IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ ユーロケラ ソシエテ オン ノーム コレクティフの特許一覧

特許7634779エナメル加工されたミネラル基材及びその製造方法
<>
  • 特許-エナメル加工されたミネラル基材及びその製造方法 図1
  • 特許-エナメル加工されたミネラル基材及びその製造方法 図2
  • 特許-エナメル加工されたミネラル基材及びその製造方法 図3
  • 特許-エナメル加工されたミネラル基材及びその製造方法 図4
  • 特許-エナメル加工されたミネラル基材及びその製造方法 図5
  • 特許-エナメル加工されたミネラル基材及びその製造方法 図6
  • 特許-エナメル加工されたミネラル基材及びその製造方法 図7
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-02-13
(45)【発行日】2025-02-21
(54)【発明の名称】エナメル加工されたミネラル基材及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C03C 17/04 20060101AFI20250214BHJP
   A47J 36/04 20060101ALI20250214BHJP
   B41J 2/01 20060101ALI20250214BHJP
   C03C 8/16 20060101ALI20250214BHJP
【FI】
C03C17/04 Z
A47J36/04
B41J2/01 501
C03C8/16
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2024523631
(86)(22)【出願日】2022-10-18
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2024-10-28
(86)【国際出願番号】 EP2022078994
(87)【国際公開番号】W WO2023066945
(87)【国際公開日】2023-04-27
【審査請求日】2024-06-17
(31)【優先権主張番号】2111100
(32)【優先日】2021-10-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FR
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】504374919
【氏名又は名称】ユーロケラ ソシエテ オン ノーム コレクティフ
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100123593
【弁理士】
【氏名又は名称】関根 宣夫
(74)【代理人】
【識別番号】100208225
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 修二郎
(74)【代理人】
【識別番号】100217179
【弁理士】
【氏名又は名称】村上 智史
(72)【発明者】
【氏名】シャルレーヌ スム
(72)【発明者】
【氏名】ロイク ドゥライ
【審査官】三村 潤一郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-169146(JP,A)
【文献】特表2021-523265(JP,A)
【文献】特開2005-097097(JP,A)
【文献】特開2016-169147(JP,A)
【文献】特開2013-082615(JP,A)
【文献】特表2021-513947(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C03C 17/00 - 17/44
A47J 36/04
B41J 2/01
C03C 8/14 - 8/20
B32B 1/00 - 43/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ミネラル基材(1001)であって、その表面の少なくとも1つに、パターンを形成している無機エナメル(1002)を有し:
- 前記無機エナメル(1002)が、2μm以下の、その表面(1002-S)の総粗さRtを有すること、及び、
- 前記ミネラル基材(1001)の表面(1001-S)から突出している前記無機エナメル(1002)の端部(1002a、1002b)が、百分率で表される、1.4%以下のトポグラフィック傾斜値を有すること、
を特徴とする、ミネラル基材(1001)。
【請求項2】
前記総粗さRtの値が、1.5μm以下、好ましくは1μm以下である、請求項1に記載のミネラル基材(1001)。
【請求項3】
前記トポグラフィック傾斜値が、1.2%以下である、請求項1又は2に記載のミネラル基材(1001)。
【請求項4】
前記無機エナメル(1002)の厚さが、1.5μm~3.5μm、又は1.5μm~2μmである、請求項1又は2に記載のミネラル基材(1001)。
【請求項5】
相対輝度差ΔL*が、前記ミネラル基材(1001)上の前記無機エナメル(1002)の、反射で測定される、輝度L*(エナメル/基材)と、前記無機エナメル(1002)を有しない前記ミネラル基材(1001)の、反射で測定される、輝度L*(基材)との間の差として定義され、最大で50、好ましくは最大で35である、請求項1又は2に記載のミネラル基材(1001)。
【請求項6】
前記ミネラル基材の、透過で測定される、輝度L*(基材)が、5以下である、請求項1又は2に記載のミネラル基材(1001)。
【請求項7】
前記ミネラル基材の光透過率が、最大で17%、好ましくは最大で10%、又は最大で5%である、請求項1又は2に記載のミネラル基材(1001)。
【請求項8】
前記無機エナメル(1002)が提供されている、前記ミネラル基材(1001)の表面の静摩擦係数及び/又は動摩擦係数が、最大で0.30、好ましくは最大で0.25である、請求項1又は2に記載のミネラル基材(1001)。
【請求項9】
前記ミネラル基材が、ガラスセラミック基材、又はミネラルガラス基材である、請求項1又は2に記載のミネラル基材。
【請求項10】
請求項1又は2に記載のミネラル基材(1001)を製造する方法であって、前記方法が、ミネラル基材(1001)上にミネラルインクをインクジェット印刷することによって、無機エナメル(1002)を堆積させる工程を含み、インク被覆範囲が、少なくとも45%、最大で85%であり、前記インクジェット印刷に用いられる前記ミネラルインク中の固体分率の重量百分率が、前記ミネラルインクのうち最大で40%である、製造方法。
【請求項11】
前記ミネラルインクの表面張力が、25℃で26mN/mである、請求項10に記載の製造方法。
【請求項12】
請求項1又は2に記載のミネラル基材(1001)の、調理装置又はワークトップの表面としての使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ミネラル基材に関し、これは、その表面の少なくとも1つに、金属性摩擦に耐性のある無機エナメルを有する。それはまた、そのような基材の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ミネラル基材、例えばガラスセラミックス又は着色された特殊ガラスなどは、それらの美的品質及びそれらの物理的/化学的特性、特にはそれらの低い熱膨張係数及びそれらの熱衝撃に対する耐性を理由に、多くの分野で人気がある。
【0003】
それらは、特に、キッチン備品において、特には平坦な基材の形態で、例えば調理装置における調理表面、グレージングオーブンの壁、及び食料を準備するための作業台、テーブル、又は家具における作業表面として、用いられる。
【0004】
例として、キッチン備品において、ガラスセラミックスは、結晶相が分散している非晶質相を含む複合材料であり、それらの熱衝撃に対する非常に優れた耐性、それらの非常に低い膨張係数、及びそれらの機械的強度を理由に、非常に広く評価されている、ミネラル基材である。調理表面、及び/又は調理装置における作業表面として、それらは一般的には、それらの非晶質マトリックス中にβ-石英及び/又はβ-スポジュメンに基づく結晶相が分散している、アルミノケイ酸リチウムに基づく。
【0005】
キッチン備品の所望の用途に応じて、ミネラル基材は、電気的及び/若しくは電子的装置、例えば加熱手段及び/若しくは照明手段など、と関連付けられてよく、かつ/又は、一定数の付属品、例えば制御、センサー、及びディスプレイなどであって、使用者とこれらの基材が組み込まれている装置との間の相互作用を可能にするものを、提供されてよい。
【0006】
装飾目的で、かつ/又は特定の機能領域、例えば調理装置の制御、信号、及び/若しくは加熱ゾーンなどを区画するために、ミネラル基材の表面のエナメル加工を行うことが一般的である。エナメル加工は、スクリーン印刷又はインクジェット印刷法を用いて行われるのが一般的である。
【0007】
調理装置内及び/又は調理装置付近で用いられるミネラル基材の分野では、耐久性及び美観上の理由のため、エナメルは、これが堆積される基材に優先的に適切に付着し、調理装置が用いられる条件下でエナメルが受ける可能性のある、機械的かつ/又は化学的応力に対する顕著な耐性を有する。
【0008】
特に、エナメルであって、食品及び/又は化学物品に繰り返し曝されることに耐えることができ、かつキッチン器具、例えばポット又はフライパンなどの繰り返される動きによって引き起こされる、機械的応力、例えば金属摩擦などに、耐えることができるものが、一般的に求められている。
【0009】
先行技術は、エナメル組成物、ミネラルインク(無機インク)、及び/又はミネラルペースト(無機ペースト)の例、並びに適切なエナメル加工方法の例を、数多く提供している。
【0010】
仏国特許出願公開第2 858 974号明細書[SCHOTT AG[DE]]25.02.2005には、あまり粗くない強力な人工黒色装飾効果を提供されている、ガラスセラミック調理表面が記載されている。
【0011】
国際公開第2016/008848号明細書[SCHOTT AG[DE]]21.01.2016には、低い膨張係数を有するガラスセラミック基材上に装飾効果を印刷するのに適している、ミネラルインクが記載されている。このミネラルインクは、曲げ及び剥がれに対するより比較的良好な耐性を有するエナメルを得ることを可能にする。
【0012】
国際公開第2016/110724号明細書[FENZI SPA[IT]]14.07.2016には、ガラスセラミック基材上に装飾効果を印刷するためのミネラルインク組成物が記載されている。このミネラルインクは、酸、塩基、及び放射線に対して化学的に耐性があり、かつ摩耗及び剥離に対して機械的に耐性がある、エナメルを得ることを可能にする。
【0013】
欧州特許出願公開第 3 067 334号明細書[SCHOTT AG [DE]]14.09.2016には、エナメル表面上のキッチン器具の動きによって発生する、騒音を低減することを可能にする、ガラスセラミック基材用の装飾的なエナメルが記載されている。
【0014】
国際公開第2019/219691号明細書[EUROKERA[FR]]21.11.2019には、ガラスセラミック基材に印刷するためのミネラルインクが記載されている。このインクは、食品に対して、洗剤に対して、これらの物品に繰り返し曝されること及び加熱サイクルの複合効果に対して、並びにガラスセラミック基材の製造の際に用いられる800℃超の温度に対して、耐性があるエナメルを得ることを可能にする。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
キッチン器具、例えばポット又はフライパンなどの、調理装置内及び/又は調理装置付近のミネラル基材表面上で、繰り返される動きに関連する金属摩擦は、装飾エナメル上に金属痕又は痕跡の出現を引き起こす。これらの金属痕又は痕跡は、一般的には、金属粒子であり、これは、エナメル上における金属器具の繰り返される摩擦の影響下で、上記金属器具から引き剥がされ、基材又はエナメルの表面内に埋め込まれる。この現象は、軟質の明るい色の金属に基づく器具、例えばアルミニウム又はステンレス鋼の底を有するポット又はフライパンなどに、特に顕著である。
【0016】
時間の経過とともに、これらの埋め込まれた粒子は、エナメルの美的外観を低下させることになり、特に、ミネラル基材との低いコントラストを有するエナメル、例えば暗色又は黒色のミネラル基材上の暗色又は黒色のエナメルなどの、美的外観を低下させることになる。長期的には、このような美観の劣化は、顧客による物品に対する好意的な認識を損なうものである。
【0017】
一方、いわゆる「フレキシブル」な調理表面、すなわち、調理器具をあらゆる位置に置いてそれらを加熱してよく、又は換言すれば、専用の加熱ゾーンがない、表面の開発により、器具は、調理表面上で比較的頻繁に移動させられる。そして、金属摩擦によって引き起こされる美観の劣化が、比較的顕著になり、又は比較的早く生じる。
【0018】
最後に、埋め込まれた金属粒子の蓄積によって、それが特に目に見えるようになると、使用者は、ガラスセラミック基材及びエナメルの表面を、比較的頻繁にかつ比較的強力に清掃するようになる。これらの清掃は、一般的には、目に見える金属痕及び痕跡を消すことを目的としている。しかしながら、このような清掃の頻度及び勢いは、エナメルに早期に重大な損傷を与えるというマイナスの結果を有する。次いで、この損傷は、装飾エナメルの美的外観を低下させ、調理表面の耐久性を低下させる。
【0019】
したがって、金属痕又は痕跡の出現を制限することができる装飾エナメルを有する、ガラスセラミック基材が必要とされている。
【課題を解決するための手段】
【0020】
本発明の第1の態様によれば、請求項1に記載のミネラル基材(1001)が提供され、従属請求項は、有利な実施形態である。
【0021】
本発明の第2の態様によれば、本発明の第1の態様による基材を製造する方法が提供される。
【発明の効果】
【0022】
本発明の顕著な利点は、金属器具の、1つ又は複数のエナメル上への繰り返される摩擦の影響からの、目に見える金属痕及び痕跡の数の明らかな減少である。この減少は、標準的なエナメルを有するガラスセラミック基材と比較して、50%以上、又はさらには70%以上に達しうる。
【0023】
第2の利点は、目に見える金属痕又は痕跡の数の減少が、特に通常の最も明るい色の金属、例えばアルミニウム又はステンレス鋼などに基づく器具について、観察されることである。
【0024】
第3の利点は、目に見える金属痕及び痕跡の数の減少が、ミネラル基材との低いレベルのコントラストを有する装飾エナメル、例えば暗色又は黒色のミネラル基材上の暗色又は黒色のエナメルなどについて、特に顕著であることである。
【0025】
第4の利点は、本発明の実施の容易さであり、これは、エナメルの任意の化学組成にそれを適用する可能性を有する。
【図面の簡単な説明】
【0026】
図1図1は、エナメルを有するミネラル基材の正投影模式図である。
【0027】
図2図2は、エナメルを有するミネラル基材の断面の正投影模式図である。
【0028】
図3図3は、本発明によるミネラル基材上の無機エナメルの表面プロファイルの例である。
【0029】
図4図4は、本発明の意味における無機エナメルによって形成されるパターンの一例の模式図である。
【0030】
図5図5は、本発明による実施例におけるトポグラフィックプロファイルの3D表現の第1の例である。
【0031】
図6図6は、本発明による実施例におけるトポグラフィックプロファイルの3D表現の第2の例である。
【0032】
図7図7は、本発明による実施例及び比較例に関する、トポグラフィック傾斜の関数としての総粗さのグラフィック表現である。
【発明を実施するための形態】
【0033】
本発明の意味において、「エナメル」とは、一般的にはアニールされたガラスフリットを含む、ガラス質又は複合材料であって、充填剤、薬剤、及び/又は着色かつ/若しくは構造化顔料が、随意に分散されうるもの、を意味すると理解される。
【0034】
本発明の意味において、「パターン」とは、上記パターンによって覆われているミネラル基材の所与の表面に関して、厳密に100%未満、好ましくは90%未満である、上記表面の被覆率を有する不連続装飾グリッドを意味すると理解される。
【0035】
本発明の意味において、ミネラル基材の所与の表面上にパターンを形成するエナメルの「被覆率」とは、上記パターンによって覆われる上記所与の表面の割合を意味すると理解される。換言すれば、それは、上記所与の表面上のパターンによって覆われる表面の、百分率として表される、比率に相当する。
【0036】
これら最後の2つの定義によれば、「ソリッド」は、均一な、すなわち連続的な、グリッドからなり、ミネラル基材の所与の表面について、上記表面の100%の被覆率を有し、パターンではない。
【0037】
本発明の意味において、「インク被覆範囲」とは、インクジェット印刷の分野で知られ、かつ定義されているインク被覆範囲を意味する。所与の個別のインクについて、印刷可能なピクセルの総数に対する、実際に印刷されるピクセルの数に相当する。インクジェット印刷の場合、それは、用いられる印刷装置の精度に依存しうる。
【0038】
本発明の意味において、「トポグラフィック傾斜」とは、勾配の現在の測定値を意味し、異なる高度に位置する表面の2点間の傾きのタンジェントとして、又は重力角度の、基準レベル(一般的に水平)に対するタンジェントとしても定義される、と理解される。この測定値は、一般的に百分率で表される。
【0039】
本発明の意味において、「総粗さ」とは、ISO 4287:1997規格の4.1.5節に定義されているように、Rtと表記される、総粗さを意味すると理解される。これは、プロファイルのサンプリング長さにわたる、最大のプロファイルピーク高さZp及び最大のプロファイルバレー深さZvの、合計として定義される。
【0040】
例示的な例として、図1を参照すると、ミネラル基材1001、例えば調理装置の表面として用いられるようなものなどは、ミネラル基材1001であって、それ自体、少なくとも一方のその表面上に無機エナメル1002が提供されているものを含む。図1において、エナメル1002は、パターンの一部を形成する線の形態で示されている。それは、任意の適切なパターンを形成しうる。
【0041】
各辺が約1.25mmの、正方形の周期的なパターンの形態である、パターンの例は、1~3μmの厚さを有し、0.75mmの間隔をあけている。基材の表面上の無機エナメルの被覆率は、40%である。
【0042】
本発明の第1の態様によれば、図1及び図2を参照して、ミネラル基材1001は、その表面の少なくとも1つに無機エナメル1002を有するパターンを形成し、以下の点を特徴とする:
- 上記無機エナメル1002が、2μm以下の、その表面1002-Sの総粗さRtを有すること、及び、
- ミネラル基材1001の表面1001-Sから突出している無機エナメル1002の端部1002a、1002bが、百分率で表される、1.4%以下のトポグラフィック傾斜値を有すること。
【0043】
本発明を理論的又は実用的な考察に限定するものではないが、本発明が提供する顕著な利点の1つのありうる説明は、無機エナメルに関する、2μm未満の総表面粗さと1.4%未満のトポグラフィック傾斜との間の相乗効果は、上記無機エナメルの表面上での、金属器具、特には軟質金属の滑りを改善することを可能にし、したがって、金属粒子が引きちぎられるリスクを減少させることを可能にする。
【0044】
先の定義に従って、トポグラフィック傾斜は、ミネラル基材1001の表面1001-Sから突出しているパターンを形成する無機エナメル1002の端部1002a、1002bの勾配のタンジェントに相当する。換言すれば、図2を参照すると、それは、高さ変化の、上記高さ変化にわたる距離に対するタンジェント、すなわち、ミネラル基材1001の表面1001-Sと無機エナメル1002の上方表面1002-Sとの間の高度差hの、高度差について考慮される2点間の距離lにわたる、比h/lに相当する。百分率で表すと、比h/lは、100倍される。
【0045】
パターンを形成する有機エナメルのトポグラフィック傾斜は、方法及びミネラル基材の表面上へのその堆積のパラメータに従って、上記有機エナメルの厚さ、その化学組成、並びに/又はそれを形成するために用いられてきた混合物の粒子サイズ、例えばミネラルガラスフリット及び/若しくはミネラル顔料(無機顔料)の混合物の粒子サイズなど、特にはそれらの組み合わせに応じて、変化しうる。しかしながら、これらの特性は、所定のトポグラフィック傾斜値を規定するのに単独では十分ではない。換言すれば、同じ組成の2つの無機エナメルであって、同じ混合物を用いて得られ、かつ同じ厚さを有するものは、それらがミネラル基材上に堆積された方法に応じて、異なるトポグラフィック傾斜を有しうる。
【0046】
無機エナメル1002の上方表面1002-Sは、一般的には最も大きな表面であり、ミネラル基材1001の表面1001-Sと実質的に平行である。
【0047】
ラジアン単位で表される、勾配角度は、トポグラフィック傾斜を角度の形態で表現したものである。そして、勾配角度αは、比h/lに、arctan又はtan-1と表記される、タンジェント関数の逆関数を適用することによって得られる値に相当する。
【0048】
【数1】
【0049】
この比に180/πを乗算することによって、角度を度単位に換算することができる。
【0050】
トポグラフィック傾斜の値は、好ましくは、ミネラル基材1001の表面1001-S上に突出している、無機エナメル1002の端部1002a、1002bの異なる場所又は異なる位置で測定される、個別のトポグラフィック傾斜の値の算術平均である。
【0051】
パターンを形成するエナメルは、一般的には、ミネラル基材の表面上に堆積される装飾的かつ/又は機能的コーティングであるという機能を、装飾、標識、及び/又は画定目的のために、特には、特定の機能領域、例えば、調理装置又はワークトップの加熱及び/又は制御領域など、を画定するために、有する。
【0052】
グレージング又はより単純に装飾的とも呼ばれる、様々なエナメル加工方法、及び上記エナメル加工方法の目的のために用いられる、ミネラル若しくはセラミックペースト、インク、又はペイントの組成物は、特にはミネラル基材、例えばガラスセラミックなどに関するエナメルの分野において、先行技術から公知である。
【0053】
エナメルは、一般的には、適切な方法、例えばスクリーン印刷又はインクジェット印刷などを用いてミネラル基材の表面上に堆積させたペースト、インク、又はミネラル若しくはセラミックペイントの熱処理によって得られる。
【0054】
ペースト、インク、又はミネラル若しくはセラミックペイントは、ある程度粘性のある有機媒体中に微細に分かれているかつ分散している、固体ミネラル相(固体無機相)を含む。有機媒体は、固相が適切な堆積法で適用されることを、可能にする。また、それは、ミネラル相(無機相)を懸濁かつ/又は分散させる機能を有し、それによって、装飾、標識、及び/又は画定領域において、その均一かつ均質な分布を確保する。
【0055】
ミネラル基材1001は、金属器具による応力を受けることが可能な任意のミネラル基材でありうるし、特に、キッチン器具が用いられる環境において、例えばワークトップの表面及び/又は装置の表面及び/又は調理ユニットの表面として、用いられることが可能なミネラル基材でありうる。
【0056】
いくつかの実施形態では、ミネラル基材1001は、ガラスセラミック基材又はミネラルガラス基材でありうる。一例として、それは、ワークトップの表面及び/又は装置の表面及び/又は調理ユニットの表面として用いるのに適した、任意のタイプのガラスセラミック、例えばリチウムアルミノシリケートに基づくガラスセラミックなどでありうる。また、それは、随意に強化され、同様の用途に適した、任意のタイプのミネラルガラス、例えばホウケイ酸ガラス又はアルミノケイ酸ガラスなどでありうる。
【0057】
本発明に従って、無機エナメル1002の総表面粗さの値は、2μm以下である。特定の無機エナメル組成物については、比較的低い総粗さの値に達しうる。したがって、特定の有利な実施形態では、上記総表面粗さの値は、1.5μm以下、好ましくは1μm以下でありうる。総表面粗さの低減は、金属痕及び痕跡の視認性をさらに低下させうることが観察された。
【0058】
本発明によれば、ガラスセラミック基材1001の表面1001-Sにおいて突出している無機エナメル1002の端部1002a、1002bのトポグラフィック傾斜値は、1.4%以下である。特定の無機エナメル組成物1002については、比較的低い値に達しうる。したがって、特定の有利な実施形態では、上記トポグラフィック的傾斜の値は、1.2%以下でありうる。トポグラフィック傾斜の低減は、無機エナメル上の金属物又は器具の滑りをさらに促進し、したがって、金属痕及び痕跡の視認性をさらに低減することを可能にしうることが観察されている。
【0059】
本発明が可能にする金属痕及び痕跡の視認性の低減によって、無機エナメルの厚さを有利に低減しうる;なぜなら、金属粒子の埋め込み及び/又は使用者による繰り返しの洗浄によって引き起こされる、エナメルへのありうる損傷を補償する必要性が、比較的重大ではなくなり、又は存在もしないからである。
【0060】
したがって、特定の実施形態では、無機エナメル1002の厚さは、有利には、1.5μm~3.5μm、又は1.5μm~2μmでもありうる。
【0061】
金属痕及び痕跡は、ミネラル基材1001との低いレベルのコントラストを有する無機エナメル1002に対して、ミネラル基材1001が暗い外観、特には黒色の外観を有する場合であっても、又は明るい色の外観、例えば白色の外観を有する場合であっても、著しく低減される。したがって、特に有利な実施形態では、相対輝度差ΔLは、ミネラル基材1001上の無機エナメル1002の、反射で測定される、輝度L(エナメル/基材)と、無機エナメル1002の無いミネラル基材1001の、反射で測定される、輝度L(基材)との差として定義され、最大で50、好ましくは最大で35である。それは、特に2~45、随意に5~35であってよく、これらの値は、ミネラル基材1001に対してかなり低コントラストの無機エナメル1002に対応する値である。
【0062】
また、相対輝度差ΔLは、以下の式の形で表しうる:
【0063】
【数2】
【0064】
「輝度」という用語は、ISO 11664-4規格で定義されかつ測定される、Lと表記される、輝度を意味すると理解される。L(基材)と表記される、ミネラル基材1001の輝度は、反射で測定される。ミネラル基材1001上に堆積される無機エナメル1002の輝度は、L(エナメル/基材)と表記され、反射で測定される。
【0065】
調理装置又はワークトップにおいて、ミネラル基材であって、無機エナメルがこれとの低いコントラスト差を有する、ミネラル基材は、一般的には、暗い外観の基材であり、随意に黒色を呈し、透過性が弱く、かつ散乱性が低い。また、特定の実施形態では、ミネラル基材1001の光透過率Tlは、最大で17%、好ましくは10%以下、又はさらには5%以下である。黒色ミネラル基材、例えば非白濁標準黒色ガラスセラミックなどは、5%未満、特には0.2%~2%の光透過率を有する。
【0066】
「光透過率」とは、照度D65及び標準観察者を用いて、規格EN 410:1999の4.2節で定義されかつ測定される、Tlと表記される、光透過率を意味すると理解される。
【0067】
特定の実施形態では、ミネラル黒色基材の、上記ミネラル基材1001の反射で測定される、輝度L(基材)は、さらに5以下、好ましくは2以下でありうる。黒色のミネラル基材、例えば、Eurokera社によってKeraBlack(登録商標)又はKeraBlack+(商標)の名称で販売されているガラスセラミックなどは、そのような輝度レベルを有する。
【0068】
本発明の利点の1つは、上記無機エナメルの表面上での、金属器具、特には軟質金属のものの滑りを促進し、したがって金属粒子が引きちぎられるリスクを低減することである。
【0069】
有利な実施形態では、上記無機エナメル(1002)を有するミネラル基材(1001)の表面の静摩擦係数及び/又は動摩擦係数とも呼ばれる、摩擦係数は、最大で0.30、好ましくは最大で0.25である。このような静摩擦係数及び/又は動摩擦係数の値を有する本発明によるミネラル基材は、一般的には、金属器具の繰り返しの摩擦の影響から、目に見える金属痕及び痕跡の数を減少させるという点で最良の性能を有する。
【0070】
摩擦係数とは、ASTM D1894、ISO 8295:1995、及びISO 15359:1999の規格に定義されている、静摩擦係数及び/又は動摩擦係数を意味すると理解される。
【0071】
静摩擦係数は、静止摩擦力、すなわち、ある表面が別の表面上で摺動運動を開始するのに必要な力と、これら2つの表面に、それらの接触及び摺動を維持するために垂直に適用される力との間の比として定義される。
【0072】
動摩擦係数は、動摩擦力、すなわち、ある表面が別の表面上で摺動運動を維持するのに必要な力と、これら2つの表面に、それらの接触及び摺動を維持するために垂直に適用される力との間の比として定義される。
【0073】
上記無機エナメル(1002)が提供されているミネラル基材(1001)の表面の静摩擦係数及び/又は動摩擦係数は、無機エナメル(1002)が存在するミネラル基材(1001)の表面上で測定されうる静摩擦係数及び/又は動摩擦係数を意味すると理解される。
【0074】
記載される実施形態のいずれかによるミネラル基材1001は、有利には、調理装置の表面、特にはいわゆる「フレキシブル」表面を有する電磁調理装置の表面、又はワークトップの表面、特には食品準備用のテーブル又は作業キャビネットなどの家具備品におけるワークトップの表面として用いられうる。
【0075】
本発明の第2の態様によれば、先に記載した実施形態のいずれか1つによるミネラル基材1001を作製するための方法が提供され、上記方法は、ミネラル基材1001上にミネラルインクをインクジェット印刷することによって、無機エナメル1002を堆積させる工程を含み、インク被覆範囲は、少なくとも45%、最大で85%であり、インクジェット印刷に用いられるミネラルインク中の固体分率の重量百分率は、上記ミネラルインクのうち最大で40%である。
【0076】
例示的な例として、800dpiでのインクジェット印刷タスクの場合、1平方インチの正方形パターン上で印刷可能なピクセル数は、640,000ピクセルである。所与の個別インクについて、200,000ピクセルのみ実際に印刷される場合、この所与の個別インクに関するインク被覆範囲は、200,000/640,000、すなわち、百分率で表すと31.5%である。
【0077】
複数の個別インク、例えば異なる色のインクが用いられる場合、インク被覆範囲は、これらの個別インクのそれぞれのインク被覆範囲の合計である。
【0078】
典型的には20~100Pa・sである、インクの粘度、及び典型的には12~84pLである、インク滴の体積も、インク被覆範囲に影響を与えうる。非常に流動性の高いインク及び/又は滴の大きい体積は、特には選択された解像度でインクジェット印刷装置によって実際に印刷されたピクセルの周辺ピクセルを覆うことによって、印刷表面の被覆率を比較的大きくしうる。これらのパラメータは、一般的には、インク被覆範囲を定義する際にインクジェット印刷装置によって考慮される。
【0079】
「ミネラルインク」とは、インクジェット印刷によるエナメルの堆積に適したミネラルインクを意味すると理解される。ミネラルインクは、一般的には、一般的に有機液体相中で、微細に分かれている固体ミネラル相の懸濁液又はコロイド分散液の形態である。コロイド懸濁液の固体ミネラル相は、一般的には、ガラスフリット、及び随意にミネラル顔料を含む。
【0080】
ミネラルインクは、インクジェット印刷法に適合する、密度、粘度及び表面張力を有する。これらのパラメータの値は、用いられるインクジェット印刷装置に依存し、得られる装飾パターンの品質に影響する。
【0081】
固体ミネラル相を構成する粒のサイズは、一般的にはマイクロメートル、又はサブマイクロメートルでもある。液相は、主に溶媒を含み、一般的には有機溶媒を含む。溶媒のタイプ及び量は、部分的にミネラルインクのレオロジー特性、表面張力、及び乾燥挙動に影響する。固相の凝集及び/又は沈降を防ぐために分散剤を添加することもありうるし、ミネラルインクの表面張力を調整するために界面活性剤を添加することもありうる。
【0082】
有機溶媒、分散剤、界面活性剤、及びガラスフリットの重量比は、ミネラルインクの特性がインクジェット印刷に用いられる装置に適合するように調整されうる。有機溶媒は、一般的には、ミネラルインクの有機溶媒、分散剤及び界面活性剤の混合物のうち80重量%を表しうる。有機溶媒のタイプ及び量は、用いられるインクジェット印刷装置の技術的制約及び生産上の制約に従って調整されうる。
【0083】
インクジェット印刷によって堆積させたミネラルインクを用いてエナメルを形成するために、ミネラルインクを乾燥させる温度は、25~180℃でありうる。エナメル加工された前駆体ガラスの焼成熱処理の温度は、650℃以上でありうる。好ましくは、温度は1100℃を超えない。
【0084】
有機溶媒は、室温で液体である有機化合物、又は少なくとも1つのアルコール官能基を含む、室温で液体である有機化合物の混合物でありうる。
【0085】
アルコール官能基を含む有機化合物の選択は、インクジェット印刷に用いられる方法及び/又は装置に依存する。ミネラル基材上へのミネラルインクの堆積が遅い場合、方法及び/又は装置の圧力及び温度の利用条件下で、飽和蒸気圧が低い溶媒又は溶媒の混合物を用いることが有利である。換言すれば、標準的な温度及び圧力条件下で、溶媒又は溶媒の混合物が急速に蒸発するのを防ぐために、その沸点は高いものでありうる。
【0086】
有機溶媒の非限定的な例として、以下が挙げられる:メチレングリコール、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブチレングリコール、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、グリコールエーテル、例えばプロピレングリコールメチルエーテル又はジプロピレングリコールメチルエーテルなど。
【0087】
分散剤は、好ましくは、少なくとも1つの酸官能基を含むコポリマー又はコポリマーの混合物である。分散剤は、固相の凝集及び/又は沈降を防止することを可能にする。それは、好ましくは、有機溶媒、分散剤及び界面活性剤の質量百分率の合計のうち、3~7重量%、最大で10重量%を表す。1つ以上の酸官能基を含むコポリマーのアルキルアンモニウム塩は、分散剤の非限定的な例である。
【0088】
界面活性剤は、好ましくはポリエーテル又はポリエーテルの混合物である。それは、好ましくは、有機溶媒、分散剤及び界面活性剤の質量百分率の合計のうち、0.05重量%~0.5重量%を表す。
【0089】
ミネラルインクは、着色ミネラル顔料を含まなくてよい。代替的には、エナメルに色合い又は色を提供するために、ミネラル顔料を含みうる。ミネラル顔料は、ミネラルインク及びエナメルの色を調整することを可能にする。ミネラル顔料は、エナメルを形成するためのミネラルインクの熱処理の際に酸化することができる、金属酸化物及び/又は金属若しくは金属合金に基づきうる。ミネラル顔料の非限定的な例は、酸化チタン、酸化セリウム、酸化コバルト、酸化鉄、酸化ジルコニウム、酸化マンガン、スピネル、又はドープされたアルミナである。
【0090】
一実施形態では、ミネラルインクの固体分率の粒度分布のD90は、最大で2μm、好ましくは1μm~2μmである。D90は、ISO 13320:2009規格に従ってレーザー回折法によって決定される粒度分布から計算される。これは、混合物の全粒子体積のうち90%を表す粒子のサイズに相当する。換言すれば、ガラスフリット及びミネラル顔料の混合物の粒子体積のうち90%は、最大で2μm、好ましくは1~2μmのサイズを有する粒子からなる。有利な実施形態では、ミネラルインクの表面張力は、25℃で約26mN/mである。25℃で約26mN/mの表面張力を有するミネラルインクは、本発明の第1の態様に従ってミネラル基材上に無機エナメルを得ることを、容易にしうることが見出された。
【0091】
記載される全ての実施形態は、それらが本発明の第1の態様又は第2の態様のいずれに関するものであっても、互いに組み合わせられうる。
【実施例1】
【0092】
本発明によるミネラル基材の4つの実施例E1、E2、E3及びE4では、3つの異なる無機エナメルA、B及びCを、Eurokera S.N.C.社によって販売されているガラスセラミックプレートKeraBlack+(商標)(KB+)上に堆積させる。
【0093】
エナメルAは、60~70%の表1に記載されている組成のガラスフリットF、15~20%のコバルト及びケイ素の混合酸化物、並びに15~20%の鉄、クロム、コバルト、及びニッケルの混合酸化物を含む、黒色エナメルである。
【0094】
エナメルBは、75質量%のエナメルA、並びに70~75質量%の表1に記載されている組成のガラスフリットF及び25~30質量%の酸化チタンを含む、25質量%のエナメルの混合物から形成される、暗灰色のエナメルである。
【0095】
エナメルCは、50質量%のエナメルA、並びに70~75質量%の表1に記載されている組成のガラスフリットF及び25~30質量%の酸化チタンを含む、50質量%のエナメルの混合物から形成される、灰色のエナメルである。
【0096】
【表1】
【0097】
実施例E1、E2及びE3において、無機エナメルを、本発明の第2の態様による方法に従って、より詳細にはインク被覆範囲Teが55%となるようにミネラルインクのインクジェット印刷によって、作製した。ミネラルインク中の固形分率は、最大で40重量%である。ミネラルインクの固体分率の粒度分布のD90は、約1.3~1.5μmである。
【0098】
実施例E4では、無機エナメルを、固体分率の粒度分布のD90が約1.6μmであるスクリーン印刷ペーストを用いて、非標準的なスクリーン印刷法によって堆積した。
【0099】
本発明によらない第1の比較例CE1において、無機エナメルAを、Eurokera S.N.C.社によって販売されているKeraBlack+(商標)(KB+)として知られているガラスセラミックプレート上に、標準的なスクリーン印刷法によって堆積する。スクリーン印刷ペーストの固体分率の粒度分布のD90は、約5.1μmである。
【0100】
本発明によらない第2の比較例CE2において、無機エナメルAを、Eurokera S.N.C社によって販売されているKeraBlack+(商標)(KB+)として知られているガラスセラミックプレート上に、ミネラルインクを印刷する方法によって、インク被覆範囲Teが40%となるように堆積する。ミネラルインクの固体分率の粒度分布のD90は、約1.4μmである。
【0101】
実施例E1、E4、及び比較例CE1では、エナメルを、図4に模式的に示すように、1辺が約1.25mmの正方形であり、厚さが1~3μmであり、かつ間隔が0.75mmである、周期的パターンの形態で堆積する。
【0102】
実施例E2、E3及び比較例CE2では、エナメルを、ランダムユニットの形態で堆積し、基材上のエナメルの被覆率は、約25%である。
【0103】
実施例E1、E2、E3及びE4、並びに比較例CE1及びCE2の特徴を、表2に要約する。
【0104】
【表2】
【0105】
ミネラル基材単独、すなわち無機エナメル無しの光透過率を、Perkin Elmer Lambda 950分光光度計を用いて、照度D65及び標準観察者で、EN 410:1999規格の4.2項に従って、測定した。実施例E1、E2、E3及びE4、並びに比較例CE1及びCE2について、ミネラル基材単独で測定される光透過率Tlは、約1.5%である。
【0106】
輝度を、Lと表記し、ISO 11664-4標準に従って、照明角45°かつ観察角0°で、BYK Gardner SPC008分光光度計を用いて測定した。
【0107】
ミネラル基材単独、すなわち無機エナメル無しの輝度を、L(基材)と表記し、白色背景上、この場合、BYK Gardnerによって供給される標準背景チャート2810(L=92.07、a=-0.75、b=4.91)上での、反射で測定する。
【0108】
ミネラル基材上に堆積した無機エナメルの輝度を、L(エナメル/基材)と表し、反射で測定する。ミネラル基材の表面は、無機エナメルによって完全に覆われている。
【0109】
相対輝度差ΔLを、以下の式を用いて算出する:
【0110】
【数3】
【0111】
各実施例E1、E2、E3及びE4、並びに反実施例CE1及びCE2の無機エナメルの、総表面粗さRtを、ISO規格4287:1997の4.1.5節に従って、Mitutoyo SJ-400メカニカルプローブを用いて測定した。
【0112】
ガラスセラミック基材の表面から突出する無機エナメルのトポグラフィック傾斜Ptを、表面プロファイルを用いて計算する。表面プロファイルは、パラメータWtに適用される、PC75(非ガウス)フィルタを備えるMitutoyo SJ-400メカニカルプローブを用いて測定する。
【0113】
本発明によるミネラル基材表面上の無機エナメル上での表面プロファイル測定の例示的な例を、図3に示す。
【0114】
プロファイルを、ミネラル基材の表面に突出しているエナメルの端部上で、15mmの長さにわたって測定する。エナメルは、多角形の幾何学的形状を有する。ミネラル基材の表面とエナメルのいわゆる有効表面との間の、高さ変化のタンジェントに対応する、トポグラフィック傾斜は、以下の式を用いて計算される:
【0115】
【数4】
【0116】
ここで、hは、ミネラル基材の表面と無機エナメルの有効表面との間の高さの差であり、一般的には、ミネラル基材の表面に対するエナメルの厚さに相当し、lは、高さ変化にわたる長さである。
【0117】
同じ無機エナメル上で、ミネラル基材の表面から突出しているエナメルの端部の異なる場所又は異なる位置における、トポグラフィック傾斜の少なくとも3つの測定を進める。トポグラフィック傾斜の算術平均値Ptmを、これらの少なくとも3つの測定値から計算する。
【0118】
図5及び図6は、本発明による実施例において、AMETEK社からのTaylor Hobson 3D表面形状計を用いて測定される、トポグラフィックプロファイルの3D表示の例であり、これらから表面プロファイル測定を実施しうる。
【0119】
金属摩擦の視認性を、以下のプロトコルを用いて評価した。直径20cmかつ重さ3kgである、ステンレス鋼又はアルミニウムでできているポットを、無機エナメルを提供したミネラル基材上に傾斜させて置き、約0.40m/sの速度で10往復の動きで移動させる。ステンレス鋼ポットは、200HVのビッカース硬度を有する。
【0120】
金属性摩擦痕のレベルを、以下の2つの異なる方法に従って評価する:視覚的分析評価法及び画像分析評価法。
【0121】
第1の目視分析評価法によれば、エナメルの劣化度Dを、通常の観察条件下で、60cmの距離で0~5のスケールに従って視覚的評価をする。程度5は、埋め込まれた金属粒子が顕著に見えることに相当し、程度0は、金属痕又は痕跡が見えないことに相当する。換言すれば、程度が比較的低いほど、金属性摩擦痕跡又は痕が、肉眼で比較的見えないことになる。
【0122】
第2の画像分析評価方法によれば、まず、デジタル写真画像を、エナメルの規定領域について、この目的に適したライトボックス内の3色発光ダイオードの人工光下で、撮影する。
【0123】
そして、デジタル写真画像を、グレースケール画像に変換するデジタル処理にかけ、そこからグレーレベルの平均値Vmを計算する。
【0124】
この同じ操作を、金属性摩擦を受けたエナメルの領域及び金属性摩擦を受けなかったエナメルの領域について実施した。これら2つの領域のそれぞれについて得られた値Vmの差ΔVmを計算する。パラメータΔVmの値が比較的大きいほど、エナメル中に埋め込まれた金属粒子の数が比較的多い。
【0125】
並行して、同じ写真画像は、デジタル二値化処理の対象となり、そこから可視性指数Ivを計算し、これを、強度(Intensity)の比較的大きいピクセルの数、すなわち値1のピクセルの数の、ピクセルの総数に対する比として定義する。この比率Ivが比較的高いほど、エナメル中に埋め込まれた金属粒子の視認性が比較的高い。
【0126】
画像サイズは、40万ピクセル~45万ピクセルで構成される、エナメル分析ゾーンのサイズに対して、3264x2448ピクセルである。これは、実施例E1、E4及び比較例CE1に関するパターンの約10x13マスに相当する。
【0127】
静摩擦係数及び動摩擦係数を、それぞれFs及びFdと表記し、ASTM D1894、ISO 8295:1995及びISO 15359:1999の規格に従って、Hanatek Instruments(商標)社によって販売されている、摩擦係数を測定するAFT装置上で測定した。摩擦ヘッドは、Berner(登録商標)社からの直径36mmかつ厚さ2mmのであるNFE25.513のステンレス鋼ワッシャーである。測定を、摩擦ヘッドの移動速度500mm/minで、行程50mmにわたって実施した。
【0128】
摩擦係数を測定する前に、Laboratoires Prodene Klint(商標)社によって販売されているClin’Glass洗剤を用いて、サンプルをあらかじめ洗浄する。4回の測定を、各サンプルについて行い、それらの平均値を算出する。
【0129】
これらの測定について、基材表面上の無機エナメルは、実施例E2及びE3、並びに比較例CE2に関してランダムパターンを有し、実施例E1、E4及び比較例CE1に関して、一辺が約1.25mmである正方形の周期的パターンを有する。
【0130】
全ての結果を表3にまとめる。パラメータD、ΔVm及びIvの値を、ステンレス鋼(stainless)及びアルミニウム(alu)ポットを用いた金属摩擦について報告し、それぞれ「stainless」及び「alu」と注釈する。
【表3】
【0131】
表3の結果は、金属痕及び痕跡の数、したがってその視認性が、本発明による実施例E1、E2、E3及びE4について、比較例CE1及びCE2よりも低減していることを示す。実際、ステンレス鋼(stainless)又はアルミニウム(alu)ポットを用いた摩擦を考慮した、パラメータD、ΔVm及びIvのいずれであっても、それらの値は本発明による実施例についての方が低い。パラメータΔVm及びIvの値は、75%~92%減少しており、これは金属痕及び痕跡の視認性が、ありうる限り低減されていることを意味する。
【0132】
実施例E1の結果と実施例E4の結果との比較は、本発明の第2の態様による製造方法が用いられる場合、パラメータ値D、ΔVm及びIvが比較的低くなることを示している。したがって、本発明による製造方法は、金属性痕及び痕跡の視認性を低減するという点で、スクリーン印刷法よりも優れた性能を得ることを可能にする。スクリーン印刷法の使用も、依然としてありうる。
【0133】
実施例E1、E2及びE3の結果の比較は、金属痕跡及び痕の視認性が、ミネラル基材との低いレベルのコントラストを有する無機エナメル、特にはΔLが35未満の暗い外観、特にはΔLが15未満の黒色である、無機エナメルであっても、非常に低減されたままであることを示す。
【0134】
本発明の特徴及び利点の追加的な説明として、先行技術から得られたいくつかの実施例を、比較的の形で再現し、それらの特徴を表4に報告する。
【0135】
【表4】
【0136】
比較例CE3~CE8を、欧州特許出願公開第3 067 334号明細書[SCHOTT AG[DE]]14.09.2016から引用する。一方の実施例CE3~CE5及び他方の比較例CE6~CE8は、それぞれ、3つの異なるエナメル組成(Farbe(色)1、Farbe(色)1a及びFarbe(色)6)を有する。これら2つのシリーズの比較例を、2つの異なるパターン(Punktmuster(水玉)11及びPunktmuster(水玉)12)に従って堆積する。
【0137】
比較例CE7及びCE9は、仏国特許出願公開第2 858 974号明細書[SCHOTT AG[DE]]25.02.2005から引用された、同じエナメル組成を有する。比較目的のために、それらを、欧州特許出願公開第3 067 334号明細書[SCHOTT AG[DE]]14.09.2016から引用された、2つの異なるユニット(Punktmuster(水玉)11及びPunktmuster(水玉)12)に従って堆積する。
【0138】
比較例CE11及びCE12は、それぞれ、国際公開第2019/219691号[EUROKERA[FR]]21.11.2019の例E1及びE2の組成物を提示する。比較目的のために、それらを、55%の被覆率で0.6mmの幅の線パターンに従って堆積する。
【0139】
比較例CE3~CE12のエナメルは、本発明による例E1~E4と同様に、それらを形成するために用いられた混合物、例えばミネラルガラスフリット及び/又はミネラル顔料の混合物などの、化学組成及び/又は粒子サイズを有しうる。
【0140】
実施例CE3~CE8のエナメルを、それらが抽出される文献に記載された方法に従って堆積した。
【0141】
比較例CE1~CE3の総粗さ及びトポグラフィック傾斜を、実施例E1~E4、並びに比較例CE1及びCE2に用いられた方法と同じ方法に従って、測定かつ/又は決定した。その結果を表5に報告し、図7に示す。
【0142】
【表5】
【0143】
図7において、本発明による実施例E1~E4を、実線の丸い記号で、比較例CE3~CE5を、白ひし形で、比較例CE6~CE8を、星形で、比較例CE9~CE10を、白四角形で、比較例CE11及びCE12を、白三角形で、表す。視覚的なガイドとして、2.00μmにおける総粗さ値Rt、及び1.40%におけるトポグラフィック傾斜Ptmを、それぞれ破線の縦線及び破線の横線で表す。
【0144】
図7は、本発明による実施例のみが、横線の下かつ縦線の右に定義されるゾーン内に位置していることを示している。比較例CE3~CE12は、全てこのゾーンの外側にある。したがって、この図は、本発明による実施例のみが、総粗さRt及びトポグラフィック傾斜値Ptmがそれぞれ2.00μm以下及び1.4%以下であることを、明確かつ明白に示す。
本開示は、下記の発明の態様を含む:
<態様1>
ミネラル基材(1001)であって、その表面の少なくとも1つに、パターンを形成している無機エナメル(1002)を有し:
- 前記無機エナメル(1002)が、2μm以下の、その表面(1002-S)の総粗さRtを有すること、及び、
- 前記ミネラル基材(1001)の表面(1001-S)から突出している前記無機エナメル(1002)の端部(1002a、1002b)が、百分率で表される、1.4%以下のトポグラフィック傾斜値を有すること、
を特徴とする、ミネラル基材(1001)。
<態様2>
前記総表面粗さの値が、1.5μm以下、好ましくは1μm以下である、態様1に記載のミネラル基材(1001)。
<態様3>
前記トポグラフィック傾斜値が、1.2%以下である、態様1又は2に記載のミネラル基材(1001)。
<態様4>
前記無機エナメル(1002)の厚さが、1.5μm~3.5μm、又は1.5μm~2μmである、態様1~3のいずれかに記載のミネラル基材(1001)。
<態様5>
相対輝度差ΔL*が、前記ミネラル基材(1001)上の前記無機エナメル(1002)の、反射で測定される、輝度L*(エナメル/基材)と、前記無機エナメル(1002)を有しない前記ミネラル基材(1001)の、反射で測定される、輝度L*(基材)との間の差として定義され、最大で50、好ましくは最大で35である、態様1~4のいずれかに記載のミネラル基材(1001)。
<態様6>
前記ミネラル基材の、透過で測定される、輝度L*(基材)が、5以下である、態様1~5のいずれかに記載のミネラル基材(1001)。
<態様7>
前記ミネラル基材の光透過率が、最大で17%、好ましくは最大で10%、又は最大で5%である、態様1~6のいずれかに記載のミネラル基材(1001)。
<態様8>
前記無機エナメル(1002)が提供されている、前記ミネラル基材(1001)の表面の静摩擦係数及び/又は動摩擦係数が、最大で0.30、好ましくは最大で0.25である、態様1~7のいずれかに記載のミネラル基材(1001)。
<態様9>
前記ミネラル基材が、ガラスセラミック基材、又はミネラルガラス基材である、態様1~8のいずれかに記載のミネラル基材。
<態様10>
態様1~9のいずれかに記載のミネラル基材(1001)を製造する方法であって、前記方法が、ミネラル基材(1001)上にミネラルインクをインクジェット印刷することによって、無機エナメル(1002)を堆積させる工程を含み、インク被覆範囲が、少なくとも45%、最大で85%であり、前記インクジェット印刷に用いられる前記ミネラルインク中の固体分率の重量百分率が、前記ミネラルインクのうち最大で40%である、製造方法。
<態様11>
前記ミネラルインクの表面張力が、25℃で約26mN/mである、態様10に記載の製造方法。
<態様12>
態様1~9のいずれかに記載のミネラル基材(1001)の、調理装置又はワークトップの表面としての使用。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7