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特許7634380封止部材付き鮮度ラベル用構造体及び封止部材付き鮮度ラベル
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-02-13
(45)【発行日】2025-02-21
(54)【発明の名称】封止部材付き鮮度ラベル用構造体及び封止部材付き鮮度ラベル
(51)【国際特許分類】
   G01N 21/64 20060101AFI20250214BHJP
【FI】
G01N21/64 Z
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2021014448
(22)【出願日】2021-02-01
(65)【公開番号】P2022117765
(43)【公開日】2022-08-12
【審査請求日】2023-11-14
(73)【特許権者】
【識別番号】000003562
【氏名又は名称】東芝テック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003708
【氏名又は名称】弁理士法人鈴榮特許綜合事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100108855
【弁理士】
【氏名又は名称】蔵田 昌俊
(74)【代理人】
【識別番号】100103034
【弁理士】
【氏名又は名称】野河 信久
(74)【代理人】
【識別番号】100179062
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 正
(74)【代理人】
【識別番号】100075672
【弁理士】
【氏名又は名称】峰 隆司
(74)【代理人】
【識別番号】100153051
【弁理士】
【氏名又は名称】河野 直樹
(74)【代理人】
【識別番号】100162570
【弁理士】
【氏名又は名称】金子 早苗
(72)【発明者】
【氏名】秋山 良造
(72)【発明者】
【氏名】深沢 大志
(72)【発明者】
【氏名】石川 大介
【審査官】吉田 将志
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-058233(JP,A)
【文献】特開2018-040707(JP,A)
【文献】特開2017-102066(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第111077125(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 21/62 - G01N 21/74
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材と、前記基材に固着された凝集誘起蛍光体を含む蛍光体層とを含み、有機溶媒を含まない鮮度ラベル用構造体と、
前記鮮度ラベル用構造体を封止する水性液体不透過性の封止部材であって、水性液体不透過性で且つ気体透過性の多孔質部材からなる部位を含む封止部材と
を備えた封止部材付き鮮度ラベル用構造体。
【請求項2】
前記蛍光体層は、水を含有することで消光する請求項1に記載の封止部材付き鮮度ラベル用構造体。
【請求項3】
前記蛍光体層は、水と酸を含有することで蛍光状態となる請求項1又は2に記載の封止部材付き鮮度ラベル用構造体。
【請求項4】
基材と、前記基材に固着された凝集誘起蛍光体を含む蛍光体層とを含む鮮度ラベル用構造体、及び、
前記鮮度ラベル用構造体を封止する水性液体不透過性の封止部材であって、水性液体不透過性で且つ気体透過性の多孔質部材からなる部位を含む封止部材
を備えた封止部材付き鮮度ラベル用構造体と、
前記鮮度ラベル用構造体に担持された水と
を含む封止部材付き鮮度ラベル。
【請求項5】
前記鮮度ラベル用構造体は保湿剤を含む請求項4に記載の封止部材付き鮮度ラベル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、封止部材付き鮮度ラベル用構造体及び封止部材付き鮮度ラベルに関する。
【背景技術】
【0002】
水産物、青果物、及び畜産物などの生鮮食品は、常温下で貯蔵性が悪く、変敗し易いため、その鮮度の評価方法が求められる。生鮮食品の鮮度の評価方法として、例えば、感覚評価法、化学的評価法、物理的評価法、微生物的手法など様々な方法が試行されている。感覚評価法は、生鮮食品の外観、臭い、張りなどの触感から評価する方法である。化学的評価法は、生鮮食品の劣化や腐敗により発生する化学的成分のガスクロマトグラフィー質量分析や、核酸関連化合物の液体クロマトグラフィー質量分析によるものである。物理的評価法は、生鮮食品の硬直指数(RI値)、破断強度、テクスチャー、インピーダンスなどの物理的指標を基に評価する方法である。微生物的手法は、生鮮食品中に含まれる一般生菌数、腐敗細菌数、病原細菌数等を調べる手法である。
【0003】
感覚評価法は、高価な測定装置を必要とせず、短時間で鮮度を評価することができるが、評価者により結果がバラつくという問題がある。化学的評価法、物理的評価法、及び微生物的手法は、評価者による結果のバラつきは生じにくいが、装置や設備を必要とするため容易には行えず、測定に時間を要する場合もある。すなわち、これらの方法では、簡易さ又は精度が犠牲となる。
【0004】
このような問題に対して、凝集誘起蛍光体を用いた鮮度ラベルが提案されている。この鮮度ラベルでは、ラベルの蛍光強度を測定することにより、食品の鮮度を評価できる。ここで、凝集誘起蛍光体は、凝集誘起発光(AIE:Aggregation-induced emission)を示す化合物である。凝集誘起蛍光体は、溶解可能な有機溶媒などの溶液中で各分子が溶解している状態では弱い蛍光又は無蛍光を示す。溶解状態にある凝集誘起蛍光体の分子は、例えば、生鮮食品の腐敗や劣化により放出される化学的成分と反応すると凝集して集合体を形成し、この集合体は、強い蛍光を発する。なお、凝集誘起蛍光体は、腐敗成分と反応するような官能基を有する構造体に設計されることが好ましい。例えば、腐敗成分のひとつであるアミン成分と凝集誘起蛍光体を反応させる場合には、カルボン酸基を有することが好ましい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2017-058233号公報
【文献】特許第6295351号公報
【文献】特開2015-184332号公報
【文献】特開2017-102066号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明が解決しようとする課題は、簡易かつ高い精度で、食品の鮮度を確認できる封止部材付き鮮度ラベル、及び、この封止部材付き鮮度ラベルを実現するための封止部材付き鮮度ラベル用構造体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
実施形態によると、封止部材付き鮮度ラベル用構造体が提供される。封止部材付き鮮度ラベル用構造体が備える鮮度ラベル用構造体は、基材と、その基材に固着された凝集誘起蛍光体を含む蛍光体層とを含む。封止部材付き鮮度ラベル用構造体が備える封止部材は、鮮度ラベル用構造体を封止する水性液体不透過性の封止部材であり、水性液体不透過性で且つ気体透過性の多孔質部材からなる部位を含む。
【0008】
他の実施形態によると、封止部材付き鮮度ラベルが提供される。封止部材付き鮮度ラベルは、実施形態に係る封止部材付き鮮度ラベル用構造体と、鮮度ラベル用構造体に担持された水とを含む。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】実施形態に係る封止部材付き鮮度ラベル用構造体が備える鮮度ラベル用構造体を概略的に示す斜視図。
図2図1に示す鮮度ラベル用構造体の拡大断面図。
図3】実施形態に係る封止部材付き鮮度ラベルの一例を概略的に示す上面図。
図4図3に示す封止部材付き鮮度ラベルの断面図。
図5】実施形態に係る封止部材付き鮮度ラベルの他の例を概略的に示す断面図。
図6】実施形態に係る封止部材付き鮮度ラベルの他の例を概略的に示す断面図。
図7】凝集誘起蛍光体の消光メカニズムを説明するための図。
図8】実施形態に係る鮮度ラベルを含む包装食品の一例を示す斜視図。
図9】核酸関連物質の分解過程を示す図。
図10】K値の算出方法を示す図。
図11】実施形態に係る封止部材付き鮮度ラベルの他の例を概略的に示す上面図。
図12】あじを使用した実施例で得られた画像をまとめた図。
図13】保湿剤の有無に関する実施例で得られた画像をまとめた図。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明者らが鋭意研究したところ、凝集誘起蛍光体を含む鮮度ラベルには、その精度に改善の余地があることがわかった。すなわち、有機溶媒に溶解した凝集誘起蛍光体を含む鮮度ラベルは、例えば、生鮮食品が密閉された容器内であって、生鮮食品の近傍に設置される。生鮮食品は、水分含有量の多い食品である。それゆえ、生鮮食品及び鮮度ラベルが密閉された容器内における水蒸気圧は、時間経過により飽和水蒸気圧に達すると考えられる。凝集誘起蛍光体は、非水溶性の物質であるため、水の影響を受けにくいと考えられていた。しかしながら、本発明者らは、容器内の水蒸気圧が高まると、鮮度ラベルの蛍光が弱まることを見出した。すなわち、鮮度ラベルの蛍光強度は気相中の水の影響を受けるため、徐々に湿度が高まる環境下では、生鮮食品の腐敗や劣化により放出される化学的成分による影響は、蛍光強度に正確には反映されない。
【0011】
また、鮮度ラベルが鮮魚や生肉等の生鮮食品と容器内に密閉された場合、鮮度ラベルは生鮮食品から出る水性液体成分であるドリップを直接被ることも多い。更に、鮮度ラベルは、保冷箱に入れられた水揚げされた鮮魚の鮮度管理のために使用されることがあり、保冷箱の搬送時には保冷材として入れられた氷水が飛び散ることにより、水滴を直接被ることになる。鮮度ラベルに水滴がかかると、鮮度ラベルの蛍光作用に直接的に影響を与える。鮮度ラベルの蛍光強度を測定することにより食品の鮮度を評価する鮮度ラベルにおいては、特に水性液体に対する遮蔽性をもたせることは、正確に鮮度を図る上で重要となる。
本発明は、これらの知見に基づくものである。
【0012】
以下、実施形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。同様又は類似した機能を発揮する構成要素には全ての図面を通じて同一の参照番号を付し、重複する説明は省略する。
【0013】
実施形態に係る封止部材付き鮮度ラベル用構造体は、鮮度ラベル用構造体と、これを封止する水性液体不透過性の封止部材を備える。以下において、単に「鮮度ラベル用構造体」というときは、封止部材を含まない鮮度ラベル用構造体を意味し、封止部材を備えた封止部材付き鮮度ラベル用構造体と区別する。
【0014】
鮮度ラベル用構造体は、基材と、蛍光体層とを含む。蛍光体層は、基材に固着された凝集誘起蛍光体を含む。鮮度ラベル用構造体は、固体状の凝集誘起蛍光体を含むため、強い蛍光を示す。
【0015】
図1は、実施形態に係る封止部材付き鮮度ラベル用構造体が備える鮮度ラベル用構造体を概略的に示す斜視図である。図1に示す鮮度ラベル用構造体1は、基材2と、図示しない蛍光体層とを含む。図2は、図1に示す鮮度ラベル用構造体の拡大断面図である。図1及び図2に示す鮮度ラベル用構造体1は、基材2として濾紙を用いた例である。基材2の繊維2aには、蛍光体層3が担持される。蛍光体層3は、基材2の繊維2aに固着した凝集誘起蛍光体3aを含む。
【0016】
基材2は、水を含浸可能なものであれば、その形状及び材料等に制限はない。基材2は、例えば、多孔質体又は網目構造体である。基材2の形状は、図1に示すように円形であってもよく、多角形状であってもよい。基材2の厚みは、例えば、0.1mm以上1.0mm以下である。これは、凝集誘起蛍光体から発する蛍光量が確保できれば特に限定されるものではなく、また逆に、厚すぎて基材内部での凝集誘起蛍光体と腐敗成分との反応の妨げにならない程度であればよい。
【0017】
基材2は、例えば、合成繊維、無機繊維、天然繊維又はこれらの混合物を含む。合成繊維の例は、ポリオレフィン系繊維、及びセルロース系繊維を含む。無機繊維の例は、ガラス繊維、金属繊維、アルミナ繊維、及び活性炭素繊維を含む。天然繊維の例は、木材パルプ、及び麻パルプを含む。基材2は、ガラス繊維からなる層であることが好ましい。
【0018】
蛍光体層3は、凝集誘起蛍光体3aを含み、好ましくは、凝集誘起蛍光体3aのみからなる。蛍光体層3は、基材2に担持される。蛍光体層3は、基材2の繊維2aなどの表面上に薄層状に担持されることが好ましい。
【0019】
蛍光体層3の厚みは、25℃でありかつ相対湿度100%の環境中に放置することにより、その蛍光強度が十分に小さくなる厚みであることが好ましい。ここで、蛍光強度が十分に小さくなるとは、例えば、25℃でありかつ相対湿度100%の環境中に放置した場合の蛍光強度を、10℃でありかつ相対湿度20%の環境中に放置した場合の蛍光強度を100%とした相対値として算出したときに、30%以下となることをいう。また、蛍光強度は、例えば、フォトダイオードなどの光検出器を用いて測定するか、又は、CMOS(complementary metal-oxide-semiconductor)イメージセンサ及びCCD(charge-coupled device)イメージセンサなどの撮像素子を用いて測定する。なお、カラータイプの撮像素子を用いる場合、例えば、RBGの階調値の算出平均を蛍光強度とする。
【0020】
蛍光体層3の厚みは、鮮度ラベルの蛍光強度に影響し得る。すなわち、蛍光体層3を適度に厚くすると、鮮度ラベルの蛍光強度が強まる傾向にある。一方、蛍光体層3を過剰に厚くすると、鮮度の変化に応じた蛍光強度の変化が小さくなる。蛍光体層3の厚みは、30nm以下であることが好ましく、20nm以下であることがより好ましい。蛍光体層3の厚みは、生鮮食品の腐敗や劣化により放出される化学成分(以下、対象成分という)の放出量に応じて、その鮮度の変化を確認し易い範囲に調整されることが望ましい。蛍光体層3の厚みは、例えば、透過型電子顕微鏡(Transmission Electron Microscopy:TEM)により確認できる。
【0021】
ここで、「対象成分」について説明する。生鮮食品は、腐敗や劣化時に、1種類又は複数種類の対象成分を気相中に放出し得る。対象成分には、例えば、アルデヒド類及びカルボン酸類などの酸性成分や、アルコール類や、アンモニア、アミン類などの塩基性成分や、エステル類、及びケトン類が挙げられる。アルデヒド類は、例えば、ヘキサナール、3-メチルブタナール、ノナナール、イソバレルアルデヒド又はこれらの混合物を含む。カルボン酸類は、例えば、ギ酸、酢酸、イソ吉草酸又はこれらの混合物を含む。アミン類は、例えば、トリメチルアミン、ジメチルアミン、1,2-エチレンジアミン、1,3-プロパンジアミン、1,4-ブタンジアミン、1,5-ペンタンジアミン、1,6-ヘキサンジアミン、スペルミジン、スペルミン、ヒスタミン、トリプタミン又はこれらの混合物を含む。アルコール類は、例えば、エタノール、イソプロピルアルコール、3-メチル-1-ブタノール、1-ペンタノール、1-ブタノール又はこれらの混合物を含む。エステル類は、例えば、酢酸エチル、酢酸メチル、プロピオン酸エチル又はこれらの混合物を含む。ケトン類は、例えば、メチルエチルケトン、アセトン、メルカプトアセトン又はこれらの混合物を含む。
【0022】
凝集誘起蛍光体3aは、図2に示すように粒状層としての蛍光体層3を形成していてもよく、隙間を有していない連続膜としての蛍光体層3を形成していてもよい。粒状層としての蛍光体層3において、各粒子は凝集誘起蛍光体3aの分子を複数含み、粒子内の各位置から粒子表面を結ぶ最短の直線上に位置する凝集誘起蛍光体3aの分子の数は、例えば、10以下である。
【0023】
凝集誘起蛍光体3aは、極性官能基を有する蛍光体が含まれることが好ましい。極性官能基を含む凝集誘起蛍光体3aは、対象成分と反応し易く、鮮度ラベルを用いた鮮度評価の精度が高まり得る。また、水への溶解性又は分散性が高い傾向にある。極性官能基は、酸性官能基であってもよく、塩基性官能基であってもよい。酸性官能基としては、カルボキシル基及びスルホ基を挙げることができる。塩基性官能基としては、水酸基、及びアミノ基を挙げることができる。凝集誘起蛍光体3aは、酸性官能基又は塩基性官能基を、複数種類含んでいてもよい。凝集誘起蛍光体3aは、1分子中にカルボキシル基を2以上含んでいることが好ましい。
【0024】
凝集誘起蛍光体3aとしては、構造式(2)に示すテトラフェニルエチレン骨格、構造式(3)に示すシロール骨格、又は、構造式(4)に示すホスホールオキシド骨格を有するものを用いることができる。なお、これらの化合物は、それぞれ、シス体であってもよく、トランス体であってもよく、シス体とトランス体との混合物であってもよい。
【0025】
【化1】
【0026】
【化2】
【0027】
【化3】
【0028】
凝集誘起蛍光体3aは、対象成分との反応性に特に優れているという観点からは、下記一般式(I)で表されるテトラフェニルエチレン誘導体を含むことが好ましい。
【0029】
【化4】
【0030】
一般式(I)中、R、R、R、Rは、互いに独立して、-L、-(CH-L2、-X-(CH-L、-Y-(CH-Z-(CH-L(ここで、L、L、L、Lは、互いに独立して、-CO-又は-SO-を表し、M、M、M、Mは、互いに独立して、水素原子又はカチオンを表し、X、Y、Zは、互いに独立して、-O-、-NH-、又は-S-を表し、m、n、o、pは、互いに独立して、1~6の整数を表す)、水素原子、ハロゲン原子、水酸基、ニトロ基、カルバモイル基、炭素数1~6のアルキル基、炭素数1~6のハロアルキル基、炭素数2~6アルケニル基、炭素数3~10のシクロアルキル基、炭素数1~6のアルキルオキシ基、炭素数2~6のアシル基、アミノ基、炭素数1~6のアルキルアミノ基、炭素数6~10のアリール基、及び炭素数5~10のヘテロアリール基からなる群から選択され、かつ、R、R、R、Rのうちの少なくとも2つは、互いに独立して、-L、-(CH-L2、-X-(CH-L、及び-Y-(CH-Z-(CH-L(ここで、L、L、L、L、M、M、M、M、X、Y、Z、m、n、o、及びpは上記の通りである)からなる群から選択される。
【0031】
テトラフェニルエチレン誘導体の具体例としては、下記の構造式(5)、(6)、(7)及び(8)に示す化合物を挙げることができる。
【0032】
【化5】
【0033】
【化6】
【0034】
【化7】
【0035】
【化8】
【0036】
この鮮度ラベル用構造体1は、例えば、以下の方法により製造される。
先ず、有機溶媒に凝集誘起蛍光体3aを溶解させて、処理液を準備する。有機溶媒の種類は、凝集誘起蛍光体3aを溶解可能なものであればよく、蒸発温度が低いものが好ましい。有機溶媒としては、例えば、エタノールを用いる。処理液における凝集誘起蛍光体3aの濃度は、例えば、上記構造式(6)に示す化合物を用いた場合、50μM(質量モル)以上1mM(質量モル)以下とする。
【0037】
次に、基材2を処理液に浸漬して処理液を含浸させた後、処理液内から基材2を引上げ、これを乾燥させる。なお、基材2を処理液に浸漬させることに替えて、スポイト等を用いて処理液を滴下することにより、基材2に処理液を含浸させてもよい。このようにして、鮮度ラベル用構造体1を得る。鮮度ラベル用構造体1は、典型的には、有機溶媒を含まない。
【0038】
鮮度ラベル用構造体1は、保湿剤を更に含んでいてよい。鮮度ラベル用構造体1が保湿剤を含む場合、鮮度用構造体1に水を担持させてなる鮮度ラベルにおいて、水分の蒸発を抑制することができる。このように保湿剤を含む鮮度ラベル用構造体1を用いた封止部材付き鮮度ラベルは、鮮度ラベルが含む水分の保水性に優れるため、食品の鮮度評価のために使用されるまでの間、初期の蛍光状態を維持することができる。
【0039】
保湿剤の例としては、グリセリン、プロピレングリコール、トリアセチン、ソルビトール等が挙げられる。保湿剤を含む鮮度ラベル用構造体は、上述した鮮度ラベル用構造体1の製造方法に対し、凝集誘起蛍光体3aを有機溶媒に溶解させる上記処理液の調製において、所定量の保湿剤を添加することにより得られる。処理液中の保湿剤の濃度は、例えば、保湿剤としてグリセリンを用いた場合、1質量%以上10質量%以下であってよい。
【0040】
鮮度ラベルは、図1に示す鮮度ラベル用構造体1と、鮮度ラベル用構造体1によって保持された水とを含む。封止部材付き鮮度ラベルは、封止部材付き鮮度ラベル用構造体が含む鮮度ラベル用構造体1に水を担持させたものである。以下において、単に「鮮度ラベル」というときは、封止部材を含まない鮮度ラベルを意味し、封止部材を備えた封止部材付き鮮度ラベルと区別する。また、封止部材付き鮮度ラベルと封止部材付き鮮度用ラベル構造体とは封止部材が共通する。以下に封止部材付き鮮度ラベルについて説明するが、その説明文は「鮮度ラベル」を「鮮度ラベル用構造体」に置き換えることにより封止部材付き鮮度ラベル用構造体の説明に代用され得る。
【0041】
実施形態に係る封止部材付き鮮度ラベルが備える封止部材は、水性液体不透過性であり、水性液体不透過性で且つ気体透過性の多孔質部材からなる部位を含む。封止部材は、鮮度ラベルを取り巻く外部の雰囲気(以下において、「周囲雰囲気」という。)から鮮度ラベルを封止することにより、水性液体が蛍光体層に直接接触することを抑制する機能(以下において、「防水機能」ともいう。)を有している。また、封止部材が少なくともその一部に含む多孔質部材は、防水機能に加え、気体透過性であることにより、生鮮食品等の食品の腐敗や劣化により放出される化学的成分(対象成分)が多孔質部材を介して蛍光体層に接触することを可能とする機能を有している。
ここで「水性液体」とは、液体としての水、又は水を含む水溶液であり、例えば水、氷水、海水、生鮮食品から出るドリップなどが挙げられる。
【0042】
封止部材による鮮度ラベルの封止構造は、鮮度ラベルを周囲雰囲気から封止し、且つ、封止部材が含む水性液体不透過性で且つ気体透過性の多孔質部材からなる部位が、周囲雰囲気に接しており、対象成分が多孔質部材を介して鮮度ラベルに接することが可能な構造であれば特に限定されない。
【0043】
以下、実施形態に係る封止部材付き鮮度ラベルについて図面を用いて説明する。
図3は、実施形態に係る封止部材付き鮮度ラベルの一例を概略的に示す上面図であり、図4はその断面図である。図3及び図4に示す封止部材付き鮮度ラベル10は、鮮度ラベル11と、それを周囲雰囲気から封止する形態で保持体12、多孔質部材13および接合部材14からなる封止部材を含む。鮮度ラベル11は、図1及び図2に示す鮮度ラベル用構造体1と、鮮度ラベル用構造体1に担持された図示しない水を含む。封止部材を構成する保持体12、多孔質部材13及び接合部材14は、水性液体不透過性であり、その中で多孔質部材13は更に気体透過性でもある。なお、図3において図4に示される接合部材14は図示されていない。
【0044】
保持体12は、多孔質部材13及び接合部材14と共に鮮度ラベル11を封止する封止部材を構成している。保持体12は、鮮度ラベル11を、多孔質部材13が鮮度ラベル11に接触できる形態で支持している。保持体12の材料は、水性液体不透過性であればよい。また、保持体12自体に蛍光を発することがない材料が好ましいが、蛍光を発するものでも鮮度ラベル11の蛍光観察時に影響を与えなければ特に制限されるものではない。保持体12の材料として、例えば、ガラス、樹脂類(例えば、アクリル樹脂、PET、PP、PE、シクロオレフィンポリマー等)、紙類などが挙げられる。特に、シクロオレフィンポリマーは自身の蛍光をほとんど発しないので、保持体12を介して鮮度ラベルの蛍光観察をする場合には、保持体12の材料として適している。また、多孔質部材13を介して鮮度ラベルの蛍光観察を行う場合は、ガラスや樹脂を黒色化して光不透過にすれば、基材蛍光の影響を受けにくくなり材料の選択性を広げることも可能である。
【0045】
多孔質部材13は、鮮度ラベル11の保持体12に支持された主面とは反対側の主面を被覆している。また、多孔質部材13は、周囲雰囲気に接触しており、多孔質部材13を介して対象成分が鮮度ラベル11に接触することを可能としている。なお、他の例において、封止部材の全体が多孔質部材13からなり、鮮度ラベル11の全体を封止してもよい。また、多孔質部材13の形状に制限はなく、図3及び図4に示すような層状に限られない。水性液体不透過性および気体透過性の機能を果たす限り、例えば、円筒形、袋状、又はラップフィルムのような食品包装材との一体型など他の形状であってもよい。
【0046】
多孔質部材13の材料は、水性液体不透過性および気体透過性を有する材料であれば、特に限定されず、任意の材料を使用することができる。このような材料として、疎水性のPTFE(ポリテトラフルオロエチレン)メンブレンフィルターは、水性液体に対する濡れ性が低く撥水性による良好な液体不透過性を有し、且つ、多孔質性の良好な気体透過性を有することから、多孔質部材13の材料として特に好ましい。疎水性のPTFEメンブレンフィルターの孔径は、例えば、1μm~10μmが好ましく、3μm~5μmがより好ましい。PTFEメンブレンフィルターは、それ自体は蛍光性を示さないため、蛍光層の蛍光観察を阻害するものではないが、励起光と蛍光を鮮度ラベルの判定目的のために必要な程度に透過できる厚みのフィルターを選択する。さらに、紙の表面にシリコンやテフロン(登録商標)の処理を施したクッキングシートも多孔質部材13として利用できる。
【0047】
接合部材14は、保持体12と多孔質部材13とを接合することにより、保持体12と多孔質部材13との間に鮮度ラベル11を挟持する形態で鮮度ラベル11を封止する。接合部材14は、例えば熱圧着接着剤等の公知の接着剤や粘着テープであってよい。また、接合部材14を含む封止部材による鮮度ラベル11への防水構造の強度は、封止部材付き鮮度ラベル10の使用期間等に応じて設定すればよく、封止部材付き鮮度ラベル10による判定目的が達成された後は、接合部材14による密着力が低下しても構わない。
【0048】
以下に、封止部材付き鮮度ラベルの他の例について説明する。
図5は、実施形態に係る封止部材付き鮮度ラベルの他の例を概略的に示す断面図である。図5に示す封止部材付き鮮度ラベル20は、鮮度ラベル11と、それを周囲雰囲気から封止する形態で保持体12、多孔質部材13、接合部材14、14A並びに14B、及びフィルム15からなる封止部材とを含む。
【0049】
封止部材付き鮮度ラベル20は、図3及び4に示される封止部材付き鮮度ラベル10に対し、多孔質部材13の配置が異なる点が最も大きな相違点である。封止部材付き鮮度ラベル20において、多孔質部材13は、保持体12とフィルム15とを接合する接合部材14aと14bの間に配置され、保持体12及びフィルム15に接合されている。封止部材付き鮮度ラベル10において多孔質部材13が配置されていた位置には、フィルム15が配置されている。フィルム15は、非蛍光性で、励起光と蛍光を鮮度ラベルの判定目的のために必要な程度に透過できる材料及び厚みを有する水性液体不透過性のフィルムから選択される。フィルム15は、非蛍光性で且つ水性液体不透過性の透明フィルムであることが好ましい。フィルム15として、例えば、シクロオレフィンポリマー等が挙げられる。
【0050】
実施形態に係る封止部材付き鮮度ラベルの図示しない他の例として、図5に示される封止部材付き鮮度ラベル20に対し、多孔質部材13の配置を変えた例を挙げることができる。例えば、保持体12又はフィルム15の一部に、鮮度ラベル11が周囲雰囲気に接する開口部を設け、この開口部に多孔質部材13を配置した封止構造を有する封止部材付き鮮度ラベルが挙げられる。
【0051】
図6は、実施形態に係る封止部材付き鮮度ラベルの他の例を概略的に示す断面図である。図6に示す封止部材付き鮮度ラベル30は、鮮度ラベル11と、それを周囲雰囲気から封止する形態で、第1の筐体部材16、第2の筐体部材17、及び多孔質部材13からなる封止部材とを含む。第1の筐体部材16及び第2の筐体部材17は、水性液体不透過性である。
【0052】
第1の筐体部材16は、第1の底壁161と、第1の底壁161における周縁に沿って立ち上がる第1の周壁162とからなり、第1の周壁162の上端に溝163を備える。第2の筐体部材17は、第2の底壁171と、第2の底壁171における周縁に沿って立ち上がる第2の周壁172とからなり、第2の底壁171は周縁に取り囲まれた中央部に開口173を備える。
【0053】
封止部材付き鮮度ラベル30は、第1の筐体部材16と第2の筐体部材17との間に多孔質部材13を配置した状態で、第1の筐体部材16の第1の周壁162が備える溝163に、第2の筐体部材17の第2の周壁171を嵌め込むことにより形成される。多孔質部材13は、第2の筐体部材171の開口173において周囲雰囲気に接触している。鮮度ラベル11は、第1の筐体16と多孔質部材13とにより形成される内部空間18に配置されることにより、外部からの水性液体の侵水が抑制され、一方、周囲雰囲気に接している多孔質部材13を介して対象成分と接触することができる。第1の筐体部材16及び第2の筐体部材17を含む封止部材による蛍光層3への防水構造の強度は、封止部材付き鮮度ラベル30の使用期間等に応じて設定すればよく、封止部材付き鮮度ラベル30の判定目的が達成された後は、筐体強度が低下しても構わない。
【0054】
次に封止部材付き鮮度ラベルの製造方法について、上述した図3及び図4に示される封止部材付き鮮度ラベル10を例として説明する。
先ず、封止部材付き鮮度ラベル10が備える鮮度ラベル11を製造する工程について説明する。鮮度ラベル11は、鮮度ラベル用構造体1に水を担持させたものであり、その製造においては、鮮度ラベル用構造体1を水中に浸漬して水を含浸させた後、水中から引き上げる。なお、スポイト等を用いて水を滴下することにより、鮮度ラベル用構造体1に水を含浸させてもよく、鮮度ラベル用構造体1を水蒸気に暴露することにより水を含ませてもよい。水の種類は、蒸留水、純水、イオン交換水、又はこれらの混合物を用い得る。
【0055】
水を含んだ鮮度ラベル用構造体1(鮮度ラベル11)を水中から引き上げ、これを保持体12の上に載置する。次いで、接合部材16を、鮮度ラベル11を囲うように保持体12上に配置し、その上に多孔質部材13を被せて封止材による防水構造を形成する。接合部材16が熱圧着フィルムの場合は、加温したホットプレート上で適当な圧力をかけることにより保持体12と多孔質部材13とを好適に密着させることができる。
【0056】
なお、鮮度ラベル用構造体1に水を担持させ鮮度ラベル11を製造する工程は、鮮度ラベル用構造体1を封止部材に封止した後であってもよい。言い換えると、鮮度ラベル用構造体1を含む封止部材付き鮮度ラベル用構造体を製造し、次いで鮮度ラベル用構造体1に水を担持させることにより封止部材付き鮮度ラベル10を得てもよい。鮮度ラベル用構造体1を封止部材に封止した後に鮮度ラベル用構造体1に水を担持させる方法としては、封止部材付き鮮度ラベル用構造体を水蒸気に暴露してもよいし、封止部材付き鮮度ラベル用構造体を液体としての水中に浸漬させてもよい。後者の場合、短時間で処理できる。
【0057】
上記の通り、実施形態に係る封止部材付き鮮度ラベルが備える鮮度ラベル11は、鮮度ラベル用構造体1と、基材2に担持された水とを含む。水の含有量は、鮮度ラベル11の蛍光が微弱になる又は無蛍光となる量であればよい。すなわち、鮮度ラベル用構造体1は、水を含むことにより、蛍光が微弱あるいは無蛍光となる。このメカニズムは、以下のとおりであると本発明者らは考えている。
【0058】
図7は、凝集誘起蛍光体の消光メカニズムの一例を説明するための図である。図7に示すように、凝集誘起蛍光体3aの分子の集合体と水とが接触すると、凝集誘起蛍光体3aの分子の隙間に水分子が入り込み、分子間の距離が大きくなる。あるいは、凝集誘起蛍光体3aの分子の集合体と水とが接触すると、凝集誘起蛍光体3aの分子のコンホメーションが変化する。このように凝集誘起蛍光体3aの分子の配列が変化すると、凝集誘起蛍光体3aの蛍光は弱まる。
【0059】
図2に示す鮮度ラベル用構造体1では、水は殆ど存在していないので、凝集誘起蛍光体3aの分子は、層状構造を形成している。このように分子が配列した凝集誘起蛍光体3aは、比較的高い強度で蛍光を発し得る。これに対し、鮮度ラベル11では、水を含浸させているため、凝集誘起蛍光体3aの分子間の隙間に水分子が入り込んでいる。そのため、鮮度ラベル11は、鮮度ラベル用構造体1と比較して蛍光を微弱な強度で発するか、又は、蛍光を発しない。
【0060】
特に、カルボキシル基などの極性官能基を含んだ凝集誘起蛍光体3aは、水との親和性が高い。そのため、極性官能基を含んだ凝集誘起蛍光体3aは、水を加えることにより、蛍光が微弱あるいは無蛍光によりなり易いと考えられる。下記式(II)に、カルボキシル基を有する凝集誘起蛍光体(TPE-COOH)のイオン化反応を示す。この反応は、平衡反応である。
TPE-COOH ⇔ TPE-COO + H (II)
【0061】
鮮度ラベル11は、封止部材付き鮮度ラベル10として、例えば、生鮮食品等の食品の近傍に配置され、食品とともに密閉された状態で使用される。図8に、封止部材付き鮮度ラベル10の使用方法の一例を示す。図8は、実施形態に係る封止部材付き鮮度ラベル10を含む包装食品の一例を示す斜視図である。図8に示す包装食品40は、封止部材付き鮮度ラベル10と、食品P1と、これらを支持するトレイTと、図示しないラップフィルムとを含む。封止部材付き鮮度ラベル10及び食品P1は、トレイT及び図示しないラップフィルムにより、外気と接触しないように密封されている。すなわち、トレイTとラップフィルムとは密閉容器を構成しており、封止部材付き鮮度ラベル10及び食品P1は、密閉容器内に封入されている。封止部材付き鮮度ラベル10は、図8に示すようにトレイT上に置かれていてもよく、ラップフィルムの内面に貼り付けられていてもよい。
【0062】
食品P1の種類は限定されず、水産物、及び畜産物など水分を含む食品用の封止部材付き鮮度ラベルとして好適に用いられる。封止部材付き鮮度ラベル10は、食品P1からのドリップによる影響を受けることなく正確に鮮度を評価することができる。
【0063】
この包装食品40は、以下に説明するように、封止部材付き鮮度ラベル10に紫外線などの励起光を照射して、その蛍光の強度(明るさ)を測定することにより、食品P1の鮮度を定量化することができる。ここでは、一例として、食品P1が、その鮮度の低下に伴って生じる対象成分は酸性成分であり、凝集誘起蛍光体3aは、極性官能基として酸性官能基を含んでいることとする。
【0064】
食品P1が新鮮な状態にある場合、密閉容器内の雰囲気中における対象成分の濃度は低い。この場合、対象成分が凝集誘起蛍光体3aの分子の配列に及ぼす影響は小さい。したがって、この場合、凝集誘起蛍光体3aは、励起光を照射しても、蛍光を高い強度で発しない。
【0065】
食品P1の鮮度が低下すると、密閉容器内の雰囲気中における対象成分の濃度が高まる。雰囲気中の対象成分の濃度が高まると、その一部は、鮮度ラベル11が含んでいる水に溶解する。この水溶液は、凝集誘起蛍光体3aの極性官能基と同極性であるため、この水溶液における対象成分の濃度が高まると、凝集誘起蛍光体3aの水溶液に対する親和性又は溶解度が低下する。それゆえ、雰囲気中における対象成分の濃度が高まると、凝集誘起蛍光体3aの分子配列は、水が存在していない状態へ近づく。したがって、食品P1の鮮度が低下すると、励起光を照射することによって凝集誘起蛍光体3aが発する蛍光の強度は高くなると考えられる。
【0066】
封止部材付き鮮度ラベル10への励起光の照射には、例えば、紫外線(UV)ランプを用いる。紫外線の波長は、凝集誘起蛍光体3aの種類により異なるが、一例によると、350nm以上530nm以下である。また、蛍光強度の測定には、上記の通り、例えば、光検出器又は撮像素子を使用する。例えば、まず、封止部材付き鮮度ラベル10にUVランプを照射しながら、デジタルカメラ等を用いて蛍光画像を撮像する。そして、画像処理ソフトを用いて、この蛍光画像のRBGの各階調値を求める。これら階調値から、鮮度ラベル10の蛍光強度を数値化できる。例えば、これら階調値の算術平均を、蛍光強度とすることができる。
【0067】
なお、上記の通り、凝集誘起蛍光体3aとして酸性官能基を有するものを用い、対象成分が酸性成分である場合、この対象成分の濃度の高まりに応じて鮮度ラベル11の蛍光がより高くなる。これに対し、凝集誘起蛍光体3aとして塩基性官能基を有するものを用い、対象成分が塩基性成分である場合、この対象成分の濃度の高まりに応じて鮮度ラベル11の蛍光がより高くなる。
【0068】
以上説明したように、封止部材付き鮮度ラベル10を使用すると、紫外線などの励起光を照射して、その蛍光の強度(明るさ)を測定するという簡易な方法により、食品P1の鮮度を定量化することができる。しかも、この鮮度の定量化は、高い精度で行うことができる。この理由を、以下に説明する。
【0069】
上記の通り、封止部材付き鮮度ラベル10の使用が望まれる食品P1、例えば生鮮食品は、一般に水分含有量が多い。それゆえ、密閉容器内の水蒸気圧は、時間の経過とともに上昇し、最終的には飽和水蒸気圧に達する。
【0070】
有機溶媒に凝集誘起蛍光体を溶解させた溶液を含む鮮度ラベルを用いた場合、鮮度ラベルの水分量は、最終的にはほぼ一定の値になるものの、密閉容器に封入した直後では少なく、時間の経過とともに多くなる。これは、鮮度ラベルとともに密閉容器内に封入された生鮮食品が気相へ水分を放出することに伴う水蒸気圧の上昇が、飽和水蒸気圧となるまで続くためである。鮮度ラベルの水分量が多くなると、上述したように、凝集誘起蛍光体の分子の配列が変化し、その結果、鮮度ラベルの蛍光強度が変化する。それゆえ、有機溶媒を用いた鮮度ラベルでは、密閉容器に封入してから、水蒸気圧が飽和水蒸気に達するまでの期間において、水が蛍光強度に及ぼす影響の大きさが変化する。したがって、そのような鮮度ラベルを用いた場合、鮮度を正確に評価できなかった。
【0071】
実施形態に係る封止部材付き鮮度ラベルが備える鮮度ラベルは、水を含んでいる。そして、生鮮食品などの食品は、気相へ水分を放出する。それゆえ、密閉容器に封入してから、水蒸気圧が飽和水蒸気に達するまでの期間において、鮮度ラベルから蒸発する水分の量と、気相から鮮度ラベルへ供給される水分の量との差は小さい。そして、水蒸気圧が飽和水蒸気に達した後は、鮮度ラベルから蒸発する水分の量と、気相から鮮度ラベルへ供給される水分の量とは等しくなる。したがって、鮮度ラベルの水分量は、密閉容器への封入直後から一定に維持される。このため、実施形態に係る封止部材付き鮮度ラベルが備える鮮度ラベルによると、水分量の変化に起因した蛍光強度の変化は殆ど生じない。
【0072】
さらに、実施形態に係る封止部材付き鮮度ラベルは、鮮度ラベルが周囲雰囲気から水性液体不透過性の封止部材で封止され、水性液体が封止部材内に浸水することが防止される。このため、例えば、密封容器内で鮮度食品から出るドリップや、鮮魚や魚介類などを搬送する際に低温状態を保つために使用される水、氷水、海水を鮮度ラベルが被ることがない。それゆえ、この封止部材付き鮮度ラベルを使用した場合、蛍光強度に影響を及ぼすのは、食品が含む成分の分解又は変質によって生じ、気相中へと拡散する物質のみである。
【0073】
以上のことから、実施形態に係る封止部材付き鮮度ラベルは、簡易かつ精度の高い鮮度評価を実現できる。それゆえ、実施形態に係る封止部材付き鮮度ラベルを用いると、対象成分の存在を検知するだけではなく、対象成分の濃度及びK値の把握も実現できる。すなわち、実施形態に係る封止部材付き鮮度ラベルの蛍光強度は、対象成分の濃度及びK値と正の相関を示し得る。
【0074】
なお、K値は、食品の鮮度を示す指標の一つであり、K値が大きいことは、鮮度が低いことを示す。K値は、核酸関連物質が時間経過により生じる分解生成物の量から算出される。
【0075】
図9は、核酸関連物質の分解過程を示す説明図である。図9に示すように、食品中に含まれるアデノシン三リン酸(ATP:adenosine triphosphate)は、アデノシン二リン酸(ADP:adenosine diphosphate)に分解される。ADPは、アデノシン一リン酸(AMP:adenosine monophosphate)に分解される。AMPは、イノシン一リン酸(IMP:inosine monophosphate)に分解される。IMPは、イノシン(HxR:inosine)に分解される。HxRは、ヒポキサンチン(Hx:hypoxanthine)に分解される。ATP、ADP、AMP、及びIMPは鮮度の高い食品に含まれる物質であり、HxR及びHxは、鮮度の低い食品に含まれる物質である。
【0076】
図10は、K値の算出方法を示す図である。図10に示すように、K値は、ATP、ADP、AMP、IMP、HxR、及びHxの合計量に占めるHxR及びHxの合計量の割合を百分率で示したものである。食品中のATP、ADP、AMP、IMP、HxR、及びHxの量は、例えば、高速液体クロマトグラフィー又は電気泳動法で算出される。一般的に、K値が60%以上である場合、その食品は腐敗していると判定される。K値による評価は、食品の鮮度を比較的正確に示すことができる。しかしながら、K値の算出のためには、食品から試料を採取する必要があり、また、高価な分析機器を用いる必要がある。
【0077】
上述したように、実施形態に係る封止部材付き鮮度ラベルの蛍光強度は、対象成分の濃度と正の相関を有する。対象成分の濃度は、K値と正の相関を有する。したがって、鮮度ラベルの蛍光強度を数値化し、この数値と対象成分の濃度又はK値との関係を表す検量線を予め準備しておけば、蛍光強度の測定を行い、この測定結果を検量線に参照することにより、対象成分の気相中における濃度又は食品のK値を得ることができる。
【0078】
次に、実施形態に係る鮮度ラベルの他の使用方法について説明する。図11は、実施形態に係る封止部材付き鮮度ラベルの他の例を概略的に示す上面図である。図11に示す封止部材付き鮮度ラベル10Aは、鮮度ラベル11Aが図示しない酸を更に含むこと以外は、図3に示す封止部材付き鮮度ラベル10と同様の構造を有している。すなわち、図11に示す封止部材付き鮮度ラベル10Aは、鮮度ラベル11Aと、それを周囲雰囲気から封止する形態で保持体12、多孔質部材13および図示しない接合部材からなる封止部材を含む。鮮度ラベル11Aは、図1及び図2に示す鮮度ラベル用構造体1と、鮮度ラベル用構造体1に担持された水と酸とを含む。言い換えると、鮮度ラベル11Aは酸性水溶液を担持している。酸としては、例えば、ギ酸、塩酸、酢酸、又はこれらの混合物を用いる。安全性の観点から、酸としては酢酸を用いることが好ましい。また、凝集誘起蛍光体3aの極性官能基は、酸性官能基であることが好ましい。ここでは、一例として、凝集誘起蛍光体3aの極性官能基は酸性官能基であるとする。
【0079】
図11に示す封止部材付き鮮度ラベル10Aは、例えば、図3に示す封止部材付き鮮度ラベル10を、高濃度の酸を含む水溶液に所定時間浸漬させることにより得られる。封止部材付き鮮度ラベル10Aにおける酸の含有量は、所望の蛍光強度に応じて調整され得る。
【0080】
図11に示す封止部材付き鮮度ラベル10Aにおいて、鮮度ラベル11Aは酸を含むため、凝集誘起蛍光体3aの分子配列は、水を含んでいない状態に近いか、あるいは、酸成分の存在により凝集誘起蛍光体3aのコンホメーションが変化していることなどが考えられる。したがって、この封止部材付き鮮度ラベル10Aは、図3に示す封止部材付き鮮度ラベル10と比較して強い蛍光を示す。
【0081】
この封止部材付き鮮度ラベル10Aの蛍光強度は、塩基性の対象成分と接すると低下し、一定量以上の塩基性の対象成分と接すると無蛍光となる。すなわち、図11に示す封止部材付き鮮度ラベル10Aの蛍光強度は、対象成分の濃度及びK値と負の相関を示し得る。したがって、図3に示す封止部材付き鮮度ラベル10と同様に、封止部材付き鮮度ラベル10Aの蛍光強度を数値化し、この数値と対象成分の濃度又はK値との関係を表す検量線を予め準備しておけば、蛍光強度の測定を行い、この測定結果を検量線に参照することにより、対象成分の気相中における濃度又は食品のK値を得ることができる。
【0082】
封止部材付き鮮度ラベルは、水等を含ませていない封止部材付き鮮度ラベル用構造体の状態で流通させ、例えば、食品P1とともに密閉容器に封入する現場で水等を含ませてもよい。この場合、封止部材付き鮮度ラベル用構造体は、この封止部材付き鮮度ラベル用構造体と、これに含ませるべき1以上の液体、すなわち、水、酸、又は、水と酸との組み合わせとを含んだ鮮度ラベルキットとして流通させてもよい。あるいは、封止部材付き鮮度ラベル用構造体は、封止部材と、鮮度ラベル用構造体とに分け、更に鮮度ラベル用構造体に含ませるべき上記1以上の液体を含んだ鮮度ラベルキットとして流通させてもよい。水と酸との組み合わせを鮮度ラベルキットに含める場合、水と酸とは別々の容器に収容してもよく、混合して水溶液として単一の容器に収容してもよい。
【0083】
あるいは、封止部材付き鮮度ラベル用構造体に水等を含ませてなる封止部材付き鮮度ラベル10又は10Aを流通させ、これを食品P1とともに密閉容器に封入してもよい。
【0084】
以上説明した実施形態に係る封止部材付き鮮度ラベル用構造体が含む鮮度ラベル用構造体は、基材に固着した蛍光体層を備える。したがって、鮮度ラベル用構造体に水を含浸させることにより鮮度ラベルを調製できる。水を含む鮮度ラベルは、気相中の水の影響を受けにくいため、有機溶媒を含む鮮度ラベルと比較して、高い精度で食品の鮮度を評価できる。また、実施形態に係る封止部材付き鮮度ラベルは、防水構造を有し、これを取り巻く環境に存在する水性液体が蛍光強度に影響を及ぼすことがないため、水性液体が存在する様々な環境下において高い精度で食品の鮮度を評価できる。
【実施例
【0085】
<例1>
本例では、封止部材付き鮮度ラベル10と封止部材付き鮮度ラベル10Aとを製造し、更に封止部材付き鮮度ラベル10Aを、食品の鮮度を評価する初期の鮮度ラベル状態(初期状態)として鮮魚の鮮度を評価した。
【0086】
図3及び図4に示す封止部材付き鮮度ラベル10を、以下の方法で製造した。先ず、凝集誘起蛍光体3aをエタノールに溶解して、濃度200μMの処理液を調製した。この処理液に基材2を浸漬させた後、基材2を処理液内から引き上げ、保持体12上に設置して乾燥させた。凝集誘起蛍光体3aとしては、上記構造式(6)に示す化合物を用いた。基材2としては、市販のガラス濾紙(GS-25;アドバンテック株式会社)を用いた。保持体12としては、ガラス板を用いた。このようにして、図1に示す鮮度ラベル用構造体1を得た。
【0087】
次に、乾燥させた鮮度ラベル用構造体1を囲むように接合部材14を配置し、それらの上に疎水性の多孔質部材13を積層した。接合部材14として熱圧着フィルム(フィクセロン(登録商標);株式会社アイセロ)を使用し、疎水性の多孔質部材13としてPTFEフィルター(マイテックス(Mitex)(登録商標)メンブレンフィルター;孔径5.0μm;メルクミリポア株式会社)を使用した。得られた積層体を、200℃に加熱したホットプレート上に載置し、その上からオモリを載せて2分間圧力をかけることにより、多孔質部材13と保持体12とを密着させ、封止部材付き鮮度ラベル用構造体を得た。UVランプで紫外線を照射しながら封止部材付き鮮度ラベル用構造体を観察したところ、強い蛍光を発することを確認した。UVランプによって照射した紫外線の波長は365nmであった。
【0088】
次に、この封止部材付き鮮度ラベル用構造体を、純水中に浸漬させた。この状態で半日静置した後、これを純水から引き上げた。このとき鮮度ラベル用構造体1は、疎水性の多孔質部材13を介して水分を吸収することにより鮮度ラベル11となっており、これにより図3及び4に示す封止部材付き鮮度ラベル10を得た。以下、この封止部材付き鮮度ラベル10を封止部材付き鮮度ラベルR1と称する。UVランプで紫外線を照射しながら封止部材付き鮮度ラベルR1を観察したところ、無蛍光の消光状態であることを確認した。また、この際の封止部材付き鮮度ラベルR1を、デジタルカメラを用いて撮影し、デジタル画像データを記録した。図12にその画像を示す。
【0089】
得られた封止部材付き鮮度ラベルR1を、数vol%濃度の酢酸水に1時間程度浸漬させた後、これを引き上げた。このとき鮮度ラベル11は、疎水性の多孔質部材13を介して水分及び酢酸を吸収しており、これにより図11に示す封止部材付き鮮度ラベル10Aを得た。以下、この封止部材付き鮮度ラベル10Aを封止部材付き鮮度ラベルR2と称する。UVランプで紫外線を照射しながら封止部材付き鮮度ラベルR2を観察したところ、強い蛍光を発することを確認した。また、この際の封止部材付き鮮度ラベルR2を、デジタルカメラを用いて撮影し、デジタル画像データを記録した。図12にその画像を示す。
【0090】
上記で得た封止部材付き鮮度ラベルR2を、食品の鮮度を評価する初期の鮮度ラベル状態(初期状態)として、以下に示す方法により鮮魚の鮮度を評価した。
2つの封止部材付き鮮度ラベルR2を、それぞれ、鮮魚のあじの魚肉片を入れたプラスチック容器内、及び、対照用の純水を入れたプラスチック容器内に設置し密閉した。これら容器を20℃に設定した恒温槽に投入した。20時間後、各容器内から封止部材付き鮮度ラベルR2を取り出し、UVランプで紫外線を照射しながら観察して、蛍光強度を確認した。この際の封止部材付き鮮度ラベルR2を、デジタルカメラを用いて撮影し、デジタル画像データを用いて記録した。図12にその画像を示す。
【0091】
図12の画像に示されるとおり、あじを入れた容器内に設置された封止部材付き鮮度ラベルR2の蛍光強度は、試験前である初期状態の蛍光強度と比較して著しく低下していた。このことからあじの鮮度低下に伴い発生する対象成分と鮮度ラベルが反応して蛍光強度が低下していることがわかる。これに対して、純水を入れた容器内に設置された封止部材付き鮮度ラベルR2の蛍光強度は、初期状態の蛍光強度とほぼ同等であった。このように純水では蛍光低下は確認できず、封止部材付き鮮度ラベルR2の鮮度判定能力が保たれていることがわかる。
【0092】
<例2>
本例では、封止部材付き鮮度ラベルの防水機能を評価した。
封止部材付き鮮度ラベルとして例1で製造した封止部材付き鮮度ラベルR2を用いた。封止部材付き鮮度ラベルR2を、封止部材付き鮮度ラベルR2が水没する程度の純水が入った容器に入れて純水中に浸漬させた。この状態で1時間経過後、封止部材付き鮮度ラベルR2を純水中から取り出し、UVランプで紫外線を照射しながら観察して、蛍光強度を確認した。また、この際の封止部材付き鮮度ラベルR2を、デジタルカメラを用いて撮影し、デジタル画像データを用いて記録した。その結果、浸漬前である封止部材付き鮮度ラベルR2の初期状態の蛍光強度とほぼ同等であった。このように封止部材付き鮮度ラベルR2において、水性液体に対する防水機能と鮮度ラベルとしての蛍光機構が維持できていることが確認された。
【0093】
また、封止部材付き鮮度ラベルR2を純水中に浸漬させた上記状態で一週間経過させた後、これを観察したところ、疎水性の多孔質部材13に剥がれなどの劣化は確認されなかった。また、水滴を弾く防水性も低下していないことを確認した。
【0094】
<例3>
本例では、保湿剤を含む封止部付き鮮度ラベルの効果を評価した。保湿剤を含む封止部材付き鮮度ラベルは、例えば、水揚げした鮮魚を箱詰めし、漁港からトラックなどによる搬送工程を経て市場や顧客に届けられる場合の鮮魚の鮮度管理に好適に使用される。箱の中には、通常、鮮魚と共に保冷材として氷、水、海水などが入れられ、搬送中などは振動などにより水滴や氷塊が飛び散る。このため保冷箱内で鮮度ラベルを使用して鮮魚の鮮度管理をするためには、ある程度の容量の水分や氷塊が鮮度ラベルに被っても、蛍光発光状態に影響が出ないように、鮮度ラベルに防水構造を設ける必要がある。加えて、搬送された後において鮮魚の鮮度が良好に維持されている間は、初期の蛍光発光状態を維持できることが求められる。
そこで、本例では、保湿剤を含有する封止部材付き鮮度ラベルと保湿剤を含有しない封止部材付き鮮度ラベルの蛍光状態を、鮮魚と氷水が入れられた保冷箱を用い、実際の状況を評価した。
【0095】
本例では、保湿剤を含まない封止部材付き鮮度ラベルとして、例1で製造した封止部材付き鮮度ラベルR2を用いた。また、保湿剤を含む封止部材付き鮮度ラベルは、保湿剤としてグリセリンを使用し、以下のように製造した。先ず、例1の封止部材付き鮮度ラベルR2の製造方法において、鮮度ラベル用構造体1を製造するために調製した凝集誘起蛍光体3aとエタノールを含有する処理液に、グリセリンを添加した。グリセリンは、処理液中の濃度が5質量%となるように添加した。これ以外は封止部材付き鮮度ラベルR2の製造方法と同様の方法で製造した。得られた保湿剤を含む封止部付き鮮度ラベルを、封止部材付き鮮度ラベルR3と称する。
【0096】
2つの封止部材付き鮮度ラベルR3を、それぞれ、漁港から水揚げされてすぐの鮮魚と氷水を入れた保冷箱内、及び、対照用の氷水だけを入れた保冷箱内に設置し密閉した。また、2つの封止部材付き鮮度ラベルR2を、それぞれ、漁港から水揚げされてすぐの鮮魚と氷水を入れた保冷箱内、及び、対照用の氷水だけを入れた保冷箱内に設置し密閉した。これら4種の保冷箱を、漁港から市場へ2時間ほどかけてトラックで搬送し、市場での卸業を経てさらにトラックで想定顧客の元へ2時間ほどかけて搬送した。搬送後の各保冷箱は、水揚げ搬送後約1日経過するまで、水氷が溶け切らずに冷蔵状態を維持した状態でおかれた。
【0097】
搬送前(漁港水揚げ時)、搬送から半日経過後、及び搬送から約1日経過後に、各保冷箱から封止部材付き鮮度ラベルを取り出し、UVランプで紫外線を照射しながら観察して、蛍光強度を確認した。この際の各封止部材付き鮮度ラベルを、デジタルカメラを用いて撮影し、デジタル画像データを用いて記録した。図13にその画像を示す。図13から、グリセリンを含有する封止部材付き鮮度ラベルR3は、鮮魚判定及び対照用の何れにおいても、搬送後約1日経過後でも搬送前の蛍光強度とほぼ同等であり、鮮度判定が可能な状態であることがわかる。一方、グリセリンを含有しない封止部材付き鮮度ラベルR2は、鮮魚判定及び対照用の何れにおいても蛍光消光の現象が現れている。氷水のみの対照用においてこの現象が現れていることから、封止部材付き鮮度ラベルR2においては鮮度ラベルから酸成分の濃度が低下し始めていることが推測される。すなわち、保湿成分がないために、保冷箱搬送のような振動状態が長く続く場合に、鮮度ラベル中の水分の出入りも激しくなり、同時に酸成分の出入りも伴って鮮度ラベル中の水分量濃度が上がり、鮮度判定にいたらず消光作用が起きてしまったものと推察される。これは、保冷箱搬送のような場合に特有な現象と考えられる。なお、約1日経過後の鮮魚の鮮度状態は、K値判定において10%以下を示し、良好な鮮度状態を維持していた。
【0098】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0099】
1・・・鮮度ラベル用構造体
2・・・基材
3・・・蛍光体層
3a・・・凝集誘起蛍光体
10、20、30・・・封止部材付き鮮度ラベル
11・・・鮮度ラベル
12・・・保持体
13・・・多孔質部材
14、14a、14b・・・接合部材
15・・・フィルム
16・・・第1の筐体部材
161・・・第1の底壁
162・・・第1の周壁
163・・・溝
17・・・第2の筐体部材
171・・・第1の底壁
172・・・第1の周壁
173・・・開口
18・・・内部空間
40・・・包装食品
P1・・・食品
T トレイ
[付記]
以下に、本願の出願当初の特許請求の範囲に記載された発明を付記する。
[1]
基材と、前記基材に固着された凝集誘起蛍光体を含む蛍光体層とを含む鮮度ラベル用構造体と、
前記鮮度ラベル用構造体を封止する水性液体不透過性の封止部材であって、水性液体不透過性で且つ気体透過性の多孔質部材からなる部位を含む封止部材と
を備えた封止部材付き鮮度ラベル用構造体。
[2]
前記蛍光体層は、水を含有することで消光する付記[1]に記載の封止部材付き鮮度ラベル用構造体。
[3]
前記蛍光体層は、水と酸を含有することで蛍光状態となる付記[1]又は[2]に記載の封止部材付き鮮度ラベル用構造体。
[4]
前記鮮度ラベル用構造体は保湿剤を含む、付記[1]~[3]の何れか1に記載の封止部材付き鮮度ラベル用構造体。
[5]
付記[1]~[4]の何れか1に記載の封止部材付き鮮度ラベル用構造体と、
前記鮮度ラベル用構造体に担持された水と
を含む封止部材付き鮮度ラベル。
図1
図2
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図5
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図8
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図10
図11
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図13