(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-02-13
(45)【発行日】2025-02-21
(54)【発明の名称】関節への送達に適した医薬組成物及びその関節痛の治療における使用
(51)【国際特許分類】
A61K 47/24 20060101AFI20250214BHJP
A61K 47/28 20060101ALI20250214BHJP
A61K 31/56 20060101ALI20250214BHJP
A61K 31/573 20060101ALI20250214BHJP
A61P 19/02 20060101ALI20250214BHJP
【FI】
A61K47/24
A61K47/28
A61K31/56
A61K31/573
A61P19/02
(21)【出願番号】P 2021511641
(86)(22)【出願日】2019-09-16
(86)【国際出願番号】 US2019051247
(87)【国際公開番号】W WO2020056399
(87)【国際公開日】2020-03-19
【審査請求日】2022-08-19
(32)【優先日】2018-09-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】514090142
【氏名又は名称】ティーエルシー バイオファーマシューティカルズ、インク.
(73)【特許権者】
【識別番号】507317971
【氏名又は名称】タイワン リポソーム カンパニー リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ツェン ユン-ロン
(72)【発明者】
【氏名】シー シェウ-ファン
(72)【発明者】
【氏名】チャン ポ-チュン
(72)【発明者】
【氏名】チャン ロー
【審査官】鈴木 理文
(56)【参考文献】
【文献】特表2005-534663(JP,A)
【文献】特表2015-522041(JP,A)
【文献】British Journal of Rheumatology,1996年,Vol.35,No.8,p719-724
【文献】Molecular Pharmaceutics,2011年,Vol.8,No.4,p1002-1015
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 47/24
A61K 47/28
A61K 31/56
A61K 31/573
A61P 19/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
治療剤を関節に送達するための医薬組成物であって、(a)1,2-ジオレオイル-sn-グリセロ-3-ホスファチジルコリン(DOPC)と、ジオレオイルホスファチジルグリセロール(DOPG)とコレステロールを、67.5:7.5:25のモルパーセントで含む脂質混合物と、(b)有効量の治療剤またはその薬学的に許容される塩と、を含み、
前記脂質混合物中のリン脂質の総量が、前記医薬組成物1mLあたり90μmоlから150μmоlの範囲である、医薬組成物。
【請求項2】
前記治療剤がステロイドである、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項3】
前記治療剤が関節内コルチコステロイドである、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項4】
前記治療剤が、デキサメタゾンリン酸ナトリウム、デキサメタゾン、ベタメタゾン、ベタメタゾンリン酸ナトリウム、酢酸ベタメタゾン、ジプロピオン酸ベタメタゾン、吉草酸ベタメタゾン、フロ酸モメタゾン、トリアムシノロンアセトニド、トリアムシノロンヘキサセトニド、二酢酸トリアムシノロン、コハク酸メチルプレドニゾロンナトリウム、酢酸メチルプレドニゾロン、テブト酸プレドニゾロン、酢酸ヒドロコルチゾン、ジプロピオン酸アルクロメタゾン、ハルシノニド、フルオコルトロン、フルオシノロンアセトニド、またはこれらの組み合わせである、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項5】
前記ステロイドがデキサメタゾンリン酸ナトリウムである、請求項2に記載の医薬組成物。
【請求項6】
デキサメタゾンリン酸ナトリウムが、医薬組成物1mLあたり6mg~18mgの範囲の量で存在する、請求項5に記載の医薬組成物。
【請求項7】
デキサメタゾンリン酸ナトリウムが、医薬組成物1mLあたり6mg~12mgの範囲の量で存在する、請求項5に記載の医薬組成物。
【請求項8】
デキサメタゾンリン酸ナトリウムが、医薬組成物1mLあたり12mgの量で存在する、請求項5に記載の医薬組成物。
【請求項9】
前記脂質混合物中のリン脂質の総量が、医薬組成物1mLあたり90μmоl~140μmоlの範囲である、請求項1~請求項8のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項10】
前記脂質混合物中のリン脂質の総量が、医薬組成物1mlあたり90μmоl~135μmоlの範囲である、請求項1~請求項8のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項11】
前記脂質混合物中のリン脂質の総量が、医薬組成物1mlあたり90μmоl~120μmоlの範囲である、請求項1~請求項8のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項12】
前記脂質混合物中のリン脂質の総量が、医薬組成物1mlあたり90μmоl~110μmоlの範囲である、請求項1~請求項8のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項13】
前記脂質混合物中のリン脂質の総量が、医薬組成物1mlあたり90μmоl~100μmоlである、請求項1~請求項8のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項14】
関節痛治療用の関節注射剤の製造のための医薬組成物の使用であって、前記医薬組成物は、(a)1,2-ジオレオイル-sn-グリセロ-3-ホスファチジルコリン(DOPC)と、ジオレオイルホスファチジルグリセロール(DOPG)とコレステロールを、67.5:7.5:25のモルパーセントで含む脂質混合物と、(b)有効量の治療剤またはその薬学的に許容される塩と、を含み、
関節注射1回分あたりの前記脂質混合物中のリン脂質の総量が90μmоl~150μmоlの範囲であり、関節注射1回分あたりのリン脂質の総量が150μmolを超える医薬組成物の有効性と比較して、医薬組成物の有効性が増強される、関節痛治療用の関節注射剤の製造のための医薬組成物の使用。
【請求項15】
前記治療剤がステロイドである、請求項14に記載の使用。
【請求項16】
前記治療剤が関節内コルチコステロイドである、請求項14に記載の使用。
【請求項17】
前記治療剤が、デキサメタゾンリン酸ナトリウム、デキサメタゾン、ベタメタゾン、ベタメタゾンリン酸ナトリウム、酢酸ベタメタゾン、ジプロピオン酸ベタメタゾン、吉草酸ベタメタゾン、フロ酸モメタゾン、トリアムシノロンアセトニド、トリアムシノロンヘキサセトニド、二酢酸トリアムシノロン、コハク酸メチルプレドニゾロンナトリウム、酢酸メチルプレドニゾロン、テブト酸プレドニゾロン、酢酸ヒドロコルチゾン、ジプロピオン酸アルクロメタゾン、ハルシノニド、フルオコルトロン、フルオシノロンアセトニド、またはこれらの組み合わせである、請求項14に記載の使用。
【請求項18】
前記ステロイドがデキサメタゾンリン酸ナトリウムである、請求項
15に記載の使用。
【請求項19】
デキサメタゾンリン酸ナトリウムが、関節注射1回分あたり6mg~18mgの範囲の量で存在する、請求項18に記載の使用。
【請求項20】
デキサメタゾンリン酸ナトリウムが、関節注射1回分あたり12mgの量で存在する、請求項18に記載の使用。
【請求項21】
前記脂質混合物中のリン脂質の総量が、関節注射1回分あたり90μmоl~140μmоlの範囲である、請求項14~請求項20のいずれか一項に記載の使用。
【請求項22】
前記脂質混合物中のリン脂質の総量が、関節注射1回分あたり90μmоl~135μmоlの範囲である、請求項14~請求項20のいずれか一項に記載の使用。
【請求項23】
前記脂質混合物中のリン脂質の総量が、関節注射1回分あたり90μmоl~120μmоlの範囲である、請求項14~請求項20のいずれか一項に記載の使用。
【請求項24】
前記脂質混合物中のリン脂質の総量が、関節注射1回分あたり90μmоl~110μmоlの範囲である、請求項14~請求項20のいずれか一項に記載の使用。
【請求項25】
前記脂質混合物中のリン脂質の総量が、関節注射1回分あたり90μmоlである、請求項14~請求項20のいずれか一項に記載の使用。
【請求項26】
前記有効性が、関節痛、圧痛、一過性の朝のこわばり、関節運動時のクレピタス音から選択される少なくとも1つの臨床的徴候の軽減を指す、請求項14~請求項20のいずれか一項に記載の使用。
【請求項27】
前記医薬組成物は、関節痛が消失するまで、1週間ごと、2週間ごと、6週間ごと、1ヶ月ごと、2ヶ月ごと、3ヶ月またはそれ以上の期間ごと、6ヶ月またはそれ以上の期間ごとに1回投与される、請求項14~請求項20のいずれか一項に記載の使用。
【請求項28】
前記関節痛が関節炎によるものである、請求項14に記載の使用。
【請求項29】
前記関節炎が、乾癬性関節炎、反応性関節炎、または、エーラス-ダンロス症候群、ヘモクロマトーシス、肝炎、ライム病、シェーグレン病、橋本甲状腺炎、セリアック病、非セリアックグルテン過敏症、炎症性腸疾患、ヘノッホ・ショーンライン紫斑病、再発性熱を伴うD型高免疫グロブリン血症、サルコイドーシス、ウィップル病、TNF受容体関連周期性症候群、多発性血管炎を伴う肉芽腫症、家族性地中海熱、若しくは全身性エリテマトーデスに起因する関節炎である、請求項28に記載の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、関節への送達に適した医薬組成物、及び治療剤の治療効果の増強と副作用の最小限化との間のバランスがとれた関節痛を治療する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
関節痛を抑制するための治療法は、関節組織に治療剤、特に抗炎症剤を局所的に送達させることにより、関節の炎症や痛みを軽減するために開発されてきた。変形性関節症及び他の炎症性疾患に関連する関節痛を一時的に緩和するのに有効であることが示されている。
【0003】
関節組織への治療剤の送達の一般的な方法は文献に詳しく記載されているが、それらの有効性には往々にして限りがある。関節内での治療剤のファーマコキネティクス及びファーマコダイナミクスに影響を与える要因としては様々あるが、例えば、選択された治療剤の化学物理的特性、マクロファージによる微粒子ビヒクルのクリアランス作用、及び送達プラットフォームの特性が挙げられる。
【0004】
上記で概説した欠陥の観点から、関節痛を治療するための治療法の改良として、持続的(3~6ヶ月)な治療効果、そしてより強力な治療効果を有する治療法が必要とされており、このような治療法としてはまた副作用プロファイル、特に軟骨損傷、軟骨細胞損傷、または血漿コルチゾール値の異常な減少に関連する副作用プロファイルが低減されていることが好ましい。本開示は、このような需要及びその他の需要に対応する。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示の一実施形態によれば、以下のように構成される治療剤の関節への送達に適した医薬組成物が提供される。即ち、
(a)1種または複数種のリン脂質を含む脂質混合物と、
(b)有効量の治療剤またはその薬学的に許容される塩と、を含む医薬組成物であって、
前記医薬組成物中の前記1種または複数種のリン脂質の総量が、前記医薬組成物1mL(ミリリットル)あたり約20μmоlから約150μmоlである、治療剤の関節への送達に適した医薬組成物が提供される。
【0006】
また、関節痛を治療する以下の方法も提供される。即ち、関節痛の治療を要する対象に、本開示に従って有効量の医薬組成物を関節内に投与することを含む、関節痛を治療する方法が提供される。
【0007】
また、関節痛治療用の関節注射剤の製造のための医薬組成物の以下の使用も提供される。即ち、関節痛治療用の関節注射剤の製造のための医薬組成物の使用であって、前記医薬組成物は、
(a)1種または複数種のリン脂質からなる脂質混合物と、
(b)有効量の治療剤またはその薬学的に許容される塩と、を含むよう構成されたものであり、
関節注射1回分あたりの前記1種または複数種のリン脂質の総量が約20μmоl~約150μmоlであり、関節注射1回分あたりのリン脂質の総量が150μmolを超える医薬組成物の有効性と比較して、医薬組成物の有効性が増強される、関節痛治療用の関節注射剤の製造のための医薬組成物の使用が提供される。
【0008】
本概要は、特許請求の対象の主要なまたは本質的な特徴を特定することを意図したものではなく、また、特許請求の範囲を決定するために単独で使用されることを意図したものでもない。特許請求の対象は、明細書全体、任意のまたはすべての図面、及び各請求項における適切な部分を参照して解釈されるべきである。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本願による医薬組成物における、それぞれ異なる量でリン脂質を用いた際の放出プロファイルを示す線グラフである。
【0010】
【0011】
【0012】
【
図4A】本開示の医薬組成物中の6mg及び12mgのDSP(デキサメタゾンリン酸ナトリウム)を投与された被験者に関連する疼痛VASスコアを示す図である。
【
図4B】本開示の医薬組成物中の6mg及び12mgのDSPを投与された被験者に関連する疼痛VASスコアの平均値の変化を示す図である。
【0013】
【
図5A】本開示の医薬組成物中の6mg及び12mgのDSPを投与された被験者におけるWOMACスコアの平均値の変化を示す線グラフである。
【
図5B】本開示の医薬組成物中の6mg及び12mgのDSPを投与された被験者におけるWOMACスコアの平均値の変化を示す線グラフである。
【
図5C】本開示の医薬組成物中の6mg及び12mgのDSPを投与された被験者におけるWOMACスコアの平均値の変化を示す線グラフである。
【
図5D】本開示の医薬組成物中の6mg及び12mgのDSPを投与された被験者におけるWOMACスコアの平均値の変化を示す線グラフである。
【0014】
【
図6】本開示の医薬組成物中の6mg、12mg、18mgのDSPを投与された被験者における12週目、16週目、20週目及び24週目までのWOMACスコアの平均変化を示す線グラフである。
【0015】
【
図7】動物モデルでの本開示の医薬組成物を投与された被験動物における臨床視覚的関節炎スコア(VAS)のチャートであり、試験品は16日目に投与されたものであり、実線矢印は治療日を示す。
【発明を実施するための形態】
【0016】
定義
以下の用語は、上記及び本開示全体を通して使用されるように、特に明記しない限り、以下の意味を有すると理解されるべきである。
【0017】
本明細書で使用される場合、単数形「一」、「一つ」及び「該」は、文脈から明確に指示されない限り、複数であることを排除しない。
【0018】
本明細書に記載されているすべての数値は、「約~」として理解されるべきである。また、本明細書で用いられるように、「約~」とは、具体的な数値の±10%を指す。
【0019】
本明細書で使用される「関節注射」という用語は、関節痛の部位またはその近くにおける局所注射、関節内注射または関節周囲注射を含む。
【0020】
本明細書で使用される「有効量」は、関節の痛み、炎症、関節のこわばり及び腫れなどの関節痛を引き起こす疾患の症状及び徴候を軽減し、且つ、治療剤の注入に関連する副作用を軽減するに足る医薬組成物の用量を指す。ここでいう軽減は、10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%、100%またはその間の任意の量の軽減であり得る。
【0021】
本明細書で使用される「治療する」、「治療される」、または「治療」という用語は、関節痛を引き起こす進行性の構造組織損傷を未然に(例えば予防的に)防ぐ、遅延させる、阻止するまたは逆転させることを含む。また、本出願を通して、治療とは、既知の技術によって測定し得る関節痛の軽減、緩和、阻止または遅延、あるいは関節痛の完全な改善の方法を意味する。これらには、いくつか例を挙げると、臨床検査、血清または関節吸引物の画像化または分析(例えば、リウマチ因子、赤血球沈降速度)が含まれるが、これらに限定されない。例えば、本開示での方法は、治療前の対象または対照対象と比較して、対象の関節痛が約1%、5%、10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%または100%減少するよう治療することが想定される。治療には、単回の関節注射または所望の間隔での複数回の関節注射が含まれる。
【0022】
「対象」という用語は、関節痛を有する脊椎動物、または関節痛の治療が必要とみなされる脊椎動物を指すことができる。対象は、温血動物、例えば霊長類などの哺乳類、より好ましくはヒトを含む。ヒト以外の霊長類も対象である。対象という用語には、猫、犬などの飼い慣らされた動物、家畜(例えば、牛、馬、豚、羊、山羊など)及び実験動物(例えば、マウス、ウサギ、ラット、アレチネズミ、モルモットなど)を含む。したがって、獣医学的な用途及び医学的製剤も、本開示の意図に含まれる。
【0023】
「関節痛」という用語は、1つまたは複数の関節の炎症や痛みを伴う関節の障害または疾患を指す。本明細書で使用される「関節痛」という用語は、既知または未知の、様々な病因及び原因の様々なタイプ及びサブタイプの関節炎を含み、リウマチ性関節炎、変形性関節炎、感染性関節炎、乾癬性関節炎、痛風性関節炎、ループスに伴う関節炎、または滑液包炎、腱滑膜炎、上顆炎、滑膜炎、あるいは他の障害により影響された疼痛性局所組織を含むが、これらに限定されない。
【0024】
本開示の治療剤の「薬学的に許容される塩」は、塩基で形成される酸性の治療剤の塩、即ち、アルカリ及びアルカリ土類金属塩、例えばナトリウム、リチウム、カリウム、カルシウム、マグネシウムのような塩基付加塩、並びにアンモニウム、トリメチルアンモニウム、ジエチルアンモニウム及びトリス(ヒドロキシメチル)メチルアンモニウム塩のような4アンモニウム塩を含む。同様に、鉱酸、有機カルボン酸、有機スルホン酸、例えば、塩酸、メタンスルホン酸、マレイン酸などの酸付加塩も塩基性治療剤に提供することができる。
【0025】
医薬組成物
一実施形態において、本開示は、1種または複数種のリン脂質を含む脂質混合物と、有効量の治療剤またはその薬学的に許容される塩とを含む医薬組成物であって、医薬組成物中における1種または複数種のリン脂質の総量が、医薬組成物1mLあたり約20μmоlから約150μmоlである医薬組成物が提供される。
【0026】
一実施形態において、本開示の医薬組成物は、治療剤の放出が3ヵ月、4か月、5か月、6ヵ月以上にわたって、あるいは2週間、3週間、4週間、5週間、6週間、7週間、8週間、9週間、10週間、11週間、12週間、13週間、14週間、15週間、16週間、17週間、18週間、19週間、20週間、21週間、22週間、22週間、または23週間持続する。
【0027】
他の実施形態において、本開示の医薬組成物は、その有効性が、医薬組成物1mLあたりのリン脂質の総量が約150μmol以上となる医薬組成物の有効性と比較して増強される。また更に他の実施形態において、本開示の医薬組成物は治療剤の治療効果が持続し、且つ治療剤の副作用が軽減される。
【0028】
一実施形態において、医薬組成物1mLあたりのリン脂質の総量は50μmоl~140μmоlである。他の実施形態において、医薬組成物1mLあたりのリン脂質の総量は45μmоl~135μmоlである。更に他の実施形態において、医薬組成物1mLあたりのリン脂質の総量は50μmоl~120μmоlである。更に他の実施形態において、医薬組成物1mLあたりのリン脂質の総量は60μmоl~110μmоlである。
【0029】
一実施形態において、本開示の医薬組成物は、少なくとも1つの薬学的に許容される賦形剤、希釈剤、ビヒクル、担体、有効成分のための媒体、防腐剤、抗凍結剤またはそれらの組み合わせを更に含む。
【0030】
一実施形態において、本開示の医薬組成物は、コレステロールの含有の有無に関わらず、1種または複数種のリン脂質と、1種または複数種の緩衝剤とを混合してリポソームを形成し、リポソームを1種または複数種の増量剤と共に凍結乾燥してケーキ状の脂質混合物を形成し、脂質混合物のケーキを治療剤を含む溶液で再構成して水性懸濁液を形成することによって調製される。
【0031】
別の実施形態において、本開示の医薬組成物は、コレステロールの含有の有無に関わらず、1種または複数種のリン脂質を溶媒中で混合し、次いで溶媒を除去して、粉末またはフィルム形態の脂質混合物を形成し、脂質混合物の粉末またはフィルムを治療剤を含む溶液で再構成して水性懸濁液を形成することによって調製される。別の実施形態では、本開示の医薬組成物は、コレステロールの含有の有無に関わらず、1種または複数種のリン脂質を溶媒中で混合し、次いで、溶解した脂質溶液を水溶液中に注入してリポソームを形成することによって調製される。その後、リポソームは、トラックエッチングしたポリカーボネート膜を介してろ過することにより、ダウンサイズされる。溶媒は、半自動タンジェンシャルフロー濾過(TFF)システムを用いた緩衝液に対する透析濾過によって除去される。次いで、透析濾過されたリポソーム溶液を、凍結乾燥して粉末形態にし、脂質混合物の粉末またはフィルムを、治療剤を含む溶液で再構成して、水性懸濁液を形成する。
【0032】
実施形態によって、本開示の医薬組成物は、約10%~約50%の脂質関連の治療剤、または約50%~約90%の非関連の治療剤を含む。「非関連形態」との用語は、医薬組成物のリン脂質/コレステロール画分からゲル濾過を介して分離可能な治療剤分子を指し、即時放出成分を提供する。他の実施形態では、リン脂質及びコレステロールの組み合わせの治療剤に対する重量比は、約5~80対1であり、更に別の実施形態では、リン脂質及びコレステロールの組み合わせの治療剤に対する重量比は、約5~40対1である。リン脂質及びコレステロールの組み合わせの治療剤に対する重量比は、例えば、約5、10、15、20、25、30、35、40、45、50、55、60、65、70、75または80対1であり得る。
【0033】
実施形態によって、本開示の医薬組成物における治療剤の濃度は、約10mM、11mM、12mM、13mM、14mM、15mM、16mM、17mM、18mM、19mM、20mM、21mM、22mM、23mM、24mM、25mM、26mM、27mM、28mM、29mM、30mM、31mM、32mM、33mM、34mM、35mMまたはそれ以上であり得、そして任意に、約10mM~約40mM、約15mM~約40mM、約20mM~約40mM、約15mM~約35mM、約15mM~約30mM、約15mM~約25mM、約20mM~約25mMの範囲を取り得る。
【0034】
いくつかの実施形態では、各投与ごとの医薬組成物の総量は、約0.5mLから約1.5mLの範囲であり、そして任意に約1.0mLとすることができる。
【0035】
脂質混合物
ここで提供される医薬組成物の脂質混合物とは、リン脂質またはリン脂質の混合物を指す。脂質混合物は、医薬組成物に添加される前に、フィルム、ケーキ、顆粒または粉末の形態であってもよいが、これらに限定されない。
【0036】
一実施形態では、リン脂質またはリン脂質の混合物は、コレステロールの含有の有無に関わらず、脂質混合物として更に加工される前に、予めリポソームに形成される。
【0037】
別の実施形態では、リン脂質またはリン脂質の混合物は、コレステロールの含有の有無に関わらず、脂質混合物として更に加工される前に、予めリポソームに形成されていない。
【0038】
リポソームは、ナノサイズであり、内部の水性薬剤担持成分を囲む脂質一重層または脂質二重層からなる。リポソームの非限定的な例としては、小型ユニラメラ小胞(SUV)、大型ユニラメラ小胞(LUV)、多胞性リポソーム(MVL)及び多ラメラ小胞(MLV)が挙げられる。
【0039】
脂質混合物は、一重層構造または二重層構造を形成するか、またはそれに取り込まれることができる様々な脂質から調製することができる。本開示で使用される脂質は、ホスファチジルコリン(PC)、ホスファチジルグリセロール(PG)、ホスファチジルエタノールアミン(PE)、ホスファチジルセリン(PS)、ホスファチジン酸(PA)、ホスファチジルイノシトール(PI)のうちの一種または複数種の脂質を含むが、これらに限定されない。実施形態によって、脂質混合物は、卵ホスファチジルコリン(EPC、卵ホスファチジルグリセロール(EPG)、卵ホスファチジルエタノールアミン(EPE)、卵ホスファチジルセリン(EPS)、卵ホスファチジン酸(EPA)、卵ホスファチジルイノシトール(EPI)、大豆ホスファチジルコリン(SPC)、大豆ホスファチジルグリセロール(SPG)、大豆ホスファチジルエタノールアミン(SPE)、大豆ホスファチジルセリン(SPS)、大豆ホスファチジン酸(SPA)、大豆ホスファチジルイノシトール(SPI)、またはこれらの組み合わせを含む。別の実施形態では、脂質混合物は、ジパルミトイルホスファチジルコリン(DPPC)、l,2-ジオレオイル-sn-グリセロ-3-ホスファチジルコリン(DOPC)、ジミリストイルホスファチジルコリン(DMPC)、ジパルミトイルホスファチジルグリセロール(DPPG)、ジオレオイルホスファチジルグリセロール(DOPG)、ジミリストイルホスファチジルグリセロール(DMPG)、ヘキサデシルホスホコリン(HEPC)、水素添加大豆ホスファチジルコリン(HSPC)、ジステアロイルホスファチジルコリン(DSPC)、ジステアロイルホスファチジルグリセロール(DSPG)、ジオレオイルホスファチジルエタノールアミン(DOPE)、パルミトイルステアロイルホスファチジルコリン(PSPC)、パルミトイルステアロイルホスファチジルグリセロール(PSPG)、モノオレオイルホスファチジルエタノールアミン(MOPE)、l-パルミトイル-2-オレオイル-sn-グリセロ-3-ホスファチジルコリン(POPC)、ポリエチレングリコールジステアロイルホスファチジルエタノールアミン(PEG-DSPE)、ジパルミトイルホスファチジルセリン(DPPS)、1,2-ジオレオイル-sn-グリセロ-3-ホスファチジルセリン(DOPS)、ジミリストイルホスファチジルセリン(DMPS)、ジステアロイルホスファチジルセリン(DSPS)、ジパルミトイルホスファチジン酸(DPPA)、l,2-ジオレオイル-sn-グリセロ-3-ホスファチジン酸(DOPA)、ジミリストイルホスファチジン酸(DMPA)、ジステアロイルホスファチジン酸(DSPA)、ジパルミトイルホスファチジルイノシトール(DPPI)、l,2-ジオレオイル-sn-グリセロ-3-ホスファチジルイノシトール(DOPI)、ジミリストイルホスファチジルイノシトール(DMPI)、ジステアロイルホスファチジルイノシトール(DSPI)、またはこれらの組み合わせを含む。
【0040】
実施形態によって、脂質混合物は、第1のリン脂質及び第2のリン脂質を含む。いくつかの実施形態では、第1のリン脂質は、EPC、EPE、SPC、SPE、DPPC、DOPC、DMPC、HEPC、HSPC、DSPC、DOPE、PSPC、MOPE、POPCからなる群から選択され、第2のリン脂質は、PG、PS、PA、PI、EPG、EPS、EPA、EPI、SPG、SPE、SPS、SPA、SPI、DPPG、DOPG、DMPG、DSPG、PSPG、DPPS、DOPS、DMPS、DSPS、DPPA、DOPA、DMPA、DSPA、DPPI、DOPI、DMPI、DSPI、及びリン脂質分子に結合した高水和性の柔軟な中性ポリマーの長鎖を有する親水性ポリマーからなる群から選択される。親水性ポリマーの例としては、分子量約2000ダルトン~約5000ダルトンのポリエチレングリコール(PEG)、メトキシPEG(mPEG)、ガングリオシドGMi、ポリシアル酸、ポリ乳酸(ポリラクチドとも)、ポリグリコール酸(ポリグリコリドとも)、ポリ乳酸ポリグリコール酸、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリメトキサゾリン、ポリエチルオキサゾリン、ポリヒドロキシエチルオキサゾリン、ポリヒドロキシプロピルオキサゾリン、ポリアスパルトアミド、ポリヒドロキシプロピルメタクリルアミド、ポリメタクリルアミド、ポリジメチルアクリルアミド、ポリビニルメチルエーテル、ポリヒドロキシエチルアクリレート、ヒドロキシメチルセルロースやヒドロキシエチルセルロースなどの誘導体化されたセルロース類、合成ポリマーなどが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0041】
一実施形態では、脂質混合物は、ステロールを更に含む。本開示で使用されるステロールは特に限定されないが、その例として、コレステロール、フィトステロール(シトステロール、スティグマステロール、フコステロール、スピナステロール、ブラシカステロールなど)、エルゴステロール、コレスタノン、コレステノン、コプロステノール、コレステリル-2'-ヒドロキシエチルエーテル、及びコレステリル-4'-ヒドロキシブチルエーテルが挙げられる。脂質混合物のステロール成分は、存在する場合、リポソーム、脂質小胞または脂質粒子の調製の分野で従来から使用されているステロールのいずれかであり得る。別の実施形態では、脂質混合物は、約10%~約33%のコレステロール、約15モル%~約30モル%未満のコレステロール、約18モル%~約28モル%のコレステロール、または約20モル%~約25モル%のコレステロールを含む。
【0042】
例示的な実施形態では、脂質混合物は、第1のリン脂質、第2のリン脂質、及びステロールを、モル%で、29.5%~90%:3%~37.5%:10%~33%の比で含む。
【0043】
更なる実施形態では、第1のリン脂質はDOPC、POPC、SPC、またはEPCであり、第2のリン脂質はPEG-DSPEまたはDOPGである。
【0044】
一実施形態では、脂質混合物は、脂肪酸またはカチオン性脂質(すなわち、生理的pHで正味の正電荷を運ぶ脂質)を含まない。
【0045】
実施形態によって、脂質混合物は、そのリポソームが標的分子を有する標的細胞に特異的に結合することを可能にするために、ターゲティング部分として機能するペプチドや抗体の脂質コンジュゲートを更に含んでもよい。標的分子の非限定的な例としては、TNF-αやCD20といったB細胞表面抗原が挙げられるが、これらに限定されるものではない。他の抗原としては、CD19、HER-3、GD2、Gp75、CS1タンパク質、メソセリン、cMyc、CD22、CD4、CD44、CD45、CD28、CD3、CD123、CD138、CD52、CD56、CD74、CD30、Gp75、CD38、CD33、GD2、VEGF、またはTGFも使用することができる。
【0046】
本開示で調製されるリポソームは、小胞を形成するために使用される従来の技術によって生成することができる。これらの技術には、エーテル注入法(Deamerら、Acad. Sci. (1978) 308: 250)、界面活性剤法(Brunnerら、Biochim. Biophys. Acta (1976) 455: 322)、凍結融解法(Pickら, Arch. Biochim. Biophys. (1981) 212: 186)、逆相蒸散法(Szokaら、Biochim. Biophys. Acta. (1980) 601: 559 71)、超音波処理法(Huangら、Biochemistry (1969) 8: 344)、エタノール注入法(Kremerら、Biochemistry (1977) 16: 3932)、エクストルージョン法(Hopeら、Biochim. Biophys. Acta (1985) 812:55 65)、フレンチプレス法(Barenholzら、FEBS Lett. (1979) 99: 210)、及びSzoka, F., Jr.らによる, Ann. Rev. Biophys. Bioeng. 9:467 (1980)に記載された方法が含まれる。上記の方法はすべて、小胞の形成のための基本的な技術であり、これらの方法は参照により本明細書に組み込まれるものとする。滅菌後、予め形成されたリポソームを無菌的に容器に入れ、凍結乾燥して粉末またはケーキを形成する。脂質混合物が予め形成されたリポソームを含む実施形態では、前記リポソームを溶媒注入法により得て、その後、凍結乾燥して脂質混合物を形成する。脂質混合物は、1種または複数種の増量剤を含む。一実施形態では、脂質混合物は、1種または複数種の緩衝剤を更に含む。
【0047】
増量剤としては、ポリオールや、マンニトール、グリセロール、ソルビトール、デキストロース、スクロース、などの糖アルコールや、トレハロースや、ヒスチジン、グリシン、などのアミノ酸などが挙げられるが、これらに限定されない。好ましい増量剤の一種としてマンニトールが挙げられる。
【0048】
緩衝剤としては、リン酸ナトリウム一塩基性二水和物及びリン酸ナトリウム二塩基性無水物が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0049】
脂質混合物が予めリポソームに形成されていない脂質を含む実施形態では、脂質混合物は、エタノール、メタノール、t-ブチルアルコール、エーテル及びクロロホルムといった適切な有機溶媒に溶解し、加熱、真空蒸発、窒素蒸発、凍結乾燥、またはその他の通常の溶媒除去方法によって乾燥することによって調製することができる。
【0050】
本開示に対応した脂質混合物の調製の具体例を以下に記載する。
【0051】
治療剤
治療剤は、ステロイド、インドメタシンなどの非ステロイド性抗炎症薬(NS AID)、疾患修飾性抗リウマチ薬(DMARD)、またはこれらの内の2種以上の組み合わせの他、これらの内の1種または複数種と本明細書に特に記載されていない他の成分または化合物との組み合わせであることができる。DMARDには、メトトレキサート、レフルノミド、スルファサラジン、シクロホスファミド、アザチオプリン、シクロスポリンA、d-ペニシラミン、抗マラリア薬(ヒドロキシクロロキンなど)などの低分子薬剤が含まれる。また、DMARDには生物学的物質も含まれ、例えば、腫瘍壊死因子a(TNF-a)アンタゴニスト(例えば、米国カレッジビルにあるワイス社から商品名エンブレルとして市販されているエタネルセプト、米国イリノイ州アボットパークにあるアボット・ラボラトリーズ社から商品名ヒュミラとして市販されているアダリムマブ)、インターロイキン―1受容体拮抗薬、インターロイキン―6受容体拮抗薬、抗CD20モノクローナル抗体、CTLA-4-Ig、RGDペプチドなどが挙げられる。
【0052】
1つの例示的な実施形態では、治療剤は、デキサメタゾンリン酸ナトリウム(DSP)などの実質的に水溶性のステロイドであり、溶液の形態である。別の例示的な実施形態では、治療剤は、インドメタシンの許容可能な塩などの、実質的に水溶性のNSAIDである。更に別の例示的な実施形態では、治療剤は、メトトレキサートの許容可能な塩などの実質的に水溶性のDMARD、またはTNF-aアンタゴニストである。更に別の例示的な実施形態では、治療剤は、リン脂質またはパルミテートなどの脂肪酸に共有結合していないものである。
【0053】
本開示による治療剤は、脂質混合物を懸濁させて本開示の医薬組成物を得るために、ddFUOまたは適切な緩衝液のいずれかに混合して治療剤を含む溶液とすることができる。また、実施形態によって、治療剤は、リン脂質などの脂質またはパルミチン酸などの脂肪酸に共有結合していない。
【0054】
治療剤または薬剤は、薬学的製剤(ヒトならびに動物用の製剤、及び研究、実験ならびに関連用途の製剤を含む)に適した薬学的に許容される賦形剤及び他の成分と組み合わせることができる。実施形態によっては、クエン酸緩衝液が使用され、好ましくはクエン酸ナトリウムが使用される。他の実施形態では、キレート剤が使用され、好ましくはEDTAが使用される。
【0055】
本明細書に記載の医薬組成物における治療剤は、関節注射に適した治療剤またはその薬学的に許容される塩を含む。一実施形態では、治療剤は、関節内(IA)注射に適している。関節内注射は、以下のステップ:(1)治療対象の関節において適切な注射部位を特定してマークすること、(2)滅菌技術を用いて注射部位を滅菌し、任意に局所麻酔薬を投与すること、(3)注射針を関節腔に挿入すること、及び(4)薬剤を関節腔に注入すること、を含む。実施形態により、注射針の挿入は、超音波誘導下で行うこともできる。少量の滑液を吸引して、針の先端が関節腔内にあることを確認する。
【0056】
本開示で有用なステロイドには、任意の天然由来ステロイドホルモン、合成ステロイド及びその誘導体が含まれる。ステロイドの例としては、これらに限定されないが、コルチゾン、ヒドロコルチゾン、酢酸ヒドロコルチゾン、チキソコルトールピバラート、フルオシノロン、プレドニゾロン、メチルプレドニゾロン、プレドニゾン、トリアムシノロンアセトニド、トリアムシノロン、モメタゾン、アムシノニド、ブデソニド、デソニド、フルオシノニド、フルオシノロンアセトニド、ハルシノニド、ベタメタゾン、ベタメタゾンリン酸ナトリウム、デキサメタゾン、デキサメタゾンリン酸ナトリウム(DSP)、フルオコルトロン、ヒドロコルチゾン-17-ブチレート、ヒドロコルチゾン-17-バレレート、ジプロピオン酸アルクロメタゾン、吉草酸ベタメタゾン、ジプロピオン酸ベタメタゾン、プレドニカルベート、クロベタゾン-17-ブチレート、クロベタゾール-17-プロピオネート、フルオコルトロンカプロエート、フルオコルトロンピバレート、酢酸フルプレドニデン、ジフルプレドネート、ロテプレドノール、フルオロメトロン、メドリゾンリメキソロン、ベクロメタゾン、クロプレドノール、コルチバゾール、デオキシコルトン、ジフルオロコルトロン、フルクロロロン、フルオロコルチゾン、フルメタゾン、フルニソリド、フルオロコルトロン、フルランドレノロン、メプレドニゾン、メチルプレドニゾロン、パラメタゾン、またはこれらの混合物である。例示的な実施形態では、ステロイドは、水溶性ステロイドである。水溶性ステロイドには、天然由来ステロイドホルモン、合成ステロイド、及びそれらの誘導体が含まれる。水溶性ステロイドには、コルチゾン、ヒドロコルチゾン、プレドニゾロン、メチルプレドニゾロン、プレドニゾン、DSP、ヒドロコルチゾン-17-バレレート、フルオロコルチゾン、フルドロコルチゾン、メチルプレドニゾロン、パラメタゾン、及びプレレノンが含まれるが、これらに限定されない。一例では、本開示の医薬組成物を得るためにケーキの形態で脂質混合物を再構成するために、約2mg~約100mg/mL、約4mg~約80mg/mL、約5mg~約60mg/mL、約6mg~約40mg/mL、約8mg~約20mg/mL、約10mg~約16mg/mLのDSP溶液を、上述のような治療剤を含む溶液として使用することができる。別の例示的な実施形態では、ステロイドは、クープマン分類によるグループB及びグループCのステロイドから選択される(S. Coopmanらによる「Identification of cross reaction patterns in allergic contact dermatitis from topical corticosteroids」Br J Dermatol. 1989 Jul;l2l(l):27-34)を参照)。
【0057】
治療剤の薬学的に許容される塩には、非毒性の無機または有機塩基から形成される非毒性の塩が含まれる。非毒性の塩は、例えば、カリウム、ナトリウム、リチウム、カルシウム、あるいはマグネシウムといったアルカリまたはアルカリ土類金属の水酸化物等の無機塩基から、またはアミン等の有機塩基から形成することができる。
【0058】
治療剤の薬学的に許容される塩には、非毒性の無機酸または有機酸から形成される非毒性の塩も含まれる。有機酸及び無機酸の例としては、例えば、塩酸、硫酸、リン酸、酢酸、コハク酸、クエン酸、乳酸、マレイン酸、フマル酸、パルミチン酸、チョール酸、パモ酸、ムチン酸、D-グルタミン酸、グルタル酸、グリコール酸、フタル酸、酒石酸、ラウリン酸、ステアリン酸、サリチル酸、ソルビン酸、安息香酸等が挙げられる。
【0059】
治療剤は、関節炎の症状または兆候を軽減するために、関節注射によって有効量を投与することができる。一実施形態では、治療剤は、ステロイド、特に関節内コルチコステロイド(例えば、これらに限定されないが、酢酸ヒドロコルチゾン、酢酸メチルプレドニゾロン、酢酸デキサメタゾンナトリウム、酢酸ベタメタゾン、プレドニゾロン、トリアミシノロンアセトニド、トリアムシノロンヘキサセトニドといったコルチコステロイド)を指し、これを、医薬組成物1mLあたりの用量で、約0.1mg~約300mg、約0.1mg~約100mg、約0.1mg~約20mg、約0.1mg~約18mg、約1mg~約300mg、約1mg~約100mg、約1mg~約20mg、約1mg~約18mg、約4mg~約300mg、約4mg~約100mg、約4mg~約20mg、約4mg~約18mg、約6mg~約18mg、約6mg~約16mg、約8mg~約16mg、約6mg~約12mg、約6mg~約16mgの範囲の用量で投与することができる。
【0060】
ヒトにおける治療剤の効果的な投与量は、当技術分野で知られている推奨または標準的な投与量よりも多くてもよく、例えば、参照により本明細書に組み込まれる「The Orthopaedic Journal of Sports Medicine, 3(5), 2325967115581163 (DOI: 10.1177/2325967115581163)」を参照されたい。例えば、治療剤としてのトリアムシノロンヘキサセトニドの推奨される有効かつ耐容性のある投与量は20mgであるが、本発明に係る組成物及び方法における治療剤の投与量は、少なくとも20mg以上であってもよい。
【0061】
なお、投与される治療剤の用量は、治療対象疾患の重症度、特定の製剤、及び体重や被治療者の全体的な状態及び副作用の重症度などの他の臨床的要因にも依存する。
【0062】
医薬組成物の使用
医薬組成物は、治療対象疾患に対して適切な期間にわたって、単回または複数回投与され得る。医薬組成物は、利便性を考慮した上で、適切な間隔、例えば、1週間ごと、2週間ごと、6週間ごと、1ヶ月ごと、2ヶ月ごと、3ヶ月またはそれ以上の期間ごと、6ヶ月またはそれ以上の期間ごとに1回の間隔で投与してよく、あるいは疾患(即ち関節痛)の症状と徴候が寛解するまで投与してもよい。
【0063】
一群の実施形態では、少なくとも2回の関節注射による複数回投与治療において、2週間、3週間、4週間、5週間、6週間、7週間、8週間、9週間、10週間、11週間、12週間、13週間、14週間、15週間、16週間、17週間、18週間、19週間、20週間、21週間、22週間及び23週間からなる群から選択された投与間隔で投与される。
【0064】
実施形態によって、医薬組成物は、関節注射1回分につき約0.5mL~約1.5mL、約0.6mL~約1.2mL、約0.8mL~約1.2mLの範囲の量、または約1.0mLで投与される。
【0065】
関節痛を治療する方法
本開示の一態様は、以下の方法の提供に向けたものであり、即ち、対象における関節痛を治療する方法であって、本明細書に記載の医薬組成物の有効量を、関節痛の治療を必要とする対象に投与することを含み、それによって、治療剤によって誘発される副作用が、即時放出または標準的な治療薬製剤の投与後の対象における副作用と比較して低減されること、及び、医薬組成物の治療剤の有効性及び放出速度が、医薬組成物1mLあたり約150μmоl以上のリン脂質を含む医薬組成物の有効性及び放出速度と比較して増大されることとの少なくともいずれかが達成される。一実施形態において、対象者は、変形性関節症、関節リウマチ、急性痛風関節炎、乾癬性関節炎、反応性関節炎、または、エーラス-ダンロス症候群、ヘモクロマトーシス、肝炎、ライム病、シェーグレン病、橋本甲状腺炎、セリアック病、非セリアックグルテン過敏症、炎症性腸疾患、ヘノッホ・ショーンライン紫斑病、再発性熱を伴うD型高免疫グロブリン血症、サルコイドーシス、ウィップル病、TNF受容体関連周期性症候群、多発性血管炎を伴う肉芽腫症、家族性地中海熱、全身性エリテマトーデスに起因する関節炎を患った患者である。
【0066】
ここで有効性とは、疾患に対して好ましい臨床反応を誘導する治療剤の能力を意味する。また、有効性とは、不安定性や身体的障害につながる関節痛、圧痛、一過性の朝のこわばり、関節運動時のクレピタス音などの臨床的徴候の軽減を指す。一実施形態では、治療剤の有効性は、WOMAC OA指数、VASスコアなどによって決定される。実施形態によっては、本明細書に記載の医薬組成物からの治療剤の持続的な定常放出は、例えば軟骨細胞のアポトーシス、プロテオグリカンの損失、関節軟骨のシスト、関節軟骨の劣化または関節破壊などの関節軟骨の損傷または破壊といった副作用を誘発しない。本明細書に記載の対象における副作用の減少は、本明細書に記載の医薬組成物を配合していない、例えば、脂質混合物を配合していない治療剤を注射した対象と比較して、1%、5%、10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%、または100%の範囲とすることができる。このような効果は、治療剤、例えば酢酸トリアムシノロン(TCA)への曝露が、関節軟骨の損傷または破壊を引き起こすことがよく知られていることから、予測し得ないものである。
【0067】
本明細書で提供される医薬組成物は、様々な付加的な化学物質のいずれかと組み合わせて使用することができ、これらに限定されないが例えば鎮痛剤(例としてブピバカイン、ロピバカイン、リドカイン)またはヒアルロン酸製剤(例としてSynvisc One)と組み合わせて使用することができる。実施形態によっては、本願請求項に記載の医薬組成物及び付加的な化学物質は、単一の治療用組成物となるよう製剤され、本願請求項に記載の医薬組成物及び付加的な化学物質が同時に投与される。また別の態様として、本願請求項に記載の医薬組成物及び付加的な化学物質は、互いに分離されており、例えば、それぞれが別の治療用組成物に製剤され、本願請求項に記載の医薬組成物及び付加的な化学物質が、単回投与または複数回投与にて、同じ経路または異なる経路で、治療計画中に同時に、または異なる時間に投与される。
【0068】
以下の実施例は、本開示を更に説明するものである。これらの実施例は、単に本開示の具体例を示すことを目的としており、本発明を限定する根拠と解釈されるべきではない。
【0069】
実施例1.脂質混合物の調製
DOPC、DOPG及びコレステロールを含む脂質を67.5:7.5:25のモル%で配合し、フラスコ内で約40℃の99.9%エタノールに溶解して脂質溶液を形成した。脂質の溶解には、卓上型超音波浴処理機を使用した。
【0070】
溶解した脂質溶液を、蠕動ポンプにより100mL/分で1.0mMリン酸ナトリウム溶液に添加し、プロリポソーム懸濁液を形成した。次に、このプロリポソーム懸濁液を、孔径0.2μmのポリカーボネートメンブレンに6~10回通した。これによりリポソームの平均小胞径が約120nm~140nmであるリポソーム混合物が得られた(英国、ウスターシャーにあるマルバーン社(Malvern Instruments Ltd)によるMalvern ZetaSizer Nano ZS-90で測定)。
【0071】
リポソーム混合物を、ミリポアペリコン2ミニ限外ろ過モジュールバイオマックス―100C(Millipore Pellicon 2 Mini Ultrafiltration Module Biomax-100C) (0.1m2)(米国マサチューセッツ州ビレリカにあるミリポア社(Millipore Corporation)による製造)を備えたタンジェンシャルフローろ過システムにより透析及び濃縮を行い、その後0.2μmの滅菌フィルターを用いて滅菌した。
【0072】
ろ過したリポソーム混合物の脂質濃度をリン酸測定で定量し、ろ過したリポソーム混合物にマンニトールを2%の濃度で配合した後、0.2μmの減菌フィルターを用いて再度滅菌した。滅菌されたリポソーム混合物を凍結乾燥し、ケーキ形態の脂質混合物を得た。
【0073】
実施例2.医薬組成物の調製
本開示による医薬組成物は、実施例1に記載された脂質混合物を、DSP溶液と混合することによって調製されたものである。DSP溶液は、13.2mg/mLのデキサメタゾンリン酸ナトリウム(DSP)(C22H28FNa2O8P、分子量516.41g/L)及び4mg/mLのクエン酸ナトリウムを含むDSP溶液である。これにより調整された医薬組成物は、DSP医薬組成物として以下で用いられ、その1mLあたりのDSP及びリン脂質の含量は、それぞれ約12.0mg/mL及び90μmolであった。
【0074】
実施例3.医薬組成物の制御放出
第II相の用量設定臨床環境でインビトロ放出試験を実施した。実施例2の医薬組成物を異なるDSP用量でヒト合成滑液(hsSF)に注入し、各時点でDSPの放出量を測定した。
【0075】
ヒト合成滑液(hsSF)
ヒト合成滑液の組成を表1に示した。簡単に説明すると、ウシ血清アルブミン(BSA)を30mg/mLの濃度になるように0.9%の生理食塩水で溶解した。1%のヒアルロン酸(HA、Mw=1.35×10
6Da)をBSA溶液に加え、ヒアルロン酸が完全に溶解するように、混合物を室温で2時間、穏やかに撹拌した。この溶液のpHは7.3であった。ヒトの合成滑液には、細菌の増殖を抑制するため0.2%のアジ化ナトリウムを加えた。
【表1】
【0076】
DSP医薬組成物のインビトロ放出
DSP医薬組成物のリポソームからのDSPの放出は、異なる時間間隔での封入効率の変化を検出することにより測定した。簡単に言うと、様々な量のDSP医薬組成物を、所定の温度(37℃)の合成滑液に懸濁し、撹拌棒を用いて150rpmで撹拌した(表2)。適切な時間間隔で、懸濁液を回収し、SPEカラムを介して懸濁液を溶出させて遊離DSPを回収し、以下のような手順で封入効率を測定した。
【表2】
【0077】
封入効率
SPEカートリッジを用いてリポソームから遊離DSPを分離した後、採取したサンプルの封入効率の吸光度を測定した。SPEカラムは、1mLのメタノールで湿らせてから更に1mLの蒸留水で湿らせて使用に供された。その後、1mLの生理食塩水でカラムを平衡化してから、回収した懸濁液を充填した。懸濁液を充填した後、SPEカラムを3mLの蒸留水で洗浄し、2mLの溶出緩衝液(2MNH4OAc/MeOH/ACN=2/9/9(v/v)を含む)で遊離DSPを溶出した。遊離DSPを含む溶出画分を、UV-vis分光光度計を用いて240nmでモニターした。封入効率(%)は、[1-(Ifree/12)]×100として計算した。式中、12はサンプル溶液中のDSPの理論値(mg/mL)であり、Ifreeは遊離DSP濃度である。
【0078】
リン脂質の総量を調整することで、DSPの放出を制御できるというデータが得られた(表3、
図1)。いかなる理論にも拘束されることを望むものではないが、医薬組成物において脂質の総量が多くDSPの用量が比較的多い(表3における番号5の組成物)場合は、DSPの関節環境への少量で且つ緩徐な放出が起きる一方、脂質の総量が少なくDSPの用量も少ない場合は、時間の経過に連れて充分且つ持続可能なレベルの遊離DSPを生成することができなくなると考えられる。下記の第II相の用量設定臨床試験の結果を総合すると、関節痛の治療に用いる治療剤の放出制御には、適切な量のリン脂質を含む医薬組成物が望ましいと考えられる。滑液の体積が一般的に1mL~70mLの範囲であることに基づくと、医薬組成物1mLあたりの実質的なリン脂質濃度を20μmоlから150μmоlの範囲とすると、滑液7mLあたり約90μmоlの所望の有効脂質濃度の達成が図れる。
【表3】
実施例4.変形性膝関節症患者におけるデキサメタゾンリン酸ナトリウム(DSP)医薬組成物の有効性及び安全性に関する無作為オープンラベル治験
【0079】
方法
台湾の台北市にある3箇所の治験地で、12週間にわたる無作為オープンラベル、並行、単回投与の第I/II相治験を実施した。治験デザインの模式図が
図2に示されている。本治験は、各治験地で被験者を募集するにあたって、事前に各治験地における治験審査委員会の承認を得た。本治験は、米国CFR21章パート312.20、ヘルシンキ宣言、及びICH(International Conference on Harmonization of Technical Requirements for Pharmaceuticals for Human Use、医薬品規制調和国際会議)の臨床治験ガイドラインに規定された原則に準拠して実施された。治験プロトコルは、ClinicalTrial.gov(NCT02803307)に登録されている。本治験に参加してもらうにあたって、すべての患者から書面によるインフォームドコンセントを得た。
【0080】
20歳以上で、スクリーニング来診の少なくとも6ヶ月前から変形性膝関節症(OA)の診断書が出されている患者を本治験に募集した。OAの診断は、米国リウマチ協会による特発性の変形性膝関節症分類基準(Arthritis Rheum. 1986;29:1039-49)における臨床的及び放射線学的基準に基づいて行われた。更に、治験対象となり得る条件として、Kellgren-Lawrence分類(K-L分類)(Br J Ind Med. 1952;9:197-207)に基づいて膝の重症度が少なくともグレード2であること、対象者におけるベースラインでのVisual Analog Scale(VAS)の疼痛スコアが4以上であること、治験プロトコルを理解でき、参加に同意できることを条件とした。一方、治験対象から除外する場合として、ベースライン時から遡って30日以内に全身性コルチコステロイドを使用したことがある場合、ベースライン時から遡って7日以内にNSAIDs、鎮痛剤、リハビリテーション療法を使用したことがある場合、ライター症候群、全身性エリテマトーデス、シェーグレン症候群、全身性硬化症、炎症性筋炎、混合結合組織病、回帰性リウマチ、関節リウマチ、乾癬性関節炎、強直性脊椎炎、ベーチェット病、炎症性腸疾患に伴う関節炎、サルコイドーシス、血管炎、クリオグロブリン血症、アミロイドーシスの既往歴を有する場合、または投与前に他方の膝に急性感染症または感染症に関連する炎症の臨床的徴候及び症状があった場合は、治験対象から除外した。
【0081】
計46名の変形性膝関節症の患者をスクリーニングし、治験対象選定基準を満たした40名の患者を、2つの群に無作為に割り付けた。スクリーニング来診は、治験開始前の14日以内に行った。片側の膝のみが治験対象の膝として選択され、治験薬の投与とその後の評価が行われた。もう一方の膝に潜在的な急性炎症や感染症が発生した場合は、治験薬の投与を中止した。対象となった被験者を、無作為に2つの群に1:1で分けて、実施例2に記載の方法で調製したDSP医薬組成物を、以下の2種の用量レベルでそれぞれ単回投与した。(1)約45μmоlのリン脂質を含む6mgのDSP(A群)、(2)約90μmоlのリン脂質を含む12mgのDSP(B群)。この研究で使用されたDSP医薬組成物は、上記の各実施例に記載された方法で調製され、再構成後に、DSPの短時間(即時)作用型と長時間作用型の両方を提供するように設計された。各被験者に対して、1回の関節内注射後、12週間にわたって評価が行われた。
【0082】
この研究の主要目的は、2種の異なる用量レベルでのDSP医薬組成物の安全性及び忍容性を評価することにある。安全性の評価は、有害事象(AE)、重篤な有害事象(SAE)、バイタルサイン、及び、身体診察、心電図、臨床検査の変化に基づいて行った。また、この研究の副次的な目的は、被験者及び医師が報告した疼痛スコア(VAS)、WOMAC(Western Ontario and McMaster Universities osteoarthritis Index)関節炎指数スコア、及び治験対象の膝のIGART(Investigator Global Assessment of Response to Therapy)の変化を測定することにより、DSP医薬組成物の有効性を評価することにある。VASとWOMACの評価は、第0週、第1週、第4週、第8週、第12週にそれぞれ行い、IGARTの評価は、第1週、第4週、第8週、第12週に行った。膝の痛みのスコアはVASスケールを用いて評価した(スケールは0[痛み/不快感なし]から10[これまでで最悪の痛み/不快感]の範囲)。WOMAC指標は、痛み(5項目)、こわばり(2項目)、身体機能(17項目)の3つのサブスケールを含み、各サブスケールのスコアは0~4である。治験薬の投与に対する患者の反応は、ベースライン時を除く各定期受診日において、治験責任医師がIGART評価で5段階の評価(効果なし、乏しい、可、良好、優良)のうち1つを選択して決定した。
【0083】
統計解析
本治験のサンプルサイズは、事前に設定した検定力の想定により決定されたものではない。本治験では、計40名の変形性膝関節症の患者の登録が計画された。すべての統計的評価は両側評価とし、有意水準0.05で評価した。欠損データ(早期中止によるものを含む)はインプットされなかった。連続評価項目(血漿コルチゾールの安全性評価、WOMAC指標、VASスコア)については、観察回数、平均値、中央値、標準偏差、最小値、最大値などの記述統計を、ベースラインからの変化とともに生データに示した。また、連続変数については、治療群の間の差を比較するためにウィルコクソンの順位和検定(Wilcoxon rank sum test)を用いて分析し、ベースラインからの変化を比較するためにウィルコクソンの符号順位検定(Wilcoxon signed-rank test)を用いた。分類別評価項目(IGART、WOMAC及びVASにおいてベースラインから30%または50%以上の減少を達成した患者数)については、回数及びパーセンテージを用いた。群の間の差を比較するために、カイ二乗検定を実施し、データが少ない場合はフィッシャーの正確検定を適用した。すべての統計解析は、SAS(登録商標)ソフトウェア(SAS System for Windows 7、バージョン9.3)を用いて行った。本研究では、安全性の解析には安全性集団を用い、有効性の解析には治療企図(ITT、intent-to-treat)集団とパープロトコル(PP、per-protocol)集団を用いた。安全性集団は、DSP医薬組成物を任意の用量で投与されたすべての被験者と定義した。ITT集団は、DSP医薬組成物を総量で少なくとも1回投与され、ベースライン後に有効性評価を少なくとも1回受けた被験者と定義した。PP集団は、ITT集団の中で、主要なプロトコル逸脱・違反がなかった全ての被験者と定義した。40名の被験者全員が安全性集団とITT集団に含まれた。A群の6名とB群の7名を含む13名の被験者がPP集団に含まれた。主な結論は、PP集団に基づいている。
【0084】
結果
本研究では、計46名の対象者がスクリーニングされ、そのうち6名はスクリーニング失敗であった。40名が被験者として本研究に登録され、そのうち39名が適格基準を満たした。この他、スクリーニング前の6ヵ月以内に変形性膝関節症と診断された被験者が更に1名登録された。被験者は20名ずつのA群とB群に無作為に分けられ、それぞれ関節内注射1回分につき45μmоlのリン脂質を含む6mgのDSPと、90μmоlのリン脂質を含む12mgのDSPが投与された。被験者の処置の概要を
図3に、被験者のデモグラフィック情報を表4に示す。
【表4】
【0085】
40名の被験者は全員が東アジア出身であった。平均年齢は67.4歳で、8名(20%)が男性であった。被験者は、KL分類評価でグレード2(n=12)、グレード3(n=20)、グレード4(n=8)に分類された。
【0086】
本治験では、重篤な有害事象や、離脱または死亡につながる有害事象は発生しなかった。コルチコステロイドの長期使用は、血糖値の上昇、更には糖尿病につながる可能性があるため、HbA1cの変化を測定した。ベースライン(0週目)から12週目までのHbA1cの平均値の変化において、A群、B群ともに、統計的に有意な差は認められなかった。
【0087】
コルチゾールの一過性の減少は、コルチコステロイドのIA注射を受けた患者の生理学的反応としてよく知られている。コルチゾールの平均値は、注射の1週間後にベースラインからの減少を示したが、正常範囲内にとどまり、副腎不全の兆候または症状が報告された被験者はいなかった。
【0088】
PP集団において、被験者及び医師が関連する疼痛スコア(VASスコア)の平均値は、A群、B群ともに、12週目の試験終了までの各定期来診時に、ベースラインからの持続的な減少を示した(
図4A及び
図4B)。A群のベースラインから第1週、第4週、第8週、第12週までの被験者のVASの平均値の変化は、それぞれ-2.45、-1.90、-1.80、-1.95であった。B群では、ベースラインから第1週、第4週、第8週、第12週までの被験者のVASの平均値の変化は、それぞれ-3.90、-3.23、-3.33、-3.14であった。統計的有意性(p<0.05)は、B群のベースラインから各定期来診日までの平均値の変化でのみ達成された。A群のベースラインから第1週、第4週、第8週、第12週までの医師関連のVASの平均値の変化は、それぞれ-2.95、-4.33、-3.22、-4.90であった。B群では、ベースラインから第1週、第4週、第8週、第12週までの医師関連のVASの平均値の変化は、それぞれ-3.41、-3.03、-3.80、-4.33であった。ベースラインからの平均変化量は、A群のベースラインから第8週までの平均変化量(-3.22±1.78、p=0.0625)を除いて、すべて統計的に有意であった。同様の傾向はITT集団においても認められた。
【0089】
ベースラインから各定期来診日までのWOMACの痛み、こわばり、身体機能の各サブスケールのスコア減少は、A群に比べてB群においてより顕著に観察された(
図5A~5D)。ベースライン時(0週目)のWOMAC総合スコアの平均値は、PP集団のA群が37.83+19.90、B群が43.29+15.16(平均+SD)であった。ベースラインから第1週、第4週、第8週、第12週までのWOMAC総合スコアの平均値の変化は、A群ではそれぞれ-12.17、-8.33、-9.00、-10.83、B群ではそれぞれ-19.00、-22.29、-20.71、-20.14であった。同様の傾向はITT集団においても認められた。
【0090】
ITT及びPP集団の両方において、第1週、第4週、第8週、及び第12週のIGART評価で、A群とB群との間に統計的な有意性は認められなかった。PP集団(n=13)では、治験責任医師による第1週から第12週までの評価で、A群の33~67%の患者が反応良好と評価され、B群の43~100%の患者が反応良好と評価された。また、ITT集団(n=20)では、治験責任医師による第1週から第12週までの評価で、A群の50~65%の患者が反応良好と評価され、B群の45~60%の患者が反応良好と評価された。
【0091】
今回の第I/II相治験では、DSP医薬組成物の関節内注射は、変形性膝関節症(OA)を患うすべての被験者に良好な忍容性が認められた。本治験で報告された他の有害事象(AE)は、治療に関連しておらず、これらの有害事象のほとんどは重症度が低かった。重篤な有害事象(SAE)、重大な有害事象(注射関連局所反応)、または離脱または死亡のいずれかにつながる有害事象は発生しなかった。
【0092】
DSP医薬組成物は、ウサギ及びビーグル犬において、プロテオグリカン消失などの顕微鏡的所見を示さなかった。また、遊離デキサメタゾン、トリアムシノロンなどのステロイドでは複数回の関節内投与の結果として軟骨損傷が報告されているのに対し、DSP医薬組成物では単回または複数回の関節内投与の後も、動物実験において軟骨損傷や軟骨毒性の誘発が起きなかった。
【0093】
デキサメタゾンは、長時間作用型のコルチコステロイドであるトリアムシノロンに匹敵する痛みの軽減と関節炎の改善を示した。このことは、徐放性プロファイルを有するDSP医薬組成物が、同クラスの他の薬剤よりも遥かに長い期間にわたってデキサメタゾンの治療効果を高め続けることができる可能性を示唆している。
【0094】
今回の第I/II相治験は、1mLあたり20μmоl~150μmоlまたは総量で80μmоl~110μmоlのリン脂質を含むDSP医薬組成物を、変形性膝関節症の被験者に関節内注射で投与した初めての治験である。本治験では、DSP医薬組成物6mg~12mgを12週間以上投与することで、他のコルチコステロイドに比べてより長い作用時間にわたって治療効果が得られることが示された。DSP医薬組成物の単回投与後、疼痛VASスコアにおける疼痛緩和及びWOMAC OA指数における症状緩和が12週間にわたり持続する傾向が認められた。
実施例5.変形性膝関節症患者におけるDSP医薬組成物の有効性の比較分析
【0095】
変形性膝関節症患者におけるDSP医薬組成物の2種の異なる用量レベルでの安全性及び治療効果を探索するための多施設、二重盲検、プラセボ対照の第II相臨床試験が2018年8月に完了した。この臨床試験では、平均年齢63.9歳、中等度の変形性膝関節症、及び疼痛VASスコア5~9である75名の患者を3つの異なる試験群に無作為に割り付け、それぞれに(a)DSP12mg及びリン脂質90μmоlを含む医薬組成物(以下、TLC599 12mgと表記)、(b)DSP18mg及びリン脂質135μmоlを含む医薬組成物(以下、TLC599 18mgと表記)、または(c)プラセボ対照(生理食塩水)(以下、単にプラセボと表記)を単回関節内投与した。
【0096】
主要評価項目は、第12週までのWOMAC疼痛スコアによるベースラインからの平均変化量の評価である。また、WOMAC疼痛スコア、WOMAC身体機能スコア、VAS疼痛スコアの、第24週までの様々な時点でのベースラインからの変化といった他の分析が、臨床的に耐久性のある反応者の割合などの他の分析と共に、副次的評価項目に含まれた。安全性と有効性の評価は、3日目、1週目、及び24週目までの4週ごとに行われた。
【0097】
WOMAC疼痛評価指標を用いた結果、TLC599 12mgは、3日目から12週目までにおいて、プラセボと比較して、統計学的に有意な疼痛緩和の改善を示し、主要評価項目を満たした。更に、TLC599 12mgは、
図6及び表5に示すように、3日目から16週目、20週目、24週目までにおいて、プラセボと比較して、持続的かつ統計学的に有意な疼痛緩和の改善を示し、少なくとも24週間の疼痛制御の持続性が反映された。また、TLC599 12mgは、12週目、16週目、20週目、24週目において、プラセボと比較して統計学的に有意な疼痛緩和の改善を示した。
【0098】
【0099】
同様の結果は、WOMAC身体機能スコアを効果指標として用いても観察された。TLC599 12mgを投与された患者は、3日目から12週目、16週目、20週目、24週目までにおいて、プラセボと比較してWOMAC身体機能スコアの大幅な改善を示した(p<0.05)。
【0100】
更に、同様の結果は、VAS疼痛スコアを効果指標としても観察された。TLC599 12mgは、3日目から12週目、16週目、20週目、24週目までにおいて、プラセボと比較して統計学的に有意な疼痛緩和の改善を示し、ここでも少なくとも6ヶ月間の疼痛制御の持続性が反映された。また、TLC599 12mgは、12週目、16週目、20週目、24週目において、プラセボと比較して、統計学的に有意な疼痛緩和の改善を示した。
【0101】
コルチゾールの一過性の減少は、コルチコステロイドの関節内注射を受けた患者の生理学的反応としてよく知られている。したがって、本治験で認められたコルチゾールの減少は、綿密にモニターされたコルチコステロイドの関節内注射に対する薬力学的反応として予想内であった。血中コルチゾール濃度の臨床検査値の異常は、2つの例外(中等度のコルチゾール低下1例、重度のグルココルチコイド欠損1例)を除き、強度は軽度と報告された。これらのコルチゾール検査値の異常は、いずれも低コルチゾール血症に起因すると思われる徴候や症状を伴うものではなく、すべて治療や後遺症なしに解決された。これらの事象のほとんどは、3日目の時点で発生し、そのうちのほとんどは、次の1週目の診察までに解消された。
【0102】
TLC599 12mgに含まれる遊離デキサメタゾンの総量(約40%)は、関節内注射に使用される典型的な即放性DSP用量(4mg)をわずかに上回っている。
【0103】
本治験で認められた治験薬投与下の有害事象(TEAE、Treatment-emergent Adverse Event)は、調査対象となった集団において想定内のものであった。TLC599は、一般的に安全で良好な忍容性を示した。更に、TLC599 12mgはTLC599 18mgよりも、全体的なTEAE、薬物関連のAE、コルチゾール関連のAEの発生率が低かった。
【0104】
本試験では、毎回の来診時に空腹時血糖値をモニタリングした。TLC599 12mg群の患者1名に血糖値上昇のTEAEが確認され(2つの個別の事象、1つは軽度、1つは中等度)、TLC599 18mg群の患者1名に空腹時血糖値低下のAEが確認された(軽度)。但し、血糖値上昇(両方の事象)は、試験治療との関連性がないと判断された。
【0105】
注目すべきは、これらの患者は治験中にHbA1cの異常を示さなかったことである。したがって、血糖値の上昇は一過性で軽度であったと考えられる。
実施例6.変形性関節症の動物モデルにおけるDSP医薬組成物中の脂質含有量の効果の評価
【0106】
脂質含有量の変化及び薬剤と脂質の相互作用が関節への送達に適した医薬組成物としてのインビボ性能に及ぼす影響を評価するために、脂質含有量の多いDSP及び少ないDSPを調製し、以下のように指示された条件で効果発現の可能性を評価した。
【0107】
DSP医薬組成物の脂質含有量がDSPの治療活性に及ぼす影響を調べるために、II型コラーゲン誘導関節炎(CIA)モデルラットを使用した。計30匹のルイスラットを、1日目にフロイント不完全アジュバント(FIA)で乳化したII型コラーゲンで誘発し、8日目に尾部皮内注射で再び増強した。関節炎の重症度を示す臨床視覚的関節炎スコア(Clinical Score)は、0から4までの関節炎指数を用いて等級付けした(表6参照)。両後肢のスコアを合計して各ラットの合計スコアとし、よって個々のラットの最大可能スコアは8である。17日目に、疾患の誘発に成功し臨床視覚的関節炎スコアの合計が8となり、ラットの両肢に試験品を投与した。それぞれ脂質の総量が異なるDSP医薬組成物を、それぞれ結果的に脂質含有量が以下の表7に示される通り異なることを除いて実施例2に記載された方法と同様の方法で調製した。また、対照群として、脂質を含まない食塩水及び12mg/mLのリン酸デキサメタゾン溶液[Dexamethasone Phosphate (DP)注射液](調剤されていない薬剤)を用いた。
【表6】
【表7】
【0108】
関節への送達に適した医薬組成物中の脂質含有量と臨床視覚的スコア評価に基づく抗関節炎効果との間に相関関係があることを示す結果が得られた(
図7)。
【0109】
インビボ有効性試験の結果、TLC599製剤では脂質含有量の多寡(DSP医薬組成物1mLあたりリン脂質67μmоl以上)にかかわらず、調剤されていない薬剤に比べて有効性の延長期間が少なくとも2.5倍増加したことが報告された。しかしながら、上記の実施例3と併せて、本実施例によるDSP医薬組成物の脂質含有量の範囲(DSP医薬組成物1mLあたり67μmоl以上のリン脂質、例えば約70μmоl~約120μmоl)であれば、より長い抗関節炎作用の持続時間が得られることが推測される。したがって、本開示による医薬組成物は、特に示されたような投与範囲であれば、示された脂質含有量においてDSPの持続的な放出を実際に提供でき、治療効果の向上と治療薬の副作用の最小化との間のバランスを達成することが可能となる。