(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-02-13
(45)【発行日】2025-02-21
(54)【発明の名称】水中音響通信装置及び水中音響通信方法
(51)【国際特許分類】
H04B 11/00 20060101AFI20250214BHJP
H04L 7/00 20060101ALI20250214BHJP
【FI】
H04B11/00 D
H04L7/00 330
(21)【出願番号】P 2021183383
(22)【出願日】2021-11-10
【審査請求日】2024-03-08
(73)【特許権者】
【識別番号】000005108
【氏名又は名称】株式会社日立製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110002365
【氏名又は名称】弁理士法人サンネクスト国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】赤峰 幸徳
(72)【発明者】
【氏名】南利 光彦
(72)【発明者】
【氏名】鈴掛 智
(72)【発明者】
【氏名】目黒 浩二
【審査官】赤穂 美香
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-229050(JP,A)
【文献】特開2018-133715(JP,A)
【文献】特表2001-524268(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2012/0294112(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04B 11/00
H04L 7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
相手ノードからの音響信号を受信する受信部と、
前記相手ノードに対して音響信号を送信する送信部と、
タイマーと、
前記受信部により受信した受信信号と前記タイマーの出力とを用いて、前記相手ノードとの間を音響信号が往復するに要する伝搬往復時間を推定する伝搬往復時間推定部と、
前記送信部による送信間隔を前記伝搬往復時間と一致させる送信タイミング制御部と、
前記送信部による送信時間長を前記伝搬往復時間よりも小さく制御する送信時間長制御部と
を備えたことを特徴とする水中音響通信装置。
【請求項2】
請求項1に記載の水中音響通信装置であって、
前記伝搬往復時間に基づいて、通信に用いる帯域を制御する通信変調帯域制御部をさらに備えたことを特徴とする水中音響通信装置。
【請求項3】
請求項1に記載の水中音響通信装置であって、
前記受信部は、前記受信信号のドップラ量を検出し、
前記伝搬往復時間推定部は、前記ドップラ量に基づいて前記伝搬往復時間を推定する
ことを特徴とする水中音響通信装置。
【請求項4】
請求項2に記載の水中音響通信装置であって、
前記通信変調帯域制御部は、周波数ごとの雑音の状況をさらに用いて通信に用いる帯域を決定することを特徴とする水中音響通信装置。
【請求項5】
請求項1に記載の水中音響通信装置であって、
前記送信時間長制御部は、前記相手ノードとの間で相互に送信データ容量の通知を行い、相互の送信データ容量から前記送信時間長を決定することを特徴とする水中音響通信装置。
【請求項6】
請求項1に記載の水中音響通信装置であって、
前記伝搬往復時間に応じて、前記送信間隔を前記伝搬往復時間に一致させるか否かを切り替えることを特徴とする水中音響通信装置。
【請求項7】
請求項2に記載の水中音響通信装置であって、
前記通信変調帯域制御部は、複数の相手ノードと通信を行う場合には、前記複数の相手ノードの各々に異なる周波数帯域を割り当てることを特徴とする水中音響通信装置。
【請求項8】
水中音響通信装置が、
相手ノードからの音響信号を受信する受信ステップと、
前記受信ステップにより受信した受信信号とタイマーの出力とを用いて、前記相手ノードとの間を音響信号が往復するに要する伝搬往復時間を推定する伝搬往復時間推定ステップと、
前記相手ノードに対する音響信号の送信間隔を前記伝搬往復時間と一致させる送信タイミング制御ステップと、
前記相手ノードに対する送信時間長を前記伝搬往復時間よりも小さく制御する送信時間長制御ステップと、
前記相手ノードに対して音響信号を送信する送信ステップと、
を含むことを特徴とする水中音響通信方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水中における音響を用いた無線通信装置に関する技術である。
【背景技術】
【0002】
水中での無線通信は、電波や光では減衰が大きいため、音響が用いられる。音響の中でも低周波数ほど低減衰の傾向であることが知られており、長距離通信については100kHz以下の周波数が用いられる。このため、周波数帯域として広帯域を用いることが困難であり、伝搬時間も電波や光と比較すると長くなることからスループットといった伝送効率の改善が水中音響通信における大きな課題となる。
【0003】
周波数帯域が制約された無線通信としては、ノード間の通信の上り回線と下り回線を周波数で分ける周波数分割方式と時間で分ける時間分割方式が広く知られている。時間分割方式は、上り回線と下り回線の時間配分を変えることで容易に伝送量の配分を変えることができ、周波数利用効率の点で長所がある。特に水中での画像や動画といったデータ伝送が発生するユースケースでは、上り回線と下り回線の伝送量の配分を適応的に変えられることは周波数利用効率の上で有効である。
【0004】
水中音響通信における時間分割方式を用いた例として、特許文献1や特許文献2が知られている。
特許文献1では、複数ノードから送信したパケット信号がシンクノードの受信においてパケットトレインの形態で連続的に受信されるように送信タイミング制御を行っている。
特許文献2では、第1の時間長さを有するスロットに対して、送受信の際に他の通信装置との距離に応じて生じる伝播遅延の時間長さと、前記スロットが含むパケットの時間長さとの総和よりも第2の時間長さが長くなるように前記第2の時間長さを決定し、前記スロットに基づく前情報の送受信を、前記第2の時間長さに応じて指示することをすることで、パケットに含まれる情報が欠損することなく送受信できるようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特表2019-508000号公報
【文献】特開2011-101084号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記特許文献に代表される従来の時間分割方式では、上り通信と下り通信の干渉を防ぐため伝搬時間に相当するガード時間が必要であった。ガード時間にはデータ通信を行うことができず、通信効率低下の原因となる。水中音響通信は、電波や光と比較して伝搬速度が遅いため、特に長距離の通信でガード時間が大きくなり、通信効率の低下が顕著となる。例として距離3キロの通信の場合には、電波や光の伝搬時間が約10マイクロ秒であるのに対して、水中音響の場合には伝搬時間が2秒であり、水中音響通信における時間分割方式の利用には2秒以上のガード時間が必要ということになる。
そこで、本発明では、水中音響通信における通信効率の向上を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本願において開示される発明のうち代表的なものについて簡単に説明すれば下記のとおりである。
開示の水中音響通信装置は、相手ノードからの音響信号を受信する受信部と、前記相手ノードに対して音響信号を送信する送信部と、タイマーと、前記受信部により受信した受信信号と前記タイマーの出力とを用いて、前記相手ノードとの間を音響信号が往復するに要する伝搬往復時間を推定する伝搬往復時間推定部と、前記送信部による送信間隔を前記伝搬往復時間と一致させる送信タイミング制御部と、前記送信部による送信時間長を前記伝搬往復時間よりも小さく制御する送信時間長制御部とを備えたことを特徴とする。
開示の水中音響通信方法は、水中音響通信装置が、相手ノードからの音響信号を受信する受信ステップと、前記受信ステップにより受信した受信信号とタイマーの出力とを用いて、前記相手ノードとの間を音響信号が往復するに要する伝搬往復時間を推定する伝搬往復時間推定ステップと、前記相手ノードに対する音響信号の送信間隔を前記伝搬往復時間と一致させる送信タイミング制御ステップと、前記相手ノードに対する送信時間長を前記伝搬往復時間よりも小さく制御する送信時間長制御ステップと、前記相手ノードに対して音響信号を送信する送信ステップと、を含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明により、水中音響通信における通信効率を向上することができる。上記した以外の課題、構成および効果は、以下の発明を実施するための形態の説明により明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】
図1は本発明の実施の形態による水中音響通信装置のブロック構成図である。
【
図2】
図2は従来の時間分割方式における通信信号のタイミングを示す図である。
【
図3】
図3は本発明の時間分割方式における通信信号のタイミングを示す図である。
【
図4】
図4は本発明の変調信号スペクトルを示すイメージ図である。
【
図5】
図5は本発明のフローチャートを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面を参照して本発明の実施形態を説明する。実施例は、本発明を説明するための例示であって、説明の明確化のため、適宜、省略および簡略化がなされている。本発明は、他の種々の形態でも実施することが可能である。特に限定しない限り、各構成要素は単数でも複数でも構わない。
図面において示す各構成要素の位置、大きさ、形状、範囲などは、発明の理解を容易にするため、実際の位置、大きさ、形状、範囲などを表していない場合がある。このため、本発明は、必ずしも、図面に開示された位置、大きさ、形状、範囲などに限定されない。
実施例において、プログラムを実行して行う処理について説明する場合がある。ここで、計算機は、プロセッサ(例えばCPU、GPU)によりプログラムを実行し、記憶資源(例えばメモリ)やインターフェースデバイス(例えば通信ポート)等を用いながら、プログラムで定められた処理を行う。そのため、プログラムを実行して行う処理の主体を、プロセッサとしてもよい。同様に、プログラムを実行して行う処理の主体が、プロセッサを有するコントローラ、装置、システム、計算機、ノードであってもよい。プログラムを実行して行う処理の主体は、演算部であれば良く、特定の処理を行う専用回路を含んでいてもよい。ここで、専用回路とは、例えばFPGA(Field Programmable Gate Array)やASIC(Application Specific Integrated Circuit)、CPLD(Complex Programmable Logic Device)等である。
プログラムは、プログラムソースから計算機にインストールされてもよい。プログラムソースは、例えば、プログラム配布サーバまたは計算機が読み取り可能な記憶メディアであってもよい。プログラムソースがプログラム配布サーバの場合、プログラム配布サーバはプロセッサと配布対象のプログラムを記憶する記憶資源を含み、プログラム配布サーバのプロセッサが配布対象のプログラムを他の計算機に配布してもよい。また、実施例において、2以上のプログラムが1つのプログラムとして実現されてもよいし、1つのプログラムが2以上のプログラムとして実現されてもよい。
【実施例1】
【0011】
本願において開示される発明の代表的な実施形態について概要を説明する。本発明の代表的な実施の形態による水中音響通信装置は、
図1に示すように、送信部(101)と受信部(102)と制御部(103)を含んで構成される。
【0012】
送信部(101)では、送信信号生成部(104)にて送信データ(105)がデジタル変調(106)され、その後、アナログ処理部(107)で所望の周波数帯域のアナログ信号に変換されて音響送波器(108)を介すことで音響となり、別のノードに向けた音響信号(109)として出力される。
【0013】
受信部(102)では、別のノードから送られた音響信号(110)を音響受波器(111)にてアナログ信号に変換する。変換されたアナログ信号はアナログ処理部(112)にて不要周波数帯域の雑音抑圧の後にデジタル信号に変換される。変換されたデジタル信号は、受信信号抽出部(113)にて同期信号の検出やドップラ補正が行われた後にデジタル復調(114)されて受信データ(115)として抽出される。
【0014】
送信する音響信号(109)と受信する音響信号(110)において同一の周波数帯域を用いる場合には送信と受信が干渉しないようにする必要があり、空間的な干渉回避が難しい場合には、送信時間と受信時間が重ならないように時間を分割する必要がある。時間分割についてはタイミング制御が必須であり、送信する音響信号(109)のタイミング制御については制御部(103)におけるタイマー(116)を用いることで容易に行うことができる。
【0015】
図2は、一般的な時間分割方式を示した図でありノード1(201)とノード2(202)およびノード2が遠距離である場合(203)の通信信号のタイミングを示している。
図2の横方向は時間であり縦方向は距離に相当する。時間分割方式の場合、ノード1が送信の期間(204)は、ノード2からの送信信号はノード1では受信できないため、斜線(205)と斜線(206)の期間は、ノード2からの送信信号は無効である。また、ノード1からの送信信号(204)をノード2が受信する斜線(207)と斜線(208)の間の期間は、ノード2からノード1へ信号を送信できない。ノード2からノード1へ信号を送信できるのは残りの期間(209)であり、ノード2が遠距離である場合(203)に期間(209)が短くなることがわかる。また、ノード1とノード2のいずれも送信できない期間はガード時間(210)と呼ばれ、ノード1とノード2の伝搬遅延時間に相当する。ノード2が遠距離である場合(203)にガード時間(210)が長くなることがわかる。例としてノード1とノード2の距離が3キロメートルの場合、電波や光であれば約10マイクロ秒のガード時間が必要なのに対して、水中での音響の速度はおよそ1500メートル毎秒なので2秒のガード時間が必要ということになる。このガード時間の期間はノード1もノード2も信号を出力しないので、特に水中音響通信において伝送効率が大きく劣化する。
【0016】
図3は、本発明における通信信号のタイミングを示している。ノード1の送信信号(204)がノード2で受信される期間(301)と、ノード2からの送信信号が無効となる斜線(205)と斜線(206)の期間を一致させることでガード時間を不要とすることが可能である。このとき、送信間隔(302)は斜線(207)と斜線(205)を合わせた伝搬往復時間と一致する。水中での音響の速度から、距離3キロメートルであれば送信間隔を約4秒、距離300メートルであれば送信間隔を約0.4秒とすればよく、この送信間隔のタイミング制御は、
図1における伝搬往復時間と送信間隔を一致させる送信タイミング制御部(117)を用いることで行われる。
【0017】
伝搬往復時間については、
図1における制御部(103)のタイマー(116)情報を送信データ(105)に含めて送信するタイムスタンプ方式を用いることで推定することが可能である。このとき、ノード1とノード2のタイマー(116)は同期している必要があるため、例えば水中にノードを沈める前にGPSなどで同期をさせて水晶発振器や原子時計のような高精度時計をタイマー(116)として採用することで正確な同期を維持することが可能である。タイムスタンプ方式による伝搬往復時間の推定(118)としては、片道の伝搬遅延時間を2倍して伝搬往復時間とする簡易的な推定でもよいし、片道の伝搬遅延時間の測定結果とタイマー情報の両方を送信データ(105)に含めて伝搬往復時間を推定してもよい。前者の2倍する推定方法は、往路と復路の伝搬遅延時間が同じであることを仮定するので安定した伝搬環境であることが望まれる。後者では信号を往復させる必要があるので伝搬往復時間の推定情報が古くなる懸念がある。
【0018】
ノード1とノード2に相対速度がある場合には伝搬往復時間が変化するので、次の期間の伝搬往復時間を推定(118)しながら送信タイミングを制御(117)する必要がある。ノード1とノード2の相対速度については受信信号抽出部(113)で同期を行う際にドップラ量を推定することができるので、推定したドップラ量から相対速度を演算することで既知とすることができる。ノード1とノード2の相対速度がわかれば次の期間の伝搬往復時間を推定することができるので、この推定した伝搬往復時間を採用するとよい。
【0019】
図3に示す通信信号のタイミングを実現するためには、伝搬往復時間に対して送信パケットを短く形成する必要がある。ここで、送信パケットに含まれるビット数は誤り訂正の符号長を考慮すると、ある程度大きめのビット数でパケットを形成する必要がある。また、同期信号やヘッダー信号が含まれるために極端に短いパケットの形成は伝送効率の劣化を招くことになる。これらのことを考慮して送信パケットを例えば5000ビット以上で形成すると仮定する。変調信号をBPSKと仮定すれば1ビットが1シンボルなので1パケットは5000シンボル以上という仮定になる。
図4は、本発明における遠距離通信での変調信号の周波数スペクトル(401)と、近距離通信での変調信号の周波数スペクトル(402)をイメージした図である。水中音響通信では低周波数ほど低減衰であることから、遠距離通信の場合には低い周波数を用いると有利である。また、音響送波器(108)の出力が強すぎるとキャビテーションと呼ばれる水中に気泡が生じる現象が発生するため送信する音響信号の音圧レベルには限界がある。限られた音圧レベルで遠距離通信を行う際には変調帯域を狭帯域にすると周波数あたりの音圧レベルが上がるため有利である。一方で、近距離通信であれば信号の減衰や音圧レベルの限界は気にならないため、高周波数まで広がる広帯域な変調信号を利用することが可能である。ここで、例として通信距離3000メートルの遠距離通信で変調帯域として5キロヘルツから10キロヘルツを用い、通信距離300メートルの近距離通信で変調帯域として5キロヘルツから55キロヘルツの広帯域を用いたとする。遠距離通信では変調帯域が5キロヘルツなので、先の1パケットが5000シンボル以上であることを仮定すると1パケットは1秒以上で生成されることになる。この1秒は3000メートルの往復伝搬時間4秒に対して短いために、
図3に示す通信信号のタイミングを実現できるといえる。また、
図3におけるノード1(201)の送信時間(204)とノード2(203)の送信時間(209)の配分は1秒~3秒の間でトレードオフの関係で設定できるので、送信するデータ量に応じて時間配分をすると通信として効率的である。この時間配分は、
図1における送信時間長制御部(119)により行われる。送信時間長制御部(119)は、自ノードの送信時間長が伝搬往復時間よりも小さくなるよう、さらに、自ノードの送信時間長と相手ノードの送信時間長の合計が伝搬往復時間以内となるよう、送信時間長を制御する。送信時間長制御部(119)は、この条件の範囲内で、自ノードと相手ノードが送信するデータ量に応じて時間配分を行うのである。近距離通信では変調帯域として50キロヘルツ用いることができるので、先の1パケットが5000シンボル以上であることを仮定すると1パケットは0.1秒以上で生成されることになる。この0.1秒は300メートルの往復伝搬時間0.4秒に対して短いために、
図3に示す通信信号のタイミングを実現できることとなる。この距離に応じた変調帯域の切替は、
図1の通信変調帯域制御部(120)により行われる。一方で、近距離通信に対しても遠距離通信と同じ変調帯域5キロヘルツを用いると、往復伝搬時間0.4秒よりパケット1秒のほうが長くなるため、
図3で示す通信信号のタイミングを実現することができない。このように
図3のタイミングを実現できない場合は、
図1の伝搬往復時間と送信間隔を一致させる送信タイミング制御部(117)をバイパスして送信タイミング制御を行う必要がある。
【0020】
ここで、送信タイミング制御部(117)のバイパスについて説明する。一例として、制御部103が、伝搬往復時間と所定の閾値を比較し、伝搬往復時間が所定の閾値未満となった場合に送信タイミング制御部(117)をバイパスすればよい。送信タイミング制御部(117)をバイパスすると、伝搬往復時間と送信間隔を一致させる制御が行われず、
図2に示したようにガード時間を設けた音響通信を行うことになる。しかし、同時に送信時間長を伝搬往復時間内に収めるという制限も不要となり、また、伝搬往復時間が閾値未満の近距離ではガード時間自体も小さいことから、ガード時間を設けても通信効率の低下は軽微である。
【0021】
図5は本発明におけるフローチャートの一例を示している。通信を開始するノード(以下、通信開始ノードという)は、まず搬送周波数を決定(501)する。搬送周波数の決定に際しては、各周波数の雑音状況を確認し、雑音状況の良好な周波数を選択する。搬送周波数を決定した後には、通信開始ノードは、宛先ノードに応答要求を送信(502)する。応答要求に対して宛先ノードから応答がない場合(503)は、宛先ノード周辺では決定した搬送周波数の雑音状況が悪い可能性があるため、通信開始ノードは、搬送周波数の見直しを行う。応答がある場合(504)は、通信開始ノードは、応答要求を送信してから応答を受信するまでの時間をもとに伝搬往復時間を推定(505)する。ここで応答に際しては、宛先ノードにおける雑音状況や受信レベルさらには送信予定のデータ量といった情報を含めると効率が良い。伝搬往復時間の推定(505)によりノード間の距離を把握でき、また応答に含まれる情報より通信環境を把握できるので、通信開始ノードは、これらの情報をもとに送信間隔、通信変調帯域、送信時間長といった通信パラメータを決定(506)する。通信開始ノードは、決定した通信パラメータ情報を宛先ノードへ送信(507)する。宛先ノードでは通信パラメータ情報を受け取ったあとに応答(508)を送り、その後、受け取った情報に準じた通信パラメータ(509)に移行する。通信開始ノードでは、宛先ノードからの応答(508)を受信した後、所定の通信パラメータ(509)に移行する。応答がない場合(510)には、通信開始ノードは、通信パラメータ情報を宛先ノードに再度送付する。ここまでのフローは、あらかじめ決めておいた変調帯域を使用し、その変調帯域は雑音の影響を抑圧するために狭帯域であることが望ましい。また、各周波数での雑音環境が類似の場合には信号減衰を考慮して搬送周波数をできる限り低周波にするとよい。
【0022】
通信開始ノードと宛先ノードで、所定の通信パラメータへ移行した後、
図3を代表とするタイミングにて通信を行う。このとき、伝搬往復時間が変化すると受信信号が所望のタイミングから外れていくので、伝搬往復時間が変化したか否かを把握することができ、タイムスタンプ方式を用いれば伝搬往復時間の絶対値を把握することが可能である。所望の受信タイミングの場合(511)は通信を継続し、所望の受信タイミングから外れた場合(512)には、タイムスタンプ方式などにより伝搬往復時間を再度推定(505)したうえで通信パラメータの再決定(506)を行う。
【0023】
これまでの説明では、1対1で時間分割方式の通信を行う場合を例に説明を行った。例えば、親ノードが複数の子ノードと通信する場合には、親ノードが複数の子ノードに異なる周波数帯域を割り当て、それぞれの子ノードと時間分割方式の通信を行えばよい。
【0024】
上述してきたように、開示の水中音響通信装置は、相手ノードからの音響信号(110)を受信する受信部(102)と、前記相手ノードに対して音響信号(109)を送信する送信部(101)と、タイマー(116)と、前記受信部(102)により受信した受信信号と前記タイマー(116)の出力とを用いて、前記相手ノードとの間を音響信号が往復するに要する伝搬往復時間を推定する伝搬往復時間推定部(118)と、前記送信部(101)による送信間隔を前記伝搬往復時間と一致させる送信タイミング制御部(117)と、前記送信部(101)による送信時間長を前記伝搬往復時間よりも小さく制御する送信時間長制御部(119)とを備える。
このように送信間隔と伝搬往復時間とを一致させ、送信時間長が伝搬往復時間内に収まるように制御することで、ガード時間が不要となり、水中音響通信における通信効率を向上することができる。
特に、長距離通信では、伝搬往復時間が長くなることが、送信間隔及び送信時間長を大きくできるという利点に転ずることになる。
【0025】
また、開示の水中音響通信装置は、前記伝搬往復時間に基づいて、通信に用いる帯域を制御する通信変調帯域制御部(120)をさらに備える。
このため、伝搬往復時間が長い長距離通信では変調帯域を狭帯域にして周波数あたりの音圧レベルを上げ、伝搬往復時間が短い近距離通信であれば広帯域な変調信号を利用する、といったように、距離に応じた効率的な通信を選択できる。
【0026】
また、前記受信部は、前記受信信号のドップラ量を検出し、前記伝搬往復時間推定部は、前記ドップラ量に基づいて前記伝搬往復時間を推定する。
このため、相手ノードの移動による距離の変動が発生する場合にも効率的な通信を行うことができる。
【0027】
また、前記通信変調帯域制御部は、周波数ごとの雑音の状況をさらに用いて通信に用いる帯域を決定する。
このため、相手ノードとデータの送受信を行うに先立って、状況が良好な周波数帯域を選択し、雑音による効率低下を回避することができる。
【0028】
また、前記送信時間長制御部は、前記相手ノードとの間で相互に送信データ容量の通知を行い、相互の送信データ容量から前記送信時間長を決定する。
このため、互いが送信するデータ量に合わせて送信時間長を配分することができる。
【0029】
また、開示の水中音響通信装置は、前記伝搬往復時間に応じて、前記送信間隔を前記伝搬往復時間に一致させるか否かを切り替える。
このため、相手ノードとの距離に応じて有利な通信方式を簡易に選択することができる。
【0030】
また、前記通信変調帯域制御部は、複数の相手ノードと通信を行う場合には、前記複数の相手ノードの各々に異なる周波数帯域を割り当てる。
このため、複数の相手ノードと通信する場合にも、各ノードと個別にガード時間の無い時間分割通信をおこなうことができる。
【0031】
なお、本発明は上記の実施例に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。例えば、上記した実施例は本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。また、かかる構成の削除に限らず、構成の置き換えや追加も可能である。
例えば、送信部101、受信部102、制御部103が有する各機能の一部又は全部をプログラムの実行によって実現してもよい。
【符号の説明】
【0032】
101:送信部、102:受信部、103:制御部、104:送信信号生成部、105:送信データ、106:送信デジタル変調部、107:送信アナログ処理部、108:音響送波器、109:送信音響信号、110:受信音響信号、111:音響受波器、112:受信アナログ処理部、113:受信信号抽出部、114:デジタル復調部、115:受信データ、116:タイマー、117:送信タイミング制御部、118:伝搬往復時間推定部、119:送信時間長制御部、120:通信変調帯域制御部