(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-02-14
(45)【発行日】2025-02-25
(54)【発明の名称】回転機の制御装置及び電動パワーステアリング装置
(51)【国際特許分類】
H02P 21/22 20160101AFI20250217BHJP
H02P 21/05 20060101ALI20250217BHJP
【FI】
H02P21/22
H02P21/05
(21)【出願番号】P 2023555944
(86)(22)【出願日】2021-10-27
(86)【国際出願番号】 JP2021039617
(87)【国際公開番号】W WO2023073823
(87)【国際公開日】2023-05-04
【審査請求日】2023-10-30
(73)【特許権者】
【識別番号】324003048
【氏名又は名称】三菱電機モビリティ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100161207
【氏名又は名称】西澤 和純
(74)【代理人】
【識別番号】100206081
【氏名又は名称】片岡 央
(74)【代理人】
【識別番号】100188673
【氏名又は名称】成田 友紀
(74)【代理人】
【識別番号】100188891
【氏名又は名称】丹野 拓人
(72)【発明者】
【氏名】森 辰也
(72)【発明者】
【氏名】藤本 千明
(72)【発明者】
【氏名】石川 光亮
【審査官】谿花 正由輝
(56)【参考文献】
【文献】特開2021-141629(JP,A)
【文献】特開2020-078108(JP,A)
【文献】特開2008-141868(JP,A)
【文献】特開2021-097526(JP,A)
【文献】特開2020-184855(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02P 21/22
H02P 21/05
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転機に電圧を印加するインバータと、
前記インバータに設けられ、前記回転機を流れる電流である回転機電流を検出する電流検出器と、
前記回転機の制御指令に基づいて、前記インバータに対して前記電圧の指令値である電圧指令値を出力する制御器と、
を備え、
前記制御器は、
前記制御指令に基づいてトルク電流指令値を演算するトルク電流指令値生成器と、
弱め界磁電流指令値を算出する弱め界磁電流指令値生成器と、
前記トルク電流指令値と前記弱め界磁電流指令値とに基づき前記電圧指令値を演算する電圧指令値演算器と、
を有し、
前記弱め界磁電流指令値生成器は、前記インバータの変調率を、前記電流検出器が少なくとも二相の前記回転機電流の検出が可能な第1閾値に制限する第1弱め界磁電流指令値を前記弱め界磁電流指令値として出力する、
回転機の制御装置。
【請求項2】
前記インバータは、上アームに位置するスイッチング素子及び下アームに位置するスイッチング素子を備え、
前記電流検出器は、前記上アームに位置するスイッチング素子若しくは前記下アームに位置するスイッチング素子に直列に、又は直流母線に直列に設けられる、
請求項1記載の回転機の制御装置。
【請求項3】
前記電流検出器は、前記インバータの各相の前記下アームに位置するスイッチング素子に直列に設けられて三相の前記回転機電流を検出するものであって、
前記第1閾値は、前記電流検出器が三相の前記回転機電流の検出が可能な前記インバータの変調率に設定されている、
請求項2記載の回転機の制御装置。
【請求項4】
前記弱め界磁電流指令値生成器は、前記第1弱め界磁電流指令値を、前記回転機の回転速度及び前記インバータの直流母線電圧に基づいて算出する、請求項1から請求項3の何れか一項に記載の回転機の制御装置。
【請求項5】
前記弱め界磁電流指令値生成器は、前記第1弱め界磁電流指令値を、前記回転機電流に応じた前記電圧指令値から得られる変調率に基づいて算出する、請求項1から請求項4の何れか一項に記載の回転機の制御装置。
【請求項6】
前記弱め界磁電流指令値生成器は、前記回転機の制御装置において、少なくとも1か所に過熱保護制限がかかったときに前記第1弱め界磁電流指令値を制限する、請求項1から請求項5の何れか一項に記載の回転機の制御装置。
【請求項7】
前記弱め界磁電流指令値生成器は、前記回転機の制御装置の少なくとも1か所の故障を検知したときに前記第1弱め界磁電流指令値を制限する、請求項1から請求項6の何れか一項に記載の回転機の制御装置。
【請求項8】
前記弱め界磁電流指令値生成器は、前記回転機の回転速度が閾値より低いときに前記第1弱め界磁電流指令値を制限する、請求項1から請求項7の何れか一項に記載の回転機の制御装置。
【請求項9】
前記制御器は、前記第1弱め界磁電流指令値が制限値に到達したら、前記インバータの変調率を正弦波PWM変調範囲に制限可能な第2閾値に制限する第2弱め界磁電流指令値を出力する、請求項1から請求項8の何れか一項に記載の回転機の制御装置。
【請求項10】
前記弱め界磁電流指令値生成器は、前記トルク電流指令値と、前記回転機又は前記インバータの定格電流とに基づいて前記第1弱め界磁電流指令値を制限するとともに、制限された前記第1弱め界磁電流指令値と前記第2弱め界磁電流指令値のうちの小さい方を、前記弱め界磁電流指令値として出力する、請求項9記載の回転機の制御装置。
【請求項11】
前記弱め界磁電流指令値生成器は、前記第2弱め界磁電流指令値を、前記回転機の回転速度及び前記インバータの直流母線電圧に基づいて算出する、請求項9又は請求項10記載の回転機の制御装置。
【請求項12】
前記弱め界磁電流指令値生成器は、前記第2弱め界磁電流指令値を、前記回転機電流に応じた前記電圧指令値から得られる変調率に基づいて算出する、請求項9又は請求項10記載の回転機の制御装置。
【請求項13】
前記弱め界磁電流指令値生成器は、前記回転機の制御装置において、少なくとも1か所に過熱保護制限がかかったときに前記第2弱め界磁電流指令値を制限する、請求項9から請求項12の何れか一項に記載の回転機の制御装置。
【請求項14】
前記弱め界磁電流指令値生成器は、前記回転機の制御装置の少なくとも1か所の故障を検知したときに前記第2弱め界磁電流指令値を制限する、請求項9から請求項13の何れか一項に記載の回転機の制御装置。
【請求項15】
前記弱め界磁電流指令値生成器は、前記回転機の回転速度が閾値より低いときに前記第2弱め界磁電流指令値を制限する、請求項9から請求項14の何れか一項に記載の回転機の制御装置。
【請求項16】
ステアリングの操舵トルクを検出するトルク検出器と、
前記ステアリングに対して操舵補助トルクを発生させる回転機と、
前記トルク検出器が検出した前記操舵トルクに応じて、前記回転機の駆動を制御する請求項1から請求項15の何れか一項に記載の回転機の制御装置と、
を備える電動パワーステアリング装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、回転機の制御装置及び電動パワーステアリング装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、回転機の運転範囲(速度-トルク特性の範囲)を拡大する技術として、弱め界磁制御が知られている。この弱め開示制御は、端的にいうと、界磁の力を弱めて回転機に流れる電流を確保することで、速度上昇に伴うトルクの低下幅を抑制するものである。
【0003】
以下の特許文献1には、従来の弱め界磁制御の一例が開示されている。この弱め界磁制御は、変調率指令値が最大変調率より小さい値を採るときに開始され、弱め界磁制御が開始されるタイミングと、正弦波PWM(Pulse Width Modulation:パルス幅変調)パターンによる非同期PWM制御と5パルス制御との移行タイミングとを異ならせるものである。このような制御を行うことで、非同期PWM制御と5パルス制御とがチャタリングすることをなくすようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、上述した特許文献1に記載された技術では、非同期PWM制御と5パルス制御等の同期PWM制御とを安定に切り替えるための弱め界磁制御が開始されるタイミングについての言及がなされている。しかしながら、上述した特許文献1に記載された技術では、電流検出器としてのシャント抵抗を備えるインバータにおける電流検出方式を採用した場合において、正しく電流を検出するために必要な弱め界磁制御のタイミングについて何ら言及されていない。
【0006】
このため、上述した特許文献1に記載された技術を、シャント抵抗を備えるインバータを用いた回転機の制御装置に搭載しても、回転機に流れる電流を正しく検出できない。このように、回転機に流れる電流を正しく検出できないと、電流の検出誤差に起因して回転機の出力トルクの精度が悪化し、振動・騒音が大きくなってしまうという問題がある。
【0007】
本開示は上記事情に鑑みてなされたものであり、回転機に流れる電流を正しく検出することで、回転機の出力トルクの精度向上及び振動・騒音の低減を図ることができる回転機の制御装置及び電動パワーステアリング装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本開示の一態様による回転機の制御装置は、回転機に電圧を印加するインバータと、前記インバータに設けられ、前記回転機を流れる電流である回転機電流を検出する電流検出器と、前記回転機の制御指令に基づいて、前記インバータに対して前記電圧の指令値である電圧指令値を出力する制御器と、を備え、前記制御器は、前記制御指令に基づいてトルク電流指令値を演算するトルク電流指令値生成器と、弱め界磁電流指令値を算出する弱め界磁電流指令値生成器と、前記トルク電流指令値と前記弱め界磁電流指令値とに基づき前記電圧指令値を演算する電圧指令値演算器と、を有し、前記弱め界磁電流指令値生成器は、前記インバータの変調率を、前記電流検出器が少なくとも二相の前記回転機電流の検出が可能な第1閾値に制限する第1弱め界磁電流指令値を前記弱め界磁電流指令値として出力する。
【0009】
また、本開示の一態様による電動パワーステアリング装置は、ステアリングの操舵トルクを検出するトルク検出器と、前記ステアリングに対して操舵補助トルクを発生させる回転機と、前記トルク検出器が検出した前記操舵トルクに応じて、前記回転機の駆動を制御する上記の回転機の制御装置と、を備える。
【発明の効果】
【0010】
本開示によれば、インバータに設けられた電流検出器を用いて二相の回転機電流を正しく検出することでき、これにより回転機の出力トルクの精度向上及び振動・騒音の低減を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本開示の実施の形態1による回転機の制御装置の要部構成を示すブロック図である。
【
図2】実施の形態1における電流指令値演算器の内部構成を示すブロック図である。
【
図3】実施の形態1におけるスイッチング信号の生成原理を説明するための図である。
【
図4】実施の形態1における両端電圧の変化の一例を示す図である。
【
図5】実施の形態1において、修正電圧指令が変化した場合に生成されるスイッチング信号の一例を示す図である。
【
図6】実施の形態1において、修正電圧生成器で行われる処理を示すフローチャートである。
【
図7】実施の形態1において、電圧指令値vu,vv,vw及び修正電圧指令値vu′,vv′,vw′の波形の一例を示す図である。
【
図8】実施の形態1において、電圧指令値vu,vv,vw及び修正電圧指令値vu′,vv′,vw′の波形の他の例を示す図である。
【
図9】本開示の実施の形態2による回転機の制御装置の要部構成を示すブロック図である。
【
図10】本開示の実施の形態3による回転機の制御装置の要部構成を示すブロック図である。
【
図11】実施の形態3における電流指令値演算器の内部構成を示すブロック図である。
【
図12】本開示の実施の形態4による回転機の制御装置の要部構成を示すブロック図である。
【
図13】実施の形態4における電流指令値演算器の内部構成を示すブロック図である。
【
図14】実施の形態4において、第1弱め界磁電流指令値上下限設定器で行われる処理の物理的意味を説明する図である。
【
図15】実施の形態4における電流指令値演算器の動作を説明するための図である。
【
図16】本開示の実施の形態5による回転機の制御装置の要部構成を示すブロック図である。
【
図17】実施の形態5において、電流検出器において電流を判別するために用いられるテーブルの一例を示す図である。
【
図18】実施の形態5において、修正電圧生成器で行われる処理を示すフローチャートである。
【
図19】実施の形態5において、電圧指令値vu,vv,vw及び修正電圧指令値vu′,vv′,vw′の波形の一例を示す図である。
【
図20】実施の形態5において、制御器から出力されるスイッチング信号の一例を示す図である。
【
図21】実施の形態5において、電圧指令値vu,vv,vw及び修正電圧指令値vu′,vv′,vw′の波形の他の例を示す図である。
【
図22】本開示の実施の形態6による回転機の制御装置及び電動パワーステアリング装置の要部構成を示すブロック図である。
【
図23】実施の形態6における回転機のトルク-回転数特性の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面を参照して、本開示の実施の形態による回転機の制御装置及び電動パワーステアリング装置について詳細に説明する。
【0013】
〔実施の形態1〕
図1は、本開示の実施の形態1による回転機の制御装置の要部構成を示すブロック図である。
図1に示す通り、本実施の形態による回転機の制御装置1は、回転子位置検出器11、インバータ12、及び制御器13を備えており、外部から入力される制御指令としてのトルク指令T_refに基づいて、回転機10を制御する。
【0014】
ここで、回転機の制御装置1の制御対象である回転機10は、三相の巻線U,V,Wを有する三相交流回転機である。この回転機10は、例えば、永久磁石同期回転機、巻線界磁同期回転機、誘導回転機、シンクロナスリラクタンスモータの何れであってもよい。
【0015】
回転子位置検出器11は、レゾルバ、エンコーダ、MR(磁気抵抗)センサ等を備えており、これらを用いて回転機10の回転子の回転子位置θを検出する。尚、本実施の形態では、回転子位置検出器11を用いて回転機10の回転子位置θを検出する例について説明するが、回転子位置検出器11を用いることなく回転機10の回転子位置θを推定するようにしてもよい。つまり、本開示において、回転機10の回転子位置θの情報は必要であるが、回転子位置検出器11を備えることは必須ではない。
【0016】
インバータ12は、制御器13の制御の下で直流電源BTから供給される直流電力を交流電力に変換し、変換した交流電力を回転機10に供給する。尚、直流電源BTは、バッテリー、DC-DCコンバータ、ダイオード整流器、PWM整流器等の直流電力を供給するために必要な全ての機器を含む。直流電源BTの出力電圧(直流母線電圧)は、Vdcであるとする。
【0017】
インバータ12は、上アームスイッチング素子Sup,Svp,Swp、下アームスイッチング素子Sun,Svn,Swn、及びシャント抵抗Ru,Rv,Rw(電流検出器)を備える。上アームスイッチング素子Sup,Svp,Swpは、直流電源BTの正極に接続されている。下アームスイッチング素子Sun,Svn,Swnは、上アームスイッチング素子Sup,Svp,Swpにそれぞれ接続されているとともに、シャント抵抗Ru,Rv,Rwをそれぞれ介して直流電源BTの負極に接続されている。
【0018】
ここで、上アームスイッチング素子Sup、下アームスイッチング素子Sun、及びシャント抵抗RuによってU相の直列回路が形成されている。このU相の直列回路では、上アームスイッチング素子Supと下アームスイッチング素子Sunとの接続点が、回転機10の巻線Uに接続されている。
【0019】
また、上アームスイッチング素子Svp、下アームスイッチング素子Svn、及びシャント抵抗RvによってV相の直列回路が形成されている。このV相の直列回路では、上アームスイッチング素子Svpと下アームスイッチング素子Svnとの接続点が、回転機10の巻線Vに接続されている。
【0020】
また、上アームスイッチング素子Swp、下アームスイッチング素子Swn、及びシャント抵抗RwによってW相の直列回路が形成されている。このW相の直列回路では、上アームスイッチング素子Swpと下アームスイッチング素子Swnとの接続点が、回転機10の巻線Wに接続されている。
【0021】
上アームスイッチング素子Sup,Svp,Swp及び下アームスイッチング素子Sun,Svn,Swnとしては、例えば、IGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)、バイポーラトランジスタ、MOSFET(Metal-Oxide-Semiconductor Field Effect Transistor)等の半導体スイッチを用いることができる。
【0022】
上アームスイッチング素子Sup,Svp,Swpには、制御器13から出力されるスイッチング信号Gup,Gvp,Gwpがそれぞれ入力される。下アームスイッチング素子Sun,Svn,Swnには、制御器13から出力されるスイッチング信号Gun,Gvn,Gwnがそれぞれ入力される。上アームスイッチング素子Sup,Svp,Swp及び下アームスイッチング素子Sun,Svn,Swnは、制御器13から出力されるスイッチング信号Gup,Gvp,Gwp,Gun,Gvn,Gwnによって、オン状態又はオフ状態になる。以下、スイッチング信号Gup,Gvp,Gwp,Gun,Gvn,Gwnを総称する場合には、「スイッチング信号Gup~Gwn」と表記することがある。
【0023】
例えば、スイッチング信号Gupが「オン指令(=1)」である場合に上アームスイッチング素子Supがオン状態になり、スイッチング信号Gupが「オフ指令(=0)」である場合に上アームスイッチング素子Supがオフ状態になる。他のスイッチング素子(上アームスイッチング素子Svp,Swp及び下アームスイッチング素子Sun,Svn,Swn)についても同様である。このようにして、インバータ12は、直流電源BTから供給される直流電力から、回転機10に供給する交流電力を生成する。
【0024】
シャント抵抗Ruは、回転機10の巻線Uに流れる電流(回転機電流)iuに比例した両端電圧VRu(=-Ru×iu)を制御器13に出力する。シャント抵抗Rvは、回転機10の巻線Vに流れる電流(回転機電流)ivに比例した両端電圧VRv(=-Rv×iv)を制御器13に出力する。シャント抵抗Rwは、回転機10の巻線Wに流れる電流(回転機電流)iwに比例した両端電圧VRw(=-Rw×iw)を制御器13に出力する。
【0025】
ここで、両端電圧VRu,VRu,VRwは、回転機電流iu,iv,iwとシャント抵抗Ru,Rv,Rwの抵抗値とを乗算して得られる値であり、電流iu,iv,iwに比例した量である。このため、両端電圧VRu,VRu,VRwは、電流を検出した値(回転機電流の検出値)といえる。尚、インバータ12は、回転機10と一体化されていてもよい(尚、一体化されたのをパワーパックと呼ぶ)。
【0026】
制御器13は、トルク指令T_ref、シャント抵抗Ru,Rv,Rwの両端電圧VRu,VRu,VRw、及び回転子位置θを入力とし、これらに基づいてインバータ12を駆動するスイッチング信号Gup~Gwnを生成する。制御器13は、例えば、マイコン又はDSP(Digital Signal Processor)等の離散時間演算器により実現されるPWM制御器である。制御器13は、電流指令値演算器21、電流検出器22、座標変換器23、電流制御器24(電圧指令値演算器)、座標変換器25(電圧指令値演算器)、修正電圧生成器26(電圧指令値演算器)、PWM信号生成器27(電圧指令値演算器)、及び速度演算器28を備える。
【0027】
電流指令値演算器21は、トルク指令T_refに基づいて、回転機10に通電する電流の指令値(目標値)である電流指令値id_ref,iq_refを演算する。例えば、回転機10が永久磁石同期回転機である場合には、電流指令値演算器21は、トルク指令T_ref、直流母線電圧Vdc、及び回転子位置θに加えて、速度演算器28によって得られた回転機10の回転角速度ωを用いて、トルク電流指令値iq_ref、弱め界磁電流指令値id_refを演算する。
【0028】
図2は、実施の形態1における電流指令値演算器の内部構成を示すブロック図である。
図2に示す通り、電流指令値演算器21は、トルク指令値生成器31(トルク電流指令値生成器)、弱め界磁用q軸電圧演算器32(弱め界磁電流指令値生成器)、弱め界磁用目標電圧演算器33(弱め界磁電流指令値生成器)、及び第1弱め界磁電流指令値演算器34(弱め界磁電流指令値生成器)を備える。
【0029】
トルク指令値生成器31は、制御指令(ここではトルク指令T_ref)からトルク電流指令値iq_refを得る。例えば、回転機10が突極性のない又は小さい回転機である場合には、トルク指令値生成器31は、トルク指令T_refに回転機10のトルク係数Ktの逆数(1/Kt)を乗算することでトルク電流指令値iq_refを得ればよい。これに対し、回転機10が突極性の大きい回転機である場合には、トルク指令値生成器31は、リラクタンストルクを考慮して、トルク指令T_refからトルク電流指令値iq_refを得るようにしてもよい。
【0030】
弱め界磁用q軸電圧演算器32は、トルク電流指令値iq_ref及び回転角速度ωに基づいて弱め界磁用q軸電圧V1を得る。ここで、R,φはそれぞれ、回転機10の巻線抵抗、鎖交磁束である。
図2中の弱め界磁用q軸電圧演算器32を示すブロックに示された式は、「永久磁石同期回転機におけるq軸電圧において、回転機10のインダクタンスLとq軸電流微分値diq/dtの乗算項を除いたもの」に等しい。
【0031】
弱め界磁用目標電圧演算器33は、トルク電流指令値iq_ref、回転角速度ω、直流母線電圧Vdc、及びインバータ12の変調率における第1閾値Kdc_1を用いて、弱め界磁用目標電圧V0を得る。ここで、第1閾値Kdc_1は以下の(1)式で与えられる。
Kdc_1=Tmin/Tc …(1)
【0032】
上記(1)式中のTcは、キャリア三角波の周期であり、Tminは、シャント抵抗Ru,Rv,Rwによって正しく回転機電流が検出可能な下アームスイッチング素子Sun,Svn,Swnのオン時間の閾値(最小値)である。尚、これらの詳細については後述する。
【0033】
図2中の弱め界磁用目標電圧演算器33を示すブロックに示された式は、右辺第1項が「インバータ12が出力する線間電圧実効値Vdc1(=Vdc×Kdc_1/2
0.5)の2乗」、右辺第2項が「永久磁石同期回転機におけるd軸電圧において、d軸電流idによる電圧降下項を除いたものの2乗」に等しい。この式は、平方根を含んでいる。制御器13の処理負荷を下げたい場合は、この式に対して、テーラー展開、マクローリン展開を用いて近似してもよい。
【0034】
第1弱め界磁電流指令値演算器34は、
図2中の第1弱め界磁電流指令値演算器34を示すブロックに示された式に従って、第1弱め界磁電流指令値id_ref1を出力する。具体的に、第1弱め界磁電流指令値演算器34は、弱め界磁用q軸電圧演算器32によって得られた弱め界磁用q軸電圧V1と、弱め界磁用目標電圧演算器33によって得られた弱め界磁用目標電圧V0とを比較する。そして、V1>V0なる関係であれば、第1弱め界磁電流指令値演算器34は、第1弱め界磁電流指令値id_ref1として、以下の(2)式で求められる値を出力する。
id_ref1=(V0-V1)/(ω・L) …(2)
これに対し、V1>V0なる関係が満たされなかった場合には、第1弱め界磁電流指令値演算器34は、第1弱め界磁電流指令値id_ref1として「0」を出力する。
【0035】
次に、
図1に示すPWM信号生成器27について説明する。PWM信号生成器27は、修正電圧生成器26から出力された修正電圧指令値vu′,vv′,vw′に基づいて、PWM変調されたスイッチング信号Gup~Gwnを出力する。
【0036】
図3は、実施の形態1におけるスイッチング信号の生成原理を説明するための図である。PWM信号生成器27は、修正電圧指令値vu′,vv′,vw′と、周期Tc(周波数fc)のキャリア三角波(搬送波)Cとを比較することでスイッチング信号Gup~Gwnを生成する。
【0037】
具体的に、PWM信号生成器27は、修正電圧指令値vu′がキャリア三角波Cより大きければ、スイッチング信号Gupをオン(「1」)とし、スイッチング信号Gunをオフ(「0」)とする。逆に、PWM信号生成器27は、修正電圧指令値vu′がキャリア三角波Cより小さければ、スイッチング信号Gupをオフ(「0」)とし、スイッチング信号Gunをオン(「1」)とする。
【0038】
また、PWM信号生成器27は、修正電圧指令値vv′がキャリア三角波Cより大きければ、スイッチング信号Gvpをオン(「1」)とし、スイッチング信号Gvnをオフ(「0」)とする。逆に、PWM信号生成器27は、修正電圧指令値vv′がキャリア三角波Cより小さければ、スイッチング信号Gvpをオフ(「0」)とし、スイッチング信号Gvnをオン(「1」)とする。
【0039】
また、PWM信号生成器27は、修正電圧指令値vw′がキャリア三角波Cより大きければ、スイッチング信号Gwpをオン(「1」)とし、スイッチング信号Gwnをオフ(「0」)とする。逆に、PWM信号生成器27は、修正電圧指令値vw′がキャリア三角波Cより小さければ、スイッチング信号Gwpをオフ(「0」)とし、スイッチング信号Gwnをオン(「1」)とする。
【0040】
尚、インバータ12の上アームスイッチング素子Sup,Svp,Swpと下アームスイッチング素子Sun,Svn,Swnとが同時にオン状態にならないように、スイッチング信号Gup~Gwnに短絡防止時間(デッドタイム)を設けても良い。
【0041】
スイッチング信号Gup~Gwnには、回転機10の電気角1周期中において、下アームスイッチング素子Sun,Svn,Swnの全てをオン状態にするパターンが含まれる。具体的には、
図3中における区間Dのように、スイッチング信号Gun,Gvn,Gwnの全てがオン(1)となるパターンが含まれる。
【0042】
ここで、インバータ12から回転機10に印加される(PWM形状の)電圧には、修正電圧指令の成分のほかに、キャリア三角波Cの周期Tcの整数倍の成分が含まれる。これに起因して周期Tcの整数倍の成分の電流が回転機10に通電され、周期Tcの値によっては回転機10より異音が生じる。
【0043】
このような異音の発生を防止するためには、例えば、回転機10を電動パワーステアリングの操舵アシストを行うモータとして使用する場合には、キャリア三角波Cの周期Tcを60[μs]以下に設定すればよい。Tc=60[μs]とすることで、異音の周波数fc(=1/Tc)は16.6kHzになり、人間が不快に感じる騒音になりにくい。より好ましくは、キャリア三角波Cの周期Tcを50[μs]程度に設定すればよい。Tc=50[μs]とすることで、異音の周波数fc(=1/Tc)は20kHz程度になり、人間にはほぼ聞こえなくなる。人間が聞こえる周波数帯域は、20Hz~20kHz程度である。尚、以下では、Tc=50[μs]として説明する。
【0044】
続いて、
図1に示す電流検出器22について説明する。電流検出器22は、シャント抵抗Ru,Rv,Rwの両端電圧VRu,VRu,VRw及びPWM信号生成器27から出力されるスイッチング信号Gup~Gwnを用いて検出電流ius,ivs,iwsを出力する。具体的に、電流検出器22は、シャント抵抗Ru,Rv,Rwの両端電圧VRu,VRu,VRwを
図3中に示すタイミング「V」で取得する。このタイミング「V」は、キャリア三角波Cが最大値(直流母線電圧Vdc)となるタイミングである。
【0045】
タイミング「V」では、
図3に示す通り、下アームスイッチング素子Sun,Svn,Swnに入力されるスイッチング信号Gun,Gvn,Gwnが全てオン(「1」)である。このため、電流検出器22は、シャント抵抗Ru,Rv,Rwの両端電圧VRu,VRu,VRwをそれぞれ-Ru,-Rv,-Rwで除算することで、検出電流ius,ivs,iwsを取得することが可能である。以下、シャント抵抗Ru,Rv,Rwの両端電圧VRu,VRu,VRwから検出電流ius,ivs,iwsを求める検出法を「三相検出」という。
【0046】
図4は、実施の形態1における両端電圧の変化の一例を示す図である。
図4に示す通り、スイッチング信号Gxnが「0」から「1」に変化した後に、両端電圧VRxにリンギングと呼ばれるインバータ12のスイッチングに起因した変動(例えば、数[μs]に亘る変動)が生じる。尚、スイッチング信号Gxnは、スイッチング信号Gun,Gvn,Gwnの何れか1つを示しており、両端電圧VRxは、両端電圧VRu,VRu,VRwの何れか1つを示している。このようなリンギングが含まれる両端電圧VRu,VRu,VRwが電流検出器22に入力されると、電流検出器22から出力される検出電流ius,ivs,iwsは、実際に回転機10に流れる電流iu,iv,iwに対して誤差が生じたものとなる。
【0047】
ここで、正確な検出電流ius,ivs,iwsを得るには、対応する下アームスイッチング素子Sun,Svn,Swnのオン時間がリンギング収束時間に応じて設定された閾値Tminより長い必要がある。下アームスイッチング素子Sun,Svn,Swnのオン時間を閾値Tmin以上にするためには、PWM信号生成器27に入力される電圧が、
図3中の一点鎖線で示す電圧(Vdc×Tmin/Tc)以下である必要がある。よって、上述した「三相検出」を行うには、PWM信号生成器27に入力される三相全ての電圧が
図3中の一点鎖線で示す電圧(Vdc×Tmin/Tc)以下である必要がある。
【0048】
図5は、実施の形態1において、修正電圧指令が変化した場合に生成されるスイッチング信号の一例を示す図である。
図5に示す通り、回転機10の回転数の上昇等により電圧振幅が上昇することで、修正電圧指令(
図5に示す例では、修正電圧指令値vu′)がキャリア三角波Cの最大値(直流母線電圧Vdc)に近い大きな値をとる場合がある。このような場合には、スイッチング信号Gunが「0」から「1」に切り替わる時刻とタイミング「V」との時間差が小さく、両端電圧VRuにはリンギングの影響が存在する。
【0049】
このように、スイッチング信号Gun,Gvn,Gwnの何れか1つのオン時間が閾値Tminより短い場合には、その相に関する検出電流は、他の二相から生成してもよい。以下、この検出法を「二相検出」という。例えば、
図5に示す通り、スイッチング信号Gunが閾値Tminより短い場合には、電流検出器22は、検出電流iusを、ius=-ivs-iwsなる式により求めても良い。また、スイッチング信号Gvnが閾値Tminより短い場合には、電流検出器22は、検出電流ivsを、ivs=-ius-iwsなる式により求めても良い。また、スイッチング信号Gwnが閾値Tminより短い場合には、電流検出器22は、検出電流iwsを、iws=-ius-ivsなる式により求めてもよい。
【0050】
座標変換器23は、電流検出器22によって検出された検出電流ius,ivs,iws及び回転子位置検出器11によって検出された回転子位置θに基づいて座標変換を行い、回転二軸(d,q軸)上の検出電流id,iqを演算する。
【0051】
電流制御器24は、電流指令値演算器21で演算された電流指令値id_ref,iq_ref及び座標変換器23で演算された検出電流id,iqに基づいて、回転二軸(d,q軸)上の電圧指令値vd,vqを演算する。電流制御器24は、d軸電流制御器24d及びq軸電流制御器24qを備える。
【0052】
d軸電流制御器24dは、d軸上の電流指令値id_refと検出電流idとの偏差(d軸電流偏差)に対し、P制御或いはPI制御等の制御器Gcdを適用して、d軸電流偏差を「0」に一致させるべくd軸上の電圧指令値vdを演算する。q軸電流制御器24qは、q軸上の電流指令値iq_refと検出電流iqとの偏差(q軸電流偏差)にP制御或いはPI制御等の制御器Gcqを適用して、q軸電流偏差を「0」に一致させるべくq軸上の電圧指令値vqを演算する。
【0053】
座標変換器25は、回転二軸(d,q軸)上の電圧指令値vd,vqを回転子位置検出器11よって検出された回転子位置θに基づいて座標変換し、三相座標上の電圧指令値vu,vv,vwを演算する。
【0054】
修正電圧生成器26は、座標変換器25から出力される電圧指令値vu,vv,vwに対してオフセット電圧voffsetを加算した修正電圧指令値vu′,vv′,vw′を出力する。
図6は、実施の形態1において、修正電圧生成器で行われる処理を示すフローチャートである。
【0055】
図6に示すフローチャートの処理が開始されると、まず、電圧指令値vu,vv,vwの中から最も小さいものを選択してVminとする処理が修正電圧生成器26で行われる(ステップS11)。次に、直流母線電圧VdcとステップS11で求められたVminとを用いて、Vminをオフセット電圧voffsetとする処理が修正電圧生成器26で行われる(ステップS12)。そして、電圧指令値vu,vv,vwからオフセット電圧voffsetを減算して、修正電圧指令値vu′,vv′,vw′を求める処理が修正電圧生成器26で行われる(ステップS13)。
【0056】
図7は、実施の形態1において、電圧指令値vu,vv,vw及び修正電圧指令値vu′,vv′,vw′の波形の一例を示す図である。尚、
図7の上段に示すグラフが、電圧指令値vu,vv,vwの波形を示すグラフであり、下段に示すグラフが、修正電圧指令値vu′,vv′,vw′の波形を示すグラフである。但し、
図7に示すグラフでは、直流母線電圧Vdc=10Vとしている。ここで、インバータ12が出力可能な電圧範囲は、0(キャリア三角波Cの最小値)~Vdc(キャリア三角波Cの最大値)となる。このため、直流母線電圧Vdc=10Vの場合には、インバータ12が出力可能な電圧範囲は、
図7に示す通り、0V~10Vとなる。
【0057】
図6に示すステップS12において、Vminをオフセット電圧voffsetとする処理が行われることで、
図7の下段のグラフに示す通り、修正電圧指令値vu′,vv′,vw′のうち、最小のものが常にインバータ出力下限値に一致する。このことは、修正電圧指令値vu′,vv′,vw′を電圧飽和させない範囲で可能な限り三相等しく下側へオフセットさせ、下アームスイッチング素子Sun,Svn,Swnのオン時間を可能な限り大きくしていることを意味する。これは、本実施の形態のように、下アームスイッチング素子Sun,Svn,Swnに対して直列にシャント抵抗Ru,Rv,Rwを備えるインバータにおいては、電流検出の観点では有利である。
【0058】
尚、オフセット電圧voffsetの演算方法は、上述した方法に限定される訳ではない。例えば、
図6のステップS11において、電圧指令値vu,vv,vwの中から最も小さいものを選択してVminとする処理に加えて、電圧指令値vu,vv,vwの中から最も大きいものを選択してVmaxとする処理を行ってもよい。そして、ステップS12において、voffsetを「(Vmax+Vmin)/2」に設定する処理を行ってもよい。このように、voffset=(Vmax+Vmin)/2とする手法は、3次調波加算又はHIP変調と呼ばれる従来技術である。また、最大相の上アームスイッチング素子を常にオン状態にする二相変調としてもよい。
【0059】
図7に示すグラフは、インバータ12の出力線間電圧の振幅をKdc_1・Vdcに設定した場合のものである。このとき、閾値Tminを5[μs]とすると、Tcが50[μs]であるから、第1閾値Kdc_1は、前述した(1)式から、Kdc_1=Tmin/Tc=5[μs]/50[μs]=0.9となる。
図7の下段に示すグラフを参照すると、修正電圧指令値vu′,vv′,vw′の電圧範囲は、0~0.9Vdcとなっており、常に「三相検出」が可能となることが分かる。
【0060】
図8は、実施の形態1において、電圧指令値vu,vv,vw及び修正電圧指令値vu′,vv′,vw′の波形の他の例を示す図である。尚、
図8の上段に示すグラフが、電圧指令値vu,vv,vwの波形を示すグラフであり、下段に示すグラフが、修正電圧指令値vu′,vv′,vw′の波形を示すグラフである。
図8に示すグラフは、インバータ12の出力線間電圧の振幅をKdc_1・Vdcより大きく設定した場合のものである。
図8の下段に示すグラフを参照すると、修正電圧指令値vu′,vv′,vw′が0.9Vdc超える部分があり、常に「二相検出」が必要となることが分かる。
【0061】
以上の通り、本実施の形態では、インバータ12の変調率における第1閾値Kdc_1を規定している(前述した(1)式参照)。そして、第1弱め界磁電流指令値演算器34によって演算された第1弱め界磁電流指令値id_ref1(前述した(2)式参照)に等しい弱め界磁電流が通電されることによって、インバータ12から出力される線間電圧の振幅が直流母線電圧VdcのKdc_1倍に制限されるようにしている。
【0062】
ここで、インバータ12の変調率を、「インバータ12から出力される線間電圧の振幅を直流母線電圧Vdcで除して得られる値」と定義すると、インバータ12の変調率は、第1閾値Kdc_1で制限されるということである。これは、修正電圧指令値vu′,vv′,vw′の電圧範囲が、
図7に示す三相検出可能範囲に一致するように弱め界磁電流が制限されるということであり、常に三相検出が可能になる。
【0063】
前述した通り、本実施の形態のインバータ12のように下アームスイッチング素子Sun,Svn,Swnに対して直列にシャント抵抗Ru,Rv,Rwを備えるインバータの電流検出法には三相検出と二相検出とがある。これらの電流検出法を比較すると、二相検出よりも三相検出の方がよい。その理由は、二相検出よりも三相検出の方が、一相にオフセット誤差がある場合、又はシャント抵抗の抵抗値誤差による検出ゲインの誤差が生じた場合の影響が小さいためである。
【0064】
更に、
図8に示す通り、二相検出区間になると、
図5に示した修正電圧指令値vu′のように瞬時値でVdc近傍の値をとるようになる、すると、その相(U相)が電流検出のタイミング「V」近傍でスイッチングすることで、他の二相(V相,W相)の電流検出が影響を受け、電流の検出誤差を生じるといった課題もある。このため、本実施の形態では、常に三相検出となるように第1弱め界磁電流指令値id_ref1を設定することで、電流の検出誤差を十分に小さくするようにしている。これにより、電流の検出誤差に起因するトルクリップル・振動・騒音を低減することができる。
【0065】
〔実施の形態2〕
図9は、本開示の実施の形態2による回転機の制御装置の要部構成を示すブロック図である。尚、
図9においては、
図1に示した構成と同様の構成については同一の符号を付してある。本実施の形態による回転機の制御装置2は、
図1に示す回転機の制御装置1が備えるインバータ12及び制御器13を、インバータ12a及び制御器13aにそれぞれ替えた構成である。
【0066】
インバータ12aは、
図1に示すインバータ12のシャント抵抗Rwが省略された構成である。つまり、インバータ12aは、下アームスイッチング素子Sun,Svnに対して直列にシャント抵抗Ru,Rvが設けられているが、下アームスイッチング素子Suwに対してはシャント抵抗が設けられていない構成である。このため、本実施の形態では、シャント抵抗Ru,Rvの両端電圧VRu,VRvが制御器13aに入力される。
【0067】
制御器13aは、
図1に示す制御器13が備える電流検出器22を電流検出器22aに替えた構成である。電流検出器22aは、インバータ12aの下アームスイッチング素子Sun,Svnに対してそれぞれ直列に接続されたシャント抵抗Ru,Rvの両端電圧VRu,VRu及びPWM信号生成器27から出力されるスイッチング信号Gup~Gwnを用いて検出電流ius,ivs,iwsを出力する。
【0068】
電流検出器22aは、シャント抵抗Ru,Rvの両端電圧VRu,VRuを
図3に示すタイミング「V」で取得する。このタイミングではスイッチング信号Gun,Gvn,Gwnが全てオン(「1」)である。このため、シャント抵抗Ru,Rvの両端電圧VRu,VRuをそれぞれ-Ru、-Rvで除算することで、検出電流ius,ivsを取得することができる。検出電流iwsについては、回転機10を流れる電流(三相電流)の総和が0になることを考慮して、iws=-ius-ivsなる式から求める。
【0069】
本実施の形態の回転機の制御装置2において、実施の形態1で説明した第1弱め界磁電流指令値id_ref1が通電されることによって、修正電圧指令値vu′,vv′,vw′の電圧範囲は、
図7の下段に示すグラフと同様に、0~Vdc×Tmin/Tcとなる。ここで、実施の形態1では、常に三相検出が可能であったが、本実施の形態では、シャント抵抗が2つのシャント抵抗Ru,Rvのみであるため、常に二相検出が可能となる。
【0070】
しかしながら、インバータ12a、電流検出器22aの構成に従来の弱め界磁制御技術を適用すると、
図8に示す電圧を出力すると一相しか検出できない区間が生じる課題がある。これは、本実施の形態においては、二相検出区間が生ずる実施の形態1の構成よりもシャント抵抗が少ないためである。
【0071】
そこで、本実施の形態では、実施の形態1で説明した第1弱め界磁電流指令値id_ref1を適用することで、常に二相検出が行えるようにしている。常に二相検出が行えることで、残りの一相の電流も演算で求めることができる。これにより、制御器13aにおいて、その三相の電流情報に基づく電流制御を行うことができる。
【0072】
〔実施の形態3〕
図10は、本開示の実施の形態3による回転機の制御装置の要部構成を示すブロック図である。尚、
図10においては、
図1に示した構成と同様の構成については同一の符号を付してある。本実施の形態による回転機の制御装置3は、
図1に示す回転機の制御装置1が備える制御器13を制御器13bに替えた構成である。制御器13bは、
図1に示す制御器13が備える電流指令値演算器21を電流指令値演算器21bに替えた構成である。
【0073】
図11は、実施の形態3における電流指令値演算器の内部構成を示すブロック図である。尚、
図11においては、
図2に示した構成と同様の構成については同一の符号を付してある。
図11に示す通り、電流指令値演算器21bは、トルク指令値生成器31に加えて、変調率演算部41(弱め界磁電流指令値生成器)、減算器42(弱め界磁電流指令値生成器)、及びPI演算器43(弱め界磁電流指令値生成器)を備える。
【0074】
変調率演算部41は、回転二軸(d,q軸)上の電圧指令値vd,vqと直流母線電圧Vdcとに基づいて、以下の(3)式で示される変調率mを演算する。
m=(vd2+vq2)0.5/(Vdc/20.5) …(3)
減算器42は、変調率mと第1閾値Kdc_1との差分(m-Kdc_1)を演算する。PI演算器43は、減算器42で求めた差分を0にするため比例・積分制御を実行し、その出力を第1弱め界磁電流指令値id_ref1とする。
【0075】
ここで、比例・積分制御を実行結果の符号が正であった場合には、第1弱め界磁電流指令値id_ref1の符号が正となる。しかしながら、弱め界磁電流を正に流しても回転機10の運転範囲を拡大することはできないので、PI演算器43の出力が正の時に0に修正するクリップを設けてもよい。また、PI演算器43の比例積分ゲインを回転機10の回転角速度ωに反比例させて変動させるように設定してよい。
【0076】
以上の通り、本実施の形態では、
図1に示す電流指令値演算器21に替えて
図11に示す電流指令値演算器21bを設けて、変調率mと第1閾値Kdc_1との差分を0とするようにしている。これにより、
図2に示す弱め界磁用目標電圧演算器33で用いられるパラメータ(回転機10の巻線抵抗R、インダクタンスL、鎖交磁束φ)の値と真の値との誤差が生じても、変調率mを第1閾値Kdc_1に正しく調整することができる。
【0077】
〔実施の形態4〕
図12は、本開示の実施の形態4による回転機の制御装置の要部構成を示すブロック図である。尚、
図12においては、
図1に示した構成と同様の構成については同一の符号を付してある。本実施の形態による回転機の制御装置4は、
図1に示す回転機の制御装置1が備える制御器13を制御器13cに替えた構成である。制御器13cは、
図1に示す制御器13が備える電流指令値演算器21を電流指令値演算器21cに替えた構成である。
【0078】
図13は、実施の形態4における電流指令値演算器の内部構成を示すブロック図である。尚、
図13においては、
図2に示した構成と同様の構成については同一の符号を付してある。
図13に示す通り、電流指令値演算器21cは、
図2に示す電流指令値演算器21に、弱め界磁用目標電圧演算器53(弱め界磁電流指令値生成器)、第2弱め界磁電流指令値演算器54(弱め界磁電流指令値生成器)、第1弱め界磁電流指令値上下限設定器55(弱め界磁電流指令値生成器)、第2弱め界磁電流指令値上下限設定器56(弱め界磁電流指令値生成器)、及び選択器57(弱め界磁電流指令値生成器)を追加した構成である。
【0079】
弱め界磁用目標電圧演算器53は、トルク電流指令値iq_ref、回転角速度ω、直流母線電圧Vdc、及びインバータ12の変調率における第2閾値Kdc_2を用いて、弱め界磁用目標電圧V0′を得る。ここで、第2閾値Kdc_2は以下の(4)式で与えられる。
Kdc_2=Kmax …(4)
【0080】
上記(4)式中のKmaxは、正弦波PWMの変調範囲であり、一般に「1」に設定するが、インバータ12のデットタイム等を考慮して「1」よりやや低めに設定してもよい。但し、Kmaxは、第1閾値Kdc_1より大きい値である。
【0081】
図13中の弱め界磁用目標電圧演算器53を示すブロックに示された式は、右辺第1項が「インバータ12が出力する線間電圧実効値Vdc1(=Vdc×Kdc_2/2
0.5)の2乗」、右辺第2項が「永久磁石同期回転機におけるd軸電圧において、d軸電流idによる電圧降下項を除いたものの2乗」に等しい。この式は、平方根を含んでいる。制御器13dの処理負荷を下げたい場合は、この式に対して、テーラー展開、マクローリン展開を用いて近似してもよい。
【0082】
第2弱め界磁電流指令値演算器54は、
図13中の第2弱め界磁電流指令値演算器54を示すブロックに示された式に従って、第2弱め界磁電流指令値id_ref2を出力する。具体的に、第2弱め界磁電流指令値演算器54は、弱め界磁用q軸電圧演算器32によって得られた弱め界磁用q軸電圧V1と、弱め界磁用目標電圧演算器53によって得られた弱め界磁用目標電圧V0′とを比較する。そして、V1>V0′なる関係であれば、第2弱め界磁電流指令値演算器54は、第2弱め界磁電流指令値id_ref2として、以下の(5)式で求められる値を出力する。
id_ref2=(V0′-V1)/(ω・L) …(5)
これに対し、V1>V0′なる関係が満たされなかった場合には、第2弱め界磁電流指令値演算器54は、第2弱め界磁電流指令値id_ref2として「0」を出力する。
【0083】
ここで、第1弱め界磁電流指令値id_ref1は、インバータ12の変調率を第1閾値Kdc_1(前述した(1)式参照)に制限する値である。これに対し、第2弱め界磁電流指令値id_ref2は、インバータ12の変調率を第2閾値Kdc_2(前述した(4)参照)に制限する値である。
【0084】
第1弱め界磁電流指令値上下限設定器55は、第1弱め界磁電流指令値id_ref1の上限を0に制限し、下限をidmaxと-(Imax2-iq_ref2)0.5との大きい方に制限する。上記のImaxは回転機10又はインバータ12の定格電流である。上記のidmaxは弱め界磁電流の最大値であり、一般には回転機10の永久減磁を避ける値に設定される。
【0085】
図14は、実施の形態4において、第1弱め界磁電流指令値上下限設定器で行われる処理の物理的意味を説明する図である。
図14において、縦軸はq軸電流Iqであり、横軸はd軸電流Idである。また、
図14中の一点鎖線で示す円は、回転機10又はインバータ12の定格電流Imaxを示している。つまり、一点鎖線で示す円の内部が、回転機10又はインバータ12の定格電流Imax以内で通電可能な範囲を表している。
【0086】
トルク電流指令値iq_ref=iq_ref1のとき、第1弱め界磁電流指令値id_ref1の通電範囲は、0~-(Imax2-iq_ref12)0.5の範囲である。よって、第1弱め界磁電流指令値id_ref1は、トルク電流指令値iq_ref1とid_ref1との合成ベクトルが回転機10又はインバータ12の定格電流Imaxを超えない範囲に設定(制限)される。但し、-(Imax2-iq_ref12)0.5は、Imaxとiq_ref1から通電可能なid_ref1の範囲であり、前述した永久減磁を考慮した値でない。よって、下限値は-(Imax2-iq_ref12)0.5とidmaxとの大きい方(絶対値で小さい方)を選択する。
【0087】
第2弱め界磁電流指令値上下限設定器56は、第2弱め界磁電流指令値id_ref2の上限を0、下限をidmaxに制限する。選択器57は、電流指令値演算器21cの動作モードに従って、第1弱め界磁電流指令値上下限設定器55から出力される第1弱め界磁電流指令値id_ref1、又は、第2弱め界磁電流指令値上下限設定器56から出力される第2弱め界磁電流指令値id_ref2を弱め界磁電流指令値id_refとして出力する。尚、電流指令値演算器21cの動作モードとしては、以下に示す第1~第4モードがある。
【0088】
・第1モード:変調率m=Kdc_1を満たすように、弱め界磁電流指令値id_refが通電される動作モードである。この動作モードでは、
図13の第1弱め界磁電流指令値演算器34から出力される第1弱め界磁電流指令値id_ref1が、第1弱め界磁電流指令値上下限設定器55の制限を受けずに弱め界磁電流指令値id_refとして出力される。
【0089】
・第2モード:第1弱め界磁電流指令値id_ref1として、-(Imax
2-iq_ref1
2)
0.5が通電される動作モードである。この動作モードでは、
図13の第1弱め界磁電流指令値演算器34から出力される第1弱め界磁電流指令値id_ref1が、第1弱め界磁電流指令値上下限設定器55の制限を受けて、id_ref=-(Imax
2-iq_ref1
2)
0.5として出力される。
【0090】
・第3モード:変調率m=Kdc_2を満たすように弱め界磁電流指令値id_refが通電される動作モードである。この動作モードでは、
図13の第2弱め界磁電流指令値演算器54から出力される第2弱め界磁電流指令値id_ref2が、第2弱め界磁電流指令値上下限設定器56の制限を受けずに弱め界磁電流指令値id_refとして出力される。尚、第2弱め界磁電流指令値演算器54から出力される第2弱め界磁電流指令値id_ref2は、第2モードのときの出力(-(Imax
2-iq_ref1
2)
0.5)よりも小さい(絶対値で大きい)。
【0091】
・第4モード:第1弱め界磁電流指令値id_ref1として、弱め界磁電流の最大値idmaxが出力される動作モードである。この動作モードでは、回転機10の永久減磁等の課題で弱め界磁電流が制限される。
【0092】
図15は、実施の形態4における電流指令値演算器の動作を説明するための図である。
図15の第1段目(最上段)に示すグラフは、回転機10の回転角速度ωの経時変化を示すグラフである。第2段目に示すグラフは、弱め界磁電流指令値id_refの経時変化を示すグラフである。第3段目に示すグラフは、トルク電流指令値iq_refの経時変化を示すグラフである。第4段目に示すグラフは、変調率m(=インバータ12の線間電圧振幅/直流母線電圧Vdc)の経時変化を示すグラフである。第5段目(最下段)に示すグラフは、回転機10のトルクの経時変化を示すグラフである。
【0093】
図15に示すグラフは、トルク電流指令値iq_refの大きさに応じて、左側に位置する5段分のグラフからなるグラフ群GR1と、右側に位置する5段分のグラフからなるグラフ群GR2とに分かれる。尚、グラフ群GR1は、トルク電流指令値iq_refの大きさが相対的に小さいときのものであり、グラフ群GR2は、トルク電流指令値iq_refの大きさが相対的に大きいときのものである。
【0094】
まず、グラフ群GR1について説明する。第4段目のグラフに示す変調率mが、第1閾値Kdc_1に到達すると、m=Kdc_1を満たすように、弱め界磁電流指令値id_ref(=第1弱め界磁電流指令値id_ref1)が通電される(第1モード:第2段目のグラフ中に示す(1))。そして、弱め界磁電流指令値id_refが弱め界磁電流の最大値idmaxに到達すると、弱め界磁電流指令値id_refが弱め界磁電流の最大値idmaxに維持される(第4モード:第2段目のグラフ中に示す(4))。
【0095】
次に、グラフ群GR2について説明する。第4段目のグラフに示す変調率mが、第1閾値Kdc_1に到達すると、m=Kdc_1を満たすように、弱め界磁電流指令値id_ref(=第1弱め界磁電流指令値id_ref1)が通電される(第1モード:第2段目のグラフ中に示す(1))。その後、Imax2<id_ref2+iq_ref2なる関係が成立すると、電流指令値演算器21cの動作モードが第2モードになる(第2段目のグラフ中に示す(2))。これにより、弱め界磁電流指令値id_refとして、-(Imax2-iq_ref12)0.5が通電される。このとき、回転機10の回転角速度ωの上昇により変調率mは第1閾値Kdc_1から第2閾値Kdc_2に上昇する。
【0096】
変調率m=Kdc_2になると、それを満たすように、弱め界磁電流指令値id_refとして、第2弱め界磁電流指令値id_ref2が通電される(第3モード:第2段目のグラフ中に示す(3))。そして、弱め界磁電流指令値id_refが、弱め界磁電流の最大値idmaxに到達すると、弱め界磁電流指令値id_refが弱め界磁電流の最大値idmaxに維持される(第4モード:第2段目のグラフ中に示す(4))。
【0097】
以上の通り、本実施の形態では、まず、弱め界磁電流指令値id_refとして、第1弱め界磁電流指令値id_ref1を通電し、変調率mを第1閾値Kdc_1に保持することで、回転機10の騒音を低減する。次に、第1弱め界磁電流指令値id_ref1を回転機10又はインバータ12の定格電流Imaxとトルク電流指令値iq_refとに応じて制限することで、回転機10に通電される電流を定格電流Imax以内に抑えつつトルク電流指令値iq_refを通電する。
【0098】
次いで、第1弱め界磁電流指令値id_ref1と、変調率mを第2閾値Kdc_2(PWM変調可能な最大値)とする第2弱め界磁電流指令値id_ref2とを比較する。そして、第2弱め界磁電流指令値id_ref2が小さくなる(絶対値で大きくなる)と、弱め界磁電流指令値id_refとして第2弱め界磁電流指令値id_ref2を通電する。
【0099】
このように本実施の形態では、第1弱め界磁電流指令値id_ref1を可能な限り通電する範囲を最大化し(第1モード)、定格電流Imaxを維持しつつトルク電流指令値iq_refを維持し(第2モード)、第2弱め界磁電流指令値id_ref2の通電による回転機10のPWM変調範囲を維持している(第3モード)。これにより、静粛性と出力最大化との両立を可能にしている。
【0100】
尚、第1弱め界磁電流指令値上下限設定器55及び第2弱め界磁電流指令値上下限設定器56で規定される下限値idmaxは、所定の場合には、前述した回転機10の永久減磁に基づく値より大きく(絶対値で小さく)設定しても良い。上記の所定の場合とは、回転機10の制御器13cがインバータ12又は回転機10の発熱による通電制限を行いたい場合、回転機10の制御装置の少なくとも1か所が故障した場合、回転機10の回転速度が閾値より低い場合等である。ここで、回転機10の回転速度が閾値より低い場合には、下限値idmaxを0に設定してもよい。
【0101】
また、弱め界磁電流を0に制限する場合には、電流指令値演算器21cは、弱め界磁電流指令値id_refを0として出力してもよい。この場合においては、
図13に示す弱め界磁用q軸電圧演算器32、弱め界磁用目標電圧演算器33、第1弱め界磁電流指令値演算器34、弱め界磁用目標電圧演算器53、第2弱め界磁電流指令値演算器54、第1弱め界磁電流指令値上下限設定器55、第2弱め界磁電流指令値上下限設定器56、及び選択器57の演算が行われないようにすればよい。
【0102】
〔実施の形態5〕
図16は、本開示の実施の形態5による回転機の制御装置の要部構成を示すブロック図である。尚、
図16においては、
図12に示した構成と同様の構成については同一の符号を付してある。本実施の形態による回転機の制御装置5は、
図12に示す回転機の制御装置4が備えるインバータ12及び制御器13cを、インバータ12d及び制御器13dにそれぞれ替えた構成である。
【0103】
インバータ12dは、
図12に示すインバータ12のシャント抵抗Ru,Rv,Rwが省略され、下アームスイッチング素子Sun,Svn,Swnの合流点(接続点)とグランドとの間に1つのシャント抵抗Rdc(電流検出器)が設けられた構成である。シャント抵抗Rdcに流れる電流をIdcとすると、シャント抵抗Rdcの両端電圧VRdcは、VRdc=Rdc×Idcになる。このため、本実施の形態では、シャント抵抗Rdcの両端電圧VRdcが制御器13dに入力される。
【0104】
制御器13dは、
図12に示す制御器13cが備える電流検出器22及び修正電圧生成器26を電流検出器22d及び修正電圧生成器26dにそれぞれ替えた構成である。電流検出器22dは、インバータ12dから出力されたシャント抵抗Rdcの両端電圧VRdcをシャント抵抗Rdcの抵抗値で除算して、シャント抵抗Rdcに流れる電流Idcを求める。そして、電流検出器22dは、例えば、
図17に示すテーブルを用いて、求めた電流Idcが0であるのか、又は、回転機10の巻線Uに流れる電流iu、巻線Vに流れる電流iv,巻線Wに流れる電流iwの何れであるのかを判別する。
【0105】
図17は、実施の形態5において、電流検出器において電流を判別するために用いられるテーブルの一例を示す図である。
図5に示すテーブルは、PWM信号生成器27から出力されるスイッチング信号Gup~Gwnの組み合わせ毎に、電流Idcが0であるのか、又は、電流iu,iv,iwの何れであるのかを規定したものである。尚、ここでは、テーブルを用いる例について説明したが、必ずしもテーブルを用いる必要はない。
【0106】
修正電圧生成器26dは、座標変換器25から出力される電圧指令値vu,vv,vwに対してオフセット電圧voffsetを加算した修正電圧指令値vu′,vv′,vw′を出力する。
図18は、実施の形態5において、修正電圧生成器で行われる処理を示すフローチャートである。
【0107】
図18に示すフローチャートの処理が開始されると、まず、電圧指令値vu,vv,vwの中から最も小さいものを選択してVminとし、電圧指令値vu,vv,vwの中から最も大きいものを選択してVmaxとする処理が修正電圧生成器26dで行われる(ステップS21)。次に、ステップS21で求められたVmin及びVmaxの平均値をオフセット電圧voffsetとする処理が修正電圧生成器26dで行われる(ステップS22)。つまり、voffset=(Vmin+Vmax)×0.5なる処理が修正電圧生成器26dで行われる。そして、電圧指令値vu,vv,vwからオフセット電圧voffsetを減算して、修正電圧指令値vu′,vv′,vw′を求める処理が修正電圧生成器26で行われる(ステップS23)。
【0108】
図19は、実施の形態5において、電圧指令値vu,vv,vw及び修正電圧指令値vu′,vv′,vw′の波形の一例を示す図である。尚、
図19の上段に示すグラフが、電圧指令値vu,vv,vwの波形を示すグラフであり、下段に示すグラフが、修正電圧指令値vu′,vv′,vw′の波形を示すグラフである。但し、
図19に示すグラフでは、
図7に示すグラフと同様に、直流母線電圧Vdc=10Vとしている。このため、インバータ12dが出力可能な電圧範囲は、0(キャリア三角波Cの最小値)~Vdc(キャリア三角波Cの最大値)となる。このため、直流母線電圧Vdc=10Vの場合には、インバータ12dが出力可能な電圧範囲は、
図19に示す通り、0V~10Vとなる。
【0109】
図19中に示すタイミングAにおいて、下段のグラフを参照すると、修正電圧指令値vu′,vw′の瞬時値は9.15[V]であり、修正電圧指令値vv′の瞬時値は0.85[V]である。ここで、直流母線電圧Vdc=10Vであるから、U相及びW相のデューティは91.5%であり、V相のデューティは8.5%である。尚、ここにいうデューティは、キャリア三角波Cの周期Tcに対する上アームスイッチング素子Sup,Svp,Swpがオン状態である時間の割合である。
【0110】
図20は、実施の形態5において、制御器から出力されるスイッチング信号の一例を示す図である。
図20に示す例では、電圧パターンV5(iw),V6(iv),V7(0),V6(iv),V1(iu)が順に出力されている。一方、シャント抵抗Rdcに流れる電流をIdcから各相電流が検出可能な条件として、各電圧パターンの継続時間が閾値Tmin(5[μs])より長いことである。
図20から、電圧パターンV5(iw),V1(iu)は、その継続時間が4.25[μs]であり、閾値Tminより短いため検出不可能である。よって、
図19に示した電圧振幅では三相電流を再生することが不可能である。
【0111】
図21は、実施の形態5において、電圧指令値vu,vv,vw及び修正電圧指令値vu′,vv′,vw′の波形の他の例を示す図である。尚、
図21の上段に示すグラフが、電圧指令値vu,vv,vwの波形を示すグラフであり、下段に示すグラフが、修正電圧指令値vu′,vv′,vw′の波形を示すグラフである。但し、
図21に示すグラフでは、
図7に示すグラフと同様に、直流母線電圧Vdc=10Vとしている。このため、インバータ12dが出力可能な電圧範囲は、0(キャリア三角波Cの最小値)~Vdc(キャリア三角波Cの最大値)となる。このため、直流母線電圧Vdc=10Vの場合には、インバータ12dが出力可能な電圧範囲は、
図19に示す通り、0V~10Vとなる。
【0112】
図21中に示すタイミングAにおいて、下段のグラフを参照すると、修正電圧指令値vu′,vw′の瞬時値は8.46[V]であり、修正電圧指令値vv′の瞬時値は1.53[V]である。ここで、直流母線電圧Vdc=10Vであるから、U相及びW相のデューティは86.4%であり、V相のデューティは15.3%である。よって、これを
図20に示す通り、スイッチング信号として表すと、電圧パターンV5(iw)、V1(iu)は、その継続時間が7.65[μm]であり、閾値Tminより長くなるため検出可能である。よって、
図21に示した電圧振幅では三相電流を再生することが可能である。
【0113】
そこで、本実施の形態では、第1閾値Kdc_1を、電流iu,iv,iwから少なくとも2種類の電流を取得できる電圧パターンを、閾値Tmin以上出力できる値に設定する。これにより、
図16に示すようなシャント抵抗が1つのみ設けられているインバータ12dにおいて、回転機10が高速に回転する場合でも、安定した電流制御を実現することが可能となる。
【0114】
〔実施の形態6〕
図22は、本開示の実施の形態6による回転機の制御装置及び電動パワーステアリング装置の要部構成を示すブロック図である。尚、
図22においては、
図1に示した構成と同様の構成については同一の符号を付してある。
図22に示す通り、本実施の形態の電動パワーステアリング装置100は、トルク検出器103、回転機10、及び回転機の制御装置6を備えており、自動車等の車両の操舵機構に操舵補助力を付加する。
【0115】
尚、
図22においては、車両の操舵機構として、運転者によって操作されるステアリング(ハンドル)101と、ステアリング101の操作によって駆動される前輪102とを例示している。また、
図22に示す通り、回転機10は、ギア104を介して車両の操舵機構に連結されている。このため、回転機10の駆動力(操舵補助力)は、ギア104を介して車両の操舵機構に伝達される。
【0116】
トルク検出器103は、ステアリング101の付近に配置され、運転者の操舵トルクTsを検出する。回転機10は、車両のステアリングコラム、又はラック軸に搭載され、回転機の制御装置6の制御の下で、ステアリング101に対して操舵補助トルクを発生させる。回転機の制御装置6は、トルク検出器103で検出された操舵トルクTsに応じて、回転機10に供給する電流を制御することで、車両の操舵機構に付加する操舵補助力を制御する。
【0117】
回転機の制御装置6は、
図1に示す回転機の制御装置1が備える制御器13を制御器13eに替えた構成である。制御器13eは、
図1に示す制御器13が備える電流指令値演算器21を電流指令値演算器21eに替えた構成である。電流指令値演算器21eは、
図1に示す電流指令値演算器21とは、トルク電流指令値iq_refの演算方法が異なる。
【0118】
電流指令値演算器21eは、トルク検出器103で検出された操舵トルクTsに基づいて、トルク電流指令値iq_refを演算する。例えば、電流指令値演算器21eは、以下の(6)式を用いて、操舵トルクTsからトルク電流指令値iq_refを演算する。
iq_ref=ka・Ts …(6)
【0119】
上記(6)式中のkaは定数であるが、操舵トルクTs又は車両の走行速度に応じて変動させるように設定してもよい。尚、ここでは、上記(6)式によって「トルク電流指令値iq_ref」を決定する例について説明するが、操舵状況に応じた公知の補償制御を適宜組み合わせて用いてよい。
【0120】
図23は、実施の形態6における回転機のトルク-回転数特性の一例を示す図である。尚、
図23においては、比較のために、従来技術における回転機のトルク-回転数特性を示すグラフを上段に示し、本実施の形態における回転機のトルク-回転数特性を示すグラフを下段に示している。
【0121】
図23では、上段及び下段に示すグラフの各々について、(1)変調率m=Kdc_1,id=0の軌跡、(2)変調率m=Kdc_1,id=idmaxの軌跡、(3)変調率m=Kdc_2,id=idmaxの軌跡を示している。ここで、騒音が大きくなるのは変調率m>Kdc_1の場合である。
【0122】
従来技術では、騒音が大きくなる範囲は、(1)の軌跡と(3)と軌跡とで囲まれる領域である。このように、従来技術では、変調率m>Kdc_1なる関係が成立する範囲が広く、回転機10の動作軌跡において騒音大となる期間が長く、聴感上不快となる可能性がある。これに対し、本実施の形態においては、弱め界磁制御の改善によって、騒音が大きくなる範囲は、(2)の軌跡と(3)と軌跡とで囲まれる領域になる。このように、本実施の形態では、従来技術に比べて、変調率m>Kdc_1なる関係が成立する範囲を格段に縮小することができる。このため、回転機10の動作軌跡において騒音大となる期間が大幅に低減され、聴感上の不快感も大幅に改善される。
【0123】
以上の通り、本実施の形態では、前述した実施の形態1における技術を電動パワーステアリングのアシスト回転機の制御に適用し、第1弱め界磁電流指令値id_ref1を通電する範囲を可能な限り最大化している。これにより、電動パワーステアリングの静粛性向上、及び定格電流Imaxを維持しつつトルク電流指令値iq_refを維持することによる操舵感維持という従来にない顕著な作用効果が得られる。
【0124】
以上、実施の形態1~6について説明したが、本開示は、上記の実施の形態に限定されるものではなく、本開示の趣旨を逸脱しない範囲で自由に変更が可能である。例えば、上述した実施の形態6における回転機の制御装置6は、実施の形態1の回転機の制御装置1と同様の構成のものである場合を例に挙げて説明した。しかしながら、上述した実施の形態6における回転機の制御装置6は、実施の形態2~5の回転機の制御装置2~5と同様の構成のものであってもよい。また、上述した実施の形態1~6は、適宜組み合わせることも可能である。
【0125】
尚、上述した回転機の制御装置1~6及び電動パワーステアリング装置100が備える各構成は、内部に、コンピュータシステムを有している。そして、上述した回転機の制御装置1~6及び電動パワーステアリング装置100が備える各構成の機能を実現するためのプログラムをコンピュータ読み取り可能な記録媒体に記録して、この記録媒体に記録されたプログラムをコンピュータシステムに読み込ませ、実行することにより上述した回転機の制御装置1~6及び電動パワーステアリング装置100が備える各構成における処理を行ってもよい。ここで、「記録媒体に記録されたプログラムをコンピュータシステムに読み込ませ、実行する」とは、コンピュータシステムにプログラムをインストールすることを含む。ここでいう「コンピュータシステム」とは、OS及び周辺機器等のハードウェアを含むものとする。
【0126】
また、「コンピュータシステム」は、インターネット又はWAN、LAN、専用回線等の通信回線を含むネットワークを介して接続された複数のコンピュータ装置を含んでもよい。また、「コンピュータ読み取り可能な記録媒体」とは、フレキシブルディスク、光磁気ディスク、ROM、CD-ROM等の可搬媒体、コンピュータシステムに内蔵されるハードディスク等の記憶装置のことをいう。このように、プログラムを記憶した記録媒体は、CD-ROM等の非一過性の記録媒体であってもよい。
【0127】
また、記録媒体には、当該プログラムを配信するために配信サーバからアクセス可能な内部又は外部に設けられた記録媒体も含まれる。尚、プログラムを複数に分割し、それぞれ異なるタイミングでダウンロードした後に回転機の制御装置1~6及び電動パワーステアリング装置100が備える各構成で合体される構成であってもよく、また、分割されたプログラムのそれぞれを配信する配信サーバが異なっていてもよい。さらに「コンピュータ読み取り可能な記録媒体」とは、ネットワークを介してプログラムが送信された場合のサーバ又はクライアントとなるコンピュータシステム内部の揮発性メモリ(RAM)のように、一定時間プログラムを保持しているものも含むものとする。また、上記プログラムは、上述した機能の一部を実現するためのものであってもよい。さらに、上述した機能をコンピュータシステムに既に記録されているプログラムとの組み合わせで実現できるもの、いわゆる差分ファイル(差分プログラム)であってもよい。
【符号の説明】
【0128】
1~6…回転機の制御装置、10…回転機、12,12a,12d…インバータ、13,13a~13e…制御器、24…電流制御器、25…座標変換器、26,26d…修正電圧生成器、27…PWM信号生成器、31…トルク指令値生成器、32…弱め界磁用q軸電圧演算器、33…弱め界磁用目標電圧演算器、34…第1弱め界磁電流指令値演算器、41…変調率演算部、42…減算器、43…PI演算器、53…弱め界磁用目標電圧演算器、54…第2弱め界磁電流指令値演算器、55…第1弱め界磁電流指令値上下限設定器、56…第2弱め界磁電流指令値上下限設定器、57…選択器、100…電動パワーステアリング装置、101…ステアリング、102…前輪、103…トルク検出器、id_ref…弱め界磁電流指令値、id_ref1…第1弱め界磁電流指令値、id_ref2…第2弱め界磁電流指令値、iq_ref…トルク電流指令値、Kdc_1…第1閾値、Kdc_2…第2閾値、m…変調率、Ru,Rv,Rw…シャント抵抗、Rdc…シャント抵抗、Sup,Svp,Swp…上アームスイッチング素子、Sun,Svn,Swn…下アームスイッチング素子、Vdc…直流母線電圧