(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-02-13
(45)【発行日】2025-02-21
(54)【発明の名称】廃リチウムイオン電池の処理方法および処理システム
(51)【国際特許分類】
H01M 10/54 20060101AFI20250214BHJP
【FI】
H01M10/54
(21)【出願番号】P 2023538278
(86)(22)【出願日】2022-03-31
(86)【国際出願番号】 JP2022016749
(87)【国際公開番号】W WO2023007868
(87)【国際公開日】2023-02-02
【審査請求日】2023-10-12
(31)【優先権主張番号】202110850110.7
(32)【優先日】2021-07-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(73)【特許権者】
【識別番号】000000974
【氏名又は名称】川崎重工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】523387286
【氏名又は名称】チャイナ コンチ ベンチャー ホールディングス リミテッド
(73)【特許権者】
【識別番号】510252771
【氏名又は名称】安徽海螺川崎節能設備製造有限公司
(74)【代理人】
【識別番号】110000556
【氏名又は名称】弁理士法人有古特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】大澤 弘明
(72)【発明者】
【氏名】高田 祥嗣
(72)【発明者】
【氏名】山下 真理子
(72)【発明者】
【氏名】津澤 正樹
(72)【発明者】
【氏名】永井 良介
(72)【発明者】
【氏名】菅田 雅裕
(72)【発明者】
【氏名】安藤 文典
(72)【発明者】
【氏名】李 大明
(72)【発明者】
【氏名】趙 峰娃
(72)【発明者】
【氏名】李 洋
(72)【発明者】
【氏名】唐 文芳
(72)【発明者】
【氏名】宋 明俊
(72)【発明者】
【氏名】楊 洪峰
【審査官】三橋 竜太郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-191143(JP,A)
【文献】特開2019-026916(JP,A)
【文献】特開2017-008468(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 10/52-10/667
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極活物質としてリンを含む廃リチウムイオン電池からリチウムを回収するための廃リチウムイオン電池の処理方法であって、
前記廃リチウムイオン電池を焙焼により熱分解し、前記正極活物質を含む焙焼物を生成させる熱分解工程と、
生成した前記焙焼物を水に浸漬させて前記リチウムを溶出させた後に前記リチウムを回収する回収工程と、を含み、
前記熱分解工程は、
前記廃リチウムイオン電池を所定の第1温度で焙焼する焙焼工程と、
前記焙焼工程より前に前記廃リチウムイオン電池の前記正極活物質にリチウム以外のアルカリ金属塩を混合する混合工程と、を含む、廃リチウムイオン電池の処理方法。
【請求項2】
前記混合工程は、前記正極活物質に炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸ルビジウム、炭酸セシウムのいずれか一種類以上を混合する、請求項1に記載の廃リチウムイオン電池の処理方法。
【請求項3】
混合する前記アルカリ金属塩に含まれるアルカリ金属の元素量の、前記正極活物質に含まれるリンの元素量に対する比率が1.5以上かつ3.0以下である、請求項1または2に記載の廃リチウムイオン電池の処理方法。
【請求項4】
前記回収工程は、前記焙焼物を水に浸漬させる際に水酸化マグネシウムまたは水酸化カルシウムを添加する、請求項1から3の何れかに記載の廃リチウムイオン電池の処理方法。
【請求項5】
前記回収工程は、
前記焙焼物に水を浸漬させる第1溶出工程と、
前記第1溶出工程で処理された水溶液に対して固液分離を行う第1分離工程と、
前記第1分離工程で分離された水溶液からリチウム塩水溶液を濃縮しスラリー化し、前記スラリーを固液分離するリチウム分離工程と、を含み、
前記リチウム分離工程は、
前記水溶液に対して炭酸ガスによりバブリングする第2溶出工程と、
前記第2溶出工程で処理された水溶液に対して固液分離を行う第2分離工程と、を含む、請求項1から3の何れかに記載の廃リチウムイオン電池の処理方法。
【請求項6】
前記回収工程は、
前記焙焼物を水に浸漬させる第1溶出工程と、
前記第1溶出工程で処理された水溶液に対して固液分離を行う第1分離工程と、
前記第1分離工程で分離された水溶液からリチウム塩水溶液を濃縮しスラリー化し、前記スラリーを固液分離するリチウム分離工程と、を含み、
前記リチウム分離工程において、前記スラリーまたは前記スラリーを固液分離することにより得られる脱水ケーキを、熱水を用いて洗浄する、請求項1から5の何れかに記載の廃リチウムイオン電池の処理方法。
【請求項7】
前記熱分解工程は、
前記廃リチウムイオン電池に含まれる電解液を分解除去するために前記廃リチウムイオン電池を前記第1温度より低い第2温度で焙焼する前処理工程と、
前記前処理工程において処理された前記廃リチウムイオン電池を破砕し、破砕後の前記廃リチウムイオン電池の正極集電体から前記正極活物質を分離させて前記正極活物質を選別する破砕選別工程と、を含み、
前記混合工程は、前記破砕選別工程の後に行われる、請求項1から6の何れかに記載の廃リチウムイオン電池の処理方法。
【請求項8】
正極活物質としてリンを含む廃リチウムイオン電池からリチウムを回収するための廃リチウムイオン電池の処理システムであって、
前記廃リチウムイオン電池を焙焼により熱分解し、前記正極活物質を含む焙焼物を生成させる熱分解システムと、
生成した前記焙焼物を水に浸漬させて前記リチウムを溶出させた後に前記リチウムを回収する回収システムと、を含み、
前記熱分解システムは、
前記廃リチウムイオン電池を所定の第1温度で焙焼する焙焼装置と、
前記焙焼装置における焙焼前の前記廃リチウムイオン電池の前記正極活物質にリチウム以外のアルカリ金属塩を混合する混合装置と、を含む、廃リチウムイオン電池の処理システム。
【請求項9】
前記混合装置は、前記正極活物質に炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸ルビジウム、炭酸セシウムのいずれか一種類以上を混合する、請求項8に記載の廃リチウムイオン電池の処理システム。
【請求項10】
混合する前記アルカリ金属塩に含まれるアルカリ金属の元素量の、前記正極活物質に含まれるリンの元素量に対する比率が1.5以上かつ3.0以下である、請求項8または9に記載の廃リチウムイオン電池の処理システム。
【請求項11】
前記回収システムは、前記焙焼物に水を浸漬させる際に水酸化マグネシウムまたは水酸化カルシウムを添加する、請求項8から10の何れかに記載の廃リチウムイオン電池の処理システム。
【請求項12】
前記回収システムは、
前記焙焼物に水を浸漬させる第1溶出機と、
前記
第1溶出機で処理された水溶液に対して固液分離を行う第1分離機と、
前記
第1分離機で分離された水溶液からリチウム塩水溶液を濃縮しスラリー化し、前記スラリーを固液分離するリチウム分離装置と、を含み、
前記リチウム分離装置は、
前記水溶液に対して炭酸ガスによりバブリングする第2溶出機と、
前記
第2溶出機で処理された水溶液に対して固液分離を行う第2分離機と、を含む、請求項8から11の何れかに記載の廃リチウムイオン電池の処理システム。
【請求項13】
前記回収システムは、
前記焙焼物に水を浸漬させる第1溶出機と、
前記第1溶出機で処理された水溶液に対して固液分離を行う第1分離機と、
前記
第1分離機で分離された水溶液からリチウム塩水溶液を濃縮しスラリー化し、前記スラリーを固液分離するリチウム分離装置と、を含み、
前記リチウム分離装置は、前記スラリーまたは前記スラリーを固液分離することにより得られる脱水ケーキを、熱水を用いて洗浄するように構成される、請求項8から11の何れかに記載の廃リチウムイオン電池の処理システム。
【請求項14】
前記熱分解システムは、
前記廃リチウムイオン電池に含まれる電解液を分解除去するために前記廃リチウムイオン電池を前記第1温度より低い第2温度で焙焼する前処理装置と、
前記前処理装置において処理された前記廃リチウムイオン電池を破砕し、破砕後の前記廃リチウムイオン電池の正極集電体から前記正極活物質を分離させて前記正極活物質を選別する破砕選別装置と、を含み、
前記混合装置は、前記
破砕選別装置で選別された前記正極活物質に前記アルカリ金属塩を混合する、請求項8から13の何れかに記載の廃リチウムイオン電池の処理システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、廃リチウムイオン電池の処理方法および処理システムに関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン電池(LIB)は、電気自動車、携帯電話、ノートパソコン等に多用されている。リチウムイオン電池は、正極活物質、負極活物質、電解液、セパレータ、集電体等から構成されている。リチウムイオン電池には、正極活物質としてニッケル、コバルト、マンガン、リチウムを含むNCMと、正極活物質として鉄、リン、リチウムを含むLFP等のタイプがある。
【0003】
このようなリチウムイオン電池に含まれるリチウムは、希少金属であるので、使用後に廃棄されたリチウムイオン電池(廃リチウム電池)からリチウムを回収することが望まれる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2016-191143号公報
【文献】特開2012-229481号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
廃リチウムイオン電池からリチウムを回収する場合、廃リチウムイオン電池を焙焼等により熱分解して得られた正極活物質を水に浸漬させてリチウムを溶出させた後にリチウムを回収することが考えられる。
【0006】
しかし、LFPについては、水に浸漬させることによるリチウムの溶出が困難であることが分かった。上記引用文献1では、リチウムイオン電池を焙焼して得られた粉粒体にアルカリ金属塩水溶液を加え圧力容器に投入し混合した後、加熱する水熱処理によりリチウムの抽出を行っている。この水熱処理は、密閉状態の圧力容器内で加熱することにより行われる。したがって、処理能力、すなわち、単位時間当たりの処理量を高くすることが難しい、設備が複雑化する、運転管理がし難い等の問題がある。
【0007】
また、特許文献2では、酸化焙焼時にフッ素やリンを固体の化合物にするためにアルカリ土類金属の水酸化物を添加することが開示されている。しかし、アルカリ土類金属は、アルカリ金属に比べて反応性が低いため、アルカリ金属であるリチウムがリン酸イオンと結合し、水に不溶性を示すリン酸リチウム(Li3PO4)が形成される恐れがある。また、廃リチウム電池がリンを含んだ正極活物質を用いている場合、アルカリ土類金属の添加では、正極活物質の焙焼による分解自体が進まない懸念があり、この結果、リチウムを水に溶出させることが困難となる。
【0008】
本発明は上記のような課題を解決するためになされたもので、複雑な工程を経ることなく、正極活物質としてリンを含む廃リチウムイオン電池からリチウムを水に溶出させて回収することができ、その純度を向上させることができる廃リチウムイオン電池の処理方法および処理システムを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために、本発明の一態様に係る廃リチウムイオン電池の処理方法は、正極活物質としてリンを含む廃リチウムイオン電池からリチウムを回収するための廃リチウムイオン電池の処理方法であって、前記廃リチウムイオン電池を焙焼により熱分解し、前記正極活物質を含む焙焼物を生成させる熱分解工程と、生成した前記焙焼物を水に浸漬させて前記リチウムを溶出させた後に前記リチウムを回収する回収工程と、を含み、前記熱分解工程は、前記廃リチウムイオン電池を所定の第1温度で焙焼する焙焼工程と、前記焙焼工程より前に前記廃リチウムイオン電池の前記正極活物質にリチウム以外のアルカリ金属塩を混合する混合工程と、を含む。
【0010】
また、本発明の他の態様に係る廃リチウムイオン電池の処理システムは、正極活物質としてリンを含む廃リチウムイオン電池からリチウムを回収するための廃リチウムイオン電池の処理システムであって、前記廃リチウムイオン電池を焙焼により熱分解し、前記正極活物質を含む焙焼物を生成させる熱分解システムと、生成した前記焙焼物を水に浸漬させて前記リチウムを溶出させた後に前記リチウムを回収する回収システムと、を含み、前記熱分解システムは、前記廃リチウムイオン電池を所定の第1温度で焙焼する焙焼装置と、前記焙焼装置における焙焼前の前記廃リチウムイオン電池の前記正極活物質にリチウム以外のアルカリ金属塩を混合する混合装置と、を含む。
【0011】
上記方法またはシステムによれば、廃リチウムイオン電池を焙焼する前に、廃リチウムイオン電池の正極活物質とリチウム以外のアルカリ金属塩とが混合される。これにより、正極活物質が焙焼されることにより、熱的に安定なリンを含む正極活物質を分解し、溶出時に正極活物質に含まれるリン酸イオンとリチウムとが結合して水に不溶性を示すリン酸リチウム(Li3PO4)が生成される前に、リン酸イオンとアルカリ金属イオンとを結合させることができるため、リチウムの不溶化を防止することができる。したがって、複雑な工程を経ることなく、正極活物質としてリンを含む廃リチウムイオン電池からリチウムを水に溶出させて回収することができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明は、複雑な工程を経ることなく、正極活物質としてリンを含む廃リチウムイオン電池からリチウムを水に溶出させて回収することができ、その純度を向上させることができるという効果を奏する。
【0013】
本発明の上記目的、他の目的、特徴、及び利点は、添付図面参照の下、以下の好適な実施態様の詳細な説明から明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】
図1は、本発明の一実施形態における廃リチウムイオン電池の処理システムにおける処理工程を示す概略工程図である。
【
図2】
図2は、
図1に示す熱分解工程を行う熱分解システムの概略構成図である。
【
図3】
図3は、
図1に示す回収工程を行う回収システムの概略構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の好ましい実施の形態を、図面を参照しながら説明する。
図1は、本発明の一実施形態における廃リチウムイオン電池の処理システムにおける処理工程を示す概略工程図である。
【0016】
本実施の形態における処理システムの処理対象となる廃リチウムイオン電池(廃LIB)は、正極活物質にリンを含むLFPタイプのリチウムイオン電池である。より具体的には、LFPは、正極活物質としてリン酸鉄(LiFePO4)を含み、負極活物質として黒鉛を含み、正極集電体としてアルミニウム箔が用いられ、負極集電体として銅箔が用いられた電池である。
【0017】
本処理システムは、大型の廃LIB、すなわち、廃リチウムイオン電池の電池セルが複数個組み合わされた電池モジュール、および、電池モジュールが複数個組み合わされた電池ユニットを対象とするものである。電池ユニットは、例えば、電気的に接続された複数個の電池モジュール、制御装置および冷却装置が筺体内に収納されて構成されている。本処理システムは、例えば、電気自動車やハイブリッド自動車に搭載された廃LIBを取り外して、その取り外したままの状態の廃LIB、すなわち、電池ユニットまたは電池モジュールを解体することなく処理することが想定されている。
【0018】
図1に示すように、本実施の形態における処理システムは、廃LIBを熱分解し、得られた活物質を含む粉体を焙焼する熱分解工程P1と、焙焼した活物質を水に浸漬させてリチウムを溶出させた後にリチウムを回収する回収工程P2と、を処理工程に含む。
【0019】
まず、熱分解工程P1について説明する。熱分解工程P1は、前処理工程P11、破砕選別工程P12、混合工程P13、および焙焼工程P14を含む。
図2は、
図1に示す熱分解工程を行う熱分解システムの概略構成図である。熱分解システム1は、供給装置10、前処理装置11、破砕選別装置12、混合装置13および焙焼装置14を備えている。
【0020】
前処理工程P11は、廃LIBに含まれる電解液を分解除去するために廃LIBを後述する焙焼工程P14における第1温度より低い第2温度で焙焼、すなわち、仮焙焼する。このために、廃LIBが供給装置10から前処理装置11に供給される。供給装置10は、例えばベルトコンベヤ等により構成される。前処理装置11は、例えばグレートプレヒータにより構成される。
【0021】
前処理工程P11における第2温度は、廃LIBに含まれる電解液を分解除去可能な温度に設定される。例えば第2温度は、150℃以上、400℃未満であり、150℃以上、250℃以下としてもよい。
【0022】
破砕選別工程P12は、前処理工程P11において処理された廃LIBを破砕し、破砕後の廃LIBの集電体から活物質を分離させて活物質を選別する。このために破砕選別装置12は、破砕機12aおよび選別機12bを備えている。破砕機12aは、例えばロールクラッシャーにより構成される。破砕機12aは、大型の廃LIB(電池ユニットまたは電池モジュール)を電池セル程度またはそれより小さい大きさに破砕する。
【0023】
選別機12bは、破砕機12aによって破砕された廃LIBに対して、集電体から活物質を分離させて活物質を選別して取り出せるように構成されている。選別機12bは、例えば、篩振盪機等により構成される。現実的には、選別機12bにより正極活物質だけでなく、負極活物質等の活物質以外の少量の不純物が取り出されて混合装置13へ供給される。これら以外の廃LIBの外装材や集電体等は別の処理設備へ送られる。
【0024】
混合工程P13は、破砕選別工程P12で選別された廃LIBの活物質、すなわち、正極活物質にアルカリ金属塩を混合する。混合装置13は、選別機12bにより取り出された活物質等にアルカリ金属塩を混合するように構成されている。本実施の形態においては、アルカリ金属塩として炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸ルビジウム、および炭酸セシウムからなる群から選択される少なくとも一種以上が活物質に混合される。混合装置13は、例えばローラミル、パドルミキサー、擂潰機等により構成される。
【0025】
焙焼工程P14は、混合後の廃LIBを所定の第1温度で焙焼する。なお、混合後の廃LIBは、廃LIBの活物質とアルカリ金属塩とを含む混合物である。焙焼装置14は、例えば外熱式ロータリーキルンにより構成される。外熱式ロータリーキルンは、中心軸を中心に回転する円筒体14aと、円筒体14aの外周を包囲するように設けられた加熱ジャケット14bとを備えている。
【0026】
円筒体14aは、一端を受入口14c、他端を排出口14dとし、受入口14cから排出口14dに向けて下り傾斜となるように中心軸が所定角度の傾斜を有する状態で中心軸回りに回転可能に支持される。混合装置13から円筒体14aの受入口14cへ供給される廃LIBは、円筒体14aが回転することにより排出口14dへ向けて搬送される。
【0027】
円筒体14aの内部は、空気雰囲気とされている。なお、これに代えて、円筒体14aの内部は、還元雰囲気または例えば酸素濃度10%以下の低酸素雰囲気とされてもよい。円筒体14aの外周を包囲する加熱ジャケット14bに加熱ガスが供給されることにより、円筒体14aの外壁が加熱されて、円筒体14aの内部を搬送される廃LIBが加熱され、排出口14dから焙焼物となって排出される。焙焼工程P14における焙焼温度である第1温度は、400℃以上であり、例えば700℃としてもよい。
【0028】
リチウムおよびリンを含む廃LIBの正極活物質にアルカリ金属塩を混合してから焙焼することにより、混合物中のアルカリ金属イオンとリン酸イオンとが結合し、リン酸塩が形成される。上述したように、アルカリ金属塩は、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸ルビジウム、炭酸セシウムのいずれか一種類以上を含む。
【0029】
次に、回収工程P2について説明する。回収工程P2は、第1溶出工程P21、第1分離工程P22、およびリチウム分離工程P20を含む。
図3は、
図1に示す回収工程を行う回収システムの概略構成図である。回収システム2は、第1溶出機21、第1分離機22、およびリチウム分離装置20を備えている。
【0030】
第1溶出工程P21は、焙焼物を水に浸漬させる。このために、第1溶出機21は、水が貯留される浸漬槽に焙焼物が導入されるように構成されている。焙焼物は、ホッパ27を介して所定量ずつ第1溶出機21の浸漬槽へ供給される。これにより、浸漬槽内の水溶液は、水と焙焼物との混合物となる。第1溶出機21は、浸漬槽内の水溶液を撹拌する撹拌機構を備えている。
【0031】
第1溶出工程P21においては、焙焼物を水に浸漬させる際に水酸化マグネシウム(Mg(OH)2)または水酸化カルシウム(Ca(OH)2)を添加する。浸漬槽内の水溶液に水酸化マグネシウムまたは水酸化カルシウムを加えることで水溶液内の鉄分、リン分およびフッ素分がそれぞれ水に対して不溶な化合物を生成する。
【0032】
第1分離工程P22は、第1溶出工程P21で処理された水溶液に対して固液分離を行う。このために、第1分離機22は、固液分離機により構成される。第1分離機22により固液分離を行うことにより、水溶液から上記鉄分、リン分およびフッ素分が固体の残渣物として取り除かれる。
【0033】
リチウム分離工程P20は、第1分離工程で分離された水溶液からLi2O、Li2CO3等のリチウム塩を濃縮しスラリー化し、そのスラリーを固液分離する。リチウム分離工程P20は、第2溶出工程P23、第2分離工程P24、濃縮工程P25および第3分離工程P26を含む。リチウム分離装置20は、各工程を実施するために、第2溶出機23、第2分離機24、濃縮機25および第3分離機26を備えている。
【0034】
第2溶出機23は、第1溶出機21と同様に、浸漬槽および撹拌機構を備えている。第2溶出機23には、第1分離機22で固液分離された後の水溶液が導入される。さらに、第2溶出機23の浸漬槽内の水溶液には炭酸ガス、すなわち、二酸化炭素が導入される。第2溶出工程P23では、第2溶出機23の浸漬槽に貯留された水溶液に対して炭酸ガスによりバブリングを行う。
【0035】
炭酸ガスによるバブリングが行われることにより、水溶液のpHが弱アルカリ性に調整される。これにより、第1溶出工程P21で添加した水酸化マグネシウムまたは水酸化カルシウムの余剰分を炭酸マグネシウム(MgCO3)または炭酸カルシウム(CaCO3)として析出させる。
【0036】
第2分離工程P24は、第2溶出工程P23で処理された水溶液に対して固液分離を行う。第2分離機24により固液分離を行うことにより、水溶液から第2溶出工程P23で析出させた炭酸マグネシウムまたは炭酸カルシウムを含む固体の不純物が取り除かれる。
【0037】
濃縮工程P25は、第2分離工程P24で固液分離された水溶液を濃縮する。このための濃縮機25は、例えば水溶液を80℃程度まで加熱し、水溶液の水分を蒸発させる蒸発濃縮装置または晶析装置等により構成される。水溶液が濃縮されることにより、水溶液に含まれるリチウムの濃度が上昇し、炭酸リチウム(Li2CO3)を含むスラリーが生成される。
【0038】
第3分離工程P26は、スラリーに対して固液分離を行う。第3分離機26により固液分離を行うことにより、スラリーから炭酸リチウムを析出させる。これにより、リチウムが炭酸リチウムとして回収される。残りの水溶液は、廃液処理される。なお、残りの水溶液を再度第1溶出機21または第2溶出機23に戻してもよい。
【0039】
以上のように、上記方法によれば、廃LIBを焙焼する前に、廃LIBのリンおよびリチウムを含む正極活物質とリチウム以外のアルカリ金属塩とが混合される。アルカリ金属塩を混合せずに廃LIBを焙焼しても、リンを含んだ正極活物質は熱的に安定であることから分解しない。
【0040】
そこで、本実施の形態のように、廃LIBを焙焼する前に、廃LIBのリンおよびリチウムを含む正極活物質とリチウム以外アルカリ金属塩とが混合されることにより、正極活物質が焙焼されたときに、リン酸リチウムが生成される前に、リン酸イオンとアルカリ金属イオンとを結合させることができ、リチウムの不溶化を防止することができる。したがって、酸性溶液またはアルカリ性溶液を用いること、または、他の複雑な工程を経ることを要することなく、正極活物質としてリンおよびリチウムを含む廃LIBからリチウムを水に溶出させて回収することができる。
【0041】
さらに、廃LIBに対して電解液を分解除去するための前処理を行い、前処理後の廃LIBを破砕し、正極活物質を選別した後に、その正極活物質にアルカリ金属塩が混合される。これにより、正極活物質とアルカリ金属塩との混合を行い易くし、正極活物質に含まれるリンとアルカリ金属との結合を促し易くすることができる。
【0042】
また、正極活物質とアルカリ金属塩との混合は、前処理工程P11、破砕選別工程P12または焙焼工程P14とは別の独立した工程として行われる。これにより、正極活物質とアルカリ金属塩との混合を十分に行うことができ、焙焼時におけるリチウムとリンとの結合を有効に防止することができる。
【0043】
さらに、本実施の形態では、アルカリ金属塩を炭酸塩として混合装置13に投入している。炭酸塩は、入手容易、かつ、水酸化物等に比べて危険性が低く、取り扱いが容易である。したがって、熱分解工程において混合工程P13を安価かつ容易に導入することができる。
【0044】
例えば、アルカリ金属塩に含まれるアルカリ金属の元素量(A)の、正極活物質に含まれるリンの元素量(P)に対する比率(A/P比)は、1.5以上かつ3.0以下である。実験においては、焙焼工程P14において空気雰囲気下および700℃の焙焼温度で2時間焙焼した。また、第1溶出工程P21における焙焼物と水との重量比を、焙焼物:水=1:100とした。第1溶出工程P21は室温下で行った。
【0045】
A/P比は、上述の通り、アルカリ金属塩の正極活物質に対する混合比をアルカリ金属の元素量とリンの元素量の比率、すなわち、モル比で表した値である。実験ではA/P比が1.5以上かつ3.0以下で良好なリチウム溶出率を実現できた。
【0046】
また、本実施の形態においては、回収工程P2、より詳しくは、第1溶出工程P21において焙焼物を水に浸漬させる際に水酸化マグネシウムまたは水酸化カルシウムが添加される。これにより、リチウムを含む焙焼物を水に浸漬させ、リチウムを水に溶出させた後、焙焼物に含まれる鉄、リン、フッ素を不溶性の化合物として沈殿させることができる。したがって、鉄、リン、フッ素を、リチウムを含む水溶液から固体として容易に分離させることができる。
【0047】
また、水酸化マグネシウムまたは水酸化カルシウムの添加によりアルカリ性となった水溶液から余剰のマグネシウムまたはカルシウムを除去するために、リチウム分離工程P20内の第2溶出工程P23においてその水溶液に対して炭酸ガスがバブリングされる。これにより、水溶液のpHが弱アルカリ性に調整され、炭酸塩を形成し、余剰のマグネシウムまたはカルシウムを水溶液から除去することができる。また、炭酸ガスをバブリングすることにより、リチウムを析出させるための炭酸源を水溶液に供給することができる。
【0048】
さらに、リチウム分離工程P20内の第3分離工程P26において、炭酸リチウムを含むスラリーが熱水を用いて洗浄される。熱水は、例えば80℃以上に加熱された水が使用される。
【0049】
濃縮工程P25における水溶液の濃縮の際に、回収対象である炭酸リチウムが析出するだけでなく、混合したアルカリ金属塩が析出する恐れがある。すなわち、混合したアルカリ金属塩として、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸ルビジウム、炭酸セシウムのいずれか一種以上が析出し得る。濃縮工程P25では、上述のように、水溶液が80℃程度まで加熱される。混合したアルカリ金属塩の80℃の水への溶解度は、炭酸リチウムの80℃の水への溶解度に比べて高い、すなわち、水に溶け易いことが知られている。このため、濃縮工程P25において、第2分離工程P24における処理後の水溶液として得られる炭酸リチウムおよび混合したアルカリ金属塩を含む水溶液を80℃程度まで加熱して濃縮すると、炭酸リチウムが先に析出し、溶解しやすい混合したアルカリ金属塩と分離可能であると一般的には考えられる。
【0050】
しかし、発明者らが実際にLFP試薬を使用した実験を行ったところ、濃縮の際に、炭酸リチウムだけでなく混合したアルカリ金属塩までもが析出する恐れがあることが分かった。濃縮工程P25において混合したアルカリ金属塩が析出すると、リチウム分離工程P20、より詳しくは第3分離工程P26において回収されるリチウムを例えば電池級の99.5%以上の高純度にすることが難しくなる。炭酸リチウムの純度を上げるために濃縮率を下げると、炭酸リチウムの析出も少なくなり、炭酸リチウムの回収率が下がってしまうことも分かった。
【0051】
そこで、このような問題に対して発明者らが鋭意研究した結果、上記のように、炭酸リチウムを含むスラリーを、熱水を用いて洗浄することにより、炭酸リチウムと混合したアルカリ金属塩との分離を行うことができるという知見を得た。すなわち、炭酸リチウムは、水溶液の温度が高いほど溶解し難い性質を利用し、スラリーを、熱水を用いて洗浄しつつ固液分離することにより、混合したアルカリ金属塩を溶解させつつ炭酸リチウムを析出させることができる。この結果、高純度の炭酸リチウムの回収を実現することができる。
【0052】
なお、第3分離機26に熱水を導入して、濃縮後のスラリーを固液分離中に洗浄する代わりに、固液分離することにより得られる炭酸リチウムを含む脱水ケーキを、熱水を用いて洗浄してもよい。すなわち、第3分離機26において固液分離した後の脱水ケーキを熱水で洗浄してもよい。また、加える熱水の量は、固液分離中に洗浄するかまたは固液分離後に洗浄するか等、条件に応じて所定の量に設定され得る。
【0053】
上記説明から、当業者にとっては、本発明の多くの改良や他の実施形態が明らかである。従って、上記説明は、例示としてのみ解釈されるべきであり、本発明を実行する最良の態様を当業者に教示する目的で提供されたものである。本発明の精神を逸脱することなく、その構造および/または機能の詳細を実質的に変更できる。
【0054】
例えば、上記実施の形態においては、各工程に対して一または複数の装置または機器が対応する処理システムが例示されているが、一の装置または機器で複数の工程を実現するように処理システムが構成されてもよい。
【0055】
また、上記実施の形態においては、廃LIBの正極活物質に、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸ルビジウム、炭酸セシウムのいずれか一種以上を含むリチウム以外のアルカリ金属の炭酸塩を混合する態様を例示したが、リチウム以外のアルカリ金属の水酸化物を混合してもよい。
【産業上の利用可能性】
【0056】
複雑な工程を経ることなく、正極活物質としてリンを含む廃リチウムイオン電池からリチウムを水に溶出させて回収することができ、その回収率を向上させるために有用である。
【符号の説明】
【0057】
1 熱分解システム
2 回収システム
11 前処理装置
12 破砕選別装置
13 混合装置
14 焙焼装置
20 リチウム分離装置
21 第1溶出機
22 第1分離機
23 第2溶出機
24 第2分離機