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7634692炭素含有ガスからの炭素回収方法および炭素回収装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-02-13
(45)【発行日】2025-02-21
(54)【発明の名称】炭素含有ガスからの炭素回収方法および炭素回収装置
(51)【国際特許分類】
   C01B 32/05 20170101AFI20250214BHJP
   C01B 32/40 20170101ALI20250214BHJP
   B01J 23/745 20060101ALI20250214BHJP
【FI】
C01B32/05
C01B32/40
B01J23/745 A ZAB
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2023543386
(86)(22)【出願日】2023-02-28
(86)【国際出願番号】 JP2023007386
(87)【国際公開番号】W WO2023171466
(87)【国際公開日】2023-09-14
【審査請求日】2023-07-19
(31)【優先権主張番号】P 2022034548
(32)【優先日】2022-03-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001258
【氏名又は名称】JFEスチール株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504157024
【氏名又は名称】国立大学法人東北大学
(74)【代理人】
【識別番号】110001542
【氏名又は名称】弁理士法人銀座マロニエ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】岩見 友司
(72)【発明者】
【氏名】樋口 隆英
(72)【発明者】
【氏名】村上 太一
【審査官】廣野 知子
(56)【参考文献】
【文献】特表2015-516361(JP,A)
【文献】特表2015-514669(JP,A)
【文献】特開2018-104282(JP,A)
【文献】特開2002-284513(JP,A)
【文献】特開2014-109474(JP,A)
【文献】特表2012-524015(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 32/00-32/991
B01J 21/00-38/74
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一酸化炭素を含み炭素含有ガスを多孔質材料に接触させて前記一酸化炭素から炭素を分離させる工程と、
前記炭素を回収する工程と、を含み、
前記多孔質材料は、鉄であり、アルキメデス法によって測定される開気孔率が50~99%であり、
前記炭素含有ガスに含まれる水分と水素が(1)式を満たすことを特徴とする炭素含有ガスからの炭素回収方法。
上記式(1)において、[HO]は、改質後の混合ガスに含まれる水分濃度(体積%)を表し、[H]は、改質後の混合ガスに含まれる水素濃度(体積%)を表す。
【請求項2】
前記炭素含有ガスを前記多孔質材料に500~800℃の雰囲気下において接触させる請求項1に記載の炭素含有ガスからの炭素回収方法。
【請求項3】
前記炭素含有ガスを前記多孔質材料に1.0~10atmの雰囲気下において接触させる請求項1又は2に記載の炭素含有ガスからの炭素回収方法。
【請求項4】
前記多孔質材料が酸化鉄および還元鉄から選ばれる1種又は2種の鉄である、請求項1又は2に記載の炭素含有ガスからの炭素回収方法。
【請求項5】
前記炭素含有ガスは、二酸化炭素を含む原料ガスに水素ガスを供給して得られる混合ガスを800~1200℃に加熱する前記原料ガスの改質反応により発生する一酸化炭素を含む、
任意選択的に前記混合ガスは、前記多孔質材料に前記炭素含有ガスを接触させた後のオフガスの全部又は一部を含む、請求項1に記載の炭素含有ガスからの炭素回収方法。
【請求項6】
前記混合ガス中に含まれる水素濃度が58体積%以上となるように水素ガスを供給する、請求項に記載の炭素含有ガスからの炭素回収方法。
【請求項7】
前記原料ガスに含まれる水分と前記原料ガスの改質反応により発生する水分とが除去される、請求項又はに記載の炭素含有ガスからの炭素回収方法。
【請求項8】
一酸化炭素を含む炭素含有ガスを多孔質材料に接触させて前記一酸化炭素から炭素を分離する炭素分離部と、
前記炭素を回収する炭素回収部と、を備え、前記多孔質材料は、鉄であり、アルキメデス法によって測定される開気孔率が50~99%である炭素含有ガスからの炭素回収装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一酸化炭素を含む炭素含有ガスからの炭素回収方法および炭素回収装置に関する。とりわけ、本発明は、各種産業において排出される高炉ガス、排気ガス等に含まれる一酸化炭素を含む炭素含有ガスから、当該炭素含有ガスに含まれる炭素を回収する方法および炭素回収装置に関する。
【背景技術】
【0002】
SDGsやパリ協定を始めとする二酸化炭素排出量の削減があらゆる産業に対して求められている。排ガスに含まれる二酸化炭素の削減方法としては、二酸化炭素を発生する産業プロセスを、炭素を使用しないプロセスに置き換える方法、あるいは、排出される二酸化炭素含有ガスから炭素を除去する方法のいずれかとなる。後者の方法では、一般的に二酸化炭素をそのまま、あるいは二酸化炭素とは別の炭素化合物(例えば、炭化水素)として排ガスから取り除く方法が主であった。
【0003】
二酸化炭素削減のための対策技術として、酸化セリウムを触媒として、一価アルコールと二酸化炭素とを反応させて炭酸エステルを製造する技術が報告されている(例えば、特許文献1参照)。すなわち、特許文献1には、炭酸エステル製造用触媒構造体を用いた炭酸エステルの製造方法が開示されており、かかる触媒構造体および水和材の存在下、一価アルコールと二酸化炭素とを反応させて炭酸エステルを製造することが開示されている。
【0004】
さらに、二酸化炭素を含有する処理対象ガスから効率的に二酸化炭素を除去する技術が開示されている(例えば、特許文献2参照)。すなわち、特許文献2には、水を供給、排出している反応容器内で吸着剤に直接ガスを接触させることにより、そのまま二酸化炭素を処理対象ガスから分離する方法が開示されている。特許文献2に記載された処理対象ガスから二酸化炭素を分離する方法は、被毒により二酸化炭素吸着量が低下した吸着材を水で洗浄することで、吸着材に付着した被毒成分(酸、金属塩等)を洗浄し、吸着剤表面を露出させることができ、これにより吸着剤の二酸化炭素吸着容量を回復させるものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】国際公開第2020/013135号
【文献】国際公開第2018/179351号
【非特許文献】
【0006】
【文献】Materials Transactions, Vol.58, No.12(2017)pp.1742 to 1748 “ Development of Manufacturing Principle of Porous Iron by Carbothermic Reduction of Composite of Hematite and Biomass Char”
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記従来技術には、以下のような問題がある。すなわち、特許文献1、2に開示された炭酸エステルを製造する技術等の二酸化炭素削減のための対策技術は、いずれも二酸化炭素をそのまま、あるいは二酸化炭素を炭素化合物として分離除去するものであって、二酸化炭素に含まれる炭素そのもの自体を回収できる方法ではない。また、二酸化炭素ガスは、水性ガスシフト反応により一酸化炭素に改質することができる。このため、一酸化炭素から炭素そのもの自体を回収することができる方法があれば、当該反応と水性ガスシフト反応とを組み合わせた方法により二酸化炭素から炭素を回収できることになる。しかしながら、一酸化炭素から炭素を回収することができる方法は提案されていないという課題があった。
【0008】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであって、一酸化炭素ガスに含まれる炭素を回収し、当該炭素をリサイクルできる炭素含有ガスからの炭素回収方法および炭素回収装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を有利に解決する本発明に係る炭素含有ガスからの炭素回収方法は、一酸化炭素を含み、(1)式を満たす炭素含有ガスを多孔質材料に接触させて前記一酸化炭素から炭素を分離させる工程と、前記炭素を回収する工程とを含む。
【数1】
上記式(1)において、[HO]は、改質後の混合ガスに含まれる水分濃度(体積%)を表し、[H]は、改質後の混合ガスに含まれる水素濃度(体積%)を表す。
【0010】
なお、本発明に係る炭素含有ガスからの炭素回収方法は、
(a)前記炭素含有ガスを前記多孔質材料に500~800℃の雰囲気下において接触させること、
(b)前記炭素含有ガスを前記多孔質材料に1.0~10atmの雰囲気下において接触させること、
(c)前記多孔質材料は、アルキメデス法によって測定される開気孔率が50~99%であること、
(d)前記多孔質材料が鉄、白金、ニッケル、コバルト、ロジウムおよびパラジウムから選ばれる少なくとも1種を含むこと、
(e)前記多孔質材料が酸化鉄および還元鉄から選ばれる1種又は2種の鉄であること、
(f)前記炭素含有ガスは、二酸化炭素を含む原料ガスに水素ガスを供給して得られる混合ガスを800~1200℃に加熱する前記原料ガスの改質反応により発生する一酸化炭素を含むこと、
(g)前記混合ガスは、前記多孔質材料に前記炭素含有ガスを接触させた後のオフガスの全部又は一部を含むこと、
(h)前記混合ガス中に含まれる水素濃度が58体積%以上となるように水素ガスを供給すること、
(i)前記原料ガスに含まれる水分と前記原料ガスの改質反応により発生する水分とが除去されること等がより好ましい解決手段になり得るものと考えられる。
【0011】
さらに、本発明に係る炭素含有ガスからの炭素回収装置は、
(j)一酸化炭素を含む炭素含有ガスを多孔質材料に接触させて前記一酸化炭素から炭素を分離する炭素分離部と、前記炭素を回収する炭素回収部と、を備える。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、炭素含有ガスに含まれる一酸化炭素を構成する炭素を回収し、当該炭素をリサイクルできる。さらに、本発明によれば、水性ガスシフト反応を組み合わせた反応により、排気ガス、高炉ガス等に含まれる二酸化炭素を一酸化炭素に改質したガスを用い、二酸化炭素からの炭素の回収を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本実施形態に係る炭素回収方法のプロセスの一例を示す模式図である。
図2】本実施形態に係る炭素回収方法を実施するために採用する炭素回収装置が備えている炭素分離部の概要を示した図である。図2(a)は、炭素分離部の模式図であり、図2(b)は、炭素分離部が有する多孔質材料の形態の一例を示した拡大写真である。
図3】本実施形態に係る炭素回収方法のプロセスの一例を示す模式図である。
図4】本実施形態に係る炭素回収方法において使用される排ガスに対する水素添加割合(体積%)と800℃での改質・脱HO後のガス組成を示したグラフである。
図5】本実施形態に係る炭素回収方法を実施するために採用する経時時間(min)とガス改質炉内の温度(℃)との関係を示したグラフである。
図6】本実施形態に係る炭素回収方法を実施した場合において、炭素含有ガスの通気時間(min)と多孔質材の質量増加率△W(質量%)との関係を示したグラフである。
図7】本実施形態に係る炭素回収方法を実施した場合において、炭素含有ガスの通気前後におけるタブレット状に成型した鉄ウィスカーの状態を示した写真である。図7(a)は、炭素含有ガスを通気する前の鉄ウィスカーの状態を示した写真であり、図7(b)は、炭素含有ガスを通気した後の鉄ウィスカーの状態を示した写真である。
図8】炭素含有ガスを通気した後の鉄ウィスカーの状態を示した走査型電子顕微鏡(SEM)による拡大写真である。
図9】炭素含有ガスを通気した後の鉄ウィスカーのXRDプロファイルである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面に基づいて、本実施形態に係る炭素含有ガスからの炭素回収方法について説明する。各図面は模式的なものであり、現実のものとは異なる場合がある。また、以下の実施形態は、本発明の技術的思想を具体化するための装置や方法を例示するものであり、それらの構成を下記のものに限定するものでない。すなわち、本発明の技術的思想は、特許請求の範囲に記載された技術的範囲内において、種々の変更を加えることができる。
【0015】
[第1実施形態]
第1実施形態に係る炭素含有ガスからの炭素回収方法について説明する。本実施形態に係る炭素含有ガスからの炭素回収方法は、一酸化炭素を含む炭素含有ガスを多孔質材料に接触させて一酸化炭素から炭素を分離させる工程と、当該炭素を回収する工程とを含む。
以下、本実施形態に係る炭素含有ガスからの炭素回収方法の各工程について説明する。
【0016】
<炭素含有ガスを多孔質材料に接触させて一酸化炭素から炭素を分離させる工程>
図1は、本実施形態に係る炭素含有ガスから固体炭素を回収する炭素回収方法のプロセスの一例を示す模式図である。炭素含有ガスは、回収する炭素の原料となる一酸化炭素を含んでいればよく、当該一酸化炭素の他に二酸化炭素、水素、水分等を含んでいてもよい。ただし、炭素含有ガスに含まれる水分と水素は、下記(1)式を満たす必要がある。なお、本実施形態の炭素含有ガスから固体炭素を回収する炭素回収方法に用いられる炭素含有ガスは、既存の製造プロセス、排気ガス、高炉ガス等の既存の製造プロセスにおいて発生するガスをそのまま使用したガスであってもよい。このため、上記炭素含有ガスには、一酸化炭素、二酸化炭素、水素、水分が含まれることが多い。
【数2】
上記式(1)において、[HO]は、改質ガスに含まれる水分濃度(体積%)を表し、[H]は、改質ガスに含まれる水素濃度(体積%)を表す。
【0017】
炭素含有ガスに含まれる一酸化炭素は、回収する炭素の原料となる。炭素含有ガスに含まれる一酸化炭素を構成する炭素は、以下の化学反応式(I)、(II)によって示される二分子の一酸化炭素の分解による二分子分解反応(I)、又は一分子の一酸化炭素が水素と反応することによる一分子分解反応(II)により、一酸化炭素から分離される。
【0018】
【化1】
【0019】
【化2】
【0020】
炭素含有ガスに含まれる一酸化炭素は、CO/(CO+CO)が0.5以上であることが好ましく、CO/(CO+CO)が0.7以上であることがより好ましい。これにより、一酸化炭素から固体炭素を効率よく回収できる。炭素含有ガスは、一酸化炭素、二酸化炭素、水素が上記所定の体積割合となるように、これらの各ガス成分が充填された各容器からそれぞれ供給されて調製されてもよい。
【0021】
また、炭素含有ガスは、所定量の一酸化炭素を含んでいるガスであれば、製鉄溶鉱炉から排出される高炉ガス、又は自動車、ガスタービン、焼却炉、火力発電所、工場から排出される排気ガスをそのまま用いたガスでもよい。また、炭素含有ガスは、高炉ガス又は排気ガスを原料として用い、当該これらのガスに不足するガス成分を追加して一酸化炭素、二酸化炭素が上記体積割合となるように調整したガスであってもよい。さらに、炭素含有ガスは、高炉ガス又は排気ガスを原料として用い、当該これらのガスを化学的処理することにより、一酸化炭素、二酸化炭素が上記体積割合となるように調整したガスであってもよい。
【0022】
例えば、高炉ガスは、一酸化炭素を21~23体積%、二酸化炭素を19~22体積%、水素を2~3体積%、窒素を53~56体積%の体積割合で含んでいるため、そのまま炭素含有ガスとして用いることができる。なお、高炉ガスは、高炉に投入されたコークスおよび重油、微粉炭が空気によって部分燃焼し、一酸化炭素と窒素を主成分とする還元性ガスとなり、これが鉄鉱石を還元して生じたものである。このため、高炉におけるコークス等の燃焼条件を適宜設定することにより、高炉ガスに含まれる各ガス成分の体積割合を調整することができる。また、排気ガス中に存在する各ガス成分の体積割合は、排気ガスの原料である燃料の燃焼条件によって調整することができる。
【0023】
炭素含有ガスの多孔質材料への接触と、炭素含有ガスに含まれる一酸化炭素からの炭素の分離は、本実施形態に係る炭素回収方法を実施するために採用される炭素回収装置の炭素分離部の系内において行われる。炭素分離部の系内には、多孔質材料が充填された充填層が設けられている。
【0024】
図2は、本実施形態に係る炭素回収方法を実施するために採用する炭素回収装置が備えている炭素分離部の概要を示した模式図である。図2に示されるように、炭素回収装置の炭素分離部100が備えている反応塔101の内部には、多孔質材料102が充填されている。多孔質材料102は、反応塔101の内部に設けられたサンプルホルダー101aにより保持される。多孔質材料102の形態は、炭素含有ガスが通過することにより、当該炭素含有ガスに含まれる一酸化炭素の分解反応が進行するものであれば特に制限されるものではない。多孔質材料102の形態としては、例えば、図2(b)に示されるように、タブレット状に成型した多孔質材料、ハニカム構造に成型した多孔質材料、フラッシュ構造に成型した多孔質材料等であってもよい。さらに、多孔質材料を層状の成型体としてもよい。また、反応塔101の内部に複数の層状の成型体を多孔質材料102として設置してもよい。なお、多孔質材料の下方には、酸化アルミニウム等の酸化物からなる粒状物で構成されるバッファー層103を設けてもよい。
【0025】
炭素分離部100が備えている反応塔101の下方から一酸化炭素を含む炭素含有ガスが供給される。反応塔101に供給された炭素含有ガスは、反応塔101の内部に設けられた多孔質材料102を通過することにより、当該多孔質材料102と接触する。炭素含有ガスに含まれる一酸化炭素と多孔質材料102との接触は、炭素分離部100の系内において、所定温度、圧力の雰囲気下において行うことが好ましい。このため、炭素分離部100は、その系内を所定の温度範囲に設定するためのヒータ等の温度調節装置を備えていてもよい。一酸化炭素を含む炭素含有ガスは、反応塔101の下部に設置された供給管104から供給される。一酸化炭素を含む炭素含有ガスを多孔質材料102に接触させた後のオフガスは、排出ガス管105から排出される。
【0026】
炭素含有ガスに含まれる一酸化炭素を構成する炭素は、炭素分離部100の系内において、一酸化炭素から分離される。炭素含有ガスに含まれる一酸化炭素を構成する炭素は、以下の化学反応式(I)、(II)によって示される一酸化炭素の二分子分解反応(I)、又は一酸化炭素の一分子分解反応(II)により、一酸化炭素から分離される。一酸化炭素から分離された炭素は、多孔質材料102の表面に吸着し、又は多孔質材料102の内部に浸炭する。
【0027】
【化3】
【化4】
【0028】
炭素含有ガスと多孔質材料102との接触は、500~800℃の雰囲気下において行うことが好ましい。炭素含有ガスと多孔質材料102とを接触させる温度が500℃以上であれば、一酸化炭素の分解反応が促進されるため好ましく、800℃以下であれば、一酸化炭素の分解反応により発生する熱エネルギーを有効に活用することができるため好ましい。炭素含有ガスと多孔質材料102とを接触させる温度範囲には、例えば、多孔質材料102として鉄を用いて実施される直接還元製鉄に採用される温度条件500~800℃が含まれる。炭素含有ガスと多孔質材料102との接触は、炭素分離部100の系内に備えられた多孔質材料102の充填層に当該炭素含有ガスを通気すればよい。これにより、化学反応式(I)、(II)で示される一酸化炭素の分解反応が進行する。一酸化炭素の分解反応が進行することにより、一酸化炭素から炭素が分離される。一酸化炭素から分離された炭素は、多孔質材料102の表面に析出する。また、一酸化炭素から分離された炭素は、多孔質材料102の内部に浸炭した後、多孔質材料102の内部において多孔質材料102と炭素金属固溶体、又は炭化金属化合物を形成する。
【0029】
炭素含有ガスと多孔質材料102との接触は、1.0~10atmの雰囲気下において行うことが好ましい。炭素含有ガスと多孔質材料102とを接触させる圧力が1.0atm以上であれば、加圧条件となり、化学反応式(I)、(II)で示される一酸化炭素の分解反応の化学平衡が炭素を分離させる方向に移動し、一酸化炭素の分解反応が促進されるため好ましい。一方、炭素含有ガスと多孔質材料102とを接触させる圧力が10atm以下であれば、法規制の観点から炭素分離部100を稼働する際の安全性を確保することができるため好ましい。
【0030】
一酸化炭素を含む炭素含有ガスを接触させる多孔質材料102は、アルキメデス法によって測定される開気孔率が50%以上99%以下であることが好ましく、好ましくは、80%以上であることが好ましい。多孔質材料102の開気孔率が50%以上であれば、一酸化炭素を含む炭素含有ガスが多孔質材料102の細孔(ポーラス)を通過して一酸化炭素の分解反応が促進され、当該一酸化炭素から炭素を分離させることができるため好ましい。一酸化炭素から分離された炭素は、多孔質材料102が有している細孔(ポーラス)の内部に吸着する。一方、多孔質材料102の開気孔率が99%以下であれば、多孔質材料102に供給される一酸化炭素を含む炭素含有ガスによる耐熱衝撃性を保持することができるため好ましい。多孔質材料102が有している細孔(ポーラス)の大きさは、その直径が10μm以上であることが好ましい。なお、多孔質材料の開気孔率は、アルキメデス法によって測定され、具体的には、日本工業規格(JIS R2205;1992)に定められている測定方法によって測定された値を多孔質材料102の開気孔率として用いることができる。
【0031】
一酸化炭素を含む炭素含有ガスを接触させる多孔質材料102は、鉄、白金、ニッケル、コバルト、ロジウムおよびパラジウムから選ばれる少なくとも1種を含むことが好ましい。すなわち、多孔質材料102は、鉄、白金、ニッケル、コバルト、ロジウムおよびパラジウムから選ばれる1種類の金属元素から構成されていてもよいし、2種類以上の金属元素を組み合わせて構成されていてもよい。さらに、多孔質材料102は、鉄、白金、ニッケル、コバルト、ロジウムおよびパラジウムから選ばれる1種類の金属元素を炭化物、酸化物、炭酸塩、硫酸塩、シュウ酸塩等として含んでいる金属化合物であってもよい。
【0032】
一酸化炭素を含む炭素含有ガスを接触させる多孔質材料102として採用されるこれらの金属の中でも、鉄、白金、ニッケルが好ましい。多孔質材料102として白金、ニッケルを使用した場合には、当該白金、ニッケルが一酸化炭素の分解反応触媒として作用するとともに、分解反応触媒としての劣化が少ないため好ましい。また、多孔質材料102として白金、ニッケルを使用した場合には、一酸化炭素の分解反応により固体炭素がグラファイト単体として析出するため好ましい。
【0033】
一酸化炭素を含む炭素含有ガスを接触させる多孔質材料102は、鉄であることがより好ましい。多孔質材料102として鉄を用いることにより、一酸化炭素の分解反応により一酸化炭素から分離された炭素が多孔質材料102に浸炭した後、鉄に固溶して形成されるオーステナイト(γ鉄)を得ることができるので好ましい。また、多孔質材料102として鉄を用いることにより、一酸化炭素の分解反応により一酸化炭素から分離された炭素が多孔質材料102に浸炭した後、鉄と反応することにより形成されるセメンタイト(炭化鉄)を得ることできるので好ましい。一酸化炭素の分解反応により一酸化炭素から分離した炭素が多孔質材料102である鉄に浸炭することにより生成するオーステナイト(γ鉄)およびセメンタイト(炭化鉄)は、焼き入れ鋼と同程度の硬度を有しており、そのまま製鉄原料として用いることができる。さらに、炭素含有ガスを接触させる多孔質材料102は、酸化鉄および還元鉄から選ばれる少なくとも1種又は2種の鉄であることが好ましい。
【0034】
一酸化炭素を含む炭素含有ガスを接触させる多孔質材料102は、鉄ウィスカーであることが特に好ましい。鉄ウィスカーは、結晶表面からその外側に向けて髭状に成長した金属結晶である。鉄ウィスカーは、その結晶の表面付近に圧縮応力が発生すると、その応力を緩和しようとして新たな結晶が元の結晶の外側に向けて成長して形成される。鉄ウィスカーは、結晶成長の起点が小さく、連続的に成長し続ける傾向を有している。このため、鉄ウィスカーは、非常に細長い髭状の単結晶として形成され、1μm程度の直径に対して、10μm以上の長さを有している。一酸化炭素を含む炭素含有ガスを接触させる多孔質材料102として、鉄ウィスカーを採用した場合には、一酸化炭素の分解反応により一酸化炭素から分離された炭素が鉄ウィスカーに浸炭し、オーステナイト(γ鉄)から構成される鉄ウィスカー、又はセメンタイト(炭化鉄)から構成される鉄ウィスカーを得ることができる。
【0035】
一酸化炭素を含む炭素含有ガスを接触させる多孔質材料102である鉄ウィスカーは、例えば、非特許文献1に記載された鉄ウィスカーの製造方法により製造することができる。この鉄ウィスカーの製造方法によれば、多孔質材料102の開気孔率が90%以上であり、細孔の直径が10μm以上の鉄ウィスカーを得ることができる。この鉄ウィスカーの製造方法により得られる鉄ウィスカーも高い開気孔率を有しているので、本実施形態の炭素含有ガスからの炭素回収方法に用いられる多孔質材料102として好適に用いることができる。なお、炭素含有ガスを接触させる多孔質材料102として金属として、白金等の鉄以外の金属を採用した場合であっても、同様に多孔質材料102を製造することができる。
【0036】
<炭素を回収する工程>
本実施形態に係る炭素含有ガスからの炭素回収方法は、一酸化炭素から分離させた炭素を回収する工程を含む。炭素を回収する工程は、例えば、炭素回収部の系内において行われる。ここで、炭素を回収するとは、一酸化炭素から分離され、多孔質材料102の表面又は多孔質材料102の細孔の内部表面に析出している炭素を回収することを含む。さらに、炭素を回収するとは、一酸化炭素から分離され、多孔質材料102に浸炭している炭素が多孔質材料102に含まれる金属元素と反応して形成される炭素金属固溶体、若しくは炭化金属化合物として回収することを含む。
【0037】
炭素含有ガスに含まれる一酸化炭素の分解反応により分解された炭素は、多孔質材料102の表面又は多孔質材料102の細孔の内部表面に析出する。また、炭素含有ガスに含まれる一酸化炭素の分解反応により分離された炭素は、多孔質材料102の内部に浸炭し、多孔質材料102を構成する金属元素と反応することにより、炭素固溶体又は炭化金属化合物を形成する。さらに、炭素含有ガスに含まれる一酸化炭素の分解反応により分離された炭素は、炭素固溶体又は炭化金属化合物の表面に析出する。
【0038】
炭素を回収する工程は、本実施形態に係る炭素回収方法を実施するために採用される炭素回収装置が備えている炭素回収部により実施することができる。炭素回収部は、多孔質材料102の表面に析出する一酸化炭素から分離された炭素を回収する。炭素回収部は、分離された固体炭素と多孔質材料102とを分離するための篩網等を備えていてもよい。篩網等により分離された炭素、又は炭素金属固溶体若しくは炭化金属化合物は、炭素回収部で回収される。
【0039】
一酸化炭素から分離された固体炭素の回収は、篩網等を備えた炭素回収部による粉粒体の分離操作により行うことができる。また、分離された炭素が多孔質材料102の内部に浸炭した後、多孔質材料102を構成する金属元素と反応してすることにより、炭素金属固溶体又は炭化金属化合物となった場合における炭素の回収は、当該炭素金属固溶体又は炭化金属化合物自体をそのまま回収することにより行うことができる。なお、回収した炭素を製鉄原料に用いる場合、多孔質材料102として鉄を用いることで、回収した炭素を多孔質材料102と分離操作することなく、これらをまとめて製鉄原料に用いることができるのでより好ましい。
【0040】
このように、本実施形態に係る炭素含有ガスからの炭素回収方法は、一酸化炭素を含む炭素含有ガスを多孔質材料102に接触させて、一酸化炭素の分解反応を促進させ、炭素を分離させ、分離された固体炭素、又は当該炭素を含む炭素金属固溶体もしくは炭化金属化合物として回収することができる。さらに、本実施形態に係る炭素含有ガスからの炭素回収方法に用いられる炭素回収装置は、炭素分離部100と、炭素回収部とを備えることによって、一酸化炭素から分離された固体炭素、又は当該炭素を含む炭素固溶体若しくは炭化金属化合物として回収することができる。
【0041】
本実施形態に係る炭素含有ガスからの炭素回収方法により回収した炭素は、例えば、発電等のエネルギー源として活用したり、溶鉄の熱補償のために転炉に装入される副原料、焼き入れ前の製鉄原料等として活用することできる。すなわち、本実施形態に係る炭素含有ガスからの炭素回収方法は、一酸化炭素を含む炭素含有ガスから回収した炭素を用いることによって、リサイクル資源として炭素を有効活用することができる。
【0042】
以上、本実施形態に係る炭素含有ガスからの炭素回収方法によれば、炭素含有ガスに含まれる一酸化炭素ガスを構成する炭素を固体炭素として回収し、当該炭素をリサイクルできる。
【0043】
[第2実施形態]
第2実施形態に係る炭素含有ガスからの炭素回収方法について説明する。本実施形態に係る炭素含有ガスからの炭素回収方法は、上記実施形態の炭素回収方法において、前記炭素含有ガスが二酸化炭素を含む原料ガスに水素を供給して得られる混合ガスを800~1200℃に加熱する原料ガスの改質反応により発生する一酸化炭素を含むことを特徴とする。すなわち、本実施形態に係る炭素含有ガスからの炭素回収方法は、一酸化炭素を含む炭素含有ガスを二酸化炭素が含まれている原料ガスを原料とする混合ガスから調製する点以外は、第1実施形態に係る炭素回収方法に含まれる各工程と同一である。このため、本実施形態に係る炭素含有ガスからの炭素回収方法は、第1実施形態に係る炭素回収方法に含まれる工程と同一の工程については、その詳しい説明は省略する。以下、本実施形態に係る炭素含有ガスからの炭素回収方法に含まれる特徴のある工程について説明する。
【0044】
図3は、本実施形態に係る炭素含有ガスから炭素を回収する炭素回収方法のプロセスの一例を示す模式図である。図3に示されるように一酸化炭素を含む炭素含有ガスは、高炉ガス、排気ガス等を原料ガスとし、当該原料ガスに水素ガスと、炭素分離部100で発生したオフガスである二酸化炭素および水蒸気とを添加した混合ガスを水性ガスシフト反応により改質し、改質ガスに含まれる水分を除去して製造される。本実施形態に係る炭素含有ガスからの炭素回収方法を実施するための炭素回収装置は、上記炭素回収装置に加えて、例えば、原料ガス保存部、ガス改質部、水素供給部、水分除去部等を備えていてもよい。
【0045】
二酸化炭素、一酸化炭素を含む原料ガスをガス改質炉等のガス改質部に通す。なお、原料ガスは、原料ガス保存部に貯蔵されている。二酸化炭素、一酸化炭素を含む原料ガスとしては、例えば、高炉ガス、排気ガスである。
【0046】
原料ガス保存部には、その外部から供給される高炉ガス、排気ガス等の原料ガスが保存される。具体的に原料ガスは、製鉄溶鉱炉から排出される高炉ガス、自動車、ガスタービン、焼却炉、火力発電所、工場から排出される排気ガスであって、一酸化炭素、二酸化炭素の他、水素、水、窒素酸化物、硫黄酸化物等を含む。このため、原料ガス保存部は、原料ガスを保存できる材質からなり、耐熱性および耐圧性に優れた容器であることが好ましい。原料ガス保存部は、原料ガス供給管によりガス改質部と連結されている。原料ガスは、原料ガス供給管によりガス改質部に供給される。
【0047】
次に、ガス改質部に水素供給部から供給される水素ガスを加え、混合ガスとする。さらに、かかる混合ガスには、第1実施形態に係る炭素含有ガスからの炭素回収方法において、炭素含有ガスを多孔質材料102に接触させた後のオフガスの全部又は一部を含んでいてもよい。オフガスは、一酸化炭素を含む炭素含有ガスが多孔質材料102に接触した後の排ガスである。オフガスには二酸化炭素が含まれるので、当該オフガスを混合ガスに含めることで混合ガスに含まれる二酸化炭素を増やすことができる。その後、混合ガスが充填されたガス改質部の系内を800~1200℃に加熱する。この温度範囲内にガス改質部の系内を加熱すると、ガス改質部の系内に存在している混合ガス中の二酸化炭素は、以下の化学反応式(III)に従って、水素と水性ガスシフト反応をして、一酸化炭素と水とを生成する。
【0048】
【化5】
【0049】
二酸化炭素と水素による水性ガスシフト反応は、可逆反応であり、その反応温度が500℃を超える領域では、水性ガスシフト反応の化学平衡が一酸化炭素の生成方向に偏る。従って、本実施形態の炭素含有ガスからの炭素回収方法において、ガス改質部の系内の温度を800~1200℃に設定することにより、効率よく、二酸化炭素を一酸化炭素に転化させ、分離される炭素の原料となる一酸化炭素をより多く生成することができる。すなわち、本実施形態の炭素含有ガスからの炭素分離方法において、ガス改質部の系内の温度を800~1200℃に設定することにより、二酸化炭素を一酸化炭素に効率よく改質することができる。
【0050】
ガス改質部の系内において進行する水性ガスシフト反応は、原料ガスと、水素供給部から供給された水素ガスとを含む混合ガス中の一酸化炭素ガスと水素との反応である。ここで、上記混合ガス中に含まれる水素濃度が58体積%以上となるように水素を供給することが好ましい。混合ガス中に含まれる水素濃度が58体積%以上であれば、水性ガスシフト反応において、一酸化炭素ガスの比率を高めつつ、後の一酸化炭素から炭素を分離させる工程において、一酸化炭素から分離された炭素を回収できるため好ましい。上記混合ガス中に含まれる水素濃度が58体積%以上とする条件は、800~1200℃の温度範囲における水性ガスシフト反応において、一酸化炭素が増加する条件である。かかる条件は、水性ガスシフト反応の温度と平衡定数との関係により導き出される。混合ガス中の水素濃度の上限は100体積%未満であってよく、混合ガス中の水素濃度の上限は二酸化炭素濃度に応じて定めればよい。また、ガス改質部の外部に設置された水素供給部から供給される水素ガスの水素は、非化石燃料由来の水素を用いることが好ましい。これにより、さらに二酸化炭素の排出量を抑制することができるため好ましい。なお、水素供給部から供給される水素ガスの供給量は、高炉ガス、排気ガス等の原料ガスに含まれている水素の量を勘案して設定することができる。
【0051】
このように、ガス改質部の系内において、原料ガス供給部から供給された原料ガスと、水素供給部から供給された水素ガスと、炭素分離部から供給されるオフガスとを含む混合ガスの水性ガスシフト反応が行われる。このため、ガス改質部は、上記混合ガスの水性ガスシフト反応が十分に行うための容量、耐熱性および耐圧性を有する容器であることが好ましい。
【0052】
水素供給部は、所定の条件下において、ガス改質部に水素ガスを供給できればよい。水素供給部は、ガス状態で高圧で水素を保存する方法を採用して水素を供給する場合には、特殊ステンレス鋼、アルミニウム合金、高分子複合材料等から構成される。また、水素供給部は、水素を液体にして保存する方法を採用して水素を供給する場合には、真空エリアを含んだ二重構造の容器とすることが好ましい。さらに、水素供給部は、金属に水素を吸蔵させて保存する方法を採用して水素を供給する場合には、水素吸蔵合金を使用することが好ましい。
【0053】
混合ガスは、水性ガスシフト反応により改質され改質ガスとなる。この改質ガスは、水分除去部に供給される。改質ガスは、原料ガスに含まれる水分と、改質反応により発生する水分とを含んでいる。このため、この水性ガスシフト反応後の改質ガスに含まれる水分は、水分除去部を通過することにより、除去される。水分の除去は、水分除去部が備えている吸着剤充填層に混合ガスを通気する方法、混合ガスを分離膜に通気させる方法等により行うことができる。水性ガスシフト反応後におけるガス改質炉の系内に存在している改質ガスは、下記式(1)を満たすように原料ガスに含まれる水分と改質反応により発生する水分とが除去されていなければならない。
【0054】
【数3】
上記式(1)において、[HO]は、改質ガスに含まれる水分濃度(体積%)を表し、[H]は、改質ガスに含まれる水素濃度(体積%)を表す。
【0055】
改質ガスの水分濃度を上記式(1)を満たすようにすることにより、炭素回収工程における炭素回収効率が高くなるため好ましい。このように、水分が除去された除湿ガスは、一酸化炭素を含む炭素含有ガスとして、炭素分離部100に供給される。
【0056】
このように、第2実施形態に係る炭素含有ガスからの炭素回収方法は、高炉ガス、排気ガス等の原料ガスと原料として用い、当該原料ガスに水素を供給して水性ガスシフト反応により二酸化炭素が一酸化炭素に転化され、さらに水分が除去されることにより一酸化炭素を含む炭素含有ガスが調製される。そして、第2実施形態に係る炭素含有ガスからの炭素回収方法は、一酸化炭素を含む炭素含有ガスを多孔質材料に接触させることによって、一酸化炭素の分解反応を進行させることにより、一酸化炭素から炭素を分離させ、分離された固体炭素、又は当該炭素を含む炭素固溶体もしくは炭化金属化合物として回収することができる。なお、第2実施形態における原料ガス、混合ガスおよび除湿ガスは一酸化炭素を含むので、これらのガスは一酸化炭度を含む炭素含有ガスである。
【0057】
以上、第2実施形態に係る炭素含有ガスからの炭素回収方法によれば、水性ガスシフト反応を組み合わせた反応により、高炉ガス、排気ガス等の原料ガスに含まれる二酸化炭素を一酸化炭素に改質したガスを用い、これらの原料ガスに含まれる二酸化炭素からの炭素の回収を実現することができる。なお、本実施形態に係る炭素含有ガスからの炭素回収方法は、製鉄溶鉱炉から排出される高炉ガスのみならす、自動車、ガスタービン、焼却炉、火力発電所、工場から排出される排気ガス等を原料ガスとして用いることができるので、きわめて適用範囲の広い炭素回収方法であり、二酸化炭素削減の観点からもその技術的価値は、大きい。
【0058】
[他の実施形態]
以上、実施形態を参照して本発明を説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではない。本願発明の構成や詳細には、本願発明の技術的範囲で当業者が理解し得る様々な変更をすることができる。
【実施例
【0059】
<炭素含有ガスの調製>
本発明に係る炭素含有ガスからの炭素回収方法において、原料ガスとして排気ガスを用いて、炭素を回収した一実施例を示す。本実施例では、原料ガスとして以下の表1に示すガス成分の各成分組成を有する排気ガスを用い、ガス改質炉に供給した。表1に排気ガスに含まれる成分(体積%)を示す。
【0060】
【表1】
【0061】
上記排気ガスが存在するガス改質炉の外部から異なる濃度の水素を供給し、水性ガスシフト反応に供する混合ガスを調製した。ここで、ガス改質炉の外部から排気ガスに供給される水素の濃度をそれぞれ25体積%、50体積%、75体積%、100体積%に設定した。混合ガスを調製後、当該混合ガスを800℃に加熱して、水性ガスシフト反応による混合ガスの改質を行った。なお、混合ガスの水性ガスシフト反応は、以下の化学反応式(III)で示される。
【0062】
【化6】
【0063】
さらに、混合ガスの水性ガスシフト反応後にガス改質炉の系内に生成した水分を除去した。ガス改質炉の系内に生成した水分の除去は、吸着剤、水素分離膜により行った。水性ガスシフト反応後にガス改質炉の系内に生成した水は水蒸気となっている。ガス改質炉の系内に生成した水蒸気は、ガス改質炉の系内に存在している一酸化炭素、二酸化炭素、水素と供に水分除去部に搬送される。水分除去部に搬送された水蒸気は、水分除去部の系内おいて冷却されることにより、液体に状態変化する。
【0064】
混合ガスの水性ガスシフト反応後に水分を除去した除湿ガスの成分組成を図4に示す。図4によれば、ガス改質炉の系内に供給される水素の濃度が増加した場合であっても、ガス改質部の系内に存在する一酸化炭素の濃度に変化がなく、ほぼ一定であることが判明した。すなわち、図4によれば、ガス改質部の系内に水素を供給することによって、一酸化炭素の濃度は、ほとんど変わっておらず、二酸化炭素の濃度が減少していることが理解できる。一方、ガス改質部の系内に水素を供給することによって、ガス改質部の系内に存在するガスの総量が増加していることから、二酸化炭素から一酸化炭素への転化反応による改質が良好に行われていることが明らかとなった。
【0065】
<炭素含有ガスの多孔質材料への通気>
除湿ガスを多孔質材料に通気することによって、除湿ガスに含まれる一酸化炭素から炭素を分離させ、一酸化炭素を構成する炭素の析出を行った。
【0066】
実施例で使用した炭素分離部は、炭素含有ガスに含まれる一酸化炭素の炭化反応が起こる管状の反応塔と、反応塔の下部から炭素含有ガスを供給するための供給管と、反応塔の内部の設けられた多孔質材料層と、炭化反応後に発生する生成ガスを排出するための供給管を備えている。管状の反応塔の内径を53mmとした。炭化設備が備えている多孔質材料としては、質量が9.3gであり、開気孔率が97.7%である鉄ウィスカーをタブレット状に成型したものを複数個用いた。多孔質材料は、粒状のアルミナボール(粒径10mm)からなる層状に設置される。なお、多孔質材料は、非特許文献1に記載された鉄ウィスカーの製造方法に従って製造した。
【0067】
炭素分離部が備えている反応塔の下部から供給管を通じて窒素、一酸化炭素、水素からなる炭素含有ガスを通気した。炭化設備系内の温度制御をしつつ、所定のガスを供給して一酸化炭素から炭素を分離させた。
【0068】
図5に示されるように、炭素分離部の温度を750℃まで加熱し、(1)その後、60分間、窒素-10体積%水素を通気した。(2)さらに10分間、窒素を通気して炭素分離部の系内を不活性雰囲気に置換した。(3)その後、300分間、窒素-32体積%一酸化炭素を通気した。窒素-32体積%一酸化炭素を通気した後、10分間、窒素を通気して炭素分離部の系内を不活性雰囲気に置換した後、炭化設備系内の温度を750℃から室温まで低下させた。なお、炭素分離部の系内の圧力は、3.0atmとなるように保持した。
【0069】
<分離された炭素の回収>
炭素含有ガスの多孔質材料への通気により、一酸化炭素から分離された炭素を回収した。タブレット状に成型した多孔質材料の表面に析出した粉体状の固体炭素、および多孔質材料の内部に形成された炭素固溶体又は炭化金属化合物が回収された炭素である。このため、炭素含有ガスを通気する前の多孔質材料と、炭素含有ガスを通気した後の多孔質材料の質量とを比較して、炭素含有ガスの通気前後における多孔質材料の質量の増加率ΔW(質量%)を排気ガス等に含まれる一酸化炭素から分離されて得られた炭素の回収率と評価することができる。
【0070】
図6は、炭素含有ガスの多孔質材料への通気時間(min)と多孔質材料の質量の増加率ΔW(質量%)との関係を示したグラフである。図6に示されるように、炭素含有ガスの多孔質材料への通気時間(min)とともに多孔質材料の質量の増加率ΔW(質量%)が増加している。すなわち、炭素含有ガスの多孔質材料への通気時間(min)の経過とともに一酸化炭素の分解反応が進行して、一酸化炭素から分離された炭素が析出し、又は炭素金属固溶体若しくは炭化金属化合物が生成し、多孔質材料の質量は増加していることが判明した。
【0071】
図7は、炭素含有ガスを通気する前のタブレット状に成型した鉄ウィスカーの状態(図7(a))と炭素含有ガスを通気した後のタブレット状に成型した鉄ウィスカーの状態(図7(b))を示した写真である。図7から明らかなように、炭素含有ガスを通気した後の鉄ウィスカーは、タブレット状に成型した炭素含有ガスを通気する前の形態を維持することができないものとなった。さらに、炭素含有ガスを通気した後の鉄ウィスカーの定性分析を実施した。その結果、炭素含有ガスを通気した後の鉄ウィスカーの表面は、一酸化炭素から分離された固体炭素によって覆われていた。
【0072】
図8(a)は、炭素含有ガスを通気した後の鉄ウィスカーの状態を示した走査型電子顕微鏡(SEM)による拡大写真である。図8(b)は、図8(a)に示された破線で囲まれた部分を拡大した拡大写真である。図9は、炭素含有ガスを通気した後の鉄ウィスカーのXRDプロファイルである。図8、9によれば、炭素含有ガスを鉄ウィスカーに通気することにより、鉄ウィスカーには、炭素含有ガスに含まれる一酸化炭素の分解反応による一酸化炭素から分離され、表面に析出した固体炭素と、当該炭素が浸炭して形成されたセメンタイト(炭化鉄)とが含まれることが明らかとなった。
【0073】
このように、本発明に係る炭素含有ガスからの炭素回収方法を用いることにより、排気ガス等の原料ガスに由来する炭素含有ガスに含まれる一酸化炭素の分解反応により一酸化炭素から分離された炭素を回収することができる。さらに、本発明に係る炭素含有ガスからの炭素回収方法を用いることにより、多孔質材料に浸炭し多孔質材料と反応することにより形成される炭素固溶体、若しくは炭化金属化合物を分離された炭素として回収することができる。
【産業上の利用可能性】
【0074】
本発明に係る炭素含有ガスからの炭素回収方法は、排気ガス等の原料ガスに含まれる二酸化炭素を一酸化炭素に改質したガスを用い、排気ガス等の原料ガスに含まれる二酸化炭素からの炭素の回収を実現することができるので、二酸化炭素を排出する製鉄業、石炭火力発電等のエネルギー関連産業、化学工業、パルプ・製紙産業、食品加工産業等の産業上きわめて有用である。
【符号の説明】
【0075】
100 炭素分離部
101 反応塔
101a サンプルホルダー
102 多孔質材料(鉄ウィスカー)
103 バッファー層(アルミニウムボール)
104 供給管(炭素含有ガス用)
105 排出ガス管

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9