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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-02-14
(45)【発行日】2025-02-25
(54)【発明の名称】構造物
(51)【国際特許分類】
   E04B 1/32 20060101AFI20250217BHJP
   E04B 1/04 20060101ALI20250217BHJP
   E04B 1/61 20060101ALI20250217BHJP
【FI】
E04B1/32 102D
E04B1/04 F
E04B1/61 503D
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2021114027
(22)【出願日】2021-07-09
(65)【公開番号】P2023010128
(43)【公開日】2023-01-20
【審査請求日】2023-12-15
(73)【特許権者】
【識別番号】000001373
【氏名又は名称】鹿島建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100096091
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 誠一
(74)【復代理人】
【識別番号】100193390
【弁理士】
【氏名又は名称】藤田 祐作
(73)【特許権者】
【識別番号】000219598
【氏名又は名称】東海コンクリート工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100096091
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 誠一
(72)【発明者】
【氏名】杉本 健太郎
(72)【発明者】
【氏名】下村 淳二
(72)【発明者】
【氏名】山口 圭介
(72)【発明者】
【氏名】中野 大祐
(72)【発明者】
【氏名】河野 聡志
(72)【発明者】
【氏名】阿部 達也
(72)【発明者】
【氏名】丹伊田 敬介
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 博喜
【審査官】須永 聡
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-177061(JP,A)
【文献】実公昭37-019646(JP,Y1)
【文献】特開平11-159012(JP,A)
【文献】特開2020-172767(JP,A)
【文献】特開2020-143438(JP,A)
【文献】特開昭61-183575(JP,A)
【文献】特公昭42-009864(JP,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04B 1/00-1/36
E04B 1/38-1/61
E04H 7/14
E04H 7/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
外面が、頂端と底端に向けて外側に凸となる曲線状に傾斜し、内部に空間を有する構造物であって、
前記構造物の上部躯体と下部躯体のそれぞれがプレキャスト部材により構築され、
前記下部躯体は、プレキャスト部材に形成された梁部と柱部によるラーメン構造を有し、
前記上部躯体のプレキャスト部材は、前記下部躯体の前記梁部の上に配置され
前記梁部および前記柱部は、前記空間に突出するように形成されていることを特徴とする構造物。
【請求項2】
外面が、頂端と底端に向けて外側に凸となる曲線状に傾斜し、内部に空間を有する構造物であって、
前記構造物の上部躯体と下部躯体のそれぞれがプレキャスト部材により構築され、
前記下部躯体は、プレキャスト部材に形成された梁部と柱部によるラーメン構造を有し、
前記上部躯体のプレキャスト部材は、前記下部躯体の前記梁部の上に配置され、
前記梁部は、
前記構造物の周方向の主筋と、
前記周方向に間隔を空けて配置された複数のスターラップ筋と、
をプレキャスト部材の内部に設けて形成され、
前記柱部は、
前記構造物の経線方向の主筋と、
前記経線方向に間隔を空けて配置された複数のフープ筋と、
をプレキャスト部材の内部に設けて形成されることを特徴とする構造物。
【請求項3】
外面が、頂端と底端に向けて外側に凸となる曲線状に傾斜し、内部に空間を有する構造物であって、
前記構造物の上部躯体と下部躯体のそれぞれがプレキャスト部材により構築され、
前記下部躯体は、プレキャスト部材に形成された梁部と柱部によるラーメン構造を有し、
前記上部躯体のプレキャスト部材は、前記下部躯体の前記梁部の上に配置され、
前記構造物の平面は円形であり、
前記上部躯体と前記下部躯体は、複数のプレキャスト部材を前記構造物の周方向に並べて構築され、
プレキャスト部材の内部に、前記周方向の鉄筋が設けられ、
プレキャスト部材の前記周方向の中間部では、前記鉄筋が当該プレキャスト部材の平面における曲率に沿って配置され、
前記鉄筋の端部は、プレキャスト部材の前記周方向の端部から直線状に突出し、
前記周方向に隣り合うプレキャスト部材の前記鉄筋の端部同士が、前記周方向に隣り合うプレキャスト部材の間で連結されることを特徴とする構造物。
【請求項4】
前記構造物は、前記上部躯体の上に配置されるプレキャストの頂部躯体を有し、
前記頂部躯体と前記上部躯体の間にコンクリートが打設され一体化されたことを特徴とする請求項1から請求項3のいずれかに記載の構造物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、構造物とその構築方法に関する。
【背景技術】
【0002】
タンクやプラネタリウムなど、半球や全球等の球面状の躯体からなる構造物が知られている。球面等の三次元曲面を有する躯体や複雑な形状の不定形面を有する躯体を鉄筋コンクリートで構築するための在来工法として、内外に設置した曲面型枠間にコンクリートを打設することがあるものの、工期遅延や型枠コストの増大などの課題がある。
【0003】
このような在来工法の課題を解決するものとして、特許文献1には、構造解析結果を基に配筋を決定して製作した成形鉄筋トラスユニットを現場に搬入して組み立て、トラスユニットの内外に貼設されたラス金網等の間にコンクリートを打設する方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特許第6117527号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1記載の方法では、トラスユニットの内側のラス金網等からコンクリートのノロが垂れ落ちることがあり施工性が良くない。また、構造物の外面や内面が見え掛かりになり意匠性が要求される場合、内外面の左官仕上げ作業が発生するため精度の確保が困難であり、品質確保も難しい。さらに、構造物が複雑な形状となると、その設計が難しくなり、構造計算や確認申請に手間がかかる。
【0006】
本発明は上記の問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は、高精度な品質管理が可能であり、設計・施工も容易な構造物等を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前述した目的を達成するための第1の発明は、外面が、頂端と底端に向けて外側に凸となる曲線状に傾斜し、内部に空間を有する構造物であって、前記構造物の上部躯体と下部躯体のそれぞれがプレキャスト部材により構築され、前記下部躯体は、プレキャスト部材に形成された梁部と柱部によるラーメン構造を有し、前記上部躯体のプレキャスト部材は、前記下部躯体の前記梁部の上に配置され、前記梁部および前記柱部は、前記空間に突出するように形成されていることを特徴とする構造物である。
【0008】
本発明の構造物は、上部躯体と下部躯体のそれぞれがプレキャスト部材により構築されるので、高精度な品質管理が可能であり、工期を短縮でき美観に優れ、施工性も良い。また下部躯体を梁部と柱部によるラーメン構造とし、上部躯体をラーメン構造により支持される部材とすることで、既往の構造計算での対応が可能となり、設計も容易となる。
【0009】
第2の発明は、外面が、頂端と底端に向けて外側に凸となる曲線状に傾斜し、内部に空間を有する構造物であって、前記構造物の上部躯体と下部躯体のそれぞれがプレキャスト部材により構築され、前記下部躯体は、プレキャスト部材に形成された梁部と柱部によるラーメン構造を有し、前記上部躯体のプレキャスト部材は、前記下部躯体の前記梁部の上に配置され、前記梁部は、前記構造物の周方向の主筋と、前記周方向に間隔を空けて配置された複数のスターラップ筋と、をプレキャスト部材の内部に設けて形成され、前記柱部は、前記構造物の経線方向の主筋と、前記経線方向に間隔を空けて配置された複数のフープ筋と、をプレキャスト部材の内部に設けて形成されることを特徴とする構造物である
これにより、構造物の内部空間を最大限に広く利用することができる。
【0011】
第3の発明は、外面が、頂端と底端に向けて外側に凸となる曲線状に傾斜し、内部に空間を有する構造物であって、前記構造物の上部躯体と下部躯体のそれぞれがプレキャスト部材により構築され、前記下部躯体は、プレキャスト部材に形成された梁部と柱部によるラーメン構造を有し、前記上部躯体のプレキャスト部材は、前記下部躯体の前記梁部の上に配置され、前記構造物の平面は円形であり、前記上部躯体と前記下部躯体は、複数のプレキャスト部材を前記構造物の周方向に並べて構築され、プレキャスト部材の内部に、前記周方向の鉄筋が設けられ、プレキャスト部材の前記周方向の中間部では、前記鉄筋が当該プレキャスト部材の平面における曲率に沿って配置され、前記鉄筋の端部は、プレキャスト部材の前記周方向の端部から直線状に突出し、前記周方向に隣り合うプレキャスト部材の前記鉄筋の端部同士が、前記周方向に隣り合うプレキャスト部材の間で連結されることを特徴とする構造物である
これにより、構造物の周方向に隣り合うプレキャスト部材の鉄筋同士を簡単に連結し、その接合を容易に行うことができる。
【0012】
前記構造物は、前記上部躯体の上に配置されるプレキャストの頂部躯体を有し、前記頂部躯体と前記上部躯体の間にコンクリートが打設され一体化されることが望ましい。
これにより、頂部躯体により構造物の頂端を閉じるとともに、頂部躯体と上部躯体とを
止水性を保ちつつ一体化することができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、高精度な品質管理が可能であり、設計・施工も容易な構造物等を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】構造物1の概要を示す図。
図2】構造物1を上から見た図。
図3】基礎梁10とプレキャスト部材21-1の接合部、およびプレキャスト部材21-1の柱部7を示す図。
図4】基礎梁10とプレキャスト部材21-1の接合について説明する図。
図5】プレキャスト部材21-1、21-2の接合部を示す図。
図6】プレキャスト部材21-2、31の接合部を示す図。
図7】プレキャスト部材31と頂部躯体4の接合部を示す図。
図8】構造物1の周方向に隣り合うプレキャスト部材21、31の接合部を示す図。
図9】構造物1の構築方法を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図面に基づいて本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。
【0016】
(1.構造物1)
図1は、本発明の実施形態に係る構造物1の概要を示す図である。図1(a)は構造物1の立面図であり、図1(b)は構造物1の鉛直方向の断面図である。また図2は構造物1を上から見た図である。
【0017】
構造物1は、内部に空間を有する球状の構造物であり、円形の平面を有する。構造物1の外面は球面状であり、頂端と底端に向けて外側に凸となる曲線状に傾斜する。構造物1は例えばプラネタリウム等の施設であり、内部空間には図示しないスラブや柱等も設けられる。ただし、構造物1の用途は特に限定されず、タンクその他の貯蔵設備などとして利用することもできる。
【0018】
構造物1は、底端から頂端に向かって下部躯体2、上部躯体3、頂部躯体4に区分され、これらの躯体が工場等で予め製作されたコンクリート製のプレキャスト部材により構成される。なお、敷地(サイト)に余裕があれば、敷地内でプレキャスト部材を製造しても良い。
【0019】
下部躯体2は、複数のプレキャスト部材21を構造物1の周方向に並べて構築される。プレキャスト部材21は上下2層に設けられ、下層2-1のプレキャスト部材21-1は基礎梁10の上に配置され、上層2-2のプレキャスト部材21-2は下層2-1のプレキャスト部材21-1の上に配置される。プレキャスト部材21-1、21-2は、それぞれ下部躯体2の下層2-1、上層2-2を周方向に等分割した形状である。
【0020】
上部躯体3は、下部躯体2の上に配置され、構造物1の赤道位置よりも上に設けられる。上部躯体3も、下部躯体2と同様に複数のプレキャスト部材31を構造物1の周方向に並べて構築される。プレキャスト部材31は、下部躯体2の上層2-2のプレキャスト部材21-2の上に配置される。
【0021】
プレキャスト部材31は、上部躯体3を周方向に等分割した形状である。この分割数(プレキャスト部材31の数)は下部躯体2と同じであるが、下部躯体2と異なっていても構わない。例えば、下部躯体2より少なくてもよい。いずれにせよ、分割数はプレキャスト部材21、31の製作面や運搬面、施工面を考慮して定められる。これは下部躯体2や上部躯体3の層数に関しても同様であり、製作面や運搬面、施工面に問題が無ければ、下部躯体2を上下複数層のプレキャスト部材21で構成するのではなく一層のプレキャスト部材21で構成することも可能であり、また製作面や運搬面、施工面を考慮して、上部躯体3を上下複数層のプレキャスト部材31で構成することも可能である。
【0022】
頂部躯体4は、上部躯体3の上に配置される。頂部躯体4は上に凸となる円盤状のプレキャスト部材であり、図2に示すように円形平面を有し、下部躯体2や上部躯体3のように構造物1の周方向に分割されないため止水性に優れる。また頂部躯体4は上部躯体3との間に環状の隙間を空けて設けられ、当該隙間にコンクリート5を打設することで頂部躯体4が上部躯体3に一体化される。
【0023】
(2.梁部6と柱部7)
本実施形態では、下部躯体2が、RC耐震壁付きラーメン構造として構築される。そのため、下部躯体2のプレキャスト部材21には梁部6と柱部7が形成され、梁部6と柱部7とで囲まれた部分は壁部8(耐震壁)となる。
【0024】
梁部6は構造物1の周方向に沿って環状に設けられる。梁部6は、各層2-1、2-2のプレキャスト部材21-1、21-2の上下の端部に当たる高さに設けられ、構造物1の周方向に並んだ複数のプレキャスト部材21-1、21-2のそれぞれに、梁部6を構成する部分が形成される。
【0025】
なお、梁部6は、上部躯体3のプレキャスト部材31の下端部に当たる高さでも設けられ、構造物1の周方向に並んだ複数のプレキャスト部材31のそれぞれにも、梁部6を構成する部分が形成される。
【0026】
柱部7は、下部躯体2の上下層2-1、2-2に亘って構造物1の経線方向に設けられる。柱部7は、構造物1の周方向に間隔を空けて配置され、構造物1の周方向に並んだ複数のプレキャスト部材21-1、21-2のうちの一部のプレキャスト部材21-1、21-2に、柱部7を構成する部分が形成される。
【0027】
上記のように下部躯体2が梁部6と柱部7によるラーメン構造を有する一方、上部躯体3と頂部躯体4は、ラーメン構造により支持されたスラブとして構築される。そのため、前記した柱部7は上部躯体3や頂部躯体4に設けられない。梁部6については、前記したようにプレキャスト部材31の下端部のみに例外的に設けられる。
【0028】
図3(a)は基礎梁10とプレキャスト部材21-1との接合部を示す図、図3(b)は図3(a)の線a-aに示すプレキャスト部材21-1の壁厚方向の断面を見た図である。図3(a)は図1(b)の範囲B1を拡大して示したものである。
【0029】
図3(a)に示すように、梁部6は、梁主筋61とスターラップ筋62をプレキャスト部材21-1の内部に設けて形成される部分である。プレキャスト部材21-1の下端部は内側に張り出すように形成されており、梁部6はこの張出部分に設けられる。なお「内側」とは構造物1の中心側を指し、その反対側は「外側」というものとする。
【0030】
梁主筋61は、構造物1の周方向(図3(a)の紙面法線方向に対応する)に連続する鉄筋であり、図3(a)に示す梁部6の断面において複数本配置される。スターラップ筋62は、これら複数の梁主筋61を囲むように設けられる鉄筋である。スターラップ筋62は、構造物1の周方向に間隔を空けて複数配置される。
【0031】
図3(b)に示すように、柱部7は、柱主筋71とフープ筋72をプレキャスト部材21-1の内部に設けて形成される部分である。柱主筋71は構造物1の経線方向(図3(b)の紙面法線方向に対応する)に連続する鉄筋であり、図3(b)に示す柱部7の断面において複数本配置される。フープ筋72は、これら複数の柱主筋71を囲むように設けられる鉄筋である。フープ筋72は、構造物1の経線方向に間隔を空けて複数配置される。
【0032】
なお、プレキャスト部材21-1の壁厚自体は柱部7とその他の部分(壁部8)とで変わりは無く、プレキャスト部材21-1の柱部7はその鉄筋配置により規定される。
【0033】
図3(b)の符号81、82は、壁部8の壁縦筋と壁横筋である。壁縦筋81は構造物1の経線方向の鉄筋であり、構造物1の周方向に間隔を空けて複数本配置される。壁横筋82は構造物1の周方向の鉄筋であり、構造物1の経線方向に間隔を空けて複数本配置される。壁縦筋81と壁横筋82はプレキャスト部材21-1内で内外2列に設けられる。
【0034】
図3(a)に示すように、柱主筋71の下端部711は、梁部6において、構造物1の周方向に並んだスターラップ筋62の間に埋設される。当該下端部711は内側に折り曲げられ、梁部6のコンクリートに定着される。これは壁縦筋81の下端部についても同様である。
【0035】
(3.基礎梁10とプレキャスト部材21-1の接合)
前記の図3(a)に示すように、構造物1の周方向に並んだ梁部6のスターラップ筋62の間には、ジョイント筋11aと継手部材12も埋設される。ジョイント筋11aと継手部材12は、プレキャスト部材21-1を基礎梁10に接合するための部材であり、ジョイント筋11aの下端部が筒状の継手部材12の上端部に挿入される。継手部材12の下面はプレキャスト部材21-1の下面に露出し、基礎梁10の上面から突出するジョイント筋11bの上端部が継手部材12の下端部に挿入される。
【0036】
ジョイント筋11aは内外2列に設けられる。内側のジョイント筋11a-1の上端部は外側に向かってL字状に折り曲げられ、梁部6のコンクリートに定着される。外側のジョイント筋11a-2の上端部は内側に向かってL字状に折り曲げられ、同じく梁部6のコンクリートに定着される。内外のジョイント筋11a-1、11a-2は、構造物1の周方向の位置をずらして配置される。以上は基礎梁10のジョイント筋11bについても同様であるが、ジョイント筋11bの定着については、内側のジョイント筋11b-1の下端部を外側に向かってL字状に折り曲げ、外側のジョイント筋11b-2の下端部を内側に向かって折り曲げることで行われる。
【0037】
基礎梁10の上面とプレキャスト部材21-1の下面は略水平に仕上げられており、その間には目地部14が設けられる。目地部14は、モルタル等で設けた内外のシール材S1の間に充填材を充填することで形成される。充填材にはモルタル等が用いられる。
【0038】
本実施形態では、図4(a)の矢印bに示すようにプレキャスト部材21-1を鉛直下方に吊り降ろし、図4(b)に示すように、前記したジョイント筋11bの上端部が継手部材12内に挿入されるように基礎梁10の上面のシール材S1上に載置する。その後、プレキャスト部材21-1の注入口13aから継手部材12内にモルタル等の充填材を注入する。
【0039】
充填材は、継手部材12の内部に充填されるとともに、継手部材12から基礎梁10の上面とプレキャスト部材21-1の下面の間の隙間に流出し、当該隙間に充填される。作業者は、充填材がプレキャスト部材21-1の排出口13bから排出されるのを確認し、充填作業を完了する。注入口13aと排出口13bは、プレキャスト部材21-1の内面から継手部材12に達するように、プレキャスト部材21-1に予め形成されている。
【0040】
上記の充填作業により、ジョイント筋11a、11bが継手部材12により連結されるとともに、基礎梁10の上面とプレキャスト部材21-1の下面の間の隙間に充填材による目地部14が形成され、基礎梁10とプレキャスト部材21-1が接合される。
【0041】
本実施形態では、プレキャスト部材21-1を鉛直下方に吊り降ろしてセットするので施工が容易である。またプレキャスト部材21-1の設置面が略水平なので、プレキャスト部材21-1の設置時の安定性も高く、プレキャスト部材21-1を支えるサポート材(不図示)が少量で済む。
【0042】
(4.プレキャスト部材21-1、21-2の接合)
図5は、下部躯体2の上下層2-1、2-2のプレキャスト部材21-1、21-2の接合部を示す図であり、図1(b)の範囲B2を拡大して示したものである。
【0043】
図5に示すように、プレキャスト部材21-1の上端部はそれより下方の部分に比べて増厚しており、プレキャスト部材21-1の上端部の梁部6はこの増厚部分に設けられる。
【0044】
またプレキャスト部材21-2の下端部は構造物1の内部に張り出すように形成されており、プレキャスト部材21-2の下端部の梁部6はこの張出部分に設けられる。張出部分の内面は、上記した増厚部分の内面と同一面となっている。
【0045】
これらの梁部6は、基本的には先程説明したプレキャスト部材21-1の下端部の梁部6と同様の構成である。ただし、プレキャスト部材21の形状の違い等に応じてスターラップ筋62の形状等は異なる。
【0046】
プレキャスト部材21-2には前記した柱部7も形成され、前記の壁縦筋81や壁横筋82も設けられる。プレキャスト部材21-2の下端部の梁部6には、柱主筋71や壁縦筋81の下端部とともにジョイント筋11aと継手部材12が前記と同様に埋設され、上下層2-1、2-2のプレキャスト部材21-1、21-2は前記と同様の手順で接合される。その際に継手部材12に挿入するジョイント筋11bは、プレキャスト部材21-1の上端部において、構造物1の周方向に並んだ梁部6のスターラップ筋62の間に埋設される。スターラップ筋62の間には、柱主筋71や壁縦筋81の上端部も埋設される。
【0047】
(5.プレキャスト部材21-2、31の接合)
図6(a)は、下部躯体2のプレキャスト部材21-2と上部躯体3のプレキャスト部材31の接合部を示す図であり、図1(b)の範囲B3を拡大して示したものである。
【0048】
図6(a)の符号91、92は、プレキャスト部材31の補強筋であるスラブ縦筋とスラブ横筋である。スラブ縦筋91は構造物1の経線方向の鉄筋であり、構造物1の周方向に間隔を空けて複数本配置される。スラブ横筋92は構造物1の周方向の鉄筋であり、構造物1の経線方向に間隔を空けて複数本配置される。スラブ縦筋91とスラブ横筋92はプレキャスト部材31内で内外2列に設けられる。
【0049】
図6(a)に示すように、プレキャスト部材21-2の上端部はそれより下方の部分に比べて若干増厚しており、プレキャスト部材21-2の上端部の梁部6はこの増厚部分に設けられる。
【0050】
またプレキャスト部材31の下端部は構造物1の内部に若干張り出すように形成されており、プレキャスト部材31の下端部の梁部6はこの張出部分に設けられる。張出部分の内面は、上記した増厚部分の内面と同一面となっている。
【0051】
これらの梁部6も、基本的には先程説明した梁部6と同様の構成である。ただし、プレキャスト部材21、31の形状の違い等に応じてスターラップ筋62の形状等は異なる。
【0052】
プレキャスト部材31の下端部において、構造物1の周方向に並んだ梁部6のスターラップ筋62の間には、スラブ縦筋91の下端部とともにジョイント筋11aと継手部材12が前記と同様に埋設される。プレキャスト部材21-2の上端部において、構造物1の周方向に並んだ梁部6のスターラップ筋62の間には、柱主筋71や壁縦筋81の上端部とともにジョイント筋11bが埋設される。
【0053】
プレキャスト部材21-2、31の接合手順は、基本的には先程と同様であるが、図6(a)の例では、プレキャスト部材31の下面とプレキャスト部材21-2の上面が斜めに仕上げられており、プレキャスト部材31は図4(a)で説明したように鉛直下方に吊り降ろすのではなく、矢印cで示すように斜め下方に移動させながら配置を行う。
【0054】
プレキャスト部材31の下面とプレキャスト部材21-2の上面を略水平とし、プレキャスト部材31を鉛直下方に吊り降ろして配置することも可能であるが、この場合、図6(b)に簡略化して示すように、プレキャスト部材21-2の上端部の増厚幅およびプレキャスト部材31の下端部の張出長さを余分に大きくとる必要がある。本実施形態では、プレキャスト部材31に柱部7が無く配筋が簡素化されているので、プレキャスト部材31の設置面が斜めであっても少量のサポート材(不図示)で十分に安定させることができる。
【0055】
なお、プレキャスト部材31において、前記した注入口13aや排出口13bは、プレキャスト部材31の外面から継手部材12に達するように形成されている。これにより、充填作業を構造物1の外側から行うことができ、施工性が向上する。
【0056】
(6.プレキャスト部材31と頂部躯体4の接合)
図7(a)は、上部躯体3のプレキャスト部材31と頂部躯体4の接合部を示す図であり、図1(b)の範囲B4を拡大して示したものである。
【0057】
前記したように、上部躯体3のプレキャスト部材31と頂部躯体4とは、その隙間に打設されたコンクリート5により一体化される。コンクリート5には、プレキャスト部材31から突出するスラブ縦筋91の端部が埋設されるとともに、頂部躯体4から突出する定着筋94が埋設される。
【0058】
定着筋94は、頂部躯体4に埋設された継手部材93の外側の端部に連結される。継手部材93の内側の端部には、頂部躯体4に埋設されたスラブ縦筋91の端部が連結される。
【0059】
上部躯体3のプレキャスト部材31と頂部躯体4を接合する際は、図7(b)に示すようにプレキャスト部材31から隙間を空けて頂部躯体4をセットした後、図7(c)に示すように継手部材93に定着筋94を連結し、プレキャスト部材31から突出するスラブ縦筋91の端部と定着筋94とであき重ね継手を構成する。継手方式は特に問わないが、上部躯体3のプレキャスト部材31と頂部躯体4の接合部のようにカーブがついた状態においては、あき重ね継手が最も施工効率が良い。
【0060】
そして、隙間の上下面を図示しない型枠で塞ぎ、当該隙間にコンクリート5を打設する。上面の型枠にはプレキャスト部材31と頂部躯体4の断面形状に応じた鋼製型枠を用い、隙間の上面をこの型枠で塞ぐことで、左官仕上げを不要とし、高精度の仕上品質を確保できる。
【0061】
(7.周方向に隣り合うプレキャスト部材21(31)同士の接合)
図8(a)は、構造物1の周方向に隣り合うプレキャスト部材21(プレキャスト部材21-1または21-2)同士の接合部を示す図である。
【0062】
図8(a)に示すように、この接合部では、構造物1の周方向に隣り合う両プレキャスト部材21について、構造物1の周方向の端部Bの内側に切欠き212が形成される。
【0063】
プレキャスト部材21同士の接合部では、両プレキャスト部材21の切欠き212によって形成された空間に、両プレキャスト部材21の壁横筋82の端部が突出し、当該端部同士が継手部材83によって連結される。当該空間には充填材であるコンクリートCが打設され、充填される。符号S2はシール材であり、両プレキャスト部材21の切欠き212の外側に位置する薄肉部分213の間に配置される。
【0064】
壁横筋82は、構造物1の周方向の中間部Aではプレキャスト部材21の平面における曲率に沿って円弧状に配置され、構造物1の周方向の端部Bでは直線状に配置されて切欠き212内に突出する。両プレキャスト部材21の切欠き212に隣接する範囲では、プレキャスト部材21の内面が上記壁横筋82の直線部分と平行になるように、増厚部211(ふかし)が設けられ、これにより必要な壁厚が確保される。
【0065】
構造物1の周方向に隣り合うプレキャスト部材21同士を接合する際は、図8(b)に示すように、両プレキャスト部材21の壁横筋82の端部同士を、前記の切欠き212によって形成された空間内で継手部材83により連結する。またプレキャスト部材21の外側に前記のシール材Sを配置し、プレキャスト部材21の内側においては上記空間を塞ぐ型枠Fを設置する。前記の増厚部211により、型枠Fの平面は直線状でよく、躯体内面の曲率に合わせた型枠を使用する必要はない。
【0066】
型枠F等の設置を行った後、プレキャスト部材21の天端側から上記空間にコンクリートCを打設し充填することで、構造物1の周方向に隣り合うプレキャスト部材21同士が接合される。
【0067】
以上は下部躯体2のプレキャスト部材21同士の接合についての説明であるが、構造物1の周方向に隣り合う上部躯体3のプレキャスト部材31同士の接合部についても、図8(c)に示すように、スラブ横筋92同士を継手部材95により連結するほかは、図8(a)と同様の構成となる。ただし、コンクリートCの打設を天端側から行うのは難しいので、図8(c)に示すようにプレキャスト部材31の外面にコア孔(貫通孔)32を設け、当該コア孔32を利用してプレキャスト部材31の外側からコンクリートCを打設する。これにより、接合部の施工が容易になる。
【0068】
(8.構造物1の構築方法)
図9は、構造物1の構築方法を示す図である。構造物1を構築するには、まず図9(a)に示すように、複数のプレキャスト部材21-1を基礎梁10の上で構造物1の周方向に並べて配置する。基礎梁10とプレキャスト部材21-1の接合、および構造物1の周方向に隣り合うプレキャスト部材21-1同士の接合は前記したように行われ、これにより下部躯体2の下層2-1が構築される。
【0069】
その後、図9(b)に示すように、下層2-1のプレキャスト部材21-1の上端部の梁部6の上で、複数のプレキャスト部材21-2を構造物1の周方向に並べて配置する。プレキャスト部材21-1、21-2の接合、および構造物1の周方向に隣り合うプレキャスト部材21-2同士の接合についても前記したように行うことで、下部躯体2の上層2-2が構築される。
【0070】
次に、図9(c)に示すように、下部躯体2のプレキャスト部材21-2の上端部の梁部6の上で、複数のプレキャスト部材31を構造物1の周方向に並べて配置する。プレキャスト部材21-2、31の接合、および構造物1の周方向に隣り合うプレキャスト部材31同士の接合を前記したように行うことで、上部躯体3が構築される。
【0071】
その後、図9(d)に示すように頂部躯体4を設置し、前記したように上部躯体3と頂部躯体4との間にコンクリート5を打設して頂部躯体4を上部躯体3と一体化することで、構造物1が構築される。
【0072】
以上説明したように、本実施形態によれば、上部躯体3と下部躯体2のそれぞれがプレキャスト部材21、31により構築されるので、高精度な品質管理が可能となり、工期を短縮でき美観に優れ、施工性も良い。また下部躯体2を梁部6と柱部7によるラーメン構造とし、上部躯体3をラーメン構造により支持される部材とすることで、既往の構造計算での対応が可能となり、設計も容易になる。
【0073】
構造物1では、プレキャスト部材21の内部に梁主筋61とスターラップ筋62、柱主筋71とフープ筋72を設けて梁部6や柱部7が形成されるので、構造物1の内部空間を最大限に広く利用することができる。
【0074】
また頂部躯体4をプレキャスト部材とし、上部躯体3と頂部躯体4とを現場打ちのコンクリート5で一体化するので、頂部躯体4により構造物1の頂端を閉じる際に止水性を確実なものとし、品質の高い構造物1を容易に構築できる。
【0075】
またプレキャスト部材21、31では、壁横筋82の端部をプレキャスト部材21、31の端部から直線状に突出させることにより、周方向に隣り合うプレキャスト部材21、31の壁横筋82同士を継手部材83によって簡単に連結でき、現場で曲げ加工等を行う必要が無い。
【0076】
しかしながら、本発明は以上の実施形態に限定されない。例えば構造物1の外面の形状は球面状に限らず、頂端と底端に向けて外側に凸となる曲線状に傾斜するものであればよい。例えば構造物1の外面の形状を卵型とすることも可能であり、当該形状に応じたプレキャスト部材を製作すればよい。また構造物1の梁部6や柱部7を除く部分に開口等を設けることも可能である。
【0077】
以上、添付図面を参照しながら、本発明に係る好適な実施形態について説明したが、本発明はかかる例に限定されない。当業者であれば、本願で開示した技術的思想の範疇内において、各種の変更例又は修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【符号の説明】
【0078】
1:構造物
2:下部躯体
3:上部躯体
4:頂部躯体
5:コンクリート
6:梁部
7:柱部
8:壁部
10:基礎梁
11a、11a-1、11a-2、11b、11b-1、11b-2:ジョイント筋
12:継手部材
21、21-1、21-2、31:プレキャスト部材
61:梁主筋
62:スターラップ筋
71:柱主筋
72:フープ筋
81:壁縦筋
82:壁横筋
83、93、95:継手部材
91:スラブ縦筋
92:スラブ横筋
94:定着筋
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9