(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-02-13
(45)【発行日】2025-02-21
(54)【発明の名称】油調用魚介類冷凍食品の製造方法
(51)【国際特許分類】
A23L 17/00 20160101AFI20250214BHJP
A23L 5/10 20160101ALI20250214BHJP
A23L 7/157 20160101ALI20250214BHJP
A23B 4/06 20060101ALI20250214BHJP
【FI】
A23L17/00 A
A23L5/10 E
A23L7/157
A23B4/06 501B
(21)【出願番号】P 2024201432
(22)【出願日】2024-11-19
【審査請求日】2024-11-19
(31)【優先権主張番号】P 2023199010
(32)【優先日】2023-11-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000003274
【氏名又は名称】マルハニチロ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002170
【氏名又は名称】弁理士法人翔和国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】宇根 雄太
(72)【発明者】
【氏名】北村 美聖
【審査官】関根 崇
(56)【参考文献】
【文献】特開平10-257860(JP,A)
【文献】特開2000-262249(JP,A)
【文献】特開2014-132881(JP,A)
【文献】特開2023-072347(JP,A)
【文献】国際公開第2019/107539(WO,A1)
【文献】峯木眞知子ほか,プロの技より解析するてんぷら調理,日本調理科学会誌,2016年,Vol.49,No.2,pp.172~175
【文献】比留問トシほか,天ぷらの衣について,家政学雑誌,1971年,Vol.22, No.3,pp.159-163
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L
A23B 2/、4/
Google
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
魚介類に、穀粉類を含む一次バッターを付して油調する第1工程と、
油調した魚介類に、穀粉類を含む二次バッターを付し、油調せずに冷凍する第2工程とを有する、油調用魚介類冷凍食品の製造方法であって、
前記一次バッターの粘度が2~60Pa・sであり、
前記二次バッターの粘度が1~30Pa・sである、油調用魚介類冷凍食品の製造方法。
【請求項2】
一次バッターの衣率が65質量%以下である、請求項1に記載の油調用魚介類冷凍食品の製造方法。
【請求項3】
前記第2工程において、前記二次バッターを付した後にパン粉を付し、次いで油調せずに冷凍する、請求項1又は2に記載の油調用魚介類冷凍食品の製造方法。
【請求項4】
前記一次バッターは、穀粉類を含む原料粉と、該原料粉に対し、140~240質量%の水分とを混合して調製したものであり、
前記二次バッターは、穀粉類を含む原料粉と、該原料粉に対し、160~360質量%の水分とを混合して調製したものである、請求項1又は2に記載の油調用魚介類冷凍食品の製造方法。
【請求項5】
前記油調用魚介類冷凍食品が、油調後にホットショーケース内に保存される用途に用いられる、請求項1又は2に記載の油調用魚介類冷凍食品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、油調用魚介類冷凍食品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
フライや天ぷらといった油調食品は、例えばコンビニエンスストアやスーパーマーケットなどの小売店に陳列されて販売される場合がある。油調食品は、揚げたてが最も美味である。このことから、小売店において、衣付きの油調用冷凍食品を店内で油調した食品を陳列することがある。衣付きの油調用冷凍食品は、衛生面や店内調理時に加熱不足が生じる可能性を避ける点から、具材が加熱済みであることを求められる場合がある。一度油調済みの具材は再油調すると、具材が過加熱となり固くなりやすいことが知られている。
【0003】
一方、特許文献1には、一次バッター液と、焙焼式パン粉、エクストルーダー式パン粉、クラッカー式パン粉、又は電極式パン粉のいずれかである1次パン粉と、二次バッター液と、焙焼式パン粉、エクストルーダー式パン粉、クラッカー式パン粉、又は電極式パン粉のいずれかである2次パン粉とを順次付着させ、油ちょうしてなる揚げ衣が形成されているフライ食品が記載され、一次バッターの粘度は、0.05~1.0Pa・s、好ましくは0.1~0.5Pa・sとするのが適していると記載されている。
特許文献2には、一次バッター液を付着させ、油調し、次いで二次バッター液を付着させて油調することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2014-132881号公報
【文献】特開2000-262249号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来、小売店内で衣付き油調用冷凍食品を油調して、油調済みの食品をホットショーケース内で陳列して商品とすることが行われている。当該商品は、揚げたてをすぐに食べられる手軽さに起因して需要が増大している。従来、一般に鶏肉などの畜肉でこのような商品が知られていたが、魚介類のフライ製品についても、油調済みの食品をホットショーケース内で陳列した商品が求められるようになってきている。
ホットショーケース内は通常、高温であり、当該ケース内で長時間保存することで魚介類は固くなりやすい。特に、上記の通り、衛生的な理由から衣付き油調用冷凍食品中の具材は加熱ずみであることが求められるため、これを油調した商品は単に未加熱品を一度油調したものに比して、中具が固くなりやすい問題がある。
また、一方で、未油調の衣を表面に付着させた衣付き油調用冷凍食品は、未油調の衣の形状が変形しやすいという問題があり、中具の表面に沿った良好な形状を得ることも必要となっている。
しかしながら、加熱済み魚介類を含有する油調用冷凍食品を用いて、ホットショーケース中で長時間加温しても中具が固くなりにくく、且つ、形状が良好な油調食品を得る技術は、従来十分に検討されていなかった。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、魚介類を、穀粉類を含む一次バッターを付して油調する第1工程と、
油調した魚介類に、穀粉類を含む二次バッターを付し、油調せずに冷凍する第2工程とを有する、油調用魚介類冷凍食品の製造方法であって、
前記一次バッターの粘度が2~60Pa・sであり、
前記二次バッターの粘度が1~30Pa・sである、油調用魚介類冷凍食品の製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0007】
本発明により、ホットショーケース中で長時間加温しても中具が固くなることが抑制され、且つ、形状が良好な油調済み魚介類食品が容易に得られる油調用魚介類冷凍食品の製造方法を提供する。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下本発明を、その好ましい実施形態に基づき説明する。
本発明は魚介類を、穀粉類を含む一次バッターを付して油調する第1工程と、
油調した魚介類に、穀粉類を含む二次バッターを付し、油調せずに冷凍する第2工程とを有する、油調用魚介類冷凍食品の製造方法であって、
前記一次バッターの粘度が2~60Pa・sであり、
前記二次バッターの粘度が1~30Pa・sである、製造方法を提供する。
【0009】
本発明で用いる魚介類としては、魚類、貝類、甲殻類、頭足類等が挙げられる。魚類としては、アイナメ、アカハタ、アカウオ、アジ、アナゴ、アユ、アンコウ、イサキ、イトヨリ、イワシ、イワナ、ウナギ、エイ、エソ、オコゼ、カイワリ、カサゴ、カジカ、カジキ、カツオ、カトラ、カマス、カレイ、カワハギ、カンパチ、キス、キンキ、キビナゴ、グチ、コチ、コクレン、サケ(アトランティックサーモン、トラウトサーモン、ギンザケを含む)、サバ、サメ、サンマ、サワラ、サヨリ、ソウギョ、ハクレン、パンガシウス、ヒラメ、ドジョウ、スズキ、タラ(スケソウダラ、シライトダラ等を含む)、タイ、タチウオ、トビウオ、ドジョウ、ナイルテラピア、ナマズ、ニシン、ニジマス、ハゼ、ハタ、ハモ、ヒラメ、ヒラマサ、フグ、フナ、ブリ(ハマチ、イナダ、メジロ等の成長名・季節名を含む)、ホッケ、ホキ、ムツ、マグロ、マゴイ、ミルクフィッシュ、メバル、ママカリ、ヤマトゴイ、ロフーなどが挙げられる。貝類としては、カキ、シジミ、アサリ、ホタテガイ、アカガイ等が挙げられる。甲殻類としては、エビ、カニ、シャコが挙げられる。頭足類としてはイカやタコが挙げられる。
【0010】
中でも魚類、甲殻類又は頭足類を用いることが、経済的な需要が高い点や本発明の効果に優れる点で好ましく、とりわけ魚類を用いることが、身が大きく、バッターを二度付けしたときの衣率を低下させやすい点で好ましい。
本発明は、特に、アジ、サケ、サバ、スケソウダラ、シライトダラ、ホキ、パンガシウス、イカ、エビから選ばれる少なくとも一種を用いることが好ましく、アジ、スケソウダラ、ホキ、パンガシウス、イカから選ばれる少なくとも一種を用いることが特に好ましい。
【0011】
未加熱とは、例えば80℃以上、10分以上の加熱処理が施されていないことを指すことが好ましく、50℃以上、5分以上の加熱処理が施されていないことが特に好ましい。
【0012】
魚介類は、一次バッターに付着させる前に、浸漬液による浸漬処理を施されていてもよく、打ち粉をされていてもよい。
【0013】
前処理を行う場合、前記の浸漬液は、アルカリ剤を含有していてもよい。アルカリ剤としては、炭酸水素ナトリウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、リン酸二ナトリウム、リン酸三ナトリウム、ピロリン酸ナトリウム、ポリリン酸ナトリウム、炭酸アンモニウム、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、水酸化マグネシウム、貝殻焼成カルシウム等が挙げられる。アルカリ剤を含有する場合、その量は、浸漬液中、0.1質量%以上10質量%以下であることが好ましく、0.2質量%以上5質量%以下であることがより好ましい。
【0014】
前記の浸漬液は、酵母細胞を含有していてもよい。酵母細胞とは酵母の内容物を除去した後の酵母細胞を用いることができる。「酵母の内容物を除去した後」の例としては、酵母エキスを抽出した後が挙げられる。酵母の内容物を除去した後の酵母細胞の例としては、酵母細胞の細胞壁、細胞膜等の酵母の骨格部分が挙げられる。浸漬液が酵母細胞を含有する場合、その量は、浸漬液中、0.1質量%以上10質量%以下であることが好ましく、0.2質量%以上5質量%以下が好ましい。
【0015】
前記の浸漬液は、食塩を含有していてもよい。浸漬液が食塩を含有する場合、その量は、浸漬液中0.1質量%以上6質量%以下であることが好ましく、0.2質量%以上5質量%以下であることがより好ましい。
【0016】
前記浸漬液には、液状油脂を含有させてもよい。液状油脂は25℃で液状を示す油脂であり、サラダ油等の食用油脂を任意に用いることができる。浸漬液が液状油脂を含有する場合、浸漬液中、5質量%以上25質量%以下であることが、好ましく6質量%以上20質量%以下であることがより好ましい。
【0017】
前記浸漬液に糖アルコールを含有させてもよい。糖アルコールとしては、還元麦芽糖、還元水あめ、キシリトール、エリスリトール、ソルビトール、マンニトール、ラクチトール、キシロビイトール等が挙げられる。浸漬液が糖アルコールを含有する場合、その量は、浸漬液中、5質量%以上25質量%以下であることが好ましく、6質量%以上20質量%以下であることがより好ましい。
【0018】
浸漬液の液媒は通常水を用いることが好ましい。浸漬液の水分量は例えば50質量%以上が好ましく、60質量%以上がより好ましく、70質量%以上が更に一層好ましい。
【0019】
打ち粉としては、通常、穀粉及び澱粉から選択される少なくとも一種を用いる。穀粉としては小麦粉、米粉等を用いることができ、小麦粉が好適である。澱粉は加工澱粉であっても未加工澱粉であってもよい。打ち粉における穀粉及び澱粉の合計量は、通常50質量%以上であることが好適であり、60質量%以上がより好適であり、70質量%以上が更に好適である。打ち粉には、更に、パン粉等を含有させる場合がある。
【0020】
本発明の第1工程では、まず、未加熱の魚介類に対し、粘度が2~60Pa・sの一次バッターを付着させる。一次バッターの粘度が一定以上であることで、第1工程における油調により、防水性の高い皮膜を形成しやすく、二次バッターによる衣と併せて、ホットショーケースで長時間保存しても中具が固くなることを抑制しやすい。また一次バッターの粘度が一定以上であると、二次バッターの粘度を抑制しても、防水性の高い衣が形成できるため、油調用魚介類冷凍食品の形状を安定しやすく、これによりこれを油調した油調食品の形状も安定しやすい。更に、一次バッターの粘度が一定以下であることで、魚介類の表面形状に沿った形状の衣を形成できるため、油調用魚介類冷凍食品及びこれを用いた油調食品の形状を良好としやすい。またパン粉および二次バッターの量を適切な量に調整しやすく、これによる外観の向上や衣の食味・食感の改善につながりやすい。中具の硬化を抑制する点及び良好な形状の点から、一次バッターの粘度は、6~43Pa・sが特に好ましく、7~40Pa・sが更に好ましく、7.5~35Pa・sが更に一層好ましく、8~30Pa・sがとりわけ好ましい。
粘度は、23.0~26.0℃の何れかの温度で測定したものであればよく、後述する実施例に記載の方法にて測定できる。
一次バッターを上記粘度に調整するためには、原料粉の組成及び加水量を調整すればよい。
なお、ホットショーケースは加熱什器、又はホッターズと呼ばれることもある。
【0021】
一次バッターは、原料粉に対し、140~240質量%の水分を混合して調製したものであることが好ましい。このように構成することで、本発明の油調用魚介類冷凍食品を油調して得られる油調食品の衣中の水分量が比較的多くなるように構成でき、それにより、得られる油調食品がホットショーケースで長時間保存しても中具が固くなることを抑制しやすい。この観点から、一次バッターは、原料粉に対し、150~220質量%の水分を混合して調製したものであることがより好ましく、160~210質量%の水分を混合して調製したものであることが特に好ましい。
なお、本加水率とすることは、ホットショーケースで長時間保存した後の衣の食感についても良好となりやすい点で好ましい。
上記粘度を有し、且つ上記加水量を有するバッターを調製するためには、増粘剤を用いることが好適である。
【0022】
一次バッターの組成としては、穀粉、澱粉、調味料(食塩、糖類、香辛料、アミノ酸等)、たんぱく素材(卵白粉、乳たんぱく、植物たんぱく等)、油脂(動物油脂、植物油脂等)、乳化剤(グリセリン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル、レシチン等)、膨張剤(ベーキングパウダー等)、増粘剤(ゼラチン、寒天、アルギン酸、カルボキシメチルセルロース、メチルセルロース、アラビアガム、カードラン、カラギーナン、キサンタンガム、ローカストビーンガム、グァーガム、ジェランガム、タマリンドシードガム、ペクチン等)等が挙げられる。これらを1種又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0023】
例えば、一次バッターを調製するための原料粉組成としては、以下の組成が挙げられるがこれに限定されない。
穀粉:好ましくは70質量%以上、より好ましくは75~95質量%。
澱粉:好ましくは0~10質量%、より好ましくは1~8質量%。
たんぱく素材:好ましくは0~10質量、より好ましくは0.2~6質量%。
乳化剤:好ましくは0~5質量%、より好ましくは0.2~3質量%。
膨張剤:好ましくは0~5質量%、より好ましくは0.2~3質量%。
油脂:好ましくは0~7質量%、より好ましくは0.2~4質量%。
増粘剤:好ましくは0~3質量%、より好ましくは0.3~1.2質量%。
【0024】
魚介類に対し、一次バッターはその一部を被覆するように付着させてもよいが、魚介類の全体を被覆するように付着させることが、形状が良好であるため好ましい。但し、例えばアジやエビ等で尾の部分を被覆させないようにしてもよい(二次バッターでの被覆においても同様)。
魚介類に一次バッターを付着させた後に、付着した一次バッターからなるバッター衣の表面にブレダーを付着させ、その後、第1工程の油調を行ってもよい。このようにすることで、低粘度の一次バッターを用いても液だれしにくいため、第1工程における油調により、形状が良好で水分移行を抑制できる皮膜を形成しやすく、これにより、本開示により得られる油調食品の形状が良好で中具の硬化が抑制しやすいと考えられる。ブレダーとしては、例えば、クラッカー式パン粉、焙焼式パン粉、エクストルーダー式パン粉、又は電極式パン粉等のパン粉や小麦粉、でんぷん、コーンスターチ、粉末油脂が挙げられるほか、粉末油脂と小麦粉及び/又は澱粉との混合物を用いてもよい。中でも、粉末油脂と小麦粉及び/又は澱粉との混合物が一次バッターの液だれ防止、最終的な衣量を調整しやすく、油調食品の形状を良好にしやすい点で好ましい。
【0025】
第1工程の油調は、160~185℃で行うことが、水分移行を抑制できる油調衣を形成しやすい点や中具の中心温度を75℃以上に加熱できる点で好ましく、165~180℃で行うことがより好ましい。また、第1工程の油調は、1~9分で行うことが、衣の固定及び焦げ防止の点で好ましく、2~8分で行うことがより好ましく、3~7分で行うことが更に好ましい。
【0026】
一次バッターは、一次バッターの衣率が、65質量%以下となるように、魚介類に付着させることが好ましく、15~60質量%となるように、魚介類に付着させることがより好ましく、18~55質量%となるように、魚介類に付着させることが更に好ましく、20~48質量%となるように、魚介類に付着させることが特に好ましい。前記の範囲内であることで一層、形状の改善効果と中具の硬化抑制効果を両立しやすいためである。ここでいう一次バッター衣率は、打ち粉を用いる場合は打ち粉を含む量である。また、ブレダーを用いる場合には、ブレダーの量を含む量である。一次バッター前に浸漬液による浸漬処理を行う場合には、浸漬液は含まない量である。
【0027】
次いで、第1工程後の魚介類に二次バッターを付着させる第2工程を行う。
工程管理の容易性の点から、第1工程の油調後、第2工程の二次バッター付着前に、魚介類を冷凍又は冷蔵させてもよい。或いは第1工程を経た魚介類に対し、冷凍を行わずに、冷蔵のみで二次バッターを付着させてもよい。
二次バッターの付着は、魚介類の品温が-20~20℃の時に行うことが、衛生管理の点から好ましい。
【0028】
第2工程において粘度が1~30Pa・sの二次バッターを、第1工程後の衣付き魚介類に付着させる。例えば、一次バッターによる油ちょう衣の魚介類の全体を覆うように付着させることが好ましい。
二次バッターは粘度が一定以上であることで、これを油調したときに、水分移行抑制性能を有する膜が得られやすく、ホットショーケース中で保管したときの硬化を抑制しやすくなる。特に、2次工程において、パン粉を付着させやすく、水分移行の抑制性能のある衣を一層形成しやすい。また、二次バッターは粘度が一定以下であることで、油調したときに形状が良好な油調食品が得やすくなる。これらの点から、二次バッターは、粘度が1.4~24Pa・sであることがより好ましく、1.9~20Pa・sであることが特に好ましく、2.2~15Pa・sであることがとりわけ好ましい。
前記の二次バッターの粘度は23.0~26.0℃の何れかの温度で測定したものであればよく、後述する実施例に記載の方法にて測定できる。
二次バッターを上記粘度に調整するためには、原料粉の組成及び加水量を調整すればよい。
【0029】
二次バッターの粘度V2に対する、一次バッターの粘度V1の比(V1/V2)が、0.1超35以下であることが、形状が良好で及び中具の硬化が抑制された油調食品が得やすい点で好ましく、1以上20以下が好ましい。
【0030】
二次バッターは、原料粉に対し、160~360質量%の水分を混合して調製したものであることが好ましい。このように構成することで、本発明の油調用魚介類冷凍食品を油調して得られる油調食品の衣中の水分量が比較的多くなるように構成でき、それにより、ホットショーケース内で長時間保存しても中具が固くなることを抑制しやすい。この観点から、一次バッターは、原料粉に対し、170~350質量%の水分を混合して調製したものであることがより好ましく、180~340質量%の水分を混合して調製したものであることが特に好ましい。
なお、本加水率とすることは、ホットショーケースで長時間保存した後の衣の食感についても良好となりやすい点で好ましい。
【0031】
二次バッターにおける原料粉の組成については、一次バッターと同様の物を用いることができる。一次バッターの原料粉の組成として上記で述べた事項は、全て適用することができる。
【0032】
一次バッターの原料粉と二次バッターの原料粉とは同様の組成であることが好ましい。これにより、バッター同士の親和性から、衣の一体感が得やすく、衣の食感の良好さに繋がりやすい。一次バッターの原料粉と二次バッターの原料粉とが同様の組成である例としては、一次バッター及び二次バッターがいずれもたんぱく素材を含有している場合や、一次バッター及び二次バッターがいずれも加工澱粉を含有している場合等が挙げられる。一次バッター及び二次バッターがいずれもたんぱく素材を含有している場合、両者の原料粉中のたんぱく素材の含量比率(単位:質量%)の差は、一次バッター及び二次バッターにおける原料粉中のたんぱく素材の含量比率(単位:質量%)の平均値(一次バッター及び二次バッターにおける原料粉中のたんぱく素材の含有量の合計値を2で割ったもの)に比して、50%以下が好ましく、30%以下がより好ましく、20%以下が特に好ましい。両者が加工澱粉を含有する場合も同様である。
【0033】
二次バッター付着後の衣にパン粉を付着させることが、パン粉の付着量を適量としやすく、外観を向上させやすいという本製法の効果を発揮する点で、好ましい。パン粉としては、生パン粉であってもよく、乾燥パン粉であってもよい。また粒径や製造方法についても特に制限なく、任意のものを用いることができる。製造方法としては、焙焼式パン粉、エクストルーダー式パン粉、クラッカー式パン粉、又は電極式パン粉のいずれを用いることもできる。また粒径としても、特に限定はなく、粒度2~18mmの一般的な粒度のものを使用できる。
【0034】
以上の操作後に、油調用魚介類冷凍食品を冷凍させることで本実施形態の油調用魚介類冷凍食品が得られる。
【0035】
本発明における油調用魚介類冷凍食品の製造工程では、一次バッター及び二次バッター以外のバッターを使用してもよいが、好ましくは、一次バッター及び二次バッターのみの使用であることが好ましい。
【0036】
油調用魚介類冷凍食品の最終衣率Bは、70質量%未満が好ましく、30質量%以上65質量%以下がより好ましく、40質量%以上60質量%以下であることが特に好ましい。最終衣率Bがこの範囲であることで、形状が良好で及び中具の硬化が抑制された油調食品が得やすい点で好ましい。
【0037】
油調用魚介類冷凍食品の最終衣率Bに対する、一次バッター衣率Aの割合(A/B)は、0.30以上0.80以下が好ましく、0.35以上0.80以下がより好ましく、0.40以上0.80以下が更に好ましく、0.45以上0.70以下が更に一層好ましく、0.50以上0.60以下が特に好ましい。最終衣率Bがこの範囲であることで、形状が良好で及び中具の硬化が抑制された油調食品が得やすい点で好ましい。
【0038】
本発明において得られた加工食品は適宜油調される。油調は冷凍状態のまま行われることが油ちょう後の品位の安定化及び一層の焦げ防止の点で好適である。
【実施例】
【0039】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明する。しかしながら本発明の範囲は、かかる実施例に制限されない。なお、表1に記載の「%」は特に断らない場合「質量%」を意味する。
【0040】
(実施例1、3~6、比較例1)
(1)浸漬液の調製
還元水あめ10質量%、液状植物油脂10質量%、水76質量%、酵母製剤1質量%、食塩1質量%及び重曹2質量%を混合し、浸漬液を調製した。
酵母製剤としては富士食品工業株式会社製の酵母細胞パウダーである商品名「モイステックス」を用いた。モイステックスは、酵母細胞から酵母エキスを抽出した後の菌体(酵母細胞の細胞壁、細胞膜等の酵母の骨格部分)を加熱殺菌し、乾燥したものを用いた。
【0041】
(2)浸漬処理
未加熱のアジ(背開きしたもの)に対し、当該アジ100質量部に対して100質量部の量の浸漬液を混合し、浸漬液にアジを2時間、0℃超4℃以下で浸漬させた。
【0042】
(3)衣による被覆
表1に記載の組成の原料粉に、表1に記載の加水率にて加水及び混合し、一次バッター及び二次バッターをそれぞれ調製した。なお、実施例6で用いた市販のてんぷら粉としては、日清製粉ウェルナ製の「日清コツのいらない天ぷら粉 揚げ上手」を用いた。
【0043】
(4)一次バッター及び二次バッターの粘度の測定
リオン株式会社 ビスコメーター VT-06を用いた。ロータは実施例1、2、4、5及び6並びに比較例1では1号、比較例2は2号、実施例3では3号を用いた。
【0044】
(前工程)
浸漬液に浸漬させた後のアジを金ザルの上にあけ、液切りして初期重量(W0)を測定した。
(第1工程)
重量測定後のアジに、打ち粉を付着させ、次いで、一次バッターに浸漬させ、170℃で4分間油調した。油調後のアジを室温まで冷却した後、油調した衣ごと、アジの重量W1を測定した。得られた重量W1及びW0から、一次バッターによる衣率を下記式にて求めた。
一次バッターによる衣率=(W1-W0)/W1×100(%)
【0045】
なお、打ち粉としては、澱粉が42質量%、小麦粉が37質量%、残部がパン粉を含むものを用いた。
【0046】
(第2工程)
重量測定後のアジ(-15℃)を、二次バッターに浸漬させて二次バッターを付着し、パン粉(焙焼式パン粉と電極式パン粉の混合物である生パン粉、粒度8mm)を付着させて、冷凍した。冷凍前に重量W2を測定し、最終の衣率を測定した。
最終衣率=(W2-W0)/W2×100(%)
以上の工程により、油調用魚介類冷凍食品を得た。
【0047】
(実施例2)
第1工程において、一次バッターを付着させた後に、アジに付着したバッター衣に更にクラッカー式パン粉を付着させ、油調した。その点以外は実施例1と同様にして、冷凍食品を得た。
【0048】
(比較例2)
本比較例は、第1工程において、一次バッターの加水率を原料粉に対し同質量倍程度とした以外は実施例1と同様にした比較例である。第1工程で一次バッター衣率を測定したところ、70%となり、製品として成立しないため、以降の評価を行わなかった。
【0049】
(評価)
得られた冷凍食品について、-18℃で31日間冷凍保存したものを、冷凍状態から、180℃で2.5分間油調し、アジフライを得た。得られたアジフライを、内部温度が80℃のホットショートケースに8時間保管した後、食感及び形状、パン粉の付き具合を評価した。なお、以下の「通常のアジフライ」とは、未加熱のアジに打ち粉、バッター、パン粉を付着させて油調後、室温下で30分程度を経たアジフライを想定している。なお、実施例5、6及び比較例1の衣の食感評価は未実施である。
【0050】
<中具(アジ)の固さ評価>
A:通常のアジフライと同等である。
B;通常のアジフライよりも中具は固いが、許容範囲である。
C:中具が固く、喫食に適さない。
【0051】
<形状評価>
A:形状異常が見られないか、見られてもほとんど気にならず、許容範囲である。
B:衣の付着により形状異常が生じ、通常のアジフライとは外観が異なり、製品として認められない。
【0052】
<パン粉の付着に係る外観評価>
A:パン粉の付着が適度である。
B:パン粉の付着量が適量よりも少ない、又は多い。
【0053】
<衣の食感評価>
A:通常のアジフライよりも同等であるか、若干固い程度である。
B:通常のアジフライよりも衣は固いが、概ね喫食できる。
C:衣が固く、食べる際に違和感を感じる。
【0054】
【0055】
表1に示す通り、所定の粘度を満たす2種のバッターを用いた実施例1~6の油調用魚介類冷凍食品は、ホットショーケースに長時間保管しても中具の柔らかさが維持されており、また形状が良好であった。
これに対し、一次バッターの粘度が60Pa・sよりも大きな比較例1は形状評価に劣る。また一次バッターの粘度が60Pa・sよりも大幅に大きな比較例2は一次バッターによる衣率が大きすぎて、製品として成立しなかった。
【0056】
(実施例7、比較例3)
未加熱のアジ(背開きしたもの)の代わりに、未加熱のアメリカオオアカイカの切り身(1切れ20g)を使用した以外は、実施例7は実施例1と、比較例3は比較例1とそれぞれ同様にして、(1)浸漬液の調製、(2)浸漬処理、(3)衣による被覆、(4)一次バッター及び二次バッターの粘度の測定・被覆を行い、油調用魚介類冷凍食品を得た。
得られた油調用魚介類冷凍食品を、冷凍状態のまま、180℃で2分30秒油ちょうした。
得られた油調済み魚介類冷凍食品を、実施例7、比較例3共に、油ちょう後に食感及び形状、パン粉の付き具合を、前記の評価基準で評価した。また、油調済み魚介類冷凍食品を、庫内温度80℃のホットショートケース容器にて8時間保管後に食感及び形状、パン粉の付き具合を、前記の評価基準で評価した。結果を表2に示す。
【0057】
【0058】
表2に示す通り、本願発明に該当する実施例7は、一次バッターの粘度が60Pa・sよりも大きな比較例3に比べて、油調後80℃8時間経過後の衣の食感、形状等で優れていた。
【要約】
【課題】ホットショーケース中で長時間加温しても中具が固くなることが抑制され、且つ、形状が良好な魚介類油調食品が得られる技術を提供する。
【解決手段】魚介類に、穀粉類を含む一次バッターを付して油調する第1工程と、
油調した魚介類に、穀粉類を含む二次バッターを付し、油調せずに冷凍する第2工程とを有する、油調用魚介類冷凍食品の製造方法であって、
前記一次バッターの粘度が2~60Pa・sであり、
前記二次バッターの粘度が1~30Pa・sである、油調用魚介類冷凍食品の製造方法。
【選択図】なし