(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-02-14
(45)【発行日】2025-02-25
(54)【発明の名称】モータ制御装置及び電動パワーステアリング装置
(51)【国際特許分類】
H02P 29/62 20160101AFI20250217BHJP
【FI】
H02P29/62
(21)【出願番号】P 2023555917
(86)(22)【出願日】2021-10-26
(86)【国際出願番号】 JP2021039390
(87)【国際公開番号】W WO2023073792
(87)【国際公開日】2023-05-04
【審査請求日】2023-10-30
(73)【特許権者】
【識別番号】324003048
【氏名又は名称】三菱電機モビリティ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100161207
【氏名又は名称】西澤 和純
(74)【代理人】
【識別番号】100206081
【氏名又は名称】片岡 央
(74)【代理人】
【識別番号】100188673
【氏名又は名称】成田 友紀
(74)【代理人】
【識別番号】100188891
【氏名又は名称】丹野 拓人
(72)【発明者】
【氏名】後藤 崇
(72)【発明者】
【氏名】岩見 英司
【審査官】池田 貴俊
(56)【参考文献】
【文献】特開2021-141743(JP,A)
【文献】特開2014-091373(JP,A)
【文献】特開2021-118584(JP,A)
【文献】特開2021-151080(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02P 29/62
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
モータに供給すべき電流を求める第1演算部と、
前記モータに供給される電流が流れる経路に配置された複数の部品のうちの一の部品の発熱
による雰囲気温度
の上昇と、前記複数の部品のうちの他の部品の発熱
による前記雰囲気温度
の上昇とを考慮して規定された、電流の大きさと過熱保護係数との関係を示す過熱保護特性を用いて、前記第1演算部で求められた電流が流れる場合の過熱保護係数を求め、求めた前記過熱保護係数を用いて前記モータに実際に供給する電流を求める第2演算部と、
を備えるモータ制御装置。
【請求項2】
前記第2演算部は、前記過熱保護特性を前記複数の部品毎に保持しており、前記第1演算部で求められた電流が流れる場合の前記過熱保護係数を前記部品毎に求め、求めた前記過熱保護係数のうち最も大きなものを用いて前記モータに実際に供給する電流を求める、請求項1記載のモータ制御装置。
【請求項3】
前記複数の部品の少なくとも1つはヒートシンクに取り付けられており、
前記雰囲気温度は、前記ヒートシンクの温度である、
請求項1又は請求項2記載のモータ制御装置。
【請求項4】
前記複数の部品は、筐体に収容されており、
前記雰囲気温度は、前記筐体の温度である、
請求項1又は請求項2記載のモータ制御装置。
【請求項5】
前記複数の部品は、基板に搭載されており、
前記雰囲気温度は、前記基板の温度である、
請求項1又は請求項2記載のモータ制御装置。
【請求項6】
前記第2演算部は、前記モータが停止している場合の前記過熱保護特性である第1過熱保護特性と、
前記モータが回転している場合の前記過熱保護特性である第2過熱保護特性と、
を保持しており、
前記モータが停止しているか否かに応じて前記第1過熱保護特性又は前記第2過熱保護特性を用いて、前記第1演算部で求められた電流が流れる場合の前記過熱保護係数を求める、
請求項1から請求項5の何れか一項に記載のモータ制御装置。
【請求項7】
前記第2演算部で求められた電流を前記モータに供給する駆動部を更に備えており、
前記複数の部品の1つは、前記駆動部に設けられた駆動素子である、
請求項1から請求項6の何れか一項に記載のモータ制御装置。
【請求項8】
ステアリングの操舵トルクを検出するトルクセンサと、
前記ステアリングに対して操舵補助トルクを発生させる前記モータと、
前記トルクセンサが検出した前記操舵トルクに応じて、前記モータの駆動を制御する請求項1から請求項7の何れか一項に記載のモータ制御装置と、
を備える電動パワーステアリング装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、モータ制御装置及び電動パワーステアリング装置に関する。
【背景技術】
【0002】
電動パワーステアリング装置は、ステアリングに対して操舵補助トルクを発生させるモータと、そのモータを制御するモータ制御装置とを備えており、自動車等の車両の操舵機構に操舵補助力を付加する。このような電動パワーステアリング装置は、モータ制御装置及びモータに流れる電流によって発熱することから、熱対策が必要になる。
【0003】
従来の電動パワーステアリング装置では、モータ制御装置に設けられた温度検出手段(例えば、温度サーミスタ)の検出値に応じて、モータ制御装置に流れる電流の電流制限を行うことで、モータ制御装置の熱対策を行っていた。尚、このような従来の電動パワーステアリング装置の詳細は、例えば、以下の特許文献1,2を参照されたい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特許第4064600号公報
【文献】特許第3605349号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、従来の電動パワーステアリング装置では、上述した通り、モータ制御装置に設けられた温度検出手段の検出値を雰囲気温度として扱って熱対策を行っていた。しかしながら、モータ制御装置に設けられた温度検出手段は、必ずしも、熱対策を行う必要がある部位に近接している訳ではないため、温度検出手段の検出値と実際の雰囲気温度とが乖離することがある。
【0006】
このため、従来のモータ制御装置は、安全面を優先するあまり、モータに流れる電流を制限しすぎる傾向があった。具体的に、従来のモータ制御装置は、モータに大電流が流れると、早めに電流を制限してしまい、その後も電流制限を継続してしまうため、操舵補助力の低減に繋がっていたという問題がある。
【0007】
本開示は上記事情に鑑みてなされたものであり、操舵補助力の低減を防止しつつ、より最適な熱対策を行うことができるモータ制御装置及び電動パワーステアリング装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本開示の一態様によるモータ制御装置は、モータに供給すべき電流を求める第1演算部と、前記モータに供給される電流が流れる経路に配置された複数の部品のうちの一の部品の発熱が雰囲気温度に及ぼす影響と、前記複数の部品のうちの他の部品の発熱が前記雰囲気温度に及ぼす影響とを考慮して規定された、電流の大きさと過熱保護係数との関係を示す過熱保護特性を用いて、前記第1演算部で求められた電流が流れる場合の過熱保護係数を求め、求めた前記過熱保護係数を用いて前記モータに実際に供給する電流を求める第2演算部と、を備える。
【0009】
また、本開示の一態様による電動パワーステアリング装置は、ステアリングの操舵トルクを検出するトルクセンサと、前記ステアリングに対して操舵補助トルクを発生させる前記モータと、前記トルクセンサが検出した前記操舵トルクに応じて、前記モータの駆動を制御する上記のモータ制御装置と、を備える。
【発明の効果】
【0010】
本開示によれば、操舵補助力の低減を防止しつつ、より最適な熱対策を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】第1実施形態による電動パワーステアリング装置の全体構成を示すブロック図である。
【
図2】第1実施形態におけるCPUが行う過熱保護に係る構成を示すブロック図である。
【
図3A】第1実施形態における駆動素子(MOSFET)の過熱保護特性の一例を示す図である。
【
図3B】第1実施形態におけるコンデンサの過熱保護特性の一例を示す図である。
【
図3C】第1実施形態におけるチョークコイルの過熱保護特性の一例を示す図である。
【
図4A】第2実施形態における駆動素子(MOSFET)の過熱保護特性の一例を示す図である。
【
図4B】第2実施形態におけるコンデンサの過熱保護特性の一例を示す図である。
【
図4C】第2実施形態におけるチョークコイルの過熱保護特性の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面を参照して、本開示の実施形態によるモータ制御装置及び電動パワーステアリング装置について詳細に説明する。
【0013】
〔第1実施形態〕
〈電動パワーステアリング装置〉
図1は、第1実施形態による電動パワーステアリング装置の全体構成を示すブロック図である。
図1に示す通り、本実施形態の電動パワーステアリング装置1は、トルクセンサ11、車速センサ12、モータ13、及び制御ユニット14(モータ制御装置)を備えており、自動車等の車両の操舵機構に操舵補助力を付加する。
【0014】
トルクセンサ11は、車両のステアリング(ハンドル)付近に配置され、運転者の操舵トルクを検出する。車速センサ12は、車両の速度を検出する。モータ13は、車両のステアリングコラム、又はラック軸に搭載され、制御ユニット14の制御の下で、ステアリングに対して操舵補助トルクを発生させる。尚、モータ13としては、例えば、U相コイル13u、V相コイル13v、W相コイル13wを有する3相のブラシレスモータを採用することができる。
【0015】
制御ユニット14は、トルクセンサ11及び車速センサ12の検出結果に応じて、モータ13に供給する電流を制御することで、車両の操舵機構に付加する操舵補助力を制御する。尚、モータ13に対する電流の供給源は、車両のバッテリBTである。制御ユニット14は、チョークコイル21、電源リレー22、駆動部23、リレー24、及びCPU(中央処理装置)25、及びヒートシンク26を備える。尚、以下では、電源リレー22と区別するために、リレー24を「モータリレー24」という。
【0016】
チョークコイル21は、ノイズを除去するためにバッテリBTと電源リレー22との間に設けられる。電源リレー22は、チョークコイル21と駆動部23との間に設けられ、CPU25の制御の下で開状態又は閉状態になる。電源リレー22は、例えば、異常が生じた場合に、バッテリBTからモータ13に供給される電流を遮断するために設けられる。
【0017】
駆動部23は、電源リレー22とモータ13との間に設けられ、CPU25の制御の下で、バッテリBTから供給される直流電流から、モータ13に供給する交流電流を生成してモータ13を駆動する。駆動部23は、正極側の駆動素子Q11,Q12,Q13、負極側の駆動素子Q21,Q22,Q23、平滑コンデンサC1,C2,C3、及びシャント抵抗Ru,Rv,Rwを備える。
【0018】
正極側の駆動素子Q11,Q12,Q13は、電源リレー22及びチョークコイル21を介して、バッテリBTの正極に接続されている。負極側の駆動素子Q21,Q22,Q23は、正極側の駆動素子Q11,Q12,Q13にそれぞれ接続されているとともに、シャント抵抗Ru,Rv,Rwをそれぞれ介してバッテリBTの負極に接続されている。
【0019】
ここで、正極側の駆動素子Q11、負極側の駆動素子Q21、及びシャント抵抗RuによってU相の直列回路が形成されている。このU相の直列回路では、正極側の駆動素子Q11と負極側の駆動素子Q21との接続点が、モータ13のU相コイル13uとW相コイル13wとの接続点に接続されている。
【0020】
また、正極側の駆動素子Q12、負極側の駆動素子Q22、及びシャント抵抗RvによってV相の直列回路が形成されている。このV相の直列回路では、正極側の駆動素子Q12と負極側の駆動素子Q22との接続点が、モータ13のU相コイル13uとV相コイル13vとの接続点に接続されている。
【0021】
また、正極側の駆動素子Q13、負極側の駆動素子Q23、及びシャント抵抗RwによってW相の直列回路が形成されている。このW相の直列回路では、正極側の駆動素子Q13と負極側の駆動素子Q23との接続点が、モータリレー24を介して、モータ13のV相コイル13vとW相コイル13wとの接続点に接続されている。
【0022】
正極側の駆動素子Q11,Q12,Q13及び負極側の駆動素子Q21,Q22,Q23としては、例えば、MOSFET(Metal-Oxide-Semiconductor Field Effect Transistor)等の半導体スイッチング素子を用いることができる。正極側の駆動素子Q11,Q12,Q13のゲート端子、及び負極側の駆動素子Q21,Q22,Q23のゲート端子には、CPU25から出力される制御信号CSが供給される。尚、正極側の駆動素子Q11,Q12,Q13及び負極側の駆動素子Q21,Q22,Q23は、過熱保護のために、ヒートシンク26に取り付けられている。
【0023】
正極側の駆動素子Q11,Q12,Q13及び負極側の駆動素子Q21,Q22,Q23は、CPU25から出力される制御信号CSによって、オン状態又はオフ状態になる。このようにして、駆動部23は、バッテリBTから供給される直流電流から、モータ13に供給する交流電流を生成する。
【0024】
平滑コンデンサC1~C3は、U相の直列回路、V相の直列回路、及びW相の直列回路に対応してそれぞれ設けられている。平滑コンデンサC1~C3は、U相の直列回路、V相の直列回路、及びW相の直列回路にそれぞれ並列接続されており、U相の直列回路、V相の直列回路、及びW相の直列回路の両端電圧をそれぞれ平滑化する。尚、
図1に示す例では、U相の直列回路、V相の直列回路、及びW相の直列回路に対応する3つの平滑コンデンサC1~C3を備える構成を図示しているが、U相の直列回路、V相の直列回路、及びW相の直列回路に共通する1つの平滑コンデンサのみを備える構成であってもよい。
【0025】
シャント抵抗Ruは、モータ13のU相コイル13uに流れる電流Iuを検出する。シャント抵抗Rvは、モータ13のV相コイル13vに流れる電流Ivを検出する。シャント抵抗Rwは、モータ13のW相コイル13wに流れる電流Iwを検出する。シャント抵抗Ru,Rv,Rwで検出された電流Iu,Iv,Iwは、検出信号DSとしてCPU25に入力される。
【0026】
モータリレー24は、正極側の駆動素子Q13と負極側の駆動素子Q23との接続点と、モータ13のV相コイル13vとW相コイル13wとの接続点との間に設けられ、CPU25の制御の下で開状態又は閉状態になる。モータリレー24は、例えば、W相にのみ異常が発生した場合に、W相の回路を遮断するために設けられる。尚、本実施形態では、説明を簡単にするために、W相の回路を遮断するモータリレー24を備える場合を例に挙げているが、他の相(u相、W相)にモータリレー24を設けてもよい。
【0027】
CPU25は、トルクセンサ11で検出された操舵トルク、車速センサ12で検出された車速、及びシャント抵抗Ru,Rv,Rwで検出された電流Iu,Iv,Iw(検出信号DS)に基づいて、モータ13に供給する電流を制御する。具体的に、CPU25は、トルクセンサ11で検出された操舵トルク、及び車速センサ12で検出された車速に基づいて、必要となる操舵補助トルクを発生させるためにモータ13に供給すべき電流を求める。
【0028】
一方、CPU25は、シャント抵抗Ru,Rv,Rwで検出された電流Iu,Iv,Iw(検出信号DS)と、求めた上記の電流との偏差から最終電流出力を算出する。そして、CPU25は、算出した最終電流出力を電圧に変換して、駆動部23に設けられた正極側の駆動素子Q11,Q12,Q13及び負極側の駆動素子Q21,Q22,Q23を制御する制御信号CSを出力する。このように、CPU25は、電流による所謂フィードバック制御を行う。
【0029】
また、CPU25は、異常が生じた場合には、電源リレー22を開状態にして、バッテリBTからモータ13に供給される電流を遮断する制御を行う。或いは、CPU25は、W相にのみ異常が発生した場合には、モータリレー24を開状態にして、W相の回路を遮断する制御を行う。
【0030】
CPU25は、以上の制御に加えて、モータ13及び制御ユニット14に設けられた部品のうち、モータ13に供給される電流が流れる経路に配置された部品の過熱保護を行う。ここで、過熱保護すべき部品は、例えば、制御ユニット14のチョークコイル21、電源リレー22、正極側の駆動素子Q11,Q12,Q13、負極側の駆動素子Q21,Q22,Q23、平滑コンデンサC1,C2,C3、及びモータリレー24、並びに、モータ13のU相コイル13u、V相コイル13v、W相コイル13wが挙げられる。
【0031】
また、
図1に示されていない過熱保護すべき部品としては、モータ13に内蔵された永久磁石、配線、配線同士を接続するターミナル等が挙げられる。尚、制御ユニット14のシャント抵抗Ru,Rv,Rwは、その素材と抵抗値によって上記の部品よりは耐熱性があるため、ここでは無視することにする。同様に、配線、接続ターミナルも無視することにする。
【0032】
図2は、第1実施形態におけるCPUが行う過熱保護に係る構成を示すブロック図である。尚、
図2においては、
図1に示す構成と同じ構成については同一の符号を付してある。
図2に示す通り、CPU25は、過熱保護に係る構成として、アシストトルク電流演算部25a(第1演算部)、過熱保護制限電流演算部25b(第2演算部)、及びモータ制御部25cを備える。
【0033】
アシストトルク電流演算部25aは、トルクセンサ11で検出された操舵トルクを用いて、必要となる操舵補助トルクを発生させるためにモータ13に供給すべき電流を求める。過熱保護制限電流演算部25bは、アシストトルク電流演算部25aで求められた電流と、温度サーミスタ27で検出された温度とに基づいて、過熱保護すべき部品の過熱保護を行いつつ操舵補助トルクを発生させるためにモータ13に実際に供給する電流(制限電流)を求める。
【0034】
尚、温度サーミスタ27は、ヒートシンク26に取り付けられており、ヒートシンク26の温度を検出する。これは、過熱保護すべき部品がヒートシンク26に近接又は取り付けられており、ヒートシンク26の温度が過熱保護すべき部品の雰囲気温度に及ぼす影響が大きいためである。尚、ヒートシンク26の熱時定数は、過熱保護すべき部品の熱時定数に比べて長く、また、ヒートシンク26の熱容量は、過熱保護すべき部品の熱容量に比べて大きいため、ヒートシンク26の温度が雰囲気温度に及ぼす影響が大きくなる。
【0035】
具体的に、過熱保護制限電流演算部25bは、過熱保護すべき部品毎に予め用意された過熱保護特性を保持しており、この過熱保護特性を用いて、モータ13に実際に供給する電流(制限電流)を求める。ここで、上記の過熱保護特性は、過熱保護すべき複数の部品のうちの一の部品の発熱が雰囲気温度に及ぼす影響と、過熱保護すべき複数の部品のうちの他の部品の発熱が前記雰囲気温度に及ぼす影響とを考慮して規定された、電流の大きさと過熱保護係数との関係を示すものである。尚、過熱保護係数は、電流漸減速度[A/s]と同義である。
【0036】
過熱保護制限電流演算部25bは、過熱保護すべき部品について用意された過熱保護特性を用いて、アシストトルク電流演算部25aで求められた電流が流れる場合の過熱保護係数を求める。そして、過熱保護制限電流演算部25bは、求めた過熱保護係数を用いてモータ13に実際に供給する電流を求める。
【0037】
ここで、過熱保護制限電流演算部25bは、過熱保護すべき部品が複数存在する場合には、それら部品の各々について、アシストトルク電流演算部25aで求められた電流が流れる場合の過熱保護係数を求める。そして、求めた過熱保護係数のうち最も大きなものを用いてモータ13に実際に供給する電流を求める。このようにするのは、過熱保護すべき部品の全てについて、温度が定格(上限)温度を超えないようにするためである。
【0038】
モータ制御部25cは、過熱保護制限電流演算部25bで求められた電流に基づいて、駆動部23に設けられた正極側の駆動素子Q11,Q12,Q13及び負極側の駆動素子Q21,Q22,Q23を制御する制御信号CSを生成する。具体的に、モータ制御部25cは、過熱保護制限電流演算部25bで求められた電流と、シャント抵抗Ru,Rv,Rwで検出された電流Iu,Iv,Iw(検出信号DS)との偏差から最終電流出力を算出する。そして、モータ制御部25cは、算出した最終電流出力を電圧に変換して、駆動部23に設けられた正極側の駆動素子Q11,Q12,Q13及び負極側の駆動素子Q21,Q22,Q23を制御する制御信号CSを出力する。
【0039】
〈過熱保護特性〉
次に、上述した過熱保護すべき部品毎に用意された過熱保護特性について説明する。一般的に、部品の過熱保護を行う場合には、その部品の温度がその部品の定格(上限)温度を超えないようにする必要がある。ここで、部品の電流に対する過熱保護のための特性は、通電時における部品の温度上昇特性に依存する。
【0040】
一般的に、発熱を開始した部品のt時間後の温度上昇値ΔT1[℃]は、以下の(1)式で表される。但し、以下の(1)式において、RW1は部品の熱抵抗[℃/W]であり、W1は部品の発熱量[W]であり、τ1は時定数[s]である。
【0041】
【0042】
ここで、部品の発熱量W1は、部品の抵抗R1[Ω]と、部品に流れる電流I1[A]を用いて以下の(2)式で表される。
【0043】
【0044】
上記(2)式を上記(1)式に代入すると、以下の(3)式が得られる。但し、以下の(3)式において、K1=RW1×R1である。
【0045】
【0046】
ここで、部品の周囲温度(雰囲気温度)が初期の周辺温度Ti[℃]から変化しないものとすると、部品の温度T1は、以下の(4)式で表される。
【0047】
【0048】
しかしながら、実際には、部品の雰囲気温度は、他の部品からの放熱によっても変化するため、実際の部品の温度T1は、以下の(5)式で表される。
【数5】
【0049】
但し、上記(5)式において、I2は他の部品に流れる電流[A]であり、K2は部品の周囲における熱抵抗[℃/W]であり、τ2は部品の周囲における時定数[s]である。例えば、部品の周囲が空気であれば、K2は空気の熱抵抗であり、τ2は空気の時定数である。これに対し、部品の周囲にヒートシンク26が配置されていれば、K2はヒートシンクの熱抵抗であり、τ2はヒートシンクの時定数である。つまり、上記(5)式の右辺第1項は、部品の自己発熱による温度上昇を示しており、右辺第2項は、他の部品の発熱によって生ずる雰囲気温度の上昇による部品の温度上昇を示している。
【0050】
ここで、理解を容易にするため、具体例を挙げて部品の温度上昇を説明する。いま、
図1に示す駆動部23の駆動素子(駆動素子Q11,Q12,Q13,Q21,Q22,Q23)のうち、U相の直列回路をなす駆動素子(駆動素子Q11,Q21)に着目する。
【0051】
駆動素子Q11,Q12,Q13,Q21,Q22,Q23は、ヒートシンク26に取り付けられている。このため、ヒートシンク26の温度(雰囲気温度)は、U相の直列回路をなす駆動素子(駆動素子Q11,Q21)の影響のみならず、V相及びW相の直列回路をなす駆動素子(駆動素子Q12,Q13,Q22,Q23)の影響を受ける。
【0052】
いま、駆動素子Q11,Q12,Q13,Q21,Q22,Q23は全て同一仕様であり、駆動素子Q11,Q12,Q13,Q21,Q22,Q23からヒートシンク26への放熱の際の熱抵抗も同一であるとする。また、ヒートシンク26の熱分布は均一であるとする。すると、U相の直列回路をなす駆動素子(駆動素子Q11,Q21)の温度Tfet_uは、以下の(6)式で表すことができる。
【0053】
【0054】
但し、上記(6)式において、IuはU相の直列回路をなす駆動素子(駆動素子Q11,Q21)を流れる電流である。IvはV相の直列回路をなす駆動素子(駆動素子Q12,Q22)を流れる電流である。IwはW相の直列回路をなす駆動素子(駆動素子Q13,Q23)を流れる電流である。
【0055】
上記(6)式の右辺第1項は、U相の直列回路をなす駆動素子(駆動素子Q11,Q21)の自己発熱による温度上昇を示している。右辺第2項は、U相の直列回路をなす駆動素子(駆動素子Q11,Q21)の発熱によるヒートシンク26の温度上昇を示している。右辺第3項は、V相の直列回路をなす駆動素子(駆動素子Q12,Q22)の発熱によるヒートシンク26の温度上昇を示している。右辺第4項は、W相の直列回路をなす駆動素子(駆動素子Q13,Q23)の発熱によるヒートシンク26の温度上昇を示している。
【0056】
上記(6)式の右辺第2~4項をまとめると、以下の(7)式で表される。
【0057】
【0058】
更に、上記(7)式は、以下の(8)式又は(9)式で表すことができる。
【0059】
【0060】
【0061】
尚、上記(8)式中のImは、以下の(10)式で表されるモータ電流である。また、上記(9)式中のKmは、定数である。
【0062】
【0063】
上記(8)式及び(9)式の右辺第1項は、U相の直列回路をなす駆動素子(駆動素子Q11,Q21)の自己発熱による温度上昇を示している。右辺第2項は、駆動素子Q11,Q12,Q13,Q21,Q22,Q23の発熱によるヒートシンク26の温度上昇を示している。
【0064】
ここで、ヒートシンク26は、駆動素子Q11,Q12,Q13,Q21,Q22,Q23よりも熱容量が大きく、時定数も長いため、τ1<τ2となる。また、U相の直列回路をなす駆動素子(駆動素子Q11,Q21)の温度上昇は、U相の直列回路をなす駆動素子(駆動素子Q11,Q21)の自己発熱によるものと、ヒートシンク26の温度上昇とに分けられる。ヒートシンク26の温度上昇は、駆動素子Q11,Q12,Q13,Q21,Q22,Q23の全ての発熱に依存するから、K1<K2×Kmとなる。
【0065】
以上から、U相の直列回路をなす駆動素子(駆動素子Q11,Q21)を流れる電流Iuが大きい場合には、駆動素子(駆動素子Q11,Q21)の温度Tfet_uは、自己発熱による温度上昇((9)式の右辺第1項)が支配的になる傾向になる。逆に、電流Iuが小さい場合には、駆動素子(駆動素子Q11,Q21)の温度Tfet_uは、雰囲気温度(ヒートシンク26の温度)((9)式の右辺第2項)が支配的になる傾向になる。
【0066】
以下、過熱保護すべき各部品の過熱保護特性について説明する。具体的に、以下では、駆動素子(MOSFET)、モータコイル(U相コイル13u、V相コイル13v、W相コイル13w)、電源リレー22及びモータリレー24、コンデンサ(平滑コンデンサC1,C2,C3)、チョークコイル21、モータ13に使用されている永久磁石の過熱保護特性について順に考察する。
【0067】
《駆動素子の過熱保護特性》
図3Aは、第1実施形態における駆動素子(MOSFET)の過熱保護特性の一例を示す図である。尚、
図3Aに示すグラフは、横軸に発熱源電流(駆動素子を流れる電流)[A]をとり、縦軸に過熱保護係数L1[A/s]をとってある。
図3Aに示す駆動素子の過熱保護特性31は、上記(9)式を用いて電流Iuが流れた場合の駆動素子の温度T
fet_uの変化具合を求め、駆動素子の温度が定格(上限)温度を超えないように、各発熱源電流についての過熱保護係数L1を推定することによって得たものである。
【0068】
図3Aに示す駆動素子の過熱保護特性31は、発熱源電流の大きさに応じて、4つの領域R11~R14に区分される。領域R11は、発熱源電流が極めて少ない領域(0~A1)である。この領域R11では、発熱源電流が少なくなるにつれて、過熱保護係数L1が直線的に増加する。例えば、発熱源電流が0のときの過熱保護係数L1はN1であり、発熱源電流がA1のときの過熱保護係数L1はN0である。領域R12は、発熱源電流が中間的な領域(A1~B1)である。この領域R12では、駆動素子の発熱とヒートシンク26等による放熱とがバランスするため、過熱保護係数L1は一定(N0)になる。
【0069】
領域R13は、発熱源電流が大きな領域(B1~C)である。この領域R13では、発熱源電流の変化に応じて過熱保護係数L1が緩やかに漸減する。領域R14は、発熱源電流が極めて大きな領域(Cより大)である。この領域R14では、発熱源電流の変化に応じて過熱保護係数L1が急に漸減する。尚、領域R13は、雰囲気温度(ヒートシンク26の温度)((9)式の右辺第2項)が支配的になる領域であり、領域R14は、駆動素子の自己発熱による温度上昇((9)式の右辺第1項)が支配的になる領域である。これら領域R13,R14は、駆動素子の過熱保護が必要になる領域である。
【0070】
ここで、駆動素子に流れる電流がB1以下である場合には、駆動素子の過熱保護は必要ない。このため、CPU25のアシストトルク電流演算部25aで求められた電流が上記のB1以下である場合には、過熱保護制限電流演算部25bは、アシストトルク電流演算部25aで求められた電流を、モータ13に実際に供給する電流とする。
【0071】
これに対し、駆動素子に流れる電流がB1よりも大である場合には、駆動素子の過熱保護が必要になる。このため、CPU25のアシストトルク電流演算部25aで求められた電流が上記のB1よりも大きい場合には、過熱保護制限電流演算部25bは、
図3Aに示されている過熱保護特性31を用いて、アシストトルク電流演算部25aで求められた電流に応じた過熱保護係数L1を求める。
【0072】
アシストトルク電流演算部25aで求められた電流が
図3A中のDであったとすると、過熱保護制限電流演算部25bは、過熱保護係数L1として、N11を求める。そして、過熱保護制限電流演算部25bは、アシストトルク電流演算部25aで求められた電流を、1秒間にN11アンペアずつ減少させることで電流制限を行う。
【0073】
例えば、
図3A中のB1が20[A]であり、Dが50[A]であり、N11が3[A/s]であった場合を考える。この場合には、過熱保護制限電流演算部25bは、アシストトルク電流演算部25aで求められた電流(50[A])を、1秒間に3[A]の割合で減少させてゆく。すると、10秒後には20[A](
図3A中のB1)に達することになるため、過熱保護制限電流演算部25bは、一旦、電流制限を停止する。
【0074】
尚、領域R11における過熱保護特性31の特性(発熱源電流が少なくなるにつれて、過熱保護係数L1が直線的に増加する特性)は、運転者がハンドル操作を終了した場合に、放熱性を考慮して、電流制限値を初期値に戻すために設けられる。尚、電流制限値の初期値は、例えば、アシストするのに必要な電流量の最大値(定格電流)の1.5倍の値に設定される。
【0075】
《モータコイルの過熱保護特性》
次に、モータコイル(U相コイル13u、V相コイル13v、W相コイル13w)の過熱保護特性について考察する。モータコイルの温度は、流れる電流が大きい場合にはモータコイル自体の発熱が支配的になり、流れる電流が小さい場合には雰囲気温度が支配的になる。このため、モータコイルの過熱保護特性は、
図3Aに示す駆動素子の過熱保護特性31と同様になる。但し、モータコイルの過熱保護特性における各値(A1,B1,C,N1)及び漸減曲線は、駆動素子におけるものとは異なったものになる。
【0076】
《電源リレー及びモータリレーの過熱保護特性》
次いで、電源リレー22、モータリレー24の過熱保護特性について考察する。これらリレーが機械的なスイッチ機構を有する構造であれば、スイッチ機構における電位差は殆ど生じないので、過熱保護は無視できる。しかしながら、FET、IGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)等を用いた電子リレーであれば、
図3Aに示す駆動素子の過熱保護特性31と同様のものを使用することができる。
【0077】
《コンデンサの過熱保護特性》
図3Bは、第1実施形態におけるコンデンサの過熱保護特性の一例を示す図である。尚、
図3Bに示すグラフは、横軸に発熱源電流(コンデンサを流れる電流)[A]をとり、縦軸に過熱保護係数L2[A/s]をとってある。
図3Bに示すコンデンサ(平滑コンデンサC1,C2,C3)の過熱保護特性32は、発熱源電流の大きさに応じて、3つの領域R21~R23に区分される。領域R21は、発熱源電流が極めて少ない領域(0~A2)であり、領域R22は、発熱源電流が中間的な領域(A2~B2)であり、領域R23は、発熱源電流が大きな領域(B2よりも大)である。
【0078】
平滑コンデンサC1,C2,C3は、駆動素子Q11,Q12,Q13,Q21,Q22,Q23のスイッチングによる生ずるリップルを除去するために、駆動素子Q11,Q12,Q13,Q21,Q22,Q23の近傍に配置される。このため、平滑コンデンサC1,C2,C3の温度は、駆動素子Q11,Q12,Q13,Q21,Q22,Q23の温度とヒートシンク26の温度とが支配的になり、とりわけヒートシンク26の温度と同程度になる。
【0079】
よって、平滑コンデンサC1,C2,C3の温度は、流れる電流の大きさに拘わらず、雰囲気温度((5)式の第2項)が支配的になり、平滑コンデンサC1,C2,C3の過熱保護特性は、
図3Bに示す過熱保護特性32のようになる。ここで、領域R23における過熱保護特性32は、1本の2次曲線で表したものになる。尚、発熱源電流は同一相内の電流(駆動素子に流れる電流)を利用することができる。
【0080】
《チョークコイルの過熱保護特性》
図3Cは、第1実施形態におけるチョークコイルの過熱保護特性の一例を示す図である。尚、
図3Cに示すグラフは、横軸に発熱源電流(チョークコイルを流れる電流)[A]をとり、縦軸に過熱保護係数L3[A/s]をとってある。
図3Cに示すチョークコイル21の過熱保護特性33は、発熱源電流の大きさに応じて、3つの領域R31~R33に区分される。領域R31は、発熱源電流が極めて少ない領域(0~A3)であり、領域R32は、発熱源電流が中間的な領域(A3~B3)であり、領域R33は、発熱源電流が大きな領域(B3よりも大)である。
【0081】
チョークコイル21の温度は、平滑コンデンサC1,C2,C3程ではないものの、ヒートシンク26の温度が支配的になる。このため、
図3Cに示すチョークコイル21の過熱保護特性33は、
図3Bに示す過熱保護特性32と同様なものになる。ここで、チョークコイル21が駆動素子及びモータコイルから離れた位置に配置されているような場合であれば、チョークコイル21の温度は、チョークコイル自身に流れる電流ではなく、下流の各部品に流れる全電流に依存する。或いは、CPU25から出力される制御信号CSによって制御される相電流に依存する。
【0082】
《モータに使用されている永久磁石の過熱保護特性》
続いて、モータ13に使用されている永久磁石(図示省略)の過熱保護特性について考察する。永久磁石には自己発熱がないため、永久磁石の温度は、雰囲気温度によって決定される。また、モータ13に流れる電流は、チョークコイル21と同様に、相電流に依存する。このため、モータ13に使用されている永久磁石の過熱保護特性は、
図3Cに示す過熱保護特性33と同様なものになる。
【0083】
但し、モータ13に使用されている永久磁石の過熱保護特性における各値(A3,B3,N2)及び2次曲線は、チョークコイル21におけるものとは異なってもよい。永久磁石は、発熱の多いモータコイルの近傍に配置されているため、場合によっては各相電流に依存する可能性がある。また、モータ13の全体に温度が均等に分布している場合には、モータ13を流れる全電流に依存する可能性もある。そのため、モータ13に使用されている永久磁石の過熱保護特性として、各相電流に依存するものと、全電流に依存するものの2種類の過熱保護特性を保有することもできる。
【0084】
以上の通り、本実施形態では、アシストトルク電流演算部25aが、必要となる操舵補助トルクを発生させるためにモータ13に供給すべき電流を求めている。そして、過熱保護制限電流演算部25bが、過熱保護すべき部品毎に予め用意された過熱保護特性を用いて、アシストトルク電流演算部25aで求められた電流が流れる場合の過熱保護係数を求め、モータ13に流れる電流を制限するようにしている。ここで、上記の過熱保護特性は、過熱保護すべき複数の部品のうちの一の部品の発熱が雰囲気温度に及ぼす影響と、過熱保護すべき複数の部品のうちの他の部品の発熱が前記雰囲気温度に及ぼす影響とを考慮して規定された、電流の大きさと過熱保護係数との関係を示すものである。
【0085】
このように、本実施形態では、実際の雰囲気温度又は実際の雰囲気温度に近いと推定される雰囲気温度を考慮して規定された過熱保護特性を用いて過熱保護係数を求めて、モータ13に流れる電流を制限するようにしている。このため、本実施形態では、操舵補助力の低減を防止しつつ、より最適な熱対策を行うことができる。
【0086】
また、本実施形態では、過熱保護制限電流演算部25bが、過熱保護すべき部品が複数存在する場合には、それら部品の各々について、アシストトルク電流演算部25aで求められた電流が流れる場合の過熱保護係数を求める。そして、求めた過熱保護係数のうち最も大きなものを用いてモータ13に実際に供給する電流を求めるようにしている。これにより、制御の継続性が図れ、操舵力アシストを有効的に付加できる。
【0087】
〔第2実施形態〕
本実施形態による電動パワーステアリング装置の構成は、概ね、
図1に示す電動パワーステアリング装置1の構成と同様である。但し、本実施形態では、過熱保護制限電流演算部25bで用いられる過熱保護特性が、モータ13の回転状況に応じて複数種類用意されている点において、第1実施形態とは異なる。
【0088】
具体的に、本実施形態において、過熱保護制限電流演算部25bは、モータ13が停止している場合の過熱保護特性(第1過熱保護特性)と、モータ13が回転している場合の過熱保護特性(第2過熱保護特性)とを保持している。そして、過熱保護制限電流演算部25bは、モータ13が停止しているか否かに応じて前者の過熱保護特性又は後者の過熱保護特性を用いて、アシストトルク電流演算部25aで求められた電流が流れる場合の過熱保護係数を求める。
【0089】
第1実施形態で説明した(9)式は、ある角度でモータ13が停止したと仮定した場合の式である。モータ13が停止した場合には、停止した相に集中して電流が流れることになる。これに対し、モータ13が回転している場合には、電流が1相に集中することはなく、各相に均等に電流が流れることになる。
【0090】
このため、モータ13が停止しているか回転しているかに応じて、前述した(9)式の右辺第2項の定数Kmを、以下の定数Km1,Km2に読み替える必要がある。
・モータ13が停止している場合
Km1=(1/√2)
・モータ13が回転している場合
Km2=(1/√2)*(2/π)
【0091】
図4Aは、第2実施形態における駆動素子(MOSFET)の過熱保護特性の一例を示す図である。尚、
図4Aに示すグラフは、
図3Aに示すグラフと同様に、横軸に発熱源電流(駆動素子を流れる電流)[A]をとり、縦軸に過熱保護係数L1[A/s]をとってある。
図4Aに示す過熱保護特性31aは、モータ13が回転している場合の駆動素子の過熱保護特性であり、過熱保護特性31は、モータ13が停止している場合の駆動素子の過熱保護特性である。尚、
図4Aに示す過熱保護特性31は、
図3Aに示す過熱保護特性31と同じものである。
【0092】
図4Aに示す通り、モータ13が回転している場合の駆動素子の過熱保護特性31aは、モータ13が停止している場合の駆動素子の過熱保護特性31よりも緩やかな変化を示すことが分かる。これは、駆動素子の温度上昇が少ないためである。つまり、モータ13が回転している場合には、モータ13が停止している場合に比べて、例え、駆動素子(例えば、駆動素子Q11,Q21)の自己発熱による温度上昇がほぼ同じであっても、雰囲気温度の上昇に寄与する他の駆動素子(例えば、駆動素子Q12,Q13,Q22,Q23)に流れる電流が少なくなるため、駆動素子(例えば、駆動素子Q11,Q21)の温度上昇が少なくなる。
【0093】
尚、
図4Aに示す例では、領域R12の上限値(領域R13の下限値)がB1からBaに変化している。また、領域R13の上限値(領域R14の下限値)がCからCaに変化している。
【0094】
図4Bは、第2実施形態におけるコンデンサの過熱保護特性の一例を示す図である。尚、
図4Bに示すグラフは、
図3Bに示すグラフと同様に、横軸に発熱源電流(コンデンサを流れる電流)[A]をとり、縦軸に過熱保護係数L2[A/s]をとってある。
図4Bに示す過熱保護特性32aは、モータ13が回転している場合のコンデンサの過熱保護特性であり、過熱保護特性32は、モータ13が停止している場合のコンデンサの過熱保護特性である。尚、
図4Bに示す過熱保護特性32は、
図3Bに示す過熱保護特性32と同じものである。
【0095】
図4Bに示す通り、モータ13が回転している場合のコンデンサの過熱保護特性32aは、モータ13が停止している場合のコンデンサの過熱保護特性32よりも緩やかな変化を示すことが分かる。これは、
図4Aを用いて説明した理由と同様の理由による。尚、
図4Bに示す例では、領域R22の上限値(領域R23の下限値)がB2からBbに変化している。
【0096】
図4Cは、第2実施形態におけるチョークコイルの過熱保護特性の一例を示す図である。尚、
図4Cに示すグラフは、
図3Cに示すグラフと同様に、横軸に発熱源電流(チョークコイルを流れる電流)[A]をとり、縦軸に過熱保護係数L3[A/s]をとってある。
図4Cに示す過熱保護特性33aは、モータ13が回転している場合のチョークコイルの過熱保護特性であり、過熱保護特性33は、モータ13が停止している場合のチョークコイルの過熱保護特性である。尚、
図4Cに示す過熱保護特性33は、
図3Cに示す過熱保護特性33と同じものである。
【0097】
図4Cに示す通り、モータ13が回転している場合のチョークコイルの過熱保護特性33aは、モータ13が停止している場合のチョークコイルの過熱保護特性33よりも緩やかな変化を示すことが分かる。これは、
図4Aを用いて説明した理由と同様の理由による。尚、
図4Cに示す例では、領域R32の上限値(領域R33の下限値)がB3からBcに変化している。
【0098】
ここで、チョークコイル21、コンデンサ(平滑コンデンサC1~C3)、永久磁石のように、自己発熱の少ない部品については、自己発熱の多い部品の熱的影響がある場合には、
図4B中に示すモータ13が回転している場合の過熱保護特性32aを用いるとよい。これに対し、自己発熱の多い部品の熱的影響が少ない場合には、モータ13が回転している場合と、モータ13が停止している場合とで区別する必要性はないため、装置中における部品の配置、熱分散状況に応じて過熱保護特性を決定すればよい。
【0099】
以上の通り、本実施形態では、過熱保護制限電流演算部25bに、モータ13が停止している場合の過熱保護特性と、モータ13が回転している場合の過熱保護特性とを用意している。そして、モータ13が停止しているか否かに応じて前者の過熱保護特性又は後者の過熱保護特性を用いて、アシストトルク電流演算部25aで求められた電流が流れる場合の過熱保護係数を求めるようにしている。このため、第1実施形態よりもきめ細かな過熱保護対策を施すことができ、過熱保護をより適切に設定することでできる。
【0100】
以上、実施形態について説明したが、本開示は、上記の実施形態に限定されるものではなく、本開示の趣旨を逸脱しない範囲で自由に変更が可能である。例えば、上述した実施形態では、過熱保護すべき部品の過熱保護特性を数式で表していたが、マップ又はテーブルとしてCPU25に保有して使用してもよい。
【0101】
また、上述した実施形態では、モータ13が3相のブラシレスモータである場合を例に挙げて説明したが、モータ13は、3相のブラシレスモータに制限されることはない。例えば、ブラシ付きモータであってもよく、4相以上のモータであってもよい。
【0102】
また、上述した実施形態では、モータ13に供給される電流が流れる経路に配置された過熱保護すべき部品として、例えば、制御ユニット14のチョークコイル21、電源リレー22、正極側の駆動素子Q11,Q12,Q13、負極側の駆動素子Q21,Q22,Q23、平滑コンデンサC1,C2,C3、及びモータリレー24、並びに、モータ13のU相コイル13u、V相コイル13v、W相コイル13wを挙げた。しかしながら、過熱保護すべき部品はこれら以外の部品であっても良い。
【0103】
また、上述した実施形態では、正極側の駆動素子Q11,Q12,Q13及び負極側の駆動素子Q21,Q22,Q23が取り付けられているヒートシンク26の温度を雰囲気温度としていた。しかしながら、ヒートシンク26の温度以外の温度を雰囲気温度としてもよい。例えば、過熱保護すべき部品が筐体に収容されている場合には、筐体の温度を雰囲気温度としてもよい。或いは、過熱保護すべき部品が基板に搭載されている場合には、基板の温度を雰囲気温度としてもよい。
【0104】
また、上述した実施形態では、電動パワーステアリング装置1に設けられた部品の過熱保護を行う例について説明した。しかしながら、本開示は、電動パワーステアリング装置1に設けられた部品の過熱保護に限られることはなく、モータに供給される電流が流れる経路に配置された部品の過熱保護を行う必要がある場合について適用することが可能である。
【0105】
尚、上述したモータ制御装置としての制御ユニット14及び電動パワーステアリング装置1が備える各構成は、内部に、コンピュータシステムを有している。そして、上述した制御ユニット14及び電動パワーステアリング装置1が備える各構成の機能を実現するためのプログラムをコンピュータ読み取り可能な記録媒体に記録して、この記録媒体に記録されたプログラムをコンピュータシステムに読み込ませ、実行することにより上述した制御ユニット14及び電動パワーステアリング装置1が備える各構成における処理を行ってもよい。ここで、「記録媒体に記録されたプログラムをコンピュータシステムに読み込ませ、実行する」とは、コンピュータシステムにプログラムをインストールすることを含む。ここでいう「コンピュータシステム」とは、OS及び周辺機器等のハードウェアを含むものとする。
【0106】
また、「コンピュータシステム」は、インターネット又はWAN、LAN、専用回線等の通信回線を含むネットワークを介して接続された複数のコンピュータ装置を含んでもよい。また、「コンピュータ読み取り可能な記録媒体」とは、フレキシブルディスク、光磁気ディスク、ROM、CD-ROM等の可搬媒体、コンピュータシステムに内蔵されるハードディスク等の記憶装置のことをいう。このように、プログラムを記憶した記録媒体は、CD-ROM等の非一過性の記録媒体であってもよい。
【0107】
また、記録媒体には、当該プログラムを配信するために配信サーバからアクセス可能な内部又は外部に設けられた記録媒体も含まれる。尚、プログラムを複数に分割し、それぞれ異なるタイミングでダウンロードした後に制御ユニット14及び電動パワーステアリング装置1が備える各構成で合体される構成であってもよく、また、分割されたプログラムのそれぞれを配信する配信サーバが異なっていてもよい。さらに「コンピュータ読み取り可能な記録媒体」とは、ネットワークを介してプログラムが送信された場合のサーバ又はクライアントとなるコンピュータシステム内部の揮発性メモリ(RAM)のように、一定時間プログラムを保持しているものも含むものとする。また、上記プログラムは、上述した機能の一部を実現するためのものであってもよい。さらに、上述した機能をコンピュータシステムに既に記録されているプログラムとの組み合わせで実現できるもの、いわゆる差分ファイル(差分プログラム)であってもよい。
【符号の説明】
【0108】
1…電動パワーステアリング装置、11…トルクセンサ、13…モータ、13u…U相コイル、13v…V相コイル、13w…W相コイル、14…制御ユニット、21…チョークコイル、22…電源リレー、24…モータリレー、25a…アシストトルク電流演算部、25b…過熱保護制限電流演算部、31~33…過熱保護特性、31a~33a…過熱保護特性、C1~C3…平滑コンデンサ、Q11~Q13…駆動素子、Q21~Q23…駆動素子