(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-02-13
(45)【発行日】2025-02-21
(54)【発明の名称】発電又は水素の製造方法及びエネルギー変換システム
(51)【国際特許分類】
H01M 8/18 20060101AFI20250214BHJP
C01B 3/04 20060101ALI20250214BHJP
C25B 1/04 20210101ALI20250214BHJP
C25B 9/00 20210101ALI20250214BHJP
H01M 8/00 20160101ALI20250214BHJP
【FI】
H01M8/18
C01B3/04 R
C25B1/04
C25B9/00 A
H01M8/00 Z
(21)【出願番号】P 2023577911
(86)(22)【出願日】2023-07-13
(86)【国際出願番号】 JP2023025852
(87)【国際公開番号】W WO2024014499
(87)【国際公開日】2024-01-18
【審査請求日】2023-12-18
(31)【優先権主張番号】P 2022112367
(32)【優先日】2022-07-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】504132272
【氏名又は名称】国立大学法人京都大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000109
【氏名又は名称】弁理士法人特許事務所サイクス
(72)【発明者】
【氏名】蘆田 隆一
(72)【発明者】
【氏名】木村 文乃
(72)【発明者】
【氏名】水谷 勇太
【審査官】高木 康晴
(56)【参考文献】
【文献】蘆田隆一、金子創太、河瀬元明,熱機関を利用しない新規高効率低品位炭バイオマス発電,石炭科学会議発表論文集,57巻,日本,2020年11月09日,p.26-27
【文献】蘆田隆一,化学エネルギー変換と電気化学反応を組み合わせたバイオマスからの高効率発電,科学研究費助成金事業 研究成果報告書,日本,2021年06月09日
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 8/18
C01B 3/04
C25B 1/04
C25B 9/00
H01M 8/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭素源からの発電を行う方法であって、
化学的変換部において、中間媒体を含む溶液と炭素源とを混合した混合物を、炭素源の化学エクセルギーが中間媒体の還元状態での化学エクセルギーを上回る温度で反応させて、前記炭素源を酸化させつつ、前記中間媒体を還元する化学的変換工程と、
前記化学的変換工程を経た、前記還元された中間媒体を含む溶液を冷却する冷却工程と、
電池構造を備える電気化学的変換部における前記電池構造のアノードに前記化学的変換工程において還元され、前記冷却工程を経た中間媒体を含む溶液を接触させ、前記電池構造のカソードに酸素又は空気を接触させて発電する電気化学的変換工程と、
前記電気化学的変換工程後の中間媒体を含む溶液に、新たに炭素源を加えて前記混合物に戻す再利用工程とを含む
発電方法。
【請求項2】
炭素源からの発電方法であって、
化学的変換部において、中間媒体を含む溶液と炭素源とを混合した混合物を、炭素源の化学エクセルギーが中間媒体の還元状態での化学エクセルギーを上回る温度で反応させて、前記炭素源を酸化させつつ、前記中間媒体を還元し、基材に析出させる化学的変換工程と、
前記化学的変換工程を経た、前記中間媒体を含む溶液を冷却する冷却工程と、
電池構造を備える電気化学的変換部において、前記冷却された中間媒体を含む溶液を電解液として用い、前記化学的変換工程において還元された中間媒体の析出した前記基材を前記電池構造のアノードとして用いて、前記電池構造のカソードに酸素又は空気を接触させて発電する電気化学的変換工程と、
前記電気化学的変換工程後の中間媒体を含む溶液に、新たに炭素源を加えて前記混合物に戻す再利用工程とを含む
発電方法。
【請求項3】
炭素源からの水素の製造を行う方法であって、
化学的変換部において、中間媒体を含む溶液と炭素源とを混合した混合物を、炭素源の化学エクセルギーが中間媒体の還元状態での化学エクセルギーを上回る温度で反応させて、前記炭素源を酸化させつつ、前記中間媒体を還元する化学的変換工程と、
前記化学的変換工程を経た、前記還元された中間媒体を含む溶液を冷却する冷却工程と、
電池構造を備える電気化学的変換部における前記電池構造のアノードに前記化学的変換工程において還元され、前記冷却工程を経た中間媒体を含む溶液を接触させ、前記電池構造のカソードに水を接触させて水素を製造する電気化学的変換工程と、
前記電気化学的変換工程後の中間媒体を含む溶液に、新たに炭素源を加えて前記混合物に戻す再利用工程とを含む
水素の製造方法。
【請求項4】
炭素源からの水素の製造を行う方法であって、
化学的変換部において、中間媒体を含む溶液と炭素源とを混合した混合物を、炭素源の化学エクセルギーが中間媒体の還元状態での化学エクセルギーを上回る温度で反応させて、前記炭素源を酸化させつつ、前記中間媒体を還元し、基材に析出させる化学的変換工程と、
前記化学的変換工程を経た、前記中間媒体を含む溶液を冷却する冷却工程と、
電池構造を備える電気化学的変換部において、前記冷却された中間媒体を含む溶液を電解液として用い、前記化学的変換工程において還元された中間媒体の析出した前記基材を前記電池構造のアノードとして用いて、前記電池構造のカソードに水を接触させて水素を製造する電気化学的変換工程と、
前記電気化学的変換工程後の中間媒体を含む溶液に、新たに炭素源を加えて前記混合物に戻す再利用工程とを含む
水素の製造方法。
【請求項5】
前記化学的変換工程における反応温度が350℃以下である、請求項1~4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記中間媒体が、V、Cr、Mn、Fe、Cu、Znの内少なくとも1種の元素を含む、請求項1~4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
前記化学
的変換部での酸化還元反応により発生するCO
2を回収する、請求項1~4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
炭素源を酸化させつつ、中間媒体を酸化状態から還元状態に還元する化学的変換部と、
前記中間媒体を含む溶液を加熱する、及び冷却する、温度制御機構と、
一方電極、他方電極、ならびに前記一方電極および前記他方電極を接続する通電部を含み、前記一方電極で前記中間媒体を還元状態から酸化状態に酸化させつつ、前記他方電極で被還元材料を還元させる電気化学的変換部とを備え、
前記化学的変換部において、前記炭素源の化学エクセルギーが、前記中間媒体の還元状態での化学エクセルギーを上回る温度で還元反応を行わせ、
前記還元された中間媒体及び/又は溶液を冷却して前記電気化学的変換部に供給し、
電気化学的変換部は、前記被還元材料の還元体および電力のうち少なくとも一方を外部に出し、
電気化学的変換部で酸化された前記中間媒体を含む溶液を化学的変換部に戻す、
エネルギー変換システム。
【請求項9】
前記化学的変換部、及び、前記電気化学的変換部の少なくとも一方を複数個備える、請求項8に記載のエネルギー変換システム。
【請求項10】
前記電気化学的変換部を複数個備え、前記電気化学的変換部の一部が前記被還元材料として水素を外部に出し、前記電気化学的変換部の他の一部が電力を外部に出し、前記水素を外部に出すための補助的電力として、前記電力が利用される、請求項8に記載のエネルギー変換システム。
【請求項11】
前記化学
的変換部での酸化還元反応により発生するCO
2を回収する、請求項8に記載のエネルギー変換システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発電又は水素の製造方法及びエネルギー変換システムに関する。
【背景技術】
【0002】
高品位な石炭や石油等の化石燃料は、燃焼により大きなエネルギーを容易に取り出せるために発電所などで電力に変換する炭素源として広く使用されてきたが、近年では資源の枯渇の問題が生じてきている。
一方、化石燃料の代替エネルギーとして、エクセルギー率の高い水素エネルギーなどが注目されてきている。
【0003】
発電またはエクセルギー率の高い(2次)エネルギー源の生産において、資源のエネルギー変換効率の高いエネルギー変換システムや方法が提案されている。
【0004】
例えば、発電所等でこれまで使用できなかった低温のエネルギーである廃熱(排熱とも言われる)を利用するシステムや方法が知られている(特許文献1および2)。
特許文献1には、高温に晒される高温側及び低温に晒される低温側を持ち、熱エネルギーを電気エネルギーに変換する熱電発電装置と、水蒸気を得るための水蒸気発生装置と、水蒸気発生装置で得られた水蒸気から熱電発電装置で得られた電気エネルギーを用いた電気分解により水素を製造する電気化学装置とを備え、そのエネルギー源として、製鉄プロセスで放出される廃熱を利用している、廃熱利用水素製造装置が記載されている。
特許文献2には、メタノール(CH3OH)の吸熱改質反応に摂氏150度以下の排熱を使用して二酸化炭素(CO2)と水素(H2)を生じさせ、エクセルギー率の低い排熱の持つ熱エネルギーをそれよりもエクセルギー率の高い可燃物質である水素(H2)に変換して回収する、排熱の回収方法が記載されている。
【0005】
また、褐炭やバイオマスなどの低品位な炭素源を利用する方法も知られている(特許文献3および4参照)。
特許文献3には、酸化セリウムを反応媒体とする水と炭素との熱化学分解反応により水素を製造する方法が記載されている。
特許文献4には、バイオマスと酸化鉄から水素を製造する方法であって、酸化鉄粒子とバイオマスとの混合物を加熱して、酸化鉄を還元する還元工程と、還元工程で得られる金属鉄および炭素を含む固相を600℃以下の温度で水蒸気と接触させて、水素ガスを発生させる第1の酸化工程とを含み、第1の酸化工程で得られる酸化鉄を含む固相を還元工程に供給して鉄および酸化鉄の循環を行う水素製造方法が記載されている。
【0006】
その他、アルカリ金属とイオン化傾向の低い金属などから得た電子を用いて水の電気分解を行って水素を製造する方法が知られている。例えば、特許文献5には、負極にアルカリ金属を用い、正極にカーボン又はアルカリ金属よりイオン化傾向の小さい金属を用いた電池反応により、アルカリ金属から電子を放出させるとともにアルカリ金属とカーボン又は金属との融合体を生成させる電気化学的酸化還元工程と、電気化学的酸化還元工程で放出された電子を利用して水を電気分解して水素を発生させる水素発生工程と、融合体を加熱して、アルカリ金属とカーボン又は金属に還元する熱化学還元工程と、を備える、水素製造方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2011-208242号公報
【文献】特開平05-170401号公報
【文献】特開平10-251001号公報
【文献】特開2008-137864号公報
【文献】特開2016-121036号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、特許文献1~5に記載の装置や方法はいずれもエネルギー変換効率のさらなる改善が求められるものであった。特に、水分の含有量が多いなど、低品位の炭素源(例えば含水率の高い褐炭、泥炭、バイオマス等)を効率的にエネルギー源として利用する手段はこれまでに知られていない。
また、従来の方法により廃熱利用の対象とされるのは通常600℃以上などの高温の廃熱であって、350℃以下などの低温である廃熱を利用することは困難であった。
加えて、従来の炭素源の利用方法においては、炭素源を、一旦熱エネルギーに変換することを経由するため、エネルギー変換効率が低いという問題点があった。
本発明が解決しようとする課題は、低品位の炭素源を用い、低温である廃熱を利用したとしてもエネルギー変換効率に優れる発電又は水素の製造方法及びエネルギー変換システムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明においては、溶液反応による炭素源から中間媒体へのエネルギー転換を経由して、発電又は水素の製造が行われる。このように、本発明においては、炭素源から、熱エネルギーの形態を経由することなく、発電又は水素の製造を行うことができるため、エネルギー変換効率を向上することができる。
また本発明においては、低温である廃熱を反応の環境温度調節などに用いることができる。
更に、炭素源及び中間媒体の化学エクセルギーの温度変化等を活用してエネルギー変換効率をさらに向上させることも可能である。具体的には、本発明によれば、炭素源と中間媒体の酸化還元反応を行う化学的変換部と、還元状態の中間媒体を用いて発電またはエクセルギー率の高い2次エネルギー源の製造を行う電気化学的変換部とを組み合わせ、化学的変換部の反応温度を選ぶことで、中間媒体の還元状態での化学エクセルギーを炭素源の化学エクセルギーよりも小さくすることができ、上記課題を解決できることを見出し、上記課題を解決した。
上記課題を解決するための具体的な手段である本発明の構成と、本発明の好ましい構成を以下に記載する。
【0010】
[1]炭素源からの発電又は水素の製造を行う方法であって、化学的変換部において、中間媒体を含む溶液と炭素源とを混合した混合物を、炭素源の化学エクセルギーが中間媒体の還元状態での化学エクセルギーを上回る温度で反応させて、前記炭素源を酸化させつつ、前記中間媒体を還元する化学的変換工程と、電池構造を備える電気化学的変換部における前記電池構造のアノードに前記化学的変換工程において還元された中間媒体を含む溶液を接触させるか、又は、前記化学的変換工程において還元された中間媒体の析出した基材を前記電池構造のアノードとして用い、前記電池構造のカソードに酸素若しくは空気を接触させて発電するか、又は、水を接触させて水素を製造する電気化学的変換工程と、前記電気化学的変換工程後の中間媒体を含む溶液を前記混合物に戻す再利用工程とを含む発電又は水素の製造方法。
[2]前記化学的変換工程において、還元状態の前記中間媒体を基材に析出させ、前記電気化学的変換工程において、前記中間媒体を析出させた前記基材を、前記電気化学的変換部における前記電池構造の前記アノードとして用いる、[1]に記載の発電又は水素の製造方法。
[3]前記化学的変換工程における反応温度が350℃以下である、[1]又は[2]に記載の発電又は水素の製造方法。
[4]前記中間媒体が、V、Cr、Mn、Fe、Cu、Znの内少なくとも1種の元素を含む、請求項[1]又は[2]に記載の発電又は水素の製造方法。
[5]前記化学変換部での酸化還元反応により発生するCO2を回収する、[1]又は[2]に記載の発電又は水素の製造方法。
[6]前記炭素源を酸化させつつ、中間媒体を酸化状態から還元状態に還元する化学的変換部と、一方電極、他方電極、ならびに前記一方電極および前記他方電極を接続する通電部を含み、前記一方電極で前記中間媒体を還元状態から酸化状態に酸化させつつ、前記他方電極で被還元材料を還元させる電気化学的変換部とを備え、前記化学的変換部において、前記炭素源の化学エクセルギーが、前記中間媒体の還元状態での化学エクセルギーを上回る温度で還元反応を行わせ、電気化学的変換部は、前記被還元材料の還元体および電力のうち少なくとも一方を外部に出す、エネルギー変換システム。
[7]前記化学的変換部、及び、前記電気化学的変換部の少なくとも一方を複数個備える、[6]に記載のエネルギー変換システム。
[8]前記電気化学的変換部を複数個備え、前記電気化学的変換部の一部が前記被還元材料として水素を外部に出し、前記電気化学的変換部の他の一部が電力を外部に出し、前記水素を外部に出すための補助的電力として、前記電力が利用される、[6]に記載のエネルギー変換システム。
[9]前記化学変換部での酸化還元反応により発生するCO2を回収する、[6]に記載のエネルギー変換システム。
【発明の効果】
【0011】
本発明においては、溶液反応による炭素源から中間媒体へのエネルギー転換を経由し、炭素源から熱エネルギーの形態を経由することなく発電又は水素の製造を行うことができるため、エネルギー変換効率を向上することができる。また、このエネルギー転換を低温の廃熱を利用して行うことも可能である。
また本発明においては、例えば燃焼等による熱エネルギーへの変換が困難であるような低品位の炭素源であっても利用可能である。
更に、需要に応じて、直接電気を得る(発電する)か、2次エネルギー源として水素を製造するか、を選択することができる。
以上のように、本発明によれば、低品位の炭素源を用い、低温である廃熱を利用したとしてもエネルギー変換効率に優れる発電又は水素の製造方法及びエネルギー変換システムを提供することができる。
加えて、本発明の方法により生成するCO2は、高い純度で容易に回収できるので、環境負荷が小さく、必要に応じてCO2の2次利用も可能である。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】
図1は、本発明のエネルギー変換システムの一例の模式図である。
【
図2】
図2は、本発明のエネルギー変換システムの第1の好ましい態様の一例の模式図である。
【
図3】
図3は、第1の好ましい態様で用いる中間媒体の温度と化学エクセルギーの関係の模式的なグラフである
【
図4】
図4は、第1の好ましい態様でCO
2ガスを回収する態様の模式図である。
【
図5】
図5は、従来法と、本発明の第1の好ましい態様を用いる提案法のエネルギー変換効率を比較した模式図である。
【
図6】
図6(a)は、炭素源(褐炭)と、中間媒体の化学エクセルギーの大小関係を3点の温度について示す図である。
図6(b)は、炭素源(褐炭)と、数種の中間媒体の化学エクセルギーの温度変化を示したグラフである。
【
図7】
図7は、本発明のエネルギー変換システムの第2の好ましい態様において、(B-1)電力不足時の発電をする場合の一例の模式図である。
【
図8】
図8は、第2の好ましい態様において、(B-1)電力不足時の発電をする場合にCO
2ガスを回収する提案法の模式図、および従来法と対比した棒グラフである。
【
図9】
図9は、本発明のエネルギー変換システムの第2の好ましい態様において、(B-2)電力過剰時の水素製造をする場合の一例の模式図である。
【
図10】
図10は、第2の好ましい態様において、(B-2)電力過剰時の水素製造をする場合にCO
2ガスを回収する提案法の模式図、および従来法と対比した棒グラフである。
【
図11】
図11(A)は、化学的変換部を300℃の反応温度にする場合における、生成ガスの収率を示した棒グラフである。
図11(B)は、化学的変換部を250℃の反応温度にする場合における、生成ガスの収率を示した棒グラフである。
【
図12】
図12(A)は、Cr
2(SO
4)
3を還元する場合における、固体生成物のXRDパターンである。
図12(B)は、Cr(OH)
3を還元する場合における、固体生成物のXRDパターンである。
【
図13】
図13(A)は、実施例1の評価例1における物質収支の模式図である。
図13(B)は、実施例1の評価例1におけるエクセルギー収支の模式図である。
図13(C)は、燃焼プロセスにおけるエクセルギー収支の一例の模式図である。
【
図14】
図14(A)は、実施例1の評価例1における物質収支の模式図である。
図14(B)は、実施例1の評価例1におけるエクセルギー収支の模式図である。
図14(C)は、ガス化プロセスにおけるエクセルギー収支の一例の模式図である。
【
図15】
図15は、実施例2における化学的変換部として、評価例3で用いた実験装置の模式図である。
【
図16】
図16は、評価例3の特定の反応条件における反応前後の化学的変換部のサンプルの写真と、分光光度計測定による波長と吸光度の関係のグラフである。
【
図17】
図17(A)は、評価例3のいくつかの反応条件における反応時間と、VO
2+イオンの変換割合X
VO
2+の関係のグラフである。
図17(B)は、VO
2+イオンの変換割合X
VO
2+と電気化学変換Eの関係のグラフである。
【
図18】
図18(A)は、評価例4における固体生成物のXRDパターンである。
図18(B)は、評価例4の特定の条件における固体生成物の写真である。
【
図19】
図19は、評価例4における、生成ガスの収率を示した棒グラフである。
【
図20】
図20は、評価例5の反応速度解析に用いたモデルの模式図である。
【
図21】
図21は、評価例5における、反応時間とVO
2+イオンの変換割合X
VO
2+の関係を反応速度の計算値に基づいて記載したグラフに、実証実験における実験値をプロットしたものである。
【
図22】
図22は、評価例6で用いた化学的変換部における反応器設計の概略図である。
【
図23】
図23は、実施例2の評価例6における物質収支、発電効率およびその際の反応器のサイズを示した模式図である。
【
図24】
図24は、評価例7で用いたエネルギー変換システムの模式図である。
【
図25】
図25は、評価例7で用いたエネルギー変換システムの電解反応の効率とエネルギー変換効率の関係示したグラフである。
【
図26】
図26は、実施例2の方法および従来法で水素製造をする場合における、電流密度と電圧の関係を示したグラフである。
【
図27】
図27(A)は、実施例2の方法および従来法で水素製造をする場合における、電流密度と電解反応の効率の関係を示したグラフである。
図27(B)は、実施例2の方法および従来法で水素製造をする場合における、電流密度とエネルギー変換効率の関係を示したグラフである。
【
図28】
図28は、中間媒体である酸化数4のVO
2+から酸化数3のV
3+への還元率に対する電池電圧(E
Cell[V])の実測値及び総合発電効率の関係を示すグラフである。
【
図29】
図29は、評価例10における発電時の電流(I)と電圧(V)の関係を示すグラフ(I-Vカーブ)である。
【
図30】
図30は、評価例11の方法および従来法で水素製造を行った場合における、電流密度と電圧の関係を示したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下において、本発明について詳細に説明する。以下に記載する構成要件の説明は、代表的な実施形態や具体例に基づいてなされることがあるが、本発明はそのような実施形態に限定されるものではない。なお、本明細書において「~」を用いて表される数値範囲は「~」前後に記載される数値を下限値および上限値として含む範囲を意味する。
【0014】
[発電又は水素の製造方法]
本発明の発電又は水素の製造方法は、炭素源からの発電又は水素の製造を行う方法であって、化学的変換部において、中間媒体を含む溶液と炭素源とを混合した混合物を、炭素源の化学エクセルギーが中間媒体の還元状態での化学エクセルギーを上回る温度で反応させて、前記炭素源を酸化させつつ、前記中間媒体を還元する化学的変換工程と、電池構造を備える電気化学的変換部における前記電池構造のアノードに前記化学的変換工程において還元された中間媒体を含む溶液を接触させるか、又は、前記化学的変換工程において還元された中間媒体の析出した基材を前記電池構造のアノードとして用い、前記電池構造のカソードに酸素若しくは空気を接触させて発電するか、又は、水を接触させて水素を製造する電気化学的変換工程と、前記電気化学的変換工程後の中間媒体を含む溶液を前記混合物に戻す再利用工程とを含む。
【0015】
(炭素源)
炭素源としては特に制限はない。
本発明では、炭素源として低品位な炭素源を利用できる。炭素源として、低品位な化石燃料や、化石燃料以外の炭素源であるバイオマスやプラスチックなどが好ましく、褐炭、泥炭、バイオマス、ポリマー、プラスチック、(有機)汚泥、または、製造業から排出される有機廃棄物であることがより好ましい。
低品位な化石燃料として、褐炭が好ましい。褐炭とは、石炭のうち、発熱量が純炭基準で5800kcal/kg以上7300kcal/kg未満のもののことを言う。褐炭は、粘結性を有しない非粘結であることが好ましい。褐炭の炭素含有量は65~78質量%程度であり、外見は褐色であり、水分を多量に含有する。
バイオマスは、再生可能な生物由来の有機性資源で化石資源を除いたものであり、大気中に多量のCO2を排出する化石燃料とは異なり、再生産が可能でありかつカーボンニュートラルである。バイオマスは、乾燥バイオマス(木質、樹皮、古紙、おが屑など)と湿潤バイオマス(汚泥、糞尿、生ごみ、水草など)に大別される。なお、生木は水分含量が50質量%程度である。
ポリマーとしては、特に限定されず、例えば炭素原子を含む高分子化合物を用いることができ、有機樹脂、繊維、ゴム、塗料等が挙げられる。
プラスチックは、廃プラスチックなどを再利用したものであることが好ましい。また、廃プラスチックとしては、反応時にCO2以外のガス発生がないものが好ましい。
製造業から排出される有機廃棄物としては、広く製造業から排出される有機廃棄物を意味する。なお、有機廃棄物としては、特に限定されず、工業廃棄物、産業廃棄物、化学廃棄物、食品廃棄物等が挙げられる。ここで、製造業とは、ものを製造する業種であって、化学製造業、金属製造業、機械製造業、食品製造業、衣類製造業などを広く含む概念である。
本発明で用いる炭素源は、水分含量の制限もない。例えば、一般的に燃焼反応に使用が難しいとされる、水分含量が60質量%を超える炭素源であっても本発明に用いることができる。
炭素源は、室温(25℃)において液体または固体であることが好ましい。
また、炭素源の性状としては、固体又は水溶液が好ましい。固体としては、例えば、粉末であることが好ましい。
以下に、炭素源である固体燃料の含水率、および、250℃、30分でのVO2+反応率の例を示すが、この反応率は、固体燃料の本発明における反応速度の指標として示したにすぎず、いずれの固体燃料も本発明に利用できる。また本発明における炭素源はこれに限定されるものではない。
【0016】
【0017】
(化学的変換工程)
本発明の発電又は水素の製造を行う方法は、化学的変換部において、中間媒体を含む溶液と炭素源とを混合した混合物を、炭素源の化学エクセルギーが中間媒体の還元状態での化学エクセルギーを上回る温度で反応させて、前記炭素源を酸化させつつ、前記中間媒体を還元する化学的変換工程を含む。
【0018】
<中間媒体>
化学的変換工程においては、中間媒体を含む溶液と炭素源とを混合した混合物が用いられる。
中間媒体としては、単体の金属、金属化合物、金属イオンなどの金属元素を含む材料、金属錯体、あるいは金属元素を含む混合物が挙げられる。中間媒体は、酸化還元が可能であり、少なくとも酸化状態の中間媒体および還元状態の中間媒体の2つの状態をとることができる。酸化状態の中間媒体および還元状態の中間媒体は、可逆的に変化することができる。
中間媒体の酸化/還元とは、金属元素の価数の変化を伴う反応を指す。
酸化状態の中間媒体および還元状態の中間媒体は、それぞれ相対的に酸化状態または還元状態であればよい。例えば、還元状態の中間媒体に酸化数が0を超える金属元素や酸化数が0の金属元素が含まれていてもよい。より具体的には、酸化状態の中間媒体が酸化数3のCr元素である場合、還元状態の中間媒体は酸化数2のCr元素であってもよく、または酸化数0のCr単体金属であってもよい。
中間媒体は、金属イオンを錯体の一部、例えば中心金属または配位子として有するものであってもよい。
【0019】
酸化状態の中間媒体は、金属化合物、金属イオンまたはこれらを含む混合物であることが好ましく、金属化合物または金属イオンであることがより好ましい。酸化状態の中間媒体に含まれる金属化合物は、例えば金属酸化物(イオン)である。
中間媒体に用いられる金属元素としては、化学的変換部の反応温度において、中間媒体の還元状態での化学エクセルギーを、炭素源の化学エクセルギーよりも小さくできればよく、その他に制限はない。
中間媒体は、遷移金属元素を含むことが好ましく、V、Cr、Mn、Fe、Cu、Znの内少なくとも1種の元素を含むことがより好ましく、V、Cr、Cuの内少なくとも1種の元素を含むことが特に好ましい。
これらの中でも、中間媒体に含まれる金属元素が炭素源によりVO2+→V3+、Cr3+→Cr2+、Cu2+→Cuと還元されることが好ましい。
ここで、自身の反応熱で反応温度を維持できる場合があり、廃熱等の外部エネルギーの利用を最小限とできるという観点からは、還元反応が発熱反応であることが好ましい。
また、廃熱をエネルギーとして取り込み利用するという観点からは、還元反応が吸熱反応である(例えば、Cr3+→Cr2+)ことが好ましい。
また、Cr3+→Cr2+は、還元時の温度から常温に戻した際に化学エクセルギーが大きく向上する点で好ましい。
一方で、VO2+→V3+では、温度による化学エクセルギー変化が小さく、むしろ高温のほうが化学エクセルギーが高いことから、反応速度を重視して廃熱等の活用により温度を高く維持した状態で、効率よく化学的変換、電気化学的変換を行うことができる点で好ましい。ただし、化学的変換部の還元反応は発熱反応なので、反応開始時のみ外部からの加熱を行う方法を採ることができる。
酸化状態の中間媒体は、室温において液体または固体であることが好ましく、液体であることがより好ましい。
【0020】
<還元方法(化学的変換部)>
化学的変換工程では、化学的変換部において、中間媒体を含む溶液と炭素源とを混合した混合物を、炭素源の化学エクセルギーが中間媒体の還元状態での化学エクセルギーを上回る温度で反応させることにより、前記炭素源は酸化され、かつ、前記中間媒体は還元される。
本発明は炭素源の熱エネルギーへの変換を要しないため、エネルギーロスが最小限に留まる(エクセルギー変化が小さい)ことを特徴とする。また、本発明では、化学的変換部では、炭素源の燃焼反応で生じる温度よりも低い反応温度で反応を行う。
本明細書中、燃焼反応は、炭素源が熱と光を発して酸素と化合する反応のことを言う。
【0021】
具体的には、例えば、化学的変換工程において、化学的変換部では、中間媒体含有溶液と炭素源粉末(又は液体)とが混合され、混合物の温度を所定の温度へ昇温する。所定の温度とは、炭素源の化学エクセルギーが中間媒体の還元状態での化学エクセルギーを上回る温度以上の温度である。また、上記所定の温度は、化学エクセルギー差が大きくなると反応に伴うロスが増加すること、溶液の沸騰回避に高い圧力が必要となること等の観点からは、できるだけ低い温度とすることが好ましいが、反応速度も考慮して適宜設定することができる。化学平衡面では室温でも還元が進むVO2+→V3+を利用する場合には、反応を開始させ、また反応速度を高めるため、適度に温度を上げることが好ましい。但し、還元反応が発熱反応である場合には、開始時のみ外部からの加熱を要し、反応が開始すれば反応熱で温度を維持することができる。
具体的には、化学的変換工程における反応温度が350℃以下であることが好ましい。上記反応温度は、炭素源及び中間媒体の種類等を考慮して決定すればよい。上記反応時圧力は水溶液が蒸発しない値を選択することができる。例えば350℃で水溶液を蒸発させないためには15MPa(150気圧)の加圧が必要である。
【0022】
化学的変換工程では、中間媒体含有溶液と炭素源粉末(又は液体)とが混合され、液体中で中間媒体と炭素源との反応が進行する。このように液体中で反応を進行させるという態様により、還元状態の中間媒体の取り出しが容易となり、また、発生するガスを周囲の空気との混合を避けて回収することが容易となる。
化学的変換部における中間媒体と炭素源との反応により、原理的にはCO2ガスのみが発生する。実操業では、CO、及び水蒸気が混入する可能性はあるが、COガスは容易にCO2となるので問題はなく、水蒸気は温度を下げれば液体として容易に分離できる。その結果、得られるCO2の純度は99.9%以上、あるいは99.99%以上での回収が可能である。
【0023】
化学的変換工程において、還元状態の中間媒体が固体である場合、化学的変換部に別途備えられた基材上に還元状態の中間媒体を析出させる態様としてもよい。このような態様において、前記基材及び基板上に析出した還元状態の中間媒体を、後述する電気化学的変換部とにおいて電極として用いてもよい。
具体的には、例えば、金属イオンである中間媒体を金属にまで還元して、基材に析出させる態様が挙げられる。
【0024】
化学的変換工程において、混合物中の中間媒体の還元反応を完全に終了させる必要は無い。炭素源からのエクセルギーを必要分取り込むことができれば(すなわち、炭素源の酸化が十分に進めば)よい。ここで用いられた混合物は、後述の再利用工程において回収された中間媒体との反応に繰り返し使用することができるため、中間媒体の未反応分が直ちに損失となることは無い。
また、中間媒体の反応率が低く、還元反応が完全に終了していない状態であっても、後に続く電気化学的変換部における反応は十分に進行する。
図17(b)はその説明となっているが、これについては後述する。
化学的変換部の好ましい態様の詳細については後述する。
【0025】
(電気化学的変換工程)
本発明の発電又は水素の製造を行う方法は、電池構造を備える電気化学的変換部とにおける前記電池構造のアノードに前記化学的変換工程において還元された中間媒体を含む溶液を接触させるか、又は、前記化学的変換工程において還元された中間媒体と接触する基材を前記電池構造のアノードとして用い、前記電池構造のカソードに酸素若しくは空気を接触させて発電するか、又は、水を接触させて水素を製造する電気化学的変換工程を含む。
【0026】
<発電方法(電気化学的変換部)>
電気化学的変換部は、電池構造として、一方電極(アノード)、他方電極(カソード)、ならびに一方電極および他方電極を接続する通電部を含む。 一方電極および他方電極は特に制限はない。本発明では、電気化学的変換部が、一方電極および他方電極がそれぞれポンプを備えるレドックスフロー型であることが好ましい。一方電極および他方電極の材料は、公知の電極を採用することができる。電極としては、例えば、Ptの他、過電圧が小さいためカーボンを使うことができるが、これに限定されるものではない。また特にアノードとしては、前記化学的変換工程により基材上に中間媒体を析出させた基材を用いてもよい。
また、上記電池構造は、公知の水電解用セパレーターを用いることもできる。
【0027】
発電方法に含まれる電気化学的変換工程においては、電池構造を備える電気化学的変換部における前記電池構造のアノードに前記化学的変換工程において還元された中間媒体を含む溶液を接触させるか、又は、前記化学的変換工程において還元された中間媒体を析出させた基材を前記電池構造のアノードとして用いる。
還元された中間媒体をアノードと接触させる方法としては、例えば、前記化学的変換工程により得られた還元状態の中間媒体を含む溶液を電解液として用いてアノードと接触させる方法などが挙げられる。
化学的変換工程において還元された中間媒体を析出させた基材を前記電池構造のアノードとして用いる方法としては、化学的変換工程において中間媒体が固相で析出する場合に、前記化学的変換工程において、還元状態の前記中間媒体を基材に析出させ、前記電気化学的変換工程において、前記中間媒体を析出させた前記基材を、前記電気化学的変換部における前記電池構造の前記アノードとして用いる態様等が挙げられる。
上記基材の形態は特に限定されず、板状、棒状、網目状等、任意の形態の基材を用いることができる。
上記基材の材質は特に限定されず、電極として公知のもの等を用いることもできるが、中間媒体が金属として析出する場合には、中間媒体と同一の金属よりなるものであることができる。
ただし、基材の材質と還元状態の中間媒体が同一の金属である場合には、基材と析出した還元状態の中間媒体とが不可分であり、基材と中間媒体とが一体となってアノードと還元状態の中間媒体の働きを兼ねる場合がある。
【0028】
前記化学的変換工程により得られた還元状態の中間媒体を含む溶液を電解液として用いてアノードと接触させる方法を採用する場合、電気化学的変換部における電池構造をレドックスフロー型電池として構成してもよい。
また前記電解液としては、化学的変換工程において還元処理済みの中間媒体の溶け込んだ溶液、又は、化学的変換工程において中間媒体を析出させた後の溶液をそのまま用いることができる。
【0029】
ここで、他方電極(カソード)に酸素ガスまたは空気を供給することで電池として成立する。
電気化学的変換工程(発電を行う場合)において、中間媒体の酸化は、完全に反応が終了する必要はない。一部未反応部が残っても、溶液(電解液)と電極部材は化学的反応部との間で繰り返し使用されるので、損失につながることはない。
【0030】
<水素の製造方法(電気化学的変換部)>
上記電池(発電方法)と略同様の構成で、カソード側に水を供給することで水素が発生する。
中間媒体の種類、状態によっては、外部から電解電流を加える必要があることもある。この場合でも、水電解に要する電圧は、通常の水電解よりもはるかに低く、エネルギー変換効率が高くなり、アノードに中間媒体を接触させる効果は認められる。
外部からの電流を印加する場合、電解電圧が小さくなるので炭素電極を用いることもできる。 電気化学的変換工程(水素の製造を行う場合)においても、中間媒体の酸化は、完全に反応が終了する必要はない。一部未反応部が残っても、溶液(電解液)と電極部材は化学的反応部との間で繰り返し使用されるので、損失につながることはない。重要なのは化学的変換部において炭素源が消費されることである。
【0031】
<再利用工程>
本発明の発電又は水素の製造方法は、前記電気化学的変換工程後の中間媒体を含む溶液を前記混合物に戻す再利用工程を含む。
再利用工程を含むことにより、化学的変換工程及び電気化学的変換工程において、中間媒体を繰返し用いることができ、中間媒体の還元反応、酸化反応を完全に進行させる必要がなくなり、反応条件の変化に対する許容度が広くなり、また、効率よく炭素源を消費することができる。
また、原理的に中間媒体は消耗されないので、省資源という観点でも効果を有する。
【0032】
<各工程間の連携>
例えば、本発明の化学的変換工程においては、中間媒体(酸化状態)を含む溶液に、炭素源を加え、加圧状態で所定温度(炭素源の化学エクセルギーが中間媒体の還元状態での化学エクセルギーを上回る温度域)で保持し、中間媒体を還元する。その後、還元された中間媒体、又はそれを含む溶液を冷却し、本発明の電気化学的変換工程において、電池のアノードへ供給し、電気エネルギーを取り出す、又は水素を製造する。電気化学的変換工程において、中間原料は酸化されるので、取り出した後、再度炭素源を加え、化学的変換工程へ戻す(再利用工程)。
前記冷却をヒートポンプで行う場合、取り出した熱を化学的変換部の加熱、温度維持に用いることができる。
化学的変換部における反応を溶液中で行い、また電気化学的変換部における酸化状態の中間媒体が溶液に含まれる場合には、化学的変換部と電気化学的変換部とをパイプラインで連結することにより、化学的変換工程と電気化学的変換工程と再利用工程とを連続的に、並列的に行うことができる。
化学的変換部、電気化学的変換部の組み合わせは自由にでき、かつ双方を適宜複数組み合わせることができる。
電気化学的変換部では、複数のセルを設置することで発電と水素製造を同時並行で行うこともできる。この際、ここで発電した電気を水素製造の補助エネルギーとして用いてもよい。
【0033】
本発明では、化学的変換工程の後段にCO2ガスを回収する回収工程を備え、かつ、化学的変換工程で得られたガスから窒素ガスを分離する工程を含まないことが好ましい。本発明では、化学的変換工程では燃焼反応を行わないため、化学的変換工程に空気などの含窒素ガスを導入しなくても反応が進行する。化学的変換工程に空気などの含窒素ガスを導入しない場合、そもそも化学的変換工程で得られたガスは窒素ガスをほとんど含まないため、窒素ガスを分離する工程が必要とならない。
【0034】
本発明のエネルギー変換方法のその他の好ましい態様は、後述する本発明のエネルギー変換システムの好ましい態様と同様である。
【0035】
[エネルギー変換システム]
本発明のエネルギー変換システムは、炭素源を酸化させつつ、中間媒体を酸化状態から還元状態に還元する化学的変換部と、
一方電極、他方電極、ならびに前記一方電極および前記他方電極を接続する通電部を含み、前記一方電極で前記中間媒体を還元状態から酸化状態に酸化させつつ、前記他方電極で被還元材料を還元させる電気化学的変換部とを備え、
前記化学的変換部の反応温度において、前記炭素源の化学エクセルギーが、前記中間媒体の還元状態での化学エクセルギーを上回る温度で還元反応を行わせ、
電気化学的変換部は、被還元材料の還元体および電力のうち少なくとも一方を外部に出す。
この構成により、本発明のシステムは、発電またはエクセルギー率の高い2次エネルギーの製造においてエネルギー変換効率に優れる。
ここで、化学エクセルギーは、対象の物質が、標準状態の大気と化学的に平衡な状態になるまでになすことのできる最大仕事を意味する。
【0036】
(被還元材料、被還元材料の還元体)
電気化学的変換部で得られる被還元材料の還元体は、特に制限はないが、高品位なエネルギー資源であることが好ましい。高品位なエネルギー資源としては、水素であることがより好ましいが、その他に炭化水素、アルコール、アルデヒド、カルボン酸、COなどを挙げられる。
同様に、電気化学的変換部に導入される被還元材料は特に制限はない。被還元材料の還元体として水素を製造する場合、被還元材料はH2Oであることが、水素が高純度で得られる観点から好ましい。
以下、本発明の好ましい態様を説明する。
【0037】
<本発明のエネルギー変換システムの概要>
まず、本発明のエネルギー変換システムの概要を、図面を参照して説明する。
図1は、本発明のエネルギー変換システムの一例の模式図である。
図1に示したシステムは、炭素源1の燃焼反応で生じる温度よりも低い反応温度で、中間媒体を酸化状態から還元状態に還元させる化学的変換部11を備える。
【0038】
化学的変換部11は、酸化状態の中間媒体を炭素源と反応させる反応器を有することが好ましい。反応器は、化学的変換工程で実施される温度、圧力を実現できるものである。温度については、廃熱等により反応容器を所定温度に制御できることが好ましい。
本発明では、化学的変換部11は、酸化状態の中間媒体を含む溶液の中で固体の炭素源を反応させることが、中間媒体と炭素源の接触の観点から好ましい。この場合、反応器は、液相および固相ともに押し出し流れとすることが好ましい。
【0039】
図1に示したエネルギー変換システムは、化学的変換部11の後段にCO
2ガスを回収する回収部31を備えるが、回収部31を備えていなくてもよい。なお、
図1では化学的変換部11はプロペラ(撹拌部材)を備えているが、プロペラを備えていなくてもよい。
図1に示したエネルギー変換システムは、一方電極22、他方電極23、ならびに一方電極22および他方電極23を接続する通電部24を含み、一方電極22で中間媒体を還元状態から酸化状態に酸化させつつ、他方電極23で被還元材料4を還元させる電気化学的変換部21を備える。
図1に示したエネルギー変換システムにおいて、電気化学的変換部21は、被還元材料の還元体5および電力6のうち少なくとも一方を外部に出す。
図1に示したエネルギー変換システムにおいて、化学的変換部11では酸化状態の中間媒体2が還元されて還元状態の中間媒体3に変換され、電気化学的変換部21で還元状態の中間媒体3が酸化されて酸化状態の中間媒体2に変換される。本発明において、電気化学的変換部21で得られた酸化状態の中間媒体2を化学的変換部11に戻すことにより、上記酸化還元を繰り返すことが好ましい。
【0040】
電気化学的変換部21は、一方電極で中間媒体を還元状態から酸化状態に酸化させる。電気化学的変換部21は、還元状態の中間媒体を一方電極に供給する配管を備えることが好ましい。電気化学的変換部21は、得られた酸化状態の中間媒体を、化学的変換部11に返送するための返送配管を備えることが好ましい。酸化状態の中間媒体は、化学的変換部11で再利用される。
電気化学的変換部は、被還元材料の還元体および電力のうち少なくとも一方を外部に出せる構造を備えることが好ましい。電力を外部に出す構造は、通電部が兼ねていてもよく、別の部材であってもよい。
【0041】
本発明のエネルギー変換システムは、前記化学的変換部11、及び、前記電気化学的変換部21の少なくとも一方を複数個備えることも好ましい。
前記化学的変換部11を複数個備える場合、それらの構成、それらの中で行われる反応原料及び反応条件は、同一であってもよいし、それぞれ異なっていてもよい、
前記電気化学的変換部21を複数個備える場合、それらの構成、それらの中で行われる反応原料及び反応条件は、同一であってもよいし、それぞれ異なっていてもよい、
ここで、前記電気化学的変換部21を複数個備え、水素発生のための補助的電力は、前記電気化学的変換部の少なくとも1つで発電して供給されることも好ましい。
【0042】
本発明のエネルギー変換システムにおける化学的変換部は、下記化学的変換部a~dの4つの態様に分類することができる。
化学的変換部a:酸化還元反応が発熱反応であり、還元後の中間媒体が反応液に溶解する
化学的変換部b:酸化還元反応が発熱反応であり、還元後の中間媒体が固体である
化学的変換部c:酸化還元反応が吸熱反応であり、還元後の中間媒体が反応液に溶解する
化学的変換部d:酸化還元反応が吸熱反応であり、還元後の中間媒体が固体である
また本発明のエネルギー変換システムにおける電気化学的変換部は、下記電気化学的変換部a~fの6つの態様に分類することができる。
電気化学的変換部a:アノードと還元後の中間媒体を含む溶液が接触され、カソードと酸素又は空気が接触される(発電)
電気化学的変換部b:アノードとして中間媒体が析出した基材が用いられ、カソードと酸素又は空気が接触される(発電)
電気化学的変換部c:アノードと還元後の中間媒体を含む溶液が接触され、カソードと水が接触され、水素製造時の追加電力供給を行わない(水素製造)
電気化学的変換部d:アノードとして中間媒体が析出した基材が用いられ、カソードと水が接触され、水素製造時の追加電力供給を行わない(水素製造)
電気化学的変換部e:アノードと還元後の中間媒体を含む溶液が接触され、カソードと水が接触され、水素製造時の追加電力供給を行う(水素製造)
電気化学的変換部f:アノードとして中間媒体が析出した基材が用いられ、カソードと水が接触され、水素製造時の追加電力供給を行う(水素製造)
【0043】
本発明におけるエネルギー変換システムにおける化学的変換部と電気化学的変換部の組み合わせとして、下記システム1~12が挙げられる。
システム1:化学的変換部aと電気化学的変換部a
システム2:化学的変換部aと電気化学的変換部c
システム3:化学的変換部aと電気化学的変換部e
システム4:化学的変換部bと電気化学的変換部b
システム5:化学的変換部bと電気化学的変換部d
システム6:化学的変換部bと電気化学的変換部f
システム7:化学的変換部cと電気化学的変換部a
システム8:化学的変換部cと電気化学的変換部c
システム9:化学的変換部cと電気化学的変換部e
システム10:化学的変換部dと電気化学的変換部b
システム11:化学的変換部dと電気化学的変換部d
システム12:化学的変換部dと電気化学的変換部f
更に、本発明のエネルギー変換システムは、上記システム1~12のうち異なるシステムを複数個含んでなる複合型のシステムであってもよい。
【0044】
<第1の好ましい態様>
本発明のエネルギー変換システムの第1の好ましい態様を以下に示す。
第1の好ましい態様は、水素製造時の追加電力供給手段を有しない場合の具体例であり、上記システム1、2、4、5、7、8、10又は11の具体例である。
特に、エネルギー変換システムの第1の好ましい態様は、化学エクセルギーの温度依存性を利用した高効率な廃熱利用の態様であることが好ましい。
廃熱利用には、化学的変換部における吸熱反応に廃熱が利用される態様(上記システム7,8,10,11)、及び、環境温度の維持調整に廃熱が利用される態様(上記システム1,2,4,5)のいずれもが含まれる。
図2は、本発明のエネルギー変換システムの第1の好ましい態様の一例の模式図である。
図2に示したエネルギー変換システムは、
図1に示したエネルギー変換システムにおいて、さらに化学的変換部11が廃熱供給手段33を備え、廃熱供給手段33から廃熱8を供給される。廃熱8は、発電所、工場、廃棄物処理場などから捨てられる熱であれば特に制限はない。廃熱の例として、発電所、工場、廃棄物処理場などの熱機関から捨てられる熱を挙げることができる。廃熱の温度は、化学的変換部の反応温度以上であることが好ましい。なお、化学的変換部は、熱供給手段を有していればよく、廃熱供給手段である必要はない。化学的変換部における熱供給手段は、例えば太陽熱を供給する太陽熱供給手段であってもよい。
図2の例では、被還元材料4としてH
2O(またはH
+)を用いて被還元材料の還元体5であるH
2および電力6を同時に製造(併産)しており、この例ではO
2を発生させずに水素を製造できる点も好ましい。
図2に示す態様において、化学的変換部は化学的変換部a~dのいずれであってもよい。また、電気化学的変換部は電気化学的変換部c又はdのいずれであってもよい。すなわち、
図2に示す態様は、上述のシステム2、5、8又は11に該当する態様である。
【0045】
エネルギー変換システムの第1の好ましい態様では、電気化学的変換部における中間媒体の化学エクセルギーは、化学的変換部における炭素源の化学エクセルギーよりも大きい。なお、この際、電気化学的変換部における化学エクセルギーと、化学的変換部における化学エクセルギーとは、各々の温度条件での化学エクセルギーで比較される。つまり、同じ温度条件での化学エクセルギーで比較される場合に限られず、異なる温度条件での化学エクセルギーで比較され得る。また、エネルギー変換システムの第1の好ましい態様では、電気化学的変換部における中間媒体の化学エクセルギーは、化学的変換部における中間媒体の化学エクセルギーよりも大きいことが好ましい。
図3は、エネルギー変換システムの第1の好ましい態様で用いる中間媒体の温度と化学エクセルギーの関係の模式的なグラフである。
図3より、化学的変換部の反応温度において(還元状態の)中間媒体の化学エクセルギーを炭素源(
図3には反応原料と記載)の化学エクセルギーよりも小さくし、かつ、電気化学的変換部における(還元状態の)中間媒体の化学エクセルギーを化学的変換部における(還元状態の)中間媒体の化学エクセルギーよりも大きくすることで、中間媒体の還元反応が吸熱反応となる場合には、化学的変換部に追加エネルギーとして廃熱などを導入することで化学的変換部における反応が進行することがわかる。また、この場合、電気化学的変換部における反応も容易に進行し、高い効率で電力や水素などのエクセルギー率の高い2次エネルギー源を製造できることがわかる。
エネルギー変換システムの第1の好ましい態様では、化学的変換部における反応が吸熱反応であることが好ましい。すなわち、化学的変換部c又はdが好ましく、システム7、8、10又は11であることが好ましい。
【0046】
エネルギー変換システムの第1の好ましい態様では、化学的変換部および電気化学的変換部の間に熱交換部を備え、電気化学的変換部における反応温度を化学的変換部における反応温度よりも低くすることでより多くのエネルギーを活用できる場合がある。
さらに、システムの第1の好ましい態様は、熱交換部で回収した熱を廃熱供給手段(または化学的反応部の前段に任意に設けられる第2の熱交換部)に返送できる、熱返送配管を備えることが、エネルギー変換効率を高める観点から好ましい。
【0047】
図4は、システムの第1の好ましい態様でCO
2ガスを回収する態様の模式図である。
図4に示すように、化学的変換部に廃熱を導入し、炭素源として用いるバイオマスや褐炭を酸化し、酸化状態の中間媒体を還元して、化学的変換部の後段にCO
2ガスを回収する回収部を備える態様とする場合、化学的変換部で得られたガス(含CO
2ガス)が窒素を含まず、窒素分離が不要のため、高純度のCO
2ガスの回収が容易である。
酸化状態の中間媒体としてCr
(III)を用いて、電力または水素を製造する場合のシステムの第1の好ましい態様でCO
2ガスを回収する態様(提案法)は、エネルギー変換効率が従来法と比較して非常に高い。
図5は、従来法と、本発明のシステムの第1の好ましい態様を用いる提案法のエネルギー変換効率を比較した模式図である。
従来法として、バイオマスまたは褐炭のエネルギー(このエネルギーを100とする)をガス化によりH
2に変換する場合の変換効率は約70%であり、さらに従来法でCO
2回収する場合の変換効率は窒素分離も考慮すると約60%となる。また、300℃程度の廃熱(139)から熱電変換素子により発電する場合の効率は約10%(約14)となる。
これに対し、提案法では、300℃程度の廃熱(139)の投入によりバイオマスまたは褐炭のエネルギー(100)を化学的変換部でCr
(II)に変換する吸熱反応を行い、CO
2ガスを回収し、電気化学的変換部で水によるCr
(II)の再酸化時に電力(31)とH
2(128)を併産できる。エネルギー変換効率としては、100%×(128+31)/(100+139)=約67%となる。
したがって、提案法(128+31=159)では、CO
2ガス回収有の場合の従来法(60+14=74)と比較してエネルギー変換効率は約2倍となる。
そのため、本発明のエネルギー変換システムは、(第1および第2の好ましい態様に共通して)CO
2ガスを回収する回収工程を容易に組み合わせることができる、いわゆるCCUS readyの方法でもある。本明細書では、将来の適切な時期にCCUS設備を追加で設置することが可能となるよう準備することを「CCUS Ready」と言う。CCUSは、二酸化炭素回収・有効利用・貯留技術(Carbon dioxide Capture,Utilization and Storage)である。なお、CO
2ガスの回収では、含CO
2ガスから窒素ガスを分離して高純度のCO
2ガスとすることが、CO
2ガスの海洋投棄の場面などにおいて日本国内の法令や指針などに基づいて求められており、この窒素ガスを分離する工程にかかるエネルギーやコストが大きい問題がある。
【0048】
図6(a)は、炭素源(褐炭)と、中間媒体の化学エクセルギーの値を代表的な温度について示したものである。
図6(a)より、酸化数3のCr化合物が酸化数2のCr化合物に変化する場合、化学的変換部の反応温度を300℃(計算上は255℃以上)とすれば、(還元状態の)中間媒体の化学エクセルギーを炭素源の化学エクセルギーよりも小さくできることがわかる。同様に、例えば、酸化数3のCr化合物が酸化数1又は酸化数0のCr化合物に変化する場合、酸化数2のNi化合物が酸化数0のNi化合物に変化する場合、及び、酸化数3のバナジウム化合物が酸化数2のバナジウム化合物に変化する場合についても、反応温度を高温とすることで中間媒体の化学エクセルギーを炭素源の化学エクセルギーよりも小さくできる。例えば、酸化数3のCr化合物が酸化数1又は酸化数0のCr化合物に変化する場合の上記反応温度としては300℃以上、酸化数2のNi化合物が酸化数0のNi化合物に変化する場合の上記反応温度としては310℃以上、酸化数3のバナジウム化合物が酸化数2のバナジウム化合物に変化する場合の上記反応温度としては290℃以上などが挙げられる。
図6(b)は、褐炭と還元後の中間媒体の化学エクセルギーの温度変化を示したグラフで、褐炭以外は還元後の価数を記載している。
また、
図6(b)より、電気化学的変換部の反応温度を25℃(室温)とすれば、電気化学的変換部における還元状態の中間媒体の化学エクセルギーを、(300℃の)化学的変換部における還元状態の中間媒体の化学エクセルギーよりも大きくできることがわかる。
【0049】
エネルギー変換システムの第1の好ましい態様では、化学的変換部における反応(中間媒体の還元反応)が吸熱反応である(例えば、Cr3+→Cr2+)ことが好ましい。また、化学的変換部における反応が吸熱反応である態様、Cr3+→Cr2+の場合は、化学的変換部における反応温度が、255℃以上350℃以下であることが廃熱利用および水溶液で化学的変換部における反応を行う場合の圧力の観点からより好ましく、280℃以上320℃以下であることが特に好ましい。
その他、化学的変換部の反応温度は、還元状態の中間媒体の化学エクセルギーが、炭素源の化学エクセルギーよりも小さくなる条件であればよい。
【0050】
エネルギー変換システムの第1の好ましい態様では、中間媒体がCr元素を含むことが好ましい。酸化状態の中間媒体が酸化数3のCr(III)であり、還元状態の中間媒体が酸化数2のCr(II)、酸化数1のCr(I)または酸化数0のCr(0)であることがより好ましく、酸化数1のCr(I)または酸化数0のCr(0)であることが更に好ましい。一般に還元度を高くすればエクセルギーが大きくなる点では好ましいが、化学的変換部、電気化学的変換部双方の処理条件との関係を考慮して適切な還元度を選択できる。
【0051】
<第2の好ましい態様>
エネルギー変換システムの第2の好ましい態様は、電気化学的変換部が追加電力供給手段を備え、追加電力供給手段から追加電力を供給され、電気化学的変換部は被還元材料の還元体を外部に出す態様である。以下の説明においては、(B-2)が本態様である。第2の好ましい態様は、水素製造時の追加電力供給手段を有する場合、すなわち、電気化学的変換部e又はfの具体例であり、上記システム3、6、9又は12の具体例である。
エネルギー変換システムの第2の好ましい態様では、(B-1)電力不足時の発電および(B-2)電力過剰時の水素製造を共にできることが好ましい。すなわち、電力供給が電力需要に対して不足する場合に電気化学的変換部が電力を外部に出し、かつ、電力供給が電力需要に対して過剰な場合に電気化学的変換部が被還元材料の還元体を外部に出す態様が好ましい。
具体的には、エネルギー変換システムの第2の好ましい態様は、電気化学的変換部が制御部を備え、制御部は、電力供給が電力需要に対して不足する場合に電気化学的変換部が電力を外部に出し、かつ、電力供給が電力需要に対して過剰な場合に電気化学的変換部が被還元材料の還元体を外部に出すように制御することがより好ましい。
ここで、上記電力を外部に出す電気化学的変換部(以下、「電気化学的変換部A」ともいう。)と、上記被還元材料の還元体を外部に出す電気化学的変換部(以下、「電気化学的変換部B」ともいう。)とは、同一であってもよいし、異なっていてもよい。
電気化学的変換部Aと電気化学的変換部Bとが異なる場合、これらは同一のシステムに含まれていてもよいし、別のシステムに含まれていてもよい。
すなわち、本発明のシステムには、電気化学的変換部を含むシステムを2以上含むシステムの複合体も含まれる。
電気化学的変換部Aと電気化学的変換部Bとを同一の電気化学的変換部とした場合には、システムの小型化、製造コストの低減等のメリットが有る。
また、電気化学的変換部Aと電気化学的変換部Bとを別個の電気化学的変換部とした場合には、電気化学的変換部Aにおいては、電力を外部に出すために適した電極構造、触媒等を選択し、電気化学的変換部Bにおいては、還元体を外部に出すために適した電極構造、触媒等を選択することができるなど、設計上の自由度が広いというメリットが有る。
また、電気化学的変換部A及び電気化学的変換部Bの数は特に限定されない。
例えば、本発明のエネルギー変換システムは、1つの電気化学的変換部Aに対して複数の電気化学的変換部Bを備えるシステム、1つの電気化学的変換部Aを備えるシステムと、1つの電気化学的変換部Bを備える複数のシステムとの複合体であるシステムなど、さまざまな形態をとることができる。
【0052】
((B-1)電力不足時の発電)
図7は、本発明のシステムの第2の好ましい態様において、(B-1)電力不足時の発電をする場合の一例の模式図である。(B-1)は、電気化学的変換部a又はbの具体例であり、上記システム1、4、7又は10の具体例である。
図7に示したシステムは、
図1に示したシステムにおいて、さらに電気化学的変換部21が制御部41を備え、制御部41は、電力供給が電力需要に対して不足する場合に電気化学的変換部21が電力6を外部に出すように制御する。なお、
図7に示したシステムはさらに追加電力供給手段42も備えるが、(B-1)電力不足時の発電では追加電力供給手段42は使用しなくてもよい。
図7の例では、化学的変換部において、酸化状態の中間媒体2としてVO
2+を用いて、還元状態の中間媒体3であるV
3+を得つつ、炭素源1を酸化している。なお、
図7の例では、化学的変換部の反応温度を250℃以下とすることができる。
また、
図7の例では、電気化学的変換部において、被還元材料4としてO
2を用いて被還元材料の還元体5であるH
2Oを得つつ、還元状態の中間媒体3であるV
3+を酸化状態の中間媒体2であるVO
2+を再生し、電力6を出力している。
【0053】
図8は、(B-1)電力不足時の発電をする場合にCO
2ガスを回収する提案法の模式図、および従来法と対比した棒グラフである。
図8に示すように、化学的変換部で炭素源として用いるバイオマスや褐炭を酸化し、酸化状態の中間媒体を還元して、化学的変換部の後段にCO
2ガスを回収する回収部を備える態様とする場合、化学的変換部で得られたガス(含CO
2ガス)が窒素を含まず、窒素分離が不要のため、高純度のCO
2ガスの回収が容易である。
【0054】
図7の化学的変換部における反応の一例は以下のとおりである。
CH
0.84O
0.34+1.66H
2O →CO
2+4.16H
++4.16e
ー
VO
2++2H
++e
ー →V
3++H
2O
CH
0.84O
0.34+4.16VO
2++4.16H
+→CO
2+2.5H
2O+4.16V
3+
図7の電気化学的変換部における反応の一例は以下のとおりである。
V
3++H
2O →VO
2++2H
++e
ー 0.337V
O
2+4H
++4e
ー →2H
2O 1.23V
4V
3++2H
2O+O
2 →4VO
2++4H
+ E
0=0.89V
したがって、
図7に示したエネルギー変換システムの理論電力量は、
4.16[mol-e
ー/mol-C]×0.89[V]×[96500C/mol-C]
=357.3kJ/mol-Cとなる。
褐炭の発熱量は451.2kJ/mol-Cであるため、
図7に示したエネルギー変換システムの理論発電効率は0.79(=357.3/451.2)となる。
この場合、実用的な発電効率は、電気化学変換の効率やその他のエネルギー損失を考慮した係数0.7を用いて、0.79×0.7=0.55となる。
【0055】
(B-1)電力不足時の発電をする場合、炭素源の資源枯渇に伴う化石燃料の低品位化、CO2の分離回収(CCUS)、バイオマス等の利用、負荷変動対応(電力需要と電力供給のバランスも含む)、発電効率向上といった互いに相反する課題を同時に解決することができる。
(B-1)の場合(提案法)を、従来法(ボイラー)およびIGCC(石炭ガス化複合発電プラント)と比較した結果を下記表2に示す。
【0056】
【表2】
[2] Cost and Performance Baseline for Fossil Energy Plants, Volume 1b, Rev 2b, DOE/NETL-2010/1397
【0057】
表2より、燃焼を伴う発電法(IGCC)ではCCUSを導入すると発電効率が約10%低下し、導入に要するエネルギーの大部分は分離・回収プロセスである。これは従来法(ボイラー)でも同様である。
これに対して、提案法(エネルギー変換システムの第2の好ましい態様((B-1)電力不足時の発電をする場合)においては化学的変換部における生成ガスがCCUS readyのため、CCUSを導入する場合の発電効率の低下を抑えられる。そのため、エネルギー変換システムの第2の好ましい態様は、化学的変換部の後段にCO2ガスを回収する回収部を備えることが好ましく、CO2の分離回収をする場合に特に従来法などと比べて高い発電効率が得られる。
【0058】
以上の説明の結果を、
図8の紙面右側の棒グラフにまとめた。従来法として、バイオマスまたは褐炭のエネルギー(このエネルギーを100とする)をボイラーにより電力に変換する場合の変換効率は表1より約20%(10~30%)であり、さらに従来法でCO
2回収する場合の変換効率はさらに約10%低下し、約10%となる。
これに対し、提案法では、バイオマスまたは褐炭のエネルギー(100)を、上記の計算のとおり実用的な発電効率として0.55(55%)、電力に変換することができる。
【0059】
エネルギー変換システムの第2の好ましい態様では、化学的変換部における反応が発熱反応であることも、外部から供給できる熱がない場合に自身の反応熱で温度維持して反応を継続できる観点から好ましい。ただし、吸熱反応であってもよい。
また、エネルギー変換システムの第2の好ましい態様では、化学的変換部における反応温度が25℃(室温)~350℃であることが水溶液で化学的変換部における反応を行う場合の圧力の観点より好ましく、100℃以上350℃以下であることが反応進行速度の観点から好ましく、220℃以上250℃以下であることが炭素源として褐炭を使用する観点から特に好ましい。
エネルギー変換システムの第2の好ましい態様では、中間媒体がCu元素またはV元素を含むことが好ましく、V元素を含むことが電気化学変換において高温でエネルギー変換効率を高められる観点からより好ましい。酸化状態の中間媒体が酸化数2のCu(II)または酸化数4のV(IV)であり、還元状態の中間媒体が酸化数0のCu(0)、酸化数3のV(III)または酸化数2のV(II)であることがより好ましい。
なお、エネルギー変換システムの第2の好ましい態様では、電気化学的変換部における還元状態の中間媒体の化学エクセルギーは、化学的変換部における炭素源の化学エクセルギーよりも大きくてもよいが、同じでもよく、小さくてもよい。
【0060】
((B-2)電力過剰時の水素製造)
図9は、本発明のエネルギー変換システムの第2の好ましい態様において、(B-2)電力過剰時の水素製造をする場合の一例の模式図である。
図9に示したエネルギー変換システムは、
図7に示したエネルギー変換システムにおいて、制御部41は、電力供給が電力需要に対して過剰な場合に電気化学的変換部21が被還元材料の還元体5を外部に出すように制御する。
図9に示したエネルギー変換システムはさらに追加電力供給手段42を備え、追加電力供給手段42から電気化学的変換部に追加電力7を供給する。追加電力供給が電力需要に対して過剰な場合の余剰電力であることが好ましく、再生可能エネルギー由来の余剰電力であることが特に好ましい。特に再生可能エネルギーの中でも太陽光は、昼間に電力需要以上に太陽光発電されることがあり、本発明の追加電力として太陽光由来の余剰電力を好ましく用いられる。また、本発明による発電によって得られる電力を供給してもよい。
図9の例では、被還元材料4としてH
2O(またはH
+)を用いて被還元材料の還元体5であるH
2を製造している。
【0061】
図10は、エネルギー変換システムの第2の好ましい態様において、(B-2)電力過剰時の水素製造をする場合にCO
2ガスを回収する提案法の模式図、および従来法と対比した棒グラフである。
従来法として、バイオマスまたは褐炭のエネルギー(このエネルギーを100とする)をガス化によりH
2に変換する場合の変換効率は約70%であり、さらに従来法でCO
2回収する場合の変換効率は窒素分離も考慮すると約60%となる。また、水電解により余剰電力(43)から水素製造をする場合の効率は約70%(約30)となる。
これに対し、提案法では、バイオマスまたは褐炭のエネルギー(100)を化学的変換部でV
(III)やCu
(0)に変換し、CO
2ガスを回収し、余剰電力を電気化学的変換部に導入して水の還元によるH
2の製造をできる。提案法のエネルギー変換効率は、後述の実施例2の評価例8より、約90%となる。
したがって、提案法(90+39=129)では、CO
2ガス回収有の場合の従来法(60+30=90)と比較してエネルギー変換効率は約1.4倍となる。
【実施例】
【0062】
以下に実施例と比較例を挙げて本発明をさらに具体的に説明する。以下の実施例に示す材料、使用量、割合、処理内容、処理手順等は、本発明の趣旨を逸脱しない限り適宜変更することができる。従って、本発明の範囲は以下に示す具体例により限定的に解釈されるべきものではない。
【0063】
[実施例1]
化学エクセルギーの温度依存性を利用した高効率廃熱変換を行うことができる、実施例1のエネルギー変換システムの実施を検討した。
図2に記載のエネルギー変換システムの実証実験を以下の手順で行い、廃熱供給により、電力とH
2の併産ができることを実証した。
【0064】
化学的変換部は、廃熱を供給できる構造とし、250~300℃で吸熱反応を行えるようにした。炭素源として、褐炭を用いた。化学的変換部には、酸化状態の中間媒体として、酸化数3のCr化合物であるCr(OH)3水溶液を用いた。化学的変換部では、褐炭を酸化させてCO2とし、酸化状態の中間媒体を還元させて酸化数2のCrOである還元状態の中間媒体とした。
化学的変換部で発生したCO2は、化学的変換部と電気化学的変換部の間に連結する回収部(分離器および回収器を含むもの)でほぼ100%(99体積%以上)回収した。
化学的変換部で発生した還元状態の中間媒体は、電気化学的変換部に移動された。
【0065】
電気化学的変換部は、一方電極、他方電極、これらを接続する通電部を含む構造とし、レドックスフロー型とした。一方電極には還元状態の中間媒体が供給され、還元状態の中間媒体CrOから酸化状態のCr(OH)3に酸化させ、得られたCr(OH)3は返送配管を通じて化学的変換部に返送させて、再利用した。ただし、得られたCr(OH)3は一度外部に取り出してから、適宜、化学的変換部で再利用してもよい。
他方電極では被還元材料として水を用いて、水を還元させてH2を製造し、外部に取り出した。通電部からは電力を外部に取り出した。
電気化学的変換部における反応温度は室温(25℃)とした。
【0066】
<反応の進行の実証>
(褐炭とCr
3+との反応:ガス分析)
化学的変換部における、褐炭を酸化しつつ、酸化数3のCr化合物(Cr
(III))が酸化数2のCr化合物に還元される下記反応の実証を、ガス分析により行った。
CH
0.84O
0.34+4.16Cr
3++1.66H
2O→CO
2+4.16Cr
2++4.16H
+
図11(A)は、化学的変換部を300℃の反応温度にする場合における、生成ガスの収率を示した棒グラフである。
図11(A)では、紙面左側から順に、Cr化合物なしのコントロールの場合、Cr
2(SO
4)
3の場合、Cr(OH)
3の場合の生成ガスの収率の結果を示した。
図11(B)は、化学的変換部を250℃の反応温度にする場合における、生成ガスの収率を示した棒グラフである。
図11(B)では、紙面左側から順に、Cr
2(SO
4)
3の場合、Cr(OH)
3の場合の生成ガスの収率の結果を示した。
図11(A)および
図11(B)より、化学的変換部を300℃の反応温度にする場合、褐炭とCr
3+との反応からCO
2の収率が大幅に増加することがわかった。また、Cr(OH)
3の場合、H
2の生成が確認された。これらの結果から、酸化数3のCr化合物(Cr
(III))によって褐炭が酸化されることがわかった。
【0067】
(褐炭とCr
3+との反応:固体生成物の分析)
化学的変換部を300℃の反応温度として、化学的変換部における、褐炭を酸化しつつ、酸化数3のCr化合物(Cr
(III))が酸化数2のCr化合物に還元される下記反応の実証を、固体生成物の分析により行った。
CH
0.84O
0.34+4.16Cr
3++1.66H
2O→CO
2+4.16Cr
2++4.16H
+
図12(A)は、Cr
2(SO
4)
3の還元をする場合における、固体生成物のXRDパターンである。
図12(A)より、CrH
(I)およびCrC
(0)が生成したことがわかった。
図12(B)は、Cr(OH)
3の還元をする場合における、固体生成物のXRDパターンである。
図12(A)より、CrO
(II)が生成したことがわかった。
図12(A)および
図12(B)より、化学的変換部を300℃の反応温度にする場合、褐炭とCr
3+との反応からCO
2の収率が大幅に増加することがわかった。また、Cr(OH)
3の場合、H
2の生成が確認された。これらの結果から、化学的変換部を300℃の反応温度とする場合、褐炭によってCr
(III)が還元されたことがわかった。
【0068】
<評価例1>
評価例1では、実施例1のエネルギー変換システムにおいてCr
(III)を用いたプロセスの一例を、燃焼プロセスとの比較をして、評価を行った。評価例1では、化学的変換部が廃熱供給手段を備え、廃熱供給手段から廃熱を供給されるプロセスを、実施例1のエネルギー変換システムで行った。
図13(A)は、実施例1のエネルギー変換システムの評価例1における物質収支の模式図である。
図13(B)は、実施例1のエネルギー変換システムの評価例1におけるエクセルギー収支の模式図である。なお、
図13(B)に示したとおり、評価例1で用いた実施例1のエネルギー変換システムは熱返送配管34を備える。
一方、
図13(C)は、燃焼プロセスにおけるエクセルギー収支の一例の模式図である。
評価例1の結果から、燃焼プロセスと比較して、実施例1のエネルギー変換システムは廃熱を利用可能であり、エクセルギーロスが小さいことがわかった。
【0069】
<評価例2>
評価例2では、実施例1のエネルギー変換システムにおいてCr
(III)を用いたプロセスの一例を、ガス化プロセスとの比較をして、評価を行った。評価例2でも、化学的変換部が廃熱供給手段を備え、廃熱供給手段から廃熱を供給されるプロセスを、実施例1のエネルギー変換システムで行った。
図14(A)は、実施例1のエネルギー変換システムの評価例1における物質収支の模式図である。
図14(B)は、実施例1のエネルギー変換システムの評価例1におけるエクセルギー収支の模式図である。
一方、
図14(C)は、ガス化プロセスにおけるエクセルギー収支の一例の模式図である。
評価例2の結果から、ガス化プロセスと比較して、実施例1のエネルギー変換システムは廃熱を利用可能であり、収率が高いことがわかった。さらに、実施例1のエネルギー変換システムは、生成ガスのCO
2から窒素を分離する必要がない点も、ガス化プロセスと比較して有利であることがわかった。
【0070】
[実施例2]
高効率水素製造を行うことができる、実施例2のエネルギー変換システムの実施を検討した。
実施例2のエネルギー変換システムは、
図7に記載の(B-1)電力不足時の発電と、
図9に記載の(B-2)電力過剰時の水素製造を切り替えることができる制御部を備え、その他は実施例1のエネルギー変換システムと同様に製造した。実施例2のエネルギー変換システムの実証実験を以下の手順で行った。
【0071】
<(B-1)電力不足時の発電の実証>
(評価例3)
評価例3では、
図15に記載の実験装置を用いた。
図15は、実施例2のエネルギー変換システムにおける化学的変換部として、評価例3で用いた実験装置の模式図である。
反応条件は以下のとおりとした。
反応温度:200℃または250℃。
反応時間:10~180分間。
圧力:4MPa。
反応液量:0.7mLまたは7mL。
中間媒体:VOSO
4水溶液。
添加剤:H
2SO
4水溶液。
炭素源:褐炭(Loy Yang 炭)またはユーカリ。
気体の分析方法は以下のとおりとした。
ガスクロマトグラフィー(Shimadzu, GC-12A)
カラム:Porapak-Q, Molecular Sieve 5A
検出器:TCD, FID
液体の分析方法は以下のとおりとした。
UV-vis-NIR(Shimadzu, UV-3100PC)
固体残渣の分析方法は以下のとおりとした。
CHN(Yanako, MT-6)
【0072】
図16は、評価例3の特定の反応条件(反応時間250℃、反応時間25分間、初期のVO
2+濃度C
VO
2+
,0=0.50mol/L、初期の炭素濃度C
c,0=1.0mol/L、初期のH
2SO
4濃度C
H2SO4,0=3.0mol/Lの場合)における反応前後の化学的変換部のサンプルの写真と、波長と吸光度の関係のグラフである。
図16より、この特定の反応条件では、化学的変換部において酸化状態の中間媒体である酸化数4のVO
2+イオンが、還元状態の中間媒体である酸化数3のV
3+イオンに還元され、反応が進行することがわかった。すなわち、
図16の結果から、この特定の反応条件では、炭素源である褐炭の酸化反応が進行することが示唆された。
【0073】
図17(A)は、評価例3のいくつかの反応条件における反応時間と、VO
2+イオンの変換割合Conversion,X
VO
2+(単位:なし)の関係のグラフである。
図17(A)より、炭素源としてバイオマス(ユーカリ)を用いる場合は、125℃でも上記のVO
2+イオンからV
3+イオンへの還元反応が進行し、少なくとも125~200℃で反応が進行することがわかった。また、炭素源として褐炭を用いる場合は、250℃で上記のVO
2+イオンからV
3+イオンへの還元反応が進行し、少なくとも125~200℃で反応が進行することがわかった。
また、
図17(B)は、VO
2+イオンの変換割合Conversion,X
VO
2+と電気化学変換E(単位:V)の関係のグラフである。
図17(B)より、VO
2+イオンの変換割合Conversion,X
VO
2+が0.2と低い値でも、後段の電気化学的変換部で0.86Vの十分な起電力を得られることがわかった。つまり、中間媒体の還元が不十分な状態でも、電気化学的変換部で十分な電圧を得られることが分かる。
【0074】
(評価例4:Cuとバイオマス)
評価例4では、評価例3において、中間媒体としてVO2+イオンの代わりにCu2+イオンを用い、反応温度を300℃、反応時間を120分間、初期のCu2+濃度CCu
2+
,0=1.0mol/Lとして、初期の炭素濃度Cc,0=1.0mol/L、0.47mol/Lまたは0.30mol/Lの場合について、評価した。評価例4では、反応後の固体生成物をXRDおよび写真で評価し、反応後の生成ガスをガス分析で評価した。
なお、化学的変換部における、バイオマス(セルロース)を酸化しつつ、酸化数2のCu2+イオンが酸化数0の単体のCuまで還元される反応は、以下のとおりである。
(C6H10O5)n+7H2O →6nCO2+24nH++24ne-
Cu2++2e- →Cu
(C6H10O5)n+7H2O+12nCu2+→6nCO2+24nH++12nCu
【0075】
図18(A)は、評価例4における固体生成物のXRDパターンである。
図18(B)は、評価例4の特定の条件(初期のCu
2+濃度C
Cu
2+
,0=1.0mol/L、初期の炭素濃度C
c,0=1.0mol/Lの場合)における固体生成物(固体残渣)の写真である。
図18(A)および
図18(B)より、化学的変換部において、炭素源のバイオマスによって、酸化状態の中間媒体である酸化数2のCu
2+イオンが、還元状態の中間媒体である酸化数0の単体のCuまで還元され、反応が進行することがわかった。
図19は、評価例4における、生成ガスの収率を示した棒グラフである。
図19より、化学的変換部を300℃の反応温度にする場合、Cu
2+がCuまで還元される一方、バイオマスはCO
2まで酸化されることがわかった。なお、上記反応におけるCu
2+とCO
2の量論比=2である。
【0076】
以上の評価例における化学的変換部における固体燃料(炭素源)種と媒体(中間媒体)種に対応する反応温度を下記表3に示す。下記表3から、炭素源及び中間媒体の種々の組み合わせにおいて350℃以下などの低温である廃熱を利用することが可能であることが分かる。
【0077】
【0078】
(評価例5)
評価例5では、評価例3において、反応温度を250℃、初期のVO
2+濃度C
VO
2+
,0=1.0mol/Lまたは1.8mol/L、初期の炭素濃度C
c,0=1.8mol/L、初期のH
2SO
4濃度C
H2SO4,0=3.0mol/Lとした場合について、反応速度を評価した。
図20は、評価例5の反応速度解析に用いたモデルの模式図である。反応速度r
VO
2+の計算値は、
図20に記載のモデルで、以下の式に基づいて計算した。
【数1】
【0079】
kr=0.335 L3/(mol2 mol-C min)
kV3+=60.9 L/mol
K=0.00129 L2/mol2
ε0=0.15
【0080】
図21は、評価例5における、反応時間とVO
2+イオンの変換割合Conversion,X
VO
2+の関係を反応速度の計算値に基づいて記載したグラフに、実証実験における実験値をプロットしたものである。
図21より、実験値と計算値は良好に一致することがわかった。すなわち、この反応条件では、化学的変換部において酸化状態の中間媒体である酸化数4のVO
2+イオンが、還元状態の中間媒体である酸化数3のV
3+イオンに還元され、炭素源である褐炭の酸化反応が進行することが示唆された。
【0081】
(評価例6)
実施例2のエネルギー変換システムにおいて、褐炭およびVO
2+イオンを用いたプロセスにおける反応器サイズの算出を行った。
図22は、評価例6で用いた化学的変換部における反応器設計の概略図である。用いた反応器は、等温移動層反応器とした。また、液相および固相ともに押し出し流れとした。用いた反応器は、酸化状態の中間媒体を含む溶液の中で固体の炭素源を反応させることができる構造である。Zは下記式に基づいて設計した。
【数2】
式中、空筒基準の質量速度Gs:3.2[kg/(m
2s)];
褐炭中の炭素質量分率wc:0.654[単位なし];
炭素の分子量Mc:0.012[kg/mol];
液の空筒速度uL:2[m/s]。
図23は、実施例2のエネルギー変換システムの評価例6における物質収支(単位はkmol/s)、発電効率およびその際の反応器のサイズを示した模式図である。
図23中、初期の炭素濃度C
c,0=75mol/L、VO
2+イオンの変換割合X
VO
2+=0.2、反応温度250℃とし、100MWの電力を発電効率52.4%で得られるように運転した場合の反応器サイズは、807m
3であった。これは、同規模の発電容量のボイラーサイズと同程度であり、十分に実現可能な大きさであることが分かる。
図23中、電気化学的変換部における電気化学的変換は、V
3+イオンの変換割合X
V
3+=0.75、efficiency(効率)=0.7として計算した。
【0082】
<(B-2)電力過剰時の水素製造の実証>
(評価例7)
評価例7では、褐炭およびCuを用いた電解反応(間接法)により、電力過剰時の水素製造の実証を行った。
図24は、評価例7で用いたエネルギー変換システムの模式図である。評価例7では、電気化学的変換部が追加電力供給手段を備え、追加電力供給手段から追加電力を供給され、電気化学的変換部は被還元材料(水)の還元体(H
2)を外部に出すプロセスを、実施例2のシステムで行った。評価例7における電気化学的変換部の反応式は下記のとおりである。
アノード:Cu →Cu
2++2e
- E0=0.337V
カソード:2H
++2e
-→H
2 E0=0V
Cu+2H
+ →Cu
2++H
2
ΔH
r,0=64.9KJ/mol
ΔG
r,0=65.5KJ/mol
図25は、評価例7で用いたエネルギー変換システムの電解反応の効率とエネルギー変換効率の関係示したグラフである。
エネルギー変換効率
=H
2の燃焼熱[KJ]/(反応した褐炭の燃焼熱+実際に電解反応で加える電力量)[KJ]
電解反応の効率
=熱力学的に最低限必要なエネルギー[KJ]/実際に電解反応で加える電力量[KJ]
図25より、電気化学反応の一般的な効率70%で運転した場合、総合のエネルギー変換効率は90%となることがわかる。
【0083】
(評価例8)
評価例8では、実施例2のエネルギー変換システムにおいて褐炭およびCuを用いた電解反応による水素製造プロセスの一例を、Pt電極を用いた水の電解反応による従来法の水素製造プロセスとの比較をして、評価を行った。
それぞれのプロセスで同じ電流密度(同じ水素発生速度)にするために必要な電圧を測定し、
図26に示した。
図26は、実施例2のエネルギー変換システムおよび従来法で水素製造をする場合における、電流密度と電圧の関係を示したグラフである。
さらに、それぞれのプロセスで同じ電流密度(同じ水素発生速度)における電解反応の効率およびエネルギー変換効率を計算し、
図27(A)および
図27(B)に示した。
図27(A)は、実施例2のエネルギー変換システムおよび従来法で水素製造をする場合における、電流密度と電解反応の効率の関係を示したグラフである。
図27(B)は、実施例2のエネルギー変換システムおよび従来法で水素製造をする場合における、電流密度とエネルギー変換効率の関係を示したグラフである。
図26および
図27(B)より、実施例2のエネルギー変換システムは、エネルギー変換効率が約90%であり、従来法の水素製造プロセスと比較して、エネルギー変換効率が高いことがわかった。また、実施例2のエネルギー変換システムは、従来法の水素製造プロセスと比較して、必要な電圧も低いことがわかった。
なお、
図27(A)より、実施例2のエネルギー変換システムは、従来法の水素製造プロセスと比較して、電解反応の効率は同程度であった。
【0084】
(評価例9)
評価例9では、評価例5と同様の方法により化学的変換部における中間媒体であるVO
2+イオン濃度及びV
3+イオン濃度を調整した電解液を調製した上で、それぞれの電解液をアノードと接触させ、カソードに空気を供給することで起電力及び総合発電効率を確認した。電気化学的変換部におけるセル構成は後掲する表4の通りとした。
図28は酸化状態の中間媒体である酸化数4のVO
2+イオン濃度(C
VO2+)、還元状態の含金属材料中間媒体である酸化数3のV
3+イオン濃度(C
V3+)の合計量に対するC
V3+の割合(C
V3+/(C
VO2++C
V3+))に対する電池電圧(E
Cell[V])及び総合発電効率の関係を示すグラフである。
図28より、C
V3+/(C
VO2++C
V3+)が小さい、すなわち、還元率が小さい場合であっても、十分な電池電圧及び発電効率が得られることがわかる。
【0085】
(評価例10) 評価例10では、評価例9と同様に化学的変換部における中間媒体であるVO
2+イオン濃度及びV
3+イオン濃度を調整した電解液を調製した上で、それぞれの電解液をアノードと接触させ、カソードに空気を供給することで発電し、発電時の電流値及び電圧値の変化を測定した。電気化学的変換部におけるセル構成は後掲する表4の通りとした。
図29は評価例10における発電時の電流(I)と電圧(V)の関係をしめすグラフ(I-Vカーブ)である。
図29から、VO
2+イオンが完全にV
3+イオンに還元されない状態であっても、発電特性に問題が無いことがわかる。
【0086】
(評価例11)
評価例11では、実施例2のシステムにおいて褐炭および中間媒体としてVを用いた電解反応による水素製造プロセスの一例を、Pt電極を用いた水の電解反応による従来法の水素製造プロセスとの比較をして、評価を行った。セル構成、媒体及び対極(カソード)供給物は後掲する表4の通りとした。
それぞれのプロセスで同じ電流密度(同じ水素発生速度)にするために必要な電圧を測定し、
図30に示した。
図30は、評価例11において実施例2のシステムおよび従来法で水素製造を行った場合における、電流密度と電圧の関係を示したグラフである。
図30より、実施例2のシステムは、中間媒体としてVを用いた場合であっても、従来法の水素製造プロセスと比較して、低電圧でも電流密度が大きく、高効率での水素製造に適することがわかる。
【0087】
図26~30(評価例8~11)における生成エネルギー形態、セル構成、媒体、カソード供給物、印加電圧及び発電又は水素製造時の温度を表4に記載した。
【0088】
【符号の説明】
【0089】
1 炭素源
2 酸化状態の中間媒体
3 還元状態の中間媒体
4 被還元材料
5 還元体
6 電力
7 余剰電力
11 化学的変換部
21 電気化学的変換部
22 一方電極
23 他方電極
24 通電部
31 回収部
32 熱交換部
33 廃熱供給手段
34 熱返送配管
41 制御部
42 追加電力供給手段