(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-02-13
(45)【発行日】2025-02-21
(54)【発明の名称】電極、水電解用陽極、電解セル、及び水素の製造方法
(51)【国際特許分類】
C25B 11/077 20210101AFI20250214BHJP
C25B 1/04 20210101ALI20250214BHJP
C25B 11/02 20210101ALI20250214BHJP
C01B 3/02 20060101ALI20250214BHJP
B01J 23/847 20060101ALI20250214BHJP
【FI】
C25B11/077
C25B1/04
C25B11/02 301
C01B3/02 H
B01J23/847 M
(21)【出願番号】P 2021052324
(22)【出願日】2021-03-25
【審査請求日】2023-11-22
(73)【特許権者】
【識別番号】000000033
【氏名又は名称】旭化成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100181272
【氏名又は名称】神 紘一郎
(72)【発明者】
【氏名】新納 英明
(72)【発明者】
【氏名】藤井 雄一
【審査官】相田 元
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/155503(WO,A1)
【文献】特開2017-190476(JP,A)
【文献】国際公開第2019/172160(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/139616(WO,A1)
【文献】特開2019-183252(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2013/0020207(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C25B 11/00-11/097
C25B 1/00- 9/77
C25B 13/00-15/08
C01B 3/00- 6/34
B01J 21/00-38/74
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ニッケル基材上に、LaNi
xNb
yO
3-z(x+yは0.8以上1.2以下、yは0以上0.2以下、zは-0.5以上0.5以下)を有し、視野幅100μmで観察されるニッケル基材とLaNi
xNb
yO
3-z層との間の界面において、(界面の端から端までの延在長さ)/(界面の端から端の直線距離)の比率が、1.5以上3以下であることを特徴とする、電極。
【請求項2】
前記LaNi
xNb
yO
3-z層の厚みが60μm以上100μm以下である、請求項1に記載の電極。
【請求項3】
前記yが0.001以上0.15以下である、請求項1又は2に記載の電極。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか一項に記載の電極を陽極に用いてなることを特徴とする、電解セル。
【請求項5】
アルカリを含有する水を電解槽により水電解し、水素を製造する水素製造方法において、前記電解槽は、少なくとも陽極と陰極を備え、前記陽極は、基材上に、LaNi
xNb
yO
3-z(x+yは0.8以上1.2以下、yは0以上0.2以下、zは-0.5以上0.5以下)を有し、視野幅100μmで観察されるニッケル基材とLaNi
xNb
yO
3-z層との間の界面において、(界面の端から端までの延在長さ)/(界面の端から端の直線距離)の比率が、1.5以上3以下であることを特徴とする、水素の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電極、水電解用陽極、該水電解用陽極を用いた複極式電解セル、及び該水電解用陽極を用いた水素の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、CO2による地球温暖化、化石燃料の埋蔵量の減少等の問題を解決するためのクリーンエネルギーとして、再生可能エネルギーを利用して製造した水素が注目されている。再生可能エネルギーを利用した水素製造においては、従来の化石燃料の改質による水素製造に匹敵する安価なコストが求められている。そのため、再生可能エネルギーを利用した水素製造には、従来の技術では達成できなかった水準の高いエネルギー効率と安価な設備が求められる。
【0003】
上記の要求に応え得る水素の製造方法として、水の電解分解(水電解)が挙げられる。例えば、風力又は太陽光等の自然エネルギーによる発電を利用した水電解により、水素を製造し、貯蓄あるいは運搬する構想がいくつも提案されている。
【0004】
水の電気分解では、水に電流を流すことにより陽極において酸素が発生し、陰極において水素が発生する。電解における主なエネルギー損失の要因として、陽極及び陰極の過電圧が挙げられる。この過電圧を低減することで、効率よく水素を製造することが可能になる。特に陽極の過電圧は陰極の過電圧に比べて高く、陽極の過電圧を下げるための研究開発が広く進められている。
【0005】
ペロブスカイト型構造を有する酸化物の中には、高い酸素発生能を有する材料が知られており、水電解用陽極材料として着目されている(非特許文献1)。ペロブスカイト型構造を有する酸化物を、アルカリ水電解用陽極として用いるためには、導電性基材の表面上に酸化物層を形成する方法がある。例えば特許文献1には、ニッケル多孔基材の表面上に、結晶成分におけるペロブスカイト型酸化物の含有率が高い金属酸化物の層を形成させることで、低い酸素過電圧と高い耐久性を有する水電解用陽極、およびその陽極を用いた水電解装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【非特許文献】
【0007】
【文献】Science,2011,334,1383
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1に記載の陽極は、長時間の通電に対し高い耐久性を示すが、ゼロギャップ型電解セルにて通電後回収した電極は、高い過電圧を示す課題があると分かった。
【0009】
本発明は、このような問題に鑑みてなされたものであり、ゼロギャップ型電解セルにて通電回収後の酸素発生の過電圧が低い電極、水電解用の陽極、該水電解用陽極を用いた複極式電解セル、及び該水電解用陽極を用いた水素の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究し、実験を重ねた。その結果、基材との間の界面に特定の構造を有するLaNixMyO3-z層を形成させた電極が、ゼロギャップ型電解セルにて通電回収後の酸素発生の過電圧が低く、再利用を前提とした水電解用陽極として利用が可能であることを見出し、本発明に至った。
【0011】
すなわち、本発明は、以下のとおりである。
[1]ニッケル基材上に、LaNixNbyO3-z(x+yは0.8以上1.2以下、yは0以上0.2以下、zは-0.5以上0.5以下)を有し、視野幅100μmで観察されるニッケル基材とLaNixNbyO3-z層との間の界面において、(界面の端から端までの延在長さ)/(界面の端から端の直線距離)の比率が、1.5以上3以下であることを特徴とする、電極。
[2]前記LaNixNbyO3-z層の厚みが60μm以上100μm以下である、[1]に記載の電極。
[3]前記yが0.001以上0.15以下である、[1]又は[2]に記載の電極。
[4][1]~[3]のいずれかに記載の電極を陽極に用いてなることを特徴とする、電解セル。
[5]アルカリを含有する水を電解槽により水電解し、水素を製造する水素製造方法において、前記電解槽は、少なくとも陽極と陰極を備え、前記陽極は、基材上に、LaNixNbyO3-z(x+yは0.8以上1.2以下、yは0以上0.2以下、zは-0.5以上0.5以下)を有し、視野幅100μmで観察されるニッケル基材とLaNixNbyO3-z層との間の界面において、(界面の端から端までの延在長さ)/(界面の端から端の直線距離)の比率が、1.5以上3以下であることを特徴とする、水素の製造方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、再利用を前提としてゼロギャップ型電解セルにて使用可能な、低い酸素過電圧を有する電極、水電解用陽極、及びこの水電解用陽極を備えた水電解セルを得られる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本実施形態の電極を陽極として備える電解セルを含む電解槽の一例の全体について示す側面図である。
【
図2】本実施形態の電極を陽極として備える電解セルを含む電解槽の、
図1の破線四角枠の部分の電解セル内部の断面を示す図である。
【
図3】実施例、比較例で用いた電解装置の概要を示す図である。
【
図4】電解試験で用いた複極式電解槽の概要を示す図である。
【
図6】
図5より切り取られた100μm角領域の画像の一例である。
【
図7】
図6から界面を抽出し細線化処理を行った画像である。
【
図8】
図7の界面の端から端までの延在長さのイメージである。
【
図9】
図7の界面の端から端の直線距離のイメージである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明を実施するための形態(以下、「本実施形態」という。)について詳細に説明する。なお、以下の本実施形態は本発明を説明するための例示であり、本発明を限定する趣旨ではない。また、本発明は、その要旨を逸脱しない限り、さまざまな変形が可能である。
【0015】
(電極)
本実施形態において、電極は、少なくとも、ニッケル基材を有することが第一の特徴である。ニッケル基材とは、ニッケル又はニッケルを主成分とした材料で構成される基材である。ニッケルを主成分とした材料としては、例えばモネル、インコネルやハステロイなどのニッケル基合金が挙げられる。
ニッケル基材の形状としては、平板状でもよいが、多数の孔を有する板状である多孔体であってもよい。多孔体の具体的な形状としては、エキスパンドメタル、パンチングメタル、平織メッシュ、発泡金属、又はこれらに類似する形状が挙げられる。これらの中で、エキスパンドメタルが好ましく、寸法は特に制限されないが、電解表面積増加によるガス発生量の増加と、電解により発生するガスの電極表面からの効率的な除去を両立させるため、また、機械的強度の観点から、メッシュの短目方向の中心間距離(SW)は2mm以上5mm以下、メッシュの長目方向の中心間距離(LW)は3mm以上10mm以下、厚みは0.2mm以上2mm以下、開口率は20%以上80%以下が好ましい。より好ましくは、SWは3mm以上4mm以下、LWは4mm以上6mm以下、厚みは0.8mm以上1.5mm以下、開口率は40%以上60%以下である。
【0016】
本実施形態において、ニッケル基材は、サンドブラスト処理しておくことが好ましい。サンドブラスト処理を行う際に使用する研磨剤の材質としては、褐色溶融アルミナ、カーボランダム、白色溶融アルミナ等、公知の研磨剤を使用することができるが、化学的安定性から、白色溶融アルミナを使用することが好ましい。また、研磨材の番手としては、40番以上が220番以上を使用すると、(界面の端から端までの延在長さ)/(界面の端から端の直線距離)の比率が、1.5以上3以下とすることが容易となり、好ましい。
ニッケル基材をサンドブラスト処理した後は、酸等によりエッチングを行い、残留研磨材を除去することが好ましい。
【0017】
本実施形態において、LaNixNbyO3-z(x+yは0.8以上1.2以下、yは0以上0.2以下、zは-0.5以上0.5以下)を有することが、第二の特徴である。LaNixNbyO3-zは、ニッケル基材上に直接的に積層され、LaNixNbyO3-z層を形成していてよく、ニッケル基材とLaNixNbyO3-z層との間で界面が形成されていてよい。
本実施形態においては、ペロブスカイト型構造の金属酸化物として、Bサイトの少なくとも一部に、Niを配置することで、高い酸素発生能を実現することができる。さらに、Niと共にBサイトにNbを配置すると、ゼロギャップ型電解セルにて通電回収後により低い酸素発生の過電圧を付与できるため、好ましい。
x+yは、ゼロギャップ型電解セルにて通電回収後に低い酸素発生の過電圧を付与する観点から0.8以上1.2以下である。より好ましくは0.8以上1.05以下であり、さらに好ましくは、1.0以上1.05以下である。
yは、0以上0.2以下である。好ましくは0.001以上0.15以下であり、さらに好ましくは、0.002以上0.05以下である。
zは、-0.5以上0.5以下である。本発明において、zは、Laを3価、Niを3価、Nbを5価、Oを-2価とし、組成式の価数バランスが合うように計算し求められるOの組成比率3-zより求められる。例えば、組成式LaNixNbyO3-zにおいて、x=0.9、y=0.1であれば、3-z=(3+3×0.9+5×0.1)/2の関係式から、z=-0.1と求まる。
基材上に、LaNixNbyO3-z(x+yは0.8以上1.2以下、yは0以上0.2以下、zは-0.5以上0.5以下)を有することは、例えば、基材上のLaNixNbyO3-z層を剥離して王水に溶解し、ICP-AES(誘導結合プラズマ発光分光分析)法により組成分析を行う方法や、基材上のLaNixNbyO3-z層を剥離して蛍光X線分析装置により組成分析を行う方法や、電極断面のLaNixNbyO3-z層をSEM-EDX分析することなど公知の方法により確認することができる。
【0018】
本実施形態において、視野幅100μmで観察されるニッケル基材とLaNixNbyO3-z層との間の界面において、(界面の端から端までの延在長さ)/(界面の端から端の直線距離)の比率が、1.5以上3以下であることが、第三の特徴である。「界面の端から端までの延在長さ」とは、界面をなす線の一方の端から他方の端まで界面をなす線に沿ってたどったときの長さをいう。また、「界面の端から端の直線距離」とは、界面をなす線の両端(一方の端及び他方の端)間の直線距離をいう。
本実施形態において、(界面の端から端までの延在長さ)/(界面の端から端の直線距離)の比率算出は、電極の小片を、エポキシ樹脂に包埋した後に、切断研磨により断面観察試料を作成し、電子顕微鏡にて倍率500倍にて観察した反射電子像から、界面を抽出する画像を視野幅100μmに設定して切り出し、切り出した画像から画像処理ソフトにより画像処理を行い界面を抽出して、切り出した画像における界面の端から端までの延在長さおよび、界面の端から端の直線距離を求め、比率を算出することにより行う。
断面写真は、基材に折れ曲がりがある場合、折れ曲がりの山部(凸部)、および谷部(凹部)を避けて撮影したものを用いる。
界面を抽出する視野幅100μm領域は、領域内で界面が右端から左端までつながっており、一度も設定部位の上下左右端により切れることが無いように設定する。
画像を切り出す際には、高さ100μm、幅100μmの100μm角の画像を切り出すことが好ましい。このように切り出すと、界面の端から端の直線距離が、おおよそ120±20μmの範囲に収まり、画像の切り出しが容易となる。
画像を処理する際には、ノイズを除去する目的で、適宜フィルター処理を行うことが好ましい。
画像処理の具体的な方法は、実施例にて後述する。
【0019】
本発明者らは、ニッケル基材上に、LaNixNbyO3-zを有し、視野幅100μmで観察されるニッケル基材とLaNixNbyO3-z層との間の界面において、(界面の端から端までの延在長さ)/(界面の端から端の直線距離)の比率が、1.5以上3以下である電極が、驚くべきことにゼロギャップ型電解セルにて通電回収後の酸素発生の過電圧が低いことを見出した。この理由は明らかではないが、ニッケル基材とLaNixNbyO3-z層との間の界面の凹凸を増すことでアンカー効果を生じて密着性を生じ、特に通電後回収時の純水による洗浄や、ゼロギャップ構造分解時における隔膜やリブからの取り外し等の、物理的、化学的衝撃による電極触媒の基材界面からの剥離が抑制されたためであると思われる。
ゼロギャップ型電解セルにて通電回収後の酸素発生の過電圧を低くする観点から、視野幅100μmで観察されるニッケル基材とLaNixNbyO3-z層との間の界面における(界面の端から端までの延在長さ)/(界面の端から端の直線距離)の比率は、1.6以上2.8以下が好ましく、より好ましくは1.7以上2.6以下である。
本実施形態において、LaNixNbyO3-z層の厚みは、(界面の端から端までの延在長さ)/(界面の端から端の直線距離)の比率算出に用いた断面観察試料を電子顕微鏡にて観察し、金属酸化物の層の厚みを5点測定した値の平均値を厚みとして求めた。
【0020】
LaNixNbyO3-z層の厚みは、通電回収後の酸素発生の過電圧を低くする観点から、60μm以上100μm以下であることが好ましい。60μm以上であると、(界面の端から端までの延在長さ)/(界面の端から端の直線距離)の比率が、1.5以上となりやすい。100μm以下であると、電極調製が容易となり、生産性の観点から好ましい。後述の、ディップコート法により電極を調製すると、塗布、乾燥、仮焼成の繰り返しにおいて、酸性の塗布液による仮焼成体の溶解および再析出が起こる結果、ロールコート法等他の塗布方法に比較し、LaNixNbyO3-z層の厚みは断面方向に厚くなる傾向にある。より好ましくは、65μm以上95μm以下であり、さらに好ましくは、70μm以上85μm以下である。
【0021】
本実施形態の電極は、水電解用陽極として実用に供することが可能であり、本実施形態の電極を陽極に用いた水電解用電解セル、及び該水電解用陽極を用いた水素の製造方法を提供することが可能である。水電解にはアルカリを含有する水を用いてよい。
【0022】
(電極の調製法)
本実施形態の電極は、基材にLa、Ni、Nbの金属塩を含む水溶液(塗布液)を塗布し、乾燥、仮焼成を行い、基材上に所定重量のLaNixNbyO3-z前駆体を形成後、これを本焼成することにより調製することができる。
【0023】
金属塩としては、硝酸塩、オキシ硝酸塩、塩化物、シュウ酸塩、酒石酸塩、酢酸塩、硫酸塩、等水溶性の塩を用いることができる。金属塩は、無水塩でも、含水塩でも構わない。
La、Ni、Nbは、金属塩の代わりに、酸化物あるいは水酸化物の水分散性のゾルを使用してもよい。
Nbの金属塩としては、溶解性の観点から、シュウ酸ニオブもしくはシュウ酸ニオブアンモニウムを用いることが好ましい。
特に、La、Niの金属塩として硝酸塩を、Nbの塩としてシュウ酸ニオブアンモニウムを塗布液に加えると、塗布液のpHが下がり、比較的少ない塗布、乾燥、仮焼成の繰り返し回数で、(界面の端から端までの延在長さ)/(界面の端から端の直線距離)の比率が1.5以上となりやすいため、好ましい。例えば、実施例2の組成LaNi0.999Nb0.001O3.005、濃度0.2mol/kg溶媒の塗布液のpHは約3.5である。
塗布液には、グリシン等のアミノ酸、シュウ酸や酒石酸等のカルボン酸等、有機配位子を添加することが、高温のアルカリへの耐久性の高いLaNixNbyO3-zの調製を容易にする観点から、好ましい。
特にグリシンと金属硝酸塩を溶解した塗布液を用いると、ゼロギャップ型電解セルにて通電回収後の酸素発生の過電圧が低い電極を調製することが容易となるため、グリシンは好ましい有機配位子である。
【0024】
La、Ni、Nbの金属塩を含む水溶液の濃度は、LaNixNbyO3-z基準の重量モル濃度で0.1mol/kg溶媒以上、4mol/kg溶媒以下が好ましい。0.1mol/kg溶媒以上では、少ない塗布回数で電極調製が可能となる。4mol/kg溶媒以下では、金属塩や有機配位子の溶解が容易となり、塗布液の生産性の観点から好ましい。より好ましくは、0.2mol/kg溶媒以上2.0mol/kg溶媒以下であり、さらに好ましくは0.2mol/kg溶媒以上1.0mol/kg溶媒以下である。
【0025】
基材に塗布液を塗布後、乾燥する温度は、50℃以上200℃以下が好ましい。50℃以上であれば、乾燥が3分以上1時間以内で完了し、生産性の観点から好ましい。200℃以下であれば、乾燥後基材の冷却時間が短くなり、生産性の観点から好ましい。
基材への塗布液の塗布法としては、基材を塗布液中に完全に浸漬するディップコート法が好ましい。ディップコート法により塗布を行うと、過剰の酸性の塗布液が基材に繰り返し接触するため、ニッケル基材表面における、酸性塗布液による溶解等の反応が繰り返し起こるため、ニッケル基材とLaNixNbyO3-z層との間の界面における(界面の端から端までの延在長さ)/(界面の端から端の直線距離)の比率を1.5以上とすることが容易である。
基材を塗布液中に浸漬する際には、基材の向きを斜めにしてゆっくりと入れると、気泡を付着させることなく基材を完全に浸漬することが可能となり、また基材表面に形成された金属酸化物層(仮焼成体層)内の空隙が塗布液で完全に置換されるため、ニッケル基材とLaNixNbyO3-z層との間の界面における(界面の端から端までの延在長さ)/(界面の端から端の直線距離)の比率を1.5以上とすることが容易となり、好ましい。
また、基材を完全に浸漬した後、5秒間以上塗布液中で保持することにより、ニッケル基材とLaNixNbyO3-z層との間の界面における(界面の端から端までの延在長さ)/(界面の端から端の直線距離)の比率を1.5以上とすることが容易となり、好ましい。
乾燥後の基材を仮焼成する温度は、300℃以上500℃以下が好ましい。300℃以上であれば、仮焼成が3分以上1時間以内で完了し、生産性の観点から好ましい。500℃以下であれば、乾燥後基材の冷却時間が短くなり、生産性の観点から好ましい。
塗布、乾燥、仮焼成は、所望のLaNixNbyO3-z付着量の電極を調製するため、繰り返し行なってもよく、繰り返し回数が多いほど、(界面の端から端までの延在長さ)/(界面の端から端の直線距離)の比率が大きくなる傾向にあり、好ましい。好ましくは50回以上であり、より好ましくは60回以上である。
【0026】
本焼成する温度は、500℃以上1000℃以下で行うことが可能であるが、750℃以上で焼成することが好ましい。750℃以上で焼成すると、10分以上24時間以内の焼成時間で、(界面の端から端までの延在長さ)/(界面の端から端の直線距離)の比率を1.5以上に制御し、ゼロギャップ型電解セルにて通電回収後の酸素発生の過電圧が低い電極を調製することが可能となり、生産性の観点から好ましい。
【0027】
Nbは、あらかじめLa、Niの金属塩、または酸化物あるいは水酸化物の水分散性のゾルを含む塗布液を塗布し、乾燥、仮焼成を行なった後、電極にNbの金属塩または酸化物あるいは水酸化物の水分散性のゾルを含む塗布液を上塗りする要領で塗布し、乾燥、仮焼成し、本焼成する方法で添加してもよい。
また、Nbは、あらかじめLa、Niの金属塩または酸化物あるいは水酸化物の水分散性のゾルを含む塗布液を塗布し、乾燥、仮焼成、本焼成を行なった後、電極にNbの金属塩または酸化物あるいは水酸化物の水分散性のゾルを含む塗布液を上塗りする要領で塗布し、乾燥、仮焼成し、本焼成する方法で添加してもよい。
【0028】
(電解槽)
図1に、本実施形態の電極を陽極として備える電解セルを含む電解槽の一例の全体についての側面図を示す。
図2に、本実施形態の電極を陽極として備える電解セルを含む電解槽の一例のゼロギャップ構造の図(
図1に示す破線四角枠の部分の断面図)を示す。
本実施形態の複極式電解槽50(
図3参照)は、隔膜4が陽極2a及び陰極2cと接触してゼロギャップ構造Zが形成されている(
図2参照)。
なお、
図3に、実施例、比較例で用いた電解装置の概要を示す。
図4に、電解試験で用いた複極式電解槽の概要を示す。
【0029】
(エレメント)
図1に示すように、複極式電解槽50では、複極式エレメント60が、陽極ターミナルエレメント51aと陰極ターミナルエレメント51cとの間に配置され、隔膜4は、陽極ターミナルエレメント51aと複極式エレメント60との間、隣接して並ぶ複極式エレメント60同士の間、及び複極式エレメント60と陰極ターミナルエレメント51cとの間に配置されている。
本実施形態では、特に、複極式電解槽50における、隣接する2つの複極式エレメント60間の互いの隔壁1間における部分、及び、隣接する複極式エレメント60とターミナルエレメントとの間の互いの隔壁1間における部分、を電解セル65と称する。電解セル65は、一方のエレメントの隔壁1、陽極室5a、陽極2a、及び、隔膜4、及び、他方のエレメントの陰極2c、陰極室5c、隔壁1を含む。
【0030】
(電極室)
本実施形態における複極式電解槽50では、
図2に示すとおり、隔壁1と外枠3と隔膜4とにより、電解液が通過する電極室5が画成されている。ここで、隔壁1を挟んで陽極側の電極室5が陽極室5a、陰極側の電極室5が陰極室5cである。
本実施形態においては、複極式電解槽のヘッダー管の配設態様としては、内部ヘッダー型及び外部ヘッダー型を採用できるところ、陽極及び陰極自身が占める空間も電極室の内部にある空間であるものとしてよい。また、特に、気液分離ボックスが設けられている場合、気液分離ボックスが占める空間も電極室の内部にある空間であるものとしてよい。
【0031】
(リブ)
本実施形態のアルカリ水電解用複極式電解セル65では、リブ6が電極2と物理的に接続されていることが好ましい。かかる構成によれば、リブ6が電極2の支持体となり、ゼロギャップ構造Zを維持しやすい。また、リブ6は隔壁1と電気的につながっていることが好ましい。また、リブ6を設けることでは、電極室5内における気液の流れの乱れにより電極室5に生じる対流を低減して、局所的な電解液の温度の上昇を抑制することができる。
ここで、リブに、電極が設けられていてもよく、リブに、集電体、導電性弾性体、電極がこの順に設けられていてもよい。
前述の一例のアルカリ水電解用複極式電解セルでは、陰極室において、陰極リブ-陰極集電体-導電性弾性体-陰極の順に重ね合わせられた構造が採用され、陽極室において、陽極リブ-陽極の順に重ね合わせられた構造が採用されている。
なお、前述の一例のアルカリ水電解用複極式電解セルでは、陰極室において上記「陰極リブ-陰極集電体-導電性弾性体-陰極」の構造が採用され、陽極室において上記「陽極リブ-陽極」の構造が採用されているが、本発明ではこれに限定されることなく、陽極室においても「陽極リブ-陽極集電体-導電性弾性体-陽極」構造が採用されてもよい。
詳細には、本実施形態のアルカリ水電解用複極式電解セルでは、
図2に示すように、隔壁1にリブ6(陽極リブ、陰極リブ)が取り付けられていることが好ましい。
リブ(陽極リブ、陰極リブ)には、陽極又は陰極を支える役割だけでなく、電流を隔壁から陽極又は陰極へ伝える役割を備えることが好ましい。
本実施形態のアルカリ水電解用複極式電解セルでは、リブの少なくとも一部が導電性を備えことが好ましく、リブ全体が導電性を備えことがさらに好ましい。かかる構成によれば、電極たわみによるセル電圧の上昇を抑制することができる。
リブの材料としては、一般的に導電性の金属が用いられる。例えば、ニッケルメッキを施した軟鋼、ステンレススチール、ニッケル等が利用できる。リブの材料は、特に隔壁と同じ材料であることが好ましく、特にニッケルであることが最も好ましい。
隣接する陽極リブ同士の間隔、又は隣接する陰極リブ同士の間隔は、電解圧力や陽極室と陰極室の圧力差等を勘案して決められる。
陽極リブ同士の間隔、又は隣接する陰極リブ同士の間隔が狭すぎれば電解液やガスの流動を阻害するだけでなくコストも高くなる欠点がある。リブピッチが10mm以上であると、電極裏面へのガス抜けが良好となる。また広すぎると、陽極室と陰極室とのわずかな差圧で保持している電極(陽極や陰極)が変形したり、陽極リブや陰極リブの数が少なくなることによる電気抵抗が増したりする等の欠点が生じる。リブピッチが150mm以下であると電極がたわみにくくなる。リブの数、リブの長さ、リブと隔壁とのなす角度、貫通孔の数や貫通孔の隔壁に沿う所与の方向についての間隔(ピッチ)は、本発明の効果が得られる限り、適宜定められてよい。リブは、隔壁に沿う所与の方向(例えば、鉛直方向としてもよいし、隔壁の平面視形状が略長方形である場合、向かい合う2組の辺のうちの1組の辺の方向と同じ方向としてもよい)に対して平行に設けられることが好ましい。陽極リブのリブピッチと、陰極リブのリブピッチとは、同一であってもよいし異なっていてもよく、陽極リブのリブピッチ及び陰極リブのリブピッチが共に上記範囲を満たすことが好ましい。
陽極リブや陰極リブの隔壁への取り付けについてはレーザー溶接等が用いられる。
また、リブの厚みは、コストや製作性、強度等も考慮して、0.5mm以上5mm以下としてよく、lmm以上2mm以下のものが用いやすいが、特に限定されない。
電極や集電体のリブへの取り付けは、通常スポット溶接で行われるが、その他のレーザー溶接等による方法でもよく、更にはワイヤーやひも状の部材を用い、結びつけて密着させる方法でもよい。リブは、陽極又は陰極と同様に、スポット溶接、レーザー溶接等の手段で隔壁に固定されている。
【0032】
(水素の製造方法)
次に、本実施形態の複極式電解槽を用いたアルカリ水電解による水素の製造方法について説明する。
本実施形態においては、前述のような陽極及び陰極を備え、電解液が循環した複極式電解槽に電流を印加して水電解を行うことにより、陰極で水素を製造する。このとき、電源として、例えば変動電源を用いることができる。変動電源とは、系統電力等の、安定して出力される電源と異なり、再生可能エネルギー発電所由来の数秒乃至数分単位で出力が変動する電源のことである。再生可能エネルギー発電の方法は特に限定されないが、例えば、太陽光発電や風力発電が挙げられる。
例えば、複極式電解槽を利用した電解の場合、電解液中のカチオン性電解質は、エレメントの陽極室から、隔膜を通過して、隣接するエレメントの陰極室へ移動し、アニオン性電解質はエレメントの陰極室から隔膜を通過して、隣接するエレメントの陽極室へ移動する。よって、電解中の電流は、エレメントが直列に連結された方向に沿って、流れることになる。つまり、電流は、隔膜を介して、一方のエレメントの陽極室から、隣接するエレメントの陰極室に向かって流れる。電解に伴い、陽極室内で酸素ガスが生成し、陰極室内で水素ガスが生成する。
本実施形態のアルカリ水電解用複極式電解セル65は、複極式電解槽50、アルカリ水電解用電解装置70等に用いることができる。上記アルカリ水電解用電解装置70としては、例えば、本実施形態の複極式電解槽50と、電解液を循環させるための送液ポンプ71と、電解液と水素及び/又は酸素とを分離する気液分離タンク72と電解により消費した水を補給するための水補給器と、を有する装置等が挙げられる。
上記アルカリ水電解用電解装置は、さらに、整流器74、酸素濃度計75、水素濃度計76、流量計77、圧力計78、熱交換器79、圧力制御弁80等を備えてよい。
上記アルカリ水電解用電解装置を用いたアルカリ水電解方法において、電解セルに与える電流密度としては、4kA/m2~20kA/m2であることが好ましく、6kA/m2~15kA/m2であることがさらに好ましい。
以上、図面を参照して、本発明の実施形態の電極、電解セル、水素の製造方法について例示説明したが、本発明の電極、電解セル、水素の製造方法は、上記の例に限定されることはなく、上記実施形態には、適宜変更を加えることができる。
【実施例】
【0033】
(実施例1)
純水400gにNi(NO3)2・6H2Oを23.26g、La(NO3)3・6H2Oを34.64g、グリシンを30.03g溶解し、実施例1の塗布液を調製した。その後、この塗布液を、底辺13cm×13cm、高さ10cmのポリエチレン製容器に移した。
ニッケル多孔基材として、SW3.0mm、LW4.5mm、厚み1.2mm、開口率54%のニッケルエキスパンドメタルを用意した。このニッケルエキスパンドメタルに、#80の白色溶融アルミナ研磨剤を使用してブラスト処理を施した後に、縦10cm、横10cmの大きさの基板を切り出し、50℃6Nの塩酸中にて6時間酸処理した後、水洗、乾燥し、塗布用基材とした。
この基材を、容器内塗布液中に、塗布液を撹拌しながら、基材の向きを斜めにしてゆっくりと入れて、完全に浸漬し、5秒間保持した。その後基材を引き上げ、基材を縦向きにして、エアガンによるエアブロー処理により過剰な塗布液を吹き飛ばした。その後、60℃で10分乾燥し、さらに400℃で10分間の焼成を行い、基材表面に金属酸化物層を形成した。
この塗布、乾燥及び焼成のサイクルを65回繰り返した。基材を容器内塗布液中に入れる際には、金属酸化物層内の空隙が塗布液で完全に置換されるように、斜め向きでゆっくりと入れた。その後さらに800℃で1時間の焼成を行い、塗布用基材上に付着量250g/m2の金属酸化物層を形成させて、実施例1の水電解用陽極を得た。
【0034】
(実施例2)
表1の実施例2の組成のA液、B液を調製した。B液はシュウ酸ニオブアンモニウムを純水に溶解して調製し、Nbの濃度はICP-AES(誘導結合プラズマ発光分光分析)法により確認した。
底辺6cm×10cm、高さ11cmの角形のポリエチレン製容器にA液をいれ、マグネチックスターラーで撹拌しながら、B液をゆっくりと混合し、実施例2の塗布液とした。
実施例1と同じ方法で塗布用基材を準備し、塗布液を撹拌しながら、塗布用基材を縦向きにして、下半分をゆっくりと塗布液内に浸漬し、5秒間保持した。その後、基材を引き上げて、基材の上下をひっくり返して上半分も塗布液内にゆっくりと浸漬し、5秒間保持した。基材全面に塗布液を塗布後、基材を縦向きのままエアガンによるエアブロー処理により過剰な塗布液を吹き飛ばした。その後、60℃で10分乾燥し、さらに400℃で10分間の焼成を行い、基材表面に金属酸化物層を形成した。
この塗布、乾燥及び焼成のサイクルを60回繰り返した。基材を容器内塗布液中に入れる際には、金属酸化物層内の空隙が塗布液で完全に置換されるように、ゆっくりと入れた。その後さらに800℃で1時間の焼成を行い、塗布用基材上に付着量200g/m2の金属酸化物層を形成させて、実施例2の水電解用陽極を得た。
【0035】
(実施例3)
表1の実施例3の組成のA液、B液を調製した他は実施例2と同様に行い、塗布用基材上に付着量200g/m2の金属酸化物層を形成させて、実施例3の水電解用陽極を得た。
【0036】
(実施例4)
表1の実施例4の組成のA液、B液を調製し、乾燥及び焼成のサイクルを55回繰り返し、さらに750℃で1時間の焼成を行った他は実施例2と同様に行い、塗布用基材上に付着量200g/m2の金属酸化物層を形成させて、実施例4の水電解用陽極を得た。
【0037】
(実施例5)
表1の実施例5の組成のA液、B液を調製した他は実施例4と同様に行い、塗布用基材上に付着量200g/m2の金属酸化物層を形成させて、実施例5の水電解用陽極を得た。
【0038】
(実施例6)
実施例1と同様にして、乾燥及び焼成のサイクルを70回繰り返した。
シュウ酸ニオブアンモニウムを純水に溶解し、Nb濃度81.4mmol/kg溶液のシュウ酸ニオブアンモニウム水溶液を調製した。このシュウ酸ニオブアンモニウム水溶液を、底辺13cm×13cm、高さ10cmのポリエチレン製容器に移した。
基材表面に金属酸化物層を形成した基材をシュウ酸ニオブアンモニウム水溶液中に完全に浸漬して引き上げ、基材全面に塗布液を塗布後、基材を横向きにして、エアガンにより微弱な風をあてて、基材の目に詰まっている塗布液を落とした。エアガン処理後基材の重量を測定すると、基材にはシュウ酸ニオブアンモニウム水溶液が1.3g塗布されていた。LaNiO3の基材への担持量が2.6gであり、LaNiO3の1モルの重量が245.6gであることから、1.3gのNb濃度81.4mmol/kg溶液のシュウ酸ニオブアンモニウム水溶液を塗布したことにより、LaNiO31モルに対しNbを0.01モルの比率で塗布したと分かった。
シュウ酸ニオブアンモニウム水溶液を塗布した基材を60℃10分乾燥後、400℃10分焼成し、さらに800℃1時間焼成し、付着量261g/m2の金属酸化物層を形成させて、実施例6の水電解用陽極を得た。
【0039】
(実施例7)
実施例1と同様にして、乾燥及び焼成のサイクルを75回繰り返した。その後さらに800℃で1時間の焼成を行なった。
シュウ酸ニオブアンモニウムを純水に溶解し、Nb濃度187mmol/kg溶液のシュウ酸ニオブアンモニウム水溶液を調製した。このシュウ酸ニオブアンモニウム水溶液を、底辺13cm×13cm、高さ10cmのポリエチレン製容器に移した。
その後、実施例6と同様にして、基材にシュウ酸ニオブアンモニウム水溶液を1.3g塗布した。LaNiO3の基材への担持量が2.8gであり、LaNiO3の1モルの重量が245.6gであることから、1.3gのNb濃度187mmol/kg溶液のシュウ酸ニオブアンモニウム水溶液を塗布したことにより、LaNiO31モルに対しNbを0.02モルの比率で塗布したと分かった。
シュウ酸ニオブアンモニウム水溶液を塗布した基材を60℃10分乾燥後、400℃10分焼成し、さらに800℃1時間焼成し、付着量283g/m2の金属酸化物層を形成させて、実施例7の水電解用陽極を得た。
【0040】
(実施例8)
実施例1と同様にして、乾燥及び焼成のサイクルを80回繰り返した。
さらに、一次粒子径5nm以下のNb2O5ゾルを希釈して、Nb濃度が400mmol/kgゾルのNb2O5ゾルを調製した。
このNb2O5ゾルを、スプレーコート装置(旭サナック株式会社販売rCoater)により両面塗布後60℃10分乾燥し、塗布前の基材に対する重量増加を算出したところ、81mgであった。LaNiO3の基材への担持量が3.0gであり、LaNiO3の1モルの重量が245.6g、Nb2O5の1モルの重量が265.2gであることから、81mgのNb2O5を塗布したことにより、LaNiO31モルに対しNbを0.05モルの比率で塗布したと分かった。
60℃10分乾燥した基材を400℃10分焼成し、さらに800℃1時間焼成し、付着量308g/m2の金属酸化物層を形成させて、実施例8の水電解用陽極を得た。
【0041】
(実施例9)
表1の実施例9の組成のA液、B液を調製し、さらに750℃で1時間の焼成を行った他は実施例2と同様に行い、塗布用基材上に付着量200g/m2の金属酸化物層を形成させて、実施例9の水電解用陽極を得た。
【0042】
(実施例10)
表1の実施例10の組成のA液、B液を調製し、さらに750℃で1時間の焼成を行った他は実施例2と同様に行い、塗布用基材上に付着量200g/m2の金属酸化物層を形成させて、実施例10の水電解用陽極を得た。
【0043】
(比較例1)
ニッケル多孔基材として、SW3.0mm、LW4.5mm、厚み1.2mm、開口率54%のニッケルエキスパンドメタルを用意した。このニッケルエキスパンドメタルに、#30の白色溶融アルミナ研磨剤を使用して粗くブラスト処理を施した後に、50℃6Nの塩酸中にて6時間酸処理した後、水洗、乾燥し、塗布用基材とした。
次に、酢酸ランタン1.5水和物、硝酸ニッケル六水和物を、それぞれ0.20mol/L、0.20mol/Lの濃度になるよう調合した塗布液を調製した。
塗布ロールの最下部に上記塗布液を入れたバットを設置し、EPDM製の塗布ロールに塗布液をしみこませ、その上部にロールと塗布液とが常に接するようにロールを設置し、さらにその上にPVC製のローラーを設置して、上記基材に塗布液を塗布した(ロール法)。塗布液が乾燥する前に手早く、2つのEPDM製スポンジロールの間にこの基材を通過させた。その後、50℃で10分間乾燥させた後、マッフル炉を用いて400℃で10分間の焼成を行って基材表面に金属酸化物層を形成した。
このロール塗布、乾燥及び焼成のサイクルを75回繰り返した後、さらに600℃で1時間の焼成を行い、付着量303g/m2の金属酸化物層を形成させて、水電解用陽極を得た。
【0044】
(比較例2)
比較例1と同様にして塗布用基材を準備した。
次に、硝酸ランタン六水和物、硝酸ニッケル六水和物、シュウ酸ニオブアンモニウムn水和物、グリシンを、それぞれ0.20mol/L、0.16mol/L、0.04mol/L、0.36mol/Lの濃度になるように塗布液を調製した。
比較例1と同様にロール法でロール塗布、乾燥及び焼成のサイクルを40回繰り返した後、さらに700℃で1時間の焼成を行い、金属酸化物層を形成させて、付着量145g/m2の水電解用陽極を得た。
【0045】
(金属酸化物層の厚みの測定)
作成した水電解用陽極の小片を、エポキシ樹脂に包埋した後に、切断面を作成し、その断面を、ブロードに照射されるBIB加工装置アルゴンイオンビーム(日立ハイテクノロジーズ社製「E3500」)を用いて、加速電圧6kVにて加工処理した。なお観察する陽極の切断面は、エキスパンドメタルのストランドに平行かつストランド中央を通るようにした。
上記の切断面を、電子顕微鏡(日立ハイテクノロジーズ社製「S4800」)にて観察し、金属酸化物の層の厚みを5点測定した値の平均値を、金属酸化物の層の厚みとして求めた。実施例1~8及び比較例1~2における測定結果を、表2に示す。
【0046】
((界面の端から端までの延在長さ)/(界面の端から端の直線距離)比率の算出)
上記の切断面を、電子顕微鏡(日立ハイテクノロジーズ社製「S4800」)にて、加速電圧5kV、倍率500倍で観察し、YAG検出器を用いた反射電子像の断面写真をデータサイズ1280×960ピクセルのBMPファイルとして保存した。1ピクセルのサイズは198.4375nmであった。断面写真は、基材の折れ曲がりの山部(凸部)、および谷部(凹部)を避けて撮影し保存した。
画像処理ソフト「ImageJ」を使用して、(界面の端から端までの延在長さ)/(界面の端から端の直線距離)比率の算出は、下記の手順にて行った。実施例1~8及び比較例1~2における測定結果を、表2に示す。
1)断面写真のBMPファイルを開き、ImageメニューのTypeサブメニューにて8-bitを選択する。
図5に、断面写真の一例を示す。
2)AnalyzeメニューのSet scaleサブメニューにて、Distance in Pixels:1、Known distance:198.4375、Pixel aspect ratio:1.0、Unit of length:nmと設定し、OKをクリックする。
3)EditメニューのSelectionサブメニューにて、Specifyコマンドを選択し、Scaled units(nm)チェックボックスにチェックを入れ、Width:100000、Height:100000と設定し、さらにX cordinateとY cordinateの値を適切に設定し、OKをクリックすることにより、断面写真内から界面を抽出する100μm角領域を設定する。界面を抽出する100μm角領域は、領域内で界面が右端から左端までつながっており、一度も設定部位の上下左右端により切れることが無いように設定する。
4)ImageメニューのCropコマンドを実行し、界面を抽出する100μm角領域を切り取る。
図6に、
図5より切り取られた100μm角領域の一例を示す。
5)ProcessメニューのFiltersサブメニューで、Median...を選択し、Radius:4と設定し、OKをクリックして、フィルター処理を行う。
6)PluginsメニューからMulti Otsu Thresholdプラグインを選択し、numLevelsは3を選択し、OKをクリックする。
7)Region2を選択し、ProcessメニューのFiltersサブメニューで、Median...を選択し、Radius:4として、OKをクリックしてフィルター処理を行う。再度、ProcessメニューのFiltersサブメニューで、Median...を選択し、Radius:4として、OKをクリックし、2回目のフィルター処理を行う。
8)ProcessメニューのFind Edgesコマンドを実行する。
9)ImageメニューのAdjustサブメニューにてThresholdコマンドを選択し、Dark backgroudチェックボックスにチェックを入れ、Applyをクリックする。
10)ProcessメニューのBinaryサブメニューからskeletonizeコマンドを選択し、界面の細線化を行う。
図7に、
図6から界面を抽出し細線化処理を行った画像を例として示す。
11)PluginsメニューからBoneJプラグインを選択し、Analyze skeletonを選択する。Calculate largest shortest pathチェックボックス、Show detailed infoチェックボックスにチェックを入れ、OKをクリックする。
12)Branch infomationウィンドウにおいて、Branch length列の数値が最大であるSkelton IDの行のデータが、抽出された界面のデータである。そのSkelton IDの行のデータのBranch lengthを界面の端から端までの延在長さ(nm)、Euclideandistanceを界面の端から端の直線距離(nm)として、Branch lengthをEuclideandistanceで除して、(界面の端から端までの延在長さ)/(界面の端から端の直線距離)比率を算出する。
図8に、界面の端から端までの延在長さのイメージを、
図9に、界面の端から端の直線距離のイメージを示す。
【0047】
(ゼロギャップ型電解セル500時間通電陽極の作成法)
アルカリ水電解用電解セル、複極式電解槽を下記の通りに作製した。
-陽極-
実施例1~8、比較例1~2の陽極を使用した。
-陰極-
導電性基材として、直径0.15mmのニッケルの細線を40メッシュで編んだ平織メッシュ基材上に白金を担持したものを用いた。
-隔壁、外枠-
複極式エレメントとして、陽極と陰極とを区画する隔壁と、隔壁を取り囲む外枠と、を備えたものを用いた。隔壁及び複極式エレメントのフレーム等の電解液に接液する部材の材料は、全てニッケルとした。
-導電性弾性体-
導電性弾性体は、線径0.15mmのニッケル製ワイヤーを織ったものを、波高さ5mmになるように波付け加工したものを使用した。
-隔膜-
酸化ジルコニウム(商品名「EP酸化ジルコニウム」、第一稀元素化学工業社製)、N-メチル-2-ピロリドン(和光純薬工業社製)、ポリスルホン(「ユーデル」(登録商標)、ソルベイアドバンストポリマーズ社製)、及びポリビニルピロリドン(重量平均分子量(Mw)900000、和光純薬工業社製)を用いて、以下の成分組成の塗工液を得た。
ポリスルホン:15質量部
ポリビニルピロリドン:6質量部
N-メチル-2-ピロリドン:70質量部
酸化ジルコニウム:45質量部
上記塗工液を、基材であるポリフェニレンサルファイドメッシュ(くればぁ社製、膜厚280μm、目開き358μm、繊維径150μm)の両表面に対して塗工した。塗工後直ちに、塗工液を塗工した基材を蒸気下へ晒し、その後、凝固浴中へ浸漬して、基材表面に塗膜を形成させた。その後、純水で塗膜を十分洗浄して多孔膜を得た。
-ガスケット-
ガスケットは、厚み4.0mm、幅18mmの内寸504mm角の四角形状のもので、内側に平面視で電極室と同じ寸法の開口部を有し、隔膜を挿入することで保持するためのスリット構造を有するものを使用した。
-ゼロギャップ型複極式エレメント-
外部ヘッダー型のゼロギャップ型セルユニット60は、540mm×620mmの長方形とし、陽極2a及び陰極2cの通電面の面積は500mm×500mmとした。ゼロギャップ型複極式エレメント60の陰極側は、陰極2c、導電性弾性体2e、陰極集電体2rが積層され、陰極リブ6を介して隔壁1と接続され、電解液が流れる陰極室5cがある。また、陽極側は、陽極2aが陽極リブ6を介して隔壁1と接続され、電解液が流れる陽極室5aがある(
図2)。
陽極室5aの深さ(陽極室深さ、
図2における隔壁と陽極との距離)は25mm、陰極室5cの深さ(陰極室深さ、
図2における隔壁と陰極集電体との距離)25mmとし、材質はニッケルとした。高さ25mm、厚み1.5mmのニッケル製の陽極リブ6と、高さ25mm、厚み1.5mmのニッケル製の陰極リブ6を溶接により取り付けたニッケル製の隔壁1の厚みは2mmとした。
陰極集電体2rとして、集電体として、あらかじめブラスト処理を施したニッケルエキスパンド基材を用いた。基材の厚みは1mmで、開口率は54%であった。導電性弾性体2eを、陰極集電体2r上にスポット溶接して固定した。このゼロギャップ型複極式エレメントを、隔膜を保持したガスケットを介してスタックさせることで、陽極2aと陰極2cとが隔膜4に押し付けられたゼロギャップ構造Zを形成することができる。
上記電解装置を用いて、電解液温度を80℃に調整し、電流密度が10kA/m
2となるように連続で300時間正通電し、水電解を行った。その後、電解セルから電解液を抜き出し、電解セル内のアルカリを純水で洗浄後、電解セルを解枠し、陽極を取り出し乾燥して、ゼロギャップ型電解セルにて500時間通電した実施例1~8、比較例1~2の陽極を作成した。
【0048】
(ゼロギャップ型電解セル500時間通電陽極の酸素過電圧の測定)
ゼロギャップ型電解セル500時間通電陽極の酸素過電圧は下記の手順で測定した。
ゼロギャップ型電解セル500時間通電陽極から、2cm×2cmの評価用電極を切り出し、PTFEで被覆したニッケル製の棒にニッケル製のネジで固定した。対極には白金メッシュを使用し、80℃、32wt%水酸化ナトリウム水溶液中で、電流密度6kA/m2で電解し、酸素過電圧を測定した。酸素過電圧は、液抵抗によるオーム損の影響を排除するために、ルギン管を使用する三電極法によって測定した。ルギン管の先端と陽極との間隔は、常に1mmに固定した。酸素過電圧の測定装置としては、ソーラートロン社製のポテンショガルバノスタット「1470Eシステム」を用いた。三電極法用の参照極としては、銀-塩化銀(Ag/AgCl)を用いた。三電極法を使用しても排除しきれない電解液抵抗を交流インピーダンス法で測定し、電解液抵抗の測定値に基づき前記酸素過電圧を補正した。
ソーラートロン社製の周波数特性分析器「1255B」を使用して、実部と虚部をプロットしたCole-Coleプロットを取得した後に、等価回路フィッティングにより解析することで、電解液抵抗と二重層容量を算出した。
三電極法を使用しても排除しきれないオーム損を交流インピーダンス法で測定し、オーム損の測定値に基づき前記酸素過電圧を補正した。オーム損の測定には、ソーラートロン社製の周波数特性分析器「1255B」を使用した。
実施例1~8及び比較例1~2における評価結果を、表2に示す。
【0049】
【0050】
【産業上の利用可能性】
【0051】
本発明の電極は、ゼロギャップ型電解セルにて通電回収後の酸素発生の過電圧が低いため、アルカリを含有する水の電気分解において、再利用可能な水電解槽の陽極として好適に利用できる。
【符号の説明】
【0052】
1 隔壁
2 電極
2a 陽極
2c 陰極
2e 導電性弾性体
2r 陰極集電体
3 外枠
4 隔膜
5a 陽極室
5c 陰極室
6 リブ
7 ガスケット
50 複極式電解槽
51g ファストヘッド、ルーズヘッド
51i 絶縁板
51a 陽極ターミナルエレメント
51c 陰極ターミナルエレメント
51r タイロッド
60 複極式エレメント
65 電解セル
70 電解装置
71 送液ポンプ
72 気液分離タンク
74 整流器
75 酸素濃度計
76 水素濃度計
77 流量計
78 圧力計
79 熱交換器
80 圧力制御弁
Z ゼロギャップ構造