(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-02-13
(45)【発行日】2025-02-21
(54)【発明の名称】有機性廃棄物の生物処理方法、有機性廃棄物の生物処理システム及び有機性廃棄物の生物処理の運転支援システム
(51)【国際特許分類】
B09B 3/65 20220101AFI20250214BHJP
B09B 5/00 20060101ALI20250214BHJP
C02F 11/04 20060101ALI20250214BHJP
G06Q 10/30 20230101ALI20250214BHJP
【FI】
B09B3/65
B09B5/00 M ZAB
C02F11/04 A
G06Q10/30
(21)【出願番号】P 2022007361
(22)【出願日】2022-01-20
【審査請求日】2024-07-12
(73)【特許権者】
【識別番号】591030651
【氏名又は名称】水ing株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000523
【氏名又は名称】アクシス国際弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】蒲池 一将
(72)【発明者】
【氏名】大野 克博
(72)【発明者】
【氏名】飯倉 智弘
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 美有
(72)【発明者】
【氏名】秋生 淳一
【審査官】遠藤 邦喜
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-130486(JP,A)
【文献】特開2021-094535(JP,A)
【文献】特開2021-065839(JP,A)
【文献】特開2006-320894(JP,A)
【文献】特開2003-245639(JP,A)
【文献】国際公開第2016/020673(WO,A1)
【文献】特開2008-246359(JP,A)
【文献】特開2021-049511(JP,A)
【文献】特開2008-245585(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B09B 3/65
B09B 5/00
C02F 11/04
G06Q 10/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
受入有機性廃棄物の受入情報に基づいて、前記受入有機性廃棄物の受入量及び前記受入有機性廃棄物の成分組成の情報を含む原料情報を作製する工程と、
前記原料情報に基づいて、前記受入有機性廃棄物を前記成分組成毎に区分して保管する工程と、
前記受入有機性廃棄物を生物処理する生物処理装置の運転情報と、前記区分後の前記受入有機性廃棄物の前記成分組成及び前記受入量の情報を含む保管情報と、前記受入有機性廃棄物に含まれる生物処理の処理阻害をもたらす要因となる阻害成分の濃度情報を含む阻害成分情報とに基づいて、前記保管された前記受入有機性廃棄物の前記生物処理装置への投入量及び投入時期を含む投入条件を決定する工程と、
前記投入条件に基づいて、前記受入有機性廃棄物を生物処理する工程と
を有することを特徴とする有機性廃棄物の生物処理方法。
【請求項2】
前記生物処理装置の生物処理結果を取得する工程と、
前記生物処理結果に基づいて前記投入条件を補正する工程と
を更に有する請求項1に記載の有機性廃棄物の生物処理方法。
【請求項3】
前記受入有機性廃棄物の生物処理で得られる汚泥及び処理液を、後処理装置を用いて後処理する工程と、
前記後処理装置の処理結果に基づいて、前記生物処理装置の投入条件を補正する工程と
を更に有する請求項1又は2に記載の有機性廃棄物の生物処理方法。
【請求項4】
前記処理阻害が、前記生物処理装置で処理された処理汚泥又は処理液の性状の悪化、バイオガス発生量の低下、発泡、処理汚泥の脱水性不良、脱水ろ液の水質悪化のいずれかを含む請求項1~3のいずれか1項に記載の有機性廃棄物の生物処理方法。
【請求項5】
前記原料情報を作製する工程が、前記受入有機性廃棄物の過去の成分分析結果、前記受入有機性廃棄物の栄養素成分表示情報、前記生物処理装置の処理実績情報、又は、近赤外分光分析による簡易分析結果のいずれかに基づいて、前記受入有機性廃棄物の前記成分組成として、単位重量あたりのたんぱく質、脂質、炭水化物、ナトリウム、窒素、リン、カルシウム、マグネシウム、鉄、ニッケル、コバルトからなる群の中から1種以上選択される成分の濃度情報を作製することを含む請求項1~4のいずれか1項に記載の有機性廃棄物の生物処理方法。
【請求項6】
前記原料情報に基づいて、前記受入有機性廃棄物を前記成分組成毎に区分して保管する工程が、前記受入有機性廃棄物の成分濃度別に複数に区別して保管することを含む請求項1~5のいずれか1項に記載の有機性廃棄物の生物処理方法。
【請求項7】
前記投入条件を決定する工程が、保管された前記受入有機性廃棄物に含まれる前記阻害成分の種類又は濃度に基づいて、保管された前記受入有機性廃棄物の投入順序を決定する工程を有する請求項1~6のいずれか1項に記載の有機性廃棄物の生物処理方法。
【請求項8】
前記受入有機性廃棄物の前記原料情報、前記保管情報、前記投入条件、及び前記生物処理装置の処理結果の情報の少なくともいずれかを含む帳票を作製する工程
を更に有する請求項1~7のいずれか1項に記載の有機性廃棄物の生物処理方法。
【請求項9】
受入有機性廃棄物の原料情報に基づいて、前記受入有機性廃棄物を区分して保管する保管設備と、
前記保管設備の前記受入有機性廃棄物を投入して生物処理する生物処理装置と、
前記生物処理装置の運転情報と、前記保管設備に保管された前記区分後の前記受入有機性廃棄物の成分組成及び受入量の情報を含む保管情報と、前記受入有機性廃棄物に含まれる生物処理の処理阻害をもたらす要因となる阻害成分の濃度情報を含む阻害成分情報とに基づいて、前記保管された前記受入有機性廃棄物の前記生物処理装置への投入量及び投入時期を制御する制御装置と
を備える有機性廃棄物の生物処理システム。
【請求項10】
受入有機性廃棄物の種類毎に、受入量、前記受入有機性廃棄物の熱量及び前記受入有機性廃棄物の成分組成の情報を含む原料情報を備える原料情報データベースと、
前記原料情報に基づいて、前記受入有機性廃棄物を保管設備内で区分して保管するための保管情報を格納する保管情報データベースと、
前記受入有機性廃棄物を生物処理する生物処理装置の運転情報と、前記区分後の前記受入有機性廃棄物の前記成分組成及び前記受入量の情報を含む前記保管情報と、前記受入有機性廃棄物に含まれる生物処理の処理阻害をもたらす阻害成分の濃度情報を含む阻害成分情報とに基づいて、前記保管された前記受入有機性廃棄物の前記生物処理装置への投入量及び投入時期を含む投入条件を作製する運転情報作製手段と
を備える有機性廃棄物の生物処理の運転支援システム。
【請求項11】
前記受入有機性廃棄物の受入情報に基づいて、前記保管設備の前記受入有機性廃棄物の受入量又は前記生物処理装置の処理条件を最適化する推奨受入計画情報を作製する受入計画作製手段を更に備える請求項10に記載の有機性廃棄物の生物処理の運転支援システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機性廃棄物の生物処理方法、有機性廃棄物の生物処理システム及び有機性廃棄物の生物処理の運転支援システムに関する。
【背景技術】
【0002】
生ごみ、食品加工残渣、食品廃棄物等の有機性廃棄物を生物処理するバイオマス処理施設が知られている。このようなバイオマス処理施設では、食品工場、飲料工場、飲食店舗等から多種多用な有機性廃棄物を処理原料として受け入れ、処理原料をメタン発酵処理することにより、生成するバイオガスを燃料として利用することが行われている。
【0003】
例えば、特開2008-253870号公報(特許文献1)には、メタン発酵槽に導入するバイオマス量を調整することで、メタン発酵が適切に行われるよう制御できるメタン発酵制御システムの例が記載されている。
【0004】
特開2007-98369号公報(特許文献2)には、有機性廃棄物排出者からの廃棄物情報と、有機性廃棄物を生物処理する処理施設からの処理状況に関する処理情報とをネットワークを介して取得するコントロールセンターを備えた有機性廃棄物の生物処理における管理システムが記載されている。特許文献2では、処理情報のうち、現在の処理状況と処理施設において受入可能な廃棄物の最大許容範囲とを比較し、その差分を廃棄物性状データと対比して、有機性廃棄物の引取計画を作製することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2008-253870号公報
【文献】特開2007-98369号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1及び2に記載されるように、有機性廃棄物をバイオマス原料として効率良く利用するための手法は従来から種々提案されている。しかしながら、有機性廃棄物は多種多様な組成を有しており、排出元によって組成に偏りがあるため、受入順に処理すると栄養成分等に過不足が生じ処理が悪化することがある。また、原料の組み合わせによっては、生物処理槽へのスケール生成や処理悪化をもたらす場合がある。そのため、生物処理槽には、投入原料を組成の偏りがないように投入することが好ましいが、投入原料の組成分析及び調製には手間と時間がかかるため、処理の効率化及び安定化を図る点ではまだ検討の余地がある。
【0007】
上記課題を鑑み、本発明は、有機性廃棄物の処理効率を向上でき、生物処理槽における処理悪化を抑制しながら長期間安定して処理することが可能な有機性廃棄物の生物処理方法、有機性廃棄物の生物処理システム及び有機性廃棄物の生物処理の運転支援システムを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の有機性廃棄物の生物処理方法は、一側面において、受入有機性廃棄物の受入情報に基づいて、受入有機性廃棄物の受入量及び受入有機性廃棄物の成分組成の情報を含む原料情報を作製する工程と、原料情報に基づいて、受入有機性廃棄物を成分組成毎に区分して保管する工程と、受入有機性廃棄物を生物処理する生物処理装置の運転情報と、区分後の受入有機性廃棄物の成分組成及び受入量の情報を含む保管情報と、受入有機性廃棄物に含まれる生物処理の処理阻害をもたらす要因となる阻害成分の濃度情報を含む阻害成分情報とに基づいて、保管された受入有機性廃棄物の生物処理装置への投入量及び投入時期を含む投入条件を決定する工程と、投入条件に基づいて、受入有機性廃棄物を生物処理する工程とを有する有機性廃棄物の生物処理方法である。
【0009】
本発明の有機性廃棄物の生物処理方法は一実施態様において、生物処理装置の生物処理結果を取得する工程と、生物処理結果に基づいて投入条件を補正する工程とを更に有する有機性廃棄物の生物処理方法が提供される。
【0010】
本発明の有機性廃棄物の生物処理方法は別の一実施態様において、受入有機性廃棄物の生物処理で得られる汚泥及び処理液を、後処理装置を用いて後処理する工程と、後処理装置の処理結果に基づいて、生物処理装置の投入条件を補正する工程とを更に有する。
【0011】
本発明の有機性廃棄物の生物処理方法は更に別の一実施態様において、処理阻害が、生物処理装置で処理された処理汚泥又は処理液の性状の悪化、バイオガス発生量の低下、発泡、処理汚泥の脱水性不良、脱水ろ液の水質悪化のいずれかを含む。
【0012】
本発明の有機性廃棄物の生物処理方法は更に別の一実施態様において、原料情報を作製する工程が、受入有機性廃棄物の過去の成分分析結果、受入有機性廃棄物の栄養素成分表示情報、生物処理装置の処理実績情報、又は、近赤外分光分析による簡易分析結果のいずれかに基づいて、受入有機性廃棄物の成分組成として、単位重量あたりのたんぱく質、脂質、炭水化物、ナトリウム、窒素、リン、カルシウム、マグネシウム、鉄、ニッケル、コバルトからなる群の中から1種以上選択される成分の濃度情報を作製することを含む。
【0013】
本発明の有機性廃棄物の生物処理方法は更に別の一実施態様において、原料情報に基づいて、受入有機性廃棄物を成分組成毎に区分して保管する工程が、受入有機性廃棄物の成分濃度別に複数に区別して保管することを含む。
【0014】
本発明の有機性廃棄物の生物処理方法は更に別の一実施態様において、投入条件を決定する工程が、保管された受入有機性廃棄物に含まれる阻害成分の種類又は濃度に基づいて、保管された受入有機性廃棄物の投入順序を決定する工程を有する。
【0015】
本発明の有機性廃棄物の生物処理方法は更に別の一実施態様において、受入有機性廃棄物の原料情報、保管情報、投入条件、及び生物処理装置の処理結果の情報の少なくともいずれかを含む帳票を作製する工程を更に有する。
【0016】
本発明は、別の一側面において、受入有機性廃棄物の原料情報に基づいて、受入有機性廃棄物を区分して保管する保管設備と、保管設備の受入有機性廃棄物を投入して生物処理する生物処理装置と、生物処理装置の運転情報と、保管設備に保管された区分後の受入有機性廃棄物の成分組成及び受入量の情報を含む保管情報と、受入有機性廃棄物に含まれる生物処理の処理阻害をもたらす要因となる阻害成分の濃度情報を含む阻害成分情報とに基づいて、保管された受入有機性廃棄物の生物処理装置への投入量及び投入時期を制御する制御装置とを備える有機性廃棄物の生物処理システムである。
【0017】
本発明は、更に別の一側面において、受入有機性廃棄物の種類毎に、受入量、受入有機性廃棄物の熱量及び受入有機性廃棄物の成分組成の情報を含む原料情報を備える原料情報データベースと、原料情報に基づいて、受入有機性廃棄物を保管設備内で区分して保管するための保管情報を格納する保管情報データベースと、受入有機性廃棄物を生物処理する生物処理装置の運転情報と、区分後の受入有機性廃棄物の成分組成及び受入量の情報を含む保管情報と、受入有機性廃棄物に含まれる生物処理の処理阻害をもたらす阻害成分の濃度情報を含む阻害成分情報とに基づいて、保管された受入有機性廃棄物の生物処理装置への投入量及び投入時期を含む投入条件を作製する運転情報作製手段とを備える有機性廃棄物の生物処理の運転支援システムである。
【0018】
本発明の有機性廃棄物の生物処理の運転支援システムは一実施態様において、受入有機性廃棄物の受入情報に基づいて、保管設備の受入有機性廃棄物の受入量又は生物処理装置の処理条件を最適化する推奨受入計画情報を作製する受入計画作製手段を更に備える。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、有機性廃棄物の処理効率を向上でき、生物処理槽における処理悪化を抑制しながら長期間安定して処理することが可能な有機性廃棄物の生物処理方法、有機性廃棄物の生物処理システム及び有機性廃棄物の生物処理の運転支援システムが提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】本発明の第1の実施の形態に係る有機性廃棄物の生物処理システムの一例を表すブロック図である。
【
図2】本発明の第1の実施の形態に係る有機性廃棄物の生物処理方法の一例を表すフロー図である。
【
図3】第1工程の処理フローの一例を表すフロー図である。
【
図4】第2工程の処理フローの一例を表すフロー図である。
【
図5】第3工程の処理フローの一例を表すフロー図である。
【
図6】第4工程の処理フローの一例を表すフロー図である。
【
図7】本発明の第2の実施の形態に係る有機性廃棄物の生物処理システムの一例を表すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、図面を参照しながら本発明の実施の形態を説明する。以下の図面の記載においては、同一又は類似の部分には同一又は類似の符号を付している。なお、以下に示す実施の形態は、この発明の技術的思想を具体化するための装置や方法を例示するものであって、この発明の技術的思想は構成部品の構造、配置等を下記のものに特定するものではない。
【0022】
(第1の実施の形態)
-生物処理システム-
本発明の第1の実施の形態に係る有機性廃棄物の生物処理システムは、
図1に示すように、有機性廃棄物を排出する排出施設1A、1B、1C等で排出された有機性廃棄物(以下「受入有機性廃棄物」という)を保管する保管設備2と、保管設備2で保管された受入有機性廃棄物を生物処理する処理施設3、5と、制御装置40を備える運転支援システム4を備える。
【0023】
排出施設1A、1B、1Cは有機性廃棄物を排出する施設等である。例えば、排出施設1A、1B、1Cは、飲料工場、食品加工工場、食品製造工場、肥料製造工場、機械工場、自動車工場、ショッピングセンター、レストラン、スーパーマーケット、ホテル、病院などの各種施設等から構成される。
【0024】
保管設備2は、排出施設1A、1B、1Cから送られる受入有機性廃棄物の原料情報に基づいて、受入有機性廃棄物を複数に区分して(第1分類2a、第2分類2b、第3分類2c、第4分類2d、・・・)保管する。受入有機性廃棄物の原料情報に基づく区分及び保管方法の詳細は後述する。
【0025】
処理施設3、5は、受入有機性廃棄物を生物処理によりバイオマスエネルギー等にして再利用するための設備であり、例えば、生物処理装置30と、後処理装置300とを備えることができる。生物処理装置30は、微生物を用いた生物処理を行うための装置であって、典型的には嫌気性微生物を用いて嫌気性消化処理を行う消化槽(発酵槽)等が利用できる。嫌気性消化処理は30~40℃の中温メタン発酵、50~60℃の高温メタン発酵のいずれでも良い。後処理装置300には、生物処理装置30で処理された汚泥と処理液を処理するための装置を備え、典型的には、活性汚泥槽、硝化脱窒槽、脱水機、濃縮機等が利用できる。処理施設3、5では、受入有機性廃棄物の組成に応じて生物処理を選択することができる。例えば、受入有機性廃棄物の組成によっては、生物処理装置30を介さずに後処理装置300が備える活性汚泥槽等へ投入してもよい。有機物濃度が低く、嫌気性消化処理に適さない受入有機性廃棄物の一部を窒素除去用の水素供与体として後処理装置300が備える硝化脱窒槽等へ投入してもよい。
【0026】
運転支援システム4は、いわゆる汎用のコンピュータ、サーバ、ワークステーション、タブレット端末等で構成される。運転支援システム4は、各種情報処理及び保管設備2及び処理施設3、5の制御を行う制御装置40と、制御装置40による処理の結果や処理に必要な情報を格納する記憶手段としての原料情報データベース(以下「DB」と記載する)51、保管情報DB52、運転情報DB53、フィードバック(FB)情報DB54を備える。
【0027】
図1において運転支援システム4は、典型的には、ネットワーク6を介して保管設備2及び処理施設3、5に接続される例を示しているが、この例には限定されない。例えば、保管設備2及び処理施設3、5の各施設に対し、それぞれ
図1の運転支援システム4と同等または運転支援システム4の一部の機能を実行可能なコンピュータ装置が配置され、各コンピュータ装置内で、所望の処理が実行されるように構成されてもよいことは勿論である。
【0028】
制御装置40は、原料情報作製手段41、保管情報作製手段42、及び運転情報作製手段43を備える。原料情報作製手段41は、排出施設1A、1B、1Cから送られる受入有機性廃棄物の種類毎に、受入量、受入有機性廃棄物の熱量、受入有機性廃棄物の成分組成、有機性廃棄物中に含まれる阻害物質量及び種類等の情報を含む原料情報を作製する。
【0029】
保管情報作製手段42は、原料情報に基づいて、受入有機性廃棄物を保管装置内でその特性毎に複数に区分して保管するための保管情報を作製する。運転情報作製手段43は、保管設備2に保管された受入有機性廃棄物の生物処理装置30への投入量及び投入時期を含む投入制御条件を作製する。
【0030】
原料情報DB51には、原料としての受入有機性廃棄物の各種情報が格納される。例えば、
図2に示すように、受入有機性廃棄物の搬出元、日付、受入量(重量及び/又は体積)の他、受入有機性廃棄物の熱量、受入有機性廃棄物の簡易分析結果、成分組成情報、過去の成分組成判定データ、受入有機性廃棄物のマニフェスト情報、搬出元の代表的な製品情報等が、原料情報DB51に格納できる。成分組成情報には、三大栄養素としてたんぱく質、脂質、炭水化物の他、ナトリウム、窒素、リン、カルシウム、マグネシウム、鉄、ニッケル、コバルト等の各元素成分の濃度情報を含む。過去の成分組成判定データには、処理施設3、5又は図示しないその他の処理施設で過去に処理された受入有機性廃棄物の成分組成情報、過去のラボ試験での処理結果、過去に処理された受入有機性廃棄物のマニフェスト情報、食品等に付される食品標準成分表等が含まれる。
【0031】
保管情報DB52には、保管設備2に保管される受入有機性廃棄物の保管期間、区分先、熱量、区分後の受入有機性廃棄物の成分組成情報、重量等が格納される。区分後の受入有機性廃棄物の成分組成情報には、区分後の受入有機性廃棄物について、その区分毎の成分組成情報、熱量、生物処理装置30及び後処理装置300に投入された場合に、生物処理の処理阻害をもたらす要因となる阻害成分の濃度情報を含む阻害成分情報が格納される。
【0032】
阻害成分情報としては、例えば、生物処理装置30内の処理液に発泡をもたらす恐れのある脂質又は発泡性物質等の成分の濃度情報、生物処理装置30における例えば発酵処理等を阻害するナトリウム、窒素、硫酸塩等の濃度情報、生物処理装置30及び後処理装置300におけるスケール発生の原因となるカルシウム又はマグネシウム等の成分の濃度情報、一の受入有機性廃棄物に含まれる成分と他の受入有機性廃棄物に含まれる成分とを生物処理装置30内で同時に処理した場合に、処理阻害を発生させる場合のその成分同士の組み合わせの情報、人工甘味料等の難消化性成分の濃度情報等を含む。
【0033】
また、生物処理に用いられる微生物の増殖を促進させることが可能な無機塩として、例えばカルシウム、マグネシウム、鉄、ニッケル、コバルト、カリウム、ナトリウム、亜鉛、セレン、タングステン、モリブデン、銅、マンガン、アルミニウム、硫黄等の中から選ばれる1種以上の成分がある。しかしながら、これらも高濃度となることで生物処理の処理阻害をもたらす阻害物質となり得るし、逆に、不足または欠乏しても生物処理が阻害される。よって、このような成分も本発明の阻害成分情報として含めても良い。
【0034】
運転情報DB53には、保管設備2及び処理施設3、5の現在及び過去の運転情報が格納される。運転情報としては、生物処理装置30がメタン発酵処理を行う発酵槽の場合は、発酵槽へ投入される投入原料の全固形物濃度(TS)、バイオガス発生量、バイオガス組成(CH4、CO2、H2S等)、pH、処理温度、滞留時間、有機物負荷、アンモニア態窒素濃度、消泡剤等の薬品種類と薬注率、脱水機301で用いる凝集剤の種類と薬注率、汚泥及び処理液の発生量等が含まれる。
【0035】
FB情報DB54には、生物処理装置30の計測データ(生物処理装置計測データ)、後処理装置300に含まれる脱水機301(
図2参照)の計測データ(脱水機計測データ)、後処理装置300に含まれる水処理装置302の計測データ(硝化脱窒データ)、生物処理装置30及び後処理装置300の各処理に伴う電気、ガス、水道、薬品等の費用の情報を含むユーティリティデータ等が格納される。
【0036】
-生物処理方法-
図2は、第1の実施の形態に係る生物処理方法の代表的な処理の流れを示している。第1の実施の形態に係る生物処理方法は、受入有機性廃棄物を受け入れ、受入有機性廃棄物の受入情報を作製する第1工程(S1、S11~S13)と、原料情報に基づいて、受入有機性廃棄物を区分して保管するための保管情報を作製し、受入有機性廃棄物を保管設備2に保管する第2工程(S2、S24、S25)と、保管設備2に保管された受入有機性廃棄物の生物処理装置30への投入量、投入時期、投入順序等を含む投入条件を決定し、制御する第3工程(S3、S33)とを有する。第1の実施の形態に係る生物処理方法は、更に、生物処理装置30、脱水機301、水処理装置302を含む処理施設3の処理結果に基づいて、投入条件を補正する第4工程(S44、S45)を有していてもよい。
【0037】
-第1工程-
第1工程では、
図2及び
図3に示すように、受入有機性廃棄物の受入を行う(受入廃棄物受入工程S1)。そして、受入有機性廃棄物の受入情報に基づいて、受入有機性廃棄物の性状を判定し(受入有機性廃棄物性状判定工程S11)、受入有機性廃棄物の原料情報DB51を作製する(原料情報作製工程S12)。
【0038】
具体的には、
図3に示すように、ステップS1において、受入有機性廃棄物の受入が行われると、ステップS11において、原料情報作製手段41が、受入有機性廃棄物の性状判定を行う。まず、ステップS111において、原料情報作製手段41は、受入有機性廃棄物の性状判定に際し、原料情報DB51に格納された過去の分析結果等を含む情報が利用できるか、又は受入有機性廃棄物が加工食品などである場合には、加工食品に付された栄養素成分表示等の代表的な製品情報が利用できるか否かを判定する。例えば、受入有機性廃棄物が加工食品や飲料水等である場合には、搬送されるパレット上に同等の在庫品が多量に搬送される場合が多く、このような加工食品には栄養素成分表示等の情報が付されていることが多い。また、排出業者は一般的に、受入有機性廃棄物を排出するために予め成分組成を含めた多量の情報を付していることが多い。このような情報を利用することで、受入有機性廃棄物の成分組成をより迅速かつ簡単に判断することができる。
【0039】
また、新規な処理施設では既存の処理実績情報がないため、受入有機性廃棄物の性状判定及び分析には時間を要することがある。ステップS111において、受入有機性廃棄物に付された情報及び原料情報DB51に格納された他の処理施設での処理実績情報を利用することで、受入有機性廃棄物の成分組成をより迅速かつ簡単に判断することができる。
【0040】
原料情報DB51に格納された情報又は受入有機性廃棄物に付された情報が受入有機性廃棄物の性状判定に利用できる場合には、ステップS113へ進む。原料情報DB51に格納された情報又は受入有機性廃棄物に付された情報が利用できない場合は、ステップS112へ進む。
【0041】
ステップS112において、受入有機性廃棄物について簡易分析を行う。簡易分析に用いられる簡易分析装置としては、近赤外線スペクトルの反射及び透過データを分析する近赤外線分析装置を利用することできる。近赤外線分析装置は、受入有機性廃棄物の非破壊分析が迅速かつ比較的正確に行える点で好ましいが、受入有機性廃棄物を簡易に分析できる装置であれば近赤外線分析装置に限定されないことは勿論である。ここでは、例えば、受入有機性廃棄物の熱量、たんぱく質、脂質、炭水化物、ナトリウム、食物繊維、灰分、水分等を簡易分析する。簡易分析結果は、原料情報DB51へ格納される。代表的な廃棄物の選定が困難な多種多様な受入有機性廃棄物の場合、画像解析により類似廃棄物を推定してもよい。
【0042】
ステップS113において、原料情報作製手段41は、ステップS111及びS112で得られた性状判定結果、即ち、受入有機性廃棄物の過去の成分分析結果、受入有機性廃棄物の栄養素成分表示情報、生物処理装置30の処理実績情報、又は、近赤外分光分析による簡易分析結果の少なくともいずれかに基づいて、受入有機性廃棄物の成分組成を算出する。
【0043】
例えば、受入有機性廃棄物に栄養素成分表示等の情報が付されていた場合、原料情報作製手段41は、栄養素成分表示の情報を利用して、受入有機性廃棄物に含まれる単位重量あたりの各成分情報を算出する。受入有機性廃棄物を簡易分析した場合には、その簡易分析結果に基づき、受入有機性廃棄物に含まれる単位重量あたりの各成分情報を算出する。第1工程によれば、受入有機性廃棄物の組成分析を簡易化することができ、生物処理装置30で阻害反応が生じないように、且つ処理効率を最適化するために生物処理装置30へ投入する受入有機性廃棄物の投入量の比率や限界を算出しやすくなる。原料情報作製手段41は、生物処理装置30における生物処理の処理阻害を生じさせる阻害成分の成分情報を更に作製する。
【0044】
ステップS12において、原料情報作製手段41は、ステップS113において算出された情報を元に、原料情報のデータベースを作製し、原料情報DB51に格納する。原料情報のデータベースには、受入有機性廃棄物の受入量及び受入有機性廃棄物の成分組成の情報を少なくとも含むことが好ましい。ステップS13において、原料情報作製手段41は、受入有機性廃棄物の受入量及び受入有機性廃棄物の成分組成の情報等を記録した帳票(受入帳票)を作製し、出力する。帳票が出力されることで生物処理システムの運転管理が容易になる。
【0045】
-第2工程-
第2工程では、
図2及び
図4に示すように、第1工程で得られた原料情報に基づいて、受入有機性廃棄物を成分組成毎に区分して保管するための保管情報を作製し(S21~S24)、保管設備2へ保管する。
【0046】
受入有機性廃棄物を成分組成毎に区分するための区分条件は、生物処理装置30の処理状況に応じて適宜設定できる。例えば、生物処理装置30がメタン発酵処理を行う発酵槽である場合、受入有機性廃棄物が、メタン発酵に最適な投入条件で投入できるように、受入有機性廃棄物の成分濃度別に複数に区別することが好ましい。例えば、メタン発酵処理では、投入原料の窒素濃度が高すぎると発酵阻害が生じることがある。よって、例えば、受入有機性廃棄物を成分組成毎に区分するための区分条件として、受入有機性廃棄物の窒素濃度に着目し、例えば、受入有機性廃棄物の窒素濃度の高いものから順に、受入有機性廃棄物を、
図1に示すように、第1分類2a、第2分類2b、第3分類2c、第4分類2d、・・・に区分して保管することが好ましい。あるいは、受入有機性廃棄物に含まれるナトリウム濃度、発泡性物質、脱水処理に影響を及ぼす物質、スケール発生に影響を及ぼす物質等の生物処理装置30又は後処理装置300に処理阻害もたらす要因となる阻害成分の濃度別に、受入有機性廃棄物を、第1分類2a、第2分類2b、第3分類2c、第4分類2d、・・・に区分して保管してもよい。
【0047】
保管設備2では、投入原料用の成分調整のため、複数種の受入有機性廃棄物を混合して保管してもよいし、別々に保管してもよい。複数種の受入有機性廃棄物を混合して、生物処理装置30へ投入される成分組成濃度及び熱量を調整することで、受入有機性廃棄物の生物処理装置30の負荷調整を容易にし、発泡等のトラブルを抑制できる。保管設備2では、特定の性状に基づいて、複数の受入有機性廃棄物を混合せずにそれぞれ複数に区分して保管することで、混合による性状変化、例えば混合による有毒ガスの発生等を抑制し、保管設備2の安全性を保つことができる。どのような形態で区分及び保管するかについては、受入有機性廃棄物の受入量及び種類等の情報を元に決定され、最適化される。
【0048】
多種多様な成分組成を有する受入有機性廃棄物の生物処理においては、受入有機性廃棄物が生物処理に不適合な原料であったり、受入有機性廃棄物の中に生物処理に不適合な成分が含まれたりする場合がある。また、受入有機性廃棄物に含まれる特定の成分が、他の成分に比べて生物処理における分解速度が遅い場合又は生物処理の処理阻害を引き起こす場合がある。受入有機性廃棄物を成分組成毎に区分する際には、不適合原料を排除することも好ましい。また、生物処理に不適合な成分を含む受入有機性廃棄物に対して他の受入有機性廃棄物とは別の処理条件で処理を行うために、他の受入有機性廃棄物と区別して保管することもまた好ましい。
【0049】
例えば、
図4に示すように、ステップS21において、保管情報作製手段42が、原料情報DB51から受入有機性廃棄物中の成分組成情報を抽出する。ステップS22において、保管情報作製手段42は、受入有機性廃棄物中の成分情報の中に不適合原料が存在するか否かを判定する。不適合原料が存在する場合には、ステップS23において、不適合原料が存在する受入有機性廃棄物を排除するか否かを判定する。受入有機性廃棄物を排除する場合には、ステップS25において、不適合原料を含む受入有機性廃棄物を抜出し、生物処理装置30での生物処理対象から排除する。
【0050】
不適合原料を含んでいても、例えば濃度が基準値以下の場合、或いは生物処理装置30で処理可能である場合には、ステップS26に進む。ステップS26において、保管情報作製手段42は、成分組成又は不適合原料に基づいて、受入有機性廃棄物を区分して保管するための保管情報を作製する。保管情報には、区分条件と、区分後の受入有機性廃棄物の成分組成情報、受入量及び日付の情報を含むことが好ましい。ステップS27において、保管情報作製手段42は、受入有機性廃棄物を区分して保管するための保管情報を記録した帳票(保管帳票)を出力する。受入有機性廃棄物は、保管情報に基づいて、受入有機性廃棄物を成分組成毎に区分して保管設備2に保管される。
【0051】
-第3工程-
第3工程では、生物処理装置30の生物処理条件と、区分後の受入有機性廃棄物の成分組成及び受入量の情報を含む保管情報とに基づいて、保管された受入有機性廃棄物の生物処理装置への投入量及び投入時期を含む投入条件を決定する(運転情報作製工程)。生物処理装置30の生物処理条件としては、生物処理装置30が発酵槽の場合は、発酵槽へ投入される投入原料の全固形物濃度(TS)、バイオガス発生量、排ガス(CO2、H2S等)発生量、pH、処理温度、滞留時間、有機物負荷、アンモニア性窒素濃度(NH4-N)、消泡剤等の薬品濃度、汚泥及び処理液の発生量等を含む。投入条件としては、複数の受入有機性廃棄物の投入割合(投入量)、投入順序、投入間隔、投入前に保管された受入有機性廃棄物を混合してから投入するか又は混合せずに別々の生物処理装置30へ投入するかなどの情報を含む。
【0052】
具体的には、
図5に示すように、ステップS31において、運転情報作製手段43が、保管情報DB52、運転情報DB53、及び生物処理装置30の生物処理装置計測データを含むFB情報DB54の情報及び生物処理に処理阻害をもたらす要因となる阻害成分の濃度情報を含む阻害成分情報を抽出し、生物処理装置30の生物処理に最適な投入量及び投入時期となるように、各成分情報に着目して投入条件を決定することが好ましい。
【0053】
例えば、生物処理装置30がメタン発酵処理の発酵槽である場合、発酵槽内のアンモニア性窒素濃度が中温メタン発酵処理では100~4000mg/L、より好ましくは200~3000mg/Lとなるように、高温メタン発酵処理では200~3000mg/L、より好ましくは1000~2000mg/Lとなるように、運転情報作製手段43が、保管設備2において第1分類2a、第2分類2b、第3分類2c、第4分類2d、・・・に区分された受入有機性廃棄物の投入条件をアンモニア性窒素濃度に着目して決定することができる。
【0054】
あるいは、生物処理装置30がメタン発酵処理の発酵槽である場合、発酵槽で処理された汚泥の汚泥濃度あたりの脂質割合が30wt%以下、更には20wt%以下となるように、運転情報作製手段43が、保管設備2において第1分類2a、第2分類2b、第3分類2c、第4分類2d、・・・に区分された受入有機性廃棄物の投入順序と投入時期及び投入量を脂質割合に着目して決定することができる。
【0055】
あるいは、生物処理装置30がメタン発酵処理の発酵槽である場合、発酵槽内のナトリウム濃度が100~8000mg/L、より好ましくは200~3500mg/Lとなるように、運転情報作製手段43が、保管設備2において第1分類2a、第2分類2b、第3分類2c、第4分類2d、・・・に区分された受入有機性廃棄物の投入順序と投入時期及び投入量をナトリウム濃度に着目して決定することができる。
【0056】
多種多様な組成を有する受入有機性廃棄物においては、ある受入有機性廃棄物に発泡性物質が一定以上含まれると、生物処理装置30内の処理液が発泡し、生物処理装置30内で生じた泡が上昇してバイオガス回収のための配管を閉塞させる恐れや計測器具に付着して誤作動等を生じさせる恐れがあり、これにより生物処理装置30の処理阻害が生じることがある。
【0057】
或いは、カルシウム、マグネシウム等のスケール成分が受入有機性廃棄物中に多量に含まれると、生物処理装置30及びその周辺の配管にスケールの発生を生じさせ、配管の閉塞等をもたらすことがある。上述の窒素濃度、脂質割合、ナトリウム濃度等についても投入原料中の濃度管理を適正に行わないと、生物処理装置30及び後処理装置300での処理阻害が発生することもある。
【0058】
他にも、生物処理の処理阻害としては、上述した発泡の他に、処理汚泥又は処理液の性状の悪化、バイオガス発生量の低下、処理汚泥の脱水性不良、脱水ろ液の水質悪化等がある。本実施形態では、生物処理阻害をもたらす要因となる阻害成分の濃度情報を含む阻害成分情報に着目し、その成分情報に基づいて受入有機性廃棄物を複数に区分し、これを生物処理装置30へ投入することにより、生物処理装置30における処理悪化を抑制しながら長期間安定して処理することができる。
【0059】
多種多様な受入有機性廃棄物を生物処理する場合においては、投入順序も重要である。例えば、一の受入有機性廃棄物中のある成分と、他の受入有機性廃棄物中のある成分とを、同一の生物処理装置30に投入すると、処理が悪化する場合がある。例えば、脂質の多い受入有機性廃棄物をメタン発酵処理している発酵槽内へ、糖分の多い受入有機性廃棄物を投入すると水素が生じて脂質の分解を阻害する処理阻害(発酵阻害)が生じ、処理が悪化することがある。阻害を防止又は軽減するためには、例えば、脂質の残留量が一定値まで低下してから糖分の多い受入有機性廃棄物を投入すれば良い。以下に限定されないが、脂質の残留量としては、例えば、5000mg/L以下が良く、3000mg/L以下がより好ましく、1000mg/L以下がさらに好ましい。脂質の残留量を低下させるには、脂質の投入量を漸減させるか、或いは、投入を一時停止すれば良い。一時停止時間は、例えば、5日間以上、好ましくは10日間以上、さらに好ましくは20日間以上とすることができる。糖のような易分解性物質や、C5以下の低級アルコール、C6以下の揮発性有機酸等の発酵生成物を投入する場合は、上記のように投入条件を工夫することで阻害をおさえることができる。以下に限定されるものではないが、制御形態としては、例えば、生物処理に影響を与える受入廃棄物中の特定成分の濃度の基準値に基づいて、生物処理が良好に進行するように、特定成分の投入量、投入期間、投入休止期間等を定めることが好ましい。
【0060】
本実施形態では、生物処理の処理阻害を生じさせる阻害成分の生物処理装置30への投入順序を制御するように、保管設備2に保管された受入有機性廃棄物の生物処理装置30への投入量及び投入時期を含む投入条件を決定する。これにより有機性廃棄物の処理効率を向上でき、生物処理装置30における処理悪化を抑制しながら長期間安定して処理することが可能となる。
【0061】
更に、ステップS32の投入条件を決定する工程においては、運転情報作製手段43が、保管設備2に保管された受入有機性廃棄物に含まれる生物処理に処理阻害をもたらす要因となる阻害成分の濃度情報を含む阻害成分情報に基づいて、受入有機性廃棄物の生物処理装置30への投入を制御するように、保管された受入有機性廃棄物の投入順序を決定する工程を有する。これにより、複数種の成分組成の異なる受入有機性廃棄物を同一の生物処理装置30に投入する場合においても、生物処理装置30の処理悪化を抑制しながら安定して処理を行うことができる。ステップS33において、運転情報作製手段43は受入有機性廃棄物の投入条件の情報を記録した帳票を出力する。
【0062】
受入有機性廃棄物の投入条件が決定されると、
図2のステップS3において、投入条件に基づいて、保管設備2から所定の受入有機性廃棄物が搬入されて所定の投入割合及び投入間隔で投入される。生物処理装置30は、投入条件に基づいて、受入有機性廃棄物を生物処理する。生物処理により得られる汚泥は脱水機301で脱水処理が行われ、処理液は水処理装置302で硝化脱窒処理等の所定の処理が行われる。なお、受入有機性廃棄物の成分組成によっては、生物処理装置30をバイパスさせて水処理装置302へ受入有機性廃棄物を供給してもよい。
【0063】
-第4工程-
第4工程では、
図2及び
図6に示すように、生物処理装置30、脱水機301、水処理装置302を含む処理施設3の処理結果に基づいて、第3工程で決定された投入条件を補正する(S44)ことが好ましい。第4工程を備えることにより、生物処理装置30、脱水機301、水処理装置302を含む処理施設3の処理結果を投入条件にフィードバックして最適化することができるため、受入有機性廃棄物の処理効率を向上でき、生物処理装置30における処理悪化を抑制しながら長期間安定して処理することができる。
【0064】
処理施設3の処理結果(生物処理結果)は、FB情報DB54に格納される。生物処理装置30の処理結果を記憶する生物処理装置計測データには、バイオガス量、バイオガス中のメタン、二酸化炭素、硫化水素の濃度、pH、アルカリ度、固形物濃度、NH4-N、揮発性脂肪酸(VFA)濃度の計測結果及び処理水量、汚泥搬出量等の処理結果等が含まれる。後処理装置300の脱水機301の脱水機計測データには、脱水汚泥含水率、ポリマー種類、ポリマー使用量、圧力等が含まれる。後処理装置300の水処理装置302の硝化脱窒データには、pH、アルカリ度、有機物濃度、NH4-N、亜硝酸性窒素(NO3-N)、メタノール使用量の計測結果等が含まれる。その他、ユーティリティデータとして、電気、ガス、水道、薬品の利用状況等の情報が含まれる。
【0065】
運転情報作製手段43は、
図6に示すように、FB情報DB54に格納された生物処理装置30の処理結果を抽出し(ステップS41)、これら処理結果のうちの少なくとも1以上の情報に基づいて、処理結果の情報と、予め定められた処理基準値(推奨値)の情報とを比較する(ステップS42)。ステップS43において、運転情報作製手段43は、処理結果と基準値との比較の結果に基づいて、投入条件を補正するか否かを判断する。処理結果と基準値との比較の結果、処理結果が基準値から外れる場合には、ステップS44において、処理結果が基準値に収まるような投入条件となるように投入条件を補正する。処理結果が基準値から外れない場合には、ステップS45へ進む。ステップS45において、運転情報作製手段43は、投入条件が補正された場合には補正後の投入条件を、投入条件が補正されない場合にはその投入条件を記録した帳票を出力する。
【0066】
本発明の第1の実施の形態によれば、排出施設1A、1B、1Cから排出された受入有機性廃棄物の原料情報を受入有機性廃棄物に付された情報、既存の処理結果、或いは簡易分析等により迅速に判定する。受入有機性廃棄物を保管する場合には、生物処理装置30における生物処理状況に応じて、受入有機性廃棄物を成分組成毎に複数に区分して保管することができる。これにより、生物処理装置30の処理条件に適した区分に属する受入有機性廃棄物を生物処理装置30に優先的に投入することができる。
【0067】
更に、生物処理装置30への投入条件は、生物処理装置30の生物処理条件と、区分後の受入有機性廃棄物の成分組成及び受入量の情報を含む保管情報とに基づいて、生物処理の処理阻害を生じさせる阻害成分の生物処理装置30への投入を制御するように、保管された受入有機性廃棄物の生物処理装置30への投入量及び投入時期を含む投入条件を決定されるため、生物処理装置30における処理悪化を長期間抑制することができる。
【0068】
(第2の実施の形態)
第2の実施の形態に係る有機性廃棄物の生物処理システムは、
図7に示すように、運転支援システム4が、学習手段44と、受入計画作製手段45と、学習データベース(学習DB)55とを備える。他は第1の実施の形態に係る生物処理システムと同様である。
【0069】
図7の例においても、運転支援システム4がネットワーク6を介して保管設備2、処理施設3、5に接続される例を示しているがこの例に限られず、運転支援システム4の一部の機能を実行可能なコンピュータが、保管設備2、処理施設3、5にそれぞれ設けられていてもよいことは勿論である。例えば、学習DB55及び制御装置40が備える学習手段44が
図1に示す運転支援システム4とは異なるコンピュータに配置されていてもよい。
【0070】
学習手段44は、原料情報DB51、保管情報DB52、運転情報DB53、FB情報DB54に格納された各種情報に基づいて、所定の機械学習アルゴリズムを用いた機械学習により、第2の実施の形態に係る生物処理システムの各種処理条件に関する学習済みモデル(人工知能モデル)を作製し、学習済みモデルを学習DB55に格納する。機械学習アルゴリズムとしては、例えば、PCR法(主成分回帰法)、PLS法(部分最小二乗法)、SVR法(サポートベクター回帰法)、ARIMA、ニューラルネットワーク(ANNやRNN)法、ランダムフォレスト法、決定木法等を用いた種々の解析ツールの中から適切なものを適宜選択して使用することができる。バイオガス発生量をデータセットに含む学習済モデルを作成する場合には、処理プロセスの滞留時間を考慮するためRNN法を用いることが特に適しているが、勾配消失・爆発問題を解消するため、LSTM(long short-term memory)およびGRU(gated recurrent unit)といったゲート付きRNNを使用することがさらに適している。
【0071】
学習手段44により作製される学習済みモデルは、全結合ニューラルネットワークモデル、ランダムフォレストモデル、クラスタリングモデル又はRNNモデルの任意のいずれかを含むことができる。機械学習モデルのパラメータ、例えば全結合ニューラルネットワーク法における層の数、及び各層のニューロンの数については説明変数の数に応じて適宜変更される。作製された学習済みモデルは、所定の説明変数を受け取り、所定の目的変数を出力するように構成される。
【0072】
学習手段44は、学習済みモデルを用いて生物処理システムを構成する保管設備2及び処理施設3、5の運転情報の予測を行う。例えば、学習手段44は、保管設備2内の受入有機性廃棄物を保管する区画の空き状況、生物処理装置30及び後処理装置300の運転情報、生物処理装置30の汚泥排出量及び処理水質、電気、水道、ガス、薬剤等の生物処理装置30のユーティリティデータを含めた運転コストの予測を行う。
【0073】
受入計画作製手段45は、学習手段44による運転情報の予測結果に基づいて、保管設備2に受け入れる受入有機性廃棄物の受入量、生物処理装置30の処理条件、及び後処理装置300の処理条件がそれぞれ最適化されるように、推奨受入計画情報を作製する。
【0074】
例えば、受入計画作製手段45は、学習手段44による運転情報の予測結果と、原料情報DB51、保管情報DB52、運転情報DB53、FB情報DB54に格納された各種情報とに基づいて、保管設備2における受入有機性廃棄物の受入量が最大量となるように有機性廃棄物の推奨受入計画情報を作製する。
【0075】
例えば、受入計画作製手段45は、保管設備2の保管能力及び生物処理装置30の処理能力に応じて、保管設備2の保管能力及び生物処理装置30の処理能力を超過又は選択する受入有機性廃棄物の引き取りを制限するための推奨受入計画情報を作製してもよい。具体的には、受入計画作製手段45は、受入有機性廃棄物の引き取り依頼がきた場合に、複数の保管設備2の空きスペースの状況を抽出するか、或いは、生物処理装置30の投入条件に基づいて近い将来に空きスペースができる保管設備2があるか否かを抽出し、抽出結果に基づいて、空きスペースを有する保管設備2で受入有機性廃棄物を区分して保管するための推奨受入計画情報を作製する。
【0076】
或いは、受入計画作製手段45は、複数の保管設備2の保管情報DB52を抽出し、保管設備2で区分された第1分類2a~第4分類2dのうち、保管可能な余裕がある分類に対して、その余裕がある分類に合致する受入有機性廃棄物を優先的にその保管設備2へ移送して保管するための推奨受入計画情報を作製する。
【0077】
或いは、受入計画作製手段45は、原料情報DB51、保管情報DB52、運転情報DB53、FB情報DB54に格納された各種情報に基づいて、受入有機性廃棄物の中に生物処理装置30における生物処理に不適合な成分が含まれる場合は、該当する受入有機性廃棄物の受入を制限する制限情報を含む推奨受入計画情報を作製してもよい。
【0078】
なお、受入有機性廃棄物の中に生物処理装置30における生物処理に不適合な成分が含まれており、従来処理が困難と考えられる場合であっても、保管設備2による複数区分に分けた保管方法或いは生物処理装置30の処理負荷の調整によっては、投入量、投入時期、他の廃棄物との混合率とを調製することで一定の処理が可能となる場合がある。
【0079】
第2の実施の形態に係る運転支援システム4によれば、受入計画作製手段45が、学習手段44による運転情報の予測結果と、原料情報DB51、保管情報DB52、運転情報DB53、FB情報DB54に格納された不適合物の過去の処理結果等に応じて、不適合な成分が含まれる受入有機性廃棄物の一部を受入可能とするように、保管条件及び投入条件を最適化した推奨受入計画情報を作製することができる。これにより、従来よりも多量及び多種の受入有機性廃棄物を処理できるようになるため、受入有機性廃棄物の引き取り条件の許容幅を広くできる。
【0080】
受入計画作製手段45は、現在又は過去の保管情報及び投入条件に基づいて、生物処理装置30及び後処理装置300への薬注条件、例えば、生物処理装置30へ投入する消泡剤量、あるいは脱水機301に投入する脱水ポリマーの種類及び添加量等、あるいは水処理装置302に投入する薬剤及び凝集剤の種類及び添加量の条件を最適化した推奨受入計画情報を作製することもまた好ましい。推奨受入計画情報に基づき、運転情報作製手段43が、脱水機301及び水処理装置302を含む後処理装置300の処理結果に応じて、生物処理装置30の処理条件を最適化した運転情報を作製してもよい。推奨受入計画情報は運転情報DB53に格納される。
【0081】
受入計画作製手段45は、推奨受入計画情報を含む帳票(運転管理帳票)又はマニフェストを出力することが好ましい。運転管理帳票には、受入原料の種類及び受入量、処理施設3、5における処理水量及び汚泥排出量、電気、ガス、水道、薬品等を含むユーティリティ使用量等が記載される。帳票の出力が行われることにより、保管設備2での受入有機性廃棄物の受入状況や処理施設3、5での受入有機性廃棄物の生物処理状況の管理が容易になる。また、運転支援システム4を介して、各設備へ推奨受入計画情報が出力されることにより、熟練した操作者の判断に頼ることなくより最適な条件で作業を進めることができるようになる。
【0082】
第2の実施の形態に係る生物処理システムによれば、受入有機性廃棄物の受入量、運転コストの最小化、汚泥搬出量の最小化、処理水質の最適化、バイオガス発生量の最大化がそれぞれ行われ、処理システム全体が最適化されるように、各項目の部分的な最適化を行い、機械学習機能を用いて、ネットワーク6(クラウド)を介して推奨受入計画情報を提示することができるため、生物処理システムにおける業務作業の効率化が図れる。また、各工程において得られる情報を記録した帳票を出力するように構成されることで、運転日報等の作製が容易となり、帳票システムを用いた運転状況の可視化が可能となる。
【符号の説明】
【0083】
1A :排出施設
1B :排出施設
1C :排出施設
2 :保管設備
3 :処理施設
4 :運転支援システム
5 :処理施設
6 :ネットワーク
30 :生物処理装置
40 :制御装置
41 :原料情報作製手段
42 :保管情報作製手段
43 :運転情報作製手段
44 :学習手段
45 :受入計画作製手段
300 :後処理装置
301 :脱水機
302 :水処理装置