(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-02-14
(45)【発行日】2025-02-25
(54)【発明の名称】台車及び障害物乗越機構
(51)【国際特許分類】
B62B 5/02 20060101AFI20250217BHJP
【FI】
B62B5/02 Z
(21)【出願番号】P 2023185527
(22)【出願日】2023-10-30
【審査請求日】2023-10-30
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】512103963
【氏名又は名称】テクニカルトート東京株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小野 学
【審査官】林 政道
(56)【参考文献】
【文献】米国特許第05560626(US,A)
【文献】実開平03-049172(JP,U)
【文献】実開昭60-108572(JP,U)
【文献】特開2020-075707(JP,A)
【文献】特開2009-227042(JP,A)
【文献】登録実用新案第3171635(JP,U)
【文献】登録実用新案第3114865(JP,U)
【文献】特開2003-063407(JP,A)
【文献】特開平11-078902(JP,A)
【文献】特開2023-106242(JP,A)
【文献】実開平03-072084(JP,U)
【文献】実開昭49-149440(JP,U)
【文献】特開平10-315982(JP,A)
【文献】実開平02-018767(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B62B 1/00-5/08
B62B 7/00-19/04
B60B 33/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
荷物が載置可能なベース部と、
ベース部における前部の下面に取り付けられた前輪と、
ベース部における後部の下面に取り付けられた後輪と、
前記ベース部の下面に設けられ、少なくとも一部が前記前輪と前記後輪との間に位置すると共に、下面
の全体が前側から後側へ向かって下方に傾斜した傾斜面とされた傾斜部材と、
を有し、
前記傾斜部材は、前記ベース部の幅方向中央部かつ前後方向中央部のみに配置されており、前記傾斜面の角度が不変となっている、台車。
【請求項2】
前記傾斜面の前端は、前記前輪と前記後輪との中間よりも前側に位置している、請求項1に記載の台車。
【請求項3】
前記傾斜面の後端は、前記後輪の回転軸中心よりも下側に位置している、請求項1に記載の台車。
【請求項4】
前記傾斜部材の前記下面には、多数の貫通孔が形成されている、請求項1に記載の台車。
【請求項5】
前記傾斜部材の前記下面は、幅方向から見て下方側へ膨出するように屈曲又は湾曲している、請求項1に記載の台車。
【請求項6】
前記傾斜部材の前記下面は、幅方向から見て上方側へ膨出するように屈曲又は湾曲している、請求項1に記載の台車。
【請求項7】
荷物が載置可能なベース部と、
ベース部における前部の下面に取り付けられた前輪と、
ベース部における後部の下面に取り付けられた後輪と、
前記ベース部の下面に設けられ、少なくとも一部が前記前輪と前記後輪との間に位置すると共に、下面が前側から後側へ向かって下方に傾斜した単一の傾斜面とされた傾斜部材と、
を有し、
前記傾斜部材は、前記ベース部の幅方向中央部かつ前後方向中央部のみに配置されて前記傾斜面の角度が不変となっている、台車。
【請求項8】
前輪及び後輪を備えた台車に取付けられる障害物乗越機構であって、
前記台車のベース部の下面において幅方向中央部かつ前後方向中央部にのみ取付可能に構成され、当該ベース部に取付けられた状態で、少なくとも一部が前記前輪と前記後輪との間に位置すると共に、下面の全体が前側から後側へ向かって下方に傾斜した傾斜面とされた傾斜部材を有し、
前記傾斜面は、角度が不変に構成されている、障害物乗越機構。
【請求項9】
前輪及び後輪を備えた台車に取付けられる障害物乗越機構であって、
前記台車のベース部の下面において幅方向中央部かつ前後方向中央部にのみ取付可能に構成され、当該ベース部に取付けられた状態で、少なくとも一部が前記前輪と前記後輪との間に位置すると共に、下面が前側から後側へ向かって下方に傾斜した単一の傾斜面とされた傾斜部材を有し、
前記傾斜面は、角度が不変に構成されている、障害物乗越機構。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、台車及び障害物乗越機構に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、既設の台車に後から取付可能に構成された段差乗越え用補助装置が開示されている。この段差乗越え用補助装置は、一対の前輪の間に配置された扇形の前部補助輪と、一対の後輪の間に配置された扇側の後部補助輪とを備えており、前輪に先行して前部補助輪が段差に当接することで、台車の前部が段差を乗り越える構成となっている。同様に、後輪に先行して後部補助輪が段差に当接することで、台車の後部が段差を乗り越える。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記特許文献1に記載の装置では、揺動する補助輪をコイルスプリングで連結した複雑な構造となっているため、より簡易な構造で容易に段差を乗り越えることができる台車が望まれている。
【0005】
本発明は上記事実を考慮し、簡易な構造で容易に段差を乗り越えることができる台車及び障害物乗越機構を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1に記載の台車は、荷物が載置可能なベース部と、ベース部における前部の下面に取り付けられた前輪と、ベース部における後部の下面に取り付けられた後輪と、前記ベース部の下面に設けられ、少なくとも一部が前記前輪と前記後輪との間に位置すると共に、下面の全体が前側から後側へ向かって下方に傾斜した傾斜面とされた傾斜部材と、を有し、前記傾斜部材は、前記ベース部の幅方向中央部かつ前後方向中央部のみに配置されており、前記傾斜面の角度が不変となっている。
【0007】
請求項1に記載の台車では、荷物が載置可能なベース部における前部の下面には、前輪が取り付けられている。また、ベース部における後部の下面には、後輪が取り付けられている。さらに、ベース部の下面には、傾斜部材が設けられている。ここで、傾斜部材の少なくとも一部は、前輪と後輪との間に設けられている。また、傾斜部材の下面の全体が前側から後側へ向かって下方に傾斜した傾斜面となっている。これにより、前輪が段差に乗り上げた後、段差が傾斜面と接触することで、傾斜面に対して段差から上向きの反力が作用し、後輪が段差を乗り越えやすくなる。
【0008】
また、傾斜部材はベース部に固定された状態で段差を乗り越えやすくする機能を発揮するため、簡易な構造で段差を乗り越えることができる。さらに、コイルスプリングなどの部品を必要としないため、メンテナンス性の観点でも優れている。
【0009】
請求項2に記載の台車は、請求項1において、前記傾斜面の前端は、前記前輪と前記後輪との中間よりも前側に位置している。
【0010】
請求項2に記載の台車では、傾斜面の前端が前輪と後輪との中間よりも前側に位置しているため、傾斜面が後部のみに配置された構造と比較して、傾斜面の傾斜角度が緩やかになり、より少ない力で段差を乗り越えることができる。
【0011】
請求項3に記載の台車は、請求項1において、前記傾斜面の後端は、前記後輪の回転軸中心よりも下側に位置している。
【0012】
請求項3に記載の台車では、傾斜面の後端が後輪の回転軸中心よりも下側に位置しているため、後輪が段差に引っ掛からずスムーズに段差を乗り越えることができる。
【0013】
請求項4に記載の台車は、請求項1において、前記傾斜部材の前記下面には、多数の貫通孔が形成された板状の部材を含んで構成されている。
【0014】
請求項4に記載の台車では、傾斜部材が板状の部材を含んで構成されており、多数の貫通孔が形成されている。このため、傾斜部材に水などの液体が溜まるのを抑制できる。また、傾斜部材を軽量化できる。
【0015】
請求項5に記載の台車は、請求項1において、前記傾斜部材の前記下面は、幅方向から見て下方側へ膨出するように屈曲又は湾曲している。
【0017】
請求項6に記載の台車は、請求項1において、前記傾斜部材の前記下面は、幅方向から見て上方側へ膨出するように屈曲又は湾曲している。
請求項7に記載の台車は、荷物が載置可能なベース部と、ベース部における前部の下面に取り付けられた前輪と、ベース部における後部の下面に取り付けられた後輪と、前記ベース部の下面に設けられ、少なくとも一部が前記前輪と前記後輪との間に位置すると共に、下面が前側から後側へ向かって下方に傾斜した単一の傾斜面とされた傾斜部材と、を有し、前記傾斜部材は、前記ベース部の幅方向中央部かつ前後方向中央部のみに配置されて前記傾斜面の角度が不変となっている。
【0025】
請求項8に記載の障害物乗越機構は、前輪及び後輪を備えた台車に取付けられる障害物乗越機構であって、前記台車のベース部の下面において幅方向中央部かつ前後方向中央部にのみ取付可能に構成され、当該ベース部に取付けられた状態で、少なくとも一部が前記前輪と前記後輪との間に位置すると共に、下面の全体が前側から後側へ向かって下方に傾斜した傾斜面とされた傾斜部材を有し、前記傾斜面は、角度が不変に構成されている。
【0026】
請求項8に記載の障害物乗越機構では、傾斜部材を備えていない一般的な台車に対して、傾斜部材を後付けすることで、容易に段差を乗り越えることができる。
【発明の効果】
【0027】
以上説明したように、本発明に係る台車及び障害物乗越機構によれば、簡易な構造で容易に段差を乗り越えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【
図2】第1実施形態に係る台車の底面を拡大して示す拡大斜視図であり、ステップが収納位置にある状態を示す図である。
【
図3】第1実施形態に係る台車の底面を拡大して示す拡大斜視図であり、ステップが使用位置にある状態を示す図である。
【
図8】第2実施形態に係る台車の底面を拡大して示す拡大斜視図である。
【
図9】第3実施形態に係る台車の底面を拡大して示す拡大斜視図である。
【
図10】第4実施形態に係る台車の底面を拡大して示す拡大斜視図である。
【
図11】第5変形例に係る台車の底面を拡大して示す拡大斜視図である。
【
図12】第6変形例に係る台車の底面を拡大して示す拡大斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
<第1実施形態>
第1実施形態に係る台車10について、図面を参照して説明する。なお、各図に適宜記す矢印FR及び矢印UPは、台車10の移動方向(前後方向の前方側)及び上下方向の上方側をそれぞれ示している。以下、単に前後、上下、左右の方向を用いて説明する場合は、特に断りのない限り、前後方向の前後、上下方向の上下、前方を向いた場合の左右を示すものとする。
【0030】
図1は、本実施形態に係る台車10の側面図である。
図1に示されるように、本実施形態の台車10は、主として、ベース部12、前輪14、後輪16、取手18、傾斜部材26及びステップ展開機構28を含んで構成されている。
【0031】
ベース部12は、平面視で略矩形状とされており、樹脂などによって形成されている。また、ベース部12の上面は、荷物が載置される領域となっている。ベース部12における上面側の後端には、取手18が設けられており、ベース部12における下面側には、前輪14及び後輪16が設けられている。
【0032】
取手18は、下方側が開放された略U字状の部材であり、下端部がそれぞれブラケット20を介してベース部12に固定されている。また、取手18の上部は、後方側へ屈曲されており、使用者が把持しやすい形状とされている。
【0033】
取手18は、ブラケット20に設けられた回転軸(不図示)に固定されており、前方へ回動できるように構成されている。また、取手18とブラケット20との間には図示しないロック機構が設けられており、通常の使用状態では、ロック機構によって取手18が回動しないようにロックされている。そして、非使用時には、ロック状態を解除して取手18を前方へ回動することで、取手18を折り畳むことができるように構成されている。
【0034】
前輪14は、ベース部12における前部の下面に左右一対取付けられており、後輪16は、ベース部12における後部の下面に左右一対取付けられている。
【0035】
図2は、本実施形態に係る台車10の底面を拡大して示す拡大斜視図である。
図2に示されるように、前輪14は、前輪取付ベース30と、前輪支持板32と、前側キャスタ34とを含んで構成されている。前輪取付ベース30は、略円筒状に形成されており、上端のフランジがベース部12の下面に締結されることで、ベース部12の下面から下方へ突出している。
【0036】
前輪支持板32は、前輪取付ベース30の下端の左右両側に設けられており、側面視で略矩形板状に形成されている。そして、左右一対の前輪支持板32の間に前側キャスタ34が配設されている。前側キャスタ34は、前輪支持板32に回動可能に軸支されている。
【0037】
一方、後輪16は、後輪支持板36と、後側キャスタ38とを含んで構成されている。後輪支持板36は、ベース部12の下面から下方へ突出しており、左右一対の後輪支持板36が互いに対向して配置されている。後側キャスタ38は、一対の後輪支持板36の間に配設されており、後輪支持板36に回動可能に軸支されている。
【0038】
図1及び
図2に示されるように、ベース部12の下面から下方へ前側アーム22及び後側アーム24が延出されている。前側アーム22は、前輪14よりもやや後方側に配設されており、左右一対設けられている。後側アーム24は、前側アーム22よりも後方に配設されており、左右一対設けられている。また、後側アーム24は、前側アーム22よりも上下方向の長さが長い。
【0039】
(傾斜部材26)
前側アーム22及び後側アーム24の下端には、傾斜部材26が取付けられている。本実施形態の傾斜部材26は一例として、金属板の両端部を折り曲げることで形成されており、下方に面した下面26Aと、下面26Aの幅方向両端部から上方側へ延出された側面26Bとを含んで構成されている。このため、前後方向から見た傾斜部材26の断面形状は、上方側が開放された扁平の略U字状となっている。
【0040】
傾斜部材26の前端部における側面26Bの内壁には前側アーム22が重ね合わされており、傾斜部材26に形成された長孔を通じて前側アーム22と傾斜部材26とがボルト及びナットによって機械的に締結されている。
【0041】
傾斜部材26の後端部における側面26Bの外壁には後側アーム24が重ね合わされており、後側アーム24と傾斜部材26とがボルト及びナットによって機械的に締結されている。このため、本実施形態の傾斜部材26は、少なくとも一部が前輪14と後輪16との間に位置している。なお、ここでいう、「前輪14と後輪16との間」とは、前輪14の回転中心と後輪16の回転中心との間の領域を指す概念であり、側面視で傾斜部材26の一部が前輪14及び後輪16と重なっている態様を広く含む。
【0042】
傾斜部材26は、前側から後側へ向かって下方に傾斜するように前側アーム22及び後側アーム24に取付けられている。このため、傾斜部材26の下面26Aは、前側から後側へ向かって下方に傾斜した傾斜面とされている。
【0043】
ここで、
図1に示される仮想線CLは、前輪14と後輪16との中間を通って上下に延在する仮想線であり、傾斜部材26の下面(傾斜面)26Aの前端は、仮想線CLと前輪14との間に位置している。換言すれば、傾斜面の前端は、前輪14と後輪16との中間よりも前側に位置している。
【0044】
また、傾斜部材26の下面(傾斜面)26Aの後端は、後輪16よりも前側で、かつ、後輪16の回転軸中心よりも下側に位置している。なお、図示はしないが後輪16の回転軸中心は、後側キャスタ38の中心と一致している。
【0045】
(ステップ展開機構28)
図2に示されるように、ステップ展開機構28は、主として、ステップ40、カバープレート42及びシャフト44を含んで構成されている。ステップ40は、平面視で略矩形板状の金属板によって形成されており、ベース部12の後部における下面側に配設されている。また、ステップ40は、使用者の足が載置される載置面40Aと、載置面40Aの前端部を下方へ屈曲して形成されたフランジ40Bとを含んで構成されている。
【0046】
ここで、
図2では、ステップ40は、後端部を除いてベース部12の下面側に隠れた収納位置に配置されている。
【0047】
カバープレート42は、ステップ40の下方に配設されており、ベース部12に固定されている。そして、このため、ステップ40は、ベース部12とカバープレート42との間に挟み込まれた状態で、前後に移動可能に構成されている。
【0048】
カバープレート42の前端部には切欠部42Aが形成されており、この切欠部42Aにステップ40のフランジ40Bが入り込んでいる。また、切欠部42Aには、シャフト44が設けられている。
【0049】
シャフト44は、前後方向に延在しており、シャフト44の後端部は、カバープレート42上に取付けられた後側固定部46に固定されている。また、シャフト44の前端部は、ベース部12に設けられた前側固定部(不図示)に固定されている。そして、シャフト44にステップ40のフランジ40Bが通されているため、ステップ40は、シャフト44に沿って前後に移動するように構成されている。また、シャフト44には、ステップ40のフランジ40Bを後側へ付勢する圧縮コイルばね(不図示)が設けられている。
【0050】
図3は、本実施形態に係る台車10の底面を拡大して示す拡大斜視図であり、ステップ40が使用位置にある状態を示す図である。
図3に示されるように、ステップ40が使用位置に配置された状態では、載置面40Aがベース部12よりも後方側へ突出している。
【0051】
また、使用位置では、ステップ40のフランジ40Bがカバープレート42の切欠部42Aの後端に接触しており、ここでフランジ40Bが係止されることで、ステップ40のスライド範囲が制限されている。
【0052】
また、ベース部12の下面には、ラッチ48が設けられている。本実施形態のラッチ48は、マグネット式のラッチであり、保持面(後面)に磁石が配置されている。そして、ステップ40が収納位置に配置された状態では、ステップ40のフランジ40Bがラッチ48の保持面に磁力によって保持されている。このため、ステップ40とラッチ48との間に作用する磁力は、シャフト44に設けられた圧縮コイルばねの付勢力よりも大きい力となるように調節されている。
【0053】
ステップ40が収納位置にある状態で、ステップ40を介してラッチ48が押圧されると、ラッチ48の内部のスプリングの作用により、フランジ40Bがラッチ48から離れ、シャフト44に設けられた圧縮コイルばねの付勢力によってステップ40が使用位置へスライドされる。また、圧縮コイルばねの付勢力に抗して、ステップ40をラッチ48へスライドすることで、再びフランジ40Bがラッチ48に保持され、ステップ40が収納位置に配置される。このように、ステップ40は、ベース部12から後方へ突出された使用位置と、ベース部12の下面に収納された収納位置との間で前後にスライド可能に構成されている。また、ステップ40は、収納位置において前側へ押圧されることで使用位置へスライドするように構成されている。
【0054】
(作用)
次に、本実施形態の作用を説明する。
【0055】
本実施形態の台車10では、荷物が載置可能なベース部12における前部の下面には、前輪14が取り付けられている。また、ベース部12における後部の下面には、後輪16が取り付けられている。さらに、ベース部12の下面には、傾斜部材26が設けられている。ここで、傾斜部材26の少なくとも一部は、前輪14と後輪16との間に設けられている。また、傾斜部材26の下面26Aが前側から後側へ向かって下方に傾斜した傾斜面となっている。これにより、前輪14が段差に乗り上げた後、段差が下面26Aと接触することで、傾斜面に対して段差から上向きの反力が作用し、後輪16が段差を乗り越えやすくなる。
【0056】
また、本実施形態では、傾斜部材26は、ベース部12に固定された状態で段差を乗り越えやすくする機能を発揮するため、簡易な構造で段差を乗り越えることができる。さらに、傾斜部材26自体にはコイルスプリングなどの部品を必要としないため、メンテナンス性の観点でも優れている。
【0057】
さらに、本実施形態では、傾斜部材26の前端が前輪14と後輪16との中間よりも前側に位置しているため、傾斜面が後部のみに配置された構造と比較して、傾斜面の傾斜角度が緩やかになり、より少ない力で段差を乗り越えることができる。
【0058】
さらにまた、本実施形態では、傾斜部材26の下面26A(傾斜面)の後端が後側キャスタ38の回転軸中心よりも下側に位置しているため、後輪16が段差に引っ掛からずスムーズに段差を乗り越えることができる。
【0059】
また、本実施形態では、ベース部12から後方へステップ40が突出されており、このステップ40は使用位置において、使用者が足で踏み込むことが可能に構成されている。これにより、使用者がステップ40を足で踏み込むことで前輪14を浮かせることができる。
【0060】
また、ステップ40は、ベース部12から後方へ突出された使用位置と、ベース部12の下面に収納された収納位置との間で前後にスライド可能に構成されている。これにより、非使用時には、ステップ40を収納位置にスライドさせることで、ステップ40が邪魔にならずに済む。さらに、収納位置のステップ40を足などで押すだけで使用位置へスライドさせることができるため、煩わしい操作を行うことなくステップ40の出し入れを行うことができる。
【0061】
なお、上記実施形態では、傾斜部材26の形状を側面視で略直線状としたが、これに限定されない。例えば、
図4~7に示される第1変形例~第4変形例に記載の構造を採用してもよい。
【0062】
(第1変形例)
図4は、第1変形例に係る台車10の側面図である。
図4に示されるように、本変形例では、傾斜部材27が屈曲している。具体的には、傾斜部材27は、前後方向の中間部分が下方へ膨出するように屈曲しているが、傾斜部材27の下面27Aは、全体として前側から後側へ向かって下方に傾斜した傾斜面となっている。
【0063】
(第2変形例)
図5は、第2変形例に係る台車10の側面図である。
図5に示されるように、本変形例では、傾斜部材29が湾曲している。具体的には、傾斜部材29は、下方へ膨出するように湾曲しているが、傾斜部材27の下面27Aは、全体として前側から後側へ向かって下方に傾斜した傾斜面となっている。
【0064】
(第3変形例)
図6は、第3変形例に係る台車10の側面図である。
図6に示されるように、本変形例では、傾斜部材31が屈曲している。具体的には、傾斜部材31は、前後方向の中間部分が上方へ膨出するように屈曲しているが、傾斜部材31の下面31Aは、全体として前側から後側へ向かって下方に傾斜した傾斜面となっている。
【0065】
(第4変形例)
図7は、第4変形例に係る台車10の側面図である。
図7に示されるように、本変形例では、傾斜部材33が湾曲している。具体的には、傾斜部材33は、上方へ膨出するように湾曲しているが、傾斜部材33の下面33Aは、全体として前側から後側へ向かって下方に傾斜した傾斜面となっている。
【0066】
以上の第1変形例~第4変形例に係る台車10であっても、本実施形態と同様に傾斜部材の下面が傾斜面となっているため、本実施形態と同様の効果を有する。
【0067】
<第2実施形態>
次に、本発明の第2実施形態について説明する。なお、第1実施形態と同様の構成については同じ符号を付し、適宜説明を省略する。
【0068】
図8は、第2実施形態に係る台車60の底面を拡大して示す拡大斜視図である。
図8に示されるように、本実施形態の台車60は、ベース部12の下面に傾斜部材62が設けられている。
【0069】
傾斜部材62は、少なくとも一部が前輪14と後輪16との間に位置している。また、傾斜部材62の下面62Aは、前側から後側へ向かって下方に傾斜した傾斜面とされている。
【0070】
ここで、本実施形態の傾斜部材62は、ベース部12と共に樹脂部材により一体的に形成されている。このため、傾斜部材62は、ベース部12と同様の材料によって形成されている。
【0071】
傾斜部材62は、下面62A、側面62B、後面62C及び前面(不図示)を含んでブロック状に構成されている。なお、第1実施形態と同様にステップ展開機構28を備えていてもよい。
【0072】
本実施形態に係る台車60では、傾斜部材62がベース部12と一体的に形成されているため、傾斜部材62を別途後付けする必要がない。その他の作用については第1実施形態と同様である。
【0073】
<第3実施形態>
次に、本発明の第3実施形態について説明する。なお、第1実施形態と同様の構成については同じ符号を付し、適宜説明を省略する。
【0074】
図9は、第3実施形態に係る台車70の底面を拡大して示す拡大斜視図である。
図9に示されるように、本実施形態の台車70は、傾斜部材72が左右一対設けられている点で第1実施形態と異なる。
【0075】
一方の傾斜部材72は、台車70の右側端部において、前輪14と後輪16の間に設けられており、例えば、前輪14又は後輪16を固定する際の固定金具と一体的に形成してもよい。また、他方の傾斜部材72は、台車70の左側端部において、前輪14と後輪16の間に設けられている。
【0076】
一対の傾斜部材72はそれぞれ、下面72Aが前側から後側へ向かって下方に傾斜した傾斜面とされている。また、傾斜部材72には、傾斜面である下面72Aの幅方向端部とベース部12とを繋ぐ意匠面72Bを備えている。
【0077】
意匠面72Bには、任意の会社名及び製品名など周囲に視認させるための広告が描かれている。なお、本実施形態では一例として、意匠面72Bとベース部12の側面が面一となっている。
【0078】
本実施形態では、傾斜部材72が左右一対設けられているため、路面に落下物や突起部などの障害物があった場合でも、傾斜部材72と干渉せずに障害物を通過させることができる。すなわち、この場合、左右一対の前輪14の間に障害物を通過させることで、障害物が傾斜部材72と干渉しない。
【0079】
また、本実施形態では、傾斜部材72が意匠面72Bを備えているため、意匠面72Bに広告などを表示すれば、台車70の使用時に周囲に広告を視認させることができる。
【0080】
さらに、本実施形態では、意匠面が足の巻き込みを防止するガイドとして機能するため、台車70の使用時に使用者及び周囲の人の足などが巻き込まれるのを防止できる。その他の作用については第1実施形態と同様である。なお、意匠面72Bには、再帰反射を利用した反射材などを設けてもよく、蛍光素材や蓄光素材を設けてもよい。この場合、夜間や暗い場所での利用時に周囲に台車70の存在を認知させることができる。同様に、意匠面72Bに発光ダイオード(LED:Light Emission Diode)などを埋め込んで、周囲を照らすことが可能に構成してもよい。
【0081】
<第4実施形態>
次に、本発明の第4実施形態について説明する。なお、第1実施形態と同様の構成については同じ符号を付し、適宜説明を省略する。
【0082】
図10は、第4実施形態に係る台車80の底面を拡大して示す拡大斜視図である。
図10に示されるように、本実施形態の台車80は、傾斜部材86に複数の貫通孔86Cが形成されている点で第1実施形態と異なる。
【0083】
台車80のベース部12の下面には、前側アーム82及び後側アーム84が設けられている。前側アーム82は、前輪14よりもやや後方側に配設されており、左右一対設けられている。後側アーム84は、前側アーム82よりも後方に配設されており、ブロック状に形成されている。また、後側アーム84は、前側アーム82よりも長さが長い。
【0084】
前側アーム82及び後側アーム84の下端には、傾斜部材86が取付けられている。本実施形態の傾斜部材86は一例として、金属板の両端部を折り曲げることで形成されており、下方に面した下面86Aと、下面86Aの幅方向両端部から上方側へ延出された側面86Bとを含んで構成されている。このため、前後方向から見た傾斜部材86の断面形状は、上方側が開放された扁平の略U字状となっている。
【0085】
下面86Aは、前側から後側へ向かって下方に傾斜した傾斜面とされている。また、下面86Aには、多数の貫通孔86Cが形成されている。
【0086】
本実施形態では、傾斜部材86の下面86Aに多数の貫通孔86Cが形成されているため、傾斜部材86とベース部12との間に隙間が形成されている場合であっても、傾斜部材86の上面側に水などの液体が溜まるのを抑制できる。
【0087】
また、本実施形態では、貫通孔86Cを形成したことにより、傾斜部材86を軽量化することができる。この結果、台車80全体の重量を低減できる。その他の作用については第1実施形態と同様である。
【0088】
以上、第1実施形態~第4実施形態について説明したが、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、種々なる態様で実施し得ることは勿論である。例えば、上記第1実施形態では、傾斜部材26が設けられた台車10について説明したが、一般的な台車に対して傾斜部材を含む障害物乗越機構を後付けしてもよい。
【0089】
台車に後付される障害物乗越機構としては、台車のベース部の下面に取付可能な前側アームと後側アームを備え、前側アーム及び後側アームに傾斜部材を取付けた構造などを採用し得る。そして、障害物乗越機構は、台車に後付けされた状態で、少なくとも一部が前輪と後輪との間に位置すると共に、下面が前側から後側へ向かって下方に傾斜した傾斜面とされる。このようにすることで、一般的な台車であっても、第1実施形態と同様の傾斜部材を取付けることができ、簡易な構造で容易に段差を乗り越えることができる。
【0090】
また、上記第1実施形態では、傾斜部材26とステップ展開機構28の両方を備えた構造について説明したが、これに限定されず、傾斜部材26のみを備えた構造としてもよい。
【0091】
さらに、上記第1実施形態では、傾斜部材26自体を段差と接触させる構造としたが、これに限定されない。例えば、傾斜部材26の下面26Aにシート状部材を貼付してもよい。シート状部材としては、段差との間に作用する摩擦力を低減するための低摩擦係数の部材が好ましい。また、シート状部材が劣化した際に容易に交換できる構造としてもよい。
【0092】
さらにまた、上記第1実施形態では、ステップ40の形状を矩形薄板状としたが、これに限定されず、他の形状にしてもよい。例えば、ステップ40の後端部を斜め上方へ屈曲させて、使用者のつま先で押しやすい形状としてもよい。
【0093】
また、上記第1実施形態のステップ展開機構28では、
図3に示されるように、マグネット式のラッチ48を用いているが、これに限定されず、他の方式でステップの収納及び展開を行う構造としてもよい。例えば、ベース部の前端に段差を検知するセンサを取付け、ベース部の後部にステップを電動で展開及び収納する1軸のアクチュエータを取付けた構造を採用してもよい。この場合、センサで段差を検知した際に、アクチュエータに信号が伝達されてステップが格納位置から使用位置へスライドされる。また、センサからの信号に基づいて、段差を乗り越えた後、所定の時間が経過した場合に、ステップが使用位置から格納位置へスライドされるように構成してもよい。この場合のセンサとしては、赤外線センサやレーザセンサに限定されず、センサとして光学カメラを用いてもよい。光学カメラで撮影された画像を画像認識することで、段差を検知してもよい。さらに、マグネット式のラッチ48に換えて、手動でロックするロック機構を設けてもよい。例えば、ステップを収容位置までスライドさせた状態で、物理的にステップをロックする機構を設けてもよい。この場合、取手18などにロック機構を操作するスイッチ類を設けることで、使用者が手元でロック操作及びロック解除操作を行うことができる。
【0094】
さらに、上記実施形態では、左右一対の前輪14と左右一対の後輪16を備えた構造としたが、これに限定されない。例えば、前輪14と後輪16との間に別途車輪を備えた構造を採用してもよい。また、前輪14又は後輪16が1つのみ設けられた構造を採用してもよい。さらに、前輪14又は後輪16が幅方向に3つ以上設けられた構造を採用してもよい。
【0095】
さらにまた、上記実施形態では、傾斜部材26の下面26Aの後端が後輪16の回転軸中心よりも下側に位置しているが、これに限定されない。例えば、傾斜部材26の下面26Aの後端が後輪16の回転軸中心よりも上側に位置していてもよい。また、上記実施形態では、傾斜部材26の下面26Aの前端が前輪14の回転軸中心よりも上側に位置しているが、これに限定されない。例えば、傾斜部材26の下面26Aの前端が前輪14の回転軸中心よりも下側に位置していてもよい。
【0096】
また、
図11に示される第5変形例、及び
図12に示される第6変形例に記載の構造を採用してもよい。
【0097】
<第5変形例>
図11は、第5変形例に係る台車10の底面を拡大して示す拡大斜視図である。
図11に示されるように、本変形例では、傾斜部材26には、使用者が把持可能な把持部35が設けられている。
【0098】
把持部35は、傾斜部材26の側面26Bに設けられている。本変形例の把持部35は一例として、略U字状に形成されており、U字状の両端部が傾斜部材26の側面26Bに固定されている。なお、把持部35は、右側の側面26Bと左側の側面26Bにそれぞれ設けられている。
【0099】
本変形例によれば、台車10を使用しない場合には、使用者が把持部35を把持して台車10を運搬できる。例えば、使用者は、取手18を折り畳んだ状態で把持部35を把持して台車10を容易に持ち上げることができるため、階段などの台車10が走行できない場所を運搬できる。
【0100】
なお、把持部35を台車10のベース部12と平行に取り付けてもよい。この場合、例えば、傾斜部材26の側面26Bから上方へ延在するブラケットを取付け、このブラケットに把持部35の後側を取付けることで、把持部35とベース部12とを略平行にできる。
【0101】
<第6変形例>
図12は、第6変形例に係る台車70の底面を拡大して示す拡大斜視図である。
図12に示されるように、本変形例では、傾斜部材72には、使用者が把持可能な把持部35が設けられている。
【0102】
一対の傾斜部材72はそれぞれ、下面72Aが前側から後側へ向かって下方に傾斜した傾斜面とされている。また、傾斜部材72には、傾斜面である下面72Aの幅方向端部とベース部12とを繋ぐ意匠面72Bを備えている。
【0103】
さらに、傾斜部材72の幅方向内側には、凹部72Aが形成されており、この凹部72Aによって使用者が把持可能な把持部が構成されている。すなわち、使用者は、凹部72Aに指を掛けることで、傾斜部材72を容易に把持できる。なお、凹部72Aの内壁には、使用者が指を掛けやすいように突起などを設けてもよい。また、凹部72Aを意匠面72Bまで貫通させてもよい。この場合、例えば、使用者が凹部72Aに腕を挿入して台車70を搬送できる。さらに、下面72Aにスリットなどを形成し、使用者が傾斜部材72を把持しやすくしてもよい。
【符号の説明】
【0104】
10 台車
12 ベース部
14 前輪
16 後輪
26 傾斜部材
26A 下面(傾斜面)
27 傾斜部材
27A 下面(傾斜面)
29 傾斜部材
29A 下面(傾斜面)
31 傾斜部材
31A 下面(傾斜面)
33 傾斜部材
33A 下面(傾斜面)
35 把持部
60 台車
62 傾斜部材
62A 下面(傾斜面)
70 台車
72 傾斜部材
72A 下面(傾斜面)
72C 凹部(把持部)
80 台車
86 傾斜部材
86A 下面(傾斜面)
86C 貫通孔
【要約】
【課題】簡易な構造で容易に段差を乗り越えることができる台車及び障害物乗越機構を得る。
【解決手段】台車10は、荷物が載置可能なベース部12と、ベース部12における前部の下面に取り付けられた前輪14と、ベース部12における後部の下面に取り付けられた後輪16と、ベース部12の下面に設けられ、少なくとも一部が前輪14と後輪16との間に位置すると共に、下面26Aが前側から後側へ向かって下方に傾斜した傾斜面とされた傾斜部材26と、を有する。
【選択図】
図1