算のために、活物質の質量のみを考慮した。サイクル中のコイン型半セルについては、Cレートを0.1/0.1(充電/放電)から0.3/0.3、0.5/0.5、1.0/1.0、1.0/2.0および1.0/4.0Cまで、4サイクルごとに増加させた。その後、長期安定性試験のために、セルを0.5/0.5Cでサイクルした。
【0097】
図6は、サイクル性能に対するLZPコーティング層の影響を示す。実施例1のフュームドLZPで乾燥コーティングしたNMCの性能を、参照としてコーティングしていないNMCの性能と比較する。示されたグラフから、乾燥被覆フュームドLZPコーティングがNMCの安定性およびサイクル寿命を有意に改善することが容易に認識され得る。フュームドLZPで乾燥コーティングされたNMCは、全サイクル、最初のレート試験および長期サイクル試験にわたるより高い放電容量を示す。これはまた、0.1Cにおいて被覆されていないNMCよりも高い初期比放電容量を示す。
【0098】
硫化物ベースの全固体電池を用いたリチウムイオン電池の電気化学試験
【0099】
粉末複合電極は、活物質NCM(AM)、導電性カーボン添加カーボンナノファイバー(CNF)、および固体電解質(Li6PS5Cl、SE)を63:2:35の質量比でメノウ乳鉢で30分間混合することによって調製される。自立した柔軟なドライフィルムを製造するために、上記で調製した粉末電極を乳鉢中で100°Cで0.3重量%のポリテトラフルオロエチレン(PTFE、乳化重合微粉;粒径300~700μm;軟化点320~330°C;分子量107~108g/mol)と混合した。
【0100】
1分間の混合および剪断の後、単一のフレークが形成された。フレークをホットプレート上に置き、所望の厚さ(約100μm)に圧延した。プロセスの再現性を確認するために、各試料を少なくとも2回調製した。自立電解質フィルムを作製するために、固体電解質を0.15重量%のPTFEと混合し、負極フィルムと同様に処理した。
【0101】
充放電電位プロファイル、定格放電能力などの正極複合体の基本特性を測定するために試験セルを作製した。
【0102】
直径13mmのダイを用いてセルを作製した。試験セルは、テフロン絶縁体を有するステンレス鋼外側ケーシングからなる。典型的なセルでは、電解質Li6PS5Cl粉末をマイクロスパチュラによってダイの内部に均一に広げた。次に、粉末を一旦時間圧縮してペレットに圧縮した。正極複合体粉末は、ダイ内の圧縮された電解質表面にわたって均一に分配された。次いで、負極層を圧縮した。セルスタックの反対側に、リチウム-インジウム合金負極を配置し、圧縮した。すべてのセル成分を再び一緒に圧縮し、油圧プレス(4トンを30秒間適用):300MPaを使用することによって完全にペレット化した。
【0103】
圧縮後、セルスタックを外側鋼ケーシングの内側に配置し、ねじでセル内の電気接点を維持した。スクリューは、予め設定したトルクを用いて3.0Nmで締結した。
【0104】
上記のすべてのプロセスは、Ar充填グローブボックス(<0.1ppmのH2OおよびO2)内で行った。
【0105】
セルのサイクルおよびレート性能を、電池試験機CTS-Lab(BaSyTec、ドイツ)によって測定した。標準レート性能試験計画は、充電レートをCVステップを含む0.14mA(0.075C)で一定に保ちながら、0.066mA(0.035C)~1.4mA(0.75C)の範囲の3つの異なる放電電流からなる。サイクル試験の標準カットオフ電圧は、充電時に3.63V、放電時に1.93Vとした。
【0106】
図7は、0.5、1、および2重量%のLZPの異なるコーティング量での1サイクル目の0.066mA(0.035C)の放電電流でのレート特性に対するLZPコーティング層の影響を示す。実施例1のフュームドLZPで乾燥コーティングしたNMCの0.066mAでの放電容量を、参照としてコーティングしていないNMCの性能と比較する。示されたグラフから、硫化物ベースの全固体電池において0.035Cのような低い放電レートでの初期放電容量において有意な改善が観察されなかったことを容易に認識することができる。
【0107】
図8は、0.5、1および2重量%のLZPの異なるコーティング量での4サイクル目の1.4mA(0.75C)の放電電流でのレート特性に対するLZPコーティング層の影響を示す。実施例1のフュームドLZPで乾燥コーティングしたNMCの0.75Cでの放電容量を、参照としてコーティングしていないNMCの性能と比較する。示されたグラフから、乾燥被覆フュームドLZPコーティングがNMCの放電レート特性を有意に改善することが容易に認識され得る。フュームドLZPで乾燥コーティングされたNMCは、硫化物ベースの全固体電池において0.75Cのような高い放電レートでより高い放電容量を示す。