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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-02-14
(45)【発行日】2025-02-25
(54)【発明の名称】抗ノロウイルス剤、消毒剤及び洗浄剤
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/353 20060101AFI20250217BHJP
   A01N 25/02 20060101ALI20250217BHJP
   A01N 43/16 20060101ALI20250217BHJP
   A01N 59/02 20060101ALI20250217BHJP
   A01N 65/00 20090101ALI20250217BHJP
   A01N 65/03 20090101ALI20250217BHJP
   A01N 65/06 20090101ALI20250217BHJP
   A01N 65/08 20090101ALI20250217BHJP
   A01N 65/18 20090101ALI20250217BHJP
   A01N 65/20 20090101ALI20250217BHJP
   A01N 65/34 20090101ALI20250217BHJP
   A01P 1/00 20060101ALI20250217BHJP
   A61K 9/08 20060101ALI20250217BHJP
   A61K 31/7024 20060101ALI20250217BHJP
   A61K 33/04 20060101ALI20250217BHJP
   A61K 47/10 20170101ALI20250217BHJP
   A61K 47/22 20060101ALI20250217BHJP
   A61P 31/14 20060101ALI20250217BHJP
   C11D 3/04 20060101ALI20250217BHJP
   C11D 3/20 20060101ALI20250217BHJP
   C11D 3/48 20060101ALI20250217BHJP
   C11D 7/10 20060101ALI20250217BHJP
   C11D 7/26 20060101ALI20250217BHJP
【FI】
A61K31/353
A01N25/02
A01N43/16 C
A01N59/02 Z
A01N65/00 G
A01N65/03
A01N65/06
A01N65/08
A01N65/18
A01N65/20
A01N65/34
A01P1/00
A61K9/08
A61K31/7024
A61K33/04
A61K47/10
A61K47/22
A61P31/14
C11D3/04
C11D3/20
C11D3/48
C11D7/10
C11D7/26
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2020169961
(22)【出願日】2020-10-07
(65)【公開番号】P2021059537
(43)【公開日】2021-04-15
【審査請求日】2023-07-19
(31)【優先権主張番号】P 2019184750
(32)【優先日】2019-10-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】397056042
【氏名又は名称】セッツ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100124431
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 順也
(74)【代理人】
【識別番号】100174160
【弁理士】
【氏名又は名称】水谷 馨也
(74)【代理人】
【識別番号】100175651
【弁理士】
【氏名又は名称】迫田 恭子
(72)【発明者】
【氏名】川島 大貴
(72)【発明者】
【氏名】國武 広一郎
(72)【発明者】
【氏名】勢戸 祥介
【審査官】向井 佑
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-047196(JP,A)
【文献】特開2019-081743(JP,A)
【文献】特開2001-270881(JP,A)
【文献】特開平06-336420(JP,A)
【文献】特開2007-176907(JP,A)
【文献】国際公開第2008/153077(WO,A1)
【文献】特開2020-040907(JP,A)
【文献】Pro Instant Antibacterial Sanitiser,MINTEL GNPD,ID#2366485,2014年04月,https://www.gnpd.com/sinatra/recordpage/2366485/
【文献】Body Cleanser,MINTEL GNPD,ID#6161145,2018年11月,https://www.gnpd.com/sinatra/recordpage/6161145
【文献】旭創業 衛生用品カタログ[オンライン],2017年,[令和6年5月19日検索] 、インターネット<URL:http://www.asahi-so.co.jp/webcatalogue/hygienic05/index.html>
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K
A61P
A01N
A01P
Mintel GNPD
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
植物由来のポリフェノール(但し、柿タンニンを除く。)及び含硫黄還元性無機塩を含み、
前記含硫黄還元性無機塩は、亜硫酸塩である、抗ノロウイルス剤。
【請求項2】
前記植物由来のポリフェノールの濃度が、0.001質量%以上である、請求項1に記載の抗ノロウイルス剤。
【請求項3】
前記含硫黄還元性無機塩の濃度が、0.001質量%以上である、請求項1又は2に記載の抗ノロウイルス剤。
【請求項4】
前記植物由来のポリフェノールは、フラバノール類、ガロタンニン類、エラジタンニン類、及びフロロタンニン類のうち少なくとも1種である、請求項1~3のいずれか1項に記載の抗ノロウイルス剤。
【請求項5】
酸化防止剤をさらに含む、請求項1~4のいずれか1項に記載の抗ノロウイルス剤。
【請求項6】
前記酸化防止剤は、アスコルビン酸及びアスコルビン酸塩の少なくとも一方である、請求項5に記載の抗ノロウイルス剤。
【請求項7】
濃度30質量%以上のエタノール水溶液中に、前記植物由来のポリフェノール及び前記含硫黄還元性無機塩類が含まれている、請求項1~6のいずれか1項に記載の抗ノロウイルス剤。
【請求項8】
請求項1~7のいずれか1項に記載の抗ノロウイルス剤を含む、施設内の消毒剤。
【請求項9】
請求項1~7のいずれか1項に記載の抗ノロウイルス剤を含む、器具、機器、又は装置の洗浄剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗ノロウイルス剤、消毒剤及び洗浄剤に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ノロウイルスによる感染性胃腸炎や食中毒の発生が一年を通じて多発しており、特に11月から3月が発生のピークとなっている。ノロウイルスは、カリシウイルス科、ノロウイルス属に分類されるエンベローブを持たないRNAウイルスであり、アルコール(エタノール、イソプロパノール等)、逆性石鹸、熱、酸(胃酸等)、乾燥等に対して強い抵抗力を有する。ノロウイルスの潜伏期間は1~2日であると考えられており、嘔気、嘔吐、下痢の主症状が出るが、腹痛、頭痛、発熱、悪寒、筋痛、咽頭痛、倦怠感等を伴うこともある。
【0003】
ノロウイルスの感染経路の一つとして経口感染が知られており、ノロウイルスに汚染された食物や水等を経口摂取することにより感染が成立する。そのため、飲食店、給食施設、工場など食品を調理加工する場においては、食物や水、設備等がノロウイルスに汚染されないようにすることが求められている。
【0004】
ノロウイルスは、10個から100個程度という少量によっても発症するほど高い感染力を有する。そのため、ノロウイルスに対して直接的に作用し、ノロウイルスの感染能力を低下又は消失させる、抗ノロウイルス剤が望まれる。
【0005】
厚生労働省によると、ノロウイルスを不活化するには、調理器具等に対して、85℃で1分間の加熱、200ppmの次亜塩素酸ナトリウムでの消毒を推奨している(非特許文献1参照)。しかしながら、加熱によるノロウイルスの不活性化には、対象物の耐熱性の問題があり、また、次亜塩素酸ナトリウムは強い金属腐食性を有するために使用が制限される場合がある。さらに、調理場など有機物汚れの多い場所では、次亜塩素酸ナトリウムが分解し、十分な効果の得られないことも想定される。
【0006】
さらに、次亜塩素酸ナトリウムは、皮膚や粘膜を侵す危険性があることから、人体への適用は難しく、さらに、酸と反応して有毒ガスが発生するなど、取り扱いや使用に際し注意が必要である。かかる状況下において、取り扱いが簡便で、次亜塩素酸ナトリウムが使用できない場合でも、十分な不活化効果を発揮し得る抗ノロウイルス剤が強く求められている。
【0007】
人体に対し安全にノロウイルス等を不活性化する方法として、植物由来のウイルス不活性化物質を使用する方法が検討されている。
【0008】
例えば特許文献1には、ブドウ種子抽出物のプロアントシアニジンを所定量含む殺ノロウイルス剤が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特開2013-47196号公報
【非特許文献】
【0010】
【文献】厚生労働省ホームページ「ノロウイルスに対するQ&A」;https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/shokuhin/syokuchu/kanren/yobou/040204-1.html#17
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
植物由来の抗ノロウイルス剤が種々提案されているが、これらは保存安定性に劣るという問題がある。
【0012】
本発明は、植物由来であって、保存安定性に優れた抗ノロウイルス剤を提供することを主な目的とする。また、本発明は、当該抗ノロウイルス剤を用いた消毒剤及び洗浄剤を提供することも目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、上記のような課題を解決すべく鋭意検討を行った。その結果、植物由来のポリフェノールと含硫黄還元性無機塩とを併用した抗ノロウイルス剤は、長期間保管した後においても、優れた抗ノロウイルス活性を示すことを見出した。本発明は、これらの知見に基づいて、さらに検討を重ねることにより完成したものである。
【0014】
すなわち、本発明は、下記に掲げる態様の発明を提供する。
項1. 植物由来のポリフェノール及び含硫黄還元性無機塩を含む、抗ノロウイルス剤。
項2. 前記植物由来のポリフェノールの濃度が、0.001質量%以上である、項1に記載の抗ノロウイルス剤。
項3. 前記含硫黄還元性無機塩の濃度が、0.001質量%以上である、項1又は2に記載の抗ノロウイルス剤。
項4. 前記植物由来のポリフェノールは、フラバノール類、ガロタンニン類、エラジタンニン類、及びフロロタンニン類のうち少なくとも1種である、項1~3のいずれか1項に記載の抗ノロウイルス剤。
項5. 前記含硫黄還元性無機塩は、亜硫酸塩である、項1~4のいずれか1項に記載の抗ノロウイルス剤。
項6. 酸化防止剤をさらに含む、項1~5のいずれか1項に記載の抗ノロウイルス剤。
項7. 前記酸化防止剤は、アスコルビン酸及びアスコルビン酸塩の少なくとも一方である、項6に記載の抗ノロウイルス剤。
項8. 濃度30質量%以上のエタノール水溶液中に、前記植物由来のポリフェノール及び前記含硫黄還元性無機塩類が含まれている、項1~7のいずれか1項に記載の抗ノロウイルス剤。
項9. 項1~8のいずれか1項に記載の抗ノロウイルス剤を含む、消毒剤。
項10. 項1~8のいずれか1項に記載の抗ノロウイルス剤を含む、洗浄剤。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、植物由来であって、保存安定性に優れた抗ノロウイルス剤を提供することができる。さらに、本発明によれば、当該抗ノロウイルス剤を用いた消毒剤及び洗浄剤を提供することもできる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の抗ノロウイルス剤、及びこれを用いた消毒剤、洗浄剤について、詳述する。なお、本明細書において、「~」で結ばれた数値は、「~」の前後の数値を下限値及び上限値として含む数値範囲を意味する。複数の下限値と複数の上限値が別個に記載されている場合、任意の下限値と上限値を選択し、「~」で結ぶことができるものとする。
【0017】
本発明の抗ノロウイルス剤は、植物由来のポリフェノール及び含硫黄還元性無機塩を含むことを特徴としている。本発明の抗ノロウイルス剤は、このような組成を有していることにより、植物由来であって、優れた保存安定性を示す。
【0018】
本発明の抗ノロウイルス剤においては、植物由来のポリフェノールが有効成分として含まれている。抗ノロウイルス活性を示す植物由来のポリフェノールは、人体に対して安全にノロウイルスを不活性化し得る。
【0019】
本発明の抗ノロウイルス剤において、植物由来のポリフェノールは、ポリフェノール単体として含まれていてもよいし、ポリフェノール及びその他の成分(ポリフェノール以外)を含む植物のエキスとして含まれていてもよい。すなわち、本発明の抗ノロウイルス剤は、植物由来のポリフェノールを含む植物エキスと、含硫黄還元性無機塩を含む抗ノロウイルス剤とすることができる。
【0020】
植物由来のポリフェノールとしては、抗ノロウイルス活性を示すものであれば特に制限されず、フラバノール類(例えば、プロアントシアニジン、プロシアニジン、カテキン、エピカテキンなど)、ガロタンニン類(例えば、ペンタガロイルグルコースなど)、及びエラジタンニン類(例えば、ペドゥンクラジン(Pedunculagin)、テリマグランジンI(Tellimagrandin I)、カジュアリニン(Casuarinin)、テリマグランジンII(Tellimagrandin II)、ルゴシンC(Rugosin C)など)、フロロタンニン類(例えば、フロログルシノールなど)などが挙げられる。本発明の抗ノロウイルス剤に含まれる植物由来のポリフェノールは、1種類であってもよいし、2種類以上であってもよい。
【0021】
本発明の抗ノロウイルス剤において、ポリフェノールを含む植物エキスの好ましい具体例としては、ブドウ種子抽出物、リンゴエキス(リンゴポリフェノール)、クルミエキス(クルミポリフェノール)、マンゴスチンエキス、ピーナツ種皮エキス、アカメガシワエキス、ライチエキス、ザクロエキス、月見草エキス、柿タンニン、キャッツクローエキス、海藻エキスなどが挙げられる。これらの植物エキスには、ポリフェノールが含有されており、抗ノロウイルス活性を示す。本発明の抗ノロウイルス剤は、ブドウ種子抽出物、リンゴエキス(リンゴポリフェノール)、クルミエキス(クルミポリフェノール)、マンゴスチンエキス、ピーナツ種皮エキス、アカメガシワエキス、ライチエキス、ザクロエキス、月見草エキス、柿タンニン、キャッツクローエキス、及び海藻エキスのうち、少なくとも1種を含むことが好ましい。
【0022】
ブドウ種子抽出物は、プロアントシアニジンを含むものであれば、特に制限されない。ブドウ種子抽出物は、ブドウ種子エキスであり、ブドウ種子の抽出物(特にポリフェノール画分を含む)である。本発明の抗ノロウイルス剤において、プロアントシアニジンは、ブドウ種子エキスとして好適に含有することができる。
【0023】
プロアントシアニジンは、フラバノール(カテキン、エピカテキンなど)の重合体(縮合型タンニン)である。天然に存在するプロアントシアニジンの大部分は、プロシアニジンである。より具体的には、ブドウ種子の抽出物に含まれるプロアントシアニジンは、主として下記式で表されるプロシアニジン少量体及びその没食子酸エステルである。なお、下記式において、nは、1~12程度(すなわち、2量体から13量体程度)であることが好ましい。また、13C-NMR分析により測定される平均重合度は7~9程度が好ましい。また、各重合度のプロアントシアニジンにつき、約1つの割合で没食子酸エステル構造を有していることが好ましい。
【0024】
【化1】
【0025】
ブドウ種子の具体例としては、ヨーロッパブドウ(ヴィニフェラ種 Vitis vinifera)、アメリカブドウ(ラブルスカ種 Vitis labrusca)、アムールブドウ(アムレンシス種 Vitis amurensis)等、ブドウ科(Vitaceae)ブドウ属(Vitis)植物、マスカダイン(ロトゥンディフォリア種 Muscadinia rotundifolia)等のマスカダイン属植物などの種子が挙げられる。また、ブドウ種子抽出物は、ブドウ種子を、水溶性有機溶媒(例えばエタノールなど)または水溶性有機溶媒と水との混合液で、加熱還流させながら抽出するといった、特開平11-80148号公報に記載の方法等により調製することができる。
【0026】
ブドウ種子抽出物は、プロアントシアニジンを含むものであれば、白ブドウ、赤ブドウ、黒ブドウ等のいずれの品種のブドウの種子より抽出されたものを用いてもよく、たとえば、シャルドネ種、リースリング種、甲州種、ナイアガラ種、ネオ・マスカット種、巨峰種、デラウェア種、マスカットベリーA種、白羽種(リカチテリ種)、セレサ種、ミラトルガウ種等、ヴィニフェラ種、ヴィニフェラ系交雑種、非ヴィニフェラ系交雑種など種々の品種のブドウ種子から、有機溶媒抽出等の方法により得られたものが好ましく用いられる。プロアントシアニジンを含むブドウ種子抽出物としては、市販品も容易に入手か可能であり、例えば、キッコーマンバイオケミファ株式会社の商品名「グラヴィノールSE」(プロアントシアニジン含有率83質量%以上)、「グラヴィノールN」(プロアントシアニジン含有率38質量%以上)や、ベーガン通商株式会社の商品名「PPBHQ」(プロアントシアニジン含有率70質量%以上)などが例示される。
【0027】
ブドウ種子抽出物におけるプロアントシアニジンの含有率としては、特に制限されないが、好ましくは50質量%以上、より好ましくは60質量%以上、さらに好ましくは70質量%以上、さらに好ましくは80質量%以上が挙げられる。なお、ブドウ種子抽出物におけるプロアントシアニジンの含有率の上限は、例えば、95質量%程度である。
【0028】
リンゴポリフェノールは、リンゴエキスであり、例えばリンゴの果皮、果実、又はこれらの混合物の抽出物(ポリフェノール画分)である。本発明の抗ノロウイルス剤において、リンゴポリフェノールは、リンゴエキスとして好適に含有することができる。
【0029】
リンゴエキスの抽出溶媒としては、例えば、水;メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール等のアルコール類;エチレングリコール、プロピレングリコール、ブチレングリコール、グリセリン等の多価アルコール;アセトン、メチルエチルケトン等のケトン類;酢酸メチル、酢酸エチル等のエステル類;テトラヒドロフラン、ジエチルエーテル等のエーテル類;ジクロロメタン、ジクロロエタン、クロロホルム等のハロゲン化炭化水素類;ヘキサン、ペンタン等の脂肪族炭化水素類;トルエン等の芳香族炭化水素類;ポリエチレングリコール等のポリエーテル類;ピリジン類等の有機溶媒が挙げられる。これらの抽出溶媒は1種単独で使用してもよく、また2種以上を組み合わせて使用してもよい。これらの中でも、水、アルコール(例えばエタノール)、含水アルコール(例えば含水エタノール)などが有効である。すなわち、リンゴエキスは、リンゴの水抽出物、アルコール抽出物、又は含水アルコール抽出物であることが好ましい。リンゴエキスは、1種類のみを用いてもよいし、2種類以上を混合して用いてもよい。
【0030】
リンゴポリフェノールは市販品が容易に入手可能である。市販品としては、フロンティアフーズ株式会社の商品名「リンゴポリフェノール粉末」、BGG Japan株式会社の商品名「ApplePhenon(登録商標)アップルフェノン SH」、「ApplePhenon(登録商標)アップルプロシアニジン」(プロシアニジン含有率18.4質量%以上)、「ApplePhenon(登録商標)アップルフェノンC-100」、株式会社アクセスワンの商品名「リンゴポリフェノール」(ポリフェノール含有率98.0質量%)、ヴィディヤジャパン株式会社「アップルエキス末」などが挙げられる。
【0031】
リンゴポリフェノールに含まれる成分としては、プロシアニジン類(縮合型タンニン類)、(+)-カテキンや(-)エピカテキン等の単純カテキン類、フロリジン系(カルコン)のフラボノイド類、クロロゲン酸を主体とするフェノール酸類等が挙げられる。
【0032】
クルミポリフェノールは、クルミ(Juglans regia L.)の種皮(薄皮)に含有されるポリフェノール成分である。本発明の抗ノロウイルス剤において、クルミポリフェノールは、クルミ種皮エキスとして好適に含有することができる。
【0033】
クルミポリフェノールの抽出溶媒としては、水、アルコール(例えばエタノール)、含水アルコール(例えば含水エタノール)などが有効である。すなわち、クルミポリフェノールは、クルミ種皮の水抽出物、アルコール抽出物、又は含水アルコール抽出物であることが好ましい。クルミポリフェノールは、1種類のみを用いてもよいし、2種類以上を混合して用いてもよい。
【0034】
クルミポリフェノールは市販品が容易に入手可能である。クルミポリフェノールの市販品としては、例えば、クルミポリフェノール-P10、クルミポリフェノール-P30(ポリフェノール含有率30.0質量%以上)、クルミポリフェノール-WSP10(ポリフェノール含有率10.0質量%以上)(以上オリザ油化株式会社製)などが挙げられる。
【0035】
なお、クルミポリフェノールに含まれる成分としては、ペドゥンクラジン(Pedunculagin)、テリマグランジンI(Tellimagrandin I)、カジュアリニン(Casuarinin)、テリマグランジンII(Tellimagrandin II)、ルゴシンC(Rugosin C)などが知られている。
【0036】
マンゴスチンエキスはマンゴスチン(Garcinia mangostana)の果皮などの抽出物である。
【0037】
マンゴスチンエキスの抽出溶媒としては、水、アルコール(例えばエタノール)、含水アルコール(例えば含水エタノール)などが有効である。すなわち、マンゴスチンエキスは、マンゴスチンの果皮などの水抽出物、アルコール抽出物、又は含水アルコール抽出物であることが好ましい。マンゴスチンエキスは、1種類のみを用いてもよいし、2種類以上を混合して用いてもよい。
【0038】
マンゴスチンエキスは市販品が容易に入手可能である。マンゴスチンエキスの市販品としては、例えば、マンゴスチンα20(ポリフェノール含有率20.0質量%以上)、マンゴスチンアクア(以上、日本新薬株式会社製)が挙げられる。
【0039】
なお、マンゴスチンエキスに含まれるポリフェノールとしては、キサントン類、プロシアニジン類、カテキン類などの各種ポリフェノールが知られている。
【0040】
ピーナツ種皮エキスは落花生(Arachis hypogaea)の種皮の抽出物である。
【0041】
ピーナツ種皮エキスの抽出溶媒としては、水、アルコール(例えばエタノール)、含水アルコール(例えば含水エタノール)などが有効である。すなわち、ピーナツ種皮エキスは、ピーナツの種皮の水抽出物、アルコール抽出物、又は含水アルコール抽出物であることが好ましい。ピーナツ種皮エキスは、1種類のみを用いてもよいし、2種類以上を混合して用いてもよい。
【0042】
ピーナツ種皮エキスは市販品が容易に入手可能である。ピーナツ種皮エキスの市販品としては、例えば、ピーナツ種皮エキス末(プロアントシアニジン含有率38.0質量%以上)(以上、株式会社常磐薬品植物化学研究所製)が挙げられる。
【0043】
なお、ピーナツ種皮エキスに含まれるポリフェノールとしては、プロアントシアニジンなどの各種ポリフェノールが知られている。
【0044】
アカメガシワエキスはアカメガシワ(Mallotus japonicus)の樹皮、葉、根などの抽出物であり、好ましくは樹皮の抽出物である。
【0045】
アカメガシワエキスの抽出溶媒としては、水、アルコール(例えばエタノール)、含水アルコール(例えば含水エタノール)などが有効である。すなわち、アカメガシワエキスは、アカメガシワの樹脂、葉、根などの水抽出物、アルコール抽出物、又は含水アルコール抽出物であることが好ましい。アカメガシワエキスは、1種類のみを用いてもよいし、2種類以上を混合して用いてもよい。
【0046】
アカメガシワエキスは市販品が容易に入手可能である。アカメガシワエキスの市販品としては、例えば、アカメガシワエキスパウダー(ポリフェノール含有率14.0質量%以上)(以上、日本粉末薬品株式会社製)が挙げられる。
【0047】
なお、アカメガシワエキスに含まれるポリフェノールとしては、ベルゲニン、ゲラニイン、ルチン、コリラジンなどの各種ポリフェノールが知られている。
【0048】
ライチエキスはライチ(Litchi chinensis)の種子または果実の抽出物である。
【0049】
ライチエキスの抽出溶媒としては、水、アルコール(例えばエタノール)、含水アルコール(例えば含水エタノール)などが有効である。すなわち、ライチエキスは、ライチの種子または果実の水抽出物、アルコール抽出物、又は含水アルコール抽出物であることが好ましい。ライチエキスは、1種類のみを用いてもよいし、2種類以上を混合して用いてもよい。
【0050】
ライチエキスは市販品が容易に入手可能である。ライチエキスの市販品としては、例えば、ライチ種子エキス-WSP(ポリフェノール含有率12.0質量%以上)、ライチ種子エキス-P(以上、オリザ油化株式会社製)が挙げられる。
【0051】
なお、ライチエキスに含まれるポリフェノールとしては、フラボノイド(ロイコシアニジン、サポニン、タンニン、アントシアニン(シアニジン配糖体、マルビジン配糖体など)などの各種ポリフェノールが知られている。
【0052】
ザクロエキスは、ザクロ(Punica granatum)の果皮または花の抽出物である。
【0053】
ザクロエキスの抽出溶媒としては、水、アルコール(例えばエタノール)、含水アルコール(例えば含水エタノール)などが有効である。すなわち、ザクロエキスは、ザクロの果皮または花の水抽出物、アルコール抽出物、又は含水アルコール抽出物であることが好ましい。ザクロエキスは、1種類のみを用いてもよいし、2種類以上を混合して用いてもよい。
【0054】
ザクロエキスは市販品が容易に入手可能である。ザクロエキスの市販品としては、例えば、ザクロ果皮エキス末、ザクロ花エキス末(ポリフェノール含有率40.0質量%以上)(以上、香栄興業株式会社製)が挙げられる。
【0055】
なお、ザクロエキスに含まれるポリフェノールとしては、タンニン、アントシアニンなどの各種ポリフェノールが知られている。
【0056】
月見草エキスは、月見草(Oenothera tetraptera)の種子の抽出物である。
【0057】
月見草エキスの抽出溶媒としては、水、アルコール(例えばエタノール)、含水アルコール(例えば含水エタノール)などが有効である。すなわち、月見草エキスは、月見草の種子の水抽出物、アルコール抽出物、又は含水アルコール抽出物であることが好ましい。月見草エキスは、1種類のみを用いてもよいし、2種類以上を混合して用いてもよい。
【0058】
月見草エキスは市販品が容易に入手可能である。月見草エキスの市販品としては、例えば、月見草エキス-WSPS(ポリフェノール含有率50.0質量%以上)、月見草エキス-P(ポリフェノール含有率60.0質量%以上)(以上、オリザ油化株式会社製)が挙げられる。
【0059】
なお、月見草エキスに含まれるポリフェノールとしては、プロアントシアニジン、ペンタガロイルグルコースなどの各種ポリフェノールが知られている。
【0060】
柿タンニンは、渋柿(柿の木の果実)の搾汁の抽出物である。
【0061】
柿タンニンの抽出溶媒としては、水、アルコール(例えばエタノール)、含水アルコール(例えば含水エタノール)などが有効である。すなわち、柿タンニンは、渋柿の搾汁の水抽出物、アルコール抽出物、又は含水アルコール抽出物であることが好ましい。柿タンニンは、1種類のみを用いてもよいし、2種類以上を混合して用いてもよい。
【0062】
柿タンニンは市販品が容易に入手可能である。柿タンニンの市販品としては、例えば、柿タンニン(タンニン含有率3.0質量%以上)(以上、株式会社トミヤマ製)が挙げられる。
【0063】
なお、渋柿に含まれるポリフェノールとしては、タンニンなどが知られている。
【0064】
キャッツクローエキスは、キャッツクロー(Uncaria tomentosa)の木部・樹皮の抽出物である。
【0065】
キャッツクローエキスの抽出溶媒としては、水、アルコール(例えばエタノール)、含水アルコール(例えば含水エタノール)などが有効である。すなわち、キャッツクローエキスは、キャッツクローの木部・樹皮の水抽出物、アルコール抽出物、又は含水アルコール抽出物であることが好ましい。キャッツクローエキスは、1種類のみを用いてもよいし、2種類以上を混合して用いてもよい。
【0066】
キャッツクローエキスは市販品が容易に入手可能である。キャッツクローエキスの市販品としては、例えば、キャッツクローエキスパウダー(日本粉末薬品株式会社)、ビゼンキャッツクローエキス末(備前化成株式会社)などが挙げられる。
【0067】
なお、キャッツクローエキスに含まれるポリフェノールとしては、プロアントシアニジン、カテキンなどの各種ポリフェノールが知られている。
【0068】
海藻ポリフェノールは、ヒバマタ科のアスコフィラム・ノドサムの抽出物である。
【0069】
アスコフィラム・ノドサムの抽出溶媒としては、水、アルコール(例えばエタノール)、含水アルコール(例えば含水エタノール)などが有効である。すなわち、海藻ポリフェノールは、アスコフィラム・ノドサムの水抽出物、アルコール抽出物、又は含水アルコール抽出物であることが好ましい。海藻ポリフェノールは、1種類のみを用いてもよいし、2種類以上を混合して用いてもよい。
【0070】
海藻ポリフェノールは市販品が容易に入手可能である。海藻ポリフェノールの市販品としては、例えば、海藻ポリフェノール(ポリフェノール含有率75.0質量%以上)(以上、理研ビタミン株式会社製)が挙げられる。
【0071】
なお、海藻ポリフェノールに含まれるポリフェノールとしては、フロログルシノールなどが知られている。
【0072】
本発明の抗ノロウイルス剤において、植物由来のポリフェノールの濃度(含有率であって、複数種類の場合であれば、合計含有率を意味する)は、好ましくは0.001質量%以上であり、より好ましくは0.005質量%以上、さらに好ましくは0.008質量%以上が挙げられる。また、植物由来のポリフェノールの濃度の上限について、特に制限されないが、好ましくは0.80質量%以下、より好ましくは0.50質量%以下、さらに好ましくは0.30質量%以下が挙げられる。植物由来のポリフェノールとして、ブドウ種子抽出物、リンゴポリフェノール、クルミポリフェノール、マンゴスチンエキス、ピーナツ種皮エキス、アカメガシワエキス、ライチエキス、ザクロエキス、月見草エキス、キャッツクローエキスを用いる場合、これらの濃度(含有率であって、複数種類の場合であれば、合計含有率を意味する)としては、好ましくは0.001~0.50質量%程度、より好ましくは0.005~0.10質量%程度、0.008~0.08質量%程度が挙げられる。また、植物由来のポリフェノールとして、柿タンニン、海藻ポリフェノールを用いる場合、これらの濃度(含有率であって、複数種類の場合であれば、合計含有率を意味する)としては、好ましくは0.001~1.0質量%程度、より好ましくは0.005~0.50質量%程度、さらに好ましくは0.01~0.30質量%程度が挙げられる。
【0073】
含硫黄還元性無機塩は、硫黄を含む還元性の無機塩である。本発明の抗ノロウイルス剤は、抗ノロウイルス活性を有する植物由来のポリフェノールに加えて、含硫黄還元性無機塩が含まれていることにより、抗ノロウイルス剤の保存安定性が高められている。なお、本発明の抗ノロウイルス剤の保存安定性とは、より具体的には、経時的な抗ノロウイルス剤の活性の低下が抑制されることを意味している。
【0074】
含硫黄還元性無機塩としては、特に制限されないが、好ましくは亜硫酸塩が挙げられる。亜硫酸塩の具体例としては、亜硫酸ナトリウム、亜硫酸カリウムなどの亜硫酸塩;ピロ亜硫酸ナトリウム、ピロ亜硫酸カリウムなどのピロ亜硫酸塩;亜硫酸水素ナトリウム、亜硫酸水素カリウムなどの亜硫酸水素塩などが挙げられる。本発明の抗ノロウイルス剤に含まれる含硫黄還元性無機塩は、1種類であってもよいし、2種類以上であってもよい。
【0075】
本発明の抗ノロウイルス剤において、含硫黄還元性無機塩の濃度(含有率)は、好ましくは0.001質量%以上であり、より好ましくは0.005質量%以上、さらに好ましくは0.008質量%以上が挙げられる。また、含硫黄還元性無機塩の濃度の上限について、特に制限されないが、例えば1.0質量%以下、好ましくは0.80質量%以下、より好ましくは0.50質量%以下、さらに好ましくは0.30質量%以下が挙げられる。
【0076】
本発明の抗ノロウイルス剤が不活性化の対象とするウイルスは、ヒトノロウイルス(HNV)、ネコカリシウイルス(FCV)、及びマウスノロウイルス(MNV)の少なくとも1種であり、ヒトノロウイルスを特に好適な不活性化の対象とすることができる。
【0077】
本発明の抗ノロウイルス剤は、その保存安定性をより一層高める観点から、植物由来のポリフェノール及び含硫黄還元性無機塩に加えて、酸化防止剤をさらに含むことが好ましい。
【0078】
酸化防止剤の具体例としては、アスコルビン酸又はアスコルビン酸塩(具体的には、L-アスコルビン酸、L-アスコルビン酸塩(例えばナトリウム塩、カリウム塩、その他金属の塩)、D-アスコルビン酸、D-アスコルビン酸塩(例えばナトリウム塩、カリウム塩、その他金属の塩)、L-アスコルビン酸りん酸エステルMg、L-アスコルビン酸パルミチン酸エステル、L-アスコルビン酸2-グルコシドなど))、L-システイン、N-アセチルL-システイン、シスチン、グルタチオン(酸化型)、グルタチオン(還元型)、L-メチオニン、L-エルゴチオネイン、チオクト酸、trans-フェルラ酸、エデト酸塩、没食子酸プロピル、トコフェロール、ジブチルヒドロキシトルエン、ブチルヒドロキシアニソール、二酸化硫黄、クロロゲン酸、カテキン、エピカテキンなどが挙げられる。本発明の抗ノロウイルス剤に含まれる酸化防止剤は、それぞれ、1種類であってもよいし、2種類以上であってもよい。
【0079】
抗ノロウイルス剤の酸化防止剤としては、前記に例示した、L-アスコルビン酸、L-アスコルビン酸塩などが一般的であり、本発明の抗ノロウイルス剤においても、植物由来のポリフェノール及び含硫黄還元性無機塩と共に好適に併用することができる。本発明の抗ノロウイルス剤は、植物由来のポリフェノールと、含硫黄還元性無機塩の代わりにL-アスコルビン酸、L-アスコルビン酸塩などの酸化防止剤とを用いた抗ノロウイルス剤と比較して、抗ノロウイルス剤の保存安定性が好適に向上する。本発明においては、含硫黄還元性無機塩を用いることにより、抗ノロウイルス剤の保存安定性が効果的に高められている。また、抗ノロウイルス剤の酸化による着色を大きく抑制することができる。
【0080】
また、本発明の抗ノロウイルス剤に酸化防止剤が含まれる場合、その濃度としては、本発明の効果を阻害しないことを限度として、特に制限されず、好ましくは0.001~0.50質量%程度、より好ましくは0.003~0.05質量%、さらに好ましくは0.005~0.03質量%が挙げられる。
【0081】
本発明の抗ノロウイルス剤は、植物由来のポリフェノール及び含硫黄還元性無機塩に加えて、水及び極性有機溶媒の少なくとも一方をさらに含むことが好ましい。
【0082】
極性有機溶媒としては、本発明の効果を阻害しないものであれば、特に制限されないが、エタノール、イソプロパノール等の低級アルコールが好ましく、エタノールがより好ましい。また、本発明の抗ノロウイルス剤は、特にエタノール水溶液を含んでいることが好ましい。すなわち、本発明の抗ノロウイルス剤は、植物由来のポリフェノール及び含硫黄還元性無機塩がエタノール水溶液に含まれるものであることが特に好ましい。
【0083】
例えば、本発明の抗ノロウイルス剤を消毒剤や洗浄剤として用いる場合であれば、エタノール水溶液におけるエタノールの濃度は、下限については約30質量%以上、範囲としては約30質量%~約80質量%が最適である。
【0084】
ノロウイルスに対する不活性化作用を高める観点から、本発明の抗ノロウイルス剤のpHは、2.0~10.0の範囲であることが好ましく、2.5~7.0の範囲であることがより好ましい。
【0085】
本発明の抗ノロウイルス剤におけるpHの調整は、公知のpH調整剤や緩衝液により行うことができる。pH調整剤としては、塩酸、硝酸、硫酸、リン酸等の無機酸;酢酸、リンゴ酸、クエン酸、乳酸、フマル酸、コハク酸、酒石酸、グルコン酸、りん酸、安息香酸、ソルビン酸、アジピン酸、けい皮酸、イタコン酸、フィチン酸等の有機酸およびこれらの塩(前記の有機酸及び有機酸の塩と同一であってもよいし、異なっていてもよい。);水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等のアルカリ金属の水酸化物;炭酸カリウム、炭酸水素ナトリウム等の炭酸塩などが挙げられる。また、緩衝液としては、リン酸緩衝液、クエン酸リン酸緩衝液、乳酸緩衝液などが挙げられる。
【0086】
また、本発明の抗ノロウイルス剤には、添加剤が含まれていてもよい。添加剤としては、特に制限されず、公知の抗ウイルス剤で使用され得る添加剤を本発明でも使用することができる。添加剤としては、例えば、アミノ酸などが挙げられる。添加剤は、1種類のみを用いてもよいし、2種類以上を混合して用いてもよい。また、本発明の抗ノロウイルス剤に添加剤が含まれる場合、その濃度としては、本発明の効果を阻害しないことを限度として、特に制限されず、例えば0.001~4.0質量%程度が挙げられる。
【0087】
アミノ酸としては、L-フェニルアラニン、L-メチオニン、L-イソロイシン、L-アラニン、DL-アラニン、L-セリン、L-アルギニン、L-リシン、L-バリン、L-グリシン、L-テアニン、L-トレオニン、L-プロリン、L-ヒスチジン、L-グルタミン、L-グルタミン酸、L-ロイシン、L-トリプトファン、L-オルニチン、L-シトルリン、L-チロシン、L-カルニチンおよびこれらの塩などが挙げられる。アミノ酸が含まれることにより、本発明の抗ノロウイルス剤のpH調整を行うことができ、また、酸化による着色を抑制することができる。
【0088】
本発明の抗ノロウイルス剤には、本発明の特徴を損なわない範囲で、アシクロビル等の一般的な抗ウイルス成分、フェノキシエタノール、グルコン酸クロルヘキシジン、塩化ベンザルコニウム、塩化ベンゼトニウム、塩化セチルピリジニウム、塩酸アルキルジアミノエチルグリシン、イソプロピルメチルフェノール等の一般的な抗菌成分を含有させることもできる。
【0089】
また、一般細菌に対する除菌力を増強するため、グリセリン脂肪酸エステルを加えても、ノロウイルスに対する不活性化作用には影響しないため、問題はない。グリセリン脂肪酸エステルとしては、グリセリンモノカプリン酸エステル、グリセリンモノラウリン酸エステル、グリセリンモノミリスチン酸エステル、グリセリンモノパルミチン酸エステル、グリセリンモノステアリン酸エステル、グリセリンモノイソステアリン酸エステル、グリセリンモノオレイン酸エステル、グリセリンモノベヘン酸エステル等のグリセリンモノ脂肪酸エステル;グリセリンジステアリン酸エステル、グリセリンジイソステアリン酸エステル、グリセリンジオレイン酸エステル等のグリセリンジ脂肪酸エステル;酢酸モノグリセリド、クエン酸モノグリセリド、コハク酸モノグリセリド、ジアセチル酒石酸モノグリセリド、乳酸モノグリセリド等のモノグリセリド誘導体などが挙げられる。本発明においては、これらより1種または2種以上を選択して用いることができる。一般細菌に対する除菌力増強効果からは、グリセリンモノカプリル酸エステル、グリセリンモノカプリン酸エステル、グリセリンモノラウリン酸エステル等、炭素数8~12の脂肪酸のグリセリンモノ脂肪酸エステルを用いることが好ましい。
【0090】
さらに本発明の抗ノロウイルス剤には、ノロウイルスの不活性化や組成物の安定性等に影響を与えない範囲において、洗浄性や起泡性の付与を目的として、上記グリセリン脂肪酸エステル以外の界面活性剤を添加することができる。かかる界面活性剤としては、第1級~第3級の脂肪アミン塩、第4級アンモニウム塩、2-アルキル-1-アルキル-1-ヒドロキシエチルイミダゾリニウム塩等の陽イオン性界面活性剤;N,N-ジメチル-N-アルキル-N-カルボキシメチルアンモニウムベタイン等のアルキルベタイン型、N,N-ジアルキルアミノアルキレンカルボン酸等のアミノカルボン酸型、N,N,N-トリアルキル-N-スルホアルキレンアンモニウムベタイン等のアルキルスルホベタイン型、2-アルキル-1-ヒドロキシエチル-1-カルボキシメチルイミダゾリニウムベタイン等のイミダゾリン型両性界面活性剤などを用いることができる。また、増泡、製剤安定性の向上、着香等を目的として、アラビアゴム、カラギーナン、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ヒドロキシセルロース、ポリアクリル酸ナトリウム等の水溶性高分子;エチレンジアミン四酢酸ナトリウム、トリポリリン酸、ヘキサメタリン酸塩等の金属イオン封鎖剤;塩化ナトリウム、塩化カリウム、硫酸ナトリウム等の無機塩;香料などを添加してもよい。
【0091】
本発明の抗ノロウイルス剤は、そのまま、または各種担体、他の界面活性剤、殺菌剤等の添加成分などを加えて、消毒剤または洗浄剤(殺菌洗浄剤)とすることができる。すなわち、本発明の消毒剤及び洗浄剤は、それぞれ、本発明の抗ノロウイルス剤を含む。
【0092】
本発明の消毒剤または洗浄剤は、液状、ゲル状、粉末状等の種々の形態で提供することができるが、短時間に広範囲の消毒対象物に作用させる上で、液状もしくは液を含浸させたシート状とすることが好ましい。液状の消毒剤または洗浄剤は、ローション剤、スプレー剤等として提供することができ、計量キャップ付きボトル、トリガータイプのスプレー容器、スクイズタイプもしくはディスペンサータイプのポンプスプレー容器等に充填し、散布または噴霧等して用いることができる。液を含浸させたシート状の消毒剤または洗浄剤、消毒剤または洗浄剤の液を紙や布等に含浸させ、ボトルやバケツ等の容器に充填し、ウェットシートとして提供することができる。
【0093】
本発明の消毒剤または洗浄剤は、病室、居室、調理室、浴室、洗面所、トイレ等の施設内の消毒、殺菌洗浄、テーブル、椅子、寝具等の家具類、食器、調理器具、医療用品等の器具または機器、装置などの消毒、殺菌洗浄など、ノロウイルスが存在する可能性のある場所、またはノロウイルスに汚染されている可能性のある物の消毒、殺菌洗浄などに幅広く用いることができる。
【0094】
本発明の消毒剤または洗浄剤は、消毒対象物の表面がまんべんなく濡れる程度の量を用いればよい。また、消毒対象物に対する本発明の消毒剤または洗浄剤の作用時間は短時間でよく、1分~5分で十分な消毒または殺菌洗浄効果を得ることができる。
【実施例
【0095】
以下に、実施例及び比較例を示して本発明を詳細に説明する。なお、表中の各成分の数値は特に記載のない限り、質量%を意味する。実施例及び比較例で使用した各成分の詳細は以下の通りである。
【0096】
・ブドウ種子抽出物:キッコーマンバイオケミファ株式会社の商品名「グラヴィノールSE」(有効成分濃度100%)
・リンゴポリフェノール:BGG Japan株式会社の商品名「ApplePhenon(登録商標)アップルフェノン SH」(有効成分濃度100%)
・クルミポリフェノール:オリザ油化株式会社の商品名「クルミポリフェノール-P30」(有効成分濃度90%)
・マンゴスチンエキス:日本新薬株式会社製の商品名「マンゴスチンα20」(有効成分濃度100%)
・ピーナツ種皮エキス:株式会社常磐植物化学研究所製の商品名「ピーナツ種皮エキス末」(有効成分濃度100%)
・アカメガシワエキス:日本粉末薬品株式会社製の商品名「アカメガシワエキスパウダー」(有効成分濃度100%)
・ライチエキス:オリザ油化株式会社製の商品名「ライチ種子エキス-WSP」(有効成分濃度100%)
・ザクロエキス:香栄興業株式会社の商品名「ザクロ果皮エキス末」(有効成分濃度100%)
・月見草エキス:オリザ油化株式会社の商品名「月見草エキス-WSPS」(有効成分濃度100%)
・柿タンニン:株式会社トミヤマの商品名「柿タンニン」(有効成分濃度100%)
・キャッツクローエキス:日本粉末薬品株式会社の商品名「キャッツクローエキスパウダー」(有効成分濃度66%)
・海藻ポリフェノール:理研ビタミン株式会社の商品名「海藻ポリフェノール」(有効成分濃度100%)(アスコフィラム・ノドサムの抽出物)
・亜硫酸Na:神洲化学株式会社の商品「亜硫酸ナトリウム」(有効濃度100%)
・ピロ亜硫酸K:神洲化学株式会社の商品「ピロ亜硫酸カリウム」(有効濃度100%)
・L-アスコルビン酸:扶桑化学工業株式会社の商品「ビタミンC」(有効濃度100%)
・L-アスコルビン酸Na:富士フイルム和光純薬株式会社の商品「L(+)-アスコルビン酸ナトリウム」(有効濃度100%)
・D-アスコルビン酸:富士フイルム和光純薬株式会社の商品「イソアスコルビン酸ナトリウム一水和物」(有効濃度100%)
・L-システイン塩酸塩:富士フイルム和光純薬株式会社の商品「L-システイン塩酸塩一水和物」(有効濃度100%)
・trans-フェルラ酸:富士フイルム和光純薬株式会社の商品「(E)-フェルラ酸」(有効濃度100%)
・クエン酸:扶桑化学工業株式会社の商品「精製クエン酸(結晶)」(有効濃度100%)
・クエン酸Na:扶桑化学工業株式会社の商品「精製クエン酸ナトリウム」(有効濃度100%)
・乳酸:CSMジャパン株式会社の商品「発酵乳酸」(有効濃度88%)
・乳酸Na:CSMジャパン株式会社の商品「発酵乳酸ナトリウム」(有効濃度50%)
【0097】
<実施例1~31及び比較例1~16>
それぞれ、表1~12に示す組成となるようにして、各成分を混合して抗ノロウイルス剤を調製した。
【0098】
<ノロウイルスの不活性化評価>
実施例1~31及び比較例1~16で得られた各ノロウイルス剤を用いて、それぞれ、ヒトノロウイルス(HNV)遺伝子の消失を以下の手順で確認し、ノロウイルスの不活性化評価を行った。各抗ノロウイルス剤としては、抗ノロウイルス剤を調製してから、40℃環境において、2週間、3週間、4週間、6週間、8週間、又は10週間保管した後のもの、或いは、50℃環境において、2週間又は4週間保管した後のものを用いた。サンプルの保管環境条件としては、株式会社サンプラテック製のPPサンプラボトル(100mL)に各サンプルを100g入れ、ADVANTEC製の高温培養器(TVN680TA)内において、所定の温度にて保管した。結果を表1~12に示す。ノロウイルスに対する各ノロウイルス剤の効果を、下記の通りRT-PCR法により検討した。ノロウイルスは実験室的に培養することができないため、ノロウイルス患者の糞便から粗精製されたノロウイルスサンプルをPBSで10倍希釈して供試ノロウイルス液とし、試料液900μLとウイルス液100μLとを混合して1分間ローテーターで作用させた。その後、直ちに前記作用液140μLを採取し、QIAGEN社のQIAamp(登録商標)Viral RNA Miniキットを用いてウイルスRNAの抽出を行った。抽出したウイルスRNAに対し、ランダムヘキサマーおよび逆転写酵素を用いて、cDNAを得た。得られたcDNAを鋳型として、G2-SKF(CNTGGGAGGGCGATCGCAA:配列番号3)、G2-SKR(CCRCCNGCATRHCCRTTRTACAT:配列番号4)をプライマーとして用いてPCRを行った。前記プライマーについては、平成19年5月14日食安監発第0514004号「ノロウイルスの検出法について」の別添の図3および表11を参考とした。なお、ノロウイルス遺伝子が検出できるならば、別のプライマーを用いても構わない。得られたPCR産物をアガロースゲル電気泳動で泳動分離し、ウイルス遺伝子の検出を行った。
〇:ヒトノロウイルス(HNV)遺伝子由来のバンドが消失しており、HNVに対する不活性効果を有する。
×:ヒトノロウイルス(HNV)遺伝子由来のバンドが消失しておらず、HNVに対する不活性効果を有していない。
【0099】
【表1】
【0100】
【表2】
【0101】
【表3】
【0102】
【表4】
【0103】
【表5】
【0104】
【表6】
【0105】
【表7】
【0106】
【表8】
【0107】
【表9】
【0108】
【表10】
【0109】
【表11】
【0110】
【表12】
【0111】
表1~表12において、抗ノロウイルス剤の組成の単位は質量%である。また、各成分の濃度は、いずれも有効成分としての濃度である。表1~表12のHNV電気泳動遺伝子消失有無の項目において、「-」は評価を未実施であることを意味している。
【0112】
表1~12に示される結果から明らかなとおり、植物由来のポリフェノール及び含硫黄還元性無機塩を含む抗ノロウイルス剤は、優れた抗ノロウイルス効果を有していることが分かる。