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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-02-13
(45)【発行日】2025-02-21
(54)【発明の名称】金属溶湯濾過部材
(51)【国際特許分類】
   C22B 9/02 20060101AFI20250214BHJP
   B01D 29/31 20060101ALI20250214BHJP
   B01D 27/08 20060101ALI20250214BHJP
   B01D 39/20 20060101ALI20250214BHJP
   C04B 37/00 20060101ALI20250214BHJP
【FI】
C22B9/02
B01D23/06
B01D27/08
B01D39/20 D
C04B37/00 Z
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2024008687
(22)【出願日】2024-01-24
【審査請求日】2024-08-05
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000004064
【氏名又は名称】日本碍子株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000237868
【氏名又は名称】エヌジーケイ・アドレック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000017
【氏名又は名称】弁理士法人アイテック国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】古宮山 常夫
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 雅章
(72)【発明者】
【氏名】星野 智也
【審査官】中西 哲也
(56)【参考文献】
【文献】特開平06-136460(JP,A)
【文献】特開平01-184237(JP,A)
【文献】特開平04-350130(JP,A)
【文献】特開2007-169709(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22B 9/02
B01D 39/00-41/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
筒状の濾過体と、
前記濾過体の一端が挿入される一端側挿入穴を有する一端側側板と、
前記濾過体の一端の外周面と前記一端側挿入穴の内周面とを接合する一端側接合層と、
前記濾過体の他端が挿入される他端側挿入穴を有する他端側側板と、
前記濾過体の他端の外周面と前記他端側挿入穴の内周面とを接合する他端側接合層と、
を有し、
前記一端側挿入穴の内周面及び前記他端側挿入穴の内周面のうちの少なくとも一方は、
深さ50μm以上の凹みを複数有し、前記凹みの平均深さが90μm以上1000μm以下であり、
前記接合層は、アルミナ及びシリカを含むモルタルであり、前記側板は、炭化珪素の骨材を含み、前記骨材の粒度分布は、粒径2000μm超過が8%以上15.0%以下、粒径500μm超過2000μm以下が30.0%以上60.0%以下、粒径90μm超過500μm以下が10.0%以上30.0%以下、粒径90μm以下が20.0%以上35.0%以下であり、前記濾過体は、アルミナ骨材をアルミニウムボレートの針状結晶で結合した多孔質材料製である、
金属溶湯濾過部材。
【請求項2】
前記一端側挿入穴の内周面及び前記他端側挿入穴の内周面のうちの少なくとも一方において、前記凹みの平均深さが200μm以上1000μm以下である、
請求項1に記載の金属溶湯濾過部材。
【請求項3】
前記一端側挿入穴の内周面及び前記他端側挿入穴の内周面のうちの少なくとも一方において、平均表面粗さRaが50μm以上600μm以下である、
請求項1に記載の金属溶湯濾過部材。
【請求項4】
前記一端側挿入穴の内周面及び前記他端側挿入穴の内周面のうちの少なくとも一方において、前記凹みの平均幅が200μm以上500μm以下である、
請求項1~3のいずれか1項に記載の金属溶湯濾過部材。
【請求項5】
前記一端側挿入穴の内周面及び前記他端側挿入穴の内周面のうちの少なくとも一方において、長さ15mmの直線上に存在する前記凹みの数が4個以上30個以下である、
請求項1~3のいずれか1項に記載の金属溶湯濾過部材。
【請求項6】
前記一端側挿入穴及び前記他端側挿入穴のうち少なくとも一方である挿入穴において、前記濾過体を押し抜くのにかかる最大荷重が前記挿入穴の直径が104mmで深さが28mmであり前記濾過体の外径が100mmの場合に3.5kN以上である、
請求項1~3のいずれか1項に記載の金属溶湯濾過部材。
【請求項7】
前記一端側挿入穴の内周面及び前記他端側挿入穴の内周面のうちの少なくとも一方は、長さ15mmで濾過体の差し込み方向の任意の直線上を測定したときに、深さ50μm以上の凹みを複数有し、前記凹みの平均深さが90μm以上1000μm以下である、
請求項1~3のいずれか1項に記載の金属溶湯濾過部材。
【請求項8】
前記一端側挿入穴の内周面及び前記他端側挿入穴の内周面のうちの少なくとも一方において、長さ15mmで濾過体の差し込み方向の任意の直線上を測定したときに、平均表面粗さRaが50μm以上600μm以下である、請求項1~3のいずれか1項に記載の金属溶湯濾過部材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属溶湯濾過部材に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、有底円筒状の複数の濾過体と、一対の側板とを備えた金属溶湯濾過部材が知られている。一対の側板の互いに向い合う面には、それぞれ、濾過体の端部が挿入されて保持される挿入穴が設けられている。濾過体の端部はそれぞれ挿入穴に挿入されて接合されている。この金属溶湯濾過部材では、濾過体の外周面から供給された金属溶湯は、濾過体で濾過されながら筒内部に流入し、介在物が除去されて開口側の端部から流出する。こうした金属溶湯濾過部材において、挿入穴の深さに対する隣り合う挿入穴同士の間隔の比を0.33以上0.67以下とすることが提案されている(例えば、特許文献1参照)。これにより、側板の強度を維持しつつ濾過効率を高めることができるとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2014-210254号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1では、側板の強度を維持しつつ濾過効率を高めることができるとしているものの、濾過体と側板との接合強度が十分でないことがあり、濾過体と側板との接合強度をより高めることが望まれていた。
【0005】
本発明はこのような課題を解決するためになされたものであり、濾過体と側板との接合強度をより高めることを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
[1]本発明の金属溶湯濾過部材は、
筒状の濾過体と、
前記濾過体の一端が挿入される一端側挿入穴を有する一端側側板と、
前記濾過体の一端の外周面と前記一端側挿入穴の内周面とを接合する一端側接合層と、
前記濾過体の他端が挿入される他端側挿入穴を有する他端側側板と、
前記濾過体の他端の外周面と前記他端側挿入穴の内周面とを接合する他端側接合層と、
を有し、
前記一端側挿入穴の内周面及び前記他端側挿入穴の内周面のうちの少なくとも一方は、深さ50μm以上の凹みを複数有し、前記凹みの平均深さが90μm以上1000μm以下である。
【0007】
この金属溶湯濾過部材では、一端側挿入穴の内周面及び他端側挿入穴の内周面のうちの少なくとも一方において、深さ50μm以上の凹みを複数有しその平均深さが90μm以上1000μm以下である。そのため、凹みに接合層が適度に入り込むことなどにより側板と接合層との接合力が高まり、濾過体と側板との接合強度をより高めることができる。
【0008】
[2]本発明の金属溶湯濾過部材(前記[1]に記載の金属溶湯濾過部材)は、前記一端側挿入穴の内周面及び前記他端側挿入穴の内周面のうちの少なくとも一方において、前記凹みの平均深さが200μm以上1000μm以下であることが好ましい。こうすれば、濾過体と側板との接合強度をより高めることができる。
【0009】
[3]本発明の金属溶湯濾過部材(前記[1]又は[2]に記載の金属溶湯濾過部材)は、前記一端側挿入穴の内周面及び前記他端側挿入穴の内周面のうちの少なくとも一方において、平均表面粗さRaが50μm以上600μm以下であることが好ましい。こうすれば、濾過体と側板との接合強度をより高めることができる。
【0010】
[4]本発明の金属溶湯濾過部材(前記[1]~[3]のいずれかに記載の金属溶湯濾過部材)は、前記一端側挿入穴の内周面及び前記他端側挿入穴の内周面のうちの少なくとも一方において、前記凹みの平均幅が200μm以上500μm以下であることが好ましい。こうすれば、濾過体と側板との接合強度をより高めることができる。
【0011】
[5]本発明の金属溶湯濾過部材(前記[1]~[4]のいずれかに記載の金属溶湯濾過部材)は、前記一端側挿入穴の内周面及び前記他端側挿入穴の内周面のうちの少なくとも一方において、長さ15mmの直線上に存在する前記凹みの数が4個以上30個以下であることが好ましい。こうすれば、濾過体と側板との接合強度をより高めることができる。
【0012】
[6]本発明の金属溶湯濾過部材(前記[1]~[5]のいずれかに記載の金属溶湯濾過部材)は、前記一端側挿入穴及び前記他端側挿入穴のうち少なくとも一方において、前記濾過体を押し抜くのにかかる最大荷重が1.5kN以上であってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】金属溶湯濾過部材10の斜視図。
図2】金属溶湯濾過部材10の断面図。
図3】金属溶湯濾過部材10の使用例の説明図。
図4】挿入穴の内周面の測定例の説明図。
図5】押し抜き強度の測定例の説明図。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の好適な実施形態を、図面を参照しながら以下に説明する。図1は、金属溶湯濾過部材10の斜視図である。図2は、金属溶湯濾過部材10の断面図(濾過体20の中心軸を含む断面で切断した断面図)である。
【0015】
金属溶湯濾過部材10は、濾過体20と、濾過体20の一端22が挿入される一端側挿入穴32を有する一端側側板30と、濾過体20の他端24が挿入される他端挿入穴42を有する他端側側板40と、を有している。ここでは、金属溶湯濾過部材10は、濾過体20を14本有しており、各濾過体20が互いに間隔を開けて配置され、千鳥配列を構成している。濾過体20の一端22の外周面22aと一端側挿入穴32の内周面32aとは、一端側接合層38で接合されている。濾過体20の他端24の外周面24aと他端側挿入穴42の内周面42aとは、他端側接合層48で接合されている。濾過体20の一端22の端面22bと一端側挿入穴32の底面32bとの間には一端側パッキン39が配置されている。濾過体20の他端24の端面24bと他端側挿入穴42の底面42bとの間には他端側パッキン49が配置されている。
【0016】
濾過体20は、アルミナや炭化珪素などに代表されるセラミック材料で形成された多孔質の筒状部材である。濾過体20は、例えば、アルミナなどの骨材を、アルミニウムボレート(9Al23・2B23)などの無機結合材で結合したものとしてもよい。無機結合材は、例えば、アスペクト比2~50の針状結晶を構成しているものとしてもよい。濾過体20は、濾過体20と同軸の穴20hを有する円筒形状であり、一端22が開放し他端24が閉鎖している。他端24の外周面24aの一部は、端面24bに向けて縮径するテーパ面24cとなっている。濾過体20は、例えば、長さが約870mm、外径が約100mm、内径が約60mmである。なお、濾過体20の寸法は、濾過体20の本数などに応じて適宜調整すればよい。
【0017】
一端側側板30は、炭化珪素などに代表されるセラミック材料で形成された緻密質の板状部材である。なお、緻密質とは、金属溶湯が通過しない程度に緻密であることをいう(以下同じ)。セラミック材料は、例えば、SiO2結合SiC(SiO2-SiCとも称する)やSi34結合SiC(Si34-SiCとも称する)などとしてもよい。一端側側板30の一方の主面31には、一端側挿入穴32が設けられている。一端側挿入穴32は、主面31に開口した円形の凹部であり、その内径は濾過体20の外径よりも大径に形成されている。一端側挿入穴32の底面32bには、一端側挿入穴32と同軸で一端側側板30の他方の主面まで貫通する貫通穴32hが設けられている。貫通穴32hは、濾過体20の穴20hと略同径に形成されている。一端側側板30は、例えば、厚みが約50mmであり、一端側挿入穴32の深さが約28mmである。一端側挿入穴32の内周面32aは、底面32bから開口側に向けて拡径していてもよい。その場合、一端側挿入穴32の軸に対する内周面32aの傾きは約2.0°としてもよい。一端側側板30は、例えば、原料粉末(骨材)と有機バインダと水とを混合して坏土を調製し、この坏土を一端側側板30の形状に成形し、焼成して作製することができる。骨材の粒度分布は、粒径2000μm超過が1.0%以上15.0%以下、粒径500μm超過2000μm以下が30.0%以上60.0%以下、粒径90μm超過500μm以下が10.0%以上30.0%以下、粒径90μm以下が20.0%以上35.0%以下としてもよい。骨材の粒度分布は、粒径500μm超過が50.0%以上が好ましく、60.0%以上がより好ましく、65.0%以上がさらに好ましい。粒度分布は、振動篩機を用いJIS Z 8815-1994に準じて質量基準で測定したものとする。骨材は、SiCが好ましい。坏土は、SiCを80.0質量%以上含むものが好ましい。坏土に含まれるSiCは98.0質量%以下としてもよい。坏土は、水分量が2.0質量%以上5.0質量%以下が好ましい。坏土には、粘土や焼結助剤を添加してもよい。一端側挿入穴32の内周面32aや底面32bは、機械加工等を施した加工面としてもよく、焼成したままの焼成面としてもよい。
【0018】
一端側挿入穴32の内周面32aは、深さ50μm以上の凹みを複数有している。この凹み(深さ50μm以上の凹み、以下同じ)の深さの平均値(平均深さとも称する)は、90μm以上1000μm以下である。平均深さは、100μm以上が好ましく、200μm以上がより好ましく、300μm以上としてもよい。この凹みの幅の平均値(平均幅とも称する)は、200μm以上としてもよく、300μm以上としてもよく、400μm以上としてもよい。平均幅は、700μm以下としてもよく、600μm以下としてもよく、500μm以下としてもよい。この凹みに関し、長さ15mmの直線上に存在する数は4個以上としてもよく、5個以上としてもよく、8個以上としてもよい。また、この凹みに関し、長さ15mmの直線上に存在する数は30個以下としてもよく、20個以下としてもよく、15個以下としてもよい。一端側挿入穴32の内周面32aの算術表面粗さRaの平均値(平均表面粗さRaとも称する)は、50μm以上としてもよく、100μm以上としてもよく、150μm以上としてもよい。平均表面粗さRaは、1000μm以下としてもよく、800μm以下としてもよく、600μm以下としてもよい。算術平均粗さRaは、JIS B0601-2001に準じて測定した値とする。凹みの平均深さ、平均幅、個数や、内周面32aの平均表面粗さRaは、内周面32aの代表的な部分のうち長さ15mmで濾過体20の差し込み方向(図2の左右方向)の任意の直線上を測定して求めてもよく、複数(例えば3本)の直線上を測定して求めた平均値としてもよい。凹みの平均深さ、平均幅、個数や、内周面32aの平均粗さは、例えば、一端側側板30の作製時に使用する原料粉末の粒度分布や、坏土の水分を調整することで、適宜調整できる。
【0019】
一端側接合層38は、濾過体20の一端22の外周面22aと一端側挿入穴32の内周面32aとの間に配置されて、両者を接合する。一端側接合層38は、濾過体20の一端22の外周面22aと一端側挿入穴32の内周面32aとの間に金属溶湯が入り込まない程度に両者を密着させる。一端側接合層38は、例えば、モルタルで形成されているものとしてもよい。モルタルは、アルミナ質のモルタルが好ましく、アルミナを75質量%以上含むものがより好ましい。モルタルに含まれるアルミナの割合は95質量%以下としてもよい。アルミナ質のモルタルでは、アルミ溶湯などの金属溶湯中へのコンタミネーションを抑制できる。このモルタルは、SiO2などのガラス成分を含むものとしてもよく、それにより、金属溶湯の濾過を行う熱間時は柔らかいが使用前や使用後の冷間時は強固になるものとしてもよい。モルタルは、100℃以下の温度で自然乾燥及び/又は加熱乾燥させることで硬化するものとしてもよい。一端側接合層38の厚みは、例えば、1.5mm程度である。
【0020】
一端側パッキン39は、濾過体の一端22の端面22bと一端側挿入穴32の底面32bとの間に配置され、濾過体20の熱膨張や熱収縮による長手方向の寸法変化を主に吸収し、濾過体20と一端側側板30との密着性を保持する。一端側パッキン39は、一端側挿入穴32の底面32bと略同径で、濾過体20の穴20h及び一端側挿入穴32の貫通穴32hとをつなぐ穴39hを有する環状に形成されている。一端側パッキン39は、例えば、アルミナファイバーなどのセラミックファイバーで形成されているものとしてもよい。一端側パッキン39の厚みは、例えば、12mm程度である。
【0021】
他端側側板40は、炭化珪素などに代表されるセラミック材料で形成された緻密質の板状部材である。セラミック材料は、例えば、SiO2結合SiC(SiO2-SiCとも称する)やSi34結合SiC(Si34-SiCとも称する)などとしてもよい。他端側側板40の一方の主面41には、他端側挿入穴42が設けられている。他端側挿入穴42は、主面41に開口した円形の凹部であり、その内径は濾過体20の外径よりも大径に形成されている。他端側挿入穴42の底面42bには貫通穴は設けられていない。他端側側板40は、例えば、厚みが約45mmであり、他端側挿入穴42の深さが約28mmである。他端側挿入穴42の内周面42aは、底面42bから開口側に向けて拡径していてもよい。その場合、他端側挿入穴42の軸に対する内周面42aの傾きは約4.0°としてもよい。他端側側板40は、例えば、原料粉末(骨材)と有機バインダと水とを混合して坏土を調製し、この坏土を他端側側板40の形状に成形し、焼成して作製することができる。骨材の粒度分布や材質、坏土中のSiCの割合や水分量については、一端側側板30で説明したのと同様とすることができる。坏土には、粘土や焼結助剤を添加してもよい。他端側挿入穴42の内周面42aや底面42bは、機械加工等を施した加工面としてもよく、焼成したままの焼成面としてもよい。
【0022】
他端側挿入穴42の内周面42aは、深さ50μm以上の凹みを複数有している。この凹み(深さ50μm以上の凹み、以下同じ)の深さの平均値(平均深さとも称する)は、90μm以上1000μm以下である。平均深さは、100μm以上が好ましく、200μm以上がより好ましく、300μm以上としてもよい。この凹みの幅の平均値(平均幅とも称する)は、200μm以上としてもよく、300μm以上としてもよく、400μm以上としてもよい。平均幅は、700μm以下としてもよく、600μm以下としてもよく、500μm以下としてもよい。この凹みに関し、長さ15mmの直線上に存在する数は4個以上としてもよく、5個以上としてもよく、8個以上としてもよい。また、この凹みに関し、長さ15mmの直線上に存在する数は30個以下としてもよく、20個以下としてもよく、15個以下としてもよい。他端側挿入穴42の内周面42aの算術表面粗さRaの平均値(平均表面粗さRaとも称する)は、50μm以上としてもよく、100μm以上としてもよく、150μm以上としてもよい。平均表面粗さRaは、1000μm以下としてもよく、800μm以下としてもよく、600μm以下としてもよい。算術平均粗さRaは、JIS B0601-2001に準じて測定した値とする。凹みの平均深さ、平均幅、個数や、内周面42aの平均表面粗さRaは、内周面42aの代表的な部分のうち長さ15mmで濾過体20の差し込み方向(図2の左右方向)の任意の直線上を測定して求めてもよく、複数(例えば3本)の直線上を測定して求めた平均値としてもよい。凹みの平均深さ、平均幅、個数や、内周面42aの平均粗さは、例えば、他端側側板40の作製時に使用する原料粉末の粒度分布や、坏土の水分を調整することで、適宜調整できる。
【0023】
他端側接合層48は、濾過体20の他端24の外周面24aと他端側挿入穴42の内周面42aとの間に配置されて、両者を接合する。他端側接合層48は、濾過体20の他端24の外周面24aと他端側挿入穴42の内周面42aとの間に金属溶湯が入り込まない程度に両者を密着させる。他端側接合層48は、例えば、モルタルで形成されているものとしてもよい。モルタルは、一端側接合層38で説明したモルタルと同様とすることができる。他端側接合層48の厚みは、例えば、1.5mm程度である。
【0024】
他端側パッキン49は、濾過体20の他端24の端面24bと他端側挿入穴42の底面42bとの間に配置され、濾過体20の熱膨張や熱収縮による長手方向の寸法変化を主に吸収し、濾過体20と他端側側板40との密着性を保持する。他端側パッキン49は、他端側挿入穴42の底面42bと略同径の円形に形成されている。他端側パッキン49は、例えば、アルミナファイバーなどのセラミックファイバーで形成されているものとしてもよい。他端側パッキン49の厚みは、例えば、12mm程度である。
【0025】
金属溶湯濾過部材10の製造例について説明する。まず、他端側側板40を準備し、他端側挿入穴42の底面42bに他端側パッキン49の材料を配置する。そして、他端側接合層48の材料(モルタル)を他端側挿入穴42の内周面42a及び濾過体20の他端24の外周面24aに塗布して、他端側挿入穴42に濾過体20の他端24を所定深さまで挿入する。また、一端側側板30を準備し、一端側挿入穴32の底面32bに一端側パッキン39の材料を配置する。そして、一端側接合層38の材料(モルタル)を一端側挿入穴32の内周面32a及び濾過体20の一端22の外周面22aに塗布して、一端側挿入穴32に濾過体20の一端22を所定深さまで挿入する。その後、例えば100℃以下などの温度で自然乾燥及び/又は加熱乾燥を行う。それにより、濾過体20と、一端側側板30や他端側側板40とが接合され、金属溶湯濾過部材10が得られる。
【0026】
金属溶湯濾過部材10の使用例について図3を用いて説明する。図3は、金属溶湯濾過部材10の使用例の説明図である。金属溶湯濾過部材10は、収容槽50の濾過室52内に固定して用いられる。収容槽50は、耐火煉瓦などの耐火物で内張りされた容器であり、隔壁54によって濾過室52と出湯室56とに隔てられている。濾過室52の側壁の上部には入口51が設けられ、隔壁54には開口部53が設けられ、出湯室56の側壁には入口51よりも低い位置に出口57が設けられている。金属溶湯濾過部材10は、この収容槽50の濾過室52に、他端側側板40が入口51側、一端側側板30が隔壁54側になるように配置される。そして、他端側側板40と濾過室52の側壁との間にくさび59が打ち込まれると、隔壁54に一端側側板30が当接し、金属溶湯濾過部材10が濾過室52内に固定される。この状態で、アルミニウム金属やアルミニウム合金などの金属溶湯を収容槽50の入口51から供給すると、金属溶湯は、濾過体20の外周面から濾過体20の細孔を通って穴20hに至り、その間に酸化物などの固形不純物が濾過される。その後、固形不純物が除去された金属溶湯は、隔壁54に設けられた開口部53を通って出湯室56に溜まり、出口57から出湯され、金属箔や金属板、金属部品などの製造に用いられる。なお、金属溶湯濾過部材10は、使用に伴い濾過性能が落ちていくが、くさび59の抜き差しで交換可能なカートリッジとして構成されており、金属溶湯濾過部材10を交換するだけで、収容槽50は継続使用可能である。ここで、濾過体20と一端側側板30や他端側側板40との間の接合強度が弱いと、金属溶湯濾過部材10を運搬する際や収容槽50へセットしたり取り外したりする際に両者の接合がはずれてしまうことがある。また、金属溶湯濾過部材10を収容槽50にセットする前に両者の接合がはずれてしまうと、安定して金属溶湯を濾過することができないおそれがある。しかし、本発明の金属溶湯濾過部材10では、濾過体20と一端側側板30や他端側側板40との間の接合強度が強く、安定して濾過を行うことができる。このように、本発明では、信頼性の高い金属溶湯濾過部材10を提供できる。
【0027】
以上説明した金属溶湯濾過部材10では、一端側挿入穴32の内周面32a及び他端側挿入穴42の内周面42aにおいて、深さ50μm以上の凹みを複数有しその平均深さが90μm以上1000μm以下である。そのため、凹みに一端側接合層38や他端側接合層48が適度に入り込むことなどにより濾過体20と一端側接合層38や他端側接合層48との接合力が高まり、濾過体20と一端側側板30や他端側側板40との接合強度をより高めることができる。それにより、信頼性の高い金属溶湯濾過部材10を提供できる。なお、凹みの平均深さが1000μm以下などでは、凹みを起点とする側板の破損なども生じにくく望ましい。
【0028】
この金属溶湯濾過部材10において、一端側挿入穴32から濾過体20を押し抜くのにかかる最大荷重である一端側押し抜き強度は1.5kN以上であるものとしてもよい。この一端側押し抜き強度は2kN以上が好ましく、3kN以上がより好ましく、4kN以上がさらに好ましい。また、この金属溶湯濾過部材10において、他端側挿入穴42から濾過体20を押し抜くのにかかる最大荷重である他端側押し抜き強度は1.5kN以上であるものとしてもよい。この他端側押し抜き強度は2kN以上が好ましく、3kN以上がより好ましく、4kN以上がさらに好ましい。
【0029】
なお、本発明は上述した実施形態に何ら限定されることはなく、本発明の技術的範囲に属する限り種々の態様で実施し得ることはいうまでもない。
【0030】
例えば、上述した実施形態では、一端側挿入穴32の内周面32a及び他端側挿入穴42の内周面42aの両方において、深さ50μm以上の凹みを複数有しその平均深さが90μm以上1000μm以下を満たすものとしたが、これに限定されない。例えば、各部材の形状や配置の違いなどにより、一端側挿入穴32の内周面32aと一端側接合層38との間に応力が特に集中する場合には内周面32aのみがこれを満たしてもよい。また、他端側挿入穴42の内周面42aと一端側接合層48との間に応力が特に集中する場合には内周面42aのみがこれを満たしてもよい。
【0031】
上述した実施形態では、濾過体20の他端24は閉鎖しているものとしたが、開放していてもよい。また、他端側挿入穴42の底面42bには貫通穴は設けられていないものとしたが、貫通穴が設けられていてもよい。また、他端24の外周面24aの一部はテーパ面24cとなっているものとしたが、テーパ面24cになっていなくてもよい。
【実施例
【0032】
以下には、本発明の金属溶湯濾過部材について、濾過体と側板との接合強度を検討した例を実施例として説明する。なお、実験例2~11が本発明の実施例に相当し、実験例1が本発明の比較例に相当する。
【0033】
[実験例1]
(側板の作製)
側板は、以下のように作製した。まず、原料粉末(骨材)として、粒径2000μm超過のSiCが0%で、粒径500μm超過2000μm以下のSiCを35%と、粒径90μm超過500μm以下のSiCを30%と、粒径90μm以下のSiCを35%と、を含む粉体を用いた。この粉体と、有機バインダとしてのカルボキシメチルセルロース(CMC)と、水とを混練して、水分量5.5質量%の坏土を得た。杯土は、粘土と焼結助剤を添加したものとした。この坏土を成型し、大気雰囲気下1430℃で3時間焼成して、側板を得た。側板の厚みは50mmとし、挿入穴の直径は104mm、深さは28mmとした。また、挿入穴の底に直径56mmの貫通穴を設けた。そして、挿入穴の底にアルミナファイバーで形成された厚さ約12mmのパッキンを配置した。
【0034】
(側板と濾過体との接合)
アルミナ骨材をアルミニウムボレートの針状結晶で結合した多孔質材料製の濾過体を準備した。この濾過体は、長さ約870mm、外径100mm、内径60mmで、一端が開放し他端が閉鎖し、底の厚みが20mmのものとした。この濾過体を、底を残して長さ約200mmとなるように加工した。その後、濾過体の開口側の外周面及び側板の挿入穴の内周面に、Al23を85質量%とSiO2を2質量%の割合で含むモルタルを塗布し、濾過体の開口側を側板の挿入穴に挿入した。そして、自然乾燥を12時間、さらに80℃での加熱乾燥を12時間行い、側板と濾過体とを接合した。なお、濾過体は1本のみ用いた。
【0035】
(挿入穴の内周面の計測)
側板を割り、挿入穴の内周面を観察可能な部分を試験片として取り出した。この試験片のうち、代表的な3箇所について、15mmの長さの直線上を表面計測した。計測には、キーエンス社製のVR-3000ワンショット3D測定マイクロスコープを用い、算術表面粗さRa、凹みの数(個/15mm)、凹みの幅(μm)、凹みの深さ(μm)を計測し、その平均値を算出した。なお、凹みの数、幅、深さについては、深さ50μm以上のもののみを計測対象とした。図4に、挿入穴の内周面の測定例の説明図を示した。図4Aは、観察方向を示す説明図である。図4Bは、試験片の写真である。図4Cは、試験片の高さを示すコンター図である。図4Dは、測定した粗さ曲線の例である。
【0036】
(押し抜き強度の測定)
図5に、押し抜き強度の測定例の説明図を示した。図5に示すように、側板の貫通穴から試験治具を挿入して押圧し、濾過体の底面に荷重を印加した。そして、側板から濾過体が押し抜かれたときの荷重を押し抜き強度(kN)として測定した。
【0037】
[実験例2~11]
側板を作製する際、原料粉末の骨材(SiC)の粒度分布及び坏土の水分量を表1に示すものとした以外は、実験例1と同様とした。
【0038】
[実験結果]
表1に、挿入穴の内周面の計測結果及び押し抜き強度の測定結果をまとめた。表1に示すように、挿入穴の内周面が、深さ50μm以上の凹みを複数有しその平均深さが90μm以上1000μm以下である実験例2~11では、押し抜き強度が1.5kNであり、濾過体と側板との接合強度をより高めることができることがわかった。なお、ここでは、濾過体の開口端側の接合強度を評価したが、濾過体の閉鎖端側の接合強度も同様の結果が得られると推察された。
【0039】
【表1】
【産業上の利用可能性】
【0040】
本発明は、金属製品の製造分野に利用可能である。
【符号の説明】
【0041】
10 金属溶湯濾過部材、20 濾過体、20h 穴、22 一端、22a 外周面、22b 端面、24 他端、24a 外周面、24b 端面、30 一端側側板、32 一端側挿入穴、32a 内周面、32b 底面、32h 貫通穴、38 一端側接合層、39 一端側パッキン、40 他端側側板、42 他端側挿入穴、42a 内周面、42b 底面、48 他端側接合層、49 他端側パッキン、50 収容槽、51 入口、52 濾過室、53 開口部、54 隔壁、56 出湯室、57 出口、59 くさび。
【要約】
【課題】濾過体と側板との接合強度をより高める。
【解決手段】金属溶湯濾過部材10は、筒状の濾過体20と、濾過体20の一端22が挿入される一端側挿入穴32を有する一端側側板30と、濾過体20の一端22の外周面22aと一端側挿入穴32の内周面32aとを接合する一端側接合層38と、濾過体20の他端24が挿入される他端側挿入穴42を有する他端側側板40と、濾過体20の他端24の外周面24aと他端側挿入穴42の内周面42aとを接合する他端側接合層48と、を有し、一端側挿入穴32の内周面32a及び他端側挿入穴42の内周面42aのうちの少なくとも一方は、深さ50μm以上の凹みを複数有し、凹みの平均深さが90μm以上1000μm以下である。
【選択図】図2
図1
図2
図3
図4
図5