(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-02-14
(45)【発行日】2025-02-25
(54)【発明の名称】改変シグナルペプチド
(51)【国際特許分類】
C12N 15/63 20060101AFI20250217BHJP
C07K 16/00 20060101ALI20250217BHJP
C12N 1/21 20060101ALI20250217BHJP
C12P 21/02 20060101ALI20250217BHJP
【FI】
C12N15/63 Z ZNA
C07K16/00
C12N1/21
C12P21/02 C
(21)【出願番号】P 2020180382
(22)【出願日】2020-10-28
【審査請求日】2023-09-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000000918
【氏名又は名称】花王株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000084
【氏名又は名称】弁理士法人アルガ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】西口 大貴
(72)【発明者】
【氏名】川原 彰人
【審査官】岡部 佐知子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2011/078351(WO,A1)
【文献】国際公開第2006/001179(WO,A1)
【文献】国際公開第2004/056993(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/161005(WO,A1)
【文献】国際公開第2013/007821(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/039639(WO,A1)
【文献】中国特許出願公開第107936096(CN,A)
【文献】BROCKMEIER, U. et al.,J. Mol. Biol.,2006年,vol.362,p.393-402
【文献】DEGERING, C. et al.,Applied and Environmental Microbiology,2010年,vol.76, no.19,p.6370-6376
【文献】MCDONOUGH, J. A. et al.,Journal of Bacteriology,2008年,vol.190, no.19,p.6428-6438
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N
C12P
C07K
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
目的タンパク質をコードするポリヌクレオチド、及び該ポリヌクレオチドの上流に連結された改変シグナルペプチドをコードするポリヌクレオチドを含み、
該改変シグナルペプチドは、
以下:
C末端から7番目~N末端までの領域が、配列番号10もしくは11のアミノ酸配列、又はそれと少なくとも90%同一なアミノ酸配列からなり;
C末端から1~6番目のアミノ酸残基がX
1X
2X
3X
4X
5X
6であり、ここで、X
1がG、P又はAであり、X
2がGであり、X
3がP
、S
又はAであり、ただしX
1X
2X
3はGGPではなく、X
4がAであり、X
5がS、H又はFであり、かつX
6がAであって該改変シグナルペプチドのC末端に位置
し;かつ、
前記目的タンパク質を細胞外へと分泌させる機能を有する、
目的タンパク質の発現及び細胞外への分泌のための核酸コンストラクト。
【請求項2】
X
1がG、P又はAであり、X
2がGであり、X
3がP又はSであり、
ただしX
1
X
2
X
3
はGGPではなく、X
4がAであり、X
5がS
、H
又はFであり、X
6がAであ
って該改変シグナルペプチドのC末端に位置する、請求項1記載の核酸コンストラクト。
【請求項3】
X
1
X
2
X
3
X
4
X
5
X
6
が、配列番号13~30のいずれかのアミノ酸配列からなる、請求項1記載の核酸コンストラクト。
【請求項4】
X
1X
2X
3X
4X
5X
6が、配列番号15、25~28のいずれかのアミノ酸配列からなる、請求項1記載の核酸コンストラクト。
【請求項5】
前記改変シグナルペプチドが配列番号31~35のいずれかのアミノ酸配列からなる、請求項1記載の核酸コンストラクト。
【請求項6】
前記目的タンパク質が抗体関連分子である、請求項1~
5のいずれか1項記載の核酸コンストラクト。
【請求項7】
前記抗体関連分子がFab、ScFv及びVHHからなる群より選択される、請求項
6記載の核酸コンストラクト。
【請求項8】
前記抗体関連分子がVHHである、請求項
6記載の核酸コンストラクト。
【請求項9】
さらに前記改変シグナルペプチドをコードするポリヌクレオチドの上流に連結されたプロモーターを含む、請求項1~
8のいずれか1項記載の核酸コンストラクト。
【請求項10】
前記プロモーターが、配列番号65~67のいずれか、又はそれと少なくとも90%の同一性を有するヌクレオチド配列からなる、請求項
9記載の核酸コンストラクト。
【請求項11】
請求項1~
10のいずれか1項記載の核酸コンストラクトを含む、発現ベクター。
【請求項12】
請求項1~
10のいずれか1項記載の核酸コンストラクトを含む、組換えバチルス属菌。
【請求項13】
請求項
12記載の組換えバチルス属菌を培養すること、及び、
細胞外に分泌された目的タンパク質を回収すること、
を含む、目的タンパク質の製造方法。
【請求項14】
改変シグナルペプチドと、そのC末端側に連結された抗体関連分子をコードするポリペプチドとを含み、
該改変シグナルペプチドは、
以下:
C末端から1~6番目のアミノ酸残基がX
1X
2X
3X
4X
5X
6であり、ここで、X
1がG、P又はAであり、X
2がGであり、X
3がP
、S
又はAであり、ただしX
1X
2X
3はGGPではなく、X
4がAであり、X
5がS、H又はFであり、かつX
6がAであって該改変シグナルペプチドのC末端に位置
し;
C末端から7番目~N末端までのアミノ酸配列が、配列番号
10もしくは11のアミノ酸配列、又はそれと少なくとも90%同一なアミノ酸配列からな
り;かつ、
前記抗体関連分子をコードするポリペプチドを細胞外へと分泌させる機能を有する、
抗体関連分子のプレプロタンパク質。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、改変シグナルペプチドに関する。
【背景技術】
【0002】
枯草菌等のバチルス属菌は、プロテアーゼなどのタンパク質を分泌生産する機能を有することから、目的物質の微生物学的生産のための宿主として好適である。バチルス属菌における分泌性タンパク質は、シグナルペプチドを有するプレプロタンパク質として発現され、該シグナルペプチドの働きにより細胞外に分泌される。プレプロタンパク質は、シグナルペプチダーゼによるシグナルペプチドの切断を経て細胞外に分泌され、最終的に成熟タンパク質となる。目的タンパク質にバチルス属菌由来シグナルペプチドを連結し、細胞外に分泌生産させる技術が利用されている。例えば、バチルス・エスピーKSM-S237株由来のセルラーゼのシグナルペプチド(特許文献1)は、目的タンパク質の効率よい分泌生産のために好適なシグナルペプチドである。
【0003】
シグナルペプチドは一般的には、正電荷を持つN末端領域と、αヘリックスを形成する疎水性膜貫通領域(H領域)と、シート状の構造を有するC末端領域からなる。主にC末端領域のペプチドがシグナルペプチダーゼにより切断される。シグナルペプチドの改変がタンパク質生産性に影響することがあることが報告されている(例えば、非特許文献1)。
【0004】
低分子抗体は、製造効率、創薬デザインの容易さ、組織浸透性などの利点を有することから、抗体医薬や試薬の材料として注目されている。代表的な低分子抗体としては、Fab、一本鎖抗体(single chain antibody;scFv)、diabody、重鎖抗体の重鎖可変ドメイン(variable domain of heavy chain of heavy chain antibody、VHH)などが挙げられる。従来、抗体の微生物学的生産には主に大腸菌が用いられている。一方、非特許文献2には、ブレビバチルス発現システムにより、scFvやFab、VHHを生産できたことが記載されている。非特許文献3には、Aspergillus awamoriを用いてVHHを製造したことが報告されている。非特許文献4には、細胞内及び細胞外分子シャペロンを共発現し且つ細胞壁結合型プロテアーゼWprAが不活性化された枯草菌株が、フィブリン特異的モノクローナル抗体由来のscFvを分泌生産したことが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【非特許文献】
【0006】
【文献】Protein Sci, 2012, 21(1):13-25
【文献】生物工学, 2017, 95(11):649-651
【文献】Appl Microbiol Biotechnol, 2005, 66(4):384-392
【文献】Appl Environ Microbiol, 2002, p.3261-3269
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、改変シグナルペプチド、及びそれを用いた目的タンパク質の分泌生産に関する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
一態様において、本発明は、目的タンパク質をコードするポリヌクレオチド、及び該ポリヌクレオチドの上流に連結された改変シグナルペプチドをコードするポリヌクレオチドを含み、
該改変シグナルペプチドは、C末端から1~6番目のアミノ酸残基がX1X2X3X4X5X6であり、ここで、X1がG、P又はAであり、X2がG、S又はAであり、X3がP、S又はAであり、ただしX1X2X3はGGPではなく、X4がAであり、X5がS、H又はFであり、かつX6がAであって該改変シグナルペプチドのC末端に位置する、
目的タンパク質の発現及び細胞外への分泌のための核酸コンストラクト、を提供する。
別の一態様において、本発明は、前記核酸コンストラクトを含む発現ベクターを提供する。
別の一態様において、本発明は、前記核酸コンストラクトを含む組換えバチルス属菌を提供する。
さらなる一態様において、本発明は、前記組換えバチルス属菌を培養すること、及び、
細胞外に分泌された目的タンパク質を回収すること、
を含む、目的タンパク質の製造方法を提供する。
さらなる一態様において、本発明は、本発明の改変シグナルペプチドと、そのC末端側に連結された抗体関連分子をコードするポリペプチドとを含み、
該改変シグナルペプチドは、C末端から1~6番目のアミノ酸残基がX1X2X3X4X5X6であり、ここで、X1がG、P又はAであり、X2がG、S又はAであり、X3がP、S又はAであり、ただしX1X2X3はGGPではなく、X4がAであり、X5がS、H又はFであり、かつX6がAであって該改変シグナルペプチドのC末端に位置し、かつ、
該改変シグナルペプチドのC末端から7番目~N末端までのアミノ酸配列が、配列番号7~12のいずれかのアミノ酸配列、又はそれと少なくとも90%同一なアミノ酸配列からなる、
抗体関連分子のプレプロタンパク質、を提供する。
【発明の効果】
【0009】
本発明により提供される改変シグナルペプチドは、目的タンパク質の分泌生産に有用である。該改変シグナルペプチドは、抗体関連分子などの目的タンパク質を効率よく細胞外に分泌させ、高収量で生産することを可能にする。また該改変シグナルペプチドを用いて分泌された抗体関連分子は、N末端にシグナルペプチドの残基などの不要な残基が残存することがほとんどないので、各種医薬や試薬の原料として価値が高い。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本明細書において、「抗体関連分子」とは、イムノグロブリン、又はイムノグロブリンを構成するドメインから選択される単一のドメインもしくは2以上のドメインの組合せからなる分子種を含むタンパク質をいう。イムノグロブリンを構成するドメインとしては、イムノグロブリン重鎖のドメインであるVH、CH1、CH2及びCH3、ならびにイムノグロブリン軽鎖のドメインであるVL及びCLが挙げられる。抗体関連分子は、単量体タンパク質であってもよく、又は多量体タンパク質であってもよい。抗体関連分子が多量体タンパク質である場合には、単一の種類のサブユニットからなるホモ多量体であってもよく、又は2種類以上のサブユニットからなるヘテロ多量体であってもよい。好ましくは、抗体関連分子は、イムノグロブリンの抗原認識ドメインを含みタンパク質等の標的に特異的に結合可能な分子である。抗体関連分子の例としては、IgGなどのイムノグロブリン、ならびにFab、F(ab’)2、一本鎖抗体(single chain antibody、scFv)、diabody、重鎖抗体の重鎖可変ドメイン(variable domain of heavy chain of heavy chain antibody、VHH)、などの低分子抗体が挙げられる。
【0011】
本明細書において、「VHH」とは、重鎖抗体の重鎖可変ドメイン(variable domain of heavy chain of heavy chain antibody)をいう。重鎖抗体はラクダ科動物、サメ等の軟骨魚類などから見出されている。なお、サメ等の軟骨魚類由来のものは、VNAR(single variable new antigen receptor domain antibody)とも呼ばれる。本明細書におけるVHHは、例えばラクダ科動物又はサメ由来であり、好ましくはラクダ科動物由来である。VHHは、単ドメインで抗原を認識できる分子であり、現在までに見つかっている抗体分子の中では最小の単位である。本発明で製造されるVHHは、重鎖抗体由来の重鎖可変ドメインを1つ以上含むことができ、該VHHに含まれる重鎖可変ドメインの数は限定されない。本発明で製造されるVHHに含まれる該重鎖可変ドメインは、天然の重鎖抗体由来の重鎖可変ドメインであっても、その改変体であってもよい。また本発明で製造されるVHHは、該イムノグロブリン重鎖由来の重鎖可変ドメイン以外のフラグメント(例えば重鎖抗体の定常領域のフラグメント、又はヒト由来フラグメント、リンカー配列など)や、安定化のためのアミノ酸変異などを含んでいてもよい。
【0012】
本明細書において、ラクダ科動物としては、フタコブラクダ、ヒトコブラクダ、ラマ、アルパカ、ビクーニャ、グアナコなどが挙げられ、好ましくはアルパカが挙げられる。
【0013】
本明細書において、ヌクレオチド配列及びアミノ酸配列の同一性は、Lipman-Pearson法(Science, 1985, 227:1435-1441)によって計算される。具体的には、遺伝情報処理ソフトウェアGenetyx-Winのホモロジー解析(Search homology)プログラムを用いて、Unit size to compare(ktup)を2として解析を行うことにより算出される。
【0014】
本明細書において、アミノ酸配列又はヌクレオチド配列に関する「少なくとも90%の同一性」とは、90%以上、好ましくは95%以上の同一性をいう。
【0015】
本明細書において、別途定義されない限り、アミノ酸配列におけるアミノ酸残基の欠失、置換、付加又は挿入に関して使用される「1又は数個」とは、好ましくは1~5個、より好ましくは1~3個、さらに好ましくは1~2個を意味し得る。また本明細書において、別途定義されない限り、ヌクレオチド配列におけるヌクレオチドの欠失、置換、付加又は挿入に関して使用される「1又は数個」とは、好ましくは1~15個、より好ましくは1~9個、さらに好ましくは1~6個を意味し得る。本明細書において、アミノ酸残基又はヌクレオチドの「付加」には、配列の一末端及び両末端へのアミノ酸残基又はヌクレオチドの付加が含まれる。
【0016】
本明細書において、アミノ酸配列又はヌクレオチド配列上の「相当する位置」又は「相当する領域」は、目的配列と参照配列(例えば、配列番号1のアミノ酸配列)とを、最大の相同性を与えるように整列(アラインメント)させることにより決定することができる。アミノ酸配列又はヌクレオチド配列のアラインメントは、公知のアルゴリズムを用いて実行することができ、その手順は当業者に公知である。例えば、アラインメントは、Clustal Wマルチプルアラインメントプログラム(Nucleic Acids Res, 1994, 22:4673-4680)をデフォルト設定で用いることにより、行うことができる。Clustal Wは、例えば、欧州バイオインフォマティクス研究所(European Bioinformatics Institute:EBI [www.ebi.ac.uk/index.html])や、国立遺伝学研究所が運営する日本DNAデータバンク(DDBJ [www.ddbj.nig.ac.jp/searches-j.html])のウェブサイト上で利用することができる。上述のアラインメントにより参照配列の任意の位置にアラインされた目的配列の位置は、当該任意の位置に「相当する位置」とみなされる。また、相当する位置により挟まれた領域、又は相当するモチーフからなる領域は、相当する領域とみなされる。
【0017】
当業者であれば、上記で得られたアミノ酸配列のアラインメントを、最適化するようにさらに微調整することができる。そのような最適アラインメントは、アミノ酸配列の同一性又は類似性や挿入されるギャップの頻度等を考慮して決定するのが好ましい。ここでアミノ酸配列の同一性又は類似性とは、2つのアミノ酸配列をアラインメントしたときにその両方の配列に同一又は類似のアミノ酸残基が存在する位置の数の全長アミノ酸残基数に対する割合(%)をいう。類似のアミノ酸残基とは、タンパク質を構成する20種のアミノ酸のうち、極性や電荷の点で互いに類似した性質を有しており、いわゆる保存的置換を生じるようなアミノ酸残基を意味する。そのような類似のアミノ酸残基からなるグループは当業者にはよく知られており、例えば、アルギニンとリシン;グルタミン酸とアスパラギン酸;セリンとトレオニン;グルタミンとアスパラギン;ロイシンとイソロイシン等がそれぞれ挙げられるが、これらに限定されない。
【0018】
本明細書において、「アミノ酸残基」とは、タンパク質を構成する20種のアミノ酸残基、アラニン(Ala又はA)、アルギニン(Arg又はR)、アスパラギン(Asn又はN)、アスパラギン酸(Asp又はD)、システイン(Cys又はC)、グルタミン(Gln又はQ)、グルタミン酸(Glu又はE)、グリシン(Gly又はG)、ヒスチジン(His又はH)、イソロイシン(Ile又はI)、ロイシン(Leu又はL)、リシン(Lys又はK)、メチオニン(Met又はM)、フェニルアラニン(Phe又はF)、プロリン(Pro又はP)、セリン(Ser又はS)、スレオニン(Thr又はT)、トリプトファン(Trp又はW)、チロシン(Tyr又はY)及びバリン(Val又はV)を意味する。
【0019】
本明細書において、「発現カセット」とは、これに含まれる目的遺伝子の発現を制御するための核酸コンストラクトをいう。好ましくは、本発明の発現カセットはDNAコンストラクトである。通常、発現カセットは、発現させるべき目的遺伝子のコード領域と、その発現を制御するための制御領域、例えばプロモーターを含有する。制御領域の多くの部分は、目的遺伝子のコーディング領域の上流に位置し、それに作動可能に連結されている。例えば、該目的遺伝子が、シグナルペプチドを含むプレプロタンパク質をコードするポリヌクレオチドである場合、プロモーターは、シグナルペプチドをコードする領域の上流に位置し、該プレプロタンパク質をコードするポリヌクレオチドに作動可能に連結され、該プレプロタンパク質の発現を制御する。また、発現カセットは、目的遺伝子の3’非翻訳領域や5’非翻訳領域を含有してもよい。好ましくは、発現カセットは、その端部に、ベクター又はゲノムDNAへの発現カセットの挿入及び/又は切除を可能にするための制限酵素認識部位を有する。発現カセットは、発現ベクターの構築又はゲノムDNAへの外来遺伝子導入に使用できる。
【0020】
本明細書において、「制御領域」とは、その下流に配置された遺伝子(例えばタンパク質又はペプチドをコードする領域)の発現を制御する機能を有する領域である。より具体的には、「制御領域」とは、遺伝子のコーディング領域の上流に存在し、RNAポリメラーゼと相互作用して該コーディング領域の転写を制御する機能を有する領域として定義され得る。制御領域は、転写開始制御領域及び/又は翻訳開始制御領域、あるいは転写開始制御領域から翻訳開始制御領域に至るまでの領域を含む。転写開始制御領域はプロモーター及び転写開始点を含む領域であり、翻訳開始制御領域は開始コドンと共にリボソーム結合部位を形成するShine-Dalgarno(SD)配列に相当する部位である(Proc Natl Acad Sci USA, 1974, 71:1342-1346)。
【0021】
本明細書において、制御領域と遺伝子のポリヌクレオチド(例えばタンパク質をコードするポリヌクレオチド)との「作動可能な連結」とは、遺伝子と制御領域とが、該遺伝子が該制御領域の制御の下で発現し得るように連結されていることをいう。遺伝子と制御領域との「作動可能な連結」の手順は当業者に周知である。
【0022】
本明細書において、遺伝子又はその核酸配列に関する「上流」及び「下流」とは、該遺伝子の転写方向の上流及び下流をいう。例えば、「プロモーターの下流に配置された遺伝子」とは、DNAセンス鎖においてプロモーターの3’側に該遺伝子が存在することを意味し、遺伝子の上流とは、DNAセンス鎖における該遺伝子の5’側の領域を意味する。
【0023】
「シグナルペプチド」は、これと作動可能に連結した目的タンパク質を細胞外へと分泌させる機能を有する。そのような目的タンパク質は、最初にシグナルペプチドを有するプレプロタンパク質として発現され、該シグナルペプチドの働きを介して細胞外に分泌される。プレプロタンパク質は、シグナルペプチダーゼによるシグナルペプチドの切断を経て細胞外に分泌され、最終的に成熟タンパク質となる。シグナルペプチドは一般的には、正電荷を持つN末端領域と、αヘリックスを形成する疎水性膜貫通領域(H領域)と、シート状の構造を有するC末端領域からなる(Protein Science, 2012, 21:13-25)。主にC末端領域のペプチドがシグナルペプチダーゼにより切断される。
【0024】
本明細書において、目的タンパク質のアミノ酸配列とシグナルペプチドとの「作動可能な連結」とは、目的タンパク質のアミノ酸配列が、シグナルペプチドの制御の下で細胞外に分泌され得るように、該シグナルペプチドに連結されていることをいう。「作動可能な連結」の手順は当業者に周知であり、通常は、シグナルペプチドのC末端側に目的タンパク質のアミノ酸配列が連結される。作動可能に連結されている目的タンパク質のアミノ酸配列とシグナルペプチドとの間には、他の配列(例えばプロセシングにより細胞外に分泌されないアミノ酸配列)が含まれていてもよい。
【0025】
本明細書において、細胞の機能や性状、形質に対して使用する用語「本来」とは、当該機能や性状、形質が当該細胞に元から存在していることを表すために使用される。対照的に、用語「外来」とは、当該細胞に元から存在するのではなく、外部から導入された機能や性状、形質を表すために使用される。例えば、「外来」遺伝子又はポリヌクレオチドとは、細胞に外部から導入された遺伝子又はポリヌクレオチドである。外来遺伝子又はポリヌクレオチドは、それが導入された細胞と同種の生物由来であっても、異種の生物由来(すなわち異種遺伝子又はポリヌクレオチド)であってもよい。
【0026】
本明細書において、分泌されたタンパク質が「正しいN末端を有する」とは、シグナルペプチドを含むプレプロタンパク質を経て細胞外に分泌されたタンパク質において、その少なくとも50%、55%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%、98%、又は100%(全てw/w%)が、N末端に該タンパク質が本来有さないアミノ酸残基(例えば残存するシグナルペプチドの残基)を有していないことをいう。
【0027】
本明細書において、「バチルス属菌」とは、バチルス科(Bacillaceae)バチルス属(Bacillus)の菌をいう。バチルス属菌の例としては、Bacillus subtilis(枯草菌)、Bacillus cereus、Bacillus thuringiensis、Bacillus megaterium、Bacillus amyloliquefaciens、Bacillus pumilus、Bacillus liqueniformis、及びそれらの変異株などが挙げられる。なお、パエニバチルス科(Paenibacillaceae)に属するパエニバチルス属(Paenibacillus)やブレビバチルス属(Brevibacillus)の菌は、本明細書におけるバチルス属菌には含まれない。
【0028】
本明細書に記載の枯草菌の遺伝子の名称は、JAFAN:Japan Functional Analysis Network for Bacillus subtilis(BSORF DB)でインターネット公開([bacillus.genome.ad.jp/]、2006年1月18日更新)された枯草菌ゲノムデータに基づいて記載されている。本明細書に記載される枯草菌の遺伝子番号は、BSORF DBに登録されている遺伝子番号を表す。
【0029】
本明細書に記載される抗体関連分子の遺伝子又はタンパク質の名称は、別途規定しない場合、Protein Data Bank(PDB)([www.rcsb.org/])の登録情報に従う。
【0030】
本発明は、改変シグナルペプチドを提供する。本発明の改変シグナルペプチドは、親シグナルペプチドのC末端領域を改変することによって製造され得る。該親シグナルペプチドの例としては、バチルス属菌で機能するシグナルペプチドが挙げられ、好ましい例としては、バチルス属菌由来のシグナルペプチドが挙げられる。バチルス属菌由来のシグナルペプチドの好ましい例としては、枯草菌YoaW、lipA、pelB、及びYncMのシグナルペプチド(配列番号1~4)、Bacillus sp. KSM-S237株由来のセルラーゼのシグナルペプチド(配列番号5)、Bacillus amyloliquefaciensのアミラーゼ由来のシグナルペプチド(配列番号6)、などが挙げられる。該親シグナルペプチドの別の好ましい例としては、配列番号1~6のいずれかと少なくとも90%同一なアミノ酸配列からなるシグナルペプチドが挙げられる。このうち、配列番号4もしくは5のアミノ酸配列、又はそれと少なくとも90%同一なアミノ酸配列からなるシグナルペプチドが、親シグナルペプチドとして好ましい。
【0031】
シグナルペプチドのC末端領域の推定には、CRNPRED([pdbj.org/crnpred])による立体構造予測を利用することができる。シグナルペプチドのC末端に存在するαヘリックス構造を取らないと推定される領域を、C末端領域として推定することができる。例えば、上記の親シグナルペプチドのC末端領域は、配列番号1では17~24残基目、配列番号2では27~32残基目、配列番号3では19~24残基目、配列番号4では35~42残基目、配列番号5では24~29残基目、配列番号6では25~31残基目に相当する。
【0032】
好ましくは、本発明の改変シグナルペプチドは、そのC末端領域が、改変されたアミノ酸残基を含む6アミノ酸残基からなる配列で構成されている。より詳細には、該改変シグナルペプチドは、C末端から1~6番目のアミノ酸残基がX1X2X3X4X5X6であり、ここで、X6が該改変シグナルペプチドのC末端に位置する残基であり、X1がC末端から6番目に位置する残基である。X1~X6の残基は以下のとおりである:
X1:好ましくはG、P又はA;
X2:好ましくはG、S又はA、より好ましくはG;
X3:好ましくはP、S又はA、より好ましくはP又はS;
X4:好ましくはA;
X5:好ましくはS、H又はF、より好ましくはS又はH;
X6:好ましくはA。
好ましくは、X1X2X3はGGPではない。X1X2X3X4X5X6の配列の好ましい例としては、配列番号13~30のいずれかのアミノ酸配列が挙げられ、より好ましい例としては、配列番号14~30のいずれかのアミノ酸配列が挙げられ、さらに好ましい例としては、配列番号15、25~28のいずれかのアミノ酸配列が挙げられる。
【0033】
本発明の改変シグナルペプチドのC末端領域以外の領域は、親シグナルペプチドと同じアミノ酸配列からなるものであり得る。あるいは、シグナルペプチドとしての機能が失われない限り、改変シグナルペプチドのC末端領域以外の部分は、親シグナルペプチドのアミノ酸配列に対して1又は数個のアミノ酸残基が欠失、置換、付加又は挿入されたアミノ酸配列からなるものであってもよい。
好ましくは、本発明の改変シグナルペプチドは、C末端から7番目~N末端までの領域が、バチルス属菌のシグナルペプチドのC末端領域以外の領域のアミノ酸配列、又はそれと少なくとも90%同一なアミノ酸配列からなる。より好ましくは、本発明の改変シグナルペプチドは、C末端から7番目~N末端までの領域が、配列番号7~12のいずれかのアミノ酸配列、又はそれと少なくとも90%同一なアミノ酸配列からなる。さらに好ましくは、本発明の改変シグナルペプチドは、C末端から7番目~N末端までの領域が、配列番号10もしくは11のアミノ酸配列、又はそれと少なくとも90%同一なアミノ酸配列からなる。
【0034】
したがって、好ましい実施形態において、本発明の改変シグナルペプチドは、配列番号7~12のいずれかのアミノ酸配列、又はそれと少なくとも90%同一なアミノ酸配列からなる領域と、そのC末端側に隣接するX1X2X3X4X5X6からなる領域とからなる。より好ましい実施形態において、本発明の改変シグナルペプチドは、配列番号31~35のいずれかのアミノ酸配列からなる。
【0035】
本発明の改変シグナルペプチドは、当該分野で公知の遺伝子工学的な手法に従って親シグナルペプチドのC末端領域を改変することで、製造することができる。例えば、親シグナルペプチドのC末端領域の個々のアミノ酸残基に変異(欠失、置換、付加又は挿入)を施してX1X2X3X4X5X6が構築されるようにすることができ、又は、親シグナルペプチドのC末端領域をX1X2X3X4X5X6のアミノ酸配列に置換すればよい。あるいは、親シグナルペプチドのC末端から7番目~N末端までの領域とX1X2X3X4X5X6とを結合させればよい。その際、シグナルペプチドとしての機能が失われない限り、親シグナルペプチドのC末端から7番目~N末端までの領域のアミノ酸残基に変異を施してもよい。
【0036】
好適には、本発明の改変シグナルペプチドをコードするポリヌクレオチドを調製し、それを発現させることで、該改変シグナルペプチドを得ることができる。改変シグナルペプチドをコードするポリヌクレオチドは、例えば、親シグナルペプチドをコードするポリヌクレオチド(以下、親遺伝子という)を、改変シグナルペプチドをコードするように変異させることで調製することができる。あるいは、改変シグナルペプチドをコードするヌクレオチド配列を化学合成することができる。
【0037】
親遺伝子のポリヌクレオチドは、親シグナルペプチドを産生する株(例えばバチルス・エスピーKSM-S237株)などから、常法によりゲノムDNAを抽出するか、又はRNAを抽出し逆転写によりcDNAを合成することによって、調製することができる。
【0038】
親遺伝子を変異させる手段としては、当技術分野で公知の各種変異導入技術、例えば、紫外線照射、部位特異的変異導入、SOE(splicing by overlap extension)-PCR(Gene, 1989, 77(1):p61-68)、相同組換え法、などが挙げられる。市販の部位特異的変異導入用キット(例えば、Stratagene社のQuickChange II Site-Directed Mutagenesis Kitや、QuickChange Multi Site-Directed Mutagenesis Kit等)を使用することもできる。
【0039】
本発明の改変シグナルペプチドをコードするポリヌクレオチドの例としては、配列番号36~41のヌクレオチド配列又はそれと少なくとも90%同一なヌクレオチド配列と、その下流に連結されたX1X2X3X4X5X6をコードするヌクレオチド配列とからなるポリヌクレオチドが挙げられる。好ましい例としては、配列番号36~41のヌクレオチド配列又はそれと少なくとも90%同一なヌクレオチド配列と、その下流に連結された配列番号42~59のヌクレオチド配列とからなるポリヌクレオチドが挙げられる。より好ましい例としては、配列番号39もしくは40のヌクレオチド配列又はそれと少なくとも90%同一なヌクレオチド配列と、その下流に連結された配列番号42~59のヌクレオチド配列とからなるポリヌクレオチドが挙げられる。さらに好ましい例としては、配列番号60~64のヌクレオチド配列からなるポリヌクレオチドが挙げられる。
【0040】
本発明の改変シグナルペプチドは、目的タンパク質の細胞外への分泌のために用いることができる。例えば、改変シグナルペプチドをコードするポリヌクレオチドと目的タンパク質をコードするポリヌクレオチドとを作動可能に連結し、シグナルペプチドを有する目的タンパク質のプレプロタンパク質を発現させる。該プレプロタンパク質中の改変シグナルペプチドの働きを介して、目的タンパク質が細胞外へ分泌される。
【0041】
したがって、本発明は、目的タンパク質をコードするポリヌクレオチド、及び該ポリヌクレオチドの上流に連結された本発明の改変シグナルペプチドをコードするポリヌクレオチドを含む、核酸コンストラクトを提供する。
【0042】
好ましくは、本発明の核酸コンストラクトは、宿主細胞における目的タンパク質の発現と細胞外への分泌のための核酸コンストラクトである。好ましくは、本発明の核酸コンストラクトは発現カセットであり、該目的タンパク質をコードするポリヌクレオチド及び改変シグナルペプチドをコードするポリヌクレオチドの発現を制御するための制御領域を含む。該発現カセットにおいて、該目的タンパク質をコードするポリヌクレオチド及び改変シグナルペプチドをコードするポリヌクレオチドは、該制御領域と作動可能に連結されている。好ましくは、該発現カセットは、該改変シグナルペプチドをコードするポリヌクレオチドの上流に連結されたプロモーターを含む。
【0043】
当該制御領域の好ましい例としては、バチルス属菌で機能する制御領域、例えば、バチルス属細菌由来のα-アミラーゼ遺伝子、プロテアーゼ遺伝子、aprE遺伝子又はspoVG遺伝子の制御領域、バチルス・エスピーKSM-S237株のセルラーゼ遺伝子(特許文献3)の制御領域、バチルス・エスピーKSM-64株のセルラーゼ遺伝子(特開2011-10387号公報)の制御領域、ならびに、スタフィロコッカス・アウレウス(Staphylococcus aureus)由来のカナマイシン耐性遺伝子又はクロラムフェニコール耐性遺伝子の制御領域(いずれも、特開2009-089708号公報を参照)、などが挙げられるが、特に限定されない。該制御領域のより好ましい例として、バチルス属菌由来のプロモーター、例えば、バチルス・エスピーKSM-S237株のセルラーゼ遺伝子のプロモーター(配列番号65)、バチルス・エスピーKSM-64株のセルラーゼ遺伝子のプロモーター(配列番号66)、枯草菌spoVG遺伝子のプロモーター(配列番号67)、が挙げられる。また、好ましい制御領域としては、配列番号65~67のいずれかと少なくとも90%の同一性を有するヌクレオチド配列からなるプロモーターが挙げられる。
【0044】
本発明の核酸コンストラクトは、該目的タンパク質及び改変シグナルペプチドをコードするポリヌクレオチド、ならびに該制御領域以外の核酸配列、例えば、3’非翻訳領域や5’非翻訳領域の配列を含んでいてもよい。また、該核酸コンストラクトは、一端又は両端に、制限酵素認識部位を有することができる。該制限酵素認識部位を使用して、本発明の核酸コンストラクトをベクターに導入することができる。例えば、ベクターを制限酵素で切断し、そこに、制限酵素認識部位を端部に有する本発明の核酸コンストラクトを添加することによって、該核酸コンストラクトをベクターに導入することができる。
【0045】
本発明の核酸コンストラクト中にコードされる目的タンパク質の種類は、特に限定されない。目的タンパク質は、異種タンパク質であっても、外部から導入された同種由来のタンパク質であっても、宿主細胞が本来発現することができるタンパク質であってもよい。目的タンパク質の例としては、任意のタンパク質又は目的物質の合成に関わる酵素が挙げられ、例えば、抗体関連分子、サイトカイン、ホルモン、その他生理活性ペプチド、トランスポーター、プロテアーゼなどの産業用酵素、代謝関連酵素などが挙げられる。
【0046】
好ましくは、目的タンパク質は抗体関連分子であり、より好ましくはFab、ScFv、VHHなどの低分子抗体である。さらに好ましくは、目的タンパク質はFab、ScFv及びVHHからなる群より選択され、さらに好ましくはVHHである。Fab、ScFv及びVHHの例としては、限定ではないが、下記表1に記載されるものが挙げられる。
【0047】
【0048】
必要に応じて、本発明の核酸コンストラクトに含まれる該目的タンパク質をコードするポリヌクレオチドは、該核酸コンストラクトが組み込まれる宿主の種にあわせて、コドン至適化されてもよい。各種生物が使用するコドンの情報は、Codon Usage Database([www.kazusa.or.jp/codon/])から入手可能である。
【0049】
本発明の核酸コンストラクトを宿主細胞に導入して、目的タンパク質の分泌生産のために用いることができる。該核酸コンストラクトは、宿主細胞のゲノムDNAに直接組み込まれてもよいが、ベクターに組み込まれて宿主細胞に導入されてもよい。該ベクターの種類は特に限定されず、プラスミド、ファージ、ファージミド、コスミド、ウイルス、YACベクター、シャトルベクター等の任意のベクターであってよい。該ベクターは、宿主細胞のゲノムDNAに導入されるベクターであっても、ゲノムDNAの外に保持されるベクターであってもよい。宿主細胞内で複製可能なベクターが好ましい。一実施形態において、該核酸コンストラクトを組み込むべきベクターは発現ベクターであり得るが、一方、組み込まれる核酸コンストラクトが発現カセットである場合は、発現ベクターである必要はない。一実施形態においては、本発明の核酸コンストラクトは制御領域を含む発現カセットであり、任意のベクターに組み込まれて発現ベクターを構築する。別の一実施形態においては、制御領域を含む発現ベクターに本発明の核酸コンストラクトを組み込むことで、該発現ベクター上に本発明の発現カセットが構築される。
【0050】
好ましいベクターの例としては、限定ではないが、pHA3040SP64、pHSP64R又はpASP64(特許第3492935号)、pHY300PLK(大腸菌と枯草菌の両方を形質転換可能な発現ベクター;Jpn J Genet, 1985, 60:235-243)、pAC3(Nucleic Acids Res, 1988, 16:8732)等のシャトルベクター;pUB110(J Bacteriol, 1978, 134:318-329)、pTA10607(Plasmid, 1987, 18:8-15);pHY-S237(特開2014-158430号公報)、等のバチルス属細菌の形質転換に利用可能なプラスミド、などが挙げられる。また大腸菌由来のプラスミド(例えばpET22b(+)、pBR322、pBR325、pUC57、pUC118、pUC119、pUC18、pUC19、pBluescript等)を用いることもできる。
【0051】
宿主細胞としては、その細胞内で本発明のシグナルペプチドが目的タンパク質を分泌させるように機能する限り、その種類は限定されない。好ましい宿主としては、バチルス属菌が挙げられ、より好ましくは枯草菌又はその変異株が挙げられる。宿主として用いられる枯草菌変異株の好ましい例としては、細胞外プロテアーゼ欠損枯草菌株Dpr9(特許第4485341号参照)が挙げられる。また、宿主として用いられる枯草菌変異株は、sigF等のシグマ因子の欠失(特許第4336082号参照)、相同組み換え活性に関与するrecAの欠失(特許第6088282号参照)などを施されていてもよい。Dpr9株に、sigF及びrecAの一方又は両方の欠失を加えた枯草菌変異株も使用できる。
【0052】
宿主細胞への本発明の核酸コンストラクト又はそれを含むベクターの導入は、定法に従って行うことができる。例えば、宿主細胞への該核酸コンストラクト又は該ベクターの導入には、コンピテントセル法、エレクトロポレーション法、プロトプラスト法、パーテイクルガン法、PEG法などの公知の形質転換技術を適用することができる。得られた本発明の核酸コンストラクトを含む組換え細胞は、目的タンパク質の分泌生産に用いることができる。
【0053】
本発明の核酸コンストラクトを含む組換え細胞を培養することで、目的タンパク質を製造することができる。該組換え細胞は、その宿主細胞の一般的な培養方法に従って培養すればよい。例えば、バチルス属菌の培養のための培地は、菌の生育に必要な炭素源及び窒素源を含む。必要に応じて、該培地は、他の栄養素、例えば無機塩、ビタミン類、抗生物質などを含んでいてもよい。培養条件、例えば温度、通気撹拌条件、培地のpH及び培養時間等は、菌種や形質、培養スケール等に応じて適宜選択され得る。
【0054】
当該組換え細胞の培養により、目的タンパク質のプレプロタンパク質が細胞内に発現する。該プレプロタンパク質は、本発明の改変シグナルペプチドと、そのC末端側に連結された目的タンパク質をコードするポリペプチドとを含む。該プレプロタンパク質において、本発明の改変シグナルペプチドは目的タンパク質と作動可能に連結されており、該改変シグナルペプチドの働きを介して、目的タンパク質が細胞外に分泌される。したがって、本発明による目的タンパク質の製造においては、細胞を破壊する必要はなく、細胞外に分泌された目的タンパク質を回収すればよい。回収された目的タンパク質は、タンパク質精製に用いられる一般的な方法、例えば、遠心分離、硫酸アンモニウム沈殿、ゲルクロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィー等を単独で又は適宜組み合わせて用いることにより、さらに精製することができる。
【0055】
本発明の改変シグナルペプチドを用いて細胞外に分泌された目的タンパク質は、正しいN末端を有する、すなわち、N末端にシグナルペプチドの残基などの不要な残基が残存することがほとんどない。したがって、本発明により製造された目的タンパク質は、該不要な残基に起因する構造や性質の変動が少なく、該目的タンパク質に期待される機能をよく保持することができる。このことは、わずかな構造の違いが活性に影響するタンパク質、例えば抗体関連分子において非常に有利である。例えば、本発明により製造された抗体関連分子は、活性にばらつきがなく、各種医薬や試薬の原料として価値が高い。
【0056】
本発明はまた、例示的実施形態として以下の物質、製造方法、用途、方法等を包含する。但し、本発明はこれらの実施形態に限定されない。
【0057】
〔1〕目的タンパク質をコードするポリヌクレオチド、及び該ポリヌクレオチドの上流に連結された改変シグナルペプチドをコードするポリヌクレオチドを含み、
該改変シグナルペプチドは、C末端から1~6番目のアミノ酸残基がX1X2X3X4X5X6であり、ここで、X1がG、P又はAであり、X2がG、S又はAであり、X3がP、S又はAであり、ただしX1X2X3はGGPではなく、X4がAであり、X5がS、H又はFであり、かつX6がAであって該改変シグナルペプチドのC末端に位置する、
目的タンパク質の発現及び細胞外への分泌のための核酸コンストラクト。
〔2〕好ましくは、X1がG、P又はAであり、X2がGであり、X3がP又はSであり、X4がAであり、X5がS又はHであり、X6がAであり、
より好ましくは、X1X2X3X4X5X6が配列番号13~30のいずれかのアミノ酸配列からなり、
さらに好ましくは、X1X2X3X4X5X6が配列番号15、25~28のいずれかのアミノ酸配列からなる、
〔1〕記載の核酸コンストラクト。
〔3〕前記改変シグナルペプチドのC末端から7番目~N末端までの領域が、
好ましくは、バチルス属菌のシグナルペプチドのC末端領域以外の領域のアミノ酸配列、又はそれと少なくとも90%同一なアミノ酸配列からなり、
より好ましくは、配列番号7~12のいずれかのアミノ酸配列、又はそれと少なくとも90%同一なアミノ酸配列からなり、
さらに好ましくは、配列番号10もしくは11のアミノ酸配列、又はそれと少なくとも90%同一なアミノ酸配列からなる、
〔1〕又は〔2〕記載の核酸コンストラクト。
〔4〕好ましくは、前記改変シグナルペプチドが配列番号31~35のいずれかのアミノ酸配列からなる、〔1〕記載の核酸コンストラクト。
〔5〕好ましくは、前記目的タンパク質が抗体関連分子である、〔1〕~〔4〕のいずれか1項記載の核酸コンストラクト。
〔6〕前記抗体関連分子が、
好ましくはFab、ScFv及びVHHからなる群より選択され、
より好ましくはVHHである、
〔5〕記載の核酸コンストラクト。
〔7〕好ましくは、さらに前記改変シグナルペプチドをコードするポリヌクレオチドの上流に連結されたプロモーターを含む、〔1〕~〔6〕のいずれか1項記載の核酸コンストラクト。
〔8〕前記プロモーターが、
好ましくは、バチルス属菌由来のプロモーターであり、
より好ましくは、配列番号65~67のいずれか、又はそれと少なくとも90%の同一性を有するヌクレオチド配列からなる、
〔7〕記載の核酸コンストラクト。
〔9〕好ましくは、バチルス属菌細胞における目的タンパク質の発現及び細胞外への分泌のための核酸コンストラクトである、〔1〕~〔8〕のいずれか1項記載の核酸コンストラクト。
〔10〕〔1〕~〔9〕のいずれか1項記載の核酸コンストラクトを含む、発現ベクター。
〔11〕〔1〕~〔9〕のいずれか1項記載の核酸コンストラクトを含む、組換えバチルス属菌。
【0058】
〔12〕〔11〕記載の組換えバチルス属菌を培養すること、及び、
細胞外に分泌された目的タンパク質を回収すること、
を含む、目的タンパク質の製造方法。
〔13〕好ましくは、前記目的タンパク質が抗体関連分子である、〔12〕記載の方法。
〔14〕前記抗体関連分子が、
好ましくはFab、ScFv及びVHHからなる群より選択され、
より好ましくはVHHである、
〔13〕記載の方法。
【0059】
〔15〕C末端から1~6番目のアミノ酸残基がX1X2X3X4X5X6であり、ここで、X1がG、P又はAであり、X2がG、S又はAであり、X3がP、S又はAであり、ただしX1X2X3はGGPではなく、X4がAであり、X5がS、H又はFであり、かつX6がAであって該改変シグナルペプチドのC末端に位置する、改変シグナルペプチド。
〔16〕好ましくは、X1がG、P又はAであり、X2がGであり、X3がP又はSであり、X4がAであり、X5がS又はHであり、X6がAであり、
より好ましくは、X1X2X3X4X5X6が配列番号13~30のいずれかのアミノ酸配列からなり、
さらに好ましくは、X1X2X3X4X5X6が配列番号15、25~28のいずれかのアミノ酸配列からなる、
〔15〕記載の改変シグナルペプチド。
〔17〕C末端から7番目~N末端までの領域が、
好ましくは、バチルス属菌のシグナルペプチドのC末端領域以外の領域のアミノ酸配列、又はそれと少なくとも90%同一なアミノ酸配列からなり、
より好ましくは、配列番号7~12のいずれかのアミノ酸配列、又はそれと少なくとも90%同一なアミノ酸配列からなり、
さらに好ましくは、配列番号10もしくは11のアミノ酸配列、又はそれと少なくとも90%同一なアミノ酸配列からなる、
〔15〕又は〔16〕記載の改変シグナルペプチド。
〔18〕好ましくは配列番号31~35のいずれかのアミノ酸配列からなる、〔15〕記載の改変シグナルペプチド。
〔19〕好ましくはバチルス属菌で機能する、〔15〕~〔18〕のいずれか1項記載の改変シグナルペプチド。
【0060】
〔20〕〔15〕~〔19〕のいずれか1項記載の改変シグナルペプチドと、そのC末端側に連結された目的タンパク質をコードするポリペプチドとを含むプレプロタンパク質。
〔21〕好ましくは、前記目的タンパク質が抗体関連分子である、〔20〕記載のプレプロタンパク質。
〔22〕前記抗体関連分子が、
好ましくはFab、ScFv及びVHHからなる群より選択され、
より好ましくはVHHである、
〔21〕記載のプレプロタンパク質。
【実施例】
【0061】
以下、実施例を用いて本発明をさらに具体的に説明する。但し、本発明の技術的範囲はこれら実施例に限定されるものではない。
【0062】
材料及び方法
(1)宿主菌株
宿主枯草菌には、Bacillus subtilis 168株の派生株を用いた。細胞外プロテアーゼ欠損枯草菌株Dpr9(特許第4485341号参照、細胞外プロテアーゼepr、wprA、mpr、nprB、bpr、nprE、vpr、aprE及びaprXが欠損)から、特許第4336082号に記載されている方法に従ってsigF遺伝子欠損株(Dpr9ΔsigF)を、また、特許第6088282号に記載されている方法に従ってrecA遺伝子欠損株(Dpr9ΔrecA)を作製した。さらに、Dpr9に対してsigF及びrecAを二重に欠損させた株(Dpr9ΔsigFΔrecA)を作製した。
【0063】
(2)培地
・LB培地:1%BactoTM Tryptone、0.5%BactoTM Yeast Extract、1%塩化ナトリウム。平板培地には1.5%の寒天を加えた。必要に応じてテトラサイクリン(50ppm)を加えた。
・DM3培地:1%CMC(関東化学)、0.5%BactoTM Casamino Acids、0.5%BactoTM Yeast Extract、8.1%コハク酸二ナトリウム・6H2O、0.35%リン酸水素二カリウム、0.15%リン酸二水素カリウム、0.5%グルコース、20mM塩化マグネシウム、0.01%BSA、50ppmテトラサイクリン。平板培地には1%の寒天を加えた。
・L-mal培地:1%BactoTM Tryptone、0.5%BactoTM Yeast Extract、0.5%塩化ナトリウム、3.75%マルトース一水和物、3.75ppm硫酸マンガン、15ppmテトラサイクリン。
・2×L-mal培地:2%BactoTM Tryptone、1%BactoTM Yeast Extract、1%塩化ナトリウム、7.5%マルトース一水和物、7.5ppm硫酸マンガン、15ppmテトラサイクリン。
【0064】
(3)試薬
試薬は、特に記述が無い場合はWako社製を用いた。
【0065】
実施例1 改変シグナルペプチドを含むプラスミドの構築
(1)遺伝子の人工合成
VHH(1ZVY及び5IMM、それぞれ配列番号68及び69)の遺伝子は、サーモフィッシャー社で人工合成された。人工合成遺伝子には、該遺伝子をプラスミドベクターに挿入するための足場配列GCAGCTCTTGCAGCA(配列番号70)がそれぞれの5’末端に、TCTATTAAACTAGTT(配列番号71)がそれぞれの3’末端に付加された。
【0066】
(2)抗体関連分子発現用プラスミドの構築
(S237シグナルペプチド-1ZVY発現用プラスミド)
プラスミドpHY-S237(特開2014-158430号公報)を鋳型とし、配列番号72及び73のプライマーセットとPrimeSTAR Max DNAポリメラーゼ(TaKaRa)を用いたPCRによりプラスミド配列を増幅した。得られたPCR断片に、(1)に示す1ZVYの人工合成遺伝子を含むDNAをIn-Fusion HD Cloning Kit(Takara)を用いて組み込み、S237シグナルペプチドを含む1ZVY発現用プラスミドを構築した。
【0067】
(yncMシグナルペプチド-5IMM発現用プラスミド)
上記と同様の手順で、5IMMの人工合成遺伝子をpHY-S237に組み込んだ。得られたプラスミドを鋳型とし、配列番号74及び75のプライマーセットとPrimeSTAR Max DNAポリメラーゼ(TaKaRa)を用いたPCRによりプラスミド断片を増幅した。また、B.subtilis 168株のゲノムを鋳型とし、配列番号76及び77のプライマーセットを用いたPCRによりspoVG遺伝子由来のプロモーター(p_spoVG)のDNAを増幅した。増幅したプラスミド断片にp_spoVGのDNAをIn-Fusion HD Cloning Kit(Takara)によって組み込んだ。
得られたプラスミドを鋳型とし、配列番号78及び79のプライマーセットとPrimeSTAR Max DNAポリメラーゼ(TaKaRa)を用いたPCRによりプラスミド配列を増幅した。また、B.subtilis 168株のゲノムを鋳型とし、配列番号80及び81のプライマーセットを用いたPCRによりyncMシグナルペプチドのDNAを増幅した。増幅したプラスミド配列にyncMシグナルペプチドのDNAをIn-Fusion HD Cloning Kit(Takara)によって組み込み、yncMシグナルペプチドを含む5IMM発現用プラスミドを構築した。
【0068】
プラスミド構築に用いたプライマーの一覧を表2に示す。
【0069】
【0070】
(3)シグナルペプチドC末端領域の改変
PrimeSTAR Mutagenesis Basal Kit(Takara)を用いてマニュアルに従って、(2)で構築したプラスミド上のシグナルペプチドのC末端領域を改変した。得られた改変シグナルペプチドは、下記表2に示すように、C末端領域が配列番号13~30、82~84のいずれかの配列からなる。改変後のプラスミド断片は、DpnIで処理した後、精製した。
【0071】
実施例2 組換え枯草菌の構築
宿主枯草菌へのプラスミド導入は以下に示すプロトプラスト法によって行った。1mLのLB液体培地にグリセロールストックした宿主枯草菌を植菌し、30℃、210rpmで一晩振とう培養した。翌日、新たな1mLのLB液体培地にこの培養液を10μL植菌し、30℃、210rpmで約2時間振とう培養した。この培養液を1.5mLチューブに回収し、12,000rpmで5分間遠心し、上清を除去したペレットをLysozyme(SIGMA)4mg/mLを含むSMMP500μLに懸濁し、37℃で1時間インキュベートした。次いで、3,500rpmで10分間遠心し、上清を除去したペレットをSMMP400μLに懸濁した。この懸濁液33μLを実施例1で構築したプラスミド断片6μLと混合し、さらに40%PEGを100μL添加してボルテックスした。この液にSMMPを350μL加えて転倒混和し、30℃、210rpmで1時間振とうした後、DM3寒天培地プレートに全量塗布し、30℃で2~3日間インキュベートした。作製した組換え枯草菌の宿主と、導入したプラスミドにコードされる抗体関連分子(VHH)及びシグナルペプチドを表3に示す。なお、未改変S237シグナルペプチドを含むプラスミドについては、これを導入したDpr9ΔsigF株がVHHを生産しなかったため、生産性向上のために宿主としてDpr9ΔsigFΔrecA株を用いた。
【0072】
【0073】
試験例1 改変S237シグナルペプチドを用いたVHHの分泌生産
(1)VHH生産量
実施例2で作製した改変S237シグナルペプチドを有する1ZVY発現組換え枯草菌(ID:1~21)を96穴プレート培養した。培養上清中のタンパク質を回収し、SDS-PAGEによりタンパク質量を定量した。プレート培養及びタンパク質定量の詳細な手順は後述する。各組換え枯草菌についての培養上清中のタンパク質量の平均値(N=3)を表4に示す。改変S237シグナルペプチド21種のうち18種で組換え枯草菌からのVHHの分泌に成功した。
【0074】
【0075】
(2)VHHのN末端アミノ酸の解析
実施例2で作製した改変S237シグナルペプチドを有する1ZVY発現組換え枯草菌(ID:13~16)をフラスコ培養した。培養上清から1ZVYをHis-tag精製し、得られた1ZVYのN末端アミノ酸配列を解析した。フラスコ培養、His-tag精製、及びN末端アミノ酸配列の解析の詳細な手順は後述する。培養上清中に分泌された1ZVYのN末端アミノ酸配列はいずれもDVQLVであり、導入した1ZVYのN末端と完全に一致していた。
【0076】
(3)未改変S237シグナルペプチドを用いて生産したVHHのN末端アミノ酸解析
(2)と同様の手順で、実施例2で作製した未改変S237シグナルペプチドを有する1ZVY発現組換え枯草菌(ID:Cnt-1)をフラスコ培養し、培養上清から1ZVYをHis-tag精製し、得られた1ZVYのN末端アミノ酸配列を解析した。培養上清中に分泌された1ZVYのN末端アミノ酸配列はADVQLであったことから、分泌された1ZVYのN末端にシグナルペプチド由来の不要なAが残存していることが確認された。
【0077】
試験例2 改変yncMシグナルペプチドを用いたVHHの分泌生産
(1)VHH生産量
実施例2で作製した改変yncMシグナルペプチドを有する5IMM発現組換え枯草菌(ID:22~27)を96穴プレート培養した。培養上清中のタンパク質を回収し、SDS-PAGEによりタンパク質量を定量した。プレート培養及びタンパク質定量の詳細な手順は後述する。各組換え枯草菌についての培養上清中のタンパク質量の平均値(N=3)を表5に示す。改変yncMシグナルペプチド6種全てで組換え枯草菌からのVHHの分泌に成功した。
【0078】
【0079】
(2)VHHのN末端アミノ酸の解析
実施例2で作製した改変yncMシグナルペプチドを有する5IMM発現組換え枯草菌(ID:23)をフラスコ培養した。培養上清から5IMMをHis-tag精製し、得られた5IMMのN末端アミノ酸配列を解析した。フラスコ培養、His-tag精製、及びN末端アミノ酸配列の解析の詳細な手順は後述する。培養上清中に分泌された5IMMのN末端アミノ酸配列はいずれもQVQLVであり、導入した5IMMのN末端と完全に一致していた。
【0080】
(3)未改変yncMシグナルペプチドを用いて生産したVHHのN末端アミノ酸解析
(2)と同様の手順で、実施例2で作製した未改変yncMシグナルペプチドを有する5IMM発現組換え枯草菌(ID:Cnt-2)をフラスコ培養し、培養上清から5IMMをHis-tag精製し、得られた5IMMのN末端アミノ酸配列を解析した。培養上清中に分泌された5IMMのN末端アミノ酸配列はTAXLFであり、N末端から3番目の残基Xは、候補残基1がQ、候補残基2がD、候補残基3がVであった。XがVである場合、未改変yncMシグナルペプチドの23~27残基目TAVLFと一致することから、分泌された5IMMのN末端にシグナルペプチド由来の不要なアミノ酸配列が残存してることが確認された。
【0081】
参考 試験例1、2で用いた方法
(1)組換え枯草菌の培養
(96穴プレート培養)
実施例2で作製した組換え枯草菌を、50ppmテトラサイクリンを含む300μLのLB培地に植菌し、30℃で一晩振とう培養して前培養液を調製した。前培養液を、96穴プレートに入れた200μLのL-mal培地に1%接種し、30℃で72時間振とう培養した。培養後に150μLの培養液を4℃、3,000rpmで10分間遠心し、上清を回収した。
(フラスコ培養)
実施例2で作製した組換え枯草菌を、50ppmテトラサイクリンを含む1mLのLB培地に植菌し、30℃で一晩往復振とうして前培養液を調製した。前培養液を、ひだ付き三角フラスコに入れた20mLの2×L-mal培地に1%接種し、30℃で72時間振とう培養した。培養後に1mLの培養液をマイクロチューブにて4℃、15,000rpmで5分間遠心し、上清を回収した。
【0082】
(2)SDS-PAGE
(1)で回収した培養上清とLaemmli Sample Buffer(BIO-RAD)を等量混和後、99℃で5分間熱処理してサンプルを調製した。ゲルはMini-PROTEIN TGX Stain-Free(BIO-RAD)を用いた。各ウェルに5μLのサンプルをアプライし、210Vで25分間泳動した。分子量マーカーにはPrecision Plus protein Unstained standard(BIO-RAD)を用いた。ChemiDoc MP Imaging Systemでタンパク質のバンドを検出した。リゾチーム標品(Sigma-Aldrich)をもとに作成した検量線によって検出したタンパク質を定量した。
【0083】
(3)His-tag精製
(1)で回収した培養上清1mLに50μLのNi-NTA Agarose(Wako)を添加し、ローテーターにて4℃で30分間転倒混和した。500gで5分間遠心後、上清を除去した。残った沈殿物に、Wash Buffer(30mMイミダゾール、0.5M NaCl、10mM Tris、pH8.0)を500μL添加し、ボルテックスで懸濁した後、500gで5分間遠心し、上清を除去した。この操作を計2回繰り返した。残った沈殿物にElution Buffer(500mMイミダゾール、0.5M NaCl、10mM Tris、pH7.5)を50μL添加し、ローテーターにて4℃で30分間転倒混和した。500gで5分間遠心後、上清を新しいチューブに移し、His-Tag精製サンプルとした。
【0084】
(4)N末端アミノ酸解析
(3)で得た精製サンプルをLaemmli Sample Buffer(BIO-RAD)と等量混和後、99℃で5分間熱処理した。ゲルはMini-PROTEIN TGX(BIO-RAD)を用いた。各ウェルに10μLのサンプルをアプライし、210Vで25分間泳動した。Trans-Blot Turbo Mini PVDF Transfer Packs(BIO-RAD)及びTrans-Blot Turbo System(BIO-RAD)を用いてタンパク質をPVDF膜へ転写し、Bio-Safe CBB G-250ステイン(BIO-RAD)で30分間染色した。50%メタノール溶液を用いてバックグラウンドを退色し、PVDF膜を水でよく洗浄した後、VHHの分子量と一致したバンドを切り出した。切り出したバンドを検体として、VHHのN末端から5残基のアミノ酸配列を解析した。アミノ酸配列の解析は、株式会社一般財団法人日本皮革研究所へ委託した。
【0085】
以上、本発明の実施形態を説明したが、これらが、本発明を、説明した特定の実施形態に限定することを意図するものではないことを理解すべきである。本発明の範囲内にある様々な他の変更及び修正は当業者には明白である。本明細書に引用されている文献及び特許出願は、あたかもそれが本明細書に完全に記載されているかのように参考として援用される。
【配列表】