(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-02-13
(45)【発行日】2025-02-21
(54)【発明の名称】デフレクター付ゴム堰の補修方法および補修装置
(51)【国際特許分類】
E02B 7/20 20060101AFI20250214BHJP
【FI】
E02B7/20 103Z
(21)【出願番号】P 2024140114
(22)【出願日】2024-08-21
【審査請求日】2024-09-05
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 日東河川工業株式会社が、香川県坂出市林田町を流れる綾川に設置されているデフレクター付ゴム堰に、佐藤和也、松下幸樹、、桑島聡明が発明した「デフレクター付ゴム堰の補修方法」を実施し「デフレクター付ゴム堰の補修装置」を設置した。
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】591180624
【氏名又は名称】日東河川工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100134979
【氏名又は名称】中井 博
(74)【代理人】
【識別番号】100186451
【氏名又は名称】梅森 嘉匡
(74)【代理人】
【識別番号】100167427
【氏名又は名称】岡本 茂樹
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 和也
(72)【発明者】
【氏名】松下 幸樹
(72)【発明者】
【氏名】桑島 聡明
【審査官】石川 信也
(56)【参考文献】
【文献】実開昭59-167817(JP,U)
【文献】特開2006-002394(JP,A)
【文献】特開平05-331823(JP,A)
【文献】特開2013-140403(JP,A)
【文献】特開2008-050767(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E02B 7/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
両端が封止された筒状の袋本体と、当該袋本体の長手方向に沿って当該袋本体に突設されたデフレクターとを有するゴム袋体が、当該デフレクターの付根付近において損傷した場合におけるデフレクター付ゴム堰の補修方法であって、
前記ゴム袋体を貫通する複数の貫通穴と前記デフレクターの先端縁とにより前記損傷した箇所が取り囲まれるように、当該貫通穴を前記ゴム袋体に所定の間隔で穿設する第1工程と、
所定の間隔で複数の締付孔が形成された上下一対の押え板を、当該締付孔が前記貫通穴に連通するように前記ゴム袋体の上面側及び下面側のそれぞれから配置した後、前記締付孔及び前記貫通穴に締付金具を挿入して仮締めする第2工程と、
前記ゴム袋体と上下一対の前記押え板との隙間にコーキングを充填する第3工程と、
前記締付孔及び前記貫通穴に挿入された締付金具を本締めすることにより、上下一対の前記押え板の間に前記ゴム袋体の一部及び前記コーキングを挟み込んだ状態で固定する第4工程と、を実施することを特徴とするデフレクター付ゴム堰の補修方法。
【請求項2】
前記第1工程が、
前記デフレクターの先端縁から一定間隔離れた位置に、前記袋本体の長手方向に沿って、所定の間隔で複数の貫通穴を穿設する長手方向穴あけステップと、
前記デフレクターの先端縁から一定間隔離れた位置から前記デフレクターの先端縁までの間に、前記袋本体の長手方向に対して交差する方向に沿って、所定の間隔で複数の貫通穴を穿設する交差方向穴あけステップと、
を含み、
上下一対の前記押え板が複数組からなり、
前記第2工程が、
上下一対の前記押え板のうちの一組ないし複数組を、前記長手方向穴あけステップにより穿設された貫通穴に対して仮止めするステップと、
上下一対の前記押え板のうちの一組ないし複数組を、前記交差方向穴あけステップにより穿設された貫通穴に対して仮止めするステップと、
を含むことを特徴とする請求項1記載のデフレクター付ゴム堰の補修方法。
【請求項3】
両端が封止された筒状の袋本体と、当該袋本体の長手方向に沿って当該袋本体に突設されたデフレクターとを有するゴム袋体を
備えたデフレクター付ゴム堰において、当該ゴム袋体が、当該デフレクターの付根付近において損傷した場合におけるデフレクター付ゴム堰の補修装置であって、
複数の締付孔が形成された、前記ゴム袋体を上下から挟み込むようにして取り付けられる、帯状に延びる上下一対の押え板と、
前記ゴム袋体に穿設された貫通穴及び前記締付孔に装着され、前記ゴム袋体の一部を挟み込んだ状態で、上下一対の前記押え板を締結する複数の締付金具と、を有
し、
上下一対の前記押え板は、上下一対の前記押え板と前記デフレクターの先端縁とにより、前記損傷した箇所が取り囲まれるように前記ゴム袋体に対して取り付けられる
ことを特徴とするデフレクター付ゴム堰の補修装置。
【請求項4】
前記貫通穴は、前記貫通穴と前記デフレクターの先端縁とにより前記損傷した箇所を取り囲むように、所定の間隔で前記ゴム袋体に複数穿設される
ことを特徴とする請求項3記載のデフレクター付ゴム堰の補修装置。
【請求項5】
上下一対の前記押え板が複数組からなり
前記袋本体の長手方向に沿って取り付けられる上下一対の第1の押え板の組と、
一端が上下一対の前記第1の押え板の一端と連続するように取り付けられ、他端が前記デフレクターの先端縁に至るように取り付けられる上下一対の第2の押え板の組と、
一端が上下一対の前記第1の押え板の他端と連続するように取り付けられ、他端が前記デフレクターの先端縁に至るように取り付けられる上下一対の第3の押え板の組と、
を有する
ことを特徴とする請求項3記載のデフレクター付ゴム堰の補修装置。
【請求項6】
上下一対の前記押え板のうち、一方の前記押え板の前記ゴム袋体に接する側の面に、一方の側縁に沿って延びる突出部Aおよび他方の側縁に沿って延びる突出部Bが設けられており、
前記締
付孔
のうち一方の前記押え板に形成される前記締付孔が、
当該突出部Aと当該突出部Bとの間に開口するように形成されており、
上下一対の前記押え板のうち、他方の前記押え板の前記ゴム袋体に接する側の面に、一方の側縁に沿って延びる突出部Cおよび他方の側縁に沿って延びる突出部Dが設けられており、
前記締付孔
のうち他方の前記押え板に形成される前記締付孔が、
当該突出部Cと当該突出部Dとの間に開口するように形成されている
ことを特徴とする
請求項3から5のいずれか1項に記載のデフレクター付ゴム堰の補修装置。
【請求項7】
前記ゴム袋体が上下一対の前記押え板の間に波型に湾曲して挟み込まれるように、前記突出部Aと前記突出部Bとの間隔を、前記突出部Cと前記突出部Dとの間隔よりも幅広に設定することを特徴とする請求項
6記載のデフレクター付ゴム堰の補修装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、デフレクター付ゴム堰の補修方法および補修装置に関し、特に、デフレクターの付根付近に生じた破断や亀裂を応急的に復旧するための補修方法、及び、当該補修方法に用いて好適なゴム堰の補修装置に関する。
【背景技術】
【0002】
灌漑や排水量の調整のため、河川や用水路に、ゴム引布製起伏堰(以下「ゴム堰」という。)を設置することがある。ゴム堰は、円筒状に膨らむゴム引布製の袋体(以下「ゴム袋体」という。)をその長手方向(堰軸方向)が河川等を横断するように配置し、その底部を川底や水路底に敷設されたコンクリート基礎(床板)に固定し、紡錘状の両端部を川岸等に設けた堰柱壁に固定して設置する。ゴム袋体の内部は中空であり、その内部に流体(空気や水)を供給するとゴム袋体が膨らみ起立状態となって水流を堰止め、排出するとゴム袋体がしぼみ倒伏状態となる。
【0003】
ゴム堰には、ゴム袋体の振動防止の観点から、デフレクター又はフィンと称される突起部(以下「デフレクター」の呼び名で統一する。)を有するものがある。デフレクターは、ゴム堰を河川等に設置した状態において、ゴム袋体の下流面側の中間位置辺りに配置されるように、ゴム袋体の長手方向に沿って設けられる。ゴム袋体の頂部を越えた流水はデフレクターにより袋本体表面から剥離され、袋本体表面と越流水との間に空気室(エアチャンバー)をつくることでゴム袋体の振動を抑制する。
【0004】
ゴム堰は、鋼製のゲートと比較して設置工事や維持管理が容易であり、現在、多くの場所で設置、運用されている。ゴム堰は、砂礫や流木といった流下物の衝突や、高温、日射、内圧等の影響を受ける。そのため、破断や亀裂損傷が生じる場合があり、また、経年劣化は避けられないため、かかる場合の補修方法を検討しておく必要がある。
従来、ゴム袋体内部からの漏気や漏水、ゴム袋体内部への浸水といった被害に対応するための補修方法として、損傷部に対してシート状のパッチ材を貼り付けて封止する方法(以下「パッチ材修理法」という。)が知られている(例えば、特許文献1、2参照)。その他、貫通傷(亀裂)を補修する方法として、特許文献3に示す技術や、ゴムプラグ栓修理法、貝殻栓修理法がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2006-2394号公報
【文献】特開平5-331823号公報
【文献】特公昭62-6013号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
前述のパッチ材修理法は、接着剤や熱加硫によりパッチ材の周縁を袋本体に隙間無く密着させる必要があるため、デフレクターの付根付近(袋本体とデフレクターとの連結部付近)のような接合作業が困難で、振動の影響を受け易い箇所(部位)への補修方法として適切なものではない。また、10-30mm程度までの貫通傷であればゴムプラグ栓修理法、10-100mm程度の貫通傷であれば貝殻栓修理法の適用が検討されるが、これらを超える大きさの損傷が、デフレクターの付根付近に生じた場合の補修方法は確立されていない。
【0007】
点検作業によりゴム袋体に劣化や損傷が発見された場合、その程度や規模に応じた補修方法(部分補修)が検討されるが、損傷が大きく技術的に修理が困難な場合や、補修と比較しコスト的に優位な場合には、更新(新品への取替え)を行う。
もっとも、ゴム袋体の調達など更新工事の準備に時間を要する場合には、ゴム堰の機能不全による悪影響を回避すべく、更新工事に着手可能な状態になるまでの仮復旧手段として、応急補修を施すことが検討される。例えば、灌漑期のような取水の必要性の高い期間中においてはゴム堰が機能しない場合の影響が大きいため、応急的な処置を施して仮復旧させる必要性が高い。
【0008】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、ゴム堰のデフレクターの付根付近に破断や亀裂等の損傷が生じた場合の応急的な補修方法、及び、補修装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明のデフレクター付ゴム堰の補修方法は、両端が封止された筒状の袋本体と、当該袋本体の長手方向に沿って当該袋本体に突設されたデフレクターとを有するゴム袋体が、当該デフレクターの付根付近において損傷した場合におけるデフレクター付ゴム堰の補修方法であって、下記の4つの工程を順次実行することを特徴とする。
すなわち、本補修方法は、
前記ゴム袋体を貫通する複数の貫通穴と前記デフレクターの先端縁とにより前記損傷した箇所が取り囲まれるように、当該貫通穴を前記ゴム袋体に所定の間隔で穿設する第1工程と、
所定の間隔で複数の締付孔が形成された上下一対の押え板を、当該締付孔が前記貫通穴に連通するように前記ゴム袋体の上面側及び下面側のそれぞれから配置した後、前記締付孔及び前記貫通穴に締付金具を挿入して仮締めする第2工程と、
前記ゴム袋体と上下一対の前記押え板との隙間にコーキングを充填する第3工程と、
前記締付孔及び前記貫通穴に挿入された締付金具を本締めすることにより、上下一対の前記押え板の間に前記ゴム袋体の一部及び前記コーキングを挟み込んだ状態で固定する第4工程と、
を実施するものである。
【0010】
本発明のデフレクター付ゴム堰の補修装置は、両端が封止された筒状の袋本体と、当該袋本体の長手方向に沿って当該袋本体に突設されたデフレクターとを有するゴム袋体を備えたデフレクター付ゴム堰において、当該ゴム袋体が、当該デフレクターの付根付近において損傷した場合におけるデフレクター付ゴム堰の補修装置であって、
複数の締付孔が形成された、前記ゴム袋体を上下から挟み込むようにして取り付けられる、帯状に延びる上下一対の押え板と、
前記ゴム袋体に穿設された貫通穴及び前記締付孔に装着され、前記ゴム袋体の一部を挟み込んだ状態で、上下一対の前記押え板を締結する複数の締付金具と、を有し、
上下一対の前記押え板は、上下一対の前記押え板と前記デフレクターの先端縁とにより、前記損傷した箇所が取り囲まれるように前記ゴム袋体に対して取り付けられることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、ゴム堰のデフレクターの付根付近に破断や亀裂等の損傷が生じた場合の応急的な補修方法、及び、補修装置を提供することができる。
本発明によれば、ゴム堰のデフレクターの付根付近のような従来技術では応急補修が困難な箇所でも適用することができ、当該損傷した箇所(以下「損傷部」ということがある。)からゴム袋体内部への浸水や、ゴム袋体内部からの漏気や漏水の発生を防ぐことができる。また、損傷部の周囲を取り囲むようにして取り付けられた上下一対の押え板により、亀裂の進展等の被害を抑制することができる。
本発明は、基本的には、将来、更新を行うことを予定した局面における、例えば1年程度の中短期的な応急補修方法及び応急補修装置としての位置付けであり、恒久的な使用を予定していない。本発明は、本来的なゴム堰の完全な機能回復ではなく、応急的に一定レベルまで回復することを目的としており、本発明を適用することによりゴム袋体は多少いびつな形状となり本来の堰高を確保できない部分が生じるが、灌漑期のような取水の必要性の高い期間中の仮復旧手段として特に有用な技術である。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明に係る補修装置の内部構成を示す図であり、ゴム袋体に対する取付け状態説明図でもある。
【
図2】本発明に係る補修装置の取付け位置の説明図であり、説明の便宜上、締付金具は図示していない。
【
図3】3組からなる上下一対の押え板のそれぞれの構成を示す斜視図である。
【
図4】
図3に示す上下一対の押え板のうち、一方(上面側)の押え板を示す図であり、(A)は上面側から示した平面図、(B)はその反対面であるゴム袋体に接する側の面(下面側)を示した平面図、(C)は同(A)に示すC-C線断面を拡大して示す図である。
【
図5】
図3に示す上下一対の押え板のうち、一方(下面側)の押え板を示す図であり、(A)はゴム袋体に接する側の面(上面側)を示した平面図、(B)はその反対面である下面側から示した平面図、(C)は同(A)に示すC-C線断面を拡大して示す図である。
【
図6】河川に設置されたゴム堰に対して、本発明に係る補修装置を取り付けた状態のイメージ図であり、特に、川岸に設けた堰柱壁に固定された紡錘状のゴム袋体の端部近傍を損傷部として本発明に係る補修装置を取り付けた状態を示す。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明は、両端が封止された筒状の袋本体2と、袋本体2の長手方向に沿って袋本体2に突設されたデフレクター3とを有するゴム袋体1が、デフレクター3の付根付近において損傷した場合における、当該損傷した箇所を補修対象とする、既設のデフレクター付ゴム堰の補修方法及び補修装置である。なお、デフレクター3の付根付近において損傷した場合とは、袋本体2とデフレクター3との連結部付近が損傷した場合に限られず、デフレクター3自体が損傷した場合を含む。
【0014】
この既設のデフレクター付ゴム堰の構造は従来周知のものであり、ゴム引布の縁部を重ね合わせた状態で接合することによりゴム袋体1が筒状に形成されている。ゴム袋体1は、その長手方向にある両端部は紡錘状に封止されている。この筒状に形成されたゴム袋体1には、流体給排管(図示しない)が接続される給排口(図示しない)が設けてある。
この給排口に、ブロワー、コンプレッサ又はポンプ等を接続して作動させることにより、給排口を介してゴム袋体1の内部に流体を供給するとゴム袋体1を円柱状に膨らませることができる。逆に、給排口を通して内部の流体を吸引ないし自然排出によりゴム袋体1の内部から排出するとゴム袋体1を平板状にしぼませることができる。
【0015】
ゴム袋体1は、その長手方向が流水方向を横断し、かつ、デフレクター3が下流側中間部に位置するように配置してあり、その底部はコンクリート基礎(床板)に固定してある。デフレクター3は、ゴム堰を河川等に設置した状態において、ゴム袋体1の下流面側の中間位置辺りに配置されるように、ゴム袋体1の長手方向に沿って設けられている。かかる設置状態の下で、ゴム袋体1を膨らませると起立状態となり、円筒状に膨らんだゴム袋体1で水流を堰止めることができる。このため、ゴム袋体1の頂部を越えた越流水はデフレクター3により下流面側中間位置辺りで袋本体2の表面から剥離し、これによりゴム袋体1の振動を抑制する。
【0016】
次に、本発明に係るデフレクター付ゴム堰の補修方法の説明に必要な範囲で、同補修方法に用いられる補修装置4の構成の一例を簡単に説明する。次いで、同補修装置4を用いた補修方法およびその効果を説明する。その後、補修装置4の構成の詳細を説明する。
なお、本発明に係る補修方法は、以下に説明する補修装置4を用いて実施する場合に限られない。押え板に形成する締付孔の数や配置は任意であり(例えば一直線上に配置しなくても良い。)、押え板を構成する押え板の枚数や形状も任意に変更可能である。
【0017】
補修装置4は、ゴム袋体1の一部を上下から挟み込むようにして取り付けられ、複数の締付孔53,54,63,64,73,74が形成された帯状(レール状)に延びる上下一対の押え板5,6,7と、ゴム袋体1に穿設された貫通穴11及び締付孔53,54,63,64,73,74に装着され、ゴム袋体1の一部を挟み込んだ状態で、上下一対の押え板5,6,7を締結する複数の締付金具8と、を有する。なお、後述するように、補修装置4をゴム袋体1に仮止めした後、ゴム袋体1と上下一対の押え板5,6,7との間にコーキング9が充填される。
【0018】
補修装置4を構成する上下一対の押え板は、上下各1枚の鋼板よりなる場合に限られない。すなわち、本発明を構成する上下一対の押え板は1組の場合もあれば、本実施例に示すように3組の場合もあり、損傷した部位の大きさや損傷状況等に応じて、その組数は適宜変更可能である。
本実施例に係る上下一対の押え板は、計3組の上下一対の押え板5,6,7からなり、後述する第2工程においては、これらの上下一対の押え板5,6,7のそれぞれについて第2工程を実行する。同様に、第3工程においては、上下一対の押え板5,6,7のそれぞれとゴム袋体1との隙間にコーキング9を充填し、第4工程においては、これらの上下一対の押え板5,6,7のそれぞれについて第4工程を実行する。
【0019】
上下一対の押え板5,6,7のそれぞれは、
図4に示す、ゴム袋体1の上面側から配置される押え板51,61,71(以下、「上面側押え板」ということがある。)、及び、
図5に示す、ゴム袋体1の下面側から配置される押え板52,62,72(以下、「下面側押え板」ということがある。)により構成される。それぞれの押え板51,52,61,62,71,72は鋼製である。
図3および
図5に示す下面側押え板52,62,72や、
図4に示す上面側押え板51,61,71は、お互いの端部が結合しているかのように描いているが、それぞれの押え板は、
図3に示す上面側押え板51,61,71のごとく、それぞれが分割してあり別体である。
【0020】
それぞれの押え板51,52,61,62,71,72には、所定の間隔で締付孔が形成される。
上面側押え板51,61,71と下面側押え板52,62,72とは、締付金具8を用いて、ゴム袋体1の一部を上下から挟み込むようにして相互に締結される。したがって、それぞれ組みとなる上面側押え板51,61,71の締付孔53,63,73と下面側押え板52,62,72の締付孔54,64,74とは、その形成位置や形成間隔がゴム袋体1に対して対称的に設けられる。別言すれば、上面側押え板51,61,71と下面側押え板52,62,72とは、両者を重ね合わせたときに、それぞれ対となる上面側押え板51,61,71の締付孔53,63,73と、下面側押え板52,62,72の締付孔54,64,74とが連通するように設けられる。
【0021】
前述のとおり、上下一対の押え板5,6,7は複数組からなり、具体的には、袋本体2の長手方向に沿って取り付けられる上下一対の第1の押え板5の組と、一端が上下一対の第1の押え板5の一端と連続するように取り付けられ、他端がデフレクター3の先端縁31に至るように取り付けられる上下一対の第2の押え板6の組と、一端が上下一対の第1の押え板5の他端と連続するように取り付けられ、他端がデフレクター3の先端縁31に至るように取り付けられる上下一対の第3の押え板7の組と、を有する。
図3および
図5に示す下面側押え板52,62,72や、
図4に示す上面側押え板51,61,71は、連続するように取り付けられる状態を示したものである。
【0022】
上下一対の第1の押え板5は、直線状に延びる帯状の部材である、上面側の押え板51と下面側の押え板52とにより構成される。これらの押え板51,52の共通部分の各種寸法は同一である。第1の押え板5は、後述する、長手方向仮止めステップにより、ゴム袋体1に仮止めされる。
上下一対の第2の押え板6は、くの字状に屈曲する延びる帯状の部材である、上面側の押え板61と下面側の押え板62とにより構成される。これらの押え板61,62の共通部分の各種寸法は同一である。それぞれの押え板61,62は、袋本体2の長手方向に取り付けられる部分61a,62aと、当該長手方向に対して交差する方向に取り付けられる部分61b,62bと、を備える。従って、第2の押え板6をゴム袋体1に取り付ける際には、後述する長手方向仮止めステップおよび交差方向仮止めステップをそれぞれ実行する。
上下一対の第3の押え板7は、上下一対の第2の押え板6と同様、くの字状に屈曲する延びる帯状の部材である、上面側の押え板71と下面側の押え板72とにより構成される。これらの押え板71,72の共通部分の各種寸法は同一である。それぞれの押え板71,72は、袋本体2の長手方向に取り付けられる部分71a,72aと、当該長手方向に対して交差する方向に取り付けられる部分71b,72bと、を備える。従って、第2の押え板7をゴム袋体1に取り付ける際には、後述する長手方向仮止めステップおよび交差方向仮止めステップをそれぞれ実行する。
【0023】
締付金具8は、ボルト81とナット82の組合せよりなるが、これに限られない。もっとも、本発明に係る補修方法及び補修装置は、更新工事に着手可能な状態になるまでの仮復旧手段として位置付けられるものである。従って、後日、取り外すことが可能な締付金具を用いることが望ましい。
【0024】
<補修方法>
この補修装置4を用いた補修方法の一例およびその効果を、デフレクター3の付根付近が破断損傷した場合を例に説明する。
【0025】
<前準備>
先ず、ゴム堰の損傷部の周囲を土嚢で囲う等して水位を下げ、ゴム袋体1において損傷した箇所D(損傷部D)及びその周辺を水面上に位置させる。後述する第1~第4工程は、水面上で行う。
また、袋本体2の内部の流体を排出し、損傷部周辺の袋本体2が平板状にしぼんだ状態、即ち、デフレクター3を基準に、その上側の袋本体(ゴム引布)の部分21と、その下側の袋本体(ゴム引布)の部分22とが面接触可能な状態にする。
なお、前記土嚢作業および流体排出作業の実行順序は任意である。
【0026】
<第1工程>
本工程は、ゴム袋体1を貫通する複数の貫通穴11とデフレクター3の先端縁31とにより損傷した箇所Dが取り囲まれるように、ドリル工具を用いて、貫通穴11をゴム袋体1に所定の間隔で穿設する穴あけ工程である。デフレクター3の先端縁31は、袋本体2の長手方向と略平行に延びて設けられる。この先端縁31と複数の貫通穴11とにより、損傷した箇所Dが取り囲まれるように、それぞれの貫通穴11を穿設する。
【0027】
より詳細には、本工程は、長手方向穴あけステップと、交差方向穴あけステップとを含み、これらのステップを実行することにより行う。損傷した箇所Dを取り囲むため、交差方向穴あけステップは2回実行する。なお、これらのステップの実行順序は任意であるが、好ましくは、先ず、長手方向穴あけステップを実行し、次いで、長手方向穴あけステップにより穿設された貫通孔のうち、一方の端部(例えば左岸側)にある貫通孔の近傍から1回目の交差方向穴あけステップを実行し、その後、長手方向穴あけステップにより穿設された貫通孔のうち、他方の端部(例えば右岸側)にある貫通孔の近傍から2回目の交差方向穴あけステップを実行する。
【0028】
長手方向穴あけステップは、デフレクター3の先端縁31から一定間隔離れた位置に、袋本体2の長手方向に沿って、所定の間隔(前記締付孔と同一の間隔)で複数の貫通穴11を穿設する工程である。この工程を実行することにより、デフレクター3の先端縁31と略平行な方向に、所定の間隔で複数の貫通穴11を一直線上に穿設する。
図2に示すように、損傷部Dが袋本体2の長手方向に沿って延びる場合には、損傷部Dの長手方向寸法よりも長尺の押え板51,52を配置可能な程度に、所定の間隔で貫通穴11を穿設する。
【0029】
交差方向穴あけステップは、デフレクター3の先端縁31から一定間隔離れた位置(前記長手方向穴あけステップにより貫通穴11が穿設された位置を結ぶ線の延長線上にある位置)からデフレクター3の先端縁31までの間に、袋本体2の長手方向に対して交差する方向に沿って、所定の間隔で複数の貫通穴11を穿設する工程である。袋本体2の長手方向に対して交差する方向とは、袋本体2の長手方向に対して直交する方向でも良いし、図示するように斜め方向(例えば同長手方向に対して約45度の角度をなす方向)でも良い。
貫通穴11は、袋本体2のみならず、
図2に示すように、デフレクター3を形成する箇所に設けても良い。
【0030】
貫通穴11を穿設する所定の間隔は、押え板5,6,7に設けられる締付孔53,54,63,64,73,74の間隔と同等の間隔である。実際には、工場内で製作済みの押え板5,6,7に形成された締付孔53,54,63,64,73,74の間隔(例えば、75mm~100mmの間で任意に設定される間隔)に合わせて、補修現場において、ゴム袋体1にこれと同等の間隔で貫通穴11を穿設する。このとき、袋本体2の上側の部分21と下側の部分22とを面接触させた状態で、袋本体2を貫通して上下面に開口する貫通穴11を穿設する。
本工程を実行し、ゴム袋体1に、上面視で、複数の貫通穴11を、コの字を描くように設けることで、
図2に示すように、損傷した箇所Dが、この複数の貫通穴11と、デフレクター3の先端縁31とにより取り囲まれた状態とする。
【0031】
<第2工程>
本工程は、所定の間隔で複数の締付孔53,54,63,64,73,74が形成された押え板からなる上下一対の押え板5,6,7のそれぞれを、当該締付孔53,54,63,64,73,74が貫通穴11に連通するようにゴム袋体1の上面側及び下面側から配置した後、当該締付孔及び貫通穴11に締付金具8を挿入して仮締めする押え板仮止め工程である。
本工程は、次の第3工程に支障が無い程度に、締付孔53,54,63,64,73,74及び貫通穴11の一部に締付金具8を挿入して仮締めすれば足りる。締付金具8は、図示する場合には、上面側からボルト81を挿入しているが、下面側(逆方向)からボルトを挿入しても良い。なお、次の第3工程に支障が無いのであれば、締付孔及び貫通穴11の全部に締付金具8を挿入して仮締めしてもよい。すなわち、本工程では、必ずしも当該締付孔及び貫通孔11の全部に締付金具8を挿入して仮締めしなくても良く、次の第3工程に支障が無い程度に上下一対の押え板5,6,7を仮止めすることができれば、その一部のみを仮締めするのでも良い。
【0032】
本工程は、上下一対の押え板のうちの一組ないし複数組を、長手方向穴あけステップにより穿設された貫通穴に対して仮止めするステップ(以下「長手方向仮止めステップ」という。)と、上下一対の押え板のうちの一組ないし複数組を、前記交差方向穴あけステップにより穿設された貫通穴に対して仮止めするステップ(以下「交差方向仮止めステップ」という。)と、を含み、これらのステップを実行することにより行う。長手方向仮止めステップと交差方向仮止めステップの実行順序は任意である。
本実施例のように上下一組の押え板が複数組からなる場合には、一組ずつ本工程を実行するが、いずれの組から実行するかは任意に選択できる。もっとも、本実施例のように3組の上下一対の押え板5,6,7からなる場合には、それぞれが連続するように取り付けるので、上下一対の第1の押え板5から取り付ける方が施工上は取り付けやすい。
【0033】
初めに、第1の押え板5から仮止めする場合には、締付孔53が形成された押え板51を、締付孔53が長手方向穴あけステップにより穿設された貫通穴11に連通するようにゴム袋体1の上面側から配置するとともに、締付孔54が形成された押え板52を、締付孔54が長手方向穴あけステップにより穿設された貫通穴11に連通するようにゴム袋体1の下面側から配置した後、締付孔53,54及び当該貫通穴11にボルト81(締付金具8)を挿入して仮止めする。
次に、第2の押え板6を仮止めするため、締付孔63が形成された押え板61を、締付孔63が長手方向穴あけステップ及び交差方向穴あけステップにより穿設された貫通穴11に連通するようにゴム袋体1の上面側から配置するとともに、締付孔64が形成された押え板62を、締付孔64が長手方向穴あけステップ及び交差方向穴あけステップにより穿設された貫通穴11に連通するようにゴム袋体1の下面側から配置した後、締付孔63,64及び当該貫通穴11にボルト81(締付金具8)を挿入して仮止めする。これらのステップを実行することにより、押え板61,62の部分61a,62aが袋本体2の長手方向に沿って配置され、押え板61,62の部分61b,62bが当該長手方向に対して交差する方向に配置される。
最後に、第3の押え板7を仮止めするが、かかる手順は、前述した第2の押え板6を仮止めする手順と同様であるので、説明を省略する。
【0034】
第1の押え板51,52と第2の押え板61,62とは、隙間ができないよう、それぞれの端部が連続するように取り付ける。同様に、第1の押え板51,52と第3の押え板71,72とは、隙間ができないよう、それぞれの端部が連続するように取り付ける。
本実施例においては、上下一対の押え板は、3組の押え板5,6,7からなるが、これに限られず、損傷部Dの位置や大きさ、押え板の重量等に応じて、適宜変更可能である。例えば、第1の押え板5を構成する押え板51,52は長尺の部材であるが、この袋本体2の長手方向に取り付ける押え板51,52を、更に分割して複数枚の押え板で構成する、即ち複数組に分割して構成するようにしても良い。この場合には、前記長手方向仮止めステップは、複数組の前記押え板を、前記長手方向穴あけステップにより穿設された貫通穴に対して仮止めするステップとなる。
同様に、袋本体2の交差方向に取り付ける押え板61,62,71,72の部分61b,62b,71b,72bを、更に分割して複数枚の押え板で構成する、即ち複数組に分割して構成するようにしても良い。この場合には、前記交差方向仮止めステップは、複数組の前記押え板を、前記交差方向穴あけステップにより穿設された貫通穴に対して仮止めするステップとなる。
【0035】
上下一対の押え板を構成する上面側及び下面側の押え板のそれぞれを1枚の鋼材により一体として形成するのではなく、本実施例のように、複数の押え板に分割して、複数組の押え板として構成し、各組ごとに別々に取り付ける(前記第2工程を実行する)ことにより、ゴム袋体1に対する取り付け(仮止め)が容易となる。また、取り付け後の第1ないし第3の押え板5,6,7はそれぞれ別体であることから、水流や流下物の衝突がゴム袋体1に加わった場合でも、各押え板5,6,7の間(分割部)で湾曲するようにゴム袋体1が変形するので、各押え板の変形が抑制される。
【0036】
上下一対の押え板を仮止めする際には、既設のゴム袋体(ゴム引布)に、コーキングとしてペンギンシール(登録商標)を十分塗布のうえ取り付けるようにしても良い。
【0037】
<第3工程>
本工程は、コーキング材が封入されたコーキングガンを用いて、ゴム袋体1と一対の押え板5,6,7との隙間にコーキング9を充填するコーキング工程である。この隙間にコーキング9を充填することにより、気密性及び水密性を確保し、ゴム袋体1内部への浸水や、ゴム袋体1内部からの漏気・漏水を防ぐことができる。コーキング材は、シリコーン系樹脂、アクリル系樹脂及びウレタン系樹脂等の合成樹脂系材料を主成分に充填剤及び難燃剤等を配合してなるものが挙げられる。
【0038】
なお、コーキング9の充填は、ゴム袋体1の表面と上下一対の押え板5,6,7内面との間にコーキング9を注入できる隙間があればその隙間から充填してもよいし、仮締めしている締付金具8と締付孔53,54,63,64,73,74や貫通穴11との間の隙間から充填してもよい。また、締付孔及び貫通穴11の一部に締付金具8を挿入して仮締めしている場合、つまり、一部の締付孔及び貫通穴11に締付金具8が挿入されていない場合には、未挿入の締付孔及び貫通穴11を通してコーキング9を注入することもできる。
【0039】
<第4工程>
本工程は、締付孔53,54,63,64,73,74及び貫通穴11に挿入された締付金具8を本締めすることにより、上下一対の押え板5,6,7の間にゴム袋体1の一部及びコーキング9を挟み込んだ状態で固定する本締め工程である。なお、第2工程において、締付孔及び貫通穴11の一部にのみ締付金具8を挿入して仮締めしていた場合には、残り全ての締付孔及び貫通穴11に締付金具8を挿入して締結する。
【0040】
本工程を実行すると、損傷した部位Dの周囲が上下一対の押え板5,6,7でコ字状に取り囲まれ、上下一対の押え板5,6,7の間は気密性及び水密性が確保されているので、損傷部Dを取り囲むようにコ字状に気密性・水密性が確保された部分が形成され、損傷部Dからゴム袋体1内部への浸水や、ゴム袋体1内部からの漏気や漏水の発生を防ぐことができる。また、損傷部Dの周囲を押え板5,6,7で固めることで亀裂の進展等の被害を抑制することができる
【0041】
図6は、河川に設置されたデフレクター付ゴム堰が、堰柱壁の近傍にあるデフレクターの付根付近において貫通損傷した場合における、本補修方法を適用した後のイメージ図、即ち、本発明に係る補修装置4を取り付けた状態のイメージ図である。
前記前準備を行ったうえで、前記第1工程を実行してゴム袋体1に損傷した部位Dを取り囲むように貫通穴をあけ、次いで前記第2工程及び前記第3工程を実行し、押え板5,6,7とゴム袋体1との間にコーキング9を充填する。
図6は、前記第4工程直後の状態を示しており、これらの各工程を行うため袋本体2内部の流体は抜いてあるのでゴム袋体1はしぼんだ状態で描いてある。
【0042】
<効果(方法)>
本発明に係る補修方法によれば、損傷した箇所Dからゴム袋体1内部への浸水や、ゴム袋体1内部からの漏気や漏水の発生を防ぐことができ、また、亀裂の進展等も抑制できる。従来技術のように接着剤や熱加硫により接合する方法により補修材を取り付ける方法によらず、ゴム袋体1に貫通穴11をあけて鋼製の上下一対の押え板5,6,7を強固に締結する方法によるため、デフレクター3の付根付近(袋本体とデフレクターとの連結部付近)のような接合作業が困難でも適用することができ、また、強固に取り付けられるため、振動の影響で外れてしまうおそれがない。
【0043】
本発明に係る補修方法は、例えば、従来のゴムプラグ栓修理法、貝殻栓修理法のような、損傷部に対して直接補修材を注入したり補修具を装着したりする補修方法ではない。本発明は、損傷部の周囲を押え板で挟み込んで、損傷部Dの周辺を気密状態とする(損傷部と袋本体の内部との間に気密状態となる部分を作る)ことで、漏気や漏水、浸水を防ぐことを特徴とする技術である。
本発明に係る補修方法は、亀裂等の損傷のあるゴム袋体1にあえて複数の貫通穴11を穿設する、という従来にはない斬新な発想に基づくものである。本発明は、基本的には、将来、ゴム袋体1全体の交換を伴う更新を行うことを予定した局面において適用される応急補修方法であるから、ゴム袋体1に貫通穴11を設けても支障は無い。
【0044】
本発明に係る補修方法は、補修対象である損傷した箇所Dを、ゴム袋体1を貫通する複数の貫通穴11に沿って取り付けられる上下一対の押え板5,6,7と、デフレクター3の先端縁31とにより取り囲むようにしている、別言すれば、押え板の重みにより、なるべくデフレクター3の先端縁側が垂れ下がらないようにしている。また、押え板5,6,7を帯状の部材により形成し、損傷部D全体を覆い隠すのではなく、損傷部Dを取り囲むように取り付け、水流に曝されるゴム袋体1の部分を残すことで、可及的に、デフレクター3の機能が損なわれないようにしている。
【0045】
<補修装置>
補修装置4の構成及び効果を詳細に説明する。
【0046】
補修装置4は、両端が封止された筒状の袋本体2と、当該袋本体2の長手方向に沿って当該袋本体2に突設されたデフレクター3とを有するゴム袋体1を備える、デフレクター付ゴム堰の補修装置である。
この補修装置4は、ゴム袋体1の一部を上下から挟み込むようにして取り付けられ、複数の締付孔53,54,63,64,73,74が形成された帯状に延びる上下一対の押え板5,6,7と、ゴム袋体1に穿設された貫通穴11及び締付孔53,54,63,64,73,74に装着され、ゴム袋体1の一部を挟み込んだ状態で、上下一対の押え板5,6,7を締結する複数の締付金具8と、を有する。
【0047】
補修装置4は、デフレクターの付根付近に破断や亀裂損傷が生じた場合における応急補修に用いられ、上下一対の押え板5,6,7は、上下一対の押え板5,6,7とデフレクター3の先端縁31とにより、損傷した箇所Dが取り囲まれるようにゴム袋体1に対して取り付ける。取り付け後の状態において、損傷部Dは、第1の押え板5とデフレクター3の先端縁31との間であり、かつ、第2の押え板6と第3の押え板7との間に配置された状態とする。
以下、各構成部材について説明する。
【0048】
本実施例では、前述のとおり、上下一対の押え板は複数組からなり、袋本体2の長手方向に沿って取り付けられる上下一対の第1の押え板5の組と、一端が上下一対の第1の押え板5の一端と連続するように取り付けられ、他端がデフレクター3の先端縁31に至るように取り付けられる上下一対の第2の押え板6の組と、一端が上下一対の第1の押え板5の他端と連続するように取り付けられ、他端がデフレクター3の先端縁に至るように取り付けられる上下一対の第3の押え板7の組と、を有する。ここで「連続するように取り付けられ」とは、
図4及び
図5に示すように、それぞれの押え板同士の端面が互いに面接触するように取り付けられた状態を意味する。
【0049】
上下一対の第1の押え板5を構成する上面側及び下面側の押え板51,52は、いずれも、平面視長方形状の鋼板である。押え板51,52には、一直線上に、所定の間隔で締付孔53,54が設けてある。
鋼板はSS400であり、さび止め塗装を施して使用するのが好適であるが、これに限られない。
【0050】
上下一対の第2の押え板6を構成する上面側及び下面側の押え板61,62は、いずれも、くの字状に屈曲する、幅寸法が押え板51,52の幅寸法と同一である帯状の部材であり、長手方向に沿って所定の間隔で締付孔63,64が設けてある。押え板61,62は、袋本体2の長手方向に沿って穿設された貫通穴11に取り付けられる部分61a,62aと、当該部分61a,62aに対して約45度の角度で連結された部分61b,62bと、により構成される。押え板61,62の両端部は、約45度の角度で鋭角に形成してある。
【0051】
押え板61,62をゴム袋体1に仮止めする際には、前記長手方向穴あけステップにより穿設された貫通穴に対して前記部分61a,62aを仮止めするステップと、前記交差方向穴あけステップにより穿設された貫通穴に対して前記部分61b,62bを仮止めするステップの双方を実行する。これらのステップを実行する際には、一端が押え板51,52の一端と連続するように(各端面が面接触するように)取り付け、他端がデフレクター3の先端縁31に至るように取り付ける。
なお、押え板61,62の形状は一例に過ぎず、例えば、上面視台形状に形成するようにしても良い。
【0052】
上下一対の第3の押え板7を構成する上面側及び下面側の押え板71,72は、前述の押え板61,62と共通する形状(対称的な形状)であるから、共通する符号を付して説明を省略する。なお、上下一対の押え板6,7は、損傷状況等に応じて、その形状等を決定する。従って、押え板61,62と押え板71,72とは必ずしも対称形状でなくても良い。
【0053】
例えば、損傷部Dの長さが1400mm程度であって、デフレクター3の先端縁31からの距離が50mm程度の場合であれば、押え板51,52として、長手方向寸法が1200mm、幅寸法が150mm、厚さ9mmの鋼板の幅方向中心部に、22mmの締付孔を、長手方向に沿って100mm間隔(両端の締付孔のみ75mm間隔)で設けることにより形成したものを採用し、押え板61,62,71,72として、幅寸法が150mm、厚さ9mmの2枚の鋼板を、45度角度でくの字状に屈曲するように溶接し、長手方向に取り付けられる部分61a,71aの中心線上の長さを約275mm、交差方向に取り付けられる部分61b,71bの中心線上の長さを約247mmに形成したうえで、22mmの締付孔を、長手方向に沿って100mm間隔(両端の締付孔のみ75mm間隔)で設けることにより形成したものを採用することができる。なお、これらの値は例示に過ぎず、損傷部Dの大きさやゴム袋体の性状等に応じて適宜変更可能であり、また、締付孔は必ずしも等間隔に設けずとも良い。
【0054】
このように、上下一対の押え板が複数組からなる場合には、前記第2工程において1組ずつ取付作業を行うことができるため、ゴム袋体1に対する取り付けが容易となる。また、上下一対の各押え板5,6,7は、連続するように取り付けられるが、それぞれ別体であることから、水流や流下物の衝突がゴム袋体1に加わった場合でも、各押え板の間(分割部)で湾曲するようにゴム袋体1が変形し、各押え板の変形が抑制される。
【0055】
上下一対の第1の押え板5を構成する、上面側押え板51のうち、ゴム袋体1に接する側の面には、好ましくは、
図4(B)に示すように、押え板51の一方の側縁に沿って延びる突出部55(突出部A)、及び、押え板51の他方の側縁に沿って延びる突出部56(突出部B)が設けられている。突出部55,56は互いに平行に設けてある。締付孔53のそれぞれは、一方の突出部55(突出部A)と他方の突出部56(突出部B)との間に開口するように形成されている。
同様に、下面側押え板52のうち、ゴム袋体1に接する側の面には、好ましくは、
図5(A)に示すように、押え板52の一方の側縁に沿って延びる突出部57(突出部C)、及び、押え板52の他方の側縁に沿って延びる突出部58(突出部D)が設けられている。突出部57,58は互いに平行に設けてある。締付孔54のそれぞれは、一方の突出部57(突出部C)と他方の突出部58(突出部D)との間に開口するように形成されている。
それぞれの突出部55,56,57,58は、例えば、鉄筋を溶接することにより形成することができるが、鉄筋を溶接する以外の加工方法で突出部を形成するようにしても良い。
【0056】
図4(C)は、
図4(A)に示すC―C線の断面図であり、
図4(A)にC―C線を3箇所示すとおり、いずれの断面も共通する。
図5(C)は、
図5(A)に示すC―C線の断面図であり、
図5(A)にC―C線を3箇所示すとおり、いずれの断面も共通する。このような突出部55,56,57,58を設けることにより、一対の押え板5でゴム袋体1を挟み込んだとき、それぞれの突出部55,56,57,58がゴム袋体1に噛み込み、ストッパの機能を果たす。従って、ゴム袋体1に対して押え板5がズレにくい。
【0057】
さらに、本実施例においては、ゴム袋体1が一対の押え板5の間に波型に湾曲して挟み込まれるように、一対の押え板のうち、一方の押え板(上面側押え板51)に設けられる一方の突出部55(突出部A)と他方の突出部56(突出部B)との間隔が、他方の前記押え板(下面側押え板52)に設けられる一方の突出部57(突出部C)と他方の突出部58(突出部D)との間隔よりも幅広に設定する。
例えば、上面側押え板及び仮面側押え板の幅寸法がいずれも150mmである場合、上面側押え板には約110mmの間隔で突出部55,56を設け、下面側押え板には約70mmの間隔で突出部57,58を設ける。それぞれの突出部55,56,57,58は、直径10mmの鉄筋よりなる。なお、これらの値は例示に過ぎず、損傷部Dの大きさやゴム袋体の性状等に応じて適宜変更可能であり、本実施例とは逆に、下面側押え板に設ける突出部の間隔を、上面側押え板に設ける突出部の間隔よりも幅広に設定するようにしても良い。
【0058】
このような間隔で突出部55,56,57,58を設けた場合、一対の押え板5でゴム袋体1を挟み込んだとき、それぞれの突出部がゴム袋体1に噛み込んで、ゴム袋体が波型に湾曲する。従って、ゴム袋体1に対して押え板5が更にズレにくい。
【0059】
上下一対の第2の押え板6、及び、上下一対の第3の押え板7についても、上下一対の第1の押え板5と同様に突出部65,66,67,68,75,76,77,78や締付孔63,64,73,74が設けられているが、その設置位置や間隔、寸法、作用等は前述したところと共通するので、説明を省略する。
【0060】
<使用方法(装置)>
補修装置4の使用方法は、前述した本発明に係る補修方法で説明したとおりであるが、略説すれば、デフレクター付ゴム堰が、デフレクターの付根付近において損傷した場合に、当該損傷部を取り囲むように貫通穴を設けた後、損傷部Dの周りを取り囲むようにして上下一対の押え板5,6,7を取り付ける。上下一対の押え板5,6,7の間にはゴム袋体1の一部が挟み込まれるため、損傷した箇所Dからゴム袋体1内部への浸水や、ゴム袋体1内部からの漏気や漏水の発生を防ぐことができ、また、亀裂の進展等も抑制できる。
【0061】
補修装置4を使用する場合には、前記第2工程で述べたとおり、ゴム袋体1と上下一対の押え板5,6,7との間にコーキング9を充填して、水密性や気密性を高めることが好ましい。その他、補修装置4は、前述の補修方法を適用した場合の効果と共通する効果を発現することができる。
【産業上の利用可能性】
【0062】
本発明に係る補修方法及び補修装置は、国内外の多くの場所で設置、運用されている既存のデフレクター付ゴム堰に広く適用可能な技術である。
【符号の説明】
【0063】
1 ゴム袋体
11 貫通穴
2 袋本体
21 上側の部分
22 下側の部分
3 デフレクター
31 先端縁
4 補修装置
5 上下一対の第1の押え板
51 押え板(上面側)
52 押え板(下面側)
53 締付孔(上面側)
54 締付孔(下面側)
55 突出部(上面側)
56 突出部(上面側)
57 突出部(下面側)
58 突出部(下面側)
6 上下一対の第2の押え板
61 押え板(上面側)
61a 長手方向に取り付けられる部分
61b 交差方向に取り付けられる部分
62 押え板(下面側)
62a 長手方向に取り付けられる部分
62b 交差方向に取り付けられる部分
63 締付孔(上面側)
64 締付孔(下面側)
65 突出部(上面側)
66 突出部(上面側)
67 突出部(下面側)
68 突出部(下面側)
7 上下一対の第3の押え板
71 押え板(上面側)
72 押え板(下面側)
73 締付孔(上面側)
74 締付孔(下面側)
75 突出部(上面側)
76 突出部(上面側)
77 突出部(下面側)
78 突出部(下面側)
8 締付金具
81 ボルト
82 ナット
9 コーキング
D 損傷した箇所(損傷部)
【要約】
【課題】ゴム堰のデフレクターの付根付近に破断や亀裂等の損傷が生じた場合の応急的な補修方法、及び、補修装置を提供する。
【解決手段】ゴム袋体1を貫通する複数の貫通穴11とデフレクター3の先端縁31とにより損傷部が取り囲まれるように、貫通穴11をゴム袋体1に所定の間隔で穿設する穴あけ第1工程を実行し、次に、所定の間隔で複数の締付孔59,69が形成された上下一対の押え板5,6,7を、ゴム袋体1の上面側及び下面側から配置した後、締付孔59,69及び貫通穴11に締付金具8を挿入して仮締めする第2工程を実行した後、ゴム袋体1と上下一対の押え板5,6,7との隙間にコーキング9を充填する第3工程を実行し、最後に、上下一対の押え板5,6,7の間にゴム袋体1の一部及びコーキング9を挟み込んだ状態で固定する第4工程を実行する。
【選択図】
図1