(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-02-13
(45)【発行日】2025-02-21
(54)【発明の名称】焼鈍方法
(51)【国際特許分類】
C21D 9/46 20060101AFI20250214BHJP
C23C 2/06 20060101ALI20250214BHJP
C23C 2/12 20060101ALI20250214BHJP
C21D 9/56 20060101ALI20250214BHJP
C22C 38/00 20060101ALI20250214BHJP
C22C 38/58 20060101ALI20250214BHJP
【FI】
C21D9/46 J
C23C2/06
C23C2/12
C21D9/56 101C
C22C38/00 301T
C22C38/00 302A
C22C38/58
C21D9/46 P
(21)【出願番号】P 2023536044
(86)(22)【出願日】2021-12-08
(86)【国際出願番号】 IB2021061436
(87)【国際公開番号】W WO2022130124
(87)【国際公開日】2022-06-23
【審査請求日】2023-08-10
(31)【優先権主張番号】PCT/IB2020/061960
(32)【優先日】2020-12-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】IB
(73)【特許権者】
【識別番号】515214729
【氏名又は名称】アルセロールミタル
(74)【代理人】
【識別番号】110001173
【氏名又は名称】弁理士法人川口國際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ベルトラン,フロランス
(72)【発明者】
【氏名】ユアン,ディディエ
(72)【発明者】
【氏名】サン-レイモン,ユベール
【審査官】山本 晋也
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2007/043273(WO,A1)
【文献】特開2011-162869(JP,A)
【文献】特開2000-273608(JP,A)
【文献】特開2012-012683(JP,A)
【文献】特表2019-519672(JP,A)
【文献】国際公開第2019/154680(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C21D 9/46- 9/48
C21D 9/52- 9/66
C21D 11/00
C22C 38/00-38/60
C23C 2/00- 2/40
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
予熱部、厚さtを有する鋼板に対して最大加熱速度を有する加熱部及び均熱部を備える装置における、厚さtを有する鋼板の製造方法であって、
A) 較正ステップであって、
i) 厚さt及び重量パーセントで以下の化学組成、すなわち、0.05≦C≦0.50%、0.3≦Mn≦8.0%、0.01≦Si≦5%、及び重量パーセントで任意に以下の元素、すなわち、0.01%≦Al≦1.5%、B≦0.004%、Co≦0.1%、0.001≦Cr≦1.00%、Cu≦0.5%、0.001≦Mo≦0.5%、Nb≦0.1%、Ni≦1.0%、Ti≦0.1%、N≦0.01%、P<0.1%、S≦0.01%、V<0.2%の1種以上を有し、組成の残余は鉄及び不可避の不純物でできている鋼板を室温から600℃未満の温度T
1まで加熱し、
ii) 該鋼板をT
1から720℃~1000℃の範囲の再結晶温度T
2まで、該最大加熱速度で、0.1~90体積%のH
2を含み、残余は不活性ガス及び不可避の不純物であり、露点DP
CALを有する雰囲気A
1中で加熱し、
iii) 次いで、該鋼板を温度T
2にて、0.1~90体積%のH
2を含み、残余は不活性ガス及び不可避の不純物であり、少なくとも-40℃の露点を有する雰囲気A
2中で維持し、
iv) 次いで、該鋼板を被覆浴中で溶融めっきし、皮膜の品質を評価し、
v)a) 該皮膜の品質が予め定められた品質目標を満たしている場合、較正ステップi)~iv)をより低い露点DP
CALで、前記皮膜の品質がもはや該目標を満たさなくなるまで繰り返し、最後から2番目の露点DP
CALをDP
1と規定し、
b) 該皮膜の品質が該目標を満たさない場合、較正ステップi)~v)をより高い露点DP
CALで、該皮膜の品質が該目標を満たすまで繰り返し、最後の露点DP
CALをDP
1と規定する較正ステップ、
B) 製造ステップであって、該厚さt及び該化学組成を有する鋼板が以下、すなわち、
- 予熱ステップ、加熱ステップ、均熱ステップ及び冷却ステップを連続的に含む再結晶焼鈍ステップであって、
i) 該予熱ステップは、室温から600℃未満の温度T1までの加熱を含み、
ii) 該加熱ステップは、T1から720℃~1000℃の範囲の再結晶温度T2まで、最大加熱速度以下の加熱速度で、0.1~90%のH
2を含み、残余は不活性ガス及び不可避の不純物であり、少なくとも較正ステップ中に決定されるDP
1値に設定された露点を有する雰囲気A
1中で加熱することを含み、
iii) 該均熱ステップは、T2-30℃~T2+30℃の範囲の温度にて、0.1~90%のH
2を含み、残余は不活性ガス及び不可避の不純物であり、-40℃以上に設定された露点DP
2を有する雰囲気A
2中で保持する、再結晶焼鈍ステップ、
- 該鋼板が該被覆浴中で溶融めっきされる被覆ステップを受ける製造ステップを含む、製造方法。
【請求項2】
前記鋼のバルク化学組成が、重量パーセントで、Mn/Si<4を順守するマンガンとケイ素との間の比を有する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記鋼のバルク化学組成が、重量パーセントで、Mn/Al<1を順守するアルミニウムと
マンガンとの間の比を有する、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記鋼のバルク化学組成が、重量パーセントで、Mn/(Al+(4×Si))<1を順守するマンガンとアルミニウムとケイ素との間の比を有する、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記予熱ステップi)において、前記温度T1が550℃より
低い、請求項1又は4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記予熱ステップi)において、加熱速度が50℃.s
-1を超える、請求項1~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記加熱ステップii)において、前記雰囲気A1が、1~20体積%のH
2、少なくとも不活性ガス及び不可避の不純物を含む、請求項1~6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記加熱ステップii)が10~1000秒間持続する、請求項1~7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記均熱ステップiii)において、前記鋼板を(T2-10℃)~(T2+10℃)の温度に維持する、請求項1~8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記均熱ステップiii)が10~1000秒間持続する、請求項1~9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記均熱ステップiii)において、前記雰囲気A2は、1~20体積%のH
2、少なくとも不活性ガス及び不可避の不純物を含む、請求項1~10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
前記被覆浴が、0.1~0.3重量パーセントのアルミニウム及び任意にマグネシウムを含む亜鉛ベースの被覆浴である、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記被覆浴が、5~15重量パーセントのケイ素を含むアルミニウムベースの浴である、請求項11に記載の方法。
【請求項14】
前記較正ステップA)のステップii)において、DP
CALは-40℃の最低値を有し、前記ステップv)a)において、皮膜の品質が-40℃のDP
CALで目標を満たす場合、-40℃をDP
1と規定する、請求項1~13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
前記較正ステップA)のステップiv)の被覆浴及び前記製造ステップB)の被覆ステップの被覆浴が同一のベース元素を有する、請求項1~14のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鋼板の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
それらの製造中、被覆される前に、フルハード(full hard)鋼を焼鈍して、それらの強度-延性バランスを高める。焼鈍中、鋼板は制御された雰囲気中でその再結晶温度を超えて加熱され、維持される。その後、鋼帯を冷却して、通常、亜鉛めっき浴中で溶融めっきにより被覆する。
【0003】
例えば、一般的な慣行は、フルハード鋼板を周囲温度から鋼の再結晶点を超える温度まで加熱し(加熱ステップ)、次に鋼をこの温度に保持する(均熱ステップ)ことである。両ステップは、同じ雰囲気で、同じ露点、例えば、不活性ガスと共に5体積%のH2を含む雰囲気及び-40℃~+10℃の間の露点で行われる。
【0004】
加熱ステップでは、酸素の存在とともに温度が徐々に上昇すると、酸素が鋼内に拡散し、2種類の反応が起こる。第一に、酸素は炭素と反応し、CO2及びCOなどのガスを形成し、鋼表面下での炭素原子を枯渇させる。しかし、一方、バルクからの炭素原子が炭素枯渇域に拡散する。炭素原子が前記層に入るよりも多くの炭素原子が表面下層を離れる限り、表面下層は脱炭される。第二に、酸素は、鉄よりも酸素に対して高い親和性を有する、マンガン(Mn)、アルミニウム(Al)、ケイ素(Si)又はクロム(Cr)のような鋼合金化元素と反応する。それは鋼表面下での酸化物の形成につながる。表面下での前記酸化物の形成により、表面酸化物を形成するために利用可能な合金化元素の量を減少させる。
【0005】
均熱ステップでは、加熱ステップと比較して、温度が高い。均熱部の温度がより高いため、内部酸化物を形成しなかった合金化元素はバルクから鋼表面に拡散し、鋼の濡れ性に負の影響を及ぼすと考えられる外部選択酸化物を形成する可能性がある。
【0006】
後続のプロセスステップにおいて、これらの鋼は、耐食性及び/又はリン酸塩処理性のようなそれらの特性を改善するために、通常、亜鉛ベースの皮膜のような金属合金によって被覆される。金属皮膜は、溶融めっき方法又は電気めっき方法によって堆積させることができる。
【0007】
先行技術では、焼鈍ステップの間に鋼板表面上の鋼合金化元素によって形成される外部選択酸化物は、基材、すなわち、鋼と、皮膜、すなわち、アルミニウム又は亜鉛ベースの皮膜との間の反応性湿潤を防ぐと考えられる。その結果、不連続で不均一な阻害層が形成される。これにより、最終製品に皮膜がない領域、例えば、裸のスポット、又は製品品質に悪影響を与える皮膜の層間剥離に関連した問題が生じる可能性がある。
【0008】
EP3378965A1号には、耐衝撃性及び加工部耐食性に優れた高強度溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法が記載されている。その加熱ステップは、0.1~20体積%のH2を含み、以下の条件、すなわち、-1.7≦log(PH20/PH2)≦-0.6を満たす雰囲気中で650℃までで行われる。このようなパラメータは、H2濃度が5%の場合、-20℃~+10℃の間の露点に相当する。温度の上昇速度は0.5~5℃.s-1である。鋼板の温度上昇は5℃.s-1が限界である。何故ならば、そうでないと鋼板母材表面層での再結晶が内部酸化物粒子の形成前に進行し、また脱炭層が時間的に得られないためである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の目標は、焼鈍プロセスの信頼性を高め、鋼基材の濡れ性及び皮膜の品質を改善することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
この目的は、請求項1に記載の方法を提供することによって達成される。この方法はまた、請求項2~15の任意の特徴を含むこともできる。
【0012】
本発明の他の特徴及び利点は、本発明の以下の詳細な説明から明らかになる。
【0013】
本発明を例示するために、特に以下の図を参照して、様々な実施形態及び非限定的な実施例の試行を記載する。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】焼鈍炉及び溶融めっき設備の実施形態を示す。
【
図2】品質目標(A)を満たす皮膜の実施形態と、品質目標(B)を満たさない皮膜の実施形態を示す。
【
図3】較正ステップのステップv)a)を具体化する。
【
図4】較正ステップのステップv)b)を具体化する。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明は、予熱部、厚さtを有する鋼板に対して最大の加熱速度を有する加熱部及び均熱部を備える装置における、厚さtを有する鋼板の製造方法であって、
A) 較正ステップであって、
i) 厚さt及び重量パーセントで以下の化学組成、すなわち、0.05≦C≦0.50%、0.3≦Mn≦8.0%、0.01≦Si≦5%、及び重量パーセントで任意に以下の元素、すなわち、0.01%Al≦1.5%、B≦0.004%、Co≦0.1%、0.001≦Cr≦1.00%、Cu≦0.5%、0.001≦Mo≦0.5%、Nb≦0.1%、Ni≦1.0%、Ti≦0.1%、N≦0.01%、P<0.1%、S≦0.01%、V<0.2%の1種以上を有し、組成の残余は鉄及び不可避の不純物でできている鋼板を室温から600℃未満の温度T1まで加熱し、
ii) 該鋼板をT1から720℃~1000℃の範囲の再結晶温度T2まで、該最大加熱速度で、0.1~90体積%のH2を含み、残余は不活性ガス及び不可避の不純物であり、露点DPCALを有する雰囲気A1中で加熱し、
iii) 次いで、該鋼板を温度T2にて、0.1~90体積%のH2を含み、残余は不活性ガス及び不可避の不純物であり、少なくとも-40℃の露点を有する雰囲気A2中で維持し、
iv) 次いで、該鋼板を溶融めっきし、該皮膜の品質を評価し、
v)a) 前記皮膜の品質が予め定められた品質目標を満たしている場合、較正ステップi)~iv)をより低い露点DPCALで、前記皮膜の品質がもはや該目標を満たさなくなるまで繰り返し、最後から2番目の露点DPCALをDP1と規定し、
b) 皮膜の品質が該品質目標を満たさない場合、較正ステップi)~v)をより高い露点DPCALで、前記皮膜の品質が該目標を満たすまで繰り返し、最後の露点DPCALをDP1と規定する較正ステップ、
B) 製造ステップであって、該厚さt及び該化学組成を有する鋼板が以下、すなわち、
- 予熱ステップ、加熱ステップ、均熱ステップ及び冷却ステップを連続的に含む再結晶焼鈍ステップであって、
i) 該予熱ステップは、室温から600℃未満の温度T1までの加熱を含み、
ii) 該加熱ステップは、T1から720℃~1000℃の範囲の再結晶温度T2まで、最大加熱速度以下の加熱速度で、0.1~90%のH2を含み、残余は不活性ガス及び不可避の不純物であり、少なくとも較正ステップ中に決定されるDP1値に設定された露点を有する雰囲気A1中で加熱することを含み、
iii) 該均熱ステップは、T2-30℃~T2+30℃の範囲の温度にて、0.1~90%のH2を含み、残余は不活性ガス及び不可避の不純物であり、-40℃以上に設定された露点DP2を有する雰囲気A2中で保持する、再結晶焼鈍ステップ、
- 該鋼板が該被覆浴中で溶融めっきされる被覆ステップを受ける製造ステップを含む製造方法。
【0016】
図1に示すように、装置1’は、熱処理を行うことができる装置、例えば、焼鈍オーブン又は焼鈍炉である。このような装置は、予熱部2’、加熱部3’、均熱部4’及び冷却部5’を含み、これらの部の温度、加熱速度及び雰囲気を設定及び制御することができる。
【0017】
鋼板の温度は、予熱及び加熱部で上昇する。加熱部の最大加熱速度は、厚さtを有する製造された鋼板が製造ステップii)における加熱部の間に加熱され得る最高加熱速度である。最大加熱速度は、厚さtを有する鋼板に対する前記加熱部の固有の最大加熱速度を指す。最大加熱速度は平均値に関係する。
【0018】
炭素含有率は0.05~0.50重量パーセントである。炭素含有率が0.05重量パーセントより低ければ、引張強さが不十分であるリスクがある。さらに、鋼微細組織が残留オーステナイトを含む場合、十分な伸びを達成するために必要なその安定性は得られない。炭素含有率が0.5重量パーセントを超えると、溶接部の硬化性が増大する。
【0019】
マンガン含有率は0.3~8.0重量パーセントである。マンガンは高い引張強さを得るのに寄与する固溶硬化元素である。このような効果は、Mn含有率が少なくとも0.3重量パーセントのときに得られる。しかし、Mn含有率が8.0重量パーセントより大きい場合、それは溶接部の機械的特性に悪影響を及ぼし得る過度に際立った偏析域を持つ組織の形成の原因となり得る。好ましくは、マンガン含有率は1.5~5.0重量パーセントである。これにより、鋼の工業的製造の困難さを増大させることなく、また溶接部における硬化性を増大させることなく満足な機械的強度を得ることが可能になる。
【0020】
ケイ素含有率は0.01~5重量パーセントである。ケイ素は炭化物の形成を遅らせ、オーステナイトを安定化させる。ケイ素含有率が5重量%より多い場合、鋼の可塑性及び靭性は著しく低下する。
【0021】
前記鋼は、以下の理由により、任意にAl、B、Co、Cr、Cu、Mo、N、Nb、Ni、P、S、Ti、Vのような元素を含み得る。
【0022】
アルミニウムは、任意に、0.01~1.5重量パーセントの含有率で、前記鋼板に含有され得る。AlはMs温度を上昇させ、したがって残留オーステナイトを不安定化させる。さらに、1.5重量パーセントを超えるAl含有率の増加に伴い、Ac3温度が上昇し、工業生産に困難を生じさせる。好ましくは、アルミニウム含有率は0.01~1.0重量パーセントである。
【0023】
ホウ素は、任意に、0.004重量パーセント以下の含有率で、前記鋼板に含有され得る。粒界に偏析することにより、Bは粒界エネルギーを低下させ、したがって液体金属脆化に対する耐性を高めるのに有益である。
【0024】
クロムは、任意に、1.00重量パーセント以下の含有率で、前記鋼板に含有され得る。クロムは、焼鈍サイクル中の最高温度に保持した後の冷却ステップ中の初析フェライトの形成を遅らせることができ、より高い強度レベルを達成することが可能となる。その含有率は、コスト上の理由から、また過度の硬化を防ぐために1.00重量パーセントに制限される。
【0025】
銅は、任意に、銅金属の析出によって鋼を硬化させるために0.5重量パーセント以下の含有率で、前記鋼板に含有され得る。
【0026】
モリブデンは、任意に、0.5重量パーセント以下の含有率で、前記鋼板に含有され得る。この元素はオーステナイトの分解を遅らせるので、硬化性の増加及び残留オーステナイトの安定化に有効である。
【0027】
ニッケルは、靭性を改善するために、任意に、1.0重量パーセント以下の含有率で、前記鋼板に含有され得る。
【0028】
チタンは、任意に、0.1重量パーセント以下の含有率で、前記鋼板に含有され得る。ニオブは、任意に、0.1重量パーセント以下の含有率で、前記鋼板に含有され得る。これらは、析出物を形成することにより、鋼を硬化させ、強化する。しかし、Nbの量が0.1重量パーセントを超える及び/又はTi含有率が0.1重量パーセントを超える場合、過剰な析出が靭性の低下を引き起こすリスクがあり、避けなければならない。
【0029】
バナジウムは、任意に、0.2重量パーセント以下の含有率で前記鋼板に含有され得る。バナジウムは析出物硬化及び鋼の強化を形成する。
【0030】
リン及び硫黄は製鋼に起因する残留元素として考えられる。Pは0.04重量パーセント以下の量で存在する可能性がある。Sは0.01重量パーセント以下の量で存在する可能性がある。
【0031】
好ましくは、鋼の化学組成はビスマス(Bi)を含まない。実際、いかなる理論にも拘束されるつもりはないが、鋼板がBiを含む場合、湿潤性が減少し、したがって皮膜の接着が低下すると考えられる。
【0032】
較正ステップは、製造ステップと同じ装置を用いて行うことが好ましい。しかし、較正ステップ及び製造ステップに異なる装置を使用することが可能である。好ましくは、較正ステップの装置は焼鈍炉である。
【0033】
較正ステップのiv)では、目視検査及び/又は検査機器、例えば、走査型電子顕微鏡(SEM)又は電界放出銃走査型電子顕微鏡法(FEG-SEM)により、皮膜の品質の評価を行うことができる。
【0034】
較正ステップのv)では、予め定められた品質目標を、鋼板上の皮膜の均質性に関連付けることが好ましい。好ましくは、予め定められた品質目標は、皮膜のない領域の欠如及び/又は平均皮膜厚さ及び/又は被覆領域の割合を考慮に入れる。
【0035】
例えば、
図2は、左側の該目標を満たすもの(A)及び右側の該目標を満たさないもの(B)の2つの皮膜品質を示す。試料全体が均一な厚さで被覆されているため、左側のものは目標を満たす。試料の一部が被覆されていないため、右側のものは目標を満たしていない。
【0036】
v)a)に記載したステップの繰り返しを
図3に示す。露点DP
CAL1及び最大加熱速度(Max
HR)でステップi)~iv)に従い、第1の試料「A1」を作製した。試料「A1」に図示したように、表面全体が被覆(灰色で表示)されているため、皮膜品質は予め定められた品質目標を満たしている。次いで、DP
CAL1より低い露点DP
CAL2及び最大加熱速度(Max
HR)でステップi)~iv)に従い、第2の試料「A2」を作製した。試料「A2」に図示したように、表面全体が被覆(灰色で表示)されているため、皮膜品質は予め定められた品質目標を満たしている。次いで、DP
CAL2より低い露点DP
CAL3及び最大加熱速度(Max
HR)でステップi)~iv)に従い、第3の試料「A3」を作製した。試料「A3」に示されているように、試料「A3」の表面の一部の領域は被覆されていない(白色で表示)ため、皮膜品質は予め定められた品質目標を満たさない。このようにしてDP
CAL2をDP
1と規定する。
【0037】
好ましくは、前記ステップii)において、DPCALは-40℃の最低値を有する。さらにより好ましくは、較正ステップA)の前記ステップii)において、DPCALは-40℃の最低値を有し、前記ステップv)a)において、前記皮膜の品質が-40℃のDPCALで満たされた場合、-40℃をDP1と規定する。その結果、露点-40℃での最大加熱速度を使用して試料が製造され、予め定められた皮膜の品質が満たされる場合、-40℃をDP1と規定できる。
【0038】
v)b)に記載したステップの繰り返しを
図4に示す。点DP
CAL1及び最大加熱速度(Max
HR)でステップi)~iv)に従い、第1の試料「B1」を作製した。皮膜の品質は、被覆されていない領域のため、予め定められた品質目標を満たさない。次いで、DP
CAL1より高い露点DP
CAL2及び最大加熱速度(Max
HR)でステップi)~iv)に従い、第2の試料「B2」を作製した。皮膜の品質は、被覆されていない領域のため、予め定められた品質目標を満たさない。次いで、DP
CAL2より高い露点DP
CAL3及び最大加熱速度(Max
HR)でステップi)~iv)に従い、第3の試料「B3」を作製した。皮膜の品質は、予め定められた品質目標を満たしている。このようにしてDP
CAL3をDP
1と規定する。
【0039】
金属皮膜の湿潤性の鍵となる原動力は、加熱速度と該加熱速度における露点との関係であり、先行技術で考えられていることに反して、外部酸化物の形成による均熱部のプロセスパラメータではないことが驚くべきことに観察された。
【0040】
その結果、較正ステップのおかげで、加熱部の限界露点(DP1)を規定することができ、これから、加熱域内の任意の加熱速度に対して予め定められた皮膜の品質を達成することができる。
【0041】
予熱ステップは、一般に鋼が冷間圧延された後に行われる。この予熱の間、鋼板は室温から600℃未満の温度T1まで加熱される。例えば、このステップは、N2、H2及び不可避の不純物で構成される雰囲気を有するRTF(放射管炉)において、又は誘導装置によって若しくは空気/ガス(gaz)比<1を有する雰囲気を持つDFF(直火炉)において行うことができる。しかし、いくつかの域、例えば、5つの域を含むDFFにおいては、最後又は最後の2つの域において空気/ガス比>1を有することが可能である。
【0042】
予熱温度を600℃未満に制限することは、鋼板上の酸化を軽減するため有利である。また、それは、潜在的に有害な選択的酸化を回避することを可能にするため、放射管炉(RTF)において特に有利である。
【0043】
加熱ステップの間、鋼板を、温度T1から720℃~1000℃の再結晶温度T2まで、前記最大加熱速度以下の加熱速度で、0.1~90体積%のH2、少なくとも不活性ガス及び不可避の不純物を含み、較正ステップの間に定められた露点DP1を有する雰囲気A1において加熱する。
【0044】
均熱ステップの間、前記鋼板は、0.1~90体積%のH2、少なくとも不活性ガス及び不可避の不純物を含み、少なくとも-40℃の露点DP2を有する雰囲気A2中で、(T2-30℃)~(T2+30℃)の温度範囲に維持される。例えば、T2が950℃の場合、鋼は、均熱ステップiii)において、920℃~980℃の範囲に維持される。
【0045】
加熱ステップ及び均熱ステップの雰囲気は、予熱蒸気を使用し、雰囲気の露点温度を監視する、異なる部のH2検出器を備えた炉にN2-H2ガスを導入することによって達成できる。
【0046】
好ましくは、前記鋼バルク化学組成は、重量パーセントで、Mn/Si<4を順守するマンガンとケイ素との間の比を有する。
【0047】
好ましくは、前記鋼バルク化学組成は、重量パーセントで、Mn/Al<1を順守するアルミニウムとマグネシウムとの間の比を有する。
【0048】
好ましくは、前記鋼のバルク化学組成は、重量パーセントで、Mn/(Al+(4×Si))<1を順守するマンガンとアルミニウムとケイ素との間の比を有する。
【0049】
これら3つの組成はいずれも、鋼表面でのFeO-MnOの生成を低下させ、皮膜の接着性及び均質性を改善する。
【0050】
好ましくは、前記予熱ステップi)において、前記温度T1は550℃よりも低い。さらにより好ましくは、前記予熱ステップi)において、前記温度T1は500℃よりも低い。見かけ上、予熱終了時の温度(T1)をさらに制限することにより、鋼板の酸化をさらに低減することができる。また、それはRTFにおける潜在的に有害な選択的酸化のリスクを低下させる。
【0051】
好ましくは、前記予熱ステップi)において、加熱速度は50℃.s-1より高い。予熱部の加熱速度を速くすると、この部の長さを短くすることができ、及び/又は生産性を高めることができる。
【0052】
好ましくは、前記加熱ステップii)において、前記雰囲気A1は、1体積%~20体積%の間のH2並びに少なくとも不活性ガス及び不可避の不純物を含む。さらにより好ましくは、前記加熱ステップii)において、前記雰囲気A1は、3体積%~8体積%の間のH2並びに少なくとも不活性ガス及び不可避の不純物を含む。
【0053】
好ましくは、前記加熱ステップii)は、10~1000秒間持続する。
【0054】
好ましくは、前記均熱ステップiii)において、前記鋼板は、T2-10℃~T2+10℃の温度に維持される。
【0055】
好ましくは、前記均熱ステップii)は、10~1000秒間持続する。
【0056】
好ましくは、前記均熱ステップiii)において、前記雰囲気A1は、1体積%~20体積%の間のH2並びに少なくとも不活性ガス及び不可避の不純物を含む。さらにより好ましくは、前記均熱ステップiii)において、前記雰囲気A1は、3体積%~8体積%の間のH2並びに少なくとも不活性ガス及び不可避の不純物を含む。
【0057】
好ましくは、前記被覆浴は、0.1~0.3重量パーセントのアルミニウム及び任意にマグネシウムを含有する、溶融亜鉛めっきとしても知られる亜鉛ベースの被覆浴である。
【0058】
好ましくは、前記被覆浴は、5~15重量パーセントのケイ素を含むアルミニウムベースの浴である。
【0059】
好ましくは、前記被覆ステップCにおいて、前記鋼板は、420~470℃の間の温度に維持される溶融めっき浴温度よりも0~10℃の間高い温度に設定される。
【0060】
好ましくは、較正ステップA)のステップiv)の被覆浴及び製造ステップB)の被覆ステップの被覆浴は同一のベース元素を有する。
【0061】
好ましくは、較正ステップA)のステップiv)の被覆浴及び製造ステップB)の被覆ステップの被覆浴は、0.1~0.3重量パーセントのアルミニウム及び任意にマグネシウムを含有する亜鉛ベースの被覆浴である。
【0062】
好ましくは、較正ステップA)のステップiv)の被覆浴及び製造ステップB)の被覆ステップの被覆浴は、5~15重量%のケイ素を含むアルミニウムベースの浴である。
【実施例】
【0063】
以下の節は、加熱部のパラメータの関数における鋼の湿潤性を示す実験結果を扱う。
【0064】
皮膜の品質に及ぼすT1温度の影響を評価するため、最初の一連の実験を行った。この最初の一連の実験では、0.03重量%の炭素、3重量%のケイ素、0.2重量%のMn及び0.01重量%のアルミニウムを含む冷間圧延Fe-Si鋼に焼鈍サイクルを適用した。この最初の一連の実験では、T1を除いて全てのパラメータは一定であった。加熱速度は4.4℃.s-1、加熱域及び均熱域の露点は-20℃、加熱域及び均熱域のH2濃度は5体積%、均熱時間は37.5秒である。皮膜の品質は視覚的に評価する。500℃、600℃及び700℃のT1値について3つの実験を行った。これらのパラメータを表1にまとめた。
【0065】
わかるように、T1が600℃より高い場合には、他の全てのパラメータが一定に留まり、皮膜の品質は目標を満たさない。また、他の全てのパラメータが一定であると、T1が小さいほど、皮膜の品質がより良好であるようである。
【0066】
【0067】
特許請求されたプロセスの較正ステップを再現し、したがってDP1を見つけるために、第2の一連の実験を実施した。この第2の一連の実験では、0.03重量%の炭素、3重量%のケイ素、0.2重量%のMn及び0.01重量%のアルミニウムを含む冷間圧延Fe-Si鋼に焼鈍サイクルを適用した。この第2の一連の実験では、加熱部の露点を除いて、全てのパラメータは一定であった。T1は600℃、加熱速度は20℃.s-1、均熱域の露点は-20℃、加熱域及び浸漬域のH2濃度は5体積%、均熱時間は37.5秒である。皮膜の品質は視覚的に評価する。特許請求されたプロセスのステップA)i)~A)v)a)に従い、-10℃、-20℃、-25℃及び-30℃の露点DPCAL値について4つの実験を行った。次に、較正ステップの最後から2番目の露点、つまり皮膜の品質が目標を満たす最後の露点であったため、-25℃をDP1と規定した。これらのパラメータを表2にまとめた。
【0068】
【0069】
特許請求されたプロセスの信頼性を評価するために、第3の一連の実験を実施した。この第3の一連の実験では、第2の一連の実験と同じ鋼種の冷間圧延Fe-Si鋼に焼鈍サイクルを適用した。この第3の一連の実験では、較正ステップにより、10℃.s-1の最大加熱速度に対するDP1を-30℃と規定した。この第3の一連の実験では、加熱部の加熱速度を除いて、全てのパラメータは一定であった。T1は600℃、加熱域の露点は-30℃、均熱域の露点は-20℃、加熱域及び均熱域のH2濃度は5体積%、均熱時間は37.5秒である。皮膜の品質は視覚的に評価する。特許請求されたプロセスのステップB)i)~B)iii)に従い、10℃.s-1、9.5℃.s-1及び4.5℃.s-1の加熱速度値について3つの実験を行った。これらのパラメータを表3にまとめた。
【0070】
加熱域における最大加熱速度よりも低いいずれの加熱速度に対して、皮膜の品質は目標を満たしていることが観察できる。
【0071】