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特許7634730射出成形方法、成形条件導出装置、およびコンピュータ読み込み可能な記憶媒体
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-02-13
(45)【発行日】2025-02-21
(54)【発明の名称】射出成形方法、成形条件導出装置、およびコンピュータ読み込み可能な記憶媒体
(51)【国際特許分類】
   B29C 45/76 20060101AFI20250214BHJP
   G06T 7/00 20170101ALI20250214BHJP
   G06F 18/27 20230101ALI20250214BHJP
【FI】
B29C45/76
G06T7/00 610Z
G06F18/27
【請求項の数】 14
(21)【出願番号】P 2023576815
(86)(22)【出願日】2023-01-18
(86)【国際出願番号】 JP2023001248
(87)【国際公開番号】W WO2023145549
(87)【国際公開日】2023-08-03
【審査請求日】2024-02-21
(31)【優先権主張番号】P 2022009050
(32)【優先日】2022-01-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006013
【氏名又は名称】三菱電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002941
【氏名又は名称】弁理士法人ぱるも特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】中村 竜樹
(72)【発明者】
【氏名】横堀 祐芽
(72)【発明者】
【氏名】細川 義浩
【審査官】松林 芳輝
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第112101630(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第113752505(CN,A)
【文献】米国特許出願公開第2019/0171776(US,A1)
【文献】特開2020-157629(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 45/76
G06T 7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
成形品の成形条件を含む入力パラメータ、および前記入力パラメータに対する前記成形品の要求品質を定量化した品質値を含む目的変数値であって、前記成形品の外観画像から変換した特徴量を含む間接品質値基づいて予測モデルを構築するステップと、
前記予測モデルを使用して前記入力パラメータに対する前記目的変数値の予測分布を推論するステップと、
前記予測分布により、前記目的変数値の評価が初期の品質値に比べて最も高い品質値となる前記入力パラメータを求める回帰モデルを活用したベイズ最適化手法により、前記成形品の品質値が所望の値になる評価が最も高い成形条件を導出するステップとを備え、
導出された前記成形条件における前記目的変数値の評価と、前記品質値が所望の値になる評価が最も高い成形条件の導出とを繰り返す最適化手法を用いることで、所望の要求品質を満たす成形条件を導出する射出成形方法。
【請求項2】
前記回帰モデルは、ガウス過程回帰モデルである、請求項1に記載の射出成形方法。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の射出成形方法に基づく成形品に対する成形条件の適正化を行う成形条件導出装置であって、
前記成形品の成形条件と要求品質の情報が予め記憶された記憶部と、
制御処理部を備え、
前記制御処理部は、
前記成形品の外観画像から変換した特徴量を含む間接品質値を得る間接品質値の処理部と、
前記間接品質値の処理部からの前記間接品質値品質値として取り込み、取り込まれた前記品質値、および前記記憶部に記憶された前記成形条件と前記要求品質の情報を使用し、回帰モデルを活用したベイズ最適化手法により、前記成形品の最適な要求品質を満たす成形条件を導出する成形条件の適正化部を有する、成形条件導出装置。
【請求項4】
前記成形条件の適正化部は、
前記成形品の成形条件を含む前記入力パラメータ、および前記入力パラメータに対する前記成形品の要求品質を定量化した前記品質値を含む目的変数値に基づいて予測モデルを構築する予測モデル構築部と、
前記予測モデルを使用して前記入力パラメータに対する前記目的変数値の予測分布を推論する予測分布推論部と、
前記予測分布により、前記目的変数値の評価が初期の品質値に比べて最も高い品質値となる前記入力パラメータを求める回帰モデルを活用したベイズ最適化手法により、前記成形品の要求品質を満たす成形条件を導出する成形条件導出部を有する、
請求項3に記載の成形条件導出装置。
【請求項5】
コンピュータプログラムが記憶されたコンピュータ読み込み可能な記憶媒体であって、前記コンピュータプログラムがプロセッサによって実行されるときに、以下のステップである、
成形品の成形条件を含む入力パラメータ、および前記入力パラメータに対する前記成形品の要求品質を定量化した品質値を含む目的変数値であって、前記成形品の外観画像から変換した特徴量を含む間接品質値基づいて予測モデルを構築するステップと、
前記予測モデルを使用して前記入力パラメータに対する前記目的変数値の予測分布を推論するステップと、
前記予測分布により、前記目的変数値の評価が初期の品質値に比べて最も高い品質値となる前記入力パラメータを求める回帰モデルを活用したベイズ最適化手法により、前記成形品の品質値が所望の値になる評価が最も高い成形条件を導出するステップとを備え、
導出された前記成形条件における前記目的変数値の評価と、前記品質値が所望の値になる評価が最も高い成形条件の導出とを繰り返す最適化手法を用いることで、所望の要求品質を満たす成形条件を導出することを実行するコンピュータ読み込み可能な記憶媒体。
【請求項6】
前記回帰モデルは、ガウス過程回帰モデルである、請求項5に記載のコンピュータ読み込み可能な記憶媒体。
【請求項7】
成形品の成形条件を含む入力パラメータ、前記入力パラメータに対する射出成形機に配置されたセンサのセンサ値の特徴量、および前記成形品が要求品質を満たすときの前記センサ値である基準センサ値に対する前記成形品の成形条件を変更した際のセンサ値の類似度を含む目的変数値、に基づいて予測モデルを構築するステップと、
前記予測モデルを使用して前記入力パラメータに対する前記目的変数値の予測分布を推論するステップと、
前記予測分布により、前記目的変数値の評価が初期のセンサ値の特徴量よりも前記基準センサ値の特徴量に近くなる前記入力パラメータを求める回帰モデルを活用したベイズ最適化手法により、前記成形品の要求品質を満たす成形条件を導出するステップとを備えた射出成形方法。
【請求項8】
前記成形条件の導出に、前記センサ値から求められる前記センサ値のN次元座標(Nは2以上の整数)のx1方向の特徴量、x2方向の特徴量、・・・、xN方向の特徴量、並びに前記センサ値の前記基準センサ値に対する類似度を使用する請求項7に記載の射出成形方法。
【請求項9】
前記回帰モデルは、ガウス過程回帰モデルである、請求項7または請求項8に記載の射出成形方法。
【請求項10】
請求項7または請求項8に記載の射出成形方法に基づく成形品に対する成形条件の適正化を行う成形条件導出装置であって、
前記成形品の成形条件と要求品質の情報が予め記憶された記憶部と、
制御処理部を備え、
前記制御処理部は、
前記センサ値から求められる前記センサ値の特徴量、並びに前記センサ値の前記基準センサ値に対する類似度を算出するセンサ値の特徴量の処理部と、
前記センサ値の特徴量の処理部からの、前記センサ値の特徴量および前記基準センサ値に対する類似度を取り込み、取り込まれた前記センサ値の特徴量および前記基準センサ値に対する類似度と、前記記憶部に記憶された前記成形条件と前記要求品質の情報を使用し、回帰モデルを活用したベイズ最適化手法により、前記成形品の最適な要求品質を満たす成形条件を導出する成形条件の適正化部を有する、成形条件導出装置。
【請求項11】
前記成形条件の適正化部は、
前記成形品の成形条件を含む前記入力パラメータ、前記入力パラメータに対する射出成形機に配置されたセンサのセンサ値の特徴量、および前記成形品が要求品質を満たすときの前記センサ値である基準センサ値に対する前記成形品の成形条件を変更した際のセンサ値の類似度を含む目的変数値、に基づいて予測モデルを構築する予測モデル構築部と、
前記予測モデルを使用して前記入力パラメータに対する前記目的変数値の予測分布を推論する予測分布推論部と、
前記予測分布により、前記目的変数値の評価が初期のセンサ値の特徴量よりも前記基準センサ値の特徴量に近くなる前記入力パラメータを求める回帰モデルを活用したベイズ最適化手法により、前記成形品の要求品質を満たす成形条件を導出する成形条件導出部とを備えた請求項10に記載の成形条件導出装置。
【請求項12】
コンピュータプログラムが記憶されたコンピュータ読み込み可能な記憶媒体であって、前記コンピュータプログラムがプロセッサによって実行されるときに、以下のステップである、
成形品の成形条件を含む入力パラメータ、前記入力パラメータに対する射出成形機に配置されたセンサのセンサ値の特徴量、および前記成形品が要求品質を満たすときの前記センサ値である基準センサ値に対する前記成形品の成形条件を変更した際のセンサ値の類似度を含む目的変数値、に基づいて予測モデルを構築するステップと、
前記予測モデルを使用して前記入力パラメータに対する前記目的変数値の予測分布を推論するステップと、
前記予測分布により、前記目的変数値の評価が初期のセンサ値の特徴量よりも前記基準センサ値の特徴量に近くなる前記入力パラメータを求める回帰モデルを活用したベイズ最適化手法により、前記成形品の要求品質を満たす成形条件を導出するステップとを実行するコンピュータ読み込み可能な記憶媒体。
【請求項13】
前記成形条件の導出に、前記センサ値から求められる前記センサ値のN次元座標(Nは2以上の整数)のx1方向の特徴量、x2方向の特徴量、・・・、xN方向の特徴量、並びに前記センサ値の前記基準センサ値に対する類似度を使用する請求項12に記載のコンピュータ読み込み可能な記憶媒体。
【請求項14】
前記回帰モデルは、ガウス過程回帰モデルである、請求項12または請求項13に記載のコンピュータ読み込み可能な記憶媒体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願は、射出成形方法、成形条件導出装置、およびコンピュータ読み込み可能な記憶媒体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
射出成形方法は、溶かした樹脂材料を金型へ射出することで樹脂部品を成形するものであり、広く実用されている。射出成形において、要求品質を満たす品質の良い樹脂部品(以下、成形品という)を成形するためには、適正な成形条件を導出する作業が不可欠となる。しかし、成形品の形状、使用する樹脂の性質などが異なると適正な成形条件も異なるため、この成形条件を導出する作業は、知識と経験が豊富な熟練作業者が実施している。
【0003】
また、従来技術として、射出成形機による成形を支援する方法として、ニューラルネットワークを利用した成形品品質の最適化方法も提案されている。このニューラルネットワークを構築するために、入力パラメータに成形条件を、出力項目(以下、目的変数という)に成形品の良品を測定して得られた品質値を採用している(例えば、下記の特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2008-110486号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
成形品の要求品質を満たす適正な成形条件を導出する作業は、一般的に知識と経験が豊富な熟練作業者が実施している。一方、知識と経験が乏しい作業者が成形条件を導出する場合は、多くの試行錯誤を繰り返し、成形条件の導出に非常に時間がかかるという問題点がある。
【0006】
また、従来技術にあるようなニューラルネットワークを利用する場合、成形条件を適正化するための予測関数を構築するためには数百~数万程度の多くの学習データが必要であるという問題点がある。
【0007】
さらに、従来技術では、成形条件の適正化を行うために、測定した品質値(製品重量、ソリ、寸法、等)を活用しているが、高分解能の測定機による測定が必要な品質値(ヒケ、フローマーク、等)の場合、測定機が高価なため、準備が困難であったり、測定サンプルの切り出し作業が発生したり、容易に測定することができないなどの問題点もある。
【0008】
本願は、上記のような課題を解決するための技術を開示するものであり、成形作業者の技術水準に依存せず、成形品に要求される品質を満たす適正な成形条件を容易に得ることができる射出成形方法、成形条件導出装置、およびコンピュータ読み込み可能な記憶媒体を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本願に開示される射出成形方法は、
成形品の成形条件を含む入力パラメータ、および前記入力パラメータに対する前記成形品の要求品質を定量化した品質値を含む目的変数値であって、前記成形品の外観画像から変換した特徴量を含む間接品質値基づいて予測モデルを構築するステップと、
前記予測モデルを使用して前記入力パラメータに対する前記目的変数値の予測分布を推論するステップと、
前記予測分布により、前記目的変数値の評価が初期の品質値に比べて最も高い品質値となる前記入力パラメータを求める回帰モデルを活用したベイズ最適化手法により、前記成形品の品質値が所望の値になる評価が最も高い成形条件を導出するステップとを備え、
導出された前記成形条件における前記目的変数値の評価と、前記品質値が所望の値になる評価が最も高い成形条件の導出とを繰り返す最適化手法を用いることで、所望の要求品質を満たす成形条件を導出するものである。
本願に開示される成形条件導出装置は、上記の射出成形方法に基づく成形品に対する成形条件の適正化を行う成形条件導出装置であって、
前記成形品の成形条件と要求品質の情報が予め記憶された記憶部と、
制御処理部を備え、
前記制御処理部は、
前記成形品の外観画像から変換した特徴量を含む間接品質値を得る間接品質値の処理部と、
前記間接品質値の処理部からの前記間接品質値品質値として取り込み、取り込まれた前記品質値、および前記記憶部に記憶された前記成形条件と前記要求品質の情報を使用し、回帰モデルを活用したベイズ最適化手法により、前記成形品の最適な要求品質を満たす成形条件を導出する成形条件の適正化部を有するものである。
また、本願に開示されるコンピュータ読み込み可能な記憶媒体は、
コンピュータプログラムが記憶されたコンピュータ読み込み可能な記憶媒体であって、前記コンピュータプログラムがプロセッサによって実行されるときに、以下のステップである、
成形品の成形条件を含む入力パラメータ、および前記入力パラメータに対する前記成形品の要求品質を定量化した品質値を含む目的変数値であって、前記成形品の外観画像から変換した特徴量を含む間接品質値基づいて予測モデルを構築するステップと、
前記予測モデルを使用して前記入力パラメータに対する前記目的変数値の予測分布を推論するステップと、
前記予測分布により、前記目的変数値の評価が初期の品質値に比べて最も高い品質値となる前記入力パラメータを求める回帰モデルを活用したベイズ最適化手法により、前記成形品の品質値が所望の値になる評価が最も高い成形条件を導出するステップとを備え、
導出された前記成形条件における前記目的変数値の評価と、前記品質値が所望の値になる評価が最も高い成形条件の導出とを繰り返す最適化手法を用いることで、所望の要求品質を満たす成形条件を導出することを実行するものである。
また、本願に開示される射出成形方法は、
成形品の成形条件を含む入力パラメータ、前記入力パラメータに対する射出成形機に配置されたセンサのセンサ値の特徴量、および前記成形品が要求品質を満たすときの前記センサ値である基準センサ値に対する前記成形品の成形条件を変更した際のセンサ値の類似度を含む目的変数値、に基づいて予測モデルを構築するステップと、
前記予測モデルを使用して前記入力パラメータに対する前記目的変数値の予測分布を推論するステップと、
前記予測分布により、前記目的変数値の評価が初期のセンサ値の特徴量よりも前記基準センサ値の特徴量に近くなる前記入力パラメータを求める回帰モデルを活用したベイズ最適化手法により、前記成形品の要求品質を満たす成形条件を導出するステップとを備えたものである。
また、本願に開示される成形条件導出装置は、上記の射出成形方法に基づく成形品に対する成形条件の適正化を行う成形条件導出装置であって、
前記成形品の成形条件と要求品質の情報が予め記憶された記憶部と、
制御処理部を備え、
前記制御処理部は、
前記センサ値から求められる前記センサ値の特徴量、並びに前記センサ値の前記基準センサ値に対する類似度を算出するセンサ値の特徴量の処理部と、
前記センサ値の特徴量の処理部からの、前記センサ値の特徴量および前記基準センサ値に対する類似度を取り込み、取り込まれた前記センサ値の特徴量および前記基準センサ値に対する類似度と、前記記憶部に記憶された前記成形条件と前記要求品質の情報を使用し、回帰モデルを活用したベイズ最適化手法により、前記成形品の最適な要求品質を満たす成形条件を導出する成形条件の適正化部を有するものである。
また、本願に開示されるコンピュータ読み込み可能な記憶媒体は、
コンピュータプログラムが記憶されたコンピュータ読み込み可能な記憶媒体であって、前記コンピュータプログラムがプロセッサによって実行されるときに、以下のステップである、
成形品の成形条件を含む入力パラメータ、前記入力パラメータに対する射出成形機に配置されたセンサのセンサ値の特徴量、および前記成形品が要求品質を満たすときの前記センサ値である基準センサ値に対する前記成形品の成形条件を変更した際のセンサ値の類似度を含む目的変数値、に基づいて予測モデルを構築するステップと、
前記予測モデルを使用して前記入力パラメータに対する前記目的変数値の予測分布を推論するステップと、
前記予測分布により、前記目的変数値の評価が初期のセンサ値の特徴量よりも前記基準センサ値の特徴量に近くなる前記入力パラメータを求める回帰モデルを活用したベイズ最適化手法により、前記成形品の要求品質を満たす成形条件を導出するステップとを実行するものである。
【発明の効果】
【0010】
本願に開示される射出成形方法、成形条件導出装置、およびコンピュータ読み込み可能な記憶媒体によれば、少ないデータ数であっても成形条件を適正化するための予測関数を構築できる。このため、成形作業者の技術水準に依存せずに、容易に要求品質を満たす成形条件の導出を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】実施の形態1による射出成形方法を実現するために必要な装置構成の一例を示す図である。
図2】実施の形態1による射出成形方法を実現するために必要な装置構成の一例を示す図である。
図3】成形条件の設定幅情報の一例を示す模式図である。
図4】成形条件の項目影響度の一例を示す模式図である。
図5】成形品情報の一例を示す模式図である。
図6】定義したヒケ特徴量と測定したヒケ量の相関例を示す特性図である。
図7図7A図7B図7Cは成形品の画像を画像処理した一例を示す説明図である。
図8】EI値を用いて次の探索条件(成形条件)を決定する方法を模式的に示す図である。
図9】EI値を用いてさらに次の探索条件(成形条件)を決定する方法を模式的に示す図である。
図10】本願の射出成形方法において成形条件適正化のための一連の処理手順の一例を示すフローチャートである。
図11】本願の射出成形方法において成形条件適正化のための一連の処理手順の一例を示すフローチャートである。
図12】本願の射出成形方法において成形条件適正化のための一連の処理手順の一例を示すフローチャートである。
図13】本願の射出成形方法において成形条件適正化のための一連の処理手順の一例を示すフローチャートである。
図14】成形条件導出装置で動作する成形条件導出プログラムの画面の一例を示す説明図である。
図15】初期データ数の成形が完了し、品質値が入力された成形条件導出プログラムの画面の一例を示す説明図である。
図16】初回の適正化を実行した成形条件導出プログラムの画面の一例を示す説明図である。
図17】本願の制御処理部のハードウェア構成の一例を示す図である。
図18】実施の形態1による成形条件導出装置の制御処理部の詳細を示すブロック図である。
図19】実施の形態1による成形条件導出装置の制御処理部で実行されるステップを示すフローチャートである。
図20】実施の形態2による射出成形方法を実現するために必要な装置構成の一例を示す図である。
図21】実施の形態2による射出成形方法を実現するために必要な装置構成の一例を示す図である。
図22】本願の制御処理部において取得するセンサ値のX方向、およびY方向の特徴量の一例を示す図である。
図23】本願の制御処理部における基準センサ値に対する類似度が低い計算結果の一例を示す図である。
図24】本願の制御処理部における基準センサ値に対する類似度が高い計算結果の一例を示す図である。
図25】実施の形態2による射出成形方法において成形条件適正化の事前準備を行う一連の処理手順の一例を示すフローチャートである。
図26】実施の形態2による射出成形方法において成形条件適正化を行う一連の処理手順の一例を示すフローチャートである。
図27】実施の形態2による射出成形方法において成形条件適正化を行う一連の処理手順の一例を示すフローチャートである。
図28】実施の形態2による射出成形方法において成形条件適正化を行う一連の処理手順の一例を示すフローチャートである。
図29】実施の形態2による射出成形方法においてセンサ値の特徴量を取得する一連の処理手順の一例を示すフローチャートである。
図30】実施の形態2における成形条件導出プログラムの画面の一例を示す説明図である。
図31】実施の形態2における初期データ数の成形が完了し、センサ値の特徴量が入力された成形条件導出プログラムの画面の一例を示す説明図である。
図32】実施の形態2における初回の適正化を実行した成形条件導出プログラムの画面の一例を示す説明図である。
図33】実施の形態2による成形条件導出装置の制御処理部の詳細を示すブロック図である。
図34】実施の形態2による成形条件導出装置の制御処理部で実行されるステップを示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本願は、入力に対する出力の事後分布を求めることができる回帰モデルを利用する射出成形方法、および成形条件導出装置に関するものである。以下、実施の形態に基づいて詳しく説明する。
【0013】
実施の形態1.
[射出成形方法を実現するための構成]
まず、本願の射出成形方法を行うための構成について、図1および図2を参照して説明する。
図1および図2は、実施の形態1による射出成形方法を実現するために必要な装置構成の一例を示す図である。
図1に示すように、射出成形機200は、成形品211を成形する金型210を備え、金型210には各種のセンサ212が取り付けられている。センサ212により計測されたデータは、計測アンプ220を経由して後述する成形条件導出装置100の制御処理部120に取り込まれる。
一方、金型210内で成形された成形品211は、取り出しロボット300で取り出される。取り出された成形品500は、搬送コンベア400に置かれた後、形状測定機器600により測定されるとともに、カメラ700によりその外観が写真撮影される。形状測定機器600による測定結果およびカメラ700により撮影された外観写真は、後述する成形条件導出装置100の制御処理部120に取り込まれる。
なお、図1の構成については、後ほど詳細に説明する。
【0014】
図2に示すように、この実施の形態1の成形条件導出装置100は、通信部110、制御処理部120、表示入力部130、および記憶部140を備える。
【0015】
この場合、成形条件導出装置100は、単一の装置であってもよいし、WAN(Wide Area Network)、あるいはLAN(Local Area Network)といったネットワークで接続された複数の装置、あるいはシステムで構成されていてもよい。さらにまた、この成形条件導出装置100は、分散コンピューティング、あるいはクラウドコンピューティングを利用したシステム、または複数のコンピュータ装置によって実現されていてもよい。
【0016】
通信部110は、例えば、NIC(Network Interface Card)などの通信インターフェース、およびDMA(Direct Memory Access)コントローラを含む。この通信部110は、WAN、LANなどのネットワークを通じて、射出成形機200と通信することができる。
【0017】
制御処理部120は、成形条件の次条件出力部121、成形条件の適正化部122、間接品質値の処理部123、直接品質値の処理部124を備える。この制御処理部120は、例えば、ハードウェア構成の一例を図17に示すように、CPU(Central Processing Unit)、あるいはGPU(Graphics Processing Unit)などのプロセッサ1000と、記憶装置1010(後述の記憶部140)で構成され、プロセッサ1000が記憶装置1010(後述の記憶部140)に格納されたプログラムを実行することで実現される。また、制御処理部120の構成要素は、FPGA(Field Programmable Gate Array)などのハードウェアで実現されてもよいし、ソフトウェアとハードウェアの両方で構成されてもよい。
【0018】
表示入力部130は、液晶ディスプレイなどの表示機器を含み、成形条件導出装置100を取り扱う成形作業者が、成形条件適正化の進捗状況の把握、およびGUI(Graphical User Interface)を通じて設定、操作を行うために使用することができる。
【0019】
記憶部140は、例えば、HDD(Hard Disc Drive)、SSD(Solid State Drive)、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)などを備える。そして、この記憶部140は、ファームウェア、アプリケーションプログラムなどの成形条件導出のための各種プログラムに加えて、後述の成形条件の設定幅情報141、成形条件の項目影響度142、および成形品情報143などを格納する。
【0020】
図1に示すように、射出成形機200は、成形条件適正化の対象となる成形品211を成形する工具としての金型210を備え、この金型210には、各種のセンサ212が取り付けられている。
【0021】
上記センサ212は、樹脂圧力を計測するひずみ式、あるいは圧電式の圧力センサ、金型210のひずみ量を計測するひずみゲージ、金型210の温度、樹脂温度を計測する熱電対あるいは赤外線式の温度センサ、金型210内の音響の放射を検知するAE(Acoustic Emission)センサなどを含む、なお、金型210に取り付けることができるセンサ類であれば種類は問わない。センサ212により計測された各種のセンサデータは、計測アンプ220を経由して制御処理部120に取り込まれ、間接品質値の処理部123において、成形品の品質を評価するための品質値に変換される。
【0022】
金型210内で成形された成形品211は、取り出しロボット300で取り出される。取り出された成形品500は、搬送コンベア400に置かれた後、形状測定機器600により平面度、寸法等の形状データが測定される。なお、形状測定機器600は、ノギス、ハイトゲージのような測定器でもよいし、接触式あるいは非接触式の3次元測定機でもよい。
【0023】
また、取り出された成形品500は、カメラ700によりその外観が写真撮影される。カメラ700で成形品500の外観を写真撮影するために、必要に応じて照明、暗幕、および治具を追加してもよい。また、カメラ700は単一でも複数台でもよい。撮影された成形品500の外観写真は、制御処理部120に取り込まれ、間接品質値の処理部123において、成形品211の品質を評価するための品質値に変換される。
【0024】
図3は、記憶部140に予め記憶されている成形条件の設定幅情報141の一例を示す模式図である。
この成形条件の設定幅情報141は、各種の成形品211ごとに、成形条件の設定項目(入力パラメータ)に対する設定可能な上下限値の情報が予め設定してある。上下限値は、経験、知識を基に設定してもよく、あるいは樹脂流動解析の結果を基に設定してもよい。例えば、射出温度であれば樹脂材料メーカが推奨している樹脂材料ごとの温度範囲で設定してもよいし、事前に樹脂流動解析で金型210に樹脂充填が可能かどうかを確認してから設定してもよい。あるいは、実際に仮成形を行い、成形する上で問題がないかを確認してから設定してもよい。
【0025】
ここで、図3の各項目について説明する。
・金型温度(可動)は、金型の温度を制御するためのパラメータであり、「可動」は、金型から成形品を取り出す際に、動く(開く)側の金型の方を示している。金型には、温水、冷水、または油などの流体を流すための配管が開いており、その配管内を流れる流体の温度を温調器で制御することで、金型温度の制御を行う。
・金型温度(固定)は、前記と同じく、金型の温度を制御するためのパラメータであり、「固定」は、金型から成形品を取り出す際に、動かない側の金型の方を示している。なお、金型の可動側、固定側で温度差をつける(例:可動側50℃、固定側30℃)ことは一般的に行われている設定である。
・射出温度1~5は、金型内に射出する樹脂ペレット(樹脂の粒)を溶かす温度を制御するパラメータである。「1~5」の数字については、射出成形機の加熱筒には、熱電対が4~6か所ほど、射出ユニットの先端部から順番に設置されており、その熱電対の場所を示している。また射出成形機は、熱電対が設定温度値になるように加熱筒のヒーターの制御を行う。設定値については、樹脂材料メーカが推奨している範囲内を目安として、成形品の品質または生産サイクルタイムを確認しながら設定を行う。
・射出位置1~4は、溶融樹脂を金型内に射出する際の速度を切り替える、射出成形機のスクリュー位置を制御するパラメータである。射出速度と射出位置の組み合わせにより、射出する樹脂の流れを制御する。「1~4」の数字については、射出速度を切り替える位置を何か所にするかを表現している。(例:射出位置(スクリュー位置)100mmまでは、射出速度50mm/s。射出位置100mmから40mmまでは、射出速度30mm/s。)
・速度圧力切替は、溶融樹脂を金型内に射出する際、射出成形機のスクリューの制御を、射出速度制御から保持圧力(保圧)制御に切り替えるスクリュー位置の設定である。
・射出速度1~4は、溶融樹脂を金型内に射出する際の速度を制御するパラメータであり、射出速度と射出位置の組み合わせにより、射出する樹脂の流れを制御する。「1~4」の数字については、射出位置に対して、射出速度をどの程度の大きさに変更するかを表現している。
・保圧1~3は、溶融樹脂を金型内に射出する際、射出速度制御後の保持圧力制御の大きさを設定するパラメータである。一般的に、射出成形において、射出速度制御で樹脂を金型内に充填した後に、樹脂の状態変化(液体→個体)に伴う収縮が発生するため、この収縮分の樹脂を補うために、保持圧力制御により溶融樹脂を追加で金型内に充填させる。「1~3」の数字については、保圧を多段的に加える場合、何段で、どの程度の大きさに変更するかを表現している。また、各保圧の制御は時間制御となる(例:保圧1は50Mpaで3s、保圧2は30Mpaで4s)。
・冷却時間は、金型内に樹脂に保持圧力を加えた後、溶融した樹脂を冷やし固める時間である。一般的に、冷却時間中は樹脂に外部から圧力はかからず、溶融した樹脂が固まるまで樹脂と金型の熱交換のみとなる。冷却時間は、短すぎるとソリ変形、あるいは金型からの離型不良を引き起こし、長すぎると生産サイクルタイム増(成形品コスト増)あるいは金型からの離型不良を引き起こす。
【0026】
図4は、記憶部140に予め記憶されている成形条件の項目影響度142を示す模式図である。
この成形条件の項目影響度142は、対象の成形品211の品質値(例えば、ソリ、ヒケ)に対する成形条件の各項目(例えば温度、圧力、射出速度など)の影響度の大きさが設定してある。この場合の影響度の設定は、経験、知識を基に設定してもよいし、樹脂流動解析の結果を基に設定してもよい。あるいは、実際に仮成形を行った結果を基に設定してもよい。例えば、成形条件の項目を制御因子とした直交表を作成して、各条件で樹脂流動解析を行い、成形品の品質値に対する特性値を計算する。その特性値を基に、成形条件の項目影響度を設定する方法もある。また、仮成形を行う場合でも、直交表を使用して影響度を設定してよい。
【0027】
図5は、記憶部140に予め記憶されている成形品情報143を示す模式図である。
この成形品情報143は、各種の成形品211ごとに、個体識別用のID番号、使用する樹脂成形材料、および適正化が必要な成形品211の要求品質の情報などが個別に設定してある。成形品211の品質情報は、成形品211に対する要求品質の中から任意の個数を設定することができる。例えば、図5の成形品Aについては、成形品Aに発生するソリ、ヒケ、寸法を品質情報として設定している事例である。この場合、例えば、ソリ(情報1)は任意の測定箇所の平面度で設定し、ヒケ(情報2)は任意の測定箇所の凹み量で設定し、寸法(情報3)は寸法値と寸法公差で設定している。
【0028】
本願の構成を実現する上で、センサ212、計測アンプ220、形状測定機器600、およびカメラ700は、成形品211の品質を定量化するための装置であり、これらはいずれかを使用すればよい。
以上の構成を実現することで、本願の射出成形方法を実施することができる。
【0029】
[成形品の品質の定量化]
成形品211の要求品質を満たす最適な成形条件を求める(以降、成形条件パラメータ適正化と称する)ためには、入力と出力の関係を適正化する最適化問題として考える必要がある。この実施の形態1であれば、入力は成形条件の値、出力は成形品の要求品質となる。入力となる成形条件の値は定量値であるが、出力となる成形品の要求品質は成形作業者の目視結果、あるいは感覚で表現されることもあり、さらに定量値として定義されていない場合がある。そこで、まず、成形品211の要求品質を定量化した品質値の取得方法について説明する。
【0030】
この実施の形態1では、寸法、ソリなどの測定し易い品質値を直接品質値と定義する。一方、ヒケ、フローマークなどの測定しにくい品質値を金型210内に設置したセンサ212の値から抽出した特徴量、あるいはカメラ700で撮影した画像から特徴量に置き換えることで定量化し、これらの特徴量のことを間接品質値と定義する。ヒケ、フローマークを直接品質値とするには、高分解能の測定機による測定が必要となるが、そうすると測定機が高価なため準備が困難であったり、測定サンプルの切り出し作業が発生したりして、容易に測定することができないため、間接品質値としている。
【0031】
直接品質値の求め方は、成形品211の寸法、平面度などを直接測定することである。例えば、任意の寸法が寸法公差内に入ることが要求品質であれば、形状測定機器600(ノギス、3次元測定機などの測定機器)で寸法測定を行い、その測定値を要求品質に対する品質値とする。その他にも、ソリに対する要求品質であれば、任意の面の平面度、直角度などの幾何公差測定を行えば品質値を求めることができる。
【0032】
測定された品質値は、ネットワークを通じた送信か、成形作業者によるGUI(Graphical User Interface)入力で、表示入力部130に渡される。その後、制御処理部120において、直接品質値の処理部124により、後述のベイズ最適化を行うための前処理(他の品質値とデータ結合して配列情報に変換するなどの処理)が行われる。
【0033】
一方、間接品質値の求め方は、成形品211に対してセンサ212、カメラ700で取得したセンサ値、および画像を品質値に変換することである。例えば、要求品質がヒケ量の最小化であれば、ヒケ特徴量(金型210内に設置した温度センサの時間積分値を、圧力センサの時間積分値で除法した値の対数値と定義)が品質値となる。
【0034】
このヒケ特徴量は、図6に示すように、高分解能の測定機で測定したヒケ量(ヒケ測定値)と正比例の相関があり、ヒケ特徴量が小さいとヒケ量(ヒケ測定値)も小さくなる関係である。その他にも、要求品質がフローマークの最小化であれば、取り出された成形品500をカメラ700で撮影した画像に、グレースケール化、トリミング、画像をぼかすための様々なローパスフィルタに通す画像の平滑化などを適用して白黒の2値化処理を行う。
【0035】
図7は、成形品の画像を画像処理した結果の一例を示す説明図である。
図7では、フローマークが大きい場合(図7A)、小さい場合(図7B)、無い場合(図7C)を左から右に順に並べて示している。画像内の白色面積の割合は、フローマークの大きさの程度で変化するため、この白色面積の割合をフローマークの品質値とすることができる。
【0036】
以上のように、成形品211の要求品質を定量化した品質値(直接品質値および間接品質値)を使うことで、入力が成形条件の値として、出力が成形品の要求品質(品質値)の最適化問題として扱うことができる。
【0037】
[ベイズ最適化手法]
成形条件の適正化方法の一連の処理を説明する前に、成形品211の要求品質を満たす成形条件を導出するために使用するベイズ最適化手法の概要について説明する。
【0038】
ベイズ最適化手法は、最適化対象の関数が未知の場合でも適用可能なパラメータの最適化手法の一つである。まず、入力パラメータ(この実施の形態1では成形条件)および当該入力パラメータに対する目的変数値(この実施の形態1では前述の成形品211の要求品質を定量化した品質値)に基づいて、予測モデルを構築する。そして、この予測モデルを使用することで、検討したい入力パラメータに対する目的変数の予測分布を推論する。この予測分布を利用して、目的変数の値が所望の値になる評価が最も高い入力パラメータ(次に実施すべき成形条件)を提示する。これを繰り返すことで、入力パラメータの適正化を行う。
【0039】
ここで使用する予測モデルは、入力に対する出力の事後分布を求めることができるモデル(この実施の形態1ではガウス過程回帰モデル)が採用されるが、その他の回帰モデル、例えば、ランダムフォレスト回帰モデルなどを用いることもできる。
【0040】
[ガウス過程回帰モデル]
ガウス過程回帰は、ノンパラメトリック回帰手法の一つであり、ニューラルネットワーク回帰と比べると、比較的少ないデータであっても予測関数を構築できる。
【0041】
ガウス過程回帰は、入力変数xから目的変数である実数値yへの目的関数y=f(x)を推定するモデルの一つである。
具体的には、データD1:t={x1:t,y1:t}が与えられたとき、探索対象の目的関数f(xt+1)の予測分布P(f(xt+1)|D1:t、xt+1)を次の数式(1)で求めるモデルである。
【0042】
【数1】
【0043】
数式(1)の右辺は、平均値(期待値)をμxt+1|x1:t、分散をσ xt+1|x1:tとする正規分布(ガウス分布)である。
例えば、yの平均が0になるように標準化した場合のガウス過程回帰モデルでは、入力パラメータxの関係性を示す共分散行列Kを任意のカーネル関数k(x,x‘)で表現すると、予測平均と予測分散は、以下の数式(2)および数式(3)によって求めることができる。
【0044】
【数2】
【0045】
【数3】
【0046】
ここで、k**はk(x,x)を示し、kは、(k(x,x),k(x,x),・・・,k(x,x))のベクトルを表し、行列Kはk(x,x‘)を要素とするN×Nの共分散行列を表し、ベクトルyは(y,y,・・・,y)のベクトルを表している。なお、この実施の形態1では、カーネル関数k(x,x‘)に以下の数式(4)のガウスカーネル(Θ,Θはカーネルの性質を決めるパラメータ)を用いているが、その他に指数カーネル、周期カーネル、マターンカーネルのいずれかを用いてもよい。
【0047】
【数4】
【0048】
[ベイズ最適化によるパラメータ探索方法]
ベイズ最適化手法で、次に検証する入力パラメータ(成形条件)を決定するために、入力パラメータ候補の組み合わせに対する評価を行うための獲得関数を使用する。この獲得関数は、例えばPI(Probability of Improvement)を用いてもよいし、EI(Expected Improvement)を用いてもよい。あるいはUCB(Upper Confidence Bound)、またはMI(Mutual Information)を用いてもよい。
【0049】
この実施の形態1では、一例として、EI(Expected Improvement)と呼ばれる、目的変数最小(最大)値からどれだけ改善するかの期待値を算出する獲得関数を、複数の目的変数に対応させて使用した場合について説明する。
【0050】
目的関数y=f(x)の最小化問題の場合、EI値を用いたベイズ最適化は、次の数式(5)で示される改善の期待値が最大となる探索条件を次の探索条件に決定する。
【0051】
【数5】
【0052】
具体的なEI値の算出方法としては、次の数式(6)に基づいて算出する方法がある。
【0053】
【数6】
【0054】
数式(6)のfminは現在の探索回数における目的関数の最小値を表しており、μ(x)とσ(x)はガウス過程回帰モデルから出力される予測平均と予測標準偏差とを表している。また、Фは累積分布関数、φは確率密度関数を表している。
【0055】
このEI値を用いた、次の探索条件を決定する方法の模式図を図8に示す。
図8の上段のグラフは、目的関数f(x)の予測分布であり、黒い点は観測済みのデータ点、μ(x)は予測平均、CIUpperおよびCILowerは予測標準偏差から算出された信頼区間の上限および下限を示している。
また、図8の下段のグラフは、算出されたEI値であり、黒い点は観測済みのためEI値が小さくなっている。
この図8の模式図では、EI値が最も大きくなるxが次の探索条件となる。
【0056】
引き続いて、次の探索条件を試行した後の結果を図9の上段のグラフに、さらに次の探索条件を決定する方法の模式図を図9の下段のグラフに示す。
次の探索条件であったxの予測分布が明らかになり、xのEI値は小さくなる。
その結果、さらに次の探索条件は、他のEI値が高い探索条件に決定される。
以上、図8および図9に示すように、EI値に基づいて、次の探索条件を決定しつつ、繰り返しの試行を行うことで、最適な入力パラメータを求めていく。
【0057】
この実施の形態1では、目的関数が複数になる場合(例えば、成形品の反り量、ヒケ量、および外観写真の色差)があるため、各評価値(EI値)を合成することで獲得関数を単一化する。評価値の単一化方法として、重み付け線形和を取る手法を用いているが、単純に和、あるいは積を取る手法でもよい。
【0058】
[成形条件の適正化方法]
図10図13は、本願の射出成形方法において、成形条件の適正化のための一連の処理手順の一例を示すフローチャートである。なお、以下では、適正化の目的変数がソリ、ヒケの2つの場合を例にとって具体的に説明する。また、図において、符号Sはステップを表している。
【0059】
成形条件の適正化を行うにあたり、初期データ収集工程を開始する(ステップS100、ステップS101)。これには、まず、成形条件導出装置100を起動し、先に説明した成形条件の設定幅情報141、成形条件の項目影響度142、成形品情報143の設定を行う。その後、記憶部140に格納された成形条件導出プログラムを起動する。
【0060】
図14には、一例として、入力パラメータ5つ(金型温度_可動、金型温度_固定、射出速度4段目、保圧1段目、保圧2段目)、目的変数2つ(目的変数1:ソリ、目的変数2:ヒケ)の場合の成形条件導出プログラムの起動画面を示す。
【0061】
記憶部140に格納された成形条件導出プログラムは、起動時に、成形品情報143の適正化品質情報を目的変数として読み込み、成形条件の項目影響度142から入力パラメータとなる成形条件の項目を選択し、成形条件の設定幅情報141の範囲内で収まるように、図14に示すような初期成形条件表を作成する。そして、その内容を表示入力部130に表示する。なお、図14は、各成形条件の組み合わせをランダムに出力する設定の場合を示しているが、各成形条件を制御因子とした2水準の直交表として出力することも可能である。また、成形作業者は成形条件導出プログラムが選択した入力パラメータとなる成形条件の項目を、他の成形条件の項目に変更してもよい。
【0062】
成形作業者は、成形条件導出装置100の表示入力部130に表示される図14の初期成形条件表に従って成形作業を行う。このとき、成形条件は、成形作業者が直接手入力してもよいし、または射出成形機200がネットワークでつながっていれば通信部110を通じて自動入力してもよい。図14の初期成形条件表の1行目から成形作業を順次行い、成形安定性の確認を行う(ステップS102)。
【0063】
射出成形では、成形条件の設定、その後の変更後に成形を始めると、成形回数が増えていくのに従って徐々に金型温度の上昇、あるいは低下が発生する。その後、ある回数の成形を行うと、温度変化が徐々に減少していき、同じ金型温度状態で成形できるようになる。この状態を成形が安定したと判断する指標とする。
【0064】
具体的な確認方法として、金型に取り付けた温度センサの値の時間変化の推移を確認する方法、あるいは成形機のロードセルから換算された圧力値の変化の推移を確認する方法がある。この実施の形態1では、温度センサの値の変化が3回連続成形で±1℃内に収まることを成形安定性の確認の条件とした。
【0065】
次に、成形安定性が確認できた状態で、成形した成形品211に対して、成形品質値の取得を行う(ステップS103、ステップS501)。成形中に、センサ212と計測アンプ220で取得した温度と圧力の時系列データを成形条件導出装置100へ送信する(ステップS505)。送信された時系列データは、間接品質値の処理部123へ送られ、先述のセンサ特徴量(ヒケ特徴量)へ変換される(ステップS506、ステップS507)。
【0066】
成形後の成形品500については、形状測定機器600にて所定の面の平面度を測定する(ステップS502、ステップS503)。測定した平面度は、成形作業者が表示入力部130にあるGUI(Graphical User Interface)入力を行うか、もしくは形状測定機器600が同一ネットワーク上にある場合には直接送信することで、成形条件導出装置100の直接品質値の処理部124へ送られ、直接品質値に変換される(ステップS503、ステップS504)。
【0067】
なお、フローマークなどの成形品の意匠に係る要求品質の場合には、成形後に成形品500の外観がカメラ700により写真撮影されてその画像を取得し(ステップS508)、成形条件導出装置100へ送信する。その後、間接品質値の処理部123において、先述の画像処理に基づき間接品質値を求める(ステップS509、ステップS510)。必要な品質値の取得が完了したら、成形品質値の取得工程を終了する(ステップS511)。
【0068】
次に、射出成形機200を駆動して射出成形初期成形条件表の各成形条件の下で成形を行い、目的変数となる成形品質値を取得する工程を、初期成形条件表に表示された初期データの数だけ繰り返す(ステップS104)。
【0069】
図15は、初期データ数の成形が完了し、品質値が入力された成形条件導出プログラムの画面の一例を示す説明図である。
図15に示すように、初期データ数の成形が完了したら(ステップS105、ステップS200)、成形条件の適正化部122において、成形条件適正化工程(ステップS300)を開始する。
【0070】
この成形条件適正化工程を開始する(ステップS300、ステップS301)と、先述のベイズ最適化手法による繰り返し成形を行うことで、成形条件適正化を実現する。そのために、まず、初期データ収集工程で収集した、入力パラメータ(成形条件の値)、および目的変数(品質値)を使い、ガウス過程回帰モデルを作成する(ステップS302)。すなわち、入力パラメータ(成形条件の値)、および目的変数(品質値)を用いて、予測モデル(予測関数)を作成する。こうして作成したガウス過程回帰モデルに、未だ成形していない成形条件の組み合わせを入力し、予測平均値、および予測標準偏差を求める。その後、獲得関数EI(Expected Improvement)で、ガウス過程回帰モデルに入力した成形条件の評価値を算出する(ステップS303)。
【0071】
なお、ここで入力する、未だ成形していない成形条件の組み合わせは、設定した入力パラメータに対して、成形条件の設定幅情報141の上下限範囲で作成した等差数列の全組み合わせとした。評価値の最も高い成形条件が、次に試行する成形条件として、表示入力部130にあるGUI(Graphical User Interface)に表示される(ステップS304)。
【0072】
図16は、次に試行する成形条件が表示された成形条件導出プログラムの画面の一例を示す説明図である。
図16において、最終行に表示された成形条件が次に試行する成形条件となる。
【0073】
以上の、次の成形条件を表示する処理については、図14図16に示している成形条件導出プログラムの画面にある「ベイズ最適化実行」ボタンをクリックすることで実行することができる。
【0074】
その後は、初期データ収集工程と同様に、射出成形機200を駆動して表示された成形条件の下で成形を行う(ステップS305)。同様に、成形安定性の確認(ステップS306)、成形品質値の取得(ステップS307)も行う。そして、取得した品質値が要求品質を満たせば(ステップS308)、成形条件適正化工程が終了となる(ステップS310、ステップS400)。一方、要求品質を満たさなければ、終了判定(ステップS309)を行う。
【0075】
終了判定は、この実施の形態1では、回数指定として10回の繰り返し成形を行う設定としたが、回数は任意に設定してもよい。終了判定が終了とならなければ、再び成形条件適正化工程(ステップS301)に戻り、一連の流れを繰り返す。一方、終了判定が終了となれば、成形条件適正化工程が終了となる(ステップS310、ステップS400)。
【0076】
以上のように、この実施の形態1では、入力に対する出力の事後分布を求めることが可能な回帰モデル、特にガウス過程回帰モデルを活用したベイズ最適化手法を用いて成形品の要求品質を満たす成形条件を導出するので、少ないデータ数でも成形条件を適正化するための予測関数を構築できる。このため、成形作業者の技術水準に依存せずに、成形品に要求される品質を満たす適正な成形条件を容易に導出することができる。
【0077】
すなわち、実施の形態1に係る射出成形方法は以下のステップを有し、また、実施の形態1に係るコンピュータプログラムが記憶されたコンピュータ読み込み可能な記憶媒体は、前記コンピュータプログラムがプロセッサによって実行されるときに、以下のステップを実行するものである。
すなわち、前記実行するステップとは、成形品の成形条件を含む入力パラメータ、および前記入力パラメータに対する前記成形品の要求品質を定量化した品質値を含む目的変数値に基づいて予測モデルを構築するステップと、
前記予測モデルを使用して前記入力パラメータに対する前記目的変数値の予測分布を推論するステップと、
前記予測分布により、前記目的変数値の評価が初期の品質値に比べて最も高い品質値となる前記入力パラメータを求める回帰モデルを活用したベイズ最適化手法により、前記成形品の要求品質を満たす成形条件を導出するステップである。
【0078】
以上の射出成形方法およびコンピュータ読み込み可能な記憶媒体は、図18に示すように、図1の成形条件導出装置100の制御処理部120の中の成形条件の適正化部122により、実行される。
そして、図18に示す成形条件の適正化部122は、前記成形品の成形条件を含む前記入力パラメータ、および前記入力パラメータに対する前記成形品の要求品質を定量化した前記品質値を含む目的変数値に基づいて予測モデルを構築する予測モデル構築部1200と、前記予測モデルを使用して前記入力パラメータに対する前記目的変数値の予測分布を推論する予測分布推論部1210と、前記予測分布により、前記目的変数値の評価が初期の品質値に比べて最も高い品質値となる前記入力パラメータを求める回帰モデルを活用したベイズ最適化手法により、前記成形品の要求品質を満たす成形条件を導出する成形条件導出部1220とを備える。
【0079】
また、図19のフローチャートに示すように、実施の形態1に係る射出成形方法は、以下のステップ、および、コンピュータプログラムが記憶されたコンピュータ読み込み可能な記憶媒体は、前記コンピュータプログラムがプロセッサによって実行されるときに、以下のステップを実行するものである。
すなわち、図19に示すように、成形品の成形条件を含む入力パラメータ、および前記入力パラメータに対する前記成形品の要求品質を定量化した品質値を含む目的変数値に基づいて予測モデルを構築する(ステップS1200)と、
前記予測モデルを使用して前記入力パラメータに対する前記目的変数値の予測分布を推論する(ステップS1210)と、
前記予測分布により、前記目的変数値の評価が初期の品質値に比べて最も高い品質値となる前記入力パラメータを求める回帰モデルを活用したベイズ最適化手法により、前記成形品の要求品質を満たす成形条件を導出する(ステップS1220)とを実行するものである。
【0080】
前述したように、制御処理部120は、例えば、ハードウェア構成の一例を図17に示すように、CPU(Central Processing Unit)、あるいはGPU(Graphics Processing Unit)などのプロセッサ1000と、記憶装置1010(記憶部140)で構成され、プロセッサ1000が記憶装置1010(記憶部140)に格納されたプログラムを実行することで実現される。
したがって、図18で示した成形条件の適正化部122の予測モデル構築部1200、予測分布推論部1210、および成形条件導出部1220の処理、並びに、図19で示したフローチャートで実行される(ステップS1200、S1210、S1220)は、プロセッサ1000が記憶装置1010(記憶部140)に格納されたプログラムを実行することで実現される。
【0081】
実施の形態2.
[センサ値の特徴量の活用]
実施の形態2では、センサ値の特徴量を活用した良品維持、および良品復旧するための射出成形方法について説明する。
成形品の要求品質を満たす最適な成形条件を求める(成形条件パラメータ適正化と称する)ためには、実施の形態1と同様に、入力と出力の関係を適正化する最適化問題として考える必要がある。
実施の形態2では、例えば、要求品質を満たす良品時の金型内のセンサ値(以降、基準センサ値と称する)を基準として、この基準センサ値に一致させるように、後述のセンサ値から抽出した特徴量を活用したベイズ最適化に基づいて、成形条件を変更することにより、良品状態を維持すること、あるいは不良状態から良品状態へ戻すことができる。
以下の説明では、一例として、不良状態から良品状態へ戻す方法について説明する。
【0082】
[射出成形方法を実現するための構成]
実施の形態2の射出成形方法を行うための構成について、図20および図21を用いて実施の形態1との相違を中心に説明する。
図20および図21は、実施の形態2による射出成形方法を実現するために必要な装置構成の一例を示す図である。
図20に示すように、射出成形機200は、成形品211を成形する金型210を備え、金型210には各種のセンサ212が取り付けられている。センサ212により計測されたデータは、計測アンプ220を経由して後述する成形条件導出装置100Aの制御処理部120Aに取り込まれる。
なお、図20の構成は、実施の形態1の図1と同様であるので、詳細な説明は省略する。
【0083】
図21に示すように、成形条件導出装置100Aは、通信部110、制御処理部120A、表示入力部130、および記憶部140を備える。
制御処理部120Aは、成形条件の次条件出力部121、成形条件の適正化部122A、間接品質値の処理部123、直接品質値の処理部124、およびセンサ値の特徴量の処理部125を備える。
記憶部140は、成形条件の設定幅情報141、成形条件の項目影響度142、および成形品情報143を備える。
実施の形態2の成形条件導出装置100Aは、実施の形態1の成形条件導出装置100と比較して、制御処理部120Aの中にセンサ値の特徴量の処理部125を備える点で相違する。
センサ値の特徴量の処理部125は、計測アンプ220を経由して制御処理部120Aに取り込まれたセンサ値を用いて、成形条件の最適化に使用する後述のセンサ値の特徴量を計算する。
以上の構成を備えることにより、実施の形態2による射出成形方法を実施することができる。
【0084】
[センサ値から抽出する特徴量]
実施の形態2では、入力は成形条件の値となり、出力は金型内のセンサ212の計測値から抽出した特徴量となる。
本例では、出力となる金型内のセンサ値から抽出する特徴量は3つある。センサ値から抽出した特徴量の1つ目および2つ目は、図22に示すような、センサ値のX方向の特徴量およびY方向の特徴量(具体的には、センサ値の最大値または最大値に到達した時間、充填完了時間時のセンサ値またはその到達した時間、等)である。
図22では、一例として、センサ値として圧力センサ値を使用し、センサ値のX方向の特徴量は最大射出圧力値となるときの時間とし、センサ値のY方向の特徴量は最大射出圧力値とした。なお、特徴量である1つ目および2つ目としての、センサ値のX方向とY方向の組み合わせは問わない。また、図22に示すように、X方向の特徴量が2つの場合(x1、x2)またはY方向の特徴量が2つの場合(y1、y2)であってもよい。
【0085】
センサ値から抽出した特徴量の3つ目は、基準センサ値に対する、成形条件を変更した際のセンサ値との類似度を特徴量とする。
実施の形態2では、類似度としてユークリッド距離を使用する場合を一例として示す。ユークリッド距離とは任意の次元の2点間の最短距離である。具体的な計算方法は、数式(7)が基準センサ値、数式(8)が成形条件を変更した際のセンサ値とした場合、そのセンサ値間のユークリッド距離dは数式(9)にて計算する。計算して求めたユークリッド距離の一例として、類似度が低い場合を図23に、類似度が高い場合を図24に示す。図23および図24において、実線は基準センサ値の波形、点線は成形条件を変更した際のセンサ値の波形を示す。
なお、センサ値間の類似度としてユークリッド距離の他、マンハッタン距離、コサイン類似度、センサ値の時間積分値のいずれかを使用してもよい。
【0086】
【数7】
【0087】
【数8】
【0088】
【数9】
【0089】
[ベイズ最適化によるパラメータ探索方法]
実施の形態2では、実施の形態1と同様にベイズ最適化手法により、次に検証する入力パラメータ(成形条件)を決定するために、入力パラメータ候補の組み合わせに対する評価を行うための獲得関数を使用する。この獲得関数は、例えばPI(Probability of Improvement)を用いてもよいし、EI(Expected Improvement)を用いてもよい。あるいはUCB(Upper Confidence Bound)、またはMI(Mutual Information)を用いてもよい。
【0090】
実施の形態2では、一例として、実施の形態1で説明したEI(Expected Improvement)と呼ばれる、目的変数最小値(または最大値)からどれだけ改善するかの期待値を算出する獲得関数を、前述のセンサ値から抽出した特徴量である3つの目的変数に対応させて使用することで、基準センサ値に一致させる。その具体的な方法として、獲得関数EI(Expected Improvement)が最小化アルゴリズム(前述の数式(5)、数式(6))の場合を説明する。
【0091】
基準センサ値に一致させるためには、目的変数となる前述のセンサ値の特徴量3つに対して、異なる最適化方法を組み合わせる必要がある。センサ値のX方向およびY方向の特徴量は、基準センサ値のX方向およびY方向の特徴量の±3%の範囲を最適化目標とし、その範囲に収まることを目指して最適化を行う。最小化アルゴリズムを使用し、目的変数であるセンサ値のX方向およびY方向の特徴量を最適化目標の範囲に収めるためには、前述のガウス過程回帰モデルから出力された予測平均μを数式(10)に当てはめて計算した値μ’を使用することで目標の範囲内に収める最適化を実現することができる。なお、数式(10)のRLupperは基準センサ値のX方向およびY方向の+3%の値、RLlowerは基準センサ値のX方向およびY方向の-3%の値を示している。なお、基準センサ値に対する上下限の割合は±10%の範囲で任意に設定してもよい。
【0092】
【数10】
【0093】
また、基準センサ値に対する類似度については、その類似度が最大となるように最適化を行う。前述の最小化アルゴリズムを使用し、目的変数である類似度が最大となるような処理を行うためには、前述のガウス過程回帰モデルから出力された予測平均μに-1を乗算して正負を逆転させた値を使用することで目的変数の最大化を行うことができる。
【0094】
この実施の形態2では、3つの目的変数に対して前述の処理を行い、その後、実施の形態1で説明したEI(Expected Improvement)による評価値(EI値)を合成することで獲得関数を単一化する。評価値の単一化方法として、重み付け線形和を取る手法を用いているが、単純に和、あるいは積を取る手法でもよい。
【0095】
本例では、センサ値として、圧力センサ値を使用した例を説明しているが、センサ値として、温度センサ値、AE(Acoustic Emission)センサ値、ひずみゲージで計測した金型のひずみ値、などを使用して、前述と同様の処理を行ってもよい。
また、本例では、センサ値として2次元座標のX方向の特徴量およびY方向の特徴量を例に挙げて説明しているが、センサ値として3次元座標のX方向の特徴量、Y方向の特徴量、Z方向の特徴量に着目しても良く、センサ値としてN次元座標(Nは2以上の整数)のx1方向の特徴量、x2方向の特徴量、・・・、xN方向の特徴量に着目して、前述と同様の処理を行っても良い。
【0096】
[成形条件の適正化方法]
図25図28は、実施の形態2の射出成形方法において、成形条件の適正化のための一連の処理手順の一例を示すフローチャートである。なお、以下では、温度変化、樹脂材料のロット変化等の外乱により、成形品の不良が発生した際、良品状態へ戻す場合を例に挙げて具体的に説明する。また、図において、符号Sはステップを表している。
【0097】
図25は、実施の形態2による射出成形方法において成形条件適正化の事前準備を行う一連の処理手順の一例を示すフローチャートである。
まず、良品状態へ戻すための成形条件の適正化を行う前に、図25のフローチャートに従い、事前準備として、基準センサ値の取得工程を開始する(ステップS601)。
【0098】
そして、初めに成形安定性の確認を行う(ステップS602)。成形安定性の具体的な確認方法として、この実施の形態2では、温度センサの値の変化が3回連続成形で±1℃以内に収まることを成形安定性の確認の条件とした。
成形安定性が確認できた後、実施の形態1で説明した成形品質値の取得工程(図13参照)において、成形品質値が要求品質を満たすことを確認する(ステップS603、ステップS604、ステップS501~ステップS511)。
【0099】
もし、成形品質値が要求品質を満たさない状態が続く場合には、実施の形態1の方法で良品が成形できる成形条件の導出を行う。その後、要求品質を満たしたときのセンサ212(本例では圧力センサ)の値を、計測アンプ220から表示入力部130を経由して、記憶部140へ保存する(ステップS605)。この場合、予め定めた設定回数分、センサ値の保存を行う(ステップS606)。本例では、例えば、センサ値の保存する回数である設定回数として30回の繰り返し成形を行うようにしたが、設定回数は任意に設定してもよい。
【0100】
センサ値の取得が完了した後に、保存したセンサ値を活用して基準センサ値の作成を行う(ステップS607)。基準センサ値の作成の具体的な方法としては、欠損値およびノイズの除去または置換等の前処理を行った後に、センサ値の平均値、中央値、および重み付け平均値を計算する方法があるが、本例では平均値とした。このとき、作成した基準センサ値から前述の図22に示すセンサ値のX方向の特徴量(本例では、最大射出圧力値となるときの時間)、およびY方向の特徴量(本例では、最大射出圧力値)を取得し、併せて記憶部140へ保存する。基準センサ値の作成および保存ができた後、基準センサ値の取得工程を終了する(ステップS608)。この事前準備は、金型の成形条件導出時だけでなく、成形品の量産中にも行うことができる。
【0101】
次に、対象となる成形品の基準センサ値を作成した後、良品状態へ戻すための成形条件適正化を行う。
すなわち、図26図28のフローチャートに従い、初期データ収集工程を開始する(ステップS100、ステップS101)。これには、まず、成形条件導出装置100Aを起動し、実施の形態1で説明した成形条件の設定幅情報141、成形条件の項目影響度142、成形品情報143の設定を行う。その後、記憶部140に格納された成形条件導出プログラムを起動する。
【0102】
図30には、一例として、入力パラメータ4つ(樹脂温度1段目、射出速度3段目、射出速度4段目、保圧1段目)、目的変数3つ(目的変数1:センサ値のX方向の特徴量、目的変数2:センサ値のY方向の特徴量、目的変数3:基準波形のセンサ値に対する類似度)の場合の成形条件導出プログラムの起動画面を示す。
【0103】
記憶部140に格納された成形条件導出プログラムは、起動時に、成形条件の項目影響度142からセンサ値の変動に大きく影響を与える入力パラメータとなる成形条件の項目を選択し、成形条件の設定幅情報141の範囲内で収まるように、図30に示すような初期成形条件表を作成する。そして、その内容を表示入力部130に表示する。
なお、図30は、各成形条件の組み合わせをランダムに出力する設定の場合を示しているが、各成形条件を制御因子とした2水準の直交表として出力すること、あるいは[ランダムに任意個数選択した成形条件の行列]×[選択した成形条件の転置行列]のスカラー値を最適化基準とし、その最適化基準が最大となるような初期条件を選択することも可能である。
【0104】
成形作業者は、成形条件導出装置100Aの表示入力部130に表示される図30の初期成形条件表に従って成形作業を行う。このとき、成形条件は、成形作業者が直接手入力してもよいし、あるいは射出成形機200がネットワークでつながっていれば通信部110を通じて自動入力してもよい。図30の初期成形条件表の1行目から成形作業を順次行い、成形安定性の確認を行う(ステップS102)。
【0105】
射出成形では、成形条件の設定、その後の変更後に成形を始めると、成形回数が増えていくのに従って徐々に金型温度の上昇、あるいは低下が発生する。その後、ある回数の成形を行うと、温度変化が徐々に減少していき、同じ金型温度状態で成形できるようになる。この状態を成形が安定したと判断する指標とする。
具体的な確認方法として、本例では、実施の形態1の例と同じく温度センサの値の変化が3回連続成形で±1℃内に収まることを成形安定性の確認の条件とした。
【0106】
次に、成形安定性が確認できた後に、図29のフローチャートに従い、成形した成形品211に対して、センサ値の特徴量の取得を行う(ステップS1000、ステップS801)。成形中に、センサ212と計測アンプ220で取得した圧力の時系列データを成形条件導出装置100Aへ送信する(ステップS802)。送信された時系列データは、センサ値の特徴量の処理部125へ送られる。センサ値の特徴量の処理部125では、前述の3つのセンサ値の特徴量である、基準センサ値に対する現在のセンサ値の類似度(ステップS803)、センサ値のX方向の特徴量(ステップS804)、センサ値のY方向の特徴量(ステップS805)を計算する。必要な値の取得が完了したら、センサ値の特徴量の取得工程を終了する(ステップS806)。
【0107】
次に、射出成形機200を駆動して初期成形条件表の各成形条件の下で成形を行い、目的変数となるセンサ値の特徴量を取得する工程を、初期成形条件表に表示された初期データの数だけ繰り返す(ステップS104)。
図31は、初期データ数の成形が完了し、センサ値の特徴量が入力された成形条件導出プログラムの画面の一例を示す説明図である。
図31に示すように、初期データ数の成形が完了して、初期データ収集工程が終了(ステップS105、ステップS200)すると、成形条件の適正化部122Aにおいて、成形条件適正化工程(ステップS300)を開始する。
【0108】
成形条件適正化工程を開始する(ステップS300、ステップS301)と、前述のベイズ最適化手法による繰り返し成形を行うことで、成形条件適正化を実現する。そのために、まず、初期データ収集工程で収集した、入力パラメータ(成形条件の値)、および目的変数(センサ値の特徴量)を使い、ガウス過程回帰モデルを作成する(ステップS302)。すなわち、入力パラメータ(成形条件の値)、および目的変数(センサ値の特徴量)を用いて、予測モデル(予測関数)を作成する。こうして作成したガウス過程回帰モデルに、未だ成形していない成形条件の組み合わせを入力し、予測平均値、および予測標準偏差を求める。その後、予測平均値に対して前述の最小化アルゴリズムを適用するための数値処理を行い、獲得関数EI(Expected Improvement)で、ガウス過程回帰モデルに入力した成形条件の評価値を算出する(ステップS303)。
【0109】
なお、ここで入力する、未だ成形していない成形条件の組み合わせは、設定した入力パラメータに対して、成形条件の設定幅情報141の上下限範囲で作成した等差数列の全組み合わせとした。評価値の最も高い成形条件が、次に試行する成形条件として、表示入力部130にあるGUI(Graphical User Interface)に表示される(ステップS304)。
【0110】
図32は、次に試行する成形条件が表示された成形条件導出プログラムの画面の一例を示す説明図である。
図32において、最終行に表示された成形条件が次に試行する成形条件となる。
以上の、次の成形条件を表示する処理については、図30図32に示している成形条件導出プログラムの画面にある「ベイズ最適化実行」ボタンをクリックすることで実行することができる。
【0111】
その後は、初期データ収集工程と同様に、射出成形機200を駆動して表示された成形条件の下で成形を行う(ステップS305)。さらに、初期データ収集工程と同様に、成形安定性の確認(ステップS306)、センサ値の特徴量の取得(ステップS2000、ステップS801)を行う。そして、取得したセンサ値の特徴量が要求を満たせば(ステップS308)、成形条件適正化工程が終了となる(ステップS310、ステップS400)。本例では、基準センサ値に対する類似度に採用したユークリッド距離が0.7以上になった場合に、要求を満たしたと判断した。一方、要求を満たさなければ、終了判定(ステップS309)を行う。
【0112】
本例では、終了判定(ステップS309)は、回数指定として10回の繰り返し成形を行う設定としたが、回数は任意に設定してもよい。終了判定が終了とならなければ、再び成形条件適正化工程(ステップS301)に戻り、一連の流れを繰り返す。一方、終了判定が終了となれば、成形条件適正化工程が終了となる(ステップS310、ステップS400)。
【0113】
以上のように、この実施の形態2では、入力に対する出力の事後分布を求めることが可能な回帰モデル、特にガウス過程回帰モデルを活用したベイズ最適化手法を用いて成形品の要求品質を満たす成形条件を導出するので、少ないデータ数でも成形条件を適正化するための予測関数を構築できる。このため、成形作業者の技術水準に依存せずに、温度変化または樹脂材料のロット変化等の外乱により、成形品の不良が発生した際、良品状態へ戻すための適正な成形条件を容易に導出することができる。
【0114】
すなわち、実施の形態2に係る射出成形方法は以下のステップを有し、また、実施の形態2に係るコンピュータプログラムが記憶されたコンピュータ読み込み可能な記憶媒体は、前記コンピュータプログラムがプロセッサによって実行されるときに、以下のステップを実行するものである。
すなわち、前記実行するステップとは、成形品の成形条件を含む入力パラメータ、前記入力パラメータに対する射出成形機に配置されたセンサのセンサ値の特徴量、および前記成形品が要求品質を満たすときの前記センサ値である基準センサ値に対する前記成形品の成形条件を変更した際のセンサ値の類似度を含む目的変数値、に基づいて予測モデルを構築するステップと、
前記予測モデルを使用して前記入力パラメータに対する前記目的変数値の予測分布を推論するステップと、
前記予測分布により、前記目的変数値の評価が初期のセンサ値の特徴量よりも前記基準センサ値の特徴量に近くなる前記入力パラメータを求める回帰モデルを活用したベイズ最適化手法により、前記成形品の要求品質を満たす成形条件を導出するステップである。
【0115】
以上の射出成形方法およびコンピュータ読み込み可能な記憶媒体は、図33に示すように、図21の成形条件導出装置100Aの制御処理部120Aの中の成形条件の適正化部122Aにより、実行される。
そして、図33に示す成形条件の適正化部122Aは、前記成形品の成形条件を含む前記入力パラメータ、前記入力パラメータに対する射出成形機に配置されたセンサのセンサ値の特徴量、および前記成形品が要求品質を満たすときの前記センサ値である基準センサ値に対する前記成形品の成形条件を変更した際のセンサ値の類似度を含む目的変数値、に基づいて予測モデルを構築する予測モデル構築部1200Aと、前記予測モデルを使用して前記入力パラメータに対する前記目的変数値の予測分布を推論する予測分布推論部1210Aと、前記予測分布により、前記目的変数値の評価が初期のセンサ値の特徴量よりも前記基準センサ値の特徴量に近くなる前記入力パラメータを求める回帰モデルを活用したベイズ最適化手法により、前記成形品の要求品質を満たす成形条件を導出する成形条件導出部1220Aとを備える。
【0116】
また、図34のフローチャートに示すように、実施の形態1に係る射出成形方法は、以下のステップ、および、コンピュータプログラムが記憶されたコンピュータ読み込み可能な記憶媒体は、前記コンピュータプログラムがプロセッサによって実行されるときに、以下のステップを実行するものである。
すなわち、図34に示すように、成形品の成形条件を含む入力パラメータ、前記入力パラメータに対する射出成形機に配置されたセンサのセンサ値の特徴量、および前記成形品が要求品質を満たすときの前記センサ値である基準センサ値に対する前記成形品の成形条件を変更した際のセンサ値の類似度を含む目的変数値、に基づいて予測モデルを構築する(ステップS1200A)と、前記予測モデルを使用して前記入力パラメータに対する前記目的変数値の予測分布を推論する(ステップS1210A)と、前記予測分布により、前記目的変数値の評価が初期のセンサ値の特徴量よりも前記基準センサ値の特徴量に近くなる前記入力パラメータを求める回帰モデルを活用したベイズ最適化手法により、前記成形品の要求品質を満たす成形条件を導出する(ステップS1220A)とを実行するものである。
【0117】
実施の形態2においても、実施の形態1と同様に、制御処理部120Aは、例えば、ハードウェア構成の一例を図17に示すように、CPU(Central Processing Unit)、あるいはGPU(Graphics Processing Unit)などのプロセッサ1000と、記憶装置1010(記憶部140)で構成され、プロセッサ1000が記憶装置1010(記憶部140)に格納されたプログラムを実行することで実現される。
したがって、図33で示した成形条件の適正化部122Aの予測モデル構築部1200A、予測分布推論部1210A、および成形条件導出部1220Aの処理、並びに、図34で示したフローチャートで実行される(ステップS1200A、S1210A、S1220A)は、プロセッサ1000が記憶装置1010(記憶部140)に格納されたプログラムを実行することで実現される。
【0118】
なお、本願は、例示的な実施の形態が記載されているが、実施の形態に記載された様々な特徴、態様、および機能は特定の実施の形態の適用に限られるものではなく、単独で、または様々な組み合わせで実施の形態に適用可能である。
【0119】
したがって、例示されていない無数の変形例が、本願に開示される技術の範囲内において想定される。例えば、少なくとも一つの構成要素を変形する場合、追加する場合、または省略する場合が含まれものとする。
【符号の説明】
【0120】
100,100A 成形条件導出装置、110 通信部、120,120A 制御処理部、121 成形条件の次条件出力部、122,122A 成形条件の適正化部、123 間接品質値の処理部、124 直接品質値の処理部、125 センサ値の特徴量の処理部、130 表示入力部、140 記憶部、141 成形条件の設定幅情報、142 成形条件の項目影響度、143 成形品情報、200 射出成形機、210 金型、211 成形品(成形中)、212 センサ、220 計測アンプ、300 取り出しロボット、400 搬送コンベア、500 成形品(成形後)、600 形状測定機器、700 カメラ、1200,1200A 予測モデル構築部、1210,1210A 予測分布推論部、1220,1220A 成形条件導出部。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
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図20
図21
図22
図23
図24
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図28
図29
図30
図31
図32
図33
図34