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特許7634346水系システム用バイオフィルム除去用組成物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-02-13
(45)【発行日】2025-02-21
(54)【発明の名称】水系システム用バイオフィルム除去用組成物
(51)【国際特許分類】
   C11D 7/38 20060101AFI20250214BHJP
   C02F 1/50 20230101ALI20250214BHJP
   C02F 1/72 20230101ALI20250214BHJP
   C11D 7/18 20060101ALI20250214BHJP
   C11D 7/26 20060101ALI20250214BHJP
【FI】
C11D7/38
C02F1/50 510C
C02F1/50 520K
C02F1/50 531J
C02F1/50 531Q
C02F1/50 532B
C02F1/50 532C
C02F1/50 540C
C02F1/72 Z
C11D7/18
C11D7/26
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2020079176
(22)【出願日】2020-04-28
(65)【公開番号】P2020186374
(43)【公開日】2020-11-19
【審査請求日】2023-03-10
(31)【優先権主張番号】P 2019089996
(32)【優先日】2019-05-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000918
【氏名又は名称】花王株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100087642
【弁理士】
【氏名又は名称】古谷 聡
(74)【代理人】
【氏名又は名称】義経 和昌
(72)【発明者】
【氏名】細川 賢人
(72)【発明者】
【氏名】千葉 雅史
(72)【発明者】
【氏名】山本 哲司
(72)【発明者】
【氏名】田中 孝典
【審査官】齊藤 光子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2009/028757(WO,A1)
【文献】韓国登録特許第10-1140217(KR,B1)
【文献】特表2012-512199(JP,A)
【文献】特開2005-154561(JP,A)
【文献】特開2015-196816(JP,A)
【文献】特開2004-231671(JP,A)
【文献】特開昭56-078695(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C11D 1/00-19/00
C02F 1/50
C02F 1/70-1/78
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記(a)成分、下記(b)成分、下記(c)成分及び水を含有し、20℃でのpHが2.5以上6.5以下であり、
(a)成分の濃度と(b)成分の濃度の質量比である(a)/(b)が、0.01以上10以下であり、
(a)成分の濃度と(c)成分の濃度の質量比である(a)/(c)が、0.1以上10以下である、
水系システム用バイオフィルム除去用組成物。
(a)成分:過酸化水素、及び過炭酸塩から選ばれる1種以上のヒドロキシルラジカル生成能を有する化合物50ppm以上
(b)成分:アスコルビン酸又はその塩から選ばれる1種以上の還元剤50ppm以上
(c)成分:第一解離定数が1.2以上4.6以下の、1価又は2価の有機酸又はその塩であって、3-ヒドロキシプロピオン酸、コハク酸、乳酸、酒石酸、グリコール酸、マレイン酸、フマル酸、グルコン酸、及びこれらの塩から選ばれる1種以上の有機酸又はその塩50ppm以上
【請求項2】
(a)成分が、過炭酸塩である、請求項1に記載の水系システム用バイオフィルム除去用組成物。
【請求項3】
(b)成分の濃度と(c)成分の濃度の質量比である(b)/(c)が、0.01以上100以下である、請求項1又は2に記載の水系システム用バイオフィルム除去用組成物。
【請求項4】
(c)成分が、酒石酸、及びその塩から選ばれる1種以上の有機酸又はその塩である、請求項1~3の何れか1項に記載の水系システム用バイオフィルム除去用組成物。
【請求項5】
(a)成分の濃度が50ppm以上5000ppm以下、(b)成分の濃度が50ppm以上50000ppm以下、(c)成分の濃度が50ppm以上5000ppm以下である、請求項1~4の何れか1項に記載の水系システム用バイオフィルム除去用組成物。
【請求項6】
(a)成分の濃度が50ppm以上5000ppm以下、(b)成分の濃度が50ppm以上5000ppm以下、(c)成分の濃度が50ppm以上5000ppm以下である、請求項1~5の何れか1項に記載の水系システム用バイオフィルム除去用組成物。
【請求項7】
水系システムが、水冷式水冷塔を備えた冷却システムである、請求項1~6の何れか1項に記載の水系システム用バイオフィルム除去用組成物。
【請求項8】
水系システムが、水の流通経路を含む、請求項1~6の何れか1項に記載の水系システム用バイオフィルム除去用組成物。
【請求項9】
下記(a)成分、下記(b)成分、及び下記(c)成分から選ばれる成分を含む複数の剤から構成されるキットであって、該キットは請求項1~8の何れか1項に記載の水系システム用バイオフィルム除去用組成物を製造するためのキットであり、下記(a)成分と下記(b)成分が別の剤に含まれている、キット。
(a)成分:過酸化水素、及び過炭酸塩から選ばれる1種以上のヒドロキシルラジカル生成能を有する化合物
(b)成分:アスコルビン酸又はその塩から選ばれる1種以上の還元剤
(c)成分:第一解離定数が1.2以上4.6以下の、1価又は2価の有機酸又はその塩であって、3-ヒドロキシプロピオン酸、コハク酸、乳酸、酒石酸、グリコール酸、マレイン酸、フマル酸、グルコン酸、及びこれらの塩から選ばれる1種以上の有機酸又はその塩
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水系システム用バイオフィルム除去用組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
バイオフィルムは生物膜又はスライムともいわれ、一般に菌等の微生物が物質の表面に付着して増殖する際に、微生物が産生する多糖、タンパク質及び核酸などの高分子物質により微生物を包み込むように形成された構造体を指す。バイオフィルムが形成されると、微生物による種々の問題が発生するため、様々な産業分野で問題となっている。例えば、食品プラントの配管内にバイオフィルムが形成されると、このバイオフィルムが剥がれ落ちて製品内へ異物として混入されたり、菌に由来する毒素により食中毒が発生する原因となったりする。更に、金属表面へのバイオフィルム形成は金属腐食の原因となり、設備の老朽化を促進する。
【0003】
水冷式冷却塔を用いた工場設備やビルの冷却システムや、冷却プールなど、水媒体を利用したシステムが従来使用されている。このようなシステムにおいて、使用する水の微生物汚染は問題である。例えば、水冷式冷却塔を用いた冷却システムにおいて、冷却水に混入した微生物は、配管中、特に熱交換器においてバイオフィルムを形成する。熱交換器に形成されたバイオフィルムは、熱交換の効率を低下させ、冷却システムの電力使用量を増加させる。バイオフィルム形成防止のためには、定期的な水の入れ替えや清掃が必要であるが、これらはシステムのメンテナンスコストを上昇させる。水冷式冷却塔などの冷却水を用いる設備や装置などでは、冷却水にスライムコントロール剤と呼ばれる微生物殺菌剤や増殖抑制剤を添加して、バイオフィルムを抑制することも行われることがあるが、安全性、金属配管の腐食、薬剤コストなどの観点からは、スライムコントロール剤を用いない処理の方が望ましい。
【0004】
微生物により被る汚染などへの対策として、従来、種々の提案がされている。
特許文献1には、ビタミン、金属イオン、表面活性化合物、及び所定の抗微生物性作用物質を含む消毒-及び汚染除去剤を、バイオフィルムの分解のために使用できることが開示されている。
特許文献2には、冷却塔で冷却された冷却水が熱交換器に循環通水され、該冷却塔に補給水が供給される冷却水系におけるバイオフィルムを防止する方法において、補給水中のリン酸を除去し、かつ防食剤として非リン系防食剤を用いる、冷却水系における水処理方法が開示されている。
特許文献3には、内部オレフィンスルホン酸塩を1質量%以上、40質量%以下含有する硬質表面用バイオフィルム除去剤組成物が開示されている。
特許文献4には、特定の環状アルデヒド化合物と有機溶媒とを含有するバイオフィルム形成抑制用組成物が開示されている。
特許文献5には、バイオフィルムにより影響される表面を、界面活性剤水酸化物の容量モル濃度が2~9の所定の水性アルカリ界面活性剤組成物と接触させる工程を含む、処理方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特表2012-512199号公報
【文献】特開2016-102227号公報
【文献】特開2016-035009号公報
【文献】特開2018-168097号公報
【文献】特表2017-518432号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、水冷塔、浴槽配管などの水と接触する部材を含んだ装置、設備などの水系システムで生じたバイオフィルムを効果的に除去できる、水系システム用バイオフィルム除去用組成物を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、下記(a)成分、下記(b)成分、下記(c)成分及び水を含有し、20℃でのpHが2.5以上6.5以下である、水系システム用バイオフィルム除去用組成物に関する。
(a)成分:ヒドロキシルラジカル生成能を有する化合物
(b)成分:還元剤
(c)成分:第一解離定数が1.2以上4.6以下の、1価又は2価の有機酸又はその塩
【0008】
また、本発明は、前記(a)成分、前記(b)成分、及び前記(c)成分から選ばれる成分を含む複数の剤から構成されるキットであって、該キットは前記本発明の水系システム用バイオフィルム除去用組成物を製造するためのキットであり、前記(a)成分と前記(b)成分が別の剤に含まれている、キットに関する。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、水系システムで生じたバイオフィルムを効果的に除去できる、水系システム用バイオフィルム除去用組成物が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0010】
<水系システム用バイオフィルム除去用組成物>
本発明の水系システム用バイオフィルム除去用組成物による効果発現機作は、必ずしも全てが解明されたわけではないが、以下のように考えられる。本発明者らは、水系システム中のバイオフィルムがヒドロキシルラジカルによって分解あるいは水中に分散することによって設備からのバイオフィルム除去に寄与できることを見出した。ヒドロキシルラジカルと設備に形成しているバイオフィルムとの作用効率において、バイオフィルム表面にヒドロキシルラジカルが存在しても効率が悪く、設備に形成しているバイオフィルム内部に広くヒドロキシルラジカルを発生させることができれば高いバイオフィルム除去効率が期待できる。本発明の水系システム用バイオフィルム除去用組成物は、ヒドロキシルラジカルの生成触媒としても作用し得る金属イオンを本質的に含まなくてもよいため水系システムに流通、循環、滞留等する水中に溶解しても瞬間的にヒドロキシルラジカルを生成することがなく、本発明の(a)成分、(b)成分、(c)成分はいずれも低分子であるため設備に形成しているバイオフィルム内部に広く移動しやすい。バイオフィルム内部には設備素材や水系システムに供給される水に起因する金属イオンが塩や酸化物等として水に不溶化して蓄積されているが、特定のpH領域を持つ本発明の組成物においてにおいて、特定の構造の有機酸((c)成分)が錯形成することによりバイオフィルム中に存在する不溶化した金属が水溶化し、近傍に存在すると考えられる還元剤((b)成分)と反応し還元された金属イオンとなる(例えば、Fe3+→Fe2+)。この還元された金属イオンと近傍に存在すると考えられるヒドロキシルラジカル生成能を有する化合物((a)成分)がフェントン様反応することによりヒドロキシルラジカルを生成し、バイオフィルムを分解あるいは水中に分散できる程度の大きさにちぎれていくものと考えられる。フェントン様反応によって酸化された金属イオンは更に(b)成分により還元されるため、(a)成分との間でのフェントン様反応が連続的に起こるため持続的にバイオフィルム除去効果が発現するものと考えられる。以上のように本発明の水系システム用バイオフィルム除去用組成物では水中で爆発的にヒドロキシルラジカルの生成が起こらず、むしろバイオフィルム中に蓄積された微量な金属イオンを利用するがためにバイオフィルムの広範囲な場所で連続的に起こるヒドロキシルラジカルの生成により効率的なバイオフィルム除去効果が得られるものと考えられる。
尚、本発明の効果は上記作用機作に制限されるものではない。
【0011】
〔(a)成分〕
(a)成分は、ヒドロキシルラジカル生成能を有する化合物である。
(a)成分としては、フェントン様反応によりヒドロキシルラジカルを生成する化合物が挙げられる。
(a)成分としては、過酸化水素、過炭酸塩、及び有機過酸から選ばれる1種以上の化合物が挙げられ、入手容易性、経済性及びヒドロキシルラジカル生成能の観点から、過酸化水素及び過炭酸塩から選ばれる1種以上の化合物が好ましい。過炭酸塩としては、過炭酸ナトリウム、過炭酸カリウムなどの過炭酸アルカリ金属塩が挙げられ、入手容易性、経済性及びヒドロキシルラジカル生成能の観点から、過炭酸ナトリウムが好ましい。
【0012】
〔(b)成分〕
(b)成分は、還元剤である。
(b)成分は、金属、例えば鉄の還元作用を有する化合物であってよい。尚、本発明の(b)成分が還元作用を及ぼす金属は、還元されうる状態の金属を示す。
(b)成分としては、
(b-1)エンジオール構造を有する化合物:例えばアスコルビン酸又はその塩、天然物から抽出したビタミンC、タンニン酸、エリソルビン酸又はその塩、
(b-2)ヒドロキシルアミン:例えばN,N-ジエチルヒドロキシルアミン、
(b-3)フェノール系還元剤:例えば没食子酸、メチルヒドロキノン、ジメチルヒドロキノン、トリメチルヒドロキノン、t-ブチルヒドロキノン、メトキシヒドロキノン、クロロヒドロキノン、
(b-4)その他の還元剤:アスコルビン酸誘導体又はその塩、ハイドロサルファイト、ピロ亜硫酸塩、亜硫酸塩、亜硫酸水素塩、チオ硫酸塩、二酸化チオ尿素、
から選ばれる1種以上の化合物が挙げられる。これらの化合物の塩としては、ナトリウム、カリウムなどのアルカリ金属塩、カルシウム塩などのアルカリ土類金属塩が挙げられる。
(b)成分としては、入手容易性及びバイオフィルムの除去効果を高める(以下、バイオフィルム除去性ともいう)観点から、アスコルビン酸又はその塩が好ましい。
【0013】
〔(c)成分〕
(c)成分は、第一解離定数(以下、pKa1という)が1.2以上4.6以下の、1価又は2価の有機酸又はその塩である。かかる有機酸又はその塩のうち、還元作用を有する化合物は、(b)成分として取り扱う。
【0014】
(c)成分のpKa1は、バイオフィルム除去性の観点から、好ましくは1.8以上、より好ましくは2.5以上、そして、好ましくは3.3以下である。
【0015】
(c)成分の有機酸の分子量は、バイオフィルム除去性の観点から、例えば、70以上更に75以上、更に95以上、そして、200以下、更に180以下、更に165以下、更に160以下であってよい。(c)成分の有機酸は、炭素数は、バイオフィルム除去性の観点から、好ましくは2以上、そして、好ましくは8以下、より好ましくは6以下、更に好ましくは4以下である。(c)成分の有機酸は、バイオフィルム除去性の観点から、カルボン酸が好ましく、モノカルボン酸又はジカルボン酸がより好ましい。
【0016】
(c)成分としては、分子量70以上200以下、更に180以下の炭素数2又は3のヒドロキシモノカルボン酸、分子量70以上200以下、更に180以下の炭素数3又は4のジカルボン酸、分子量70以上200以下の炭素数5以上8以下のヒドロキシカルボン酸、及びこれらの塩から選ばれる1種以上の有機酸又はその塩が挙げられる。
【0017】
分子量70以上200以下の炭素数2又は3のヒドロキシモノカルボン酸としては、グリコール酸(pKa1:3.83、Mw:76.1)、乳酸(pKa1:3.86、Mw:90.1)、3-ヒドロキシプロピオン酸(pKa1:4.5、Mw:90.1)が挙げられる。
【0018】
分子量70以上200以下の炭素数3又は4のジカルボン酸としては、酒石酸(pKa1:2.98、Mw:150.1)、フマル酸(pKa1:3.02、Mw:116.1)、マレイン酸(pKa1:1.92、Mw:116.1)、リンゴ酸(pKa1:3.4、Mw:134.1)、コハク酸(pKa1:4.19、Mw:118.1)、マロン酸(pKa1:2.9、Mw:104.1)が挙げられる。
【0019】
分子量70以上200以下の炭素数5以上8以下ヒドロキシカルボン酸としては、グルコン酸(pKa1:3.86、Mw:196)が挙げられる。
【0020】
(c)成分は、バイオフィルム除去性の観点から、マロン酸、リンゴ酸、3-ヒドロキシプロピオン酸、コハク酸、乳酸、酒石酸、グリコール酸、マレイン酸、フマル酸、グルコン酸、及びこれらの塩から選ばれる1種以上の有機酸又はその塩が好ましい。
(c)成分は、バイオフィルム除去性の観点から、酒石酸、フマル酸、マレイン酸、グルコン酸、及びこれらの塩から選ばれる1種以上の有機酸又はその塩がより好ましい。
【0021】
(c)成分の有機酸の塩としては、ナトリウム、カリウムなどのアルカリ金属塩、カルシウムなどのアルカリ土類金属塩が挙げられる。
【0022】
〔組成、任意成分等〕
本発明の水系システム用バイオフィルム除去用組成物は、組成物の形態などを考慮して(a)成分、(b)成分、(c)成分の濃度を設定できる。
本発明の水系システム用バイオフィルム除去用組成物では、(a)成分の濃度は、上限値と下限値とを、例えば、50ppm以上、更に60ppm以上、更に80ppm以上、そして、5000ppm以下、更に3000ppm以下、更に1000ppm以下、更に600ppm以下、更に500ppm以下から選択して組み合わせて設定することができる。
本発明の水系システム用バイオフィルム除去用組成物では、(b)成分の濃度は、上限値と下限値とを、例えば、50ppm以上、更に60ppm以上、更に80ppm以上、そして、50000ppm以下、更に30000ppm以下、更に10000ppm以下、更に5000ppm以下、更に3000ppm以下、更に1000ppm以下、更に600ppm以下、更に500ppm以下から選択して組み合わせて設定することができる。
本発明の水系システム用バイオフィルム除去用組成物では、(c)成分の濃度は、上限値と下限値とを、例えば、50ppm以上、更に60ppm以上、更に80ppm以上、そして、5000ppm以下、更に3000ppm以下、更に1000ppm以下、更に600ppm以下、更に500ppm以下から選択して組み合わせて設定することができる。
【0023】
本発明の水系システム用バイオフィルム除去用組成物は、バイオフィルム除去性の観点から、(a)成分の濃度と(b)成分の濃度の質量比である(a)/(b)が、好ましくは0.01以上、より好ましくは0.1以上、そして、好ましくは100以下、より好ましくは10以下である。
【0024】
本発明の水系システム用バイオフィルム除去用組成物は、バイオフィルム除去性の観点から、(a)成分の濃度と(c)成分の濃度の質量比である(a)/(c)が、好ましくは0.01以上、より好ましくは0.1以上、そして、好ましくは100以下、より好ましくは10以下、更に好ましくは9.5以下、より更に好ましくは4.5以下、より更に好ましくは1.5以下、より更に好ましくは0.5以下である。
【0025】
本発明の水系システム用バイオフィルム除去用組成物は、バイオフィルム除去性の観点から、(b)成分の濃度と(c)成分の濃度の質量比である(b)/(c)が、好ましくは0.01以上、より好ましくは0.1以上、そして、好ましくは100以下、より好ましくは10以下である。
【0026】
本発明の水系システム用バイオフィルム除去用組成物は、界面活性剤の濃度が低くても優れたバイオフィルム除去効果を示す。例えば、本発明の水系システム用バイオフィルム除去用組成物は、界面活性剤の濃度が、100ppm未満、更に50ppm以下、更に10ppm以下、更に0ppmであってよい。本発明の水系システム用バイオフィルム除去用組成物は、界面活性剤を実質的に含有しないものであってよい。ここで、界面活性剤を実質的に含有しないとは、界面活性剤の濃度が前記範囲であることを意味してよい。
【0027】
本発明の水系システム用バイオフィルム除去用組成物は、フェントン様反応に関与する金属イオン、具体的には、鉄、スカンジウム、チタン、バナジウム、クロム、マンガン、コバルト、ニッケル、銅から選ばれる金属のイオン、更には金属イオンを含有しないもの又は実質的に含有しないものであってよい。ここで、前記金属イオンを実質的に含有しないとは、前記金属イオンを含有していたとしてもその量が極めて微量であり、フェントン様反応が十分に生じない状態の意味であってよい。
【0028】
本発明の水系システム用バイオフィルム除去用組成物は、水を含有する。
本発明の水系システム用バイオフィルム除去用組成物は、水を含有する液体組成物であることが好ましい。
【0029】
本発明の水系システム用バイオフィルム除去用組成物は、20℃のpHが、機材損傷防止の観点で、2.5以上、好ましくは3.0以上、そして、バイオフィルム除去効果の観点で、6.5以下、好ましくは5.5以下である。
【0030】
本発明の水系システム用バイオフィルム除去用組成物は、例えば、(a)成分を100ppm含有する組成での20℃のpHが、機材損傷防止の観点で、2.5以上、好ましくは3.0以上、そして、バイオフィルム除去効果の観点で、6.5以下、好ましくは5.5以下であってよい。
【0031】
本発明の対象となる水系システムは、水系液体との接触が起こるシステムであれば特に限定されるものではないが、例えば水系液体の流通や貯留によって機能するシステムをいい、配管、タンク、プールなどの水が接触する部材を含んで構成される装置及びそれを含む設備などであってよい。水は、水そのものの他、水と他の物質とを含む水性媒体であってよい。一例として、水系システムは、水冷式水冷塔を備えた冷却システムである。また、他の例として、水系システムは、配水管のような水の流通経路、例えば、ボイラーの温水配管部、及び貯湯槽より温水が供給される循環給湯管の温水配管部から選ばれる温水配管部を含んでよい。また、水系システムは、水の貯蔵槽を含んでよい。更に、水系システムの他の例としては、工業用の冷却プール、工業用の給水、貯水もしくは排水経路、排水処理設備、流湯式暖房システム、タンク、プール、浴場、ろ過設備、製紙工場の製紙設備、水族館の水槽及び水循環経路、超純水装置、養殖設備、植物工場などが挙げられる。
【0032】
本発明の対象となる水系システムは、水との接触が生じる機構、例えば水を定期的に流通させる機構や水を循環させる機構を備えたものが好ましい。その場合、接触させる水に本発明の組成物を添加して当該水系システムを作動させて水を接触させることで、当該水系システムに発生したバイオフィルムを除去することができる。また、接触させる水は、本発明の組成物であってよく、その場合、(a)~(c)成分の濃度が前記範囲となるように添加量などを調整することが好ましい。
【0033】
本発明により、水を接触させる機構、例えば水を流通及び/又は循環させる機構を備えた水系システムに発生したバイオフィルムを除去する方法であって、(a)成分、(b)成分、(c)成分及び水を含有し、pHが2.5以上6.5以下である水系システム用バイオフィルム除去用組成物を、前記水系システムのバイオフィルムが発生した部分に接触させる、バイオフィルムの除去方法が提供される。この方法では、前記水系システム用バイオフィルム除去用組成物は、20℃におけるpHが2.5以上6.5以下であってもよい。
この方法には、本発明の水系システム用バイオフィルム除去用組成物で述べた事項を適宜適用することができる。
水を循環させる機構でバイオフィルムが発生した場合、前記組成物を該機構で接触させることで、前記組成物をバイオフィルムが発生した部分に接触させることができる。
前記組成物の接触時間は、例えば10分以上48時間以下である。
接触させる前記組成物の温度は、例えば5℃以上85℃以下である。
【0034】
本発明の水系システム用バイオフィルム除去用組成物を水系システムに適用するに際しては、予め所定の組成物として製造したものを使用してもよいし、本発明の水系システム用バイオフィルム除去用組成物の高濃度組成物を製造したものを使用してもよい。また、(a)成分、(b)成分、及び(c)成分を個別に、又は、プレミックスしたものを、水系システム中に流通、循環もしくは滞留する水に溶解しpH調整して水系システム用バイオフィルム除去用組成物として使用してもよい。(a)成分、(b)成分、及び(c)成分は、化合物によって、液体、固体、また、水溶液などの形態で供給することが可能であるが、組成物の液安定性の観点から、水系システムに適用する直前に製造するか、水系システム中に流通、循環もしくは滞留する水に溶解して本発明の組成物とすることが好ましい。
【0035】
本発明の水系システム用バイオフィルム除去用組成物の剤型は任意であるが、例えば、打錠した固体製剤、水溶性フィルムで粉末を包装した固装製剤、媒体と混練したペースト製剤など、その対象設備に応じた使い勝手などを考慮した剤型が挙げられる。
【0036】
<キット>
本発明は、(a)成分、(b)成分、及び(c)成分から選ばれる成分を含む複数の剤から構成されるキットであって、該キットは本発明の水系システム用バイオフィルム除去用組成物を製造するためのキットであり、下記(a)成分と下記(b)成分が別の剤に含まれている、キットを提供する。
【0037】
本発明のキットの例としては、
(1)(a)成分を含み(b)成分を含まない剤と、(b)成分及び(c)成分を含み(a)成分を含まない剤とから構成されるキット
(2)(a)成分及び(c)成分を含み(b)成分を含まない剤と、(b)成分を含み(a)成分を含まない剤とから構成されるキット
(3)(a)成分を含み(b)成分を含まない剤と、(b)成分を含み(a)成分を含まない剤と、(c)成分を含む剤(この剤は任意に(a)成分又は(b)成分を含んでよい)とから構成されるキット
が挙げられる。
【0038】
本発明のキットでは、酸化能を有する(a)成分と還元剤である(b)成分は分離して保存、供給するのが化合物安定性の観点から好ましく、(c)成分は(a)成分による酸化反応を避け、製造時の水への溶解性向上の観点から、(a)成分を含む剤と、(b)成分及び(c)成分を含む剤とのキットとして供給するのが好ましい。(a)成分及び(c)成分が固体である場合や液体であっても(a)成分と(c)成分の反応性が低い場合には(a)成分及び(c)成分を含む剤と、(b)成分を含む剤とのキットとして供給することが可能である。キットとしては、剤の安定性、作業性の観点から、(a)成分を含み(b)成分を含まない剤と、(b)成分及び(c)成分を含み(a)成分を含まない剤とから構成されるキットがより好ましい。(a)成分、(b)成分、及び(c)成分の具体例及び好ましい例などは、本発明の水系システム用バイオフィルム除去用組成物と同じである。本発明の水系システム用バイオフィルム除去用組成物で述べた事項は、本発明のキットに適宜適用することができる。
【0039】
本発明のキットを構成する各剤において、(a)成分、(b)成分、及び(c)成分の含有量は、例えば、前記範囲の濃度や質量比でこれらの成分を含有する本発明の水系システム用バイオフィルム除去用組成物が製造できるような量であってよい。
【実施例
【0040】
<実施例1及び比較例1>
表1に示す水系システム用バイオフィルム除去用組成物を調製し、以下の試験を行った。結果を表1に示す。なお、表1の組成物のpHは、10mM酢酸緩衝液(pH4.0にする場合)又は10mMリン酸緩衝液(pH7.0にする場合)により調整し、その後、各成分が所定の濃度になるよう調製した。また、表1の組成物は、残部が水である。
【0041】
〔バイオフィルム除去試験(水冷塔モデル)〕
(1)バイオフィルムの作製
バイオフィルム作製には、100mL容量の培養槽を有するアニュラーリアクター(アート科学社製)を用いた水系システムモデルを使用した。アニュラーリアクターの培養槽には、毎分160回転の速度で回転する円筒形の回転体が設置され、この回転体にテストピース(SUS304)を予め取り付けた。化学工場の反応槽設備冷却のための水冷式水冷塔から採集した冷却水をアニュラーリアクター培養槽(30℃に維持)に供給し、3週間培養しテストピース上にバイオフィルムを形成させた。
【0042】
(2)バイオフィルム除去試験
表1の水系システム用バイオフィルム除去用組成物又はコントロール(超純水)5mLを添加した6wellプレートの各wellに、バイオフィルムが形成されたテストピースを浸し、30℃、60rpmで16時間振とうした。各テストピースを0.1%クリスタルバイオレットで染色した後、超純水で洗浄し、1mLのエタノールで染色液を抽出し、吸光度(OD570)を測定した。測定したOD570をもとに、下記式に従ってバイオフィルム除去率を測定した。尚、ブランクはエタノールのOD570を指す。
バイオフィルム除去率(%)={(コントロールOD570-ブランクOD570)-(実施例又は比較例のOD570-ブランクOD570)}×100/(コントロールOD570-ブランクOD570)
尚、本試験におけるバイオフィルム除去率は、その値が大きいほど効果が高く、40%以上であれば、本発明の効果を顕著に実感することができる。又、本試験におけるバイオフィルム除去率の5%の差は有意差として認識でき、10%の差はより明確な差として認識できる。
【0043】
【表1】
【0044】
(c’)成分は(c)成分の比較化合物である。
・酢酸 pKa1:4.76、Mw:60.1
・クエン酸 pKa1:3.09、Mw:192.1
【0045】
<実施例2及び比較例2>
表2に示す水系システム用バイオフィルム除去用組成物を調製し、以下の試験を行った。結果を表2に示す。なお、表2の組成物のpHは、10mM酢酸緩衝液又は10mMリン酸緩衝液により調整し、その後、各成分が所定の濃度になるよう調製した。また、表2の組成物は、残部が水である。
【0046】
〔バイオフィルム除去試験(浴槽配管モデル)〕
(1)バイオフィルムの作製
バイオフィルム作製には、100mL容量の培養槽を有するアニュラーリアクター(アート科学社製)を用いた水系システムモデルを使用した。アニュラーリアクターの培養槽には、毎分160回転の速度で回転する円筒形の回転体が設置され、この回転体にテストピース(SUS304)を予め取り付けた。循環式浴槽から採集した浴槽水をアニュラーリアクター培養槽(40℃に維持)に供給しつつ、汚れ負荷処理として毎日濃度が10ppmずつ上昇するようにR2A培地を供給水に添加し、1週間培養してテストピース上にバイオフィルムを形成させた。
【0047】
(2)バイオフィルム除去試験
表2の水系システム用バイオフィルム除去用組成物又はコントロール(超純水)5mLを添加した6wellプレートの各wellに、バイオフィルムが形成されたテストピースを浸し、40℃、60rpmで30分間振とうした。各テストピースを0.1%クリスタルバイオレットで染色した後、超純水で洗浄し、1mLのエタノールで染色液を抽出し、吸光度(OD570)を測定した。測定したOD570をもとに、下記式に従ってバイオフィルム除去率を測定した。尚、ブランクはエタノールのOD570を指す。
バイオフィルム除去率(%)={(コントロールOD570-ブランクOD570)-(実施例又は比較例のOD570-ブランクOD570)}×100/(コントロールOD570-ブランクOD570)
【0048】
【表2】
【0049】
<実施例3>
実施例2で作製したバイオフィルムが形成されたテストピースと、表3に示す成分を用いて調製した水系システム用バイオフィルム除去用組成物とを用いて、実施例2と同様にバイオフィルム除去試験を行った。ただし、前記組成物の残部を超純水とし、洗浄時間を60分とした。結果を表3に示した。
【0050】
【表3】