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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-02-13
(45)【発行日】2025-02-21
(54)【発明の名称】建物構造
(51)【国際特許分類】
   E04H 9/02 20060101AFI20250214BHJP
   F16F 15/023 20060101ALI20250214BHJP
   F16F 15/06 20060101ALN20250214BHJP
【FI】
E04H9/02 351
E04H9/02 301
E04H9/02 311
E04H9/02 321A
E04H9/02 331Z
F16F15/023 A
F16F15/06 A
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2021116852
(22)【出願日】2021-07-15
(65)【公開番号】P2023013002
(43)【公開日】2023-01-26
【審査請求日】2023-10-31
(73)【特許権者】
【識別番号】000206211
【氏名又は名称】大成建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002077
【氏名又は名称】園田・小林弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】木村 廣
(72)【発明者】
【氏名】藤山 淳司
(72)【発明者】
【氏名】野々山 昌峰
【審査官】須永 聡
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-094390(JP,A)
【文献】特開2006-045933(JP,A)
【文献】特開平08-074442(JP,A)
【文献】特開2019-078166(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04H 9/00-9/16
F16F 15/00-15/36
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
連層ブレースまたは連層耐震壁が複数階に亘って連続して設置された建物構造であって、
前記連層ブレースまたは前記連層耐震壁が設けられた各階において、前記連層ブレースまたは前記連層耐震壁に隣接した柱梁架構内に、エネルギー吸収部を有する制振梁、エネルギー吸収部を有するブレース、及びダンパーを併設した壁のうち、いずれか1つ以上の制振部材が設けられ
前記連層ブレースまたは前記連層耐震壁の下端部よりも下方の階にあっては、平面視したときに、前記連層ブレースまたは前記連層耐震壁と同じ位置に、上方から下方に向かって離間するように逆V字状にブレースが、複数の前記階に設けられ、前記ブレースの頂部と、隣接する柱との間に、オイルダンパーが設けられていることを特徴とする建物構造。
【請求項2】
前記連層ブレースまたは前記連層耐震壁、及び前記制振部材が設けられる低層部と、
前記低層部の上方に設けられるメガトラス階と、
前記メガトラス階の上部に設けられる高層部と、
前記メガトラス階と前記高層部との間に設けられる免震層と、を備え
前記連層ブレースまたは前記連層耐震壁の前記下端部の直下階には、アンボンドブレースが、互いに隣り合う柱の間に、上方から下方に向かって離間するように逆V字状に設けられていることを特徴とする請求項1に記載の建物構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、建物構造に関する。
【背景技術】
【0002】
建物の地震に対する性能を高めるため、様々な提案がなされている。
例えば特許文献1には、ダンパー等のエネルギー吸収手段を備えた骨組によって構成される高減衰骨組部と、高減衰骨組部の上階に配置され、耐震壁、ブレース等の剛性手段を備えた骨組によって構成される高剛性骨組部と、を備え、高剛性骨組部の水平剛性を、高減衰骨組部の水平剛性より大きくした構成が開示されている。
また、特許文献2には、メガストラクチャー構造の高剛性層を有する構造物の柱梁架構内に制震装置を組み込んで構成される制震構造物として、高剛性層と高剛性層または地上との間に制震装置が集中的に配置されている構成が開示されている。
また、特許文献3には、高い剛性を有して上下方向に連続するコア部を備えた躯体に、コア部の頂部または中間部と躯体の外周部または他のコア部との間に架設された曲げ剛性の大きな梁部材と、梁部材に備えられたコア部の曲げ変形を曲げ戻すためのダンパーと、を備える構成が開示されている。
より安定的に振動エネルギーを吸収することが常に望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2002-4628号公報
【文献】特開2009-19368号公報
【文献】特開平10-280725号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明が解決しようとする課題は、安定的に振動エネルギーを吸収することができる建物構造を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、複数の用途に対応可能な建物構造として、建物の中間階にメガトラス階を設け、そのメガトラス階を挟んだ低層部と、高層部では其々異なる構造形式を採用し、構造安全性を確保した。建物の低層部では、連層ブレースまたは連層耐震壁を複数階に亘って連続して設置し、隣接した柱梁架構内に、エネルギー吸収部を有する制振梁、エネルギー吸収部を有するブレース、及びダンパーを併設した壁のうち、いずれか1つ以上の制振部材を設けることで、連層ブレースまたは連層耐震壁は高い剛性を備えており心棒的な機能を発揮し、特定の階への変形集中を防止できる。さらに、連層ブレースまたは連層耐震壁に隣接する柱梁架構内に制振部材を設置することで、耐震部材に作用する変形を隣接する制振部材によって効率的に吸収させることができる。また、建物の高層部では、メガトラス階の上部に免震層を設けることで、低層部の建物の剛性、及び変形性能に影響を受けることなく、設計自由度を確保することができる。
本発明は、上記課題を解決するため、以下の手段を採用する。
すなわち、本発明の建物構造は、連層ブレースまたは連層耐震壁が複数階に亘って連続して設置された建物構造であって、前記連層ブレースまたは前記連層耐震壁に隣接した柱梁架構内に、エネルギー吸収部を有する制振梁、エネルギー吸収部を有するブレース、及びダンパーを併設した壁のうち、いずれか1つ以上の制振部材が設けられることを特徴とする。
このような構成によれば、連層ブレース、または連層耐震壁が、心棒的な高い剛性を有している。このような連層ブレース、または連層耐震壁に隣接した柱梁架構内に、エネルギー吸収部を有する制振梁、エネルギー吸収部を有するブレース、及びダンパーを併設した壁のうち、いずれか1つ以上の制振部材が設けられている。これにより、この建物構造が適用された建物においては、地震発生時には、建物に生じる変形を心棒的に高い剛性を備える連層ブレースまたは連層耐震壁が弾性変形域に抑えつつ、隣接する柱梁架構内に設けられる制振部材で効率的に振動エネルギーを吸収できる。特に、制振部材は、連層ブレースまたは連層耐震壁と同様に、複数階に亘って連続して設けられており、これにより、本建物構造が適用された建物では、振動エネルギーが各階において吸収されるため、特定階に、局所的な大変形が生じることが抑制される。したがって、安定的に振動エネルギーを吸収することができる建物構造を提供することができる。また、変形が過大となった場合にも、損傷を制振部材に抑えることができ、建物全体への影響を抑えることができる。
【0006】
本発明の一態様においては、本発明の建物構造は、前記連層ブレースまたは前記連層耐震壁、及び前記制振部材が設けられる低層部と、前記低層部の上方に設けられるメガトラス階と、前記メガトラス階の上部に設けられる高層部と、前記メガトラス階と前記高層部との間に設けられる免震層と、を備える。
このような構成によれば、低層部は、連層ブレースまたは連層耐震壁と、制振部材とを備えた構成とし、建物の低層部の上方に強固なメガトラス階を設け、メガトラス階の上部に免震層を介して高層部を設けている。これにより、メガトラス階を挟んだ下部側の低層部と、上部側の高層部とで、それぞれの用途に応じて地震に対する性能を設定することができる。低層部では、上記したように、建物に生じる変形を弾性変形域に抑えて、制振部材で安定的に振動エネルギーを吸収させる。高層部では、強固なメガトラス階の上部に免震層を介して高層部を設けることで、メガトラス階より下部側の低層部からの影響を抑えつつ、建物の免震性能を確保することができる。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、安定的に振動エネルギーを吸収することができる建物構造を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本発明の実施形態に係る建物構造を備えた建物の構成を示す断面図である。
図2図1のI-I矢視部分の断面図である。
図3図2のII-II矢視部分の断面図である。
図4図1の建物構造における連層ブレース、及び制振部材を示す断面図である。
図5図1のIII-III矢視部分の断面図である。
図6図2のIV-IV矢視部分の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明は、建物の低層部には、連層ブレースまたは連層耐震壁と、制振部材とが組み合わされた制振架構が複数階に亘って連続して設置され、かつ低層部と高層部との間にはメガトラス階が設けられ、当該メガトラス階の上部に免震層を含む高層部を備えた建物構造である。
本発明の実施形態に係る建物構造を実施するための形態について、図面に基づいて説明する。
本発明の実施形態に係る建物構造を備えた建物の構成を示す断面図を図1に示す。図2は、図1のI-I矢視部分の断面図である。図1は、図2のV-V矢視部分の断面図ともなっている。図3は、図2のII-II矢視部分の断面図である。
図1に示されるように、本実施形態に係る建物構造を備える建物1は、地盤G中に構築された基礎部2と、基礎部2上に設けられた上部構造部8と、を備えている。図2に示されるように、本実施形態において、建物1は、平面視すると、L字状に構成されている。建物1は、例えば、水平面内で第一方向D1に延びる第一延伸部11と、水平面内で第一方向D1に直交する第二方向D2に延びる第二延伸部12とを備えている。
図1に示されるように、上部構造部8は、低層部3と、メガトラス階4と、免震層5と、高層部6と、を備えている。低層部3は、上部構造部8の最下部に配置されている。低層部3は、基礎部2上に設けられている。低層部3は、鉛直方向に複数の階層を有している。メガトラス階4は、低層部3の上方に設けられている。免震層5は、メガトラス階4上に設けられている。免震層5は、メガトラス階4と高層部6との間に設けられている。高層部6は、メガトラス階4の上部に、免震層5を介して支持されている。高層部6は、鉛直方向に複数の階層を有している。
【0010】
低層部3は、例えば、店舗、オフィス等として用いられる。低層部3は、柱梁架構部30と、連層ブレース33と、制振部材35と、を有している。柱梁架構部30は、複数本の柱31と梁32とを有したラーメン構造の柱梁架構からなる。各柱31は、例えばコンクリート充填鋼管造で、鉛直方向に延びている。梁32は、例えば鉄骨造で、低層部3の各階層で互いに隣り合う柱31間に架設されている。
【0011】
連層ブレース33は、低層部3の内部で、鉛直方向に複数の階に亘って連続して設けられている。図1図3に示すように、本実施形態において、連層ブレース33は、第一方向D1に沿って設けられた第1連層ブレース33Aと、第2方向D2に沿って設けられた第2連層ブレース33Bと、を有している。第1連層ブレース33A、第2連層ブレース33Bは、低層部3の内部の適宜箇所に、それぞれ複数設けられている。例えば、本実施形態においては、第1連層ブレース33Aは、図2に示されるように、V-V矢視部分(図1相当)に2つと、II-II矢視部分(図3相当)に1つの、計3つが設けられている。第2連層ブレース33Bも同様に、3つが設けられている。第1連層ブレース33A、第2連層ブレース33Bの設置位置、設置数については、何ら限定するものではない。
図4は、図1の建物構造における連層ブレース、及び制振部材を示す断面図である。
図4に示すように、連層ブレース33は、鉛直方向に階を跨いで延びて互いに隣り合う、特定の、一対の柱31間に、各階毎の梁32、及びブレース34が設置されることで構成されている。ブレース34は、互いに隣り合う2本の柱31と、互いに上下に位置する2本の梁32との間に、斜めに延びるように設けられている。ブレース34の両端部は、柱31と梁32との接合部J1、J2にそれぞれ設けられたブラケット44に接合されている。ブレース34は、本実施形態においては、中央部が角形の鋼管34bにより形成されている。ブレース34の鋼管34bの端部には、断面十字形状の鋼材34aが接合され、当該鋼材34aがブラケット44に接合されている。
図1図3に示すように、このような連層ブレース33は、柱31と梁32とからなる柱梁架構にブレース34が設けられた、ブレース付柱梁架構が、鉛直方向の複数の階に亘って連続して設けられたものである。以上のような構成により、連層ブレース33においては、ブレース34は、平面視したときに、各階において同じ位置に設けられている。
【0012】
図4に示すように、制振部材35は、連層ブレース33に対し、各階ごとに接合されている。制振部材35は、連層ブレース33に隣接し、柱梁架構部30の一部を構成する柱梁架構30s内に設置されている。本実施形態において、制振部材35は、例えば極低降伏点鋼からなるエネルギー吸収部35aを中央に有する制振梁である。制振部材35は、同じ階の他の梁32よりも水平方向のスパンが短い短スパン梁とされている。制振部材35は、斜めに延びるブレース34の下方側の端部が接合される柱31と梁32との接合部J2に隣接して配置されている。このようにして、連層ブレース33に隣接して、各階の制振部材35が鉛直方向に連なるように配置されている。以上のような構成により、連層ブレース33においては、制振部材35は、平面視したときに、各階において同じ位置に設けられている。
【0013】
図1に示すように、低層部3において、連層ブレース33の下端部の直下階には、アンボンドブレース37が設けられている。アンボンドブレース37は、互いに隣り合う柱31と、互いに上下に位置する梁32との間に、上方から下方に向かって離間するように逆V字状に設けられている。
さらに、アンボンドブレース37が設けられた階の下側の複数階には、アンボンドブレースではない、通常のブレース38が設けられている。ブレース38は、互いに隣り合う柱31と、互いに上下に位置する梁32との間に、上方から下方に向かって離間するように逆V字状に設けられている。逆V字状に設けられたブレース38の頂部においては、当該頂部と、隣接する柱31との間に、オイルダンパー39が設けられている。
既に説明したように、連層ブレース33に隣接する柱梁架構30s内には、連層ブレース33に接合されるように、制振部材35が設けられていた。これに対し、連層ブレース33よりも下方の、アンボンドブレース37やブレース38が設けられた階層においては、連層ブレース33に隣接する柱梁架構30s内には、制振部材35ではなく、通常の梁32が設けられている。
【0014】
このような連層ブレース33は、低層部3内において、鉛直方向に延びる強固な心棒のように機能する。低層部3においては、地震発生時に、強固な連層ブレース33と、その周囲の柱梁架構部30との間で生じる相対的な変位のエネルギーが、連層ブレース33に隣接して設けられた制振部材35によって吸収される。
【0015】
メガトラス階4は、低層部3の最上部の直上階に配置されている。メガトラス階4は、上側の梁材41と、下側の梁材42との間に、複数の斜め材43をトラス状に設けることで構成されている。複数の斜め材43は、メガトラス階4の全体に亘って配置されている。メガトラス階4は、その全体が、強固な立体トラス構造のフレームを構成している。メガトラス階4は、低層部3および高層部6よりも強固に構成されている。メガトラス階4は、低層部3を構成する架構構造と、高層部6を構成する架構構造とを切り換える部分に配置されている。このようなメガトラス階4には、例えば、機械室、倉庫、控え室等が設けられる。
メガトラス階4の下側には、連層ブレース33の上端部が接続されている。つまり、トラス構造のメガトラス階4は、心柱として機能する強固な連層ブレース33上に支持されている。このようなメガトラス階4を低層部3上に設けることで、地震時における曲げ戻し効果を得る。
【0016】
図5は、図1のIII-III矢視部分の断面図である。
免震層5は、高層部6上に設けられている。免震層5は、メガトラス階4と高層部6との間に設けられている。図5に示すように、免震層5は、例えば、複数の免震装置を備えている。本実施形態では、免震層5は、複数の免震装置として、積層ゴムを用いた免震支承51と、オイルダンパー52と、切替型オイルダンパー53との3種類を備えている。
免震支承51は、いわゆる積層ゴムであり、高層部6の柱61の下側に配置されている。免震支承51は、ゴム層と鋼板層とが上下方向に複数積層されたもので、高層部6を支持しつつ、地震時にはメガトラス階4に対する高層部6の水平方向への相対変位を許容して、地震の揺れを逃がす。特に本実施形態においては、メガトラス階4の上に免震支承51を集中して配置させることで、建物1の変形を免震層5に集中させる。
オイルダンパー52、切替型オイルダンパー53は、それぞれ、下方のメガトラス階4側に固定されたダンパー支持部(図示なし)と、上方の高層部6側に固定されたタンパー支持部(図示なし)との間で水平方向に伸縮可能に設けられている。オイルダンパー52、切替型オイルダンパー53は、下方のメガトラス階4側と上方の高層部6側との水平方向の相対変位を減衰する。切替型オイルダンパー53は、予め設定された設定変位を超えると、発生する減衰力(減衰係数)が、低減衰モードから高減衰モードに切り替わるものである。本実施形態において、免震層5の外側面5a、5b、5c、5dに沿った位置には、モード切替の無い通常のオイルダンパー52が、外側面5a、5b、5c、5dに沿った方向に延びて複数配置されている。また、免震層5において、外側面5a、5b、5c、5dよりも内側には、オイルダンパー52、及び切替型オイルダンパー53が、外側面5a、5b、5c、5dに直交する方向に延びて配置されている。また、切替型オイルダンパー53は、低減衰モードから高減衰モードに切り替わる設定変位が異なる複数種のものを採用してもよい。これにより、メガトラス階4に対する高層部6の水平方向への変位量が大きくなるほど、より多くの切替型オイルダンパー53が、より大きな減衰力を発揮する。
【0017】
図1に示すように、高層部6は、建物1の最上部に設けられている。高層部6は、上下方向に複数階層を有している。高層部6には、例えば、ホテル、マンション等の、人が滞在、居住する空間が設けられる。高層部6は、鉄骨造の柱61と梁62とを備えた純ラーメン架構とされている。
図6に示すように、建物1には、エレベータシャフト70が設けられている。エレベータシャフト70は、上下方向に連続する筒状に構成されている。エレベータシャフト70は、柱材70aと、梁材70bと、柱材70aおよび梁材70bの間に設けられたブレース70cとを備えたブレース付の強固なラーメン構造とされている。エレベータシャフト70は、低層部3から、メガトラス階4と免震層5を通過して、高層部6にまで亘って設けられている。エレベータシャフト70は、低層部3の上端においては、メガトラス階4の下側の梁材42に接合されている。エレベータシャフト70の、高層部6に位置する部分の柱材70aは、免震支承51を介さずに、直接、メガトラス階4の上側の梁材41に接合されている。これにより、エレベータシャフト70の高層部6に位置する部分は、メガトラス階4上に自立するように構成されている。
エレベータシャフト70は、高層部6においては、柱61、および梁62を備えた架構とは、独立に、かつこれらから離間して設けられている。エレベータシャフト70と、その周囲の高層部6の架構との間には、水平方向の相対変位を吸収するエキスパンションジョイント(図示なし)が設けられている。地震が生じて高層部6がメガトラス階4に対して水平方向に相対変位した際には、エレベータシャフト70はメガトラス階4に接合されているため、高層部6はエレベータシャフト70に対しても相対変位する。この相対変位は、エキスパンションジョイントによって吸収される。
このように、エレベータシャフト70は高層部6においては免震化されていない構造となっている。これにより、高価な免震エレベータを採用せずに済むので、施工コストが低減される。
【0018】
このような制振構造を備えた建物1においては、低層部3と、高層部6とで、その架構構造を異ならせている。低層部3と高層部6との間に、強固なメガトラス階4と免震層5を設けることで、低層部3と高層部6との間で、架構構造の違いによる地震応答の相違が、互いに影響するのを抑えている。
低層部3は、心棒として機能する強固な連層ブレース33を備えることで、地震に対する高い性能を有している。低層部3は、連層ブレース33と、制振部材35とを備えることで、連層ブレース33と、その周囲の柱梁架構30sとの間で生じる相対変位エネルギーを、制振部材35で吸収する。
さらに、メガトラス階4の上に、免震支承51が集中して配置された免震層5が設けられており、この免震層5によって、集中的に振動エネルギーを吸収する。
建物1を全体としてこのような構成とすることで、例えば中規模程度の地震動の大きさを表すレベル1、構造物が受けるであろう過去、将来にわたって最強と考えられる想定しうる範囲内で、最大規模の地震動の大きさを表すレベル2の地震においては、免震層5よりも下に位置する連層ブレース33が心棒として作用することによって、概ね弾性内に抑えて安定した振動モードとして、安定的に免震層5でエネルギーを吸収するように、設計することができる。
そして、数千年に一度発生する程度の極大地震相当の地震の大きさを表すレベル3以上の、想定を上回る地震においては、制振部材35すなわち制振梁が先行して降伏することにより、連層ブレース33を、弾性変形域に留めることができる。弾性変形域に留められた連層ブレース33は、レベル1、レベル2の地震の場合と同様に心棒として作用する。また、レベル3以上の地震においては、免震層5より下方側の低層部3ではフレーム全体を塑性化させて、振動エネルギーを吸収させる。その時、心棒は、特定層に損傷が集中するのを防止させている。
以上のように、連層ブレース33と、制振部材35を各階層に設けることで、振動エネルギーを効率良く、かつ安定的に抑えることができる。
また、高層部6は、強固なメガトラス階4上に、免震層5を介して支持されているので、低層部3側からの影響を抑えつつ、高い免震性能を得て、ホテルの宿泊者やマンションの居住者における居住性を高めることができる。
このような構成により、結果として、建物1全体としては、関東平野における卓越周期よりも短い建物周期を得つつ、低層部3の周期と高層部6の周期が異なるものとなる。具体的には、建物全体の固有周期を関東平野の卓越周期以下に抑えるために、免震層の周期を4秒程度に設定し、低層部の固有周期を4秒程度とし、高層部の固有周期を1秒程度としている。
【0019】
上述したような建物構造によれば、連層ブレース33が複数階に亘って連続して設置された建物構造であって、連層ブレース33に隣接した柱梁架構30s内に、エネルギー吸収部35aを有する制振梁が制振部材として設けられる。
このような構成によれば、連層ブレース33が、心棒的な高い剛性を有している。このような連層ブレース33に隣接した柱梁架構30s内に、エネルギー吸収部35aを有する制振梁が制振部材35として設けられている。これにより、この建物構造が適用された建物1においては、地震発生時には、建物1に生じる変形を心棒的に高い剛性を備える連層ブレース33が弾性変形域に抑えつつ、隣接する柱梁架構30s内に設けられる制振部材35で効率的に振動エネルギーを吸収できる。特に、制振部材35は、連層ブレース33と同様に、複数階に亘って連続して設けられており、これにより、本建物構造が適用された建物1では、振動エネルギーが各階において吸収されるため、特定階に、局所的な大変形が生じることが抑制される。したがって、安定的に振動エネルギーを吸収することができる建物構造を提供することができる。また、変形が過大となった場合にも、損傷を制振部材に抑えることができ、建物1全体への影響を抑えることができる。
【0020】
特に本実施形態においては、制振部材35は上記のように、各階に設けられており、なおかつ平面視したときに各階で同じ位置となるように、集中的に配置されている。
このように、制振部材35を集中的に配置することで、建物1全体の総合的な制振効率が向上し、例えば制振部材35を、平面視したときに階ごとに異なる位置に配置したりする場合に比べると、制振部材35の数を抑えられる可能性がある。
【0021】
また、建物構造は、連層ブレース33、及び制振部材35が設けられる低層部3と、低層部3の上方に設けられるメガトラス階4と、メガトラス階4の上部に設けられる高層部6と、メガトラス階4と高層部6との間に設けられる免震層5と、を備える。
このような構成によれば、低層部3は、連層ブレース33と、制振部材35とを備えた構成とし、建物1の低層部3の上方に強固なメガトラス階4を設け、メガトラス階4の上部に免震層5を介して高層部6を設けている。これにより、メガトラス階4を挟んだ下部側の低層部3と、上部側の高層部6とでは、それぞれ異なる耐震性能を設定可能となる。
よって、本実施形態の建物構造では、免震層5で集中的に振動エネルギーを吸収させて、建物全体の耐震性能を確保している。具体的には、免震層5より上部側の高層部6と、免震層5より下部側の低層部3では、設計判断基準を変えている。具体的には、低層部3では、上記したように、建物に生じる変形を弾性変形域に抑えて、制振部材35で安定的に振動エネルギーを吸収させる。高層部6では、強固なメガトラス階4の上部に免震層5を介して高層部6を設けることで、メガトラス階4より下部側の低層部3からの影響を抑えつつ、建物の免震性能を確保している。
【0022】
なお、本発明の建物構造は、図面を参照して説明した上述の実施形態に限定されるものではなく、その技術的範囲において様々な変形例が考えられる。
例えば、上記実施形態では、連層ブレース33を備えるようにしたが、連層ブレース33に代えて、連層耐震壁を設けるようにしてもよい。
すなわち、連層耐震壁が複数階に亘って連続して設置された建物構造であって、連層耐震壁に隣接した柱梁架構内に、エネルギー吸収部を有する制振梁が制振部材として設けられる構造としてもよい。
このような構成によれば、連層耐震壁が、心棒的な高い剛性を有している。このような連層耐震壁に隣接した柱梁架構内に、エネルギー吸収部を有する制振梁が制振部材として設けられている。これにより、この建物構造が適用された建物においては、地震発生時には、建物に生じる変形を心棒的に高い剛性を備える連層耐震壁が弾性変形域に抑えつつ、隣接する柱梁架構内に設けられる制振部材で効率的に振動エネルギーを吸収できる。特に、制振部材は、連層耐震壁と同様に、複数階に亘って連続して設けられており、これにより、本建物構造が適用された建物では、振動エネルギーが各階において吸収されるため、特定階に、局所的な大変形が生じることが抑制される。したがって、安定的に振動エネルギーを吸収することができる建物構造を提供することができる。また、変形が過大となった場合にも、損傷を制振部材に抑えることができ、建物1全体への影響を抑えることができる。
このような場合においては、上記実施形態と同様に、建物構造は、連層耐震壁、及び制振部材が設けられる低層部と、低層部の上方に設けられるメガトラス階と、メガトラス階の上部に設けられる高層部と、メガトラス階と高層部との間に設けられる免震層と、を備えるようにしてもよい。
【0023】
また、制振部材35として、例えば極低降伏点鋼からなるエネルギー吸収部を有する制振梁を用いたが、これに限らない。例えば、制振部材35として、連層ブレース33に隣接する柱梁架構30sに、粘弾性ダンパーを用いたエネルギー吸収部(エネルギー吸収性能)を有したブレース(制振ブレース)を設けてもよい。また、制振部材35として、連層ブレース33に隣接する柱梁架構30sに、プレキャスト性の壁と、その周囲の柱や梁との間にダンパー等を設けた構成の、ダンパーを併設した壁を設けるようにしてもよい。
変形例として説明したような、連層ブレース33に代えて連層耐震壁を設ける場合においても、制振部材として、エネルギー吸収部を有したブレースや、ダンパーを併設した壁を設けるようにしてもよい。
また、連層ブレースまたは連層耐震壁に隣接した柱梁架構内に、エネルギー吸収部を有する制振梁、エネルギー吸収部を有するブレース、及びダンパーを併設した壁のうち、いずれか1つ以上の制振部材が設けられてもよい。
これ以外にも、本発明の主旨を逸脱しない限り、上記実施の形態で挙げた構成を取捨選択したり、他の構成に適宜変更したりすることが可能である。
【符号の説明】
【0024】
1 建物 31 柱
3 低層部 32 梁
4 メガトラス階 33 連層ブレース
5 免震層 34 ブレース
6 高層部 35 制振部材
30s 柱梁架構 35a エネルギー吸収部
図1
図2
図3
図4
図5
図6