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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-02-13
(45)【発行日】2025-02-21
(54)【発明の名称】半導体装置およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   H10D 30/66 20250101AFI20250214BHJP
   H10D 30/01 20250101ALI20250214BHJP
【FI】
H10D30/66 101K
H10D30/01 301F
H10D30/01 301L
H10D30/66 101C
H10D30/66 101L
H10D30/66 101T
H10D30/66 102G
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2023567482
(86)(22)【出願日】2021-12-17
(86)【国際出願番号】 JP2021046752
(87)【国際公開番号】W WO2023112312
(87)【国際公開日】2023-06-22
【審査請求日】2023-11-28
(73)【特許権者】
【識別番号】000006013
【氏名又は名称】三菱電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088672
【弁理士】
【氏名又は名称】吉竹 英俊
(74)【代理人】
【識別番号】100088845
【弁理士】
【氏名又は名称】有田 貴弘
(72)【発明者】
【氏名】岩松 俊明
【審査官】岩本 勉
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/138221(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/081935(WO,A1)
【文献】特開2014-060272(JP,A)
【文献】特開2018-046246(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H10D 30/66
H10D 30/01
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1導電型の炭化珪素基板と、
前記炭化珪素基板上に形成された第1導電型のドリフト層と、
前記ドリフト層の表層に選択的に形成された第2導電型の複数のウェル領域と、
各前記ウェル領域の表層に選択的に形成された第1導電型のソース領域と、
前記ドリフト層の表層であって平面視において隣り合う各前記ウェル領域間に形成され、前記ドリフト層の不純物濃度よりも高い不純物濃度を有する低抵抗領域と、
前記ソース領域上、各前記ウェル領域上、および前記低抵抗領域上に亘って形成されたゲート絶縁膜と、
前記ゲート絶縁膜上に形成されたゲート電極と、
を備え、
前記ゲート絶縁膜は、各前記ウェル領域に接する第1領域と、前記低抵抗領域に接する第2領域とを含み、
前記第2領域における正の固定電荷の密度は、前記第1領域における正の固定電荷の密度よりも高く、
前記ゲート絶縁膜の前記第2領域は、前記ゲート絶縁膜の前記第1領域とは異なる元素を含み、
前記ゲート絶縁膜の前記第2領域における前記元素の濃度ピークは、前記第2領域と前記低抵抗領域との界面、または当該界面から10nm以内の前記第2領域にある、半導体装置。
【請求項2】
前記ゲート絶縁膜の前記第2領域における前記元素は、セシウム、バリウム、ストロンチウム、およびルビジウムのうちの少なくとも1つを含む、請求項に記載の半導体装置。
【請求項3】
第1導電型の炭化珪素基板と、
前記炭化珪素基板上に形成された第1導電型のドリフト層と、
前記ドリフト層の表層に選択的に形成された第2導電型の複数のウェル領域と、
各前記ウェル領域の表層に選択的に形成された第1導電型のソース領域と、
前記ドリフト層の表層であって平面視において隣り合う各前記ウェル領域間に形成され、前記ドリフト層の不純物濃度よりも高い不純物濃度を有する低抵抗領域と、
前記ソース領域上、各前記ウェル領域上、および前記低抵抗領域上に亘って形成されたゲート絶縁膜と、
前記ゲート絶縁膜上に形成されたゲート電極と、
を備え、
前記ゲート絶縁膜は、各前記ウェル領域に接する第1領域と、前記低抵抗領域に接する第2領域とを含み、
前記第2領域における正の固定電荷の密度は、前記第1領域における正の固定電荷の密度よりも高く、
前記ゲート絶縁膜の前記第2領域は、前記ゲート絶縁膜の前記第1領域とは異なる絶縁材料を含む、半導体装置。
【請求項4】
前記ゲート絶縁膜の前記第2領域における前記絶縁材料は、窒化シリコン、酸窒化シリコン、酸化ハフニウム、酸窒化ハフニウム、酸化ジルコニウム、酸窒化ジルコニウム、酸化アルミニウム、酸窒化アルミニウム、酸化タンタル、および酸窒化タンタルのうちの少なくとも1つを含む、請求項に記載の半導体装置。
【請求項5】
前記低抵抗領域は、深さ方向において前記ゲート絶縁膜に近づくほど不純物濃度が高い、請求項1から4のいずれか1項に記載の半導体装置。
【請求項6】
前記ゲート絶縁膜の前記第2領域は、前記ゲート絶縁膜の前記第1領域よりも厚い、請求項1から5のいずれか1項に記載の半導体装置。
【請求項7】
前記ゲート絶縁膜の前記第2領域と前記低抵抗領域との界面における窒素濃度は、前記ゲート絶縁膜の前記第1領域と各前記ウェル領域との界面における窒素濃度よりも高濃度である、請求項1からのいずれか1項に記載の半導体装置。
【請求項8】
第1導電型の炭化珪素基板を準備する第1工程と、
前記炭化珪素基板上に第1導電型のドリフト層を形成する第2工程と、
前記ドリフト層の表層に第2導電型の複数のウェル領域を選択的に形成する第3工程と、
各前記ウェル領域の表層に第1導電型のソース領域を選択的に形成する第4工程と、
前記ドリフト層の表層であって平面視において隣り合う各前記ウェル領域間に、前記ドリフト層の不純物濃度よりも高い不純物濃度を有する低抵抗領域を形成する第5工程と、
前記ソース領域上、各前記ウェル領域上、および前記低抵抗領域上に亘ってゲート絶縁膜を形成する第6工程と、
前記ゲート絶縁膜上にゲート電極を形成する第7工程と、
を備え、
前記ゲート絶縁膜は、各前記ウェル領域に接する第1領域と、前記低抵抗領域に接する第2領域とを含み、
前記第2領域における正の固定電荷の密度は、前記第1領域における正の固定電荷の密度よりも高く、
前記第6工程は、
前記低抵抗領域上のみに第1ゲート絶縁膜を形成する第8工程と、
前記第8工程の後、前記ソース領域上、各前記ウェル領域上、および前記第1ゲート絶縁膜上に亘って第2ゲート絶縁膜を形成する第9工程と、
を含む、半導体装置の製造方法。
【請求項9】
前記第1ゲート絶縁膜は、前記第2ゲート絶縁膜とは異なる絶縁材料を含む、請求項に記載の半導体装置の製造方法。
【請求項10】
第1導電型の炭化珪素基板を準備する第1工程と、
前記炭化珪素基板上に第1導電型のドリフト層を形成する第2工程と、
前記ドリフト層の表層に第2導電型の複数のウェル領域を選択的に形成する第3工程と、
各前記ウェル領域の表層に第1導電型のソース領域を選択的に形成する第4工程と、
前記ドリフト層の表層であって平面視において隣り合う各前記ウェル領域間に、前記ドリフト層の不純物濃度よりも高い不純物濃度を有する低抵抗領域を形成する第5工程と、
前記ソース領域上、各前記ウェル領域上、および前記低抵抗領域上に亘ってゲート絶縁膜を形成する第6工程と、
前記ゲート絶縁膜上にゲート電極を形成する第7工程と、
を備え、
前記ゲート絶縁膜は、各前記ウェル領域に接する第1領域と、前記低抵抗領域に接する第2領域とを含み、
前記第2領域における正の固定電荷の密度は、前記第1領域における正の固定電荷の密度よりも高く、
前記ソース領域上にソース電極を形成する第10工程と、
前記炭化珪素基板の裏面にドレイン電極を形成する第11工程と、
前記ソース電極および前記ゲート電極に0V以下の電圧を印加し、予め定められた素子耐圧の80%以上の電圧を5秒以上印加する第12工程と、
をさらに備える、半導体装置の製造方法。
【請求項11】
前記第12工程において、前記ソース電極および前記ゲート電極に0Vの電圧を印加する、請求項10に記載の半導体装置の製造方法。
【請求項12】
前記第5工程は、前記ドリフト層の表層であって平面視において隣り合う各前記ウェル領域間に、第1導電型の不純物を注入エネルギを変えて複数回注入することによって前記低抵抗領域を形成する工程を含む、請求項8から11のいずれか1項に記載の半導体装置の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、高耐圧MOSFETを有する半導体装置およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電力制御用の半導体装置として、MOSFET(Metal-Oxide-Semiconductor Field-Effect Transistor)または絶縁ゲート型バイポーラトランジスタ(Insulated Gate Bipolar Transistor:IGBT)など、MOS構造のゲート電極を有する半導体装置(以下、「半導体スイッチング素子」ともいう)が広く使用されている。
【0003】
インバータ等のパワーエレクトロニクス機器の省エネを実現するためには、MOSFETのような半導体スイッチング素子の損失を低減させる必要がある。半導体スイッチング素子の損失は、素子の導通損、および素子のスイッチング損失によって決定されるため、これらを低減させるために炭化珪素(SiC)または窒化ガリウム(GaN)などのワイドバンドギャップ半導体材料を用いた半導体スイッチング素子の開発が進められている。
【0004】
一方、大電力を制御するためには、半導体スイッチング素子の信頼性の向上と安定化が求められる。特にSiC-MOSFETは、Si-MOSFETに比べて絶縁破壊耐量が大きいためドリフト濃度を高濃度に設定することができるが、MOSFETのオフ動作時にドレインに高電圧が印加されたときにゲート絶縁膜に大きな電界がかかる。ゲート絶縁膜に大きな電圧がかかると、ゲート絶縁膜の劣化および破壊、すなわち半導体スイッチング素子の耐圧低下の原因となる。ここで、SiC-MOSFETとはSiCを使用したMOSFETのことをいい、Si-MOSFETとはSiを使用したMOSFETのことをいう。
【0005】
従来の半導体装置として、例えば、下記の特許文献1~4が開示されている。
【0006】
特許文献1では、ゲート絶縁膜に接するn型エピタキシャル層に形成されたJFET(Junction Field-Effect Transistor)領域にp型電界緩和領域を設けることにより、SiC-MOSFETのオフ動作時にゲート絶縁膜にかかる電界強度を緩和する構造が提案されている。
【0007】
特許文献2では、MOSFETのオフ動作時のゲート酸化膜の信頼性向上を目的としており、JFET部上のゲート絶縁膜に負の固定電荷を設定し、JFET部上のゲート絶縁膜にかかる電界強度を緩和する構造が提案されている。
【0008】
半導体装置のスイッチング特性を向上させるためには、静電容量を低減することが有効である。特許文献3では、ドレイン電流の低減を抑制し、かつスイッチング特性を向上させるためにJFET領域上のゲート絶縁膜を厚くする構造が提案されている。
【0009】
SiC―MOS構造では、ゲート絶縁膜と半導体層との界面に高密度の界面準位密度があり、チャネル移動度は著しく低い。従って、SiC―MOS構造では、チャネル抵抗が増大し、それに伴いオン抵抗も大きくなる。特許文献4では、ゲート絶縁膜とドリフト層と界面に適度の窒素を導入するプロセス技術を適用することについて開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【文献】特許第5895750号公報
【文献】特許第5995701号公報
【文献】特開2014-60272号公報
【文献】特開2011-82454号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
特許文献1の構造では、MOSFETのオン動作のときに、ドレイン-ソース間の電流が電界緩和領域から広がった空乏層によって妨げられてしまい、ウェル領域の抵抗値(いわゆるJFET抵抗値)が大きくなる。特にSiC-MOSFETでは、ドリフト領域であるエピタキシャル層の膜厚を薄くし、エピタキシャル層におけるキャリア密度を濃く形成することが可能であるため、ドリフト抵抗は小さく、MOSFET全体のオン抵抗の大部分をJFET抵抗およびチャネル抵抗が占めることになる。特許文献1では、電界緩和層の膜厚を薄く設定して抵抗抑制を試みているものの、十分な低抵抗値ではない。従って、特許文献1で開示されているSiC-MOSFETでは、ゲート絶縁膜の信頼性は向上するが、オン抵抗の低減が課題であった。
【0012】
MOSFETがオフ動作のときにゲート電圧として負バイアスが印加されると、JFET部からゲート絶縁膜へ正孔が注入される。この正孔注入によってゲート絶縁膜がダメージを受ける場合がある。特許文献2では、ゲート絶縁膜に負の固定電荷を設定することが開示されているが、負の固定電荷によってJFET部からゲート絶縁膜への正孔の注入量が増大し、ゲート絶縁膜がダメージを受ける場合があった。
【0013】
特許文献3では、ウェル上のゲート絶縁膜の厚みを大きくするとチャネルを流れるドレイン電流が低減するため、JFET領域上のゲート絶縁膜のみを厚くしている。特許文献3では、容量低減のためにJFET領域上のゲート絶縁膜を厚くしており、固定電荷について言及していない。ゲート絶縁膜の信頼性の観点から、ゲート絶縁膜を厚くすることによる電界緩和は有効であるが、正孔注入を抑制するためには、電界緩和に加えて正の固定電荷をゲート絶縁膜に設定することが有効である。
【0014】
特許文献4では、SiC―MOSFETのウェル上のゲート絶縁膜とドリフト層との界面に適度の窒素を導入しているが、窒素濃度が高濃度になるに従って正の固定電荷量も増大するため、窒素濃度を高濃度に設定した場合には極端にしきい値電圧が低下するという問題がある。従って、SiC―MOSFETのウェル上のゲート絶縁膜とドリフト層との界面に導入する窒素濃度には上限がある。また、引用文献4では、MOSFETまたはJFET部におけるゲート絶縁膜の信頼性について言及していない。
【0015】
上記より、従来の半導体装置では、オン動作時の低抵抗化と、オフ動作時のゲート絶縁膜の耐圧低下の抑制とを両立することができず、信頼性を向上させるためには改善の余地があった。
【0016】
本開示は、このような問題を解決するためになされたものであり、信頼性を向上させることが可能な半導体装置およびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
上記の課題を解決するために、本開示による半導体装置は、第1導電型の炭化珪素基板と、炭化珪素基板上に形成された第1導電型のドリフト層と、ドリフト層の表層に選択的に形成された第2導電型の複数のウェル領域と、各ウェル領域の表層に選択的に形成された第1導電型のソース領域と、ドリフト層の表層であって平面視において隣り合う各ウェル領域間に形成され、ドリフト層の不純物濃度よりも高い不純物濃度を有する低抵抗領域と、ソース領域上、各ウェル領域上、および低抵抗領域上に亘って形成されたゲート絶縁膜と、ゲート絶縁膜上に形成されたゲート電極とを備え、ゲート絶縁膜は、各ウェル領域に接する第1領域と、低抵抗領域に接する第2領域とを含み、第2領域における正の固定電荷の密度は、第1領域における正の固定電荷の密度よりも高く、ゲート絶縁膜の第2領域は、ゲート絶縁膜の第1領域とは異なる元素を含み、ゲート絶縁膜の第2領域における元素の濃度ピークは、第2領域と低抵抗領域との界面、または当該界面から10nm以内の第2領域にある

【発明の効果】
【0018】
本開示によれば、オン動作時の低抵抗化と、オフ動作時のゲート絶縁膜の耐圧低下の抑制とを両立して半導体装置の信頼性を向上させることが可能となる。
【0019】
本開示の目的、特徴、態様、および利点は、以下の詳細な説明と添付図面とによって、より明白となる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】実施の形態1による半導体装置の構成の一例を示す断面図である。
図2】実施の形態1による半導体装置の製造工程の一例を示す断面図である。
図3】実施の形態1による半導体装置の製造工程の一例を示す断面図である。
図4】実施の形態1による半導体装置の製造工程の一例を示す断面図である。
図5】実施の形態2による半導体装置の製造工程の一例を示す断面図である。
図6】実施の形態2による半導体装置の製造工程の一例を示す断面図である。
図7】実施の形態2による半導体装置の製造工程の一例を示す断面図である。
図8】実施の形態2による半導体装置の製造工程の一例を示す断面図である。
図9】実施の形態2による半導体装置の製造工程の一例を示す断面図である。
図10】実施の形態2による半導体装置の製造工程の一例を示す断面図である。
図11】実施の形態2によるゲート酸化膜の固定電荷とJFET領域上のゲート酸化膜通過電界との関係を示すデバイスシミュレーションの結果を示す図である。
図12】実施の形態2によるゲート酸化膜の固定電荷とJFET領域上のゲート酸化膜通過電流との関係を示すデバイスシミュレーションの結果を示す図である。
図13】実施の形態3による半導体装置の製造工程の一例を示す断面図である。
図14】実施の形態3による半導体装置の製造工程の一例を示す断面図である。
図15】実施の形態4による半導体装置の製造工程の一例を示す断面図である。
図16】実施の形態4による半導体装置の製造工程の一例を示す断面図である。
図17】実施の形態4による半導体装置の製造工程の一例を示す断面図である。
図18】実施の形態4による半導体装置の製造工程の一例を示す断面図である。
図19】実施の形態4による半導体装置の製造工程の一例を示す断面図である。
図20】実施の形態4による半導体装置を含むモジュールの製造方法の一例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、添付の図面を参照しながら実施形態について説明する。なお、図面は模式的に示されたものであり、異なる図面にそれぞれ示されている画像のサイズおよび位置の相互関係は、必ずしも正確に記載されたものではなく、適宜変更され得る。また、以下の説明では、同様の構成要素には同じ符号を付して図示し、それらの名称および機能も同様のものとする。よって、それらについての詳細な説明を省略する場合がある。
【0022】
また、以下の説明では、「上」、「下」、「側」、「底」、「表」または「裏」などの特定の位置および方向を意味する用語が用いられる場合がある。これらの用語は、実施形態の内容を理解することを容易にするため便宜上用いられているものであり、実際に実施される際の方向とは無関係である。
【0023】
本開示において、「固定電荷」とは、本開示による半導体装置の実用温度領域での動作において、実質的に移動しないものであって、正または負に帯電した荷電状態、あるいは、正または負に帯電した荷電状態にある物質等を意味する。固定電荷は、例えば、結晶の歪みまたは欠陥等に起因する荷電状態、原子間結合の歪みまたは欠損に起因する荷電状態、正または負に帯電した原子、分子、微粒子、微結晶等、不純物等が作るドナー準位から電子が放出されて正に荷電した状態、アクセプタ準位に電子が捕獲されて負に荷電した状態に起因する状態等にある物質等であってもよい。
【0024】
<実施の形態1>
<構成>
図1は、実施の形態1による半導体装置100の構成の一例を示す断面図である。半導体装置100は、nチャネル型のSiC-MOSFETである。
【0025】
図1に示すように、n型(第1導電型)の炭化珪素基板1上には、n型のドリフト層3が形成されている。ドリフト層3の表層には、p型(第2導電型)のウェル領域6が選択的に形成されている。
【0026】
ウェル領域6の表層には、n型のソース領域5が形成されており、ソース領域5に隣接してp型のウェルコンタクト領域9が形成されている。ウェルコンタクト領域9は、ソース領域5とウェル領域6との電位を同一にするために設けられている。ウェルコンタクト領域9を設けることによって、寄生トランジスタの動作を抑えることができる。
【0027】
ドリフト層3の表層には、平面視において隣り合うウェル領域6間に、ドリフト層3の不純物濃度よりも高い不純物濃度を有する低抵抗領域20が形成されている。低抵抗領域20は、JFET領域4に含まれている。
【0028】
ドリフト層3、ソース領域5、ウェル領域6、ウェルコンタクト領域9、および低抵抗領域20は、半導体層2を構成する。
【0029】
ソース領域5上の一部からドリフト層3上に亘って絶縁性のゲート絶縁膜7が形成されており、ゲート絶縁膜7上にゲート電極8が形成されている。ゲート電極8とソース電極11とを分離するために、ゲート電極8を覆うように層間絶縁膜13が形成されている。ウェルコンタクト領域9上には、コンタクトホール31を設けるために層間絶縁膜13が形成されていない。層間絶縁膜13およびウェルコンタクト領域9上には、バリアメタル32が形成されている。バリアメタル32上には、ソース電極11が形成されている。また、炭化珪素基板1の裏面には、ドレイン電極12が形成されている。
【0030】
ゲート絶縁膜7とウェル領域6との界面には窒素があり、その窒素により正の固定電荷41が設けられている。また、ゲート絶縁膜7と後述するJFET領域4との界面にも窒素があり、その窒素により正の固定電荷40が設けられている。固定電荷41は、ゲート絶縁膜7とウェル領域6との界面近傍であってゲート絶縁膜7内に設けられている。固定電荷40は、ゲート絶縁膜7とJFET領域4との界面近傍であってゲート絶縁膜7内に設けられている。ゲート絶縁膜7は、ウェル領域6に接する第1領域と、JFET領域4に接する第2領域とを含んでいる。ゲート絶縁膜7とJFET領域4との界面は、ゲート絶縁膜7と低抵抗領域20との界面と同義である。
【0031】
ゲート絶縁膜7とJFET領域4との界面における窒素濃度は、ゲート絶縁膜7とウェル領域6との界面における窒素濃度よりも高濃度である。すなわち、ゲート絶縁膜7とJFET領域4との界面における固定電荷40は、ゲート絶縁膜7とウェル領域6との界面における固定電荷41よりも高密度である。
【0032】
ゲート電極にゲート電圧を印加したオン動作時のMOSFETの特性は、ウェル領域上のゲート絶縁膜界面に形成されるキャリア量とその移動度とによって決まる。例えば、特許文献4に開示されているように、従来のSiC―MOSFETにおけるゲート絶縁膜とウェル領域との界面には高密度の界面準位密度があり、MOSFETのチャネル移動度が著しく低いためチャネル抵抗は増大し、それに伴ってオン抵抗も大きかった。このような問題の対策として、特許文献4では、ゲート絶縁膜とウェル領域との界面に適度の窒素を導入するプロセス技術を適用することによって特性を改善した。しかし、ゲート絶縁膜とウェル領域との界面に導入する窒素濃度が高濃度になるに従って、正の固定電荷量も増大するため、高濃度に設定した場合には極端にしきい値電圧が低下するといった新たな問題が生じる。従って、ゲート絶縁膜とウェル領域との界面に導入する窒素濃度には上限がある。
【0033】
一方、JFET領域の抵抗値はMOSFETのオン特性に影響するが、ゲート絶縁膜とJFET領域との界面における固定電荷の量は、MOSFETの特性には直接影響しない。オフ動作時は、ゲート絶縁膜の信頼性を考慮する必要があり、MOSFETの特性で制約となる窒素濃度よりも、さらに高濃度の窒素をゲート絶縁膜とJFET領域との界面に設けることが有効である。
【0034】
<半導体装置100の動作>
半導体装置100の動作について説明する。
【0035】
半導体装置100において、ゲート電極8に正の電圧を印加すると、ウェル領域6におけるゲート絶縁膜7との界面に電流の経路が形成される。この状態でドレイン電極12に正の電圧を印加すると、ドレイン電極12から炭化珪素基板1、ドリフト層3、ウェル領域6、およびソース領域5を経てソース電極11に電流が流れる。
【0036】
特に、SiCのようなワイドバンドギャップ半導体材料を用いた半導体装置100では、ドリフト層3を高濃度化および薄膜化することが可能であり低抵抗であるため、平面視において隣り合うウェル領域6間の電流経路(JFET領域4)の抵抗(JFET抵抗)と、チャネル部分の抵抗(チャネル抵抗)とを低減させることは、半導体装置100の導通損失を低減させるために非常に有効である。
【0037】
一方、ゲート電極8に印加する正の電圧を除去する、あるいはゲート電極8に負の電圧を印加すると、ゲート絶縁膜7の界面近傍のウェル領域6が空乏化される。これにより、ドレイン電極12に高電圧を印加してもドレイン電極12-ソース電極11間の電流を遮断することができる。
【0038】
このとき、ゲート絶縁膜7が高電界にさらされるが、最も電界が集中するゲート絶縁膜7とJFET領域4との界面には正の固定電荷40が形成されているため、ゲート絶縁膜7にかかる電界によるドリフト層3からの正孔の流入量を低減することができ、ゲート絶縁膜7の信頼性が確保される。特に、SiCを半導体材料として用いると絶縁破壊電界が大きくなるため、ドリフト層3に高電界が印加されるように設計することが多く、その分ゲート絶縁膜7にかかる電界強度も大きくなる。従って、本実施の形態1による半導体装置100の構造は、正の固定電荷40で正孔の流入を抑制するため、ゲート絶縁膜7の信頼性を確保する観点で有効である。
【0039】
<半導体装置100の製造方法>
半導体装置100の製造方法について、図2図4を参照しつつ説明する。
【0040】
図2に示すように、n型で低抵抗の炭化珪素基板1を準備し(第1工程)、エピタキシャル成長によって炭化珪素基板1上にn型のドリフト層3を形成する(第2工程)。本実施の形態1では、ドリフト層3のn型の不純物濃度は1×1013cm-3~1×1018cm-3であり、ドリフト層3の厚さは4μm~200μmとする。
【0041】
図3に示すように、ドリフト層3の表層において、互いに離間したp型のウェル領域6を選択的に形成する(第3工程)。そして、ウェル領域6の表層に、n型のソース領域5を選択的に形成する(第4工程)。具体的には、フォトリソグラフィによって加工されたレジストまたは酸化膜等をマスクとして、Alイオンを注入してp型のウェル領域6を形成し、Nイオンを注入してn型のソース領域5を形成する。
【0042】
ウェル領域6における不純物濃度は、1×1015cm-3~1×1018cm-3程度である。また、ウェル領域6を形成する際に注入されるAlイオンの注入深さは、0.3μm~2.0μmである。
【0043】
ソース領域5は、その底面がウェル領域6の底面より深くならないように形成される。ソース領域5における不純物濃度は、ウェル領域6の不純物濃度より高く、かつ、1×1017cm-3~1×1021cm-3程度である。
【0044】
ウェル領域6の表層において、平面視においてソース領域5と隣接するようにウェルコンタクト領域9を形成する。ウェルコンタクト領域9の不純物濃度は、ウェル領域6の不純物濃度よりも高い。
【0045】
ウェル領域6が形成されていない領域、すなわちドリフト層3の表層であって平面視において隣り合うウェル領域6間に、n型の低抵抗領域20を形成する(第5工程)。具体的には、Nイオンを注入してn型の低抵抗領域20を形成する。低抵抗領域20における不純物濃度は、1×1018cm-3~1×1021cm-3程度である。また、低抵抗領域20を形成する際に注入されるNイオンの注入深さは、0.3μm~1.0μmである。低抵抗領域20は、深さ方向においてゲート絶縁膜7に近づくほど不純物濃度が高い。低抵抗領域20を形成することによって、ドリフト層3の最表面近傍の不純物濃度が高濃度となるため、JFET抵抗を低くすることができる。
【0046】
次に、熱処理装置によって、Arガスなどの不活性ガス雰囲気中でアニールを行う。アニールは、1300℃~1900℃で、30秒~1時間程度行う。このアニールを行うことによって、イオン注入されたN等のn型の不純物、および、Al等のp型の不純物を活性化させる。
【0047】
次に、図4に示すように、ゲート絶縁膜7およびゲート電極8を形成する(第6工程、第7工程)。ゲート絶縁膜7は、1150℃以上のドライ熱酸化法によって形成する。なお、ゲート絶縁膜7は、堆積法で形成してもよく、ゲート絶縁膜7の形成後に窒素またはアンモニア雰囲気中で熱処理を行うことによって形成してもよい。また、ゲート絶縁膜7は、当該ゲート絶縁膜7の形成前にドリフト層3の表面を水素雰囲気中で高温アニールを行うことによって形成してもよい。
【0048】
具体的には、高温の酸化雰囲気中で熱酸化による二酸化珪素膜を形成することによってゲート絶縁膜7を形成する。あるいは、CVD(Chemical Vapor Deposition)による二酸化珪素堆積膜の形成後に、高温のアンモニア雰囲気(NH)、亜酸化窒素(NO)ガス雰囲気、または一酸化窒素(NO)ガス雰囲気中で窒化することによってゲート絶縁膜7を形成する。
【0049】
ゲート絶縁膜7を形成する工程において、ゲート絶縁膜7とウェル領域6との界面に正の固定電荷41を形成し、ゲート絶縁膜7とJFET領域4との界面に正の固定電荷40を形成する。なお、JFET領域4のドリフト層3(低抵抗領域20)には、ゲート絶縁膜7を形成する前に高濃度の窒素が注入されているため、ゲート絶縁膜7とウェル領域6との界面の窒素量よりも多くの窒素が偏析される。高濃度に窒素が偏析したゲート絶縁膜7とJFET領域4との界面には、ゲート絶縁膜7とウェル領域6との界面よりも高濃度の正の固定電荷40が形成される。
【0050】
ゲート絶縁膜7は同一の酸化工程で形成されるため、ウェル領域6上に形成されるゲート絶縁膜7の膜厚とJFET領域4上に形成されるゲート絶縁膜7の膜厚とは、ほぼ同等である。ただし、ゲート絶縁膜7を形成する前に低抵抗領域20に高濃度の不純物を注入した場合は、ドリフト層3の表層に注入ダメージ層が形成され、当該注入ダメージ層を酸化することによる増速酸化によって、JFET領域4上に形成されるゲート絶縁膜7を厚くすることができる。
【0051】
ゲート電極8は、ポリシリコンをCVD法によって堆積し、フォトリソグラフィによって加工されたレジストをマスクとしてエッチングを行って形成する。ポリシリコンには、燐や硼素のような不純物が含まれていてもよい。ゲート電極8に不純物が含まれることによって、ゲート電極8の低抵抗化を実現することができる。
【0052】
最後に、層間絶縁膜13を形成した後に、ソース電極11およびドレイン電極12を形成することによって、図1に示すような高耐圧MOSFET(半導体装置100)が完成する(第10工程、第11工程)。
【0053】
ゲート電極8を取り出す配線と、ソース電極11とは、Al、Cu、Ti、Ni、Mo、W、Ta、それらの窒化物、それらの積層膜、それらの合金層からなる金属をスパッタリング法または蒸着法によって堆積し、パターニングを行うことによって形成する。ドレイン電極12は、Ti、Ni、Ag、Auなどの金属膜をスパッタ法または蒸着法によって形成する。
【0054】
<実施の形態2>
実施の形態1では、半導体装置100において、ウェル領域6上のゲート絶縁膜7と、JFET領域4上のゲート絶縁膜7は同一工程で形成した。実施の形態2では、JFET領域4上のゲート絶縁膜を複数工程で形成し、ウェル領域6上のゲート絶縁膜よりも厚くなるように形成する例について説明する。
【0055】
<半導体装置101の製造方法>
実施の形態2による半導体装置101の製造方法について、図5図10を参照しつつ説明する。
【0056】
図5に示すように、n型で低抵抗の炭化珪素基板1を準備し、炭化珪素基板1上にエピタキシャル成長によってn型のドリフト層3を形成する。本実施の形態2では、ドリフト層3におけるn型の不純物濃度は、1×1013cm-3~1×1018cm-3である。また、ドリフト層3の厚さは、4μm~200μmである。
【0057】
図6に示すように、ドリフト層3の表層において、互いに離間したp型のウェル領域6を形成する。そして、ウェル領域6の表層に、n型のソース領域5を形成する。具体的には、フォトリソグラフィによって加工されたレジストまたは酸化膜等をマスクとして、Alイオンを注入してp型のウェル領域6を形成し、Nイオンを注入してn型のソース領域5を形成する。
【0058】
ウェル領域6における不純物濃度は、1×1015cm-3~1×1018cm-3程度である。また、ウェル領域6を形成する際に注入されるAlイオンの注入深さは、0.3μm~2.0μmである。
【0059】
ソース領域5は、その底面がウェル領域6の底面より深くならないように形成される。ソース領域5における不純物濃度は、ウェル領域6の不純物濃度より高く、かつ、1×1017cm-3~1×1021cm-3程度である。
【0060】
ウェル領域6の表層において、平面視においてソース領域5と隣接するようにウェルコンタクト領域9を形成する。ウェルコンタクト領域9の不純物濃度は、ウェル領域6の不純物濃度よりも高い。
【0061】
ウェル領域6が形成されていない領域、すなわちドリフト層3の表層であって平面視において隣り合うウェル領域6間に、n型の低抵抗領域20を形成する。具体的には、Nイオンを注入してn型の低抵抗領域20を形成する。低抵抗領域20における不純物濃度は、1×1018cm-3~1×1021cm-3程度である。また、低抵抗領域20を形成する際に注入されるNイオンの注入深さは、0.3μm~1.0μmである。低抵抗領域20を形成することによって、ドリフト層3の最表面近傍の不純物濃度が高濃度となるため、JFET抵抗を低くすることができる。
【0062】
次に、熱処理装置によって、Arガスなどの不活性ガス雰囲気中でアニールを行う。アニールは、1300℃~1900℃で、30秒~1時間程度行う。このアニールを行うことによって、イオン注入されたN等のn型の不純物、および、Al等のp型の不純物を活性化させる。
【0063】
次に、図7に示すように、ゲート絶縁膜15(第1ゲート絶縁膜)を形成する。ゲート絶縁膜15は、1150℃以上のドライ熱酸化法によって形成する。なお、ゲート絶縁膜15は、堆積法で形成してもよく、ゲート絶縁膜15の形成後に窒素またはアンモニア雰囲気中で熱処理を行うことによって形成してもよい。また、ゲート絶縁膜15は、当該ゲート絶縁膜15の形成前にドリフト層3の表面を水素雰囲気中で高温アニールを行うことによって形成してもよい。
【0064】
具体的には、高温の酸化雰囲気中で熱酸化による二酸化珪素膜を形成することによってゲート絶縁膜15を形成する。あるいは、CVDによる二酸化珪素堆積膜の形成後に、高温のアンモニア雰囲気(NH)、亜酸化窒素(NO)ガス雰囲気、または一酸化窒素(NO)ガス雰囲気中で窒化することによってゲート絶縁膜15を形成する。ゲート絶縁膜15を形成する工程を行うことによって、ゲート絶縁膜15とウェル領域6との界面、およびゲート絶縁膜15とJFET領域4との界面のそれぞれに、正の固定電荷が形成される。
【0065】
その後、フォトリソグラフィによって加工されたレジストまたは酸化膜等をマスクとして、JFET領域4上のゲート絶縁膜15のみを残し、その他のゲート絶縁膜15を取り除く(第8工程)。ゲート絶縁膜15の除去は、フッ酸を用いたウエットプロセスでもよく、ドライエッチングでもよい。
【0066】
次に、図8に示すように、1150℃以上のドライ熱酸化法によってゲート絶縁膜16(第2ゲート絶縁膜)を形成する(第9工程)。なお、ゲート絶縁膜16は、堆積法で形成してもよい。ゲート絶縁膜16の形成後、窒素またはアンモニア雰囲気中で熱処理を行う。ゲート絶縁膜16を形成する工程を行うことによって、JFET領域4上のゲート絶縁膜のみを厚くすることができる。すなわち、JFET領域4上に形成されるゲート絶縁膜は、ゲート絶縁膜15,16の2層となり、JFET領域4上以外に形成されたゲート絶縁膜16と比較して厚くなる。
【0067】
ゲート絶縁膜15とJFET領域4との界面には、2回の窒化工程で窒素が導入されるため、ゲート絶縁膜16とウェル領域6との界面における窒素濃度よりも高濃度となる。従って、ゲート絶縁膜15とJFET領域4との界面における正の固定電荷40は、ゲート絶縁膜16とウェル領域6との界面における正の固定電荷41よりも高密度となる。
【0068】
以後の工程は、実施の形態1と同様である。図9に示すように、ゲート電極8は、ポリシリコンをCVD法によって堆積し、フォトリソグラフィによって加工されたレジストをマスクとしてエッチングを行って形成する。ポリシリコンには、燐や硼素のような不純物が含まれていてもよい。ゲート電極8に不純物が含まれることによって、ゲート電極8の低抵抗化を実現することができる。
【0069】
最後に、層間絶縁膜13を形成した後に、ソース電極11およびドレイン電極12を形成することによって、図10に示すような高耐圧MOSFET(半導体装置101)が完成する。
【0070】
ゲート電極8を取り出す配線と、ソース電極11とは、Al、Cu、Ti、Ni、Mo、W、Ta、それらの窒化物、それらの積層膜、それらの合金層からなる金属をスパッタリング法または蒸着法によって堆積し、パターニングを行うことによって形成する。ドレイン電極12は、Ti、Ni、Ag、Auなどの金属膜をスパッタ法または蒸着法によって形成する。
【0071】
<ゲート酸化膜に注入される正孔電流>
図11は、実施の形態2によるゲート酸化膜の固定電荷とJFET領域上のゲート酸化膜通過電界との関係を示すデバイスシミュレーションの結果である。また、図12は、実施の形態2によるゲート酸化膜の固定電荷とJFET領域上のゲート酸化膜通過電流との関係を示すデバイスシミュレーションの結果である。ここで、ゲート酸化膜は、ゲート絶縁膜15に相当する。また、ゲート酸化膜通過電流とは、ゲート酸化膜に注入される正孔電流のことをいう。
【0072】
ゲート酸化膜の膜厚(TOX)は、40nmおよび60nmの2種類であり、ゲート酸化膜とJFET領域との界面における固定電荷は、正、負、およびゼロの3種類で計算した結果を比較している。
【0073】
図11に示すように、ゲート酸化膜を厚くすると電界は緩和される。また、図12に示すように、ゲート酸化膜の破壊寿命に影響する正孔電流に注目すると、正の固定電荷が有効であることが分かる。JFET領域4上のゲート酸化膜の膜厚と固定電荷との関係に基づいて、ゲート酸化膜に注入される正孔電流量を設定することができる。図11,12より、ゲート酸化膜を厚くし、かつ、正の固定電荷を設定することが最も有効である。
【0074】
<実施の形態3>
実施の形態1による半導体装置100は、ウェル領域6上のゲート絶縁膜7とJFET領域4上のゲート絶縁膜7は同一工程で形成され、両者の膜厚はほぼ同一であり、正の固定電荷の量が異なる構成である。実施の形態3による半導体装置102では、JFET領域4上のゲート絶縁膜7を、増速酸化手法によってウェル領域6上のゲート絶縁膜7よりも顕著に厚く形成する例について説明する。
【0075】
<半導体装置102の製造方法>
実施の形態2による半導体装置102の製造方法について、図13,14を参照しつつ説明する。
【0076】
図13に示すように、n型で低抵抗の炭化珪素基板1を準備し、エピタキシャル成長によって炭化珪素基板1上にn型のドリフト層3を形成する。本実施の形態1では、ドリフト層3のn型の不純物濃度は1×1013cm-3~1×1018cm-3であり、ドリフト層3の厚さは4μm~200μmとする。
【0077】
図14に示すように、ドリフト層3の表層において、互いに離間したp型のウェル領域6を形成する。そして、ウェル領域6の表層に、n型のソース領域5を形成する。具体的には、フォトリソグラフィによって加工されたレジストまたは酸化膜等をマスクとして、Alイオンを注入してp型のウェル領域6を形成し、Nイオンを注入してn型のソース領域5を形成する。
【0078】
ウェル領域6が形成されていない領域、すなわちドリフト層3の表層であって平面視において隣り合うウェル領域6間に、n型の低抵抗領域20を形成する。具体的には、Nイオンを注入してn型の低抵抗領域20を形成する。低抵抗領域20における不純物濃度は、1×1018cm-3~1×1021cm-3程度である。また、低抵抗領域20を形成する際に注入されるNイオンの注入深さは、0.3μm~1.0μmである。低抵抗領域20を形成することによって、ドリフト層3の最表面近傍の不純物濃度が高濃度となるため、JFET抵抗を低くすることができる。
【0079】
その後、JFET領域4のドリフト層3(低抵抗領域20)の最表層に、深さが20nm程度、濃度が1×1019cm-3~1×1021cm-3程度となるように、低エネルギでNイオンを注入する。注入層が20nm程度であることから、その後のゲート絶縁膜7を形成する工程において、Nイオンが注入された領域がすべて酸化されてゲート絶縁膜7となる。この注入層があることによって増速酸化がより顕著となり、JFET領域4上のゲート絶縁膜7をより厚く形成することが可能となる。
【0080】
なお、ドリフト層3(JFET領域4、低抵抗領域20)の表面から深さ20nm程度のNイオンの注入ではなく、シリコン、酸素、およびフッ素を同時に濃度1×1019cm-3~1×1021cm-3程度注入してもよい。この場合、表面の注入領域に、より注入ダメージ層を形成することができるため、JFET領域4上のゲート絶縁膜7をより厚く形成することが可能となる。
【0081】
ドリフト層3(すなわち、JFET領域4、低抵抗領域20)の最表面が最も高濃度となるようにゲート絶縁膜7を形成することによって、ゲート絶縁膜7とJFET領域4と界面におけるNイオンの濃度がJFET領域4内で高濃度となる。JFET領域4の低濃度化には、JFET領域4の深さ方法の不純物プロファイルは均一でなくともよく、部分的にも高濃度の領域があれば低抵抗は可能となる。
【0082】
以後の工程は、実施の形態1または2と同様である。
【0083】
<窒素の濃度ピーク位置>
実施の形態1から3で説明したように、ゲート絶縁膜の形成前に、JFET領域に窒素を注入し、注入されたJFET領域を酸化することによってゲート絶縁膜を形成し、ゲート絶縁膜とJFET領域との界面に窒素を偏析させている。
【0084】
また、ゲート絶縁膜を形成した後に窒化処理等を行い、ゲート絶縁膜とJFET領域との界面に窒素を偏析させている。これらいずれの製造法においても、ゲート絶縁膜とJFET領域との界面近傍のゲート絶縁膜側に窒素の濃度ピークを形成することが正の固定電荷の形成には最も有効である。ゲート絶縁膜とJFET領域との界面近傍は、界面、または界面から10nm程度のゲート絶縁膜側を含む。
【0085】
<実施の形態4>
実施の形態1から3では、ゲート絶縁膜とJFET領域との界面に、窒素により正の固定電荷を設定することについて説明した。実施の形態4では、窒素以外の他の不純物について説明する。
【0086】
<半導体装置103の製造方法>
実施の形態4による半導体装置103の製造方法について、図15図19を参照しつつ説明する。
【0087】
図15に示されるように、n型で低抵抗の炭化珪素基板1を用意し、炭化珪素基板1上にエピタキシャル成長によりn型のドリフト層3を形成する。本実施形態では、ドリフト層3のn型の不純物濃度は1×1013cm-3~1×1018cm-3であり、厚さは4μm~200μmとする。
【0088】
図15に示すように、n型で低抵抗の炭化珪素基板1を準備し、エピタキシャル成長によって炭化珪素基板1上にn型のドリフト層3を形成する。本実施の形態1では、ドリフト層3のn型の不純物濃度は1×1013cm-3~1×1018cm-3であり、ドリフト層3の厚さは4μm~200μmとする。
【0089】
図16に示すように、ドリフト層3の表層において、互いに離間したp型のウェル領域6を形成する。そして、ウェル領域6の表層に、n型のソース領域5を形成する。具体的には、フォトリソグラフィによって加工されたレジストまたは酸化膜等をマスクとして、Alイオンを注入してp型のウェル領域6を形成し、Nイオンを注入してn型のソース領域5を形成する。
【0090】
ウェル領域6が形成されていない領域、すなわちドリフト層3の表層であって平面視において隣り合うウェル領域6間に、n型の低抵抗領域20を形成する。具体的には、Nイオンを注入してn型の低抵抗領域20を形成する。低抵抗領域20における不純物濃度は、1×1018cm-3~1×1021cm-3程度である。また、低抵抗領域20を形成する際に注入されるNイオンの注入深さは、0.3μm~1.0μmである。低抵抗領域20を形成することによって、ドリフト層3の最表面近傍の不純物濃度が高濃度となるため、JFET抵抗を低くすることができる。
【0091】
次に、熱処理装置によって、Arガスなどの不活性ガス雰囲気中でアニールを行う。アニールは、1300℃~1900℃で、30秒~1時間程度行う。このアニールを行うことによって、イオン注入されたN等のn型の不純物、および、Al等のp型の不純物を活性化させる。
【0092】
次に、図17に示すように、ゲート絶縁膜17を形成する。ゲート絶縁膜17は、1150℃以上のドライ熱酸化法によって形成する。なお、ゲート絶縁膜17は、堆積法で形成してもよい。形成したゲート絶縁膜17にセシウム(Cs)をイオン注入する。その後、半導体露出領域を形成する工程前にアニールを行い、熱拡散によって固定電荷を含む領域となるセシウムを半導体により近い領域に再分布させる。
【0093】
その後、フォトリソグラフィによって加工されたレジストをマスクとして、JFET領域4上のゲート絶縁膜17のみを残し、その他の絶縁膜を取り除く。ゲート絶縁膜17の除去はフッ酸を用いたウエットプロセスよく、ドライエッチングでもよい。
【0094】
次に、図18に示すように、1150℃以上のドライ熱酸化法によってゲート絶縁膜18を形成する。ゲート絶縁膜18は、700℃~900℃程度の堆積法で形成する。ゲート絶縁膜18の形成後、窒素またはアンモニア雰囲気中で熱処理を行う。ゲート絶縁膜18を形成する工程を行うことによって、JFET領域4上のゲート絶縁膜17,18のみが厚くなり、かつ、セシウムを含む絶縁膜となる。ゲート絶縁膜17はゲート絶縁膜18とは異なる元素を含んでいる。
【0095】
以後の工程は、実施の形態2と同様である。図19に示すように、ゲート電極8は、ポリシリコンをCVD法によって堆積し、フォトリソグラフィによって加工されたレジストをマスクとしてエッチングを行って形成する。ポリシリコンには、燐や硼素のような不純物が含まれていてもよい。ゲート電極8に不純物が含まれることによって、ゲート電極8の低抵抗化を実現することができる。
【0096】
上述では、JFET領域4上のゲート絶縁膜17に、固定電荷となる不純物(元素)としてセシウムを注入する場合について説明したが、これに限るものではない。JFET領域4上のゲート絶縁膜17にバリウム(Ba)、ルビジウム(Rb)、およびストロンチウム(Sr)のうちの少なくとも1つを含ませることによって、ゲート絶縁膜17における固定電荷の形成を実現することができる。
【0097】
セシウム、バリウム、ルビジウム、およびストロンチウムは、アルカリ金属またはアルカリ土類金属に属しているため、第1イオン化エネルギが小さく、正の電荷を持つイオンになりやすい性質を有している。また、セシウム、バリウム、ルビジウム、およびストロンチウムは、室温でも移動しやすいナトリウム等の軽元素とは異なり、原子番号が大きいため、通常の素子動作温度領域では電荷が移動することはない。従って、セシウム、バリウム、ルビジウム、およびストロンチウムは、正の固定電荷として働く材料である。
【0098】
図17では、ゲート絶縁膜17が酸化シリコンである場合について説明したが、酸化シリコンよりも誘電率が高い材料(絶縁材料)として、酸化ハフニウム(HfO)、酸化ジルコニウム(ZrO)、酸化アルミニウム(Al,AlO等)、酸化タンタル(Ta)、酸窒化ハフニウム(HfO)、酸窒化ジルコニウム(ZrO)、酸窒化アルミニウム(AlO)、酸窒化タンタル(TaO)、およびこれらの材料の複合的組成を有するもの(酸化ハフニウムアルミネート、酸窒化ハフニウムアルミネートなど)、あるいはシリコン等の半導体基板に含まれる元素を含むもの(酸化ハフニウムシリケート、酸化ハフニウムアルミネートシリケート)でもよい。また、酸化シリコンと酸化シリコンよりも誘電率が高い材料との積層膜、または、酸窒化シリコンと酸化シリコンよりも誘電率が高い材料との積層膜であってもよい。これらの積層膜に、セシウム、バリウム、ルビジウム、またはストロンチウムを含めてもよい。
【0099】
図18では、ゲート絶縁膜18が酸化シリコンである場合について説明したが、誘電率が高い材料として、酸化ハフニウム、酸化ジルコニウム、酸化アルミニウム、酸化タンタル、酸窒化ハフニウム、酸窒化ジルコニウム、酸窒化アルミニウム、酸窒化タンタル、およびこれらの材料の複合的組成を有するもの(酸化ハフニウムアルミネート、酸窒化ハフニウムアルミネートなど)、あるいはシリコン等の半導体基板に含まれる元素を含むもの(酸化ハフニウムシリケート、酸化ハフニウムアルミネートシリケート)でもよい。さらに、酸化シリコンと酸化シリコンよりも誘電率が高い材料との積層膜、または、酸窒化シリコンと酸化シリコンよりも誘電率が高い材料との積層膜であってもよい。
【0100】
積層膜の場合、積層膜のうち炭化珪素基板1に接する膜に、酸化シリコン膜または酸窒化シリコン膜を用いる。ゲート絶縁膜18とウェル領域6との界面は、MOSFETのチャネルとなるため、キャリアの移動度の劣化を防ぐことによって、より低抵抗を実現することができる。
【0101】
上述では、JFET領域4上に2回以上の工程でゲート絶縁膜17,18を堆積することによって、ウェル領域6上のゲート絶縁膜18よりも厚くする構造について説明した。ゲート絶縁膜17に形成する固定電荷量は、ゲート絶縁膜17に導入する元素のドーズ量でコントロールすることができるため、JFET領域4上のゲート絶縁膜17に高濃度の元素をドーズすれば、ウェル領域6上のゲート絶縁膜18と同一の厚さにすることができる。ただし、この場合、JFET領域4上にはゲート絶縁膜18を形成せずゲート絶縁膜17のみが形成されることになる。
【0102】
<半導体装置103の電気特性評価>
炭化珪素基板1にMOSFETを形成した後に、モジュールを形成する。MOSFETの形成後には、素子(半導体装置103)の良し悪しを判断するために、MOSFETの電気特性を評価する。その後、切断(ダイシング)され、個々の素子(チップ)に分割される。パワーモジュールを組み立てる際には、良品素子を用いる。良品素子とは、MOSFETの電気特性を評価した際に期待の特性を満たす素子をいう。
【0103】
図20は、実施の形態4による半導体装置103を含むモジュールの製造方法の一例を示すフローチャートである。なお、ここでは実施の形態4による半導体装置103を含むモジュールの製造方法について説明するが、実施の形態1~3で説明した半導体装置100,101,102のそれぞれを含むモジュールの製造方法も同様である。
【0104】
ステップS101において、炭化珪素基板1にMOSFETを形成する。
【0105】
ステップS102において、MOSFETの電気特性を評価する。
【0106】
ステップS103において、MOSFETにおけるゲート絶縁膜17とJFET領域4との界面に対して、固定電荷を形成するための電気的なストレスを印加する。
【0107】
ステップS104において、複数の半導体装置103が形成されたウエハから、1つの半導体装置103(チップ)取り出すべくダイシングする。
【0108】
ステップS105において、ステップS102で評価した電気特性に基づいて、チップを選別する。
【0109】
ステップS106において、ステップS105で選別されたチップを用いてパワーモジュールを組み立てる。
【0110】
ステップS103における電気的なストレスを印加する方法について説明する。ソース電極11とゲート電極8とはショートして0Vとする。ドレイン電極12には、MOSFETの素子耐圧の80%の電圧を数秒から数時間印加する(第12工程)。この電圧印加する環境は、室温環境でもよく、150℃程度の高温環境でもよい。
【0111】
上記の電圧条件では、ソース電極11とゲート電極8との電位差がないことから、チャネル領域のゲート絶縁膜18にストレスが印加されない。一方、JFET領域4上のゲート絶縁膜17には、ドレイン電界によって電気的なストレスが印加される。このストレスによって、JFET領域4上のみに、すなわちゲート絶縁膜17とJFET領域4との界面のみに正の固定電荷40を形成することができる。電圧印加時間とともに電荷量が増大することから、設計の電荷量を形成する時間と温度を選定すればよい。印加時間を短時間にしてスループットを上げたい場合は、高温で印可する。また、複数の素子に同時に印加してもよい。
【0112】
なお、本開示の範囲内において、各実施の形態を自由に組み合わせたり、各実施の形態を適宜、変形、省略したりすることが可能である。
【0113】
本開示は詳細に説明されたが、上記した説明は、すべての態様において、例示であって、限定的なものではない。例示されていない無数の変形例が想定され得るものと解される。
【符号の説明】
【0114】
1 炭化珪素基板、2 半導体層、3 ドリフト層、4 JFET領域、5 ソース領域、6 ウェル領域、7 ゲート絶縁膜、8 ゲート電極、9 ウェルコンタクト領域、11 ソース電極、12 ドレイン電極、13 層間絶縁膜、15 ゲート絶縁膜、16 ゲート絶縁膜、17 ゲート絶縁膜、18 ゲート絶縁膜、20 低抵抗領域、31 コンタクトホール、32 バリアメタル、40 固定電荷、41 固定電荷、100 半導体装置。
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