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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-02-14
(45)【発行日】2025-02-25
(54)【発明の名称】水害に遭った建物の復旧方法
(51)【国際特許分類】
   E04G 23/00 20060101AFI20250217BHJP
   E04B 1/62 20060101ALI20250217BHJP
   E04B 1/72 20060101ALI20250217BHJP
   B08B 3/02 20060101ALI20250217BHJP
   B27K 3/02 20060101ALI20250217BHJP
   A61L 2/20 20060101ALI20250217BHJP
   A61L 9/015 20060101ALI20250217BHJP
   A61L 9/01 20060101ALI20250217BHJP
   A61L 2/18 20060101ALI20250217BHJP
【FI】
E04G23/00
E04B1/62 Z
E04B1/72
B08B3/02 E
B27K3/02 B
A61L2/20 100
A61L9/015
A61L9/01 P
A61L2/18
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2023069950
(22)【出願日】2023-04-21
(65)【公開番号】P2024155319
(43)【公開日】2024-10-31
【審査請求日】2023-08-31
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】520495320
【氏名又は名称】一般社団法人日本除菌脱臭サービス協会
(74)【代理人】
【識別番号】100095407
【弁理士】
【氏名又は名称】木村 満
(74)【代理人】
【識別番号】100180334
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 洋美
(74)【代理人】
【識別番号】100132883
【弁理士】
【氏名又は名称】森川 泰司
(74)【代理人】
【識別番号】100177149
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 浩義
(72)【発明者】
【氏名】細貝 利一郎
【審査官】中村 泰三
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2011/0064607(US,A1)
【文献】鈴木 健郁,水害にあってしまった後の清掃・消臭・除菌について,災害復旧 7月 2017.7.13 ,[online]、[令和6年4月18日検索],https://reliable-sapporo.com/2017/07/13/%e6%b0%b4%e5%ae%b3%e3%81%ab%e3%81%82%e3%81%a3%e3%81%a6%e3%81%97%e3%81%be%e3%81%a3%e3%81%9f%e5%be%8c%e3%81%ae%e6%b8%85%e6%8e%83%e3%83%bb%e6%b6%88%e8%87%ad%e3%83%bb%e9%99%a4%e8%8f%8c%e3%81%ab%e3%81%a4/
【文献】株式会社カイコーポレーション,トピックス, 気候変動時代に求められる新時代の[水害復旧サービス]2021.05.13,日本,[online]、[令和6年4月18日検索],https://www.kaicorp.co.jp/archives/1822.html
【文献】水害復旧サービスのステップ,GranBioのウェブサイト(アーカイブ),日本,[online]、[令和6年9月12日検索],2021年08月03日,https://web.archive.org/web/20210803184756/https://www.granbiopro.com/blank-10
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61L 2/16-22
A61L 9/00-14
B08B 3/00-14
B27K 3/02
E04B 1/62-98
E04G 23/00-08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
復旧する対象となる空間の壁面、底面及び上面の少なくともいずれか1つを消毒剤を用いて消毒する消毒工程と、
前記空間を所定の時間だけオゾンガスで満たすオゾン燻蒸工程と、
前記オゾン燻蒸工程の後に、前記空間を乾燥させる乾燥工程と、
前記消毒工程の前に、プロバイオティクスを含む洗浄剤を用いて、前記空間を洗浄する洗浄工程と、
前記乾燥工程の後に、プロバイオティクスを含むフローラ形成剤を、前記空間の壁面、底面及び上面の少なくともいずれか1つに噴霧又は散布するフローラ形成工程と、
前記フローラ形成工程の後に、前記空間の壁面、底面及び上面の少なくともいずれか1つに、殺カビ剤を塗布する殺カビ工程と、
含む、水害に遭った建物の復旧方法。
【請求項2】
前記殺カビ工程の後に、前記空間の壁面、底面及び上面の少なくともいずれか1つに防カビ剤を塗布する防カビ工程を更に含む、ことを特徴とする請求項に記載の水害に遭った建物の復旧方法。
【請求項3】
前記防カビ工程の後に、前記空間の壁面、底面及び上面の少なくともいずれか1つに存在する木材部分に防蟻剤を塗布する防蟻工程を更に含む、ことを特徴とする請求項に記載の水害に遭った建物の復旧方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、水害に遭った建物の復旧方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ゲリラ豪雨、台風、線状降水帯などによる水害が全国各地で頻発し、その影響による建物への浸水が多く発生している。浸水に遭った建物では、汚水、汚泥が建物に流れ込むことで、汚泥、汚水が建物内に残存する、柱又は壁に汚水が染みることがある。
【0003】
特許文献1では、床下の汚泥を効率的に除去するための汚泥水吸収土嚢が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2018-65077号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、建物における浸水時には、汚泥、汚水を排出するだけでは、建物の柱等に付着又は染み込んだ微生物の増殖による悪臭の発生に対処することが困難である。また、雑菌の発生により、アレルギーのような健康被害を引き起こす原因ともなる。更に、商業施設においても、悪臭が原因で営業再開が出来ず、経済的な損失を被る場合もある。
【0006】
このように、住宅、商業施設、いずれにおいても水害に遭った建物を復旧し、早期に平常時まで回復させる必要性が高まっている。
【0007】
本開示は、上記課題に鑑みてなされたものであり、水害に遭った建物の復旧方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するため、本開示に係る水害に遭った建物の復旧方法は、
復旧する対象となる空間の壁面、底面及び上面の少なくともいずれか1つを消毒剤を用いて消毒する消毒工程と、
前記空間を所定の時間だけオゾンガスで満たすオゾン燻蒸工程と、
前記オゾン燻蒸工程の後に、前記空間を乾燥させる乾燥工程と、
前記消毒工程の前に、プロバイオティクスを含む洗浄剤を用いて、前記空間を洗浄する洗浄工程と、
前記乾燥工程の後に、プロバイオティクスを含むフローラ形成剤を、前記空間の壁面、底面及び上面の少なくともいずれか1つに噴霧又は散布するフローラ形成工程と、
前記フローラ形成工程の後に、前記空間の壁面、底面及び上面の少なくともいずれか1つに、殺カビ剤を塗布する殺カビ工程と、を含む。
【発明の効果】
【0009】
本開示によれば、水害に遭った建物の復旧方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】実施形態1に係る水害に遭った建物の復旧方法を示すフローチャートである。
図2】実施形態2に係る水害に遭った建物の復旧方法を示すフローチャートである。
図3】実施形態3に係る水害に遭った建物の復旧方法を示すフローチャートである。
図4】実施形態4に係る水害に遭った建物の復旧方法を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を参照し、本実施形態に係る水害に遭った建物を復旧する方法を説明する。
【0012】
本実施形態では、復旧の対象となる建物は特に限られず、一戸建て、集合住宅のような住居であっても、店舗、倉庫のような商業用施設であってもよい。また、建物の全体が浸水し、復旧する場合に限られず、建物の一部のみが浸水した場合の復旧も含む。例えば、1階の全てが浸水した建物や、1階以外の階の部屋についても浸水した建物であってもよく、更に1階の一部のみが浸水した建物も本実施形態の復旧方法の対象となる。加えて、建築方法についても、特に限られず、木造建築であっても、鉄筋コンクリート造りであってもよい。
【0013】
(実施形態1)
実施形態1に係る水害に遭った建物の復旧方法における作業工程のフローチャートを図1に示す。本実施形態に係る復旧方法は、図1に示すように、消毒工程S11、オゾン燻蒸工程S12、乾燥工程S13を含む。
【0014】
本実施形態では、床下浸水した家屋の床下の空間を復旧する場合であって、復旧方法の開始時点では、既に家屋に侵入した水の排出が終了し、床下の泥が除かれた状態の家屋を復旧する場合を例に挙げて説明する。
【0015】
まず、消毒工程S11では、消毒用の薬剤を使用して床下の空間を除菌する消毒作業を行う。ここで、本実施形態において、復旧の対象となるのは床下の空間である。床下の空間は、建物の床下に位置する空間を示す。戸建て住宅を例に挙げると、床下の空間とは、基礎の立ち上がり部分、底部分、土台、床下板等により囲まれる空間を意味する。消毒工程S11では、浸水の程度に応じ、この床下の空間を構成する底面、側面、及び上面のうち少なくともいずれか1つを消毒する。例えば、床下浸水した場合であって、水が床に触れる程度まで浸水した場合は、床下の空間を構成する底面、側面、及び上面を消毒する。一方、床下浸水した場合であって、水が床に触れなかった場合は、床下の空間を構成する底面及び側面を消毒する。浸水の程度が低い場合は、底面のみを消毒してもよい。また、消毒作業は、必要な部分だけを行ってもよく、床下の空間を構成する底面、側面、又は上面は、全てを消毒してもよいし、一部を消毒してもよい。他の工程における作業についても同様である。
【0016】
消毒用の薬剤は、除菌が可能な薬剤を使用する。消毒用の薬剤としては、これに限るものではないが、過酸化水素、界面活性剤、及び水溶性溶剤を含む薬剤、又は二酸化塩素を含む薬剤を使用する。また、消毒作業は、消毒用の薬剤を噴霧器又はミストスプレー等により、床下の空間に噴霧することにより行う。また、床下の空間を構成する底面、側面、及び上面のうち少なくともいずれかの部分を直接拭き上げることによって、消毒作業を行ってもよい。
【0017】
次のオゾン燻蒸工程S12に先立って、消毒工程S11を行うことにより、臭気の原因を更に良好に除去することが可能となる。
【0018】
次に、オゾン燻蒸工程S12を行う。オゾン燻蒸工程では、床下の空間を所定の時間だけ、オゾンガスによって燻蒸する。オゾン燻蒸工程S12では、床下の空間をオゾンガスで充満させることができるよう、例えば、通気口のようなガスが漏れる可能性のある箇所については目張りをして行うことが好ましい。また、オゾンによりゴム類、又は電子機器は腐植する可能性があるため、これらが床下の空間に存在する場合は、移動させることが好ましく、移動させることができない場合はビニール等で養生を行うことが好ましい。
【0019】
床下の空間をオゾンガスで充満することにより、液体が入り込めない箇所、又は直接拭き上げることが困難な箇所に存在する菌、空間に浮遊する菌を除菌することができる。また、臭気を発生する物質を分解することもできる。
【0020】
また、オゾンガスを発生させるオゾンガス発生器としては、例えば、Tiger(株式会社カイコーポレーション、オゾン生成量12,000mg/h、出力風量560m/h)、Panther-J(株式会社カイコーポレーション、オゾン生成量7,500mg/h、出力風量260m/h)、等が挙げられる。
【0021】
オゾンが臭気物質に反応すると空間中のオゾン濃度が良好に上昇しないため、床下の空間にオゾンガスを充満させるためには、オゾン発生量が十分多い必要がある。これらのオゾン発生器では、時間あたりのオゾン発生量が7,500mg/h以上と多く、風量としても260m/h以上と十分であるので、脱臭及び除菌のために十分な量のオゾンガスを発生させることができる。
【0022】
また、オゾン燻蒸作業では、オゾン燻蒸を行う空間1mに対するオゾン供給量が、50mg以上であることが好ましく、80mg以上であることが更に好ましい。また、オゾン燻蒸を行う空間1mに対するオゾン供給量は、1000mg以下であることが好ましく、500mg以下であることが更に好ましく、300mg以下であることがより好ましい。ここで、空間1mに対するオゾン供給量は、以下のように算出する。まず、オゾン燻蒸作業におけるオゾンガス発生器の駆動時間と、使用したオゾンガス発生器の時間あたりのオゾン生成量から、オゾン生成総量を算出する。オゾン生成総量を、オゾン燻蒸の対象となった空間の体積で割ることによって、空間1mに対するオゾン供給量が求められる。
【0023】
なお、オゾン燻蒸作業は複数回行ってもよい。複数回行った場合は、各オゾン燻蒸作業におけるオゾンガス発生器の駆動時間に基づき、オゾンガスの生成総量を算出する。各作業におけるオゾン生成総量を合計して算出される合計量を空間の体積で割ることで、空間1mに対するオゾン供給量を算出する。オゾン燻蒸作業を複数回行った場合も、この空間1mに対するオゾン供給量が、80mg以上であることが好ましく、300mg以下であることが好ましい。
【0024】
なお、オゾンガス発生器は、1台を使用する構成に限られず、2台以上を設置してもよい。空間の体積に応じて設置台数を変えることができる。
【0025】
一例として、空間の体積が150mである場合、TigerとPanther-Jとの2台のオゾンガス発生器を用い、45分間~2時間、オゾン燻蒸を行うことができる。
【0026】
なお、オゾンより反応性の高いOHラジカルの生成を促進することができるため、オゾン燻蒸作業を行う際は、燻蒸される空間は湿度が高い状態であることが好ましい。例えば、土台等の表面が湿った状態であることが好ましい。水害に遭った建物では、土台、基礎部分等は、完全に乾燥せず湿った状態であることがある。オゾン燻蒸における、湿度が高い状態は、このような土台、基礎部分等が湿った状態を利用してもよい。
【0027】
なお、湿度が不足している場合は、湿度を上げるために、消臭剤を床下の空間に噴霧し、湿度を高めてもよい。消臭補助剤は、臭いの原因となる物質の性質に応じ、弱アルカリ性剤、又は弱酸性剤等を使用することもできる。このような消臭補助剤としては、脱臭応援隊(株式会社カイコーポレーション)が挙げられる。
【0028】
また、消臭剤として、過酸化水素を含む薬剤を用いると、OHラジカルの生成をより促進することができ、脱臭効果をより高めることができるため、好適である。
【0029】
また、オゾン燻蒸工程中は、送風機を用いて、空気を循環させ、床下の空間にオゾンが十分に行き渡るようにすることが好ましい。
【0030】
オゾン燻蒸作業後、排気作業を行う。具体的には、所定時間の経過後、オゾンガス発生器からのオゾンの発生を止め、床下の空間から、換気用の機器と排気ダクトとを用いて、残存するオゾンガス、副反応生成物等を除去する。
【0031】
上述したように、オゾン燻蒸工程S12は、オゾン燻蒸作業と排気作業とを含むが、オゾン燻蒸作業と排気作業とを1セット行う、換言するとオゾン燻蒸作業と排気作業とを各1回行う場合に限られない。オゾン燻蒸作業と排気作業とは、必要に応じて、2セット以上行うことも可能である。また、1セット目のオゾン燻蒸作業及び排気作業との終了後、床下の空間が乾燥している場合は、2セット目のオゾン燻蒸作業の前に、消臭補助剤等によって湿度を上げる作業を行ってもよい。また、オゾン燻蒸作業及び排気作業を複数回行う場合、オゾン燻蒸作業の時間及び/又は空間に供給するオゾン量は、それぞれの作業で異なっていても、同一であってもよい。排気作業の時間についても、それぞれの作業で異なっていても同一であってもよい。
【0032】
次に、乾燥工程S13では、送風機(ダクト付き)又はサーキュレーターを使用し、床下の空間の空気を循環させ、床下の空間全体の乾燥を行う。乾燥工程では、高温での乾燥はカビの繁殖につながる可能性があるため、送風のみ又は冷風で行うことが好ましい。
【0033】
本実施形態の復旧方法によれば、オゾン燻蒸工程を含むことにより、消臭、除菌を良好に行うことができる。更に、オゾン燻蒸工程に先立ち、消毒工程を行うことにより、臭いの原因となる雑菌を低減することができ、更に良好に消臭を行うことができる。また、乾燥工程を行うことで、更に雑菌の繁殖を防ぐことができる。本実施形態の復旧方法では、これらの工程を併せて行うことにより、水害に遭った建物を良好に復旧することができる。
【0034】
(実施形態2)
実施形態2に係る水害に遭った建物の復旧方法における作業工程のフローチャートを図2に示す。実施形態1では、家屋に侵入した水が既に除去されている場合を例に挙げて説明したが、実施形態2では、床下浸水した後、水が床下に残存している場合を例に挙げる。
【0035】
本実施形態に係る復旧方法は、図2に示すように、排水工程S21と、洗浄工程S22と、消毒工程S23と、オゾン燻蒸工程S24と、乾燥工程S25と、フローラ形成工程S26と、含む。消毒工程S23、オゾン燻蒸工程S24、及び乾燥工程S25は、実施形態1の消毒工程S11、オゾン燻蒸工程S12、及び乾燥工程S13と同じであるため、詳細な説明は省略する。
【0036】
まず、排水工程S21では、床下に残存する水を排水ポンプ等によって排水する。排水ポンプとしては、1mmの深さの水まで排水可能なポンプを使用することが好ましい。水量が少ない場合は、集塵機を代わりに用いることも可能である。また、水が残存する期間が長引くことは建物の傷みを増加させるため、早急に排水工程S21を行うことが好ましい。
【0037】
次に、洗浄工程S22では、汚泥を排出させ、洗浄剤を用いて床下の空間を洗浄する。例えば、高圧洗浄機を用い、洗浄剤を噴出させることで、床下を構成する空間の底面、側面、及び上面のうち少なくともいずれか1つを洗浄する。洗浄工程S22を行う対象は、実施形態1の消毒工程S11と同様に、浸水の程度によって変更することができる。洗浄工程S22では、噴出させた洗浄剤はバキュームによって回収し、床下から排出させる。洗浄工程S22では、乾湿両用バキュームを用いてもよい。洗浄する対象となる材質に応じて、高圧洗浄機又は乾湿両用バキュームのいずれを用いるかを決定することができる。例えば、コンクリート表面を洗浄する場合は、高圧洗浄機を使用し、木造建物の床下の空間を洗浄する場合は乾湿両用バキュームを使用することができる。洗浄工程S22では、洗浄剤を噴霧し、拭き上げることによって、又は洗浄剤を散布し、ブラッシングマシーン等によってブラッシングした上で洗浄することよって行ってもよい。
【0038】
洗浄工程S22で使用する洗浄剤としては、生菌であるプロバイオティクスを含む洗浄剤を使用することが好ましい。加えて、洗浄剤はプロバイオティクスを5000万個/cc以上含むことが好ましい。
【0039】
本実施形態において、プロバイオティクスはバチルス属細菌である枯草菌である。プロバイオティクスは、枯草菌以外のバチルス属細菌を含んでもよい。本実施形態では、プロバイオティクスが、バチルス・サブティリス、バチルス・リケニフォルミス、バチルス・メガテリウム、及びバチルス・アミロリケファシエンスを含む群から選ばれる1種又は2種以上であってもよく、5種類以上含むことが好ましい。バチルス属細菌は酵素を生成し、酵素により有機物を分解することができる。臭いの原因となる有機物を除去することができる。
【0040】
このようなプロバイオティクスを含む洗浄剤として、例えば、グランバイオプロ(株式会社カイコーポレーション)が挙げられる。
【0041】
洗浄工程S22で、プロバイオティクスを含む洗浄剤を使用すると、例えば、強アルカリ洗浄剤を使用する場合と比較し、腐食などを起こすことを防ぐことができる。また、合成洗剤を使用する場合と比較し、ベタつきが防がれるため拭き上げ作業を容易とすると共に、臭いの原因となる物質を分解することができるため良好な消臭効果を得ることができる。
【0042】
洗浄工程S22において、汚泥を排出させるだけでなく、床下の空間を洗浄することによって、臭気の原因となる物質を低減することができる。また、洗浄工程S22は、1回とは限らず、2回以上行うことも可能である。
【0043】
洗浄工程S22の後、実施形態1と同様に、消毒工程S23、オゾン燻蒸工程S24、乾燥工程S25、をこの順に行う。ここで、消毒工程S23は、洗浄工程S22の後、直ちに行ってもよく、一定の時間を空けて行ってもよい。洗浄工程S22で使用する洗浄剤に含まれるプロバイオティクスは、一定期間活動するため、洗浄工程S22と消毒工程S23とは、例えば、1~3日程度空けてもよい。洗浄工程S22と消毒工程S23の間に時間を空けるか否かは、対象となる材質、被害の状況等に応じて決定する。例えば、打ちっぱなしのコンクリートのような表面に凹凸がある材料の場合、又は浸水期間が長い場合、消毒工程S23は、洗浄工程S22の後、時間を空けて行うことが好適である。
【0044】
次に、乾燥工程S25の後に、フローラ形成工程S26を行う。フローラ形成工程S26では、プロバイオティクスを含むフローラ形成剤を床下の空間に噴霧する、又は床下の空間の側面、底面等に塗布することによって行う。フローラ形成工程S26では、善玉菌が優位に存在する空間フローラを形成するとともに、プロバイオティクスによって臭気の原因となる物質を低減させ、消臭効果を得る。
【0045】
フローラ形成剤としては、生菌であるプロバイオティクスを含む洗浄剤を使用することが好ましい。加えて、フローラ形成剤はプロバイオティクスを12,000万個/cc以上含むことが好ましい。また、フローラ形成剤を噴霧又は塗布した後は、自然乾燥を行う。
【0046】
本実施形態において、プロバイオティクスはバチルス属細菌である枯草菌である。プロバイオティクスは、枯草菌以外のバチルス属細菌を含んでもよい。本実施形態では、プロバイオティクスが、バチルス・サブティリス、バチルス・リケニフォルミス、バチルス・メガテリウム、及びバチルス・アミロリケファシエンスを含む群から選ばれる1種又は2種以上であってもよい。バチルス属細菌は、一般的に高い耐環境性を有し、雑菌の増殖を抑える。これにより、雑菌の増殖による悪臭の発生を抑制することができる。また、バチルス属細菌は酵素を生成し、酵素により有機物を分解することができるため、オゾン燻蒸工程S24の後に臭いの原因となる有機物が残存していた場合も、それらを除去し、消臭効果を更に高めることができる。また、バチルス属細菌は、フローラ形成剤が塗布された床下の空間の側面、底面等の表面から内部に浸透する。バチルス属最近は、所定の期間、例えば3日間以上、生存することができるため、フローラ形成剤を散布した際から一定の間、消臭効果を持続させることができる。
【0047】
このようなプロバイオティクスを含むフローラ形成剤として、例えば、グランバイオエア(株式会社カイコーポレーション)が挙げられる。
【0048】
本実施形態では、消毒工程S23、オゾン燻蒸工程S24、乾燥工程S25の前に、プロバイオティクスを含む洗浄剤を用いて洗浄工程S22を行うことで、実施形態1の効果に加えて、更に、臭気の原因となる物質を低減することができる。また、乾燥工程S25に続くフローラ形成工程S26において、フローラ形成剤を噴霧又は塗布することによって、空間を善玉菌優位の状態とするととともに、臭気の原因となる物質を更に低減することができる。従って、本実施形態の復旧方法では、これらの工程を併せて行うことにより、水害に遭った建物を更に良好に復旧することができる。
【0049】
(実施形態3)
実施形態3に係る水害に遭った建物の復旧方法における作業工程のフローチャートを図3に示す。実施形態3でも、実施形態2と同様に、床下浸水した後、水が床下に残存している場合を例に挙げる。
【0050】
本実施形態に係る復旧方法は、図3に示すように、排水工程S31と、洗浄工程S32と、消毒工程S33、オゾン燻蒸工程S34、乾燥工程S35、フローラ形成工程S36と、殺カビ工程S37、防カビ工程S38を含む。排水工程S31~フローラ形成工程S36は、実施形態2の排水工程S21~フローラ形成工程S26と同じであるため、詳細な説明は省略する。ここで、殺カビ工程S37は、フローラ形成工程S36の後、直ちに行ってもよく、一定の時間を空けて行ってもよい。フローラ形成剤に含まれるプロバイオティクスは、一定期間活動するため、フローラ形成工程S36と殺カビ工程S37とは、例えば、1~3日程度空けてもよい。フローラ形成工程S36と殺カビ工程S37との間に時間を空けるか否かは、対象となる材質、被害の状況等に応じて決定する。
【0051】
実施形態2と同様に排水工程S31~フローラ形成工程S36を実施した後、殺カビ工程S37を行う。殺カビ工程S37では、殺カビ剤を、床下を構成する空間の底面、側面、及び上面のうち少なくともいずれか1つに塗布する。殺カビ工程S37を行う対象は、実施形態1の消毒工程S11と同様に、浸水の程度によって変更することができる。また、殺カビ工程S37を行う対象の材質は特に限定はなく、木材、コンクリート等である。
【0052】
殺カビ工程S37では、床下を構成する空間の底面、側面、及び上面のうち少なくともいずれか1つに、カビを除去するための殺カビ剤を、ローラー又は刷毛を使用して塗布する。また、塗布後は自然乾燥を行う。殺カビ剤の塗布及び乾燥は、1回以上行うことができる。殺カビ工程では、カビが著しく存在する場合は、ブラッシング等の物理的な除去清掃を併せて行うことができる。
【0053】
殺カビ剤としては、任意の薬剤を使用することができるが、例えば、次亜塩素酸、水酸化ナトリウム、界面活性剤を含む薬剤、アルコール及び防カビ成分を含む薬剤等を使用することができる。また、防カビ成分としては、例えば、トリアゾール系化合物、ベンゾチアゾール系化合物、イソチアゾリン系化合物、有機ヨード系化合物、四級アンモニウム塩系化合物、チオフェン系化合物、チオシアネート系化合物、ニトリル系化合物、ピリジン系化合物、グアニジン系化合物、イミダゾール系化合物、又はキノリン系化合物が挙げられる。
【0054】
本実施形態では、殺カビ工程S37に先立ち、消毒工程S33、フローラ形成工程S36等が設けられているため、これらの工程で既に部分的な除菌効果が得られているため、強力な殺菌作用を有する殺カビ剤を使用しなくともよい。
【0055】
殺カビ工程S37に続いて、防カビ工程S38を行う。防カビ工程S38では、防カビ剤を、床下を構成する空間の底面、側面、及び上面のうち少なくともいずれか1つに塗布する。防カビ工程S38を行う対象は、実施形態1の消毒工程S11と同様に、浸水の程度によって変更することができる。また、防カビ工程S38を行う対象の材質は特に限定はなく、木材、コンクリート等である。
【0056】
防カビ工程S37では、床下を構成する空間の底面、側面、及び上面のうち少なくともいずれか1つに、カビを除去するための防カビ剤を、ローラー又は刷毛を使用して塗布する。また、塗布後は自然乾燥を行う。防カビ剤の塗布及び乾燥は、1回以上行うことができ、例えば3回行う。なお、塗布に代えて、防カビ剤を噴霧することも可能である。
【0057】
防カビ剤としては、防カビ成分を含む任意の薬剤を使用することができる。防カビ成分としては、例えば、トリアゾール系化合物、ベンゾチアゾール系化合物、イソチアゾリン系化合物、有機ヨード系化合物、四級アンモニウム塩系化合物、チオフェン系化合物、チオシアネート系化合物、ニトリル系化合物、ピリジン系化合物、グアニジン系化合物、イミダゾール系化合物、又はキノリン系化合物が挙げられる。
【0058】
また、建物がコンクリートから形成されている場合、防カビ剤に代えてコーティング剤を使用することもできる。コーティング剤をコンクリート表面に塗布することにより、表面を保護することができる。また、ひび割れにコーティング剤が浸透することにより、補修、さび止め等の効果を得ることもできる。コーティング剤としては、特に限定はないが、エポキシ樹脂を含むプライマーを使用することができる。
【0059】
本実施形態では、実施形態2の構成に加え、更に殺カビ工程S37と、防カビ工程S38工程とを備えることにより、更に将来的なカビの発生の可能性を低下させる効果を付与することができる。
【0060】
(実施形態4)
実施形態4に係る水害に遭った建物の復旧方法における作業工程のフローチャートを図4に示す。実施形態4でも、実施形態2と同様に、床下浸水した後、水が床下に残存している場合を例に挙げる。後述するように本実施形態は、防蟻工程S49を含むことを特徴とするため、本実施形態の対象となる建物は、木造建築物、又は復旧の対象となる部分に木材を使用した部分を有する建物である。
【0061】
本実施形態に係る復旧方法は、図4に示すように、 排水工程S41と、洗浄工程S42と、消毒工程S43、オゾン燻蒸工程S44、乾燥工程S45、フローラ形成工程S46と、殺カビ工程S47、防カビ工程S48、防蟻工程S49を含む。排水工程S41~フローラ形成工程S48は、実施形態3の排水工程S31~フローラ形成工程S38と同じであるため、詳細な説明は省略する。
【0062】
防蟻工程S49では、床下の空間の土台等の木材の部分に、蟻、特にシロアリを防ぐための防蟻剤を、ローラー又は刷毛を使用して塗布する。また、塗布後は自然乾燥を行う。防蟻剤としては、防蟻成分を含む薬剤を使用する。また、防蟻剤の塗布及び乾燥は、1回以上行うことができる。
【0063】
防蟻成分としては、これに限るものではないが、イミダクロプリド、クロチアニジン、ニテンピラム、アセタミプリド、チアメトキサムのようなネオニコチノド系化合物類、クロルフェナピルのようなピロール系化合物、ピリプロール、ピラフルプロール、アセトプロール、エチプロールのようなフェニルピラゾール系化合物、アレスリンのような合成ピレスロイド系化合物、ホウ酸等が挙げられる。
【0064】
本実施形態の復旧方法によれば、防蟻工程を更に備えることにより、建物の木材部分について、将来的な蟻による腐食を防ぐ効果を更に付与することができる。
【0065】
本開示は、上述した実施形態に限られず、様々な変形及び応用が可能である。例えば、実施形態1では、侵入した水が既に排出されている構成を例に挙げたが、水が残存している場合は、実施形態2に示す排水工程を更に行ってもよい。また、洗浄工程についても同様であり、実施形態1の消毒工程の前に、実施形態2に示す洗浄工程を行ってもよい。
【0066】
上述した各実施形態では、床板を外さずに床下の空間を清掃する場合を例に挙げたが、これに限られない。復旧方法では、フローリング、下地板などを外して、床下の空間を露出させて行ってもよい。この際、床に断熱材が設けられている場合は、追加で断熱材を外す作業を加えてもよい。
【0067】
また、上述した実施形態では、木造戸建て住宅のように床下に空間が存在する場合を例に挙げたが、これに限られない。例えば、店舗のように床下の空間を有しない場合は、床面、壁面に作業を施せばよい。
【0068】
上述した各実施形態では、建物が床下浸水に遭った場合を例に挙げて説明したが、これに限られず、床上浸水に遭った建物であってもよい。この場合、実施形態1における消毒工程S11では、浸水の程度に応じ、この床下の空間の消毒に限らず、床上の空間、例えば床、壁面、柱等を消毒することができる。実施形態1の他の工程も同様である。他の実施形態も同様に、床上浸水した建物の場合、床上の空間についても床下と同様の作業を行うことができる。この際、作業を施す部分は、浸水の被害に応じて変更することができる。
【0069】
また、床上浸水の程度によっては、壁に設けられた断熱材が汚水を吸い込んでしまい、臭いの原因となることがある。この場合は、断熱材を除去する作業を追加して行ってもよい。
【0070】
更に、復旧方法を始める前、又は復旧方法のいずれかの工程を始める前に、建物内の不要な物を屋外搬出する工程を加えることも可能である。
【0071】
また、復旧方法を始める前、又は復旧方法のいずれかの工程を始める前に、菌の種類に関する調査を行ってもよい。事前に菌の種類を調査することで、その調査結果に基づき、消毒工程、殺カビ工程、及び防カビ工程の少なくともいずれか1つの工程において、菌の種類に応じて薬剤の量、種類を調節することができる。
【0072】
各実施形態に沿って本開示を説明したが、本開示をこれらに限定されるものではない。種々の変更、改良、組合せ等が可能なことは当業者には自明である。
図1
図2
図3
図4