(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-02-13
(45)【発行日】2025-02-21
(54)【発明の名称】異形ダイス
(51)【国際特許分類】
B21C 3/02 20060101AFI20250214BHJP
【FI】
B21C3/02 B
(21)【出願番号】P 2023562347
(86)(22)【出願日】2022-11-15
(86)【国際出願番号】 JP2022042424
(87)【国際公開番号】W WO2023090324
(87)【国際公開日】2023-05-25
【審査請求日】2024-03-22
(31)【優先権主張番号】P 2021187105
(32)【優先日】2021-11-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000220103
【氏名又は名称】株式会社アライドマテリアル
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】大野 暁人
(72)【発明者】
【氏名】木村 公一朗
(72)【発明者】
【氏名】関 裕一郎
【審査官】程塚 悠
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/073424(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/123513(WO,A1)
【文献】特開2017-154153(JP,A)
【文献】特開2012-195212(JP,A)
【文献】特開2005-254311(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B21C 3/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
異形線を製作するための異形ダイスであって、
伸線方向の上流側から順にリダクション部およびベアリング部を有する加工孔が設けられており、
伸線方向に垂直な前記ベアリング部の断面において、曲線状のコーナー部と前記コーナー部と異なる位置の非コーナー部とが設けられており、
前記コーナー部の表面粗さは、前記非コーナー部の表面粗さよりも粗く、前記コーナー部の表面粗さSaは0.30μm以下であり、前記非コーナー部の表面粗さSaは0.20μm以下である、異形ダイス。
【請求項2】
前記コーナー部の表面粗さSaが0.15μm以下であり、
前記非コーナー部の表面粗さSaが0.10μm以下である、請求項1に記載の異形ダイス。
【請求項3】
前記コーナー部の表面粗さSaが0.10μm以下であり、
前記非コーナー部の表面粗さSaが0.07μm以下である、請求項2に記載の異形ダイス。
【請求項4】
伸線方向に垂直な前記リダクション部の断面において、曲線状のコーナー部と前記コーナー部と異なる位置の非コーナー部とが設けられており、
前記リダクション部の前記コーナー部の表面粗さSaが0.15μm以下であり、
前記リダクション部の前記非コーナー部の表面粗さSaが0.10μm以下であり、
前記リダクション部および前記ベアリング部の前記非コーナー部の表面粗さSaの差が0.05μm以下である、請求項1から3のいずれかに記載の異形ダイス。
【請求項5】
前記コーナー部のリダクションの開き角度は、前記非コーナー部のリダクションの開き角度とは異なる角度である、請求項1から3のいずれかに記載の異形ダイス。
【請求項6】
前記コーナー部のリダクションの開き角度は、前記非コーナー部のリダクションの開き角度よりも大きい角度である、請求項5に記載の異形ダイス。
【請求項7】
前記コーナー部のリダクションの開き角度は、前記非コーナー部から遠ざかる位置になるほど大きい角度である、請求項6に記載の異形ダイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、異形ダイスに関する。本出願は、2021年11月17日に出願した日本特許出願である特願2021-187105号に基づく優先権を主張する。当該日本特許出願に記載された全ての記載内容は、参照によって本明細書に援用される。
【背景技術】
【0002】
従来、異形ダイスは、たとえば、国際公開2018/123513号(特許文献1)に開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【0004】
本開示の異形ダイスは、異形線を製作するための異形ダイスであって、伸線方向の上流側から順にリダクション部およびベアリング部を有する加工孔が設けられており、伸線方向に垂直なベアリング部の断面において、曲線状のコーナー部とコーナー部と異なる位置の非コーナー部とが設けられており、コーナー部の表面粗さは、非コーナー部の表面粗さよりも粗い。コーナー部の表面粗さSaは0.30μm以下であり、非コーナー部の表面粗さSaは0.20μm以下である。
【図面の簡単な説明】
【0005】
【
図1】
図1は、実施の形態に従った異形ダイヤモンドダイス10、異形ダイヤモンドダイス10を構成するダイヤモンド1、ダイヤモンド1を収納するケース2およびそれらの間に介在する焼結合金3の断面図である。
【
図3】
図3は、
図2中のIII-III線に沿った断面図である。
【
図4】
図4は、
図3中のIV-IV線に沿ったベアリング部6dを拡大して示す断面図である。
【
図5】
図5は、
図4に対応する断面であって、リダクション部6cにおけるコーナー部7a1および非コーナー部7b1を示す図である。
【
図6】
図6は、開き角度を説明するために示す加工孔7の伸線方向の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0006】
[本開示が解決しようとする課題]
従来の異形ダイスを用いて作製された異形線の精度が低いという問題があった。
[本開示の効果]
本開示に従えば、異形線の加工精度を高めることができる。
【0007】
[実施形態の詳細]
(全体の構成)
異形線伸線用ダイヤモンドダイスについて図面を用いてその概要を説明する。
図1は、実施の形態に従った異形ダイヤモンドダイス10、異形ダイヤモンドダイス10を構成するダイヤモンド1、ダイヤモンド1を収納するケース2およびそれらの間に介在する焼結合金3の断面図である。
図1は、ダイスケースに収めて使用できる状態の断面図である。ダイヤモンド1はケース2に収納される。ダイヤモンド1は焼結合金3を用いてケース2に取り付けられている。異形ダイスとしての異形ダイヤモンドダイス10において、線材を加工する部分は、たとえばダイヤモンド1によって構成される。
【0008】
図2は、
図1中のダイヤモンド1の正面図である。
図3は、
図2中のIII-III線に沿った断面図である。
図4は、
図3中のIV-IV線に沿ったベアリング部6dを拡大して示す断面図である。
図2から
図4で示すように、ダイヤモンド1は、超硬合金製サポートリング4で取り囲まれた多結晶ダイヤモンド5を有する。そして中心部は、伸線されるべき線材が接触しながら通る孔内面6と加工孔7から構成される。孔内面6はさらに細分化されていて、
図3にその詳細を示す。孔内面6は順にベル部6a、アプローチ部6b、リダクション部6c、ベアリング部6d、バックリリーフ部6e、エクジット部6fに分かれており、
図2で示すように、正面から見た形状が四角形に類似した形状となっている。ベアリング部6dは、加工孔7において最も径が小さい部分を含む領域である。
【0009】
加工孔7により形成された孔内面6のうち少なくともベル部6aからベアリング部6dにかけての面は、ダイヤモンドの厚み方向において滑らかな曲面で形成されている。すなわち、ベル部6a、アプローチ部6b、リダクション部6c、ベアリング部6dの各々が直線的に形成され、各々の境界部分に丸みを設けたものとは異なり、各部位全体が滑らかな曲面で形成される。この曲面は、単一Rの曲面または複合Rの曲面で形成されており、お互いの境界部は明確には分からない形状になっている。
【0010】
異形ダイヤモンドダイス10で伸線加工された後の線材の線径は10mm程度のものまであり、太い線径である。このような太い線を伸線加工する場合に、ベル部6aからベアリング部6dにかけての面が滑らかな曲面で形成されていると、伸線抵抗の大きな変化が無く、伸線加工された後の線材の表面の傷が生じにくく、表面あらさやうねりが小さくなる。また、潤滑材を供給する点においても、滑らかな曲線で形成されていると潤滑条件が良好となる。
【0011】
加工孔7の周りの多結晶ダイヤモンド5は加工孔7の円周方向に連続する単一の多結晶ダイヤモンドである。加工孔7周りの多結晶ダイヤモンド5は加工孔の円周方向に連続する単一の多結晶ダイヤモンドであるため、分割されたダイヤモンドと比較して高強度である。その結果、加工孔の精度が高く、伸線後の線材の表面粗さを小さくすることができる。
【0012】
(リダクション部6cおよびベアリング部6dの長さ)
ベアリング部6dの正面形状が四角形でその四角形の相対する面の距離をDとした場合に、伸線方向の長さ1.0Dの範囲をベアリング部6dとする。内径が最も小さい部分がベアリング部6dの中心であり、その部分に対して伸線方向の上下に0.5Dずつの領域がベアリング部6dである。ベアリング部6dに隣接するようにベアリング部6dの上流に位置して伸線方向の長さ0.5Dの範囲がリダクション部6cである。一般に、ベアリング部6dの長さは、異形ダイヤモンドダイス10の寿命向上すなわち多結晶ダイヤモンド5の摩耗防止や形状変化防止の点からは長い方が好ましい。
【0013】
しかしながら、極細線を伸線する場合、断線する問題が大きいため、ベアリング部6dを長くすることはできない。断線防止のためには、多結晶ダイヤモンド5と線材の接触面積を小さくすることと単位面積あたりの摩擦力を小さくするという二つの点から対策が必要である。そのため、まず線材接触面積を小さくする点からベアリング部6dを短くすることが好ましい。これにより摩擦力が低減される。
【0014】
また、滑らかな曲面にすることで接触面積が小さくなり、潤滑材の供給が切れることは防止され、伸線抵抗を安定させることができるので、断線防止効果が極めて大きくなる。さらに、ベアリング部6dを研磨加工する場合にも、ベアリング部6dの長さが長いと表面粗さの小さい滑らかな面にするのが困難であるが、短いので高精度な研磨加工が可能になり、これによっても伸線抵抗を安定させるという効果が生じる。
【0015】
(ベアリング部6dの表面粗さSa)
ベアリング部6dにおいてコーナー部7aと直線形状の非コーナー部7bとの表面粗さSaを比較すると、コーナー部7aの表面粗さが粗い。コーナー部の表面粗さSaは0.30μm以下であり、非コーナー部の表面粗さSaは0.20μm以下である。好ましくは、コーナー部7aの表面粗さSaが0.15μm以下であり、非コーナー部7bの表面粗さSaが0.10μm以下である。さらに好ましくは、コーナー部7aの表面粗さSaが0.10μm以下であり、非コーナー部7bの表面粗さSaが0.07μm以下である。
【0016】
表面粗さSaは、ISO 25178で定義される。測定範囲は、測定範囲中の山、谷が20山以上ある範囲とする。測定前処理は有り、傾き補正は有り、ガウシアンフィルタは無しの条件で測定する。ベアリング部6dは加工孔7において最も径の小さい部分であり、ベアリング部6dの表面粗さが線材の表面粗さと深く関連する。ベアリング部6dの非コーナー部の表面粗さSaは0.05μm以下が好ましい。高精度で長寿命のダイスとするには、ベアリング部6dの表面粗さSaが0.03μm以下であることがより好ましく、0.01μm以下であることが最も好ましい。ベアリング部6dの表面粗さSaは小さければ小さいほど好ましい。ただし、工業生産上、費用対効果を考慮すれば、ベアリング部6dの表面粗さSaは0.002μm以上であることが好ましい。
【0017】
ベアリング部6dの表面粗さSaを測定するためには、異形ダイスの加工孔7に転写材(たとえば、丸本ストルアス株式会社製、レプリセット)を充填して、加工孔7の表面を転写したレプリカを作製する。このレプリカをレーザ顕微鏡(たとえば、株式会社キーエンス、形状解析レーザ顕微鏡、VK-Xシリーズ)でコーナー部7aおよび非コーナー部7bを観察して任意の3か所での表面粗さSaを測定する。コーナー部7aおよび非コーナー部7bにおいてその3か所の表面粗さSaの平均値をベアリング部6dのコーナー部7aおよび非コーナー部7bにおける表面粗さSaとする。なお、伸線後の線材の表面粗さSaについても、当該レーザ顕微鏡で表面を観察して任意の3か所での表面粗さSaを測定する。その3か所の表面粗さSaの平均値を線材の表面粗さSaとする。
【0018】
(リダクション部6cの表面粗さ)
図5は、
図4に対応する断面であって、リダクション部6cにおけるコーナー部7a1および非コーナー部7b1を示す図である。好ましくは、リダクション部6cのコーナー部7a1の表面粗さSaが0.10μm以下であり、リダクション部6cの非コーナー部7b1の表面粗さSaが0.07μm以下であり、リダクション部6cおよびベアリング部6dの非コーナー部7b,7b1の表面粗さSaの差が0.05μm以下である。
【0019】
この場合、ベアリング部6d上流のリダクション部6cの表面粗さが小さいため、伸線後の線材の表面粗さを小さくすることができる。
【0020】
高精度で長寿命のダイスとするには、リダクション部6cのコーナー部7a1および非コーナー部7b1の表面粗さSaが0.05μm以下であることがより好ましく、0.03μm以下であることが最も好ましい。リダクション部6cの表面粗さSaは小さければ小さいほど好ましい。ただし、工業生産上、費用対効果を考慮すれば、リダクション部6cの表面粗さSaは0.01μm以上であることが好ましい。
【0021】
リダクション部6cの表面粗さは、ベアリング部6dの表面粗さと同様の方法で測定する。
【0022】
(辺の長さおよびコーナー部のR)
伸線された線材は、モータの巻線などに使用する。このような用途では、高密度に巻く必要があるため、線材のコーナー部のRは小さいほど好ましい。そのため、ベアリング部の四角形のコーナー部7aのRは、20μm以下としている。コーナー部7aのRは小さければ小さいほど好ましい。ただし、工業生産上、費用対効果を考慮すれば、コーナー部7aのRは1μm以上であることが好ましい。
【0023】
この実施の形態では、加工孔7が四角形状である場合を示しているが、加工孔7は四角に限られず、三角、六角などの他の多角形であってもよい。線材の長手方向に直交する多断面において、直線部分が含まれることが好ましい。さらに、各辺の長さが異なる場合において、一番長い辺の長さが1000μm以下であることが好ましい。一番長い辺の長さに下限は存在しない。ただし、一番長い辺が短すぎる場合には、工業生産上、製造コストが高くなる。そのため、費用対効果を考慮すれば、一番長い辺の長さは5μm以上であることが好ましい。
【0024】
加工孔7の形状はこの実施の形態では四角形としたが、これに限られず直線と半円が接続されたトラック形であっても良い。
【0025】
(リダクション部6cにおける開き角度)
図6は、開き角度を説明するために示す加工孔7の伸線方向の断面図である。本開示において、リダクション部6cにおける断面形状(リダクション断面)は、ベアリング部6dにおける断面形状とほぼ相似形である。リダクション部6cにおいて壁面の接線6c1と中心線7dとのなす角度θがリダクション部6cにおける開き角度(以下、リダクション角度という)である。リダクション部6cにおいて伸線方向の中心位置において接線6c1とリダクション部6cとが接触する。
【0026】
コーナー部7a1のリダクション角度は、非コーナー部7b1のリダクション角度とは異なる角度としても良い。
【0027】
また、コーナー部7a1のリダクション角度は、非コーナー部7b1のリダクション角度よりも大きい角度としても良い。
【0028】
このようにコーナー部7a1のリダクション角度を非コーナー部7b1のリダクション角度よりも大きくすると、コーナー部7a1の減面率は非コーナー部7b1の減面率よりも大きく設定することができる。これにより、伸線加工される線材はコーナー部7a1において非コーナー部7b1よりも急激に絞られることになる。このようにすれば、本開示の異形ダイスが対象としている太い径の線材であっても、コーナー部7a1の隅々にまで線材が加工されやすくなる。これにより、伸線加工された線材の形状精度が向上する。また、減面率を大きくすると伸線時の抵抗は上昇するが、前述のような表面あらさとすることで、伸線時の抵抗の上昇は抑制され、線材が破断する問題も起こりにくい。
【0029】
さらに、コーナー部7a1のリダクション角度は、非コーナー部7b1から遠ざかるほど大きい角度である。具体的には、リダクション角度は、コーナー部7a1の先端7a2に近づくほど大きい角度になるようにしても良い。コーナー部7a1の先端7a2とは、コーナー部7a1において中心線7dから最も距離が大きい場所をいう。
【0030】
このような形状にすることで、コーナー部7a1の先端7a2が最も減面率が大きくなり、コーナー部7a1の先端7a2にまで線材が加工されやすくなる。また、異形ダイスを製造する工程において、コーナー部7a1の加工が容易になるとともに、コーナー部7a1の精度を容易に向上させることができる。
【0031】
(ダイヤモンド粒径)
コーナー部7a1のRを小さくするため、さらにベアリング部6dの表面粗さSaを小さくするためには、多結晶ダイヤモンド5を構成するダイヤモンドの粒径が小さくなければならない。ダイヤモンドの平均粒径が500nm以下の多結晶ダイヤモンド(焼結ダイヤモンド)5を用いることが好ましい。
【0032】
高精度で長寿命のダイスとするには、ダイヤモンドの平均粒径が300nm以下であることがより好ましく、100nm以下であることが最も好ましい。ダイヤモンドの平均粒径は小さければ小さいほどよい。ただし、工業生産上、超微粒のダイヤモンド粒子はコスト高であるため、ダイヤモンドの平均粒径は5nm以上であることが好ましい。
【0033】
ダイヤモンド粒子の平均粒径を測定するには、多結晶ダイヤモンド5を走査型電子顕微鏡により、5μm×5μmの範囲で、任意の3か所を写真撮影する。写真撮影された画像から、個々のダイヤモンド粒子を抽出し、抽出したダイヤモンド粒子を2値化処理して各ダイヤモンド粒子の面積を算出する。そして、各ダイヤモンド粒子と同じ面積を持つ円を想定し、この円の直径をダイヤモンド粒子の粒径とする。各ダイヤモンド粒子径(円の直径)の算術平均値を平均粒径とする。
【0034】
(バインダ)
多結晶ダイヤモンド5には、バインダが含まれていてもよい。多結晶ダイヤモンドにおけるバインダの割合は5体積%以下であることが好ましい。高精度で長寿命のダイスとするには、バインダの割合は、3体積%以下であることがより好ましく、バインダが含まれないのが最も好ましい。
【0035】
バインダの割合を測定するには、上記の「(ダイヤモンド粒径)」の段落で記載したように、多結晶ダイヤモンド5を走査型電子顕微鏡により、5μm×5μmの範囲で、任意の3か所を写真撮影する。写真撮影された画像をAdobe Photoshop等で読み込み、輪郭のトレースから元の画像と合う閾値を算出し、その閾値で2階調化する。この2階調化で白色に写るバインダの面積を計算することができる。なお、ダイヤモンド粒子はグレー、粒界は黒に写る。バインダの面積割合をバインダの体積割合とする。
【0036】
(素材)
上記の例においては、ダイヤモンド1により線材を加工する例を示した。しかしながら、異形ダイスにおいてダイヤモンド1以外の硬質材料によってベアリング部6dが構成されていてもよい。
【0037】
ベアリング部6dを構成する材料として、たとえば、立方晶窒化ホウ素(CBN)または超硬合金がある。加工する線材の材質によってベアリング部6dの材質を決定することができる。
【0038】
(異形ダイヤモンドダイス10の製造方法)
異形ダイヤモンドダイス10の材料として、平均粒径5μm以下の焼結ダイヤモンドを準備する。この焼結ダイヤモンドを円柱形状に加工した後、レーザー加工法によって孔を開ける。次に、放電加工法によって粗加工を行う。次に、孔の研磨加工を行う。ダイヤモンドパウダーと研磨針を用いて超音波研磨を実施し仕上げを行う。
【0039】
(第一研磨)粒径0-2μmのダイヤモンドパウダーを用いて超音波研磨する。
(第二研磨)粒径0-1μmのダイヤモンドパウダーを用いて超音波研磨する。
【0040】
(第三研磨)粒径0-1/4μmのダイヤモンドパウダーを用いて超音波研磨する。
(第四研磨)粒径0-1/10μmのダイヤモンドパウダーを用いてワイヤー研磨する。
【0041】
コーナー部7aよりも重点的に非コーナー部7bを研磨する。これにより、ベアリング部6dにおける非コーナー部7bの表面粗さSaは0.026μmとなり、コーナー部7aの表面粗さSaは0.042μmとなった。リダクション部6cにおける非コーナー部7b1の表面粗さSaは0.029μmとなり、コーナー部7a1の表面粗さSaは0.058μmとなった。
【0042】
ダイヤモンドの研磨は一般的に加工用のパウダーを少しずつ細かくして研磨する。時間をかければ綺麗に研磨されるが、どこまで綺麗にするかの基準がない。本開示においては従来の研磨方法と比較してコーナー部および非コーナー部を線材加工に必要と考えられる高精度の規定値内とすることで線材内部の応力を均一にでき、ねじれなどの線癖を改善することができる。
【0043】
非コーナー部7bの表面粗さをコーナー部7aよりも小さくする理由は、異形ダイヤモンドダイス10においては、非コーナー部7bにおいて大きく加工され、コーナー部7aでは非コーナー部7bと比較してあまり加工されないからである。線材が大きく加工される非コーナー部7bにおいて表面粗さSaを小さくすることで、ねじれなどの問題の発生を抑制する。
【0044】
コーナー部7aの表面粗さを小さくするにはコーナー部7aを高精度に研磨する必要があるが、コーナー部7aは小さい半径Rで湾曲しているため高精度に研磨すると形状を変形させてしまう可能性があり、その場合に線材の形状を保つことができない。さらに、コーナー部7aは非コーナー部7bと比較して加工に寄与する割合が小さいので、非コーナー部7bと比較して表面粗さが粗くても線材のねじれなどの問題が生じない。
【0045】
本開示の異形ダイスは、異形線を製作するための異形ダイスであって、伸線方向の上流側から順にリダクション部6cおよびベアリング部6dを有する加工孔7が設けられており、伸線方向に垂直なベアリング部6dの断面において、曲線状のコーナー部7aとコーナー部7aと異なる位置の非コーナー部7bとが設けられており、コーナー部7aの表面粗さは、非コーナー部7bの表面粗さよりも粗い。
【0046】
好ましくは、コーナー部7aの表面粗さSaが0.10μm以下であり、非コーナー部7bの表面粗さSaが0.07μm以下である。
【0047】
好ましくは、伸線方向に垂直なリダクション部6cの断面において、曲線状のコーナー部7a1とコーナー部7a1と異なる位置の非コーナー部7b1とが設けられており、リダクション部6cのコーナー部7a1の表面粗さSaが0.10μm以下であり、リダクション部6cの非コーナー部7b1の表面粗さSaが0.07μm以下であり、リダクション部6cおよびベアリング部6dの非コーナー部7b,7b1の表面粗さSaの差が0.05μm以下である。
【0048】
伸線される線材は、銅、銀、鉄、金、アルミニウムなどの各種の金属とすることができる。
(実施例)
(試料番号1から8)
【0049】
【0050】
図1から5で示す形状で、各種の数値を様々に設定した表1で示す試料番号1から8の異形ダイヤモンドダイスを準備した。
【0051】
試料番号1の異形ダイヤモンドダイスを以下の方法で作成した。まず、レーザー加工法によって様々な平均粒径の多結晶ダイヤモンドに下穴を開け、次に、放電加工法によって粗加工を行った。次に、ラッピング加工により、仕上げ加工を行った。ラッピング加工法では、まず、圧延加工法によって、断面形状が95μm×50μmの長方形の各コーナー部にR20μmの丸みを付けた、ステンレス線を作製した。このステンレス線の95μmの辺を、ダイス穴の1辺に接触させ、ダイヤモンドスラリー(粒径0.2μmのダイヤモンドを含む)を供給しながら、往復運動させ仕上げ加工を行った。残りの3辺についても、同様な方法で仕上げ加工を行った。
【0052】
一辺が105μm、材質が銅である四角線を潤滑材中で伸線加工して(伸線速度10m/分)試験を1時間行い、長さ600mの四角線を得た。1時間伸線後の四角線の伸線方向に直角方向の線材の表面粗さSaをISO25178に従い評価した。表面粗さは、長さが600mの部分にて行った。その結果を表1に示す。
【0053】
試料番号1で伸線した四角線の表面粗さSaを1としたとき、表面粗さSaの相対値が0.8~1の試料を評価A、表面粗さSaの相対値が1を超え1.1以下の試料を評価B、表面粗さSaの相対値が1.1を超え1.3以下の試料を評価C、表面粗さSaの相対値が1.3を超え1.4以下の試料を評価D、表面粗さSaの相対値が1.4を超える試料を評価Eとした。評価AからDの試料は実用に供することができる。
【0054】
表1からは、すべての試料において、コーナー部7aの表面粗さは、非コーナー部7bの表面粗さよりも粗い。
【0055】
コーナー部7aの表面粗さSaが0.15μm以下であり、非コーナー部7bの表面粗さSaが0.10μm以下であることが好ましい。
【0056】
コーナー部7aの表面粗さSaが0.10μm以下であり、非コーナー部7bの表面粗さSaが0.07μm以下であることがさらに好ましい。
【0057】
リダクション部6cのコーナー部の表面粗さSaが0.15μm以下であり、リダクション部の非コーナー部の表面粗さSaが0.10μm以下であり、リダクション部およびベアリング部の表面粗さSaの差が0.05μm以下であることがさらに好ましい。
【0058】
(試料番号11から13)
【0059】
【0060】
図1から5で示す形状で、各種の数値を様々に設定した表2で示す試料番号11から13の異形ダイヤモンドダイスを準備した。
【0061】
伸線条件は、試料番号1から8の伸線条件よりも厳しい条件とした。
一辺が105μm、材質が銅である四角線を潤滑材中で伸線加工して(伸線速度13m/分)試験を1時間行い、長さ780mの四角線を得た。1時間伸線後の四角線の伸線方向に直角方向の線材の表面粗さSaをISO25178に従い評価した。表面粗さは、長さが780mの部分にて行った。その結果を表2に示す。
【0062】
試料番号11で伸線した四角線の表面粗さSaを1としたとき、表面粗さSaの相対値が0.8~1の試料を評価A、表面粗さSaの相対値が1を超え1.1以下の試料を評価Bとした。
【0063】
(試料番号21から28)
【0064】
【0065】
図1から5で示す形状で、各種の数値を様々に設定した表3で示す試料番号21から28の異形ダイヤモンドダイスを準備した。
【0066】
一辺が2100μm、別の辺が4200μmで、材質が銅である四角線を潤滑材中で伸線加工して(伸線速度13m/分)試験を1時間行い、長さ780mの四角線を得た。1時間伸線後の四角線の伸線方向に直角方向の線材の表面粗さSaをISO25178に従い評価した。表面粗さは、長さが780mの部分にて行った。その結果を表3に示す。
【0067】
試料番号21で伸線した四角線の表面粗さSaを1としたとき、表面粗さSaの相対値が0.8~1の試料を評価A、表面粗さSaの相対値が1を超え1.1以下の試料を評価B、表面粗さSaの相対値が1.1を超え1.3以下の試料を評価C、表面粗さSaの相対値が1.3を超え1.4以下の試料を評価D、表面粗さSaの相対値が1.4を超える試料を評価Eとした。評価AからDの試料は実用に供することができる。
【0068】
(試料番号31から38)
【0069】
【0070】
図1から5で示す形状で、各種の数値を様々に設定した表4で示す試料番号31から38の異形ダイヤモンドダイスを準備した。
【0071】
一辺が5250μm、別の辺が7350μmで、材質が銅である四角線を潤滑材中で伸線加工して(伸線速度13m/分)試験を1時間行い、長さ780mの四角線を得た。1時間伸線後の四角線の伸線方向に直角方向の線材の表面粗さSaをISO25178に従い評価した。表面粗さは、長さが780mの部分にて行った。その結果を表4に示す。
【0072】
試料番号31で伸線した四角線の表面粗さSaを1としたとき、表面粗さSaの相対値が0.8~1の試料を評価A、表面粗さSaの相対値が1を超え1.1以下の試料を評価B、表面粗さSaの相対値が1.1を超え1.3以下の試料を評価C、表面粗さSaの相対値が1.3を超え1.4以下の試料を評価D、表面粗さSaの相対値が1.4を超える試料を評価Eとした。評価AからDの試料は実用に供することができる。
【0073】
(試料番号41から48)
【0074】
【0075】
図1から5で示す形状で、各種の数値を様々に設定した表5で示す試料番号41から48の異形ダイヤモンドダイスを準備した。
【0076】
一辺が7350μm、別の辺が9450μmで、材質が銅である四角線を潤滑材中で伸線加工して(伸線速度13m/分)試験を1時間行い、長さ780mの四角線を得た。1時間伸線後の四角線の伸線方向に直角方向の線材の表面粗さSaをISO25178に従い評価した。表面粗さは、長さが780mの部分にて行った。その結果を表5に示す。
【0077】
試料番号41で伸線した四角線の表面粗さSaを1としたとき、表面粗さSaの相対値が0.8~1の試料を評価A、表面粗さSaの相対値が1を超え1.1以下の試料を評価B、表面粗さSaの相対値が1.1を超え1.3以下の試料を評価C、表面粗さSaの相対値が1.3を超え1.4以下の試料を評価D、表面粗さSaの相対値が1.4を超える試料を評価Eとした。評価AからDの試料は実用に供することができる。
【0078】
(試料番号51から58)
【0079】
【0080】
図1から5で示す形状で、各種の数値を様々に設定した表6で示す試料番号51から58の異形ダイヤモンドダイスを準備した。
【0081】
一辺が9450μm、別の辺が11550μmで、材質が銅である四角線を潤滑材中で伸線加工して(伸線速度13m/分)試験を1時間行い、長さ780mの四角線を得た。1時間伸線後の四角線の伸線方向に直角方向の線材の表面粗さSaをISO25178に従い評価した。表面粗さは、長さが780mの部分にて行った。その結果を表6に示す。
【0082】
試料番号51で伸線した四角線の表面粗さSaを1としたとき、表面粗さSaの相対値が0.8~1の試料を評価A、表面粗さSaの相対値が1を超え1.1以下の試料を評価B、表面粗さSaの相対値が1.1を超え1.3以下の試料を評価C、表面粗さSaの相対値が1.3を超え1.4以下の試料を評価D、表面粗さSaの相対値が1.4を超える試料を評価Eとした。評価AからDの試料は実用に供することができる。
【0083】
リダクション部6cのコーナー部7a1の表面粗さSaが0.15μm以下であり、リダクション部6cの非コーナー部7b1の表面粗さSaが0.10μm以下であり、リダクション部6cおよびベアリング部6dの非コーナー部7b,7b1の表面粗さSaの差が0.05μm以下であることがさらに好ましい。
【0084】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて請求の範囲によって示され、請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0085】
1 ダイヤモンド、2 ケース、3 焼結合金、4 合金製サポートリング、5 多結晶ダイヤモンド、6 孔内面、6a ベル部、6b アプローチ部、6c リダクション部、6d ベアリング部、6e バックリリーフ部、6f エクジット部、7 加工孔、7a,7a1 コーナー部、7b,7b1 非コーナー部、10 異形ダイヤモンドダイス。