(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-02-14
(45)【発行日】2025-02-25
(54)【発明の名称】電動パワーステアリング装置
(51)【国際特許分類】
B62D 5/04 20060101AFI20250217BHJP
B62D 6/00 20060101ALI20250217BHJP
【FI】
B62D5/04
B62D6/00
(21)【出願番号】P 2023567323
(86)(22)【出願日】2021-12-14
(86)【国際出願番号】 JP2021045999
(87)【国際公開番号】W WO2023112133
(87)【国際公開日】2023-06-22
【審査請求日】2023-12-07
(73)【特許権者】
【識別番号】324003048
【氏名又は名称】三菱電機モビリティ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100161207
【氏名又は名称】西澤 和純
(74)【代理人】
【識別番号】100206081
【氏名又は名称】片岡 央
(74)【代理人】
【識別番号】100188673
【氏名又は名称】成田 友紀
(74)【代理人】
【識別番号】100188891
【氏名又は名称】丹野 拓人
(72)【発明者】
【氏名】藤本 千明
【審査官】瀬戸 康平
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-56404(JP,A)
【文献】特開2010-100091(JP,A)
【文献】特開2018-50438(JP,A)
【文献】特開2017-229156(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B62D 5/04, 6/00,15/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の車両状態及び車外の情報を検出する車両状態センサと、
前記車両状態センサの検出結果に基づいて、前記車両のステアリングの舵角指令を生成する自動運転支援制御手段と、
前記ステアリングの操舵トルクを検出するトルクセンサと、
前記ステアリングの舵角を得るために回転させるモータと、
前記トルクセンサの検出結果に応じて、前記モータを駆動制御することで操舵を補助する操舵補助制御を行う第1のモータ制御手段と、
前記舵角指令に応じて、前記モータを駆動制御することで前記ステアリングの自動操舵を行う自動運転支援制御を行う第2のモータ制御手段と、
を備え、
前記第1のモータ制御手段は、前記操舵補助制御を行っている場合には、前記第2のモータ制御手段に対して前記モータを駆動制御させる第1指令を送信し、前記自動運転支援制御が行われている場合には、前記第2のモータ制御手段から送信される前記モータを駆動制御するための第2指令に基づいて前記モータの駆動制御を行って前記モータの駆動を補助し、
前記第2のモータ制御手段は、前記自動運転支援制御を行っている場合には、前記第1のモータ制御手段に対して前記第2指令を送信し、前記操舵補助制御が行われている場合には、前記第1指令に基づいて前記モータの駆動制御を行って前記モータの駆動を補助する、
電動パワーステアリング装置。
【請求項2】
前記第1のモータ制御手段は、前記操舵補助制御を行っている場合には、操舵角の目標値である目標舵角を算出し、算出した前記目標舵角を前記第1指令として前記第2のモータ制御手段に送信し、
前記第2のモータ制御手段は、前記自動運転支援制御を行っている場合には、前記舵角指令と、検出された操舵角との偏差に基づいてモータトルクの目標値である舵角トルク指令を算出し、算出した前記舵角トルク指令を前記第2指令として前記第1のモータ制御手段に送信する、
請求項1記載の電動パワーステアリング装置。
【請求項3】
前記第1のモータ制御手段は、前記操舵補助制御を行っている場合には、目標とする前記モータの回転角度と、検出された前記モータの回転角度との偏差である第1の偏差を前記第1指令として前記第2のモータ制御手段に送信し、
前記第2のモータ制御手段は、前記自動運転支援制御を行っている場合には、前記舵角指令を前記モータの回転角度に変換し、変換した前記モータの回転角度と、検出された前記モータの回転角度との偏差である第2の偏差に基づいて前記モータを駆動するとともに、前記第2の偏差に基づいて、前記舵角を得るためのトルクの目標値である舵角トルク指令を算出し、算出した前記舵角トルク指令を前記第2指令として前記第1のモータ制御手段に送信する、
請求項1記載の電動パワーステアリング装置。
【請求項4】
前記第1のモータ制御手段は、前記操舵補助制御を行っている場合には、前記モータを駆動するための電圧の目標値である第1の目標電圧を算出し、算出した前記第1の目標電圧を前記第1指令として前記第2のモータ制御手段に送信し、
前記第2のモータ制御手段は、前記自動運転支援制御を行っている場合には、前記モータを駆動するための電圧の目標値である第2の目標電圧を算出し、算出した前記第2の目標電圧を前記第2指令として前記第1のモータ制御手段に送信する、
請求項1記載の電動パワーステアリング装置。
【請求項5】
前記操舵補助制御が行われている場合において、前記第1のモータ制御手段が異常により前記モータを駆動制御することができなくなった場合には、前記第2のモータ制御手段のみによる前記モータの駆動制御が継続され、
前記自動運転支援制御が行われている場合に、前記第2のモータ制御手段が異常により前記モータを駆動制御することができなくなった場合には、前記第1のモータ制御手段のみによる前記モータの駆動が継続される、
請求項1から4のいずれか一項に記載の電動パワーステアリング装置。
【請求項6】
前記第2のモータ制御手段は、前記操舵補助制御が行われている場合において、前記第1のモータ制御手段から前記第1指令を受信できない場合には、前記モータの駆動制御を停止し、
前記第1のモータ制御手段は、前記自動運転支援制御が行われている場合において、前記第2のモータ制御手段から前記第2指令を受信できない場合には、前記自動運転支援制御手段から出力される前記舵角指令と、検出された前記モータの回転角度との偏差に基づいて前記舵角を得るためのトルクの目標値を算出し、算出した当該目標値に基づいて前記モータを駆動制御する、
請求項1から4のいずれか一項に記載の電動パワーステアリング装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、電動パワーステアリング装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、モータの駆動力にて操舵を補助する電動パワーステアリング装置として、操舵補助制御と自動運転支援制御とを行うものが知られている(例えば、特許文献1参照)。操舵補助制御は、運転者がステアリング操舵するときにモータの駆動力により操舵補助力を付与する制御である。自動運転支援制御は、運転者の操舵によらず舵角を変更することにより車両の進路方向を変える制御(例えば、駐車支援システム又は経路追従制御など)である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1では、操舵補助制御を行う第1のモータ制御回路と、自動運転支援制御を行う第2のモータ制御回路とが独立して構成されている。そのため、第1のモータ制御回路による操舵補助制御時に異常が生じた場合には、操舵補助を継続することができず、第2のモータ制御回路による自動運転支援制御時に異常が生じても自動運転支援を継続することはできない場合がある。
【0005】
本開示は、このような事情に鑑みてなされたもので、その目的は、操舵補助制御時に異常が生じても操舵補助を継続することができ、自動運転支援制御時に異常が生じても自動運転支援を継続することができる電動パワーステアリング装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の一態様は、車両の車両状態及び車外の情報を検出する車両状態センサと、前記車両状態センサの検出結果に基づいて、前記車両のステアリングの舵角指令を生成する自動運転支援制御手段と、前記ステアリングの操舵トルクを検出するトルクセンサと、前記ステアリングの舵角を得るために回転させるモータと、前記トルクセンサの検出結果に応じて、前記モータを駆動制御することで操舵を補助する操舵補助制御を行う第1のモータ制御手段と、前記舵角指令に応じて、前記モータを駆動制御することで前記ステアリングの自動操舵を行う自動運転支援制御を行う第2のモータ制御手段と、を備え、前記第1のモータ制御手段は、前記操舵補助制御を行っている場合には、前記第2のモータ制御手段に対して前記モータを駆動制御させる第1指令を送信し、前記自動運転支援制御が行われている場合には、前記第2のモータ制御手段から送信される前記モータを駆動制御するための第2指令に基づいて前記モータの駆動制御を行って前記モータの駆動を補助し、前記第2のモータ制御手段は、前記自動運転支援制御を行っている場合には、前記第1のモータ制御手段に対して前記第2指令を送信し、前記操舵補助制御が行われている場合には、前記第1指令に基づいて前記モータの駆動制御を行って前記モータの駆動を補助する、電動パワーステアリング装置である。
【発明の効果】
【0007】
以上説明したように、本開示によれば、操舵補助制御時に異常が生じても操舵補助を継続することができ、自動運転支援制御時に異常が生じても自動運転支援を継続することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】実施の形態1に係る電動パワーステアリング装置を搭載した車両の操舵系の構成図である。
【
図2】実施の形態1に係るモータコントロールのブロック図である。
【
図3】実施の形態1に係るモータ駆動部及びモータ駆動部の概略構成図である。
【
図4】実施の形態1に係る車速及び操舵トルクのマップを説明する図である。
【
図5】実施の形態1に係るアシスト舵角指令の生成方法を説明する図である。
【
図6】実施の形態1に係る電流制御部のブロック図である。
【
図7】実施の形態1に係る舵角指示部のブロック図である。
【
図8】実施の形態1に係るモータ角度制御部のブロック図である。
【
図9】実施の形態2に係る電動パワーステアリング装置を搭載した車両の操舵系の構成図である。
【
図10】実施の形態2に係るモータコントロールのブロック図である。
【
図11】実施の形態3に係る電動パワーステアリング装置を搭載した車両の操舵系の構成図である。
【
図12】実施の形態3に係るモータコントロールのブロック図である。
【
図13】実施の形態3に係るモータ角度制御部のブロック図である。
【
図14】実施の形態4に係る電動パワーステアリング装置を搭載した車両の操舵系の構成図である。
【
図15】実施の形態4に係るモータコントロールのブロック図である。
【
図16】実施の形態5に係る電動パワーステアリング装置を搭載した車両の操舵系の構成図である。
【
図17】実施の形態5に係るモータコントロールのブロック図である。
【
図18】実施の形態5に係るモータ角度制御部のブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本開示の実施の形態に係る電動パワーステアリング装置を、図面を用いて説明する。
【0010】
<実施の形態1>
図1は、実施の形態1に係る電動パワーステアリング装置を搭載した車両の操舵系の構成図である。
図1に示すように、実施の形態1に係る電動パワーステアリング装置1は、トルクセンサ3、ステアリングシャフト4、減速機5、ラック・ピニオンギア6、車両状態センサ10、自動運転支援制御装置20(自動運転支援制御手段)、及びモータコントロールユニット100を備える。電動パワーステアリング装置1は、自動運転支援制御を有しており、異常が生じたとしても車両の自動運転を継続させる。
【0011】
トルクセンサ3は、運転者がステアリングホイール2を操舵した際に、ステアリングシャフト4に生じる操舵トルクTsを検出する。例えば、トルクセンサ3は、ステアリングシャフト4に設けられている。トルクセンサ3は、モータコントロールユニット100に接続されており、操舵トルクTsをモータコントロールユニット100に出力する。
【0012】
ステアリングシャフト4は、一端がステアリングホイール2に連結されており、他端がラック・ピニオンギア6に連結されている。ステアリングシャフト4は、ステアリングホイール2と一体に回転する。
【0013】
減速機5は、モータコントロールユニット100からのモータトルクを、ギヤの組み合わせた減速比に応じて増大させる。減速機5は、増大させたモータトルクをステアリングシャフト4に伝達する。
【0014】
モータコントロールユニット100は、車両のステアリング操作を制御するためのコントールユニット及び電動モータを備える。モータコントロールユニット100からのモータトルクは、減速機5を介して運転者から操舵トルクとともにステアリングシャフト4に付与される。ステアリングシャフト4に付与されたモータトルク及び操舵トルクは、ラック・ピニオンギア6を介してタイヤ7に伝達され、車両の転舵が行われる。
【0015】
車両状態センサ10は、モータコントロールユニット100に対して電気的に接続されている。車両状態センサ10は、車両の車両状態及び車外の情報を検出する。例えば、車両状態センサ10は、自車両の周囲環境の検知及び自車両の運動状態の測定のための各種センサである。自車両の周囲環境は、車外の情報の一例である。自車両の運動状態は、車両の車両状態の一例である。
【0016】
車両状態センサ10は、例えば、自車両の周囲環境の情報を検知する第1のセンサと、自車両の運動状態を測定する第2のセンサと、を有している。第1のセンサは、例えば、画像センサ及びレーダーセンサを含む。第2のセンサは、例えば車速センサ、ヨーレートセンサ、横加速度センサ、舵角センサを含む。車両状態センサ10は、第1のセンサが検知した周囲環境の情報(以下、「周囲環境情報」という。)と、第2のセンサが測定した自車両の運動状態の情報(以下、「車両状態情報」という。)と、を自動運転支援制御装置20に出力する。車両状態センサ10は、車両状態情報(例えば、車速信号など)をモータコントロールユニット100に出力する。
【0017】
自動運転支援制御装置20は、目標軌道に沿って自車両を走行させるための制御である自動運転支援制御を行う。自動運転支援制御は、例えば、経路追従制御、斜線逸脱抑制制御、駐車支援システムなどである。自動運転支援制御装置20は、車両のステアリングを自動で操作して自動走行させるため、車両状態センサ10からの情報に基づいて、車両のステアリングの操舵の目標値となる自動運転舵角指令Asを生成する。
【0018】
自動運転支援制御装置20は、例えば経路追従制御として、第1のセンサ(画像センサ及びレーダーセンサ)から得られた周囲環境情報の1つである走行路幅の情報に基づいて車線区画線の道路幅方向の中央位置を測定し、その測定した中央位置を目標走行ラインに設定する。そして、自動運転支援制御装置20は、設定した目標走行ラインと、画像センサで測定した車線に対する自車両の横位置と、第2のセンサ(車速センサ、ヨーレートセンサ、横加速度センサ及び舵角センサ)で測定した車両状態情報と、に基づいて、自車両を目標走行ラインに追従させるための自動運転舵角指令Asを生成する。
【0019】
自動運転支援制御装置20は、例えば車線逸脱抑制制として、自車両が走行車線から逸脱しないように、第1のセンサからの周囲環境情報から走行中の車線の車線区画線を検出し、走行中の車線から他の車線への逸脱を抑制するための自動運転舵角指令Asを生成する。
【0020】
図2は、実施の形態1に係るモータコントロールユニット100のブロック図である。
図2に示すように、モータコントロールユニット100は、モータ101、モータ角度センサ102、モータ駆動部105,106、第1のCPU110(第1のモータ制御手段)、及び第2のCPU120(第2のモータ制御手段)を備える。
【0021】
モータ101は、ステアリングの舵角を得るために回転させるモータである。モータ101は、3相巻線U1,V1,W1及び3相巻線U2,V2,W2を有する。モータ101は、例えば永久磁石同期モータ、誘導モータ、同期リラクタンスモータ等、2つの3相巻線を有するモータだけでなく、より多相巻き線とするモータ又は2極2対のブラシ付きモータであってもよい。モータ101のモータ巻線は、分布巻巻線又は集中巻巻線を採用できる。
【0022】
モータ101は、いわゆる2個のステータを有するタンデムモータであってもよく、その2組のモータの巻き線が同一である必要はなく、異なる巻き線の仕様であってもよい。ただし、モータ101は、所望のモータ101の回転角度及びトルクが出力できる構成であれば、1組の巻線のみでもよいし、2組協働であってもよい。以下では、モータ101が、回転機として非突極形の永久磁石同期モータ、すなわちU相巻線、V相巻線およびW相巻線の3相巻線を有する3相ブラシレスモータである場合を例示して説明する。
【0023】
モータ角度センサ102は、モータ101の回転角度θをθ1(=θ)、θ2(=θ)として検出する。モータ角度センサ102は、検出した回転角度θ1を、後述する第1のCPU110に出力し、検出した回転角度θ2を第2のCPU120に出力する。尚、
図2では、モータ角度センサ102が一つのセンサとして記載されているが、第1のCPU110及び第2のCPU120へそれぞれ独立して入力するようにした冗長の角度センサを2つ配置してもよい。モータ角度センサ102は、例としてレゾルバ、エンコーダ、又は磁気センサが挙げられるが、例に限らずモータ101の回転角度を検出できるセンサであれば形態は問わない。尚、以下において、モータ101の回転角度をモータ角度と称する場合がある。
【0024】
図3は、実施の形態1に係るモータ駆動部105及びモータ駆動部106の概略構成図である。
図3に示すように、モータ駆動部105は、電流センサ103、インバータ回路130、及び直流電源200を備える。
【0025】
電流センサ103は、モータ101の各相を流れる電流を検出し、検出した各相の電流検出値iu,iv,iwを出力する。電流センサ103は、検出した各相の電流検出値iu,iv,iwを、第1のCPU110に出力する。電流センサ103の例として、測定電流によって生じる磁束を利用したCT方式のセンサ又は電流検出用抵抗素子を用いたセンサ等が挙げられるが、例に限らずモータの各相を流れる電流を検出できるセンサであれば形態は問わない。また、
図3に例示する電流センサ103は、インバータ回路130の下側アームスイッチング素子に直列に接続されているが、
図3の例示する位置に限定されず、モータ101の各相を流れる電流を検出できる位置であればよい。
【0026】
直流電源200は、直流電圧Vdcを生成する。例えば、直流電源200は、車両に搭載されているバッテリであってもよいし、バッテリからの電力を昇圧又は降圧して直流電圧Vdcを生成してもよい。
【0027】
インバータ回路130は、第1のCPU110で生成された第1の駆動指令と、直流電源200からの直流電圧Vdcとに基づいて、キャリア周期Tc1と第1の駆動指令に対応したデューティとでPWM変調してモータ101の3相巻線U1,V1,W1に電圧を印加する。
【0028】
スイッチング素子Sup1~Swn1は、例えば、IGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)、バイポーラトランジスタ、MOS(Metal Oxide Semiconductor)パワートランジスタ等の半導体スイッチング素子である。スイッチング素子Sup1~Swn1は、第1の駆動指令に基づいてスイッチング動作を行うことにより、モータ101に所望の電圧を印加する。
【0029】
図3に示すように、モータ駆動部106は、インバータ回路140を備える。
図3に示す例では、インバータ回路140は、直流電源200から直流電圧Vdcが印加される。ただし、これに限定されず、モータ駆動部106は、直流電源200とは異なる直流電源を有してもよい。すなわち、直流電源200をモータ駆動部105のための直流電源とし、直流電源200とは異なる直流電源を別途設け、別途設けた直流電源をモータ駆動部106のための直流電源としてもよい。
【0030】
インバータ回路140は、第2のCPU120で生成された第2の駆動指令と、直流電源200からの直流電圧Vdcと、に基づいて、キャリア周期Tc2と第2の駆動指令に対応したデューティとでPWM変調してモータ101の3相巻線U2,V2,W2に電圧を印加する。スイッチング素子Sup2~Swn2は、スイッチング素子Sup1~Swn1と同様に半導体スイッチング素子であり、第2の駆動指令に基づいてスイッチング動作を行うことにより、モータ101に所望の電圧を印加する。尚、モータ駆動部106には、モータ101の回転角度をフィードバック制御するため、電流センサは設けられていない。
【0031】
第1のCPU110は、トルクセンサ3の検出結果に応じて、モータ101を駆動制御することで操舵を補助する操舵補助制御を行う。第1のCPU110には、トルクセンサ3が検出した操舵トルクTsと、車両状態センサ10の一例である車速センサで検出された車速Vとが入力する。以下に、第1のCPU110の構成について
図2を用いて説明する。尚、第1のCPU110と第2のCPU120は通信によりデータ交換可能であり、
図2に示す例では、アシストトルクTa及び舵角トルク指令T2とを交換する。アシストトルクTaは、第1指令の一例である。舵角トルク指令T2は、第2指令の一例である。
【0032】
図2に示すように、第1のCPU110は、アシスト制御部111、舵角指示部112、電流切替部113、電流制御部114、PWM変換部115、異常検知部116を備える。
【0033】
アシスト制御部111は、操舵トルクTs及び車速Vに基づいて、ステアリングシャフト4に付与すべきアシストトルクTaを演算する。アシスト制御部111は、例えば、
図4に例示するように、車速V及び操舵トルクTsのマップにより、アシストトルクTaを算出する。尚、これに限定されず、アシスト制御部111は、公知の技術を用いて車速V及び操舵トルクTsに基づいてアシストトルクTaを算出してもよい。
【0034】
舵角指示部112は、アシスト制御部111より求められたアシストトルクTaと、車両状態センサ10の一例である舵角センサから舵角検出値Amとを取得する。舵角検出値Amは、実際に操舵している状態における舵角の検出値である。舵角指示部112は、アシストトルクTa及び舵角検出値Amに基づいてアシスト舵角指令A1を算出する。アシスト舵角指令A1は、舵角の目標値(目標舵角)であり、第1指令の一例である。
【0035】
ここで、
図5に示すように、トルクセンサ3が検出する操舵トルクTsは、トーションバーによりステアリングホイール2とステアリングシャフト4とのねじれ角Adと、トーションバネレートkに比例する。ねじれ角Adは、ステアリングホイール2の角度である舵角Asとステアリングシャフト4の角度偏差である。したがって、操舵トルクTsは、次式(1)のように表される。
【0036】
Ts=k・Ad…(1)
【0037】
また、このとき、操舵トルクTsと、モータトルクTm1及びモータトルクTm2の和に減速比Nを積算した結果と、タイヤ7から伝達される路面反力Tpとの関係は、次式(2)のように表される。尚、モータトルクTm1は、モータ駆動部105によって駆動されたモータ101のモータトルクである。モータトルクTm2は、モータ駆動部106によって駆動されたモータ101のモータトルクである。
【0038】
Ts+N(Tm1+Tm2)=Tp…(2)
【0039】
ここで、次式(3)の関係式で表されるモータトルクTm2を出力する場合には、式(2)は、式(4)のように表される。
【0040】
N・Tm2=Ts…(3)
【0041】
2Ts+N・Tm1=Tp…(4)
【0042】
モータ駆動部105のみでモータトルクTm1を出力するときに対し、次式(3)のようにモータトルクTm2を出力するときには、アシスト制御部111への入力となる操舵トルクTsを1/2Tsとして入力し、アシストトルクTaを小さくすることが出来る。このとき、アシスト舵角指令A1は、式(1)及び式(3)から、式(5)として表される。例えば、舵角指示部112は、式(5)を用いてアシスト舵角指令A1を算出する。舵角指示部112は、算出したアシスト舵角指令A1を第2のCPU120に送信する。
【0043】
A1=Ts/k+Am…(5)
【0044】
電流切替部113は、アシスト制御部111からアシストトルクTaを取得する。電流切替部113は、第2のCPU120から舵角トルク指令T2を取得する。電流切替部113は、アシストトルクTa及び舵角トルク指令T2のうち、いずれか一方を選択する。例えば、電流切替部113は、運転者が操舵する場合に操舵補助制御を行っているアシスト状態では、アシストトルクTa及び舵角トルク指令T2のうち、アシストトルクTaを選択する。電流切替部113は、車両状態センサ10からの情報に基づいて自動運転支援制御装置20より自動運転舵角指令Asが生成される自動運転支援状態では、アシストトルクTa及び舵角トルク指令T2のうち、舵角トルク指令T2を選択する。
【0045】
電流切替部113は、選択したアシストトルクTa又は舵角トルク指令T2に基づいて、モータの誘起電圧の増大を抑制するための電流指令として、q軸の目標電流である電流指令Itq及びd軸の目標電流である電流指令Itdを求める。d軸の電流指令Itdは公知の制御により生成されればよく、例えば最大トルク/電流(MTPA)制御に基づいて生成されてもよい。
【0046】
電流制御部114は、電流切替部113から、dq軸の電流目標値である電流指令Itd,Itqを取得する。電流制御部114は、電流センサ103から電流検出値iu,iv,iwを取得する。電流制御部114は、電流検出値iu,iv,iwをdq軸の電流検出値Id,Iqに変換する。電流制御部114は、dq軸の電流指令Itd,Itqと、dq軸の電流検出値Id,Iqと、に基づいて駆動指令を演算する一般的なベクトル制御を行う。
【0047】
図6は、実施の形態1に係る電流制御部114のブロック図である。電流制御部114は、座標変換器131、偏差演算器132、電流制御器133、偏差演算器134、電流制御器135、及び座標変換器136を備える。
【0048】
座標変換器131は、モータ角度センサ102で検出された回転角度θ1に基づいて、モータ101の3相の電流検出値Iu,Iv,Iwで2相に座標変換することでq軸の電流検出値Id及びd軸の電流検出値Iqを得る。座標変換器131は、q軸の電流検出値Iqを偏差演算器132に出力し、d軸の電流検出値Idを偏差演算器134に出力する。
【0049】
偏差演算器132は、q軸の電流指令Itq及びq軸の電流検出値Iqの偏差を演算し、演算した偏差を電流制御器133に出力する。偏差演算器134は、d軸の電流指令Itd及びd軸の電流検出値Idの偏差を演算し、演算した偏差を電流制御器135に出力する。
【0050】
電流制御器133は、偏差演算器132から出力される偏差に基づいて、駆動指令となるq軸の目標電圧Vqを演算する。電流制御器133は、目標電圧Vqを座標変換器136に出力する。電流制御器135は、偏差演算器134から出力される偏差に基づいて、駆動指令となるd軸の目標電圧Vdを演算する。電流制御器133は、目標電圧Vdを座標変換器136に出力する。
【0051】
座標変換器136は、回転角度θ1に基づいて、dq軸の目標電圧Vd,Vqを3相の駆動電圧Vu1,Vv1,Vw1に座標変換する。座標変換器136は、駆動電圧Vu1,Vv1,Vw1をPWM変換部115に出力する。
【0052】
電流制御器133は、q軸の電流指令Itqと電流検出値Iqとの偏差を0にするようにフィードバック制御を行う制御器である。電流制御器135は、d軸の電流指令Itdと電流検出値Idとの偏差を0にするようにフィードバック制御を行う制御器である。電流制御器133,135は、一般的なモータ制御で用いられる比例積分制御を用いてもよいし、公知の比例制御、積分制御、微分制御を任意に組み合わせたものを用いてもよいし、他の公知の制御を用いてもよいし、複数の公知の制御を組み合わせて用いてもよい。
【0053】
PWM変換部115は、公知のパルス幅変調として、キャリア周期Tc1及び駆動電圧Vu1,Vv1,Vw1に対応して、デューティ比の第1の駆動指令をスイッチング素子Sup1~Swn1に出力することでスイッチング素子Sup1~Swn1をオン状態又はオフ状態に制御する。
【0054】
第2のCPU120は、自動運転舵角指令Asに応じて、モータ101を駆動制御することでステアリングの自動操舵を行う自動運転支援制御を行う。第2のCPU120は、舵角指示部122、舵角切替部123、モータ角度制御部124、PWM変換部125、及び異常検知部126を備える。
【0055】
図7は、実施の形態1に係る舵角指示部122のブロック図である。舵角指示部122は、自動運転支援制御装置20が生成した自動運転舵角指令Asと、車両状態センサ10の舵角センサからの実際に操舵している状態の舵角検出値Amと、に基づいて、舵角トルク指令T2を生成する。
図7に示すように、舵角指示部122は、偏差演算器141及び舵角制御器142を備える。
【0056】
偏差演算器141は、自動運転舵角指令Asと舵角検出値Amとの偏差を演算する。偏差演算器141は、演算した偏差を舵角制御器142に出力する。舵角制御器142は、自動運転舵角指令Asと舵角検出値Amとの偏差を0にするような舵角トルク指令T2を生成するためのフィードバック制御を行う制御器である。舵角トルク指令T2は、自動運転舵角指令Asと舵角検出値Amとの偏差を0にするようなモータトルクの目標値である。舵角制御器142は、公知の比例制御、積分制御、微分制御を任意に組み合わせたものを用いてもよいし、他の公知の制御を用いてもよいし、複数の公知の制御を組み合わせて用いてもよい。
【0057】
舵角切替部123は、自動運転支援制御装置20から自動運転舵角指令Asを取得し、舵角指示部112からアシスト舵角指令A1を取得する。舵角切替部123は、アシスト状態の場合には、自動運転舵角指令As及びアシスト舵角指令A1のうち、アシスト舵角指令A1を舵角指令Atとして選択する。舵角指令Atは、モータ101の回転角度の指令値である。舵角切替部123は、車両状態センサ10からの情報に基づいて自動運転支援制御を行っている自動運転支援状態の場合には、自動運転舵角指令As及びアシスト舵角指令A1のうち、自動運転舵角指令Asを舵角指令Atとして選択する。舵角切替部123は、舵角指令Atをモータ角度制御部124に出力する。
【0058】
図8は、実施の形態1に係るモータ角度制御部124のブロック図である。モータ角度制御部124は、偏差演算器151、舵角制御器152、及び駆動波形生成器153を備える。
【0059】
偏差演算器151は、舵角切替部123から出力された舵角指令Atと、車両状態センサ10の舵角センサからの舵角検出値Amと、の偏差を演算する。偏差演算器151は、演算した偏差を舵角制御器152に出力する。
【0060】
舵角制御器152は、舵角指令Atと舵角検出値Amとの偏差を0にするような指令電圧V2を生成するためのフィードバック制御を行う制御器である。舵角制御器152は、公知の比例制御、積分制御、微分制御を任意に組み合わせたものを用いてもよいし、他の公知の制御を用いてもよいし、複数の公知の制御を組み合わせて用いてもよい。
【0061】
駆動波形生成器153は、指令電圧V2及び回転角度θ2に基づいて、モータトルクが最大となるように、指令電圧V2を3相に変換した駆動電圧Vu2,Vv2,Vw2をPWM変換部125に対して出力する。このとき、図示はしないが、モータ101を指令された角度へ回転させるために、モータ101にはトルクを最大に引き出すように例えばモータ101の誘起電圧とモータ角度の位相を制御する公知の進角制御を用いて駆動電圧Vu2,Vv2,Vw2を生成すればよい。
【0062】
PWM変換部125は、公知のパルス幅変調として、キャリア周期Tc2と駆動指令Vu2,Vv2,Vw2に対応したデューティ比の第2の駆動指令をスイッチング素子Sup2~Swn2に出力することでスイッチング素子Sup2~Swn2をオン状態又はオフ状態に制御する。
【0063】
従来、特許文献2のように、自動運転支援制御として舵角制御する場合と、運転者が操舵時に操舵補助制御(アシスト制御)する場合とのいずれにおいても、操舵トルク及び車速に基づいて電流指示値を演算し、モータに流れる電流が電流指示値となるように電流フィードバック制御を行っている。
【0064】
車両の転舵するときの応答性は、数Hz程度の応答性しかなく、モータの電気的特性により決定される電流の応答性が100Hz以上であることから、車両として必要とする応答性は、十分低くてよい。電流応答に比べ、操舵時の応答性が低い場合には、電流フィードバック制御を省略し、目標とする舵角に追従するように角度フィードバック制御で十分であるといえる。このため、本実施の形態では、電流フィードバック制御として必要とする電流検出を省くことで、安価に装置を構成することができる。
【0065】
特許文献2では、操舵補助制御するためにモータを駆動する場合、もしくは、自動運転支援制御するためのモータを駆動する場合では、モータ101を駆動する系統として一つ系統のみでモータを駆動しているため、モータ出力が小さい場合がある。本実施の形態の電動パワーステアリング装置1は、モータ101を駆動する系統として2系統を有し、一方の系統が他方の系統を補助するようにモータ駆動することができ、より大きなモータ出力を得ることができる。
【0066】
国際公開第2018/088465号に開示されている電動パワーステアリング装置は、操舵補助制御を行うために2つの独立したモータ駆動回路を有しているが、そのために、それぞれのモータ駆動回路においてトルクセンサの入力回路及び電流センサを必要とする。本実施の形態では、
図2に示すように、トルクセンサ3の入力回路及び電流センサ103は一方のモータ駆動回路のみに設けられおり、本装置に係るコストを低減することができる。
【0067】
国際公開第2018/088465号では、各モータ駆動回路にCPUが搭載されており、その2つのCPUは同じ処理能力を必要とする。本実施の形態における第2のCPU120は、第1のCPU110と比較して、トルクセンサ3からの入力、アシスト制御部111、電流検出から始まる電流制御部114の機能を有していない。すなわち、第2のCPU120の演算処理は、第1のCPU110と比較して簡素化されている。そのため、第1のCPU110と第2のCPU120とは同じ処理能力を必要とせず、第1のCPU110と比較して処理能力の低いCPUを第2のCPU120として採用することができる。
【0068】
以下に、実施の形態1に係る電動パワーステアリング装置1の異常動作時として、モータ駆動回路が故障した場合での動作とそれに関係する詳細な形態を説明する。
【0069】
異常検知部116は、何らかの原因でモータ駆動部105によりモータ101を駆動できないような異常が発生した場合には、その異常を検知する。尚、異常検知部116による異常の検知方法及び異常が発生した相の特定方法は、公知の技術を用いればよい。モータ駆動部105によりモータ101を駆動できないような異常とは、モータ101の異常、モータ駆動部105の異常、電流センサ103の異常、回転角度θ1の異常、直流電源200からスイッチング素子Sup1~Swp1へ電源供給されない場合等である。
【0070】
異常検知部116は、例えば、いずれかの相の電流検出値が0(零)である時間の長さが事前に定めた値に達した場合には、その相が電流の流れない相であると判定して異常であると判定してもよい。異常検知部116は、異常判定用の駆動指令を出力したときの電流検出値、スイッチング素子Sup1~Swn1の高電位側と低電位側の電位差から異常判定を行ってもよい。
【0071】
異常検知部116によりモータ駆動ができないと判定された場合には、PWM変換部115からモータ駆動部105への第1の駆動指令が停止される。これにより、異常がある状態でのモータ駆動を抑制することができる。この場合、後述する異常検知部126が異常を検出しない場合、モータ駆動部106は正常に動作する。したがって、操舵補助制御する場合のモータトルク、もしくは、自動運転支援制御する場合のモータトルクは、モータ駆動部106により継続して出力することができる。そのため、異常が発生した場合であっても、運転者の操舵を補助することができ、自動運転支援制御も継続することができる。
【0072】
異常検知部126は、何らかの原因でモータ駆動部106によりモータ101を駆動できないような異常が発生した場合には、その異常を検知する。尚、異常検知部126による異常の検知方法と異常が発生した相の特定方法は公知の技術を用いればよい。モータ駆動部106によりモータ101を駆動できないような異常とは、モータ101の異常、モータ駆動部106の異常、回転角度θ2の異常、直流電源200からスイッチング素子Sup2~Swp2へ電源供給されない場合等である。
【0073】
異常検知部126は、例えば、モータ駆動部106に供給される電圧を検出し、その検出した電圧が第2の駆動指令と一致しない場合に異常の発生を検知してもよい。異常検知部126は、モータ駆動部106に流れる直流電流を検出し、モータ出力以上の直流電流を検知した場合には異常の発生を検知してもよい。
【0074】
異常検知部126によりモータ駆動ができないと判断された場合には、PWM変換部125からモータ駆動部106への第2の駆動指令が停止される。これにより、異常がある状態でのモータ駆動が抑制される。この場合、異常検知部116が異常の発生を検知していない場合、モータ駆動部105は正常に動作する。したがって、操舵補助制御する場合のモータトルク、もしくは、自動運転支援制御する場合のモータトルクは、モータ駆動部105により継続して出力することができる。そのため、異常が発生した場合であっても、操舵補助制御することができ、また自動運転支援制御も継続することができる。
【0075】
以下に、実施の形態1に係る電動パワーステアリング装置1の異常動作時として、第1のCPU110と第2のCPU120との間で交換する指令値が異常である場合での動作とそれに関係する詳細な形態を説明する。
【0076】
トルクセンサ3、車両状態センサ10の舵角センサ、第1のCPU110の異常により、第1のCPU110から第2のCPU120に対してアシスト舵角指令A1が入力されない場合、異常検知部126は異常の発生を検知する。第2のCPU120に対するアシスト舵角指令A1の入力がないことは、第1のCPU110にてアシスト舵角指令A1が正常に生成されていないことを示している。例えば、異常検知部126は、第2のCPU120にてアシスト舵角指令A1を受信することができない場合又はアシスト舵角指令A1の値が異常である場合に異常の発生を検知してもよい。
【0077】
アシスト状態の場合において、異常検知部126によってアシスト舵角指令A1が異常であると判断された場合には、舵角切替部123は、アシスト舵角指令A1への切替えを無効とし、PWM変換部125からモータ駆動部106への第2の駆動指令を停止してもよい。これにより、異常がある状態でのモータ駆動が抑制される。
【0078】
第1のCPU110が正常で、第1のCPU110から第2のCPU120への通信のみが異常である場合には、第1のCPU110は正常に動作することから、モータ駆動部105に第1の駆動指令を出力することができる。これにより、第1のCPU110から第2のCPU120への通信のみが異常である場合には、第1のCPU110は、モータ101を駆動し、操舵補助制御を継続することができる。尚、その他の異常、例えばトルクセンサ3、舵角センサ、第1のCPU110の異常により、アシスト舵角指令A1が生成されない場合には、モータ駆動が停止される。ただし、ステアリングホイール2からステアリングシャフト4が結合しており、運転者は、マニュアルステアリングとして転舵することは可能である。
【0079】
自動運転支援状態において、異常検知部126によってアシスト舵角指令A1が異常であると判定された場合には、舵角切替部123は、アシスト舵角指令A1への切替えを無効とし、舵角指令Atとして自動運転舵角指令Asをモータ角度制御部124に出力する。これにより、第2のCPU120からモータ駆動部106に対して第2の駆動指令が出力され、モータ駆動部106は、第2の駆動指令に基づいて、モータ101を駆動することができる。したがって、アシスト舵角指令A1が異常であっても、自動運転支援制御を継続することができる。
【0080】
車両状態センサ10又は自動運転支援制御装置20の異常により自動運転舵角指令Asが正常に生成されない場合、若しくは、舵角センサ又は第2のCPU120の異常により第1のCPU110に対して舵角トルク指令T2が入力されない場合には、異常検知部116は異常の発生を検知する。自動運転舵角指令Asが正常に生成されない場合又は第1のCPU110に対して舵角トルク指令T2が入力されない場合は、第2のCPU120において、舵角トルク指令T2を正常に生成することができないことを示している。例えば、異常検知部116は、第1のCPU110にて舵角トルク指令T2を受信することができない場合又は、舵角トルク指令T2の値が異常である場合に、異常の発生を検知してもよい。
【0081】
アシスト状態において、異常検知部116によって舵角トルク指令T2が異常であると判定された場合には、電流切替部113は、舵角トルク指令T2への切替えを無効とし、アシストトルクTaを電流制御部114に出力することができる。これにより、第1のCPU110は、第1の駆動指令をモータ駆動部105に対して出力することでモータ101を駆動させ、操舵補助を継続させることができる。
【0082】
自動運転支援状態において、異常検知部116によって舵角トルク指令T2が異常であると判定された場合には、舵角指示部122の処理を第1のCPU110で処理してもよい。舵角指示部122の処理を第1のCPU110で処理することにより、舵角トルク指令T2が第1のCPU110で生成され、電流切替部113は、自動運転支援制御としての舵角トルク指令T2を選択して電流制御部114に出力する。これにより、第1のCPU110からモータ駆動部105に対して第1の駆動指令が出力され、モータ駆動部105は、第1の駆動指令に基づいてモータ101を駆動する。
【0083】
このように、異常検知部116によって舵角トルク指令T2が異常であると判定された場合であっても、自動運転支援を継続することができる。電動パワーステアリング装置1において異常が発生した場合には、運転者が操舵する場合よりも、自動運転時の支援を継続することを優先させることができる。
【0084】
以上説明した実施の形態1に係る電動パワーステアリング装置1は、モータ101に通電する電流の指令値とモータ101に通電された電流との差に応じてモータ101の駆動を指示する第1のモータ制御手段と、モータ101の回転角度の指令値とモータ101の回転角度との差に応じて、モータ101の駆動を指示する第2のモータ制御手段と、を備える。
【0085】
第1のモータ制御手段は、操舵補助制御を行っている場合には、第2のモータ制御手段に対してモータ101を駆動制御させるための第1指令を送信することで第2のモータ制御手段でモータ駆動を補助させる。第1のモータ制御手段は、自動運転支援制御が行われている場合には、第2のモータ制御手段から送信されるモータ101を駆動制御するための第2指令に基づいてモータ101の駆動制御を行ってモータ101の駆動を補助する。
【0086】
第2のモータ制御手段は、自動運転支援制御を行っている場合には、第1のモータ制御手段に対して第2指令を送信し、操舵補助制御が行われている場合には、第1指令に基づいてモータ101の駆動制御を行ってモータ101の駆動を補助する。
【0087】
したがって、第1のモータ制御手段又は第2のモータ制御手段により、舵補助制御及び自動運転支援制御の双方のモータトルクを補助するとともに、第1のモータ制御手段、又は、第2のモータ制御手段が異常となっても、他方のモータ制御手段によりモータ101を補助することができる。すなわち、操舵補助制御時に異常が生じても操舵補助を継続することができ、自動運転支援制御時に異常が生じても自動運転支援を継続することができる。
【0088】
また、異常時のためだけのハードウェアの追加は不要であり、操舵補助制御を実行する場合及び自動運転支援制御を実行する場合に、2つのモータ駆動回路でモータ101を駆動することで、モータ101の出力を合わせ、トータルとしてモータ101の出力を向上することができる。
【0089】
ここで、国際公開第2016/199839号の制御方式では、モータに流す駆動電流の目標値である電流指示値の異常には対処できるが、その対処として電流指示値を変更することしかできない。そのため、国際公開第2016/199839号の制御方式では、電流指示値を受けて駆動電流をモータに流すモータ駆動部又はモータに異常が発生した場合に、その異常に対しては対処できないという問題がある。
【0090】
また、国際公開第2016/199839号の制御方式では、電流指示値の生成に関わるどの構成要素に異常が生じたかを特定するものではなく、単純に、ヨーレートを抑制するようカウンタを充てるだけである。そのため、異常が発生した場合には、車両挙動の不安定化は防げるが、異常の状態に適した制御を行っておらず、目標経路に追従するような自動運転支援を継続することはできないという課題がある。
【0091】
実施の形態1に係る電動パワーステアリング装置1は、第1のモータ制御手段によるモータ駆動、又は、第2のモータ制御手段によるモータ駆動が異常となっても、他方のモータ制御手段によりモータ101を駆動させる。そのため、モータ101からできるだけ正常時に近いトルクを出力させることができ、自動運転支援を継続し、運転者に安心感を与えることができる。
【0092】
<実施の形態2>
実施の形態2に係る電動パワーステアリング装置1Aについて説明する。
図9は、実施の形態2に係る電動パワーステアリング装置1Aを搭載した車両の操舵系の構成図である。実施の形態2に係る電動パワーステアリング装置1Aは、実施の形態1と比較して、車両状態センサ10の舵角センサを用いて求めていた舵角検出値Amをモータコントロールユニット100A内部に持たせる点で相違する。尚、以下の説明において、実施の形態1で説明した内容と同様の機能を有する部分については、同様の名称および符号を付するものとし、その機能に関する具体的な説明は省略する。
【0093】
電動パワーステアリング装置1Aは、トルクセンサ3、ステアリングシャフト4、減速機5、ラック・ピニオンギア6、車両状態センサ10、自動運転支援制御装置20、及びモータコントロールユニット100Aを備える。電動パワーステアリング装置1Aは、実施の形態1と同様に、自動運転支援制御を有しており、異常が生じたとしても車両の自動運転を継続させる。
【0094】
図10は、実施の形態2に係るモータコントロールユニット100Aのブロック図である。
図10に示すように、モータコントロールユニット100Aは、モータ101、モータ角度センサ102、モータ駆動部105,106、第1のCPU110A(第1のモータ制御手段)、及び第2のCPU120A(第2のモータ制御手段)を備える。
【0095】
第1のCPU110Aは、アシスト制御部111、舵角指示部112、電流切替部113、電流制御部114、PWM変換部115、異常検知部116、及び舵角演算部117を備える。
【0096】
舵角演算部117は、モータ角度センサ102に接続されており、モータ角度センサ102から回転角度θ1を取得する。舵角演算部117は、回転角度θ1を積算することで舵角検出値Amを求める。尚。舵角検出値Amは、ステアリングシャフト4に相当する舵角に換算した値である。舵角演算部117は、求めた舵角検出値Amを舵角指示部112に出力する。
【0097】
第2のCPU120Bは、舵角指示部122、舵角切替部123、モータ角度制御部124、PWM変換部125、異常検知部126、及び舵角演算部127を備える。
【0098】
舵角演算部127は、モータ角度センサ102に接続されており、モータ角度センサ102から回転角度θ2を取得する。舵角演算部127は、回転角度θ2を積算することで舵角検出値Amを求める。舵角演算部127は、求めた舵角検出値Amを舵角指示部122及びモータ角度制御部124に出力する。
【0099】
以上説明した実施の形態2に係る電動パワーステアリング装置1Aは、実施の形態1の効果を奏する他、舵角検出値Amを求める構成をモータコントロールユニット100内に含めモータ角度センサ102からのモータ角度から舵角検出値Amを求めることにより、モータコントロールユニット100の外部に舵角センサを設けることなく、装置を安価に構成することができる。
【0100】
<実施の形態3>
実施の形態3に係る電動パワーステアリング装置1Bについて説明する。
図11は、実施の形態3に係る電動パワーステアリング装置1Bを搭載した車両の操舵系の構成図である。実施の形態3に係る電動パワーステアリング装置1Bは、実施の形態2と比較して、舵角による舵角制御をモータ角度の偏差によるモータ角度制御に置き換える点が異なる。尚、以下の説明において、実施の形態1又は実施の形態2で説明した内容と同様の機能を有する部分については、同様の名称および符号を付するものとし、その機能に関する具体的な説明は省略する。
【0101】
電動パワーステアリング装置1Bは、トルクセンサ3、ステアリングシャフト4、減速機5、ラック・ピニオンギア6、車両状態センサ10、自動運転支援制御装置20、及びモータコントロールユニット100Bを備える。電動パワーステアリング装置1Bは、実施の形態1と同様に、自動運転支援制御を有しており、異常が生じたとしても車両の自動運転を継続させる。
【0102】
図12は、実施の形態3に係るモータコントロールユニット100Bのブロック図である。
図12に示すように、モータコントロールユニット100Bは、モータ101、モータ角度センサ102、モータ駆動部105,106、第1のCPU110B(第1のモータ制御手段)、及び第2のCPU120B(第2のモータ制御手段)を備える。
【0103】
第1のCPU110Bは、アシスト制御部111、モータ角度偏差指示部112b、電流切替部113、電流制御部114、PWM変換部115、異常検知部116、及び舵角演算部117を備える。第2のCPU120Bは、モータ角度変換部121、舵角指示部122b、モータ角度偏差切替部123b、モータ角度制御部124b、PWM変換部125、異常検知部126、及び舵角演算部127を備える。
【0104】
モータ角度偏差指示部112bは、アシスト制御部111より求められたアシストトルクTaを取得する。モータ角度偏差指示部112bは、回転角度の偏差、すなわち、ある時点の回転角度θ1に対し、指示すべき回転角度との差をアシスト角度偏差指令θdとして、モータ角度偏差切替部123bへ通知する。尚、指示すべき回転角度とは、目標とする回転角度である。回転角度θ(アシスト角度偏差指令θd)とモータトルクTとの関係は、式(6)に示す伝達関数で表される。
【0105】
【0106】
ここで、sが微分演算子であり、Jmが慣性モーメントであり、Dmが粘性摩擦係数である。式(6)に示す回転角度θは、ある時点の回転角度θ1に対し、アシストトルクTaをモータに出力することで回転させるための回転角度の目標値であり、アシスト角度偏差指令θdである。モータ角度偏差指示部112bは、アシスト制御部111から取得したアシストトルクTaを用いて、式(6)からアシスト角度偏差指令θdを求める。モータ角度偏差指示部112bは、求めたアシスト角度偏差指令θdをモータ角度偏差切替部123bに出力する。尚、アシスト角度偏差指令は、第1の偏差の一例である。
【0107】
モータ角度変換部121は、自動運転支援制御装置20から出力された自動運転舵角指令Asを減速比で徐算することによりモータ101の回転角度に変換する。モータ角度変換部121は、変換した回転角度とモータ角度センサ102から入力された回転角度θ2との差を自動運転モータ角度偏差指令θsとして求める。モータ角度変換部121は、求めた自動運転モータ角度偏差指令θsを、舵角指示部122b及びモータ角度偏差切替部123bに出力する。尚、アシスト角度偏差指令(第1の偏差)は、第1指令の一例である。
【0108】
舵角指示部122bは、モータ角度変換部121から得られた自動運転モータ角度偏差指令θsを0にするようにフィードバック制御することで舵角トルク指令T2を生成する。舵角指示部122bで実行されるフィードバック制御は、公知の比例制御、積分制御、微分制御を任意に組み合わせたものを用いてもよいし、他の公知の制御を用いてもよいし、複数の公知の制御を組み合わせて用いてもよい。舵角指示部122bは、生成した舵角トルク指令T2を電流切替部113に出力する。
【0109】
モータ角度偏差切替部123bは、モータ角度変換部121からの自動運転モータ角度偏差指令θsと、モータ角度偏差指示部112bからのアシスト角度偏差指令θdとのうち、いずれか一方の指令をモータ角度偏差指令θtとして選択する。例えば、モータ角度偏差切替部123bは、運転者が操舵する場合には、アシスト角度偏差指令θdをモータ角度偏差指令θtとして選択する。例えば、モータ角度偏差切替部123bは、自動運転支援が行われる場合には、自動運転モータ角度偏差指令θsをモータ角度偏差指令θtとして選択する。
【0110】
図13は、実施の形態3に係るモータ角度制御部124bのブロック図である。
図13に示すように、モータ角度制御部124bは、モータ角度制御器152b及び駆動波形生成器153を備える。
【0111】
モータ角度制御器152bは、モータ角度偏差切替部123bからモータ角度偏差指令θtを取得し、取得したモータ角度偏差指令θtを0にするような指令電圧V2を生成するためのフィードバック制御を行う。モータ角度制御器152bで実行されるフィードバック制御は、公知の比例制御、積分制御、微分制御を任意に組み合わせたものを用いても良いし、他の公知の制御を用いてもよいし、複数の公知の制御を組み合わせて用いてもよい。モータ角度制御器152bは、生成した指令電圧V2を駆動波形生成器153に出力する。
【0112】
駆動波形生成器153は、駆動波形生成器153から得られた指令電圧V2と、モータ角度センサ102から得られた回転角度θ2とに基づいて、モータトルクが最大となるように3相に変換した駆動電圧Vu,Vv,Vwを生成する。そして、駆動波形生成器153は、駆動電圧Vu,Vv,VwをPWM変換部125に出力する。このとき、図示はしないが、モータ101にはモータ角度を指令された角度へ移動するために、モータ101にはトルクを最大に引き出すように、例えば、モータ101の誘起電圧とモータ角度の位相を制御する公知の進角制御を用い駆動電圧Vu,Vv,Vwを生成すればよい。
【0113】
舵角演算部127は、モータ角度センサ102に接続されており、モータ角度センサ102から回転角度θ2を取得する。舵角演算部127は、回転角度θ2を積算することで舵角検出値Amを求める。舵角演算部127は、自動運転支援制御装置20に対して、舵角センサの代わりに舵角検出値Amを送信する。
【0114】
以上説明した実施の形態3に係る電動パワーステアリング装置1Bは、実施の形態1の効果を奏する他、舵角による舵角制御をモータ角度の偏差によるモータ角度制御に置き換えることにより、舵角による舵角制御をモータ角度の偏差によるモータ角度制御に置き換える、すなわち舵角に依存した制御をモータコントロールユニット100B内部の角度情報に基づく制御に置き換えることで、角度変換に係る処理を簡略化することができる。
【0115】
<実施の形態4>
実施の形態4に係る電動パワーステアリング装置1Cについて説明する。
図14は、実施の形態4に係る電動パワーステアリング装置1Cを搭載した車両の操舵系の構成図である。尚、以下の説明において、実施の形態1、実施の形態2又は実施の形態3で説明した内容と同様の機能を有する部分については、同様の名称および符号を付するものとし、その機能に関する具体的な説明は省略する。
【0116】
電動パワーステアリング装置1Cは、トルクセンサ3、ステアリングシャフト4、減速機5、ラック・ピニオンギア6、車両状態センサ10、自動運転支援制御装置20、及びモータコントロールユニット100Cを備える。電動パワーステアリング装置1Cは、実施の形態1と同様に、自動運転支援制御を有しており、異常が生じたとしても車両の自動運転を継続させる。
【0117】
図15は、実施の形態4に係るモータコントロールユニット100Cのブロック図である。
図15に示すように、モータコントロールユニット100Cは、モータ101、モータ角度センサ102、モータ駆動部105,106、第1のCPU110C(第1のモータ制御手段)、及び第2のCPU120C(第2のモータ制御手段)を備える。
【0118】
第1のCPU110Cは、アシスト制御部111、電流変換部210、電流制御部114、目標電圧切替部118、PWM変換部115、及び異常検知部116を備える。第2のCPU120Cは、モータ角度変換部121、モータ角度制御部124b、目標電圧切替部128、PWM変換部125、異常検知部126、及び舵角演算部127を備える。
【0119】
電流変換部210は、アシスト制御部111からアシストトルクTaを取得する。電流変換部210は、アシスト制御部111から取得したアシストトルクTaに基づいて、モータ101の誘起電圧の増大を抑制するための電流指令を、それぞれq軸の電流指令Itq、d軸の電流指令Itdとして求める。d軸の電流指令Itdは、公知の制御により生成すればよく、例えば最大トルク/電流(MTPA)制御に基づいて生成されてもよい。
【0120】
電流制御部114は、電流切替部113からdq軸の電流指令Itd,Itqを取得する。電流制御部114は、電流センサ103から電流検出値iu,iv,iwを取得する。電流制御部114は、電流検出値iu,iv,iwをdq軸の電流検出値Id,Iqに変換する。電流制御部114は、dq軸の電流指令Itd,Itqと、dq軸の電流検出値Id,Iqと、に基づいて3相の駆動指令Vu1,Vv1,Vw1を演算する。
【0121】
ここで、電流制御部114によって演算された駆動指令Vu1,Vv1,Vw1をアシスト駆動電圧Vua,Vva,Vwaと称する。座標変換器136は、アシスト駆動電圧Vua,Vva,Vwaを目標電圧切替部118及び目標電圧切替部128に出力する。アシスト駆動電圧Vua,Vva,Vwaは、モータ101を駆動するための電圧の目標値(第1の目標電圧)であり、第1指令の一例である。
【0122】
目標電圧切替部118は、電流制御部114の電流フィードバックより算出されたアシスト駆動電圧Vua,Vva,Vwaを電流制御部114から取得する。目標電圧切替部118は、モータ角度制御部124bの角度フィードバックより算出された自動運転角度駆動電圧Vus,Vvs,Vwsをモータ角度制御部124bから取得する。目標電圧切替部118は、アシスト駆動電圧Vua,Vva,Vwaと、自動運転角度駆動電圧Vus,Vvs,Vwsと、のうち、いずれか一方を駆動電圧Vu1,Vv1,Vw1として選択する。尚、自動運転角度駆動電圧Vus,Vvs,Vwsは、モータ101を駆動するための電圧の目標値であり、モータ角度制御部124bが生成する駆動電圧Vu,Vv,Vwに相当する。自動運転角度駆動電圧Vus,Vvs,Vwsは、第2の目標電圧の一例であり、第2指令の一例である。
【0123】
目標電圧切替部118は、操舵補助制御を行う場合には、アシスト駆動電圧Vua,Vva,Vwaを駆動電圧Vu1,Vv1,Vw1として選択する。一方、目標電圧切替部118は、自動運転支援制御を行う場合には、自動運転角度駆動電圧Vus,Vvs,Vwsを駆動電圧Vu1,Vv1,Vw1として選択する。目標電圧切替部118は、選択した駆動電圧Vu1,Vv1,Vw1をPWM変換部115に出力する。
【0124】
目標電圧切替部128は、電流制御部114の電流フィードバックより算出されたアシスト駆動電圧Vua,Vva,Vwaを電流制御部114から取得する。目標電圧切替部128は、モータ角度制御部124bの角度フィードバックより算出された自動運転角度駆動電圧Vus,Vvs,Vwsをモータ角度制御部124bから取得する。目標電圧切替部128は、アシスト駆動電圧Vua,Vva,Vwaと、自動運転角度駆動電圧Vus,Vvs,Vwsと、のうち、いずれか一方を駆動電圧Vu2,Vv2,Vw2として選択する。
【0125】
目標電圧切替部128は、操舵補助制御を行う場合には、アシスト駆動電圧Vua,Vva,Vwaを駆動電圧Vu2,Vv2,Vw2として選択する。一方、目標電圧切替部118は、自動運転支援制御を行う場合には、自動運転角度駆動電圧Vus,Vvs,Vwsを駆動電圧Vu2,Vv2,Vw2として選択する。目標電圧切替部128は、選択した駆動電圧Vu2,Vv2,Vw2をPWM変換部125に出力する。
【0126】
実施の形態4では、モータ駆動部105の駆動電圧の出力方式とモータ駆動部106の駆動電圧の出力方式とを合わせる必要がある。そのため、モータ101は、同一巻き線仕様であることが望ましい。ただし、モータ101は、タンデムモータのように異なるステータ上で構成することできる。
【0127】
図15に示すモータコントロールユニット100Cの各構成は、
図12に示すモータコントロールユニット100Bを基にして示されているが、これに限定されない。モータコントロールユニット100Cは、モータ角度変換部121及びモータ角度制御部124bの代わりに、舵角切替部123及びモータ角度制御部124を備えてもよい。この場合には、モータ角度制御部124には、モータ角度偏差指令θt(モータ角度偏差)ではなく、自動運転舵角指令Asと舵角検出値Amが入力され、自動運転角度駆動電圧Vus,Vvs,Vwsが生成されてもよい。
【0128】
このように、実施の形態4では、第1のCPU110Cは、運転者が操舵するときの指令である駆動電圧として、電流制御部114によりアシストトルクTaから生成されたアシスト駆動電圧と、モータ角度制御部124bよりモータ角度偏差指令θtから生成した自動運転角度駆動電圧とのいずれかに切り替える。第2のCPU120Cは、運転者が操舵するときの指令である駆動電圧として、電流制御部114によりアシストトルクTaから生成されたアシスト駆動電圧と、モータ角度制御部124bよりモータ角度偏差指令θtから生成した自動運転角度駆動電圧とのいずれかに切り替える。
【0129】
以上説明した実施の形態4に係る電動パワーステアリング装置1Cは、実施の形態1の効果を奏する他、アシストトルクTaから生成されたアシスト駆動電圧と、モータ角度偏差指令θtから生成された自動運転角度駆動電圧とのいずれか一方をPWM変換部に出力することで、舵角指示部122の処理が不要となり、より演算を簡素化することができる。その結果、CPUにかかる処理負荷を軽減することができる。
【0130】
<実施の形態5>
実施の形態5に係る電動パワーステアリング装置1Dについて説明する。
図16は、実施の形態5に係る電動パワーステアリング装置1Dを搭載した車両の操舵系の構成図である。尚、以下の説明において、実施の形態1から実施の形態4で説明した内容と同様の機能を有する部分については、同様の名称および符号を付するものとし、その機能に関する具体的な説明は省略する。
【0131】
電動パワーステアリング装置1Dは、トルクセンサ3、ステアリングシャフト4、減速機5、ラック・ピニオンギア6、車両状態センサ10、自動運転支援制御装置20、及びモータコントロールユニット100Dを備える。電動パワーステアリング装置1Dは、実施の形態1と同様に、自動運転支援制御を有しており、異常が生じたとしても車両の自動運転を継続させる。
【0132】
図17は、実施の形態5に係るモータコントロールユニット100Dのブロック図である。
図17に示すように、モータコントロールユニット100Dは、モータ101、モータ角度センサ102、モータ駆動部105,106、第1のCPU110D(第1のモータ制御手段)、及び第2のCPU120D(第2のモータ制御手段)を備える。実施の形態5に係るモータ駆動部106は、インバータ回路140及び電流センサ103を備える。このように、実施の形態5に係るモータ駆動部106は、モータ駆動部105と同様に電流センサ103を有し、3相の電流検出値Iu2,Iv2,Iw2をモータ角度制御部124cに出力する。
【0133】
第1のCPU110Dは、アシスト制御部111、モータ角度偏差指示部112b、電流切替部113、電流制御部114、PWM変換部115、及び異常検知部116を備える。第2のCPU120Dは、モータ角度変換部121、舵角指示部122b、モータ角度偏差切替部123b、モータ角度制御部124c、PWM変換部125、異常検知部126、及び舵角演算部127を備える。
【0134】
図18は、実施の形態5に係るモータ角度制御部124cのブロック図である。
図18に示すように、モータ角度制御部124cは、モータ角度制御器152c、モータ回転速度演算器154、モータ速度偏差演算器155、モータ回転数制御器156、座標変換器157、偏差演算器158,159、電流制御器160,161、及び座標変換器162を備える。
【0135】
モータ角度制御器152cは、モータ角度偏差切替部123bからモータ角度偏差指令θtを取得する。モータ角度制御器152cは、取得したモータ角度偏差指令θtに基づいて、目標モータ回転速度ωtを生成する。例えば、モータ角度制御器152cは、モータ角度偏差指令θtを0にするように目標モータ回転速度ωtを生成するためのフィードバック制御を行う。このフィードバック制御は、公知の比例制御、積分制御、微分制御を任意に組み合わせたものを用いてもよいし、他の公知の制御を用いてもよいし、複数の公知の制御を組み合わせて用いてもよい。
【0136】
モータ回転速度演算器154は、モータ角度センサ102が検出した現在の回転角度θ2と、所定時間、例えば100μs前にモータ角度センサ102が検出した回転角度θ2zとの差分によりモータ回転速度ωmを算出する。モータ回転速度演算器154は、算出したモータ回転速度ωmを、モータ速度偏差演算器155に出力する。
【0137】
モータ速度偏差演算器155は、モータ角度制御器152cから目標モータ回転速度ωtを取得する。モータ速度偏差演算器155は、モータ回転速度演算器154からモータ回転速度ωmを取得する。モータ速度偏差演算器155は、目標モータ回転速度ωtとモータ回転速度ωmとの偏差を演算し、演算した偏差をモータ回転数制御器156に出力する。
【0138】
モータ回転数制御器156は、目標モータ回転速度ωtとモータ回転速度ωmとの偏差を0とするように目標モータ回転トルクを生成するためのフィードバック制御を行う。このフィードバック制御は、公知の比例制御、積分制御、微分制御を任意に組み合わせたものを用いてもよいし、他の公知の制御を用いてもよいし、複数の公知の制御を組み合わせて用いてもよい。
【0139】
モータ回転数制御器156は、生成した目標モータ回転トルクに基づいて、モータ101の誘起電圧の増大を抑制するための電流指令として、q軸のモータ回転電流である目標電流Imq及びd軸のモータ回転電流である目標電流Imdを求める。d軸の目標電流Imdは公知の制御により生成すればよく、例えば最大トルク/電流(MTPA)制御に基づいて生成してもよい。モータ回転数制御器156は、目標電流Imqを偏差演算器158に対して出力し、目標電流Imdを偏差演算器159に対して出力する。
【0140】
座標変換器157は、モータ角度センサ102で検出された回転角度θ2に基づいて、モータ駆動部106の電流センサから検出された3相の電流検出値Iu2,Iv2,IW2を2相に座標変換することでdq軸の2相の電流検出値Iq2,Id2を得る。座標変換器157は、電流検出値Iq2を偏差演算器158に出力し、電流検出値Id2を偏差演算器159に出力する。
【0141】
偏差演算器158は、目標電流Imqと電流検出値Iq2との偏差を求め、求めた偏差を電流制御器160に出力する。偏差演算器159は、目標電流Imdと電流検出値Id2との偏差を求め、求めた偏差を電流制御器161に出力する。
【0142】
電流制御器160は、目標電流Imqと電流検出値Iq2との偏差を0にするようにフィードバック制御を行うことで、駆動指令となるq軸の目標電圧Vq2を生成する。電流制御器160は、目標電圧Vq2を座標変換器162に出力する。電流制御器161は、目標電流Imdと電流検出値Id2との偏差を0にするようにフィードバック制御を行うことで、駆動指令となるd軸の目標電圧Vd2を生成する。電流制御器161は、目標電圧Vd2を座標変換器162に出力する。
【0143】
電流制御器160及び電流制御器161のそれぞれのフィードバック制御は、一般的なモータ制御で用いられる比例積分制御を用いてもよいし、公知の比例制御、積分制御、微分制御を任意に組み合わせたものを用いてもよいし、他の公知の制御を用いてもよいし、複数の公知の制御を組み合わせて用いてもよい。
【0144】
座標変換器162は、モータ角度センサ102に接続され、モータ角度センサ102から回転角度θ2を取得する。座標変換器162は、回転角度θ2に基づいて、q軸の目標電圧Vq2及びd軸の目標電圧Vd2を、3相の駆動電圧Vu2,Vv2,Vw2に座標変換する。
【0145】
自動運転支援制御は、運転者を支援したり、もしくは、運転者に代わり舵角を制御したりするものであり、運転者が操舵する程度の速度でステアリングホイール2を操舵することを想定したものである。例えば、前方に障害物がありこれを緊急回避するような操舵を自動運転支援制御装置20により実現しようとする場合には舵角が急激に変化する。モータ角度によるフィードバック制御で舵角を制御する場合には、その追従性は低く、急に舵角が変化する場合の追従性を確保することが困難である場合が考えられる。このようなケースにおいて、実施の形態5に係る電動パワーステアリング装置1Dは、モータ角度によるフィードバック制御だけでなく、モータ回転数によるフィードバック制御と、モータに通電する電流に換算したモータトルクのフィードバック制御と、を用いて舵角を制御することで、モータ角度だけのフィードバックよりも応答性を向上することができる。
【0146】
以上説明した実施の形態5に係る電動パワーステアリング装置1Dは、実施の形態1の効果を奏する他、モータ回転数によるフィードバック制御と、モータに通電する電流に換算したモータトルクのフィードバック制御と、を用いて舵角を制御することで、モータ角度だけのフィードバックよりも応答性を向上することができる。
【0147】
以上、この開示の実施の形態について図面を参照して詳述してきたが、具体的な構成はこの実施形態に限られるものではなく、この開示の要旨を逸脱しない範囲の設計等も含まれる。
【符号の説明】
【0148】
1,1A,1B,1C,1D…電動パワーステアリング装置、3…トルクセンサ、10…車両状態センサ、100,100A,100B,100C,100D…モータコントロールユニット、110,110A,110B,110C,110D…第1のCPU、120,120A,120B,120C,120D…第2のCPU、101…モータ