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特許7634599標識された分析物分子の飛行時間型質量分析
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-02-13
(45)【発行日】2025-02-21
(54)【発明の名称】標識された分析物分子の飛行時間型質量分析
(51)【国際特許分類】
   G01N 27/62 20210101AFI20250214BHJP
   H01J 49/40 20060101ALI20250214BHJP
【FI】
G01N27/62 E
G01N27/62 B
H01J49/40 800
【請求項の数】 24
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2023099386
(22)【出願日】2023-06-16
(65)【公開番号】P2023184506
(43)【公開日】2023-12-28
【審査請求日】2023-08-16
(31)【優先権主張番号】2208939.5
(32)【優先日】2022-06-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(73)【特許権者】
【識別番号】508306565
【氏名又は名称】サーモ フィッシャー サイエンティフィック (ブレーメン) ゲーエムベーハー
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100103610
【弁理士】
【氏名又は名称】▲吉▼田 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】100109070
【弁理士】
【氏名又は名称】須田 洋之
(74)【代理人】
【氏名又は名称】倉澤 伊知郎
(74)【代理人】
【識別番号】100130937
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100144451
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 博子
(72)【発明者】
【氏名】ハミッシュ スチュワート
【審査官】吉田 将志
(56)【参考文献】
【文献】特表2008-530556(JP,A)
【文献】特表2006-511912(JP,A)
【文献】特開2005-149869(JP,A)
【文献】特表2010-506349(JP,A)
【文献】特開2020-102445(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2018/0350575(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 27/60 - G01N 27/70
H01J 49/00 - H01J 49/48
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
標識された分析物イオンを分析する方法であって、前記方法が、
標識された分析物イオンを断片化して、分析物断片イオン及びレポーターイオン又は相補イオンを生成することと、
第1の長さを有する飛行経路に沿ってイオンを移動させる第1の動作モードで動作する飛行時間型質量分析器を使用して、前記分析物断片イオンを分析することと、
第2の長さを有する飛行経路に沿ってイオンを移動させる第2の動作モードで動作する前記飛行時間型質量分析器を使用して、前記レポーターイオン又は前記相補イオンを分析することであって、前記第2の長さが、前記第1の長さよりも長い、分析することと、を含む、方法。
【請求項2】
前記飛行時間型質量分析器が、1つ以上のイオン反射器を備え、
前記第1の動作モードにおいて、イオンが、前記1つ以上のイオン反射器内でn回の反射を行うようにされ、nが、整数≧0であり、
前記第2の動作モードにおいて、イオンが、前記1つ以上のイオン反射器内でm回の反射を行うようにされ、mが、整数>nである、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記飛行時間型質量分析器が、多重反射飛行時間型(MR-ToF)質量分析器であり、前記MR-ToF質量分析器が、
第1の方向Xに互いに離間して対向する2つのイオンミラーであって、各ミラーが、第1の端部と第2の端部との間でドリフト方向Yに沿って細長く、前記ドリフト方向Yが、前記第1の方向Xに直交する、2つのイオンミラーと、
イオンを前記イオンミラー間の空間内に注入するためのイオン注入器であって、前記イオン注入器が、前記イオンミラーの前記第1の端部の近傍に位置する、イオン注入器と、
イオンが前記イオンミラー間で複数回の反射を完了した後に前記イオンを検出するための検出器であって、前記検出器が、前記イオンミラーの前記第1の端部の近傍に位置する、検出器と、を備え、
前記第1の動作モードで動作する前記分析器を使用して分析物断片イオンを分析することが、
分析物断片イオンを前記イオン注入器から前記イオンミラー間の前記空間内に注入することであって、前記イオンが、(a)前記イオンミラーの前記第2の端部に向かって前記ドリフト方向Yに沿ってドリフトし、(b)ドリフト方向速度を前記イオンミラーの前記第2の端部の近傍で反転させ、(c)前記ドリフト方向Yに沿って前記イオンミラーの前記第1の端部に戻るようにドリフトする間に、前記イオンが、前記イオンミラー間で前記方向Xに複数回の反射を有するジグザグイオン経路をたどる、注入することと、次いで、
前記イオンを検出のために前記検出器に移動させることと、を含む、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記第2の動作モードで動作する前記分析器を使用してレポーターイオン又は相補イオンを分析することが、
(i)レポーターイオン又は相補イオンを前記イオン注入器から前記イオンミラー間の前記空間内に注入することであって、前記イオンが、(a)前記イオンミラーの前記第2の端部に向かって前記ドリフト方向Yに沿ってドリフトし、(b)ドリフト方向速度を前記イオンミラーの前記第2の端部の近傍で反転させ、(c)前記イオンミラーの前記第1の端部に向かって前記ドリフト方向Yに沿って戻るようにドリフトする間に、前記イオンが、前記イオンミラー間で前記方向Xに複数回の反射を有するジグザグイオン経路をたどる第1のサイクルを完了する、注入することと、
(ii)前記イオンが、(a)前記イオンミラーの前記第2の端部に向かって前記ドリフト方向Yに沿ってドリフトし、(b)ドリフト方向速度を前記イオンミラーの前記第2の端部の近傍で反転させ、(c)前記イオンミラーの前記第1の端部に向かって前記ドリフト方向Yに沿って戻るようにドリフトする間に、前記イオンが、前記イオンミラー間で前記方向Xに複数回の反射を有するジグザグイオン経路をたどる更なるサイクルを前記イオンに完了させるように、前記イオンの前記ドリフト方向速度を前記イオンミラーの前記第1の端部の近傍で反転させることと、
(iii)前記イオンを検出のために前記検出器に移動させることと、を含む、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記多重反射飛行時間型(MR-ToF)質量分析器が、前記イオンミラーの前記第1の端部の近傍に位置する偏向器又はレンズを更に備え、
前記第2の動作モードで動作する前記分析器を使用してレポーターイオン又は相補イオンを分析することが、
(i)レポーターイオン又は相補イオンを前記イオン注入器から前記イオンミラー間の前記空間内に注入することであって、前記イオンが、(a)前記偏向器又はレンズから前記イオンミラーの前記第2の端部に向かって前記ドリフト方向Yに沿ってドリフトし、(b)ドリフト方向速度を前記イオンミラーの前記第2の端部の近傍で反転させ、(c)前記偏向器又はレンズに向かって前記ドリフト方向Yに沿って戻るようにドリフトする間に、前記イオンが、前記イオンミラー間で前記方向Xに複数回の反射を有するジグザグイオン経路をたどる第1のサイクルを完了する、注入することと、
(ii)前記イオンが、(a)前記偏向器又はレンズから前記イオンミラーの前記第2の端部に向かって前記ドリフト方向Yに沿ってドリフトし、(b)ドリフト方向速度を前記イオンミラーの前記第2の端部の近傍で反転させ、(c)前記偏向器又はレンズに向かって前記ドリフト方向Yに沿って戻るようにドリフトする間に、前記イオンが、前記イオンミラー間で前記方向Xに複数回の反射を有するジグザグイオン経路をたどる更なるサイクルをイオンに完了させるように、前記イオンの前記ドリフト方向速度を反転させるために前記偏向器又はレンズを使用することと、
(iii)前記イオンを検出のために前記偏向器又はレンズから前記検出器に移動させることと、を含む、請求項3に記載の方法。
【請求項6】
前記分析物断片イオンを分析することが、1つ以上の第1のイオンパケットを分析することを含み、前記レポーターイオン又は前記相補イオンを分析することが、1つ以上の第2の異なるイオンパケットを分析することを含む、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項7】
1つ以上の機器パラメータの第1のセットを使用して、各第1のイオンパケットを生成及び/又は処理及び/又は分析することと、1つ以上の機器パラメータの第2の異なるセットを使用して、各第2のイオンパケットを生成及び/又は処理及び/又は分析することと、を更に含む、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
第1の質量フィルタ透過窓幅を使用して各第1のイオンパケットを生成することと、第2の異なる質量フィルタ透過窓幅を使用して各第2のイオンパケットを生成することと、を更に含む、請求項6に記載の方法。
【請求項9】
第1の衝突エネルギーを使用して各第1のイオンパケットを生成することと、第2の異なる衝突エネルギーを使用して各第2のイオンパケットを生成することと、を更に含む、請求項6に記載の方法。
【請求項10】
前記分析物断片イオンを分析すること及び前記レポーターイオン又は前記相補イオンを分析することが、1つ以上の単一イオンパケットを分析することを含む、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項11】
前記分析器が、
循環セグメントを含むイオン経路と、
イオンを前記イオン経路に注入するためのイオン注入器と、
前記イオン経路に沿って配置された少なくとも1つのイオン反射器と、
前記イオン経路の端部に配置された検出器と、を備え、
前記方法が、
(i)分析物断片イオン及びレポーターイオン又は相補イオンを含むイオンパケットを、前記分析物断片イオン及び前記レポーターイオン又は前記相補イオンが前記イオン経路に沿って前記イオン反射器まで移動するように、前記イオン注入器から前記イオン経路に注入することと、
(ii)前記分析物断片イオンを検出のために前記イオン反射器から前記検出器に移動させることと、
(iii)前記イオン反射器を使用して、前記レポーターイオン又は前記相補イオンに、前記イオン経路の前記循環セグメントに沿って1つ以上のサイクルを完了させることと、次いで、
(iv)前記レポーターイオン又は前記相補イオンを検出のために前記イオン反射器から前記検出器に移動させることと、を含む、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記飛行時間型質量分析器が、多重反射飛行時間型(MR-ToF)質量分析器であり、前記MR-ToF質量分析器が、
第1の方向Xに互いに離間して対向する2つのイオンミラーであって、各ミラーが、第1の端部と第2の端部との間でドリフト方向Yに沿って細長く、前記ドリフト方向Yが、前記第1の方向Xに直交する、2つのイオンミラーと、
イオンを前記イオンミラー間の空間内に注入するためのイオン注入器であって、前記イオン注入器が、前記イオンミラーの前記第1の端部の近傍に位置する、イオン注入器と、
前記イオンミラーの前記第1の端部の近傍に位置する偏向器又はレンズと、
イオンが前記イオンミラー間で複数回の反射を完了した後に前記イオンを検出するための検出器であって、前記検出器が、前記イオンミラーの前記第1の端部の近傍に位置する、検出器と、を備え、
前記方法が、
(i)分析物断片イオン及びレポーターイオン又は相補イオンを含むイオンパケットを前記イオン注入器から前記イオンミラー間の前記空間内に注入することであって、前記イオンが、(a)前記偏向器又はレンズから前記イオンミラーの前記第2の端部に向かって前記ドリフト方向Yに沿ってドリフトし、(b)ドリフト方向速度を前記イオンミラーの前記第2の端部の近傍で反転させ、(c)前記偏向器又はレンズに向かって前記ドリフト方向Yに沿って戻るようにドリフトする間に、前記イオンが、前記イオンミラー間で前記方向Xに複数回の反射を有するジグザグイオン経路をたどる第1のサイクルを完了する、注入することと、
(ii)前記分析物断片イオンを検出のために前記偏向器又はレンズから前記検出器に移動させることと、
(iii)前記レポーターイオン又は前記相補イオンの前記ドリフト方向速度を反転させて、これらのイオンが、(a)前記偏向器又はレンズから前記イオンミラーの前記第2の端部に向かって前記ドリフト方向Yに沿ってドリフトし、(b)ドリフト方向速度を前記イオンミラーの前記第2の端部の近傍で反転させ、(c)前記偏向器又はレンズに向かって前記ドリフト方向Yに沿って戻るようにドリフトする間に、前記イオンミラー間で前記方向Xに複数回の反射を有するジグザグイオン経路をたどる更なるサイクルをこれらのイオンに完了させるように、前記偏向器又はレンズを使用することと、
(iv)前記レポーターイオン又は前記相補イオンを検出のために前記偏向器又はレンズから前記検出器に移動させることと、を更に含む、請求項10に記載の方法。
【請求項13】
前記方法が、
MS1データを生成するように、MS1動作モードで標識された分析物イオンを分析し、前記MS1データ内の1つ以上の対象前駆体を識別することを含み、
標識された分析物イオンを断片化することが、各識別された対象前駆体を順次選択及び断片化することを含む、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項14】
標識された分析物分子を分析する方法であって、前記方法が、
標識された分析物分子をイオン化して標識された分析物イオンを生成することと、
請求項1又は2に記載の方法を用いて前記標識された分析物イオンを分析することと、を含む、方法。
【請求項15】
前記分析物断片イオンの前記分析からの質量電荷比(m/z)及び/又は強度情報を使用して、前記分析物分子を同定することと、
前記レポーターイオン又は前記相補イオンの前記分析からの質量電荷比(m/z)及び/又は強度情報を使用して、前記分析物分子を定量化することと、を更に含む、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記標識された分析物イオンが、同重体タグで標識されたペプチドのイオンである、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項17】
飛行時間型(ToF)質量分析器を動作させる方法であって、前記ToF質量分析器が、
循環セグメントを含むイオン経路と、
イオンを前記イオン経路に注入するためのイオン注入器と、
前記イオン経路に沿って配置された少なくとも1つのイオン反射器と、
前記イオン経路の端部に配置された検出器と、を備え、
前記方法が、
(i)第1のイオン及び第2のイオンが前記イオン経路に沿って前記イオン反射器まで移動するように、前記イオン注入器から前記イオン経路内に前記第1のイオン及び前記第2のイオンを含むイオンパケットを注入することと、
(ii)前記第1のイオンを検出のために前記イオン反射器から前記検出器へ移動させることと、
(iii)前記イオン反射器を使用して、前記第2のイオンに、前記イオン経路の前記循環セグメントに沿って1つ以上のサイクルを完了させることと、次いで、
(iv)前記第2のイオンを検出のために前記イオン反射器から前記検出器へ移動させることと、を含む、方法。
【請求項18】
前記飛行時間型(ToF)質量分析器が、多重反射飛行時間型(MR-ToF)質量分析器であり、前記MR-ToF質量分析器が、
第1の方向Xに互いに離間して対向する2つのイオンミラーを備え、各ミラーが、第1の端部と第2の端部との間でドリフト方向Yに沿って細長く、前記ドリフト方向Yが、前記第1の方向Xに直交し、
前記イオン注入器が、前記イオンミラー間の空間内にイオンを注入するように構成され、前記イオン注入器が、前記イオンミラーの前記第1の端部の近傍に位置し、
前記検出器が、イオンが前記イオンミラー間で複数回の反射を完了した後にイオンを検出するように構成され、前記検出器が、前記イオンミラーの前記第1の端部の近傍に位置し、
前記イオン反射器が、前記イオンミラーの前記第1の端部の近傍に位置する偏向器又はレンズを備え、
前記方法が、
(i)第1のイオン及び第2のイオンを含むイオンパケットを前記イオン注入器から前記イオンミラー間の前記空間内に注入することであって、前記イオンが、(a)前記偏向器又はレンズから前記イオンミラーの前記第2の端部に向かって前記ドリフト方向Yに沿ってドリフトし、(b)ドリフト方向速度を前記イオンミラーの前記第2の端部の近傍で反転させ、(c)前記偏向器又はレンズに向かって前記ドリフト方向Yに沿って戻るようにドリフトする間に、前記イオンが、前記イオンミラー間で前記方向Xに複数回の反射を有するジグザグイオン経路をたどる第1のサイクルを完了する、注入することと、
(ii)前記第1のイオンを検出のために前記偏向器又はレンズから前記検出器に移動させることと、
(iii)前記第2のイオンが、(a)前記偏向器又はレンズから前記イオンミラーの前記第2の端部に向かって前記ドリフト方向Yに沿ってドリフトし、(b)ドリフト方向速度を前記イオンミラーの前記第2の端部の近傍で反転させ、(c)前記偏向器又はレンズに向かって前記ドリフト方向Yに沿って戻るようにドリフトする間に、前記イオンミラー間で前記方向Xに複数回の反射を有するジグザグイオン経路をたどる更なるサイクルを前記第2のイオンに完了させるように、前記第2のイオンの前記ドリフト方向速度を反転させるために前記偏向器又はレンズを使用することと、
(iv)前記第2のイオンを検出のために前記偏向器又はレンズから前記検出器に移動させることと、を含む、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
コンピュータソフトウェアコードを記憶する非一時的コンピュータ可読記憶媒体であって、前記コンピュータソフトウェアコードが、プロセッサ上で実行されると、分析機器に、請求項1、2、17又は18に記載の方法を実行させる、非一時的コンピュータ可読記憶媒体。
【請求項20】
分析機器のための制御システムであって、前記制御システムが、前記分析機器に請求項1、2、17又は18に記載の方法を行わせるように構成されている、制御システム。
【請求項21】
請求項20に記載の制御システムを含む、分析機器。
【請求項22】
析機器であって、
断片化デバイスと、
第1の長さを有する飛行経路に沿ってイオンを移動させる第1の動作モードと、第2の長さを有する飛行経路に沿ってイオンを移動させる第2の動作モードとで動作可能な飛行時間型(ToF)質量分析器であって、前記第2の長さが、前記第1の長さよりも長い、飛行時間型(ToF)質量分析器と、
制御システムと、を備え、前記制御システムが、前記機器が標識された分析物イオンを分析するために使用されているとき、
前記断片化デバイスに、前記標識された分析物イオンを断片化して、分析物断片イオン及びレポーターイオン又は相補イオンを生成させることと、
前記飛行時間型質量分析器に、前記第1の動作モードを使用して前記分析物断片イオンを分析させることと、
前記飛行時間型質量分析器に、前記第2の動作モードを使用して前記レポーターイオン又は前記相補イオンを分析させることと、を行うように構成されている、分析機器。
【請求項23】
飛行時間型(ToF)質量分析器であって、
循環セグメントを含むイオン経路と、
イオンを前記イオン経路に注入するためのイオン注入器と、
前記イオン経路に沿って配置された少なくとも1つのイオン反射器と、
前記イオン経路の端部に配置された検出器と、を備え、
前記分析器が、
(i)第1のイオン及び第2のイオンが前記イオン経路に沿って前記イオン反射器まで移動するように、前記イオン注入器から前記イオン経路内に前記第1のイオン及び前記第2のイオンを含むイオンパケットを注入することと、
(ii)前記第1のイオンを検出のために前記イオン反射器から前記検出器へ移動させることと、
(iii)前記イオン反射器を使用して、前記第2のイオンに、前記イオン経路の前記循環セグメントに沿って1つ以上のサイクルを完了させることと、次いで、
(iv)前記第2のイオンを検出のために前記イオン反射器から前記検出器へ移動させることと、によってイオンを分析するように構成されている、分析器。
【請求項24】
前記飛行時間型(ToF)質量分析器が、多重反射飛行時間型(MR-ToF)質量分析器であり、前記MR-ToF質量分析器が、第1の方向Xに互いに離間して対向する2つのイオンミラーを備え、各ミラーが、第1の端部と第2の端部との間でドリフト方向Yに沿って細長く、前記ドリフト方向Yが、前記第1の方向Xに直交し、
イオン注入器が、前記イオンミラー間の空間内にイオンを注入するように構成され、前記イオン注入器が、前記イオンミラーの前記第1の端部の近傍に位置し、
前記検出器が、イオンが前記イオンミラー間で複数回の反射を完了した後にイオンを検出するように構成され、前記検出器が、前記イオンミラーの前記第1の端部の近傍に位置し、
イオン反射器が、前記イオンミラーの前記第1の端部の近傍に位置する偏向器又はレンズであり、
前記分析器が、
(i)第1のイオン及び第2のイオンを含むイオンパケットを前記イオン注入器から前記イオンミラー間の前記空間内に注入することであって、前記イオンが、(a)前記偏向器又はレンズから前記イオンミラーの前記第2の端部に向かって前記ドリフト方向Yに沿ってドリフトし、(b)ドリフト方向速度を前記イオンミラーの前記第2の端部の近傍で反転させ、(c)前記偏向器又はレンズに向かって前記ドリフト方向Yに沿って戻るようにドリフトする間に、前記イオンが、前記イオンミラー間で前記方向Xに複数回の反射を有するジグザグイオン経路をたどる第1のサイクルを完了する、注入することと、
(ii)前記第1のイオンを検出のために前記偏向器又はレンズから前記検出器に移動させることと、
(iii)前記第2のイオンが、(a)前記偏向器又はレンズから前記イオンミラーの前記第2の端部に向かって前記ドリフト方向Yに沿ってドリフトし、(b)ドリフト方向速度を前記イオンミラーの前記第2の端部の近傍で反転させ、(c)前記偏向器又はレンズに向かって前記ドリフト方向Yに沿って戻るようにドリフトする間に、前記イオンミラー間で前記方向Xに複数回の反射を有するジグザグイオン経路をたどる更なるサイクルを前記第2のイオンに完了させるように、前記第2のイオンの前記ドリフト方向速度を反転させるために前記偏向器又はレンズを使用することと、
(iv)前記第2のイオンを検出のために前記偏向器又はレンズから前記検出器に移動させることと、によってイオンを分析するように構成されている、請求項23に記載の分析器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、イオンを分析する方法に関し、特に、飛行時間型(Time-of-Flight、ToF)質量分析器を使用して、標識された分析物分子及び/又はイオンを分析する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
化学的タグ付けは、分析物の定量のための長年にわたるツールであり、最も単純な形態として、ピーク強度を既知濃度の標識標準のピーク強度と比較することを伴う。複数のアイソトポマーなどの異なる質量を有する複数の異なる化学タグが利用可能である場合、複数の試料を一緒に混合し、それらを単一の高スループットの多重化ワークフローで分析することが可能になる。
【0003】
このグループ内の重要な用途は、タンデム質量タグ(Tandem Mass Tag、TMT)法(Thompson et al,Anal.Chem.,2003,75,1895-1904でありTMT又は相対定量及び絶対定量のための同重体タグ(Isobaric Tagging for Relative Quantitation、iTRAQ)として市販されている。これは、多重タグ化ペプチドが同じm/zを有し、したがって液体クロマトグラフィーから共溶出し、四重極質量フィルタによって共分離されるタンデム法である。しかし、断片化すると、異なるm/zを有する特徴的な1,2,6個のレポーターイオンが生成され、定量のために検出される。ペプチド断片の同時検出は、同じ工程におけるペプチド同定を可能にする。
【0004】
標識された分析物分子を分析する方法に対する改善の余地が残っていると考えられる。
【発明の概要】
【0005】
第1の態様は、標識された分析物イオンを分析する方法を提供し、方法は、
標識された分析物イオンを断片化して、分析物断片イオン及びレポーターイオン又は相補イオンを生成することと、
第1の長さを有する飛行経路に沿ってイオンを移動させる第1の動作モードで動作する飛行時間型質量分析器を使用して、分析物断片イオンを分析することと、
第2の長さを有する飛行経路に沿ってイオンを移動させる第2の動作モードで動作する飛行時間型質量分析器を使用して、レポーターイオン又は相補イオンを分析することであって、第2の長さが、第1の長さよりも長い、分析することと、を含む。
【0006】
実施形態は、標識された分析物分子、例えば、同重体タグ(例えば、「タンデム質量タグ」(TMT)又は「相対定量及び絶対定量のための同重体タグ」(iTRAQ))で標識された生体分子を分析する方法を提供する。各タグは、各標識された分析物分子がレポーター領域、バランサー領域、及び分析物分子を含み得るように、レポーター領域及びバランサー領域を含み得る。標識された分析物分子を分析するために、それらはまずイオン化されて標識された分析物イオンを生成し得、次いで、標識された分析物イオンは断片化される。標識された分析物イオンが断片化された場合、レポーターイオンは、分析物分子断片イオンと一緒に生成され得る(レポーターイオンは、レポーター領域のイオンである)。加えて、又は代替として、相補イオンが生成され得る(相補イオンは、組み合わせられたバランサー領域及び分析物分子のイオンである)。
【0007】
本方法では、分析物断片イオン及びレポーターイオン又は相補イオンは、質量分析器を使用して、すなわち、それらの質量電荷比(m/z)及び/又は強度を決定するように分析される。分析物断片イオンについて得られたm/z及び/又は強度情報は、分析物分子を同定するために使用され得、レポーターイオン又は相補イオンについてのm/z及び/又は強度情報は、分析物分子を定量化するために使用され得る。
【0008】
標識された分析物分子を分析する従来の質量分析(mass spectrometric、MS)法では、分析物断片イオン及びレポーターイオンは、同じ質量分析器スキャンにおいて一緒に分析される。これは、特に高度に多重化された同重体タグセットを使用する場合、特にレポーターイオンが出現するm/zスペクトルの下端において、非常に高分解能の質量分析器を必要とし得る。したがって、標識された分析物分子を分析する従来の方法は、一般に、静電軌道トラップなどの高分解能静電イオントラップ質量分析器、より具体的にはThermo Fisher Scientific製のOrbitrap(商標)FT質量分析器を使用して実施される。これらの分析器は、標識された分析物分子の分析に特によく適しているが、概して、特に飛行時間型(ToF)質量分析器と比較した場合、比較的遅い繰り返し率で動作する。この結果、実験サイクルが比較的遅くなり、スループットが比較的低くなる。
【0009】
一部の従来の飛行時間型(ToF)質量分析器は、分析物断片イオン及びレポーターイオン(又は相補イオン)の両方を分解するために十分に高い分解能を提供することができるが、かかる分析器は、比較的複雑であり、かつ/又は空間電荷効果に対して合理的な復元力を伴って分解することができるように長いイオン飛行経路を有している必要がある。
【0010】
様々な実施形態の方法では、分析物断片イオン及びレポーターイオン(又は相補イオン)は、(少なくとも)2つの異なる動作モード、すなわち、イオンを第1の長さを有する飛行経路に沿って移動させる第1の動作モード及びイオンを第2のより長い長さを有する飛行経路に沿って移動させる第2の動作モードで動作することができる飛行時間型(ToF)質量分析器を使用して分析される。第2の動作モードにおいてイオン飛行経路の長さを増加させることは、分析器の分解能を増加させる効果を有するが、分析され得るイオンのm/z範囲を減少させる。経路長の増加が、イオン経路の循環セグメントを通るイオンの通過数を増加させることによって達成される場合(以下で更に説明されるように)、これは、より低いm/zのイオンが、より高いm/zのイオンを追い越す(すなわち、ラップする)ためであり、したがって、一部のイオン(ある明白なm/z範囲外のm/zを伴う)が循環セグメントを何回通過したかが不確かになり、したがって、一部のピークのm/zが不確かになる可能性がある。加えて、又は代替として、分析器を一定の繰り返し率で動作させると、より長いイオン飛行経路長に対して、特定の繰り返しにおける高m/zイオンは、次の繰り返しが開始する前に検出器に到達するための十分な時間を有しない。したがって、第2の動作モードは、(分析器が実際にm/zスペクトルのより狭いm/z領域に「ズームイン」するので)「ズーム」動作モードと称され得る。
【0011】
m/z範囲のこの損失は、標識された分析物分子を分析する従来の方法において問題となる(なぜなら、対象の分析物断片イオンは比較的高いm/zを有することができ、レポーターイオンは比較的低いm/zを有することができるからである)が、本発明者は、第1の動作モードを使用して分析物断片イオンを分析し、第2の動作モードを使用してレポーターイオン(又は相補イオン)を分析することによって、この問題が回避されることを認識した。これは、広いm/z範囲の第1の動作モードが、分析物断片イオン(典型的には、比較的広いm/z範囲にわたって現れる)の分析に特に適しており、それに応じて、狭いm/z範囲であるがより高い分解能の第2の(「ズーム」)動作モードが、レポーターイオン(典型的には、比較的低いm/zで比較的狭いm/z範囲内に現れる)又は相補イオンの分析に特に適しているからである。更に、これは、第1の(「通常」)動作モードにおいて必要とされる分解能を緩和する効果を有し、この主な理由は、レポーターイオン(及び相補イオン)がm/zにおいて非常に近傍に位置しているという事実のためある。
【0012】
したがって、本発明者は、可変経路長を有する飛行時間型(ToF)質量分析器が、標識された分析物分子の分析に特によく適していることを認識した。(例えば、静電イオントラップ分析器の代わりに)標識された分析物イオンを分析するためにToF分析器を使用することで、次に、機器繰り返し率及び実験スループットの増加が促進される。したがって、実施形態は、標識された分析物分子を分析する改善された方法を提供することが理解される。
【0013】
更なる態様は、標識された分析物分子を分析する方法であって、標識された分析物分子をイオン化して標識された分析物イオンを生成することと、本明細書に記載の方法を使用して標識された分析物イオンを分析することと、を含む方法を提供する。これらの態様及び実施形態は、本明細書に記載の任意選択の特徴のいずれか1つ以上又は各々を含むことができ、実施形態ではもちろん含む。
【0014】
様々な態様及び実施形態において分析される分析物分子は、有機分子、生体分子、DNA、RNA、タンパク質、ペプチド、核酸などの分析に適した任意の分子であり得る。実施形態では、分析物分子はペプチドである。
【0015】
分析物分子は、同重体タグのセットなどの化学標識のセットで標識することができる。同重体タグのセットは、(ほぼ)同じ質量を有するが、標識された分析物イオンの断片化時に異なる質量の特徴的なレポーターイオンを生じるタグ分子のセットである。好適な同重体タグとしては、タンデム質量タグ(TMT)及び相対定量及び絶対定量のための同重体タグ(iTRAQ)が挙げられる。各タグは、例えば、各標識された分析物分子が(少なくとも)レポーター領域、バランサー領域、及び分析物分子(例えば、ペプチド)を含むように、(少なくとも)レポーター領域及びバランサー領域を含み得る。実施形態は、TMT10、16、又は18などの高度に多重化されたセットの同重体タグで標識された分析物分子の分析に特に適しており、レポーターイオンチャネル間の最小間隔は、数MDa程度、例えば、約6MDaであり得る。実施形態はまた、約1Da程度のレポーターイオンチャネル間隔を有するTMT6及び8などのより低い多重化同重体タグセットに使用され得る。
【0016】
方法は、質量分析計などの分析機器を使用して実施することができる。分析機器は、(少なくとも)イオン源、質量フィルタ、断片化デバイス、及び飛行時間型質量分析器を備え得る(以下で更に詳細に説明される)。分析機器は、イオン源に結合された分離デバイスを備え得る。
【0017】
標識された分析物分子は、溶液中に提供され得、溶液は、分離デバイスを使用して分離され得、分離された溶液は、イオン化のためにイオン源に提供され得る。イオン源は、標識された分析物分子をイオン化して標識された分析物イオンを生成することができる。
【0018】
標識された分析物イオンは、MS1データを提供するために、MS1動作モードで動作する機器によって最初に分析することができる。MS1データは、1つ以上のイオンピークを含み得、各イオンピークは、特定のm/zを有する標識された分析物イオン(すなわち、特定の前駆体)に対応する。
【0019】
次いで、標識された分析物イオンは、MS2データを提供するように、MS2動作モードで動作する機器によって分析され得る。MS1データから識別された各対象前駆体は、質量フィルタのためのm/z窓を定義するために使用され得る。次いで、質量フィルタは、各対象前駆体を順次選択するように、各m/z窓を順次進むことができる。断片化デバイスは、質量フィルタリングされた標識された分析物イオンが断片化されるように、断片化動作モードで動作され得る。標識された分析物イオンが断片化された場合、レポーターイオンは、分析物分子断片イオンと一緒に生成され得る(レポーターイオンは、レポーター領域のイオンである)。加えて、又は代替として、相補イオンが生成され得る(相補イオンは、組み合わせられたバランサー領域及び分析物分子のイオンである)。
【0020】
次いで、得られた分析物断片イオン及びレポーターイオン又は相補イオンを、飛行時間型分析器を使用して分析する。分析物断片イオンについて得られた質量電荷比(m/z)及び/又は強度情報は、分析物分子を同定するために使用され得、レポーターイオン又は相補イオンについての質量電荷比(m/z)及び/又は強度情報は、分析物分子を定量化するために使用され得る。
【0021】
分析物断片イオンは、イオンを第1の長さを有する飛行経路に沿って移動させる第1の動作モードを使用して分析され、レポーターイオン又は相補イオンは、イオンを第2のより長い長さを有する飛行経路に沿って移動させる第2の動作モードを使用して分析される。
【0022】
飛行時間型質量分析器は、1つ以上のイオンリフレクタを備え得る。第1の動作モードでは、イオンは、1つ以上のイオン反射器内でn回反射させられてもよく、nは、整数≧0である。第2の動作モードでは、イオンは、1つ以上のイオン反射器内でm回反射させられてもよく、mは、整数>nである。概して、「イオン反射器」は、例えば、イオンミラー、リフレクトロン、イオン偏向器、レンズ又は同様のものであってもよい。
【0023】
飛行時間型質量分析器は、多重反射飛行時間型(multi-reflection time-of-flight、MR-ToF)質量分析器であってもよく、MR-ToFは、
第1の方向Xに互いに離間して対向する2つのイオンミラーであって、各ミラーは、第1の端部と第2の端部との間でドリフト方向Yに概ね沿って細長く、ドリフト方向Yが、第1の方向Xに直交する、2つのイオンミラーと、
イオンをイオンミラー間の空間内に注入するためのイオン注入器であって、イオン注入器は、イオンミラーの第1の端部の近傍に位置する、イオン注入器と、
イオンがイオンミラー間で複数回の反射を完了した後にイオンを検出するための検出器であって、検出器は、イオンミラーの第1の端部の近傍に位置する、検出器と、を備える。
【0024】
第1の動作モードで動作する分析器を使用して分析物断片イオンを分析することは、
分析物断片イオンをイオン注入器からイオンミラー間の空間内に注入することであって、イオンが、(a)イオンミラーの第2の端部に向かってドリフト方向Yに沿ってドリフトし、(b)ドリフト方向速度をイオンミラーの第2の端部の近傍で反転させ、(c)ドリフト方向Yに沿ってイオンミラーの第1の端部に戻るようにドリフトする間に、イオンミラー間で方向Xに複数回の反射を有するジグザグイオン経路をたどる、注入することと、次いで、イオンを検出のために検出器に移動させることと、を含み得る。
【0025】
第2の動作モードで動作する分析器を使用してレポーターイオン又は相補イオンを分析することは、
(i)レポーターイオン又は相補イオンをイオン注入器からイオンミラー間の空間内に注入することであって、イオンが、(a)イオンミラーの第2の端部に向かってドリフト方向Yに沿ってドリフトし、(b)ドリフト方向速度をイオンミラーの第2の端部の近傍で反転させ、(c)イオンミラーの第1の端部に向かってドリフト方向Yに沿って戻るようにドリフトする間に、イオンが、イオンミラー間で方向Xに複数回の反射を有するジグザグイオン経路をたどる第1のサイクルを完了する、注入することと、
(ii)イオンが、(a)イオンミラーの第2の端部に向かってドリフト方向Yに沿ってドリフトし、(b)ドリフト方向速度をイオンミラーの第2の端部の近傍で反転させ、(c)イオンミラーの第1の端部に向かってドリフト方向Yに沿って戻るようにドリフトする間に、イオンミラー間で方向Xに複数回の反射を有するジグザグイオン経路をたどる更なるサイクルをイオンに完了させるように、イオンのドリフト方向速度をイオンミラーの第1の端部の近傍で反転させることと、
(iii)任意選択的に、ステップ(ii)を1回以上繰り返すことと、次いで、
(iv)イオンを検出のために検出器に移動させることと、を含み得る。
【0026】
多重反射飛行時間型(MR-ToF)質量分析器は、イオンミラーの第1の端部の近傍に位置する偏向器又はレンズを更に備え得る。偏向器又はレンズは、第1のイオンミラーと第2のイオンミラーとの間で(X方向に)ほぼ等距離に位置し得る。偏向器又はレンズは、イオンビームが注入器から注入された後に受ける第1のイオンミラー反射(第1のイオンミラーにおける)の後であるが、第2のイオンミラー反射(第2のイオンミラーにおける)の前に、イオン経路に沿って配置され得る。それに対応して、偏向器又はレンズは、イオンビームが検出器に到達する前に受ける最後のイオンミラー反射(第2のイオンミラーにおける)の前であるが、最後から2番目のイオンミラー反射(第1のイオンミラーにおける)の後に、イオン経路に沿って配置され得る。
【0027】
第1の動作モードで動作する分析器を使用して分析物断片イオンを分析することは、
分析物断片イオンをイオン注入器からイオンミラー間の空間内に注入することであって、イオンが、(a)偏向器又はレンズからイオンミラーの第2の端部に向かってドリフト方向Yに沿ってドリフトし、(b)ドリフト方向速度をイオンミラーの第2の端部の近傍で反転させ、(c)ドリフト方向Yに沿って偏向器又はレンズに戻るようにドリフトする間に、イオンミラー間で方向Xに複数回の反射を有するジグザグイオン経路をたどる、注入することと、次いで、イオンを検出のために偏向器又はレンズから検出器に移動させることと、を含み得る。
【0028】
第2の動作モードで動作する分析器を使用してレポーターイオン又は相補イオンを分析することは、
(i)レポーターイオン又は相補イオンをイオン注入器からイオンミラー間の空間内に注入することであって、イオンが、(a)偏向器又はレンズからイオンミラーの第2の端部に向かってドリフト方向Yに沿ってドリフトし、(b)ドリフト方向速度をイオンミラーの第2の端部の近傍で反転させ、(c)偏向器又はレンズに向かってドリフト方向Yに沿って戻るようにドリフトする間に、イオンが、イオンミラー間で方向Xに複数回の反射を有するジグザグイオン経路をたどる第1のサイクルを完了する、注入することと、
(ii)イオンが、(a)偏向器又はレンズからイオンミラーの第2の端部に向かってドリフト方向Yに沿ってドリフトし、(b)ドリフト方向速度をイオンミラーの第2の端部の近傍で反転させ、(c)偏向器又はレンズに向かってドリフト方向Yに沿って戻るようにドリフトする間に、イオンミラー間で方向Xに複数回の反射を有するジグザグイオン経路をたどる更なるサイクルをイオンに完了させるように、イオンのドリフト方向速度を反転させるために偏向器又はレンズを使用することと、
(iii)任意選択的に、ステップ(ii)を1回以上繰り返すことと、次いで、
(iv)イオンを検出のために偏向器又はレンズから検出器に移動させることと、を含み得る。
【0029】
多重反射飛行時間型(MR-ToF)質量分析器は、任意の好適なタイプのMR-ToFを含み得る。例えば、分析器は、例えば、非特許文献A.Verenchikovら、Journal of Applied Solution Chemistry and Modelling,2017、6、1-22に記載されているように、イオンビームをその飛行経路に沿って集束させ続けるように構成された周期レンズのセットを有するMR-ToFを備えることができる。
【0030】
しかしながら、特定の実施形態では、分析器は、例えば、米国特許第9,136,101号に記載のタイプの、傾斜ミラー型多重反射飛行時間型質量分析器であり、当該特許の内容は、参照により本明細書に組み込まれる。そのため、イオンミラーは、ドリフト方向Yのそれらの長さの少なくとも一部、ほとんど、又は全てに沿って、X方向に互いから一定でない距離にあってもよい。イオンミラーの第2の端部に向かうイオンのドリフト方向速度は、2つのミラーの互いからの一定でない距離から生じる電界によって対抗され得る。この電界は、イオンに、イオンのドリフト方向速度をイオンミラーの第2の端部の近傍で反転させ、偏向器に向かってドリフト方向に沿って戻るようにドリフトさせ得る。
【0031】
代替として、分析器は、例えば、英国特許第2,580,089号に記載のタイプの、単一集束レンズ型多重反射飛行時間型質量分析器であってもよく、当該特許の内容は、参照により本明細書に組み込まれる。そのため、偏向器は、第1の偏向器であってもよく、分析器は、イオンミラーの第2の端部の近傍に位置する第2の偏向器を備えてもよい。第2の偏向器は、イオンに、イオンのドリフト方向速度をイオンミラーの第2の端部の近傍で反転させ、第1の偏向器に向かってドリフト方向に沿って戻るようにドリフトさせるように構成され得る。これを行うために、例えば、英国特許第2,580,089号に記載の方式で、好適な電圧を第2の偏向器に印加し得る。
【0032】
分析物断片イオンを分析するステップは、例えば、各第1のイオンパケットをToF分析器に注入することによって、1つ以上の第1のイオンパケットを分析することを含み得る。レポーターイオン又は相補イオンを分析するステップは、例えば、各第2のイオンパケットをToF分析器に注入することによって、1つ以上の第2の異なるイオンパケットを分析することを含み得る。したがって、各対象前駆体に対して、分析器は、2つ(又はそれ以上)のスキャンを実行してもよく、すなわち、分析物断片イオンが、レポーターイオン又は相補イオンとは異なる分析器スキャンを使用して分析されるようにしてもよい。
【0033】
これらの実施形態では、各第1のイオンパケットは、分析物断片イオンのみを含んでもよく、又は分析物断片イオンをレポーターイオン及び/又は相補イオンとともに含んでもよい。第1のイオンパケットがレポーターイオン及び/又は相補イオンを含む場合、これらのイオンは、検出器に到達しないように(一方、分析物断片イオンのほとんど全てが検出器に到達する)、偏向器によって任意選択的に偏向され得る。各第2のイオンパケットは、レポーターイオン及び/又は相補イオンのみを含んでもよく、又は分析物断片イオンとともにレポーターイオン及び/又は相補イオンを含んでもよい。第2のイオンパケットが分析物断片イオンを含む場合、これらのイオンは、検出器に到達しないように到達しないように偏向器によって偏向されてもよい(一方、レポーターイオン又は相補イオンの全てのほとんどが検出器に到達する)。
【0034】
本方法は、1つ以上の機器パラメータの第1のセットを使用して、各第1のイオンパケットを生成及び/又は処理及び/又は分析することと、1つ以上の機器パラメータの第2の異なるセットを使用して、各第2のイオンパケットを生成及び/又は処理及び/又は分析することと、を含み得る。1つ以上の機器パラメータの第1のセットは、(レポーターイオン又は相補イオンに対して)分析物断片イオンを生成及び/又は処理及び/又は分析するときに改善された感度及び/又は分解能を提供するように構成されてもよく、1つ以上の機器パラメータの第2のセットは、(分析物断片イオンに対して)レポーターイオン又は相補イオンを生成及び/又は処理及び/又は分析するときに改善された感度及び/又は分解能を提供するように構成されてもよい。
【0035】
1つ以上の機器パラメータのセットは、例えば、イオン源、イオン入口、任意の1つ以上のイオン移送デバイス、質量フィルタ、断片化デバイス、及び/又は分析器(例えば、そのイオン注入器、イオン反射器、及び/又は検出器)などの機器の構成要素のうちの任意の1つ以上に印加される1つ以上の(RF又はDC)電圧を含み得る。特定の実施形態では、1つ以上の機器パラメータのセットは、(i)断片化デバイスの衝突エネルギーなどの1つ以上の断片化パラメータ、及び/又は(ii)質量フィルタの透過窓の幅を含む。
【0036】
したがって、例えば、本方法は、第1の質量フィルタ透過窓幅を使用して各第1のイオンパケットを生成することと(すなわち、質量フィルタが、断片化される特定の対象前駆体を選択するために使用され、得られた断片イオンが、各第1のイオンパケットを形成するために使用される)、例えば、第1の質量フィルタ透過窓幅が第2の質量フィルタ透過窓幅よりも広い場合、第2の異なる質量フィルタ透過窓幅を使用して各第2のイオンパケットを生成することと(すなわち、質量フィルタを使用して断片化される特定の対象前駆体を選択し、得られた断片イオンを使用して各第2のイオンパケットを形成する)、を含み得る。より広い質量フィルタ透過窓幅を使用することは、有益には、分析物断片イオンの分析のための感度を増加させ、一方、より狭い質量フィルタ透過窓幅を使用することは、有益には、レポーターイオン又は相補イオンの分析のための干渉を低減する。代わりに、第1の質量フィルタ透過窓幅を第2の質量フィルタ透過窓幅より狭くすることも可能である。
【0037】
本方法は、第1の衝突エネルギーなどの1つ以上の第1の断片化パラメータを使用して、各第1のイオンパケットを生成することと(すなわち、特定の対象前駆体が、第1の衝突エネルギーなどの1つ以上の第1の断片化パラメータを使用して断片化され、得られた断片イオンが、各第1のイオンパケットを形成するために使用される)、第2の異なる衝突エネルギーなどの1つ以上の第2の断片化パラメータを使用して各第2のイオンパケットを生成することと(すなわち、特定の対象前駆体が第2の衝突エネルギーなどの1つ以上の第2の断片化パラメータを使用して断片化され、得られた断片イオンが各第2のイオンパケットを形成するために使用される)、を含み得る。第1の衝突エネルギーなどの1つ以上の第1の断片化パラメータは、(レポーターイオン又は相補イオンに対して)分析物断片イオンを効率的に生成するように構成されてもよく、第2の衝突エネルギーなどの1つ以上の第2の断片化パラメータは、(分析物断片イオンに対して)レポーターイオン又は相補イオンを効率的に生成するように構成されてもよい。より高い衝突エネルギーは、典型的には、レポーターイオンなどの低m/z断片イオンを生成するために有益であり、一方、より低い衝突エネルギーは、典型的には、分析物断片イオンなどの中域又は高m/z断片イオンを生成するために有益である。したがって、第1の衝突エネルギーは、例えば、レポーターイオンが生成され分析される場合、第2の衝突エネルギーより低くてもよい。一方、分析物断片イオンを生成するために使用される衝突エネルギーと比較して、比較的低い衝突エネルギーが、典型的には、相補イオンを生成するために使用される。したがって、第1の衝突エネルギーは、例えば、相補イオンが生成され分析される場合、第2の衝突エネルギーより高くてもよい。
【0038】
代替の実施形態では、分析物断片イオンを分析するステップ及びレポーターイオン又は相補イオンを分析するステップは、例えば、イオンの各パケットをToF分析器に注入することによって、1つ以上の単一イオンパケットを分析することを含み得る。したがって、各対象前駆体について、分析器は、単一のスキャンを実行してもよく、すなわち、分析物断片イオンが、レポーターイオン又は相補イオンと同じスキャンを使用して分析されるようにしてもよい。これらの実施形態では、イオンの各パケットは、レポーターイオン及び/又は相補イオンとともに分析物断片イオンを含み得る。
【0039】
分析器は、循環セグメントを含むイオン経路と、イオン経路内にイオンを注入するためのイオン注入器と、イオン経路に沿って配置された少なくとも1つのイオン反射器と、イオン経路の端部に配置された検出器とを含み得る。
【0040】
方法は、
(i)分析物断片イオン及びレポーターイオン又は相補イオンを含むイオンパケットを、分析物断片イオン及びレポーターイオン又は相補イオンの両方がイオン経路に沿ってイオン反射器まで移動するように、イオン注入器からイオン経路に注入することと、
(ii)分析物断片イオン(のみ)を検出のためにイオン反射器から検出器に移動させることと、
(iii)イオン反射器を使用して、レポーターイオン又は相補イオン(のみ)に、イオン経路の循環セグメントに沿って1つ以上のサイクルを完了させることと、次いで、
(iv)レポーターイオン又は相補イオンを検出のためにイオン反射器から検出器に移動させることと、を含み得る。
【0041】
方法は、
(i)分析物断片イオン及びレポーターイオン又は相補イオンを含むイオンパケットをイオン注入器からイオンミラー間の空間内に注入することであって、イオンが、(a)偏向器又はレンズからイオンミラーの第2の端部に向かってドリフト方向Yに沿ってドリフトし、(b)ドリフト方向速度をイオンミラーの第2の端部の近傍で反転させ、(c)偏向器又はレンズに向かってドリフト方向Yに沿って戻るようにドリフトする間に、イオンが、イオンミラー間で方向Xに複数回の反射を有するジグザグイオン経路をたどる第1のサイクルを完了する、注入することと、
(ii)分析物断片イオン(のみ)を検出のために偏向器又はレンズから検出器に移動させることと、
(iii)レポーターイオン又は相補イオン(のみ)のドリフト方向速度を反転させて、これらのイオンが、(a)偏向器又はレンズからイオンミラーの第2の端部に向かってドリフト方向Yに沿ってドリフトし、(b)ドリフト方向速度をイオンミラーの第2の端部の近傍で反転させ、(c)偏向器又はレンズに向かってドリフト方向Yに沿って戻るようにドリフトする間に、イオンミラー間で方向Xに複数回の反射を有するジグザグイオン経路をたどる更なるサイクルをこれらのイオンに完了させるように、偏向器又はレンズを使用することと、
(iv)任意選択的に、ステップ(iii)を1回以上繰り返すことと、次いで、
(v)レポーターイオン又は相補イオンを検出のために偏向器又はレンズから検出器に移動させることと、を含み得る。
【0042】
別の態様によれば、飛行時間型(ToF)質量分析器を動作させる方法が提供され、ToF質量分析器は、
循環セグメントを含むイオン経路と、
イオンをイオン経路に注入するためのイオン注入器と、
イオン経路に沿って配置された少なくとも1つのイオン反射器と、
イオン経路の端部に配置された検出器と、を備え、
方法は、
(i)第1のイオン及び第2のイオンがイオン経路に沿ってイオン反射器まで移動するように、イオン注入器からイオン経路内に第1のイオン及び第2のイオンを含むイオンパケットを注入することと、
(ii)第1のイオン(のみ)を検出のためにイオン反射器から検出器へ移動させることと、
(iii)イオン反射器を使用して、第2のイオン(のみ)に、イオン経路の循環セグメントに沿って1つ以上の(例えば、更なる)サイクルを完了させることと、次いで、
(iv)第2のイオンを検出のためにイオン反射器から検出器へ移動させることと、を含む。
【0043】
これらの態様及び実施形態は、本明細書に記載の任意選択の特徴のいずれか1つ以上又は各々を含むことができ、実施形態ではもちろん含む。
【0044】
これらの態様及び実施形態では、ToF分析器は循環分析器であり得る。イオン経路は、循環セグメントを含み、イオンは、イオン注入器から検出器までイオン経路に沿って移動するときに、循環セグメントをゼロ又は複数回(繰り返して)通過することができる。例えば、イオン経路は、第1の非循環セグメントと、第1の非循環セグメントの下流に配置された循環セグメントと、循環セグメントの下流に配置された第2の非循環セグメントとを備えてもよい。ToF分析器は、イオン経路に沿って配置された偏向器などの少なくとも1つのイオン反射器を備える。イオン反射器は、例えば、イオン反射器への(例えば、パルス化された)電圧の好適な印加によって、イオン経路の循環セグメントに沿って、イオンに1つ以上の(更なる)サイクルを完了させるために使用されてもよい。
【0045】
本方法では、イオンがイオン経路に沿ってイオン反射器まで移動するように、第1のイオン及び第2のイオンを含むイオンパケットがイオン経路に注入される。イオン反射器に到達する前に、第1及び第2のイオンは、同じイオン経路をたどることができ、イオン経路の循環セグメントをゼロ回又は1回以上通過することができる。次いで、第1のイオン(のみ)を、検出のためにイオン反射器から検出器に移動させ、一方、イオン反射器は、第2のイオン(のみ)を、検出のためにイオン反射器から検出器に移動させる前に、イオン経路の循環セグメントに沿って1つ以上の(例えば、更なる)サイクルを完了させるために使用される。これは、イオン反射器に印加される電圧の大きさを好適なタイミングで好適にパルス化することによって行うことができ、それにより、第2のイオンのみが1つ以上の(例えば、更なる)サイクルを完了させられ、第1のイオンは完了させられない。
【0046】
第1のイオンは、第1の比較的広い範囲内のm/zを有するイオンであり得る。第2のイオンは、第2の異なる比較的狭い範囲内のm/zを有するイオンであり得る。第2の範囲は、第1の範囲と重複してもよく、第1の範囲によって包含されてもよい。
【0047】
別の態様によれば、多重反射飛行時間型(MR-ToF)質量分析器を動作させる方法が提供され、MR-ToF質量分析器は、
第1の方向Xに互いに離間して対向する2つのイオンミラーであって、各ミラーは、第1の端部と第2の端部との間でドリフト方向Yに概ね沿って細長く、ドリフト方向Yが、第1の方向Xに直交する、2つのイオンミラーと、
イオンをイオンミラー間の空間内に注入するためのイオン注入器であって、イオン注入器は、イオンミラーの第1の端部の近傍に位置する、イオン注入器と、
イオンがイオンミラー間で複数回の反射を完了した後に、イオンを検出するための検出器であって、検出器は、イオンミラーの第1の端部の近傍に位置する、検出器と、
イオンミラーの第1の端部の近傍に位置する偏向器又はレンズと、を備え、
方法は、
(i)第1のイオン及び第2のイオンを含むイオンパケットをイオン注入器からイオンミラー間の空間内に注入することであって、イオンが、(a)偏向器又はレンズからイオンミラーの第2の端部に向かってドリフト方向Yに沿ってドリフトし、(b)ドリフト方向速度をイオンミラーの第2の端部の近傍で反転させ、(c)偏向器又はレンズに向かってドリフト方向Yに沿って戻るようにドリフトする間に、イオンが、イオンミラー間で方向Xに複数回の反射を有するジグザグイオン経路をたどる第1のサイクルを完了する、注入することと、
(ii)第1のイオン(のみ)を検出のために偏向器又はレンズから検出器に移動させることと、
(iii)第2のイオンが、(a)偏向器又はレンズからイオンミラーの第2の端部に向かってドリフト方向Yに沿ってドリフトし、(b)ドリフト方向速度をイオンミラーの第2の端部の近傍で反転させ、(c)偏向器又はレンズに向かってドリフト方向Yに沿って戻るようにドリフトする間に、イオンミラー間で方向Xに複数回の反射を有するジグザグイオン経路をたどる更なるサイクルを第2のイオンに完了させるように、第2のイオン(のみ)のドリフト方向速度を反転させるために偏向器又はレンズを使用することと、
(iv)任意選択的に、ステップ(iii)を1回以上繰り返すことと、次いで、
(v)第2のイオンを検出のために偏向器又はレンズから検出器に移動させることと、を含む。
【0048】
これらの態様及び実施形態は、本明細書に記載の任意選択の特徴のいずれか1つ以上又は各々を含むことができ、実施形態ではもちろん含む。
【0049】
更なる態様は、プロセッサ上で実行されたとき、上述の方法を行うコンピュータソフトウェアコードを記憶する非一時的コンピュータ可読記憶媒体を提供する。
【0050】
更なる態様は、質量分析計などの分析機器のための制御システムを提供し、制御システムは、分析機器に上述の方法を実行させるように構成される。
【0051】
更なる態様は、上述の制御システムを備える、質量分析計などの分析機器を提供する。
【0052】
更なる態様は、質量分析計などの分析機器を提供し、分析機器は、
断片化デバイスと、
第1の長さを有する飛行経路に沿ってイオンを移動させる第1の動作モードと、第2の長さを有する飛行経路に沿ってイオンを移動させる第2の動作モードとで動作可能な飛行時間型(ToF)質量分析器であって、第2の長さが、第1の長さよりも長い、飛行時間型(ToF)質量分析器と、
制御システムと、を備え、制御システムは、機器が標識された分析物イオンを分析するために使用されているとき、
断片化デバイスに、標識された分析物イオンを断片化して、分析物断片イオン及びレポーターイオン又は相補イオンを生成させることと、
飛行時間型質量分析器に、第1の動作モードを使用して分析物断片イオンを分析させることと、
飛行時間型質量分析器に、第2の動作モードを使用してレポーターイオン又は相補イオンを分析させることと、を行うように構成されている。
【0053】
更なる態様は、飛行時間型(ToF)質量分析器を提供し、ToF質量分析器は、
循環セグメントを含むイオン経路と、
イオン経路にイオンを注入するためのイオン注入器と、
イオン経路に沿って配置された少なくとも1つのイオン反射器と、
イオン経路の端部に配置された検出器と、を備え、
分析器は、
(i)第1のイオン及び第2のイオンがイオン経路に沿ってイオン反射器まで移動するように、イオン注入器からイオン経路内に第1のイオン及び第2のイオンを含むイオンパケットを注入することと、
(ii)第1のイオン(のみ)を検出のためにイオン反射器から検出器へ移動させることと、
(iii)イオン反射器を使用して、第2のイオン(のみ)に、イオン経路の循環セグメントに沿って1つ以上の(例えば、更なる)サイクルを完了させることと、次いで、
(iv)第2のイオンを検出のためにイオン反射器から検出器へ移動させることと、によってイオンを分析するように構成されている。
【0054】
更なる態様は、多重反射飛行時間型(MR-ToF)質量分析器を提供し、MR-ToF質量分析器は、
第1の方向Xに互いに離間して対向する2つのイオンミラーであって、各ミラーは、第1の端部と第2の端部との間でドリフト方向Yに概ね沿って細長く、ドリフト方向Yが、第1の方向Xに直交する、2つのイオンミラーと、
イオンをイオンミラー間の空間内に注入するためのイオン注入器であって、イオン注入器は、イオンミラーの第1の端部の近傍に位置する、イオン注入器と、
イオンがイオンミラー間で複数回の反射を完了した後に、イオンを検出するための検出器であって、検出器は、イオンミラーの第1の端部の近傍に位置する、検出器と、
イオンミラーの第1の端部の近傍に位置する偏向器又はレンズと、を備え、分析器は、
(i)第1のイオン及び第2のイオンを含むイオンパケットをイオン注入器からイオンミラー間の空間内に注入することであって、イオンが、(a)偏向器又はレンズからイオンミラーの第2の端部に向かってドリフト方向Yに沿ってドリフトし、(b)ドリフト方向速度をイオンミラーの第2の端部の近傍で反転させ、(c)偏向器又はレンズに向かってドリフト方向Yに沿って戻るようにドリフトする間に、イオンが、イオンミラー間で方向Xに複数回の反射を有するジグザグイオン経路をたどる第1のサイクルを完了する、注入することと、
(ii)第1のイオン(のみ)を検出のために偏向器又はレンズから検出器に移動させることと、
(iii)第2のイオンが、(a)偏向器又はレンズからイオンミラーの第2の端部に向かってドリフト方向Yに沿ってドリフトし、(b)ドリフト方向速度をイオンミラーの第2の端部の近傍で反転させ、(c)偏向器又はレンズに向かってドリフト方向Yに沿って戻るようにドリフトする間に、イオンミラー間で方向Xに複数回の反射を有するジグザグイオン経路をたどる更なるサイクルを第2のイオンに完了させるように、第2のイオン(のみ)のドリフト方向速度を反転させるために偏向器又はレンズを使用することと、
(iv)任意選択的に、ステップ(iii)を1回以上繰り返すことと、次いで、
(v)第2のイオンを検出のために偏向器又はレンズから検出器に移動させることと、によってイオンを分析するように構成されている。
【0055】
更なる態様は、上述の飛行時間型(ToF)質量分析器又は多重反射飛行時間型(MR-ToF)質量分析器を備える質量分析計などの分析機器を提供する。
【0056】
これらの態様及び実施形態は、本明細書に記載の任意選択の特徴のいずれか1つ以上又は各々を含むことができ、実施形態ではもちろん含む。
【0057】
次に、添付の図面を参照して、様々な実施形態をより詳細に記載する。
【図面の簡単な説明】
【0058】
図1】m/z126を有する塩基TMT C816+レポーターイオンを概略的に示す。
図2】実施形態による分析機器を概略的に示す。
図3】実施形態による分析機器を概略的に示す。
図4】実施形態による多重反射飛行時間型質量分析器を概略的に示す。
図5】実施形態による多重反射飛行時間型質量分析器を概略的に示す。
図6】実施形態による多重反射飛行時間型質量分析器を動作させる方法を概略的に示す。
図7】実施形態によるDDA方法を示す。
図8】実施形態による、5倍ズームのTMTレポーターイオン及びズームされていないペプチド断片イオンを用いた方法を示す。
図9】実施形態によるDDA方法を示す。
図10A】多重反射飛行時間型質量分析器の通常のシングルパス動作モードについての分解能対イオン数のプロットを示す。
図10B】多重反射飛行時間型質量分析器の3倍ズーム動作モードについての分解能対イオン数のプロットを示す。
図11】多重反射飛行時間型質量分析器を通過した回数に対する分解能及び信号のプロットを示す。
【発明を実施するための形態】
【0059】
化学的タグ付けは、分析物の定量のための長年にわたるツールであり、最も単純な形態として、ピーク強度を既知濃度の標識標準のピーク強度と比較することが伴う。複数のアイソトポマーなどの異なる質量を有する複数の異なる化学タグが利用可能である場合、複数の試料を一緒に混合し、それらを単一の高スループットの多重化ワークフローで分析することが可能になる。
【0060】
このグループ内の重要な用途は、タンデム質量タグ(TMT)法(Thompson et al,Anal.Chem.,2003,75,1895-1904)、TMT又は相対定量及び絶対定量のための同重体タグ(iTRAQ)として市販されている。これは、多重タグ化ペプチドが同じm/zを有し、したがって液体クロマトグラフィーから共溶出し、四重極質量フィルタによって共分離されるタンデム法である。しかし、断片化すると、異なるm/zを有する特徴的な1,2,6個のレポーターイオンが生成され、定量のために検出される。ペプチド断片の同時検出は、同じ工程におけるペプチド同定を可能にする。この方法の大きな利点は、多重化のレベルの因子による、完全な質量スペクトル及び共分離の感度の単純化にある。
【0061】
TMT6プレックスの初期の商業的な実装形態では、13Cでの置換によって生成された同位体質量分離を用いて、m/z126~131から、図1に示すレポーターイオンが生成された。より最近の進歩は、15Nによる窒素の置換を追加し、13Cのみのレポーターに対して小さな6.32mDaの質量欠損を与え、アクセス可能な置換タグの数を増加させ、レポーター領域を一連の同重体ダブレットに分割する10プレックス法であった(McAlister et al,Anal.Chem.,2012,84,7469-7478)。18プレックスなどの更に高いレベルの多重化も実証されている。
【0062】
しかしながら、この方法には特有の欠点がある。共分離された同重体ペプチド間の干渉は、レポーターイオンチャネルを汚染し、正確な定量化を妨げ、より短く、より不十分に分離するLC勾配を用いた高速実験サイクルを妨げる可能性がある。干渉を除去するために追加の分離及び断片化段階(MS3)が使用され得るが、これも速度及び感度に影響を与える。特殊な飛行時間型(ToF)機器によって提供されるような高分解能分離は、特に、四重極分離と連続して適用される場合、より最適な解決策となる。
【0063】
第2の問題は、10プレックス及びそれ以上の方法のレポーターイオンダブレットが、区別及び測定するためにm/z127で約50Kの分解能を必要とすることである。これは、ほとんどの飛行時間型(ToF)分析器設計の範囲外であり、かかる分解能をもたらすことができる高度なToF分析器に対して、ダイナミックレンジの厳しい空間電荷関連の制限を課す。
【0064】
これまで、TMT10プレックス法は、低いm/zで高分解能をもたらすことに優れているOrbitrap(商標)FT機器で実行されてきた。しかしながら、かかる分解能を達成するために必要とされる取得時間は、取得速度を制限し、測定の数を制限する。Orbitrap(商標)分析器の場合、Phi-SDMなどの改善されたデータ処理方法が、速度での分解能を大幅に改善するために使用されてきた(Bekker-Jenson et al,Mol.Cell.Proteomics,2020,14,716-729)。空間電荷効果はまた、Orbitrap(商標)機器におけるレポーターイオンダブレットの融合/合体を引き起こし、これは、自動利得制御(automatic gain control、AGC)手順によって通常制限される高いイオン負荷を必要とし得る(Werner et al,Anal.Chem.,2014,86,3594-3601)。
【0065】
TMT法に対する重要な修正は、TMT相補イオン定量化である(Johnson et al,J.Proteome Res.,2021,20,3043-3052)。ここでは、レポーターイオンから定量化するのではなく、タグ化ペプチドからレポーターイオンを差し引いたものを低断片化エネルギーで生成し、測定する。レポーターの分離後、タグは依然として「バランサー」成分を含有しており、これは通常、全てのタグ付けされたイオンの質量を平衡化する役割を果たすが、レポーター成分がなければ、これは相補イオンチャネルの鏡像分布を生成する。これらのチャネルは、レポーターイオン分布と同様の相対強度を有し得るため、定量化に使用することができる。利点は、それらが依然として元のペプチドが結合しているため、共分離されたペプチドからの干渉に対してより強固であることである。しかし、その代償として、相補イオンがレポーターよりもはるかに重いが、チャネル間の質量差が同じであるため、チャネルを分解するためにはるかに高い分解能が必要とされることである。これまで、このプロセスは、1Daの間隔を有する8チャネルTMT法に限定されてきたが、通常50Kの分解能を必要とする等価な16チャネル間隔は、10倍重いイオンに適用される場合、500Kが必要になる場合がある。
【0066】
飛行時間型(ToF)分析器の中には、より高いTMT多重化方法と適合するのに十分な分解能をもたらすものは少ない。かかる分析器における分解能は、典型的には、イオン飛行経路の長さ、並びに検出器におけるイオンの到着時間広がり及び検出器自体の時間応答の両方から生じるピークの幅によって制限される。この後者の固定応答は、分析器分解能における質量依存性をもたらし、TMTレポーター領域などの低m/z測定を妨げる(Orbitrap(商標)分析器とは逆の傾向)。
【0067】
従来のToF分析器は、典型的には、直交加速器又は抽出トラップなどのイオン注入デバイスと、検出器と、イオンを検出器表面に集束させる役割を果たすイオンミラーとを内蔵している。それらはまた、概して、イオン源の後に、ビームを適切に成形し、方向付けるように構成されたレンズ又は偏向器を含むことができる。
【0068】
非常に高い分解能を有するより高度なToF分析器が、Wollnik(DE3025764C2)によって導入されており、これは、トラップされたイオンが検出器に放出される前に複数の振動を受けることができる一対のイオンミラーを内蔵している。このシステムの欠点は、より軽いイオンがより重いイオンを追い越す/ラップするため、質量分析が非常に複雑になることであった。概して、質量範囲の制限を犠牲にして、滞留時間の増加を介して標的イオンの分解能を増加させることは、「ズームイン」と称され得る。
【0069】
Nazarenki(SU1725289)によるイオンミラーの延長により、ラッピング問題を排除する固定ジグザグ飛行経路を有する「オープントラップ」又は「多重反射飛行時間型(MR-ToF)」分析器が開発された。Verentchikovにより、イオン振動に直交するイオン分散を規則的に補正する周期レンズをミラー間に組み込むことによって、改良及び商業化が行われた(英国特許第2,403,063号)。
【0070】
このイオン分散を制御する後者の方法は、Sudakov(国際公開第2008/047891号)、Stewart(米国特許第10,964,520号)、及び最も顕著にはGrinfeldによる米国特許第9,136,101号によって提案されている。この後者の方法は、イオンミラーをわずかに傾斜させることを含み、その結果、注入されたイオンは、細長いミラー間のドリフト方向にドリフトするときに広がることが可能になる。傾斜したミラー及び支持ストライプ電極を通過するたびに、イオンは偏向して戻り、最終的にドリフト速度が完全に逆転し、ミラーシステムの開始側の検出器上に集束される。この分析器の概略図を図4に示す(以下でより詳細に説明する)。
【0071】
かかる分析器は、TMTレポーターを分解することができるが、合理的な空間電荷復元力で分解するためには、比較的大きくなければならない(約1m2)。ピークのベースライン分解能は、テーリング又は他の効果のために容易に達成可能ではないため、ダブレットにおける2つのピークの検出可能な比は、依然として制限される可能性がある。
【0072】
分析器のこの広いファミリーをカバーする特別な動作モードは、「ズームモード」と称され、Verenchikovらによって以前に報告されている(Verenchikov et al.,Journal of Applied Solution Chemistry and Modelling,2017,6,1-22)。イオン経路の初期に配置された偏向器は、トラップ電圧に切り替えられ得、イオンにミラーを上下に複数回通過させ、それぞれがミラー間で同じ数の振動を含む。このように飛行経路を大幅に延長することで、500,000までの非常に増大した分解能が示されたが、その名が示すように、質量範囲の深刻な損失が引き起こされた。
【0073】
本明細書に記載の実施形態は、特に多重反射飛行時間型(MR-ToF)分析器(及び他のToF分析器)に適用されるような、TMTレポーターダブレット又は類似の同重体断片タグ内のピークを分解し、それにより正確に定量化する困難性に対処するものである。
【0074】
上述のように、Orbitrap(商標)機器は、通常、TMT法に使用されるが、これらの機器は、かかる高分解能で動作するために必要な遅い繰り返し速度に多少苦しむことがある。これはまた、より遅い実験サイクル及びより低いスループットを強制するが、このことと、共溶出及び共分離ペプチドによる前駆体標的の汚染が優勢のどちらが大きいかは、必ずしも明らかではない。
【0075】
ほとんどのToF分析器は、分解能が低すぎて、より高度な多重化TMT方法と全く互換性がなく、比較的大きいMR-ToFシステムであっても、より高いイオン負荷でその分解能を維持することに苦労し、ダイナミックレンジ及び特徴付けられ得るダブレットピークの比が制限される場合がある。直交加速器などの高繰り返し率注入デバイスは、ショット当たりの空間電荷負荷を低減するが、これらは、抽出トラップに対してかなりの感度コストを伴う可能性があり、かかる源を多重反射ToF分析器の長い飛行時間と適合させるために、(符号化された頻繁なパルス化などを介した)デコンボリューションを伴う高度な動作方法が必要となる場合がある。図4に示される傾斜ミラー分析器などの空間電荷耐性分析器は、これらの方法に適合することができるが、性能を改善することが依然として望まれている。
【0076】
したがって、特定の実施形態は、同定に使用されるペプチド断片への影響を最小限に抑えながら、定量に使用されるTMTレポーターイオンに対する多重反射飛行時間型(MR-ToF)分析器の分解能及び空間電荷復元力、したがってダイナミックレンジを改善することを対象とする。
【0077】
本明細書に記載の実施形態によれば、ズームモードは、TMTレポーター(又は相補的)イオンに対してのみ使用され、通常の動作モードは、例えば、データ依存的TMT法において、ペプチド断片同定に使用される。以下により詳細に記載されるように、レポーターイオン(又は相補イオン)及び断片イオンは、別個のスキャン又は単一の統合スキャンのいずれかにおいて分析され得る。ズームモードは、TMTレポーターの達成可能な分解能を増大させ、その結果、分析器の空間電荷復元力及びダイナミックレンジも改善する。
【0078】
図2は、実施形態による方法を実行するために使用され得る質量分析計などの分析機器を概略的に示す。図2に示すように、分析機器は、イオン源10と、質量フィルタ20と、断片化デバイス30と、飛行時間型(ToF)質量分析器40とを含む。
【0079】
イオン源10は、試料からイオンを生成するように構成されている。イオン源10は、液体クロマトグラフィー分離デバイス又はキャピラリー電気泳動分離デバイス(図示せず)などの分離デバイスに結合され得、それにより、イオン源10においてイオン化される試料は、分離デバイスからもたらされる。イオン源10は、分離デバイスと互換性のあるイオン源など、任意の好適なイオン源であり得る。実施形態では、イオン源10は、エレクトロスプレーイオン化(electrospray ionisation、ESI)イオン源、大気圧イオン化(atmospheric pressure ionisation、API)イオン源、化学イオン化イオン源、電子衝撃(electron impact、EI)イオン源、又は類似物である。
【0080】
質量フィルタ20は、イオン源10の下流に配置され、イオン源10からイオンを受け取るように構成され得る。質量フィルタ20は、受け取ったイオンをその質量電荷比(m/z)に従ってフィルタリングするように構成することができ、例えば、m/z窓内のイオンのみが質量フィルタ20によって前方に透過され、質量フィルタのm/z窓外のイオンは質量フィルタ20によって拒絶され、前方に透過されないようにすることができる。質量フィルタの透過窓のm/z幅及び中心m/zは、例えば、質量フィルタ20に印加されるRF及びDC電圧の好適な制御によって制御可能(可変)である。したがって、例えば、質量フィルタは、比較的広いm/z窓内のほとんど又は全てのイオンが質量フィルタ20によって前方に透過される透過動作モードと、比較的狭いm/z窓(所望のm/zを中心とする)内のイオンのみが質量フィルタ20によって前方に透過されるフィルタリング動作モードとで動作可能であってもよい。質量フィルタ20は、四重極質量フィルタなどの任意の好適なタイプの質量フィルタであり得る。
【0081】
断片化デバイス30は、質量フィルタ20の下流に配置され、質量フィルタ20によって透過されたほとんど又は全てのイオンを受け取るように構成され得る。断片化デバイス30は、受け取られたイオンの一部又は全部を選択的に断片化するように、すなわち断片イオンを生成するように構成され得る。断片化デバイス30は、断片イオン(断片イオンは次いで断片化デバイス30から前方に移送され得る)を生成するためにほとんど又は全ての受け取られたイオンが断片化される断片化動作モードと、ほとんど又は全ての受け取られたイオンが(意図的に)断片化されることなく前方に移送される非断片化動作モードとで動作可能であり得る。また、非断片化動作モードは、イオンに断片化デバイス30をバイパスさせることによって実装することも可能である。断片化デバイス30はまた、例えば、断片化の程度が制御可能(可変)である1つ以上の中間動作モードで動作可能であってもよい。断片化デバイス30はまた、例えば、断片イオンが断片化デバイス30によって1回以上更に断片化されるような高次(MSN)断片化動作モードで動作可能であってもよい。
【0082】
断片化デバイス30は、例えば、衝突誘起解離(collision induced dissociation、CID)断片化デバイス、電子誘起解離(electron induced dissociation、EID)断片化デバイス、光解離断片化デバイスなどの、標識された分析物イオンを断片化して分析物断片イオン及びレポーターイオン又は相補イオンを生成するために使用され得る任意の好適なタイプの断片化デバイスであり得る。多数の他のタイプの断片化が可能である。
【0083】
実施形態において、断片化デバイス30は、衝突誘起解離(CID)断片化デバイスである。したがって、断片化デバイスは、例えば比較的高い圧力に維持された衝突ガスで満たされ得る衝突セルを含み得る。イオンは、イオンが衝突セルに進入させられる運動エネルギーを制御(変動)することによって、衝突セル内で選択的に断片化することができる。断片化動作モードでは、イオンは、比較的高い運動エネルギーで衝突セルに進入するように加速されてもよく、これにより加速されたイオンの大部分又は全部を断片化させてもよい。非断片化動作モードでは、イオンは、比較的低い運動エネルギーを伴って衝突セルに進入させられてもよく、これはイオンの大部分又は全部を断片化させるために不十分であり得る。中間モードでは、イオンは、中間運動エネルギーで衝突セルに進入させられてもよい。
【0084】
ToF分析器40は、断片化デバイス30の下流に配置されてもよく、断片化デバイス30から前方に移送されたほとんど又は全てのイオンを受け取るように構成されてもよい。例えば、非断片化動作モードにおいてイオンが断片化デバイス30をバイパスするように機器が構成される場合、ToF分析器40が質量フィルタ20からイオンを受け取ることができるように機器を構成することも可能である。したがって、概して、ToF分析器40は、非断片化(「前駆体」又は「親」)イオン、断片(「生成物」又は「娘」)イオン、断片化断片(「孫娘」)イオンなどを含み得る、機器の様々な上流段階からイオンを受け取るように構成され得る。
【0085】
ToF分析器40は、受け取ったイオンを分析してそれらの質量電荷比(m/z)を決定するように構成される。これを行うために、ToF分析器40は、分析器40のドリフト領域(ドリフト領域は高真空(例えば、<1×10-5mbar)内のイオン経路に沿ってイオンを通過させ、イオンがイオン経路に沿って通過するのにかかる時間(ドリフト時間)を測定するように構成されている。イオンは、電界によってドリフト領域内に加速され得、イオン経路の終端に配置されたイオン検出器によって検出され得る。加速は、比較的低いm/zを有するイオンに、比較的高い速度を達成させ、比較的高いm/zを有するイオンより前にイオン検出器に到達させ得る。したがって、イオンは、それらの速度及びイオン経路の長さによって決定される時間後にイオン検出器に到達し、これは、イオンのm/zが決定されることを可能にする。検出器に到着する各イオン又はイオン群は、検出器によってサンプリングされ得、検出器からの信号は、デジタル化され得る。次いで、プロセッサは、イオン又はイオン群の飛行時間及び/又はm/zを示す値を決定し得る。飛行時間型(「ToF」)スペクトル及び/又は質量スペクトルを生成するために、複数のイオンのデータが収集され、組み合わされ得る。
【0086】
ToF質量分析器40は、任意の好適なToF分析器であり得る。概して、ToF分析器40は、イオン経路の始端に配置されたイオン注入器と、イオン経路の終端に配置されたイオン検出器とを備え得る。分析器40は、検出器におけるイオンの到着時間(すなわち、イオンが注入器から移動し、イオン経路を介して検出器に到着するのにかかる時間)を決定することによってイオンを分析するように構成され得る。
【0087】
イオン注入器は、例えば、1つ以上の(例えば、直交)加速電極などの任意の好適な形態であり得る。しかしながら、特定の実施形態では、イオン注入器はイオントラップを備える。イオントラップは、(断片化デバイス30から)イオンを受け取るように構成され得、例えば、蓄積期間中にイオンを蓄積することによって、イオンパケットを蓄積するように構成され得る。イオントラップは、(例えば、イオン経路に沿ってイオンパケットを加速することによって)各蓄積されたパケットイオンをイオン経路内に注入するように構成されてもよく、その後、パケットのイオンは、イオン経路に沿って検出器まで移動してもよい。
【0088】
検出器は、1つ以上の変換ダイノードなどの任意の好適なイオン検出器とすることができ、任意選択的に、1つ以上の電子増倍管、1つ以上のシンチレータ、及び/又は1つ以上の光子増倍管などが後続する。検出器は、検出器で受け取られたイオンを検出するように構成され得、検出器で受け取られたイオンの強度を示す信号を(到着)時間の関数として作り出すように構成され得る。次いで、イオンのm/zは、測定された到着時間から決定され得る。
【0089】
イオン経路は、線形ToF分析器の場合に線形である、又はリフレクトロン若しくは多重反射飛行時間型(MR-ToF)分析器を備えるToF分析器の場合に1つ以上の反射を含むなど、任意の好適な形態を有してもよい。イオン経路は、循環セグメントを含み得る。
【0090】
特定の実施形態では、分析器40は、多重反射飛行時間型(MR-ToF)分析器である。したがって、分析器40は、離間し、第1の方向Xに互いに対向する2つのイオンミラーを備え得る。各ミラーは、第1の端部と第2の端部との間でドリフト方向Yに概ね沿って細長く、ドリフト方向Yは、第1の方向Xに直交する。イオン注入器は、イオンミラーの第1の端部の近傍に位置してもよく、イオンミラー間の空間内にイオンを注入するように構成されてもよい。検出器は、イオンミラーの第1の端部の近傍に位置してもよく、イオンがイオンミラー間で複数回の反射を完了した後にイオンを検出するように構成されてもよい。分析器は、イオン注入器からイオンミラー間の空間内にイオンを注入することによってイオンを分析するように構成されてもよく、その結果、イオンは、(a)イオンミラーの第2の端部に向かってドリフト方向Yに沿ってドリフトし、(b)ドリフト方向速度をイオンミラーの第2の端部の近傍で反転させ、(c)ドリフト方向Yに沿ってイオンミラーの第1の端部に戻るようにドリフトする間に、イオンミラー間で方向Xに複数回の反射を有するジグザグイオン経路をたどることができる。次いで、イオンを、検出のために検出器に移動させ得る。
【0091】
図2は単なる概略的なものであり、分析機器は任意の数の1つ以上の追加の構成要素を含むことができ、実施形態ではもちろん含むことに留意されたい。例えば、機器は、典型的には、様々な図示される構成要素10、20、30、40の間に配置され、1つの構成要素から次の構成要素にイオンを移送するように構成される、1つ以上のイオン移送ステージを備える。1つ以上のイオン移送ステージは、1つ以上のイオンガイド、レンズ、及び/又は他のイオン光学デバイスの任意の好適な配置を含み得る。
【0092】
図2に示すように、機器は、適切にプログラムされたコンピュータなどの制御ユニット50の制御下にあってもよく、制御ユニット50は、例えば、機器を特定の動作モードで動作させ、かつ/又は本明細書に記載の方法を実行させるように、質量フィルタ20、断片化デバイス30、及び分析器40を含む機器の様々な構成要素の動作を制御するように構成されてもよい。制御ユニット50はまた、本明細書に記載の実施形態による例えば分析器40からの質量スペクトルデータなどを含む様々な構成要素からデータを受け取り、処理することができる。
【0093】
機器は、MS1動作モード及びMS2動作モードを含む様々な動作モードで動作可能であり得る。
【0094】
MS1(又は「全質量スキャン」)動作モードでは、例えば、広いm/z範囲(例えば、全質量範囲)の断片化されていない(「前駆体」又は「親」)イオンが分析器40によって分析されるように、質量フィルタ20は、その透過動作モードで動作され、断片化デバイス30は、その非断片化動作モードで動作される。
【0095】
MS2動作モードでは、質量フィルタ20はそのフィルタリング動作モードで動作し、断片化デバイス30はその断片化モードで動作する。例えば、選択された狭いm/z範囲の前駆体イオンが断片化され、得られた断片(「生成物」又は「娘」)イオンが分析器40によって分析されるように動作する。MS2動作モードでは、質量フィルタの(狭い)m/z窓の中心は、例えば、それぞれの異なるm/zを伴う複数の異なる前駆体イオンの各々を連続的に選択(及び断片化)するように、複数の異なるm/z値の各々の間で連続的に変更することができる。データ依存取得(data dependent acquisition、DDA)MS2動作モードでは、複数の異なるm/z値は、対応するMS1データ(すなわち、全質量スキャン)から識別される複数の異なる前駆体イオンに対応し得る。データ独立取得(data independent acquisition、DIA)MS2動作モードでは、複数の異なるm/z値は、所定の(固定された)リストから、すなわち、MS1データを参照せずに取得され得る。
【0096】
機器はまた、例えば、MS3動作モードなどの1つ以上の高次断片化(MSN)動作モードで動作可能であってもよく、それによって、前駆体イオンが断片化され、得られた断片イオンのうちの少なくとも一部がそれ自体断片化され、第2世代断片イオン(「孫娘イオン」)が分析器40によって分析される。
【0097】
ToF分析器40は、少なくとも2つの動作モード、すなわち、イオンを第1の長さを有する飛行経路(イオン注入器とイオン検出器との間)に沿って移動させる第1の動作モードと、イオンを第2のより長い長さを有する飛行経路(イオン注入器とイオン検出器との間)に沿って移動させる第2の動作モードとで動作可能である。第2の動作モードにおいてイオン飛行経路の長さを増加させることは、分析器の分解能を増加させる効果を有するが、分析され得るイオンのm/z範囲を減少させる。したがって、第2の動作モードは、(分析器が実際にm/zスペクトルのより狭いm/z領域に「ズームイン」するので)「ズーム」動作モードと称され得る。ToF分析器40は、任意選択的に、イオンを1つ以上の異なる長さを有する飛行経路(イオン注入器とイオン検出器との間)に沿って移動させる1つ以上の更なる動作モードで動作可能であり得る。
【0098】
飛行時間型(ToF)質量分析器は、任意の好適な方法で可変経路長を有するように構成することができる。概して、ToF分析器40は、イオンを反射するように構成された1つ以上のイオン反射器(1つ以上のイオンミラー及び/又は1つ以上のリフレクトロンなど)を有することができる。イオン経路は、イオンが検出される前にとる1つ以上のイオン反射器内の反射の数を増加させることによって延長されてもよい。
【0099】
したがって、例えば、第1の動作モードでは、イオンは、検出される前にイオン反射器によって反射されなくてもよく、第2の動作モードでは、イオンは、検出される前に1つ以上のイオン反射器によって1回以上反射されてもよい。代替として、第1の動作モードでは、イオンは、検出される前に1つ以上のイオン反射器によって1回以上反射されてもよく、第2の動作モードでは、イオンは、検出される前に(第1のモードよりも)1つ以上のイオン反射器によってより多くの回数反射されてもよい。例えば、ToF分析器は、イオンが検出される前にイオン反射器(リフレクトロン)において1回反射される第1の(「V」)動作モードと、イオンが検出される前に(2つのイオン反射器内で)3回反射される第2の(「W」)動作モードとの間で切り替え可能であってもよい。
【0100】
イオン経路はまた、又は代わりに、イオンが検出される前にとるイオン経路の循環セグメントにおける通過の数を増加させることによって延長されてもよい。
【0101】
特定の実施形態では、分析器40は、シングルパス「通常」動作モード及びマルチパス「ズーム」動作モード(以下で詳細に説明する)で動作可能な多重反射飛行時間型(MR-ToF)質量分析器である。
【0102】
図3は、様々な実施形態の方法を実行するのに適した質量分析計をより詳細に概略的に示す。この機器は、MR-ToF分析器40(米国特許第9,136,101号に記載されているタイプのもの)、四重極質量フィルタ20、及びOrbitrap(商標)分析器60を組み込んだハイブリッド機器である。この機器はまた、エレクトロスプレー源10、衝突セル30、及び完全な質量分析計のための様々なイオンガイドなどを含む。図3に示す機器は非限定的な例であり、多数の変形が可能であることが理解される。
【0103】
図3に示す実施形態では、機器のイオン源10は、エレクトロスプレーイオン化(ESI)イオン源である。この機器は、移送管21、イオン漏斗22、四重極前置フィルタイオンガイド23、及びいわゆる「ベントフラットポール」イオンガイド24を含む真空インターフェースを含む。イオンガイド24は、米国特許第9,536,722号に記載されている設計のものであり得る。
【0104】
機器はまた、四重極質量フィルタ20の形態の質量フィルタと、湾曲線形イオントラップ(「Cトラップ」)の形態のイオントラップ31と、イオン経路指定多重極衝突セル(ion routing multipole、「IRM」)の形態の衝突セル30とを含む。イオン源10からのイオンは、Cトラップ31と質量フィルタ20との間に配置される電荷検出器アセンブリ26内に位置するゲート電極を開閉することによって、Cトラップ31及び/又は衝突セル30内に蓄積することができる。
【0105】
機器は、多重反射飛行時間型(ToF)質量分析器の形態の飛行時間型(ToF)質量分析器40を含む。図3に示される機器において、分析器は、米国特許第9,136,101号に記載される傾斜ミラータイプであるが、任意のタイプのToF分析器が使用され得ることが理解される。
【0106】
図3に示されるように、機器は、イオンが衝突セル30から飛行時間型質量分析器40に移送されることを可能にする多重極イオンガイド32を含む。飛行時間型質量分析器40は、抽出トラップ41を含み、それによって、イオンは、衝突セル30から多重極イオンガイド32を介して抽出トラップ41に送達される。イオンは、抽出トラップ41に蓄積されて冷却される。
【0107】
抽出トラップ41は、2つのトラップ領域を組み込むことができ、1つは急速イオン冷却のための比較的高い圧力であり、第2の低圧領域はイオン抽出のためのものである。イオンは高圧領域で冷却され、次いで低圧領域に移送され、そこで一対の偏向器42を介してToF分析器にパルス放出される。イオンは、一対のミラー43の間で振動し、ミラー43は、イオン経路がゆっくりと偏向され、検出器44に戻るように互いに対して傾斜している。補正ストライプ電極45は、別様でミラーの非平行性によって引き起こされるイオン集束の損失に対抗する。
【0108】
図3にも示されるように、機器は、任意選択的に、軌道イオントラップ質量分析器、より具体的にはThermo Fisher Scientific製のOrbitrap(商標)FT質量分析器などの静電質量分析器60の形態の第2の質量分析器を含んでもよい。このハイブリダイズされた機器は、米国特許第10,699,888号により詳細に記載されており、その内容は参照により本明細書に組み込まれる。
【0109】
イオンは、イオントラップ31内に収集され得、次いで、衝突又は反応セル30に進入することなく、分析のためにOrbitrap(商標)分析器60に直交して放出され得るか、又はイオンは、衝突又は反応セル30に軸方向に移送することができる。衝突又は反応セル30に送られたイオンは、衝突セル30内の衝突ガス及び/又は試薬との衝突によって断片化されるか、又はイオンを断片化させるより低いエネルギーのガスとの衝突によって単に冷却されるかのいずれかであり得る。衝突セル30内に蓄積されると、イオンは、分析のために質量分析器40内に(多重極イオンガイド32を介して)放出されるか、又は分析のためにOrbitrap(商標)分析器60内に(Cトラップ31を介して)放出されるかのいずれかであり得る。
【0110】
図4及び図5は、可変経路長分析器40の例示的な実施形態の詳細を概略的に示している。これらの実施形態では、分析器40は、シングルパス「通常」動作モード及びマルチパス「ズーム」動作モードで動作可能な多重反射飛行時間型(MR-ToF)質量分析器である。
【0111】
図4及び図5に示すように、多重反射飛行時間型分析器40は、第1の方向Xに互いに離間して対向する一対のイオンミラー43a、43bを含む。イオンミラー43a、43bは、第1の端部と第2の端部との間で直交ドリフト方向Yに沿って細長い。
【0112】
イオントラップの形態であり得るイオン源(注入器)41は、分析器の一端(第1の端部)に配置される。イオン源41は、断片化デバイス30からイオンを受け取るように配置及び構成され得る。イオンは、イオンミラー43a、43bの間の空間内に注入される前に、イオン源41に蓄積され得る。図4及び図5に示すように、イオンは、比較的小さい注入角度又はドリフト方向速度でイオン源41から注入され、ジグザグイオン軌道を生み出し得、それによって、ミラー43a、43b間の異なる振動が空間的に分離される。
【0113】
1つ以上のレンズ及び/又は偏向器が、イオン源41とイオンが最初に遭遇するイオンミラー43bとの間で、イオン経路に沿って配置され得る。例えば、図4及び図5に示すように、第1の面外レンズ46、注入偏向器42a、及び第2の面外レンズ47は、イオン源41とイオンが最初に遭遇するイオンミラー43bとの間でイオン経路に沿って配置され得る。他の構成も可能であろう。一般に、1つ以上のレンズ及び/又は偏向器は、イオンビームを好適に調整し、集束させ、かつ/又は偏向させるように、すなわち、イオンビームが分析器を通る所望の軌道をとるように、構成され得る。
【0114】
分析器40はまた、イオンミラー43a、43bの間で、イオン経路に沿って配置された別の偏向器42bを含む。図4及び図5に示すように、偏向器42bは、その第1のイオンミラー反射(イオンミラー43bにおける)の後、かつその第2のイオンミラー反射(他方のイオンミラー43aにおける)の前に、イオン経路に沿って、イオンミラー43a、43bの間でほぼ等距離に配置され得る。
【0115】
分析器はまた、検出器44を含む。検出器44は、イオンを検出し、例えば、検出器へのイオンの到着に関連する強度及び到着時間を記録するように構成された任意の好適なイオン検出器であってもよい。好適な検出器としては、例えば、1つ以上の変換ダイノードが挙げられ、任意選択的に、1つ以上の電子増倍管などが後に続く。
【0116】
その「通常」動作モードでは、イオンが、(a)偏向器42bからイオンミラー43a、43bの反対側の(第2の)端部に向かってドリフト方向Yに沿ってドリフトし、(b)ドリフト方向速度をイオンミラー43a、43bの第2の端部の近傍で反転させ、(c)偏向器42bに向かってドリフト方向Yに沿って戻るようにドリフトする間に、イオンは、イオンミラー43a、43bの間でX方向に複数回反射するジグザグイオン経路をたどるように、イオン源41からイオンミラー43a、43bの間の空間内に注入される。次いで、イオンを、検出のために偏向器42bから検出器44に移動させ得る。
【0117】
図4の分析器では、イオンミラー43a、43bは両方とも、X方向及び/又はドリフトY方向に対して傾斜している。その代わりに、イオンミラー43a、43bのうちの1つのみが傾斜していることが可能であり、例えば、イオンミラー43a、43bの他方は、ドリフトY方向に平行に配置される。概して、イオンミラーは、ドリフト方向Yのそれらの長さのほとんど又は全てに沿ってX方向に互いに一定でない距離にある。イオンミラーの第2の端部に向かうイオンのドリフト方向速度は、2つのミラーの互いからの距離が一定でないことから生じる電界によって対抗され、この電界は、イオンに、ドリフト方向速度をイオンミラーの第2の端部の近傍で反転させ、偏向器に向かってドリフト方向に沿って戻るようにドリフトさせる。
【0118】
図4に示す分析器は、一対の補正ストライプ電極45を更に備える。ドリフト長に下って移動するイオンは、各々がミラー43a、43bを通過するたびにわずかに偏向され、追加のストライプ電極45は、ミラー間の距離の変化によって生じる飛行時間誤差を補正するために使用される。例えば、ストライプ電極45は、ミラー間のイオン振動の周期がドリフト長の全体に沿って実質的に一定であるように(2つのミラー間の距離が一定でないにもかかわらず)、電気的に付勢され得る。イオンは、最終的に、ドリフト空間を下って戻るように反射され、検出器44に集束される。
【0119】
図4の傾斜ミラー型多重反射飛行時間型質量分析器の更なる詳細は、米国特許第9,136,101号に記載されており、当該特許の内容は、参照により本明細書に組み込まれる。
【0120】
図5の分析器では、イオンミラー43a、43bは互いに平行である。この実施形態では、イオンに、イオンのドリフト方向速度をイオンミラーの第2の端部の近傍で反転させ、偏向器に向かってドリフト方向に沿って戻るようにドリフトさせるために、分析器は、イオンミラー43a、43bの第2の端部に第2の偏向器48を含む。
【0121】
また、図5に示すように、この実施形態では、レンズは、注入偏向器42a及び/又は偏向器42bに含めることができる。そのため、イオンビームは、長焦点レンズに衝突する前に、分析器内への短い経路を拡大することができ、長焦点レンズは、イオンビームをその長さに沿って集束させる効果を有する。レンズは、偏向器42b内に取り付けられた楕円ドリフト集束(収束)レンズであってもよい。第2の偏向器48もレンズを含み得るが、焦点特性の制御を維持する間にビーム方向を反転させるために使用される。
【0122】
図5の単一レンズ型多重反射飛行時間型質量分析器の更なる詳細は、英国特許第2,580,089号に記載されており、当該特許の内容は、参照により本明細書に組み込まれる。
【0123】
図4及び図5に示す分析器では、イオンビームは、その飛行経路の大部分にわたって(ドリフト方向Yに)比較的広く拡散することができる。これは、例えば、非特許文献A.Verenchikovら、Journal of Applied Solution Chemistry and Modelling,2017、6、1-22に記載されているように、イオンビームをその飛行経路全体に沿って集束させるために周期レンズのセットを使用する多重反射飛行時間型(MR-ToF)質量分析器とは対照的である。イオンビームがその飛行経路の大部分にわたって広く拡散することを可能にすることの重要な利点は、空間電荷効果が低減されることであり、これは、特に標識された分析物イオンを分析するときに飛行時間型分析器にとって重要な問題であり得る。それにもかかわらず、本明細書に記載の実施形態はまた、Verenchikov型MR-ToF分析器などの他のMR-ToF分析器設計に適用可能である。
【0124】
図4及び図5に示す実施形態では、イオンビームがドリフト次元Yにおいて比較的幅広いという事実は、偏向器42bが、クリッピング又は不均一な偏向を導入することなく、そのような幅広いビームを受け入れることができるべきであることを意味する。好適な偏向器設計は、台形又はプリズム状の偏向器である。
【0125】
そのため、偏向器42bは、イオンビームの上方に配置された台形又はプリズム状の電極と、イオンビームの下方に配置された別の台形又はプリズム状の電極とを備えてもよい。電極は、偏向の面外に位置し得、それによって、(少なくとも、ビームのいずれかの側に位置するであろう、より従来的な偏向板と比較して)幅広いイオンビームを受容するのに十分に広くなるように電極を容易に作製することを可能にする。電極は、イオンビームに対して角度付けされ得、それにより、好適な(DC)電圧が電極に印加されると、得られた電界は、イオンビームの偏向を誘導する。イオンは、角度付き電極の縁部において比較的強い電界を受け、偏向を誘発し得る。好適な偏向電圧は、±数ボルト、±数十ボルト、又は±数百ボルト程度である。偏向器は、イオンビームを所望の(選択された)角度だけ偏向させることができるように構成されるべきである(実施形態ではそのように構成される)。イオンビームが偏向器によって偏向される角度は、例えば、偏向器に印加される(DC)電圧の大きさを調整することによって調整可能であり得る。
【0126】
実施形態では、多重反射飛行時間型(MR-ToF)質量分析器は、マルチパス「ズーム」動作モードで動作される。この動作モードでは、イオンは、分析器内でドリフト方向Yに複数回循環させられる。サイクル回数Nを増加させることは、イオンが分析器内で(注入器41と検出器44との間で)とるイオン経路の長さを増加させ、それによって、分析器の分解能を増加させる。Verenchikov分析器では、これは、入射レンズへの電圧を制御することによって行われ得る。図4及び図5に示す分析器の場合、通常、注入角度を減少させ、かつ/又は1回のドリフト通過における振動の回数を最適化するために使用される、分析器の前の偏向器42bは(また)、分析器を通して更なるサイクルをイオンに完了させるように、イオンのドリフト方向速度を反転させるために使用され得る。
【0127】
そのため、マルチパス「ズーム」動作モードでは、イオンは、分析器40内で複数回のサイクルを完了させられ、各サイクルにおいて、イオンは、偏向器42b(又は入射レンズ)からイオンミラー43a、43bの反対側の(第2の)端部に向かってドリフト方向Yにドリフトし、次いで、偏向器42b(又は入射レンズ)に戻る。各サイクルにおいて、イオンはまた、イオンミラー間でX方向に複数回の反射を完了する。そのため、各サイクルにおいて、イオンは、イオンミラー43a、43b間の空間を通るジグザグイオン経路をたどる。
【0128】
図4及び図5に示す分析器では、初期サイクルは、イオンを注入器41からイオンミラー43a、43bの間の空間内に注入することによって開始され得る。イオンは、イオンミラー43bのうちの1つで反射され得、次いで、偏向器42bに移動し得る。イオンがイオンミラーの第2の端部に向かう方向に偏向器42bを出るように、適切な(例えば、比較的小さい)電圧が偏向器42bに印加されてもよい。偏向器42bが存在すると、イオンは、(a)偏向器42bからイオンミラーの第2の端部に向かってドリフト方向Yに沿ってドリフトし、(b)ドリフト方向速度をイオンミラーの第2の端部の近傍で反転させ、(c)偏向器42bに向かってドリフト方向Yに沿って戻るようにドリフトする間に、イオンミラー43a、43bの間で方向Xに複数回の反射を有するジグザグイオン経路をたどる。
【0129】
イオンがこの初期サイクルを完了した後、イオンのドリフト方向速度を(イオンミラーの第1の端部の近傍で)反転させるために偏向器42bを使用することによって、更なる各サイクルが開始される。これを行うために、イオンが最初に偏向器42bに入ったときのドリフト方向速度とは反対のドリフト方向速度でイオンを偏向器42bから出させる適切な電圧が偏向器42bに印加され得る。この電圧は、イオンが偏向器42bに戻ると予想される期間中に印加されてもよい。イオンのドリフト方向を反転させるのに好適な偏向電圧は、数百ボルト程度である。
【0130】
偏向器は、イオンのドリフト方向速度を1回以上反転させるために使用されてもよい。したがって、本方法は、分析器内でイオンに複数(N)のサイクルを完了させることを含んでもよく、第1のサイクルは、イオンミラー間の空間内にイオンを注入することによって開始され、イオンが第1のサイクルを完了した後、更なる各サイクルは、偏向器を使用してイオンのドリフト方向速度を反転させることによって開始されてもよい。
【0131】
イオンが分析器内で所望の(複数の)回数(N)のサイクルを完了した後、イオンは、検出のために偏向器42bから検出器44へ移動することが可能になる。これを行うために、適切な電圧が偏向器42bに印加されてもよく、イオンは、偏向器42bから検出器44に向かう方向に出射される。イオンは、検出器44に移動する(及び検出器44によって検出される)前に、イオンミラー43aのうちの(他方の)1つで反射され得る。
【0132】
図6は、このズーム動作モードを概略的に示す。図6に示すように、イオンは、イオントラップ源41から、偏向器42aを介して、比較的高い角度でミラー間に注入される。第1の半振動の後、イオンは、注入角度をほぼ半分に減少させる第2のプリズム形状の偏向器42bを通過する。次いで、振動イオンは、細長いミラーの長さをドリフトアップし、例えば、図4の分析器の場合には、ミラーのセットチルトによって戻される。イオンがこの第2の偏向器42bに戻る時間までに、電圧は、約-150Vの注入/抽出電位から約+350Vのトラップ電位に切り替えられてもよく、これは、第2の通過のためにイオンビームを分析器本体内に反射して戻す。所望の通過数(N)がイオンによって横断された後、偏向器42bは、注入/抽出電位に戻るように切り替えられ、イオンは、検出器44に逃げる。
【0133】
実施形態は、同重体タグで標識されたペプチドなどの標識された分析物分子を分析する方法を対象とする。分析物分子は、同重体タグのセットで標識され得る。同重体タグ及びそれらの使用は、文献に記載されている(例えば、Thompson et al,Anal.Chem.,2003,75,1895-1904を参照されたい)。同重体タグのセットは、(ほぼ)同じ質量を有するが、標識された分析物イオンの断片化時に異なる質量の特徴的なレポーターイオンを生じるタグ分子のセットである。好適な同重体タグとしては、タンデム質量タグ(TMT)及び相対定量及び絶対定量のための同重体タグ(iTRAQ)が挙げられる。各タグは、例えば、各標識された分析物分子が(少なくとも)レポーター領域、バランサー領域、及び分析物分子(例えば、ペプチド)を含むように、(少なくとも)レポーター領域及びバランサー領域を含んでもよい。
【0134】
標識された分析物分子は溶液中に提供され得、溶液は分離デバイスを用いて分離され得、分離デバイスから分離された溶液はイオン化のためにイオン源10に提供され得る。イオン源10は、標識された分析物分子をイオン化して標識された分析物イオンを生成することができる。
【0135】
標識された分析物イオンは、MS1データを提供するために、任意選択的に最初にMS1動作モードで分析されてもよい。MS1データは、1つ以上のイオンピークを含み得、各イオンピークは、特定のm/zを有する標識された分析物イオン(すなわち、特定の前駆体)に対応する。
【0136】
次いで、標識された分析物イオンは、MS2データを提供するために、MS2動作モードで分析され得る。MS1データから識別された各対象前駆体は、質量フィルタ20のためのm/z窓を定義するために使用され得る。質量フィルタ20は、次いで、各対象前駆体に対応する各m/z窓を順次進むことができる。このMS2動作モードでは、断片化デバイス30は断片化動作モードで動作している。したがって、質量フィルタリングされた標識された分析物イオンは、断片化デバイス30内で順次断片化される。標識された分析物イオンが断片化された場合、レポーターイオンは、分析物分子断片イオンと一緒に生成され得る(レポーターイオンは、レポーター領域のイオンである)。
【0137】
加えて、又は代替として、相補イオンが生成され得る(相補イオンは、組み合わせられたバランサー領域及び分析物分子のイオンである)。相補イオンの生成には、衝突エネルギーを、例えば、比較的低い値に慎重に制御する必要がある。この低い衝突エネルギーはまた、一部のペプチド断片を生成し得る(しかし、比較的高い衝突エネルギーよりも効率が低い)。代替として、2つの異なる衝突エネルギーが使用されてもよく、すなわち、低い衝突エネルギーが相補イオンを生成するために使用されてもよく、高い衝突エネルギーがペプチド断片を生成するために使用されてもよい。したがって、各対象前駆体について、断片化デバイス30への2回の注入が、異なる衝突エネルギーで提供され得る。得られた断片イオンは、単一注入(単一イオンパケットとして)又は2つの注入(2つのイオンパケットとして)のいずれかで分析器40に注入(及び分析)されてもよい。
【0138】
分析物断片イオン及びレポーターイオン又は相補イオンは、分析器40を使用して分析される。
【0139】
図3に示される機器を参照すると、実施形態では、多重化及びタグ付けされた試料は、液体クロマトグラフィー(liquid chromatography、LC)分離デバイスからエレクトロスプレーイオン源10に送達され、イオン化され、真空中を通過して四重極20に送られる。
【0140】
全質量スキャン(MS1)を実行するために、四重極20は、その分離レベルを最小化するように構成され、イオンをC-Trap 31及びOrbitrap(商標)分析器60に、又は分析のためにMR-ToF分析器40に移送する。
【0141】
断片スキャン(MS2)を実行するために、MS1スキャン(データ依存取得(DDA))から識別されるか、又は固定リスト(データ独立取得(DIA))からランオフされるかのいずれかの好適な前駆体が、増強されたエネルギーで衝突セル30に送られ、断片化される。次いで、断片は、分析のためにMR-ToF分析器40に送達され、ここで、TMTレポーターイオンピークが定量のために測定され、ペプチド断片が前駆体の同定のために検出される。
【0142】
図7は、このDDAプロセスを示す。図7に示すように、Orbitrap(商標)分析器60又はToF分析器40のいずれかを使用して、MS1スキャンが最初に実行される(ステップ60)。図3の機器設計では、Orbitrap(商標)分析器60は、MS1前駆体同定を行うのに有利であり得るが、ToF分析器40のみを使用することも可能であり、Orbitrap(商標)分析器60は機器の必須部分ではない。
【0143】
次に、前駆体イオンがMS1スキャンから選択され(ステップ62)、ToF分析器40を使用してその前駆体イオンに対してMS2スキャンが実行される(ステップ64)。ステップ66によって示されるように、次いで、このプロセスは、MS1スキャンから識別された前駆体イオンのリストが使い尽くされるまで繰り返される。前駆体イオンのリストが使い尽くされると、新たなMS1スキャンが実行され、プロセス自体が繰り返される。
【0144】
このDDAプロセスは、本明細書に記載のTMT法にとって有利である(また、DIAプロセスは好ましくない場合がある)。これは、四重極分離幅が、分離デバイスからのクロマトグラフィーピークの時間尺度と適合するのに十分な速度で約300~1100質量範囲(DIA法において典型的に行われるように)を盲目的にカバーするには広すぎる傾向がある一方で、共分離されたペプチド間の干渉を最小限にするために非常に狭い分離窓が好ましいためである。しかし、相補イオン法は、かかる干渉に伴う困難性が少なく、DIAとの適合性がはるかに高い。
【0145】
実施形態において、上述したズームモードは、MS1スキャン内で適用されてもよく、適用されなくてもよい。しかしながら、実施形態によれば、ズームモードはMS2スキャンに適用される。
【0146】
この点に関して、レポーターイオンは、質量スペクトルにおいて非常に初期に現れ、実際に、ほとんどの前駆体の断片イオンを検出するように機器が通常設定され得るよりも低いことに留意されたい。それらはまた、数m/z単位にわたって近接して配置されている。この結果は、ズームモードがレポーターイオンのみに有利に適用され得、残りの断片イオンは、中断されることなく機器を通過することができる。数m/z単位にわたって同様に近接して配置される相補イオンのみにズームモードを適用することも可能である。
【0147】
したがって、実施形態では、分析物断片イオンは、イオンを第1の長さを有する飛行経路に沿って移動させる第1の動作モードで動作する飛行時間型質量分析器40を使用して分析される。レポーターイオン又は相補イオンは、第2のより長い長さを有する飛行経路に沿ってイオンを移動させる第2の動作モードで動作する飛行時間型質量分析器40を使用して分析される。分析器の広いm/z範囲の通常動作モードは、ペプチド断片イオン(典型的には、比較的広いm/z範囲にわたって現れる)の分析に特に適しており、狭いm/z範囲であるが、より高い分解能のズーム動作モードは、レポーターイオン(典型的には、比較的低いm/zで比較的狭いm/z範囲内に現れる)又は相補イオンの分析に特に適していることが認識されている。
【0148】
分析物断片イオンについて得られたm/z及び/又は強度情報は、分析物分子を同定するために使用され得、レポーターイオン又は相補イオンについてのm/z及び/又は強度情報は、分析物分子を定量化するために使用され得る。
【0149】
20~25mの飛行経路を有する図3及び図4のMR-ToF機器では、全ての注入イオンは、約100ps以内で比較的迅速に第2の偏向器42bを通過する。m/zが約128のTMTレポーターイオンは、約250ps後に偏向器42bに戻り、それによって、偏向器42bが内部トラップズームモードに切り替えられるための大きなオーバーヘッド時間を残す。次いで、レポーターイオンは、数マイクロ秒以内に機器内に反射して戻され得、偏向器42bは、その透過モードに切り替えられて戻され得、その結果、ペプチド断片イオンは、それらの第2の通過から戻るTMTレポーターイオンとともにシステムを離れることが可能になる。これにより、500ps(実際の実験では570psであるが、これは、分析器同調によって実質的に変動する)を上回る場所にレポーター領域をシフトさせる効果を有するが、これはデータ分析ソフトウェアによって理解されるべきである。
【0150】
一部の実施形態では、複数の短い偏向器電圧パルスをTMTレポーターイオンの戻りに整列させて、これらのイオンが、更に高いレベルの性能のために分析器を複数回通過するようにすることができる。
【0151】
図8は、レポーターイオンが分析器40を5回通過するために送られるスキームを示す。図8に示されるように、偏向器42bに印加される電圧は、TMTレポーターイオンの戻りに合わせて、その注入/抽出電位(約-150V)からそのトラップ電位(約+350V)にパルス化され、その結果、レポーターイオンのみが分析器40を5回通過するために送られ、ペプチド断片イオンは分析器40を通常通り1回通過する。
【0152】
したがって、実施形態では、本方法は、イオン注入器41からイオンミラー43a、43b間の空間の中へ、分析物断片イオン及びレポーターイオン又は相補イオンを含むイオンパケットを注入することを含む。イオンは、(a)偏向器42b又はレンズからイオンミラーの第2の端部に向かってドリフト方向Yに沿ってドリフトし、(b)ドリフト方向速度をイオンミラーの第2の端部の近傍で反転させ、(c)偏向器42b又はレンズに向かってドリフト方向Yに沿って戻るようにドリフトしながら、イオンミラー43a、43b間で方向Xに複数回の反射を有するジグザグイオン経路をたどる第1のサイクルをイオンに完了させる。次いで、分析物断片イオン領域のみが、検出のために、偏向器42b又はレンズから検出器44へ移動することを可能にされる。偏向器42b又はレンズは、レポーターイオン又は相補イオン(のみ)のドリフト方向速度を反転させて、これらのイオンが、(a)偏向器42b又はレンズからイオンミラーの第2の端部に向かってドリフト方向Yに沿ってドリフトし、(b)ドリフト方向速度をイオンミラーの第2の端部の近傍で反転させ、(c)偏向器42b又はレンズに向かってドリフト方向Yに沿って戻るようにドリフトする間に、イオンミラー43a、43b間で方向Xに複数回の反射を有するジグザグイオン経路をたどる更なるサイクルをこれらのイオンに完了させるように使用される。このステップは、例えば、レポーターイオン又は相補イオンが分析器40内で所望の数Nの通過を完了させられるように、任意選択的に繰り返されてもよい。最後に、レポーターイオン又は相補イオンを、偏向器42b又はレンズから検出器44に移動させて検出する。
【0153】
この動作モードは、TMT分解能に関してより大きな利点を有するが、信号損失は、複数の通過について実験的に注目されており(図11参照)、偏向器電圧のノッチは、質量スペクトルにおけるノッチになる。分解能は通過回数とともに増加するが、信号損失も増加し、ノッチがペプチド断片イオンを捕捉し、偽陽性ピークを生成する可能性が高くなる。偏向器42b自体内の最小滞留時間と同様に、比較的速い偏向器切り替えが、この動作のために必要とされるが、これは、通常、約1psであるため、電源切り替えの速度は、より重要であると考えられる。プリズム電圧スイッチのタイミングは、機器ごとに較正され、最適化され得る。
【0154】
検出器に到達するイオンの焦点面位置は、最良の分解能のために検出器表面に位置合わせすべきである。しかしながら、焦点面位置は、ズームされていない通常モードに対してズームモードについてシフトされ得る。通常、焦点面の調整は、ミラー電圧のわずかな摂動によって実行することができるが、これは、混合軌道を有するイオンが一緒に分析器を通って飛行しているときには概して実現可能ではない。
【0155】
この点に関して、本方法の利点は、ズームされたレポーターイオンのみが最高の分解能を必要とするが、ペプチド断片イオンに必要な分解能ははるかに要求が少ないことであることに留意されたい。したがって、一部の実施形態では、焦点面は、ズームされたイオンに対してのみ最適化されてもよい。更に、又は代わりに、レポーターイオンが、スペクトル内の最も低いm/zイオンであり、トラップ41から最も早く出現し、したがって、トラップ41内(例えば、ゆっくり上昇する抽出パルスなど)、注入光学系46、42a、47、42b内、ミラー43a、43bのフリンジ内、及び/又は検出器44において異なる制御された電圧に供されて、他のイオンに影響を及ぼすことなく焦点面を調整することができるという事実を利用することが可能である。更に、又は代わりに、例えば、米国特許第10,727,039号(その内容は、参照することによって本明細書に組み込まれる)に説明されるようなm/z依存イオンエネルギー補正方法を採用することが可能である。更に、又は代わりに、制御された周波数及び位相の小さな振動電圧を、低m/zレポーターイオンの振動と共振しているミラー43a、43bに印加して、レポーターイオンのみに影響を及ぼす焦点面調整を与えることが可能である。
【0156】
図9は、ペプチド断片と同じスキャンでレポーターイオン測定を行うのではなく、代わりに別個のスキャンで測定される、更なる実施形態によるワークフローを示す。
【0157】
図9に示されるように、MS1全質量スキャンが最初に実行され(ステップ70)、前駆体イオンがMS1スキャンから選択される(ステップ72)。次に、ズームモードを使用して第1のMS2スキャンを実施して、TMTレポーターイオンを検出し(ステップ74)、その後、通常動作モードを使用して第2のMS2スキャンを実施して、ペプチド断片イオンを検出する(ステップ76)。ステップ74及び76の順序は逆にすることができる。ステップ78によって示されるように、次いで、このプロセスは、MS1スキャンから識別された前駆体イオンのリストが使い尽くされるまで繰り返される。前駆体イオンのリストが使い尽くされると、新たなMS1スキャンが実行され、プロセス自体が繰り返される。
【0158】
したがって、実施形態では、分析物断片イオンは、分析器40に注入される1つ以上の第1のイオンパケットとして分析され、レポーターイオン又は相補イオンは、分析器40に注入される1つ以上の第2の異なるイオンパケットとして分析される。
【0159】
この方法は、例えば、分解能のためにミラー43a、43bを調整することによって、かつ/又はレポーターイオン及びペプチド断片イオンの異なる標的質量範囲のためにRF及びDC電圧を最適化することによって、例えば、2つのスキャンの各々について衝突エネルギーを最適化するように、2つのスキャンの各々についてイオントラップ41に印加される注入電圧を最適化するように、かつ/又は2つのスキャンの各々について質量フィルタの分離窓を最適化するように、2つのMS2スキャンの各々について機器設定を最適化することができるという利点を有する。
【0160】
これらの実施形態では、偏向器42bがノッチ間でイオンを透過させるように設定されるのではなく、スペクトルから全てのペプチド断片イオンを除去するために極端な電圧に設定されることを除いて、図8によって示される方法と同様のノッチ法が、TMTスキャンのために任意選択的に依然として使用され得る。
【0161】
これらの実施形態は、生の感度及び取得速度に関して追加のコストを有するが、MR-ToF分析器40の最大取得速度は、50Hzで動作するOrbitrap(商標)分析器よりも何倍も高く、一部の感度は、衝突エネルギーの別個の最適化(より高いエネルギーは、レポーターイオンなどの低m/zイオンに対してより良好であるが、中/高m/z断片イオンに対してはあまり好ましくない)、トラップRFなどによって回復され得る。有利には、四重極20分離窓は、干渉を除去するためにTMTスキャンのために狭められてもよく、感度を最大化するためにペプチドスキャンのために広げられてもよい。概して、ペプチド同定には約10,000個の検出イオンが好ましいが、特にToF分析器によって提供される単一イオンレベル検出を考えると、レポーターイオン定量にははるかに少ないイオンしか必要とされない。
【0162】
図10は、Flexmix(商標)試料から生成されたMRFAイオンを使用した、シングルパスモード及びズームモードについての図4の分析器の空間電荷誘起分解能損失の実験結果を示す。ズームモードでは、トップエンド分解能がほぼ2倍になるだけでなく、空間電荷に対する復元力もほぼ2倍になる(すなわち、50Kの分解能要件が達成されるピーク内のイオン数がほぼ2倍になる)ことが分かる。
【0163】
図11は、ズームモードのレベル(すなわち、イオンが分析器を上下にドリフトする通過の数)が変化する実験のプロットを示す。3回の通過が、この分析器設計で高分解能及び最小信号損失を達成するために最適であることが分かる。しかしながら、他のMR-ToF分析器設計は、異なる挙動をする可能性があり、例えば、500K分解能が、(例えば、英国特許第2,403,063号に記載されるような)周期レンズを組み込む分析器上で以前に観察されている。
【0164】
上記から、実施形態は、ズームモードを使用してTMTレポーター領域(又は相補イオン領域)の検出を増強する方法を提供することが理解される。これは、最適化された分離窓、衝突エネルギーなどを用いてそれ自体のスキャンとして行われてもよく、又は、例えば偏向器42b電圧のノッチ付きスイッチングを介して、より広いスキャンに統合されてもよい。
【0165】
実施形態によれば、TMTレポーターイオンは、別様で所望のダイナミックレンジで>50K分解能の要件を満たさないMR-ToF分析器を使用してズームモードを介して同定することができる。レポーター領域は、多くの場合、数千のイオンを含有するが、MR-ToF分析器は、100:1のTMTダブレットを合計数千のイオンのみで分離することが可能であり得る。これは、より小さいピークが観察可能であるダイナミックレンジがかなり制限されることになる。図10及び図11は、これらの制限を回避するためにズームモードを使用する固有の利点を示している。
【0166】
上述したように、ズームモードTMTスキャンを標準メインスキャンに統合することは、繰り返し率又は感度の損失が生じないことを意味する。しかしながら、これは任意選択であり、ToF分析器は既に必要とされるよりもはるかに高速であるため、これらのスキャンを別個に行うことが有利であり得る。比較的長い/遅いスループットの実験サイクルは、高品質のクロマトグラフィー分離の必要性に起因して実施され得る。これは、より低い干渉で別個の狭分離窓レポーターイオンスキャンを有することによって改善され得る。感度は、より重要な問題となるが、これは、より最適な機器設定によって救済することができる。
【0167】
ズームモードはまた、16プレックス又は18プレックス相補イオンTMT法が可能になるのに十分に分解能を増加させることができる。これらの方法は、現在、いかなるToFシステムにおいても可能ではない。分解能の改善はまた、例えば、化学的ノイズ及び同時分離されたペプチドを分解するために、より低い多重化された相補イオンについて価値があり、より大きな分離幅及び更により高いスループットを可能にする。
【0168】
様々な特定の実施形態が上述されてきたが、様々な代替実施形態が可能である。
【0169】
例えば、本明細書に記載される方法は、例えば、分析器を通るイオンによって取られる反射の数を変更することによって、イオン飛行経路長を変更することが可能なToF分析器を組み込む任意の機器上で実行することができる。例えば、これは、ゼロ(線形ToF)反射から単一反射までであり得る。これはまた、低感度W字型イオン飛行経路と高感度低分解能V字型イオン飛行経路との間の切り替えを含み得る。概して、全ての多重反射及びマルチターンToFを使用して、本明細書に記載の方法を実行することができる。
【0170】
図9に関連して記載される実施形態を参照して、図9に示されるレポーターイオンスキャン及びペプチド断片イオンスキャンの交互配列の代わりに、TMTレポーターイオンスキャンの配列が作製され得、その後、ペプチド断片イオンスキャンの配列が作製され得る。これは、通常モードからズームモードに切り替えるときに行う必要がある比較的遅い電圧シフトがある場合に有益であり得る。例えば、安定化された電源は、調整するのに数ミリ秒かかる可能性がある。
【0171】
タグ付けされた分析物が1回のMS2スキャンによって同定され、次いで第2のMS2スキャンがタグを定量化するために行われる、より効率的な方法が実施され得る。
【0172】
同様のレベルの干渉が、MS1スキャンから検出され得る。レポーターイオンにおける化学的干渉は、同時分離されたタグ化ペプチドの断片化に由来する。原則として、標的ペプチドと同じ質量分離窓内で、MS1スキャンにおいてこれらの干渉ペプチドピークを見ることが可能であり得る。MS1スキャン(又は実質的な量の断片化されていない前駆体イオンを通常依然として示す分析物MS2スキャン)に基づいて、分離窓は、透過を平衡させ、干渉を最小限にするように動的に設定されてもよい。
【0173】
MS2TMTスキャン(又は組み合わされたTMT/前駆体スキャン)は、MS3スキャンによって置き換えられてもよく、これは、より感度が低いが、低干渉定量化のためにより良好である。かかる方法は、線形イオントラップなどの更なる分離及び断片化のためのデバイスを含有する機器によって、又はイオンを四重極20を通して戻すことによって行われてもよい。ここでも、断片イオン検出のためのより感度の高い方法及び改良されたレポーターイオン定量化のためのよりクリーンな方法を使用することに利点がある。
【0174】
上述のノッチ付きスイッチング方法は、他の用途の範囲において高分解能を必要とする標的分析物を取り出すためにより広く適用可能であり得る。
【0175】
例えば、ノッチ付きスイッチングモードは、未知の背景からターゲットを選び出すために使用されてもよい。これは、タンパク質DIA/DDAに有用であり得、ここで、前駆体は、同位体エンベロープ(高分解能を必要とする)を最適に分解するためにズームモードで分析され得、一方、より低いm/z断片イオン(より低い分解能要件を伴う)は、正常に検出され得る。より良好な質量精度及び異なる前駆体の分離がMS2スペクトルにおいて得られるため、標準的なペプチド及び/又は規則的なm/zイオンDDA/DIAでさえ利益を得ることができる。標的イオンが最大性能で検出されることが望ましいが、任意の断片の質量もまた望ましい場合、SIMスキャンなどの標的用途もまた、有益であり得る。
【0176】
概して、これらの方法は、ズームモードによって誘発されるm/z測定不確実性又は感度損失を被らないことが望ましい未知又は低存在量イオンのバックグラウンドに対して、1つ又は複数の標的イオン(既知又は以前のスキャンによって判定される)が高分解能/ダイナミックレンジを必要とする、任意の用途に適用されてもよい。
【0177】
様々な実施形態を参照して本発明を記載してきたが、添付の特許請求の範囲に記載されている本発明の範囲から逸脱することなく、様々な変更を行うことができることが理解されるであろう。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10A
図10B
図11